(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】廃棄鶏の処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 1/00 20060101AFI20241206BHJP
B09B 3/30 20220101ALI20241206BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20241206BHJP
【FI】
B09B1/00 A ZAB
B09B3/30
B09B3/70
B09B1/00 A
(21)【出願番号】P 2024088530
(22)【出願日】2024-05-31
【審査請求日】2024-05-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511123429
【氏名又は名称】テクニカ合同株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 好太
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 佑介
(72)【発明者】
【氏名】黒木 琢也
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0097835(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0098508(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0003611(KR,A)
【文献】特開2007-175660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄鶏を埋設する土地の地面に穴を掘る掘削工程と、
前記穴に廃棄鶏を投入する投入工程と、
前記穴を土砂で埋め戻す埋設工程と、
埋め戻した前記土砂の表面に熱可塑性樹脂を含む処理薬剤を散布する散布工程と
、
前記土砂の表面に前記熱可塑性樹脂の防水層を形成する形成工程と
を包含し、
前記埋設工程において、前記土砂を転圧しない廃棄鶏の処理方法。
【請求項2】
前記埋設工程において、前記土砂で盛土を形成する請求項1に記載の廃棄鶏の処理方法。
【請求項3】
前記埋設工程において、前記穴を埋め戻す土砂として前記掘削工程で発生した土砂を使用する請求項1に記載の廃棄鶏の処理方法。
【請求項4】
前記散布工程において、前記処理薬剤に含まれる前記熱可塑性樹脂の含有量は3~10.5重量%である請求項1に記載の廃棄鶏の処理方法。
【請求項5】
前記散布工程において、前記処理薬剤の散布量は0.5kg/m
2以上である請求項4に記載の廃棄鶏の処理方法。
【請求項6】
前記散布工程において、前記処理薬剤に含まれる前記熱可塑性樹脂はエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)である請求項1~5の何れか一項に記載の廃棄鶏の処理方法。
【請求項7】
前記廃棄鶏は、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴って殺処分された鶏である請求項6に記載の廃棄鶏の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺処分等により土中に埋設されることになった廃棄鶏の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、日本においては、高病原性鳥インフルエンザ(以下、単に「鳥インフルエンザ」とする。)が発生すると、都道府県知事から殺処分命令が発せられ、養鶏場において鶏の殺処分が実行されることになる。殺処分された鶏は、石灰で滅菌した後、フレキシブルコンテナバック(以後、「フレコンバック」と称する。)に詰められ、土中に埋設される。
【0003】
ところで、鶏が殺処分されると死後硬直が起こる。このような死後硬直した鶏をフレコンバッグに詰めると、硬直した鶏の死体がフレコンバッグを突き破ってしまい、その破損箇所から鶏の体液が漏出する可能性がある。この問題に対し、本発明者らは高吸水性ポリマー(SAP)を用いた廃棄鶏の処理方法(特願2024-34144)を開発し、これよって埋設前(例えば、フレコンバッグの運搬時)においては問題の解決を図ることができた。ところが、フレコンバッグを土中に埋設した後にあっては、土砂の重みでフレコンバッグに大きな圧力がかかるため、破損箇所から体液が漏出する可能性が再び高まることになる。鶏の体液は感染性有機廃棄物であるため、降雨や浸水によって土壌が浸食され、水が地中まで染み込んで鶏の体液が流出すると、周囲に二次汚染が広がることが危惧される。
【0004】
