(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
H01G9/028 F
H01G9/028 G
(21)【出願番号】P 2023514651
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2022017574
(87)【国際公開番号】W WO2022220235
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021069303
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和哉
(72)【発明者】
【氏名】川崎 隆志
(72)【発明者】
【氏名】横山 幸司
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
(72)【発明者】
【氏名】長崎 純久
(72)【発明者】
【氏名】宮地 祐治
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-192688(JP,A)
【文献】特開2011-253878(JP,A)
【文献】特開2011-096725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体と、
前記陽極体を覆う誘電体層と、
前記
誘電体層を覆う第1固体電解質層と、
前記第1固体電解質層を覆う第2固体電解質層と、
を備え、
前記第1固体電解質層は、ポリチオフェンを基本骨格とする第1導電性高分子を含み、
前記第2固体電解質層は、ポリピロールを基本骨格とする第2導電性高分子を含み、
前記第1固体電解質層の厚みは、10nm以下であり、
前記第1固体電解質層の導電率は、2S/cm以下であ
り、
前記第2固体電解質層は、前記第1固体電解質層よりも導電率が高い、
電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1固体電解質層の導電率は、0.1S/cm以上、0.5S/cm以下である、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第2固体電解質層の厚みは、50nm以上、100nm以下である、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記第2固体電解質層の導電率は、30S/cm以上、300S/cm以下である、請求項
1に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記第1固体電解質層は、2S/cm以下の導電率を有する、自己ドープ型の前記第1導電性高分子を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記第2固体電解質層は、非自己ドープ型の前記第2導電性高分子を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
誘電体層が形成された陽極体を準備する第1工程と、
前記誘電体層上に、ポリチオフェンを基本骨格とする第1導電性高分子を含む第1固体電解質層を形成する第2工程と、
前記第1固体電解質層上で、ポリピロールを基本骨格とする第2導電性高分子の前駆体を電解重合させて、前記第2導電性高分子を含む第2固体電解質層を形成する第3工程と、を含み、
前記第1固体電解質層の厚みは、10nm以下であり、
前記第1固体電解質層の導電率は、2S/cm以下であ
り、
前記第2固体電解質層は、前記第1固体電解質層よりも導電率が高い、
電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記第2工程は、
2S/cm以下の導電率を有する、自己ドープ型の前記第1導電性高分子を含む第1処理液を準備する工程と、
前記第1処理液を前記誘電体層に付着させて、前記第1導電性高分子を含む前記第1固体電解質層を形成する工程と、
を含む、請求項
7に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサはコンデンサ素子を備え、コンデンサ素子は、陽極体と、陽極体を覆う誘電体層と、誘電体層を覆う固体電解質層とを含む。固体電解質層は導電性高分子を含み、導電性高分子として、例えば、ポリピロールが用いられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電解コンデンサについて、ESR(等価直列抵抗)の低減が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、陽極体と、前記陽極体を覆う誘電体層と、前記誘導体層を覆う第1固体電解質層と、前記第1固体電解質層を覆う第2固体電解質層と、を備え、前記第1固体電解質層は、ポリチオフェンを基本骨格とする第1導電性高分子を含み、前記第2固体電解質層は、ポリピロールを基本骨格とする第2導電性高分子を含み、前記第1固体電解質層の導電率は、2S/cm以下である、電解コンデンサに関する。
【0006】
