(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】RNA干渉剤及び多重化学修飾オリゴヌクレオチド並びにこれらの利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20241206BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20241206BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20241206BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/113 130Z
A61K31/712
A61K31/713
A61K48/00
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021539255
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030279
(87)【国際公開番号】W WO2021029334
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019148061
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構、[革新的バイオ医薬品創出基盤 技術開発事業]「研究開発課題名:組織特異的送達能を有するコンジュゲートsiRNAの創製」委託研究開発、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502028430
【氏名又は名称】株式会社ジーンケア研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 義仁
(72)【発明者】
【氏名】河出 美和
(72)【発明者】
【氏名】茶野 徳宏
(72)【発明者】
【氏名】古市 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 香代子
(72)【発明者】
【氏名】柿澤 侑里
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110678(WO,A1)
【文献】Mol. Pharmaceutics,2016年,Vol. 13,pp. 2718-2728
【文献】桂木結衣他,オリゴスペルミン及び糖部4'-アミノアルキル同時修飾型siRNAの合成と性質,日本化学会第99春季年会(2019) 講演予稿集DVD,2019年03月01日,1 G4-02
【文献】Bioorg. Med. Chem.,2018年,Vol. 26,pp. 4574-4582
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNA干渉剤であって、
二本鎖オリゴヌクレオチドのガイド鎖及びパッセンジャー鎖
の双方に、以下の(a)~(c):
(a)4’位炭素原子に対するアルキレン基を介した塩基性基による修飾
(b)2’位炭素原子に対するアルキルオキシ又はアルケニルオキシ修飾
(c)2’位炭素原子に対するハロゲン原子修飾
から選択される少なくともいずれかの修飾を有する修飾ヌクレオチドを備えており、
前記パッセンジャー鎖の5’末端のみに10個以上のスペルミンをタンデムに有するオリゴスペルミン領域を備え、
前記パッセンジャー鎖の3’末端から5ヌクレオチド以内及びその5’末端から5ヌクレオチド以内のみに、前記(a)の修飾を有し、
前記パッセンジャー鎖及び前記ガイド鎖の各3’末端側に、ホスホチオール構造を有するヌクレオシド間結合を有し、
前記パッセンジャー鎖の3’末端から5ヌクレオチド以内に前記(a)及び前記(c)の修飾を有する1個の第1の修飾ヌクレオチドと、前記第1の修飾ヌクレオチドの両側に各1個の前記(b)の修飾を有する第2の修飾ヌクレオチドと、を備え、
前記パッセンジャー鎖の5’末端から5ヌクレオチド以内に前記(a)及び前記(c)の修飾を有する1個の第1の修飾ヌクレオチドと、前記第1の修飾ヌクレオチドの両側に各1個の前記(b)の修飾を有する第2の修飾ヌクレオチドと、を備え、
前記ガイド鎖の5’末端から8ヌクレオチド以内に前記(c)の修飾を有する第3の修飾ヌクレオチドを備える、RNA干渉剤。
【請求項2】
さらに、前記ガイド鎖の3'末端から5ヌクレオチド以内及びその5’末端から5ヌクレオチド以内に、上記(b)の修飾を有する第2の修飾ヌクレオチドを有する、請求項1に記載のRNA干渉剤。
【請求項3】
さらに、前記パッセンジャー鎖の5’末端から8ヌクレオチド以内及びその3’末端から10ヌクレオチド以内を除く領域において、前記第2の修飾ヌクレオチドを備える、請求項1又は2に記載のRNA干渉剤。
【請求項4】
前記オリゴスペルミン領域は、スペルミンを15個以上30個以下有する、請求項1~3のいずれかに記載のRNA干渉剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のRNA干渉剤を備え、
前記ガイド鎖は、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子のmRNAにハイブリダイズする領域を備えている、治療剤。
【請求項6】
前記ガイド鎖は、RECQL1遺伝子のmRNAにハイブリダイズする領域を備えている、請求項5に記載の治療剤。
【請求項7】
卵巣ガン、膵ガン、胃ガン、大腸ガン及び肝臓ガンからなる群から選択されるいずれかのガンに対する治療剤である、請求項6に記載の治療剤。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載のRNA干渉剤を備え、
前記ガイド鎖は、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子のmRNAにハイブリダイズする領域を備えている、ガンによる腹水貯留の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年8月9日付けで出願された日本国特許出願である特願2019-148061に基づく優先権を主張するものであり、当該出願に記載された全ての内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
本明細書は、RNA干渉剤及び多重化学修飾オリゴヌクレオチド並びにこれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
siRNA等のRNA医薬は、細胞内のmRNAに直接作用する薬剤である。siRNAが細胞内に浸透後には、標的mRNAに対する特異性が高く、しかも細胞質で作用するため、核内ゲノムDNAへ組み込まれることがなく変異原となることがないというメリットがある。またsiRNAは、特定のmRNAのみを切断して分解に導くため、mRNAが本来作るべきタンパク質の発現を抑制する(サイレンスするとも呼称される。)というピンポイントで働くという理想的な特徴を有している。このような作用はRNA干渉作用として知られている。
【0003】
概して、siRNAは、ナノモル濃度レベルの超低濃度で効き、作用メカニズムも細胞が本来備えている防御システムであるため細胞にとって害にならないと考えられる。加えて、一定期間を細胞内で働いた後には、代謝され、安全なヌクレオチド成分へ分解される。このような優れた性質のためsiRNAに代表されるRNA干渉薬は、従来の低分子化合物では想定できなかった安全な医薬品作用が期待されている。すなわち、RNA干渉薬は、ピンポイントで特定する遺伝子の発現をサイレンスすることができるため、広く基礎生物学研究に試薬として使われて来ているとともに、副作用の少ない遺伝子標的医薬品としての適用も永く期待されてきている。
【0004】
なかでも、これまでの低分子化合物や抗体タンパクを基盤とする医薬品では治療が難しく代替治療の無いUnmet Needs Disease疾患とされて来た難病への治療薬として期待されている。
【0005】
しかしながら、siRNAは、それ自身医薬品としてのポテンシャルは大きいものの、構造上の特徴、すなわち、それ自身オリゴヌクレオチドであることから、多くのリン酸基を含み、分子全体のマイナス電荷が、細胞膜を透過することを困難にしている。すなわち、細胞の表面は、弱くマイナス電荷を帯びているため、マイナス電荷に富む天然型siRNAは細胞への結合が限定されるのである。また、脂質2重膜よりなる油性の細胞膜を透過するためには、siRNAには細胞膜と融合するための脂溶性が必要であるところ、天然型ヌクレオチドで構成されるsiRNAは脂溶性が不足し、かかる低脂溶性も細胞膜透過性の障害となっている。
【0006】
これに加えて、天然型ヌクレオチドで構成されるsiRNAは、ヌクレアーゼによって加水分解されやすいという弱点を持ち、体液や血液ならびに細胞内に含まれるヌクレアーゼによって分解されるため、不安定である。
【0007】
このように、siRNAは卓越した薬理学的長所があるものの、それ自身の本来的な構造に由来する特性、すなわち、細胞内へ透過が困難であること、に加えて、ヌクレアーゼに対してその不安定であることが、医薬品として開発されるうえで大きな障害となっている。
【0008】
これらの欠点を補うために、siRNAをヌクレアーゼから保護し、細胞内へ透過させる方策として、脂溶性でかつプラス電荷(カチオニックとも呼称する)をもつ化合物と結合させる送達システム(Drug Delivery System、以下、DDSと称する)が考案され、例えば、プラス荷電を有する脂質を用いたカチオニック・リポソームが、siRNAを細胞内に運搬する手段として試用されてきている(非特許文献1、2)。一方で、このようなカチオニックデリバリーシステムの毒性面も懸念されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】J Control Release, 2012,158(2),:269-276
【文献】Biol. Phram. Bull. 34(8), 1338-1342(2011)
【文献】Expert Opin Drug Metab Toxicol. 2010;6:1347-1362
【0010】
リポソームによるsiRNAの保護は、ヌクレアーゼに対して一定の効果を発揮するが、リポソーム製剤は、粒子サイズが150nm以上であると、静脈注射されると、肝蔵の毛細血管にトラップされて全身循環できないなど、送達を意図する部位によっては、その粒子サイズを制御する必要がある。しかしながら、リポソーム製剤を、その粒子サイズを制御して調製することは困難であった。したがって、リポソーム製剤によるDDSには、本来的な問題があった。また、リポソームは水溶性緩衝液中に粒子として分散させてリポソーム製剤として用いるが、場合によっては沈殿するなど安定して分散させることが困難であった。すなわち、リポソーム自体が製剤の均質性を低下させるおそれがあった。
【0011】
さらに、粒子サイズが不均一である等のため、その分散液は、凍結・融解や塩析などにより、凝集したり沈殿が加速されたりすることも多く、凍結乾燥製剤とすると、製剤の均質性に一層問題が生じやすく、さらには製剤としての安定性や効能の再現性も低下するおそれがあった。このため、リポソーム製剤は、懸濁液として低温保存することにならざるを得ず、保存期間が1年有余未満に限定されるという品質上の限界があった。
【0012】
上記事情に鑑みて、本明細書は、RNA医薬として、細胞膜透過性、ヌクレアーゼ耐性及びサイレンシング性を同時に改善できる多重化学修飾オリゴヌクレオチド及びその利用を提供する。
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、これらの問題点を克服してsiRNAの利点を生かす方法として、カチオン性アミノ基と脂溶性残基であるアルキル基を共に持つアミノアルキル基を、ヌクレオチドのリボースの4‘位に結合させた新規ヌクレオチド(アミノアルキル修飾ヌクレオチド(以下、AAmNt(Amino Alkyl modified Nucleotide)とも称する。)を作製した。そして、それらをアミダイト試薬としてRNA合成用に用いた。そのようなAAmNtを、天然型siRNAのシトシンとウリジンに相当する部位へ導入するとともに、当該siRNAに、オリゴスペルミンを複合化することにより、ヌクレアーゼ耐性、細胞内透過性及びサイレンシング性を発揮できるsiRNAを構築できるという知見を得た。こうした知見に基づき、本明細書の開示は、以下の手段を提供する。
【0014】
[1]RNA干渉剤であって、
二本鎖オリゴヌクレオチドのガイド鎖及びパッセンジャー鎖のいずれか又は双方に、以下の(a)~(c):
(a)4’位炭素原子に対するアルキレン基を介した塩基性基による修飾
(b)2’位炭素原子に対するアルキルオキシ又はアルケニルオキシ修飾
(c)2’位炭素原子に対するハロゲン原子修飾
から選択される少なくともいずれかの修飾を有する修飾ヌクレオチドを備え、
前記パッセンジャー鎖の3’末端及び5’末端のいずれか又は双方に2個以上のスペルミンをタンデムに有するオリゴスペルミン領域を備える、RNA干渉剤。
[2]前記パッセンジャー鎖の3’末端から5’末端側に10ヌクレオチド以内に前記(a)の修飾を有する修飾ヌクレオチドを備え、前記パッセンジャー鎖の5’末端から3’末端側に8ヌクレオチド以内に前記(c)の修飾を有する修飾ヌクレオチドを備える、[1]に記載のRNA干渉剤。
