(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物および導電性改善方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241206BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20241206BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20241206BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241206BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20241206BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20241206BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20241206BHJP
C09K 3/16 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L23/00
C08L69/00
C08K3/04
C08K7/06
C08K5/20
H01B1/24 A
H01B1/24 D
C09K3/16 101B
(21)【出願番号】P 2020165359
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-06-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】大内 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】立川 友晴
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智也
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-001623(JP,A)
【文献】国際公開第2021/172300(WO,A1)
【文献】特開2017-119792(JP,A)
【文献】特開2018-203975(JP,A)
【文献】国際公開第2020/085476(WO,A1)
【文献】米国特許第02299948(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、カーボンナノチューブと、下記式(1)
【化1】
[式中、R
1は炭化水素基を示し、kは
0を示し、
R
2a、R
2b、R
2cおよびR
2d
は水素原
子を示し、
R
3aおよびR
3bはそれぞれ独立して水素原子または
メチル基を示し、
X
1aおよびX
1bはそれぞれ独立して下記式(X1)
【化2】
(式中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、R
4とR
5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに複素環を形成する。)
で表される基を示す。]
で表される化合物とを含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記式(1)において、R
4およびR
5の双方が炭化水素基である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)において、R
4およびR
5の双方が直鎖状または分岐鎖状アルキル基である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブが、単層または多層カーボンナノチューブである請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂が、ポリオレフィン系樹脂およびポリカーボネート系樹脂から選択される少なくとも一種を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記式(1)で表される化合物の割合が、前記樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部であり、
前記カーボンナノチューブの割合が、前記樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部であり、
前記式(1)で表される化合物と前記カーボンナノチューブとの割合が、前者/後者(質量比)=1/0.5~1/5である請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1記載の式(1)で表される化合物およびカーボンナノチューブを樹脂に添加して、樹脂の導電性を向上する方法。
【請求項8】
請求項1記載の式(1)で表される化合物およびカーボンナノチューブを混合する一次混合工程と、前記一次混合工程で得られた混合物を樹脂に添加する二次混合工程とを含む請求項7記載の方法。
【請求項9】
樹脂の導電性を向上させる添加剤であって、請求項1記載の式(1)で表される化合物およびカーボンナノチューブを含む導電剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(CNT)を含む樹脂組成物および導電性(電気伝導性)の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオレン誘導体は、その独特な化学構造に基づく優れた特徴を活かし、有機半導体や光学部材などを形成するための材料などとして様々な分野に展開されており、通常、フルオレン誘導体をモノマー成分とした樹脂として利用されることが多い。米国特許第2299948号明細書(特許文献1)には、合成樹脂を調製するための中間体として、下記式で表される9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンが有用であることが記載されている。
【0003】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例では、9,9-ジ-(β-シアノエチル)フルオレンと硫酸とを所定の条件下で反応させて、上記9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンが調製されている。
【0006】
しかし、特許文献1では、9,9-ジ-(β-カルバモイル-エチル)フルオレンを樹脂の添加剤として利用すること、特に、樹脂の導電性(電気伝導性)を改善するための添加剤として利用することについて何ら記載も示唆もされていない。
【0007】
従って、本発明の目的は、高い導電性(または低い電気抵抗)を示す樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の化学構造を有するフルオレン誘導体をカーボンナノチューブとともに樹脂に添加すると、導電性を大きく向上できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、樹脂と、カーボンナノチューブと、下記式(1)で表される化合物とを含んでいる。
【0010】
【0011】
[式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
R2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
R3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
X1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)
【0012】
【0013】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、R4とR5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに複素環を形成する。)
で表される基を示す。]
前記式(1)において、R4およびR5の双方が炭化水素基であってもよい。また、R4およびR5の双方が直鎖状または分岐鎖状アルキル基であってもよい。前記カーボンナノチューブは、単層または多層カーボンナノチューブであってもよい。前記樹脂は、ポリオレフィン系樹脂およびポリカーボネート系樹脂から選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。前記式(1)で表される化合物の割合は、前記樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部程度であってもよく、前記カーボンナノチューブの割合は、前記樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部程度であってもよく、前記式(1)で表される化合物と前記カーボンナノチューブとの割合は、前者/後者(質量比)=1/0.5~1/5程度であってもよい。
【0014】
本発明は、前記式(1)で表される化合物およびカーボンナノチューブを樹脂に添加して、樹脂の導電性を向上する方法(抵抗を低減する方法、または帯電を防止する方法)を包含する。前記方法は、前記式(1)で表される化合物および前記カーボンナノチューブを混合する一次混合工程と、前記一次混合工程で得られた混合物を樹脂に添加する二次混合工程とを含んでいてもよい。
【0015】
また、本発明は、樹脂の導電性を向上させる添加剤であって、前記式(1)で表される化合物およびカーボンナノチューブを含む導電剤(導電性向上(または付与)剤、導電材または帯電防止剤)も包含する。
【0016】
なお、本発明では、従たる目的として、以下の課題を解決してもよい。
【0017】
すなわち、本発明の他の目的は、高い導電性と高い衝撃強度とを両立できる樹脂組成物を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、樹脂の導電性を向上させる方法、および樹脂の導電性を向上させる添加剤(導電剤)を提供することにある。
【0019】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「C1アルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0020】
本発明の樹脂組成物は、特定の化学構造を有するフルオレン誘導体と、カーボンナノチューブと、樹脂とを組み合わせて含むため、高い導電性(または電気伝導性)を示す。通常、高い導電性は高い衝撃強度とはトレードオフの関係となり易いにもかかわらず、本発明の樹脂組成物では、意外にも両特性を両立することもできる。本発明は、前記フルオレン誘導体およびカーボンナノチューブを樹脂に添加して、樹脂の導電性を向上する方法を提供できる。また、本発明は、前記フルオレン誘導体およびカーボンナノチューブを含む導電剤も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、合成例1で得られたDEAA-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】
図2は、合成例2で得られたDMAA-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図3】
図3は、合成例3で得られたNIPAM-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】
図4は、合成例4で得られたAAD-FLの
1H-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
樹脂組成物は、樹脂と、カーボンナノチューブ(CNT)と、下記式(1)で表される化合物(以下、フルオレン誘導体ともいう)とを少なくとも含んでおり、フルオレン誘導体およびCNT(またはその複合体)は、導電剤(導電性向上(または付与)剤、導電材または帯電防止剤)として機能する。
【0023】
[フルオレン誘導体]
【0024】
【0025】
[式中、R1は置換基を示し、kは0~8の整数を示し、
R2a、R2b、R2cおよびR2dはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
R3aおよびR3bはそれぞれ独立して水素原子または置換基を示し、
X1aおよびX1bはそれぞれ独立して下記式(X1)で表される基を示す
【0026】
【0027】
(式中、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子もしくは炭化水素基を示すか、または、R4とR5とが互いに結合して隣接する窒素原子とともに複素環を形成する)]。
【0028】
