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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/134 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
F16F15/134 D
F16F15/134 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020206983
(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公開番号】P2021131152
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2020025990
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】吉川 直孝
(72)【発明者】
【氏名】仲 大輔
(72)【発明者】
【氏名】荻野 翔平
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-200032(JP,A)
【文献】特開平04-321819(JP,A)
【文献】特開昭61-286616(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0239557(US,A1)
【文献】特開2016-133123(JP,A)
【文献】実開昭48-021045(JP,U)
【文献】実開昭51-089958(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
F16D 11/00- 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機とトランスミッションとの間に配置されるダンパ装置であって、
前記原動機側の部材に連結される入力回転体と、
前記入力回転体と所定の捩り角度範囲で相対回転可能であり、前記トランスミッション側の部材に連結される出力回転体と、
所定の捩り特性を有し、前記入力回転体と前記出力回転体との間でトルクを伝達するとともに、原動機の回転変動を減衰するための弾性連結部と、
を備え、
前記弾性連結部の捩り特性は、前記原動機からの入力トルクが0から最大トルクの10%以上70%以下の間のいずれかのトルクまでの第1トルク範囲であって、かつ前記入力回転体と前記出力回転体との捩り角度が0度から第1捩り角度にわたる全角度範囲では第1剛性を有し、前記第1トルク範囲を越えた第2トルク範囲であって、かつ捩り角度が前記第1捩り角度を超えた範囲では前記第1剛性よりも低い第2剛性を有し、
前記弾性連結部は、前記入力回転体と前記出力回転体との間に設けられ、トルクを伝達する複数のコイルスプリングを有しており、
前記複数のコイルスプリングのうちの少なくとも1つは、予圧縮されて装着されており、
前記出力回転体は、前記コイルスプリングを収容する窓孔を有しており、
前記予圧縮されたコイルスプリングの自由長は、前記窓孔の幅の1.02倍以上1.43倍以下である、
ダンパ装置。
【請求項2】
前記第1剛性は前記第2剛性の1.5倍以上である、請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
入力されるトルクがストッパトルク以上の場合に前記入力回転体と前記出力回転体との相対回転を禁止するストッパ機構をさらに備え、
前記第1トルク範囲の上限値は、前記ストッパトルクの7%以上60%以下である、
請求項1又は2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
原動機とトランスミッションとの間に配置されるダンパ装置であって、
複数の窓部を有し、前記原動機側の部材に連結される入力回転体と、
前記複数の窓部に対応する位置に複数の窓孔を有し、前記入力回転体と所定の捩り角度範囲で相対回転可能であり、前記トランスミッション側の部材に連結される出力回転体と、
前記窓部及び窓孔に装着された複数の弾性部材を有し、前記入力回転体と前記出力回転体とを回転方向に弾性的に連結する弾性連結部と、
を備え、
