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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20241206BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20241206BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/05
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020145388
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040599
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-07-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「戦略的イノベーション創造プログラム(スマートバイオ産業・農業基盤技術)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
(72)【発明者】
【氏名】バダム ラージャシェーカル
(72)【発明者】
【氏名】パトナイク コッティサ スマラ
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-216272(JP,A)
【文献】特開2019-081667(JP,A)
【文献】特開2016-122641(JP,A)
【文献】特開2001-080914(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009333(WO,A1)
【文献】特開2011-006280(JP,A)
【文献】国際公開第2007/043311(WO,A1)
【文献】特開2005-239456(JP,A)
【文献】特表2008-509876(JP,A)
【文献】Ding-sheng YUAN, et al,Nitrogen-enriched carbon nanowires from the direct carbonization of polyaniline nanowires and its electrochemical properties,Electrochemistry Communications,2011年01月04日,Vol.13,p.242-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
C01B 32/05
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子の含有率が15質量%以上である窒素ドープカーボン粒子を含有してなるリチウムイオン二次電池用負極活物質であって、前記窒素ドープカーボン粒子の原料として式:
【化1】
で表わされる繰返し単位を有し、数平均分子量が2000~100000であるポリベンズイミダゾールが使用され、当該ポリベンズイミダゾールが焼成されてなり、炭素原子と窒素原子と酸素原子とからなる窒素ドープカーボン粒子を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極活物質
【請求項2】
窒素ドープカーボン粒子に式(Ia):
【化2】
で表わされる化合物、式(Ib):
【化3】
で表わされるピリジン、式(Ic):
【化4】
で表わされるピロールおよび式(Id):
【化5】
で表わされる酸素原子含有ピリジン化合物が含まれている請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質
【請求項3】
窒素ドープカーボン粒子の結晶面の間隔が0.35~0.37nmである請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質
【請求項4】
正極と負極と正極および負極の間に配置されたセパレータとを有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極が請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極であるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質に関する。さらに詳しくは、本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質、前記リチウムイオン二次電池用負極活物質に好適に用いることができる窒素ドープカーボン粒子およびその製造方法、ならびに前記リチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極を有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素ドープカーボンは、酸化還元反応、酸素発生反応などの反応における電気化学触媒、スーパーキャパシタ用材料などとして用いられている。一般に、窒素ドープカーボンにおける窒素の含有率が高くなるにしたがって当該窒素ドープカーボンの酸化還元活性が高くなると考えられている(例えば、特許文献1の段落[0002]参照)。
【0003】
