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特許7599243植物の環境ストレス耐性を向上させる環境ストレス耐性向上用組成物とその方法
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  • 特許-植物の環境ストレス耐性を向上させる環境ストレス耐性向上用組成物とその方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】植物の環境ストレス耐性を向上させる環境ストレス耐性向上用組成物とその方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/16 20060101AFI20241206BHJP
   A01N 43/90 20060101ALI20241206BHJP
   A01N 63/32 20200101ALI20241206BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20241206BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
A01N43/16 A
A01N43/90 101
A01N63/32
A01P21/00
A01G7/06 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023204372
(22)【出願日】2023-12-04
【審査請求日】2023-12-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512216805
【氏名又は名称】アライドカーボンソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】片渕 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】李 秋実
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-104249(JP,A)
【文献】国際公開第2024/071365(WO,A1)
【文献】Hao CHEN et al.,“Enhancing the Adaptability of Tea Plants (Camellia sinensis L.) to High-Temperature Stress with Small Peptides and Biosurfactants”,Plants,2023年07月29日,Vol. 12, No. 15,p.2817,DOI: 10.3390/plants12152817
【文献】R.K. HOMMEL et al.,“Production of sophorose lipid by Candida (Torulopsis) apicola grown on glucose”,Journal of Biotechnology,1994年03月,Vol. 33, No. 2,p.147-155,DOI: 10.1016/0168-1656(94)90107-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01G
A01P
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソホロリピッドを有効成分とする、植物の乾燥ストレス耐性向上
【請求項2】
前記ソホロリピッドが、ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド、およびグリセリド型ソホロリピッドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の
【請求項3】
ソホロリピッドを生産する酵母の培養液を含有する、請求項1に記載の
【請求項4】
前記ソホロリピッドを生産する酵母がスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)である、請求項に記載の
【請求項5】
ソホロリピッド有効成分とする植物の乾燥ストレス耐性向上を、植物に施用することを特徴とする、植物の乾燥ストレス耐性を向上させる方法。
【請求項6】
施用時の総質量に対してソホロリピッドの含有量が0.005~5質量%である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記ソホロリピッドが、ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド若しくはグリセリド型ソホロリピッドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項またはに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物に環境ストレス耐性を向上させるための組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化に起因し、世界各地で各種の異常気象が報告されている。この中で、高温・少雨は穀物や野菜などの人間の食糧となる商品作物に多大な被害を与え、供給不足による価格上昇、飢餓などに繋がる。
しかし、地球規模での水資源の減少や大規模農場においては、高温・少雨の際に商品作物に十分な灌水を行えないことも多く、そのために収穫量の減少や枯死などの多大な被害に繋がりやすい。
