(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】膵臓機能の診断剤
(51)【国際特許分類】
A61K 49/00 20060101AFI20241206BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20241206BHJP
A61K 9/08 20060101ALN20241206BHJP
A61K 101/00 20060101ALN20241206BHJP
A61K 101/02 20060101ALN20241206BHJP
【FI】
A61K49/00
A61K51/04
A61K9/08
A61K101:00
A61K101:02
(21)【出願番号】P 2020120505
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】大庭 弘行
(72)【発明者】
【氏名】塚田 秀夫
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/030709(WO,A1)
【文献】特開2017-206457(JP,A)
【文献】TSUKADA, H. et al.,Novel PET Probes '18'F-BCPP-EF and '18'F-BCPP-BF for Mitochondrial Complex I: A PET Study in Compari,Journal of Nuclear Medicine,2014年,Vol. 55, No. 3,pp. 473-480
【文献】WU, J. et al.,Pancreatic mitochondrial complex I exhibits aberrant hyperactivity in diabetes,Biochemistry and biophysics reports,2017年,Vol. 11,pp. 119-129
【文献】KIM, M. J. et al.,Mitochondrial complexes I and II are more susceptible to autophagy deficiency in mouse β-cells,Endocrinology and Metabolism,2015年,Vol. 30, No. 1,pp. 65-70
【文献】KIM-MULLER, J. Y. et al.,Aldehyde dehydrogenase 1a3 defines a subset of failing pancreatic β cells in diabetic mice,Nature Communications,2016年,Vol. 7, article number 12631,pp. 1-11
【文献】MA, Z. et al.,Hyperoxia inhibits glucose-induced insulin secretion and mitochondrial metabolism in rat pancreatic,Biochemical and Biophysical Research Communications,2014年,Vol. 443, No. 1,pp. 223-228
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00
A61K 51/04
A61K 9/08
A61K 101/00
A61K 101/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1-0)で表される化合物を有効成分とする膵臓機能の診断剤。
【化1】
[一般式(1-0)中、Rは-O(CH
2)
n-、-O(CH
2)
nOC
2H
4-、-CH
2O(CH
2)
n-又は-CH
2O(CH
2)
nOC
2H
4-を示し、nは1~5の整数を示し、Q
1は、F又は-OCH
3を示す。]
【請求項2】
前記有効成分が、一般式(1-0’)で表される化合物である、請求項1に記載の診断剤。
【化2】
[一般式(1-0’)中、R、n及びQ
1は、一般式(1-0)中のR、n及びQ
1と同義である。]
【請求項3】
前記有効成分が、一般式(1-0’’)で表される化合物である、請求項1に記載の診断剤。
【化3】
[一般式(1-0’’)中、n及びQ
1は、一般式(1-0)中のn及びQ
1と同義である。]
【請求項4】
前記有効成分が、下記式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の診断剤。
【化4】
[式(1)中、Q
1は、一般式(1-0)中のQ
1と同義である。]
【請求項5】
Q
1が
18F又は-O
11CH