本発明の他の側面は、誘電体層が形成された陽極体を準備する第1工程と、前記誘電体層上に、ポリチオフェンを基本骨格とする第1導電性高分子を含む第1固体電解質層を形成する第2工程と、前記第1固体電解質層上で、ポリピロールを基本骨格とする第2導電性高分子の前駆体を電解重合させて、前記第2導電性高分子を含む第2固体電解質層を形成する第3工程と、を含み、前記第1固体電解質層の導電率は、2S/cm以下である、電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電解コンデンサのESRを低減することができる。
【0008】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサを模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1の領域IIを模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本開示に係る電解コンデンサの実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。以下の説明において、特定の物性や条件などに関する数値の下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかを任意に組み合わせることができる。複数の材料が例示される場合、その中から1種を選択して単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
また、本開示は、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項の組み合わせを包含する。つまり、技術的な矛盾が生じない限り、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項を組み合わせることができる。
【0012】
「電解コンデンサ」は、「固体電解コンデンサ」と読み替えてもよく、「コンデンサ」は「キャパシタ」と読み替えてもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係る電解コンデンサは、陽極体と、陽極体を覆う誘電体層と、誘導体層を覆う第1固体電解質層と、第1固体電解質層を覆う第2固体電解質層と、を備える。第1固体電解質層(以下、第1層とも称する。)は、ポリチオフェンを基本骨格とする第1導電性高分子(以下、ポリチオフェン系高分子とも称する。)を含み、かつ、2S/cm以下の導電率を有する。第2固体電解質層(以下、第2層とも称する。)は、ポリピロールを基本骨格とする第2導電性高分子(以下、ポリピロール系高分子とも称する。)を含む。
【0014】
ポリピロール系高分子を含む第2層は、陽極体表面に形成された誘電体層上に導電性を有する第1層を形成した後、第1層上でポリピロール系高分子の前駆体を電解重合させて形成される。第1層は、電解重合を行う際に電極として機能する。電解重合により良好な第2層が形成される。本発明者らは、第1層について鋭意検討を行った。その結果、第1層が、ポリチオフェン系高分子を含み、かつ、2S/cm以下の導電率を有する場合に、ポリピロール系高分子を含む第2層を備える電解コンデンサのESRが低減されることを新たに見出した。
【0015】
第1層がポリチオフェン系高分子を含み、かつ、2S/cm以下の導電率を有する場合、ポリピロール系高分子を含む第2層を備える電解コンデンサにおいて、特異的に低いESRが得られる。その詳細な理由は不明であるが、以下の点が低ESR化の要因として推測される。
【0016】
誘電体層の一部で生じる結晶化やクラックにより短絡が生じ、高電流が流れることがある。このとき、通常、導電性高分子の一部が高電流により絶縁化して短絡が抑制される。その反面、当該絶縁化により固体電解質層の抵抗が増大し、ESRが上昇する。
【0017】
これに対して、本発明では、第1層の導電率が2S/cm以下と小さく、絶縁化し易く、第1層の絶縁化により第2層の絶縁化が抑制される。また、第1層は、電解重合の際の電極として利用されるので、第2層よりも十分に薄く形成される。厚みが小さい第1層が局所的に絶縁化することにより、固体電解質層の全体に対する絶縁化による影響を小さくできる。よって、第2層の抵抗を低く維持することができ、ESRの上昇が抑制される。
【0018】
第1層の劣化はESRに影響し易いことが予測される。ただし、第1層が熱安定性および耐久性に優れるポリチオフェン系高分子膜で構成されることにより、第1層の劣化によるESRの上昇が抑制される。また、第1層がポリチオフェン系高分子膜の場合、第1層が化学重合により形成されるポリピロール系高分子膜や、ポリアニリン系高分子膜の場合と比較して、電解重合により形成されるポリピロール系高分子膜(第2層)との間のエネルギー準位(仕事関数)の差が小さい。このことも、低ESR化の要因の一つとして推測される。
【0019】
低ESR化の観点から、第1層の導電率は、好ましくは0.1S/cm以上、2S/cm以下であり、より好ましくは0.1S/cm以上、1S/cm以下であり、更に好ましくは0.1S/cm以上、0.5S/cm以下である。第1層の導電率が0.1S/cm以上の場合、容量低下が抑制され易い。