窒素の含有率が高い窒素ドープカーボンの製造方法として、石英からなる焼成容器を用い、二酸化炭素ガスを含有する雰囲気中でカーボンを焼成する工程と、前記焼成容器の内部温度を100℃以下に下げる工程と、前記焼成容器の内部雰囲気をアンモニア含有ガス雰囲気に置換し、前記カーボンを焼成する工程とを備える窒素含有カーボンの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1の請求項1参照)。
【0004】
しかし、前記窒素含有カーボンの製造方法によって得られた窒素含有カーボンにおける窒素の含有率は、1.5重量%程度であることから(例えば、特許文献1の段落[0013]および図2参照)、当該窒素含有カーボンの酸化還元活性がそれほど高いとはいえず、放電容量の改善が望まれる。
【0005】
近年においては、放電容量が高く、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れている窒素ドープカーボンの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-67487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、放電容量が高く、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れている窒素ドープカーボンおよびその製造方法、当該窒素ドープカーボンを含有するリチウムイオン二次電池用負極活物質、および当該リチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極を有するリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 窒素原子の含有率が15質量%以上である窒素ドープカーボン粒子、
(2) 前記(1)に記載の窒素ドープカーボン粒子を製造する方法であって、ポリベンズイミダゾールを窒素ガス含有雰囲気中で550~1500℃の温度で焼成することを特徴とする窒素ドープカーボン粒子の製造方法、
(3) 前記(1)に記載の窒素ドープカーボン粒子を含有してなるリチウムイオン二次電池用負極活物質、および
(4) 正極と負極と正極および負極の間に配置されたセパレータとを有するリチウムイオン二次電池であって、前記負極が前記(3)に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極であるリチウムイオン二次電池
に関する。
【0009】
なお、本発明において、窒素ドープカーボンは、窒素がドープ(含有)されているカーボン(炭素)を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放電容量が高く、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れた窒素ドープカーボンおよびその製造方法、当該窒素ドープカーボンを含有するリチウムイオン二次電池用負極活物質、および当該リチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極を有するリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)~(c)は、それぞれ順に実施例1~3で得られた窒素ドープカーボン粒子の粉末X線回折図である。
図2】実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子のエネルギー分散型X線分析結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図3】(a)は、実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子に含まれている炭素に対するエネルギー分散型X線分析結果を示す走査型電子顕微鏡写真であり、(b)は、当該窒素ドープカーボン粒子に含まれている窒素に対するエネルギー分散型X線分析結果を示す走査型電子顕微鏡写真であり、(c)は、当該窒素ドープカーボン粒子に含まれている酸素に対するエネルギー分散型X線分析結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図4】(a)および(b)は、いずれも実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子のエネルギー分散型X線分析結果を示すグラフである。
図6】(a)は実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子のX線光電子分光分析結果を示すグラフであり、(b)は図6(a)で示された窒素ドープカーボン粒子のX線光電子分光分析結果を示すグラフにおいて、N1sに基づくピークを拡大したグラフである。
図7】(a)は実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子において、周波数1MHz~100mHzにおける電解質と電極との界面における電荷移動抵抗の関係を示すグラフ、(b)はサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すグラフである。
図8】(a)は実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子が用いられている負極半電池のサイクリックボルタンメトリーを電圧0.1V/s、0.3V/s、0.5V/s、0.7V/sまたは1.0V/sにて調べたときの電流値の測定結果を示すグラフ、(b)は負極半電池のサイクリックボルタンメトリーのスキャン速度とピーク電流との関係を示すグラフである。
