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特許7599233非水系二次電池用バインダー、リチウムイオン二次電池多孔層用スラリー、リチウムイオン二次電池多孔層、リチウムイオン二次電池用セパレータ、及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】非水系二次電池用バインダー、リチウムイオン二次電池多孔層用スラリー、リチウムイオン二次電池多孔層、リチウムイオン二次電池用セパレータ、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/443 20210101AFI20241206BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20241206BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20241206BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20241206BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20241206BHJP
【FI】
H01M50/443 B
H01M50/42
H01M50/411
H01M50/414
H01M50/451
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023099368
(22)【出願日】2023-06-16
(65)【公開番号】P2024007380
(43)【公開日】2024-01-18
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022106537
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】524415939
【氏名又は名称】旭化成バッテリーセパレータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】四辻 肇
(72)【発明者】
【氏名】三澤 和史
【審査官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-168213(JP,A)
【文献】特開2016-149313(JP,A)
【文献】特開2012-151108(JP,A)
【文献】特開2020-184462(JP,A)
【文献】特開2021-103676(JP,A)
【文献】特開2015-138770(JP,A)
【文献】特開平04-014755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、粒子状共重合体とを含む、非水系二次電池用バインダーであって、
前記粒子状共重合体が、ビニル単量体単位を含み、
前記ビニル単量体単位が、アクリルアミド単量体単位(B1)とメタクリルアミド単量体単位(B2)を含み、
前記ビニル単量体単位の総質量100質量部に対する、前記アクリルアミド単量体単位(B1)の含有量W1(質量部)と、前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2(質量部)が、下記式(1)を満たし、
前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2が2質量部以上であり、
前記非水系二次電池用バインダーが、非水系二次電池中のリチウムイオン二次電池用セパレータに含まれる機能層用のバインダーである、
非水系二次電池用バインダー。
0<W1/W2<1 ・・・(1)
【請求項2】
前記粒子状共重合体は、ガラス転移温度が10℃以下である、
請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー。
【請求項3】
前記粒子状共重合体が、ビニル単量体単位と、ビニル基と共重合可能な官能基を有する反応性界面活性剤に由来する単量体単位とを含む、
請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー。
【請求項4】
前記ビニル単量体単位が、ビニル基を2以上含む架橋性単量体単位を含み、
前記ビニル基を2以上含む架橋性単量体単位の含有量が、前記粒子状共重合体100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である、
請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー。
【請求項5】
前記ビニル単量体単位の総質量100質量部に対する、前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2が、
2質量部以上20質量部未満である、
請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー。
【請求項6】
前記粒子状共重合体は、体積平均粒子径Dvと数平均粒子径Dnの比Dv/Dnが、
1以上1.5以下である、
請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー。
【請求項7】
前記粒子状共重合体は、
30℃における貯蔵弾性率が7×107Pa以上5×108Pa以下であり、
130℃における貯蔵弾性率が2×106Pa以上である、
請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー。
【請求項8】
前記ビニル単量体単位が、エポキシ基含有ビニル単量体単位をさらに含む、
請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー。
【請求項9】
前記非水系二次電池用バインダーが、非水系二次電池中の多孔層用バインダーである、
請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー。
【請求項10】
水と、
無機フィラーと、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の非水系二次電池用バインダーと、
を、含む、
リチウムイオン二次電池多孔層用スラリー。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウムイオン二次電池多孔層用スラリーを含む、
リチウムイオン二次電池多孔層。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムイオン二次電池多孔層を含む、
リチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項13】
請求項12に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用バインダー、リチウムイオン二次電池多孔層用スラリー、リチウムイオン二次電池多孔層、リチウムイオン二次電池用セパレータ、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン二次電池に代表される蓄電デバイスの開発が、活発に行われている。
通常、前記リチウムイオン二次電池には、微多孔膜よりなるセパレータが正負極間に設けられている。前記セパレータは、正負極間の直接的な接触を防ぎ、かつ微多孔中に保持した電解液を通し、イオンを透過させる機能を有する。
近年、リチウムイオン二次電池の電気特性及び安全性を確保しながらセパレータにさまざまな特性を付与するために、セパレータを構成する基材表面に無機フィラー及び樹脂バインダーを含む層を配置したセパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、酸性官能基を有する第一の単量体、アミド基を有する第二の単量体、及びその他の第三の単量体から形成されたポリマー粒子と無機フィラーとを含む樹脂組成物をセパレータ上に塗工して、セパレータ上に前記樹脂組成物よりなる保護層を形成したリチウムイオン二次電池に関する技術が開示されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池においては、電極及び/又はセパレータの表面に、電池部材間の接着性の向上を目的とした接着層等が設けられることがある。例えば、電極上にさらに接着層を形成した接着層付き電極、及びセパレータ上に接着層を形成した接着層付セパレータが、電池部材として使用されている。具体的には、セパレータ上にポリマー粒子と無機フィラーを含む多孔膜を設けた後、さらに電極との間に接着層を設ける技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
近年では、二次電池のさらなる高性能化が求められている。その性能の一つとして、二次電池を高温環境下で使用した際に、安全性を一層確保することが挙げられる。このような高温環境下での使用の際の二次電池の安全性を確保するための技術として、例えば、有機粒子及び溶媒を含む非水系二次電池機能層用組成物が提案されており、前記非水系二次電池機能層用組成物は、セパレータ上に機能層を形成する際の材料として用いる技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3の機能層は、耐熱収縮性が高く、高温環境下での正極と負極の短絡の発生を十分に抑制でき、安全性を確保できるとされている。
【0005】
二次電池においてセパレータが有する微多孔は、電池が発熱すると孔が収縮して、例えばリチウムイオン等の通過を阻害し、二次電池の暴走を抑制する機能を有している。
しかしながら、150℃以上程度の高温下で二次電池の暴走が起こると、セパレータが収縮を起こし、電極の短絡が起こるという問題がある。特に、近年は電池の大容量化が進んでおり、暴走時の発熱量が大きくなる傾向にあるため、高温下でのセパレータ収縮を防止する技術が求められている。
【0006】
特許文献3に開示されている非水系二次電池機能層用組成物は、有機粒子及び溶媒を含有し、さらに任意に結着剤と、その他の成分を含有する。前記有機粒子は、多官能エチレン性不飽和単量体単位を所定の割合で含み、体積平均粒子径が所定の範囲である。また、任意で含まれる結着剤は、アリルグリシジルエーテル等の架橋性単量体単位と、架橋性単量体単位以外の繰り返し単位を含む重合体であることが開示されている。
特許文献3に開示されているセパレータ上に形成された機能層は、耐熱収縮性が高く、二次電池の安全性を確保できるとされているが、150℃以上の高温下でのセパレータの収縮の抑制に関しては、未だ改善の余地がある、という問題点を有している。
【0007】
また、特許文献4には、エポキシ基含有単量体を所定量含有する機能層用の材料が開示されている。前記特許文献4に開示されている機能層用の材料により形成された機能層は、熱収縮が始まる前の低温領域(例えば60℃)においては柔軟性に優れ、150℃以上の高温下では熱架橋が進行することで硬くなり、耐熱収性が高く、二次電池の安全性を確保できるとされている。
しかしながら、特許文献4に開示されている機能層用の材料は初期の貯蔵弾性率が低いために、150℃以上の高温下での熱架橋後の貯蔵弾性率も充分に高くはなく、したがって150℃以上の高温下では、セパレータの収縮の抑制する効果において、未だ改善の余地がある、という問題点を有している。
【0008】
さらに、特許文献5には、蓄電デバイス用バインダー組成物が開示されており、前記蓄電デバイス用バインダー組成物は、(メタ)アクリルアミドに由来する繰り返し単位の割合が40~100質量%である水溶性重合体を主成分としている。このような水溶性重合体は無機顔料に対する密着性に優れているが、前記蓄電デバイス用バインダー組成物を水性媒体とともにセパレータ上に塗工した場合、水性媒体に溶解した重合体が細孔内部に侵入することで目詰まりを起こし、電池性能を低下させる傾向にある、という問題点を有している。また、前記水溶性重合体はセパレータの含水率を上昇させるため、電池内部の水分量が高くなり、電解液中で副反応を引き起こして電池性能を早期に劣化させる可能性が高く、かかる観点においても改善の余地がある、という問題点を有している。
