(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/34 20060101AFI20241206BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20241206BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20241206BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241206BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
B01J23/34 A
B01J37/16
B01J37/04 102
B01J37/08
B01D53/86 150
(21)【出願番号】P 2021005209
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 佩芬
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-022946(JP,A)
【文献】特開2000-079157(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106693854(CN,A)
【文献】特開2021-130104(JP,A)
【文献】特開2003-181293(JP,A)
【文献】特開2003-117398(JP,A)
【文献】特開2003-251186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
A61L 9/00- 9/22
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOC除去触媒の製造方法であって、
マンガン源を含む原料液Aと、
セリウム源を含む原料液Bと、還元剤を含む原料液Cとを
5~40℃で混合することで生成物を得る工程1と、
前記工程1で得られた生成物を
250~480℃で焼成する工程2と、
を備え、
前記VOC除去触媒は、Ceを含有する結晶性酸化マンガンを含み、セリウムとマンガンとのモル比(Ce:Mn)が1:1~1:4である、VOC除去触媒の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤が、カルボン酸化合物及び/又はビタミンCである、請求項
1に記載のVOC除去触媒の製造方法。
【請求項3】
前記カルボン酸化合物が、クエン酸、ギ酸、及び、酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項
2に記載のVOC除去触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称であり、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、メタノール及びジクロロメタン等が知られている。このようなVOCは、溶剤、接着剤、化学品原料等に広く利用されている反面、VOCは、光化学オキシダント、あるいは、浮遊粒子状物質(SPM)の原因になると指摘されていることから、大気汚染防止法によりその排出量が厳しく規制されている。このため、VOC排出量をさらなる低減すべく、VOCをより効率良く除去する技術の確立が望まれている。
【0003】
VOCを除去する技術としては、触媒酸化による方法が知られている。この方法では、比較的低温でVOC除去が行われる点で最も有望であると考えられている。触媒酸化による方法では、主に遷移金属酸化物が使用されることから、貴金属触媒と比較してコスト面でも有利であり、この観点から遷移金属酸化物の触媒性能を向上させる研究が広く行われている。例えば、特許文献1には、酸化マンガン(IV)を含む材料により、VOCを効率的に除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のVOC除去触媒は、低温環境化においてはVOCの除去性能が未だ十分ではなく、また、製造にも時間を要するという問題点もあり、実用化を考えると総合的には依然として課題を有するものであった。このような観点から、容易に製造でき、低温であっても効率よくVOCを除去することができる触媒の開発が望まれているのが現状である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができるVOC除去触媒及びその製造方法並びにVOCの除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の金属を含有する結晶性酸化マンガンを利用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
VOC除去触媒であって、
金属Mを含有する結晶性酸化マンガンを含み、
前記金属Mは、Ce、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、VOC除去触媒。
項2
前記金属Mを含有する結晶性酸化マンガンは、Ceの酸化物を含む結晶性酸化マンガンである、項1に記載のVOC除去触媒。
項3
