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特許7599192幹細胞培養用培地、細胞産生タンパク質組成物、および骨芽前駆細胞または骨芽細胞への分化誘導方法
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  • 特許-幹細胞培養用培地、細胞産生タンパク質組成物、および骨芽前駆細胞または骨芽細胞への分化誘導方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】幹細胞培養用培地、細胞産生タンパク質組成物、および骨芽前駆細胞または骨芽細胞への分化誘導方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20241206BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20241206BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20241206BHJP
   C12P 21/00 20060101ALN20241206BHJP
【FI】
C12N5/0775
C07K14/78
C12N5/077
C12P21/00 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024519469
(86)(22)【出願日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2023042255
【審査請求日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2023101035
(32)【優先日】2023-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512292315
【氏名又は名称】株式会社バイオ未来工房
(73)【特許権者】
【識別番号】523236618
【氏名又は名称】丸田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】石塚 保行
(72)【発明者】
【氏名】丸田 耕一郎
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-525446(JP,A)
【文献】特開2012-120529(JP,A)
【文献】特開2022-043013(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111471651(CN,A)
【文献】国際公開第2021/136736(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/101603(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0775
C12N 5/077
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
60~90vol%の基礎培地と、
10~40vol%の生理食塩水と、
を含み、さらに、
1~100ng/mLのEGFと、
0.2~20.0ng/mLのFGF-2と、
0.2~20.0ng/mLのPDGFと、
0.5~8.0mMのリン酸アスコルビルマグネシウムと、
が添加されて構成される、幹細胞培養用培地。
【請求項2】
間葉系幹細胞を請求項1に記載の幹細胞培養用培地で1~10日間培養し、
その後、有機溶媒でタンパク質成分を沈殿させ、
沈殿部分を分取して生理食塩水または基礎培地に溶解させる、
ことにより得られる、間葉系幹細胞または骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導するための、細胞産生タンパク質(CPPs)組成物。
【請求項3】
I型プロコラーゲンと
ヒアルロン酸と、
を含み、
前記I型プロコラーゲンにはカルシウムが結合している、
請求項2に記載のCPPs組成物。
【請求項4】
1)間葉系幹細胞を培養容器に接着させた状態で、骨芽細胞分化誘導培地中で2~6日間培養して、コンフルエントまたはそれ以上まで増殖させることにより、または、
2)間葉系幹細胞を培養容器中に浮遊状態で静置して2~4日間冷蔵保存することにより、
間葉系幹細胞を骨芽前駆細胞に分化させ、その後、
前記骨芽前駆細胞を回収して培養容器に播種し、請求項2に記載のCPPs組成物を添加した基礎培地で培養することにより、
前記骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化させる、骨芽細胞への分化誘導方法。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪、末梢血、臍帯、臍帯血、または歯髄由来である、請求項4に記載の骨芽細胞への分化誘導方法。
【請求項6】
1)間葉系幹細胞を培養容器に接着させた状態で、骨芽細胞分化誘導培地中で2~6日間培養して、コンフルエントまたはそれ以上まで増殖させることにより、または、
2)間葉系幹細胞を培養容器中に浮遊状態で静置して2~4日間冷蔵保存することにより、
間葉系幹細胞を骨芽前駆細胞に分化させ
a)得られた骨芽前駆細胞を播種するのと同時に、請求項2に記載のCPPs組成物を添加することにより、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化させる、または、
b)得られた骨芽前駆細胞を播種し、その後、請求項2に記載のCPPs組成物を添加することにより、骨芽前駆細胞から骨芽細胞への分化を開始させる、