【0003】
これまで、植物自体の耐環境ストレス耐性を上げる方法および環境ストレス耐性向上剤に関し、種々の報告がなされている。
たとえば、人工的に制御された明暗サイクル下で、植物を栽培してストレス耐性植物を得る、ストレス耐性植物の製造方法(特許文献1)や、エタノール又はその溶媒和物を有効成分として含有する、植物の環境ストレス耐性向上剤(特許文献2)が報告されている。さらに、アブシジン酸で処理することによって植物の乾燥耐性を誘導し、乾燥ストレスを負荷し、その後オートファジー抑制剤を用いて処理するか、又はオートファジー関連遺伝子を欠損させ、アブシジン酸で処理をした後に環境ストレスを負荷するで、環境ストレスに対する耐性を強化させる方法(特許文献3)が報告されている。
【0004】
また、ゼルンボンまたはその類縁体あるいはそれらの塩を主成分とする植物の環境ストレスを緩和し、または植物の成長を促進し、または品質を改善する植物用発育向上剤(特許文献4)、ABA8’-ヒドロキシラーゼを特異的に抑制して内生アブシシン酸濃度を高める、植物の乾燥耐性向上方法(特許文献5)が、サンギナリン又はその塩の少なくとも1種を有効成分として含むことを特徴とする植物の環境ストレス耐性向上用組成物(特許文献6)が、報告されている。また、不飽和カルボニル化合物は、例えば、末端に不飽和結合を有しない炭素数4~9の化合物であって、α,β-アルケナール、α,β-アルカノン、γ,δ-アルケナール、γ,δ-アルカノン、δ,ε-アルケナール、δ,ε-アルカノン、ε,ζ-アルケナール、及びε,ζ-アルカノンから選択された少なくとも1種を用いる方法(特許文献7)が報告されている。
【0005】
一方、ソホロリピッドとは、微生物、主に酵母により生産される両親媒性脂質であり、強い界面活性作用を持ち、なおかつ生分解性に優れている事から、近年、バイオサーファクタントの主役として用途開発が進められている。ソホロリピッドの生産菌としては、キャンディダ(Candida)属、ロドトルラ属(Rhodotorula)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、ウィッカハミエラ(Wickerhamiella)属、サイバーリンデネラ(Cyberlindnera)属、スタメレラ(Starmerella)属、Metschnikowia(メチニコイア)属等が知られている。この中では、非病原性の担子菌酵母であるスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola;旧名称キャンディダ・ボンビコラ(Candida bombicola))が有力であり、そのバイオサーファクタントの生産力は培養液1L当たり400g以上にも達するため、商業ベースの生産に向いており、多くの検討がこの酵母を用いて行われている。本酵母で生産されるソホロリピッドの構造を下記一般式1と一般2に示す。一般式1がラクトン型、一般式2が酸型と言われる。
【0006】
【化1】
【化2】
【0007】
また、非特許文献1には、ソホロリピッドと低分子ペプチドを併用することにより、お茶に高温ストレス耐性を付与することが報告されているが、ソホロリピッドは低分子ペプチドの透過性を向上させる目的で使用されており、ソホロリピッド単独の効果ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-166480号公報
【文献】再表2018/123651号公報
【文献】特開2016-199519号公報
【文献】特開2016-145159号公報
【文献】特開2013-231014号公報
【文献】国際公開2013/151041号
【文献】国際公開2016/031775号
【文献】特許第6954548号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Plants (2023) Vol.12, NO.15, p.2817
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、光合成を阻害することなく、植物における環境ストレスを向上させるための新たな環境ストレス耐性向上用組成物を提供することであり、また、該環境ストレス耐性向上用組成物を植物に施用する、植物への環境ストレス耐性向上方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、生分解性、安全性に優れたソホロリピッドが、光合成を阻害することなく植物の環境ストレス耐性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の(1)~()に記載の植物の乾燥ストレス耐性向上、または()~()に記載の植物の乾燥ストレス耐性を向上させる方法に関する。
(1)ソホロリピッドを有効成分とする、植物の乾燥ストレス耐性向上
(2)前記ソホロリピッドが、ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド、およびグリセリド型ソホロリピッドからなる群より選択される少なくとも1種である、上記(1)に記載の
)ソホロリピッドを生産する酵母の培養液を含有する、上記(1)に記載の
)前記ソホロリピッドを生産する酵母がスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)である、上記()に記載の