前記複数の弾性部材のうちの少なくとも1つは予圧縮されて装着されており、
前記予圧縮された弾性部材の円周方向端面は、
前記入力回転体と前記出力回転体とが相対回転していない状態では前記窓部及び前記窓孔の少なくともいずれか一方の円周方向端部に径方向内側のみが当接し、
前記入力回転体と前記出力回転体との捩り角度が第1捩り角度になった状態で前記窓部及び前記窓孔の少なくともいずれか一方の円周方向端部に径方向の内側及び外側の両方が当接し、
前記弾性連結部は前記複数の弾性部材による捩り特性を有し、
前記捩り特性は、捩り角度が0度から第1捩り角度にわたる全角度範囲では第1剛性を有し、捩り角度が前記第1捩り角度を超えた範囲では前記第1剛性よりも低い第2剛性を有する、
ダンパ装置。
【請求項5】
前記予圧縮された弾性部材が装着された窓部及び窓孔の少なくとも一方は、円周方向の端面が、径方向内側から外側に向かって開く開き角度を有しており、
前記入力回転体と前記出力回転体とが相対回転していない状態では、前記開き角度を有する窓部及び/又は窓孔の径方向外側部分と前記弾性部材との間に隙間が形成されている、
請求項に記載のダンパ装置。
【請求項6】
前記複数の弾性部材はすべて予圧縮されて前記窓孔に装着されており、
前記複数の窓孔はすべて前記開き角度を有している、
請求項に記載のダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ装置、特に、原動機とトランスミッションとの間に配置されるダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌に用いられるクラッチディスク組立体は、フライホイールに押圧されるクラッチディスクと、ダンパ装置と、を有している。ダンパ装置は、クラッチディスクを介してエンジンから伝達されたトルクをトランスミッション側に伝達するとともに、エンジンの回転変動を減衰する。
【0003】
この種のダンパ装置が特許文献1に示されている。特許文献1のダンパ装置は、入力回転体と、出力回転体と、弾性連結部と、を備えている。入力回転体及び出力回転体は、同軸であり、同じ回転軸心回りに回転可能である。弾性連結部は、複数のコイルスプリングを有しており、このコイルスプリングは、圧縮された状態で、入力回転体と出力回転体との間に設けられている。
【0004】
そして、この特許文献1のダンパ装置では、エンジンがアイドル状態になるまでの始動時と、エンジンがアイドル状態から停止するまでの間と、において、入力回転体が出力回転体に対して相対的に回転することが制限される。このため、エンジン始動時及びエンジン停止時において、ダンパ装置の共振による振動や騒音が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-133123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のダンパ装置では、入力回転体と出力回転体とを連結するコイルスプリングが、予め圧縮されて装着されている。すなわち、コイルスプリングにはプリロードがかけられている。そして、このコイルスプリングに対するプリロードによって、エンジン始動時及び停止時の低トルクのときに、入力回転体と出力回転体とが捩れないようにしている。
【0007】
ここで、特に小排気量、たとえば、3気筒で排気量が1000cc程度の車両においては、エンジンが低トルクのときには、回転振動の減衰性能を損なわない範囲でダンパ装置の機能を制限することによってドライバビリティを向上させ、エンジンが高トルクであって、ハイギヤで走行している際に、ダンパ装置の機能を発揮させるのが望ましい場合がある。
【0008】
また、エンジンの回転変動を効果的に減衰させるためには、ダンパ装置の捩り剛性(具体的には、コイルスプリングの剛性)を低くするのが好ましい。そして、捩り剛性を低くし、かつ所定のトルク伝達容量を確保するためには、捩り角度を広角にする必要がある。しかし、捩り角度を広角にするためには、装置のサイズが大きくなる。また、捩り角度を広角にすると、ヒステリシストルクを発生するための摩擦部材の早期摩耗を招くことになる。
【0009】
