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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】産業用ロボット及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/22 20060101AFI20241206BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
B25J9/22 Z
H01L21/68 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020165724
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057451
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】上島 優子
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-340297(JP,A)
【文献】特開2008-155361(JP,A)
【文献】特開2015-217509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
H01L 21/67 ~ 21/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作速度についての規定値が定められて板状のワークを当該ワークの水平状態を保ったまま搬送する産業用ロボットであって、
基台と、
ワークを保持可能なハンドと、
前記ハンドが接続され、水平面内を回転可能なアームと、
前記アームを支持するアーム支持部と、
前記基台に対して前記アーム支持部を昇降させる昇降機構と、
動作指令に応じて各軸を動作させるときに前記各軸が前記規定値で動くようにする制御を実行し、前記ハンドの位置を変化させる制御を行なう制御部と、
を備え、
前記ハンドは、水平面内で回転可能に前記アームに取り付けられており、
前記制御部は、前記ハンドが前記ワークを当該ハンドの上に保持する形式のものである場合に前記アーム支持部を下降させることを含む前記動作指令を受け取ったときに、及び、前記ハンドが前記ワークを当該ハンドの下に保持する形式のものである場合に前記アーム支持部を上昇させることを含む前記動作指令を受け取ったときに、前記規定値よりも小さな動作速度に基づいて前記ハンドの位置を変化させる減速処理を実行する、産業用ロボット。
【請求項2】
前記制御部は、前記ハンドが前記ワークを保持しているときにのみ前記減速処理を実行する、請求項1に記載の産業用ロボット。
【請求項3】
前記制御部は、前記動作指令による前記アーム支持部の昇降量が所定の値を超えるときにのみ前記減速処理を実行する、請求項1または2に記載の産業用ロボット。
【請求項4】
前記減速処理は、前記産業用ロボットにおける前記アーム支持部の昇降に関係する軸について当該軸に定められている規定値よりも小さい動作速度に基づいて当該軸を駆動制御する処理である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項5】
前記基台をレールに沿って水平方向に移動させる機構を備える、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項6】
垂直な回転軸の周りで前記基台に対して前記昇降機構を回転させる機構を備える、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項7】
前記アーム支持部及び前記アームは、前記アーム支持部に対する前記ハンドの向きを所定方向に固定したまま前記所定方向に沿って前記ハンドを前進及び後退させることができる多関節機構を構成する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の産業用ロボット。
【請求項8】