前記式(1)において、基R1としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。前記アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。好ましい基R1としては、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基であり、特にアルキル基が好ましい。
【0029】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、特にメチル基などのC1-4アルキル基が挙げられる。
【0030】
なお、基R1の置換数kが複数(2以上)である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、同一のベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は、同一または異なっていてもよく、異なるベンゼン環に置換する2以上の基R1の種類は同一または異なっていてもよい。また、基R1の結合位置(置換位置)は、フルオレン環の1~8位である限り特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられる。
【0031】
置換数kは、例えば0~6程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~4、0~3、0~2の整数であり、好ましくは0または1、特に0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環において、基R1のそれぞれの置換数は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0032】
R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基などが挙げられる。
【0033】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基である。
【0034】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
【0035】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0036】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0037】
R2a、R2b、R2cおよびR2dで表される好ましい置換基としてはアルキル基が挙げられ、好ましいアルキル基としては、以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはC1-2アルキル基であり、特にメチル基である。
【0038】
好ましいR2a、R2b、R2c、R2dとしては、水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子である。なお、少なくともR2cおよびR2dが水素原子であるのが好ましく、このような態様における好ましいR2aおよびR2bは、水素原子または炭化水素基であり、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基であり、特に水素原子(すなわち、R2a、R2b、R2cおよびR2dがいずれも水素原子)であるのが好ましい。
【0039】
また、R2a、R2b、R2c、R2dの種類は、互いに異なっていてもよいが、R2aおよびR2bが同一であり、R2cおよびR2dが同一であるのが好ましい。
【0040】
R3aおよびR3bで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基などが挙げられる。これらの炭化水素基としては、例えば、前記R2aおよびR2bで表される置換基として例示した炭化水素基と同様の基が挙げられる。
【0041】
R3aおよびR3bで表される置換基のうち、好ましい置換基はアルキル基であり、好ましいアルキル基としては、以下段階的に、C1-6アルキル基、C1-5アルキル基、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基であり、さらに好ましくはC1-2アルキル基であり、特にメチル基である。
【0042】
また、好ましいR3aおよびR3bとしては、水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に水素原子が好ましい。
【0043】
X1aおよびX1b(または式(X1))において、R4およびR5で表される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、これらを複数組み合わせた基などが挙げられる。
【0044】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-12アルキル基などが挙げられる。
【0045】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。
【0046】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0047】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0048】
R4およびR5で表される炭化水素基のうち、好ましくは直鎖状または分岐鎖状アルキル基であり、さらに好ましくは、以下段階的に、直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基であり、なかでも、メチル基、エチル基、イソプロピル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましく、樹脂に対する分散性(または相溶性)がより優れる点からは、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキル基が好ましく、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキル基である。R4およびR5の双方が炭化水素基である場合、R4およびR5の種類は互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0049】
また、R4とR5とが互いに結合して、隣接する窒素原子[すなわち、R4、R5およびカルボニル基と結合してアミド基(アミド結合またはカルボン酸アミド)を形成する窒素原子]とともに形成してもよい複素環(N含有複素環)は、ヘテロ原子として前記窒素原子を含んでいればよく、必要に応じて、前記窒素原子に加えて、さらに1以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。さらに含んでいてもよいヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられ、これらから選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含んでいてもよく、少なくとも酸素原子を含むのが好ましい。前記複素環を構成するヘテロ原子の数は、例えば1~3個程度であってもよく、好ましくは1~2個であり、さらに好ましくは2個である。前記複素環は、例えば5~7員環(5~7員複素環)であることが多く、好ましくは5または6員環であり、さらに好ましくは6員環である。また、前記複素環は、芳香族性であってもよいが、非芳香族性であるのが好ましい。
【0050】
代表的な複素環としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、ホモピペリジン環(アゼパン環、ヘキサヒドロアゼピン環またはヘキサメチレンイミン環)などの1または複数の窒素原子を含む複素環、モルホリン環などの窒素原子と異種のヘテロ原子とを含む複素環などが挙げられ、好ましくはモルホリン環などの窒素原子と異種のヘテロ原子、特に酸素原子とを含む非芳香族性の5~7員複素環である。
【0051】
式(X1)において、窒素原子に隣接するR4およびR5は、双方が水素原子であってもよく;一方が水素原子で他方が炭化水素基であってもよく;R4およびR5の双方が炭化水素基であるか、または互いに結合して複素環を形成してもよい。すなわち、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が、無置換アミド基(第一級アミド基)であってもよく;一置換アミド基(またはN-置換アミド基)であってもよく;二置換アミド基(またはN,N-二置換アミド基)であってもよい。なお、X1aおよびX1bの種類は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0052】
導電性を有効に向上できる観点から、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が、一置換アミド基または二置換アミド基であるのが好ましく、具体的には、R4およびR5のうち、少なくとも一方が炭化水素基であるのが好ましく、なかでも、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基、特に、R4およびR5の双方が炭化水素基であるのが好ましい。
【0053】
また、R4またはR5の少なくとも一方、好ましくは双方が炭化水素基である場合、炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基などの脂肪族炭化水素基であるのが好ましく、より好ましくはアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基であり、なかでも直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が好ましく、特にエチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましい。
【0054】
フルオレン誘導体を添加することにより導電性が向上する理由は定かではないが、樹脂中でCNTの凝集を抑制しつつ適度に分散させることができ、CNT同士が相互に接触または接続したネットワーク構造(導電パス)を効率よく形成できるものと推測される。
【0055】
前記式(1)で表される代表的な化合物としては、例えば、式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方が水素原子である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス(2-カルバモイルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルバモイルプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(2-カルバモイル)C2-3アルキル」フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5のうちの一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(N-メチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-メチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-エチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N-ブチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N-C1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5がアルキル基である化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジイソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジブチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンなど;式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4とR5とが互いに結合して、アミド基を構成する窒素原子に加えて、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環を形成する化合物、具体的には、例えば、9,9-ビス[2-(モルホリン-4-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(モルホリン-4-イル-カルボニル)プロピル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ピロリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ピペリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(ホモピペリジン-1-イル-カルボニル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N含有複素環-N-イル-カルボニル)C2-3アルキル]フルオレンなどが挙げられる。
