(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】絶縁油劣化診断装置及び絶縁油劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20241206BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H01F27/00 B
H01F41/00 D
(21)【出願番号】P 2020114552
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伸行
(72)【発明者】
【氏名】武田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】脇本 聖
(72)【発明者】
【氏名】赤川 蒼介
(72)【発明者】
【氏名】古野 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】劉 元昌
(72)【発明者】
【氏名】矢田部 塁
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 武
(72)【発明者】
【氏名】都甲 潔
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-233714(JP,A)
【文献】特開昭59-067451(JP,A)
【文献】特開2018-063201(JP,A)
【文献】特開2005-077099(JP,A)
【文献】特開平04-123408(JP,A)
【文献】国際公開第2019/207680(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107044968(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00、41/00
G01N 1/00-1/44、27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入変圧器の絶縁油の劣化診断を行う絶縁油劣化診断装置であって、
前記油入変圧器から採取した絶縁油からのガスの匂い成分を検出する複数のセンサを搭載した嗅覚センサと、
この嗅覚センサにより検出された前記油入変圧器の絶縁油の劣化前と劣化後の匂い成分の特徴量を学習したサポートベクターマシンに当該油入変圧器から採取された絶縁油の匂い成分の特徴量を供して前記劣化診断を行うデータ解析部と、
を備え、
前記データ解析部は、
前記嗅覚センサのセンサ毎のセンサ信号データに基づき当該センサ毎の特徴量データを作成し、当該センサ毎の特徴
量データから成る高次元ベクトルデータに整理する特徴量抽出部と、
前記嗅覚センサのセンサ毎のセンサ信号データに基づき前記絶縁油の劣化前と劣化後の匂い成分の特徴量を学習したサポートベクターマシンに前記高次元ベクトルデータからなる特徴量データを供して前記劣化診断を行う劣化診断部と、
を備え、
前記センサ信号データは、前記絶縁油の成分に反応した前記嗅覚センサの出力信号が発生する時間帯であるサンプルON時間と、前記嗅覚センサがキャリアガスにより洗浄される時間帯であるサンプルOFF時間とにおいて、取得され、
前記特徴量データは、前記サンプルOFF時間のセンサ信号データの平均値からの当該サンプルOFF時間及び前記サンプルON時間の前記センサ信号データの差分値を離散的に算出して時系列に並べて成ること
を特徴とする絶縁油劣化診断装置。
【請求項2】
前記劣化診断の結果は出力表示されることを特徴とする請求項1に記載の絶縁油劣化診断装置。
【請求項3】
前記劣化診断の結果は省電力無線通信により携帯端末に送信されることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁油劣化診断装置。
【請求項4】
前記劣化診断の結果はネットワークを介して遠隔制御装置に送信されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁油劣化診断装置。
【請求項5】
油入変圧器の絶縁油の劣化診断を行う絶縁油劣化診断装置が実行する絶縁油劣化診断方法であって、
前記油入変圧器から採取した絶縁油からのガスの匂い成分を検出する複数のセンサを搭載した嗅覚センサにより検出された当該油入変圧器の絶縁油の劣化前と劣化後の匂い成分の特徴量を学習したサポートベクターマシンに当該油入変圧器から採取された絶縁油の匂い成分の特徴量を供して前記劣化診断を行うデータ解析過程を有し、