芽細胞への分化誘導方法(ヒトに対して行うものを除く)
【請求項7】
前記間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪、末梢血、臍帯、臍帯血、または歯髄由来である、請求項6に記載の骨芽細胞への分化誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞培養用培地、およびこれを用いて得られる細胞産生タンパク質組成物、およびこれを用いた骨芽細胞への分化誘導方法、並びに骨芽前駆細胞への分化誘導方法に関し、特に、幹細胞培養用培地を用いて得られた細胞産生タンパク質組成物により、間葉系幹細胞または骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
骨代謝は、骨を作る骨芽細胞と骨を吸収する破骨細胞のバランスで維持されている。骨芽細胞は間葉系幹細胞に由来し、破骨細胞は造形系の単球/マクロファージに由来すると考えられている。
【0003】
従来、間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化させる方法としては、間葉系幹細胞(MSC)を細胞増殖用培地を入れたディッシュやプレートで培養し、80%以上コンフルエントな状態になった時点で、培地を骨芽細胞分化誘導培地に交換して、2週間培養するといった方法が知られている。また、骨芽細胞への分化誘導を評価する指標としては、間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化誘導されることにより生じる石灰化を、アリザリンレッドのような色素でカルシウムを染色することにより評価する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-124460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような方法では、間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化誘導されたことにより石灰化が生じているため、細胞をディッシュやプレートから剥離させることが難しく、分化させた骨芽細胞を、目的とする場所に再播種、投与、移植等を行うことができなかった。
【0006】
一方、骨芽細胞の前段階の分化状態である、骨芽前駆細胞の段階であることを、石灰化の開始を示す、nodule(石灰化球)の形成で判断し、当該骨芽前駆細胞の段階で回収して再播種、投与、移植等を行った。しかしながら、この場合には、再播種、投与、移植先において、石灰化がみられず、さらに、骨芽前駆細胞から未分化の状態に戻ってしまった。
このことから、骨芽前駆細胞を、骨芽細胞分化誘導培地なしに再播種、投与、移植等を行っただけでは、骨芽細胞への分化が進まないということが分かった。
【0007】
また、再播種、投与、移植先において、骨芽細胞分化誘導培地を使用すれば、10日程度で骨芽細胞への分化誘導を進めることができるものの、投与/移植先が特にin vivoである場合には、当該投与/移植先において、骨芽細胞分化誘導培地を10日程度にわたって投与/補充することは困難である。
【0008】
間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化誘導するには、デキサメサゾンやアスコルビン酸、β‐グリセロリン酸が必要であると考えられており、骨芽細胞分化誘導培地にはこれらが含まれている。
また、一般的に、骨芽細胞分化誘導培地には、間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化させる強い作用があり、細胞毒性を示す成分は含まれていないものの、ウシ胎児血清(FBS)が使用されている。FBSは、異種動物由来成分で、抗原性と人畜共通ウイルス感染のリスクがあり、上記投与/移植先において使用することは難しい。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明者により更なる検討が進められた結果、骨芽細胞分化誘導培地に代えて使用可能であり、かつ、間葉系幹細胞から調製可能である、骨芽細胞分化誘導成分を含む細胞産生タンパク質(cell producing proteins、CPPs)を新規に知見し、本発明に至った。
【0010】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、間葉系幹細胞および骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導することを目的とする。より具体的には、骨芽細胞分化誘導培地を使用せずに、間葉系幹細胞から得られた成分を用いて、間葉系幹細胞および骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化させることを可能にする、骨芽細胞への分化誘導方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであって、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の第1の態様は、
60~90vol%の基礎培地と、
10~40vol%の生理食塩水と、
を含み、さらに、
1~100ng/mLのEGFと、
0.2~20.0ng/mLのFGF-2と、
0.2~20.0ng/mLのPDGFと、
0.5~8.0mMのリン酸アスコルビルマグネシウムと、
が添加されて構成される、幹細胞培養用培地である。