基台と、板状のワークを保持可能なハンドと、前記ハンドが接続され、水平面内を回転可能なアームと、前記アームを支持するアーム支持部と、前記基台に対して前記アーム支持部を昇降させる昇降機構と、を有し、水平面内で回転可能に前記ハンドが前記アームに取り付けられ、動作速度についての規定値が定められていて動作指令に応じて各軸を動作させるときに前記規定値で動くように前記各軸を制御して前記ワークを当該ワークの水平状態を保ったまま搬送する産業用ロボットの制御方法であって、
前記ハンドが前記ワークを当該ハンドの上に保持する形式のものである場合に前記アーム支持部を下降させることを含む前記動作指令を受け取ったときに、及び、前記ハンドが前記ワークを当該ハンドの下に保持する形式のものである場合に前記アーム支持部を上昇させることを含む前記動作指令を受け取ったときに、前記規定値よりも小さな動作速度に基づいて前記ハンドの位置を変化させる減速処理を実行する、産業用ロボットの制御方法。
【請求項9】
前記ハンドが前記ワークを保持しているときにのみ前記減速処理を実行する、請求項7に記載の産業用ロボットの制御方法。
【請求項10】
前記動作指令による前記アーム支持部の昇降量が所定の値を超えるときにのみ前記減速処理を実行する、請求項7または8に記載の産業用ロボットの制御方法。
【請求項11】
前記減速処理は、前記産業用ロボットにおける前記アーム支持部の昇降に関係する軸について当該軸に定められている規定値よりも小さい動作速度に基づいて当該軸を駆動制御する処理である、請求項8乃至10のいずれか1項に記載の産業用ロボットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示パネルや有機EL(エレクトロルミネッセンス)パネルに用いるガラス基板などの板状またはシート状のワークを搬送する産業用ロボットと、その制御方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶表示装置に用いる液晶表示パネルの製造ラインなどでは、異なる処理装置などの間でロボットを使用してガラス基板などの板状のワークを搬送する。その場合、ワークの搬送は、搬入元となる処理装置のカセットやロードロック室に対して搬送用のロボットのハンドを差し込んでそのハンドの上にワークを保持し、カセットなどからワークを載せたハンドを引き出し、ハンドにワークを載せたままロボットのアームまたはロボット全体を移動させ、次いで、搬入先となる処理装置のカセットにハンドを差し入れてそのカセットにワークを格納し、その後、ハンドだけをカセットから引き出すことによって行われる。場合によってはハンドに設けられた吸着装置を用い、ハンドの下側にワークを吸着させてそのワークを搬送させることもある。ハンドは、例えば、フォーク状の形状とされる。搬送用のロボットは、例えば、2本のアームを接続して構成されて先端にハンドを備えた水平多関節機構と、水平多関節機構ごとハンドを上下方向に昇降させる昇降機構と、鉛直軸を回転軸として水平多関節機構の全体を水平面内で旋回させる回転機構とを備える。水平多関節機構は、その2本のアームがなす角が小さくなったり大きくなったりすることによって、同一の直線上で、ハンドを前進させあるいは後退させるように動かすことができる。水平面内でハンドが動く方向の向きを変えるためには、回転機構によって水平多関節機構ごと旋回させる必要がある。さらにロボット全体を水平面内で直線移動させる搬送機構が設けられる。
【0003】
ワークを搬送するときは、ロボットが急速に動いているときであっても、ハンドに対してワークが正確に位置決めされるとともに、ワークがハンドに確実に保持される必要がある。大型であって撓み量が大きなワークのハンド上での位置ずれを抑制できる技術として特許文献1は、ワークの下面に接触する接触面を有するゴム製または樹脂製の複数のパッドをハンドに設け、パッドにおける接触面の形状を球面状とすることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-217509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワークが大型化しかつ厚さが薄くなるにつれ、ロボットによるワークの搬送中にワークが受ける風圧の影響を無視できなくなってきている。ハンド上にワークを保持して搬送するロボットの場合、風圧を受けたワークがハンド上でめくられるように動き、その結果、ハンド上でのワークの位置が変化したり、はなはだしい場合にはハンドからワークが落下することがある。ハンド上でワークの位置を固定するために吸着パッドが設けられることもあるが、風圧によって発生する力は、吸着パッドとワークの間をこじ開けるような力であるので、この力によって吸着パッドからワークが離脱することもある。風圧の影響を低減するためには、ハンドの移動速度、すなわちロボットの移動速度を低下させればよいが、そうすると、ワークの搬送に要する時間が長くなり、タクトタイムが長くなる。
