IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成メディカル株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社メテクの特許一覧

特許7599303体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法
<>
  • 特許-体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法 図1
  • 特許-体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法 図2
  • 特許-体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法 図3
  • 特許-体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法 図4
  • 特許-体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法 図5
  • 特許-体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法 図6
  • 特許-体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
A61M1/00 190
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020171467
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022063103
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000138037
【氏名又は名称】株式会社メテク
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 翔太
(72)【発明者】
【氏名】日野 真弓
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-013491(JP,A)
【文献】特開2020-081302(JP,A)
【文献】特開2002-248164(JP,A)
【文献】特開昭52-139292(JP,A)
【文献】米国特許第04657530(US,A)
【文献】国際公開第2014/112352(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔液を処理する体腔液処理システムであって、
体腔液を収容する収容部と、
濾過器と、
濃縮器と、
体腔液が回収される回収部と、
前記収容部の体腔液を前記濾過器に送液する第1の送液ラインと、
前記濾過器で濾過された体腔液を前記濃縮器に送液する第2の送液ラインと、
前記濃縮器で濃縮された体腔液を前記回収部に送液する第3の送液ラインと、
前記濃縮器で除去された排液を排出する第4の送液ラインと、
前記第1の送液ライン又は前記第2の送液ラインに設けられた第1のポンプと、
前記第3の送液ラインに設けられた第2のポンプと、
前記第1のポンプよりも下流であって第2の送液ライン又は濾過器に設けられた気体導入位置に、気体を導入可能な気体導入部と、
前記第4の送液ラインに設けられ、前記濃縮器への逆流を防止する逆流防止部と
前記第1のポンプを停止し前記第2のポンプを作動させ、前記気体導入部から気体を導入して、気体導入位置よりも下流側にある体腔液を前記回収部に回収する回収工程を実行する制御部と、を備える、体腔液処理システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記回収工程の前に、前記第1のポンプと前記第2のポンプを作動させ、前記濾過器にある濾過された体腔液を前記第2の送液ラインにある気体導入位置より下流側に移動させる前工程を実行する、請求項1に記載の体腔液処理システム。
【請求項3】
前記第1のポンプが前記第2の送液ラインに設けられ、
当該体腔液処理システムは、前記回収部の体腔液を前記第2の送液ラインにおける前記第1のポンプよりも上流側の合流位置に送液する第5の送液ラインをさらに備え、
前記制御部は、前記回収工程の後に、前記第2のポンプを停止し、前記第1のポンプを処理時の逆方向に作動させ、前記気体導入部から気体を導入して、前記第5の送液ラインにある体腔液を前記回収部に回収する後工程を実行する、請求項2に記載の体腔液処理システム。
【請求項4】