前記金属Mを含有する結晶性酸化マンガンにおいて、金属Mとマンガンとのモル比(金属M:Mn)が1:0.001~1:5である、項1に記載のVOC除去触媒。
項4
前記Ceの酸化物を含む結晶性酸化マンガンにおいて、セリウムとマンガンとのモル比(Ce:Mn)が1:0.001~1:5である、項2に記載のVOC除去触媒。
項5
マンガン源を含む原料液Aと、金属元素M源を含む原料液Bと、還元剤を含む原料液Cとを混合することで生成物を得る工程1と、
前記工程1で得られた生成物を焼成する工程2と、
を備え、
前記金属元素Mは、Ce、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、VOC除去触媒の製造方法。
項6
前記還元剤が、カルボン酸化合物及び/又はビタミンCである、項5に記載のVOC除去触媒の製造方法。
項7
前記カルボン酸化合物が、クエン酸、ギ酸、及び、酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項6に記載のVOC除去触媒の製造方法。
項8
項1~4のいずれか1項に記載のVOC除去触媒、若しくは、請求項5~7のいずれか1項に記載の製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを分解する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のVOC除去触媒は、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のVOC除去触媒の製造方法の一例を示す概略図である。
【
図2】VOC除去触媒の評価試験方法のフローを示す概略図である。
【
図3】実施例1~4及び比較例1で得た触媒のSEM画像を示す。
【
図4】実施例1~4及び比較例1で得た触媒のXRDスペクトルを示す。
【
図5】実施例及び比較例で得られた触媒によるVOC除去試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.VOC除去触媒
本発明のVOC除去触媒は、金属Mを含有する結晶性酸化マンガンを含み、前記金属Mは、Ce、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0013】
本発明のVOC除去触媒は、VOCを酸化等によって分解することができる性質を有する。特に、本発明のVOC除去触媒は、製造が容易であり、VOC除去効率に優れ、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。以下、本発明のVOC除去触媒の具体的態様を説明する。
【0014】
本発明のVOC除去触媒に含まれる、金属Mを含有する結晶性酸化マンガンは、本発明のVOC除去触媒の主な構成成分である。以下、「金属Mを含有する結晶性酸化マンガン」を「酸化マンガン1」と表記することがある。
【0015】
酸化マンガン1は、例えば、金属Mの酸化物を含む結晶性酸化マンガンを挙げることができる。より具体的には、酸化マンガン1は、金属Mの酸化物と結晶性酸化マンガンとの混合物、及び、金属Mの酸化物と結晶性酸化マンガンとの混合物であってもよい。あるいは、酸化マンガン1は、固溶体であってもよい。
【0016】
酸化マンガン1は、金属Mが存在することで、結晶性酸化マンガンの結晶化度が小さくなる。この結果、本発明のVOC除去触媒は、VOC除去効率に優れ、特に低温でVOCを分解処理したとしても、効率よくVOCを除去することができる。
【0017】
酸化マンガン1に含まれる金属Mは、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
金属Mは、Ceであることが好ましい。この場合、酸化マンガン1における結晶性酸化マンガンの結晶化度がより小さくなるので、本発明のVOC除去触媒は、VOC除去効率に優れ、より低温でVOCを分解処理したとしても、効率よくVOCを除去することができる。中でも金属Mは、3価のCe3+であることが特に好ましく、これにより、VOC除去触媒の触媒性能がいっそう向上する。
【0019】
従って、本発明のVOC除去触媒において、酸化マンガン1は、Ceの酸化物を含む結晶性酸化マンガンであることが好ましい。
【0020】
酸化マンガン1において、金属Mとマンガンとのモル比(金属M:Mn)が1:0.001~1:5であることが好ましい。この場合、本発明のVOC除去触媒は、VOC除去効率に優れ、低温でのVOC分解性能も向上しやすい。金属M:Mnは、1:0.1~1:4.5であることがより好ましく、1:1~1:4であることがさらに好ましく、1:3~1:4であることが特に好ましい。
【0021】
酸化マンガン1がCeの酸化物を含む結晶性酸化マンガンである場合、セリウムとマンガンとのモル比(Ce:Mn)が1:0.001~1:5であることが好ましい。この場合、本発明のVOC除去触媒は、VOC除去効率に優れ、低温でのVOC分解性能がいっそう向上しやすい。Ce:Mnは、1:0.1~1:4.5であることがより好ましく、1:1~1:4であることがさらに好ましく、1:3~1:4であることが特に好ましい。
【0022】