[3]前記(a)の修飾を有する修飾ヌクレオチドは、さらに前記(b)又は前記(c)の修飾を有する、[2]に記載のRNA干渉剤。
[4]前記パッセンジャー鎖にのみ、前記(a)の修飾を有する1個又は2個以上の修飾ヌクレオチドを備える、[1]~[3]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[5]前記パッセンジャー鎖に、さらに、前記(b)の修飾及び前記(c)の修飾のいずれかを有する修飾ヌクレオチドを備える、[2]~[4]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[6]前記ガイド鎖及び前記パッセンジャー鎖のいずれか又は双方の3’末端側において隣接するヌクレオチド間を連結するホスホロチオエートによるホスホジエステル結合を備える、[1]~[5]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[7]前記ガイド鎖に、前記(b)及び(c)から選択される1種又は2種以上の修飾を有する複数個の修飾ヌクレオチドを備える、[1]~[6]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[8]前記ガイド鎖に、5個以上の前記修飾ヌクレオチドを備える、[1]~[7]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[9]前記パッセンジャー鎖に、5個以上の修飾ヌクレオチドを備える、[1]~[8]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[10]前記パッセンジャー鎖の5’末端及び3’末端に前記オリゴスペルミン領域を備える、[1]~[9]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[11]前記ガイド鎖は、RECQL1-mRNA又はWRN-mRNAにハイブリダイズ可能な領域を備える、[1]~[10]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[12]前記パッセンジャー鎖には、その3’末端側及び5’末端側にのみ、前記(c)の修飾を備えるヌクレオチドを備え、
前記ガイド鎖には、前記(c)の修飾を有する修飾ヌクレオチドを備えず、前記(a)の修飾又は前記(b)の修飾による修飾ヌクレオチドを備える、[1]~[11]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[13]前記パッセンジャー鎖における前記(c)の修飾は、4’位の炭素原子に対するアミノエチル基の導入である、[12]に記載のRNA干渉剤。
[14]前記オリゴスペルミン領域は、10個以上20個以下のスペルミンをタンデムに有する、[1]~[13]のいずれかに記載のRNA干渉剤。
[15]オリゴヌクレオチドであって、
以下の(a)~(c):
(a)4’位炭素原子に対するアルキレン基を介した塩基性基による修飾
(b)2’位炭素原子に対するアルキルオキシ又はアルケニルオキシ修飾
(c)2’位炭素原子に対するハロゲン原子修飾
のうち、少なくとも前記(a)の修飾を有する第1の修飾ヌクレオチドと、
前記(b)の修飾及び前記(c)の修飾のいずれかを有する第2の修飾ヌクレオチドと、
を備え、
3’末端及び5’末端のいずれか又は双方に2個以上のスペルミンをタンデムに有するオリゴスペルミン領域を備える、オリゴヌクレオチド。
[16]二本鎖オリゴヌクレオチドのガイド鎖及びパッセンジャー鎖のいずれか又は双方に、以下の(a)~(c):
(a)4’位炭素原子に対するアルキレン基を介した塩基性基による修飾
(b)2’位炭素原子に対するアルキルオキシ又はアルケニルオキシ修飾
(c)2’位炭素原子に対するハロゲン原子修飾
から選択される少なくともいずれかの修飾を有する修飾ヌクレオチドを備え、
前記パッセンジャー鎖の3’末端及び5’末端のいずれか又は双方に10個以上30個以下のスペルミンをタンデムに有するスペルミン領域を備え、
前記ガイド鎖は、標的RNAにハイブリダイズする領域を備えている、前記RNAによる作用を抑制するための治療剤。
[17]前記標的RNAは、ガンに関連し、前記治療剤は、抗ガン剤である、[16]に記載の治療剤。
[18]前記標的RNAは、RECQL1遺伝子又はWRN遺伝子のmRNAである、[16]又は[17]に記載の治療剤。
[19]卵巣ガンに対する治療剤である、[18]に記載の治療剤。
[20]腹水を減少させるための、[17]~[19]のいずれかに記載の治療剤。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】アミノアルキル基によるヌクレアーゼ耐性の向上を示す図であり、アミノエチルウリジンを導入したsiRNAを20%牛血清中でインキュベートし、一定時間後、ポリアクリルアミドを担体とするゲル電気泳動により、化学修飾したsiRNAと天然型siRNAの移動度を比較し、分子構造の完全性(ヌクレアーゼへの耐性)を比較した結果を示す。青線・ブロックは、2’-O-methylアミノエチルウリジン,赤線・三角は、2’-O-F アミノエチルウリジンを導入したsiRNA、黒線・丸は、天然型ウリジンをいれたsiRNAの挙動を示す。
【
図3】siRQ238の5%血清中での細胞透過効果を示す図であり、卵巣がん細胞ES-2のMonolayer culture (5%子牛血清在中)へ、siRQ238(200nM,250nM)を加え、48時間後、PCRによりRECQL1 mRNAの量を測定した。コントロールとして、siRQ238をリポフェクタミン存在下に導入した実験を加えた結果を示す(図中 斜線カラム)。
【
図4】siRQ238の細胞浸透作用への血清の影響を示す図であり、siRQ238のRNA干渉作用に対する血清タンパクの影響を、PCRを用いてRECQL1 mRNA量を測定して評価した結果を示す。
【
図5】種々の卵巣がん細胞をはじめとする細胞の、DDSフリーsiRQ238のRNA干渉効果を示す図であり、代表的な、悪性として知られるヒト明細胞がんの一種である卵巣がん細胞のMonolayer culture(5%子牛血清在中)へsiRQ238(250nM)を加えRECQL1 mRNAのサイレンシングを測定した結果を示す。
【
図6】siRQ238のDDSフリー細胞殺傷効果を示す図であり、卵巣がん細胞ES-2のMonolayer culture (5%子牛血清在中)へ、siRQ238(100nM~2000nM)を加え、96時間後、WSTアッセイにより細胞の生死を測定した結果を示す。
【
図7】卵巣がん腹腔内播種マウスへのsiRQ238の抗がん作用を示す図あり、雌ヌードマウスへヒト卵巣がん細胞ES-2を腹腔内へ移植し、「ヒト卵巣がん腹腔内播種」のマウスモデルを構築し、このモデルマウスへ2日おきに、リン酸緩衝液400ulに溶解したsiRQ238 144ugを腹腔内投与した。左側マウスはリン酸緩衝液のみを投与した無処置マウスであり、右側マウスはsiRQ238を投与したマウスである。移植10日後のマウスを蛍光観察カメラで観察した結果を示す。
【
図8】
図7におけるマウスモデルの17日目のマウスの形態を示す。
【
図9】siRQ238の抗がん作用と延命効果を示す図であり、卵巣がん腹腔内播種マウスへのsiRQ238投与の延命効果を示す。無処置マウス(Control)は3匹中2匹が18日で死亡。siRQ238投与マウスは、31日後も、健全で生存した。
【
図10】siRQ238の担癌マウスに及ぼす効果を示す図であり、(上図)卵巣がん腹腔内播種マウス(無処置を)18日目に、死亡後、直ぐに開腹して癌の有無を精査。(下図)siRQ238を投与した卵巣がん腹腔内播種マウスの31日目の開腹所見。
【
図11】siRQ238の腹水貯留阻止効果を示す図であり、腹水を注射液で抜き取る前(17日)に腹部の周囲を測定した。3匹のマウスの平均値を示す。なお、Pre-treat:卵巣がんを腹腔内へ移植する以前の腹囲(cm)、PBS: 卵巣がんを腹腔内へ移植後17日目のコントロールマウスの腹囲、siQL#238: siRQ238を投与した17日目のマウス腹囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書の開示は、RNA干渉剤及び多重化学修飾オリゴヌクレオチド並びにこれらの利用に関する。本明細書に開示されるRNA干渉剤(以下、単に、本剤ともいう。)によれば、二本鎖オリゴヌクレオチドの細胞透過性、ヌクレアーゼ耐性及びサイレンシング能力をいずれも充足できる。本剤が備えるパッセンジャー鎖は、オリゴスペルミン領域を備えるとともに、本剤がヌクレオチドのリボースの4’位がアミノ修飾されていることにより、ガイド鎖を備えた二本鎖オリゴヌクレオチドとしても、良好な細胞膜透過性を有するとともに、リボヌクレアーゼ耐性を向上させ、その結果、相乗的にサイレンシング能力を向上させることができる。
【0017】
本明細書における開示を限定するものではないが、本オリゴヌクレオチド誘導体によれば、リボース4’位にアルキレン基などの連結基を介してN含有基などの塩基性基を備えることで、RNA干渉能等の生体におけるRNA機能を維持しつつ、RNAの実質電荷量を調節でき、脂溶性(ファンデルワールス分子間力)を増強し、dsRNA溶融温度を下げることを実現できる。これにより、ヌクレアーゼ耐性を向上させることができる。さらに、塩基性基はリン酸基等によるマイナス電荷を中和し、全体としての電荷を調節することもできるため、パッセンジャー鎖に付加されたオリゴスペルミン領域との相乗効果によって、細胞膜透過性を向上させることができる。
【0018】
本RNA干渉剤は、サイレンス能力を維持しつつ、優れたヌクレアーゼ耐性及び細胞膜透過性を有するものとなっている。
【0019】
以下、本剤及び本剤のパッセンジャー鎖として利用できる多重化学修飾オリゴヌクレオチド並びにその利用等について説明するが、本剤のガイド鎖及びパッセンジャー鎖に共通するヌクレオシド誘導体(又はヌクレオチド誘導体)につき説明し、その後、RNA干渉剤及びガイド鎖及びパッセンジャー鎖としてのオリゴヌクレオチドについて説明する。
【0020】
(本剤に用いる修飾ヌクレオチド)
本剤に用いる修飾ヌクレオチド(以下、単に、本修飾ヌクレオチドともいう。)は、以下の(a)~(c):
(a)4’位炭素原子に対するアルキレン基を介した塩基性基による修飾
(b)2’位炭素原子に対するアルキルオキシ又はアルケニルオキシ修飾
(c)2’位炭素原子に対するハロゲン原子修飾
のいずれか1種又は2種以上を有するものである。本修飾ヌクレオチドは、例えば、以下の式(1)で表される基本構造を有するヌクレオシド(すなわち、リン酸基を備えない態様を含む)から公知の方法で5’位リン酸基を含む態様とし、本修飾ヌクレオチドとして用いることができる。以下、本修飾ヌクレオチドにつき、本修飾ヌクレオチドとして説明する。なお、以下の説明においては、式(1)で表される本修飾ヌクレオチドについて、リボースの4’位及び2’位における上記(a)~(c)の修飾の全てを説明するが、本修飾ヌクレオチドとしては、(a)~(c)の修飾のうち、有しうる可能性のある全ての態様を説明しているにすぎない。したがって、実際には、本修飾ヌクレオチドは、1種類の修飾のみを含んでいてもよいし、(a)及び(b)の修飾を含んでいてもよいし、(a)及び(c)の修飾を含んでいてもよいという意図で説明する。
【0021】
【0022】
なお、本明細書中、式等で表される化合物における置換基における「低級」の意は、該置換基を構成する炭素数が、最大10個までであることを意味している。例えば、通常は炭素数1~6個、又は炭素数1~5個が例示され、さらには炭素数1~4個、又は炭素数1~3個であることが好ましい例として挙げられる。
【0023】
[R1について] 式(1)中、R1は、水酸基、水素原子がアルキル基又はアルケニル基で置換された水酸基又は保護された水酸基又はハロゲン原子を表す。なお、R1がハロゲン原子のとき、2’炭素原子に対する結合方向は式(1)で表される方向に限定されないものとする。
【0024】
(アルキル基)
本明細書中、アルキル基としては、直鎖状、分枝状、環状、又はそれらの組み合わせである飽和炭化水素基が挙げられる。通常は、低級アルキル基が好ましく、例えば炭素数1~6個の低級アルキル基、又は炭素数1~5個の低級アルキル基がより好ましい例として挙げられ、さらに炭素数1~4個又は炭素数1~3個の低級アルキル基が特に好ましい例として挙げられる。直鎖状の炭素数1から4までのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又n-ブチル基等が好適な例として挙げられ、このうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基が好ましく、また例えばメチル基、エチル基が好ましく、また例えばメチル基が好ましい。また分枝状の炭素数1から4までのアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられ、このうち、イソプロピル基が特に好ましい例として挙げられる。又、環状の炭素数1から4までのアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロプロピルメチル基等が挙げられる。
【0025】
(アルケニル基)
