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特許7599322電解液、電気化学素子電極用表面処理剤、電気化学素子電極の表面処理方法及び電気化学素子電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】電解液、電気化学素子電極用表面処理剤、電気化学素子電極の表面処理方法及び電気化学素子電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20241206BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241206BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241206BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M10/0568
H01M10/0569
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020204326
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091475
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】本多 立彦
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/169028(WO,A1)
【文献】特開2019-192631(JP,A)
【文献】特開2016-091926(JP,A)
【文献】特開2010-182693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される金属錯体化合物、極性溶媒(但し、アセトニトリルを除く)、並びにB-F結合、S-F結合及びP-F結合からなる群より選ばれる結合を少なくとも一つ有するアニオンを含む電解質を含有する電解液
[(Mn+)S](Am-n/m (1)
(式(1)中、Mn+は、n価の金属イオン(但し、アルカリ金属のイオン、及びアルカリ
土類金属のイオンを除く)であり、nは1~6の整数であり;Sは前記極性溶媒と同一の化合物であり、xは1~6の整数であり;Am-は前記電解質に含まれるアニオンと同一であって、B-F結合、S-F結合及びP-F結合からなる群より選ばれる結合を少なくとも一つ有するm価のアニオンであり、mは1~4の整数である。)
【請求項2】
前記極性溶媒が環状カーボネート、鎖状カーボネート、ニトリル化合物(但し、アセトニトリルを除く)、及びカルボン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電解液を含む、電気化学素子電極用表面処理剤。
【請求項4】
第1の電気化学素子電極及び第2の電気化学素子電極を請求項3に記載の電気化学素子電極用表面処理剤に接触するように配置する工程、及び
前記第1の電気化学素子電極と前記第2の電気化学素子電極を使用し、前記電気化学素子電極用表面処理剤に電圧を印加する工程、
を含む、電気化学素子電極の表面処理方法。
【請求項5】
第1の電気化学素子電極及び第2の電気化学素子電極を請求項3に記載の電気化学素子電極用表面処理剤に接触するように配置する工程、及び
前記第1の電気化学素子電極と前記第2の電気化学素子電極を使用し、前記電気化学素子電極用表面処理剤に電圧を印加する工程、
を含む、前記第1の電極の表面に金属及び/又は金属イオンが濃化された電気化学素子電
極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液、電気化学素子電極用表面処理剤、電気化学素子電極の表面処理方法及び電気化学素子電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部材としてグラファイト基板や電極等の電気化学素子電極が注目されている。従来では、グラファイト基板等の電気化学素子電極の表面に金属層を作成するために、電気メッキを施す技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-46998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気化学的手法により電極に金属を濃化させる工程では、通常、溶媒に電解質及び金属原料を溶解させて得られた電解液が用いられる。この電解液に正極及び負極を挿入し、電位をかけることで、電極上で電気化学反応が進行し、電極上に金属及び/又は金属イオンが濃化する。この時、金属原料の形態によっては以下2点の課題が生じる;
(1)配位子を有さず金属イオンとアニオンのみからなる金属塩を金属原料として用いた場合、電解液への溶解性が低く、目的とする量の金属原料を反応に供することができない。また、金属塩の対イオンであるアニオン自体が電気化学的に酸化分解反応または還元分解反応し、その副生成物が電極表面に作用するため、好適な電極表面を形成することができない。
(2)金属イオンに対する配位子、及びアニオンからなる金属錯体を金属原料として用いた場合、電解液への溶解性は(1)より改善されるが、金属錯体の配位子やアニオン自体が電気化学的に酸化分解反応または還元分解反応してしまい、本来電極表面処理に使用する電気容量を損失(ロス)するため、電極上の電気化学反応の効率が低下する。また、配位子や対イオンの反応による副生成物が電極表面に作用するため、好適な電極表面を形成することができない。