)ソホロリピッド有効成分とする植物の乾燥ストレス耐性向上を、植物に施用することを特徴とする、植物の乾燥ストレス耐性を向上させる方法。
施用時の総質量に対してソホロリピッドの含有量が0.005~5質量%である環境ストレス耐性向上用組成物を植物に施用する、上記(5)に記載の方法。
)前記ソホロリピッドが、ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド若しくはグリセリド型ソホロリピッドからなる群より選択される少なくとも1種である、上記()または()に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のソホロリピッドを含む環境ストレス耐性向上剤は、光合成を阻害することなく、耐乾燥性等の耐性を向上または改善することができる。また、ソホロリピッドが生分解性のため、環境にやさしい耐性向上剤であり、植物の生育する土壌に施用することで頻繁に水やりするする労力やコストを低減でき、また苗の植え付け時に施用することで、苗の枯死の被害も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の耐性試験前後および回復後のキャベツ苗の状態の写真。
図2図1の各段階のキャベツ苗のハイパースペクトルカメラによる画像解析データ。
図3図1の各段階のキャベツ苗のND705の値を示すグラフ。
図4】実施例2の耐性試験前後および回復後のキャベツ苗の状態の写真。
図5図4の各段階のキャベツ苗のハイパースペクトルカメラによる画像解析データ。
図6図4の各段階のキャベツ苗のND705の値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ソホロリピッドは、微生物、主に酵母により生産される両親媒性脂質であり、強い界面活性作用を持ち、なお且つ生分解性に優れている事から、近年、バイオサーファクタントの主役として用途開発が進められている。ソホロリピッドを生産する酵母としては、非病原性の担子菌酵母であるスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola;旧名称キャンディダ・ボンビコラ(Candida bombicola))がよく知られており、そのバイオサーファクタントの生産力は培養液1L当たり400g以上にも達するため、商業ベースの生産に向いており、多くの検討がこの酵母を用いて行われている。また、ソホロリピッドを生産するその他の酵母としては、キャンディダ・アピコーラ(Candida apicola)、キャンディダ・ボゴリエンシス(Candida bogoriensis)、ウィッカハミエラ・ドメルキー(Wickerhamiella domericqiae)等が知られている。
【0015】
ソホロリピッドは長鎖ヒドロキシ脂肪酸とソホロースが結合したグリコリピッドであり、スタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)で生産した場合、一般式1と一般式2で示したラクトン型と酸型が、おおよそ6~8:2~4の混合物であると考えられてきた。しかし、近年、広く研究されているソホロリピッド生産菌の培養生産物中に、従来知られているソホロリピッドとは分子構造が異なる未知の成分が存在することが判明し、その構造が特定されている(特許文献8)。その構造を一般式3に示す。以下、本明細書ではグリセリド型と呼ぶ。
【0016】
【化3】
(式中、R~Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22の脂肪酸エステル、または上記SL基であるが、R~Rの少なくとも1つはSL基である。SL基中のRは、同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、Rは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【0017】
スタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)で生産した場合、ラクトン型、酸型及びグリセリド型がおおよそ5~7:1~4:1~2の混合物であると考えられる。この混合物の界面活性力は臨界ミセル濃度(CMC)がおよそ35~70mg/L、表面張力が35~75mN/mと、一般的な界面活性剤として多用されているラウリル硫酸ソーダの10~100分の1の濃度で強い界面活性力を示す。また、生分解し難いアルキルベンゼンスルホン酸と比較し、生分解し易く環境的にも有意義な材料である。
【0018】
本発明のソホロリピッドとは、一般式1~3に示すラクトン型、酸型及びグリセリド型のソホロリピッドからなる群より選択される少なくとも1種である。
また、本発明のソホロリピッドには、それ自体だけでなく、その塩も含まれる。ソホロリピッドと塩を形成し得る金属としては、限定するものではないが、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシュウム、マグネシウム、銅、アルミニウム等の無機金属だけでなく、アンモニア及びアミン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
さらに、本発明の環境ストレス耐性向上用組成物には、ソホロリピッドを産生する酵母の培養液をそのまま、あるいは添加して用いることができる。
【0019】