【0006】
本発明の目的は、大型化しかつ厚さが薄いワークを搬送するときであっても、タクトタイムが過大に長くなることを防ぎつつ、風圧の影響を抑えてハンドに確実にワークを保持できる産業用ロボットとその制御方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の産業用ロボットは、動作速度についての規定値が定められて板状のワークをそのワークの水平状態を保ったまま搬送する産業用ロボットであって、基台と、ワークを保持可能なハンドと、ハンドが接続され、水平面内を回転可能なアームと、アームを支持するアーム支持部と、基台に対してアーム支持部を昇降させる昇降機構と、動作指令に応じて各軸を動作させるときに各軸が規定値で動くようにする制御を実行し、ハンドの位置を変化させる制御を行なう制御部と、を備え、ハンドは、水平面内で回転可能にアームに取り付けられており、制御部は、ハンドがワークをそのハンドの上に保持する形式のものである場合にアーム支持部を下降させることを含む動作指令を受け取ったときに、及び、ハンドがワークをそのハンドの下に保持する形式のものである場合にアーム支持部を上昇させることを含む動作指令を受け取ったときに、規定値よりも小さな動作速度に基づいてハンドの位置を変化させる減速処理を実行する。
【0008】
ガラス基板などの板状のワークを搬送する場合、ワークはハンド上に水平に載置されるか、吸着などの手段によってワークの下側に水平に保持される。この状態でハンドごとワークを水平に動かしても、ワークはほとんど風圧を受けない。垂直方向にハンドを動かしたときにはワークは風圧を受けるが、風圧によってワークに対してハンドに押し付けられるような力がかかるときも、ハンドでのワークの位置ずれやハンドからのワークの離脱は起こらない。これに対し、ハンドから離れる方向にワークが風圧を受けるときには、すなわち、ハンドがワークをそのハンドの上に保持する形式のものである場合にアーム支持部が下降するときや、ハンドがワークをそのハンドの下に保持する形式のものである場合にアーム支持部が上昇するときには、ワークの位置ずれや離脱が起こるおそれがある。一方、産業用ロボットでは、軸ごとにあるいは全体としての動作速度の規定値が定められており、動作指令に基づいて各軸を動作させるときは、加減速の期間を除けばその規定値で動くように各軸が駆動される。そこで本発明の産業用ロボットは、ハンドから離れる方向にワークが風圧を受けるような動作指令を受け取ったときは、規定値よりも小さな動作速度でハンドの位置を変化させる減速処理を実行する。その結果、ハンドの移動中にワークが受ける風圧が小さくなり、ワークの位置ずれや離脱を防止することができる。また、ワークの位置ずれや離脱が起こるおそれがないときには減速処理を行わないので、全体としてタクトタイムが長くなることを最小限に抑えることができる。
【0009】
本発明の産業用ロボットでは、制御部は、ハンドがワークを保持しているときにのみ減速処理を実行することが好ましい。ハンドがワークを保持していないときにはワークの位置ずれや離脱はそもそも起こらないので、このようなときには減速処理を行わないようにすることにより、タクトタイムの短縮が可能になる。また制御部は、動作指令によるアーム支持部の昇降量が所定の値を超えるときにのみ減速処理を実行するようにすることが好ましい。アーム支持部の昇降量が小さいときは、加減速時間を考慮するとハンドの昇降速度の最大値が大きくならず、そのようなときにはワークの位置ずれや離脱のおそれがない。そこで、動作指令によるアーム支持部の昇降量が小さいときには減速処理を行わないようにすることにより、タクトタイムの短縮が可能になる。さらに本発明の産業用ロボットでは、減速処理は、産業用ロボットにおけるアーム支持部の昇降に関係する軸についてその軸に定められている規定値よりも小さい動作速度に基づいてその軸を駆動制御する処理であることが好ましい。アーム支持部の昇降に関係する軸についてのみその軸の速度が遅くなるように制御することにより、例えば動作指令が旋回しながらアーム支持部を降下させるものであるときに、旋回速度は低下しないので、旋回量が大きい場合などにタクトタイムが延びることを防ぐことができる。