体腔液を処理する体腔液処理システムの使用方法であって、
体腔液を収容する収容部と、
濾過器と、
濃縮器と、
体腔液が回収される回収部と、
前記収容部の体腔液を前記濾過器に送液する第1の送液ラインと、
前記濾過器で濾過された体腔液を前記濃縮器に送液する第2の送液ラインと、
前記濃縮器で濃縮された体腔液を前記回収部に送液する第3の送液ラインと、
前記濃縮器で除去された排液を排出する第4の送液ラインと、
前記第1の送液ライン又は前記第2の送液ラインに設けられた第1のポンプと、
前記第3の送液ラインに設けられた第2のポンプと、
前記第1のポンプよりも下流であって第2の送液ライン又は濾過器に設けられた気体導入位置に、気体を導入可能な気体導入部と、
前記第4の送液ラインに設けられ、前記濃縮器への逆流を防止する逆流防止部と、を備える体腔液処理システムを用いて、
前記第1のポンプを停止し、前記第2のポンプを作動させ、前記気体導入部から気体を導入して、気体導入位置よりも下流側にある体腔液を前記回収部に回収する回収工程を実行する、体腔液処理システムの使用方法。
【請求項5】
前記回収工程の前に、前記第1のポンプと前記第2のポンプを作動させ、前記濾過器にある濾過された体腔液を前記第2の送液ラインにある気体導入位置より下流側に移動させる前工程を実行する、請求項4に記載の体腔液処理システムの使用方法。
【請求項6】
前記第1のポンプが前記第2の送液ラインに設けられ、
前記体腔液処理システムは、前記回収部の体腔液を前記第2の送液ラインにおける前記第1のポンプよりも上流側の合流位置に送液する第5の送液ラインをさらに備え、
前記回収工程の後に、前記第2のポンプを停止し、前記第1のポンプを処理時の逆方向に作動させ、前記気体導入部から気体を導入して、前記第5の送液ラインにある体腔液を前記回収部に回収する後工程を実行する、請求項5に記載の体腔液処理システムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体腔液の1つである腹水における治療法として、患者から腹水を取り出し、当該腹水から細菌やがん細胞などの病因物質を除去し、アルブミンなどの有用成分を残した状態で濃縮し、当該濃縮腹水を体内に戻す腹水ろ過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)がある。
【0003】
かかる治療法には、一般的に腹水処理システムが用いられている。この腹水処理システムには、例えば腹水バッグと、濾過器と、濃縮器と、濃縮腹水バッグが送液ラインによりこの順番で接続され、送液ラインのポンプにより腹水を流して腹水を濾過、濃縮するものが用いられている(特許文献1参照)。かかる腹水処理システムでは、例えば濃縮器の上流側と下流側にそれぞれポンプを設け、2つのポンプの流量を調整することにより濃縮器において腹水を所定の濃度に濃縮している。
【0004】
上述のような腹水処理システムでは、腹水の濾過、濃縮処理終了時に送液ライン内に残った腹水を濃縮腹水バッグに回収することが行われている。かかる送液ライン内の残留腹水の回収は、例えば腹水の濾過、濃縮処理時と同様に2つのポンプを作動させて行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-013491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような腹水処理システムにおいて残存腹水を回収する場合、濃縮器の濃縮膜の目詰まり等により、濃縮器の圧力(膜間差圧(TMP : Trans Membrance Pressure))が上昇し、腹水処理システムが停止することがある。残存腹水の回収の途中で腹水処理システムが停止すると、医療従事者の作業が生じ、腹水処理に要する時間が長くなるため好ましくない。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、ライン内に残存した腹水などの体腔液を回収する際に濃縮器の圧力が上昇することを抑制することができる体腔液処理システム及び体腔液処理システムの使用方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、濃縮器の上流に気体導入部を設け、濃縮器の排液が通る送液ラインに逆流防止部を設けることで上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
(1)体腔液を処理する体腔液処理システムであって、体腔液を収容する収容部と、