前記データ解析過程は、
前記嗅覚センサのセンサ毎のセンサ信号データに基づき当該センサ毎の特徴量データを作成し、当該センサ毎の特徴
量データから成る高次元ベクトルデータに整理する特徴量抽出過程と、
前記嗅覚センサのセンサ毎のセンサ信号データに基づき前記絶縁油の劣化前と劣化後の匂い成分の特徴量を学習したサポートベクターマシンに前記高次元ベクトルデータからなる特徴量データを供して前記劣化診断を行う劣化診断過程と、
を有し、
前記センサ信号データは、前記絶縁油の成分に反応した前記嗅覚センサの出力信号が発生する時間帯であるサンプルON時間と、前記嗅覚センサがキャリアガスにより洗浄される時間帯であるサンプルOFF時間とにおいて、取得され、
前記特徴量データは、前記サンプルOFF時間のセンサ信号データの平均値からの当該サンプルOFF時間及び前記サンプルON時間の前記センサ信号データの差分値を離散的に算出して時系列に並べて成ること
を特徴とする絶縁油劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入変圧器等の油入電気機器の絶縁油の劣化を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
油入電気機器の劣化状態の診断技術としては、例えば特許文献1の油入電気機器の経年劣化診断方法や特許文献2の油入電気機器の内部状態診断装置が挙げられる。
【0003】
特許文献1の診断方法は、絶縁油に溶存する劣化生成物を水溶液中に抽出し、ケトン類に感度を有する水溶液用センサを用いて油入電気機器の経年劣化を診断する。または、サンプリングされた絶縁油を気相状態にして、ケトン類に感度を有する合成2分子膜センサを用いて油入電気機器の経年劣化を診断する。
【0004】
特許文献2の診断装置は、油入電気機器の絶縁油中に含まれるガスの臭気を検知する臭気検出手段を備えた診断装置により油入電気機器の内部状態を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-160379号公報
【文献】特開平1-233714号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】B. Wyszynski, R. Yatabe, A. Nakano, M. Nakatani, A. Oki, H. Oka, K. Toko: "Array of Chemosensitive Resistors with Composites of Gas Chromatography (GC) Materials and Carbon Black for Detection and Recognition of VOCs: A Basic Study", Sensors, Issue 17,1606,2017-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2の診断手法は、油入電気機器の絶縁油に含まれる成分の分析により当該機器の経年劣化や内部状態を診断するが、絶縁油の劣化診断を行うものではない。
【0008】
本発明は、以上の事情を鑑み、油入電気機器の絶縁油の劣化診断を行えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の一態様は、油入変圧器の絶縁油の劣化診断を行う絶縁油劣化診断方法であって、前記油入変圧器の絶縁油の劣化前と劣化後の匂い成分の特徴量を学習したサポートベクターマシンに前記油入変圧器から採取された絶縁油の匂い成分の特徴量を供して前記劣化診断を行う。
【0010】
本発明の一態様は、油入変圧器の絶縁油の劣化診断を行う絶縁油劣化診断装置であって、前記油入変圧器の絶縁油の劣化前と劣化後の匂い成分の特徴量を学習したサポートベクターマシンに前記油入変圧器から採取された絶縁油の匂い成分の特徴量を供して前記劣化診断を行うデータ解析部を備える。
【0011】
本発明の一態様は、前記絶縁油劣化診断装置において、前記劣化診断の結果は出力表示される。
【0012】
本発明の一態様は、前記絶縁油劣化診断装置において、前記劣化診断の結果は省電力無線通信により携帯端末に送信される。
【0013】
本発明の一態様は、前記絶縁油劣化診断装置において、前記劣化診断の結果はネットワークを介して遠隔制御装置に送信される。
【発明の効果】
【0014】
以上の本発明によれば、油入電気機器の絶縁油の劣化診断を行える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一態様である実施形態1の劣化診断装置のブロック構成図。