【0010】
本発明の産業用ロボットは、基台をレールに沿って水平方向に移動させる機構を備えるものであってもよいし、垂直な回転軸の周りで基台に対して昇降機構を回転させる機構を備えるものであってもよい。さらには本発明の産業用ロボットは、アーム支持部及びアームが、アーム支持部に対するハンドの向きを所定方向に固定したままその所定方向に沿ってハンドを前進及び後退させることができる多関節機構を構成するものであってもよい。産業用ロボットの構成に応じてハンドに保持されたワークには、ハンドの移動に伴って揚力などの種々の空気力学的な力が作用するが、本発明によれば、種々の産業用ロボットにおいて、ハンドでのワークの位置ずれやハンドからのワークの離脱を防止することができる。
【0011】
本発明の産業用ロボットの制御方法は、基台と、板状のワークを保持可能なハンドと、ハンドが接続され、水平面内を回転可能なアームと、アームを支持するアーム支持部と、基台に対してアーム支持部を昇降させる昇降機構と、を有し、水平面内で回転可能に前記ハンドがアームに取り付けられ、動作速度についての規定値が定められていて動作指令に応じて各軸を動作させるときに規定値で動くように各軸を制御してワークをそのワークの水平状態を保ったまま搬送する産業用ロボットの制御方法であって、ハンドがワークをそのハンドの上に保持する形式のものである場合にアーム支持部を下降させることを含む動作指令を受け取ったときに、及び、ハンドがワークをそのハンドの下に保持する形式のものである場合にアーム支持部を上昇させることを含む動作指令を受け取ったときに、規定値よりも小さな動作速度に基づいてハンドの位置を変化させる減速処理を実行する。
【0012】
本発明の産業用ロボットの制御方法では、ハンドから離れる方向にワークが風圧を受けるような動作指令を受け取ったときは、規定値よりも小さな動作速度でハンドの位置を変化させる減速処理を実行する。その結果、ハンドの移動中にワークが受ける風圧が小さくなり、ワークの位置ずれや離脱を防止することができる。また、ワークの位置ずれや離脱が起こるおそれがないときには減速処理を行わないので、全体としてタクトタイムが長くなることを最小限に抑えることができる。
【0013】
本発明の制御方法では、ハンドがワークを保持しているときにのみ減速処理を実行することが好ましく、また、動作指令によるアーム支持部の昇降量が所定の値を超えるときにのみ減速処理を実行することが好ましい。ハンドがワークを保持していないときや、アーム支持部の昇降量が小さくて加減速時間を考慮すればワークの昇降速度が大きくならないときは、ワークの位置ずれや離脱が起こらないので、このようなときには減速処理を行わないようにすることにより、タクトタイムの短縮が可能になる。この制御方法では、産業用ロボットにおけるアーム支持部の昇降に関係する軸についてその軸に定められている規定値よりも小さい動作速度に基づいてその軸を駆動制御する処理であることが好ましい。アーム支持部の昇降に関係する軸についてのみその軸の速度が遅くなるように制御することにより、タクトタイムが長くなることをより抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大型化しかつ厚さが薄いワークを搬送するときであっても、タクトタイムが過大に長くなることを防ぎつつ、風圧の影響を抑えてハンドに確実にワークを保持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の一形態の産業用ロボットの構成を示す図である。
図2】(a),(b)はそれぞれロボット部の側面図及び平面図である。