酸化マンガン1において、マンガンの割合が多いと固溶体を形成しやすくなる結果、本発明のVOC除去触媒は、VOC除去効率がいっそう優れ、低温において特に効率よくVOCを除去することができる。金属MがCeである場合、つまり、酸化マンガン1がCeの酸化物を含む結晶性酸化マンガンである場合、特にその傾向が強くなる。金属M:MnまたはCe:Mnが1:3~1:4である場合には、特にVOC除去触媒は低温でのVOC分解特性に優れるものとなる。
【0023】
本発明のVOC除去触媒において、金属Mは、結晶性酸化マンガン中に存在していてもよいし、金属Mは、酸化マンガンの内部ではなく、あるいは、内部と共に表面にも存在していてもよい。例えば、金属Mは、結晶性酸化マンガンの結晶構造中に存在することができる。これにより、結晶性酸化マンガンの結晶化度はより小さくなるので、VOC除去触媒の低温でのVOC分解特性に優れるものとなる。
【0024】
酸化マンガン1において、マンガンはMn2+、Mn3+、及び、Mn4+として存在し得るものであり、これらの2種以上が共存していてもよい。VOC触媒の低温での分解性能が優れるという点では、Mn3+が多く存在することが好ましく、中でも、VOC触媒の表面にはMn3+が多く存在することがより好ましく、この場合、VOC除去効率に優れ、低温でのVOC分解特性がさらに優れるものとなる。
【0025】
上述のように、酸化マンガン1に存在するマンガンは種々の価数となり得ることから、例えば、Ceを含有する結晶性酸化マンガンである場合は、下記一般式(1)
CeMnxOy (1)
で表すことができる。
【0026】
ここで、xは、0.5≦x≦5、好ましくは1≦x≦4、より好ましくは2≦x≦4、特に好ましくは3≦x≦4である。また、yは、2.5≦y≦18である。yは3以上が好ましく3.5以上がより好ましく、4以上が特に好ましい。また、yは17以下が好ましく、16以下がさらに好ましく、15以下が特に好ましい。
【0027】
本発明のVOC除去触媒において、酸化マンガン1の構造は、XRDスペクトルから分析することができ、当該スペクトルから酸化マンガンの結晶化度を相対的に知ることができる。
【0028】
酸化マンガン1の形状は特に限定されず、粒子状、ロッド状、針状、繊維状、リン片状等の種々の形状をとることができる。酸化マンガン1は、多孔質状であることも好ましく、この場合、低温でのVOC分解特性が向上しやすい。
【0029】
金属Mを含有する結晶性酸化マンガンは、上述のように、結晶化度が小さい、つまり、結晶性が低い。このため、本発明のVOC触媒は、VOC除去効率に優れ、低温でVOCを処理したとしてもVOC効率よく分解することができ、触媒性能に優れるものである。
【0030】
本発明のVOC除去触媒は、本発明の効果が阻害されない程度である限り、酸化マンガン1以外の他の成分(例えば、他の元素、化合物、添加剤等)を含有することもできる。また、本発明のVOC触媒は、酸化マンガン1のみで形成されていてもよい。この場合、VOC触媒に含まれ得る不可避的な元素、成分等を含むことは許容される。本発明のVOC触媒が酸化マンガン1以外に他の元素や成分を含有する場合、その含有量の総量は、例えば、VOC触媒の全質量に対して5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは、1質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下又は0.5質量%とすることができる。
【0031】
本発明のVOC除去触媒の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の種々の方法により製造することができる。具体的には、後記する工程1及び工程2を備える製造方法により、本発明のVOC除去触媒を製造することができる。
【0032】
2.VOC除去触媒の製造方法
本発明のVOC除去触媒の製造方法は下記の工程1及び工程2を備える。
工程1;マンガン源を含む原料液Aと、金属元素M源を含む原料液Bと、還元剤を含む原料液Cとを混合することで生成物を得る工程。
工程2;前記工程1で得られた生成物を焼成する工程2。
【0033】
前記工程1で使用する金属元素M源において、該金属元素Mは、Ce、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0034】
(工程1)
工程1では、マンガン源を含む原料液Aと、金属元素M源を含む原料液Bと、還元剤を含む原料液Cとの混合処理を行う。
【0035】
工程1において使用するマンガン源を含む原料液Aは、マンガン源が溶媒に溶解又は分散している。マンガン源としては、マンガン単体であってもよいし、マンガンを含む化合物であってもよいが、マンガンを含む化合物であることが好ましい。
【0036】
マンガンを含む化合物の種類は特に限定されず、例えば、マンガンを含む各種無機化合物を挙げることができる。マンガンを含む無機化合物としては、例えば、過マンガン酸塩、マンガンの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができ、中でも、マンガンを含む無機化合物は、過マンガン酸塩であることが好ましい。具体的な過マンガン酸塩として、過マンガン酸カリウム(KMnO4)を挙げることができる。
【0037】