【0009】
さらにまた、特許文献6には、(メタ)アクリルアミドを40~80質量%を含む粒子状重合体を含有する非水系二次電池セパレータ用バインダー分散液が開示されている。前記非水系二次電池セパレータ用バインダー分散液は、所定のオクタノール/水分配係数を有するエチレン不飽和単量体と前記(メタ)アクリルアミドの共重合によって得られる粒子状共重合体を含有している。このような形態を有する非水系二次電池セパレータ用バインダー分散液であれば、セパレータ上に塗工された場合に、前記セパレータの耐熱性を高めつつ導電性を阻害しないように考えられるが、(メタ)アクリルアミドの水溶性の高さ、及びバインダー分散液の粘度から推察するに、多分に水溶性ポリマーが含有されており、上述した特許文献5に開示されている蓄電デバイス用バインダー組成物と同様に、水性媒体に溶解した粒子状重合体が細孔内部に侵入することで目詰まりを起こし、電池性能を低下させる傾向にある、という問題点を有している。
【0010】
またさらに、特許文献7、特許文献8には、(メタ)アクリルアミド単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体を共重合してなる共重合ポリマーを含む非水系二次電池用バインダー組成物が開示されている。かかる特許文献7、8においては、前記非水系二次電池用バインダー組成物は、電極及び/又はセパレータに対する密着性向上効果が高いことが記載されている。しかしながら、特許文献7、8に開示されている非水系二次電池用バインダー組成物自身の高温強度は十分高くなく、150℃以上の高温下におけるセパレータの収縮の抑制に関しては、改善の余地がある、という問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5708872号公報
【文献】国際公開2019/065416号パンフレット
【文献】国際公開2021/141119号パンフレット
【文献】特開2015―118908号公報
【文献】特許第7004104号公報
【文献】特開2015-088484号公報
【文献】特開2015-185530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、従来開示されている技術においては、150℃以上の高温下におけるセパレータ収縮の抑制に関して、未だ十分な効果が得られていない、という問題点を有している。
【0013】
そこで本発明においては、例えば150℃以上程度の高温下においても、セパレータ収縮を抑制できる層を形成可能な、非水二次電池用バインダー、前記非水二次電池用バインダーを含むリチウムイオン二次電池多孔層用スラリー、前記リチウムイオン二次電池多孔層用スラリーを含むリチウムイオン二次電池多孔層、前記リチウムイオン二次電池多孔層を含むリチウムイオン二次電池用セパレータ、及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ビニル単量体単位を含む粒子状共重合体を含む非水系二次電池用バインダーにおいて、前記ビニル単量体単位が、アクリルアミド単量体単位(B1)と、メタクリルアミド単量体単位(B2)を含み、前記ビニル単量体単位の総質量100質量部に対する、前記アクリルアミド単量体単位(B1)の含有量W1(質量部)と、前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2(質量部)とが、所定の関係を有し、かつ前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2が所定の数値以上である非水系二次電池用バインダーを用いることにより、高温においてもセパレータ収縮を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
〔1〕
水性媒体と、粒子状共重合体とを含む、非水系二次電池用バインダーであって、
前記粒子状共重合体が、ビニル単量体単位を含み、
前記ビニル単量体単位が、アクリルアミド単量体単位(B1)とメタクリルアミド単量体単位(B2)を含み、
前記ビニル単量体単位の総質量100質量部に対する、前記アクリルアミド単量体単位(B1)の含有量W1(質量部)と、前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2(質量部)が、下記式(1)を満たし、
前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2が2質量部以上であり、
前記非水系二次電池用バインダーが、非水系二次電池中のリチウムイオン二次電池用セパレータに含まれる機能層用のバインダーである、
非水系二次電池用バインダー。
0<W1/W2<1 ・・・(1)
〔2〕
前記粒子状共重合体は、ガラス転移温度が10℃以下である、前記〔1〕に記載の非水系二次電池用バインダー。
〔3〕
前記粒子状共重合体が、ビニル単量体単位と、ビニル基と共重合可能な官能基を有する反応性界面活性剤に由来する単量体単位とを含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の非水系二次電池用バインダー。
〔4〕
前記ビニル単量体単位が、ビニル基を2以上含む架橋性単量体単位を含み、
前記ビニル基を2以上含む架橋性単量体単位の含有量が、前記粒子状共重合体100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下である、
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の非水系二次電池用バインダー。
〔5〕
前記ビニル単量体単位の総質量100質量部に対する、前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2が、2質量部以上20質量部未満である、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の非水系二次電池用バインダー。
〔6〕
前記粒子状共重合体は、体積平均粒子径Dvと数平均粒子径Dnの比Dv/Dnが、
1以上1.5以下である、前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載の非水系二次電池用バインダー。
〔7〕
前記粒子状共重合体は、
30℃における貯蔵弾性率が7×107Pa以上5×108Pa以下であり、
130℃における貯蔵弾性率が2×106Pa以上である、
前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載の非水系二次電池用バインダー。
〔8〕
前記ビニル単量体単位が、エポキシ基含有ビニル単量体単位をさらに含む、前記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一に記載の非水系二次電池用バインダー。
〔9〕
前記非水系二次電池用バインダーが、非水系二次電池中の多孔層用バインダーである、前記〔1〕乃至〔8〕のいずれか一に記載の非水系二次電池用バインダー。
〔10〕
水と、
無機フィラーと、
前記〔1〕乃至〔9〕のいずれか一に記載の非水系二次電池用バインダーと、
を、含む、
リチウムイオン二次電池多孔層用スラリー。
〔11〕
前記〔10〕に記載のリチウムイオン二次電池多孔層用スラリーを含む、
リチウムイオン二次電池多孔層。
〔12〕
前記〔11〕に記載のリチウムイオン二次電池多孔層を含む、
リチウムイオン二次電池用セパレータ。
〔13〕
前記〔12〕に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温下においてもセパレータ収縮を抑制できる層を形成可能な非水系二次電池用バインダーが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0018】
本明細書において、「単量体」という場合、この「単量体」とは、本実施形態の粒子状共重合体を構成する各単量体の全てを包含する。
また、本明細書において、単量体が重合体に組み込まれた状態のとき、「単量体単位」と記載し、重合体に組み込まれる前の状態を、「モノマー」又は「化合物」と記載する。
【0019】
また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルの双方を意味し、「(メタ)アクリルアミド」とは、メタクリルアミド及びアクリルアミドの双方を、それぞれ包含する意味で用いる。
【0020】
〔非水二次電池用バインダー〕
本実施形態の非水二次電池用バインダーは、水性媒体と、粒子状共重合体とを含む。
前記粒子状共重合体は、ビニル単量体単位を含み、前記ビニル単量体単位が、アクリルアミド単量体単位(B1)とメタクリルアミド単量体単位(B2)を含む。
前記ビニル単量体単位の総質量100質量部に対する、前記アクリルアミド単量体単位(B1)の含有量W1(質量部)と、前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2(質量部)が、下記式(1)を満たし、
前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2が2質量部以上である。
0<W1/W2<1 ・・・(1)
本実施形態の非水二次電池用バインダーによれば、例えば、150℃以上程度の高温下においても、セパレータ収縮を効果的に抑制できる多孔質層を形成可能である。
【0021】
通常、二次電池用の微多孔を有するセパレータには、前記セパレータの熱収縮を抑えること等の機能付与を目的とした層が設けられている。前記層の形成方法としては、例えば、無機顔料、ラテックス、分散剤、増粘剤等、及び水性媒体を含む組成物を塗工する方法が挙げられる。このとき、セパレータと前記層(塗工層ともいう。)とは剥離しないように密着性が高いことが求められる。
本発明者らは、密着性を高めることにより、塗工層がセパレータを強力に支持し、セパレータの熱収縮を効果的に抑えられると考え、検討を行った。しかしながら、検討の結果、単純に剥離強度を強くするために、接着力が高くなるように調整した塗工層では、セパレータの熱収縮を十分に抑えられないことが明らかとなった。
また、本発明者らが検討を行った結果、室温条件下での密着性に加えて、セパレータを構成するポリオレフィン系の基材が収縮を開始する、例えば150℃といった高温下においても高い密着性を発現することが重要であることが分かった。
さらに、本発明者らは、塗工層が極性成分として所定量のアミド基含有ビニル単量体、特に(メタ)アクリルアミド単量体単位を含む粒子状共重合体を含有する場合に、塗工層が低温時と高温時において所望の挙動を示し、例えば150℃といった高温下においても、塗工層がセパレータの熱収縮を効果的に抑制できることを見出した。
さらにまた、本発明者らは、粒子状共重合体中にアミド基が有効に導入されるためには、水性媒体と粒子状共重合体間での単量体分配比を調整すること、具体的には、アクリルアミド単量体の水性媒体/粒子状共重合体への分配比を調整することと、前記単量体同士の共重合性の観点からメタクリルアミド単量体を主として使用すること、具体的には、アクリルアミド単量体の、その他のビニル単量体との共重合性と、メタクリルアミド単量体の、その他のビニル単量体との共重合性を比較して、メタクリルアミド単量体の方が共重合性が高く粒子状共重合体の骨格中に取り込まれやすいことに鑑みて、メタクリルアミド単量体を主として使用するようにすることが重要であることを見出した。
【0022】
(水性媒体)
本実施形態の非水二次電池用バインダーは、水性媒体を含む。
水性媒体としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の溶媒が挙げられる。
水性媒体には、分散剤、滑剤、増粘剤、殺菌剤等が含まれていてもよい。