図3】ロボット部の動作速度の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の一形態の産業用ロボットを示す図である。この産業用ロボットは、ガラス基板などの略長方形の板状のワークを搬送することを目的とするものであって、水平多関節ロボットとしての実際の動作を行うロボット部10と、ロボット部10に対する動作指令が外部から入力し、この動作指令に基づいてロボット部10を駆動し制御する制御装置(ロボットコントローラ)40とを備えており、ロボット部10と制御装置40とはケーブルによって電気的に接続されている。ロボット部10は、ワーク50(図1には不図示)をそれぞれ保持する2つのハンド13A,13Bを備えるいわゆるダブル・ハンド・ロボットとして構成されている。図1は、ロボット部10において水平多関節機構が上昇した状態を示している。制御装置40は、動作指令が入力する制御部41と、ロボット部10に設けられている各モータ(不図示)を駆動するサーボドライバなどを含む駆動回路42とを備えている。本実施形態の産業用ロボットはワーク50の搬送に用いられるものであるので、動作指令は、基本的には、ハンド13A,13Bをどの位置に移動させるか、という指令である。したがって制御部41は、動作指令に基づいてロボット部10の軸ごとにその軸についての速度を含む指令を生成し、駆動回路42は、軸ごとの指令によってロボット部10の各軸のモータを実際に駆動する。
【0017】
図2は、水平多関節機構が下降した状態でのロボット部10の詳細を示す図であって、(a),(b)は、それぞれ、ロボット部10の側面図及び平面図である。ロボット部10は、床面に直線で設けられた相互に平行な1対のレール21上を移動可能な基台22と、基台22の上に設けられ、基台22に内蔵されたモータ(不図示)によって、回転軸31の周りで水平面内で回転する回転台23と、回転台23に対して直立するように設けられた昇降機構24を備えている。レール21にはそれを覆うカバー25が取り付けられている。昇降機構24は、回転台23に取り付けられている固定部24Aと、不図示のモータによって固定部24Aに対して昇降する移動部24Bとを備えている。図2(a)は昇降機構24の移動部24Bがその昇降範囲での最も下に位置している状態での本実施形態のロボットを示すのに対し、図1は、移動部24Bが上昇した状態でのロボットを示している。移動部24Bには水平多関節機構を保持するアーム支持部26が水平方向に延びるように設けられており、アーム支持部26の先端には2組の水平多関節機構が上下方向に配列して取り付けられている。上側の水平多関節機構は、アーム支持部26に取り付けられて共通軸32の周りで水平面内を回転可能な第1アーム11Aと、第1アーム11Aの先端に取り付けられて軸33Aの周りで水平面内を回転可能な第2アーム12Aを備えており、第2アーム12Aの先端にハンド13Aが取り付けられている。同様に下側の水平多関節機構は、アーム支持部26に取り付けられて共通軸32の周りで水平面内を回転可能な第1アーム11Bと、第1アーム11Bの先端に取り付けられて軸33Bの周りで水平面内を回転可能な第2アーム12Bを備えており、第2アーム12Bの先端にハンド13Bが取り付けられている。
【0018】
ハンド13A,13Bは、下から保持することによって板状のワーク50を水平状態に保ったまま搬送できるように、複数の棒状部材を平行に配置したフォーク状の形状となっている。すなわちハンド13A,13Bは、ワーク50をそのハンド13A,13Bの上に保持する形式のものである。ハンド13A,13Bは、ロードロック室などに収納されているワーク50を取り出してハンド13A,13B上に保持したり、保持しているワーク50をロードロック室内などに収納するときにワーク50に対して前進または後退するが、このハンド13A,13Bの前進したり後退する方向は、棒状部材の延びる方向と平行な方向とされる。ハンド13A,13Bの左右方向すなわち前後方向に直交する方向での幅は、搬送対象のワーク50の左右方向の幅よりも短くなっている。
【0019】
