(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】量子計算システムにおけるゲートの最適な較正
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20241206BHJP
【FI】
G06N10/40
(21)【出願番号】P 2023565340
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(86)【国際出願番号】 US2021065569
(87)【国際公開番号】W WO2022147168
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-08-29
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】509303349
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ メリーランド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】マクシモフ アンドリイ
(72)【発明者】
【氏名】ニロウラ プラディープ
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
【審査官】真木 健彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0125985(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0369517(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子計算プロセスを実行する方法であって、
古典的コンピュータによって、複数の論理量子ビットを量子プロセッサの複数の物理量子ビットにマッピングすることによって、複数の量子回路が前記量子プロセッサの前記物理量子ビットを使用して実行可能で
あるステップであって、
前記物理量子ビットのそれぞれは、トラップイオンを備え、
前記複数の量子回路のそれぞれは、前記複数の論理量子ビット内に複数の単一量子ビットゲート及び複数の2量子ビットゲートを備える、ステップと、
システムコントローラによって、物理量子ビットの第一の複数のペア
のそれぞれに印加されるレーザパルスの振幅及び周波数を調整して、物理量子ビットの前記第一の複数のペア内の前記2量子ビットゲートの
誤差を補正する、ステップと、
前記複数の量子回路のそれぞれにおいて単一量子ビットゲート操作及び2量子ビットゲート操作を引き起こすレーザパルスを前記複数の物理量子ビットに印加することによって、前記複数の量子回路を前記量子プロセッサ上で実行するステップと、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサ上で前記複数の量子回路を実行した後、前記量子プロセッサ内の前記物理量子ビットの量子ビット状態の集団を測定するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記複数の量子回路の前記実行の結果として、前記物理量子ビットの量子ビット状態の測定された前記集団を出力するステップであって、前記複数の量子回路の前記実行の前記結果は、ユーザインターフェース上に表示されるように、前記古典的コンピュータのメモリ内に格納されるように、又は別の計算デバイスに転送されるように構成される、ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記システムコントローラによって、
前記量子プロセッサ上で前記複数の量子回路を実行する前に、物理量子ビットの前記第一の複数のペアの量子ビット状態の集団を測定するステッ
プを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記古典的コンピュータによって、前記複数の量子回路に基づく複数の回路グラフを計算するステップであって、前記複数の回路グラフのそれぞれは、前記複数の論理量子ビットを表す複数の頂点と、前記複数の論理量子ビットのペア間の2量子ビットゲートを表す複数のエッジとを有する、ステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記古典的コンピュータによって、前記複数の回路グラフの最もコンパクトな累積スーパーグラフを計算するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記複数の回路グラフの計算された最もコンパクトな前記累積スーパーグラフに基づいて、物理量子ビットの前記第一の複数のペアを計算するステップと、
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記古典的コンピュータによって、
前記複数の回路グラフのうちの1つ
の候補回路グラフを所定の割合で
前記複数の回路グラフのうちの1つ
の回路グラフであって前記候補回路グラフの1つではない回路グラフに置換するステッ
プと、
前記古典的コンピュータによって、前
記複数の
候補回路グラフのペアに基づいて、前
記複数の
候補回路グラフに追加するための回路グラフのペアを生成するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記複数の回路グラフの最もコンパクトな累積スーパーグラフを計算するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前
記複数の
候補回路グラフを含む計算された最もコンパクトな前記累積スーパーグラフに基づいて、物理量子ビットの前記第一の複数のペアを計算するステップと、
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
物理量子ビットの前記第一の複数のペアの数は、所定の較正バジェット未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
量子計算システムであって、
複数の物理量子ビットを含む量子プロセッサであって、前記物理量子ビットのそれぞれは、トラップイオンを備える、量子プロセッサと、
古典的コンピュータであって、
複数の論理量子ビットを前記複数の物理量子ビットにマッピングすることによって、複数の量子回路が前記物理量子ビットを使用して実行可能であり
、前記複数の量子回路のそれぞれは、前記複数の論理量子ビット内に複数の単一量子ビットゲート及び複数の2量子ビットゲートを備える、古典的コンピュータと、
システムコントローラであって、
物理量子ビットの第一の複数のペア内の2量子ビットゲート
の誤差を補正するために、物理量子ビットの第一の複数のペアのそれぞれに印加されるレーザパルスの振幅及び周波数を調整することと、
前記複数の量子回路のそれぞれにおいて単一量子ビットゲート操作及び2量子ビットゲート操作を引き起こすレーザパルスを前記複数の物理量子ビットに印加することによって、前記複数の量子回路を前記量子プロセッサ上で実行することと、
前記複数の量子回路を前記量子プロセッサ上で実行した後、前記量子プロセッサ内の前記物理量子ビットの量子ビット状態の集団を測定することと、
を行うように構成された、システムコントローラと、
を備え、
前記古典的コンピュータは、
前記複数の量子回路の前記実行の結果として、前記物理量子ビットの量子ビット状態の測定された前記集団を出力するように、さらに構成され、前記複数の量子回路の前記実行の前記結果は、ユーザインターフェース上に表示されるように、前記古典的コンピュータのメモリ内に格納されるように、又は別の計算デバイスに転送されるように構成される、量子計算システム。
【請求項8】
物理量子ビットの前記第一の複数のペア内の
レーザパルスの振幅及び周波数を調整して前記2量子ビットゲートを較正することは、
前記システムコントローラによって、物理量子ビットの前記第一の複数のペアの量子ビット状態の集団を測定することと、
前記システムコントローラによって、物理量子ビットの前記第一の複数のペアのそれぞれに印加されるレーザパルスの振幅及び周波数を調整して、物理量子ビットの前記第一の複数のペアの量子ビット状態の測定された前記集団における誤差を補正することと、
を含む、請求項7に記載の量子計算システム。
【請求項9】
前記古典的コンピュータは、
前記複数の量子回路に基づいて複数の回路グラフを計算するようにさらに構成され、前記複数の回路グラフのそれぞれは、前記複数の論理量子ビットを表す複数の頂点と、前記複数の論理量子ビットのペア間の2量子ビットゲートを表す複数のエッジとを有する、請求項7に記載の量子計算システム。
【請求項10】
前記古典的コンピュータは、
前記複数の回路グラフの最もコンパクトな累積スーパーグラフを計算することと、
前記複数の回路グラフの計算された最もコンパクトな前記累積スーパーグラフに基づいて、物理量子ビットの前記第一の複数のペアを計算することと、
を行うようにさらに構成される、請求項9に記載の量子計算システム。
【請求項11】
前記古典的コンピュータは、
前記複数の回路グラフのうちの1つ
の候補回路グラフを所定の割合で
前記複数の回路グラフのうちの1つ
の回路グラフであって前記候補回路グラフの1つではない回路グラフに置換す
ることと、
前記複数の
候補回路グラフのペアに基づいて、前
記複数の
候補回路グラフに追加するための回路グラフのペアを生成することと、
前記古典的コンピュータによって、前記複数の回路グラフの最もコンパクトな累積スーパーグラフを計算することと、
前
記複数の
候補回路グラフを含む計算された最もコンパクトな前記累積スーパーグラフに基づいて、物理量子ビットの前記第一の複数のペアを計算することと、
を行うようにさらに構成される、請求項9に記載の量子計算システム。
【請求項12】
物理量子ビットの前記第一の複数のペアの数は、所定の較正バジェット未満である、請求項7に記載の量子計算システム。
【請求項13】
前記
物理量子ビットのそれぞれは、核スピンと電子スピンを有するイオンであり、前記核スピンと前記電子スピンとの差がゼロであるようになっている、請求項7に記載の量子計算システム。
【請求項14】
前記
物理量子ビットのそれぞれは、核スピン1/2及び2S1/2超微細状態を有するイオンである、請求項13に記載の量子計算システム。
【請求項15】
多数の命令が中に格納された不揮発性メモリを備える量子計算システムであって、前記多数の命令は、1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記量子計算システムに、
古典的コンピュータによって、複数の論理量子ビットを量子プロセッサの複数の物理量子ビットにマッピングすることによって、複数の量子回路が前記量子プロセッサの前記物理量子ビットを使用して実行可能で
あるステップであって、
前記物理量子ビットのそれぞれは、トラップイオンを備え、
前記複数の量子回路のそれぞれは、前記複数の論理量子ビット内に複数の単一量子ビットゲート及び複数の2量子ビットゲートを備える、ステップと、
システムコントローラによって、物理量子ビットの第一の複数のペア
のそれぞれに印加されるレーザパルスの振幅及び周波数を調整して、物理量子ビットの前記第一の複数のペア内の前記2量子ビットゲートの
誤差を補正する、ステップと、