【0023】
(粒子状共重合体)
本実施形態の非水二次電池用バインダーは、粒子状共重合体を含む。
粒子状共重合体は、ビニル単量体単位を含む。
【0024】
<ビニル単量体単位>
粒子状共重合体を構成するビニル単量体単位を形成するための原料モノマーであるビニル化合物とは、ビニル基を有する単量体であり、ビニル化合物(CH2=CHX)及びビニリデン化合物(CH2=CXY)のいずれも含まれ、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等が挙げられる。具体的には、下記において詳述する。
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
<ビニル基と共重合可能な官能基を有する反応性界面活性剤に由来する単量体単位>
前記粒子状共重合体は、前記ビニル単量体単位と、『「ビニル基と共重合可能な官能基を有する反応性界面活性剤」に由来する単量体単位』を含むことが好ましい。
前記ビニル基と共重合可能な官能基を有する単量体単位を形成するための原料モノマー、すなわち、前記反応性界面活性剤としては、ビニル基や、アクリル基や、メタクリル基を有する化合物が挙げられ、具体的には、後述する反応性界面活性剤として使用可能な化合物が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
前記ビニル単量体単位と、「ビニル基と共重合可能な官能基を有する、反応性界面活性剤に由来する単量体単位」とを用いた粒子状共重合体は、化学的な安定性に優れ、本実施形態の非水系二次電池用バインダーを用いたセパレータは、電池内部において、酸化条件、還元条件、高温条件(例えば、150℃)に晒されても、その化学的構造が分解されにくい傾向にある。
【0027】
<粒子状共重合体中のメタクリルアミド単量体単位>
前記粒子状共重合体は、上述したように、ビニル単量体単位を含み、前記ビニル単量体単位は、アクリルアミド単量体(B1)と、メタクリルアミド単量体単位(B2)を含む。
粒子状共重合体に含まれるメタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2は、粒子状共重合体中のビニル単量体単位の総質量100質量部に対して、2質量部以上であり、好ましくは4質量部以上であり、より好ましくは6質量部以上であり、さらに好ましくは10質量部以上である。
メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量の上限は、粒子状共重合体中のビニル単量体単位の総質量100質量部に対して、好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部未満であり、さらにより好ましくは15質量部以下である。
粒子状共重合体に含まれるメタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量を、粒子状共重合体中のビニル単量体単位の総質量100質量部に対して2質量部以上とすることにより、本実施形態の非水系二次電池用バインダーは、室温における密着性が高まるとともに、高温下(例えば、130℃)における貯蔵弾性率が高まり、本実施形態の非水系二次電池用バインダーを用いたセパレータの熱収縮を抑制できる傾向にある。また、メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量を粒子状共重合体中のビニル単量体単位の総質量100質量部に対して30質量部以下とすることで、本実施形態の非水二次電池用バインダーに含まれる水溶性成分の割合が抑制され、スラリーとして塗工された際、セパレータの細孔部の目詰まりが低減されるため、サイクル特性やレート特性といった電池特性が良好となる傾向にある。
【0028】
上述したように、前記粒子状共重合体は、アクリルアミド単量体単位(B1)とメタクリルアミド単量体単位(B2)を含む。
前記ビニル単量体単位の総質量100質量部に対する、前記アクリルアミド単量体単位(B1)の含有量W1(質量部)と、前記メタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2(質量部)は、下記式(1)の関係を有する。
0<W1/W2<1 ・・・(1)
前記式(1)の関係を満たし、W1をW2未満に特定することで、粒子状共重合体に含まれる水溶性成分の割合が抑制されるため、上述の機構により、サイクル特性やレート特性といった電池特性が良好となる傾向にある。
【0029】
前記粒子状共重合体中のビニル単量体単位の総質量100質量部に対するメタクリルアミド単量体単位の割合を上述した数値範囲に制御する方法としては、例えば、後述する粒子状共重合体の製造方法のように乳化重合する際に、メタクリルアミド単量体の配合比をビニル単量体の配合量全量に対して、所望の数値範囲に応じた値に調整する方法等が挙げられる。
また、前記式(1)の関係を満たすように制御する方法としては、本実施形態の非水系二次電池用バインダーを構成する粒子状共重合体の製造方法において、メタクリルアミド単量体と、アクリルアミド単量体の配合比を、所望の数値範囲に応じた値に調整する方法が挙げられる。
【0030】
本実施形態の粒子状共重合体に含まれるメタクリルアミド単量体単位、及びアクリルアミド単量体単位の、ビニル単量体単位の総質量を100質量部としたときの含有量は、粒子状共重合体の製造の際の単量体の配合比から算出してもよく、IR(ATR法)等を用いて、各種スペクトルデータから算出してもよい。また、粒子状共重合体に含まれるその他の単量体単位の量は、メタクリルアミド単量体単位と同様の算出方法により算出することができる。
【0031】
(粒子状共重合体の貯蔵弾性率)
上述したように、例えば150℃以上の高温下においても二次電池のセパレータの熱収縮を抑制するためには、本実施形態の非水系二次電池用バインダーがセパレータ及び無機フィラーに対して十分に密着すると同時に、粒子状共重合体が高い弾性率を有することが好ましい。
前記粒子状共重合体が、アクリルアミド単量体単位(B1)及びメタクリルアミド単量体単位(B2)を含むことにより、本実施形態の非水系二次電池用バインダーが室温から高温(例えば、130℃)にかけて高い密着性を有し、かつ、優れた貯蔵弾性率E’を維持する粒子状共重合体が得られる。
【0032】
本実施形態の非水系二次電池用バインダーに含まれる粒子状共重合体は、貯蔵弾性率が、30℃において7×106Pa以上5×108Pa以下であり、かつ、高温領域、すなわち130℃において2×106Pa以上であることが好ましい。これにより、前記粒子状共重合体を含む塗工層が、上述した挙動を示し、微多孔を有するセパレータが高温になってもセパレータが収縮することを抑制できる傾向にある。
前記粒子状共重合体は、貯蔵弾性率が、30℃において1×107Pa以上3×108Pa以下であり、かつ、130℃において5×106Pa以上であることがより好ましい。
前記粒子状共重合体は、貯蔵弾性率が、30℃において4×107Pa以上2×108Pa以下であり、かつ、130℃において6×106Pa以上であることがさらに好ましい。
本実施形態の非水二次電池用バインダーの好適な実施形態としては、粒子状共重合体を、(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体と、アクリルアミド単量体と、メタクリルアミド単量体と、カルボン酸基含有単量体と、架橋性単量体とを、モノマー単位として含む、共重合体からなるものとし、前記架橋性単量体が、エポキシ基含有ビニル単量体を含むものであり、粒子状共重合体の30℃における貯蔵弾性率が、1×107Pa以上3×108Pa以下であり、130℃における貯蔵弾性率が、5×106Pa以上である。前記貯蔵弾性率を有する粒子状共重合体を、本明細書において粒子状共重合体Iと記載する場合がある。
【0033】
粒子状共重合体の貯蔵弾性率が上記範囲を満たすように制御する方法としては、粒子状共重合体に(メタ)アクリルアミド単量体を用いる方法が挙げられる。また、粒子状共重合体の貯蔵弾性率をさらに高める方法としては、エポキシ基含有ビニル単量体を用いる方法が挙げられる。この場合、粒子状共重合体中のビニル単量体単位として、エポキシ基含有ビニル単量体単位が含まれる構成となる。
さらに、粒子状共重合体の貯蔵弾性率を制御する方法としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体と、カルボン酸基含有単量体と、架橋性単量体とを、単量体単位として含み、これらの単量体の種類及びその配合比を調整する方法が挙げられる。
【0034】
本実施形態の粒子状共重合体に含まれるメタクリルアミド単量体単位(B2)の含有量W2は、上述したように、ビニル単量体単位の総質量100質量部に対して、2質量部以上であり、より好ましくは4質量部以上であり、さらに好ましくは6質量部以上であり、さらにより好ましくは10質量部以上である。
メタクリルアミド単量体の割合の上限は、ビニル単量体単位質量100質量部に対して、好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部未満であり、さらにより好ましくは15質量部以下である。
粒子状共重合体に含まれるメタクリルアミド単量体単位の含有量は、ビニル単量体単位の総質量100質量部に対して好ましくは2質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上15質量部以下であり、さらに好ましくは6質量部以上10質量部以下である。
メタクリルアミド単量体単位の含有量を2質量部以上とすることで、水素結合力に由来する高い密着性と貯蔵弾性率を兼ね備えた粒子状共重合体となる傾向にある。また、20質量部以下とすることで室温における柔軟性が高まり、密着性が向上する。
【0035】
<(メタ)アクリル酸エステル単量体>
上述したように、粒子状共重合体の貯蔵弾性率を適切に制御するためには、前記粒子状共重合体に、(メタ)アクリル酸エステル単量体から選ばれる1種以上の単量体を用いることが有効である。
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、以下に限定されないが、例えば、エチレン性不飽和結合を1つ有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリレートと記載する場合もある。
エチレン性不飽和結合を1つ有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、以下に限定されないが、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート(本明細書において、メタクリル酸メチルとも記載する。)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、等のアルキル基を有する(メタ)アクリレート;ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等の芳香環を有する(メタ)アクリレート;等が挙げられる。
これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
アルキル基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくはアルキル基と(メタ)アクリロイルオキシ基とからなる(メタ)アクリレートである。