本発明の課題は、ダンパ装置において、低トルク時において回転振動の減衰性能を損なわない範囲でドライバビリティを向上させるとともに、比較的高トルクで走行している場合に回転変動を減衰でき、しかも装置の大型化を避けることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るダンパ装置は、原動機とトランスミッションとの間に配置される。このダンパ装置は、入力回転体と、出力回転体と、弾性連結部と、を備えている。入力回転体は、原動機側の部材に連結される。出力回転体は、入力回転体と所定の捩り角度範囲で相対回転可能であり、トランスミッション側の部材に連結される。弾性連結部は、所定の捩り特性を有し、入力回転体と出力回転体との間でトルクを伝達するとともに、原動機の回転変動を減衰する。
【0011】
そして、弾性連結部の捩り特性は、原動機からの入力トルクが0から最大トルクの10%以上70%以下の間のいずれかのトルクまでの第1トルク範囲では第1剛性を有し、第1トルク範囲を越えた第2トルク範囲では第1剛性よりも低い第2剛性を有する。
【0012】
ここでは、弾性連結部の捩り特性は、第1トルク範囲では、第2剛性よりも高い第1剛性を有している。このため、第1剛性を、たとえばリジッド(実質的に、弾性連結部において弾性変形がない状態での連結)、あるいは非常に高い剛性にすれば、第1トルク範囲でのドライバビリティが向上する。また、第2トルク範囲では、低い第2剛性であるので、走行時における原動機の回転変動を効果的に減衰することができる。さらに、第1剛性が高剛性であるので、捩り角度を広角化することなく、所望のトルク伝達容量を得ることができる。したがって、装置のサイズが大型化するのを避けることができる。また、捩り角度の広角化を避けることができるので、ヒステリシストルクを発生するための機構を設けた場合、その機構を構成する摩擦部材の摩耗を抑えることができる。
【0013】
(2)好ましくは、第1剛性は第2剛性の1.5倍以上である。
【0014】
(3)好ましくは、ダンパ装置は、入力されるトルクがストッパトルク以上の場合に入力回転体と出力回転体との相対回転を禁止するストッパ機構をさらに備えている。この場合、第1トルク範囲の上限値は、ストッパトルクの7%以上60%以下である。
【0015】
(4)好ましくは、弾性連結部は、入力回転体と出力回転体との間に設けられ、トルクを伝達する複数の弾性部材を有している。この場合は、複数の弾性部材のうちの少なくとも1つは、予圧縮されて装着されている。
【0016】
(5)好ましくは、弾性部材はコイルスプリングであり、出力回転体は、コイルスプリングを収容する収容部を有している。そして、この場合、予圧縮されたコイルスプリングの自由長は、収容部の幅の1.02倍以上1.43倍以下である。
【0017】
(6)本発明の別の側面に係るダンパ装置は、原動機とトランスミッションとの間に配置される。このダンパ装置は、入力回転体と、出力回転体と、弾性連結部と、を備えている。入力回転体は、複数の窓部を有し、原動機側の部材に連結される。出力回転体は、複数の窓部に対応する位置に複数の窓孔を有し、入力回転体と所定の捩り角度範囲で相対回転可能であり、トランスミッション側の部材に連結される。弾性連結部は、窓部及び窓孔に装着された複数の弾性部材を有し、入力回転体と出力回転体とを回転方向に弾性的に連結する。
【0018】
また、複数の弾性部材のうちの少なくとも1つは予圧縮されて装着されている。そして、予圧縮された弾性部材の円周方向端面は、入力回転体と出力回転体とが相対回転していない状態では、窓部及び窓孔の少なくともいずれか一方の円周方向端部に、径方向内側のみが当接して、入力回転体と出力回転体とが所定角度相対回転した状態で、窓部及び窓孔の少なくともいずれか一方の円周方向端部に、径方向の内側及び外側の両方が当接する。
【0019】
ここでは、複数の弾性部材のうちの少なくとも1つが予圧縮されて装着されている。そして、入力回転体と出力回転体とが捩れる際には、予圧縮された弾性部材は、まず、その端面の径方向内側のみが押圧され、さらに捩り角度が大きくなると、径方向の内側及び外側の両方が押圧される。
【0020】
したがって、弾性連結部の捩り特性を、原動機からダンパ装置に低トルクが入力された場合は、回転変動の減衰性能を損なわない程度で、かつ非常に高い剛性に設定することができる。このため、原動機からのトルクが低い場合、回転変動を抑えつつ、ドライバビリティを向上させることができる。