【0056】
これらのフルオレン誘導体は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのフルオレン誘導体のうち、式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方が水素原子である化合物(無置換アミド化合物);式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5のうち、一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物(N-アルキル置換化合物);式(1)において、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方がアルキル基である化合物(N,N-ジアルキル置換化合物)が好ましく、導電性をより有効に向上できる点から、N-アルキル置換化合物、N,N-ジアルキル置換化合物が好ましく、N,N-ジアルキル置換化合物がさらに好ましい。
【0057】
好ましいN-アルキル置換化合物としては、9,9-ビス[2-(N-C1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが挙げられ、さらに好ましくは9,9-ビス[2-(N-C2-5アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが挙げられ、なかでも、9,9-ビス[2-(N-イソプロピルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N-C2-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが好ましい。
【0058】
好ましいN,N-ジアルキル置換化合物としては、9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-6アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが挙げられ、さらに好ましくは9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-4アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが挙げられ、なかでも、9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)エチル]フルオレン、9,9-ビス[2-(N,N-ジエチルカルバモイル)エチル]フルオレンなどの9,9-ビス[2-(N,N-ジC1-3アルキル-カルバモイル)C2-3アルキル]フルオレンが好ましく、特に9,9-ビス[2-(N,N-ジメチルカルバモイル)エチル]フルオレンが好ましい。
【0059】
(フルオレン誘導体の製造方法)
前記式(1)で表される化合物の製造方法は特に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3a)および(3b)で表される化合物とを反応(マイケル付加反応)させることによって調製してもよい。
【0060】
【0061】
(式中、R1およびkは、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0062】
【0063】
(式中、R2a、R2b、R2cおよびR2d、R3aおよびR3b、X1aおよびX1bは、それぞれ好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0064】
前記式(2)で表される代表的な化合物としては、9H-フルオレンなどが挙げられる。
【0065】
また、前記式(3a)および(3b)で表される化合物において、R2a、R2b、R2cおよびR2dの種類に応じて、E体またはZ体のいずれであってもよい。
【0066】
前記式(3a)および(3b)で表される代表的な化合物としては、例えば、前記式(1)で表される化合物として具体的に例示した化合物に対応して、R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方が水素原子である化合物、具体的には(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5のうち一方が水素原子で他方がアルキル基である化合物、具体的には、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN-C1-6アルキル-(メタ)アクリルアミドなど;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5の双方がアルキル基である化合物、具体的には、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジC1-6アルキル-(メタ)アクリルアミド;R2a、R2b、R2cおよびR2dが水素原子、R3aおよびR3bが水素原子またはメチル基、R4およびR5が互いに結合し、アミド基を構成する窒素原子に加えて、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択された少なくとも1つのヘテロ原子をさらに含んでいてもよい5~7員複素環を形成する化合物、具体的には、N-(メタ)アクリロイルモルホリンなどのN-(メタ)アクリロイルN含有複素環などが挙げられる。なお、前記式(3a)および(3b)で表される化合物は、同一の化合物であるのが好ましい。
【0067】
前記式(2)で表される化合物の量と、前記式(3a)および(3b)で表される化合物の合計量との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/2~1/10程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1/2~1/5、1/2.01~1/3、1/2.03~1/2.1である。
【0068】
反応は、通常、塩基の存在下で行ってもよい。塩基としては、例えば、金属水酸化物、金属炭酸塩または炭酸水素塩、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0069】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などが挙げられる。
【0070】
金属炭酸塩または炭酸水素塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩または炭酸水素塩などが挙げられる。
【0071】
金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0072】
これらの塩基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの塩基のうち、金属水酸化物が好ましく、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が更に好ましい。塩基の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0073】
反応は、相間移動触媒の存在下または非存在下で行ってもよい。相間移動触媒としては、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどのテトラアルキルアンモニウムハライドなどが挙げられる。これらの相間移動触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの相間移動触媒のうち、TBABが好ましい。相間移動触媒の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モルである。
【0074】
反応は、反応に不活性な溶媒の非存在下または存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;環状エーテル、鎖状エーテルなどのエーテル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド類;脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類などの炭化水素類などが挙げられる。
【0075】
環状エーテルとしては、例えば、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、グリコールエーテル類などが挙げられる。前記グリコールエーテル類としては、例えば、メチルセロソルブ、メチルカルビトールなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジメトキシエタンなどの(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0076】
脂肪族炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ドデカンなどが挙げられる。脂環族炭化水素類としては、シクロヘキサンなどが挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0077】
これらの溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、水と、DMSOなどのスルホキシド類と、トルエンなどの芳香族炭化水素類との混合溶媒が好ましい。なお、水は前述の塩基の水溶液の形態で添加してもよい。溶媒の使用量は反応の進行を妨げない限り特に制限されず、前記式(2)、(3a)および(3b)で表される化合物の総量100gに対して、例えば10~500mL程度であってもよく、好ましくは50~200mLである。
【0078】
反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば50~200℃、好ましくは80~100℃である。反応時間は特に制限されず、例えば0.5~10時間程度であってもよい。
【0079】
反応終了後、必要に応じて、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、中和、洗浄、抽出、ろ過、デカンテーション、濃縮、脱水、乾燥、晶析、クロマトグラフィー、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0080】
(フルオレン誘導体の特性)
上述のようにして得られるフルオレン誘導体は、結晶または非晶の形態であってもよく、結晶の形態である場合、融点は、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が無置換アミド基である場合、例えば200~300℃程度であってもよく、好ましくは230~280℃、さらに好ましくは240~270℃であり、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が一置換アミド基である場合、例えば150~300℃程度であってもよく、好ましくは200~270℃、さらに好ましくは220~250℃であり、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基である場合、例えば50~200℃程度であってもよく、好ましくは70~180℃、さらに好ましくは80~160℃である。
【0081】
また、フルオレン誘導体の5%質量減少温度は、例えば200~400℃程度であってもよく、好ましくは、以下段階的に、230~380℃、250~360℃、280~350℃、300~340℃、310~330℃である。このように、フルオレン誘導体は高い耐熱性を備えているため、高温環境下であっても、導電剤として有効に利用できる。
【0082】
また、フルオレン誘導体は、溶剤に対する溶解性に優れており、特に、前記式(1)において、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]が二置換アミド基である化合物であると、より多種の溶剤に対して溶解し易いようである。
【0083】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、融点、5%質量減少温度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0084】