【0020】
第1層の導電率は、以下の方法により求めることができる。
電解コンデンサを分解して、コンデンサ素子を取り出し、第1層の成分について分析を行う。後述の第2工程で第1処理液を用いて第1層を形成する場合、第1処理液について分析を行ってもい。分析法としては、TEM(透過型電子顕微鏡)-EELS法(電子エネルギー損失分光法)、NMR法(核磁気共鳴分光法)、ラマン分光法などを用いることができる。
【0021】
分析結果に基づいて、第1層と同じ成分を含む試料膜(例えば、厚み20μm~40μm)を形成し、当該試料膜の導電率を第1層の導電率として求める。試料膜は、第1層と同じ成分(例えば、自己ドープ型のポリチオフェン系高分子)を含む試料液(水溶液)を調製し、試料液を基板に塗布し、乾燥させて、形成することができる。第1処理液を用いて、試料膜を形成してもよい。導電率の測定装置には、日東精工アナリテック社製のロレスタ-GXおよびPSPプローブを用いることができる。
【0022】
第1層は導電率が低い。ただし、第1層を薄く形成することで、ESRの上昇を抑制することができる。低ESR化の観点から、第1層の厚みT1は、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。第1層の厚みT1の下限は、例えば、1nmである。
【0023】
なお、第1層の厚みT1とは、誘電体層を介して陽極体の多孔質部の内壁面を覆う第1層の厚み(
図2の厚みT1)を意味する。第1層の厚みは、以下の方法により求めることができる。まず、電解コンデンサを分解して、コンデンサ素子を取り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてコンデンサ素子の断面の画像を得る。当該画像を用いて、多孔質部の内壁面を覆う第1層の任意の10点の厚みを測定する。当該厚みの測定値の平均値を算出する。なお、第1層および第2層は、例えば、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)の分析(元素マッピング)により確認することができる。
【0024】
低ESR化の観点から、第2層は、第1層よりも、厚みが大きく、かつ、導電率が高いことが好ましい。低ESR化の観点から、第2層の導電率は、30S/cm以上であってもよく、60S/cm以上であってもよい。漏れ電流の低減の観点から、第2層の導電率は、300S/cm以下であってもよく、150S/cm以下であってもよい。第2層の導電率は、上記の上限と下限とを任意に組み合わせた範囲であってもよく、例えば、30S/cm以上、300S/cm以下であってもよく、60S/cm以上、300S/cm以下であってもよく、30S/cm以上、150S/cm以下であってもよい。
【0025】
第2層の厚みT2は、50nm以上であってもよく、50nm以上、100nm以下であってもよい。第1層の厚みT1に対する第2層の厚みT2の比:T2/T1は、10以上であってもよい。なお、第2層の厚みT2とは、誘電体層および第1層(もしくは誘電体層)を介して、陽極体の多孔質部の外表面を覆う第2層の厚み(
図2の厚みT2)を意味する。第2層の厚みは、第1層の厚みと同様の方法により求めることができる。
【0026】
第2層の導電率は、第1層と同様の方法により求めることができる。分析結果に基づいて、第2層と同じ成分を含む試料膜(例えば、厚み20μm~40μm)を形成し、当該試料膜の導電率を第2層の導電率として求めればよい。
【0027】
第2層は、第2ドーパントの存在下でポリピロール系高分子の前駆体を電解重合させることにより形成される。よって、第2層と同じ成分(ポリピロール系高分子および第2ドーパント)の試料膜は、ポリピロール系高分子の前駆体および第2ドーパントを含む試料液を調製し、試料液に金属基板を浸漬し、金属基板に電流を流し、前駆体を電解重合させて形成することができる。また、後述の第3工程で第2処理液を用いて第2層を形成する場合、第2処理液について分析を行ってもよく、第2処理液を用いて試料膜を形成してもよい。
【0028】
以下、電解コンデンサおよびその製造方法について、より具体的に説明する。
[電解コンデンサ]
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物などを含むことができる。これらの材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましく使用される。陽極体は、表層に多孔質部を備えてもよい。このような陽極体は、例えば、エッチングなどにより弁作用金属を含む基材(箔状または板状の基材など)の表面を粗面化することで得られる。また、陽極体は、弁作用金属を含む粒子の成形体またはその焼結体でもよい。焼結体は、多孔質構造を有するため、陽極体の全体が多孔質部となり得る。
【0029】
(誘電体層)