その他、マンガンを含む化合物は、マンガンを含む各種有機化合物を挙げることもでき、例えば、マンガンの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0038】
なお、マンガンを含む化合物は、異なる2種以上のアニオンを含むこともできる(例えば、硫酸アンモニウムマンガン等)。
【0039】
VOC触媒の製造が容易になりやいという点で、マンガン源は、過マンガン酸カリウム(KMnO4)を使用することが特に好ましい。
【0040】
工程1において使用する金属元素M源を含む原料液Bは、金属元素M源が溶媒に溶解又は分散している。金属元素M源としては、金属元素M単体であってもよいし、金属元素Mを含む化合物であってもよい。金属元素Mは、Ceであることが好ましい。この場合、得られるVOC触媒は、VOCを効率よく除去することができる。
【0041】
金属元素Mを含む化合物の種類は特に限定されず、例えば、金属元素Mを含む各種無機化合物を挙げることができる。金属元素Mを含む無機化合物としては、例えば、金属元素Mの硝酸塩、硫酸塩、酸化物、塩化物、塩酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等を挙げることができる。
【0042】
また、金属元素Mを含む化合物は、各種有機化合物を挙げることもでき、例えば、金属元素Mの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩、二塩化シクロ二ペンタジエニル塩等を挙げることができる。
【0043】
VOC触媒の製造が容易になりやいという点で、金属元素M源は、金属元素Mを含む無機化合物であることが好ましく、反応性が優れる点で、金属元素Mの硝酸塩を使用することがさらに好ましく、中でも硝酸セリウム(Ce(NO3)3)であることが特に好ましい。
【0044】
工程1において使用する還元剤を含む原料液Cは、還元剤が溶媒に溶解又は分散している。
【0045】
還元剤の種類は特に限定されず、例えば、公知の還元剤を広く使用することができる。具体的には、還元剤として、カルボン酸化合物及び/又はビタミンCを挙げることができる。カルボン酸化合物としては、還元作用を有する種々の化合物を挙げることができ、例えば、クエン酸、ギ酸、及び、酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。低温でのVOC除去効率に優れ、また、触媒表面のエッチング作用を発揮しやすいという点で、還元剤はクエン酸であることが好ましい。
【0046】
還元剤は1種単独で使用することができ、あるいは、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0047】
原料液A、原料液B及び原料液Cは、いずれも溶媒を含むことができる。溶媒の種類は特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール等の炭素数1~4のアルコール;及びこれらの混合溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;N-メチルピロリドン等のピロリドン系溶媒等が使用できる。工程1での反応が進行しやすいという点で、原料液A、原料液B及び原料液Cに含まれる溶媒は、水及び前記アルコール、又はこれらの混合溶媒であることが好ましく、水であることがさらに好ましい。原料液A、原料液B及び原料液Cに含まれる溶媒は互いに同一であってもよいし、一部またはすべてが異なっていてもよく、いずれも水であることがさらに好ましい。
【0048】
原料液Aにおいて、マンガン源の濃度は特に限定されない。例えば、原料液A中のマンガンの濃度は、1×10-4~2M、好ましくは1×10-3~1M、さらに好ましくは1×10-2~0.5Mとすることができる。
【0049】
原料液Bにおいて、金属元素M源の濃度は特に限定されない。例えば、原料液B中の金属元素M源の濃度は、1×10-4~2M、好ましくは1×10-3~1M、さらに好ましくは1×10-2~0.5Mとすることができる。
【0050】
原料液Cにおいて、還元剤の濃度は特に限定されない。例えば、原料液C中の還元剤の濃度は、1×10-4~2M、好ましくは1×10-3~1M、さらに好ましくは1×10-2~0.5Mとすることができる。
【0051】
工程1において、原料液A及び原料液Bの混合割合は特に限定されない。例えば、金属元素Mとマンガンとのモル比(金属元素M:Mn)が1:0.5~1:5となるように両者を混合することが好ましい。この場合、得られるVOC除去触媒は、低温でのVOC分解性能が向上しやすい。金属元素M:Mnは、1:1~1:4であることがより好ましく、1:2~1:4であることがさらに好ましく、1:3~1:4であることが特に好ましい。
【0052】
工程1において、原料液Cの使用量は特に限定されない。例えば、原料液C中の還元剤とマンガンのモル比(還元剤:マンガン)が1:0.1~1:5となるように原料液Cの量を調節することができる。
【0053】