このような幹細胞培養用培地によれば、間葉系幹細胞から細胞産生タンパク質(CPPs)組成物を作成することができ、当該CPPs組成物により、間葉系幹細胞および骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導することができる。
基礎培地としては、IMDM、DMEM、α‐MEMを使用することができる。上記幹細胞培養用培地の組成において、生理食塩水を加える目的は、上記基礎培地中のCa濃度を10~40%に下げることを目的とする。そのため、使用する基礎培地のCa濃度が40~50μg/mLである場合には生理食塩水で希釈する必要はない。
【0012】
本発明の第2の態様は、
間葉系幹細胞を上記第1の態様に記載の幹細胞培養用培地で1~10日間培養し、
その後、有機溶媒でタンパク質成分を沈殿させ、
沈殿部分を分取して生理食塩水または基礎培地に溶解させる、
ことにより得られる、間葉系幹細胞または骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導するための、細胞産生タンパク質(CPPs)組成物である。
このようなCPPs組成物によれば、骨芽細胞分化誘導培地を使用せずに、間葉系幹細胞から得られた成分を用いて、間葉系幹細胞および骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導することができる。
【0013】
また、上記第2の態様において、CPPs組成物は、I型プロコラーゲンとヒアルロン酸と、を含み、前記I型プロコラーゲンにはカルシウムが結合していることとしてもよい。
I型プロコラーゲンは、カルシウムとの複合体を形成することによって細胞の足場となり、かつ、細胞に対するカルシウムの供給を容易にすることができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、
1)間葉系幹細胞を培養容器に接着させた状態で、骨芽細胞分化誘導培地中で2~6日間培養して、コンフルエントまたはそれ以上まで増殖させることにより、または、
2)間葉系幹細胞を培養容器中に浮遊状態で静置して2~4日間冷蔵保存することにより、
間葉系幹細胞を骨芽前駆細胞に分化させ、その後、
前記骨芽前駆細胞を回収して培養容器に播種し、上記第2の態様に記載のCPPs組成物を添加した基礎培地で培養することにより、
前記骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化させる、骨芽細胞への分化誘導方法である。
このような骨芽細胞への分化誘導方法によれば、骨芽細胞分化誘導培地を使用せずに、間葉系幹細胞から得られた成分を用いて、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導することができる。
また、上記態様において、前記間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪、末梢血、臍帯、臍帯血、または歯髄由来であることとしてもよい。
【0015】
本発明の第4の態様は、
1)間葉系幹細胞を培養容器に接着させた状態で、骨芽細胞分化誘導培地中で2~6日間培養して、コンフルエントまたはそれ以上まで増殖させることにより、または、
2)間葉系幹細胞を培養容器中に浮遊状態で静置して2~4日間冷蔵保存することにより、
間葉系幹細胞を骨芽前駆細胞に分化させる、
骨芽前駆細胞への分化誘導方法である。
このような骨芽前駆細胞への分化誘導方法によれば、再播種、投与、移植前に石灰化が生じることなく、再播種、投与、移植用の骨芽前駆細胞を準備することができる。
また、上記態様において、前記間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪、末梢血、臍帯、臍帯血、または歯髄由来であることとしてもよい。
【0016】
本発明の第5の態様は、
上記第4の態様に記載の分化誘導方法により得られた骨芽前駆細胞を播種するのと同時に、上記第2の態様に記載のCPPs組成物を添加することにより、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化させる、または、
上記第4の態様に記載の分化誘導方法により得られた骨芽前駆細胞を播種し、その後、上記第2の態様に記載のCPPs組成物を添加することにより、骨芽前駆細胞から骨芽細胞への分化を開始させる、
骨芽細胞への分化誘導方法である。
このような骨芽細胞への分化誘導方法によれば、再播種、投与、移植先において、所望のタイミングで、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、骨芽細胞分化誘導培地を使用せずに、間葉系幹細胞から得られた成分を用いて、間葉系幹細胞および骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、A:Alizarin Red染色の写真、B:OD450nmでの吸光度の測定結果、C:Alizarin Red染色の顕微鏡拡大写真(×40)である。
図2図2は、実施例2の結果を示す図である。
図3図3は、実施例2の結果を示す図である。
図4図4は、実施例2の結果を示す図である。
図5図5は、実施例2の結果を示す図である。
図6図6は、実施例3の結果を示す図である。
図7図7は、実施例7の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(幹細胞培養用培地)
本発明の第1の態様に係る幹細胞培養用培地は、
60~90vol%の基礎培地と、
10~40vol%の生理食塩水と、
を含み、さらに、