本明細書中、アルケニル基としては、直鎖状、分枝状、環状、又はそれらの組み合わせである飽和炭化水素基が挙げられる。通常は、低級アルケニル基が好ましく、低級アルケニル基としては、例えばエテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基などが挙げられる。
【0026】
(水酸基の保護基又は保護された水酸基)
本明細書において、水酸基の保護基としては、当業者に周知であって、例えばProtective Groups in Organic Synthesis(John Wiley and Sons、2007年版)を参考にすることができる。水酸基の保護基としては、代表的な例を挙げると、例えば、脂肪族アシル基、芳香族アシル基、低級アルコキシメチル基、適宜の置換基があってもよいオキシカルボニル基、適宜の置換基があってもよいテトラヒドロピラニル基、適宜の置換基があってもよいテトラチオピラニル基、合わせて1から3個の置換又は無置換のアリール基にて置換されたメチル基(但し前述の置換アリールにおける置換基としては、低級アルキル、低級アルコキシ、ハロゲン原子、又はシアノ基を意味する。)、又はシリル基、等が例示される。
【0027】
なお、本明細書中、アルコキシ基としては、直鎖状、分枝状、環状、又はそれらの組み合わせである飽和アルキルエーテル基が挙げられる。低級アルコキシ基が好ましく、低級アルコキシ基としては、例えば炭素数1~6個の低級アルコシキ基、又は炭素数1~5個の低級アルコシキ基が挙げられ、さらには炭素数1~4個、又は炭素数1~3個のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~4個のアルコキシ基が特に好ましい。炭素数1~4個のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、又はn-ブトキシ基等が好ましい例として挙げられる。また、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、又はt-ブトキシ基等も好ましい例として挙げられる。また、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基も好ましく、シクロプロピルメトキシ基も好ましい例として挙げられる。
【0028】
本明細書中、アルキルチオ基としては、直鎖状、分枝状、環状、又はそれらの組み合わせである飽和アルキルチオ基が挙げられる。低級アルキルチオ基が好ましく、低級アルキルチオ基としては、例えば炭素数1~6個の低級アルキルチオ基、又は炭素数1~5個の低級アルキルチオ基が好ましく、さらには炭素数1~4個の低級アルキルチオ基、又は炭素数1~3個までのアルキルチオ基が特に好ましい例として挙げられる。炭素数1~4個の飽和アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチオルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基等が好ましい例として例示される。またイソプロピルチオ基、イソブチルチオ基、s-ブチルチオ基、又はt-ブチルチオ基等も好ましい例として例示される。またシクロプロピルチオ基、又はシクロブチルチオ基が好ましい例として挙げられ、さらにシクロプロピルメチルチオ基がさらに好ましい例として例示される。
【0029】
これらのうち、脂肪族アシル基、芳香族アシル基、シリル基が特に好ましい例として挙げられる。また、合わせて1から3個の置換又は無置換のアリール基にて置換されたメチル基(但しその置換アリールにおける置換基は、前述の通り)も好ましい例として挙げられる。
【0030】
上記の脂肪族アシル基としては、例えば、アルキルカルボニル基、カルボキシアルキルカルボニル基、ハロゲノ低級アルキルカルボニル基、又は低級アルコキシ低級アルキルカルボニルが挙げられる。
【0031】
なお、前記アルキルカルボニル基におけるアルキルは前述の説明の通りである。すなわち、アルキルカルボニル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ピバロイル基、バレリル基、イソバレリル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、3-メチルノナノイル基、8-メチルノナノイル基、3-エチルオクタノイル基、3,7-ジメチルオクタノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、1-メチルペンタデカノイル基、14-メチルペンタデカノイル基、13,13-ジメチルテトラデカノイル基、ヘプタデカノイル基、15-メチルヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、1-メチルヘプタデカノイル基、ノナデカノイル基、アイコサノイル基、又はヘナイコサイル基が挙げられる。このうち、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ピバロイル基が好ましい例として挙げられ、さらにはアセチル基が特に好ましい例として挙げられる。また前記カルボキシ化アルキルカルボニル基におけるアルキルは前述の説明の通りである。カルボキシ化の置換位置などについても適宜選択できる。すなわち、カルボキシ化アルキルカルボニル基としては、例えばスクシノイル基、グルタロイル基、アジポイル基が挙げられる。
【0032】
前記ハロゲノ低級アルキルカルボニル基における、ハロゲン、低級、及びアルキルについては前述の説明の通りである。ハロゲンの置換位置などについても適宜選択できる。すなわち、ハロゲノ低級アルキルカルボニル基としては、例えばクロロアセチル基、ジクロロアセチル基、トリクロロアセチル基、トリフルオロアセチル基が挙げられる。
【0033】
前記低級アルコキシ低級アルキルカルボニル基における、アルコキシ及びアルキル、さらに低級については前述の説明の通りである。低級アルコキシが置換する位置などについても適宜選択できる。すなわち、低級アルコキシ低級アルキルカルボニル基として、例えばメトキシアセチル基が挙げられる。
【0034】
上記の芳香族アシル基としては、例えば、アリールカルボニル基、ハロゲノアリールカルボニル基、低級アルキル化アリールカルボニル基、低級アルコキシ化アリールカルボニル基、カルボキシ化アリールカルボニル基、ニトロ化アリールカルボニル基、又はアリール化アリールカルボニル基が挙げられる。
【0035】
前記アリールカルボニル基としては、例えばベンゾイル基、α-ナフトイル基、β-ナフトイル基が挙げられ、さらに好ましくはベンゾイル基が挙げられる。前記ハロゲノアリールカルボニル基としては、例えば、2-ブロモベンゾイル基、4-クロロベンゾイル基が挙げられる。前記低級アルキル化アリールカルボニル基としては、2,4,6-トリメチルベンゾイル基、4-トルオイル基、3-トルオイル基、2-トルオイル基が挙げられる。前記低級アルコキシ化アリールカルボニル基としては、例えば4-アニソイル基、3-アニソイル基、2-アニソイル基が挙げられる。
【0036】
前記カルボキシル化アリールカルボニル基としては、例えば2-カルボキシベンゾイル基、3-カルボキシベンゾイル基、4-カルボキシベンゾイル基が挙げられる。前記ニトロ化アリールカルボニル基としては、例えば、4-ニトロベンゾイル基、3-ニトロベンゾイル基、2-ニトロベンゾイル基が挙げられる。前記アリール化アリールカルボニル基としては、例えば、4-フェニルベンゾイル基が挙げられる。
【0037】
低級アルコキシメチル基としては、例えばメトキシメチル基、1,1-ジメチル-1-メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、イソプロポキシメチル基、ブトキシメチル基、t-ブトキシメチル基が挙げられる。特に好ましくはメトキシメチル基が挙げられる。
【0038】
適宜の置換基があってもよいオキシカルボニル基としては、低級アルコキシカルボニル基、ハロゲン又はシリル基で置換された低級アルコキシカルボニル基、又はアルケニルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0039】
前記低級アルコキシカルボニル基としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニルイソブトキシカルボニル基が挙げられる。前記ハロゲン又はシリル基で置換された低級アルコキシカルボニル基としては、2,2-トリクロロエトキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0040】
前記アルケニルオキシカルボニル基としては、ビニルオキシカルボニル基が挙げられる。上記の、適宜の置換基があってもよいテトラヒドロピラニル基としては、例えばテトラヒドロピラン-2-イル基、又は、3-ブロモテトラヒドロピラン-2-イル基が好ましい例として挙げられ、特に好ましくはテトラヒドロピラン-2-イル基が挙げられる。
【0041】
適宜の置換基があってもよいテトラチオピラニル基としては、例えばテトラヒドロチオピラン-2-イル基、4-メトキシテトラヒドロチオピラン-4-イル基が挙げられ、さらに好ましくはテトラヒドロチオピラン-2-イル基が挙げられる。合わせて1から3個の置換又は無置換のアリール基にて置換されたメチル基、においては、前述の置換アリールにおける置換基としては、低級アルキル、低級アルコキシ、ハロゲン、又はシアノ基を意味する。
【0042】
合わせて1から3個の置換又は無置換のアリール基にて置換されたメチル基としては、例えばベンジル基、α-ナフチルメチル基、β-ナフチルメチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、α-ナフチルジフェニルメチル基が挙げられ、好ましくはベンジル基、トリフェニルメチル基が挙げられる。その他に、例えば9-アンスリルメチル4-メチルベンジル基、2,4,6-トリメチルベンジル基、3,4,5-トリメチルベンジル基が挙げられ、好ましくは、2,4,6-トリメチルベンジル基、3,4,5-トリメチルベンジル基が挙げられる。その他の種類として、例えば4-メトキシベンジル基、4-メトキシフェニルジフェニルメチル基、4,4’-ジメトキシトリフェニルメチル基が挙げられ、好ましくは4-メトキシベンジル基、4-メトキシフェニルジフェニルメチル基、4,4’-ジメトキシトリフェニルメチル基が挙げられる。さらには、例えば4-クロロベンジル基、4-ブロモベンジル基が挙げられる。またその他に、例えば4-シアノベンジル基も好ましい例として挙げられる。
【0043】
本明細書中、シリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、メチルジ-t-ブチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、ジフェニルブチルシリル基、ジフェニルイソプロピルシリルフェニルジイソプロピルシリル基が挙げられる。このなかでさらに好ましくは、トリメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジフェニルメチルシリル基が挙げられ、特に好ましくは、トリメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基が挙げられる。
【0044】
本明細書における水酸基の保護基としては、化学的方法(例えば、加水素分解、加水分解、電気分解、又は光分解など)、又は生物学的方法(例えば、人体内で加水分解等。想像するに微生物等での誘導など)、のいずれかの方法により開裂し、脱離する置換基を意味する場合もある。水酸基の保護基としては、特に、加水素分解、又は加水分解により脱離する置換基が好ましい例として挙げられる。なお、保護された水酸基は、かかる保護基で水素原子が置換された水酸基ということができる。
【0045】
(ハロゲン原子)
ハロゲン原子としては、特に限定するものではないが、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子及び臭素原子等が挙げられる。なお、R1がハロゲン原子(X)のときは、式(1)に変えて、以下の式でも表されるようにハロゲン原子(X)は、リボースの2’位の炭素原子に対する結合方向は特に限定するものではないが、式(1)で示されるように、天然のリボースの水酸基に相当する方向でもよいしその反対方向でもよいが、式(1)で表されるように、天然のリボースの水酸基に相当するようにハロゲン原子が結合することが好適である。
【0046】
【0047】
[R2及びR4について] 式(1)中、R2及びR4は、互いに同一又は異なっていてもよく、水素原子、水酸基の保護基、リン酸基、保護されたリン酸基、又は-P(=O)n(R5)R6を表す。水酸基の保護基は既に説明したとおりである。
【0048】
(保護されたリン酸基)
保護されたリン酸基における保護基は当業者公知であり、上述の参考文献や説明を参考にすることができる。
【0049】
リン酸基の保護基としては、例えば、低級アルキル基、シアノ基で置換された低級アルキル基、シリル基で置換されたエチル基、ハロゲンで置換された低級アルキル基、低級アルケニル基、シアノ基で置換された低級アルケニル基、シクロアルキル基、シアノ基で置換された低級アルケニル基、アラルキル基、ニトロ基でアリール環が置換されたアラルキル基、ハロゲンでアリール環が置換されたアラルキル基、低級アルキル基で置換されたアリール基、ハロゲンで置換されたアリール基、又はニトロ基で置換されたアリール基が挙げられる。
【0050】