芳香環を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは芳香環と(メタ)アクリロイルオキシ基とからなる(メタ)アクリレートである。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、炭素数4以上のアルキル基と(メタ)アクリロイルオキシ基とからなる(メタ)アクリル酸エステル単量体がより好ましく、炭素数6以上のアルキル基と(メタ)アクリロイルオキシ基とからなる(メタ)アクリル酸エステル単量体がさらに好ましく、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、及びt-ブチルシクロヘキシルアクリレートからなる群より選ばれる1つ以上がさらにより好ましく、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートからなる群より選ばれる1つ以上がよりさらに好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることは、乳化重合時の重合安定性を向上させる観点や、電極との接着性を向上させる観点から好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、少なくともメチルメタクリレートを含むことが好ましい。また、メチルメタクリレートの含有量は、(メタ)アクリル酸エステル単量体全量100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上である。(メタ)アクリル酸エステル単量体全量100質量部に対して1.0質量部以上のメチルメタクリレートを含むことにより、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、(メタ)アクリルアミド単量体の相溶性が高まり共重合性が向上する。また、低温時に塗工層の柔軟性を高め(すなわち、セパレータと本実施形態の非水二次電池用バインダーを用いた塗工層との剥離強度を強くし)、かつ、高温時に塗工層を固くするとの挙動をより実現しやすくなり、高温になったとしてもセパレータが収縮することをより抑制できる傾向にある。
(メタ)アクリル酸エステル単量体全量100質量部に対するメチルメタクリレートの含有量は、より好ましくは5質量部以上であり、さらに好ましくは8質量部以上である。前記メチルメタクリレートの含有量の上限値は、特に限定されないが、50質量部以下であればよく、好ましくは40質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下である。
【0038】
<カルボン酸基含有単量体>
上述したように、前記粒子状共重合体の貯蔵弾性率を適切に制御するためには、前記粒子状共重合体に、カルボン酸基含有単量体を用いることが有効である。
カルボン酸基含有単量体としては、以下に限定されないが、例えば、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
本明細書において、カルボン酸基含有単量体を不飽和カルボン酸ともいう。
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、以下に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸のハーフエステル、マレイン酸のハーフエステル及びフマール酸のハーフエステル等のモノカルボン酸単量体;イタコン酸、フマール酸及びマレイン酸等のジカルボン酸単量体;等が挙げられる。
カルボン酸基含有単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸である。
【0039】
カルボン酸基含有単量体の含有量は、ビニル単量体単位質量100質量部に対して、通常0.1質量部以上10質量部以下であればよい。セパレータの収縮の抑制をより高める観点から、カルボン酸基含有単量体の含有量は、ビニル単量体単位質量100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上4質量部以下である。
【0040】
<架橋性単量体>
上述したように、粒子状共重合体の貯蔵弾性率を適切に制御するためには、架橋性単量体を用いることが有効である。
架橋性単量体としては、例えば、ラジカル重合性の二重結合を2個以上有する単量体、及び、重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
粒子状共重合体を構成する架橋性単量体としては、エポキシ基含有ビニル単量体を含むことが好ましい。エポキシ基含有ビニル単量体は、重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体に該当する。
エポキシ基含有ビニル単量体としては、以下に限定されないが、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルアクリレート、及びメチルグリシジルメタクリレート等が挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0041】
重合中又は重合後に自己架橋構造を与える官能基を有する単量体としては、上述したエポキシ基含有ビニル単量体以外に、例えば、水酸基を含有する水酸基含有ビニル単量体、アルコキシメチル基を含有するアルコキシメチル基含有ビニル単量体、及び加水分解性シリル基を含有する加水分解性シリル基含有ビニル単量体が挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0042】
粒子状共重合体を構成する架橋性単量体としては、エポキシ基含有ビニル単量体に加えて、ラジカル重合性の二重結合を2個以上有する単量体、アミノ基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体、アルコキシメチル基含有ビニル単量体、及び加水分解性シリル基を有するビニル単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
上記架橋性単量体を用いることにより、例えば、本実施形態の粒子状共重合体を含む非水系二次電池用バインダーを、電極やセパレータの接着剤として用いたとき、適度な流動性を保ちつつ接着性に優れたものとなるため、取り扱い性に優れる傾向にある。
【0043】
ラジカル重合性の二重結合を2個以上有する単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、及び、多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。ラジカル重合性の二重結合を2個以上有する単量体の中でも、少量でも耐電解液に対するより良好な耐性を示すことから、多官能(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0044】
前記多官能(メタ)アクリレートは、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、4官能(メタ)アクリレートであってもよい。
多官能(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されないが、例えば、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラメタクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
これらの中でも、少量でも耐電解液に対するより良好な耐性を示すことから、好ましくはトリメチロールプロパントリアクリレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートである。
【0045】
前記アミノ基含有ビニル単量体としては、以下に限定されないが、例えば、N,N-メチレンビスアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミドが挙げられる。
【0046】
前記水酸基含有ビニル単量体としては、以下に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタアクリレート等のヒドロキシエチル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシブチル(メタ)アクリレート;3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジ-(エチレングリコール)マレエート、ジ-(エチレングリコール)イタコネート、2-ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2-ヒドロキシエチル)マレエート、及び2-ヒドロキシエチルメチルフマレートが挙げられる。これらの水酸基含有ビニル単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
前記水酸基含有ビニル単量体としては、上述した化合物のほか、例えば、メチロール基含有ビニル単量体が挙げられる。前記メチロール基含有ビニル単量体としては、例えば、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、及びジメチロールメタクリルアミド等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0047】
アルコキシメチル基含有ビニル単量体しては、以下に限定されないが、例えば、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、及びN-ブトキシメチルメタクリルアミド等が挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては、以下に限定されないが、例えば、ビニルシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0049】
上述した架橋性単量体により形成された単量体単位の含有量は、前記粒子状共重合体100質量部に対して、通常2質量部以上30質量部以下であり、好ましくは4質量部以上25質量部以下であり、より好ましくは6質量部以上25質量部以下であり、さらに好ましくは8質量部以上25質量部以下である。
架橋性単量体により形成された単量体単位の含有量を2質量部以上30質量部以下の範囲とすることにより、二次電池のセパレータ上に設けられた粒子状共重合体を含む層がセパレータの熱収縮をより抑制できる傾向にある。
【0050】
[ビニル基を2以上含む架橋性単量体]
上述した架橋性単量体の中でも、ビニル基を2以上含む架橋性単量体を用いることが好ましい。前記ビニル基を2以上含む架橋性単量体単位の含有量は、粒子状共重合体100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量部以上3質量部であり、さらに好ましくは0.5質量部以上2質量部である。
ビニル基を2以上含む架橋性単量体単位の含有量を粒子状共重合体100質量部に対して0.1質量部以上とすることで、粒子状共重合体の耐電解液性を向上させることができる。また、5質量部以下とすることで、本実施形態の非水二次電池用バインダーは室温における密着性が向上し、高温下でもセパレータの収縮をより効果的に抑制できる傾向にある。
【0051】
(粒子状共重合体の形態)
本実施形態の粒子状共重合体は、例えば、上述した各種単量体を単量体単位として含有する粒子状共重合体(ラテックス粒子ともいう)が水性媒体中で分散した分散液の形態を有していてもよい。
したがって、本実施形態の非水系二次電池用バインダーの一形態は、粒子状共重合体を含む、水性媒体分散体である。
水性媒体分散体中の固形分濃度は、特に限定されないが、通常10質量%以上60質量%以下であればよく、好ましくは30質量%以上50質量%以下である。固形分濃度を30質量%以上とすることで、例えばスラリーの高固形分化による分散安定性の向上など、スラリー設計における自由度が高まる。また、50質量%以下とすることで、粒子状共重合体を含む水性媒体分散体の粘度が抑制され、スラリー配合作業における作業性が向上する。
【0052】
(非水系二次電池用バインダーの粘度)
本実施形態の非水系二次電池用バインダーの粘度は、特に限定されないが、通常2000mPas以下であり、300mPas以下であることが好ましい。