本発明において、環境ストレスは、塩ストレス、乾燥ストレス及び高温ストレスからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特に乾燥ストレスが好ましい。本態様の植物の環境ストレス耐性向上用組成物を植物に施用することにより、植物の環境ストレス耐性を向上させることができる。
本発明において、「植物の環境ストレス耐性を向上させる」とは、環境ストレスを被る生育条件下の植物集団に本発明を適用することにより、該処理植物集団の50%以上が、環境ストレスに耐性を示すことを意味する。以下で説明する手段によって環境ストレス耐性を評価することができる。
【0020】
本発明において、植物の環境ストレス耐性は、限定するものではないが、以下の手段によって評価することができる。たとえば、乾燥ストレス耐性は、対象となる植物を、該植物にとって乾燥状態の生育温度及び生育湿度(例えば、キャベツの場合、気温30℃、湿度50%以下(例えば無給水条件))で1日間~14日間の期間に亘って乾燥ストレス処理し、その後、所望により該植物にとって好適な生育条件下で1日間~14日間の期間に亘って馴化させ、その表現型を評価することにより判定することができる。
本発明による植物の環境ストレス耐性向上効果は、植物の生育促進効果や生存率の向上をいう。
【0021】
本発明における乾燥ストレス耐性とは、乾燥ストレスを被る生育条件下であっても、枯死、生育不良、又は植物体重量若しくは作物収量の減少のような望ましくない影響を実質的に受けることなく、正常に生育できる形質を意味する。本発明により、植物の乾燥ストレス耐性を向上させることにより、通常の植物では生育に望ましくない影響を受ける外部環境下においても、植物を正常に生育させることができる。
【0022】
本発明の一態様は、ソホロリピッドを有効成分として含有する、植物の環境ストレス耐性向上用組成物を植物に施用することによる、植物の環境ストレス耐性を向上させる方法に関する。
ソホロリピッドを有効成分としてする植物の乾燥ストレス耐性向上剤を植物に施用することにより、乾燥ストレス耐性を向上させることができる。本発明の植物の環境ストレス耐性向上用組成物の有効成分であるソホロリピッドは、植物に通常用いられる各種添加剤と併用することができる。具体的には、各種の肥料、農薬、界面活性剤、バイオスチュミラント等である。
また、植物に施用する時には、たとえば、ソホロリピッドの含有量が施用時の総質量に対して、0.005~5質量%である環境ストレス耐性向上用組成物で施用することができる。
【0023】
本発明の適用可能な植物としては、特に限定されず、例えば、野菜類(キャベツ、ほうれん草、レタス、コマツナ、ハクサイ、サラダナ、ミズナ、トマト、ナス、ブロッコリー、タマネギ、ネギ、ピーマン等)、根菜類(ニンジン、ダイコン、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモ、ゴボウ、カブ等)、豆類(大豆、小豆、インゲン、ソラマメ、エンドウ、落花生等)、果樹・果実類(リンゴ、モモ、ナシ、柑橘類、ブドウ、クルミ、アーモンド、バナナ、イチゴ等)、穀類(稲、大麦、小麦、ライ麦、オート麦、トウモロコシ等)、瓜類(ウリ、カボチャ、キュウリ、スイカ、メロン等)、その他に、牧草類、芝類、香料等用作物類、花卉類などにも適用できる。
【実施例
【0024】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例では、「%」は、「質量%」を意味する。
【0025】
<実施例1>ソホロリピッドによるキャベツの乾燥ストレス耐性試験(その1)
キャベツ種子20個を吸水させたウレタンマットに播種し、パラメータフル制御式栽培装置(グロースチャンバー TGL-1-5S、 エスペック)内で22℃、16時間明期/8時間暗期、光量子束密度90μmol/s/mの条件で14日間生育させた。その後、生育が同程度の苗6本を、ポット中の培土(野菜と花の種まき培土、タキイ種苗)にウレタンマットごと定植し、22℃、16時間明期/8時間暗期で30日間生育させた。この時点において、植物を無作為に2つに区分けした。処理区の土壌にはソホロリピッド0.7%(ACS-Sophor(登録商標)、Allied Carbon Solutions社製)、非処理区には水を供与した。トレイから過剰量の水を除去し、給水を停止、栽培装置内の条件を30℃、20時間明期/4時間暗期に変更することで乾燥ストレス処理した。栽培装置内のポット位置は毎日シャッフルし、光や風の当たり方が偏らないよう考慮した。
【0026】
ストレス処理開始から11日後、植物に給水し、ストレス処理前と同条件で4日間生育させた。肉眼で、生育させたキャベツの表現型を観察した。ストレス処理前・ストレス処理(11日)後・回復処理(4日)後のそれぞれの写真を図1に示す。また、同じ対象に対して、クロロフィル含量の指標の一つであるND705を用いたハイパースペクトルカメラ(エバ・ジャパン)の画像解析データ(光合成が盛んになると黄色に、より盛んになると赤く見える)を図2に、その数値化データを図3に示す。
図1に示すように、非処理区ではストレス後に葉の全体が萎れ、回復処理後も正常な状態には戻らなかったのに対し、ソホロリピッド処理区では、ストレス処理後も葉の萎れを部分的に抑制し、回復処理後にはほとんど正常な状態まで回復した。この傾向は、ハイパースペクトルカメラで撮影した図2の結果からも明らかである(光合成が盛んであると黄色に、より盛んであると赤く着色する)。また、図3に示したND705の値も、非処理区では乾燥ストレスにより低下しているが、ソホロリピッド処理区ではストレス処理後も値に大きな変化はなく、正常な光合成能を保っていることが明らかとなった。