前記複数の量子回路のそれぞれにおいて単一量子ビットゲート操作及び2量子ビットゲート操作を引き起こすレーザパルスを前記複数の物理量子ビットに印加することによって、前記複数の量子回路を前記量子プロセッサ上で実行するステップと、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサ上で前記複数の量子回路を実行した後、前記量子プロセッサ内の前記物理量子ビットの量子ビット状態の集団を測定するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記複数の量子回路の前記実行の結果として、前記物理量子ビットの量子ビット状態の測定された前記集団を出力するステップであって、前記複数の量子回路の前記実行の前記結果は、ユーザインターフェース上に表示されるように、前記古典的コンピュータのメモリ内に格納されるように、又は別の計算デバイスに転送されるように構成される、ステップと、
を含む操作を実行させる、量子計算システム。
【請求項16】
前記システムコントローラによって、
前記量子プロセッサ上で前記複数の量子回路を実行する前に、物理量子ビットの前記第一の複数のペアの量子ビット状態の集団を測定する
ステップ、
を含む、請求項15に記載の量子計算システム。
【請求項17】
前記古典的コンピュータによって、前記複数の量子回路に基づく複数の回路グラフを計算するステップであって、前記複数の回路グラフのそれぞれは、前記複数の論理量子ビットを表す複数の頂点と、前記複数の論理量子ビットのペア間の2量子ビットゲートを表す複数のエッジとを有する、ステップ
をさらに含む、請求項15に記載の量子計算システム。
【請求項18】
前記古典的コンピュータによって、前記複数の回路グラフの最もコンパクトな累積スーパーグラフを計算するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記複数の回路グラフの計算された最もコンパクトな前記累積スーパーグラフに基づいて、物理量子ビットの前記第一の複数のペアを計算するステップと、
をさらに含む、請求項
17に記載の量子計算システム。
【請求項19】
前記古典的コンピュータによって、
前記複数の回路グラフのうちの1つ
の候補回路グラフを所定の割合で
前記複数の回路グラフのうちの1つ
の回路グラフであって前記候補グラフの1つではない回路グラフに置換するステッ
プと、
前記古典的コンピュータによって、前
記複数の
候補回路グラフのペアに基づいて、前
記複数の
候補回路グラフに追加するための回路グラフのペアを生成するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記複数の回路グラフの最もコンパクトな累積スーパーグラフを計算するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前
記複数の
候補回路グラフを含む計算された最もコンパクトな累積スーパーグラフに基づいて、物理量子ビットの前記第一の複数のペアを計算するステップと、
をさらに含む、請求項15に記載の量子計算システム。
【請求項20】
物理量子ビットの前記第一の複数のペアの数は、所定の較正バジェット未満である、請求項13に記載の量子計算システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府のライセンス権)
本発明は、米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)によって授与された70NANB16H168に基づく米国政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、一般に、量子計算システムにおいて計算を実行する方法に関し、より具体的には、トラップイオンのグループを含む量子計算システムにおいて一連の量子ゲート演算を実行するために量子ゲート演算を較正するためのリソースを最適化する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
大規模な量子コンピュータを構築することが提案されている物理系の中に、電磁場によって真空中にトラップされ浮遊しているイオン(例えば、荷電原子)のグループがある。イオンは、数GHzの周波数で分離された内部超微細状態を有し、量子ビットの計算状態(「量子ビット状態」と呼ばれる)として使用することができる。これらの超微細状態は、レーザから供給される放射線を用いて制御することができ、本明細書ではレーザビームとの相互作用と呼ぶこともある。このようなレーザとの相互作用を利用して、イオンを運動基底状態近くまで冷却することができる。イオンは、また、2つの超微細状態のうちの1つに高精度で光学的に励起され(量子ビットの準備)、レーザビームによって2つの超微細状態の間で操作され(単一量子ビットのゲート操作)、共振レーザビームの印加時に蛍光によって内部超微細状態が検出される(量子ビットの読み出し)。イオンのペアは、イオン間のクーロン相互作用から生じるトラップイオンのグループの集団運動モードにイオンを結合させるレーザパルスを用いた量子ビット状態に依存する力によって、制御可能にもつれさせることができる(2量子ビットゲート操作)。一般に、もつれ(entanglement)は、イオン(又は粒子)のペア又はグループが、それぞれのイオンの量子状態が他のイオンの量子状態から独立して記述できないような方法で生成、相互作用、又は空間的な近接を共有するときに、たとえイオンが遠く離れていても、発生する。
【0004】
量子計算は、このような量子計算システムにおいて、1量子ビットのゲート演算と2量子ビットのゲート演算のセットを実行することによって行うことができる。これらの量子計算の基本的なビルディングブロックを適用する方法は確立されているが、量子計算システムのハードウェアにおいて、量子ビットに印加されるレーザパルスの周波数や振幅等の制御パラメータの較正ミスに起因する制御誤差が存在する。このような制御誤差は、主にイオンがどのように相互作用するかについての知識不足と、量子計算システム内の量子計算ハードウェアの特性によるものである。したがって、信頼性が高くスケーラブルな量子計算を行うためには、量子計算システムの制御パラメータを補正(すなわち、較正)する必要がある。しかしながら、較正では、典型的に、量子計算システムの制御パラメータの膨大なパラメータ空間の統計を収集するために、量子ビットを繰り返し測定する必要がある。そのため、較正には、多大な費用と時間がかかる。
【0005】
したがって、量子計算における許容誤差内で制御パラメータを較正するためのリソースを最小限に抑える方法が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本開示の実施形態は、量子計算プロセスを実行する方法を提供する。前記方法は、古典的コンピュータによって、複数の論理量子ビットを量子プロセッサの複数の物理量子ビットにマッピングすることによって、複数の量子回路が前記量子プロセッサの前記物理量子ビットを使用して実行可能であり、前記複数の量子回路の総不忠実度(total infidelity)を最小化するようにするステップであって、前記物理量子ビットのそれぞれは、トラップイオンを備え、前記複数の量子回路のそれぞれは、前記複数の論理量子ビット内に複数の単一量子ビットゲート及び複数の2量子ビットゲートを備える、ステップと、システムコントローラによって、物理量子ビットの第一の複数のペア内の2量子ビットゲートを較正して、物理量子ビットの前記第一の複数のペア内の前記2量子ビットゲートの不忠実度が低下するようにする、ステップと、前記複数の量子回路のそれぞれにおいて単一量子ビットゲート操作及び2量子ビットゲート操作を引き起こすレーザパルスを前記複数の物理量子ビットに印加することによって、前記複数の量子回路を前記量子プロセッサ上で実行するステップと、前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサ上で前記複数の量子回路を実行した後、前記量子プロセッサ内の前記物理量子ビットの量子ビット状態の集団を測定するステップと、前記古典的コンピュータによって、前記複数の量子回路の前記実行の結果として、前記物理量子ビットの量子ビット状態の測定された前記集団を出力するステップであって、前記複数の量子回路の前記実行の前記結果は、ユーザインターフェース上に表示されるように、前記古典的コンピュータのメモリ内に格納されるように、又は別の計算デバイスに転送されるように構成される、ステップと、を含む。
【0007】
本開示の実施形態は、量子計算システムも提供する。前記量子計算システムは、複数の物理量子ビットを含む量子プロセッサであって、前記物理量子ビットのそれぞれは、トラップイオンを備える、量子プロセッサと、古典的コンピュータであって、複数の論理量子ビットを前記複数の物理量子ビットにマッピングすることによって、複数の量子回路が前記物理量子ビットを使用して実行可能であり、前記複数の量子回路の総不忠実度が最小化されるように構成され、前記複数の量子回路のそれぞれは、前記複数の前記論理量子ビット内に複数の単一量子ビットゲート及び複数の2量子ビットゲートを備える、古典的コンピュータと、システムコントローラであって、物理量子ビットの第一の複数のペア内の2量子ビットゲートを較正することによって、前記物理量子ビットの前記第一の複数のペア内の前記2量子ビットゲートの不忠実度が低下するようにすることと、前記複数の量子回路のそれぞれにおいて単一量子ビットゲート操作及び2量子ビットゲート操作を引き起こすレーザパルスを前記複数の物理量子ビットに印加することによって、前記複数の量子回路を前記量子プロセッサ上で実行することと、前記複数の量子回路を前記量子プロセッサ上で実行した後、前記量子プロセッサ内の前記物理量子ビットの量子ビット状態の集団を測定することと、を行うように構成された、システムコントローラと、を備え、前記古典的コンピュータは、前記複数の量子回路の前記実行の結果として、前記物理量子ビットの量子ビット状態の測定された前記集団を出力するように、さらに構成され、前記複数の量子回路の前記実行の前記結果は、ユーザインターフェース上に表示されるように、前記古典的コンピュータのメモリ内に格納されるように、又は別の計算デバイスに転送されるように構成される。
【0008】
本開示の実施形態は、多数の命令が中に格納された不揮発性メモリを備える量子計算システムをさらに提供する。前記多数の命令は、1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記量子計算システムに、古典的コンピュータによって、複数の論理量子ビットを量子プロセッサの複数の物理量子ビットにマッピングすることによって、複数の量子回路が前記量子プロセッサの前記物理量子ビットを使用して実行可能であり、前記複数の量子回路の総不忠実度を最小化するようにするステップであって、前記物理量子ビットのそれぞれは、トラップイオンを備え、前記複数の量子回路のそれぞれは、前記複数の論理量子ビット内に複数の単一量子ビットゲート及び複数の2量子ビットゲートを備える、ステップと、システムコントローラによって、物理量子ビットの第一の複数のペア内の2量子ビットゲートを較正して、物理量子ビットの前記第一の複数のペア内の前記2量子ビットゲートの不忠実度が低下するようにする、ステップと、前記複数の量子回路のそれぞれにおいて単一量子ビットゲート操作及び2量子ビットゲート操作を引き起こすレーザパルスを前記複数の物理量子ビットに印加することによって、前記複数の量子回路を前記量子プロセッサ上で実行するステップと、前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサ上で前記複数の量子回路を実行した後、前記量子プロセッサ内の前記物理量子ビットの量子ビット状態の集団を測定するステップと、前記古典的コンピュータによって、前記複数の量子回路の前記実行の結果として、前記物理量子ビットの量子ビット状態の測定された前記集団を出力するステップであって、前記複数の量子回路の前記実行の前記結果は、ユーザインターフェース上に表示されるように、前記古典的コンピュータのメモリ内に格納されるように、又は別の計算デバイスに転送されるように構成される、ステップと、を含む操作を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示の上記特徴を詳細に理解することができるように、上で簡単に概説された本開示のより具体的な記載は、実施形態を参照することによって説明することができ、実施形態のいくつかは、添付図面に示されている。しかしながら、添付図面は、本開示の典型的な実施形態のみを説明しており、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。なぜなら、本開示は他の同等に有効な実施形態を認めることができるからである。
