IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-リチウムイオン電池 図1
  • 特許-リチウムイオン電池 図2
  • 特許-リチウムイオン電池 図3A
  • 特許-リチウムイオン電池 図3B
  • 特許-リチウムイオン電池 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241206BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20241206BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241206BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241206BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241206BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/46
H01M4/62 Z
H01M4/134
H01M10/052
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022512280
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013499
(87)【国際公開番号】W WO2021200924
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020066991
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 菜々美
(72)【発明者】
【氏名】沖 雪尋
(72)【発明者】
【氏名】浅野 和子
(72)【発明者】
【氏名】日比野 光宏
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-310739(JP,A)
【文献】特開2016-81922(JP,A)
【文献】特開2010-218855(JP,A)
【文献】特開2007-73215(JP,A)
【文献】特開2005-100773(JP,A)
【文献】国際公開第2021/172444(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極合剤層を有する正極と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極と、を含み、前記正極と前記負極間をリチウムイオンが移動することにより充放電が行われるリチウムイオン電池であって、
前記負極合剤層は、
一般式MMe(式中、MはLa,Ce,Ba,Sr,Zr,Ca,MgおよびYからなる群より選択される少なくとも1つを含み、Meは、Ti,V,Cr,Nb,Mn,Ni,Fe,CoおよびCuからなる群より選択される少なく1つを含み、XはGe,Si,Sn,Al,P,SbおよびBからなる群より選択される少なく1つを含む)で表される負極活物質と、
アンモニウムカルボキシメチルセルロース(NH-CMC)を含む結着剤と、
を含む、リチウムイオン電池。
【請求項2】
正極活物質を含む正極合剤層を有する正極と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極と、を含み、前記正極と前記負極間をリチウムイオンが移動することにより充放電が行われるリチウムイオン電池であって、
前記負極合剤層は、
一般式MMe(式中、MはLa,Sr,Ca,MgおよびYからなる群より選択される少なくとも1つを含み、Meは、Mn,Ni,Fe,CoおよびCuからなる群より選択される少なく1つを含み、XはGe,Si,Sn,AlおよびBからなる群より選択される少なく1つを含む)で表される負極活物質と、
アンモニウムカルボキシメチルセルロース(NH-CMC)を含む結着剤と、
を含む、リチウムイオン電池。
【請求項3】
前記結着剤として、別の水系結着剤をさらに含む、
請求項1または2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記別の水系結着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)である、
請求項3に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記負極活物質に対する前記結着剤の質量比率が0.3wt%以上、5.0wt%以下である請求項1~4のいずれかに1つに記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質を含む正極合剤層を有する正極と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極と、前記正極と前記負極間をリチウムイオンが移動することにより充放電が行われる、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Liイオン)が負極と正極間を移動することにより充放電が行われるリチウムイオン電池が広く普及している。このリチウムイオン電池における負極合剤層の負極活物質には、黒鉛系のものが多く用いられている。黒鉛系の負極活物質はSiと一緒に使用される場合があり、その場合充放電時の体積変化が大きく容量維持特性が悪化しやすく、また比較的コストが高くなる。