降雨や浸水による土壌浸食を防止する技術は、土木工事や法面緑化工事等において見られる。例えば、特許文献1の土壌表面安定化方法は、アセチレンアルコール誘導体とカチオン化水溶液高分子とを含有する混合物に高分子エマルジョンを添加した薬剤を土壌表面に散布するものである。特許文献1によれば、降雨時に発生する濁水を良好に防止できるとされている。
【0005】
また、特許文献2の土壌安定化方法は、カニの甲羅から得られるキトサンを水で希釈した溶液を浸食防止剤として土壌に散布するものである。特許文献2によれば、キトサンの濃度を特定の範囲に調整することにより、土壌の浸食防止効果が期待できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-80727号公報
【文献】特開2010-275697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の土壌表面安定化方法は、カチオン化水溶液高分子を含む薬剤を使用しているため、魚毒性の問題が懸念される。また、薬剤の調製に複数の成分を混合する必要があるため、作業を行うまでの準備に手間がかかる。
【0008】
特許文献2の土壌安定化方法は、天然系の生分解性材料であるキトサンを使用しているため、魚毒性の問題は生じないが、浸水防止効果の持続性に乏しい。事実、特許文献2には、「本発明の工法の目的は、永久に法面の安定化を図るというものではなく、法面形成後に植物が生育するまでの一定期間、斜面を安定させることを目的とする」と記載されており(特許文献2の段落[0009]参照)、長期に亘って浸水防止効果を持続させようとするものではない。
【0009】
また、特許文献1及び2は、何れも土木工事の分野に関する技術であり、感染性有機廃棄物の処理において利用することを想定したものではない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、簡便な方法によって土中への水の浸入を防止又は抑制し、殺処分等により廃棄された鶏を土中に埋設した後も安全な状態に維持できる廃棄鶏の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明にかかる廃棄鶏の処理方法の特徴構成は、
廃棄鶏を埋設する土地の地面に穴を掘る掘削工程と、
前記穴に廃棄鶏を投入する投入工程と、
前記穴を土砂で埋め戻す埋設工程と、
埋め戻した前記土砂の表面に熱可塑性樹脂を含む処理薬剤を散布する散布工程と
を包含し、
前記埋設工程において、前記土砂を転圧しないことにある。
【0012】
本構成の廃棄鶏の処理方法によれば、廃棄鶏を埋設する土地の地面に穴を掘り(掘削工程)、その穴に廃棄鶏を投入し(投入工程)、次いで穴を土砂で埋め戻し(埋設工程)、最後に埋め戻した土砂の表面に熱可塑性樹脂を含む処理薬剤を散布する(散布工程)という簡便な方法で、土砂の表面に熱可塑性樹脂層(防水層)が形成され、これによって土中への水の浸入を防止又は抑制できるため、鶏の体液等に由来する感染性有機廃棄物が降雨や浸水等によって流出する危険性が低減され、殺処分等により廃棄された鶏を土中に埋設した後も安全な状態に維持することができる。また、埋設工程において、土砂を転圧しないため、土中の廃棄鶏が圧力で潰れることがなく、この点においても本構成の廃棄鶏の処理方法は、安全性が高いものと言える。さらに、本構成の廃棄鶏の処理方法は、土砂を転圧しなくても熱可塑性樹脂層(防水層)によって土砂の形状を十分に維持できるため、転圧作業を省略できる点で作業効率がよいものと言える。
【0013】
本発明にかかる廃棄鶏の処理方法において、
前記埋設工程において、前記土砂で盛土を形成することが好ましい。
【0014】
本構成の廃棄鶏の処理方法によれば、埋設工程において、土砂で盛土を形成しておくことで、土中に埋設した廃棄鶏が自然分解して土中に空洞が生じた場合であっても、当該空洞に盛土が沈み込むことで地面の沈降(穴あき)を防止することができる。
【0015】
本発明にかかる廃棄鶏の処理方法において、
前記埋設工程において、前記穴を埋め戻す土砂として前記掘削工程で発生した土砂を使用することが好ましい。
【0016】
本構成の廃棄鶏の処理方法によれば、埋設工程において、穴を埋め戻す土砂として掘削工程で発生した土砂を使用することで、発生した土砂を有効に再利用することができる。また、掘削工程と埋設工程とにおいて同じ土砂を取り扱うため、廃棄鶏を処理する土地の性状が変わらず、安全且つ適切に処理を行うことができる。
【0017】
本発明にかかる廃棄鶏の処理方法において、
前記散布工程において、前記処理薬剤に含まれる前記熱可塑性樹脂の含有量は3~10.5重量%であることが好ましい。
【0018】
本構成の廃棄鶏の処理方法によれば、散布工程において、処理薬剤に含まれる熱可塑性樹脂の含有量を3~10.5重量%にすることで、土砂の表面に良好な熱可塑性樹脂層(防水層)が形成されるため、鶏の体液等に由来する感染性有機廃棄物が降雨や浸水等によって流出することを確実に防止することができる。