【0010】
【
図1】一実施形態に従うイオントラップ型量子コンピュータの概略部分図である。
【
図2】一実施形態に従って、イオンをグループに閉じ込めるためのイオントラップの概略図を示す。
【
図3】一実施形態に従って、トラップイオンのグループ内の各イオンの概略エネルギー図を示す。
【
図4】ブロッホ球の表面上の点として表されるイオンの量子ビット状態を示す。
【
図5A】5つのトラップイオンのグループの概略的な集合横運動モード構造を示す。
【
図5B】5つのトラップイオンのグループの概略的な集合横運動モード構造を示す。
【
図5C】5つのトラップイオンのグループの概略的な集合横運動モード構造を示す。
【
図6A】一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトルの概略図を示す。
【
図6B】一実施形態に従って、各イオンの運動モードの概略図を示す。
【
図7】一実施形態に従うペアワイズ最大共通エッジサブグラフ(maximum common edge subgraph)(MCEs)の例を示す図である。
【
図8】一実施形態に従って、近似MCCSアルゴリズムによって、最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)を計算する方法を示すフローチャートを示す。
【
図9】一実施形態に従って、遺伝的アルゴリズムによって、最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)を計算する方法900を示すフローチャートを示す。
【
図10A】一実施形態に従って、入力量子回路の平均忠実度の例示的なシミュレーション結果を示す。
【
図10B】一実施形態に従って、較正バジェット要件の低減の例示的なシミュレーション結果を示す。
【
図11A】一実施形態に従って、入力量子回路の平均忠実度の例示的なシミュレーション結果を示す。
【
図11B】一実施形態に従って、較正バジェット要件の低減の例示的なシミュレーション結果を示す。
【
図12A】一実施形態に従って、検索関数へのコールの回数の例示的なシミュレーション結果を示す。
【
図12B】一実施形態に従って、較正バジェット要件の低減の例示的なシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
理解を容易にするために、可能な場合には、図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用する。図及び以下の説明では、X軸、Y軸、及びZ軸を含む直交座標系を使用する。図面の矢印で表される方向は、便宜上、正の方向であると想定される。いくつかの実施形態で開示された要素は、具体的な明記なく、他の実装で有益に利用されてよいと考えられる。
【0012】
(詳細な説明)
本明細書に記載される実施形態は、一般に、量子計算システムにおいて計算を実行する方法に関し、より具体的には、トラップイオンのグループを含む量子計算システムにおいて一連の量子ゲート演算を実行するのに必要なリソースを最適化する方法に関する。本方法は、量子計算システムによって実行される計算プロセスにおいて使用される量子ゲート操作の側面を較正するプロセスを含むことができる。
【0013】
本開示の実施形態は、古典的コンピュータ、システムコントローラ、及び量子プロセッサを使用することによって量子計算プロセスを実行することができる量子計算システムを含む。古典的コンピュータは、使用する量子アルゴリズムの選択、量子アルゴリズムを実行するための量子回路の計算、及びユーザインターフェースを使用した量子回路の実行結果の出力を含む支援タスクを実行する。タスクを実行するためのソフトウェアプログラムは、古典的コンピュータ内の不揮発性メモリに格納されている。量子プロセッサは、様々なハードウェアと結合したトラップイオンを含み、様々なハードウェアには、トラップイオンの内部超微細状態(量子ビット状態)を操作するためのレーザ及びトラップイオンの内部超微細状態(量子ビット状態)を読み出すための光電子増倍管(PMT)が含まれる。システムコントローラは、量子プロセッサを制御するための命令を古典的コンピュータから受信し、量子プロセッサを制御するための命令を実行するのに使用されるあらゆる態様を制御することに関連する様々なハードウェアを制御し、量子プロセッサの読み出し、ひいては読み出し結果の出力を古典的コンピュータに送信する。いくつかの実施形態では、古典的コンピュータは、読み出された結果の出力に基づく計算結果を利用して結果セットを形成し、次いで、その結果セットは、技術的問題を解決するために、ユーザインターフェースに表示された結果の形態でユーザに提供され、メモリに格納され、及び/又は別の計算デバイスに転送される。
【0014】
I.一般的なハードウェア構成
図1は、一実施形態に従うイオントラップ型量子計算システム100の部分図である。イオントラップ型量子計算システム100は、古典的(デジタル)コンピュータ101と、システムコントローラ104と、Z軸に沿って延びる、トラップイオン(すなわち、5つを図示)のグループ106である量子プロセッサとを含む。トラップイオンのグループ106内の各イオンは、核スピンI及び電子スピンsを有するイオンであり、核スピンIと電子スピンsとの差がゼロであるようになっており、例えば、正のイッテルビウムイオン
171Yb
+、正のバリウムイオン
133Ba
+、正のカドミウムイオン
111Cd
+又は
113Cd
+であり、これらの全ては、核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態を有する。いくつかの実施形態では、トラップイオンのグループ106内の全てのイオンは、同じ種及び同位体(例えば、
171Yb
+)である。いくつかの他の実施形態では、トラップイオンのグループ106は、1つ以上の種又は同位体を含む(例えば、いくつかのイオンは
171Yb
+であり、いくつかの他のイオンは
133Ba
+である)。なおさらなる実施形態では、トラップイオンのグループ106は、同じ種の様々な同位体(例えば、Ybの異なる同位体、Baの異なる同位体)を含んでもよい。トラップイオンのグループ106内のイオンは、別々のレーザビームで個別に処理される。古典的コンピュータ102は、中央処理ユニット(CPU)、メモリ、及びサポート回路(又はI/O)を含む。メモリは、CPUに接続されており、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク、又は任意の他の形式のデジタルストレージ等で、ローカル又はリモートで、すぐに利用できるメモリの1つ以上であってもよい。ソフトウェア命令、アルゴリズム、及びデータは、CPUに命令するためにコード化し、メモリ内に格納することができる。サポート回路(図示せず)も、従来の方法でプロセッサをサポートするためにCPUに接続されている。サポート回路は、従来のキャッシュ、電源、クロック回路、入力/出力回路、サブシステム等を含んでもよい。
【0015】
イメージング対物レンズ108は、例えば、開口数(NA)が0.37の対物レンズ等であり、イオンからY軸に沿って蛍光を収集し、個々のイオンを測定するために、各イオンをマルチチャネル光電子増倍管(PMT)106にマッピングする。レーザ112からの非共伝搬ラマンレーザビームは、X軸に沿って提供され、イオンに対して操作を実行する。回折ビームスプリッタ114は、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)118を使用して個別に切り替えられる静的ラマンビーム112のアレイを作成し、かつ個々のイオンに選択的に作用するように構成される。グローバルラマンレーザビーム120は、イオンを一度に照射する。いくつかの実施形態では、個々のラマンレーザビーム(図示せず)のそれぞれは、個々のイオンを照射する。システムコントローラ(「RFコントローラ」とも呼ばれる)104は、AOM118を制御し、したがって、トラップイオンのグループ106内のトラップイオンに印加されるレーザパルスを制御する。システムコントローラ104は、中央処理ユニット(CPU)122、読み取り専用メモリ(ROM)124、ランダムアクセスメモリ(RAM)126、ストレージユニット128等を含む。CPU124は、RFコントローラ104のプロセッサである。ROM124は、様々なプログラムを格納し、RAM124は、様々なプログラム及びデータの作業メモリである。ストレージユニット128は、ハードディスクドライブ(HDD)又はフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを含み、電源が切られても様々なプログラムを格納している。CPU122、ROM124、RAM126、及びストレージユニット128は、バス130を介して相互接続されている。システムコントローラ104は、ROM124又はストレージユニット128に格納され、RAM126を作業領域として使用する制御プログラムを実行する。制御プログラムは、プロセッサによって実行され得るプログラムコードを含むソフトウェアアプリケーションを含むが、それは、データの受信、解析に関連する様々な機能を実行し、本明細書で説明されるイオントラップ型量子コンピュータシステム100を作成するために使用される方法及びハードウェアの任意の全ての態様を制御するためである。
【0016】
図2は、一実施形態に従って、イオンをグループ106内に閉じ込めるイオントラップ200(パウルトラップ(Paul trap)とも呼ばれる)の概略図を示す。閉じ込め電位は、静的(DC)電圧と無線周波数(RF)電圧の両方によって影響を受ける。静的(DC)電圧V
Sがエンドキャップ電極210及び212に印加されて、Z軸(「軸方向」、「長手方向」又は「第一の方向」とも呼ばれる)に沿ってイオンを閉じ込める。グループ106内のイオンは、イオン間のクーロン相互作用のために、軸方向にほぼ均等に分布している。いくつかの実施形態では、イオントラップ200は、Z軸に沿って延びる4つの双曲線形状の電極202、204、206、及び208を含む。
【0017】