図9】Aは、負極半電池の充放電の回数と放電容量との関係を示すグラフ、Bは、負極半電池の充放電の回数と充放電効率(クーロン効率)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の窒素ドープカーボン粒子は、前記したように、15質量%以上の窒素原子の含有率を有する。なお、窒素ドープカーボン粒子における窒素原子の含有率は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。本発明の窒素ドープカーボン粒子は、窒素原子の含有率が15質量%以上、好ましくは15~25質量%、より好ましくは18~25質量%であることから、放電容量が高く、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れている。
【0013】
本発明の窒素ドープカーボン粒子は、例えば、ポリベンズイミダゾールを窒素ガス含有雰囲気中で550~1500℃の温度で焼成することによって製造することができる。
【0014】
〔ポリベンズイミダゾール〕
ポリベンズイミダゾールは、式:
【0015】
【化1】
【0016】
で表わされる繰返し単位を有するポリマーである。ポリベンズイミダゾールには、前記繰返し単位以外に、本発明の目的が阻害されない範囲内で当該繰返し単位以外の繰返し単位が含まれていてもよい。ポリベンズイミダゾールは、商業的に容易に入手することができるが、以下のようにして調製することができる。
【0017】
ポリベンズイミダゾールの原料として、例えば、3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩などを用いることができる。3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩は、3,4-ジアミノ安息香酸と塩酸とを反応させることにより、容易に調製することができる。
【0018】
ポリベンズイミダゾールは、例えば、ポリリン酸の存在下で不活性ガス雰囲気中で3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩を80~150℃程度の温度でポリベンズイミダゾールが生成するまで加熱することにより、調製することができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。生成したポリベンズイミダゾールは、必要により、洗浄し、乾燥し、所望の粒子径を有するように粉砕してもよい。
【0019】
ポリベンズイミダゾールの数平均分子量は、放電容量が高く、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れた窒素ドープカーボンを得る観点から、架橋構造を有しない場合には、好ましくは2000~100000、より好ましくは3000~100000であり、架橋構造を有する場合には、好ましくは2000~1000000、より好ましくは3000~1000000である。
【0020】
なお、ポリベンズイミダゾールの数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にて以下の測定条件で測定したときの値である。
【0021】
〔測定条件〕
・装置:昭和電工(株)製、商品名:Shodex-101
・注入時の濃度:0.01質量%
・注入量:100μL
・流速:1mL/min
・溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド
・カラム:昭和電工(株)製、商品名:Shodex KD-803および商品名:Shodex KD-804
・カラムの温度:40℃
・標準:ポリメチルメタクリレート
【0022】
〔窒素ドープカーボン粒子〕
次に、ポリベンズイミダゾールを焼成することにより、窒素ドープカーボン粒子が得られる。なお、ポリベンズイミダゾールを焼成する際には、当該ポリベンズイミダゾールの焼成効率を高めるために、あらかじめ粉砕しておくことが好ましい。ポリベンズイミダゾールの粉砕物の粒子径は、特に限定されないが、当該ポリベンズイミダゾールの焼成効率を高める観点から、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。
【0023】
ポリベンズイミダゾールを焼成する際には、例えば、電気炉などを用いることができる。ポリベンズイミダゾールを焼成する際の雰囲気は、窒素ドープカーボン粒子を効率よく製造する観点から、窒素ガス含有雰囲気である。窒素ガス雰囲気は、理想的には窒素ガス雰囲気であるが、当該窒素ガス雰囲気には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、アルゴンガスなどの不活性ガス、空気、酸素ガス、炭酸ガスなどが含まれていてもよい。
【0024】
ポリベンズイミダゾールの焼成の際の昇温速度には特に限定がない。ポリベンズイミダゾールの焼成の際の昇温速度は、段階的に変化させてもよく、一定となるように維持してもよい。ポリベンズイミダゾールの焼成温度は、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れた窒素ドープカーボンを効率よく製造する観点から、550~1500℃であることが好ましく、600~1300℃であることがより好ましく、600~1100℃であることがさらに好ましい。
【0025】
ポリベンズイミダゾールの焼成時間は、ポリベンズイミダゾールの焼成温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.5~6時間程度である。ポリベンズイミダゾールを焼成した後は、焼成されたポリベンズイミダゾールを好ましくは40℃以下の温度、より好ましくは室温まで放冷すればよい。なお、ポリベンズイミダゾールの焼成温度は、熱電対を用いて測定することができる。