1~100ng/mLのEGFと、
0.2~20.0ng/mLのFGF-2と、
0.2~20.0ng/mLのPDGFと、
0.5~8.0mMのリン酸アスコルビルマグネシウムと、
が添加されて構成される、幹細胞培養用培地であることを特徴とする。
上記幹細胞培養用培地を用いて培養された間葉系幹細胞から、後述する細胞産生タンパク質(CPPs)組成物が得られることを、本発明者は新規に知見した。
基礎培地としては、IMDM、DMEM、α‐MEMを使用することができる。上記幹細胞培養用培地の組成において、生理食塩水を加える目的は、上記基礎培地中のCa濃度を10~40%に下げることを目的とする。そのため、使用する基礎培地のCa濃度が40~50μg/mLである場合には生理食塩水で希釈する必要はない。
【0020】
上記幹細胞培養用培地に添加される添加因子に関し、EGFは上皮成長因子(Epidermal Growth Factor)、FGF-2は線維芽細胞増殖因子2(fibroblast growth factor 2)、PDGFは血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor)である。上記添加因子は、一般的には、細胞を増殖させるため等の目的で基礎培地への添加因子としてそれぞれ使用されるものである。
上記本発明の第1の態様に係る幹細胞培養用培地において、
EGFを1~10ng/mL、
FGF‐2を0.5~5.0ng/mL、
PDGFを0.5~5.0ng/mL、
の範囲で添加すると、より効率よくCPPs組成物を産生することができる。
【0021】
また、上記本発明の第1の態様に係る幹細胞培養用培地において、
0.1~10.0μg/mLトランスフェリン、および/または
0.2~20.0μg/mLインスリン、および/または
0.1~3.0ng/mL亜セレン酸ナトリウム
をさらに添加することは、細胞の増殖性能を高める観点から好適である。
【0022】
幹細胞培養用培地の具体的は調製方法としては、例えば、
500mL入りのIMDMから50mLから200mLを除去し、等量の生理食塩水を添加して、500mLとし、これに抗生物質を5mL加え、
さらに、
EGFを1~10ng/mL、
FGF‐2を0.5~5.0ng/mL、
PDGFを0.5~5.0ng/mL、
トランスフェリンを0.1~10.0μg/mL、
インスリンを0.2~20.0μg/mL、
亜セレン酸ナトリウムを0.1~3.0ng/mL、
リン酸L-アスコルビルマグネシウムを0.5~8.0mM、
の範囲で添加して作製することができる。
【0023】
(細胞産生タンパク質(CPPs)組成物)
本発明の第2の態様に係るCPPs組成物は、
間葉系幹細胞を上記第1の態様に記載の幹細胞培養用培地で1~10日間培養し、
その後、有機溶媒でタンパク質成分を沈殿させ、
沈殿部分を分取して生理食塩水または基礎培地に溶解させる、
ことにより得られる、間葉系幹細胞または骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導するための、CPPs組成物であることを特徴とする。
このようなCPPs組成物によれば、間葉系幹細胞および骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導することができる。さらに、このようなCPPs組成物によれば、骨芽細胞分化誘導培地を使用せずに、間葉系幹細胞から得られた成分、さらには、自己細胞由来の成分を用いて、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導することができる。
【0024】
また、上記第2の態様において、CPPs組成物は、I型プロコラーゲンとヒアルロン酸と、を含み、前記I型プロコラーゲンにはカルシウムが結合していることとしてもよい。
CPPs組成物には、例えば、I型プロコラーゲンは30~100μg/mL含まれ、ヒアルロン酸は49~140μg/mL含まれる。I型プロコラーゲンとカルシウムの結合割合は、例えば、30~45%、好適には、35~42%である。
【0025】
上記第2の態様において、間葉系幹細胞としては、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞(ASC)、末梢血由来間葉系幹細胞、臍帯Wharton's Jelly(ウォートンジェリー)由来間葉系幹細胞、臍帯血間葉系幹細胞、歯髄由来間葉系幹細胞等を使用することができる。基礎培地としては、IMDM、DMEM、α‐MEMを使用することができる。培養期間は、1~10日間であり、好適には、3~4日である。
【0026】
また、上記第2の態様において、「有機溶媒でタンパク質成分を沈殿」させる工程の後の「沈殿部分を分取して生理食塩水または基礎培地に溶解させる」工程においては、有機溶媒で沈殿させたタンパク質成分をpH1の塩酸(例えば、1N HCl)に懸濁して、vortex(例えば、約10分間)し、その後、(例えば、1.2N NaOHを用いて)中和することにより、ウイルス不活化処理を合わせて行うこととしてもよい。その場合には、中和した溶液を遠心分離し、得られた上清を細胞産生タンパク質(CPPs)組成物とする。
【0027】
ここで、本明細書では、「骨芽前駆細胞」とは、「石灰化の開始を示す、nodule(石灰化球)が形成された(一部石灰化した)細胞であって、トリプシン-EDTAで剥離できる状態の細胞」と定義する。
本発明者は、間葉系幹細胞を、後述する1)または2)の工程で短期間培養することにより、間葉系幹細胞を骨芽前駆細胞に分化誘導できることを新規に知見した。
【0028】