このロボットにおいて水平多関節機構は、第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとに組み込まれたリンク機構により、アーム支持部26が延びる方向とは直交する方向で直線運動でハンド13A,13Bが前進及び後退運動を行うように構成されている。すなわち両方のハンド13A,13Bは同一方向に前進及び後退を行う。中心軸32に対してハンド13A,13Bの先端が遠ざかる動きが前進運動であり、前進運動とは反対方向の動きが後退運動である。第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとは全体して屈曲運動を行い、それにも関わらず水平面内でのハンド13A,13Bの向きを一定とするために、ハンド13A,13Bは、それぞれ、第2アーム12A,12Bの先端の位置で手首軸34A,34Bの周りで水平面内を回転可能に取り付けられている。上側の水平多関節機構では、アーム支持部26に設けられたモータ(不図示)が駆動されることによって第1アーム11A及び第2アーム12Aが動き、ハンド13Aはその向きを保ったまま、アーム支持部26の延びる方向とは直交する方向に移動する。同様に下側の水平多関節機構では、アーム支持部26に設けられたモータ(不図示)が駆動されることによって、第1アーム11B及び第2アーム12Bが動き、ハンド13Bはその向きを保ったまま、アーム支持部26の延びる方向とは直交する方向に移動する。このロボットでは、ハンド13Aとハンド13Bとを独立して前進及び後退させることができる。
【0020】
結局、本実施形態の産業用ロボットのロボット部10での動きは、レール21に沿った水平方向の移動(これをX軸あるいは走行軸の動きとする)と、鉛直軸である回転軸31の周りでの基台に対する回転(これをθ軸あるいは旋回軸の動きとする)と、ハンド13A,13Bの水平方向での前進及び後退運動(これをR軸の動きとする)と、昇降機構24によるアーム支持部26の鉛直方向での昇降(これをZ軸の動きとする)とに分解することができる。ロボット部10は、動作指令に応じた制御装置40からの駆動制御により、これらの各軸のうちの1つの軸だけを動かす動作や、2以上の軸を同時に動かす動作とを実行する。これらの軸の動きには、軸ごとにあるいは全体としての動作速度の規定値が定められている。動作速度の規定値は、対応する軸を動かすときの例えば最高速度に対応するものでであり、制御装置40の制御部41が動作指令に基づいて各軸を動作させるときは、一般に、加減速の期間を除けばその規定値で動くように各軸を制御する。なお、制御装置40は、ロボット部10内の各モータ(不図示)のサーボ制御を行なっており、各軸における動作速度の規定値は、その軸での動きの方向に依存しない。具体的にはR軸について、ハンド13A,13Bの前進運動での規定値と後退運動での規定値は同じであり、Z軸について、アーム支持部26を上昇させるときの規定値と下降させるときの規定値とは同一である。
【0021】
本実施形態の産業用ロボットを用いたガラス基板などのワーク50の搬送について説明する。本実施形態の産業用ロボットによりワーク50を処理装置間で搬送する場合、各処理装置のカセット(あるいはロードロック室)は、水平方向にはレール21からほぼ等距離の位置に配置される。カセットの垂直方向の位置(高さ)は、昇降機構24による昇降で対応できる範囲内であれば任意である。1対のレール21からなる軌道の両側にカセットが配置されていてもよい。そして、ハンド13A上にワーク50を載置することにより搬出側の第1のカセットから搬入側の第2のカセットにワーク50を搬送するときは、ハンド13A,13Bがいずれも後退して第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとが折り畳まれた状態で、第1のカセットに向き合う位置にまでレール21に沿ってロボット部10を移動させ、ハンド13Aの高さが第1のカセットに対応する高さとなるように、昇降機構24によってアーム支持部26を昇降させる。そして、ハンド13Aを前進させて第1のカセット内にハンド13Aを進入させ、わずかにハンド13Aを上昇させることによってハンド13A上にワーク50を載置する。その後、ハンド13Aを後退させてワーク50ごとハンド13Aを第1のカセットから引き出す。次に、ワーク50を搭載した状態で第2のカセットに向き合う位置にまでレール21に沿ってロボット部10を移動させ、ハンド13Aの高さが第2のカセットに対応する高さとなるように、昇降機構24によってアーム支持部26を昇降させる。ロボット部10をレール21に移動させているときに、同時にアーム支持部26を昇降させることも可能であり、ロボット部10に対して教示を行うときも水平移動と昇降とを同時に行わせるようにするのが一般的であり、また、その方が実際にワーク50を搬送するときのタクトタイムが短縮する。