濾過器と、濃縮器と、体腔液が回収される回収部と、前記収容部の体腔液を前記濾過器に送液する第1の送液ラインと、前記濾過器で濾過された体腔液を前記濃縮器に送液する第2の送液ラインと、前記濃縮器で濃縮された体腔液を前記回収部に送液する第3の送液ラインと、前記濃縮器で除去された排液を排出する第4の送液ラインと、前記第1の送液ライン又は前記第2の送液ラインに設けられた第1のポンプと、前記第3の送液ラインに設けられた第2のポンプと、前記第1のポンプよりも下流であって第2の送液ライン又は濾過器に設けられた気体導入位置に、気体を導入可能な気体導入部と、前記第4の送液ラインに設けられ、前記濃縮器への逆流を防止する逆流防止部と、を備える、体腔液処理システム。
(2)前記第1のポンプを停止し前記第2のポンプを作動させ、前記気体導入部から気体を導入して、気体導入位置よりも下流側にある体腔液を前記回収部に回収する回収工程を実行する制御部をさらに備える、(1)に記載の体腔液処理システム。
(3)前記制御部は、前記回収工程の前に、前記第1のポンプと前記第2のポンプを作動させ、前記濾過器にある濾過された体腔液を前記第2の送液ラインにある気体導入位置より下流側に移動させる前工程を実行する、(2)に記載の体腔液処理システム。
(4)前記第1のポンプが前記第2の送液ラインに設けられ、当該体腔液処理システムは、前記回収部の体腔液を前記第2の送液ラインにおける前記第1のポンプよりも上流側の合流位置に送液する第5の送液ラインをさらに備え、前記制御部は、前記回収工程の後に、前記第2のポンプを停止し、前記第1のポンプを処理時の逆方向に作動させ、前記気体導入部から気体を導入して、前記第5の送液ラインにある体腔液を前記回収部に回収する後工程を実行する、(3)に記載の体腔液処理システム。
(5)体腔液を処理する体腔液処理システムの使用方法であって、体腔液を収容する収容部と、濾過器と、濃縮器と、体腔液が回収される回収部と、前記収容部の体腔液を前記濾過器に送液する第1の送液ラインと、記濾過器で濾過された体腔液を前記濃縮器に送液する第2の送液ラインと、前記濃縮器で濃縮された体腔液を前記回収部に送液する第3の送液ラインと、前記濃縮器で除去された排液を排出する第4の送液ラインと、前記第1の送液ライン又は前記第2の送液ラインに設けられた第1のポンプと、前記第3の送液ラインに設けられた第2のポンプと、記第1のポンプよりも下流であって第2の送液ライン又は濾過器に設けられた気体導入位置に、気体を導入可能な気体導入部と、前記第4の送液ラインに設けられ、前記濃縮器への逆流を防止する逆流防止部と、を備える体腔液処理システムを用いて、前記第1のポンプを停止し、前記第2のポンプを作動させ、前記気体導入部から気体を導入して、気体導入位置よりも下流側にある体腔液を前記回収部に回収する回収工程を実行する、体腔液処理システムの使用方法。
(6)前記回収工程の前に、前記第1のポンプと前記第2のポンプを作動させ、前記濾過器にある濾過された体腔液を前記第2の送液ラインにある気体導入位置より下流側に移動させる前工程を実行する、(5)に記載の体腔液処理システムの使用方法。
(7)前記第1のポンプが前記第2の送液ラインに設けられ、前記体腔液処理システムは、前記回収部の体腔液を前記第2の送液ラインにおける前記第1のポンプよりも上流側の合流位置に送液する第5の送液ラインをさらに備え、前記回収工程の後に、前記第2のポンプを停止し、前記第1のポンプを処理時の逆方向に作動させ、前記気体導入部から気体を導入して、前記第5の送液ラインにある体腔液を前記回収部に回収する後工程を実行する、(6)に記載の体腔液処理システムの使用方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、体腔液処理システムにおいて、ライン内に残存した体腔液を回収する際に濃縮器の圧力が上昇することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】腹水処理システムの構成の概略を示す説明図である。
図2】再濃縮処理時の腹水処理システムの状態を示す説明図である。
図3】腹水の回収工程時の腹水処理システムの状態を示す説明図である。
図4】回収工程の前工程時の腹水処理システムの状態を示す説明図である。
図5】回収工程の後工程時の腹水処理システムの状態を示す説明図である。
図6】第1のポンプを第1の送液ラインに設けた場合の腹水処理システムの構成を示す説明図である。
図7】気体導入位置が濾過器に設けられた場合の腹水処理システムの構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態の一例について説明する。なお、本明細書における上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る体腔液処理システムとしての腹水処理システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0014】