上記に鑑み、本発明は、電極表面への金属イオン濃化処理工程において、副反応による電気容量のロスを抑制して、電気化学反応の効率良く電極表面に金属及び/又は金属イオンを濃化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、電解液に極性溶媒及び電解質を配し、配位子が該極性溶媒からなり、かつ金属イオンの対イオンが該電解質のアニオンと同一のものからなる金属原料を含有させることにより、電極表面への金属イオン濃化処理工程において、副反応による電気容量のロスを抑制して、電気化学反応の効率良く電極表面に金属及び/又は金属イオンを濃化することができることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1] 下記一般式(1)で示される金属錯体化合物、極性溶媒、並びにB-F結合、S-F結合及びP-F結合からなる群より選ばれる結合を少なくとも一つ有するアニオンを含む電解質を含有する電解液。
[(Mn+)S](Am-m/n (1)
(式(1)中、Mn+は、n価の金属イオンであり、nは1~6の整数であり;Sは前記極
性溶媒と同一の化合物であり、xは1~6の整数であり;Am-は前記電解質に含まれるアニオンと同一であって、B-F結合、S-F結合及びP-F結合からなる群より選ばれる結合を少なくとも一つ有するm価のアニオンであり、mは1~4の整数である。)
[2] 前記極性溶媒が環状カーボネート、鎖状カーボネート、ニトリル化合物、及びカルボン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載の電解液。
[3] [1]または[2]に記載の電解液を含む、電気化学素子電極用表面処理剤。
[4] 第1の電気化学素子電極及び第2の電気化学素子電極を[3]に記載の電気化学素子電極用表面処理剤に接触するように配置する工程、及び
前記第1の電気化学素子電極と前記第2の電気化学素子電極を使用し、前記電気化学素子電極用表面処理剤に電圧を印加する工程、
を含む、電気化学素子電極の表面処理方法。
[5] 第1の電気化学素子電極及び第2の電気化学素子電極を[3]に記載の電気化学素子電極用表面処理剤に接触するように配置する工程、及び
前記第1の電気化学素子電極と前記第2の電気化学素子電極を使用し、前記電気化学素子電極用表面処理剤に電圧を印加する工程、
を含む、前記第1の電極の表面に金属及び/又は金属イオンが濃化された電気化学素子電極の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電解液によれば、電極表面への金属イオン濃化処理工程において、副反応による電気容量のロスを低減し、電気化学反応の効率よく電極表面に金属イオンを濃化させることができる。
本発明の電解液を用いることで、金属イオン濃化処理工程での電気容量のロスを小さくでき、効率よく電極表面に金属イオンを濃化させることができる作用・原理は明確ではないが、以下のように考えられる。ただし、本発明は、以下に記述する作用・原理に限定されるものではない。
【0007】
一般式(1)で示される金属錯体化合物(以下、「式(1)で表される化合物」ともいう。)は、電解液の構成成分である極性溶媒を配位子として有する。該配位子が電解液の構成成分と同一の化合物であるため、電気化学的な副反応は電解液が式(1)で表される化合物を含まない場合と同程度に抑えられ、電気容量のロスを抑制できる。また、例えこの配位子が電気化学的に反応したとしても、電解液の反応と同様の副生成物を与えることから、式(1)で表される化合物を電解液に加えたことによる電極表面への影響は抑制できる。
また、式(1)で表される化合物は電解液中の電解質と同一のアニオンを有する。そのため、電気化学的な副反応は電界液が式(1)で表される化合物を含まない場合と同程度に抑えられ、電気容量のロスを抑制できる。また、例えこのアニオンが電気化学的に反応したとしても、電解液の反応と同様の副生成物を与えることから、式(1)で表される化合物を電解液に加えたことによる電極表面への影響は抑制できる。
【0008】
故に式(1)で表される化合物を金属原料に用いることで、電気化学反応に伴う電気容量のロスを低減し、電極表面への影響も抑制しながら、効率よく電極表面に金属イオンを濃化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は請求項に記載の要旨を超えない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0010】
[1.電解液]
本発明に係る電気液は、式(1)で示される金属錯体化合物を含む。
[(Mn+)S](Am-n/m (1)
(式(1)中、Mn+は、n価の金属イオンであり、nは1~6の整数であり;Sは前記極性溶媒と同一の化合物であり、xは1~6の整数であり;Am-は前記電解質に含まれるアニオンと同一のアニオンであって、B-F結合、S-F結合及びP-F結合からなる群より選ばれる結合を少なくとも一つ有するm価のアニオンであり、mは1~4の整数である。)
【0011】
<式(1)で示される金属錯体化合物>