【0021】
また、原動機から高トルクが入力された場合は、捩り特性を低い剛性にすることができ、走行時における原動機の回転変動を効果的に減衰することができる。
【0022】
(7)好ましくは、予圧縮された弾性部材が装着された窓部及び窓孔の少なくとも一方は、円周方向の端面が、径方向内側から外側に向かって開く開き角度を有している。そして、入力回転体と出力回転体とが相対回転していない状態では、開き角度を有する窓部及び/又は窓孔の径方向外側部分と弾性部材との間に隙間が形成されている。
【0023】
(8)好ましくは、複数の弾性部材はすべて予圧縮されて窓孔に装着されており、複数の窓孔はすべて前記開き角度を有している。
【発明の効果】
【0024】
以上のような本発明では、低トルク時のドライバビリティが向上するとともに、比較的高トルクで走行している場合に回転変動を効果的に減衰できる。また、本件発明では、装置の大型化を避けることができる。さらに、第1剛性を、非常に高い剛性に設定すれば、低トルク時のダンパ作動をほぼ無くすことができ、ヒステリシストルク発生部品(摩擦部材)の摺動量を低減させ、長期にわたって安定したヒステリシストルクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態によるダンパ装置を有するクラッチディスク組立体の断面図。
図2図1のクラッチディスク組立体の正面図。
図3図2の拡大部分図。
図4】ダンパ装置の捩り特性線図。
図5】本発明の一実施形態によるダンパ装置を有するロックアップクラッチ付きトルクコンバータの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[構成]
図1は、本発明の一実施形態としてのダンパ装置を有するクラッチディスク組立体1の断面図である。また、図2は、その正面図である。クラッチディスク組立体1は、車両のエンジンとトランスミッションとの間に配置される。図1において、O-O線がクラッチディスク組立体1の回転軸である。図1の左側にエンジン及びフライホイール(図示せず)が配置され、図1の右側にトランスミッション(図示せず)が配置される。
【0027】
なお、以下の説明において、軸方向とは、クラッチディスク組立体1の回転軸Oが延びる方向である。また、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。なお、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向に完全に一致している必要はなく、例えば、図3に示された窓部及び窓孔を基準とした左右方向も含む概念である。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の直径方向に完全に一致している必要はなく、例えば、図3に示された窓部及び窓孔を基準とした上下方向も含む概念である。
【0028】
クラッチディスク組立体1は、クラッチ部2と、ダンパ部3(ダンパ装置の一例)と、を備えている。ダンパ部3は、入力回転体5と、出力回転体6と、弾性連結部7と、ストッパ機構8(図2参照)と、ヒス発生機構9と、を備えている。
【0029】
クラッチ部2は、クッショニングプレート11と、1対の摩擦フェーシング12と、を有している。クッショニングプレート11は、環状部11aと、環状部11aから径方向外方に突出する複数のクッション部11bと、を有している。1対の摩擦フェーシング12は、環状であり、クッション部11bの軸方向両側にリベット13によって固定されている。
【0030】
入力回転体5は、クラッチプレート15とリティニングプレート16とを有している。クラッチプレート15及びリティニングプレート16は、ともに板金製の円板状かつ環状の部材であり、互いに対して軸方向に所定の間隔を開けて配置されている。クラッチプレート15はエンジン側に配置され、リティニングプレート16はトランスミッション側に配置されている。そして、両プレート15,16は、4つのストップピン17によって互いに相対回転不能及び軸方向移動不能に固定されている。これにより、クラッチプレート15とリティニングプレート16とは一体回転する。
【0031】