操作中、(振幅VRF/2を有する)正弦波電圧V1は、対向する一対の電極202、204に印加され、正弦波電圧V1から180°の位相シフト(及び振幅VRF/2)を有する正弦波電圧V2は、駆動周波数ωRFで対向する他対の電極206、208に印加されて、四重極電位を生成する。いくつかの実施形態では、正弦波電圧は、対向する一対の電極(例えば、202、204)のみに印加され、対向する他対の電極206、208は、接地される。四重極電位は、トラップイオンのそれぞれに対してZ軸(「半径方向」、「横方向」又は「第二の方向」とも呼ばれる)に垂直なX-Y平面に有効な閉じ込め力を生成し、その閉じ込め力は、RF電界が消失する鞍点(すなわち、軸方向(Z方向)の位置)からの距離に比例する。各イオンの半径方向(すなわち、X-Y平面の方向)の運動は、半径方向の鞍点に向かう復元力を伴う調和振動(経年運動と呼ばれる)として近似され、それぞれ以下でより詳細に説明されるようなばね定数kxとkyによってモデル化できる。いくつかの実施形態では、半径方向のばね定数は、四重極電位が半径方向に対称である場合に等しいものとしてモデル化される。しかしながら、望ましくない場合には、半径方向のイオンの運動は、物理的なトラップ構成のある程度の非対称性、電極の表面の不均一性による小さなDCパッチ電位等のために歪む場合があり、これら及び他の外部の歪みの原因により、イオンは、鞍点から中心を外れる場合がある。
【0018】
図3は、一実施形態に従って、トラップイオンのグループ106内の各イオンの概略エネルギー
図300を示す。トラップイオンのグループ106内の各イオンは、核スピンI及び電子スピンsを有するイオンであり、核スピンIと電子スピンsとの差がゼロになるようになっている。一例では、各イオンは、核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態(すなわち、2つの電子状態)を有する正のイッテルビウムイオン
171Yb
+であってもよく、ω
01/2π=12.642821GHzの周波数差(「キャリア周波数」と呼ばれる)に対応するエネルギー分割を有する。他の例では、各イオンは、正のバリウムイオン
133Ba
+、正のカドミウムイオン
111Cd
+又は
113Cd
+であってもよく、その全てが、核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態を有する。量子ビットは、│0>と│1>で表される2つの超微細状態で形成され、ここで、超微細状態(すなわち、
2S
1/2超微細状態のうちの低エネルギー状態)は、│0>を表すように選択される。以下では、「超微細状態」、「内部超微細状態」及び「量子ビット」という用語は、│0>と│1>を表すために交換可能に使用することがある。各イオンは、ドップラー冷却又は分解サイドバンド冷却等の既知のレーザ冷却方法で、フォノン励起なし(すなわち、n
ph=0)で任意の運動モードmの運動基底状態│0>
mの近くまで冷却してもよく(すなわち、イオンの運動エネルギーが低下してもよい)、次に量子ビット状態を光ポンピングによって超微細基底状態│0>で準備することができる。ここで、│0>は、トラップイオンの個々の量子ビット状態を表し、下付き文字mが付いた│0>
mは、トラップイオンのグループ106の運動モードmの運動基底状態を表す。
【0019】
各トラップイオンの個々の量子ビット状態は、例えば、励起された
2P
1/2レベル(|e>で表される)を介して355ナノメートル(nm)のモードロックレーザ(mode-locked laser)によって操作することができる。
図3に示すように、レーザからのレーザビームは、ラマン構成で一対の非共伝搬レーザビーム(周波数ω
1を有する第一のレーザビームと周波数ω
2を有する第二のレーザビーム)に分割され、
図3で説明するように、|0>と|e>の間の遷移周波数ω
0eに関して、一光子遷移離調周波数Δ=ω
1-ω
0eによって離調されてもよい。二光子遷移離調周波数δは、トラップイオンに第一及び第二のレーザビームによって提供されるエネルギー量の調整を含み、それらを組み合わせて使用すると、トラップイオンが超微細状態|0>と|1>との間で移動する。一光子遷移離調周波数Δが二光子遷移離調周波数(単に「離調周波数」とも呼ばれる)δ=ω
1-ω
2-ω
01(以下、±μで表され、μは正の値である)よりもはるかに大きい場合、それぞれ状態|0>と|e>の間、状態|1>と|e>の間でラビフロップが発生する単一光子ラビ周波数Ω
0e(t)とΩ
1e(t)(時間に依存し、第一と第二のレーザビームの振幅と位相によって決定される)、励起状態|e>からの自然放出率、2つの超微細状態│0>と│1>の間のラビフロップ(「キャリア遷移」と呼ばれる)は、二光子ラビ周波数Ω(t)(「ラビレート」とも呼ばれる)で誘導される。二光子ラビ周波数Ω(t)は、Ω
0eΩ
1e/2Δに比例する強度(すなわち、振幅の絶対値)を有し、ここで、Ω
0eとΩ
1eは、それぞれ第一と第二のレーザビームによる単一光子ラビ周波数である。以下、量子ビットの内部超微細状態(量子ビット状態)を操作するためのラマン構成におけるこの非共伝搬レーザビームのセットは、「複合パルス」、あるいは、単に「パルス」と呼ばれてもよく、結果として得られる二光子ラビ周波数Ω(t)の時間依存パターンは、パルスの「振幅」、あるいは単に「パルス」と呼ばれてもよく、これについては、以下に図示し、さらに説明する。離調周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01は、複合パルスの離調周波数又はパルスの離調周波数と呼ばれてもよい。二光子ラビ周波数Ω(t)の振幅は、第一及び第二のレーザビームの振幅によって決定され、複合パルスの「振幅」と呼ばれてもよい。
【0020】
本明細書に提供される説明で使用される特定の原子種は、イオン化されたときに安定し、かつ明確に定義された2レベルエネルギー構造と、光学的にアクセス可能な励起状態とを有する原子種の一例にすぎないため、本開示のイオントラップ型量子コンピュータの可能な構成、仕様等を制限することを意図するものではないことに留意されたい。例えば、他のイオン種は、アルカリ土類金属イオン(Be+、Ca+、Sr+、Mg+、及びBa+)又は遷移金属イオン(Zn+、Hg+、Cd+)を含む。
【0021】
図4は、方位角φ及び極性角θを有するブロッホ球400の表面上の点として表されるイオンの量子ビット状態を視覚化するのを助けるために提供される。上述のような複合パルスを印可すると、量子ビット状態│0>(ブロッホ球の北極として表される)と│1>(ブロッホ球の南極として表される)との間でラビフロップが発生する。複合パルスの持続時間と振幅を調整すると、量子ビット状態は│0>から│1>に(すなわち、ブロッホ球の北極から南極に)反転するか、あるいは量子ビット状態は│1>から│0>に(すなわち、ブロッホ球の南極から北極に)反転する。複合パルスのこの印加は、「πパルス」と呼ばれる。さらに、複合パルスの持続時間と振幅を調整することにより、量子ビット状態│0>を、2つの量子ビット状態│0>と│1>が加算され、同位相で均等に重み付けされた重ね合わせ状態│0>+│1>(重ね合わせ状態の正規化係数は、便宜上、以下省略される)に変換しても、また量子ビット状態│1>を、2つの量子ビット状態│0>と│1>が加算され、均等に重み付けされるが、位相がずれる重ね合わせ状態│0>-│1>に変換してもよい。複合パルスのこの印加は、「π/2パルス」と呼ばれる。より一般的には、加算されて均等に重み付けされた2つの量子ビット状態│0>と│1>の重ね合わせは、ブロッホ球の赤道上にある点によって表される。例えば、重ね合わせ状態│0>±│1>は、方位角φがそれぞれゼロとπである赤道上の点に対応する。方位角φの赤道上の点に対応する重ね合わせ状態は、│0>+e
iφ│1>として表される(例えば、φ=±π/2の場合は│0>±i│1>である)。赤道上の2点間の変換(すなわち、ブロッホ球のZ軸の周りの回転)は、複合パルスの位相をシフトすることで実装できる。
【0022】
II.もつれの形成
図5A、
図5B、及び
図5Cは、例えば、5つのトラップイオンのグループ106のいくつかの概略的な集合横運動モードの構造(単に「運動モード構造」とも呼ばれる)を示す。ここで、エンドキャップ電極210及び212に印加された静的電圧V
Sによる閉じ込め電位は、半径方向の閉じ込め電位と比較して弱い。トラップイオンのグループ106の横方向の集合運動モードは、イオントラップ200によって生成された閉じ込め電位と組み合わされたトラップイオン間のクーロン相互作用によって決定される。トラップイオンは、集合横方向運動(「集合横運動モード」、「集合運動モード」、又は単に「運動モード」と呼ばれる)を起こし、各モードは、それに関連する個別のエネルギー(又は同等に、周波数)を有する。以下では、エネルギーがm番目に低い運動モードを│n
ph>
mと呼び、ここで、n
phは、運動モードの運動量子の数(エネルギー励起の単位で、フォノンと呼ばれる)を表し、所与の横方向の運動モードMの数は、グループ106内のトラップイオンの数に等しい。
図5A~
図5Cは、グループ106内に配置された5つのトラップイオンによって経験され得る異なるタイプの運動モードの例を概略的に説明する。
図5Aは、最も高いエネルギーを有する一般的な運動モード│n
ph>
Mの概略図であり、ここで、Mは、運動モードの数である。一般的な運動モード│n
ph>
Mでは、全てのイオンは、横方向に同位相で振動する。
図5Bは、2番目に高いエネルギーを有する傾斜運動モード│n
ph>
M-1の概略図である。傾斜運動モードでは、両端のイオンは、横方向に位相がずれて(すなわち、反対方向に)移動する。
図5Cは、傾斜運動モード│n
ph>
M-1よりもエネルギーが低く、イオンがより複雑なモードパターンで移動する高次運動モード│n
ph>
M-3の概略図である。
【0023】
上記の特定の構成は、本開示に従ってイオンを閉じ込めるためのトラップのいくつかの可能な例のうちの1つに過ぎず、本開示に従うトラップの可能な構成、仕様等を限定するものではないことに留意されたい。例えば、電極の形状は、上記の双曲線電極に限定されない。他の例では、調和振動として半径方向にイオンの運動を引き起こす実効電界を生成するトラップは、複数の電極層が積層され、対角線上にある2つの電極にRF電圧が印加される多層トラップであっても、あるいは全ての電極がチップ上の単一平面に配置されている表面トラップであってもよい。さらに、トラップは、複数のセグメントに分割してもよく、その隣接するペアは、1つ以上のイオンを往復させてリンクしてもよく、あるいは光子相互接続によって結合してもよい。トラップは、また、微細加工されたイオントラップチップ上に互いに近接して配置された個々のトラップ領域のアレイであってもよい。いくつかの実施形態では、四重極電位は、上記RF成分に加えて、空間的に変化するDC成分を有する。
【0024】
イオントラップ型量子コンピュータでは、運動モードは、2つの量子ビット間のもつれを仲介するデータバスとして機能してもよく、このもつれを使用して、XXゲート操作を実行する。つまり、2つの量子ビットのそれぞれが運動モードともつれて、次いで、もつれは、以下に説明するように、運動側波帯励起を使用することによって、2つの量子ビット間のもつれに転送される。
図6A及び
図6Bは、一実施形態に従って、周波数ω
mを有する運動モード│n
ph>
Mでのグループ106内のイオンの運動側波帯スペクトルの図を概略的に示す。
図6Bに示すように、複合パルスの離調周波数がゼロの場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差がキャリア周波数に調整される場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=0)、量子ビット状態│0>と│1>の間で単純なラビフロップ(キャリア遷移)が発生する。複合パルスの離調周波数が正の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、キャリア周波数よりも高く調整されている場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=μ>0、青側波帯と呼ばれる)、組み合わされた量子ビット運動状態│0>│n