3である、請求項1~4のいずれか一項に記載の診断剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓機能の診断剤に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓は、糖質を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、及び脂肪を分解するリパーゼを含む消化液(膵液)を分泌する外分泌機能と、糖の代謝に必要なインスリン及びグルカゴンといったホルモンを分泌する内分泌機能を有する。そのため、膵臓の機能障害が生じると、食物から生存に必要なエネルギー産生又は吸収ができなくなり、細胞への栄養の供給不足から様々な臓器の機能低下につながる。また、がんの早期発見及び早期治療が浸透してきた現在においても、膵臓がんはしばしば発見が遅れることから未だ5年生存率が10%以下と、難治性のがんの上位を占めている。
【0003】
従来、急性膵炎、慢性膵炎、初期の膵臓がん等の膵臓疾患の診断には、例えば、X線-CT及びMRIによる画像診断、並びに超音波内視鏡による診断が用いられている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2)。他方、非特許文献3には、II型糖尿病患者では、膵臓へのPETプローブ([18F]FDG)の取り込みが増加することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本腹部救急医学会雑誌,2008年,28巻,561-571頁
【文献】Journal of the Pancreas,2009年,10巻,280-283頁
【文献】PLoS ONE,2019年,14巻,e0213202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のX線-CT又はMRIによる画像診断は、膵臓の萎縮又は石灰化といった臓器の構造変化に基づく情報を利用する診断であるため、構造変化に先立つ生物学的機能変化を検出することはできない。これは、超音波内視鏡による診断でも同様である。しかも、超音波内視鏡による診断は、より侵襲性が高い検査法でもある。また、非特許文献3に開示される方法は、[18F]FDGをプローブとしたPET検査を行うものであり、臓器の炎症を反映した集積の増加しか評価することができない。
【0006】
そこで、本発明は、膵臓の機能変化を早期に診断することができる、膵臓機能の診断剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般式(1-0)で表される化合物(以下、「化合物(1-0)」ともいう。)を有効成分とする膵臓機能の診断剤に関する。
【0008】
【化1】
一般式(1-0)中、Rは-O(CH
2)
n-、-O(CH
2)
nOC
2H
4-、-CH
2O(CH
2)
n-又は-CH
2O(CH
2)
nOC
2H
4-を示し、nは1~5の整数を示し、Q
1は、F又は-OCH
3を示す。
【0009】
化合物(1-0)は、ミトコンドリアコンプレックス-I(以下、「MC-I」ともいう。)の検出に使用できることが知られている。本発明に係る膵臓機能の診断剤は、膵臓に集積し、更に膵臓のMC-I活性に比例した集積量となることから、膵臓機能の診断用途に好適に用いられる。また、後述の実施例で示したとおり、膵臓のMC-I活性の低下は、生化学的指標(例えば、血中グルコール濃度の上昇)の悪化よりも先に生じている。したがって、本発明に係る診断剤は、膵臓の機能変化を早期に診断することができる。
【0010】
上記診断剤は、Q1が18F又は-O11CH3であってもよい。これにより、上記化合物はポジトロンを放出することが可能になる。上記化合物から放出されたポジトロンは、すぐに電子と結合してγ線(消滅放射線)を放出する。このγ線を陽電子(ポジトロン)放出型断層撮影法(PET法)に用いられる装置で測定することにより、膵臓に集積する上記化合物を定量的かつ経時的に画像化することができる。すなわち、PET法の標識化合物としても利用可能になる。
【0011】
本発明はまた、上記診断剤を対象に投与する工程と、膵臓に集積した化合物(1-0)を検出する工程と、膵臓における化合物(1-0)の集積量を定量解析する工程と、を含む、膵臓機能の診断方法と捉えることもできる。
【0012】
本発明は更に、膵臓機能の診断に使用するための一般式(1-0)で表される化合物と捉えることもできる。本発明はまた、膵臓機能の診断剤の製造における一般式(1-0)で表される化合物の使用と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、膵臓の機能変化を早期に診断することができる、膵臓機能の診断剤を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】膵臓への[