腹水処理システム1は、体腔液の収容部としての腹水バッグ10と、濾過器11と、濃縮器12と、濃縮体腔液の回収部としての濃縮腹水バッグ13と、第1の送液ライン14と、第2の送液ライン15と、第3の送液ライン16と、第4の送液ライン17と、第5の送液ライン18と、第6の送液ライン19と、制御部20等を備えている。
【0015】
腹水バッグ10は、例えば軟質性のバッグであり、患者から採取された腹水を収容することができる。
【0016】
濾過器11は、例えば円筒形状の筐体を有している。濾過器11は、長手方向(上下方向)の両端部に通液口11a、11bを有し、側面に2つの通液口11c、11dを有している。なお、本明細書において腹水処理システム1における上下は、通常使用時の姿勢に基づくものとする。
【0017】
濾過器11は、例えば細菌やがん細胞などの所定の病因物質を除去し、アルブミンなどの所定の有用成分を通過させる濾過膜30を備えている。濾過膜30は、例えば多数本の中空糸膜から構成されている。濾過膜30の一次側の空間(中空糸膜の内部空間)30aは、通液口11a、11bに通じ、濾過膜30の二次側の空間(中空糸膜の外部空間)30bは、通液口11c、11dに通じている。
【0018】
濃縮器12は、例えば円筒形状の筐体を有している。濃縮器12は、長手方向(上下方向)の両端部に通液口12a、12bを有し、側面に2つの通液口12c、12dを有している。
【0019】
濃縮器12は、例えば腹水から水分を除去して濃縮する濃縮膜40を備えている。濃縮膜40は、例えば多数本の中空糸膜から構成されている。濃縮膜40の一次側の空間(中空糸膜の内側空間)40aは、通液口12a、12bに通じ、濃縮膜40の二次側の空間(中空糸膜の外側空間)40bは、通液口12c、12dに通じている。
【0020】
濃縮腹水バッグ13は、例えば軟質性のバッグであり、濃縮器12で濃縮された濃縮腹水を収容することができる。
【0021】
第1の送液ライン14は、腹水バッグ10と濾過器11を接続している。第1の送液ライン14の上流側の端部は、腹水バッグ10に接続され、第1の送液ライン14の下流側の端部は、濾過器11の通液口11aに接続されている。すなわち、濾過器11の通液口11aは、腹水が流入する濾過器11の入口となっている。第1の送液ライン14には、第1の送液ライン14を開閉する第1のバルブ41が設けられている。なお、本明細書において、「上流側」とは、腹水が、濾過器11、濃縮器12の順に流れる通常の腹水処理時に上流側になる方向を示し、「下流側」とは、通常の腹水処理時の下流側になる方向を示す。
【0022】
第6の送液ライン19の上流側の端部は、濾過器11の通液口11bに接続されている。第6の送液ライン19の下流側の端部は、例えば濾過器11で腹水から除去された排液を収容する廃液部(図示せず)に接続されている。
【0023】
濾過器11の通液口11cには、気体をライン45を通じて濾過器11内に導入する気体導入部46が接続されている。気体導入部46は、例えば大気開放部である。
【0024】
第2の送液ライン15は、濾過器11と濃縮器12を接続している。第2の送液ライン15の上流側の端部は、濾過器11の通液口11dに接続され、第2の送液ライン15の下流側の端部は、濃縮器12の上端部の通液口12aに接続されている。すなわち、濾過器11の通液口11dは、腹水が流出する濾過器11の出口となり、濃縮器12の通液口12aは、腹水の流入する濃縮器12の入口となっている。
【0025】
第2の送液ライン15には、例えば第2のバルブ50と、第1のポンプ51及びドリップチャンバー52が上流側から下流側に向けてこの順番で設けられている。第2のバルブ50は、第2の送液ライン15を開閉する。第1のポンプ51は、第2の送液ライン15のチューブを扱いて送液するチューブポンプである。第1のポンプ51は、停止時にチューブを閉塞するため閉塞手段としても機能する。
【0026】
第2の送液ライン15には、第2の送液ライン15内に気体を導入する気体導入部53が接続されている。気体導入部53は、例えば大気開放部であり、ドリップチャンバー52に接続されたライン54を通じて第2の送液ライン15に気体としての大気を導入することができる。すなわち、ドリップチャンバー52は、第2の送液ライン15における気体導入位置となり、当該気体導入位置は、第1のポンプ51の下流側に位置している。
【0027】