ph>
mと│1>│n
ph+1>
mの間でラビフロップが発生する(すなわち、量子ビット状態│0>が│1>に反転する場合、│n
ph>
mで表されるnフォノン励起を伴うm番目の運動モードから│n
ph+1>
mで表される(n
ph+1)フォノン励起を伴うm番目の運動モードへの遷移が発生する)。複合パルスの離調周波数が負の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、運動モード│n
ph>
mの周波数ω
mによってキャリア周波数よりも低く調整されている場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=-μ<0、赤側波帯と呼ばれる)、組み合わされた量子ビット運動状態│0>│n
ph>
mと│1>│n
ph-1>
mの間のラビフロップが発生する(すなわち、量子ビット状態│0>から│1>に反転する場合、運動モード│n
ph>
mから、フォノン励起が1つ少ない運動モード│n
ph-1>
mへの遷移が発生する)。量子ビットに印加された青側波帯のπ/2パルスは、組み合わされた量子ビット運動状態│0>│n
ph>
mを、│0>│n
ph>
mと│1>│n
ph+1>
mの重ね合わせに変換する。量子ビットに印加された赤側波帯のπ/2パルスは、組み合わされた量子ビット運動状態│0>│n
ph>
mを、│0>│n
ph>
mと│1>│n
ph-1>
mの重ね合わせに変換する。二光子ラビ周波数Ω(t)が離調周波数と比較して小さい場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=±μ、青側波帯遷移又は赤側波帯遷移を選択的に駆動することができる。したがって、量子ビットは、π/2パルス等の適切なタイプのパルスを印可することにより、所望の運動モードでもつれることができ、その後、別の量子ビットともつれることができ、2つの量子ビットの間に、イオントラップ型量子コンピュータでXXゲート操作を実行するのに必要なもつれをもたらす。
【0025】
上記のように、組み合わされた量子ビット運動状態の変換を制御及び/又は指示することにより、2つの量子ビット(i番目及びj番目の量子ビット)上でXXゲート操作を実行してもよい。一般に、XXゲート操作(最大のもつれを有する)は、2量子ビット状態|0>
i|0>
j、|0>
i|1>
j、|1>
i|0>
j及び|1>
i|1>
jを、それぞれ以下のように変換する。
【数1】
例えば、2つの量子ビット(i番目とj番目の量子ビット)が両方とも最初に超微細基底状態|0>(|0>
i|0>
jで表される)にあり、その後、青側波帯のπ/2パルスがi番目の量子ビットに印加される場合、i番目の量子ビットと運動モード|0>
i|n
ph>
mの組み合わせ状態は、|0>
i|n
ph>
mと|1>
i|n
ph+1>
mの重ね合わせに変換されるため、2つの量子ビットと運動モードの組み合わせ状態は、|0>i|0>
j|n
ph>
mと|1>
i|0>
j|n
ph+1>
mの重ね合わせに変換される。赤側波帯のπ/2パルスがj番目の量子ビットに印加される場合、j番目の量子ビットと運動モード|0>
j|n
ph>
mの組み合わせ状態は、|0>
j|n
ph>
mと|1>
j|n
ph-1>
mの重ね合わせに変換されるため、組み合わせ状態|0>
j|n
ph+1>
mは、|0>
j|n
ph+1>
mと|1>
j|n
ph>
mの重ね合わせに変換される。
【0026】
したがって、i番目の量子ビットに青側波帯のπ/2パルスを印可し、j番目の量子ビットに赤側波帯のπ/2パルスを印可すると、2つの量子ビットと運動モード|0>i|0>j|nph>mの組み合わせ状態を|0>i|0>j|nph>mと|1>i|1>j|nph>mの重ね合わせに変換することができ、2つの量子ビットは、今やもつれ状態にある。当業者にとって明らかであるように、フォノン励起の初期数nとは異なる数のフォノン励起を有する運動モードともつれる2量子ビット状態(すなわち、|1>i|0>j|nph+1>mと|0>i|1>j|nph-1>m)は、十分に複雑なパルスシーケンスによって除去できるため、XXゲート操作後の2つの量子ビットと運動モードの組み合わせ状態は、m番目の運動モードでのフォノン励起の初期数nphがXXゲート操作の終了時に変化しないので、もつれが解消された(disentangled)と考えてもよい。したがって、XXゲート操作の前後の量子ビット状態は、以下で説明するが、一般に、運動モードを含まない。
【0027】
より一般的には、側波帯上のパルスを持続時間τ(「ゲート持続時間」と呼ばれる)にわたって印加することによって変換され、振幅Ω
(i)及びΩ
(j)と、離調周波数μとを有するi番目とj番目の量子ビットの組み合わせ状態は、もつれ相互作用χ
(ij)(τ)の観点から、以下のように記述することができる。
【数2】
式中、
【数3】
であり、
【数4】
は、i番目のイオンと周波数ω
mを有するm番目の運動モードの間の結合強度を定量化するラムディッケパラメータであり、Mは、運動モードの数(グループ106内のイオンの数Nに等しい)である。
【0028】
上記の2つの量子ビット(トラップイオン)のもつれを使用して、XXゲート操作を実行できる。XXゲート操作(XXゲート)は、単一量子ビット操作(Rゲート)とともに、所望の計算プロセスを実行するように構成された量子コンピュータを構築するために使用できるゲート{R,XX}のセットを形成する。任意の量子アルゴリズムを分解することができる論理ゲートのいくつかの既知のセットの中で、一般に{R,XX}と表記される論理ゲートのセットは、本明細書に記載されるトラップイオンの量子計算システムに固有である。ここで、Rゲートは、トラップイオンの個々の量子ビット状態の操作に対応し、XXゲート(「もつれゲート」とも呼ばれる)は、2つのトラップイオンのもつれの操作に対応する。
【0029】
i番目の量子ビットとj番目の量子ビットの間でXXゲート演算を行うには、条件
【数5】
(すなわち、もつれ相互作用χ
(i,j)(τ)が所望の値θ
(i,j)を有することで、非ゼロのもつれ相互作用の条件と呼ばれる)を満たすパルスを構築し、i番目とj番目の量子ビットに印加する。上述したi番目とj番目の量子ビットの結合状態の変換は、θ
(i,j)=π/8のときに、最大のもつれを有するXXゲート操作に対応する。i番目とj番目の量子ビットに印加されるパルスの振幅Ω
(i)(t)とΩ
(j)(t)は、i番目とj番目の量子ビットに所望のXXゲート操作を実行するために、i番目とj番目の量子ビットの非ゼロの調整可能なもつれを保証するように調整することができる制御パラメータである。
【0030】
III.較正
量子計算は、単一量子ビットゲート操作(Rゲート)及びXXゲート操作(XXゲート)等の2量子ビットゲート操作を含む一連の量子ゲート演算を使用して、イオントラップ型量子計算システム100等の量子計算システムで実行することができる。量子計算のそのような基本的なビルディングブロックを適用するための方法が確立されているが、量子計算システム内のハードウェアにおける制御パラメータの誤較正に起因する制御誤差がある。これらの制御誤差は、主に、量子計算システム内のイオン、したがって量子ビットが量子ゲート操作中にどのように挙動するかについての知識の欠如に起因する。したがって、スケーラブルで信頼性のある量子計算結果を提供するために、量子計算システムにおいて制御パラメータを学習し、制御誤差を補正するために制御パラメータを調整するタスクである較正が必要とされている。
【0031】
較正プロセスは、典型的には、量子計算システムの制御パラメータのかなりのパラメータ空間にわたって統計を収集するために量子ビットの反復測定を必要とする。したがって、較正プロセスは、高価で時間のかかるタスクであり得る。例えば、全てのゲート操作が較正される場合、較正ステップ又はプロセスのシーケンスは、量子計算システム内の量子ビットの数として二次関数的に増加し、その結果、較正プロセスの品質が劣化することがある。したがって、一連の較正ステップ又はプロセスは、量子計算における許容誤差内で最適化される必要がある。
【0032】
本明細書に記載される実施形態では、量子ゲート操作を較正するためのリソースを最適化するための方法であり、量子演算システム上で量子回路のバッチ(すなわち、一連の量子ゲート操作)を実行するものである。イオントラップ型量子計算システム100等の量子計算システムでは、単一量子ビットゲート操作(Rゲート)は、最小限の較正労力で高い精度で実行することができ、したがって、XXゲート操作(XXゲート)等の2量子ビットゲート操作のみが、かなりの労力で較正される。
【0033】
III.A.較正リソースの仕様
イオントラップ型量子計算システム100内のトラップイオンのグループ106等の量子プロセッサは、完全に接続されたシステムグラフGs=(Vs,Es,ε)によって指定され、頂点i∈Vsは、量子プロセッサの物理量子ビットi(すなわち、トラップイオン)を表す。物理量子ビットi及びjに対する2つの頂点i,j∈Vsを接続する各エッジ(i,j)∈Esは、物理量子ビットiとjとの間の2量子ビットゲートを表す。各エッジ(i,j)∈Esは、物理量子ビットiとjとの間の2量子ビットゲートに関する関連する不忠実度ε(i,j)を有する。関連する不忠実度ε(i,j)は、物理量子ビットi及びj(すなわち、ε(i,j)=ε(j,i)である)を相互交換することに関して対称である。
【0034】
イオントラップ型量子計算システム100における2量子ビットゲートの較正は、全てのエッジ(i,j)∈EsのサブセットSを選択することと、サブセットSにおけるエッジ(i,j)を較正するために、イオントラップ型量子計算システム100におけるハードウェアに関連する制御パラメータを調整することとを含む。一般に、較正されたサブセットS内のエッジ(i,j)の関連不忠実度ε(i,j)は、較正されていないサブセットS外のエッジ(i,j)の関連不忠実度ε(i,j)よりも低い。較正は、サブセットS(したがって、「較正セット」とも呼ばれる)に対して実行され、したがって、サブセットSが許容誤差内の最小サイズを有する場合、較正が最適化される。
【0035】
イオントラップ型量子計算システム100における量子計算は、量子回路cのバッチCの実行によって行われる。量子回路c∈Cは、回路グラフGc=(Vc,Ec,w)で特定され、頂点k∈Vcは、論理量子ビットkを表す。論理量子ビットk及びlのための2つの頂点k,l∈Vcを接続する各エッジe=(k,l)∈Ecは、2つの論理量子ビットk及びlの間の2量子ビットゲートを表す。論理量子ビットの数|Vc|は、量子プロセッサ106における物理量子ビットの数|Vs|以下であると仮定する。論理量子ビットk及びlに対する各エッジe=(k,l)∈Ecは、量子回路c∈Cにおける論理量子ビットkとlとの間の2量子ビットゲートの出現回数を示す関連する重みw(k,l)を有する。各論理量子ビットkは、物理量子ビットiにマッピングされ、論理量子ビットと物理量子ビットとの間のマッピングを以下で説明する。各量子回路c∈Cは、物理量子ビットi上の単一量子ビットゲート及び2量子ビットゲートのセットにマッピングされ、それは、システムコントローラ104等のシステムコントローラによって物理量子ビットiに適切なレーザパルスを印加することで、イオントラップ型量子計算システム100内のトラップされたイオンのグループ等の量子プロセッサ上で実行され得る。