クラッチプレート15及びリティニングプレート16には、それぞれ中心孔が形成されている。また、クラッチプレート15及びリティニングプレート16には、それぞれ4つの窓部15a,16aが円周方向に並べて形成されている。各窓部15a,16aは同一形状であり、同一半径方向位置に形成されている。各窓部15a,16aは概ね円周方向に長く延びている。また、各窓部15a,16aは、軸方向に貫通した孔と、その孔の縁に沿って形成された支持部と、を有している。
【0032】
出力回転体6は、入力回転体5から弾性連結部7を介してトルクが入力され、さらに図示しないトランスミッションの入力シャフトにトルクを出力するための部材である。出力回転体6は、入力回転体5に対して、所定の角度範囲内で相対回転可能であり、ボス20とフランジ21とを有している。
【0033】
ボス20は、筒状に形成されており、クラッチプレート15及びリティニングプレート16の中心孔内に配置されている。ボス20の内周面には、スプライン孔20aが形成されており、このスプライン孔20aがトランスミッションの入力シャフトに対してスプライン係合可能である。
【0034】
フランジ21は、概略円板状であり、ボス20の外周面から径方向外方に延びて形成されている。フランジ21は、クラッチプレート15とリティニングプレート16との軸方向間に配置されている。フランジ21には、クラッチプレート15及びリティニングプレート16の各窓部15a,16aに対応する位置に、4つの窓孔21aが形成されている。各窓孔21aは、軸方向に打ち抜かれた孔であり、円周方向に長く延びている。
【0035】
図3に、窓孔21aを拡大して示している。窓孔21aの円周方向の両端面21cは、図3に示すように、開き角度Dを有している。すなわち、窓孔21aの端面21cは、径方向内側から外側に向かって開いている。
【0036】
ここで、開き角度Dとは、回転中心Oと窓孔21aの幅方向の中心とを結ぶ直線Cと、窓孔21aの円周方向端面21cと、の角度である。また、直線Cと、後述するコイルスプリング24の端面24aと、は平行である。したがって、開き角度Dは、コイルスプリング24の端面24aと、窓孔21aの円周方向端面21cと、の角度でもある。
【0037】
なお、図3では、理解の便宜のために開き角度を実際の角度よりも大きく示している。実際の開き角度は、例えば、0.5度に設定されているが、この開き角度については、ダンパ装置が搭載されるエンジンの仕様等によって適宜設定される。
【0038】
また、図2に示すように、フランジ21の外周縁には、円周方向の所定の幅を有する切欠21bが形成されている。この切欠21bを、ストップピン17が軸方向に通過している。この切欠21b及びストップピン17によって、ストッパ機構8が構成されている。すなわち、ストップピン17が切欠21bの円周方向端面に当接することにより、入力回転体5と出力回転体6との相対回転が禁止される。
【0039】
弾性連結部7は、所定の捩り特性を有し、入力回転体5と出力回転体6との間でトルクを伝達するとともに、エンジンの回転変動を減衰するための機構である。弾性連結部7は、4つのコイルスプリング24を有している。各コイルスプリング24は、フランジ21の窓孔21aに、予め圧縮された状態で装着されている。
【0040】
ここで、図3及び前述のように、窓孔21aの端面21cは開き角度Dを有している。したがって、入力回転体5と出力回転体6との相対回転角度が「0」の状態(両者に捩れがない状態)では、コイルスプリング24の端面24aは、径方向内側の一部のみが窓孔21aの端面21cに当接し、それ以外の部分は、窓孔21aの端面21cから離れており、両者の間には隙間が形成されている。
【0041】
また、この実施形態では、4つのコイルスプリング24は、すべて同じ自由長Lを有している。そして、窓孔21aの円周方向の幅W(径方向中央部における幅)に対して、自由長Lは、1.20倍(L=1.20×W)となっている。
【0042】
なお、コイルスプリング24の自由長Lは、窓孔の幅Wに対して、1.02倍以上1.43倍以下(L=(1.02~1.43)×W)が好ましい。自由長Lが窓孔の幅Wの1.02倍未満の場合は、低トルクでの走行時におけるドライバビリティの向上が低下する。また、自由長Lが窓孔の幅Wの1.43倍を超えると、コイルスプリングの作動時における応力が高くなり、コイルスプリングの寿命が低下する。