(間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化誘導方法)
本発明の第3の態様に係る骨芽細胞への分化誘導方法は、
1)間葉系幹細胞を培養容器に接着させた状態で、骨芽細胞分化誘導培地中で2~6日間培養して、コンフルエントまたはそれ以上まで増殖させることにより、または、
2)間葉系幹細胞を培養容器中に浮遊状態で静置して2~4日間冷蔵保存することにより、
間葉系幹細胞を骨芽前駆細胞に分化させ、その後、
前記骨芽前駆細胞を回収して培養容器に播種し、上記第2の態様に記載のCPPs組成物を添加した基礎培地で培養することにより、
前記骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化させる、ことを特徴とする。
【0029】
このような骨芽細胞への分化誘導方法によれば、骨芽細胞分化誘導培地を使用せずに、間葉系幹細胞から得られた成分を用いて、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導することができる。
また、上記第3の態様において、前記間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪、末梢血、臍帯、臍帯血、または歯髄由来であることとしてもよい。
【0030】
上記第3の態様において、「CPPs組成物を添加した基礎培地」におけるCPPs組成物の濃度は、25~75vol%であることが好ましく、50vol%がより好ましい。
また、「冷蔵保存」とは、4~10℃での保存を意味する。
また、「コンフルエントまたはそれ以上」における「それ以上」とは最大で約200%の過増殖を意味する。
なお、本明細書において、「コンフルエント」とは、接着細胞が培養容器の接着面を覆いつくした状態、すなわち、100%コンフルエントである状態を指す。
【0031】
(間葉系幹細胞の骨芽前駆細胞への分化誘導方法)
本発明の第4の態様は、
1)間葉系幹細胞を培養容器に接着させた状態で、骨芽細胞分化誘導培地中で2~6日間培養して、コンフルエントまたはそれ以上まで増殖させることにより、または、
2)間葉系幹細胞を培養容器中に浮遊状態で静置して2~4日間冷蔵保存することにより、
間葉系幹細胞を骨芽前駆細胞に分化させる、ことを特徴とする。
骨芽前駆細胞への分化誘導方法である。
【0032】
このような骨芽前駆細胞への分化誘導方法によれば、再播種、投与、移植前に石灰化が生じることなく、再播種、投与、移植用の骨芽前駆細胞を準備することができる。
また、上記第4の態様において、前記間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪、末梢血、臍帯、臍帯血、または歯髄由来であることとしてもよい。
【0033】
上記第4の態様において、「冷蔵保存」とは、4~10℃での保存を意味する。
また、「コンフルエントまたはそれ以上」における「それ以上」とは最大で200%の過増殖を意味する。
【0034】
(骨芽前駆細胞の骨芽細胞への分化誘導方法)
本発明の第5の態様は、
上記第4の態様に記載の分化誘導方法により得られた骨芽前駆細胞を播種するのと同時に、上記第2の態様に記載のCPPs組成物を添加することにより、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化させる、または、
上記第4の態様に記載の分化誘導方法により得られた骨芽前駆細胞を播種し、その後、上記第2の態様に記載のCPPs組成物を添加することにより、骨芽前駆細胞から骨芽細胞への分化を開始させる、
骨芽細胞への分化誘導方法である。
【0035】
このような骨芽細胞への分化誘導方法によれば、再播種、投与、移植先において、所望のタイミングで、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導させることができる。特に、骨芽前駆細胞を播種した後に、CPPs組成物を添加する場合には、当該CPPs組成物を、骨芽細胞への分化を開始させるためのブースターとして使用することができる。
また、上記第5の態様において、「CPPs組成物」は、骨芽前駆細胞の培養に使用されている培地の25~75vol%となるように添加されることが好ましく、50vol%がより好ましい。
【実施例
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)幹細胞培養用培地およびCPPs組成物の調製
500mL入りの幹細胞増殖用BSCM-PL2培地(バイオ未来工房社製)に、抗生物質としてAntibiotic-Antimycotic Mixed Stock Solution(ナカライテスク社製、製品番号:02892‐54)を5mL加え、CPPs組成物を作成するための幹細胞培養用培地を準備した。
次に、間葉系幹細胞(MSC)に属する脂肪由来幹細胞(ASC)(Lonza社製、製品番号:PT‐2501)4×10cells/mLを、2%ヒト血清を含むBMCM‐PL1培地(バイオ未来工房社製)を用いてT‐75フラスコ(SARSTEDT社製、製品番号:83.3911.002)で90%コンフルエントになるまで培養し、トリプシン‐EDTA溶液(ナカライテスク社製、製品番号:32777‐44)で剥離した。その後、ハイパーフラスコ(コーニング社製)に2×10cells/mLで播種し、1%ヒト血清を含むBMCM-PL1培地(バイオ未来工房社製)560mLでコンフルエントになるまで再度培養した。
【0038】