[カーボンナノチューブ(CNT)]
カーボンナノチューブ(CNT)は、ナノサイズの直径を有するもの(ナノスケールカーボンチューブ)であればよく、慣用の各種のCNTを利用できる。CNTのチューブ内空間部には金属などが内包されていてもよく、例えば、鉄などが内包されていてもよい。
【0085】
代表的なCNTとしては、(i)単層または多層カーボンナノチューブ、(ii)アモルファスナノスケールカーボンチューブ、(iii)ナノフレークカーボンチューブ、(iv)ナノフレークカーボンチューブおよび入れ子構造の多層カーボンナノチューブから選択された少なくとも1種のカーボンナノチューブ(a)と、炭化鉄または鉄(b)とからなり、このカーボンナノチューブ(a)のチューブ内空間部に充填されている炭化鉄または鉄(b)とで構成された鉄-炭素複合体などが挙げられる。これらのカーボンナノチューブは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0086】
単層または多層カーボンナノチューブ(i)は、黒鉛シート、すなわち、黒鉛構造の炭素原子面またはグラフェンシートがチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。このような構造を有するカーボンナノチューブのうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じた構造を有するカーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と称され、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になった構造を有するカーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(入れ子構造の多層カーボンナノチューブまたはMWCNT)と称されている。単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとは、それぞれ単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。
【0087】
単層カーボンナノチューブのサイズは、例えば、直径(平均直径)が0.4~10nmおよび長さ(平均長さ)が1~500μm、好ましくは直径が0.7~5nmおよび長さが1~100μm、さらに好ましくは直径が0.7~2nmおよび長さが1~20μmである。
【0088】
多層カーボンナノチューブのサイズは、例えば、直径(平均直径)が1~100nmおよび長さ(平均長さ)が1~500μm、好ましくは直径が1~50nmおよび長さが5~100μm、さらに好ましくは直径が1~40nmおよび長さが10~50μm、特に好ましくは直径が5~20nmおよび長さが20~30μmである。
【0089】
多層カーボンナノチューブの嵩密度(タッピング法)は、例えば0.03~0.2g/cc、好ましくは0.05~0.15g/cc、さらに好ましくは0.06~0.14g/ccである。
【0090】
アモルファスナノスケールカーボンチューブ(ii)としては、例えば、WO00/40509(特許第3355442号公報)に記載のナノチューブ、すなわち、カーボンからなる主骨格を有し、直径が0.1~1000nmであり、アモルファス構造を有するナノスケールカーボンチューブであって、直線状の形態を有し、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔(d002)が3.54Å以上、特に3.7Å以上であり、回折角度(2θ)が25.1度以下、特に24.1度以下であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上、特に7度以上であるカーボンチューブなどが挙げられる。
【0091】
ナノフレークカーボンチューブ(iii)としては、例えば、複数枚、通常は多数枚のフレーク状の黒鉛シートがパッチワーク状または張り子状(paper mache状)に集合して構成されたカーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0092】
鉄-炭素複合体(iv)としては、例えば、特開2002-338220号公報に記載の鉄-炭素複合体、すなわち(a)ナノフレークカーボンチューブおよび入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと、(b)炭化鉄または鉄とからなり、前記カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10~90%の範囲に炭化鉄または鉄(b)が充填されている鉄-炭素複合体などが挙げられる。
【0093】
これらのカーボンナノチューブのうち、導電性や経済性などのバランスに優れる点から、単層または多層カーボンナノチューブ、入れ子構造の多層カーボンナノチューブと炭化鉄または鉄とからなる鉄-炭素複合体が好ましく、単層または多層カーボンナノチューブが特に好ましく、多層カーボンナノチューブが特に好ましい。
【0094】
[樹脂]
樹脂としては、例えば、硬化性樹脂(熱または光硬化性樹脂)、熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0095】
硬化性樹脂としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などのフェノール樹脂;ユリア樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂などのアミノ樹脂;フラン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ジアリルフタレート樹脂;ビニルエステル樹脂(またはエポキシ(メタ)アクリレート樹脂);多官能(メタ)アクリレート系樹脂;エポキシ樹脂;ウレタン樹脂;ビスマレイミド系樹脂などのポリイミド樹脂;シリコーン樹脂などが挙げられる。これらの硬化性樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0096】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリエーテルケトン系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスルホン系樹脂、セルロース誘導体、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0097】
スチレン系樹脂としては、例えば、一般用ポリスチレン(GPPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)などのポリスチレン(PS)、スチレン系共重合体などが挙げられる。スチレン系共重合体としては、例えば、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体などが挙げられる。ゴム成分含有スチレン系樹脂またはゴムグラフトスチレン系共重合体としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、AXS樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などが挙げられる。AXS樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル-(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)-スチレン共重合体(AES樹脂)などが挙げられる。
【0098】
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体などが挙げられる。
【0099】
酢酸ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタールなどが挙げられる。ポリビニルアセタールとしては、例えば、ポリビニルホルマール(PVF)、ポリビニルブチラール(PVB)などが挙げられる。
【0100】
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂などが挙げられる。塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニル単独重合体(PVC);塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル共重合体などが挙げられる。塩化ビニリデン樹脂としては、例えば、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体などの塩化ビニリデン共重合体などが挙げられる。
【0101】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。
【0102】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステル(LCP)などが挙げられる。ポリアルキレンアリレート系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ1,4-シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。
【0103】
ポリアミド系樹脂(PA)としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド樹脂、ポリm-フェニレンイソフタルアミド、ポリp-フェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド樹脂またはアラミド樹脂などが挙げられる。
【0104】
ポリエーテルケトン系樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。
【0105】
ポリケトン樹脂としては、例えば、脂肪族ポリケトン樹脂などが挙げられる。
【0106】
ポリスルホン系樹脂としては、例えば、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)などが挙げられる。
【0107】
セルロース誘導体としては、例えば、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル、エチルセルロースなどのセルロースエーテルなどが挙げられる。
【0108】
熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0109】
熱可塑性エラストマー(TPE)としては、例えば、ポリスチレン系TPE、ポリオレフィン系TPE(TPO)、ポリジエン系TPE、塩素系TPE、フッ素系TPE、ポリウレタン系TPE(TPU)、ポリエステル系TPE(TPEE)、ポリアミド系TPE(TPA)などが挙げられる。
【0110】
樹脂組成物は、これらの樹脂のうち、熱可塑性樹脂を少なくとも含むのが好ましい。樹脂組成物において、熱可塑性樹脂の割合は、樹脂全体に対して、例えば1質量%程度以上の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、特に実質的に100質量%であるのが好ましい。
【0111】
また、熱可塑性樹脂のなかでも、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。
【0112】
(ポリオレフィン系樹脂)
ポリオレフィン系樹脂は、極性が低く、炭素材料であるカーボンナノチューブを分散させるのは困難であるが、前記式(1)で表される特定のフルオレン誘導体と組み合わせることによって、より有効にまたは効率よく分散できる。
【0113】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、α-オレフィンを主要な重合成分とする鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン類を重合成分として含む環状オレフィン系樹脂などが挙げられる。環状オレフィン系樹脂としては、エチレン-ノルボルネン共重合体などの環状オレフィン共重合体(COC)、ポリノルボルネン、ポリジシクロベンタジエン、ポリシクロペンタジエンもしくはこれらの水添物などの環状オレフィン類の付加もしくは開環重合体またはその水添物などが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリオレフィン系樹脂のうち、鎖状オレフィン系樹脂が好ましい。
【0114】
鎖状オレフィン系樹脂の重合成分であるα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、1-オクテン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどのα-C2-20オレフィンなどが挙げられ、好ましくはα-C2-10オレフィン、さらに好ましくはエチレン、プロピレンなどのα-C2-6オレフィンである。