本実施形態の非水系二次電池用バインダーの粘度が2000mPas以下であると、ハンドリング性が向上し、例えばスラリー配合作業における作業性が向上する。
通常、非水系二次電池用バインダーの粘度は、調整水を追加するなどすることにより、任意の値に低下させることができるが、同時に固形分濃度が低下してしまうため、少なくとも30質量%以上の固形分濃度として、上記粘度範囲を満たすことが特に好ましい。
【0053】
本実施形態の非水系二次電池用バインダーは、粒子状共重合体を、水性媒体中に分散した粒子(共重合体粒子)として含む。水性媒体分散体には、水性媒体及び共重合体以外に、その他の溶媒や、分散剤、滑剤、増粘剤、殺菌剤等が含まれていてもよい。
【0054】
(粒子状共重合体のガラス転移温度)
本実施形態の非水系二次電池用バインダーに含まれる粒子状共重合体は、ガラス転移温度の上限は、10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、さらに好ましくは-5℃以下である。
また、ガラス転移温度の下限は、-50℃以上であり、好ましくは-40℃以上であり、さらに好ましくは-30℃以上である。
ガラス転移温度が上記範囲であることにより、非水系二次電池用バインダーを含む組成物を二次電池のセパレータ上に塗工する際に容易に塗工できる傾向にある。
ガラス転移温度は、例えば、粒子状共重合体を構成する、単量体単位の種類、及び含有量を調整することにより制御でき、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル単量体及び/又は不飽和カルボン酸の含有量を調整することにより、上述した数値範囲に制御することができる。
粒子状共重合体のガラス転移温度は、上述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0055】
(粒子状共重合体の平均粒子径)
前記粒子状共重合体は、体積平均粒子径Dvが、好ましくは30nm以上230nm以下であり、より好ましくは50nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは70nm以上180nm以下である。
前記粒子状共重合体の体積平均粒子径Dvが上記範囲であることにより、本実施形態の非水系二次電池用バインダーを用いたリチウムイオン二次電池用接着剤をセパレータに接着させる際に、適度な空隙を十分に残すことができ、電解液中のイオンを透過させるセパレータの機能を維持できる傾向にある。
前記粒子状共重合体の体積平均粒子径Dv、及び数平均粒子径Dnは、例えば、シードラテックス、界面活性剤を所望の割合で使用して製造することにより制御できる。通常、シードラテックス、界面活性剤の使用量を大きくすることにより、体積平均粒子径Dv、及び数平均粒子径Dnは小さくなる傾向にある。
体積平均粒子径Dv及び数平均粒子径Dnは、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0056】
本実施形態の非水系二次電池用バインダーにおいて、粒子状共重合体の体積平均粒子径Dvと数平均粒子径Dnの比Dv/Dnは、1以上2.5以下であることが好ましく、より好ましくは1以上2以下であり、さらに好ましくは1以上1.5以下である。
体積平均粒子径Dvと数平均粒子径Dnの比Dv/Dnは、粒子状共重合体の粒度分布の指標であり、2.5以下とすることで、粗大粒子のない粒度分布の狭い分散体が得られ、塗工層とした場合の構造も均一なものとなり、高温でも高い強度を実現し、セパレータの熱収縮を抑制できる傾向にある。
水性媒体中における粒子状共重合体の、重合中、又は重合後における分散安定性を高めることにより、粒度分布が狭まりDv/Dnを上記数値範囲に制御することができる。分散安定性を高めるための方法としては、例えば、界面活性剤を重合中、又は重合後に水性媒体中に投入することにより、粒子状共重合体間の立体的、及び電子的反発を高める方法が挙げられる。
前記体積平均粒子径Dvと数平均粒子径Dnは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0057】
(粒子状共重合体の製造方法)
本実施形態の非水二次電池用バインダーに用いる粒子状共重合体は、既知の重合方法により製造することができる。重合方法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の適宜の方法が用いられる。
【0058】
粒子状共重合体を分散体として得るために、重合方法は、乳化重合法を用いることが好ましい。乳化重合の方法は特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。
乳化重合の方法としては、例えば、水性媒体中で、アクリルアミド単量体、メタクリルアミド単量体、必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステル単量体、カルボン酸基含有単量体、及び架橋性単量体、さらに、ラジカル重合開始剤、界面活性剤、さらにまた必要に応じて用いられる他の添加剤成分(例えば、分子量調整剤)を基本組成成分とする分散系において、前記単量体を重合する方法が挙げられる。
重合に際して、反応系内に供給する単量体の組成を全重合過程で一定にする方法や、供給する単量体の組成を重合過程で逐次又は連続的に変化させて生成する樹脂分散体の粒子の組成変化を与える方法等、必要に応じて様々な方法が利用できる。
粒子状共重合体を乳化重合により得る場合、例えば、得られる粒子状共重合体は、水と、その水中に分散した粒子状共重合体とを含む水分散体(ラテックス)の形態であってもよい。
【0059】
(メタ)アクリル酸エステル単量体、カルボン酸基含有単量体、及び架橋性単量体としては、上述した化合物を使用できる。
【0060】
ラジカル重合開始剤は、熱又は還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものである。
ラジカル重合開始剤としては、無機系開始剤及び有機系開始剤のいずれも用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、水溶性又は油溶性の重合開始剤を用いることができる。
【0061】
水溶性の重合開始剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、水溶性のアゾビス化合物、過酸化物-還元剤のレドックス系が挙げられる。
ペルオキソ二硫酸塩としては、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(NPS)、及びペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)等が挙げられる。
過酸化物としては、例えば、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキシド、及び過酸化ベンゾイル等が挙げられる。
水溶性のアゾビス化合物としては、例えば、2,2-アゾビス(N-ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩化水素、4,4-アゾビス(4-シアノペンタン酸)等が挙げられる。
過酸化物-還元剤のレドックス系としては、例えば、上記過酸化物にナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸、及びその塩、第一銅塩、並びに第一鉄塩等の還元剤の1種又は2種以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0062】
ラジカル重合開始剤は、単量体総量100質量部に対して、好ましくは0.05~0.4質量部用いることができる。
【0063】
界面活性剤は、水性媒体中でミセルを形成し、重合単量体の重合場を提供するとともに、粒子状共重合体の表面に吸着することで、分散安定性を付与するものである。
界面活性剤のイオン種としては、ノニオン、アニオン、カチオンが挙げられるが、分散安定性の観点から、ノニオン、アニオン、或いはその両方を有することが好ましい。
界面活性剤は、その分子構造中にラジカル重合可能な不飽和二重結合(例えば、ビニル基)を有していてもよい。分子構造中にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する界面活性剤を、以下、反応性界面活性剤と記載する。
【0064】
非反応性界面活性剤であるノニオン性界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、非反応性のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0065】
非反応性界面活性剤であるアニオン性界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、非反応性のアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0066】
反応性界面活性剤であるアニオン性反応性界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、スルホン酸基、スルホネート基又は硫酸エステル基及びこれらの塩を有するエチレン性不飽和単量体であり、スルホン酸基、又はそのアンモニウム塩かアルカリ金属塩である基(アンモニウムスルホネート基、又はアルカリ金属スルホネート基)を有する化合物が好ましい。このようなアニオン性反応性界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、アルキルアリルスルホコハク酸塩(例えば、三洋化成社製の「エレミノール(商標)JS-2」、「エレミノール(商標)JS-5」;花王社製の「ラテムル(商標)S-120」、「ラテムル(商標)S-180A」、「ラテムル(商標)S-180」等が挙げられる);ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば、第一工業製薬社製の「アクアロン(商標)SR-10」、「アクアロン(商標)SR-1025」等が挙げられる。);アンモニウム=α-スルホナト-ω-1-(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン(例えば、第一工業製薬社製の「アクアロンKH-1025」等が挙げられる。)等が挙げられる。
【0067】
反応性界面活性剤であるノニオン性反応性界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業社製の「アデカリアソープNE-20」、「アデカリアソープNE-30」、「アデカリアソープ(商標)NE-40」等が挙げられる。);ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬社製の「アクアロン(商標)RN-10」、「アクアロン(商標)RN-20」、「アクアロン(商標)RN-30」、「アクアロン(商標)RN-50」等が挙げられる。)等が挙げられる。
【0068】
粒子状共重合体の重合工程において使用する界面活性剤としては、反応性界面活性剤を含むことが好ましい。反応性界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
本実施形態の非水二次電池用バインダーに含まれる粒子状共重合体は、ビニル単量体単位と、ビニル基と共重合可能な官能基を有する反応性界面活性剤に由来する単量体単位を有するものであることが好ましいため、反応性界面活性剤としては、ビニル化合物との共重合性に優れているものを用いることが好ましい。かかる観点から、例えば、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば、第一工業製薬社製の「アクアロン(商標)SR-1025」等)が好ましく、また、アンモニウム=α-スルホナト-ω-1-(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン(例えば、第一工業製薬社製の「アクアロンKH-1025」等)を用いることが好ましい。これらは、ポリオキシエチレン基の立体的反発と、スルホン酸エステル基のアニオン性による電子的反発が、粒子状共重合体の重合中及び/又は重合後における安定性向上に効果があるため、好適に用いられる。