(金属イオン)
式(1)中、Mn+はn価(但し、nは1~6の整数)の金属イオンであれば特に制限されない。金属イオンとしては、ニッケルイオン、パラジウムイオン、白金イオン、コバルトイオン、銅イオン、銀イオン、金イオン、マンガンイオン、チタニウムイオン、ジルコニウムイオン、モリブデンイオン、タングステンイオン及びアルミニウムイオンが好ましく、ニッケルイオン、パラジウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、銀イオン、マンガンイオン、チタニウムイオン、モリブデンイオン、タングステンイオン及びアルミニウムイオンがより好ましく、ニッケルイオン、コバルトイオン、マンガンイオン、銅イオン、モリブデンイオン、タングステンイオン及びアルミニウムイオンがさらに好ましい。金属イオンがこれらのイオンであると、一般式(1)で示される金属錯体化合物を安価かつ容易に得られ、電極表面への金属イオン濃化処理工程において、副反応による電気容量のロスを低減し、電気化学反応の効率よく電極表面に金属イオンを濃化させる本願の効果が得られやすいため好ましい。
【0012】
式(1)中、nは金属イオンMn+の価数を表し、該金属イオンMn+が取りうる価数に対応する整数であって、通常1~6の整数である。nは、2~6の整数が好ましく、2、4又は6がより好ましい。金属イオンMn+の価数が2価、4価又は6価であれば、式(1)の化合物が特に安定であるため、容易に取り扱うことができ、また、電気化学反応に要する容量が減るため、電極表面への金属イオン濃化処理工程において、より電気容量のロスを低減しながら、電極表面に金属イオンを濃化させることができるため好ましい。金属イオンは1種であってもよいし、2種以上を任意の比率で含んでいてもよい。すなわち、本実施形態に係る電解液は、同一の金属種で異なる価数の金属イオンを2種以上含んでもよいし、異なる種類の金属イオンを2種以上含んでもよい。
【0013】
(極性溶媒S)
式(1)中、Sは電気化学素子に用いられる電解液が含む極性溶媒と同一の化合物であれば特に制限されないが、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、ニトリル化合物、カルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物が挙げられる。中でも、環状カーボネート、鎖状カーボネート、ニトリル化合物、又はカルボン酸エステルが好ましく、環状カーボネート、鎖状カーボネート、又はニトリル化合物がより好ましく、環状カーボネート又はニトリル化合物が特に好ましい。これらの溶媒は金属イオンへの配位が強く、金属と安定な配位結合を形成するため、一般式(1)で示される金属錯体化合物が得られやすく、好ましい。
また、式(1)中、xは極性溶媒Sの金属イオンMn+に対する配位数を示しており、Mn+とSによって決まる配位数に対応する整数である。xは通常1~6の整数である。以下、環状カーボネート、鎖状カーボネート、ニトリル化合物、及びカルボン酸エステルについて説明する。
【0014】
・環状カーボネート
環状カーボネートとしては、式(1)中の金属イオンMn+に配位できるものであれば
特に制限されないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、環状カーボネート化合物の化学的安定性、電気化学的安定性の観点から、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートが好ましく、エチレンカーボネートがより好ましい。環状カーボネートは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の比率で含んでいてもよい。
【0015】
・鎖状カーボネート
鎖状カーボネートとしては、式(1)中の金属イオンMn+に配位できるものであれば特に制限されないが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが挙げられる。これらの中でも、製造上の観点から、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート又はエチルメチルカーボネートが好ましい。鎖状カーボネートは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の比率で含んでいてもよい。
【0016】
・ニトリル化合物
ニトリル化合物としては、式(1)中の金属イオンMn+に配位できるものであれば特に制限されないが、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ペンタンニトリル、ヘキサンニトリル、ヘプタンニトリル、オクタンニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。これらの中でも、ニトリル化合物の化学的安定性、電気化学的安定性、式(1)中のアニオンAm-への配位性の観点から、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ペンタンニトリル、ベンゾニトリル等が好ましく、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルがより好ましく、アセトニトリル、プロピオニトリルがさらに好ましい。これらニトリル化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の比率で含んでいてもよい。