【
図3】実施形態1のデータ計測動作スケジュールの具体例。
【
図4】実施形態1の嗅覚センサから出力信号を例示した信号波形図。
【
図5】実施形態1のデータ解析部のブロック構成図。
【
図6】前記嗅覚センサにより得られた特徴量データの作成例。
【
図7】高次元ベクトルに整理された前記特徴データの構成例。
【
図8】実施形態1の診断処理部による劣化診断処理のフロー図。
【
図9】本発明の一態様である実施形態2の絶縁油劣化診断装置のブロック構成図。
【
図10】実施形態2の油循環処理のフローチャート。
【
図11】実施形態2の絶縁油劣化診断装置が適用された油入変圧器の点検作業説明図。
【
図12】本発明の一態様である実施形態3の絶縁油劣化診断装置のブロック構成図。
【
図13】実施形態3の絶縁油劣化診断装置が適用された油入変圧器の点検作業説明図。
【
図14】本発明の一態様である実施形態4の絶縁油劣化診断装置のブロック構成図。
【
図15】実施形態4の絶縁油劣化診断装置が適用された油入変圧器の点検作業説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0017】
[実施形態1]
図1に示された絶縁油劣化診断装置1は、図示省略の油入電気機器例えば油入変圧器から採取された絶縁油の劣化診断を行う。絶縁油劣化診断装置1は、サンプル容器2、キャリアガスタンク3、ガス混合容器4、第一電磁弁V1、第二電磁弁V2、嗅覚センサ5、ポンプP1、データ解析部6及び制御部7を備える。
【0018】
サンプル容器2は、前記油入電気機器から採取された絶縁油が封入される。
【0019】
キャリアガスタンク3は、サンプル容器2及びガス混合容器4に供されるキャリアガスが充填される。前記キャリアガスとしては窒素ガスが用いられる。
【0020】
ガス混合容器4は、サンプル容器2からのガスとキャリアガスタンク3からの前記キャリアガスとを混合する容器である。
【0021】
第一電磁弁V1は、キャリアガスタンク3とガス混合容器4との間のガス供給ラインに備えられ、制御部7からの弁調整指令により弁開閉度合Aが任意に調整される。
【0022】
第二電磁弁V2は、サンプル容器2とガス混合容器4との間のガス供給ラインに備えられ、制御部7からの弁調整指令により弁開閉度合Bが任意に調整される。
【0023】
嗅覚センサ5は、ガス混合容器4から供されたガスの匂い成分を検出し、この検出信号を出力する。嗅覚センサ5としては、複数(例えば16チャンネル)のセンサを搭載したセンサアレイにより構成する人工嗅覚システムが挙げられる(非特許文献1)。前記センサは、チャンネル毎に異なるGC固定相材料から成り、マルチチャネルのデータから学習した匂いの識別が可能となっている。前記人工嗅覚システムは、センサ受容部にガスクロマトグラフィー質量分析計(GCMS)のカラムの充填剤(GC材料)とカーボンブラックを混合してできた受容膜を有する。そして、匂い物質が膜に吸収されると膜の導電性が変化し、これに伴う抵抗値の変化がセンサ応答として出力される。
【0024】
ポンプP1は、嗅覚センサ5を介してガス混合容器4内のガスを吸引する。ポンプP1には流量計が付属され、前記ガスの流量が制御される。
【0025】
データ解析部6は、前記絶縁油の劣化診断に供される後述の解析パラメータを予め保存し、制御部7からの制御信号に基づき、嗅覚センサ5からの匂い成分のセンサ信号を時系列に整理したセンサ信号データのデータ解析を行い、前記劣化診断を行う。
【0026】
制御部7は、第一電磁弁V1、第二電磁弁V2、ポンプP1及びデータ解析部6を制御する。
【0027】
図2を参照して制御部7の態様例について詳細に説明する。
【0028】
制御部7は、パラメータ入力部71、診断スケジュール管理部72及び記憶部73を実装する。
【0029】
パラメータ入力部71は、外部から入力された制御パラメータを診断スケジュール管理部72経由で記憶部73に保存する。前記制御パラメータは、ガス流量設定値、センサ洗浄時間設定値、サンプルON時間、サンプルOFF時間、サンプルON/OFF繰り返し回数、サンプルON開閉度設定値及びサンプルOFF開閉度設定値を含む。
【0030】
診断スケジュール管理部72は、予め設定されたデータ計測動作スケジュールに基づきガス流量、弁開閉度合A、弁開閉度合B、センサ信号記録指令及びデータ解析指令を出力する。前記ガス流量はポンプP1に出力される。弁開閉度合Aは第一電磁弁V1に出力される。弁開閉度合Bは第二電磁弁V2に出力される。前記センサ信号記録指令及び前記データ解析指令はデータ解析部6に出力される。