【0027】
<実施例2>ソホロリピッドによるキャベツの乾燥ストレス耐性試験(その2)
キャベツ種子30個を吸水させたウレタンマットに播種し、パラメータフル制御式栽培装置(グロースチャンバー TGL-1-5S、 エスペック)内で22℃、16時間明期/8時間暗期、光量子束密度90μmol/s/mの条件で13日間生育させた。その後、生育が同程度の苗12本を、ポット中の培土(さし芽・種まきの土、プロトリーフ)にウレタンマットごと定植し22℃、16時間明期/8時間暗期で21日間生育させた。次に、植物を無作為に4つに区分けした。処理区の土壌には、ソホロリピッド0.35,0.7,1.05%(ACS-Sophor(登録商標)、Allied Carbon Solutions社製)、非処理区には水を供与した。トレイから過剰量の水を除去し、給水を停止、栽培装置内の条件を30℃、20時間明期/4時間暗期に変更することで乾燥ストレス処理した。栽培装置内のポット位置は毎日シャッフルし、光や風の当たり方が偏らないよう考慮した。
【0028】
ストレス処理開始から4日後、植物に給水し、ストレス処理前と同条件で4日間生育させた。肉眼で、生育させたキャベツの表現型を観察した。ストレス処理前・ストレス処理(4日)後・回復処理(4日)後の写真を図4に示す。また、同じ対象に対して、クロロフィル含量の指標の一つであるND705を用いたハイパースペクトルカメラ(エバ・ジャパン)の画像解析データ(光合成が盛んになると黄色に、より盛んになると赤く見える)を図5に、数値化データを図6に示す。
図4に示すように、非処理区ではストレス後に葉の全体が萎れ、回復処理後も正常な状態には戻らなかったのに対し、ソホロリピッド処理区では、ストレス処理後も葉の萎れを部分的に抑制し、回復処理後にはほとんど正常な状態まで回復した。この傾向は、ハイパースペクトルカメラで撮影した図5の結果からも明らかである。また、図6に示したND705の値も、非処理区では乾燥ストレスにより低下しているが、ソホロリピッド処理区ではストレス処理後も値に大きな変化はなく、正常な光合成能を保っていることが明らかとなった。
【0029】
<実施例3>ソホロリピッドによるキャベツの乾燥ストレス耐性試験(その3)
キャベツ種子80個を吸水させたウレタンマットに播種し、パラメータフル制御式栽培装置(グロースチャンバー TGL-1-5S、 エスペック)内で22℃、16時間明期/8時間暗期、光量子束密度90μmol/s/mの条件で14日間生育させた。その後、生育が同程度の苗50本をポット中の培土(野菜と花の種まき培土、タキイ種苗)にウレタンマットごと定植し、22℃、16時間明期/8時間暗期で30日間生育させた。この時点において、植物を無作為に2つに区分けした。処理区の土壌にはソホロリピッド0.7%(ACS-Sophor(登録商標)、Allied Carbon Solutions社製)、非処理区には水を供与した。トレイから過剰量の水を除去し、給水を停止、栽培装置内の条件を30℃、20時間明期/4時間暗期に変更することで乾燥ストレス処理した。栽培装置内のポット位置は毎日シャッフルし、光や風の当たり方が偏らないよう考慮した。
【0030】
ストレス処理開始から11日後、植物に給水し、ストレス処理前と同条件で4日間生育させ、植物の回復状況を観察した。乾燥ストレス処理後の回復キャベツ苗数の結果を表1に示す。ソホロリピッド処理区は、全ての個体が回復した。
【表1】
【0031】
<実施例4>ソホロリピッドによるキャベツの乾燥ストレス耐性試験(その4)
キャベツ種子100個を吸水させたウレタンマットに播種し、パラメータフル制御式栽培装置(グロースチャンバー TGL-1-5S、 エスペック)内で22℃、16時間明期/8時間暗期、光量子束密度90μmol/s/mの条件で13日間生育させた。その後、生育が同程度の苗80本を、ポット中の培土(さし芽・種まきの土、プロトリーフ)にウレタンマットごと定植し、22℃、16時間明期/8時間暗期で21日間生育させた。次に、植物を無作為に4つに区分けした。処理区の土壌には0.35,0.7,1.4%(ACS-Sophor(登録商標)、Allied Carbon Solutions社製)、非処理区には水を供与した。トレイから過剰量の水を除去し、給水を停止、栽培装置内の条件を30℃、20時間明期/4時間暗期に変更することで乾燥ストレス処理した。栽培装置内のポット位置は毎日シャッフルし、光や風の当たり方が偏らないよう考慮した。
【0032】
ストレス処理開始から4日後、植物に給水し、ストレス処理前と同条件で4日間生育させ、肉眼で、生育させたキャベツの状況を観察した。乾燥ストレス処理後の回復キャベツ苗数の結果を表2に示す。ソホロリピッド処理区(処理濃度0.35,0.7,1.4%)は、全ての個体が回復した。
【表2】

【要約】
【課題】本発明は、植物における環境ストレスを向上させる手段を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、植物に環境ストレス耐性する方法及び向上剤を提供する。環境ストレス耐性向上剤としてラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド若しくはソホロリピッドグリセリドの少なくとも1種を有効成分として含有する。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6