【0019】
本発明にかかる廃棄鶏の処理方法において、
前記散布工程において、前記処理薬剤の散布量は0.5kg/m2以上であることが好ましい。
【0020】
本構成の廃棄鶏の処理方法によれば、散布工程において、処理薬剤の散布量を0.5kg/m2以上にすることで、土壌表面から適度な深さまで処理薬剤が行きわたり、土壌表面に防水層として良好な熱可塑性樹脂層(防水層)を形成することができる。その結果、鶏の体液等に由来する感染性有機廃棄物が降雨や浸水等によって流出することを確実に防止することができる。
【0021】
本発明にかかる廃棄鶏の処理方法において、
前記散布工程において、前記処理薬剤に含まれる前記熱可塑性樹脂はエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)であることが好ましい。
【0022】
本構成の廃棄鶏の処理方法によれば、処理薬剤に含まれる熱可塑性樹脂としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を使用することで、土砂の表面に丈夫な熱可塑性樹脂層(防水層)を形成することができる。また、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を含む処理薬剤は、溶液(エマルジョン)の形態で土砂の表面に散布することができるため、散布工程の作業性に優れたものと言える。
【0023】
本発明にかかる廃棄鶏の処理方法において、
前記廃棄鶏は、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴って殺処分された鶏であることが好ましい。
【0024】
本構成の廃棄鶏の処理方法によれば、高病原性鳥インフルエンザの発生に伴って殺処分された鶏が死後硬直によって処理容器を破損し、当該処理容器から鶏の体液等に由来する感染性有機廃棄物が漏れ出た場合であっても、土砂の表面に形成される熱可塑性樹脂層(防水層)によって土中への水の浸入を防止又は抑制できるため、降雨や浸水等によって感染性有機廃棄物が流出する危険性が低減され、廃棄鶏を土中で安全な状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の廃棄鶏の処理方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の廃棄鶏の処理方法の実施形態について説明する。ただし、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【0027】
本発明者らは、地中への水の浸入を防止する方法について種々検討していたところ、熱可塑性樹脂で土砂を固めれば土砂に耐水性が付与され得ることに着目し、このような熱可塑性樹脂を用いれば地中への水の浸入を防止又は抑制する効果が得られ、廃棄鶏を土中に埋設した後も鶏の体液等に由来する感染性有機廃棄物が降雨や浸水等によって流出する危険性を低減できるのではないかと考えた。そして、詳細については後述の実施例で説明するが、熱可塑性樹脂の一例であるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を含む処理薬剤を模擬土壌に散布して表面の土砂を固め、この模擬土壌に対して浸水試験を実施したところ、高い浸水抑制効果があることを確認した。このようにして、本発明者らは、熱可塑性樹脂で土壌を処理することにより土中への埋設後も廃棄鶏を安全且つ適切に処理し得ることを知見し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の廃棄鶏の処理方法は、廃棄されることになった鶏を埋設した土壌の表面に熱可塑性樹脂を含む処理薬剤を散布して処理するものであり、特に、鳥インフルエンザの発生に伴って殺処分された鶏を廃棄処理するためのものである。
【0028】
<処理薬剤>
本発明の廃棄鶏の処理方法では、土砂を固めるために、処理薬剤として熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂を含む組成物が使用される。熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂うち、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)において、エチレン成分と酢酸ビニル成分との割合は特に限定されないが、エチレン成分の割合を多くすると柔軟な皮膜を形成することができ、酢酸ビニル成分の割合を多くすると硬い皮膜を形成することができる。したがって、処理薬剤として使用するエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、処理対象の土砂の性状に応じて、エチレン成分と酢酸ビニル成分との割合が適切なものを選択すればよいが、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)中のエチレン成分の割合を3~10%程度(モル換算)にすることで、柔軟性と硬度とのバランスがとれた皮膜を形成することができるため、多くの土砂に対応することが可能となる。