【0031】
図3を参照してデータ計測動作スケジュールの具体例について説明する。
【0032】
前記データ計測動作スケジュールは、各時間帯に対応して、ガス流量、弁開閉度合A、弁開閉度合B、センサ信号記録指令の各値が任意に設定される。
【0033】
前記データ計測動作スケジュールにおいて、センサ洗浄時間とデータ計測時間以外の時間が待機時間となる。前記データ計測時間は、サンプルON時間とサンプルOFF時間の一組を一回の計測周期とする。そして、この計測周期がサンプルON/OFF繰り返し回数だけ繰り返した時に要する時間である。
【0034】
ガス流量は、待機時間においては、ガス流量値を0とし、センサ洗浄時間とデータ計測時間は、ガス流量設定値をガス流量値として設定される。
【0035】
弁開閉度合Aは、待機時間においては、弁開閉度合A値が0として設定される。センサ洗浄時間においては、サンプルOFF開閉度設定値が弁開閉度合A値として設定される。データ計測時間においては、サンプルON時間についてはサンプルOFF開閉度設定値からサンプルON開閉度設定値を差し引いた値が弁開閉度合A値として、サンプルOFF時間についてはサンプルOFF開閉度設定値が弁開閉度合A値として設定される。
【0036】
弁開閉度合Bは、待機時間とセンサ洗浄時間においては、弁開閉度合B値が0として設定される。データ計測時間においては、サンプルON時間についてはサンプルON開閉度設定値が弁開閉度合B値として、サンプルOFF時間については弁開閉度合B値が0として設定される。
【0037】
センサ信号記録指令は、待機時間とセンサ洗浄時間はセンサ信号記録指令値が0として、データ計測時間はセンサ信号記録指令値が1として設定される。
【0038】
前記データ計測動作スケジュールに従ってポンプP1、第一電磁弁V1、第二電磁弁V2及びデータ解析部6が制御されることで、例えば
図4に示したように嗅覚センサ5の各センサからのセンサ信号を時系列に記録したノコギリ状のセンサ信号データが得られる。サンプルON時間においては絶縁油の成分に反応した嗅覚センサ5の出力信号が発生する。サンプルOFF時間においては嗅覚センサ5が前記キャリアガスにより洗浄されるので、前記出力信号が減少する。
【0039】
前記センサ信号データは、データ計測時間の間、データ解析部6において記録される。データ解析指令は、データ解析部6にデータ解析を実行させる場合はデータ解析指令値を1として、当該解析を実行させない場合は0として設定される。
【0040】
図5を参照してデータ解析部6の態様例について詳細に説明する。
【0041】
データ解析部6は、パラメータ入力部61、指令設定部62、センサ信号データ作成部63、記憶部64、特徴量抽出部65、劣化診断部66、結果出力部67及びセンサ信号データ出力部68を実装する。
【0042】
パラメータ入力部61は、外部から入力された解析パラメータと、制御部7から受けた制御パラメータとを、記憶部64に保存する。
【0043】
指令設定部62は、制御部7からセンサ信号記録指令及びデータ解析指令を受けて、当該センサ信号記録指令を優先するように解析制御状態の値を設定して出力する。
【0044】
前記解析制御状態は、待機状態値、センサ信号記録状態値またはデータ解析状態値のいずれかにより示される。
【0045】
センサ信号記録指令値及びデータ解析指令値が0である場合、解析制御状態は待機状態値となる。
【0046】
センサ信号記録指令値が1である場合、解析制御状態はセンサ信号記録状態値となる。
【0047】
センサ信号記録指令値が0である一方でデータ解析指令値が1である場合、解析制御状態はデータ解析状態値となる。
【0048】
センサ信号データ作成部63は、指令設定部62から供された解析制御状態がセンサ信号記録状態値である場合、嗅覚センサ5から入力されたセンサ信号を時系列に整理したセンサ信号データを記憶部64に保存する。
【0049】
特徴量抽出部65は、指令設定部62から供された解析制御状態がデータ解析状態値である場合、記憶部64から引き出した制御パラメータとセンサ信号データとに基づき抽出された当該センサ信号データの特徴量を特徴量データとして記憶部64に保存する。
【0050】
以下に特徴量データの作成について説明する。
【0051】
先ず、サンプルOFF時間のセンサ信号の平均値が算出され、この平均値からのセンサ信号の差分値を離散的に算出して並べることにより、センサ毎の特徴量データを作成する。センサ毎の特徴量データの作成例を