【0017】
・カルボン酸エステル
カルボン酸エステルとしては、式(1)中の金属イオンMn+に配位できるものであれば特に制限されないが、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル等があげられる。これらの中でも、化合物の化学的安定性、電気化学的安定性、式(1)中のAへの配位性の観点から、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルが好ましく、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルがより好ましく、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルがさらに好ましい。これらカルボン酸エステルは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の比率で含んでいてもよい。
【0018】
極性溶媒Sは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の比率で用いてもよい。したがって、環状カーボネート、鎖状カーボネート、ニトリル化合物、カルボン酸エステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の比率で含んでいてもよい。
【0019】
(アニオン)
式(1)中、Am-は電解質のアニオンと同一の化合物であって、B-F結合、S-F結合及びP-F結合からなる群より選ばれる結合を少なくとも一つ有するアニオンであれば特に制限はないが、例えばBF 、[BF(C)]、(FSO、(FSO、FSO 、PF(CF 、[PF(C、及びPF 等が挙げられる。これらの中でも、BF 、(FSO、FSO 、PF が製造上の観点から好ましい。
式(1)中、mはカウンターアニオンAm-の価数をあらわし、アニオンAm-が取りうる価数に対応する整数であって、通常1~4の整数である。mは好ましくは、1~3の
整数であり、より好ましくは1又は2である。カウンターアニオンAの価数が1価又は2価であれば、電気化学反応に要する容量を低くすることができるため、電極表面への金属イオン濃化処理工程において、電気容量のロスを一層抑制しながら、電極表面に金属イオンを濃化させることができるため好ましい。
式(1)中、アニオンの数n/mは[(Mn+)S]に対し、式(1)の化合物全体が電気化学的中性となるように定められ、通常1~6の整数である。n/mは、好ましくは2、4又は6である。n/mがこのような範囲になるように式(1)の化合物を設計すれば、Aの副反応による電気容量のロスを低減できるので、電気化学反応の効率よく電極表面に金属イオンを濃化させる本願の効果が得られやすいため好ましい。
【0020】
式(1)で示される金属錯体化合物は、合成して用いることができる。合成方法は特に限定されないが、例えば、金属イオン源となる金属化合物を溶媒に懸濁させ、そこに、カウンターアニオン源となる化合物を加えて、金属イオンに溶媒が配位したカチオンとアニオンとからなる金属錯体化合物を得る方法が挙げられる。金属イオンに配位した溶媒を、他の極性溶媒と交換して目的の金属錯体化合物を得てもよい。
金属イオン源としては特に限定されないが、例えば、ニッケルイオン源として、Ni(CHCOO)、Ni(OH)、NiO、NiCO、NiSO、塩化ニッケル等のニッケルハロゲン化物等が挙げられる。コバルトイオン源として、Co(CHCOO);Co(HCOO);Co(OH);CoO、Co等のコバルト酸化物;CoLiO;CoCO;CoSO;Co(NO;弗化コバルト(II)、弗化コバルト(III)、臭化コバルト(II)、塩化コバルト(II)等のコバルトハロゲン化物等が挙げられる。銅イオン源としては、Cu(CHCOO);Cu(HCOO);Cu(OH);CuO、CuO等の銅酸化物;CuCO;CuSO、Cu(NO;塩化銅(I)、塩化銅(II)等の銅ハロゲン化物等が挙げられる。マンガンイオン源として、Mn(CHCOO)・2HO、Mn(CHCOO)・4HO、Mn(CHCOO)・2HO等の酢酸マンガン水和物;Mn(OH);MnO、Mn等の酸化マンガン;MnCO、MnSO、KMnO、MnB・8HO、塩化マンガン(II)等のマンガンハロゲン化物等が挙げられる。チタニウムイオン源として、Ti(CHCOO)、Ni(OH)、TiO、Ti(OCHCH等のテトラアルキルチタネート、ビス(2,4-ペンタンジオナト)チタン(IV)オキシド等の金属錯体、四塩化チタン等のチタンハロゲン化物等が挙げられる。ジルコニウムイオン源として、Zr(CHCOO)、Zr(OH)、テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)等の金属錯体、塩化ジルコニウム(IV)等のジルコニウムハロゲン化物等が挙げられる。モリブデンイオン源として、二塩化二酸化モリブデン(VI)、ビス(2,4-ペンタンジオナト)ジオキソモリブデン(VI)等の金属錯体、塩化モリブデン(III)、塩化モリブデン(V)等のモリブデンハロゲン化物等が挙げられる。タングステンイオンとして、塩化タングステン(II),塩化タングステン(VI)等のタングステンハロゲン化物等が挙げられる。アルミニウムイオン源として、Al(FSO;Al(CHCOO);Al(CFCOO);Al(CFSO;トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-n-ブトキシド等のアルミニウムアルコキシド;トリメチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム;塩化アルミニウム等のAlハロゲン化物;等のアルミニウム塩が挙げられる。