【0003】
そこで、黒鉛系ではない負極活物質も提案されており、例えば特許文献1には、負極活物質として、LaCoSn型結晶構造を有する合金を利用することが記載されている。
【0004】
また、負極合剤層には、剥離やクラックの発生を抑制するために結着剤を使用するが、この結着剤が多くなると負極活物質の電池反応の効率が低下するため、結着剤の量を少なくしたいという要求もある。特許文献2では、結着剤の含有量を0.5質量%以上5.0質量%とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4127692号公報
【文献】特開2007-258127号公報
【発明の概要】
【0006】
特許文献1では、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いているが、実験の結果負極活物質としてLaCoSn型結晶構造を有する合金を用い、結着剤としてPVdFを用いると、両者の反応により負極合剤層の形成に用いられる合剤スラリーがゲル化してしまい塗工が困難となりやすいことが分かった。LaNiSnとPVdFの反応性を低くして塗工を可能とするためには、負極活物質の粒子サイズを大きくする必要がある。しかし、負極活物質の粒子サイズを大きくすると、負極活物質とLiとの反応性が下がり、容量が低下しやすい。
【0007】
また、結着剤によっては、LaCoSn型結晶構造を有する合金が合金化反応をして不純物合金を形成するものもあり、この場合にはサイクル特性が低下する。
【0008】
本開示に係るリチウムイオン電池は、正極活物質を含む正極合剤層を有する正極と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極と、を含み、前記正極と前記負極間をリチウムイオンが移動することにより充放電が行われるリチウムイオン電池であって、前記負極合剤層は、一般式MMe(式中、MはLa,Ce,Ba,Sr,Zr,Ca,MgおよびYからなる群より選択される少なくとも1つを含み、Meは、Ti,V,Cr,Nb,Mn,Ni,Fe,CoおよびCuからなる群より選択される少なく1つを含み、XはGe,Si,Sn,Al,P,SbおよびBからなる群より選択される少なく1つを含む)で表される負極活物質と、アンモニウムカルボキシメチルセルロース(NH-CMC)を含む結着剤と、を含む。
【0009】
また、本開示に係るリチウムイオン電池は、正極活物質を含む正極合剤層を有する正極と、負極活物質を含む負極合剤層を有する負極と、を含み、前記正極と前記負極間をリチウムイオンが移動することにより充放電が行われるリチウムイオン電池であって、前記負極合剤層は、一般式MMe(式中、MはLa,Sr,Ca,MgおよびYからなる群より選択される少なくとも1つを含み、Meは、Mn,Ni,Fe,CoおよびCuからなる群より選択される少なく1つを含み、XはGe,Si,Sn,AlおよびBからなる群より選択される少なく1つを含む)で表される負極活物質と、アンモニウムカルボキシメチルセルロース(NH-CMC)を含む結着剤と、を含む。
【0010】
本開示では、負極活物質として、LaNiSnなど、一般式MMe(式中、MはLa,Ce,Ba,Sr,Zr,Ca,MgおよびYからなる群より選択される少なくとも1つを含み、Meは、Ti,V,Cr,Nb,Mn,Ni,Fe,CoおよびCuからなる群より選択される少なく1つを含み、XはGe,Si,Sn,Al,P,SbおよびBからなる群より選択される少なく1つを含む)で表される物質を用い、負極合剤層の塗工を可能にするとともに、容量の減少、サイクル特性の低下を抑制する。また、水系の結着剤を用いることで塗工を安価に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態の一例である円筒型の二次電池10の縦方向断面図である。
図2図2は、実施例および比較例に係る電極のX線回折パターンを示す図である。
図3A図3Aは、実施例における充放電特性を示すグラフであり、容量と電極電位の関係を示す図である。
図3B図3Bは、実施例における充放電特性を示すグラフであり、サイクル数と容量の関係を示す図である。
図4図4は、負極結着剤としてSBR/Na-CMCを利用した比較例1の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本開示は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[負極材料について]
リチウムイオン電池の負極材料は、高エネルギー密度、低膨張を満たす材料が好ましい。そこで、各種の研究開発が行われており、負極活物質として、LaNiSnなどのMMe(M=La,Ca、Me=Mn,Ni,Fe,Co、X=Ge,Si,Sn,Al)で表される金属間化合物を用いることが提案されている。このような金属間化合物は、インターカレーション反応によりLiの吸蔵放出を行うため、低膨張率であり、長寿命化が図れると考えられる。
【0014】
しかし、この材料については、実際に使用する際にはさらなる改良が必要であることが分かった。まず、上述したように、結着剤としてPVdFを用いると、負極合剤スラリーがゲル化してしまい、負極合剤層の塗工が困難になる。また、結着剤の粒径を大きくすることによって、ゲル化を抑制すると、電池反応が阻害される可能性がある。