【0026】
以上のようにして窒素ドープカーボン粒子を得ることができる。得られた窒素ドープカーボン粒子が凝集している場合には、必要により、当該窒素ドープカーボン粒子をピンミル、ハンマーミルなどを用いて解砕してもよい。
【0027】
本発明の窒素ドープカーボン粒子には、X線回折により(002)面のピークの存在が認められるが、(002)面のピークがブロードであることから、アモルファスカーボンである。
【0028】
また、窒素ドープカーボン粒子を透過型電子顕微鏡で観察すると、窒素ドープカーボン粒子に細孔径が50nmを越えるマクロポアおよび細孔径が2~50nmの範囲内にあるメソポアが存在することがわかる。したがって、窒素ドープカーボン粒子は、マクロポアおよびメソポアを有することから、リチウムイオンの拡散性に優れているものと考えられる。
【0029】
窒素ドープカーボン粒子のX線光電子分光分析(XPS)の結果、窒素ドープカーボン粒子に式(Ia):
【化2】
【0030】
で表わされるグラファイティック窒素(グラファイト型窒素)を有する化合物、式(Ib):
【0031】
【化3】
【0032】
で表わされるピリジン、式(Ic):
【0033】
【化4】
【0034】
で表わされるピロールおよび式(Id):
【0035】
【化5】
【0036】
で表わされる酸素原子含有ピリジン化合物が含まれていることがわかる。このことから、窒素ドープカーボン粒子は、当該窒素ドープカーボン粒子の原料として用いられるポリベンズイミダゾールが焼成によって分解し、生成した式(Ia)~(Id)で表わされる化合物を含有しているものと考えられる。
【0037】
本発明の窒素ドープカーボン粒子の結晶面の間隔は、グラファイトが有する結晶面の間隔よりも広く、0.35~0.37nmであることが、以下の実施例で確認されている。
【0038】
また、透過型電子顕微鏡で観察したときの窒素ドープカーボン粒子の平均粒子径は、通常、50nm~10μmの範囲内にある。窒素ドープカーボン粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で撮影された画像から任意に100個の窒素ドープカーボン粒子を選択し、各窒素ドープカーボン粒子の縦軸と横軸との平均値を求め、100個の窒素ドープカーボン粒子について当該平均値を合計し、その合計値を100で除した値を意味する。
【0039】
〔リチウムイオン二次電池用負極活物質〕
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、前記窒素ドープカーボン粒子を含有する。本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、前記窒素ドープカーボン粒子のみで構成されていてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で、他の負極活物質が含まれていてもよい。他の負極活物質としては、例えば、黒鉛、グラファイト、コークスなどの炭素物質の粉体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0040】
〔リチウムイオン二次電池〕
本発明のリチウムイオン二次電池は、一般に用いられているリチウム二次イオン電池と同様の構造を有する。
【0041】
本発明のリチウムイオン二次電池は、通常、正極、負極、セパレータおよび非水電解質を有する。リチウムイオン二次電池の形状としては、例えば、円筒型、積層型などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0042】
本発明のリチウムイオン二次電池が、例えば、CR2025リチウムイオン二次電池である場合、負極、セパレータおよび非水電解質は、ケース内に収容されている。以下においては、リチウムイオン二次電池がCR2025リチウムイオン二次電池である場合の実施態様について説明するが、本発明は、かかる実施態様のみに限定されるものではない。
【0043】
CR2025リチウムイオン二次電池に使用されるケースは、その内部が中空であり、開口部を有し、正極容器を兼ねている。ケースの開口部には、蓋部が設けられており、蓋部は、負極蓋を兼ねている。ケースと蓋部との間には、ケースと蓋部との絶縁状態および密封状態を維持するために、ガスケットが設けられている。ケースと蓋部との間の空間には、電極および非水電解質が収容されている。
【0044】
(1)電極
電極は、正極、セパレータおよび負極を有し、この順序で配列されている。正極は、ケースの内面に接触し、負極は、蓋部の内面と接触している。
【0045】
正極は、一般に用いられているリチウム二次イオン電池に用いられている正極と同様であればよく、本発明は、当該正極の組成および構造によって限定されるものではない。
【0046】
正極は、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を所定の比率で混合し、得られた混合物に溶媒、必要により活性炭、粘度調整用添加剤などを適量で添加し、得られた混合物を混練し、正極合材ペーストを調製した後、集電体の表面に塗布し、必要によりプレス成形し、乾燥させることにより、作製することができる。
【0047】
正極活物質の代表例としては、リチウム、リチウム-マンガン系複合酸化物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。導電材としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0048】