その後、幹細胞増殖用BSCM-PL2培地(バイオ未来工房社製)に培地を交換して、5日間培養し、培地を全量回収して新たな幹細胞培養用培地培地560mLを加え、5日間さらに培養した。この培地の全量回収と添加を細胞が剥離するまで継続し、このようにして回収した培養上清について、遠心分離(3000rpm、5分間)を行って細胞残渣を除去した。その後、80%エタノールまたはアセトンによる有機溶媒沈殿法で、タンパク質画分を分離した。このタンパク質画分をPBS(-)(ナカライテスク社製、製品番号:07269‐84)に溶解させ、遠心分離(8000rpm、10分間)によって不溶画分を除去し、再度、80%エタノールまたはアセトンで沈殿させた。
【0039】
この沈殿を1N塩酸(ナカライテスク社製、製品番号:18320‐15)10mLで溶解し、室温、2,500rpmで10分間、vortexで撹拌し、1.2N苛性ソーダ(ナカライテスク社製、製品番号:31511‐05)で中和してウイルス不活化処理を行い、その後、遠心して不溶物を除去した。最後に、0.45μmのフィルター(Cytiva社製、製品番号:6900‐2504)を通して滅菌処理し、CPPs組成物を得た。
【0040】
(比較例1)対照培養上清(CM)の調製
次に、比較対照として、一般的な培養上清であるCMを以下のように調製した。
ASC(Lonza社製、製品番号:PT‐2501)4×10cells/mLを2%ヒト血清を含むBMCM‐PL1培地(バイオ未来工房社製)を用いてT‐75フラスコ(ARSTEDT社製、製品番号:83.3911.002)で90%コンフルエントになるまで培養し、トリプシン‐EDTA溶液(ナカライテスク社製、製品番号:32777‐44)で剥離し、ハイパーフラスコ(コーニング社製)に1%ヒト血清を含むBMCM-PL1培地(バイオ未来工房社製)560mLを用いてコンフルエントになるまで再度培養し、培養上清を回収した。その後、培養上清を遠心して不溶物を除去した。最後に、0.45μmのフィルター(Cytiva社製、製品番号:6900‐2504)を通して滅菌処理し、CMを得た。
【0041】
(実施例2)接着培養による骨芽前駆細胞の調製
ASC(Lonza社製、製品番号:PT‐2501)3×10cells/mLを、間葉系幹細胞増殖用培地(株式会社フコク製、製品番号:FKCM 301T)10mLを用いて10cmディッシュ(SARSTEDT社製、製品番号:83.3902)に20~30%コンフルエントになるように播種し、培養した。
次に、以下の(1)から(4)の培養条件でそれぞれ培養した後、培地を骨芽細胞分化誘導培地BMK-R008(株式会社バイオ未来工房製)に交換して、2、4、6日間それぞれ培養した。
培養条件(1)80~90%コンフルエントになるまで培養。
培養条件(2)80~90%コンフルエントになった状態で、IMDM(ナカライテスク社製、製品番号:11506‐05)に培地交換し、コンフルエントになるまで培養。
培養条件(3)コンフルエントになるまで培養。
培養条件(4)コンフルエントになった状態から2日間過増殖になるように培養。
【0042】
次に、10cmディッシュで培養したASCを剥離して回収し、上記IMDMに懸濁して1×10cells/mL/wellに調製し、24ウェルプレート(SARSTEDT社製、製品番号:83.3922)に播種した。
翌日、4種類の培地:
培地(A)IMDM、
培地(B)CM+IMDM(混合比1:1)、
培地(C)CPPs組成物+IMDM(混合比1:1)、
培地(D)骨芽細胞分化誘導培地(陽性対照)、
に交換し、培地交換しながら1~8日間まで培養した。CMとCPPs組成物は、上記(実施例1)と(比較例1)でそれぞれ調製したものを使用した。なお、上記混合比は体積比である。
【0043】
上記1~8日間の培養後に、Alizarin Red S染色キットBMK-R009(株式会社バイオ未来工房製)で、(1)~(4)の各ウェルを固定化して、石灰化結節(リン酸カルシウム)を染色し、リン酸カルシウムに結合した色素を5%ギ酸で抽出してOD450nmで吸光度を測定した。
【0044】
Alizarin Redで赤く染色された場合、ギ酸で溶出した上記色素のOD450nmでの吸光度は0.100以上となる。その根拠となる実験を以下に示す。
上記培養条件(4):「コンフルエント(100%)になった状態から2日間過増殖になるように培養」し、その後、骨芽細胞分化誘導培地に交換して4日間培養した細胞を用いて、以下の培地でさらに3~8日間それぞれ培養した。
(a)CM+IMDM(混合比1:1)
(b)CPPs組成物+IMDM(混合比1:1)
(c)骨芽細胞分化誘導培地(陽性対照)
【0045】
結果を図1に示す。A:Alizarin Red染色の写真(培養6日目)、B:OD450nmでの吸光度の測定結果(左側の列からそれぞれ、培養3、6、8日目)、C:Alizarin Red染色の顕微鏡拡大写真(×40)(培養6日目)である。
(a)については、図1のA(a)およびC(a)をみると、染色されていないことがわかる。このときの吸光度は、図1のB(a)に示されるように0.009である。
(b)については、図1のA(b)およびC(b)をみると、nodule(石灰化球)が染まって石灰化が始まっていることがわかる。このときの吸光度は、図1のB(b)に示されるように0.121であり、B(a)の約10倍である。
(c)は、陽性対象として、完全に石灰化が進んだ状態を示す。
上記の結果から、OD450nmでの吸光度が0.100以上で石灰化ありと判断し、間葉系幹細胞および骨芽前駆細胞が骨芽細胞へと分化誘導されたことの判断基準とした。
【0046】
図2~5の表のそれぞれに、上記培養条件(1)~(4)の結果のそれぞれを示す。
培養条件(1)と(2)では、陽性対象の培地(D)以外は殆ど石灰化されず、骨芽細胞への分化誘導がみられなかった(図2図3)。