18F]BCPP-BFの集積について、解剖法で測定した放射能集積量(SUV)に対してPET計測法で測定した放射能集積量(SUV)をプロットしたグラフである。
【
図2】膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)(
図2(A))、膵臓重量(
図2(B))、及び血中グルコース濃度(
図2(C))を、各週齢のLeanラット及びFattyラットで測定した結果を示すグラフである。
【
図3】膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)と、血中グルコース濃度又は血中中性脂肪濃度との関係を示すグラフである。
【
図4】(A)5週齢及び16週齢のラットの膵臓の単位面積当たりのインスリン陽性細胞数を示すグラフである。(B)16週齢のラット(Leanラット及びFattyラット)の膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)と、単位面積当たりのインスリン陽性細胞数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る膵臓機能の診断剤は、一般式(1-0)で表される化合物を有効成分とする。
【0017】
【0018】
化合物(1-0)中、Rは-O(CH2)n-、-O(CH2)nOC2H4-、-CH2O(CH2)n-又は-CH2O(CH2)nOC2H4-である。Rは、-O(CH2)n-又は-O(CH2)nOC2H4-であることが好ましく、-O(CH2)n-であることがより好ましい。
【0019】
化合物(1-0)中、nは1~5の整数であり、2~5の整数であることが好ましく、3~5の整数であることがより好ましく、4であることが更に好ましい。
【0020】
化合物(1-0)中、Q1は、F又は-OCH3であり、18F又は-O11CH3であることが好ましい。Q1が18F又は-O11CH3である化合物(1-0)は、ポジトロンを放出することができるため、PET法に使用するための標識化合物(PETプローブ)として好適である。また、Q1が-O11CH3である場合、半減期が20分と短いため、同一被験者に対して1日に複数回の計測を行うことも可能になる。Q1が18Fである場合、半減期が110分と-O11CH3よりも長いため、1回の計測時間を長くすることが可能になる。
【0021】
ピリジン環における、ピリダジン環と結合している-OCH2-の結合位置及びRの結合位置は特に制限されないが、ピリダジン環と結合している-OCH2-の結合位置がピリジン環の5位であり、Rの結合位置がピリジン環の2位であることが好ましい。以下に示す一般式(1-0’)で表される化合物(以下、「化合物(1-0’)」ともいう。)は、ピリダジン環と結合している-OCH2-の結合位置がピリジン環の5位であり、Rの結合位置がピリジン環の2位であるときの構造式である。
【0022】
【0023】
一般式(1-0’)中、R、n及びQ1は、一般式(1-0)中のR、n及びQ1と同義である。
【0024】
膵臓機能の診断用途により適したものになることから、化合物(1-0)は、一般式(1-0’’)で表される化合物(以下、「化合物(1-0’’)」ともいう。)であることが好ましく、式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)であることがより好ましい。
【0025】
【0026】
一般式(1-0’’)中、n及びQ1は、一般式(1-0)中のn及びQ1と同義である。
【0027】
【0028】
式(1)中、Q1は、一般式(1-0)中のQ1と同義である。
【0029】
化合物(1-0)は、例えば、対応する前駆体から合成することができる。化合物(1-0’)、化合物(1-0’’)及び化合物(1)についても同様である。
【0030】
化合物(1-0)の対応する前駆体としては、例えば、下記一般式(2-0)で表される化合物(以下、「化合物(2-0)」ともいう。)が挙げられる。化合物(1-0’)、化合物(1-0’’)及び化合物(1)の対応する前駆体としては、例えば、化合物(2-0)において、R並びにピリジン環におけるピリダジン環と結合している-OCH2-の結合位置及びRの結合位置が、化合物(1-0’)、化合物(1-0’’)及び化合物(1)と同じになる化合物が挙げられる。
【0031】
【0032】
一般式(2-0)中、Rは一般式(1-0)中のRと同義である。Q2は、脱離可能な置換基(置換スルホニルオキシ基、ハロゲン原子又は水酸基等)を示す。
【0033】
置換スルホニルオキシ基としては、例えば、トシルオキシ基(-OTs)、メタンスルホニルオキシ基(-OMs)、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(-OTf)、ニトロベンゼンスルホニルオキシ基(-ONs)が挙げられるが、-OTsが好ましく用いられる。