図6に示した。
【0052】
次に、センサ毎に算出された特徴量データから成る高次元ベクトルデータに整理する。この高次元ベクトルデータが特徴量データとなる。高次元ベクトルデータに整理して特徴量データとする例を
図7に示す。
【0053】
劣化診断部66は、解析制御状態がデータ解析状態値である場合、記憶部64から引き出した解析パラメータ及び特徴量データをサポートベクターマシンに供して前記劣化診断を行う。この診断により得られた「劣化あり」または「劣化なし」とする診断結果が前記絶縁油の劣化診断結果として記憶部64に保存される。前記サポートベクターマシンは、2クラス分類器であって、前記解析パラメータが適用される。前記解析パラメータは、予め採取された劣化前と劣化後の前記絶縁油の匂い成分のセンサ信号データに基づく特徴量を教師データとするオフライン学習により得られた2クラス分類器の線形入力素子のパラメータを含む。
【0054】
図8を参照して劣化診断部66による劣化診断処理の過程について説明する。
【0055】
S101:記憶部64から前記解析パラメータを読み出す。
【0056】
S102:前記サポートベクターマシンを起動させる。
【0057】
S103:記憶部64から前記絶縁油の特徴量データを読み出す。
【0058】
S104:前記読み出された解析パラメータ及び特徴量データを前記サポートベクターマシンに供して前記絶縁油の劣化の有無を診断する。
【0059】
S105:S104で得られた前記劣化の有無を劣化診断結果として記憶部64に保存する。
【0060】
結果出力部67は、記憶部64から劣化診断結果を読み出して外部に出力する。
【0061】
センサ信号データ出力部68は、記憶部64から前記劣化診断結果に対応したセンサ信号データを引き出して外部に出力する。
【0062】
以上の実施形態1の絶縁油劣化診断装置1によれば、油入電気機器から採取された絶縁油の匂い成分の特徴量に基づき当該絶縁油の劣化診断が行える。
【0063】
[実施形態2]
図9に示された実施形態2の絶縁油劣化診断装置1は油入変圧器10に取り付けられる。
【0064】
油入変圧器10の絶縁油は、絶縁油劣化診断装置1により定期的に自動採取されて劣化診断が行われ、この劣化診断の結果が絶縁油劣化診断装置1から出力表示される。
【0065】
本実施形態の絶縁油劣化診断装置1は、実施形態1の態様において、油量計11、第三電磁弁V3、油ポンプP2、油循環制御部12、インジケータ13をさらに備える。
【0066】
油量計11は、サンプル容器2内の絶縁油の量を計測して油循環制御部12に出力する。
【0067】
第三電磁弁V3は、油循環制御部12から出力された弁開閉度合Cに基づき開閉動作して油入変圧器10からサンプル容器2に絶縁油を供給する。
【0068】
油ポンプP2は、油循環制御部12から出力された油流量に基づき動作してサンプル容器2から絶縁油を油入変圧器10に返送する。
【0069】
油循環制御部12は、予め設定された循環時間間隔毎に動作し、第三電磁弁V3と油ポンプP2の制御により、サンプル容器2内の絶縁油を循環させる。
【0070】
油循環制御部12には、循環時間間隔、サンプル油量、サンプル油入替量、弁開閉度合C設定値及び油流量設定値が予め設定される。
【0071】
油循環制御部12は循環時間間隔毎に制御信号を第三電磁弁V3及び油ポンプP2に出力する。油循環制御部12は、サンプル容器2の油量計11の値がサンプル油量からサンプル油入替量を差し引いた値になるまで、油流量の値を油流量設定値にして油ポンプP2に出力する。その後、油流量の値を0にして油ポンプP2に出力する。次いで、サンプル容器2の油量計11の値がサンプル油量になるまで弁開閉度合Cの値を弁開閉度合C設定値にして第三電磁弁V3に出力する。その後、弁開閉度合Cの値を0にして第三電磁弁V3に出力する。以上のように、サンプル容器2内の絶縁油が自動的に循環する。
【0072】
図10を参照して油循環制御部12による油循環処理の過程について説明する。
【0073】
S201:絶縁油劣化診断装置1の時計(タイマー)が起動する。
【0074】
S202:前記循環時間間隔が経過した場合(Yes)はS203に移行する。一方、前記循環時間間隔が経過していない場合(No)はS209に移行して待機状態となる。
【0075】
S203:油流量の値を油流量設定値にして油ポンプP2に出力する。
【0076】
S204:油流量をサンプル容器2の油量計11の値がサンプル油量からサンプル油入替量を差し引いた値となるまで(Yes)、油流量の値を油流量設定値にして油ポンプP2に出力する。