そして、ワーク50を載せたままハンド13Aを前進させて第2のカセット内にハンド13Aを進入させ、わずかにハンド13Aを下降させることによって第2のカセット内にワーク50を載置し、ハンド13Aを後退させて第2のカセットからハンド13Aを引き出す。以上の動作によって。第1のカセットから第2のカセットへワーク50が搬送されたことになる。1対のレール21からなる軌道を挟む一方の側に第1のカセットが配置し、他方の側に第2のカセットが配置しているときは、上記の動作に加え、回転軸31の周りでの回転の動作が実行される。
【0022】
ロボット部10によるワーク50の搬送について説明したが、搬送中に風圧によってハンド13A,13Bにおけるワーク50の位置がずれたり、ハンド13A,13Bからワーク50が脱落するおそれがある。そこで本実施形態では、ワーク50の位置ずれや落下を防ぐための制御を行なう。本実施形態の産業用ロボットでは、ワーク50はハンド13A,13Bの上に載置される。ハンド13A,13Bが水平に動いているのであれば、ワーク50にはほどんと風圧は加わらず、ワーク50の位置ずれや脱落は起こらない。ハンド13A,13Bが上昇しているときは、ハンド13A,13Bにワーク50を押し付ける方向で風圧が作用するので、ワーク50の位置ずれや脱落は起こらない。これに対しハンド13A,13Bが下降しているときは、ワーク50にはハンド13A,13B上で浮き上がり、めくられるような力が作用し、ワーク50の位置ずれや脱落が起こりやすくなる。水平運動あるいは旋回運動を伴ってワーク50が下降するときは、空気力学的な揚力がワーク50に加わるので、このときもワーク50の位置ずれや脱落が起こりやすい。
【0023】
そこで本実施形態では、動作指令に基づいてロボット部10を動作させるときに、その動作指令がアーム支持部26を下降させることを含む動作指令であるときに、動作速度の規定値よりも小さな動作速度(低減速度)を使用してその動作指令に基づくロボット部10の運動を制御する。アーム支持部26を下降させることを含む動作指令とは、アーム支持部23を下降させるだけすなわちZ軸だけを動かす動作指令だけでなく、Z軸を含む複数の軸を同時に動かす動作指令、例えばロボット部10を水平方向に動かしつつ(X軸を動かしつつ)同時にアーム支持部23を下降させるような動作指令も含むことを意味する。動作速度の規定値よりも小さな低減速度を使用してロボット部10の運動を制御することを減速処理と呼ぶ。減速処理では、例えば規定値の70%となる速度を低減速度とし、加減速時間を除いた期間においてロボットの少なくともZ軸が低減速度で動作するような制御が行われる。規定値からどの程度低減した値を低減速度とするかは、ロボット部10の構成(特に吸着用の部材の使用の有無やハンドにおけるワークとの接触部の材質)やワーク50のサイズなどによって適宜に定められる。軸ごとの規定値と、規定値に対する低減速度の値の比は、制御部41に予め記憶されている。減速処理において全ての軸に対して低減速度を適用してもよいが、アーム支持部23の昇降に関係するZ軸だけに低減速度を適用した方が、一般にタクトタイムが短くなる。上述したように減速処理を行わないとすればZ軸についての上昇と下降における動作速度の規定値は一般に等しいから、減速処理を行うことにより、上昇時の最高速度よりも下降時の最高速度が低くなる。
【0024】
図3は、本実施形態の産業用ロボットのロボット部10の制御方法を示すフローチャートであり、制御部41が減速処理を行うとき動作を示している。制御装置40に対してロボット部10に対する動作指令が入力したら、まずステップ101において制御部41は、その動作指令を解析し、どの軸をどれだけ動かすことを意図した動作指令であるかを調べる。ステップ101における動作指令の解析は、減速処理を行うか否かに関係なく、制御装置40によってロボット部10の各軸を駆動するために必要な処理である。次に制御部41は、ステップ102において、ハンド13A,13B上にワーク50が載せられている否かを判定する。ハンド13A,13B上にワーク50が載せられているか否かの判別は、ハンド13A,13B上に設けた不図示の接触センサの出力に基づいてもよいし、入力する一連の動作指令を解析した結果に基づいてもよい。ここでハンド13A,13B上にワーク50が載せられていないときは、ワーク50の位置ずれや脱落が起こり得ないときであり、したがって減速処理を行う必要がないときであるから。処理はステップ106に移行する。なお、ステップ102による判断を行わずに、ワーク50の有無によらずにアーム支持部26の下降時に減速処理を行うこととする構成も可能である。