【0034】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0035】
前駆体は、例えば、国際公開第2014/30709号に記載された方法により合成することができる。
【0036】
化合物(1-0)は、MC-1特異的に膵臓に集積するため、膵臓機能の程度と相関して集積量が変化する。すなわち、膵臓の機能が低下すると化合物(1-0)の集積量が減少し、膵臓の機能が亢進すると化合物(1-0)の集積量が増加する。したがって、本実施形態に係る診断剤は、化合物(1-0)の集積量の測定を介して、膵臓機能の診断に好適に用いられる。
【0037】
化合物(1-0)の集積量の測定は、これに限られるものではないが、例えば、化合物(1-0)に蛍光色素等を結合させること、又はシングルフォトン核種(123I,99mTc等)若しくはポジトロン核種で標識を行うことで標識化合物とし、当該標識を検出することにより実施することができる。ポジトロン標識は、例えば、化合物(1-0)のQ1を-O11CH3又は18Fとすることにより行うことができる。ポジトロン標識した場合は、消滅放射線をPET法に用いられる装置で測定することによって、化合物(1-0)の体内分布を定量的かつ経時的に画像化することができる。
【0038】
本実施形態に係る診断剤は、例えば、化合物(1-0)を任意の緩衝液に溶解することによって製造することができる。この場合、本実施形態に係る診断剤は、溶液として提供され、緩衝成分の他、界面活性剤、防腐剤、安定化剤等のその他の成分を含有してもよい。
【0039】
本実施形態に係る膵臓機能の診断方法は、本発明に係る診断剤を対象に投与する工程と、膵臓に集積した化合物(1-0)を検出する工程と、膵臓における化合物(1-0)の集積量を定量解析する工程と、を含む。
【0040】
対象としては、例えば、ヒト、サル、マウス及びラットが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0041】
診断剤を対象に投与する方法は、化合物(1-0)が膵臓に到達する限りにおいて特に制限されないが、通常、静脈内投与である。
【0042】
診断剤の投与量としては、化合物(1-0)を膵臓で検出するのに充分な投与量であれば特に制限されず、投与する対象及び化合物(1-0)を検出する方法に応じて適宜設定すればよい。例えば、Q1が18F又は-O11CH3である化合物(1-0)を含む診断剤を用いて、PET法に用いられる装置で化合物(1-0)を検出する場合、診断剤の投与量(以下、「投与放射能量」ともいう。)は、1MBq/kg体重~1000MBq/kg体重であってもよい。化合物(1-0)の比放射能は、10~10,000GBq/μmolであってもよい。また、診断剤の投与放射能量は、使用するPETカメラの感度と対象個体の体積に依存するが、げっ歯類(マウス、ラット)ではおおよそ200~500MBq/kg体重を0.1~0.5mLの生理食塩水溶液として投与する。ヒト以外の霊長類(サル類)の場合、40~200MBq/kg体重を0.5~2mLの生理食塩水で投与し、ヒトの場合、2~10MBq/kg体重を1~5mLの生理食塩水溶液として投与する。
【0043】
膵臓に集積した化合物(1-0)を検出する方法としては、特に制限されず、公知の方法に準じて実施することができる。例えば、Q1が18F又は-O11CH3である化合物(1-0)を含む診断剤を用いる場合、PET法によって、化合物(1-0)を検出することが可能である。PET法における測定方法は特に制限されず、公知の方法に準じて実施することができる。また例えば、PET法で計測する方法としては、診断剤の投与直後から60分間のダイナミック計測をしてもよいし、診断剤を投与して30~40分間待って膵臓に化合物(1-0)を十分集積させてから、10~20分間のPET計測をしてもよい。
【0044】
膵臓における化合物(1-0)の集積量を定量解析する方法としては、特に制限されず、公知の方法に準じて実施することができる。例えば、以下の方法が挙げられる。まず、PET法によって得られた化合物(1-0)の集積画像と、CT計測等によって得られた膵臓の形態画像を重ねあわせ、膵臓のPET画像を同定する。次に膵臓のPET画像上に関心領域を設定して、対象となる個体の体重と投与放射能量とで正規化した値を、膵臓への化合物(1-0)の集積量とする。また、膵臓の形態画像に代えて、膵臓を検出できるプローブを使用したPET法による画像を用いてもよい。
【0045】
本実施形態に係る診断方法は、定量解析した化合物(1-0)の集積量を基準値と比較し、膵臓機能を診断する工程を更に含んでいてもよい。
【0046】