【0015】
また、結着剤として、シアノ基を含有するもの、例えばポリアクリロニトリル(PAN)を使用することで、負極合剤スラリーのゲル化を抑制することができる。しかし、PANは有機系の結着剤であって、有機溶剤を用いた塗工の作業が必要であり塗工を安価に行うことができない。
【0016】
さらに、ポリイミド(PI)、スチレンブタジエンゴム/ナトリウム塩カルボキシメチルセルロース(SBR/Na-CMC)を用いると、負極活物質であるLaNiSn型結晶の合金と合金化反応を起こし、サイクル特性が低下する場合がある。
【0017】
[実施形態の構成]
図1は、実施形態の一例である円筒型の二次電池10の縦方向断面図である。図1に示す二次電池10は、電極体14および非水電解質が外装体15に収容されている。電極体14は、正極11および負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の構造を有する。非水電解質の非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を用いることができ、これらの溶媒は2種以上を混合して用いることができる。2種以上の溶媒を混合して用いる場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒を用いることが好ましい。例えば、環状カーボネートとしてエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等を用いることができ、鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびジエチルカーボネート(DEC)等を用いることができる。非水電解質の電解質塩としては、LiPF、LiBF、LiCFSO等およびこれらの混合物を用いることができる。非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、例えば0.5~2.0mol/Lとすることができる。なお、以下では、説明の便宜上、封口体16側を「上」、外装体15の底部側を「下」として説明する。
【0018】
外装体15の開口端部が封口体16で塞がれることで、二次電池10の内部は、密閉される。電極体14の上下には、絶縁板17,18がそれぞれ設けられる。正極リード19は絶縁板17の貫通孔を通って上方に延び、封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接される。二次電池10では、フィルタ22と電気的に接続された封口体16の天板であるキャップ26が正極端子となる。他方、負極リード20は絶縁板18の貫通孔を通って、外装体15の底部側に延び、外装体15の底部内面に溶接される。二次電池10では、外装体15が負極端子となる。なお、負極リード20が終端部に設置されている場合は、負極リード20は絶縁板18の外側を通って、外装体15の底部側に延び、外装体15の底部内面に溶接される。
【0019】
外装体15は、例えば有底円筒形状の金属製外装缶である。外装体15と封口体16の間にはガスケット27が設けられ、二次電池10の内部の密閉性が確保されている。外装体15は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する溝入部21を有する。溝入部21は、外装体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面でガスケット27を介して封口体16を支持する。
【0020】
封口体16は、電極体14側から順に積層された、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、およびキャップ26を有する。封口体16を構成する各部材は、例えば円板形状またはリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体23と上弁体25とは各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材24が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、例えば、下弁体23が破断し、これにより上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体25が破断し、キャップ26の開口部26aからガスが排出される。
【0021】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、およびセパレータ13について、特に負極12を構成する負極活物質について説明する。
【0022】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合剤層とを有する。正極芯体には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極芯体の厚みは、例えば10μm~30μmである。正極合剤層は、正極活物質、結着剤、および導電材を含み、正極リード19が接続される部分を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、結着剤、および導電材等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0023】