工程1において、原料液Aと原料液Bと原料液Cとを混合処理する方法は特に限定されない。一例としては、原料液Aと原料液Bとを、攪拌されている原料液Cに添加することで、混合処理を行うことができる。この場合、原料液Aと原料液Bとをそれぞれ別個に原料液Cに添加することができ、あるいは、原料液Aと原料液Bとをあらかじめ混合してから原料液Cに添加することができる。原料液Aと原料液Bとをそれぞれ別個に原料液Cに添加する場合、原料液Aと原料液Bとは同時に原料液Cに添加することもできる。
【0054】
原料液A及び原料液Bの原料液Cへの添加速度は特に限定されず、例えば、0.1~50mL/min範囲で供給することができる。
【0055】
原料液Aと原料液Bと原料液Cとを混合処理において、混合時の温度は特に限定されず、例えば、5~40℃、好ましくは室温付近(例えば、15~30℃)とすることができる。混合処理の時間も特に限定されず、混合時の温度に応じて適宜設定することが可能である。
【0056】
原料液Aと原料液Bと原料液Cとを混合処理することで、マンガン源、金属元素M源及び還元剤が反応し、沈殿物が生じ得る。得られた沈殿物は、遠心分離あるいはろ過等の適宜の方法で分離することができる。分離した沈殿物は必要に応じて洗浄、乾燥等を行うことができる。
【0057】
上記混合処理で得られる沈殿物は、後記工程2で焼成されて目的物であるVOC除去触媒となる。したがって、混合処理で得られる沈殿物は、いわばVOC除去触媒の前駆体である。斯かる前駆体は、例えば、マンガンの酸化物(MnOx、つまり、マンガンの価数は不特定)及びセリウムの酸化物(例えば、CeO2)を含み、また、前記固溶体を含むこともある。前駆体は、例えば、前記一般式(1)で表される。前駆体には、工程1で使用する還元剤も含まれるが、この還元剤は、後記工程2での焼成によって除去され得る。
【0058】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた生成物(前駆体)を焼成処理するための工程である。斯かる焼成処理により、目的のVOC除去触媒が得られる。
【0059】
工程2において、焼成処理の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、250℃以上とすることができる。また、焼成で得られるVOC触媒中の酸化マンガンの結晶化度が低くなりやすいという点で、焼成処理の温度は、650℃未満とすることが好ましい。好ましい焼成温度は250~480℃、より好ましい焼成温度は290~450℃、さらに好ましい焼成温度は300~400℃である。
【0060】
焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。工程2において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、適宜設定することができ、例えば、1~10℃/分である。
【0061】
焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成処理を行うことである。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0062】
工程2での焼成処理によって、例えば、残存している還元剤等が除去され、前記生成物(前駆体)の焼結体が形成され、これを目的のVOC除去触媒として得ることができる。得られるVOC除去触媒は、前述の金属Mを含有する結晶性酸化マンガン(酸化マンガン1)を含む触媒であり、例えば、Ceを含む結晶性酸化マンガンである。
【0063】
上記工程1及び工程2を備える製造方法によれば、簡便な工程で容易に本発明のVOC除去触媒を得ることができ、しかも得られたVOC除去触媒は、低温であっても効率よくVOCを除去することができる。
【0064】
3.VOC除去方法
本発明のVOC除去方法は、前述のVOC除去触媒、又は、前記工程1及び前記工程2を備える製造方法で得られたVOC触媒を用いてVOCを燃焼する工程を備える。
【0065】
例えば、VOC除去触媒を容器内に収容し、該容器にトルエン等のVOCを導入し、所定の温度で処理することで、VOCを燃焼する。これにより、VOCを除去することができる。必要に応じて、容器内には窒素及び酸素の一方又は両方を流入させることができ、窒素及び酸素の一方又は両方の存在下でVOCを燃焼させることができる。
【0066】
VOCの除去にあたり、使用する容器の種類は特に限定されず、例えば、VOCの触媒燃焼で使用される公知の容器を広く使用することができる。容器内でのVOCの処理温度は特に限定されず、公知のVOCの除去のために設定される処理温度と同様とすることができる。特に本発明では、上記VOC除去触媒を使用することで、低温であってもVOC除去効率に優れる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
図1の概略図に示す手順でVOC除去触媒を合成した。まず、原料液AとしてKMnO
4の濃度が0.1Mである水溶液(
図1中のA soutiion)及び原料液BとしてCe(NO
3)
3の濃度が0.1Mである水溶液(B soutiion)をそれぞれ準備した。これらを10mL/分の供給速度でそれぞれ、激しく攪拌している0.2Mクエン酸水溶液(原料液C)に滴下した。これにより茶黒色の懸濁液が得られた。得られた懸濁液の遠心分離によって固形物(生成物)を分離し、得られた固形物を脱イオン水で数回洗浄した後、60℃で一晩乾燥させ、VOC除触媒の前駆体を得た(工程1)。この前駆体をマッフル炉中、空気雰囲気下にて5℃/minの加熱速度で350℃まで昇温し、この温度を焼成温度として3時間にわたって前記生成物の焼成処理を行い(工程2)、Mn:Ceが1:1であるVOC除去触媒を得た。