【0069】
反応性界面活性剤は、アクリルアミド単量体と、メタクリルアミド単量体と、他のビニル単量体との共重合性を高め、均一な組成分布を有する共重合体を生成するために有効である。
推定される機構は以下のとおりである。
まず初めに、水に溶解したメタクリルアミド単量体の一部と反応性界面活性剤とのポリマー伸長反応が開始する。成長ポリマーラジカルはミセルを形成し、その中に残りのメタクリルアミド単量体及び他のビニル単量体が侵入し、共重合体が成長する。
上記機構により、メタクリルアミド単量体の単独重合に由来する水溶性共重合体の生成が抑制され、他のビニル単量体と共重合を進行し得る。
共重合体組成が均一であること、及び水溶性共重合体の生成が抑制されることは、粒子状共重合体の貯蔵弾性率を高める点、及びスラリーとしてセパレータに塗工された際の目詰まりによる電池性能低下を防止する点で重要である。
水層におけるメタクリルアミド単量体との接触機会という観点から、特にアニオン性反応性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0070】
分子量調整剤としては、以下に限定されないが、例えば、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、n-ヘキシメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸等のメルカプタン類、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン類等の他、ターピノーレン、α-メチルスチレンダイマー等、通常の乳化重合において使用可能なものをすべて使用できる。これらの中でも、n-ドデシルメルカプタンが好ましく使用される。
【0071】
分子量調整剤の使用量は、各部を重合する際に使用する単量体総量100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0072】
〔リチウムイオン二次電池用接着剤〕
本実施形態の非水二次電池用バインダーは、リチウムイオン二次電池用接着剤として用いられる。
リチウムイオン二次電池用接着剤は、例えば、セパレータと電極とを接着するために用いられる。リチウムイオン二次電池用接着剤は、例えば、リチウムイオン二次電池のセパレータや、電極上に接着層を形成する際に用いられる。特に、リチウムイオン二次電池用接着層付きセパレータは、リチウムイオン二次電池用接着剤をセパレータ上に塗布し、接着層を形成することにより製造することができる。より詳細なリチウムイオン二次電池の構成は、例えば、特開2015-41603号公報等に記載されたものを参照できる。
【0073】
〔非水二次電池中の多孔層用バインダー〕
本実施形態の非水二次電池用バインダーは、非水二次電池中の多孔層用バインダーとして好適に用いることができる。
多孔層用バインダーは、例えば、無機フィラーなどを点接着により結合することでセパレータ上に多孔層を形成し、リチウムイオンの透過性を維持しながらセパレータの耐熱性を向上する際に用いられる。
【0074】
〔リチウムイオン二次電池多孔層用スラリー〕
本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層用スラリーは、水と、無機フィラーと、本実施形態の非水二次電池用バインダーと、を含む。
【0075】
本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層用スラリーは、前記スラリーを、例えば、蓄電デバイス用セパレータ基板表面に塗布した後、乾燥して、その基板上に無機フィラーと粒子状共重合体とを含む多孔層を形成するために用いられる分散液である。本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層用スラリーは、必要に応じて、導電助剤、増粘剤、非水系溶剤等を含有してもよい。
【0076】
〔リチウムイオン二次電池多孔層〕
本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層は、無機フィラーと、本実施形態の非水二次電池用バインダーと、を含む。
【0077】
(無機フィラー)
リチウムイオン二次電池多孔層に使用する無機フィラーとしては、特に限定されないが、200℃以上の融点を持ち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。
【0078】
無機フィラーとしては、以下に限定されないが、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス;ガラス繊維等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
これらの中でも電気化学的安定性及びセパレータの耐熱特性を向上させる観点から、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))等の酸化アルミニウム化合物、;及びカオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト等の、イオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物、又は硫酸バリウムを用いることが好ましい。
【0080】
なお、アルミナには、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ等の多くの結晶形態が存在し、いずれも好適に使用することができる。これらの中でも、熱的及び化学的安定性の観点から、α-アルミナが好ましい。
【0081】
酸化アルミニウム化合物としては、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))が好ましい。水酸化酸化アルミニウムとしては、リチウムデンドライトの発生に起因する内部短絡を防止する観点から、ベーマイトがより好ましい。本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層を構成する無機フィラーとして、ベーマイトを主成分とする粒子を採用することにより、高い透過性を維持しながら、非常に軽量なりチウム二次電池多孔層が得られる上に、より薄いリチウムイオン二次電池多孔層を形成した場合においても、セパレータの高温での熱収縮が抑制され、優れた耐熱性を発現する傾向にある。電気化学デバイスの特性に悪影響を与えるイオン性の不純物を低減できる合成ベーマイトがさらに好ましい。
【0082】
イオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物としては、安価で入手も容易なため、主としてカオリン鉱物から構成されているカオリンがより好ましい。カオリンには、湿式カオリン及びこれを焼成処理して成る焼成カオリンが知られている。
本実施形態では、焼成カオリンがさらに好ましい。焼成カオリンは、焼成処理の際に、結晶水が放出されており、さらに不純物も除去されていることから、電気化学的安定性に優れる傾向にある。
【0083】
リチウムイオン二次電池多孔層に使用する無機フィラーの平均粒子径は、0.01μmを超えて2.0μm以下であることが好ましく、0.1μmを超えて1.5μm以下であることがより好ましく、0.2μmを超えて1.0μm以下であることがさらに好ましい。無機フィラーの平均粒子径を上記範囲とすることは、多孔層の厚さが薄い場合(例えば、4μm以下)であっても高温におけるセパレータの熱収縮を抑制する観点から好ましい。無機フィラーの平均粒子径及びその分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用いて無機フィラーを粉砕して粒子径を小さくする方法等を挙げることができる。
【0084】
無機フィラーの形状としては、例えば、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、塊状等が挙げられる。これらの形状を有する無機フィラーの複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
無機フィラーが、本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層中に占める割合は、無機フィラーの結着性、セパレータの透過性、及び耐熱性等の観点から適宜決定することができる。リチウムイオン二次電池多孔層中の無機フィラーの割合は、無機フィラーと粒子状共重合体の合計を100質量部としたとき、好ましくは20質量部以上100質量部未満、より好ましくは50質量部以上99.99質量部以下、さらに好ましくは80質量部以上99.9質量部以下、さらにより好ましくは90質量部以上99.5質量部以下である。
【0086】
本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層の厚さは、耐熱性及び絶縁性を向上させる観点から、0.5μm以上であることが好ましく、電池の高容量化と透過性を向上させる観点から4μm以下であることが好ましい。
【0087】
本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層の層密度は、0.5g/cm3以上3.0g/cm3以下であることが好ましく、1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下であることがより好ましい。本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層の層密度が0.5g/cm3以上であることにより、高温での熱収縮率が良好となる傾向にある。本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層の層密度が3.0g/cm3以下であることにより、透気度が低下する傾向にある。
【0088】
本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層の形成方法としては、例えば、セパレータを構成する多孔性基材の少なくとも片面に、無機フィラー及び本実施形態の非水系二次電池用バインダーを含む塗工液を塗工する方法が挙げられる。この場合、塗工液は、分散安定性及び塗工性及び保管性の向上のために、溶剤、分散剤、増粘剤等を含んでいてもよい。
【0089】
〔リチウムイオン二次電池用セパレータ〕
本実施形態のリチウムイオン二次電池用セパレータ(セパレータ)は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用多孔層を含む。
セパレータは、多孔性基材、及び前記多孔性基材の少なくとも片面の少なくとも一部に配置された多孔層を含むことができる。
前記多孔層は、本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層であり、上述した粒子状共重合体を含む。
このセパレータは、多孔性基材及び本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層のみから構成されていてもよく、これら以外に電極との接着層をさらに有していてもよい。
【0090】
リチウムイオン二次電池用セパレータがリチウムイオン二次電池多孔層を有する場合、前記多孔層は、前記セパレータの多孔性基材の片面又は両面に配置される。
【0091】
セパレータを構成する各部材、及びセパレータの製造方法の好ましい実施形態について、以下に詳細に説明する。
【0092】
(多孔性基材)