正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物を主成分として含む。正極活物質は、実質的にリチウム遷移金属酸化物のみから構成されていてもよく、リチウム遷移金属酸化物の粒子表面に酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着したものであってもよい。リチウム遷移金属酸化物は、1種類を用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
リチウム遷移金属酸化物に含有される金属元素としては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、タングステン(W)等が挙げられる。好適なリチウム遷移金属酸化物の一例は、一般式:LiαNi(1―x)(0.1≦α≦1.2、0.3≦x<1、MはCo、Mn、Alの少なくとも1種を含む)で表される複合酸化物である。例えば、正極材料として、ニッケルの一部をコバルトで置換し、アルミニウムを添加したNCAなどが用いられる。
【0025】
正極合剤層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0026】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合剤層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極芯体の厚みは、例えば5μm~15μmである。負極合剤層は、負極活物質および結着剤を含み、例えば負極リード20が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質および結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。また、負極合剤スラリーに導電材を添加してもよい。導電材によって、導電パスを均一化することができる。また、負極合剤層には、正極合剤層と同様に、アセチレンブラック等の導電材が含まれていてもよい。
【0027】
負極合剤層には、負極活物質として、一般式MMe(式中、MはLa,Caの少なくとも1つを含み、MeはMn,Ni,Fe,Coの少なくとも1つを含み、XはGe,Si,Sn,Alの少なくとも1つを含む)で表される金属間化合物(MMe型結晶の合金)が含まれる。好適な負極活物質の具体例としては、LaCoSn、LaMnSn、LaNiSnが挙げられる。中でも、高容量化の観点から、LaCoSnまたはLaNiSnが好ましく、LaNiSnが特に好ましい。
【0028】
負極活物質であるMMeの粒径は、1~30μmが好ましく、2~20μmがより好ましく、2~10μmが特に好ましい。MMeの粒径が大きくなり過ぎると、Liとの反応性が低下し、また粒子間の接触面積が小さくなって抵抗が上昇する。他方、粒径が小さくなり過ぎると、負極活物質の充填密度が下がり、容量が低下することが想定される。MMeの平均粒径は、例えば、3~15μm、または5~10μmである。MMeの粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される負極合剤層の断面画像においてMMe粒子の外接円の直径として計測される。平均粒径は、任意の粒子100個の粒径を平均化して算出される。
【0029】
Meで表される金属間化合物は、アーク溶解により形成することができ、アーク溶解後にアニールすることが好適である。また、Mについては、Laについて~50%程度まで置換してもよい。例えば、Laについて、その40%程度をCaに置換したものにおいて、大きな充放電容量(初回充電容量301mAh/g、初回放電容量223mAh/g(1718mAh/cc))、小さな体積変化率(0.5%以下)が得られた。
【0030】
負極活物質は、MMeを主成分(最も質量比率が高い成分)として含み、実質的にMMeのみで構成されていてもよい。他方、負極活物質には、MMe以外の金属間化合物、黒鉛等の炭素系活物質、またはSiを含有するSi系活物質など、他の活物質が併用されてもよい。例えば、黒鉛を併用する場合、黒鉛の含有量は負極活物質の質量に対して50~90質量%であってもよい。
【0031】
負極合剤層に含まれる結着剤には、水系のアンモニウムカルボキシメチルセルロース(NH-CMC)を含むものが採用される。また、スチレンブタジエンゴム(SBR)をさらに含むとよい。なお、水系ウレタン、水系あるリルポリマーなどの水系の結着剤も使用可能である。
【0032】
また、負極活物質に対する前記結着剤の質量比率が0.3wt%以上、5.0wt%以下であることが好ましい。なお、NH-CMCとSBRの比率は、2:0.5~2程度が好ましい。
【0033】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性および絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱性材料を含む耐熱層が形成されていてもよい。耐熱性材料としては、脂肪族系ポリアミド、芳香族系ポリアミド(アラミド)等のポリアミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド等のポリイミド樹脂などが例示できる。