一方、培養条件(3)では、コンフルエントで骨芽分化に交換して2日と4日後に剥離してプレートに播種し、培地(C):CPPs組成物+IMDMに交換した場合、8日後に石灰化が生じ、また、コンフルエントで骨芽細胞分化誘導培地に交換して6日後に剥離してプレートに播種し、培地(C)に交換した場合、3日後と8日後に石灰化が生じ、骨芽細胞に分化誘導されたことが確認された(図4)。
さらに、培養条件(4)では、コンフルエントから2日間過増殖にし、その後、骨芽細胞分化誘導培地に交換して4日と6日後に剥離して、プレートに播種し、培地(C)に交換した場合、6~8日後、1~8日後にそれぞれ石灰化が生じ、骨芽細胞に分化誘導されたことが確認された(図5)。
【0047】
図2~5の表に示されるように、陽性対象の培地(D)で培養した場合は、プレートに播種して3日後には、石灰化が生じていたが、培地(A):IMDMおよび培地(B):CM+IMDMで培養した場合は、培養条件(1)~(4)のいずれにおいても、石灰化が全く生じなかった。これに対し、培地(C):CPPs組成物+IMDMで培養した場合には、上記のように、培養条件(3)および(4)において、培養期間に応じて石灰化が促進され、骨芽細胞に分化誘導することができた。
このことから、培養条件(3)および(4)により、骨芽前駆細胞へと分化誘導された細胞が、(C)CPPs組成物+IMDMでの培養により、さらに骨芽細胞へと分化誘導されたと考えられる。
【0048】
(実施例3)浮遊静置による骨芽前駆細胞の調製
次にMSCを培養容器に接着させることなく、浮遊静置状態で、骨芽前駆細胞に分化させる方法について検討した。
ASC(Lonza社製、製品番号:PT‐2501)1×10cells/mLを間葉系幹細胞増殖用培地FKCM 301T(フコク製)40mLを用いてT-175フラスコ(SARSTEDT社製、製品番号:83.3912.002)で培養し、1.7×10cellsを、実施例2で使用した4種類の培地:
培地(A)IMDM、
培地(B)CM+IMDM(混合比1:1)、
培地(C)CPPs組成物+IMDM(混合比1:1)、
培地(D)骨芽細胞分化誘導培地(陽性対照)、
とともに、4本の15mLチューブ(SARSTEDT社製、製品番号:62.554.5.2)にそれぞれ4mL加えて混和し、2日間、4日間、およびび6日間、ぞれぞれ、浮遊状態で冷蔵保存(4~5℃)にて静置した。なお、上記混合比は体積比である。
【0049】
それぞれの冷蔵保存期間の経過後に、各チューブから10μLをサンプリングして、血球計算盤(エルマ販売社製、製品番号:4025)を用いて生細胞数を測定した。その後、4本の各チューブ培地を遠心分離して除去し、IMDM(ナカライテスク社製、製品番号:11506‐05)に懸濁し、その後、48ウェルプレート(SARSTEDT社製、製品番号:83.3923)に播種した。
【0050】
上記生細胞数の測定によりカウントされたASCの生細胞(生存)率は、2日目84~89%、4日目88~93%、6日目79~91%であった。上記48ウェルプレートに播種し、接着させた翌日、4種類の上記培地(A)~(D)の培地にそれぞれ交換した。このように、16通りの条件で培養を行い、4日後と8日後に、実施例2と同様にしてAlizarin Red染色を行った。
【0051】
その結果を図6の表に示す。浮遊状態での冷蔵保存期間が2日間と4日間の場合は、(C):CPPs組成物+IMDMで培養8日後に石灰化がみられた。しかしながら、浮遊状態での冷蔵保存期間が6日間の場合は、石灰化がみられたのは培地(D):骨芽細胞分化誘導培地(陽性対照)のみであった。培地(A):IMDMと培地(B):CM+IMDMでは、どの培養条件においても、石灰化は全くみられなかった。
上記の結果から、短期間の浮遊状態での冷蔵保存後により、ASCが骨芽前駆細胞に分化誘導され、その後、CPPs組成物を加えた培地で培養することにより、骨芽前駆細胞が骨芽細胞に分化誘導されたと考えられる。また、浮遊状態での冷蔵保存時における培地は、CPPs組成物を加えていなくても、その後の骨芽細胞への分化誘導に影響がないことがわかった。
【0052】
(実施例4)浮遊静置による骨芽前駆細胞への分化誘導の検証
浮遊状態での冷蔵保存の工程を行わずに、実施例2で使用した4種類の培地:
培地(A)IMDM、
培地(B)CM+IMDM(混合比1:1)、
培地(C)CPPs組成物+IMDM(混合比1:1)、
培地(D)骨芽細胞分化誘導培地(陽性対照)、
0.5mL/well入りの24ウェルプレート(SARSTEDT社製、製品番号:83.3922)に、ASC(Lonza社製、製品番号:PT-2501)2×10cells/mLを播種し、7~11日間培養した後、実施例2と同様にAlizarin Red染色を行った。なお、上記混合比は体積比である。その結果を表1に示す。陽性対照の培地(D)のみ石灰化し、培地(A)~(C)は、石灰化がみられなかった。このことから、CPPs組成物を添加した基礎培地で培養する前に、浮遊状態での冷蔵保存の工程(培養容器中に浮遊状態で静置して2~4日間冷蔵保存する工程)は、骨芽細胞への分化誘導を行うために、必須の工程の1つであることがわかる。
【0053】
【表1】
【0054】
(実施例5)CPPs組成物の分析1
CPPs組成物の特徴を確認するために、I型コラーゲン濃度、ヒアルロン酸濃度、およびコラーゲンとCaを測定し、対照培養上清(CM)と比較検討した。
CPPs中のI型コラーゲン濃度について、ELISA(ヒトコラーゲンタイプ1 ELISA(エーセル社製、製品番号:EC1-E105)に相当するものを作成)およびSDS-PAGEで測定(羊土社、タンパク質実験ノート下改定第4版に準じて実施)すると、60~100μg/mLであり、平均80μg/mLであった。