【0029】
なお、処理薬剤には、熱可塑性樹脂の他、殺菌剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、消臭剤、増粘剤、分散剤等を含有させることも可能である。
【0030】
処理薬剤の剤形は、溶媒に熱可塑性樹脂を分散させたエマルジョンの形態であることが好ましく、特に水に熱可塑性樹脂を分散させた水性エマルジョンが好ましい。そして、このエマルジョン(処理薬剤)において、熱可塑性樹脂(固形分)の含有量が3~10.5重量%であることが好ましい。この範囲であれば、土砂が適度に固まるため、土壌表面に防水層として良好な熱可塑性樹脂層を形成することができる。処理薬剤に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が3重量%未満の場合、土砂を十分に固めることができない虞がある。一方、処理薬剤に含まれる熱可塑性樹脂の含有量が10.5重量%を超える場合、固まった土砂の表面(熱可塑性樹脂層)にひび割れが発生する虞がある。
【0031】
エマルジョン形態の処理薬剤を使用(散布)する場合、その使用量(散布量)は、土壌表面(地面)に対して0.5kg/m2以上であることが好ましく、1kg/m2以上であることがより好ましい。処理薬剤の使用量が0.5kg/m2以上であれば、土壌表面から適度な深さ(例えば、1~10cmの深さ)まで処理薬剤が行きわたり、土壌表面に防水層として良好な熱可塑性樹脂層(防水層)を形成することができる。処理薬剤の使用量が0.5kg/m2未満の場合、処理薬剤の土中への浸透が不十分となり土壌表面付近に処理薬剤が留まるため土砂を十分に固めることができない虞がある。一方、処理薬剤の使用量の上限については特に限定されるものではないが、処理薬剤の使用コストを考慮すれば5kg/m2程度が現実的である。
【0032】
<廃棄鶏の処理方法>
上述の処理薬剤を用いて行う本発明の廃棄鶏の処理方法について説明する。
図1は、本発明の廃棄鶏の処理方法を説明するための模式図である。本発明の廃棄鶏の処理方法は、掘削工程、投入工程、埋設工程、及び散布工程の4つの工程を包含する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0033】
<掘削工程>
掘削工程では、廃棄鶏(鳥インフルエンザの発生に伴って殺処分された鶏)を埋設する土地の地面1に穴2を掘る〔
図1(a)及び(b)〕。廃棄鶏を埋設する土地は、通常、養鶏場の敷地内に設定される。廃棄鶏は、フレコンバッグに収容されて処分されるため、穴2の大きさは、フレコンバッグ(直径1100mm、高さ1100mm、容量1000L)が数個~十数個程度入る大きさであればよい。穴2を掘削するための掘削手段3については、
図2(b)では説明の便宜上、シャベル(スコップ)のイラストが描かれているが、バックホウ等の重機を用いるのが一般的である。穴2の掘削によって発生した土砂4は、一旦、穴2の近傍に仮置きされる。
【0034】
<投入工程>
投入工程では、穴2に廃棄鶏(正確には、廃棄鶏が収容されたフレコンバッグ)5を投入する〔
図1(c)〕。投入される廃棄鶏5は、穴2の深さの2/3程度の深さに収まることが好ましい。また、廃棄鶏5は、穴2の底で整列するように投入されることが望ましい。
【0035】
<埋設工程>
埋設工程では、穴2を土砂4で埋め戻す〔
図1(d)〕。ここで、本発明では、土砂4を転圧しないことが肝要である。転圧とは、ローラーやランマーなどの器具や重機で地面を固めることをいう。道路工事等では、通常、敷設した土砂を転圧して土壌表面の強度を上げているが、転圧を行うと圧力が土中にも伝達されることになる。本発明では、土中に埋設した廃棄鶏が圧力で潰れることを避けるため、埋め戻した土砂4を転圧することは行わない。穴2を埋め戻す土砂4としては、掘削工程で発生した土砂4を使用する。これにより、土砂4を有効に再利用することができる。また、掘削工程と埋設工程とにおいて同じ土砂4を取り扱うため、廃棄鶏5を処理する土地の性状が変わらず、安全且つ適切に処理を行うことができる。
【0036】
<散布工程>
散布工程では、埋め戻した土砂4の表面に熱可塑性樹脂を含む処理薬剤6を散布する〔
図1(e)〕。熱可塑性樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、土砂4の表面に丈夫な熱可塑性樹脂層(防水層)を形成することができる。また、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を含む処理薬剤は、溶液(エマルジョン)の形態で土砂4の表面に散布することができるため、散布工程の作業性に優れたものと言える。処理薬剤6の散布手段については、特に限定されず、例えば、図示するような薬液タンク8、ポンプ9、及びシャワーヘッド10からなる散布装置11が挙げられる。処理薬剤6に含まれる熱可塑性樹脂の含有量は、3~10.5重量%であることが好ましい。処理薬剤6の散布量は、0.5kg/m