【0034】
<実施例>
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
[負極の作製]
負極活物質として、粒子径2~20μmのLaNiSnを、結着剤として、SBR/CMCを、導電材として人造黒鉛SP5030をそれぞれ用いた。LaNiSn/NH-CMC/SBR/SP5030を質量比、85.5/3/1.5/10で混合し、負極合剤スラリーを調製した。次に、銅箔からなる負極芯体上に負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断して負極を得た。なお、銅箔としては、表面を粗面化した、厚さ18μm程度のものを使用してもよい。
【0036】
[試験セルの作製]
セパレータを介して上記負極とリチウム金属箔からなる正極を対向配置して電極体を構成し、外装缶に電極体を収容した。外装缶に所定の非水電解液を注入した後、外装缶を封止して2極セル(非水電解質二次電池)を得た。
【0037】
ここで、電解液は、電解質として1.0MのLiPFを添加したEC/EMC溶媒とした。
【0038】
[充放電試験(容量の評価)]
得られた試験セルを、常温環境下、0.2Cの定電流で電池電圧として、充電0.01V(金属リチウムに対して負極の電位が0.01V)、放電1.5V(金属リチウムに対して負極の電位が1.5V)まで定電流(CC)充電し、電極電圧の変化を調べた。また、その後定電流放電し、再度定電流充電する充放電サイクルを繰り返し、各サイクルにおいて充電容量および放電容量を測定した。
【0039】
[結果]
図2には、結着剤として、スチレンブタジエンゴム/アンモニウムカルボキシメチルセルロース(SBR/NH-CMC)を用いた実施例とともに、スチレンブタジエンゴム/ナトリウムカルボキシメチルセルロース(SBR/Na-CMC)を用いた比較例1、PANを用いた比較例2、PIを用いた比較例3、PVdFを用いた比較例4についての電極のX線回折パターンを示す。図中△で示したピークが不純物合金(不要な合金化反応により生じた不純物合金)についてのピークである。このように、SBR/NH-CMCを用いた実施例では不純物合金の相が生成していないことが分かる。
【0040】
図3A図3Bは、実施例における充放電特性を示すグラフであり、図3Aは容量と電極電位の関係、図3Bはサイクル数と容量の関係を示したグラフである。
【0041】
このように、負極結着剤としてSBR/NH-CMCを用いた実施例では、3回の充放電において、ほぼ劣化していないことが分かる。また、29回の充放電サイクルにおいても、充放電曲線の変化は小さく、当初充放電容量に対し、99.5%を維持しており、良好なサイクル特性を有する。
【0042】
図4は、負極結着剤としてSBR/Na-CMCを利用した比較例1の充放電特性を示す図である。このように、比較例1においては、充放電を繰り返すことによって容量が低下し、乏しいサイクル特性を有していることが分かった。これは、図2で示した合金化反応が生じたことによると考えられる。
【0043】
表1は、LaNiSn,La1.8Ca1.2NiSnの各種負極活物質に対する、結着剤の評価を示す表である。
【0044】
【表1】
【0045】
このように、負極合剤層がLaNiSn,La1.8Ca1.2NiSnのいずれを含んでも結果は同じになった。すなわち、PVdFは、塗工時にゲル化が進行しやすいため、使用には工夫が必要である(△1)。塗工時のゲル化は、無水マレイン酸を添加することで、抑制することができる。PANは有機溶媒を用いなくてはならず、製造時のコストが高価になる(△2)。さらに、PIおよびSBR/Na-CMCは、塗工時に合金が生成されサイクル特性が低下する(△3)。そして、実施例である、SBR/NH-CMCが水系で有機溶媒が不要であり、合金生成もなく、サイクル特性が良好であり、結着剤として好適である(〇)。
【0046】
負極合剤層が、一般式MMe(式中、MはLa,Sr,Ca,MgおよびYからなる群より選択される少なくとも1つを含み、Meは、Mn,Ni,Fe,CoおよびCuからなる群より選択される少なく1つを含み、XはGe,Si,Sn,AlおよびBからなる群より選択される少なく1つを含む)で表される負極活物質を含むものについては、アンモニウムカルボキシメチルセルロース(NH-CMC)を含む結着剤が好適であることが確認されている。
【0047】
このように、一般式MMe(式中、MはLa,Ce,Ba,Sr,Zr,Ca,MgおよびYからなる群より選択される少なくとも1つを含み、Meは、Ti,V,Cr,Nb,Mn,Ni,Fe,CoおよびCuからなる群より選択される少なく1つを含み、XはGe,Si,Sn,Al,P,SbおよびBからなる群より選択される少なく1つを含む)で表される負極活物質とするものについて、アンモニウムカルボキシメチルセルロース(NH-CMC)を含む結着剤として好適であることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
10 二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 外装体
16 封口体
17,18 絶縁板
19 正極リード
20 負極リード
21 溝入部
22 フィルタ
23 下弁体
24 絶縁部材
25 上弁体
26 キャップ
26a 開口部
27 ガスケット
図1
図2
図3A
図3B
図4