【0036】
回路グラフG
c=(V
c,E
c,w)で指定される量子回路c∈Cと、システムグラフG
s=(V
s,E
s,ε)で指定される量子プロセッサを考えると、論理量子ビットkは、量子回路c∈Cの不忠実度ε(G
c,G
s)が最小になるように物理量子ビットiにマッピングされる。いくつかの実施形態では、物理量子ビットiと論理量子ビットkとの間のこのマッピング関係は、全単射マップπ:V
c→V
s(すなわち、π(G
c)=G
sである)による。このマップπにより、回路グラフG
cにおけるエッジe=(k,l)∈E
cは、システムグラフG
s(すなわち、π(E
c)=E
sである)におけるエッジπ(e)=(π(k),π(l))∈E
sにマッピングされる。マッピングπは、システムグラフG
s上で実行される量子回路c∈Cの不忠実度ε(G
c,G
s)が最小化されるように、以下で計算される。
【数6】
平均不忠実度
【数7】
(すなわち、量子回路c∈C)にわたって平均化された最小化された不忠実度ε(G
c,G
s)は、
【数8】
によって与えられ、式中、|C|は、バッチCにおける量子回路cの数である。本明細書で説明される実施形態では、物理量子ビットiとjとの間の2量子ビットゲートの特定の数Γ(較正バジェットと呼ばれる)が、較正されるように選択され、ここで、|S|≦Γである。すなわち、|S|個の2量子ビットゲートを含むサブセットSが較正されるように選択される。サブセットSは、式(2)に示される平均不忠実度
【数9】
が
【数10】
に最小化されるように選択される。式中、ε
Sは、較正されるサブセットS内の2量子ビットゲートとの関連する不忠実度である。
【0037】
式(3)に示す最小化された平均不忠実度
【数11】
を提供するサブセットSを正確に計算することは、計算的に困難であり、少なくともNP困難であり、したがって、本明細書で説明される実施形態は、サブセットSを近似的に計算するための2つのヒューリスティック方法を提供する。方法を説明するために使用される様々な表記及び定義を以下に要約する。
【0038】
最初に、簡潔さのために、エッジe∈E
Sのための全ての2量子ビットゲートが、較正前に等しい関連する不忠実度ε
-を有し、較正後に低減された関連する不忠実度ε
+を有する(ε
+<ε
-)と仮定する。以下では、この仮定をバイナリゲート忠実度モデルと呼ぶ。こうして、式(1)は、
【数12】
として簡略化することができる。したがって、マッピングπを計算することは、式(4)の第一の和を最大にすることになる。所定の較正バジェットΓについて、式(4)の第一の和を
【数13】
に最大化することができる。
【0039】
次に、最大共通エッジサブグラフ(MCEs)を導入するが、その理由は、計算されるべき較正セットSが、回路グラフGcが較正バジェットΓよりも多くのエッジeを有すると推定される典型的なシナリオにおいて量子回路cのバッチCと最大の重複を有することになるからである。2つの重み付けされていないグラフ(すなわち、エッジeの重みwは0又は1である)間のMCEsは、以下に定義されるような共通エッジの最大セットからなる。
【0040】
定義A.1(最大共通エッジサブグラフ)
最大共通エッジサブグラフは、グラフのセットのエッジの数が最も多いアイソモルフィックサブグラフ∩(G1,G2,…,Gn)を特定する。
【0041】
グラフ{G
1,G
2,…,G
N}のシーケンスについて、ペアワイズMCEs、すなわち(((G
1∩G
2)∩G
3)…∩G
N))を順次計算することによって決定される最大共通エッジサブグラフ(MCEs)は、定義A.1において定義されるグラフシーケンスのMCEsと同じではない。n個のグラフのMCEsを見つけるブルートフォース法は、全てのグラフについて頂点マッピングの順列にわたる最大化を必要とする。これは、グラフの数nにおいて指数関数的にスケーリングされる。したがって、本明細書で説明される実施形態では、n個のグラフのMCEsは、ペアワイズMCEs演算を構成することによって計算され、代わりに、グラフの数nにおいて線形であるように複雑性を低減する。しかしながら、ペアワイズMCEs決定のプロセスは、
図7に示すように連想的ではないことに留意されたい。
図7に示す例では、3つのグラフF、G、及びHに対するMCEsのペアワイズ決定は、ペアワイズMCEsの構成の順序に応じて異なる最終結果を提供する。N!個の順序付け(NはMCEsが計算されるグラフの総数)を考慮することは、法外に高価であるため、本明細書に説明される方法は、ペアワイズMCEsの適切な連続順序付けを決定するためのヒューリスティックを提供する。
【0042】
エッジがそれぞれ異なる重みを有する重み付きグラフでは、例えば、エッジe∈Ecが関連する重みw(e)を有する回路グラフGc=(Vc,Ec,w)では、最重累積サブグラフ(HCs)がエッジの重みに順応すると考えられる。最重累積サブグラフ(heaviest cumulative subgraph)(HCs)は、以下のように定義される。
【0043】
定義A.2(最重累積サブグラフ)
最重累積サブグラフは、複数のグラフ∧(G
1,G
2,…,G
n)の共通のサブグラフであり、エッジの最大総重みは、以下のようになる。
【数14】
式中、
【数15】
である。
【0044】
最重累積サブグラフ(HCs)の定義は、較正セットSに密接に関連している。例えば、2つのグラフG(2つの頂点を有する完全なグラフ)及びH(それぞれが異なる重みを有する3つの頂点及びエッジを有する完全なグラフ)の間で、較正バジェットΓ=1のための最適な較正セットSは、グラフGとHとの間のHCsである。すなわち、累積エッジ重みが最大になるように、GからHへのマッピングを決定する。
【0045】
しかしながら、非自明な例では、最重累積サブグラフ(HCs)の定義は、最重累積サブグラフを計算するには不十分である。そこで、ここでは、最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)を考える。式(2)に示す平均不忠実度
【数16】
を最小にするために、マッピングされた回路グラフG
cのスーパーグラフが、最も重いΓ個のエッジの重みの合計を最大にするように、最適なマッピングπを計算することができる。構成によって、このスーパーグラフは、全てのマッピングされた回路グラフG
cとの大きな重なり合いを許容するΓ個のエッジを有するサブグラフを含むことになる。最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)は、以下のように定義される。エッジe∈E
Sに対する全ての2量子ビットゲートが較正前に等しい関連する不忠実度ε
-を有し、較正後に低減された関連する不忠実度ε
+を有するバイナリゲート忠実度モデルでは、回路グラフG
cのMCCSは、所与の較正バジェットΓに対する式(5)の解であることが知られている。
【0046】
定義A.3(最もコンパクトな累積スーパーグラフ)
較正バジェットΓに関する最もコンパクトな累積スーパーグラフは、Γエッジ上の重みの合計が最も大きいグラフのセットV
Γ(G
1,G
2,…,G
n)のスーパーグラフである。これは、Γが最も重いエッジの総重量を
【数17】
として最大化することによって見出すことができ、式中、ダッシュ付きの和は、第一のΓ個の最大要素に対するものである。
【0047】
いくつかの実施形態では、回路グラフGc=(Vc,Ec,w)は、較正バジェットΓよりも少ない数のエッジe∈Ecを有する。この場合、全ての回路グラフGcを含む最もサイズの小さいスーパーグラフを考えることができる。スーパーグラフは、較正バジェットΓ以下のエッジ数を有し、スーパーグラフ内の全てのエッジは、エッジ重みを考慮することなく較正することができる。このスーパーグラフは、最小共通エッジスーパーグラフ(mCES)と呼ばれ、以下のように定義される。
【0048】
定義A.4(最小共通エッジスーパーグラフ)
最小共通スーパーグラフは、セット∪(G1,G2,…,Gn)からの全てのグラフを含む最小のグラフを特定している。
【0049】
III.B.較正リソース最小化
上述のように、較正リソースは、所与の較正バジェットΓに対する回路グラフGcのセットの最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)を見つけることによって最小化することができる。本明細書に記載される実施形態では、MCCSを見つけるための2つのヒューリスティックな方法、近似MCCSアルゴリズムによってMCCSを計算するための方法800、及び遺伝的アルゴリズムによってMCCSを計算するための方法900が当技術分野で知られている。
【0050】
B.1 近似MCCSアルゴリズム
B.1.1 アルゴリズムの概要
図8は、量子回路c∈CのバッチCを指定する回路グラフG
c=(V
c,E
c,w)のセットについて、近似MCCSアルゴリズムによって、最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS、以下、単にMと呼ぶ)を計算する方法800を示すフローチャートを示す。このスーパーグラフを用いて、回路グラフG
c=(V
c,E
c,w)のセットとシステムグラフG
sとの間のマッピングπが計算され、式(2)に示される不忠実度ε(G
c,G
s)が最小化される。
【0051】
ブロック802では、古典的コンピュータ102によって、較正されるべき量子回路c∈CのバッチCが受信される。
【0052】
ブロック804では、古典的コンピュータ102によって、回路グラフGc=(Vc,Ec,w)のセットが、量子回路c∈Cの受信されたバッチCに基づいて計算される。回路グラフGcのセットを形成する際に、グラフ同型性が考慮される。すなわち、セットは、互いに同形ではない回路グラフGcを含む。重み付きグラフの場合、グラフ同型性の修正された定義が使用され、2つの重み付きグラフG=(V1,E1,w1)及びH=(V2,E2,w2)は、マッピングが重み付き隣接性、すなわちw1(e)=w2(π(e))∀e∈E1を保つように、2つのグラフの頂点のセットの間にπ:V1→V2の双単射マッピングπがある場合、同形である。エッジe∈Ec及び関連する重みw(e)は、古典的コンピュータ102の不揮発性メモリ内の辞書に別々に保存される。
【0053】
ブロック806では、古典的コンピュータ102によって、エッジの数e∈Ecが計算される。全ての量子回路c∈Cのエッジe∈Ecの全ての数が所定の較正バジェットΓ以下である場合、方法800は、ブロック808に進む。エッジe∈Ecの数のうちの少なくとも1つが所定の較正バジェットΓよりも大きい場合、方法800は、ブロック814に進む。
【0054】
ブロック808では、古典的コンピュータ102によって、回路グラフGc=(Vc,Ec,w)のセットの最小共通エッジスーパーグラフ(mCES)が計算される。
【0055】
ブロック810では、古典的コンピュータ102によって、回路グラフGc=(Vc,Ec,w)の最小共通エッジスーパーグラフ(mCES)におけるエッジの数が計算される。mCES内のエッジの数が、所定の較正バジェットΓ以下である場合、mCES内の全てのエッジは、エッジの関連する重みにかかわらず較正され得る。次いで、方法800は、ブロック812に進む。mCES内のエッジの数が、所定の較正バジェットΓよりも大きい場合、方法800は、ブロック814で開始するMCCS Mを計算する反復に進む。
【0056】
ブロック812では、古典的コンピュータ102によって、計算された最小共通エッジスーパーグラフ(mCES)が計算結果として出力される。
【0057】