誘電体層は、例えば、弁作用金属を含む陽極体を化成処理(陽極酸化処理)することにより形成される。誘電体層は、陽極体の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。誘電体層は、通常、陽極体の表面に形成される。誘電体層は、陽極体の多孔質部の表面に形成され、多孔質部の外表面および孔(ピット)の内壁面に沿って形成される。
【0030】
誘電体層は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa2O5を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl2O3を含む。尚、誘電体層はこれに限らず、誘電体として機能するものであればよい。
【0031】
(固体電解質層)
固体電解質層は、誘電体層を覆うように形成される。固体電解質層は、必ずしも誘電体層の全体(表面全体)を覆う必要はなく、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。固体電解質層には、ポリチオフェン系高分子を含む第1層と、第1層上に形成されたポリピロール系高分子を含む第2層とが含まれる。誘電体層上に、第1層が形成されていない領域が存在する場合には、この領域において、誘電体層上に第2層が形成されていてもよい。
【0032】
(第1層)
第1層は、ポリチオフェン系高分子を含む。ポリチオフェン系高分子は、ポリチオフェンおよびその誘導体を含む。ポリチオフェン系高分子としては、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)が挙げられる。
【0033】
多孔質部の孔内に含浸させ易い観点から、ポリチオフェン系高分子の重量平均分子量は、100,000以下であってもよく、30,000以下であってもよい。ポリチオフェン系高分子の重量平均分子量は、例えば1,000以上である。なお、本明細書中、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン基準の重量平均分子量である。
【0034】
第1層は、2S/cm以下の導電率を有する自己ドープ型のポリチオフェン系高分子を含んでもよい。自己ドープ型のポリチオフェン系高分子の粒子は小さくなりやすい。よって、この場合、第1処理液として、ポリチオフェン系高分子の分散液またはポリチオフェン系高分子の溶液を調製し易い。また、ポリチオフェン系高分子の分散液(溶液)を多孔質部の孔内に含浸させ易い。
【0035】
なお、自己ドープ型のポリチオフェン系高分子とは、導電性高分子のポリチオフェン骨格に共有結合により直接的または間接的に結合したアニオン性基を有する導電性高分子を言う。この導電性高分子自体が有するアニオン性基が、導電性高分子のドーパントとして機能することから、自己ドープ型と称される。アニオン性基には、例えば、酸性基(酸型)もしくはその共役アニオン基(塩型)が含まれる。
【0036】
ポリチオフェン系高分子が有するアニオン性基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基、ホスホン酸基、またはこれらの塩(無機塩基との塩、有機塩基との塩など)などが挙げられる。ポリチオフェン系高分子は、1種のアニオン性基を有していてもよく、2種以上のアニオン性基を有していてもよい。アニオン性基としては、スルホン酸基またはその塩が好ましく、スルホン酸基またはその塩とスルホン酸基またはその塩以外のアニオン性基との組み合わせでもよい。ポリチオフェン系高分子に含まれるアニオン性基の量は、例えば、ポリチオフェン系高分子の主骨格に対応する分子1分子当たり、1~3個が好ましく、1個または2個(特に、1個)がさらに好ましい。
【0037】
第1層は、非自己ドープ型のポリチオフェン系高分子を含んでもよく、第1ドーパントを含んでもよい。第1層は、2S/cm以下の導電率を有する、ポリチオフェン系高分子と第1ドーパントとのポリチオフェン系高分子複合体を含んでもよい。第1層において、第1ドーパントは、アニオンの形態で含まれていてもよく、塩の形態で含まれていてもよい。
【0038】
非自己ドープ型のポリチオフェン系高分子としては、例えば、導電性高分子のポリチオフェン骨格に共有結合で直接的または間接的に結合したアニオン性基(具体的には、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基、ホスホン酸基、およびこれらの塩)を有さない導電性高分子が挙げられる。
【0039】
第1ドーパントには、例えば、ポリアニオンを形成し得るドーパントが用いられる。第1ドーパントの例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸などが挙げられる。
【0040】
第1層は、ポリチオフェン系高分子以外の導電性高分子を含んでいてもよいが、ポリチオフェン系高分子の含有量が多いことが好ましい。第1層に含まれる導電性高分子全体に占めるポリチオフェン系高分子の比率は、例えば、90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0041】