【0115】
鎖状オレフィン系樹脂は、前記α-オレフィンの単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体における重合成分は、2種以上のα-オレフィンを含んでいてもよく、α-オレフィンとは異なる共重合性単量体を含んでいてもよい。なお、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などであってもよい。
【0116】
前記α-オレフィンとは異なる共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル系単量体、不飽和カルボン酸またはその酸無水物、カルボン酸ビニルエステル、ジエンなどが挙げられる。
【0117】
(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、N置換(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられ、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステルなどが挙げられる。また、前記N置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのモノまたはジアルキル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0118】
不飽和カルボン酸またはその酸無水物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸またはこれらの無水物(無水マレイン酸など)などが挙げられる。
【0119】
カルボン酸ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステルなどが挙げられる。
【0120】
ジエンとしては、例えば、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエンなどの非共役アルカジエン、ブタジエン、イソプレンなどの共役アルカジエンなどが挙げられる。
【0121】
これらの共重合性単量体は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。鎖状オレフィン系樹脂が共重合性単量体を含む場合、構成単位全体に対する共重合性単量体の割合は、例えば90モル%程度以下であってもよく、好ましくは、以下段階的に、70モル%以下、50モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下である。また、前記割合は、例えば、0.01~30モル%、好ましくは、以下段階的に、0.1~20モル%、1~10モル%である。
【0122】
代表的な鎖状オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ1-ブテン系樹脂、ポリ4-メチル-1-ペンテン系樹脂などのポリα-C2-6オレフィン系樹脂などが挙げられ、これらのポリオレフィン系樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオレフィン系樹脂のなかでも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0123】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、エチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体、変性ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、アイオノマーなどが挙げられる。エチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-(1-ブテン)共重合体、エチレン-プロピレン-(1-ブテン)共重合体、エチレン-(4-メチル-1-ペンテン)共重合体などが挙げられる。変性ポリエチレンとしては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレンなどが挙げられる。
【0124】
また、エチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体などの共重合体において、エチレン(またはエチレン単位)の割合は、重合成分(モノマー)全体に対して、例えば60モル%程度以上であってもよく、70~99.5モル%程度であってもよい。
【0125】
なお、ポリエチレン系樹脂は、チーグラー触媒などのマルチサイト型の触媒、またはメタロセン触媒などのシングルサイト型の触媒により調製されていてもよく、メタロセン触媒により調製されたポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0126】
これらのポリエチレン系樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエチレン系樹脂のうち、エチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体が好ましく、メタロセン触媒により調製されたエチレン-(α-C3-10オレフィン)共重合体がさらに好ましい。
【0127】
ポリエチレン系樹脂の密度は、例えば0.87~1g/cm3程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.88~0.98g/cm3、0.885~0.95g/cm3、0.895~0.92g/cm3、0.9~0.91g/cm3である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、前記密度は、JIS K 7122に準じて測定できる。
【0128】
ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば10000~10000000程度の範囲から選択してもよい。また、数平均分子量Mnは、例えば10000~1000000程度の範囲から選択してもよい。分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1~50程度の範囲から選択してもよい。なお、本明細書および特許請求の範囲において、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、GPCにより標準ポリスチレン換算で測定できる。
【0129】
ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(単位:g/10分)は、例えば1~50程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、2~30、3~25、4~20、5~18、6~15、8~12である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、ポリエチレン系樹脂のMFRは、JIS K 6922-2に準じて測定できる。
【0130】
ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン(またはプロピレンホモポリマー(単独重合体))であってもよく、プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体または変性ポリプロピレンであってもよい。プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体または変性ポリプロピレンとしては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-(1-ブテン)共重合体、プロピレン-エチレン-(1-ブテン)共重合体などのプロピレンと他のα-C2-10オレフィンとの共重合体;無水マレイン酸変性ポリプロピレン;塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0131】
また、プロピレンと他のα-C2-10オレフィンとの共重合体などのプロピレンと他の共重合性単量体との共重合体または変性ポリプロピレンにおいて、プロピレン(またはプロピレン単位)の割合は、重合成分(モノマー)全体に対して、例えば50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。また、前記割合は、例えば80~99.5モル%、好ましくは85~99モル%、さらに好ましくは94~98モル%であってもよい。
【0132】
なお、プロピレンと他の共重合性単量体との共重合体または変性ポリプロピレンは、ランダム共重合体、ブロック共重合体またはグラフト共重合体であってもよい。
【0133】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、結晶化度の観点から、高密度ポリプロピレン(高結晶ポリプロピレン(HCPP))、中密度ポリプロピレン、低密度ポリプロピレン(低結晶ポリプロピレン(LCPP))、超低密度ポリプロピレン(超低結晶ポリプロピレン(VLCPP))などが挙げられる。ポリプロピレン系樹脂は、立体規則性の観点から、アイソタクチックポリプロピレン(IPP)、シンジオタクチックポリプロピレン(SPP)などの立体規則性を有するポリプロピレン系樹脂であってもよく、アタクチックポリプロピレン(APP)のように立体規則性を有しないポリプロピレン系樹脂であってもよい。なお、立体規則性を有するポリプロピレン系樹脂は、メタロセン触媒を用いて得られる分子量分布の狭いポリプロピレン系樹脂であってもよい。
【0134】
これらのポリプロピレン系樹脂は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのポリプロピレン系樹脂のうち、ポリプロピレン(プロピレンホモポリマー)が好ましい。
【0135】
ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば10000~10000000程度の範囲から選択してもよい。また、数平均分子量Mnは、例えば10000~1000000程度の範囲から選択してもよい。分子量分布(Mw/Mn)は、例えば1~50程度の範囲から選択してもよい。なお、本明細書および特許請求の範囲において、重量平均分子量、数平均分子量および分子量分布は、GPCにより標準ポリスチレン換算で測定できる。
【0136】
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(単位:g/10分)は、例えば0.5~55程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~50、2~40、3~30、4~20、5~15、6~12、8~10である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、ポリエチレン系樹脂のMFRは、JIS K 7210に準じて試験条件230℃で測定できる。
【0137】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂は、脂肪族ポリカーボネート系樹脂であってもよいが、ビまたはビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂などの芳香族ポリカーボネート系樹脂であるのが好ましい。
【0138】
ビまたはビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を形成するための重合成分であるビまたはビスフェノール類としては、例えば、ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)-アリールアルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類、ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類、ビス(ヒドロキシアリール)スルフィド類、ビス(ヒドロキシアリール)スルホキシド類、ビス(ヒドロキシアリール)スルホン類、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類などのビスフェノール類;ビフェノール類;およびこれらのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体などが挙げられる。
【0139】
ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1-6アルカン;2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)などのビス(ヒドロキシ-C1-6アルキル-フェニル)C1-6アルカン;2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシ-フェニルフェニル)C1-6アルカンなどが挙げられる。
【0140】
ビス(ヒドロキシアリール)-アリールアルカン類としては、例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)などのビス(ヒドロキシフェニル)-モノまたはジフェニル-C1-6アルカンなどが挙げられる。
【0141】
ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類としては、例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などのビス(ヒドロキシフェニル)C5-10シクロアルカン;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)などのビス(ヒドロキシフェニル)-モノないしトリC1-6アルキル-C5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
【0142】
ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどのビス(ヒドロキシフェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0143】
ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトンなどのビス(ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。
【0144】
ビス(ヒドロキシアリール)スルフィド類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルフィドなどが挙げられる。
【0145】
ビス(ヒドロキシアリール)スルホキシド類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどのビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどが挙げられる。
【0146】
ビス(ヒドロキシアリール)スルホン類としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)などのビス(ヒドロキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。
【0147】
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ-モノまたはジC1-6アルキル-フェニル)フルオレン;9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ-モノまたはジC6-10アリールフェニル)フルオレン;9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0148】
ビフェノール類としては、例えば、o,o’-ビフェノール、m,m’-ビフェノール、p,p’-ビフェノールなどが挙げられる。
【0149】
ビスフェノール類またはビフェノール類のアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体としては、例えば、エチレンオキシド付加体などのC2-4アルキレンオキシド付加体などが挙げられる。アルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)の付加モル数としては、ビスフェノール類またはビフェノール類1モルに対して、例えば2~20モル程度であってもよい。
【0150】
ビまたはビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂は、これらのビまたはビスフェノール類を単独でまたは2種以上組み合わせて形成されていてもよい。これらのビまたはビスフェノール類のうち、ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1-4アルカンがさらに好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0151】
なお、ポリカーボネート系樹脂は、ジカルボン酸成分を共重合したポリエステルカーボネート系樹脂であってもよい。ジカルボン酸成分としては、例えば、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、これらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。エステル形成性誘導体としては、例えば、メチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステル、酸クロリドなどの酸ハライド、酸無水物などが挙げられる。
【0152】
これらのポリカーボネート系樹脂は単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。好ましいポリカーボネート系樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂などのビス(ヒドロキシフェニル)C1-6アルカン類を重合成分とするポリカーボネート樹脂である。
【0153】
これらのポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。ポリオレフィン系樹脂およびポリカーボネート系樹脂のうち、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、なかでも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などの鎖状オレフィン系樹脂が好ましく、特にポリプロピレン系樹脂が好ましい。フルオレン誘導体が極性の高いアミド基、すなわち、基[-C(=O)-X1a]、[-C(=O)-X1b]を有していても、ポリオレフィン系樹脂などの無極性または低極性の樹脂(または無極性高分子)中に意外にも分散できるためか、導電性を有効に向上できるようである。
【0154】
[他の成分]
樹脂組成物は、樹脂、カーボンナノチューブおよび前記式(1)で表される化合物に加え、必要に応じて、さらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、慣用の添加剤、例えば、シリカ、タルク、マイカなどの充填剤または補強剤;染顔料などの着色剤;リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤などの難燃剤;難燃助剤;可塑剤;滑剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの安定剤;離型剤;導電剤;帯電防止剤;界面活性剤;分散剤;流動調整剤;レベリング剤;消泡剤;表面改質剤;低応力化剤;抗菌剤;防腐剤;硬化剤;硬化促進剤;溶剤(溶媒または分散媒)などが挙げられる。
【0155】
これらの添加剤は単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの添加剤の割合は特に制限されず、樹脂組成物全体に対して、例えば10質量%以下、好ましくは3質量%以下である。また、前記割合は、例えば0.01~5質量%程度、好ましくは0.1~1質量%であってもよい。
【0156】
なお、前記他の成分は、樹脂組成物に含まれていてもよく、樹脂組成物を調製するための導電剤(後述する一次混合工程で調製する導電剤)に含まれていてもよい。
【0157】
[樹脂組成物における好ましい割合]
前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合は、前記樹脂100質量部に対して、例えば0.01~20質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.1~10質量部、1~7質量部、1.5~5質量部であり、さらに好ましくは2~4質量部である。前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が少なすぎると、導電性を有効に向上できないおそれがあり、逆に多すぎると、物性、特に衝撃強度などの機械的特性が低下するおそれがある。
【0158】
前記カーボンナノチューブの割合は、前記樹脂100質量部に対して、例えば0.01~30質量部程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.1~20質量部、1~15質量部、3~10質量部、4~9質量部であり、さらに好ましくは5~8質量部である。カーボンナノチューブの割合が少なすぎると、導電性を有効に向上できないおそれがあり、逆に多すぎると、衝撃強度などの機械的特性が低下するおそれがある。
【0159】
前記式(1)で表されるフルオレン誘導体と前記カーボンナノチューブとの割合は、例えば、前者/後者(質量比)=1/0.1~1/10程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1/0.5~1/5、1/0.8~1/4、1/1~1/3、1/1.2~1/2.8、1/1.5~1/2.5であり、さらに好ましくは1/1.7~1/2.3である。前記割合は、樹脂組成物における割合であってもよく、後述する本発明の導電剤における割合であってもよい。前記式(1)で表されるフルオレン誘導体の割合が少なすぎると、CNTを樹脂中に分散できず凝集物が生じて易くなり、導電性を有効に向上できないおそれがあり、カーボンナノチューブの割合が少なすぎても、導電パス(または経路)を効率よく形成し難くなり、導電性を有効に向上できないおそれがある。
【0160】
上記のような割合で、フルオレン誘導体、CNTおよび樹脂をそれぞれ組み合わせると、CNTが樹脂中で凝集することなく適度に分散し易く、導電パスが効率よく形成されるためか(導電パスの形成に適切な分散状態となるためか)、導電性を有効に向上できる。すなわち、フルオレン誘導体が、樹脂中でCNTの凝集物の形成を抑制して分散させる一方で、過度に分散させることがなく、CNT同士が相互に接触または接続したネットワーク構造(導電パス)の形成を促進できるようである。
【0161】
[樹脂組成物の製造方法(導電性向上方法)および特性]
本発明の樹脂組成物は、前記樹脂と、前記カーボンナノチューブと、前記式(1)で表されるフルオレン誘導体と、必要に応じて前述の他の成分とを混合(または混練)する方法により調製できる。すなわち、本発明では、前記式(1)で表される化合物およびカーボンナノチューブを樹脂に添加(または混合)することで、樹脂の導電性を向上できる。
【0162】
混合(または混練)は、乾式または湿式混合、溶融混練などの慣用の方法であってもよい。混合(または混練)は慣用の装置を用いて行ってもよく、例えば、ロール(ミキシングロール)、ボールミル、タンブルミキサー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ニーダー、バンバリーミキサーなどの混合機(混練機または撹拌機)、造粒押出機、一軸または二軸押出機などの押出機などが挙げられる。これらの装置は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0163】
混合(混練)温度および時間は、フルオレン誘導体や樹脂の種類などに応じて適宜選択してもよく、例えば10~300℃、好ましくは20~200℃、さらに好ましくは80~120℃であり、混合(混練)時間は、例えば1~10分程度であってもよい。また、樹脂が硬化性樹脂を含む場合、硬化性樹脂が完全には硬化しない温度および時間であってもよい。
【0164】
前記方法において、全ての成分を一括して混合(または混練)して調製してもよく、このような一括して混合する方法では、より抵抗率を低減できる場合がある。また、飛散を抑制してハンドリング性(作業性または安全性)を向上できる観点から、前記カーボンナノチューブおよび前記式(1)で表されるフルオレン誘導体を混合して混合物(導電剤)を調製する一次混合工程(予備混合工程または導電剤調製工程)と;一次混合工程で得られた混合物および樹脂を混合する二次混合工程(または導電剤添加工程)とを含む方法であってもよい。
【0165】
(一次混合工程(予備混合工程または導電剤調製工程))
一次混合工程では、前記フルオレン誘導体と前記CNTとを混合(または混練)して導電剤を調製する。本発明の導電剤は、少なくとも前記フルオレン誘導体および前記CNTを含んでいればよく、前記フルオレン誘導体と前記CNTとの好ましい割合は、前記[樹脂組成物における好ましい割合]の項に記載した割合と同様である。