ブロック814では、古典的コンピュータ102によって、MCCS,Mの近似及び反復計算の初期反復が実行される。ブロック814において、グラフMは、ヌルグラフ(すなわち、回路グラフGcを含まない)に初期化され、回路グラフGcの順序リストLが作成される。順序リストLは、回路グラフをエッジの数の大きい順に並べることによって作成される。
【0058】
ブロック816では、古典的コンピュータ102によって、回路グラフGcのセットをシステムグラフGsにマッピングするマッピングπが計算される。まず、順序リストLにおける第一の回路グラフGc(単にGという)のマッピングπが計算される。マッピングπは、回路グラフGとグラフMとが重なるように計算される。マッピングπの計算は、以下でより詳細に説明される。
【0059】
ブロック818では、古典的コンピュータ102によって、グラフGは、マッピングπによってマッピングされ、マッピングされたグラフπ(G)は、
【数18】
によって記載されるようにグラフMとマージされる。
【0060】
ブロック820で、方法800は、順序リストL内の後続の回路グラフGcのために、ブロック816に戻る。順序リストL内の全ての回路グラフGcが考慮されている場合、方法800は、ブロック822に進む。得られたグラフMは、順序リストL内の全ての回路グラフGcの累積スーパーグラフである。グラフMは、全ての回路グラフGcの近似MCCSグラフである。
【0061】
ブロック822で、累積スーパーグラフMにおけるエッジの中で、Γの最も重いエッジが選択され、残りのエッジが除去される。MΓとして示されるこの最終グラフは、較正セットSをそのエッジとして含む近似解である。解MΓが特定されると、各入力回路に対するMΓへの最適なマッピングのラウンドが、MΓと各入力回路との間の重複を最大化するように行われる。グラフMを構築する際に以前に使用されたマッピングは、MΓとの最大オーバーラップ問題にとって最適ではないので、このステップが実行される。本明細書に記載される方法は、このステップで識別されたマッピングを、各回路グラフGcの最終マッピングとして使用する。
【0062】
ブロック824では、古典的コンピュータ102によって、計算されたグラフMΓが計算結果として出力される。
【0063】
回路グラフGcを上述のように編成することは、上述された順次マージアプローチを使用するときにMCCSソリューションのための正確なソリューションをもたらす可能性があることに留意されたい。
【0064】
B.1.2 最適なマッピングのためのアルゴリズム
ブロック806において、マッピングπは、回路グラフGとグラフMとの間のオーバーラップが起こるように計算される。これは、最大共通エッジサブグラフ(MCEs)問題の重み付きグラフへの拡張と見なしてもよい。最も最適なマッピングを見つけるアルゴリズムは、バックトラッキングアルゴリズムと呼ばれ、バックトラッキングアルゴリズムは、当技術分野で知られている深度優先探索(DFS)アルゴリズムと同様であるが、バックトラッキングアルゴリズムは、全ての可能な分岐を伴わないが、開始されたマッピングが最適化目標に基づいて完了する価値があるかどうかをチェックする予測関数に基づいて、より早くバックトラッキングする点で異なる。バックトラッキングアルゴリズムの基礎として、当技術分野で公知のSplitPアルゴリズムが、修正された予測関数とともに使用される。グラフの共通エッジの数を最大化する代わりに、共通サブグラフ上の累積重みを最大化して、最重累積サブグラフ(HCs)を達成する。複数の潜在的なマップがある場合、追加の基準が使用される。このシナリオでは、マップは、π(G)とMとの間の最小のサブグラフ変換コストが発生するように選択される。この基準は、最終的な累積スーパーグラフMにおける最も重いエッジの数を最小化するのに役立つ。
【0065】
定義B.1(サブグラフ変換コスト)
2つの重み付きグラフGとHとの間のサブグラフ変換コストS(G,H)は、それらの共通エッジのセットによって形成されるグラフ上の変換コスト(以下参照)である。
【数19】
【0066】
定義B.2(変換コスト)
2つの重み付きグラフGとHとの間との変換コストT(G,H)は、追加/削除されたエッジの重みと共通エッジの重みの変化の和を含む。
【数20】
ここで、
【数21】
の場合、w
G(e)=0である。一般に、コスト関数f
C(w
G(e)、w
H(e))は、w
G(e)及びw
H(e)に対する任意の距離関数であり得る。いくつかの実施形態では、重み付けされていないケースに適用されるとき、マッピング問題を最大共通エッジサブグラフ(MCEs)問題(min
πT(π(G),H)=|G|+|H|-2|G∩H|)にするので、最小変換コストが使用され、式中、|G|は、Gのエッジの数を示す。
【0067】
具体的には、Gの頂点のMへの最適なマッピングを識別するマッピングアルゴリズムは、検索関数を繰り返し呼び出す。検索関数は、予め指定された数のエッジを有するGとMとの間の最重累積サブグラフ(HCs)を探す。見つかった場合、関数は、また、HCsを誘導するために使用される頂点マップをGからMに戻す。2つの入力グラフG及びMのうちの小さい方のエッジの数から開始して、前述の予め指定された数のエッジを反復的に減少させることによって、GとMとの間の可能な最大のHCsを決定することができる。
【0068】
検索機能の実装は、技術的に関与する。手短に言えば、2つの入力グラフG及びMと、事前に指定された数のエッジとが与えられると、関数は、空のマッピングから開始し、Gからヒューリスティックに選択されたエッジを、検索ツリーの各レベルにおけるMからの適切なエッジとペアリングする、深度優先検索を使用してマッピングを構築する。関数は、1つのブランチにおける検索が、これまでに見出された最良の結果に打ち勝つ機会が少ないかどうかをバックトラッキングする。この関数は、また、計算された境界が予め指定されたエッジの数未満である場合、バックトラッキングする。ここでの境界は、既にマッピングされたエッジの数に、マッピングされたエッジに対するそれらの隣接性に基づいてマッピングできるエッジの最大数を加えたものとして計算される。
【0069】
B.1.3 ビームサーチ
本明細書で使用されるバックトラックアルゴリズムは、深度優先探索(DFS)アルゴリズムのより高度なバージョンであると見なすことができるが、依然としてグラフのサイズに乏しい(poor)。本アプローチをよりスケーラブルにするために、閾値は、これまでに見出された最良のものと比較して、分岐を探索しながら、予測された改善を設定することができる。特に、より強い条件は、潜在的なサブグラフの予測された累積重みが、最良の見出された値に追加された閾値を加えた値を超えることを必要とする。そうでなければ、潜在的なマップは、さらなる考慮から外される。複数の分岐は、探索ツリー上の潜在的なマップ又はウォーカー(walker)の数をnに制限しながら、すなわち、nの最も有望なもののみを保ちながら、さらに探索することができる。
【0070】
多数の量子ビットの場合、バッチ内の回路グラフは、マージされたグラフMのサイズの急速な爆発につながるであろう、小さな最重累積サブグラフ(HCs)を有してもよい。これは、前節で説明した最適なマッピング探索に必要な計算リソースの急速な増加をもたらす。したがって、Mのサイズは、Mのエッジの数をkΓ未満に保つことによって制限され得る。これは、決定されたMがどの段階においてもkΓを超える辺を有する場合、kΓの最も重いエッジを残すことを選択し、残りのエッジを破棄することによって達成することができる(ここで、k>1)。
【0071】
B.2 遺伝的アルゴリズム
図9は、遺伝的アルゴリズムによって最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)を計算する方法900を示すフローチャートである。遺伝的最適化アルゴリズムは、そのメモリ内にサブグラフの集団を有する。各世代において、その集団の画分(fraction)は、その適応度に基づいて次の世代に移動するように選択される。さらに、集団の適合するメンバーの突然変異コピーが生成されることもある。突然変異において、グラフは、その構造においてランダムな変化を受ける。現在の集団からの親のいくつかのペアが選択され、次世代のための子を生成するためのクロスオーバー機能において使用されてもよい。これらの子は、親の良好な特徴を組み合わせて改善することが期待される。グラフがその構造においてランダムな変化を起こすような突然変異を起こすために、小さな画分が選択される。世代から世代までの集団サイズは、一定数に保持される。特定の世代数の後、生き残った集団の最良のメンバーを最適解として返す。
【0072】
式(2)に示される忠実度ε(Gc,Gs)を最小化する最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)を計算するための方法900では、式(2)に示される不忠実度ε(Gc,Gs)の負は、遺伝的アルゴリズムにおける適応度関数におけるように偏っている。いくつかの実施形態では、システムグラフGsに対する候補グラフGのこの適応度を計算するために、候補グラフGに対する各回路グラフGcの最適な頂点マップが見出される。適応度関数を計算することは、回路グラフからシステムグラフへの最適なマッピングの計算を必要とするので、既に困難なタスクであることに留意されたい。マッピングを計算するために、上述のバックトラックの最重累積サブグラフ(HCs)及び最大共通エッジサブグラフ(mCES)アルゴリズムが使用される。したがって、遺伝的アルゴリズムの性能は、マッピングの計算の性能に密接に結び付けられる。
【0073】
ブロック902では、古典的コンピュータ102によって、較正されるべき量子回路c∈CのバッチCが受信される。
【0074】
ブロック904では、古典的コンピュータ102によって、回路グラフGc=(Vc,Ec,w)のセットが、量子回路c∈Cの受信されたバッチCに基づいて計算される。
【0075】
ブロック906では、古典的コンピュータ102によって、式(2)に示す不忠実度ε(Gc,Gs)の負である適応度関数が計算される。
【0076】
ブロック908では、候補グラフGのうちのいくつかが変異される(すなわち、候補グラフGのうちのいくつかが、候補グラフG内にない回路グラフGcのうちのいくつかとランダムに置換される)。グラフG=(V,E)を突然変異率pmで突然変異させると、エッジe∈Eの数が較正バジェットΓに等しくなり、候補グラフGの全ての可能なエッジからpm|E|個の新しいエッジが含まれ、元のグラフGのエッジe∈Eからランダムに(1-pm)*|E|個のエッジがサンプリングされる。
【0077】
ブロック910において、2つの候補グラフGのペアがクロスオーバーされる。2つのグラフ(すなわち、親)G1=(V,E1)、G2=(V,E2)をクロスオーバーすると、さらに2つのグラフG3=(V,E3)及びG4=(V,E4)が生成され、ここで、エッジE3及びE4は、制約|E3|=|E4|=ΓでE1∪E2からサンプリングすることによって生成される。候補グラフGの適応度関数が所定の閾値未満である場合、方法900は、ブロック906に戻る。候補グラフGの適応度関数が所定の閾値を超える場合、方法900は、ブロック912に進む。別の実施形態では、所定の数nGのクロスオーバーを考慮することができ、ブロック906にnG回戻って、方法900は、nG回の反復の後にブロック912に進む。
【0078】
ブロック912において、計算されたベストフィット候補グラフGは、較正セットSをエッジとして含み、計算結果として出力される。
【0079】
III.C.実施例