前記の低級アルキル基としては、前述したとおりである。前記のシアノ基で置換された低級アルキル基としては、例えば2-シアノエチル基、2-シアノ-1、1-ジメチルエチル基が挙げられ、特に好ましくは、2-シアノエチル基が挙げられる。前記のシリル基で置換されたエチル基としては、例えば2-メチルジフェニルシリルエチル基、2-トリメチルシリルエチル基、2-トリフェニルシリルエチル基が挙げられる。
【0051】
前記のハロゲンで置換された低級アルキル基としては、例えば2,2,2-トリクロロエチル基、2,2,2-トリブロモエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基が挙げられ、特に好ましくは、2,2,2-トリクロロエチル基が挙げられる。前記の低級アルケニル基としては、例えばエテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基などが挙げられる。
【0052】
前記のシアノ基で置換された低級アルケニル基としては、例えば2-シアノエチル基、2-シアノプロピル基、2-シアノブテニル基が挙げられる。前記のアラルキル基としては、例えばベンジル基、α-ナフチルメチル基、β-ナフチルメチル基、インデニルメチル基、フェナンスレニルメチル基、アントラセニルメチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、1-フェネチル基、2-フェネチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルエチル基、1-フェニルプロピル基、2-フェニルプロピル基、3-フェニルプロピル基、1-ナフチルプロピル、2-ナフチルプロピル、3-ナフチルプロピル、1-フェニルブチル基、2-フェニルブチル基、3-フェニルブチル基、4-フェニルブチル基が挙げられ、さらに好ましくは、ベンジル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、1-フェネチル基、2-フェネチル基が挙げられ、特に好ましくは、ベンジル基が挙げられる。
【0053】
前記のニトロ基でアリール環が置換されたアラルキル基としては、2-(4-ニトロフェニル)エチル基、0-ニトロベンジル基、4-ニトロベンジル基、2,4-ジニトロベンジル基、4-クロロ-2-ニトロベンジル基などが挙げられる。
【0054】
本明細書においてリン酸の保護基としては、化学的方法(例えば、加水素分解、加水分解、電気分解、又は光分解など)、又は生物学的方法(例えば、人体内で加水分解等。想像するに微生物等での誘導など)、のいずれかの方法により開裂し、脱離する置換基を意味する場合もある。リン酸の保護基としては、特に、加水素分解、又は加水分解により脱離する置換基が好ましい例として挙げられる。
【0055】
(-P(=O)n(R5)R6)
本発明のヌクレオシド類縁体のR2及びR4は、-P(=O)n(R5)R6となる場合がある。nは0又は1を示し、R5及びR6は、互いに同一又は異なっていてもよく、水素原子、水酸基、保護された水酸基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、低級アルコキシ基、シアノ低級アルコキシ基、アミノ基、又は置換されたアミノ基のいずれかを示す。ただし、nが1のときには、R5及びR6が共に水素原子となることはない。保護された水酸基及び低級アルコキシ基については、既に説明したとおりである。
【0056】
(保護されたメルカプト基)
保護されたメルカプト基は、当業者において周知である。保護されたメルカプト基としては、例えば上記水酸基の保護基として挙げたものの他、例えばアルキルチオ基、アリールチオ基、脂肪族アシル基、芳香族アシル基が挙げられる。好ましくは、脂肪族アシル基、芳香族アシル基が挙げられ、特に好ましくは、芳香族アシル基が挙げられる。アルキルチオ基としては、低級アルキルチオ気が好ましく、例えば、メチルチオ、エチルチオ、t-ブチルチオ基が好ましい例として挙げられる。アリールチオ基としては、例えばベンジルチオが挙げられる。また芳香族アシル基としてはベンゾイル基が挙げられる。
【0057】
前記のシアノ低級アルコキシ基としては、例えば、シアノ基が置換した直鎖状、分枝状、環状、又はそれらの組み合わせである炭素数1~5個のアルコキシ基(なお、シアノ基中の炭素の数を含めずに数えた場合)が好ましい例として挙げられ、具体的には例えば、シアノメトキシ、2-シアノエトキシ、3-シアノプロポキシ、4-シアノブトキシ、3-シアノ―2-メチルプロポキシ、又は1-シアノメチル-1,1-ジメチルメトキシ等が挙げられ、特に好ましくは、2-シアノエトキシ基が挙げられる。
【0058】
R5及びR6として、置換されたアミノ基が選択できる。そのアミノ基の置換基は、低級アルコキシ基、低級アルキルチオ基、シアノ低級アルコキシ基、又は低級アルキル基のいずれかを示す。なお前記R5及びR6が共に、置換されたアミノ基である場合では、該置換されたアミノ基として互いに異なった置換されたアミノ基であってもよい。前記の低級アルコキシ基、低級アルキルチオ基、シアノ低級アルコキシ基、及び低級アルキル基は、前述に説明された通りである。
【0059】
-P(=O)n(R5)R6としては、より具体的には、ホスホロアミダイド基、H-ホスホネート基、又はホスホニル基が好ましい例として挙げられ、ホスホロアミダイド基が特に好ましい例として挙げられる。
【0060】
-P(=O)n(R5)R6において、nが0であり、R5及びR6の少なくとも一方が置換されたアミノ基であり、他方は何であってもよい場合には、ホスホロアミダイド基となる。ホスホロアミダイド基としては、R5及びR6の一方が置換されたアミノ基であり、他方が低級アルコキシ基、又はシアノ低級アルコキシ基であるホスホロアミダイド基が、縮合反応の反応効率が良好であり、特に好ましい。その置換されたアミノ基としては、例えば、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジメチルアミノ基等が好ましい例として挙げられ、特に好ましくはジイソプロピルアミノ基が例示される。また、R5及びR6の他方の置換基における低級アルコキシ基としては、メトキシキ基が好ましい例として挙げられる。また、シアノ低級アルコキシ基としては、2-シアノエチル基が好ましい例として挙げられる。ホスホロアミダイド基としては、具体的には、-P(OC2H4CN)(N(CH(CH3)2)、又は-P(OCH3)(N(CH(CH3)2)が好ましい例として挙げられる。
【0061】
-P(=O)n(R5)R6において、nが1であり、R5及びR6の少なくとも一方が水素原子であり、他方は水素原子以外であれば何であってもよい場合には、H-ホスホネート基となる。その、水素以外の置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基、チオール基等が挙げられ、特に好ましくはヒドロキシル基が例示される。
【0062】
また、-P(=O)n(R5)R6において、nが1であり、R5及びR6が共に低級アルコキシ基である場合には、ホスホニル基となる。なお、R5及びR6における低級アルコキシ基は互いに同一でも相違していてもよい。その低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が好ましい例として挙げられる。ホスホニル基としては、具体的には、-P(=O)(OCH3)2が挙げられる。
【0063】
本ヌクレオシド誘導体におけるR2としては、例えば、-P(=O)n(R5)R6であることが特に好ましい。-P(=O)n(R5)R6としては、ホスホロアミダイド基、H-ホスホネート基、又はホスホニル基が好ましい例として挙げられる。R2としては、その他にリン酸基、又は保護されたリン酸基であることも好ましい。さらにR2としては、水素原子、又は水酸基の保護基であることも好ましい。
【0064】
R2の具体的な他の例示としては、水素原子、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、トリメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、-P(OC2H4CN)(N(CH(CH3)2)、-P(OCH3)(N(CH(CH3)2)、又はホスホニル基が好ましい例として挙げられる。
【0065】
本ヌクレオシド誘導体におけるR4としては、例えば、水素原子又は水酸基の保護基が好ましい。また例えば、リン酸基、保護されたリン酸基、又は-P(=O)n(R5)R6であることも好ましい。R4としての具体的な例示を挙げると、水素原子、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、ジメトキシトリチル基、モノメトキシトリチル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、又はトリメチルシリル基が好ましい例として挙げられる。
【0066】
[R3について] 式(1)中、R3は、それぞれ連結基を有する塩基性基を表すことができる。(a)の修飾を有する本修飾ヌクレオチド(以下、本修飾ヌクレオチド(a)ともいう。)は、リボースの第4’位に塩基性を有する置換基を備えることで、本修飾ヌクレオチドに由来する部分構造を備えるオリゴヌクレオチドにおいて、オリゴヌクレオチドが有するリン酸基などに起因する負電荷の少なくとも一部を中和することができるという電荷調節能を備えることができる。このため、当該部分構造を備えるオリゴヌクレオチドの細胞膜透過性を向上させることができる。さらに、本修飾ヌクレオチド(a)に由来する部分構造を備えるオリゴヌクレオチドにおいて、リボヌクレアーゼ耐性を向上することができる。
【0067】
連結基としては、例えば、炭素数1個以上の2価炭化水素基を表すことができる。すなわち、2価の炭化水素基としては、炭素数1~8個以下のアルキレン基、炭素数2~8個以下のアルケニレン基などが挙げられる。
【0068】
連結基としてのアルキレン基としては、直鎖状、分枝状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。例えば、低級アルキル基が好ましく、例えば炭素数1~6個の低級アルキル基、また例えば、炭素数2~6個の低級アルキル基が好ましく、また例えば、炭素数2~4個又は炭素数2~3個の低級アルキル基が好ましい。直鎖状の炭素数1から4までのアルキル基としては、メチレン基、エチレン基、プロパンー1、3-ジイル基、n-ブタン-1,1-ジイル基、n-ペンチル-1-5,-ジイル基、n-ヘキシル-1,6-ジイル基等が挙げられる。また、例えば、ブタン-1,2-ジイル基等が挙げられる。また例えば、エチレン基、プロパンー1、3-ジイル基、n-ブタン-1,1-ジイル基が特に好ましい例として挙げられる。
【0069】
連結基としてのアルケニレン基としては、直鎖状、分枝状であり、好ましくは直鎖状である。例えば、低級アルケニレン基が好ましく、低級アルケニレン基としては、例えば、
エテン-1,2-ジイル基、プロペンー1,3-ジイル基、ブテン-1,4-ジイル基等が挙げられる。
【0070】
式(1)で表されるヌクレオシド誘導体においては、例えばエチレン基などの炭素数2以上のアルキレン基などの2価炭化水素基であることがオリゴヌクレオチド誘導体のヌクレアーゼ耐性及び細胞膜透過性の観点から好適である。
【0071】
塩基性基としては、例えば、NHR7(R7は、水素原子、アルキル基、アルケニル基又はアミノ基の保護基を表す。)、アジド基、アミジノ基又はグアニジノ基を表す。R7としては、水素原子、アルキル基又はアルケニル基又はアミノ基の保護基が挙げられる。アルキル基は、既に説明したアルキル基のほか、低級アルキル基が好ましく挙げられる。アルケニル基としては、既に説明したアルケニル基のほか、低級アルケニル基が好ましく挙げられる。R7が水素原子などこれらの基であるとき、連結基は、炭素数2以上、また例えば3以上、また例えば4以上で、例えば6以下、また例えば5以下、また例えば4以下のアルキレン基であることが好適である。より好適には、連結基は、炭素数2以上の連結基であり、炭素数2以上のアルキレン基である。
【0072】
また、R7が水素原子のとき、R3は、連結基を有するNH2(アミノ基)、すなわち、連結基がアルキレン基やアルケニレン基のときには、アミノアルキル基やアミノアルケニル基などとなる。式(1)中、R3がアミノアルキル基などであることにより、本修飾ヌクレオチド及び本修飾ヌクレオチドに由来するモノマーユニットを備えるオリゴヌクレオチドは、周囲のpH環境において電荷が変化するという特徴を伴う電荷付与性を発揮することができる。例えば、酸性下ではカチオニックであり、生理的条件下の中性ではプラス電荷が減少して電荷ゼロとなりうる。すなわち、かかる電荷調節能によれば、pH環境を変化させることで、必要時にヌクレオシド誘導体の電荷をダイナミックに変化させたり、所望の電荷を付与したりすることができる。したがって、このような本ヌクレオシド誘導体によれば、オリゴヌクレオチドの電荷を従来とは異なる態様であるいは従来よりも一層高い自由度で調整できるようになる。
【0073】
R3としては、それぞれ連結基を有する、アジド基、アミジノ基、すなわち、CH3(NH)C(NH)-(アミジンのアミノ基から水素原子1個を除いたもの)、グアニジノ基、すなわち、NH2(NH)C(NH)-(グアニジンのアミノ基から水素原子1個を除いたもの)が挙げられる。なかでも、グアニジノ基が挙げられる。R3が、これらの基を有するとき、連結基は、炭素数1以上、また例えば2以上などのアルキレン基又はアルケニレン基などとすることができる。なお、R3が、連結基を有するアミジノ基、グアニジノ基のときには、既述のアミノアルキル基などのときとは異なり、常にカチオニックとなる。かかる本ヌクレオシド誘導体は、R3がアミノアルキル基などである本ヌクレオシド誘導体と組み合わせて用いるのに有用である。