第1層は、単層であってもよく、複数の層で構成されていてもよい。第1層が複数層で構成される場合、各層に含まれるポリチオフェン系高分子は同じであってもよく、異なっていてもよい。第1層は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更に他の成分を含んでもよい。
【0042】
(第2層)
第2層は、ポリピロール系高分子を含む。ポリピロール系高分子は、ポリピロールおよびその誘導体を含む。ポリピロール系高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1,000以上、1,000,000以下である。
【0043】
第2層は、非自己ドープ型のポリピロール系高分子を含んでもよく、第2ドーパントを含んでもよい。なお、非自己ドープ型のポリピロール系高分子としては、例えば、導電性高分子のポリピロール骨格に共有結合で直接的または間接的に結合したアニオン性基(具体的には、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基、ホスホン酸基、およびこれらの塩)を有さない導電性高分子が挙げられる。
【0044】
第2ドーパントには、例えば、アニオンを形成し得るドーパントが用いられる。第2ドーパントの例としては、硫酸、硝酸、燐酸、硼酸、有機スルホン酸などが挙げられる。有機スルホン酸としては、芳香族スルホン酸などが挙げられる。芳香族スルホン酸としては、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0045】
第2層において、第2ドーパントはポリピロール系高分子とポリピロール系高分子複合体を形成していてもよい。第2層において、第2ドーパントは、アニオンの形態で含まれていてもよく、塩の形態で含まれていてもよい。
【0046】
第2層は、ポリピロール系高分子以外の導電性高分子を含んでいてもよいが、ポリピロール系高分子の含有量が多いことが好ましい。第2層に含まれる導電性高分子全体に占めるポリピロール系高分子の比率は、例えば、90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0047】
第2層は、単層であってもよく、複数の層で構成してもよい。第2層が複数層で構成される場合、各層に含まれるポリピロール系高分子は同じであってもよく、異なっていてもよい。第2層は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更に他の成分を含んでもよい。
【0048】
図1は、本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1の領域IIを模式的に示す拡大断面図である。電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2と、コンデンサ素子2を封止する樹脂封止材(外装体)3と、樹脂封止材3の外部にそれぞれ少なくともその一部が露出する陽極端子4および陰極端子5と、を備えている。陽極端子4および陰極端子5は、例えば金属(銅または銅合金など)で構成することができる。樹脂封止材3は、ほぼ直方体の外形を有しており、電解コンデンサ1もほぼ直方体の外形を有している。樹脂封止材3の素材としては、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。
【0049】
コンデンサ素子2は、陽極体6と、陽極体6を覆う誘電体層7と、誘電体層7を覆う陰極部8とを備える。陰極部8は、誘電体層7を覆う固体電解質層9と、固体電解質層9を覆う陰極引出層10とを備える。陰極引出層10は、カーボン層11および銀ペースト層12を有する。
【0050】
陽極体6は、多孔質部6aを有するとともに、陰極部8と対向する領域と、対向しない領域とを含む。多孔質部6aは、多数の孔Pを含む。孔Pは、スポンジ状ピットでもよく、トンネル状ピットでもよい。陽極体6の陰極部8と対向しない領域のうち、陰極部8に隣接する部分には、陽極体6の表面を帯状に覆うように絶縁性の分離層13が形成され、陰極部8と陽極体6との接触が規制されている。陽極体6の陰極部8と対向しない領域のうち、他の一部は、陽極端子4と、溶接により電気的に接続されている。陰極端子5は、導電性接着剤により形成される接着層14を介して、陰極部8と電気的に接続している。
【0051】
陽極端子4および陰極端子5の主面4Sおよび5Sは、樹脂封止材3の同じ面から露出している。この露出面は、電解コンデンサ1を搭載すべき基板(図示せず)との半田接続などに用いられる。
【0052】
カーボン層11は、導電性を有していればよく、例えば、導電性炭素材料(黒鉛など)を用いて構成することができる。銀ペースト層12には、例えば、銀粉末とバインダ樹脂(エポキシ樹脂など)を含む組成物を用いることができる。なお、陰極引出層10の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。
【0053】
固体電解質層9は、誘電体層7を覆うように形成されている。誘電体層7は、陽極体6の表面(多孔質部6aの外表面Sおよび孔Pの内壁面)に沿って形成される。誘電体層7の表面は、陽極体6の表面の形状に応じた凹凸形状が形成されている。固体電解質層9は、このような誘電体層7の凹凸を埋めるように形成されていることが好ましい。