多孔性基材は、内部に空孔ないし空隙を有する基材のことであるが、当該多孔性基材には、それ自体が、従来、二次電池のセパレータとして用いられていたものを使用することができる。多孔性基材としては、塗工工程を経て多孔層を形成する場合の塗工性に優れたものとする観点、及びセパレータの膜厚をより薄くして、電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。なお、ここで「主成分として含む」とは、50質量%を超えて含むことを意味し、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上含み、100質量%であってもよい。
【0093】
前記ポリオレフィン微多孔膜の表面に表面処理を施しておくことにより、その後に塗工液を塗工しやすくなると共に、ポリオレフィン微多孔膜と、多孔層との接着性が向上するため、表面処理を施すことが好ましい。
表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
【0094】
(無機フィラーを含むリチウムイオン二次電池多孔層の配置方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池多孔層は、例えば、無機フィラー、粒子状共重合体、並びに、必要に応じて溶剤(例えば水)及び分散剤等の追加成分を含む塗工液を、前記多孔性基材の少なくとも片面に塗工することにより、多孔性基材上に配置することができる。
粒子状共重合体を乳化重合によって合成し、得られたエマルジョンをそのまま塗工液として使用してもよい。
塗工液は、水、水と水溶性有機媒体(例えば、メタノール又はエタノール)との混合溶媒等の粒子状共重合体の貧溶媒を含むことが好ましい。
【0095】
塗工液をセパレータの多孔性基材に塗工する方法は、必要とする層厚及び塗工面積を実現できる限り特に限定されない。
塗工方法としては、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗工法、インクジェット塗工法等が挙げられる。特に、グラビアコーター法は、塗工形状の自由度が高いため好ましい。
【0096】
塗工後に塗工膜から溶剤を除去する方法は、多孔性基材及びリチウムイオン二次電池多孔層に悪影響を及ぼさないのであれば限定されない。例えば、基材を固定しながら、基材の融点以下の温度で乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。
【0097】
塗工後に塗工膜から溶媒を除去する方法については、多孔性基材及びリチウムイオン二次電池多孔層に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定されない。例えば、ポリオレフィン多孔性基材を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、粒子状共重合体に対する貧溶媒に浸漬して当該粒子共重合体を粒子状に凝固させると同時に溶媒を抽出する方法等が挙げられる。
【0098】
〔リチウムイオン二次電池〕
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用セパレータを含む。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態のセパレータを含むこと以外の構成は、例えば、特開2018-92701号公報に記載されているように、従来知られているリチウムイオン二次電池と同様であってもよい。
【0099】
本実施形態の非水系二次電池用バインダーに用いる粒子状共重合体は、セパレータ上の多孔層に含むことができ、セパレータと多孔層とを含む膜を、塗工膜という。
塗工膜における150℃での熱収縮率は、特に限定されないが、MD、TD共に、好ましくは0%以上40%未満であり、より好ましくは0%以上35%以下であり、さらに好ましくは0%以上30%以下である。MD及びTDの両方向における150℃での熱収縮率が30%以下であることにより、電池の異常発熱時においてもセパレータの破膜を防ぐことができ、正負極間の接触を抑制でき、より良好な安全性能が得られる傾向にある。
【実施例
【0100】
以下、実施例及び比較例を用いて、本実施形態をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
各種物性は、以下の測定方法及び評価方法により測定及び評価した。
【0101】
[固形分濃度]
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体の水分散体を、アルミ皿上に約1g精秤し、このとき量り取った水分散体の質量(g)をaとした。それを、130℃の熱風乾燥機で1時間乾燥し、乾燥後の共重合体の乾燥質量(g)をbとした。
下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=b/a×100
【0102】
[粒子状共重合体の水分散体のpH]
固形分濃度約40%の粒子状共重合体の水分散体に、pHメーター(ガラス電極式水素イオン濃度指示計 東亜ディーディーケー株式会社製)の電極を浸漬させ、表示された数値を読み取った。
【0103】
[粒子状共重合体のガラス転移温度]
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体を含む水分散体(固形分濃度38~42%、pH8.0)を、アルミ皿に適量採り、130℃の熱風乾燥機で60分間乾燥した。
乾燥後の乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に詰め、DSC測定装置(島津製作所社製、型番:DSC6220)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線及びDDSC曲線を得た。
なお測定は、下記のプログラムにより行った。
(1段目昇温プログラム)
70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温した。110℃に到達後5分間維持した。
(2段目降温プログラム)
110℃から毎分30℃の割合で降温した。-50℃に到達後4分間維持した。
(3段目昇温プログラム)
-50℃から毎分15℃の割合で130℃まで昇温した。この3段目の昇温時にDSC及びDDSCのデータを取得した。
得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0104】
[粒子状共重合体の平均粒子径]
光散乱法による粒子径測定装置(LEED&NORTHRUP社製、商品名「MICROTRAC UPA150」)を用い、50%粒子径(μm)を測定し、平均粒子径とした。
これにより、数平均粒子径(Dn)、体積平均粒子径(Dv)を得、これらの比:Dv/Dnを算出した。
【0105】
[電解液膨潤度]
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体を含む水分散体(固形分濃度38~42%、pH8.0)を、アルミ皿に3g採り、130℃の熱風乾燥機で60分間乾燥した。乾燥後の乾燥皮膜を0.5gになるように切り取り、エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒10gと一緒に50mLのバイアル瓶に入れ、3時間振蕩させた後、サンプルを取り出し、上記混合溶媒にて洗浄し、質量(Wa)を測定した。その後、150℃のオーブン中に1時間静置したあと質量(Wb)を測定し、以下の式により粒子状共重合体の電解液に対する膨潤度を測定した。
なお、上記混合溶媒には電解質が含まれていないが、電解質の有無にかかわらず、粒子状共重合体の膨潤度に差が無いことを確認した。
粒子状共重合体の電解液に対する膨潤度(倍)=(Wa-Wb)/Wb
【0106】
[粘度、スラリー配合作業性、溶液安定性]
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体を含む水分散体(固形分濃度30~42%、pH5.0)を、ポリプロピレン製の瓶に100g量りとり、BM型粘度計(東機産業社製 TV-100B)を用い、スピンドル回転速度60rpmの条件下において粘度を測定した(初期粘度:ηi)。
その後、60℃に保持した恒温槽において試料を2週間保管した後に、再びBM型粘度系を用いて、上記と同条件において粘度を測定した(貯蔵後粘度:ηf)。
これらの測定値を用いて、下記の基準により、スラリー配合作業性、溶液安定性を評価した。
〈スラリー配合作業性の評価基準〉
A:ηiが、300mPa・s未満
B:ηiが、300mPa・s以上2000mPa・s未満
C:ηiが、2000mPa・s以上
〈溶液安定性の評価基準〉
A:ηf/ηiが、0.8以上2.0未満
B:ηf/ηiが、0.5以上0.8未満 または 2.0以上3.0未満
C:ηf/ηiが、0.5未満または3.0以上
【0107】
[貯蔵弾性率]
粒子状共重合体の貯蔵弾性率は、JIS K 7244の規格に準じて測定を行った。
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体の水分散体(固形分濃度40%)約12gを、15cm角に区画したポリプロピレン板上に流し込み、室温で1日乾燥し、得られたポリマーフィルムを5mm×70mm角に成形し、試験片とした。
得られた試験片の厚みは、試料中心部及びそこから長辺方向に±20mmの地点の計3点における平均値として、膜厚計(MITSUTOYO製、DIGIMATIC INDICATOR)を用いて記録した。
粘弾性測定装置(Rheometric Scientific製、製品名RSA3)を用い、チャック間距離50mm、初期温度30℃、終了温度140℃、昇温速度5℃/分、1.0Hz、歪み0.1%の引張-圧縮モードにて、引張貯蔵弾性率を測定し、30℃における貯蔵弾性率、130℃における貯蔵弾性率の値を得た。
下記表1~6において、貯蔵弾性率の数値の「E+a」の表記は、×10aであることを意味する。
【0108】
[密着性(剥離強度)]
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体の水分散体を用い、かつ後述する(塗工膜の形成)に従い、多孔層形成用分散液を得た。
コロナ処理済みのポリエチレン多孔性基材の表面に、前記多孔層形成用分散液を塗布した。その後、乾燥処理を行い、多孔層を形成し、総膜厚17μmの塗工膜を得た。
この塗工膜を15mm×75mmのプレパラートに、ポリエチレン多孔性基材側を接着させるように、両面テープで貼り付けた。
その後、12mm幅のメンディングテープを多孔層の上から貼り付け、そのメンディングテープの一端を垂直方向に引っ張り速度100mm/分で引っ張って、剥がした時の応力を測定した。測定を3回行い、その平均値を求めてこれを剥離強度とした。
剥離強度の値が大きいほど、ポリエチレン多孔性基材と多孔層との密着性に優れるものとして、下記の基準により評価した。
〈密着性の評価基準〉
A:300gf/cm以上
B:150gf/cm以上300gf/cm未満
C:150gf/cm未満
【0109】
[耐熱収縮性]
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体の水分散体を用い、かつ後述する(塗工膜の形成)に従い、塗工膜を得た。
MD方向に100mm、TD方向に100mmに切り取り、150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルにあたらないよう、サンプルを2枚の紙に挟んだ。サンプルをオーブンから取り出し冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にて熱収縮率を算出した。
測定はMD方向、TD方向で行い、数値の大きい方を熱収縮率とし、下記の基準により耐熱収縮性を評価した。
熱収縮率(%)={(100-加熱後の長さ)/100}×100
〈耐熱収縮性の評価基準〉
A:熱収縮率3%未満
B:熱収縮率3%以上10%未満
C:熱収縮率10%以上
【0110】