2以上であることが好ましい。これらについては、先の「処理薬剤」の項目で説明したとおりである。処理薬剤6が乾燥すると、土砂4の表面に熱可塑性樹脂層(防水層)7が形成される。なお、土中に埋設した廃棄鶏5が自然分解すると土中に空洞が生じることがあるが、
図1(d)に示すように、土砂4で盛土を形成しておけば、
図1(f)に示すように、空洞に盛土が沈み込むため、地面の沈降(穴あき)を防止することができる。
【0037】
以上のように、本発明の廃棄鶏の処理方法によれば、廃棄鶏5を埋設する土地の地面1に穴2を掘り(掘削工程)、その穴2に廃棄鶏5を投入し(投入工程)、次いで穴2を土砂4で埋め戻し(埋設工程)、最後に埋め戻した土砂4の表面に熱可塑性樹脂を含む処理薬剤6を散布する(散布工程)という簡便な方法で、土砂4の表面に熱可塑性樹脂が形成され、これによって土中への水の浸入が防止又は抑制されるため、鶏の体液等に由来する感染性有機廃棄物が降雨や浸水等によって流出する危険性が低減され、殺処分等により廃棄された鶏を土中に埋設した後も安全な状態に維持することができる。また、埋設工程において、土砂4を転圧しないため、土中の廃棄鶏5が圧力で潰れることがなく、この点においても本発明の廃棄鶏の処理方法は、安全性が高いものと言える。さらに、本発明の廃棄鶏の処理方法は、土砂4を転圧しなくても熱可塑性樹脂層(防水層)7によって土砂4の形状を十分に維持できるため、転圧作業を省略できる点で作業効率がよいものと言える。
【0038】
また、本発明の廃棄鶏の処理方法によれば、鳥インフルエンザの発生に伴って殺処分された鶏が死後硬直によってフレコンバック(処理容器)を破損し、当該フレコンバックから鶏の体液等に由来する感染性有機廃棄物が漏れ出た場合であっても、土砂4の表面に形成される熱可塑性樹脂層(防水層)7によって土中への水の浸入を防止又は抑制できるため、降雨や浸水等によって感染性有機廃棄物が流出する危険性が低減され、廃棄鶏5を土中で安全な状態に維持することができる。
【実施例】
【0039】
本発明の廃棄鶏の処理方法による効果を検証するため、処理薬剤で処理した土砂の浸水試験を実施した。
【0040】
<使用薬剤及び資材>
試験で使用した薬剤及び資材は、以下のとおりである。
・処理薬剤:エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョン(原液の固形分21重量%)
・比較用薬剤:カルボキシメチルセルロース(CMC)
・粘土:栃木県産の粘土(トチクレー(登録商標))
・砂:珪砂3号と珪砂5号とを1:1(重量比)で配合した混合砂
【0041】
<降雨の再現>
国土交通省のウェブサイトによれば、日本における年平均の降水量は1718mmである。また、気象庁のウェブサイトによれば、1時間雨量が50mm以上80mm未満となる状況が「非常に激しい雨」とされ、80mm以上となる状況が「猛烈な雨」とされている。これらの情報を基に、本浸水試験では対象範囲を120mm×120mm(0.0144m2)に規定し、半年分の降水量を短時間で発生させることで降水量(体積)と雨の強さ(流量)とを同時に再現した。
【0042】
[降水量(体積)]
計算式は省略するが、日本における年平均の降水量1718mmから0.0144m2の範囲に降った半年分の降水量(体積)は、約13(L)と求められる。
【0043】
[雨の強さ(流量)]
園芸用シャワーを用いて水道水を1.3(L/分)の流量で10分間連続して散水することにより、上述の半年分の降水量(体積)である13(L)を再現した。計算式は省略するが、この降水量(体積)を1時間あたりの降水量に換算すると78mmとなり、気象庁が定める「非常に激しい雨」に相当する。
【0044】
<再現土砂の調製>
廃棄鶏を埋設する土地の地面を掘削したときに発生する土砂を想定し、粘土と砂とを重量分率として(1)100%:0%、(2)70%:30%、(3)50%:50%で夫々混合し、各混合土砂を一般的な残土相当の状態になるまで加水及び攪拌することにより再現土砂A~Cを得た。なお、混合土砂に対して加水及び攪拌を行うと土砂の一部が団粒化し、粒径のバラツキが大きくなる。そして、団粒化した土砂は隙間が大きくなるため、土砂の浸水試験を正しく評価できなくなる可能性がある。そこで、目開き2.0mmの篩を用いて篩掛けを行い、篩を通過したものを再現土砂として試験に供した。再現土砂A~Cの配合を表1に示す。
【0045】
【0046】
<浸水試験>