【0021】
式(1)で表される化合物が単離できない化合物である場合は、式(1)で表される化合物が式(1)中のSと同一の極性溶媒に金属錯体化合物として含まれるものを金属原料として電気化学素子の電解液に供することもできる。この場合、金属原料に含まれる金属イオンの物質量(Mn+(mol))に対する極性溶媒の物質量(Smol)の比(S(mol)/Mn+(mol))は、200以下、好ましくは150以下、さらに好ましくは100以下である。この範囲であれば、式(1)で表される化合物を含む金属原料を用
いて電解液を調製する際、金属イオンの濃度を調整しやすいため好ましい。
【0022】
また、式(1)で示される金属錯体化合物(式(1)で示される金属錯体化合物を含む溶液も含む)を用いて調製した電解液中の金属イオンの含有量は、通常1質量ppm以上、好ましくは5質量ppm以上、より好ましくは10質量ppm以上、さらに好ましくは25ppm以上である。一方、通常1000質量ppm以下、好ましくは700質量ppm以下、さらに好ましくは500質量ppm以下である。この範囲であれば、過剰な金属イオンの電気化学反応による電気容量のロスを低減できるので、電気化学反応の効率よく電極表面に金属イオンを濃化させる本願の効果が得られやすいため好ましい。電解液中の金属イオンの量を測定する場合には、電気化学素子から電解液を含有する部材を取り出し電解液を抽出して測定すればよい。例えば、遠心分離機により電解液を抽出することもできるし、又は有機溶媒を用いて抽出することもできる。抽出した電解液を用いて誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES、たとえばThermo Fischer
Scientific、iCAP 7600duo)によりLi及び酸濃度マッチング検量線法で金属元素、すなわち金属イオンを定量する。本発明の一実施形態に係る電解液は、式(1)で示される金属錯体化合物を1種類を含んでいてもよいし、2種類以上を含んでいてもよい。
【0023】
<極性溶媒>
本実施形態の電解液は、極性溶媒を含む。極性溶媒は、式(1)で示される金属錯体化合物に含まれる極性溶媒Sを含んでいれば特に制限はなく、公知の極性溶媒を用いることができるが、電解質を溶解させやすい観点から、環状カーボネート、鎖状カーボネート、ニトリル化合物、カルボン酸エステル、エーテル系化合物又はスルホン系化合物等の有機極性溶媒が好ましく挙げられる。この中でも、環状カーボネート、鎖状カーボネート、ニトリル化合物、カルボン酸エステルが化合物の取り扱いの観点から好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の極性溶媒の組み合わせとして、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、及びカルボン酸エステルからなる群より選択される2種以上の組み合わせが好ましく、飽和環状カーボネート又は鎖状カーボネートの組み合わせがより好ましい。
【0024】
<電解質>
本実施形態の電解液は、電解質を含む。本実施形態の電解液に用いられる電解質は、B-F結合、S-F結合及びP-F結合からなるの群よりから選ばれる結合を少なくとも一つ有するアニオンを含む塩を含めば特段の制限はなく、公知の電解質を用いることができる。以下、電解質の具体例について詳述する。
【0025】
(リチウム塩)
本実施形態の電解液における電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、電解液に用いられることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを1種以上用いることができる。リチウム塩としては、具体的には例えば、LiBF等のフルオロホウ酸リチウム塩類;LiPF、LiPO等のフルオロリン酸リチウム塩類;FSOLi等のスルホン酸リチウム塩類;LiN(FSO等のリチウムイミド塩類;LiC(FSO等のリチウムメチド塩類;Li[BF(C)]、Li[PF(C]等のリチウムオキサラート塩類;及びLiPF(CF等の含フッ素有機リチウム塩類;等が挙げられる。
【0026】
電気化学的に安定な塩は、副反応の発生が少なく、電気容量のロスを抑制できる点から、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムオキサラート塩類、の中から選ばれるものが好ましく、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウムの中か
ら選ばれるものが好ましい。