CPPs中のヒアルロン酸濃度について、ヒアルロン酸定量キット(コスモ・バイオ株式会社製、製品番号:HA‐96KIT)を使用して測定したところ、140μg/mLであった。
CPPs中のTGF-β1について、ヒトTGF-β1 ELISA キット(Bioss Inc.製、製品番号:BSKH1021)を使用して測定したところ、384~810pg/mLであった。
CMについても同様の測定を行い、比較した。その結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
CPPs組成物と、一般的な培養上清であるCMを比較すると、CPPs組成物のI型コラーゲン濃度は、約42倍、ヒアルロン酸濃度は約50倍、そしてTGF-β1は最大3.1倍であり、CPPs組成物には、これらの成分が豊富に含まれていることがわかった。
【0057】
また、これまでの結果から、CPPs組成物には、骨芽細胞分化誘導培地と同様に、石灰化促進活性の作用があるのは明らかであることから、石灰化に必須であるとされる、I型コラーゲンとCaが含まれている可能性が高いと考えられた。上記実施例5では、I型コラーゲン濃度が高いことが確認されたため、CPPs組成物のCa濃度を、メタロアッセイカルシウム測定(OCPC)(メタロジェニクス株式会社製、製品番号:CA30M)で測定すると40μg/mLであった。しかしながら、CPPs組成物の調製時において、Caは有機溶媒で沈殿せず、沈殿したタンパク質をウイルス不活化処理するために使用した塩酸と苛性ソーダはCaを含有していないことから、CPPs組成物のCa濃度は、計算上、ほぼ0μg/mLになるはずである。
このことから、CPPs組成物中のI型コラーゲンにCaが結合していることが予測された。
【0058】
(実施例6)CPPs組成物の分析2
上記予測を確認するために、以下の測定を行った。
まず、非特的なCa吸着の影響を取り除くために、CPPs組成物10mLを遠心濃縮器(CORNING製、Spin-X UF20)で、約1.7mLにまで濃縮した。上記メタロアッセイカルシウム測定により上記濃縮試料についてCa濃度を測定すると174μgであった。
その後、上記濃縮試料に生理食塩水10.3mLを添加して、上記遠心濃縮器で1.5μLまで濃縮し、ろ液と濃縮液のCa(カルシウム)濃度を測定したところ、それぞれ、
ろ液(10.5ml)のCa濃度:4.1μg/mL、
濃縮液(1.5ml)のCa濃度:38.8μg/mL、
であった。
一方、これらのI型コラーゲン濃度を上記ELISAにより測定すると、
ろ液のI型コラーゲン濃度:0.1μg/mL以下、
濃縮液のI型コラーゲン濃度:360μg/mL、
であった。
以上の結果から、濃縮液におけるI型コラーゲン濃度とCa濃度に相関性があり、I型コラーゲンとCaの挙動が一致していることがわかる。すなわち、Caの大半はろ過されずに濃縮液側に残っていることから、CPPs組成物におけるI型コラーゲンに、培地中のCaが結合していることが示された。
【0059】
(実施例7)CPPs組成物の分析3
CPPs組成物について、I型アテロコラーゲン(第一ファインケミカル社製、製品番号:Y‐1)とともに、10%ゲルのSDS-PAGEで泳動後、ニトロセルロース膜に転写させて、ウエスタンブロッティング(Western Blotting)を行った(羊土社、タンパク質実験ノート下改定第4版に準じて実施)。結果を図7に示す。図7のAはCBB染色(ナカライテスク社製、製品番号:04543‐51)の結果であり、図7のBは抗Procollagen 1C-Terminal Propeptide(抗PICP)抗体(Cloud-Clone Crop社製、製品番号:PAA570Hu08)と反応させて得られた泳動パターンである。
図7のA(b)に示されるように、I型アテロコラーゲンは、CBB染色で約120kDa(質量)の2本鎖として示されたが、プロペプチドのC末端を標識する抗PICP抗体には反応せず、図7のB(b)に示されるように、バンドは検出されなかった。
一方、図7の(c)および(d)で示されるCPPs組成物は、約120~200kDaで少なくとも5つのバンド(5本鎖)が検出されている。この結果から、CPPs組成物のI型コラーゲンにはプロコラーゲン(コラーゲン前駆体)が含まれていることが示された。
CPPs組成物に含まれる上記プロコラーゲンは、カルシウムとの複合体を形成することによって細胞の足場となり、かつ、細胞に対するカルシウムの供給を容易にすることができる。
【0060】
このような特徴を有するCPPs組成物によれば、骨芽前駆細胞と同時にCPPs組成物を局所投与する、または、ブ-スターとして追ってCPPs組成物を投与することにより、所望のタイミングで骨芽細胞への分化誘導を行うことができる。また、骨芽細胞分化誘導培地を使用せずに、間葉系幹細胞から得られた成分、さらには、自己細胞由来の成分を用いて、間葉系幹細胞、骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導することができる。
【要約】
間葉系幹細胞および骨芽前駆細胞を骨芽細胞に分化誘導する。60~90vol%の基礎培地と、10~40vol%の生理食塩水と、を含み、さらに、1~100ng/mLのEGFと、0.2~20.0ng/mLのFGF-2と、0.2~20.0ng/mLのPDGFと、0.5~8.0mMのリン酸アスコルビルマグネシウムと、が添加されて構成される、幹細胞培養用培地を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7