【0166】
なお、前記導電剤は、必要に応じて、さらに前記他の成分の項に例示した慣用の添加剤などを含んでいてもよく、導電剤がこれらの成分を含む場合、一次混合工程において、前記フルオレン誘導体および前記CNTとともに混合してもよい。本発明の導電剤における前記フルオレン誘導体および前記CNTの総量の割合は、前記導電剤全体に対して、例えば10質量%以上、好ましい範囲としては、以下段階的に、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%、すなわち、実質的に前記フルオレン誘導体および前記CNTのみで導電剤を形成するのが好ましい。
【0167】
一次混合工程における混合方法は、特に限定されず、溶媒の存在下または非存在下で慣用の混合(または混練)方法により混合できる。溶媒の非存在下で混合する場合は、前記フルオレン誘導体の融点以上の温度に加熱して溶融混練するのが好ましい。これらの方法のうち、簡便性などの点から、溶媒の存在下で混合する方法が好ましい。
【0168】
溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ-n-プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホランなどのスルホラン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
【0169】
これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらの溶媒のうち、水、アルコール類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素などが好ましく、取り扱い性などの点から、水、アルコール類などの水性溶媒、特に水が好ましい。
【0170】
フルオレン誘導体を溶解可能な溶媒としては、フルオレン誘導体の種類に応じて適宜選択できるが、メタノールなどのアルコール類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。水性溶媒としては、水、メタノールなどのC1-3アルカノールなどが挙げられる。これらのうち、トルエンなどの芳香族炭化水素類、水、メタノールなどのC1-2アルカノールが好ましく、水が特に好ましい。
【0171】
溶媒の割合は、CNT 100質量部に対して、例えば10~10000質量部程度の範囲から選択でき、例えば100~1000質量部、好ましくは200~800質量部、さらに好ましくは300~500質量部である。溶媒の割合が多すぎると、生産性が低下するおそれがある。
【0172】
混合方法としては、慣用の方法を利用でき、例えば、混合機(混練機または撹拌機)や押出機など慣用の装置を用いてCNTとフルオレン誘導体と溶媒とを混合または混練する方法;フルオレン誘導体および溶媒を含む溶液にCNTを浸漬する方法などであってもよい。これらの方法のうち、装置を用いて混合または混練する方法が好ましい。
【0173】
慣用の装置としては、例えば、前記[樹脂組成物の製造方法(導電性向上方法)]の項で例示した混合機(混練機または撹拌機)や押出機などが挙げられる。これらの装置は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの装置のうち、造粒押出機などの押出機や、ミキシングローラ、ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサーなどの混合機を用いてもよく、ヘンシェルミキサーが好ましい。
【0174】
なお、押出機を用いる場合、CNTとフルオレン誘導体と溶媒とは一括して投入して混合してもよく、CNTとフルオレン誘導体とを予め混合した後、溶媒を投入して混合してもよい。押出機におけるスクリューの周速は、例えば1~300m/分、好ましくは50~150m/分である。混合温度は、特に限定されず、常温であってもよい。
【0175】
これらの方法で得られた混合物をそのまま導電剤として用いてもよいが、乾燥処理によって溶媒を留去するのが好ましい。乾燥処理は、自然乾燥であってもよいが、生産性などの点から、加熱および/または減圧する方法が好ましい。
【0176】
加熱する方法としては、慣用の方法、例えば、静置型の熱風乾燥機、真空乾燥機、回転式のエバポレーター、コニカルドライヤーやナウタードライヤーなどの混合式の乾燥機などを用いた方法を利用できる。加熱温度は、溶媒の種類に応じて適宜選択でき、例えば40~300℃、好ましくは60~180℃、さらに好ましくは80~160℃である。
【0177】
減圧する方法としても、慣用の方法、例えば、オイルポンプ、オイルレスポンプ、アスピレータ、回転式のエバポレーターなどを用いた方法を利用できる。減圧方法における圧力としては、例えば0.00001~0.05MPa、好ましくは0.00001~0.03MPaである。
【0178】
なお、混合機を用いて塊状の導電剤が得られた場合、取り扱い性を向上させるために、粉砕などによって粒状化(または粒子化)してもよい。
【0179】
(二次混合工程(導電剤添加工程))
二次混合工程では、前記一次混合工程で得られたフルオレン誘導体およびCNTを含む混合物(導電剤)と、樹脂とを混合(または混練)して樹脂組成物を調製する。なお、樹脂組成物が前記他の成分を含む場合、二次混合工程において、導電剤とともに混合してもよい。
【0180】
混合方法は、特に限定されず、樹脂の種類や目的とする樹脂組成物の形態などに応じて適宜選択してもよく、例えば、溶媒の存在下または非存在下で慣用の混合(または混練)方法、具体的には、乾式または湿式混合、溶融混練などであってもよく、樹脂が熱可塑性樹脂を含む場合は溶融混練が好ましい。
【0181】
混合(または混練)には、慣用の装置、例えば、前記[樹脂組成物の製造方法(導電性向上方法)]の項で例示した混合機(混練機または撹拌機)や押出機などを用いてもよい。これらの装置は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。代表的な装置としては、ミキシングローラ、ニーダー、バンバリーミキサーなどの混合機、一軸または二軸押出機などの押出機などが挙げられ、一軸または二軸押出機などの押出機が好ましい。
【0182】
混練温度などの混合(または混練)条件は、樹脂の種類などに応じて適宜選択でき、慣用の方法で容易に前記導電剤が均一に分散した樹脂組成物が調製できる。
【0183】
樹脂組成物の形態は特に制限されず、ペレット状などの固体状の形態であってもよく、溶液(または分散液)などの液状の形態であってもよい。また、樹脂組成物を射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などの射出成形などの慣用の成形方法によって成形して、成形体を製造してもよい。なお、樹脂組成物が硬化性組成物である場合(樹脂が硬化性樹脂を含む場合)、前記硬化性組成物に熱エネルギーおよび/または光エネルギーなどの活性エネルギー(または活性エネルギー線)を付与して硬化物を形成し、この硬化物を成形体としてもよい。
【0184】
成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば、線状、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、ブロック状、棒状、中空状、複雑形状などの三次元的構造などであってもよい。
【0185】
(樹脂組成物の特性)
樹脂組成物は高い導電性を示すため、樹脂組成物の表面抵抗率(単位:Ω/□)は、例えば1×102~1×108、好ましくは1×105~1×107、さらに好ましくは5×105~1×106であってもよく、より好ましくは1×102~1×106、特に1×103~1×104である。また、樹脂組成物の体積抵抗率(単位:Ω・cm)は、例えば1×101~1×106、好ましくは1×104~1×105、さらに好ましくは3×104~8×104であってもよく、より好ましくは1×101~1×104、特に1×102~1×103である。
【0186】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、表面抵抗率および体積抵抗率は、JIS K 6911に準じて測定でき、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0187】
通常、高い導電性は高い衝撃強度とはトレードオフの関係となり易いものの、本発明の樹脂組成物では、意外にも衝撃強度などの機械的特性を大きく低下させることなく、導電性を有効に向上でき、両特性を両立できることが多い。そのため、樹脂組成物のシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)は、樹脂の種類などに応じて、例えば1~100程度であってもよく、特に樹脂がポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂を含む場合、例えば2~8、好ましくは3~7、さらに好ましくは4~6である。
【0188】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、シャルピー衝撃強度は、JIS K 7111に準じて測定でき、具体的には後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0189】
また、樹脂組成物のメルトボリュームレート(MVR、単位:cm3/10分)は、樹脂の種類などに応じて、例えば0.1~100程度であってもよく、樹脂がポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂を含む場合、例えば0.1~10、好ましくは0.5~5、さらに好ましくは1~3であり、樹脂が芳香族ポリカーボネート系樹脂などのポリカーボネート系樹脂を含む場合、例えば1~100、好ましくは5~90である。なお、樹脂が芳香族ポリカーボネート系樹脂などのポリカーボネート系樹脂を含む場合、フルオレン誘導体、特に前記無置換アミド化合物の添加によりCNTを含んでいてもMVRが向上し易いようである。
【0190】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、MVRは、JIS K 7210-1 B法に準じて測定でき、具体的には後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【実施例】
【0191】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価方法、用いた試薬の詳細などについて示す。
【0192】
[評価方法]
(HPLC)
HPLC(高性能または高速液体クロマトグラフ)装置として(株)島津製作所製「LCMS―2020」を用い、カラムとして(株)島津製作所製「KINTEX XB-C18」を用いて、移動相:アセトニトリル/水(体積比)=50/50から95/5まで10分間かけて変化させ、その後95/5で5分間保持の条件で測定した。
【0193】
(1H-NMR)
試料を、内部標準物質としてテトラメチルシランを含む重溶媒(CDCl3)に溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
【0194】
(融点)
BUCHI社製「Melting point M-565」を使用して、温度50℃から昇温速度0.5℃/分の条件で測定した。
【0195】
(5%質量減少温度)
熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA)(パーキンエルマー社製「TGA-4000」)を使用して、窒素雰囲気下、測定温度範囲50~400℃、昇温速度10℃/分の条件下で、試料の質量が5質量%減少した温度を測定した。
【0196】
(導電性)
実施例および比較例で得られた樹脂組成物について、JIS K 6911に準じて、抵抗率計((株)三菱ケミカルアナリティック製「ハイレスタUP」)を用いて、測定プローブ:URSプローブ、測定電圧:10Vの条件下、表面抵抗率[Ω/□]、体積抵抗率[Ω・cm]を測定した。なお、表面抵抗率および体積抵抗率は、3つの試験片の表面および裏面の合計6箇所で測定し、その平均値として求めた。
【0197】
(シャルピー衝撃強度)
実施例および比較例で得られた樹脂組成物について、デジタル衝撃試験機((株)東洋精機製作所製「DG-CB」)を用いて、JIS K 7111に準じて10回測定した平均値をシャルピー衝撃強度[kJ/m2]とした。なお、ノッチ形状:B、ハンマー:2.0J(ベース樹脂:PP)または7.5J(ベース樹脂:PC)とした。
【0198】
(メルトボリュームレート(MVR))
JIS K 7210-1 B法に準じて、保持時間:5分、温度:230℃(ベース樹脂:PP)または300℃(ベース樹脂:PC)、試験荷重:2.16kgf(ベース樹脂:PP)または1.20kgf(ベース樹脂:PC)の条件で測定した。