【0074】
アミノ基に対する保護基は、当業者に周知されており、前述の参考文献を参照することができる。具体的には、上記にて水酸基の保護基として挙げたものの他、例えばベンジル基、メチルベンジル基、クロロベンジル基、ジクロロベンジル基、フルオロベンジル基、トリフルオロメチルベンジル基、ニトロベンジル基、メトキシフェニル基、メトキシメチル(MOM)基、N-メチルアミノベンジル基、N,N-ジメチルアミノベンジル基、フェナシル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、フタルイミド基、アリルオキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル(Boc)基、1-メチル-1-(4-ビフェニル)エトキシカルボニル(Bpoc)基、9-フルオレニルメトキシカルボニル基、ベンジルオキシメチル(BOM)基、又は2-(トリメチルシリル)エトキシメチル(SEM)基などが挙げられる。さらに好ましくは、ベンジル基、メトキシフェニル基、アセチル基、トリフルオロアセチル(TFA)基、ピバロイル基、ベンゾイル基、t-ブトキシカルボニル(Boc)基、1-メチル-1-(4-ビフェニル)エトキシカルボニル(Bpoc)基、9-フルオレニルメトキシカルボニル基、ベンジルオキシメチル(BOM)基、又は2-(トリメチルシリル)エトキシメチル(SEM)基が挙げられ、特に好ましくは、ベンジル基、メトキシフェニル基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンジルオキシメチル基が挙げられる。
【0075】
本発明においてアミノ基の保護基としては、化学的方法(例えば、加水素分解、加水分解、電気分解、又は光分解など)、又は生物学的方法(例えば、人体内で加水分解等。想像するに微生物等での誘導など)、のいずれかの方法により開裂し、脱離する置換基を意味する場合もある。特に、加水素分解、又は加水分解により脱離する置換基がアミノ基の保護基として好ましい。
【0076】
[B:塩基について]
本ヌクレオシド誘導体におけるB:塩基としては、公知の天然塩基ほか、人工塩基が挙げられる。例えば、Bとしては、プリン-9-イル基、2-オキソ-ピリミジン-1-イル基、置換プリン-9-イル基、又は置換2-オキソ-ピリミジン-1-イル基が選択できる。
【0077】
すなわち、Bとしては、プリン-9-イル基、又は2-オキソ-ピリミジン-1-イル基が挙げられるほか、2,6-ジクロロプリン-9-イル、又は2-オキソ-ピリミジン-1-イルが挙げられる。さらに、2-オキソ-4-メトキシ-ピリミジン-1-イル、4-(1H-1,2,4-トリアゾール‐1-イル)-ピリミジン-1-イル、又は2,6-ジメトキシプリン-9-イルが挙げられる。
【0078】
さらに、アミノ基が保護された2-オキソ-4-アミノ-ピリミジン-1-イル、アミノ基が保護された2-アミノ-6-ブロモプリン-9-イル、アミノ基が保護された2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル、アミノ基及び/又は水酸基が保護された2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル、アミノ基が保護された2-アミノ-6-クロロプリン-9-イル、アミノ基が保護された6-アミノプリン-9-イル、又はアミノ基が保護された4-アミノ-5-メチル-2-オキソ-ピリミジン-1-イル基が挙げられる。なお、水酸基及びアミノ基の各保護基については、既に説明したとおりである。
【0079】
さらに、6-アミノプリン-9-イル(アデニン)、2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル(グアニジン)、2-オキソ-4-アミノ-ピリミジン-1-イル(シトシン)、2-オキソ-4-ヒドロキシ-ピリミジン-1-イル(ウラシル)、又は2-オキソ-4-ヒドロキシ-5-メチルピリミジン-1-イル(チミン)が挙げられる。
【0080】
さらにまた、4-アミノ-5-メチル-2-オキソ-ピリミジン-1-イル(メチルシトシン)、2,6-ジアミノプリン-9-イル、6-アミノ-2-フルオロプリン-9-イル、6-メルカプトプリン-9-イル、4-アミノ-2-オキソ-5-クロロ-ピリミジン-1-イル、又は2-オキソ-4-メルカプト-ピリミジン-1-イルが挙げられる。
【0081】
また、6-アミノ-2-メトキシプリン-9-イル、6-アミノ-2-クロロプリン-9-イル、2-アミノ-6-クロロプリン-9-イル、又は2-アミノ-6-ブロモプリン-9-イルが挙げられる。
【0082】
置換プリン-9-イル基、又は置換2-オキソ-ピリミジン-1-イル基それぞれにおける置換基は、水酸基、保護された水酸基、低級アルコキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、低級アルキルチオ基、アミノ基、保護されたアミノ基、低級アルキル基で置換されたアミノ基、低級アルキル基、低級アルコキシメチル基、又はハロゲン原子のいずれか一つ、又はそれらの複数の組み合わせのいずれかである。これらの置換基は、既に説明したとおりである。
【0083】
本ヌクレオシド誘導体におけるBとしては、置換プリン-9-イル基、又は置換2-オキソ-ピリミジン-1-イル基における置換基が既述の各置換基が好ましいが、これに加えてさらに、トリアゾール基、低級アルコキシメチル基が加わることも好ましい。
【0084】
置換プリン-9-イル基の好ましい例としては、例えば、6-アミノプリン-9-イル、2,6-ジアミノプリン-9-イル、2-アミノ-6-クロロプリン-9-イル、2-アミノ-6-ブロモプリン-9-イル、2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル、6-アミノ-2-メトキシプリン-9-イル、6-アミノ-2-クロロプリン-9-イル、6-アミノ-2-フルオロプリン-9-イル、2,6-ジメトキシプリン-9-イル、2,6-ジクロロプリン-9-イル、又は6-メルカプトプリン-9-イル等が挙げられる。上述の置換基中にアミノ基や水酸基があれば、それらのアミノ基及び/又は水酸基が保護化された置換基が好ましい例として挙げられる。
【0085】
置換2-オキソ-ピリミジン-1-イルとしては、例えば2-オキソ-4-アミノ-ピリミジン-1-イル、1H-(1,2,4-トリアゾール-1-イル)-ピリミジン-1-イル、4-1H-1,4-アミノ-2-オキソ-5-クロロ-ピリミジン-1-イル、2-オキソ-4-メトキシ-ピリミジン-1-イル、2-オキソ-4-メルカプト-ピリミジン-1-イル、2-オキソ-4-ヒドロキシ-ピリミジン-1-イル、2-オキソ-4-ヒドロキシ-5-メチルピリミジン-1-イル、又は4-アミノ-5-メチル-2-オキソ-ピリミジン-1-イル等が挙げられる。また、2-オキソ-4-メトキシ-ピリミジン-1-イル、又は4-(1H-1,2,4-トリアゾール‐1-イル)-ピリミジン-1-イルが好ましい例として挙げられる。
【0086】
こうしたBのうち、置換基中にアミノ基や水酸基があれば、それらのアミノ基又は水酸基が保護化された置換基が好ましい例として挙げられる。
【0087】
本修飾ヌクレオチドは、塩であってもよい。塩の形態は特に限定されないが、一般的には酸付加塩が例示され、分子内対イオンの形態をとっていてもよい。又は置換基の種類によっては塩基付加塩が形成される場合もある。塩としては、薬学的に許容される塩が好ましい。薬学的に許容しうる塩を形成する酸及び塩基の種類は当業者には周知であり、例えばJ.Pharm.Sci.,1-19(1977)に記載しているものなどを参考にすることができる。例えば、酸付加塩としては、鉱酸塩、有機酸塩が挙げられる。また、一個以上の置換基が酸性部分を含有する場合、塩基付加塩も好ましい例として挙げられる。
【0088】
鉱酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素酸塩、リン酸塩、リン酸水素酸塩などが挙げられる。通常は、塩酸塩、リン酸塩、が好ましい例として挙げられる。有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、又はp-トルエンスルホン酸塩などが挙げられる。通常は、酢酸塩等が好ましい例として挙げられる。塩基付加塩としては、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、有機アミン塩、アミノ酸の付加塩が挙げられる。
【0089】
前記のアルカリ金属の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。また、アルカリ土類金属の塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。有機アミン塩としては、例えば、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、プロカイン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等が例示される。また、アミノ酸の付加塩としては、例えば、アルギニン塩、リジン塩、オルニチン塩、セリン塩、グリシン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などが挙げられる。
【0090】
本修飾ヌクレオチド又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあり、これらの物質も本明細書の開示の範囲に含まれる。本修飾ヌクレオチド又はその塩は、後述の合成例や公知の方法に準じて、当業者は容易に製造することができる。
【0091】
本修飾ヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの少なくとも一部としてのヌクレオチドとしてオリゴリボヌクレオチドに導入することで、一本鎖としてのオリゴリボヌクレオチド、二本鎖オリゴリボヌクレオチドのリボヌクレアーゼ耐性を向上させうることができるほか、哺乳動物細胞等の細胞膜透過性を向上させることができる。本修飾ヌクレオチドは、4’に塩基性の置換基を備えることができる。これにより、オリゴリボヌクレオチド等におけるリン酸基などに由来する負電荷を調整し、さらに、オリゴスペルミン領域との相乗効果により、正電荷付与剤として機能して一層細胞膜透過性を向上させることができる。
【0092】
本修飾ヌクレオチドは、以上の説明に基づいて(a)~(c)の修飾を適宜備えることができる。特に限定するものではないが、例えば、(a)の修飾を有する場合には、(a)の修飾のほかに、(b)又は(c)の修飾を備えることができる。
【0093】
(RNA干渉剤) 本明細書に開示されるRNA干渉剤(本剤)は、二本鎖オリゴヌクレオチドであって、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖を備えることができる。ガイド鎖は、標的RNAにハイブリダイズ可能な相補領域を備え、パッセンジャー鎖は、ガイド鎖とハイブリダイズして二本鎖を構成できるようになっている。
【0094】
RNA干渉剤としての二本鎖オリゴヌクレオチドは、概して、ガイド鎖の3’末端にTT領域を備え、パッセンジャー鎖の3’末端にTT領域を備え、これらは他方の鎖の5’末端から突出する構造(オーバーハング)を備えているが、オーバーハングするヌクレオチドの個数やオーバーハングする領域はTTに限定するものではなく、公知の種々の修飾等を適用することができる。また、二本鎖オリゴヌクレオチドの一端又は両端は、RNA干渉作用を発揮する限りオーバーハング構造を備えていなくてもよい。
【0095】
また、RNA干渉剤としての二本鎖オリゴヌクレオチドは、例えば、それぞれの鎖の3’末端におけるオーバーハングに加えて、概して、19merのヌクレオチドを備えているが、これに限定するものではなく、例えば10~30mer程度などとすることもできる。
【0096】
また、RNA干渉剤としての二本鎖オリゴヌクレオチドは、概してリボースを備えるリボヌクレオチドで構成されるが、必要に応じて糖としてデオキシヌクレオチドのデオキシリボースを備えるようにしてもよいし、また、塩基としても、ウリジンに替えてチミジンを有するように構成してもよい。
【0097】
(ガイド鎖) RNA干渉剤としての二本鎖オリゴヌクレオチドのガイド鎖について説明する。ガイド鎖としての一本鎖オリゴヌクレオチドには、上記(a)~(c)のいずれの本修飾ヌクレオチドを備えることができるが、好適には、修飾(b)を有するヌクレオチド及び修飾(c)を有するヌクレオチドのいずれか又は双方を有することが好ましい。
【0098】
ガイド鎖における本修飾ヌクレチドの導入部位としては、特に限定するものではないが、リボヌクレアーゼなどのヌクレアーゼに対する耐性及びガイド鎖の機能性を考慮すると、5’末端側、3’末端側及び中央部分とすることができる。なお、ガイド鎖における5’末端側とは、5’末端から3’末端側に8ヌクレオチド以内の領域をいう。また、ガイド鎖における3’末端側とは、3’末端から5’末端側に10ヌクレオチド以内の領域をいう。さらに、ガイド鎖における中央部分とは、上記5’末端側及び3’末端側以外の部分をいう。