以下では、所与の較正バジェットΓに対する量子ゲートの最適化較正についての例示的なシミュレーション結果を示す。本明細書に開示される例では、量子回路は、イオントラップ型量子計算システム100内に11個のトラップイオンを含む量子プロセッサ106上で実行される。量子回路は、10~20個の物理量子ビット上で実行される。
【0080】
本明細書に記載される方法の品質を実証するために、例示的なシミュレーション結果が、以下のプリミティブ較正技法に対して比較される。第一のプリミティブマッピング技法(「ランダムアプローチ」と呼ばれる)は、完全に最適化されていない、自明なアプローチであり、これは、Γ個のランダムゲートを較正し、次いで、論理量子ビットと物理量子ビットとの間でマッピングすることなく回路を実行するものである。第二のプリミティブマッピング技術(「ナイーブアプローチ」と呼ばれる)は、わずかに最適化されているが、依然としてナイーブアプローチは、論理量子ビットと物理量子ビットとの間でマッピングすることなく、各回路内のゲートの数をカウントし、最も頻繁に使用されるものを較正するものである。上述したように、MCCSベースの方法800のブロック822において、回路グラフGcからシステムグラフGsへの(再)マッピングのラウンドが使用される。ランダム又はナイーブアプローチの上でのこの(再)マッピングの使用は、それぞれ及びアスタリスク付きの方法と呼ばれる。これらのアスタリスク付きの方法は、本明細書で説明されるような最大共通エッジサブグラフ(MCEs)又は最重累積サブグラフ(HCs)マッピング関数に依存することに留意されたい。
【0081】
図10A及び
図10Bは、30の最も一般的な非重み付けグラフについて、それぞれ、目標平均忠実度を達成するための、較正バジェットΓの関数としての入力量子回路cの平均忠実度と、較正バジェットΓの要件の低減との例示的なシミュレーション結果を示す。図示の例では、較正後の低減された関連する不忠実度ε
+は、ε
+=1%であり、較正前の関連する不忠実度ε
-は、ε
-=10%である。
図10Aにおいて、破線は、ナイーブに及びランダムに生成されたシステムグラフの忠実度を示す。青色領域は、最良から最悪までのランダム割り当ての90%信頼区間をカバーする。実線は、量子ビットマッピング(*はこのマッピングの存在を示す)を用いた平均ランダム及びナイーブアプローチと、最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)及び遺伝的アルゴリズムを用いて生成されたものについての忠実度を示す。平均ランダムアプローチは、100のランダムインスタンスにわたって平均される。
図10Bでは、Γ要件の低減が、量子ビットマッピングを活用する方法について示されており、ベースラインは、ナイーブアプローチである。減少値は、
図10Aのデータ点(図示せず)を線形補間することによって得られる
図10Aの平均忠実度曲線から予想されるΓ要件の差として計算される。
【0082】
(MCCSアルゴリズム、遺伝的アルゴリズム及びプリミティブ技法を使用する)全ての方法についての平均忠実度は、Γ較正されたゲートが不忠実度ε+=1%を有し、残りは、不忠実度ε-=10%を有すると仮定して推定される。
【0083】
図11A及び
図11Bは、40個の最も一般的な重み付きグラフについて、それぞれ、目標平均忠実度を達成するための、較正バジェットΓの関数としての入力量子回路cの平均忠実度と、較正バジェットΓの要件の低減との例示的なシミュレーション結果を示す。図示の例では、較正後の低減された関連する不忠実度ε
+は、ε
+=1%であり、較正前の関連する不忠実度ε
-は、ε
-=10%である。
図11Aにおいて、破線は、個々の回路再マッピングを伴わない、ナイーブに及びランダムに生成されたシステムグラフの忠実度を示す。青色領域は、最良から最悪までのランダム割り当ての90%信頼区間をカバーする。実線は、量子ビットマッピング(*はこのマッピングの存在を示す)を用いた平均ランダム及びナイーブアプローチと、最もコンパクトな累積スーパーグラフ(MCCS)及び遺伝的アルゴリズムを用いて生成されたものについての忠実度を示す。平均ランダムアプローチは、100のランダムインスタンスにわたって平均される。
図11Bでは、Γ要件の低減が、量子ビットマッピングを活用する方法について示されており、ベースラインは、ナイーブアプローチである。減少値は、
図11Aのデータ点(図示せず)を線形補間することによって得られる
図11Aの平均忠実度曲線から予想されるΓ要件の差として計算される。
【0084】
図12A及び
図12Bは、MCCSアルゴリズムのビーム探索バージョン内の検索関数へのコールの回数、及び目標平均忠実度を達成するための較正バジェットΓの要件の低減の例示的なシミュレーション結果を、それぞれ、異なるシステムサイズN及びΓ=N,2N,3Nに対して同じ忠実度を与えるナイーブアプローチと比較して示す。N=10、12、14、及びΓ=2Nに対するマッピングを伴う最良ランダムアプローチ内の
図12Aの検索関数へのコールの予測回数は、ランダム分布の90%信頼区間をマークするエラーバーとともに示される。各Nに対する
図12Bの減少値は、ナイーブ法によるMCCS法と同じ忠実度を達成するために必要な追加のΓとして計算される。ナイーブ法の平均忠実度曲線は、データ点を線形補間することによって得られる(図示せず)。
図12Bの線は、システムサイズNの関数としての低減Γ
reducedのフィット関数を示し、これは、Γ
reduced=(N)C
x(N-10)の形式であり、式中、C
xは、3つの場合についてそれぞれ1.5、2.1、及び1.9であると推定された。
【0085】
本明細書で説明される方法のスケーラビリティは、異なるシステムサイズのための回路の人工的に生成されたバッチを使用する実施例に示されており、各バッチは、5つの線状グラフ、5つの星状グラフ、5つのランダムツリー、及びN個のランダムに選択された小径正規グラフからなり、Nは量子ビットの数である。この特定の構成は、イオントラップ型量子計算システム100等の量子計算システム上で実行される量子プログラムにおいて頻繁に現れる線、星及びツリーの形状によって動機付けられた。イオントラップ型量子計算システム100のような量子計算システムで利用可能な全ての量子ビットの接続性を活用するために、(k,d,n)の形式(式中、kはグラフの次数、dはグラフの直径、nは頂点の数である)の小直径の正規グラフが選択された。図示の例では、MCCSソリューションは、N=10~20量子ビットの範囲の6つの異なるシステムサイズについて生成されたバッチについて計算され、較正バジェットΓ=N,2N,3Nが考慮される。実行時間の尺度としての検索関数へのコールの回数を
図12Aに示す。最良ランダムアプローチについて予想されるコールの回数は、また、最初にベンチマーク回路についてのランダムトライアルの数の関数として得られる最良の平均忠実度を計算し、次いで、MCCS法によって得られる平均忠実度に一致するように、これを外挿することによって計算される。次いで、これは、本明細書に説明される方法に従って、検索関数へのコールの回数に変換され、これは、M/2×(MCCSソリューションの検索コールの回数)の形態である。Γ=2Nの解の場合、予想されるトライアルの数は、N=10の場合M≒700で、N=12の場合M≒800で、N=14の場合M≒750であり(
図12A)、これは、MCCSアルゴリズムと比較して実行時間において2.5桁超高い。90%信頼区間の上限は、解をランダムに発見する確率のポアソン分布により5桁に及ぶため、実際の時間は、はるかに長くなる可能性がある。本明細書で考慮される各Γ=N,2N,3Nの場合について、以前に使用された関連する不忠実度ε
±を使用する回路のベンチマークバッチから予想される平均忠実度が推定される。ナイーブアプローチが使用される場合、同じ平均忠実度に達するのに較正されたゲートの数の2倍以上を要することが分かっている。Γ要件における優位性は、
図12Bに示される傾向に従ってシステムサイズとともに増大する。同じ忠実度を達成するために、ナイーブアプローチは、20量子ビットインスタンスに対して、より性能の良いMCCSアルゴリズムから既に必要とされる60回に加えて、80回もの追加較正を必要とし得ることに留意されたい。
【0086】
III.D.説明
本明細書で説明される実施形態では、量子回路のバッチのための較正リソースを最小限にするための方法が提供される。非重み付きグラフ及び重み付きグラフの両方について、グラフによって記述される論理量子ビットと物理量子ビットとの間のマッピングを最適化することは、忠実度に重大な影響を及ぼし得ることが示されている。両方の場合において、マッピングを計算するための本明細書に記載される方法は、マッピングされていない実行に対して約70%から90%を超える平均アルゴリズム忠実度の増加を提供する。バックトラッキングアルゴリズムを使用してゲートセットを較正することは、最も頻繁に使用されるゲートを較正するナイーブアプローチよりも、重み付きグラフ及び非重み付きグラフの両方について、高い忠実度で、関心のある忠実度範囲にわたって一貫してより良好な性能を与える。両方の場合において、遺伝的アルゴリズムは、大きな較正バジェットΓ>15に対して良好に機能する。本明細書に記載される再マッピングアルゴリズムによって支援されると、ランダム較正セットでさえも、バックトラッキングアルゴリズム又は遺伝的アルゴリズムを使用して得られるものに近い性能を与えることができることに留意されたい。ランダムサンプリング方法は、目標忠実度に到達するために、バックトラッキングアルゴリズムと同程度以上の時間を要することにも留意されたい。
【0087】
最適な較正配列を見つけるために遺伝的アルゴリズムを使用することにおいて、遺伝的アルゴリズムは、大きなターゲットバジェットΓの平均忠実度に関してMCCSアルゴリズムよりも優れていることが分かっている。しかしながら、候補解のアンサンブルの確率的進化に依存する遺伝的アルゴリズムは、かなりの時間及び計算リソースを消費する傾向があることに留意されたい。深層学習等の他の神経ネットワークベースの方法が、時間を保護するために使用されてもよい。バックトラック又はネスト化された候補アプローチ等の他の検索方法とのより効率的な融合が、計算リソース要件を低減するためにさらに使用されてもよい。
【0088】
本明細書で説明される方法は、様々な数値最適化問題を加速し得る量子アルゴリズムをコンパイル及び実行する量子回路に利益を提供し得る。さらに、本明細書で説明される方法は、より小さいサイズの量子コンピュータが、より大きい量子コンピュータのための較正ルーチンを最適化することを可能にし得る。
【0089】
上述の特定の例示的な実施形態は、本開示による量子計算システムへの較正リソース最適化の適用のいくつかの可能な例にすぎず、本開示による量子計算システムの可能な構成、仕様等を限定しないことに留意されたい。例えば、量子計算システム内の量子プロセッサは、上述の全対全接続性を有するトラップされたイオンのグループに限定されない。例えば、量子プロセッサは、超伝導量子ビット及びモジュール化トポロジー等、より制限的な接続性を有するアーキテクチャであってもよく、いくつかの強力に接続されたモジュールは、少数のチャネルと通信する。本明細書で提供されるグラフ理論的技法は、限られた接続性を有するそのようなシステムにおいて、ルーティング及びシャトリング時間を短縮するように修正することができる。
【0090】
上記は特定の実施形態を対象としているが、他のさらなる実施形態は、その基本的な範囲から逸脱することなく考案してもよく、その範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。