電解液中の電解質の総濃度は、特に制限はないが、電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上である。また、その上限は、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電気化学反応に適正となるため、効率よく電極表面に金属及び/又は金属イオンを濃化できる。
【0027】
<電解液の製造方法>
本実施形態に係る電解液の製造方法は、一般式(1)で示される金属錯体化合物、極性溶媒、並びにB-F結合、S-F結合及びP-F結合からなる群より選ばれる結合を少なくとも一つ有するアニオンを含む電解質を含有する電解液を調製できれば、特に限定されない。
具体的には、例えば、後述の実施例のように、式(1)で示される金属錯体化合物を合成して得られた反応生成物を含む溶液を極性溶媒で希釈し、電解質を加えて電解液を得ることができる。
【0028】
[2.電気化学素子電極用表面処理剤]
本発明の一実施形態に係る電気化学素子電極用表面処理剤は、上記に説明した電解液を含む。
本発明の一実施形態に係る電解液そのものを電気化学素子電極用表面処理剤として金属イオン濃化処理工程に用いることもできるし、さらに極性溶媒等を加えて電気化学素子電極用表面処理剤として金属イオン濃化処理工程に用いることもできる。極性溶媒は、具体的には、[1.電解液]の項で説明したものが挙げられる。
【0029】
[3.電気化学素子電極の表面処理方法]
本発明の一実施形態に係る電気化学素子電極の表面処理方法は、上記の電気化学素子電極用表面処理剤の使用方法であって、複数の電極を当該電気化学素子電極用表面処理剤に接触した状態で該複数の電極を使用して電気化学素子電極用表面処理剤に電圧を印加する工程を含めば、特に限定されない。
例えば、第1の電気化学素子電極及び第2の電気化学素子電極を電気化学素子電極用表面処理剤を含む電解液に接触するように配置する工程、及び前記第1の電気化学素子電極と前記第2の電気化学素子電極を使用し、前記電気化学素子電極用表面処理剤に電圧を印加する工程を含む方法が挙げられる。印加する電圧、時間等の濃化処理の条件は電気化学素子によるが、例えば、電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合、初期コンディショニング後に、4.2VまでCC-CV充電を行った後、数時間放置し、その後2.5Vまで放電させることにより、濃化処理を行う方法が挙げられる。また、より濃化処理速度を上げるために電気化学素子を充電した状態で室温~85℃の適切な温度下で数日間放置することにより、濃化処理を行う方法が挙げられる。
【0030】
<電気化学素子電極>
本発明の一実施形態に係る電気化学素子電極用表面処理剤は、公知の電気化学素子電極の金属イオン濃化処理に適用できる。電気化学素子電極としては、好ましくは集電体表面の一部に電気化学的に金属イオンを吸蔵及び放出可能な物質を有するものである。電気化学的に金属イオンを吸蔵及び放出可能な物質を有するものとは、炭素系材料、Liと合金化可能な金属を含有する材料、リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でもサイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素系材料、Liと合金化可能な金属を含有する材料、又はLiと合金化可能な金属を含有する材料と黒鉛粒子との混合物を使用するのが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0031】
[4.電気化学素子電極の製造方法]
上述した電気化学素子電極用表面処理剤を用いて表面に金属及び/又は金属イオンが濃化された電気化学素子電極を製造する方法も本発明の一態様である。本実施形態に係る表面に金属及び/又は金属イオンが濃化された電気化学素子電極を製造する方法は、複数の電極を当該電気化学素子電極用表面処理剤に接触した状態で該複数の電極間に電圧を印加する工程を含めば、特に限定されない。
例えば、第1の電気化学素子電極及び第2の電気化学素子電極を上述の電気化学素子電極用表面処理剤に接触するように配置する工程、及び前記第1の電気化学素子と前記第2の電気化学素子電極の間に電圧を印加する工程により、前記第1の電極の表面に金属及び/又は金属イオンが濃化された電気化学素子電極を製造することができる。
第1の電気化学素子電極及び第2の電気化学素子電極については、公知の電気化学素子電極を用いることができ、公知の電気化学素子電極の好ましい態様は[3.電気化学素子電極の表面処理方法]の項において説明した通りである。また、印加する電圧、時間等の濃化処理の条件は電気化学素子によるが、[3.電気化学素子電極の表面処理方法]の項の説明が適用され、例えば、電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合、初期コンディショニング後に、4.2VまでCC-CV充電を行った後、数時間放置し、その後2.5Vまで放電させることにより、濃化処理を行う方法が挙げられる。濃化処理速度を上げるために電気化学素子を充電した状態で室温~85℃の適切な温度下で数日間放置する態様も好ましく挙げられる。
【実施例
【0032】
[式(1)で示される金属錯体化合物を含む溶液の調製]
1.ニッケル錯体含有溶液