基準値は、診断目的に応じて適宜設定してよい。例えば、集団健康診断において本実施形態に係る診断方法を実施する場合、基準値は、複数の同種の対象における化合物(1-0)の集積量の分布から予め決定した正常範囲であってもよい。この場合、特定の対象における集積量の定量解析値が、当該正常範囲に入るか否かに応じて、当該特定の対象における膵臓機能が正常か否かを診断することができる。
【0047】
また、例えば、膵臓の機能障害を引き起こす症状(例えば、糖尿病、脂質代謝異常症、慢性膵炎、急性膵炎、膵臓がん等)に罹患している対象において、当該症状の経過観察、治療効果の確認、又は予後予測等のために本実施形態に係る診断方法を実施する場合、基準値は、当該対象のある時点(例えば、健常時、初診断時、治療開始時、治療終了等)における化合物(1-0)の集積量の測定結果であってもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
〔試験例1:PETプローブの合成〕
下記式で表される[
18F]BCPP-BFは、非特許文献(J.Labelled Comp. Radiopharm.,2013年,56巻11号,pp.553-561)に記載された方法により合成した。得られた最終生成物の放射化学的純度は100.0%、比放射能は74.5GBq/μmolであった。
【化7】
【0050】
また、膵臓の位置を特定するため、小動物の膵臓で高発現しているアミノ酸トランスポーター(LAT-1)を認識するプローブ(D-[11C]MT)を用意した。D-[11C]MTは、国際公開第2005/115971号の実施例1に記載の方法により合成した。得られた最終生成物の放射化学的純度は100.0%、比放射能は56.4GBq/μmolであった。
【0051】
〔試験例2:II型糖尿病モデルラットにおける膵臓機能の評価〕
(II型糖尿病モデルラット)
ヒト成人のII型糖尿病に類似した病態を発症するオスのZucker Leprfa/Leprfaラット(以下、「Fattyラット」ともいう。)と、そのコントロールとしてオスのZucker Leprfa/+ラット(以下、「Leanラット」ともいう。)を日本チャールスリバー株式会社から購入し、それぞれ5週齢、8週齢、16週齢及び26週齢の時点でPET計測に供した。
【0052】
(PET計測)
ラットをイソフルレンで麻酔して、動物用PETカメラ(SHR-38000,浜松ホトニクス株式会社製)のガントリー内に固定した。吸収補正のために15分間のトランスミッション計測を実施した後、ラットの尾静脈から約20MBq/0.5mLのD-[11C]MTを投与して、60分間のエミッション計測を実施した。引き続き、ラットの尾静脈から約20MBq/0.5mLの[18F]BCPP-BFを投与して、60分間のエミッション計測を実施した。PET計測終了後、D-[11C]MTの投与40-60分後のPET集積画像から同定した膵臓に関心領域を設定して、関心領域への[18F]BCPP-BFの集積量を算出した。次いで、算出した集積量を、各個体の体重と投与放射能量で正規化し、膵臓への[18F]BCPP-BFの集積量(放射能集積量(SUV))とした。
【0053】
(解剖法による放射能集積量(SUV)の測定)
PET計測終了直後にラットから膵臓を摘出し、摘出した膵臓の重量を測定した。次いで、摘出した膵臓の放射能をガンマーカウンター(Perkin Elmer社製,1480 WIZARD)を使用して計測した。計測した放射能をラットの体重と膵臓の重量と投与放射能量で正規化し、解剖法による放射能集積量(SUV)を算出した。
【0054】
(血中グルコース濃度及び血中中性脂肪濃度の測定)
PET計測直後にラットから採血し、血中グルコース濃度及び血中中性脂肪濃度を測定した。血中グルコース濃度及び血中中性脂肪濃度は、生化学自動分析装置(日立ハイテク社製7180)を使用して測定した。
【0055】
(インスリン陽性細胞数の測定)
重量と放射能を計測した後の摘出した膵臓を使用して、免疫染色によりインスリン陽性細胞数(個/μm2)を測定した。具体的には、一次抗体として抗インスリンモノクローナル抗体(ニチレイバイオサイエンス社製,K36aC10)、二次抗体としてヒストファイン シンプルステイン(ニチレイバイオサイエンス社製,MAX-PO(M))、発色剤としてDAB(DOJINDO社製,D006)を用いて膵臓組織切片を染色して、膵島5個を組織切片上から無作為に選び、光学顕微鏡(OLYMPUS社製,BX41)と顕微鏡カメラ(OLYMPUS社製,DP22)により100倍で膵島を撮影して、専用画像ソフト(OLYMPUS社製,cell SensV1.15)を用いてインスリン陽性細胞数(個/μm2)を測定した。
【0056】
(結果)
図1は、膵臓への[
18F]BCPP-BFの集積について、解剖法で測定した放射能集積量(SUV)に対してPET計測法で測定した放射能集積量(SUV)をプロットしたグラフである。
図1に示すとおり、PET計測法で測定したSUVと、解剖法で測定したSUVとが良好な相関性(R