負極には、本発明の負極活物質が用いられる。負極は、例えば、本発明の負極活物質と結着剤とを混合し、得られた混合物に溶媒を添加することにより、ペースト状の負極合材を調製し、当該負極合材を銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥させ、必要によりプレス成形し、乾燥させることにより、作製することができる。
【0049】
負極活物質には、本発明の負極活物質が用いられるが、必要により、黒鉛、カーボンブラックなどの粉体を含有させてもよい。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0050】
セパレータは、正極と負極との間に用いられる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するとともに、正極と負極と間のリチウムイオンの移動経路を形成する。セパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂の箔膜を用いることができ、当該薄膜には多数の微細孔が形成されている。
【0051】
(2)非水電解質
非水電解質としては、例えば、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート:ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0052】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極活物質として本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質を含有する負極が用いられているので放電容量が高く、充放電を1200サイクル行なった後においても放電容量の低下が小さいので充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができるので高速充電性に優れるという優れた性質を有する。
【実施例
【0053】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
なお、以下の実施例で測定された物性は、以下の方法に基づいて測定した。
〔粉末X線回折〕
粉末・薄膜X線回折装置〔(株)リガク製、商品名:SmartLab〕を用い、波長(λ)が0.154nmであるCuKα線で測定範囲(2θ)10~80°にて粉末X線回折を行なった。
【0055】
〔エネルギー分散型X線分析(EDS)〕
卓上顕微鏡〔(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:Miniscope(登録商標)TM3030〕を用いて測定した。
【0056】
〔透過型電子顕微鏡(TEM)による観察〕
透過電子顕微鏡〔日立製作所(株)製、品番:H-7100、加速電圧:100kV〕を用いて観察した。
【0057】
〔X線光電子分光分析(XPS)〕
X線光電子分光分析装置(フィソン・インストルメント社製、製品名:S-PROBE TM 2803)を用いてX線光電子分光分析を行なった。
【0058】
〔サイクリックボルタンメトリー〕
ポテンシオスタット(バイオロジカル社製)を用い、周波数1MHz~100mHzおよび出力10mVにて室温でサイクリックボルタンメトリーを測定した。なお、サイクリックボルタンメトリーの測定時の電位範囲は10~2100mVであり、スキャン速度を0.1mV/sに調整した。
【0059】
〔充放電〕
負極半電池の充放電は、充放電装置としてコンパクト充放電装置〔(株)イーシーフロンティア製、品番:ECAD-1000〕を用い、Li/Li++に対する電位差を10~2100mVに調整して行なった。
【0060】
製造例1〔ポリベンズイミダゾールの調製〕
(1)3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩の調製
室温下で3,4-ジアミノ安息香酸3g(19.72mmol)をビーカー内に入れ、メタノール20mLをビーカーに添加した後、ビーカーの内容物を約1時間攪拌した。
【0061】
次に、ビーカーの内容物を攪拌しながら10%塩酸3mLをビーカー内に滴下した後、ビーカーの内容物を約4時間攪拌した。ビーカーの内容物をブフナー漏斗で濾過することにより、未反応の沈殿物を除去し、濾液を回収した。
【0062】
前記で得られた濾液から溶媒(メタノール)をロータリーエバポレーターで除去することにより、固形分を回収した。当該固形分を5~6時間減圧乾燥させることにより、3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩を得た。
【0063】
(2)ポリベンズイミダゾールの調製
100mL容の3つ口フラスコ内に窒素ガスを導入しながら攪拌下でポリリン酸30gをフラスコ内に添加し、当該ポリリン酸を120℃で1時間加熱することにより、当該ポリリン酸から水分を除去した。
【0064】
次に、前記で得られた3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩1.32gをフラスコ内に添加し、120℃の温度で1時間攪拌した後、フラスコの内容物の温度を200℃に昇温させ、当該温度でフラスコの内容物を攪拌下で約14時間放置することにより、ポリベンズイミダゾールを得た。
【0065】
(3)ポリベンズイミダゾールの精製