【0077】
S205:油流量の値を0にして油ポンプP2に出力する。
【0078】
S206:サンプル容器2の油量計11の値がサンプル油量になるまで弁開閉度合Cの値を弁開閉度合C設定値にして第三電磁弁V3に出力する。
【0079】
S207:サンプル容器2の油量計11の値がサンプル油量になると(Yes)、S208に移行する。
【0080】
S208:弁開閉度合Cの値を0にして第三電磁弁V3に出力する。
【0081】
S209:第三電磁弁V3及び油ポンプP2を停止させる。
【0082】
本実施形態の第一電磁弁V1、第二電磁弁V2、嗅覚センサ5、ポンプP1、データ解析部6及び制御部7の動作は、実施形態1と同様となる。
【0083】
インジケータ13は、データ解析部6で得られた劣化診断の結果である絶縁油の劣化の有無を警告灯の点灯等により出力表示する。
【0084】
以上の実施形態2の絶縁油劣化診断装置1によれば、実施形態1と同様の効果が得られることは明らかである。特に、
図11に示したように油入変圧器10が設置された現地の電気設備において、油入変圧器10の絶縁油が定時的に劣化診断される。そして、この診断の結果は絶縁油劣化診断装置1のインジケータ13から出力表示されるので、保守員20が前記電気設備の点検時に前記絶縁油の劣化診断の結果を明確に把握できる。
【0085】
[実施形態3]
図12に示された実施形態3の絶縁油劣化診断装置1は、油入変圧器10の絶縁油の劣化診断結果を
図13の保守員20の携帯端末21に送信可能となっている。
【0086】
本実施形態の絶縁油劣化診断装置1は、実施形態2の態様において、劣化診断結果無線送信部14をさらに備える。劣化診断結果無線送信部14は、Bluetooth(登録商標)等の省電力無線通信により携帯端末21と通信可能となっている。
【0087】
劣化診断結果無線送信部14は、データ解析部6から供された前記絶縁油の劣化診断結果を劣化診断結果無線送信部14の内蔵メモリに一時保存する。そして、携帯端末21から前記劣化診断結果の送信要求を受けると、劣化診断結果無線送信部14は、前記内蔵メモリに保存された現時点の劣化診断結果を前記省電力無線により携帯端末21に送信する。
【0088】
以上の実施形態3の絶縁油劣化診断装置1によれば、実施形態2と同様の効果が得られることは明らかである。特に、油入変圧器10が設置されている現地の電気設備において、油入変圧器10の点検時に保守員20の携帯端末21が油入変圧器10の絶縁油の劣化診断結果を低コストに受信して記録及び確認できる。
【0089】
[実施形態4]
図14に示された実施形態4の絶縁油劣化診断装置1は、油入変圧器10の絶縁油の劣化診断結果を
図15の遠隔制御装置22に送信可能となっている。
【0090】
本実施形態の絶縁油劣化診断装置1は、劣化診断結果無線送信部14の代わりに劣化診断結果通信部15を備えたこと以外は実施形態3と同様の態様となっている。劣化診断結果通信部15は、LAN(ローカルエリアネットワーク)等のネットワークを介して遠隔制御装置22と通信可能となっている。
【0091】
劣化診断結果通信部15は、データ解析部6から前記絶縁油の劣化診断結果を受けると、実施形態1と同様に、劣化診断結果通信部15の内蔵メモリに一時保存する。そして、遠隔制御装置22から前記診断結果の送信要求により、前記内蔵メモリに保存された現時点の劣化診断結果が劣化診断結果通信部15から前記ネットワークを介して遠隔制御装置22に送信される。
【0092】
以上の実施形態4の絶縁油劣化診断装置1によれば、実施形態2と同様の効果が得られることは明らかである。特に、
図15に示したように遠隔制御装置22から離れた現地の電気設備に具備された油入変圧器10の絶縁油の劣化診断断果を保守員20が遠隔制御装置22において入手して記録及び確認できる。
【符号の説明】
【0093】
1…絶縁油劣化診断装置、2…サンプル容器、3…キャリアガスタンク、4…ガス混合容器、V1…第一電磁弁、V2…第二電磁弁、5…嗅覚センサ、P1…ポンプ
10…油入変圧器、20…保守員、21…携帯端末、22…遠隔制御装置
11…油量計、V3…第三電磁弁、P2…油ポンプ、12…油循環制御部、13…インジケータ、14…劣化診断結果無線送信部、15…劣化診断結果通信部
6…データ解析部、61…パラメータ入力部、62…指令設定部、63…センサ信号データ作成部、64…記憶部、65…特徴量抽出部、66…劣化診断部、67…結果出力部、68…センサ信号データ出力部
7…制御部、71…パラメータ入力部、72…診断スケジュール管理部、73…記憶部