第3の送液ライン16は、濃縮器12と濃縮腹水バッグ13を接続している。第3の送液ライン16の上流側の端部は、濃縮器12の下端部の通液口12bに接続され、第3の送液ライン16の下流側の端部は、濃縮腹水バッグ13に接続されている。すなわち、濃縮器12の通液口12bは、腹水が流出する濃縮器12の出口となっている。
【0028】
第3の送液ライン16には、第2のポンプ60が設けられている。第2のポンプ60は、第2の送液ライン15のチューブを扱いて送液するチューブポンプである。第2のポンプ60は、停止時にチューブを閉塞するため閉塞手段としても機能する。
【0029】
第4の送液ライン17の上流側の端部は、例えば濃縮器12の通液口12c、12dに接続されている。すなわち、濃縮器12の通液口12c、12dは、排液が流出する濃縮器12の出口となっている。なお、第4の送液ライン17の上流側の端部は、通液口12c、12dのいずれか一方にのみ接続されていてもよい。第4の送液ライン17の下流側の端部は、濃縮器12で腹水から除去された排液を収容する廃液部(図示せず)に接続されている。第4の送液ライン17には、第4の送液ライン17における濃縮器12への逆流を防止する逆流防止部としての逆止弁65が設けられている。
【0030】
第5の送液ライン18は、濃縮腹水バッグ13と第1の送液ライン14を接続している。第5の送液ライン18の一端部(上流側の端部)は、濃縮腹水バッグ13に接続されている。第5の送液ライン18の他端部(下流側の端部)は、第2の送液ライン15における第2のバルブ50と第1のポンプ51との間の合流位置に接続されている。第5の送液ライン18には、第5の送液ライン18を開閉する第3のバルブ70が設けられている。
【0031】
以上の第1~第6の送液ライン14~19には、例えば軟質性のチューブが用いられている。
【0032】
制御部20は、例えばCPU、メモリ等を有するコンピュータである。制御部20は、第1のポンプ51、第2のポンプ60、第1のバルブ41、第2のバルブ50、第3のバルブ70等の各装置の動作を制御して腹水処理を実行することができる。制御部20は、例えばメモリに記憶されたプログラムをCPUで実行することにより腹水処理を実現することができる。
【0033】
例えば制御部20は、第1のポンプ51を停止し第2のポンプ60を作動させ、気体導入部53から第2の送液ライン15内に気体を導入して、第2の送液ライン15の気体導入位置よりも下流側にある腹水を濃縮腹水バッグ13に回収する回収工程を実行することができる。
【0034】
次に、上述の腹水処理システム1を用いて行われる腹水処理について説明する。
【0035】
先ず、図1に示すように患者から採取した腹水が収容された腹水バッグ10が第1の送液ライン14に接続される。次に第3のバルブ70が閉鎖され、第1のバルブ41及び第2のバルブ50が開放され、第1のポンプ51及び第2のポンプ60が作動して、腹水の濾過・濃縮処理が開始される。このとき第1のポンプ51の設定流量Q1は、第2のポンプ60の設定流量Q2よりも大きく設定されている。
【0036】
腹水バッグ10の腹水は、第1の送液ライン14を通じて濾過器11に送られる。腹水は、濾過器11の通液口11aから濾過膜30の一次側の空間30aに流入し、濾過膜30を通過して、濾過膜30の二次側の空間30bに流出する。このとき、腹水から所定の病因物質が除去される。濾過膜30の一次側の空間30aにおいて濾過膜30を通過しない排液は、第6の送液ライン19を通って図示しない廃液部に排出される。
【0037】
濾過膜30の二次側の空間30bに流出した腹水は、濾過器11の通液口11dから第2の送液ライン15に流出し、第2の送液ライン15を通って濃縮器12に送られる。なお、このとき第2の送液ライン15は、大気に対し陽圧になっているため、気体導入部53から大気が導入されることはない。腹水は、濃縮器12の入口(通液口12a)から濃縮膜40の一次側の空間40aに流入し、出口(通液口12b)から排出される。このとき、第1のポンプ51の設定流量Q1が、第2のポンプ60の設定流量Q2よりも大きいため、腹水の一部の水分が、濃縮膜40を通過して濃縮膜40の二次側の空間40bに流出する。これにより腹水から主に水分が除去されて腹水が濃縮される。濃縮器12で濃縮された濃縮腹水は、第3の送液ライン16を通って濃縮腹水バッグ13に収容される。濃縮器12で除去された排液は、第4の送液ライン17を通って図示しない廃液部に排出される。
【0038】