前記で得られたポリベンズイミダゾールをビーカー内の蒸留水に室温下で添加し、約24時間放置し、残存している未反応の3,4-ジアミノ安息香酸二塩酸塩を水中に溶解させることにより、ポリベンズイミダゾールを精製した。前記で得られたポリベンズイミダゾールの数平均分子量は36000であった。
【0066】
次に、前記ポリベンズイミダゾールをビーカーから取り出し、乾燥機に入れ、減圧下で180℃の温度で6~7時間程度乾燥させた。乾燥させたポリベンズイミダゾールを粉砕機〔日本分析工業(株)製、品番:JF-300〕で回転速度1430rpmにて20分間粉砕させることにより、ポリベンズイミダゾールの粉末を得た。
【0067】
前記で得られたポリベンズイミダゾールの粉末を10%水酸化カリウム水溶液に室温で添加し、約12時間攪拌した後、脱イオン水で当該ポリベンズイミダゾールの粉末を十分に洗浄した。その後、前記ポリベンズイミダゾールの粉末を孔径が0.1μmのフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)濾過膜で濾過し、得られた残渣を乾燥機に入れ、80℃の温度で約12時間乾燥させることにより、精製されたポリベンズイミダゾールを得た。
【0068】
実施例1
プログラム管状電気炉〔アズワン(株)製、品番:TMF-300N〕内を窒素ガスで置換した後、前記で得られたポリベンズイミダゾール100mgを入れたシリカ-アルミナ製の燃焼ボート〔アズワン(株)製〕を電気炉内に入れ、窒素ガスを当該電気炉に連続的に導入しながらポリベンズイミダゾールを焼成した。
【0069】
なお、ポリベンズイミダゾールの焼成は、当該ポリベンズイミダゾールを室温から750℃まで昇温速度5℃/minで加熱し、750℃に到達した時点で800℃にまで昇温速度1℃/minで加熱し、800℃の温度を1時間維持した後、室温まで放冷することによって行なった。得られた焼成物の収量は72mgであったことから、収率は72質量%であることが確認された。
【0070】
前記で得られた焼成物をめのう乳鉢および乳棒で粉砕した後、10%塩酸30mLに添加し、得られた混合物に10~15分間超音波を加えることによって焼成物粉末の分散体を得た。前記で得られた分散体を孔径が0.1μmのフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)濾過膜で濾過し、乾燥機に入れ、80℃の温度で約12時間乾燥させることにより、窒素ドープカーボン粒子を得た。
【0071】
実施例2
プログラム管状電気炉〔アズワン(株)製、品番:TMF-300N〕内を窒素ガスで置換した後、前記で得られたポリベンズイミダゾール100mgを入れたシリカ-アルミナ製の燃焼ボート〔アズワン(株)製〕を電気炉内に入れ、窒素ガスを当該電気炉に連続的に導入しながらポリベンズイミダゾールを焼成した。
【0072】
なお、ポリベンズイミダゾールの焼成は、当該ポリベンズイミダゾールを室温から950℃まで昇温速度5℃/minで加熱し、950℃に到達した時点で1000℃にまで昇温速度1℃/minで加熱し、1000℃の温度を1時間維持した後、室温まで放冷することによって行なった。得られた焼成物の収量は71mgであったことから、収率は71質量%であることが確認された。
【0073】
前記で得られた焼成物をめのう乳鉢および乳棒で粉砕した後、10%塩酸30mLに添加し、得られた混合物に10~15分間超音波を加えることによって焼成物粉末の分散体を得た。前記で得られた分散体を孔径が0.1μmのフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)濾過膜で濾過し、乾燥機に入れ、80℃の温度で約12時間乾燥させることにより、窒素ドープカーボン粒子を得た。
【0074】
実施例3
プログラム管状電気炉〔アズワン(株)製、品番:TMF-300N〕内を窒素ガスで置換した後、前記で得られたポリベンズイミダゾール100mgを入れたシリカ-アルミナ製の燃焼ボート〔アズワン(株)製〕を電気炉内に入れ、窒素ガスを当該電気炉に連続的に導入しながらポリベンズイミダゾールを焼成した。
【0075】
なお、ポリベンズイミダゾールの焼成は、当該ポリベンズイミダゾールを室温から550℃まで昇温速度5℃/minで加熱し、550℃に到達した時点で600℃にまで昇温速度1℃/minで加熱し、600℃の温度を1時間維持した後、室温まで放冷することによって行なった。得られた焼成物の収量は73mgであったことから、収率は73質量%であることが確認された。
【0076】
前記で得られた焼成物をめのう乳鉢および乳棒で粉砕した後、10%塩酸30mLに添加し、得られた混合物に10~15分間超音波を加えることによって焼成物粉末の分散体を得た。前記で得られた分散体を孔径が0.1μmのフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)濾過膜で濾過し、乾燥機に入れ、80℃の温度で約12時間乾燥させることにより、窒素ドープカーボン粒子を得た。
【0077】
次に、実施例1~3で得られた窒素ドープカーボン粒子の粉末X線回折図を図1に示す。図1に示された結果から、窒素ドープカーボン粒子のミラー指数は(002)であり、ピークがブロードであることからアモルファスカーボンが生成されていることがわかる。また、ブラッグの式:
nλ=2dsinθ
(式中、nは正の整数、λはX線の波長、dは結晶面の間隔、θは結晶面とX線とがなす角度を示す)
に基づいて求められる窒素ドープカーボン粒子の結晶面の間隔は、実施例1では0.37nm、実施例では0.36nm、実施例3では0.35nmであったことから、いずれもグラファイト粉末の結晶面の間隔(0.33nm)と対比して大きいことがわかる。