【0025】
ワーク50がハンド13A,13Bに載せられているとステップ102において判定したときは、制御部41は、ステップ103において、その動作指令がアーム支持部26の下降動作を含む動作指令であるかを判定する。アーム支持部26の下降動作を含まない動作指令であるときは、減速処理を行う必要がないときであるから、処理はステップ106に移行する。アーム支持部26の下降動作を含むとステップ103において判定したときは、次に、ステップ104において、その下降量が所定値以上であるか否かを判定する。カセット内でワーク50を積み下ろすときのようにアーム支持部26の下降量がわずかな場合には、加減速時間も考慮すればハンド13A,13Bの下降速度の最大値も小さくなり、そのようなときにはワーク50の位置ずれや脱落のおそれもないので、減速処理を行う必要はない。また、減速処理を行って低減速度が設定されたときは、加速度及び減速度に影響が及ぶことがある。そこで、下降量が所定値以上ではないときには、減速処理を行わないこととして、次に、ステップ106の処理を実行する。一方、アーム支持部26の下降量が所定以上の場合には、減速処理の実行のために、ステップ105の処理を実行する。なお、ステップ104による判断を行わずに、下降量によらずにアーム支持部26の下降時に減速処理を行うこととする構成も可能である。
【0026】
ステップ105では、制御部41は、減速処理として、ロボットの動作速度の規定値の例えば70%を低減速度とし、少なくともZ軸に対してこの低減速度を適用しながら動作指令に基づいて各軸の駆動制御を行なう。動作指令に基づく駆動制御が終われば、次の動作指令に基づく制御を実行するために、処理はステップ101に戻る。一方、ステップ106では、制御部41は、ロボットの動作速度の規定値をそのまま適用しながら動作指令に基づいて各軸の駆動制御を行ない、動作指令に基づく駆動制御が終われば、次の動作指令に基づく制御を実行するために、処理はステップ101に戻る。
【0027】
以上説明した本実施形態の産業用ロボットでは、アーム支持部26を下降させることを含む動作指令を受け取ったときに、規定値よりも小さな動作速度(低減速度)に基づいてハンドの位置を変化させる減速処理を実行することにより、ワーク50が受ける風圧が弱くなり、ワーク50の位置ずれや脱落を防ぐことが可能になる。低減速度は、少なくともZ軸すなわちアーム支持部26を下降させる動きの制御に適用される。風圧によるワークの位置ずれや脱落を防ぐ方法として、ワークのサイズやロボットの構成に応じてロボットの動作速度の規定値自体を小さくし、すべての動作指令に対してゆっくりとロボットを動作させることも考えられるが、本実施形態では、ワーク50の位置ずれや脱落の恐れがある動作指令を実行するときにのみ減速処理を行うので、タクトタイムの増加を大きく抑えることが可能になる。
【0028】
上述の産業用ロボットは、ハンド13A,13Bの上にワーク50を載置してワークを搬送するものであるが、本発明は、何らかの吸引手段や吸着手段を用いてハンド13A,13Bの下側にワーク50を保持する形式の産業用ロボットにも適用することができる。そのような場合には、アーム支持部26を上昇させることを含む動作指令を受け取ったときに、少なくともアーム支持部26の上昇に対して低減速度が適用されるように減速処理を行えばよい。
【符号の説明】
【0029】
10…ロボット部;11A,11B…第1アーム;12A,12B…第2アーム;13A,13B…ハンド;21…レール;22…基台;23…回転台;24…昇降機構;24A…固定部;24B…移動部;25…カバー;26…アーム支持部;31…回転軸;32…共通軸;33A,33B…軸;34A,34B…手首軸;40…制御装置;41…制御部;42…駆動回路;50…ワーク。
図1
図2
図3