【0069】
(実施例2)
原料液AにおけるKMnO4の濃度を0.133Mに、原料液BにおけるCe(NO3)3の濃度を0.067Mに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で工程1及び工程2を実施し、これにより、Mn:Ceが2:1であるVOC除去触媒を得た。
【0070】
(実施例3)
原料液AにおけるKMnO4の濃度を0.15Mに、原料液BにおけるCe(NO3)3の濃度を0.05Mに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で工程1及び工程2を実施し、これにより、Mn:Ceが3:1であるVOC除去触媒を得た。
【0071】
(実施例4)
原料液AにおけるKMnO4の濃度を0.16Mに、原料液BにおけるCe(NO3)3の濃度を0.04Mに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で工程1及び工程2を実施し、これにより、Mn:Ceが4:1であるVOC除去触媒を得た。
【0072】
(比較例1)
KMnO4の濃度が0.1Mである水溶液を10mL/分の供給速度で、激しく攪拌している0.2Mクエン酸水溶液に滴下した。これにより茶黒色の懸濁液が得られた。得られた懸濁液の遠心分離によって固形物(生成物)を分離し、得られた固形物を脱イオン水で数回洗浄した後、60℃で一晩乾燥させ、VOC除触媒の前駆体を得た。この前駆体をマッフル炉中、空気雰囲気下にて5℃/minの加熱速度で350℃まで昇温し、この温度を焼成温度として3時間にわたって前記生成物の焼成処理を行い(工程2)、比較用触媒を得た。
【0073】
<評価方法>
(VOC除去試験)
図2に示す概略フローにより、各実施例で得たVOC除去触媒のトルエン除去試験を行った。この試験では、容器内にVOC除去触媒を石英ウールで挟み込むように充填し、そこへトルエンを所定の流速で流入させて反応させることで、トルエンを除去するようにした。
図2に示すように、容器は、酸素ボンベ及び窒素ボンベと連結しており、容器内に酸素及び窒素を流入できるようにしている。トルエン除去試験の条件として、内径8mmのガラス反応器を使用し、そこへVOC除去触媒の充填量を50mgとし、容器内のトルエン濃度を1000体積ppmとなるようにした。また、容器内へのキャリアー用窒素ガス流量を40cm
3/min、トルエン導入用窒素ガス流量を40mL/min、酸素ガス流量を10cm
3/minとした。容器内での反応温度を130~300℃の範囲の種々の温度に調節して、トルエン除去特性を評価した。なお、130~210℃の範囲では、10℃毎に2回サンプリングをし、210~~300℃の範囲では、5℃毎に2回サンプリングをした。VOC濃度の測定は、島津製作所社製「GC-2014ガスクロマトグラフ」を使用した。また、容器出口から排出される二酸化炭素濃度をHORIBA社製FT-IRガス分析装置「FG-120」を使用して計測した。
【0074】
図3は、実施例1~4及び比較例1で得た触媒のSEM画像を示している。
図3から、実施例4のようにMnのモル比が大きくなると多孔質状に形成されることがわかった。
【0075】
図4は、実施例1~4及び比較例1で得た触媒のXRDスペクトルを示している。
【0076】
図4から、比較例1のXRDスペクトルと、実施例1~4のXRDスペクトルとの対比から、金属MであるCeが含まれることで、酸化マンガン(MnOx)の結晶性を抑制できることがわかった。特に実施例3及び4のようにMnのモル比が大きいと結晶化度は非常に小さく、アモルファス酸化マンガンに近い構造となることがわかった。Ce等の金属元素は、酸化マンガンの格子構造に挿入されて層間間隔が拡大され、これにより、酸化マンガンの結晶性を低下させることができるものと思われる。
【0077】
図5は、実施例1~4及び比較例1で得られた触媒によるVOC除去試験の結果を示している。具体的に
図5は、温度(X軸)とトルエン除去率(Y軸)との関係を示すプロットである。また、
図5のグラフ中には、各触媒のトルエンの10%分解温度(T
10%)、50%分解温度(T
50%)、90%分解温度(T
90%)及び100%分解温度(T
100%)の値を挿入している。
【0078】
図5及の結果から、各実施例で得られたVOC除去触媒は、比較例1よりも優れたVOC除去性能を有していることがわかる。比較例1で得られた触媒は、300℃でもトルエンの分解率が70%にも満たないのに対し、各実施例で得られた触媒は、280℃より低い温度でVOCを処理したとしても、90%以上のトルエンが分解されることがわかった。特に実施例3及び4で得られた触媒は、100%分解温度(T
100%)がそれぞれ215℃及び245℃であり、低温でのVOC除去効率が特に優れることがわかった。
【0079】
以上より、各実施例で得られたVOC除去触媒は、代表的なVOC物質の一種であるトルエンの触媒燃焼の触媒として好適に使用できることがわかった。