【0078】
次に、実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子を用いて以下の物性を調べた。
〔エネルギー分散型X線分析(EDS)〕
窒素ドープカーボン粒子のエネルギー分散型X線分析結果を図2に示す。図2は、実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子のエネルギー分散型X線分析結果を示すグラフである。
【0079】
また、窒素ドープカーボン粒子に含まれている炭素、窒素および酸素についてもエネルギー分散型X線分析を行なった。その結果を図3に示す。図3において、(a)は、窒素ドープカーボン粒子に含まれている炭素に対するエネルギー分散型X線分析結果を示すグラフであり、(b)は、窒素ドープカーボン粒子に含まれている窒素に対するエネルギー分散型X線分析結果を示すグラフであり、(c)は、窒素ドープカーボン粒子に含まれている酸素に対するエネルギー分散型X線分析結果を示すグラフである。
【0080】
図2および図3に示された結果から、炭素、窒素および酸素は、窒素ドープカーボン粒子中で均一に分散していることがわかる。
【0081】
また、図2に示された結果から、窒素ドープカーボン粒子の粒子径は、50nm~10μmの範囲内にあることが確認された。
【0082】
〔透過型電子顕微鏡(TEM)による観察〕
窒素ドープカーボン粒子の透過型電子顕微鏡写真を図4に示す。図4(a)に示される窒素ドープカーボン粒子の透過型電子顕微鏡写真から、窒素ドープカーボン粒子は、細孔径が50nmを越えるマクロポアおよび細孔径が2~50nmの範囲内にあるメソポアを有することがわかる。窒素ドープカーボン粒子が有するマクロポアおよびメソポアは、リチウムイオンの拡散およびリチウムイオンの貯蔵に寄与しているものと考えられる。
【0083】
また、図4(b)に示される窒素ドープカーボン粒子の透過型電子顕微鏡写真から、窒素ドープカーボン粒子は、層状構造および炭素が相互に接続されている構造を有することおよび多孔質であることがわかる。
【0084】
〔エネルギー分散型X線分析(EDS)〕
窒素ドープカーボン粒子のエネルギー分散型X線分析結果を示すグラフを図5に示す。また、窒素ドープカーボン粒子のエネルギー分散型X線分析結果から求められた窒素ドープカーボン粒子に含まれている元素の含有率を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示されるように、窒素ドープカーボン粒子における窒素の含有率は19.51質量%であり、特許文献1に記載の窒素含有カーボンにおける窒素の含有率が1.5重量%程度であること(引用文献1の図2参照)と対比して格段に高いことから、酸化還元活性に優れているものと認められる。また、実施例1および実施例2で得られた窒素ドープカーボン粒子についても窒素の含有率を調べたところ、それぞれ、19.32質量%および20.25質量%であったことから、これらの窒素ドープカーボン粒子は、実施例3で得られた窒素ドープカーボン粒子と同様に酸化還元活性に優れていることがわかる。
【0087】
〔X線光電子分光分析(XPS)〕
窒素ドープカーボン粒子のX線光電子分光分析結果を図6に示す。図6において、(a)は、窒素ドープカーボン粒子のX線光電子分光分析結果を示すグラフであり、(b)は、図6(a)で示された窒素ドープカーボン粒子のX線光電子分光分析結果を示すグラフにおいて、N1sに基づくピークを拡大したグラフである。図6(b)において、Aは式(Ia)で表わされるグラファイティック窒素(グラファイト型窒素)を有する化合物のグラフ、Bは式(Ib)で表わされるピリジンのグラフ、Cは式(Ic)で表わされるピロールのグラフ、Dは式(Id)で表わされる酸素原子含有ピリジン化合物のグラフである。
【0088】
図6(b)に示された結果から、窒素ドープカーボン粒子には、式(Ia)で表わされるグラファイティック窒素(グラファイト型窒素)を有する化合物10.3質量%、式(Ib)で表わされるピリジン5.9質量%、式(Ic)で表わされるピロール0.6質量%および式(Id)で表わされる酸素原子含有ピリジン化合物0.7質量%が含まれていることが確認された。このことから、窒素ドープカーボン粒子の原料として用いられたポリベンズイミダゾールが焼成によって分解し、式(Ia)~(Id)で表わされる化合物が生成しているものと考えられる。
【0089】
〔サイクリックボルタンメトリー〕
窒素ドープカーボン粒子80g、アセチレンブラック10g、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10gおよびN-メチル-2-ピロリドン400gを均一な組成となるように混合し、得られたスラリーをドクターブレードで銅箔(縦:20mm、横:100mm、厚さ:20μm)に塗布し、減圧下で80℃の温度で約12時間乾燥させ、ロールで押圧することにより、乾燥後の塗膜の厚さが0.06mmである電極を作製した。
【0090】
前記で得られた電極をCR2025リチウムイオン二次電池に組み込むために、直径15mmの円盤となるように抜き打ち、負極として前記で得られた円盤を用い、対極としてリチウム箔を用い、セパレータとしてポリプロピレンセパレータ〔旭化成(株)製、商品名:セルガード2500、厚さ:25μm〕を用い、電解質としてエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとを1:1の質量比で混合した溶媒に濃度が1MとなるようにLiPF6を溶解させた電解質を用い、アルゴンガス雰囲気中で負極半電池を組み立てた。得られた負極半電池は、安定化のため室温中で12時間放置した。