【0054】
固体電解質層9は、第1層9aおよび第2層9bを備える。第1層9aは、誘電体層7を介して、多孔質部6aの外表面Sおよび孔Pの内壁面を覆うように形成されている。第2層9bは、誘電体層7および第1層9aを介して、多孔質部6aの外表面Sを覆うように形成されている。また、第2層9bは、多孔質部6aの孔P内にも形成されており、誘電体層7および第1層9aを介して、孔Pの内壁面を覆うように形成されている。第1層9aはポリチオフェン系高分子を含み、第2層9bはポリピロール系高分子を含む。第1層9aの導電率は、2S/cm以下である。第1層9aおよび第2層9bは、それぞれ厚みT1および厚みT2を有する。
【0055】
本実施形態に係る電解コンデンサは、上記構造の電解コンデンサに限定されず、様々な構造の電解コンデンサに適用することができる。具体的に、巻回型の電解コンデンサ、金属粉末の焼結体を陽極体として用いる電解コンデンサなどにも、本発明を適用できる。陽極体は、陽極リードの一部が埋設された多孔質体でもよく、陽極端子と陽極リードとが、電気的に接続されていてもよい。
【0056】
[電解コンデンサの製造方法]
本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの製造方法は、誘電体層が形成された陽極体を準備する第1工程と、誘電体層上に第1層を形成する第2工程と、第1層上に第2層を形成する第3工程とを含む。第1層はポリチオフェン系高分子を含み、第2層はポリピロール系高分子を含む。また、第1層の導電率は、2S/cm以下である。第2工程および第3工程により、第1層と第2層とを備える固体電解質層を形成する。また、電解コンデンサの製造方法は、第1工程に先立って、陽極体を準備する工程を含んでもよい。製造方法は、さらに陰極引出層を形成する工程、および/またはコンデンサ素子を封止する工程を含んでもよい。
以下に、各工程についてより詳細に説明する。
【0057】
(陽極体を準備する工程)
この工程では、陽極体の種類に応じて、公知の方法により陽極体を形成する。
陽極体は、例えば、弁作用金属を含む箔状または板状の基材の表面を粗面化することにより準備することができる。粗面化により、陽極体の表層に多孔質部が形成される。粗面化は、基材表面に凹凸を形成できればよく、例えば、基材表面をエッチング(例えば、電解エッチング)することにより行ってもよい。
【0058】
また、弁作用金属(例えば、タンタル)の粉末を用意し、この粉末の中に、棒状体の陽極リードの長手方向の一端側を埋め込んだ状態で、所望の形状(例えば、ブロック状)に成形された成形体を得る。この成形体を焼結することで、陽極リードの一端が埋め込まれた多孔質構造の陽極体を形成してもよい。
【0059】
(第1工程)
第1工程では、陽極体上に誘電体層を形成する。誘電体層は、陽極体を陽極酸化することにより形成される。陽極酸化は、公知の方法、例えば、化成処理などにより行うことができる。化成処理は、例えば、陽極体を化成液中に浸漬することにより、陽極体の表面に化成液を含浸させ、陽極体をアノードとして、化成液中に浸漬したカソードとの間に電圧を印加することにより行うことができる。化成液としては、例えば、リン酸水溶液などを用いることが好ましい。
【0060】
(第2工程)
第2工程は、第1処理液を準備する工程aと、第1処理液を誘電体層に付着させて第1層を形成する工程bと、を含んでもよい。工程bでは、例えば、誘電体層が形成された陽極体を第1処理液に浸漬した後、乾燥させて、第1層を形成してもよい。工程bでは、誘電体層が形成された陽極体に第1処理液を塗布または滴下した後、乾燥させて、第1層を形成してもよい。
【0061】
第1処理液は、2S/cm以下の導電率を有する、自己ドープ型のポリチオフェン系高分子(自己ドープ型)を含んでもよい。この場合、ポリチオフェン系高分子の微粒子を含む分散液またはポリチオフェン系高分子の溶液を第1処理液として調製し易く、ポリチオフェン系高分子の分散液(溶液)を多孔質部の孔内に含浸させ易い。また、第1処理液は、2S/cm以下の導電率を有するポリチオフェン系高分子複合体(ポリチオフェン系高分子と第1ドーパントとの複合体)を含んでもよい。ポリチオフェン系高分子および第1ドーパントとしては、上記で例示したものを使用することができる。第1処理液は、さらに、他の成分を含んでもよい。
【0062】
第1処理液としては、例えば、ポリチオフェン系高分子の分散液(または溶液)、ポリチオフェン系高分子と第1ドーパントとのポリチオフェン系高分子複合体の分散液(または溶液)を用いてもよい。第1処理液は、例えば、分散媒(または溶媒)中、ポリチオフェン系高分子の前駆体を酸化重合させることにより得ることができる。この前駆体としては、ポリチオフェン系高分子を構成するモノマー、および/またはモノマーがいくつか連なったオリゴマーなどが例示できる。ポリチオフェン系高分子複合体を含む第1処理液は、分散媒(または溶媒)中、第1ドーパントの存在下、ポリチオフェン系高分子の前駆体を酸化重合させることにより得ることができる。