以下の実施例1~8の処理薬剤を使用し、土砂の浸水試験を実施した。また、比較のため、比較例1の処理薬剤を使用し、或いは比較例2~3の条件にて、同様に土砂の浸水試験を実施した。
【0047】
〔実施例1〕
固形分21重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液を水で2倍希釈し、実施例1の処理薬剤とした(固形分10.5重量%)。
【0048】
〔実施例2〕
固形分21重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液を水で5倍希釈し、実施例2の処理薬剤とした(固形分4.2重量%)。
【0049】
〔実施例3〕
固形分21重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液を水で6倍希釈し、実施例3の処理薬剤とした(固形分3.5重量%)。
【0050】
〔実施例4〕
固形分21重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液を水で7倍希釈し、実施例4の処理薬剤とした(固形分3.0重量%)。
【0051】
〔実施例5〕
固形分21重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液を水で8倍希釈し、実施例5の処理薬剤とした(固形分2.6重量%)。
【0052】
〔実施例6〕
固形分21重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液を水で9倍希釈し、実施例6の処理薬剤とした(固形分2.3重量%)。
【0053】
〔実施例7〕
固形分21重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液を水で10倍希釈し、実施例7の処理薬剤とした(固形分2.1重量%)。
【0054】
〔実施例8〕
固形分21重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液を水で15倍希釈し、実施例8の処理薬剤とした(固形分1.4重量%)。
【0055】
〔比較例1〕
カルボキシメチルセルロース(CMC)を水に溶解したCMC水溶液を、比較例1の処理薬剤とした(固形分0.5重量%)。
【0056】
〔比較例2〕
処理薬剤を使用しなかった。
【0057】
〔比較例3〕
処理薬剤を使用しなかったが、土砂の転圧を行った。
【0058】
土砂の浸水試験及び評価を、以下の(1)~(7)の手順で実施した。
(1)透水性のないプラスチック製の板(120mm×120mm)の中央に半径3cmの穴を空け、その穴を塞ぐように不織布(換気扇フィルターを流用)を貼付する。
(2)不織布側を上にした板の上に当該不織布を介して塩化ビニル管(内径:約3cm、高さ:約10cm)を穴の位置にあわせて載置し、塩化ビニル管の上に漏斗を設置して再現土砂を100g投入し、自然落下により土砂を塩化ビニル管中に堆積させる。
(3)実施例1~8及び比較例1~2については、塩化ビニル管をそのまま抜く。比較例3については、板の穴を塩化ビニル管の反対側から塞ぎ、2.5kgランマーにより突き固め(転圧)を25回行ってから塩化ビニル管を抜く。
(4)実施例1~8の処理薬剤を上記(3)で得られた土砂の表面に霧吹きを用いて1kg/m2相当量散布し、温度及び湿度が調整された室内(温度:20±5℃、湿度:50±10%)で約一日自然乾燥させる。比較例1については、CMCの粘性が大きく霧吹きを用いた散布が困難なため、先に土砂の表面に水を散布し、次いでシリンジを用いて処理薬剤を散布してから約一日の自然乾燥を行う。比較例2については、約一日の自然乾燥のみを行う。比較例3については、突き固め(転圧)の後、約一日の自然乾燥を行う。
(5)乾燥後の各試料(土砂+板)を土砂側が上になるようにビーカーの上に載置し、さらにその上方100mm離れた位置にシャワーを設置する。
(6)シャワーから水道水をキリモードで散水する(流量:1.3L/分、時間:10分)。このとき、土砂を透過した水はビーカーの中に溜まり、土砂を透過しなかった水はビーカーの外に流れていく。
(7)散水の終了後、ビーカーに溜まった水の量W(L)を測定し、透水率R(%)を以下の式から計算する。
透水率R(%) = L/13 × 100
(8)透水率R及び土砂の状態から、浸水抑制効果を総合的に評価する。なお、10分間の散水に耐え切れず土砂が途中で崩壊した試料については、透水率Rを測定することができないため、崩壊に至るまでの時間を以って浸水抑制効果を評価する。評価基準を以下に示す。
・A+:土砂が10分以上崩壊せず、かつ透水率が10%以下である。
・A :土砂が10分以上崩壊しない。
・B :土砂が崩壊に至るまでの時間が2~10分である。
・C :土砂が崩壊に至るまでの時間が2分未満である。
・D :土砂が即座(約1秒)に崩壊する。
【0059】
<試験結果>