【0091】
前記で得られた負極半電池のサイクリックボルタンメトリーを調べた。その結果を図7および図8に示す。
【0092】
図7(a)は、周波数1MHz~100mHzにおける電解質と電極との界面における電荷移動抵抗の関係を示すグラフである。図7(a)において、Aはサイクリックボルタンメトリーを行なう前の電解質と電極との界面における電荷移動抵抗の関係を示すグラフであり、Bはサイクリックボルタンメトリーを行なった後の電解質と電極との界面における電荷移動抵抗の関係を示すグラフである。
【0093】
図7(a)に示された結果から、サイクリックボルタンメトリーを行なった場合には、電解質と電極との界面における電荷移動抵抗が低下することから、電解質と電極との間で好ましい界面が形成されていることがわかる。
【0094】
図7(b)は、サイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すグラフである。図7(b)において、符号1~5は、それぞれ順に1~5サイクルのサイクリックボルタンメトリーの測定結果を示すグラフである。
【0095】
図7(b)に示された結果から、電位が0~0.1Vの間で電流値が負の方に大きく伸びていることから電極のリチウム化が進行しており、電位の上昇とともに電流値が正となっていることから脱リチウム化が進行しているので、前記負極半電池に用いられている窒素ドープカーボン粒子は、充放電特性に優れていることがわかる。
【0096】
図8(a)は、前記で得られた負極半電池のサイクリックボルタンメトリーを電圧0.1V/s、0.3V/s、0.5V/s、0.7V/sまたは1.0V/sにて調べたときの電流値の測定結果を示すグラフである。
【0097】
図8(a)において、A~Eは、それぞれ順に電圧0.1V/s、0.3V/s、0.5V/s、0.7V/sまたは1.0V/sを印加したときの電流値の測定結果を示すグラフである。図8(b)は、前記負極半電池のサイクリックボルタンメトリーのスキャン速度とピーク電流との関係を示すグラフである。
【0098】
なお、ピーク電流は、式:
Ip=2.69×105×n3/2×A×DLi 1/2×CLi×V1/2
〔式中、Ipはピーク電流(A)、nはリチウムイオンの当量/モル、Aは電極面積(cm2)、DLiは拡散係数(cm2/s)、CLiはリチウムイオン濃度(mol/cm3)、Vはスキャン速度(V/s)を示す〕
表わされるRandles-Sevcik式によって求められる。
【0099】
前記Randles-Sevcik式に基づいてリチウムイオン拡散係数を調べたところ、当該リチウムイオン拡散係数は、1.11×10-8cm2/sであった。このことから、前記で得られた負極半電池は、リチウムイオンの拡散性(移動性)に優れていることがわかる。
【0100】
〔負極半電池の充放電〕
前記で得られた負極半電池を用いて充放電を繰り返して行なった。その結果を図9に示す。図9において、Aは、負極半電池の充放電の回数と放電容量との関係を示すグラフ、Bは、負極半電池の充放電の回数と充放電効率(クーロン効率)との関係を示すグラフである。
【0101】
図9の負極半電池の充放電の回数と放電容量との関係を示すグラフに示されるように、前記で得られた負極半電池の放電容量は、1300サイクル後であっても約180mA・h/g以上であることから、電解質にカーボンが用いられている従来の負極を用いたときの充放電に対する耐久性(サイクル特性)が高くても500サイクルであることと対比して、充放電に対する耐久性(サイクル特性)が約2倍以上に顕著に優れていることがわかる。
【0102】
また、前記で得られた負極半電池の放電容量は、充放電を1300サイクル繰り返してもクーロン効率が約100%で一定していることから品質的に安定しており、耐久性に優れていることがわかる。
【0103】
〔高速充電性〕
前記で得られた負極半電池を用い、充電時の電流を変更し、充電に要する時間を調べた。その結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示された結果から、充電時の電流が約2.86mA/gであるとき、充放電1000サイクルを行なった後であっても、前記で得られた負極半電池の充電容量は115mA・h/g以上に維持されており、さらに約10分間という短時間で負極半電池を充電することができることがわかる。
【0106】
したがって、本発明のリチウムイオン二次電池は、放電容量が高く、充放電に対する耐久性および高速充電性に優れているので、例えば、高速道路のサービスエリアなどでEV車を短時間でしかも高速に充電することに貢献するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の窒素ドープカーボン、当該窒素ドープカーボンを含有するリチウムイオン二次電池用負極活物質、当該リチウムイオン二次電池用負極活物質を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、放電容量が高く、充放電に対する耐久性に優れており、短時間で充電することができる高速充電性に優れていることから、例えば、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピュータ、ハイブリッド自動車、電気自動車などに使用することが期待される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9