【0099】
これらのうちいずれか一部にのみ本修飾ヌクレオチドを備えていてもよいし、5’末端側及び3’末端側にのみ修飾ヌクレオチドを備えていてもよいし、5’末端側及び中央部分にのみ本修飾ヌクレオチドを導入してもよいし、3’末端側及び中央部分に本修飾ヌクレオチドを導入してもよいし、全ての部位に本修飾ヌクレオチドを導入してもよい。
【0100】
ガイド鎖の5’末端側においては、例えば、当該5’末端に本修飾ヌクレオチドを備える。また例えば、当該5’末端の次も本修飾ヌクレオチドが導入されている。また例えば、当該5’末端から3’末端に5ヌクレオチド以内において3個以上の本修飾ヌクレオチドを備える。
【0101】
ガイド鎖の3’末端側においては、オーバーハングを含む3’末端から2ヌクレオチド以内においては、本修飾ヌクレオチドを備えていなくてもよいし備えていてもよい。また、例えば、ガイド鎖の当該3’末端から5’末端側のオーバーハングに隣接して本修飾ヌクレオチドを備え、また例えば、3’末端から5’末端側に10ヌクレオチド以内に、さらに、1個又は2個以上(例えば、5個以下、また例えば、4個以下、また例えば、3個以下の)の本修飾ヌクレオチドが導入されていてもよい。
【0102】
ガイド鎖の中央部分、すなわち、5’末端から8ヌクレオチド以内及び3’末端から10ヌクレオチド以内を除く領域においては、修飾(b)を有する本修飾ヌクレオチド及び/又は修飾(c)を有する本修飾ヌクレオチドを備えていてもよいし、備えていなくてもよい。この領域において、かかる本修飾ヌクレオチドの個数は、特に限定するものではないが、例えば、1個以上5個以下備えることができ、また例えば、1個以上4個以下、また例えば、1個以上3個以下、また例えば、1個以上2個以下備えることができる。
【0103】
また、ガイド鎖全体が備える本修飾ヌクレオチドは、2個以上であることが好適であり、それぞれは連続していなくてもよいし、2個又は3個以上が連続していてもよい。ガイド鎖における本修飾ヌクレオチドは、例えば、4個以上であり、また例えば、5個以上であり、また例えば、6個以上であり、また例えば、7個以上であり、また例えば、8個以上である。また例えば、12個以下であり、また例えば、11個以下であり、また例えば、10個以下であり、また例えば、9個以下であり、また例えば8個以下である。
【0104】
また、ガイド鎖における本修飾ヌクレオチドは、修飾(b)及び修飾(c)から適宜選択でき、修飾(b)のみによる本修飾ヌクレオチドを用いてもよいし、修飾(c)のみによる本修飾ヌクレオチドを用いてよいし、修飾(b)及び(c)をそれぞれ有する本修飾ヌクレオチドを用いることもできる。なお、例えば修飾(b)のみによる本修飾ヌクレオチドであっても、複数種類の本修飾ヌクレオチドの態様があることは理解されるものであり、修飾(c)にも複数種類の態様があることが理解される。修飾(c)についても同様である。
【0105】
なお、ガイド鎖には、修飾(a)の本修飾ヌクレオチドを有していないようにすることができる。ガイド鎖は、AGOタンパク質と複合体を構成することから、荷電を変更することが好適でない場合があるからである。
【0106】
ガイド鎖において、ヌクレアーゼ耐性を向上させるために、例えば、ヌクレオチド間の結合に関し、天然のホスホジエステル結合に替えて、ホスホジエステル結合に関与しないリン酸エステルの一つの酸素原子をイオウ原子で置換されたホスホロチオエートによるジエステル結合を採用することができる。
【0107】
かかる結合を、ガイド鎖の3’末端側のオーバーハングを含む例えば10ヌクレオチド以内(また例えば、9ヌクレオチド以内、また例えば、8ヌクレオチド以内)に備えることができ、かかる結合を連続して又は断続して備えることができる。オーバーハングは、係る結合によって相互に連結されていてもよい。さらに、上記領域内において、係る結合の個数は、例えば、2個以上、また例えば、3個以上備えることができ、また例えば、4個以上、また例えば、5個以上備えることができる。なお、上記領域内においては、係る結合は、最大でも6個である。
【0108】
(パッセンジャー鎖) RNA干渉剤としての二本鎖オリゴヌクレオチドのパッセンジャー鎖について説明する。パッセンジャー鎖としての一本鎖オリゴヌクレオチドには、上記(a)~(c)のいずれの本修飾ヌクレオチドを備えることができるが、好適には、修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドを備えることができ、さらに、この本修飾ヌクレオチドに加えて、別途、修飾(b)を有する本修飾ヌクレオチド及び/又は修飾(c)を有する本修飾ヌクレオチド有することができる。
【0109】
修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドは、パッセンジャー鎖の5’末端から3’末端側に、例えば8ヌクレオチド以内、また例えば7ヌクレオチド以内、また例えば6ヌクレオチド以内、また例えば5ヌクレオチド以内に1個以上備えることができる。また例えば、当該領域に、1個以上4個以下、また例えば、1個以上3個以下、また例えば、1個以上2個以下備えることができる。
【0110】
修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドは、また、パッセンジャー鎖の3’末端から5’末端側に、例えば10ヌクレオチド以内に、また例えば9ヌクレオチド以内、また例えば8ヌクレオチド以内、また例えば7ヌクレオチド以内、また例えば6ヌクレオチド以内、また例えば5ヌクレオチド以内に1個以上備えることができる。また例えば、当該領域に、1個以上4個以下、また例えば、1個以上3個以下備えることができる。パッセンジャー鎖の5’末端側及び同3’末端側のいずれか一方に、当該本修飾ヌクレオチドを備えていてもよいし、双方に備えることもできる。
【0111】
パッセンジャー鎖における修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドは、さらに、その2’位において、修飾(b)及び修飾(c)のいずれかを備えることができる。こうすることで、本修飾ヌクレオチドを備える部位において、ヌクレアーゼ耐性をさらに高めることができる。本修飾ヌクレオチドにおけるヌクレアーゼ耐性を考慮すると、修飾(b)を採用することが有利な場合がある。
【0112】
パッセンジャー鎖において修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドの近傍には、別途、修飾(b)を有する本修飾ヌクレオチド及び修飾(c)を有する本修飾ヌクレオチドのいずれか又は双方を備えることができる。これにより、修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドをパッセンジャー鎖に安定的に保持させることができる。例えば、修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドの3’末端側及び/又は5’末端側にすぐに隣接してこれらの他の本修飾ヌクレオチドを備えることができる。こうした他の本修飾ヌクレオチドは、例えば、修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドが修飾(b)又は修飾(c)を兼ね備える場合には、それぞれ、修飾(c)又は修飾(b)を有する本修飾ヌクレオチドなどとすることができる。異なる修飾形態のヌクレオチドを備えることが、ヌクレアーゼ耐性に有効な場合がある。
【0113】
パッセンジャー鎖においては、5’末端側及び3’末端側以外に修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドを備えていないことが有効な場合がある。かかる領域において、電荷を変化させることが、二本鎖オリゴヌクレオチドであるsiRNAの効果に影響を与える場合がある。
【0114】
さらに、パッセンジャー鎖には、ガイド鎖と同様に、その3’末端からオーバーハングを含んで10ヌクレオチド以内、また例えば、8ヌクレオチド以内、また例えば、6ヌクレオチド以内において、ホスホロチオエートによるホスホジエステル結合を連続して又は断続して備えることができる。こうすることで、パッセンジャー鎖による細胞膜透過性に貢献できる。また、オーバーハングが係る結合によって相互に連結されていてもよい。ホスホロチオエートによるホスホジエステル結合の個数は、特に限定するものではないが、例えば、2個以上であってもよいし、3個以上であってもよいし、4個以上であってもよいし、5個以上であってもよい。なお、上記領域内においては、係る結合は、最大でも6個である。
【0115】
パッセンジャー鎖の中央部分、すなわち、5’末端から8ヌクレオチド以内及び3’末端から10ヌクレオチド以内を除く領域においては、本修飾ヌクレオチドを備えていなくてもよいが、修飾(b)を有する本修飾ヌクレオチド及び/又は修飾(c)を有する本修飾ヌクレオチドを備えることもできる。この領域において、かかる本修飾ヌクレオチドの個数は、特に限定するものではないが、例えば、1個以上4個以下備えることができ、また例えば、1個以上3個以下、また例えば、1個以上2個以下備えることができる。
【0116】
また、パッセンジャー鎖全体が備える修飾(a)~(c)のいずれかを有する本修飾ヌクレオチドは、2個以上であることが好適であり、それぞれは連続していなくてもよいし、2個又は3個以上が連続していてもよい。パッセンジャー鎖における本修飾ヌクレオチドは、例えば、4個以上であり、また例えば、5個以上であり、また例えば、6個以上であり、また例えば、7個以上であり、また例えば、8個以上であり、また例えば、9個以上である。また例えば、12個以下であり、また例えば、11個以下であり、また例えば、10個以下であり、また例えば、9個以下である。
【0117】
(オリゴスペルミン領域) パッセンジャー鎖は、その5’末端及び/又は3’末端にオリゴスペルミン領域を備えることができる。パッセンジャー鎖にオリゴスペルミン領域を有することでで、二本鎖オリゴヌクレオチドに備える修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドとの相乗効果により、細胞膜透過性が向上する。例えば、パッセンジャー鎖に、修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドを備えることにより、一層、二本鎖オリゴヌクレオチドの細胞膜透過性に貢献する。
【0118】
オリゴスペルミン領域は、少なくともスペルミンを2個備えるが、例えば5個以上であり、また例えば、10個以上であり、また例えば、15個以上であり、また例えば、20個以上であり、また例えば25個以上である。また、例えば、40個以下であり、また例えば、35個以下であり、また例えば、30個以下であり、また例えば、25個以下である。オリゴスペルミン領域における、スペルミンの個数の範囲は、特に限定するものではないが、例えば、10個以上30個以下、また例えば、15個以上25個以下などとすることができる。
【0119】
オリゴスペルミン領域は、パッセンジャー鎖の5’末端に備えることが好ましい場合がある。なお、5’末端におけるオリゴスペルミン領域の端部は、OH基とすることができる。
【0120】
以上、本剤を構成するガイド鎖及びパッセンジャー鎖について種々説明したが、例えば、以下に示すガイド鎖及びパッセンジャー鎖の組合せが好適な場合がある。すなわち、ガイド鎖としては、5’末端側に修飾(b)及び/又は(c)による本修飾ヌクレオチドを3個備え、同3’末端側に修飾(b)及び/又は(c)による本修飾ヌクレオチドを1個備え、かつホスホロチオエートによるホスホジエステル結合を5’末端側から16番目~21番目のヌクレオチド間に備えることができる。また、パッセンジャー鎖としては、5’末端に、スペルミンを15個タンデムに備えるオリゴスペルミン領域を備え、5’末端から3番目に修飾(a)及び修飾(c)を有する本修飾ヌクレオチドを有するとともに、その両側に、修飾(b)を有する本修飾ヌクレオチドを有し、3’末端の5’末端から18番目に修飾(a)及び修飾(c)を有する本修飾ヌクレオチドを有するとともに、その両側に修飾(b)を有する本修飾ヌクレオチドを有し、5’末端から20番目と21番目のオーバーハング間に、ホスホロチオエートによるホスホジエステル結合を備えることができる。
【0121】
特に、パッセンジャー鎖である一本鎖オリゴヌクレオチドについては、オリゴスペルミン領域と修飾(a)を有する本修飾ヌクレオチドとによって、二本鎖オリゴヌクレオチドの優れた細胞膜透過性に貢献することができる。
【0122】
すなわち、本明細書によれば、オリゴヌクレオチドであって、
以下の(a)~(c):
(a)2’位炭素原子に対するアルキルオキシ又はアルケニルオキシ修飾
(b)2’位炭素原子に対するハロゲン原子修飾
(c)4’位炭素原子に対するにおけるアルキレン基を介したアミ・BR>M基、アジド基及びアゾ基による修飾
のうち、少なくとも前記(c)の修飾を有する第1の修飾ヌクレオチドと、
前記(a)の修飾及び前記(b)の修飾のいずれかを有する第2の修飾ヌクレオチドと、
を備え、
3’末端及び5’末端のいずれか又は双方に2個以上のスペルミンをタンデムに有するオリゴスペルミン領域を備える、オリゴヌクレオチドも提供される。
【0123】