【0199】
[試薬など]
(原料)
N,N-ジエチルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「DEAA(登録商標)」
N,N-ジメチルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「DMAA(登録商標)」
N-イソプロピルアクリルアミド:KJケミカルズ(株)製「NIPAM(登録商標)」
N-アクリロイルモルホリン:KJケミカルズ(株)製「ACMO(登録商標)」
アクリルアミド:富士フイルム和光純薬(株)製
(その他)
DMSO:ジメチルスルホキシド、関東化学(株)製
トルエン:関東化学(株)製
TBAB:テトラブチルアンモニウムブロミド、東京化成工業(株)製
KOH:水酸化カリウム、関東化学(株)製
イソプロパノール:関東化学(株)製
(樹脂)
PP:ポリプロピレン樹脂、(株)プライムポリマー製「プライムポリプロ(登録商標
) J105G」
PC:ビスフェノールA型ポリカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロンPC S-3000」
(カーボンナノチューブ)
CNT:多層カーボンナノチューブ、クムホ社製「K-Nanos 100T」。
【0200】
[合成例1]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N,N-ジエチルアクリルアミド(30.5g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加えて撹拌して中和処理した後、トルエン(18.1g)、および飽和食塩水(36.1g×3回)を加えて抽出操作を行った。得られた抽出液を0℃まで冷却しながら一晩静置したところ、白色の結晶物が析出したため、結晶物を濾別し、イオン交換水(37.3mL)、およびイソプロパノール(10mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-1)で表される目的物(DEAA-FL、30.2g;収率61.4%)が得られた。
【0201】
得られたDEAA-FLの融点は87~89℃であり、5%質量減少温度は294℃であった。また、得られたDEAA-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図1に示す。
【0202】
【0203】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.69-7.72(2H、m)、7.27-7.43(6H、m)、3.18(4H、q)、2.79(4H、q)、2.42-2.48(4H、m)、1.47-1.53(4H、m)、0.96(6H、t)、0.76(6H、t)。
【0204】
[合成例2]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N,N-ジメチルアクリルアミド(23.8g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、撹拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-2)で表される目的物(DMAA-FL、30.0g;収率82.4%)が得られた。
【0205】
得られたDMAA-FLの融点は158~159℃であり、5%質量減少温度は318℃であった。また、得られたDMAA-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図2に示す。
【0206】
【0207】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.70-7.71(2H、m)、7.27-7.41(6H、m)、2.74(6H、s)、2.51(6H、s)、2.42-2.47(4H、m)、1.48-1.54(4H、m)。
【0208】
[合成例3]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N-イソプロピルアクリルアミド(27.2g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、撹拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-3)で表される目的物(NIPAM-FL、32.8g;収率71.4%)が得られた。
【0209】
得られたNIPAM-FLの融点は235~237℃であり、5%質量減少温度は257℃であった。また、得られたNIPAM-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図3に示す。
【0210】
【0211】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)=7.68-7.71(2H、m)、7.32-7.42(6H、m)、4.73(2H、m)3.84(2H、m)、2.42(4H、m)、1.33(4H、m)、0.97(12H、d)。
【0212】
[合成例4]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、アクリルアミド(17.0g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、撹拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-4)で表される目的物(AAD-FL、31.8g;収率88.4%)が得られた。
【0213】
得られたAAD-FLの融点は254~259℃であり、5%質量減少温度は320℃であった。また、得られたAAD-FLの
1H-NMRの結果を以下および
図4に示す。
【0214】
【0215】
1H-NMR(DMSO-d6、300MHz):δ(ppm)=7.82-7.84(2H、m)、7.47-7.49(2H、m)、7.35-7.40(4H、m)、6.97(2H、s)、6.52(2H、s)、2.24(4H、m)、1.26(4H、m)。
【0216】
[合成例5]
磁気撹拌子および三方コックを装着した反応器に9H-フルオレン(19.4g;0.117mol)、DMSO(30mL)、トルエン(30mL)、TBAB(0.6g;0.0019mol)、N-アクリロイルモルホリン(33.8g;0.24mol)を仕込んで窒素置換した後、65℃まで昇温し、完全に溶解したことを確認した。得られた溶液に、48質量%KOH水溶液(0.56g;KOH換算で0.0048mol(4.8mmol))を投入し、90℃まで昇温し、2時間加熱撹拌した。HPLCにて、9H-フルオレンの消失を確認した時点で反応終了とした。得られた反応液を50℃まで冷却し、10質量%HCl水溶液(0.9g;HCl換算で0.0025mol(2.5mmol))およびイオン交換水(17mL)を加え、撹拌したところ、徐々に白色の結晶が析出し、白色の懸濁液となった。懸濁液を濾別し、熱水(77.7mL)およびイソプロパノール(15mL)にて洗浄を行ったところ、下記式(1-5)で表される目的物(ACMO-FL)が得られた。
【0217】
【0218】
[比較例1]
CNT 100質量部およびイオン交換水400質量部をヘンシェル型混合機(ユニバース(株)製)に投入し、室温の条件で5分間混合し、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン社製「ディスクカッター」)を用いて室温の条件で造粒した。造粒物を180℃で24時間減圧乾燥して添加剤(導電剤)を調製した(一次混合工程)。
【0219】
得られた導電剤6質量部と、PP 94質量部とを混練して樹脂組成物を調製した(二次混合工程)。
【0220】
[実施例1]
合成例1で調製したDEAA-FL 50質量部を混合器でイオン交換水400質量部に混合(または分散)して混合液(または分散液)を調製した。得られた混合液と、CNT 100質量部とをヘンシェル型混合機に投入する以外は、比較例1と同様に造粒および乾燥して導電剤を調製した(一次混合工程)。
【0221】
得られた導電剤9質量部と、PP 91質量部とを混練して樹脂組成物を調製した(二次混合工程)。
【0222】
[実施例2]
合成例3で調製したNIPAM-FL 50質量部を混合器でイオン交換水400質量部に混合(または分散)して混合液(または分散液)を調製した。得られた混合液と、CNT 100質量部とをヘンシェル型混合機に投入する以外は、比較例1と同様に造粒および乾燥して導電剤を調製した(一次混合工程)。
【0223】
得られた導電剤9質量部と、PP 91質量部とを混練して樹脂組成物を調製した(二次混合工程)。
【0224】
[実施例3]
合成例4で調製したAAD-FL 50質量部を混合器でイオン交換水400質量部に混合(または分散)した混合液(または分散液)を調製した。得られた混合液と、CNT 100質量部とをヘンシェル型混合機に投入する以外は、比較例1と同様に造粒および乾燥して導電剤を調製した(一次混合工程)。
【0225】
得られた導電剤9質量部と、PP 91質量部とを混練して樹脂組成物を調製した(二次混合工程)。
【0226】
[比較例2]
PP 94質量部に代えて、PC 94質量部を用いた以外は、比較例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0227】
[実施例4]
PP 91質量部に代えて、PC 91質量部を用いた以外は、実施例3と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0228】
表1~2に、比較例1~2および実施例1~4で得られた樹脂組成物の導電性、シャルピー衝撃強度およびMVRの評価結果を示す。なお、表中、表面抵抗率および体積抵抗率は測定電圧10Vの条件で測定した値を示す。
【0229】
また、導電性およびシャルピー衝撃強度の測定には、得られた樹脂組成物を射出成形機(日精樹脂工業(株)製「電気式高性能射出成型機」)を用いて、PPをベース樹脂とする樹脂組成物では、シリンダー温度230℃、金型温度70℃、充填速度20mm/秒の条件で;PCをベース樹脂とする樹脂組成物では、シリンダー温度290℃、金型温度90℃、充填速度20mm/秒の条件で射出成形して作製した試験片を用いた。
【0230】
【0231】
【0232】
表1~2の結果から明らかなように、いずれの樹脂組成物もCNTを全体に対して6質量%の割合で含む例であるが、実施例では比較例に比べて抵抗率(表面抵抗率および体積抵抗率)が大きく低減し、導電性が向上した。特に、DEAA-FLを添加した実施例1では、表面抵抗率および体積抵抗率の桁(オーダー)が、比較例1の109に対して104~105程度まで顕著に低減できた。また、実施例1~3では、比較例1に対して衝撃強度やMVRを大きく低下させることなく導電性を向上でき、特に実施例1では衝撃強度が全く低下しなかった。
【0233】
[比較例3]
一次混合工程により予め造粒することなく、CNT 6質量部と、PP 94質量部とを一括して混練して樹脂組成物を調製した。
【0234】
[実施例5]
一次混合工程により予め造粒することなく、CNT 6質量部と、DEAA-FL 3質量部と、PP 91質量部とを一括して混練して樹脂組成物を調製した。
【0235】
表3に、比較例3および実施例5で得られた樹脂組成物の導電性、シャルピー衝撃強度およびMVRの評価結果を示す。なお、表中、表面抵抗率および体積抵抗率は測定電圧10Vの条件で測定した値を示し、実施例5の表面抵抗率は、(株)三菱ケミカルアナリティック製「ハイレスタUP」に代えて、「ロレスタGP」を用いて測定した。
【0236】
また、導電性およびシャルピー衝撃強度の測定には、前記比較例1および実施例1~3のPPをベース樹脂とする樹脂組成物と同様の条件で射出成形して作製した試験片を用いた。
【0237】
【0238】
表3の結果から明らかなように、実施例5では比較例3に比べて抵抗率(表面抵抗率および体積抵抗率)が大きく低減し、導電性が向上した。なお、実施例5および比較例3では、一次混合工程により造粒した実施例1および比較例1に比べて抵抗率が低いが、ペレット状のCNTを使用していることから、樹脂組成物中でCNTが部分的に凝集体として存在して導電パスが形成されている可能性が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0239】
本発明の樹脂組成物は、導電性に優れるため、例えば、帯電防止用途などの様々な用途に利用してもよい。例えば、キャリアテープなどの半導体や電気・電子部品の搬送および包装材料または搬送用成形体、オフィスオートメーション(OA)機器、電磁波シールド材などの電気・電子機器の部材、静電塗装用の自動車部品、導電性塗料、導電性接着剤などに有効に利用できる。