[セパレータの含水率]
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体の水分散体を用い、かつ後述する(塗工膜の形成)に従い、多孔層を備えるセパレータを得た。
セパレータを0.15g~0.20gの範囲になるように切り取り、23℃、相対湿度40%で12時間前処理した。その後、その質量を測定して、試料質量(g)とした。
前処理後の試料の水分質量(μg)は、カールフィッシャー装置を使用して測定した。なお、測定の際の加熱気化条件は150℃、10分間とした。また、カソード試薬としてはハイドラナールクーロマットCG-K(SIGMA-ALDRICH製)、アノード試薬としてはハイドラナールクーロマットAK(SIGMA-ALDRICH製)を使用した。
セパレータの含水率を、下記式に従って算出し、下記の基準により評価した。
セパレータの含水率W(ppm)=水分質量(μg)/試料質量(g)
〈セパレータの含水率の評価基準〉
A:Wが、800ppm未満
B:Wが、800ppm以上1500ppm未満
C:Wが、1500ppm以上
【0111】
[小型電池の特性(レート特性)]
<正極の作製>
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/32と、導電助剤としてカーボンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン溶液とを、91:5:4の固形分質量比で混合し、分散溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを固形分68質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面にアルミニウム箔の一部が露出するように塗布した後、溶剤を乾燥除去し、塗布量を175g/m2とした。更に正極合剤部分の密度が2.8g/cm3となるようにロールプレスで圧延した。その後、塗布部が30mm×50mmで、かつアルミニウム箔露出部を含むように裁断し、アルミニウム製リード片をアルミニウム箔の露出部に溶接して正極を得た。
<負極の作製>
負極活物質として人造黒鉛、結着剤としてスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロース水溶液とを、96.4:1.9:1.7の固形分質量比で混合し、分散溶媒として水を固形分50質量%となるように添加し、更に混合して、スラリー状の溶液を調製した。このスラリー状の溶液を、厚さ10μmの銅箔の片面に銅箔の一部が露出するように塗布した後、溶剤を乾燥除去し、塗布量を86g/m2とした。更に負極合剤部分の密度が1.45g/cm3となるようにロールプレスで圧延した。その後、塗布部が32mm×52mmで、かつ銅箔露出部を含むように裁断し、ニッケル製リード片を銅箔の露出部に溶接して負極を得た。
<非水電解液の調製>
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させ、更にビニレンカーボネートを1.0質量%となるように添加し、非水電解液を調製した。
<セルの組み立て>
後述する実施例及び比較例で得られた粒子状共重合体の水分散体を用い、かつ後述する(塗工膜の形成)に従い、多孔層を備えるセパレータを得た
セパレータを60mm×40mm角で切り出した。正極、セパレータ、負極の順で重ね合わせ積層体とした。この時、後述する(塗工膜の形成)に従い得られた塗工膜の多孔層側が正極に対向するように配置した。
この積層体を80mm×60mmのアルミニウムラミネート外装体内に挿入した。
次に上記非水電解液を外装体内に注入し、その後開口部を封止して、小型電池を作製した。
【0112】
組み立てた小型電池を、25℃において、2mA(約0.05C)の定電流で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持する定電圧充電で、合計約21時間、電池作成後の最初の充電を行い、その後電流値7mAで電池電圧3.0Vまで放電した。その後、12mA(約0.3C)の定電流で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持する定電圧充電で、合計約5時間充電を行い、その後電流値12mAで電池電圧3.0Vまで放電を行うことを3回繰り返した。
【0113】
次に、25℃において、12mA(約0.3C)の定電流で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持する定電圧充電で、合計5時間充電を行い、その後電流値36mA(約1.0C)で電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を1C放電容量(mAh)とした。
【0114】
次に、25℃において、12mA(約0.3C)の定電流で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持する定電圧充電で、合計約5時間充電を行い、その後電流値72mA(約2.0C)で電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を2C放電容量(mAh)とした。
【0115】
1C放電容量に対する2C放電容量の割合を算出し、この値をレート特性とし、下記の基準により評価した。
レート特性(%)=(2C放電容量/1C放電容量)×100
【0116】
〈レート特性の評価基準〉
A:レート特性90%以上
B:レート特性80%以上90%未満
C:レート特性80%未満
【0117】
[サイクル特性]
上述のようにレート特性を評価した小型電池を、60℃において、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、4.2Vに到達したのち、電流値を調整しながら電圧を4.2Vで維持し続け、合計3時間充電を行い、そして電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電するというサイクルを100回繰り返し、1サイクル目と100サイクル目の放電容量(mAh)を測定した。
1回目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を算出し、この値をサイクル特性とし、下記の基準により評価した。
サイクル特性(%)=(100回目の放電容量/1回目の放電容量)×100
〈サイクル特性の評価基準〉
A:90%以上
B:80%以上90%未満
C:80%未満
【0118】
[実施例1]
(粒子状共重合体の製造)
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、イオン交換水65質量部と、界面活性剤として、「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液、「KH1025」とも記載する。)0.06質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液、「SR1025」とも記載する。)0.06質量部と、を投入した。
次いで、反応容器内部の温度を75℃に昇温し、75℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウムの2%水溶液(「APS」とも記載する。)を1.5質量部添加した。過硫酸アンモニウム水溶液を添加終了した5分後に、下記の乳化液を滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
なお、乳化液は、以下の方法により作製した。
(メタ)アクリル酸エステル単量体として;
メチルメタクリレート(「MMA」とも記載する。) 6.4質量部、
ブチルアクリレート(「BA」とも記載する。)42質量部、
2-エチルヘキシルアクリレート(「2EHA」とも記載する。)34質量部、
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(「HEMA」とも記載する。)60質量部、
不飽和カルボン酸として;
メタクリル酸(「MAA」とも記載する。)1質量部、
アクリル酸(「AA」とも記載する。)1.5質量部、
(メタ)アクリルアミド単量体として;
アクリルアミド(「AAm」とも記載する。)0.1質量部、
メタクリルアミド(「MAAm」とも記載する。)7質量部
エポキシ基含有単量体として;
グリシジルメタクリレート(「GMA」とも記載する。)2質量部、
ビニル基を2つ以上含有する架橋性単量体として;
トリメチロールプロパントリアクリレート(ATMPT、新中村化学工業株式会社製商品名、「A-TMPT」とも記載する。)2質量部、
反応性界面活性剤として;
「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)7.5質量部、
「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)7.5質量部、
重合開始剤として;
過硫酸アンモニウムの2%水溶液0.25質量部、
及び、イオン交換水83.2質量部、
の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて作製した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、120分間維持し、その後室温まで冷却し、エマルジョンを得た。
得られたエマルジョンを、水酸化アンモニウム水溶液(25%水溶液。AWとも表記する。)を用いてpH5.0に調整し、固形分濃度40%の水分散体を得た。
得られた水分散体中の粒子状共重合体について、上記方法により、Tg、平均粒子径、貯蔵弾性率を測定し、熱収縮性、及び剥離強度を評価した。
評価結果を表1~表6に示す。
【0119】
(塗工膜の形成)
無機フィラーである水酸化酸化アルミニウム粒子(平均粒子径1.0μm)100質量部(固形分濃度50%)、樹脂バインダーである合成した粒子状共重合体を含む水分散体(固形分濃度40%)3.0質量部、及びイオン解離性無機分散剤であるポリリン酸アミン塩(分散剤 固形分濃度1%)0.5質量部を均一に分散させて多孔層形成用分散液を調製した。
調製した多孔層形成用分散液を、事前にコロナ処理したポリエチレン多孔性基材の表面にバーコーターを用いて塗布した。
その後、60℃にて1分乾燥して水を除去し、これにより、ポリエチレン多孔性基材上に厚さ2μmの多孔層が形成された、総膜厚17μmの塗工膜を得た。
評価結果を下記表1~表6に記載する。
なお、「ポリリン酸」としてはトリポリリン酸を用いた。
【0120】
[実施例2~21、比較例1~10]
粒子状共重合体を形成するためのモノマー、及び界面活性剤を、下記表1~表6に示す配合とした。その他の条件実施例1と同様にして乳化重合を行い、粒子状共重合体の水分散体を得た。
なお、表1~表6中、
TMPTは、トリメチロールプロパントリアクリレート、
EDMAは、エチレングリコールジアクリレート、
MAは、メチルアクリレート、
EAは、エチルアクリレート、
CHMAは、シクロヘキシルメタクリレート、
NMAMは、N-メチロールアクリルアミド、
DBS-Naは、ドデシルベンゼンスルホン酸、
APSは、過硫酸アンモニウム、
をそれぞれ指す。
また、実施例1と同様にして、前記(塗工膜の形成)に従い、多孔層を作製した。
得られた水分散体中の粒子状共重合体について、上記方法により、Tg、平均粒子径、貯蔵弾性率を測定し、密着性、耐熱収縮性、溶液安定性、スラリー配合作業性、セパレータの含水率、レート特性、サイクル特性を評価した。
評価結果を表1~表6に示す。
【0121】


【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
【表5】
【0126】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の非水系二次電池用バインダーは、二次電池用セパレータの材料として、産業上の利用可能性がある。