例えば濾過・濃縮処理が開始されてから所定時間が経過し、例えば腹水バッグ10の腹水がなくなったときに、図2に示すように第2のバルブ50が閉鎖され、第3のバルブ70が開放される。引き続き第1のポンプ51及び第2のポンプ60が作動し、濃縮腹水バッグ13の濃縮腹水が、第5の送液ライン18を通って第2の送液ライン15に供給され、第2の送液ライン15を通じて濃縮器12に供給され、濃縮器12で再濃縮される。その後濃縮腹水は、第3の送液ライン16を通って濃縮腹水バッグ13に戻される。この濃縮腹水の再濃縮処理を所定時間行った後、第1のポンプ51と第2のポンプ60が停止され、一連の濾過・濃縮処理が終了する。
【0039】
次に腹水処理システム1の第2の送液ライン15、濃縮器12及び第3の送液ライン16に残った腹水を回収する回収工程が行われる。例えば図3に示すように第1のポンプ51が停止した状態で、第2のポンプ60が作動し、気体導入部53から大気が吸引され、第2の送液ライン15内に導入される。これにより、第2の送液ライン15の気体導入位置より下流側のある腹水、すなわち、第2の送液ライン15における気体導入位置と濃縮器12との間の区間、濃縮器12の一次側の空間40a及び第3の送液ライン16に残っていた腹水が、大気により押され、濃縮腹水バッグ13に回収される。このとき、濃縮器12では、一次側の空間40aの腹水が、濃縮膜40で除水されることがなく通過する。また第4の送液ライン17では、逆止弁65により排液が濃縮器12に逆流することが防止されている。なお、第2のポンプ60の設定流量は、濾過・濃縮処理時の設定流量と変え、それより大きくしてもよい。
【0040】
その後、第2の送液ライン15に導入された大気が例えば濃縮腹水バッグ13に到達すると、第2のポンプ60が停止し、残存腹水の回収工程が終了する。
【0041】
本実施の形態によれば、腹水処理システム1が、第1のポンプ51よりも下流の第2の送液ライン15に設けられた気体導入位置に気体を導入可能な気体導入部53と、第4の送液ライン17に設けられた逆止弁65を備えるので、第2のポンプ60を作動させ、第2の送液ライン15の第1のポンプ51よりも下流側に気体を吸引することで、ライン内の残存した腹水を濃縮腹水バッグ13に回収することができる。このとき、濃縮器12においては、入口12aと出口12bとの間に流量差がなく腹水が通過するだけであり濃縮が行われないので、残存腹水の回収時に濃縮器12の圧力が上昇することを抑制することができる。この結果、残存腹水の回収の途中で濃縮器12の圧力が上昇して腹水処理システム1が停止することを防止することができる。
【0042】
上記実施の形態において、制御部20は、上記残存腹水の回収工程の前に、第1のポンプ51と第2のポンプ60を作動させ、濾過器11にある濾過された腹水を第2の送液ライン15の気体導入位置より下流側に移動させる前工程を実行してもよい。
【0043】
この場合、上記回収工程の前に、図4に示すように例えば第1のバルブ41及び第3のバルブ70が閉鎖され、第2のバルブ50が開放され、第1のポンプ51と第2のポンプ60が作動する。これにより気体導入部46から大気が吸引され、濾過器11内に導入され、濾過器11の二次側の空間30bにある濾過された腹水が、大気により押され、第2の送液ライン15の下流側に移動する。このとき、第3の送液ライン16の一部の腹水は、濃縮腹水バッグ13に回収される。そして、例えば濾過器11に残っていた腹水が第2の送液ライン15の気体導入位置よりも下流側に移動したところで、第1のポンプ51が停止する。なお、第1のポンプ51が停止するタイミングは、濾過器11の腹水が気体導入位置よりも下流に移動するまでの所定時間を予め知得しておき、所定時間第1のポンプ51が作動することで規定してもよいし、第2の送液ライン15の気体導入位置近辺に気体検出センサを設け、当該気体検出センサが気体を検出したときに第1のポンプ51が停止するようにしてもよい。
【0044】
そして、前工程が終了した後、上述の図3に示したように第1のポンプ51が停止した状態で、第2のポンプ60が作動し、気体導入部53から第2の送液ライン15に大気が導入され、気体導入位置よりも下流側にある腹水が濃縮腹水バッグ13に回収される。この例によれば、より多くの残存腹水を濃縮腹水バッグ13に回収することができる。
【0045】
さらに以上の実施の形態において、制御部20は、残存腹水の回収工程の後に、第2のポンプ60を停止し、第1のポンプ51を処理時の逆方向に作動させ、気体導入部53から気体を導入して、第5の送液ライン18にある腹水を濃縮腹水バッグ13に回収する後工程を実行してもよい。
【0046】