【0063】
第1層の導電率は、例えば、ポリチオフェン系高分子の前駆体の重合条件(例えば、ポリチオフェン系高分子の前駆体、酸化剤、または触媒の種類)、第1ドーパントの種類などにより調整することができる。
【0064】
第1処理液の分散媒(または溶媒)としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、1価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノールなど)、多価アルコール(エチレングリコール、グリセリンなど)、または非プロトン性極性溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、ベンゾニトリルなど)が挙げられる。
【0065】
第1処理液を多孔質部の孔内に含浸させ易い観点から、第1処理液中に分散するポリチオフェン系高分子(またはポリチオフェン系高分子複合体)の粒子の平均粒子径は、100nm以下であってもよく、50nm以下であってもよい。平均粒子径の下限は、特に制限されないが、例えば、5nm以上である。なお、ここでいう平均粒子径は、体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)を意味する。ポリチオフェン系高分子(またはポリチオフェン系高分子複合体)の平均粒子径は、例えば、動的光散乱法(DLS)による粒径分布から求めることができる。具体的には、粒子の水分散液(第1処理液)を用いて、動的光散乱法式粒度分布測定装置(HORIBA社製、LB-550)により、粒子の粒度分布を体積基準で測定し、そのメディアン径(D50)を平均粒子径とする。
【0066】
(第3工程)
第3工程では、第1層上でポリピロール系高分子の前駆体を電解重合させて、ポリピロール系高分子を含む第2層を形成する。第3工程では、第2ドーパントの存在下、第1層上でポリピロール系高分子(非自己ドープ型)の前駆体を電解重合させて、ポリピロール系高分子および第2ドーパントを含む第2層を形成してもよい。
【0067】
第2層は、第2処理液を用いて電解重合により形成される。第2層は、例えば、誘電体層および第1層が形成された陽極体を第2処理液に浸漬し、第1層を電極として供給電極から給電することにより形成される。第2処理液は、例えば、ポリピロール系高分子の前駆体と、第2ドーパントと、分散媒(または溶媒)とを含む。
【0068】
第1層は、導電率が低いため、電解重合時に大きな過電圧が生じる場合がある。この点が第2層の形成に影響することがある。導電率が低い第1層上に、良質な第2層を均一に形成するためには、第1層に小さい電流を流して電解重合を行うことが望ましい。
【0069】
ポリピロール系高分子および第2ドーパントとしては、それぞれ、上記で例示したものを使用することができる。ポリピロール系高分子の前駆体としては、ポリピロール系高分子を構成するモノマー、および/またはモノマーがいくつか連なったオリゴマーなどが例示できる。分散媒(または溶媒)としては、第1処理液で例示するものを用いることができる。第2処理液は、さらに、他の成分を含んでもよい。
【0070】
(陰極引出層を形成する工程)
この工程では、第3工程で形成された第2固体電解質層上に、カーボン層と銀ペースト層とを順次積層することにより陰極引出層を形成する。陰極引出層を形成することにより、コンデンサ素子を得ることができる。
【0071】
なお、陰極引出層の表面に導電性の接着層を配置し、この接着層を介して陰極端子の一端部をコンデンサ素子に電気的に接続させる。陰極端子としては、電解コンデンサで使用される電極端子が特に制限なく利用でき、例えば、リードフレームと呼ばれるものを用いてもよい。
【0072】
(樹脂封止材でコンデンサ素子を封止する工程)
形成されたコンデンサ素子は、例えば、陽極端子および陰極端子のそれぞれの一部とともに樹脂材料で封止される。この封止により、樹脂封止材が形成される。樹脂材料としては、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂など)または樹脂組成物が好ましい。なお、樹脂封止材は、熱硬化性樹脂または樹脂組成物の硬化物を含む。
【0073】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
《実施例1~5および比較例1~2》
(陽極体の表面に誘電体層を形成する工程)
陽極体として、陽極リードの一部が埋設されたタンタル焼結体(多孔質体)を準備した。タンタル焼結体は直方体であり、陽極リードが直方体の一端面より植立されていた。陽極体についてリン酸水溶液中で陽極酸化を行い、陽極体の表面に酸化タンタル(Ta2O5)を含む誘電体層を形成した。
【0075】
(第1層を形成する工程)
第1導電性高分子として、表1に示す導電率を有する、自己ドープ型のポリチオフェン系高分子を含む水分散液(第1処理液)を準備した(工程a)。第1処理液中のポリチオフェン系高分子の濃度は4質量%とした。ポリチオフェン系高分子の粒子は、DLS法で測定が困難なレベル(粒子径が1nm未満)の非常に小さい粒子であった。自己ドープ型のポリチオフェン系高分子としては、PEDOT骨格に直接結合したスルホン酸基を有するPEDOTを用いた。誘電体層が形成された陽極体を、第1処理液に浸漬し、乾燥させ、第1層を形成した(工程b)。