アルゴングローブボックス中、50mLビーカーにNiCl 0.5g(3.9mmol)を秤量し、アセトニトリル(AN)に懸濁させた。これを撹拌しながら、AgPF 1.95g(7.7mmol)を細かく分けてゆっくりと加え、その後室温にて3時間撹拌した。反応進行とともにAgClの白色固体が生成した。そのまま一晩放置した後、AgClをろ別し、得られたろ液をロータリーエバポレータ―で減圧濃縮することで、[Ni2+(AN)x’](PF (x’=0~6)の青色固体を得た。ここに、45℃で融解させたエチレンカーボネート(EC)5.0g(56.8mmol)を加えて固体を溶解させ、35℃で6時間真空引きすることで、配位溶媒であったANを除去し、[Ni2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液としてニッケル錯体含有溶液を得た。
【0033】
2.マンガン錯体含有溶液
アルゴングローブボックス中、50mLビーカーにMnCl 0.10g(0.8mmol)を秤量し、アセトニトリル(AN)に懸濁させた。これを撹拌しながら、AgPF 0.402g(1.6mmol)を細かく分けてゆっくりと加え、その後室温にて3時間撹拌した。反応の進行とともにAgClの白色固体が生成した。そのまま一晩放置した後、AgClをろ別し、得られたろ液をロータリーエバポレータ―で減圧濃縮することで、[Mn2+(AN)x’](PF (x’=0~6)の白色固体を得た。ここに、45℃で融解させたエチレンカーボネート(EC)5.0g(56.8mmol)を加えて固体を溶解させ、35℃で6時間真空引きすることで、配位溶媒であったANを除去し、[Mn2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液としてマンガン錯体含有溶液を得た。
【0034】
3.銅錯体含有溶液
アルゴングローブボックス中、50mLビーカーにCuCl 0.50g(3.7mmol)を秤量し、アセトニトリル(AN)に懸濁させた。これを撹拌しながら、AgPF 1.88g(7.4mmol)を細かく分けてゆっくりと加え、その後室温にて3時間撹拌した。反応の進行とともにAgClの白色固体が生成した。そのまま一晩放置し
た後、AgClをろ別し、得られたろ液をロータリーエバポレータ―で減圧濃縮することで、[Cu2+(AN)x’](PF (x’=0~6)の青色固体を得た。ここに、45℃で融解させたエチレンカーボネート(EC)5.0g(56.8mmol)を加えて固体を溶解させ、35℃で6時間真空引きすることで、配位溶媒であったANを除去し、[Cu2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液として銅錯体含有溶液を得た。
【0035】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質としてLi(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O85質量部と、導電材としてアセチレンブラック10質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で、ディスパーザーで混合してスラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。
【0036】
[負極の作製]
天然黒鉛98質量部に、増粘剤及び結着剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)1質量部及びスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗布して乾燥した後、プレスして負極(「負極極板」ともいう。)とした。
【0037】
[電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、[Ni2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液を基に、混合溶媒中のニッケルイオン濃度が表1となるように、及び溶媒組成がエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)の混合物の体積比が3:4:3となるように、EC、EMC、DMCで希釈し、十分に乾燥させたLiPFを1モル/L(電解液中の濃度として)溶解させた。なお、ニッケル錯体含有溶液を含まない電解液を基準電解液と呼ぶ。表中、ニッケル元素(ニッケルイオン)の含有量は、後述する誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)の測定結果に基づき求めた値である。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液を100質量%とした時の含有量である。
【0038】
<電解液中におけるニッケル元素の含有量の測定>
電解液100μL(約130mg)を分取した。分取した電解液をPTFEビーカーに秤り取り、適切な量の濃硝酸を加えてホットプレート上で湿式分解した後に50mL定容し、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES、Thermo Fischer Scientific、iCAP 7600duo)を用いてLi及び酸濃度マッチング検量線法でニッケル元素の含有量を測定した。
【0039】
[電極処理用電気化学セルの製造]