土砂の浸水試験の結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
<考察>
実施例1~4に示すように、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液(固形分21重量%)を水で2~7倍希釈したもの(固形分3.0~10.5重量%)を処理薬剤として使用した場合、再現土砂A~Cの何れについても10分間の連続散水で土砂が崩壊することは無かった。このように、実施例1~4の処理薬剤を使用した場合、優れた浸水抑制効果が発揮されることが認められた(評価A以上)。そして特に、原液を2~6倍希釈した実施例1~3の処理薬剤を再現土砂Aに使用した場合、原液を2~7倍希釈した実施例1~4の処理薬剤を再現土砂Bに使用した場合、原液を2~7倍希釈した実施例1~4の処理薬剤を再現土砂Cに使用した場合については、透水率が10%以下となり、非常に優れた浸水抑制効果が発揮された(評価A+)。
【0062】
実施例5~8に示すように、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)水性エマルジョンの原液(固形分21重量%)を水で8~15倍希釈したもの(固形分1.4~2.6重量%)を処理薬剤として使用した場合、再現土砂A~Cの何れについても10分間の連続散水に耐えることはできなかったが、崩壊するまでに要した時間として2分以上かかったことから、ある程度の浸水抑制効果は認められた(評価B)。
【0063】
実施例1~8の結果より、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を含む処理薬剤を使用した場合、当該処理薬剤に含まれるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)の固形分濃度が高いほど、概ね浸水抑制効果も高くなる傾向が見られた。なお、再現土砂A~Cにおいて、原液を2倍希釈した実施例1(固形分10.5重量%)は、原液を5倍希釈した実施例2(固形分4.2重量%)より透水率が若干低くなっているが、この理由としては、処理薬剤の固形分濃度が一定以上になると、乾燥後に土壌表面に形成される防水層(EVA層)にひび割れが発生し、そのひびから多少の水が浸入したものと考えられる。
【0064】
これに対し、比較例1に示すように、カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液(固形分0.5重量%)を処理薬剤として使用したものは、再現土砂A~Cの何れについても、約1分で土砂が崩壊し、浸水抑制効果は認められなかった(評価C)。
【0065】
比較例2に示すように、処理薬剤を使用しなかったものは、再現土砂A~Cの何れについても、即座(約1秒)に土砂が崩壊し、浸水抑制効果は全く認められなかった(評価D)。
【0066】
比較例3に示すように、処理薬剤を使用しなかったが、土砂の転圧を行ったものは、再現土砂A~Cの何れについても、約30秒で土砂が崩壊し、浸水抑制効果は認められなかった(評価C)。
【0067】
以上より、本発明の廃棄鶏の処理方法(実施例)によれば、土砂の表面に形成される熱可塑性樹脂層(防水層)によって土中への水の浸入を防止又は抑制できるため、鶏の体液等に由来する感染性有機廃棄物が降雨や浸水等によって流出する危険性が低減され、殺処分等により廃棄された鶏を土中に埋設した後も安全な状態に維持することができる。また、土砂を転圧しないことで、土中の廃棄鶏が圧力で潰れることがないため、この点においても本発明の廃棄鶏の処理方法は、安全性が高いものと言える。さらに、本発明の廃棄鶏の処理方法は、土砂を転圧しなくても熱可塑性樹脂層(防水層)によって土砂の形状を十分に維持できるため、転圧作業を省略できる点で作業効率がよいものと言える。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の廃棄鶏の処理方法は、鳥インフルエンザの発生に伴って殺処分された鶏を廃棄処理するために利用されるものであるが、その他の理由で殺処分された鶏を廃棄処理する目的においても利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 地面
2 穴
3 掘削手段
4 土砂
5 廃棄鶏
6 処理薬剤
7 熱可塑性樹脂層(防水層)
8 薬液タンク
9 ポンプ
10 シャワーヘッド
11 散布装置
【要約】
【課題】簡便な方法によって土中への水の浸入を防止又は抑制し、殺処分等により廃棄された鶏を土中に埋設した後も安全な状態に維持できる廃棄鶏の処理方法を提供する。
【解決手段】廃棄鶏を埋設する土地の地面に穴を掘る掘削工程と、穴に廃棄鶏を投入する投入工程と、穴を土砂で埋め戻す埋設工程と、埋め戻した土砂の表面に熱可塑性樹脂を含む処理薬剤を散布する散布工程とを包含し、埋設工程において、土砂を転圧しない廃棄鶏の処理方法。
【選択図】
図1