なお、二本鎖オリゴヌクレオチドにおけるガイド鎖及びパッセンジャー鎖は、以下の式(2)で表される部分構造を目的に応じて導入するようにして合成される。こうした部分構造は、式(1)で表されるヌクレオシド誘導体又はその塩に基づいて取得されうる。
【0124】
【0125】
式(2)で表される部分構造におけるR1、R3及びBについては、式(1)におけるのとそれぞれ同義である。
【0126】
なお、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖は、いずれも、オリゴリボヌクレオチドであってもよいし、リボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドのキメラであってもよい。ガイド鎖及びパッセンジャー鎖においては、いずれも、公知の修飾を施すことができる。例えばPEG、RGDペプチド、葉酸、コレステロール、BNA、LNA、PNA及び糖鎖の付加などが挙げられる。また、ガイド鎖及びパッセンジャー鎖における、各ヌクレオチド間の結合も特に限定するものではないが、例えば、ホスホジエステル結合のほか、ホスホチオエートによるホスホジエステル結合等によって結合されうる。
【0127】
本剤を構成するオリゴヌクレオチドは、式(2)で表される部分構造ほか、その他の部分構造において、一個以上の不斉中心を有する場合があり、立体異性体が存在する場合も同様であって、立体異性体の任意の混合物、又はラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。また互変異性体として存在しうる場合もある。
【0128】
オリゴヌクレオチドは、塩を構成するものであってもよい。塩の形態は特に限定されないが、薬学的に許容される塩が好ましい例として挙げられる。塩については、既述の本ヌクレオシド誘導体における塩の態様を適用することができる。オリゴヌクレオチド又はその塩としては、水和物や溶媒和物であってもよく、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0129】
(本修飾ヌクレオチド並びにガイド鎖及びパッセンジャー鎖の製造)
本修飾ヌクレオチド並びに本剤のガイド鎖及びパッセンジャー鎖は、当業者であれば、後段の具体的な合成例のほか、本願出願時において公知のヌクレオシド及びオリゴヌクレオチドについての合成技術に基づいて、容易に合成されうる。
【0130】
本修飾ヌクレオチド及び本オリゴヌクレオチド誘導体は、例えば下記の方法により製造できるが、本発明のヌクレオシド類縁体又はオリゴヌクレオチド類縁体の製造方法は下記の方法に限定されるものではない。
【0131】
それぞれの反応において、反応時間は特に限定されないが、後述の分析手段により反応の進行状態を容易に追跡できるため、目的物の収量が最大となる時点で終了すればよい。また、それぞれの反応は必要により、例えば、窒素気流下又はアルゴン気流下などの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。それぞれの反応において、保護基による保護及びその後の脱保護が必要な場合は、後述の方法を利用することにより適宜反応を行うことができる。
【0132】
なお、本明細書においては、Bnはベンジル基を示し、Acはアセチル基を示し、Bzはベンゾイル基を示し、PMBはp-パラメトキシベンジル基を示し、Trはトリフェニルメチル基を示し、THAは、トリフルオロアセチル基を示し、TsOは、トシルオキシ基を示し、MMTrは4-メトキシトリフェニルメチル基を示し、DMTrは4,4’-ジメトキシトリフェニルメチル基を示し、TMSはトリメチルシリル基を示し、TBDMSはtert-ブチルジメチルシリル基を示し、TBDPSはtert-ブチルジフェニルシリル基を示し、MOMはメトキシメチル基を示し、BOMはベンジルオキシメチル基を示し、SEMは2-(トリメチルシリル)エトキシメチル基を示す。
【0133】
例えば、本ヌクレオシド誘導体の一例は、以下のスキームに従い合成することができる。なお、以下のスキームは、グルコースを出発物質として、チミンリボヌクレオシド誘導体を合成し、本オリゴヌクレオチド誘導体の合成のためのホスホロアミダイト剤を合成するまでのスキームの一例である。
【0134】
【0135】
【0136】
常法に従い、グルコース1から、上記化合物2を取得した。化合物2から、Bioorganic & Medical Chemistry 11(2003)211-2226, Bioorganic & Chemistry letters(1999)2667-2672, The Journal of Organic Chemistry 2013, 78, 9956-9962, HELVATICA CHIMICA ACTA Vol. 83 (2000) 128-151等のほか、Bioorganic & Medical Chemistry 11(2003)211-2226, Bioorganic & Chemistry letters(1999)2667-2672の記載に基づいて化合物3ないし化合物20を得ることができる。
【0137】
式(2)で表される部分構造を備えるオリゴヌクレオチドは、式(1)で表される各種の本修飾ヌクレオチドを、アミダイト剤等として利用することで容易に製造できる。すなわち、こうした本修飾ヌクレオチドを用いることで、公知のDNAシンセサイザーを用いて合成することができ、得られるオリゴヌクレオチド誘導体は、カラムを用いて精製し、生成物の純度を逆相HPLCやMALDI-TOF-MSで分析することにより、精製されたオリゴヌクレオチドを得ることができる。なお、オリゴヌクレオチドを酸付加塩とする方法は、当業者に周知である。
【0138】
また、オリゴスペルミン領域は、例えば、オリゴスペルミンをヌクレオチドに替えて有するオリゴスペルミンアミダイトを合成し、このアミダイトを用いて、公知のDNA等合成法に適用することで、オリゴヌクレオチドの3’末端及び/又は5’末端ほか、オリゴヌクレオチド鎖の末端以外の任意の個所に付加することができる。また、合成したオリゴヌクレオチドの5’末端や3’末端に、別途、オリゴスペルミンを付加することもできる。
【0139】
本明細書に開示される二本鎖オリゴヌクレオチドは、標的mRNAの作用を抑制する、すなわち、標的mRNAがコードするタンパク質の発現を抑制するためのsiRNAとして利用できる。すなわち、siRNAとしての必須な構造を備える場合には、生体内成分(RISCタンパク質)と複合体を形成して、配列特異的にmRNAを切断することにより、mRNA上の情報がリボソームにより特定のタンパク質へ翻訳されることをできなくする。また、二本鎖オリゴヌクレオチドは、miRNAを構成する構成物として、あるいはまた、一本鎖オリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチドとして、ヌクレアーゼ耐性や細胞膜透過性向上の特徴を生かしつつ、利用できると考えられる。さらに、他の化合物と連結してコンジュゲートを構成することもできる。さらにまた、一本鎖オリゴヌクレオチドは、リボザイムの構成物としても利用できる。また、二本鎖オリゴヌクレオチドは、その安定性からRNAチップやその他の試薬の機能構造としても有用である。
【0140】
これらのことから、本明細書に開示される多重に化学修飾を含む二本鎖オリゴヌクレオチドは、天然ヌクレオチドにはない特徴を生かして、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤をはじめとして、遺伝子の働きを阻害して疾病を治療する種々のRNA医薬品の構成物として、従来の天然型siRNAなどに優る有用性が期待される。
【0141】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0142】
(二本鎖オリゴヌクレオチドの創製)
図1に示す二本鎖オリゴヌクレオチド(siRQ238)を合成した。この二本鎖オリゴヌクレオチドは、ヒトRECQL1メッセンジャーRNAのエキソンの一部と同一の塩基配列のパッセンジャー鎖と前記塩基配列に相補的な塩基配列のガイド鎖とを有し、RECQL1遺伝子の発現を抑制するsiRNAである。具体的には、以下の構造を備えている。
【0143】
(パッセンジャー鎖:センス鎖)
パッセンジャー鎖は、ヒトRECQL1メッセンジャーRNAのエキソンの一部と同一である塩基配列(5’-GUUCAGACCACUUCAGCUU-3’:配列番号1)を有し、かつ、以下の多重化学修飾を有している。なお、パッセンジャー鎖及び以下に説明するガイド鎖におけるこれらの修飾は、修飾に対応するヌクレオシド誘導体を有するホスホロアミダイトを合成し、当該ホスホロアミダイトを用いてRNA合成機によって合成した。なお、スペルミンについてはパッセンジャー鎖の合成の最後に、その5‘末端へリン酸ジエステル結合を介して、結合させた。
【0144】
(a)5’-末端にリン酸ジエステル結合を介してスペルミン残基が15個連結されている。
(b)5’-末端から20、21番目のヌクレオシドはチミジンが組み込まれている。
(c)5’-末端19番目から21番目のヌクレオシド間のインターヌクレオチドリン酸エステル結合には、ホスホロチオエート(S化)修飾が施されている。
(d)5’-末端から3番目、18番目のヌクレオシドには、4’-アミノエチル-2’-フルオロウリジンが導入されている。
(e)5’-末端から2、4、12、13、14、17、19番目のヌクレオシドには、2’-O-メチル (OMe) 修飾が施されている。
【0145】
(ガイド鎖:アンチセンス鎖) ガイド鎖は、ヒトRECQL1メッセンジャーRNAのエキソンの一部の塩基配列と相補的な塩基配列(5’-AAGCUGAAGUGGUCUGAAC-3’:配列番号2)を有し、かつ、以下の多重化学修飾を有している。
【0146】
(a)5’-末端から1、13、15、19番目のヌクレオチドには、2’-O-メチル(OMe)修飾が施されている。
(b)5’-末端から2番目、4番目のヌクレオチドには、2’-フルオロ(F)修飾が施されている。
(c)5’-末端の16から21番目のヌクレオチド間のインターヌクレオチドリン酸エステル結合には、ホスホロチオエート(S化)修飾が施されている、
(d)5’-末端から20、21番目のヌクレオチドにはチミジンが組み込まれている。
【0147】
オリゴヌクレオチドの合成は,ホスホロアミダイト法を用いたDNA自動合成機によって0.2μmolスケールで行った。天然ヌクレオシドのアミダイト及び化学修飾ヌクレオチドは0.1M、オリゴスペルミンアミダイトは0.15MになるようにMeCNでそれぞれ希釈し、CPG樹脂は、その活性に基づいて0.2μmol相当をカラムに詰め合成を開始した。なお、5水酸基をDMTrで保護した状態で合成を終了した。合成終了後、CPG樹脂をサンプリングチューブに移し、CPG樹脂にMeCN900μL、ジエチルアミン100μLを加えて室温で10分間インキュベートし、上清を捨て、MeCN1mLで2回CPG樹脂を洗った。そこに、メチルアミン500μLとNH3aq.500μLを加えて65℃で10分間インキュベートした。インキュベート後サンプルはサンプリングチューブに移し、CPG樹脂はH2Oを1mL加えて2回洗い込んだ。それを減圧乾固し,続いてTBDMS基を脱保護するためにサンプルをDMSO100μLに溶かし、TEA25μLとTEA・3HF125μLを加えて撹拌した後65℃で90分インキュベートした。
【0148】
(Glen-Pakでの精製)
MeCN1mLと2MTEAA1mLでカートリッジを洗浄後、インキュベートしたサンプルにRNA/Quenching Bufferを1mL加えて、これをカートリッジに通し、その後、以下の順に溶液をカートリッジへ流した。
1.10%MeCN、90%2M TEAA(pH7.0) 1mL
2.H2O 1mL
3.2% TFA1mL×2回
4.H2O 1mL×2回
【0149】
最後に1M炭酸アンモニウム/30%MeCN1mLで溶出した。オリゴヌクレオチドは0.1% NH3aq1mLに溶かし、希釈液の260nmにおける吸光度から収量を求めた。また、30pmol相当のオリゴヌクレオチドを減圧乾固させ、3μlの滅菌水及び3μlのマトリックス溶液とよく混和し、プレート上で乾固した後、MALDI-TOF/MSで分子量を測定し、目的物の確認を行った。
【実施例2】
【0150】
(4’位における塩基性基によるヌクレアーゼ耐性の評価)
本実施例では、以下の二本鎖オリゴヌクレオチドを準備した。全てを天然ヌクレオチドで構成した無修飾オリゴヌクレオチドを合成するほか、Renilla luciferaseのmRNAを標的とした以下の塩基配列における特定のU(イタリック)の場所には、4’位にアミノエチル基を有するとともに2‘位にはハロゲン原子又はアルキル(O-CH
3)基で水酸基を置換した二本鎖オリゴヌクレオチドを合成した。これらのオリゴヌクレオチドを、5.4μMの濃度で、37℃、20%ウシ血清を含むD-MEM培地でインキュベートして、Renilla luciferaseとFirefly luciferaseの蛍光強度比から、RNAi活性を評価し、ヌクレアーゼ耐性とした。なお、コントロールはsiRNAを導入していないものとした。結果を、
図2に示す。
【0151】
【0152】
図2に示すように、2’位の化学修飾にかかわらず、これらの4’位にアルキルアミノ基を有する化学修飾オリゴヌクレオチドは天然型の無修飾オリゴヌクレオチドに比べ、ヌクレアーゼに対して著しく安定であることがわかった。
【実施例3】
【0153】