この場合、上記回収工程の後に、図5に示すように例えば第3のバルブ70が開放され、第2のバルブ50が閉じられ、第2のポンプ60が停止し、第1のポンプ51が処理時の逆方向(上流方向)に作動する。これにより、気体導入部53から第2の送液ライン15に大気が導入される。そして、第5の送液ライン18に残っていた腹水が、大気によって押され、濃縮腹水バッグ13に回収される。この例によれば、気体導入部53からの気体の導入を用いて、第5の送液ライン18に残った腹水も回収することができる。当該後工程を行う場合に、上記前工程も行ってもよい。すなわち、前工程、回収工程及び後工程がこの順で行われてもよい。
【0047】
腹水処理システム1の構成は、以上の実施の形態のものに限られない。
【0048】
例えば図6に示すように第1のポンプ51は、第1の送液ライン14にあってもよい。この場合、残存腹水の回収工程を行う際には、例えば第1のポンプ51が停止し、第2のバルブ50と第3のバルブ70が閉鎖された状態で、第2のポンプ60が作動し、大気が気体導入部53から第2の送液ライン15内に吸引され、導入される。これにより、第2の送液ライン15の気体導入位置より下流側のある腹水、すなわち、第2の送液ライン15における気体導入位置と濃縮器12との間の区間、濃縮器12の一次側の空間40a及び第3の送液ライン16に残っていた腹水が、大気により押され、濃縮腹水バッグ13に回収される。
【0049】
また、この場合、気体導入部53の気体導入位置は、第2の送液ライン15における第5の送液ライン18の合流位置より上流側にあってもよい。
【0050】
第1のポンプ51が第1の送液ライン14にある場合、図7に示すように気体導入部53の気体導入位置が濾過器11に設けられていてもよい。この場合、気体導入部53の気体導入位置は、濾過器11の濾過膜30の二次側の空間30bに通じる通液口11cであってもよい。この場合、残存腹水の回収工程を行う際には、例えば第1のポンプ51が停止し、第3のバルブ70が閉じられ、第2のバルブ50が開放された状態で、第2のポンプ60が作動し、大気が気体導入部53から通液口11cを通じて濾過器11の二次側の空間30b内に吸引され、導入される。これにより、濾過器11の二次側の空間30bとそれより下流側にある腹水、すなわち濾過器11の二次側の空間30b、第2の送液ライン15、濃縮器12の一次側の空間40a及び第3の送液ライン16に残っていた腹水が、大気により押され、濃縮腹水バッグ13に回収される。
【0051】
以上の実施の形態における腹水処理システム1は、第5の送液ライン18を備えず再濃縮処理を行わないものであってよい。第4の送液ライン17に設けられる逆流防止部は逆止弁65に限られず、濃縮器12への逆流を防止できるものであれば、他の装置であってもよい。
【0052】
以上の実施の形態において、第1の送液ライン14及び第6の送液ライン19が濾過器11の濾過膜30の内側領域に接続され、第2の送液ライン15が濾過膜30の外側領域に接続されていたが、その逆、すなわち第1の送液ライン14及び第6の送液ライン19が濾過器11の濾過膜30の外側領域に接続され、第2の送液ライン15が濾過膜30の内側領域に接続されていてもよい。また第2の送液ライン15及び第3の送液ライン16が濃縮器12の濃縮膜40の内側領域に接続され、第4の送液ライン17が濃縮器12の濃縮膜40の外側領域に接続されていたが、その逆、すなわち第2の送液ライン15及び第3の送液ライン16が濃縮器12の濃縮膜40の外側領域に接続され、第4の送液ライン17が濃縮器12の濃縮膜40の内側領域に接続されていてもよい。また、濾過器11及び濃縮器12は、上下逆に設置されていてもよい。すなわち濾過器11は、入口11aが下で出口11bが上に向き、濃縮器12は、入口12aが下で出口12bが上に向くように設置されていてもよい。
【0053】
以上の実施の形態は、本発明を、腹水を処理する腹水処理システム1に適用した例であったが、本発明は、胸水などの他の体腔液を処理する体腔液処理システムにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、体腔液処理システムにおいて、ライン内に残存した体腔液を回収する際に濃縮器の圧力が上昇することを抑制する際に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 腹水処理システム
10 腹水バッグ
11 濾過器
12 濃縮器
13 濃縮腹水バッグ
14 第1の送液ライン
15 第2の送液ライン
16 第3の送液ライン
17 第4の送液ライン
18 第5の送液ライン
19 第6の送液ライン
20 制御部
40 濃縮膜
51 第1のポンプ
53 気体導入部
60 第2のポンプ
65 逆止弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7