【0076】
(第2層を形成する工程)
ピロールと、ドーパント(ナフタレン骨格を有するスルホン酸塩)とを含む水分散液(第2処理液)を調製した。なお、第2処理液中のピロールの濃度は、例えば、1~6質量%の範囲で適宜選択することができ、第2処理液中のドーパントの濃度は、例えば、3~12質量%の範囲で適宜選択することができる。
【0077】
誘電体層および第1層が形成された陽極体を、第2処理液に浸漬し、第1層を電極としてピロールの電解重合を進行させて、ポリピロールを含む第2層(導電率60S/cm)を形成した。
【0078】
このようにして、第1層と第2層とで構成される固体電解質層を形成した。第1層の厚みT1は、5nmであった。第2層の厚みT2は、100nmであった。
【0079】
(陰極引出層を形成する工程)
固体電解質層の表面に、黒鉛粒子を水に分散した分散液を塗布した後、乾燥することによりカーボン層を形成した。次いで、カーボン層の表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布した後、加熱してバインダ樹脂を硬化させ、銀ペースト層を形成した。このようにして、カーボン層と銀ペースト層とで構成される陰極引出層を形成した。このようにして、コンデンサ素子を得た。
【0080】
(コンデンサ素子を封止する工程)
陽極リードに陽極端子(陽極リードフレーム)を溶接し、陰極引出層に陰極端子(陰極リードフレーム)を導電性接着剤により接続し、コンデンサ素子を樹脂封止材で封止した。このようにして、電解コンデンサを作製した。
【0081】
上記の第1層を形成する工程において、第1処理液に含ませる第1導電性高分子に導電率の異なる自己ドープ型のポリチオフェン系高分子を用い、第1層の導電率を表1に示す値に変えて、それぞれ電解コンデンサを作製した。表1中のA1~A5は、実施例1~5の電解コンデンサを示す。B1~B2は、比較例1~2の電解コンデンサを示す。
【0082】
《比較例3》
第1層を形成する工程において、第1導電性高分子として自己ドープ型のポリアニリン系高分子(導電率0.1S/cm)を含む第1処理液を用い、誘電体層が形成された陽極体を、第1処理液に浸漬し、乾燥させ、ポリアニリン系高分子を含む第1層を形成した。自己ドープ型のポリアニリン系高分子としては、ポリアニリン骨格に直接結合したスルホン酸基を有するポリアニリンを用いた。上記以外、実施例1と同様にして、比較例3の電解コンデンサB3を作製した。
【0083】
[評価]
上記で作製した実施例および比較例の電解コンデンサについて、20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、周波数100kHzにおける初期のESR(mΩ)を測定した。また、周波数120Hzにおける容量(μF)を測定した。さらに、定格電圧で40秒保持した際に電解コンデンサに流れる電流を測定し、その電流値を漏れ電流として求めた。評価結果を表1に示す。
【0084】
なお、表1中、ESR値は、電解コンデンサA5のESR値を100とするときの相対値として示す。表1中、容量は、電解コンデンサA5の容量を100%とし、電解コンデンサA5の容量の90%以上である場合は○で示し、電解コンデンサA5の容量の90%を下回る場合は×で示す。表1中、漏れ電流は、100μA以下の場合は〇で示し、100μAよりも大きい場合は×で示す。
【0085】
【0086】
ポリチオフェン系高分子を含む第1層の導電率が2S/cm以下である電解コンデンサA1~A5では、電解コンデンサB1~B3よりも低いESRが得られ、漏れ電流も小さかった。ポリチオフェン系高分子を含む第1層の導電率が0.1S/cm以上、2S/cm以下である電解コンデンサA2~A5では、低ESRとともに高容量が得られた。
【0087】
ポリチオフェン系高分子を含む第1層の導電率が2S/cmよりも大きい電解コンデンサB1~B2では、ESRが増大し、漏れ電流も増大した。これは、第1層の導電率が2S/cmよりも大きく、第1層が絶縁化しにくいことが影響しているものと考えられる。電解コンデンサB3では、第1層の導電率が2S/cm以下であったが、第1層としてポリアニリン系高分子膜を形成したため、ESRが増大した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係る電解コンデンサは、低ESRが要求される用途に好適に用いられる。
【0089】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0090】
1:電解コンデンサ、2:コンデンサ素子、3:樹脂封止材、4:陽極端子、4S:陽極端子の主面、5:陰極端子、5S:陰極端子の主面、6:陽極体、7:誘電体層、8:陰極部、9:固体電解質層、9a:第1層、9b:第2層、10:陰極引出層、11:カーボン層、12:銀ペースト層、13:分離層、14:接着層