(二本鎖オリゴヌクレオチドによる遺伝子抑制の評価)
本実施例では、実施例1で合成したRECQL1-siRNAの配列を有する二本鎖オリゴヌクレオチド(siRQ238)につき、RNA干渉活性を評価した。すなわち、この二本鎖オリゴヌクレオチドを、ES-2細胞中でのRNA干渉作用を、以下の方法により、5%FBS血清存在下で評価した。
【0154】
図3に示すように、一日前から培養したES-2細胞の5%子牛血清を含むMonolayer culture(細胞数3000個/well)へ二本鎖オリゴヌクレオチド(siRQ238)をDDS無しで、200nM,250nMの濃度で加えて、48時間培養した。その後、ES-2細胞中のRECQL1 mRNAの量をPCRで測定した。また、コントロールとしてsiRQ238(20nM)を、リポフェクタミンをDDSとするトランスフェクションにより細胞中へ導入し、同様にRECQL1 mRNAの量をPCRで測定した。さらに、いずれについても、siRNA処理をしない細胞中のRECQL1 mRNAの量を100%(白色ヒストグラム)として示した。結果を
図3に示す。
【0155】
図3に示すように、この二本鎖オリゴヌクレオチドは、DDSフリーで、200nM終濃度で、約60%の細胞内RECQL1 mRNAを48時間以内に分解することが判った。また、終濃度250nMでは約90%のRECQL1 mRNAを分解していることが判った。濃度的には、従来のリポフェクタミンをDDSとして用いた場合と比較すると約10倍量のsiRNAが必要であるが、これまで、無修飾の、例えば、天然型のsiRNAで、は500nMの高濃度を擁しても、全く(0%)細胞内のRECQL1メッセンジャーを分解しなかったことを鑑みると、DDSフリーでこのような高活性を示すオリゴヌクレオチドを得たことは予想を超える効果であった。また、siRQ238についても、リポフェクタミンを使ってトランスフェクションすれば、20nM程度の低濃度でRNA干渉を引き起こすことができるので、siRQ238自体が細胞内へ入りさえすれば天然型siRNAと同等のRNA干渉活性を発揮することが判る。実際、siRQ238は、細胞膜を通過して細胞内へはいる障害を克服し、例えば、実施例1で作製した二本鎖オリゴヌクレオチドに於いて、その障害が低減していると考えられた。
【実施例4】
【0156】
(二本鎖オリゴヌクレオチドの細胞膜透過性の評価)
本実施例では、実施例3で合成した二本鎖オリゴヌクレオチドについて細胞膜透過性を評価した。すなわち、siRQ238が、2.5,5,10%血清存在下において、DDSフリーで細胞内へ入り、RNA干渉反応を行えるかについて、250nMのsiRQ238濃度を選択し、実施例3で示したと同様の条件で評価した。結果を、
図4に示す。
【0157】
図4に示すように、一般に、二本鎖オリゴヌクレチドの細胞透過力は、血液中のタンパク質との結合により妨げられることが知られているが、実施例3で合成した二本鎖オリゴヌクレオチドは、種々の血清濃度中で測定したところ、血清濃度0%で最も大きいRNA干渉(80%)を示し、血清濃度を上昇させるにつれ、RNA干渉は減少したが、10%の血清存在下でもRNA干渉活性を示すことが判った。このことは、siRQ238が生体に対してもDDSフリーで効果があることを示唆した。
【実施例5】
【0158】
(二本鎖オリゴヌクレオチドの遺伝子発現抑制活性の評価)
本実施例では、実施例3で合成した二本鎖オリゴヌクレオチドsiRQ238を代表とする化学修飾siRNAについて、「DDSフリーで細胞内へ浸透し、RNA干渉を触媒する活性」がHeLa細胞や卵巣がんES-2細胞以外の、種々の卵巣がん細胞中でおいても発揮できるか否かについて調べた。ヒト卵巣がんは、漿液性がん、明細胞がん、類内膜性がん、粘液性がんの4種に分けられる。二本鎖オリゴヌクレオチドsiRQ238が、これらの種々の卵巣がんへの細胞透過作用と細胞内でのRNA干渉作用を、以下の方法で評価した。
【0159】
すなわち、ES-2明細胞がんで示したと同様にRNA干渉効果を発揮できるかについて、実施例3に示したと同様の方法で評価した。即ち、ヒト卵巣がん明細胞3種類(ES-2、KOC-5C、SKOV3)、類内膜性がん(TOV-112)、漿液性がん(OVCAR-3)の5種類の細胞のMonolayer cultureへsiRQ238(250nM)を、DDSフリー、5%ウシ胎児血清存在下に加え、48時間後、細胞内のRECQL1 mRNAの分解による減少を測定した。ここで用いた卵巣がん細胞はRECQL1 mRNAが減少すれば培養中に死ぬことが真田(参考文献)らの研究から判っている(S. Sanadaら、RECQL1 DNA repair helicase: a potential therapeutic target and a proliferative marker against ovarian cancer: PLoS One. (2013) 9:e72820. doi: 10.1371/journal.pone.0072820)。結果を、
図5に示す。
【0160】
図5に示すように、調べた全ての卵巣がん細胞においてsiRQ238が40%から60%の阻害効果を示すこと明らかになり、このことは、siRQ238を代表とする化学修飾RECQL1-siRNAがほとんどの卵巣がん細胞に対して、その増殖を抑えることができることを示した。
【実施例6】
【0161】
(二本鎖オリゴヌクレオチドのIn vitroにおける卵巣がん細胞殺傷活性の評価)
本実施例では、実施例3で合成した二本鎖オリゴヌクレオチドの卵巣がん細胞の殺傷活性について、二本鎖オリゴヌクレオチドを、DDSフリーの条件下で卵巣がん細胞へ与えたとき、細胞内へ浸透し、細胞分裂時にMitotic Deathを誘導して、アポトーシス様の自殺作用を起こして、殺作用を惹起するか否かについて確認した。すなわち、実施例3~5において、siRQ238がDDSフリーで細胞内へ入り、RNA干渉反応を触媒し、RECQL1のmRNAを分解し、減少させることを測定したが、実際にsiRQ238が癌細胞を殺傷するかについて確認の実験を行った。具体的には、以下の方法によって評価した。
【0162】
卵巣がん細胞ES-2のMonolayer cultureに対して異なる濃度のsiRQ238を、DDSフリーで、5%血清存在下に加え、96時間後に、癌細胞の生死をWSTアッセイで測定した。この実験は、次に予定している動物実験においてどの程度のsiRQ238を担癌マウスへ与えたらよいかを探る探索実験でもある。実験条件は、特に記載しない限りは、基本的に実施例3の場合と同様とした。ES-2明細胞がんに対する結果を
図6に示す。
【0163】
図6に示すように、二本鎖オリゴヌクレオチドは、がん細胞との接触96時間後、濃度依存的に細胞を死亡させることがわかった。RECQL1-siRNAやWRN-siRNAは、チェックポイント機能が不完全な多くのがん細胞で、mRNAのサイレンスに伴い、細胞分裂時(M期)に、Mitotic Death(分裂死)を引き起こすことを、二見らは報告しているが(参考文献3~8)、siRQ238の作用はそれらの報告と矛盾しない。すなわち、(i)RNA干渉によりRECQL1ヘリカーゼタンパクの生合成をおさえ、(ii)このため増殖時のがん細胞の DNA修復が阻害され、(iii)複製したゲノムが多くの不完全DNAを含むため、(iv)細胞が有する厳密なDNAチェックポイント(QOLチェック)に捕捉され、(v)アポトーシス様の自殺死を遂げること、を報告している(参考文献3、4)。
【0164】
なお、本発明者らは、二本鎖オリゴヌクレオチドがDDSフリーでES-2細胞を死に至らしめる光景をGFP(緑色蛍光プロテイン)で標識したES-2細胞を使って、siRQ238処理後の細胞の様子をタイムラプス実験により顕微鏡観察したところ、ES-2細胞は、セルサイクルにおけるM期が異常に長くなる現象を伴い、細胞が浮き上がり、アポトーシス死する様子が明らかになった(Data not shown)。したがって、siRQ238はDDSフリーで細胞内へ入り、当該細胞にゲノム不安定を起こさせ、アポトーシス死へ導いていると結論できる。
【実施例7】
【0165】
(二本鎖オリゴヌクレオチドの腹腔内投与による抗がん作用の評価)
本実施例では、実施例3で合成した二本鎖オリゴヌクレオチド(siRQ238)につき、マウス動物実験により、腹腔内投与による、抗がん作用、延命作用、腹水貯留阻止作用の3つの作用について調べた。すなわち、ヒト卵巣がん細胞ES-2を雌ヌードマウスの腹腔へ移植することにより、末期的ながん症状に似た腹腔内播種モデルマウスを作り、siRQ238を2日に一度、腹腔内投与することにより、担がんマウスの形態観察、担がんマウスへの延命効果、ならびに、がんの発育阻止効果、腹水貯留阻止効果について調べた。以下にその操作を示し、結果を
図7~10に示す。
【0166】
図7~8に示すように、がん細胞を移植(ヒト卵巣がん細胞ES-2:1x10
6細胞/匹を免疫不全ヌードマウスへ腹腔内注射にて移植)し、移植10日後にマウスの形態を蛍光観察カメラで観察するとともに(
図7)、移植17日後に各マウスの形態を観察した(
図8)。
図7の左側に示すように、コントロールとしてリン酸緩衝液を腹腔内投与したマウスではがん細胞の発育を許し、蛍光観察カメラにて腹腔内にGFP緑色蛍光を伴うがん細胞の進展が観察され、
図8の左側に示すように、形態的にも、移植17日目の担がんマウスは大きく腹部を膨らませ、腹水貯留を示唆する所見が観察された。一方、
図7の右側に示すように、二本鎖オリゴヌクレオチドsiRQ238をリン酸緩衝液に溶解して投与(144マイクログラム/匹/マウス腹腔内注射)したマウスでは、移植10日目腹部(腹腔内)にGFP緑色蛍光を認めず、
図8の右側に示すように、17日目に於いても、がん細胞移植前と同様の健全な容姿であり、siRQ238投与の是非により形態学的に大きな変化が見られた。これらの結果から、GFP蛍光観察によっても、形態学的観察によっても、siRQ238投与によるがん細胞進展の著名な抑制効果が示唆された。
【0167】
また、
図9に示すように、二本鎖オリゴヌクレオチドの担癌マウスへの延命効果には著しい効果が見られた。すなわち、コントロールマウスは18日目までに3匹中2匹が死亡したが、siRQ238投与マウスでは、その後も存命し、24日以降はsiRQ238の投与を中止したのち、31日に至ってもマウスは死亡することはなかった。
【0168】
さらに、
図10に示すように、がんの発育阻止効果については、コントロールマウスとsiRQ238投与マウスを開腹して調べたところ、コントロールマウスでは17日までにES-2腫瘍が腹腔内各所(膵臓・胆管周囲、腸間膜、卵巣・後腹膜周囲)に広がり多数の固形がん集塊を形成していた(
図10、上側マウス)。一方、二本鎖オリゴヌクレオチドsiRQ238を23日目まで投与した後、31日目に人為的に死亡させ(サクリファイスするとも呼ぶ)、開腹したマウスでは腹腔内各所の詳細な観察に於いても、肉眼的な腫瘍塊は検出されなかった(
図10、下側マウス)。なお、この実験に際して、二本鎖オリゴヌクレオチド投与マウスの行動や体重に変化はなく、重篤な副作用は一切見られていない。
【0169】
一般に、がん細胞の腹腔内での増殖が、腹腔の腹水管理機能を損傷し、腹水貯留を促進することは、腹腔内へ播種する多くの固形癌に見られる現象である。それらは、卵巣がん、膵がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんなど腹膜内に存在する臓器に発生する固形がんに見られる。発明者らは、siRQ238の腹水貯留を阻止する効果について、二本鎖オリゴヌクレオチドsiRQ238投与開始前 (Pre-treat)と、がん細胞移植後17日目でのコントロールマウス(PBS)、及び、siRQ238投与マウス(図内siQL#238と表記)の腹囲を測定して評価した。この結果を
図11に示す。
【0170】
図11に示すように、二本鎖オリゴヌクレオチドには腹水貯留を阻止する強い効果があることが明らかになった。すなわち、RECQL1メッセンジャーRNAをサイレンスする二本鎖オリゴヌクレオチド(siRQ238)を投与したマウスでは、投与期間の前後に於いての腹囲サイズが約6.5cmであるのにかかわらず、コントロールマウスでは腹囲サイズは漸次増大し、17日には7.5cmになっていた。コントロールマウスについて、18日目に開腹する直前に、注射器により腹水を抜いてその量を調べたところ、おおよそ循環血液量(2ml)の1.7倍に相当する3.4ml以上の多量の腹水が貯留していることが判った。一方、siRQ238投与マウスでは腹水は全く貯留しておらず、注射器では吸い出すことができなかった。
【0171】
発明者らは、以上の考察から、本オリゴヌクレオチドが有する構造部分は、二本鎖オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ耐性を付与し、さらに、DDSフリーで細胞へ浸透する能力を付与するとともに、RECQL1の遺伝子発現をRNA干渉によりサイレンスすることがわかった。さらに、ヒト卵巣がん細胞の増殖を抑制し、腹水貯留を阻止する優れた能力を持つことが、明らかになった。そのようなsiRNA分子は、これまでに開発、報告されたことはない。
【0172】
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【配列表フリーテキスト】
【0173】
配列番号1~4:siRNA
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