上記の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電気化学セル要素を作製した。この電気化学セル要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子を突設するように挿入した後、上記調製後の電解液を袋内に注入し、真空封止を行い、ラミネート型の電気化学セルを作製した。
【0040】
<電気化学セルの評価>
[初期コンディショニング]
25℃の恒温槽中、電気化学セルを1/6C(1Cとは、充電または放電に1時間かかる電流値のことを示す。以下同様。)に相当する電流で4.2Vまで定電流-定電圧充電(以下、CC-CV充電と記載)した後、1/6Cで2.5Vまで放電することで初回充放電を行った。1/6Cで4.1VまでCC-CV充電を行った。その後、60℃、24時間の条件でエージングを実施した。その後、1/6Cで2.5Vまで放電し、電気化学セルを安定させた。さらに、1/6Cで4.2VまでCC-CV充電を行った後、1/6Cで2.5Vまで放電し、初期コンディショニングを行った。初回充放電時の充電容量と放電容量の差(充電容量-放電容量)から初期容量ロスを求めた。エージング時の充電容量と放電容量の差(充電容量-放電容量)からエージング容量ロスを求めた。初期容量ロスとエージング容量の和(初期容量ロス+エージング容量)を電気容量ロスとした。下記表1に、比較例1の電気容量ロスを100とした際の相対値(%)を示す。
【0041】
[電極表面への金属イオン濃化処理工程]
初期コンディショニング後の電気化学セルを再度、1/6Cで4.2VまでCC-CV充電を行った後、60℃、168時間の条件で高温保存を行った。高温保存後、電気化学セルを冷却させた後、電気化学セルを25℃において1/6Cで2.5Vまで放電させ、アルゴングローブボックス中で電気化学セルを解体して負極極板を取り出し、DMCで洗浄し、十分に乾燥させ、後述する方法で負極上のニッケル元素の量を測定した。この時、初期の電解液中のニッケル元素の濃度(μg/g)に対する負極上のニッケル元素の量(μg/cm)の値を、金属イオンの負極上への濃化率とした。下記表1に、比較例1の濃化率を100とした際の相対値を示す。
【0042】
[電極上のニッケル元素の含有量の測定]
負極極板を半分に切り、水抽出を行い、銅箔を除いた抽出液全量をケルダール湿式分解し、ICP-AESにて測定した。なお、セパレータが付着した負極は、セパレータも含めて湿式分解した。
【0043】
<比較例1>
電解液の調製に[Ni2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液の代わりに市販のビス(2,4-ペンタンジオナト)ニッケル(II)(Ni-acac、Aldrich)を用いた以外、実施例1と同様の方法で実施した。得られた濃化率を100として下記表に示す。
【0044】
<実施例2>
電解液の調製に[Ni2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液の代わりに[Mn2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液を用いる以外、実施例1と同様の方法で実施した。なお、電解液及び負極上の金属元素の分析は、ニッケル元素の代わりにマンガン元素を分析ターゲットとした。下記表1に、得られた濃化率を比較例2の濃化率を100とした際の相対値で示す。
【0045】
<比較例2>
電解液の調製に[Mn2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液の代わりに市販のマンガン(II) ビス(トリフルオロメタンスルホナート)(Mn-OTf、Aldrich)を用いる以外、実施例2と同様の方法で実施した。得られた濃化率を100として下記表に示す。
【0046】
<実施例3>
電解液の調製に[Ni2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液の代わりに[Cu2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液を用いた以外、実施例1と同様の方法で実施した。なお、電解液及び負極上の金属元素の分析は
、ニッケル元素の代わりに銅元素を分析ターゲットとした。下記表1に、得られた濃化率を比較例3の濃化率を100とした際の相対値で示す。
【0047】
<比較例3>
電解液の調製に[Cu2+(EC)](PF (x=1~6)を含むEC溶液の代わりに市販のトリフルオロメタンスルホン酸銅(II)(Cu-OTf、Aldrich)を用いた以外、実施例3と同様の方法で実施した。得られた濃化率を100として下記表に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
各金属種に対し、実施例と比較例との比較から、式(1)で示される金属錯体化合物を含有する方が、電極表面への金属イオン濃化処理工程において、副反応による電気容量のロスが小さく、電気化学反応の効率良く電極表面に金属及び/又は金属イオンを濃化できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、電極表面への金属イオン濃化処理工程において、副反応による電気容量のロスを抑制し、電気化学反応の効率良く電極表面に金属及び/又は金属イオンを濃化させることができ、有用である。