2=0.777,p<0.001)を示した。膵臓のMC-I計測を[
18F]BCPP-BFを使用して非侵襲的に実施できることが分かる。以下、
図2~4に示す膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)は、PET計測法で測定した放射能集積量(SUV)である。
【0057】
図2は、膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)(
図2(A))、膵臓重量(
図2(B))、及び血中グルコース濃度(
図2(C))を、各週齢のLeanラット及びFattyラットで測定した結果を示すグラフである。
図2中、「★」は、Fattyラットのデータと、Leanラットのデータとの差が統計的に有意(p<0.05)であったことを示す。
【0058】
図2(B)に示すとおり、Fattyラットでは、8週齢の時点で膵臓の肥大化が認められ、その後膵臓の萎縮が認められた。また、
図2(C)に示すとおり、Fattyラットでは、16週齢以降、血中グルコース濃度の異常が検出された。一方、
図2(A)に示すとおり、Fattyラットでは、5週齢以降、膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)が低下していた。膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)の低下は、膵臓のMC-I活性の低下を意味している。これらの結果から、[
18F]BCPP-BFを使用したPET計測法により、血中グルコース濃度の異常が検出されるよりも前(ここでは、5週齢及び8週齢)から、膵臓機能の低下を検出できることが分かる。
【0059】
図3は、膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)と、血中グルコース濃度又は血中中性脂肪濃度との関係を示すグラフである。
図3(A)は、5週齢のラット(Leanラット及びFattyラット)における血中グルコース濃度と膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)とをプロットしたグラフである。
図3(B)は、5週齢のラット(Leanラット及びFattyラット)における血中中性脂肪濃度と膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)とをプロットしたグラフである。
図3(C)は、16週齢のラット(Leanラット及びFattyラット)における血中グルコース濃度と膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)とをプロットしたグラフである。
図3(D)は、16週齢のラット(Leanラット及びFattyラット)における血中中性脂肪濃度と膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)とをプロットしたグラフである。
【0060】
血中のグルコース濃度が高い、又は血中の中性脂肪濃度が高いと、膵臓に機能障害を誘発することが報告されている(例えば、FEBS J.,2013年,280巻,1039-1050頁、Endocr Rev.,2008年,29巻,351-366頁、Kidney Int.,2006年,70巻,1560-1566頁)。
図3に示すとおり、この現象を[
18F]BCPP-BFを使用して、MC-I活性の障害として検出できた。
【0061】
図4(A)は、5週齢及び16週齢のラットの膵臓の単位面積当たりのインスリン陽性細胞数を示すグラフである。
図4(A)中、白棒はLeanラットの結果を示し、黒棒はFattyラットの結果を示す。
図4(B)は、16週齢のラット(Leanラット及びFattyラット)の膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV)と、単位面積当たりのインスリン陽性細胞数との関係を示すグラフである。
【0062】
図4(A)に示すとおり、免疫染色法により既存の膵臓機能の指標であるインスリン陽性細胞数をカウントした結果、5週齢ではLeanラットとFattyラットの間に有意な差は認められず、16週齢でFattyラットにおける有意な低下が検出された。なお、
図2(A)に示すとおり、[
18F]BCPP-BFを使用したPET計測法では、5週齢の時点で、Fattyラットにおける膵臓のMC-I活性の低下を検出できている。
【0063】
図4(B)に示すとおり、16週齢のラット(Leanラット及びFattyラット)において、[
18F]BCPP-BFを使用したPET計測法で計測した膵臓のMC-I活性(膵臓への[
18F]BCPP-BFの取り込み(SUV))は、単位面積当たりのインスリン陽性細胞数と有意な正の相関を示した(R
2=0.649、p=0.001)。