【0043】
ヒス発生機構9は、入力回転体5と出力回転体6とが相対回転する際に、回転方向の摩擦抵抗であるヒステリシストルクを発生する。ヒス発生機構9は、第1ブッシュ26と、第2ブッシュ27と、コーンスプリング28と、を有している。
【0044】
第1ブッシュ26は、クラッチプレート15の内周部とフランジ21との間に配置されている。第1ブッシュ26は、軸方向に突出する複数の係合突起26aを有している。この係合突起26aが、クラッチプレート15に形成された孔に係合している。このため、第1ブッシュ26は、クラッチプレート15とともに回転し、フランジ21との間で摩擦接触する。
【0045】
第2ブッシュ27は、リティニングプレート16の内周部とフランジ21との間に配置されている。第2ブッシュ27は、軸方向に突出する複数の係合突起27aを有している。この係合突起27aが、リティニングプレート16に形成された孔に係合している。このため、第2ブッシュ27は、リティニングプレート16とともに回転し、フランジ21との間で摩擦接触する。
【0046】
コーンスプリング28は、第2ブッシュ27とリティニングプレート16との間に、圧縮された状態で配置されている。このコーンスプリング28によって、第1ブッシュ26及び第2ブッシュ27は、フランジ21に圧接されている。
【0047】
[動作]
図4に示す捩じり特性線図を用いて、クラッチディスク組立体1の動作について説明する。なお、図4において、Tiは、コイルスプリング24の予圧縮によって、コイルスプリング24が作動(予圧縮からさらに圧縮される状態)するトルク(イニシャルトルク)である。また、Tsは、ストッパ機構8が作動する際のトルク(ストッパトルク)である。
【0048】
エンジンから入力されるトルクが低い状態、具体的には、0(N・m)からイニシャルトルクTiまでの第1トルク範囲では、コイルスプリング24が予め圧縮されてプリロードがかけられているために、高い第1剛性を示している(捩り特性A)。
【0049】
より詳細には、エンジンからのトルクが第1トルク範囲では、まず、コイルスプリング24の端面24aの径方向内側のみが窓孔21aの端面21cによって押圧される。そして、捩り角度がθになると、コイルスプリング24の端面24aの径方向の内側と外側の両方が、窓孔21aの端面21cに接触して押圧されることになる。このような作動によって、図4の捩り特性Aが得られる。
【0050】
なお、この例におけるイニシャルトルクTiは、コイルスプリング24の自由長Lが、窓孔の円周方向の幅Wの1.2倍(L=1.20×W)の場合に相当している。ここで、コイルスプリング24の自由長Lは、窓孔の幅Wに対して、1.02倍以上1.43倍以下(L=(1.02~1.43)×W)であることが好ましく、この場合は、イニシャルトルクTiは、エンジンの最大トルクの10%以上70%以下に相当している。
【0051】
次に、エンジンからのトルクがイニシャルトルクTiを超えた第2トルク範囲では、コイルスプリング24が作動し、コイルスプリング24によって設定された第2剛性の捩り特性で、入力回転体5と出力回転体6との間でトルクが伝達される(捩り特性B)。ここで、第1剛性は第2剛性の1.5倍以上が好ましく、第1剛性はリジットの場合も含んでいる。
【0052】
以上のような捩り特性によって、イニシャルトルクTiまでの比較的低トルクでの走行時には、高剛性である第1剛性の捩り特性Aによって、回転変動を抑えつつ、ドライバビリティを向上させることができる。一方、イニシャルトルクTiを超えた捩り角度領域での走行時には、低剛性の第2剛性の捩り特性Bによって、効果的にエンジンの回転変動を減衰することができる。
【0053】
なお、図4の捩り特性Cは、コイルスプリング24を予圧縮していない場合で、ストッパトルクTsを達成するための特性である。特性Bと特性Cとを比較して明らかなように、本実施形態では、比較的高トルクでの走行時において、低剛性の捩り特性を実現することができる。
【0054】
なお、イニシャルトルクTiの設定については、ストッパトルクTsに対する割合でも特定することができる。すなわち、この実施形態では、イニシャルトルクTiは、ストッパトルクTsの42%である。また、イニシャルトルクTiは、ストッパトルクの7%以上60%以下が好ましい。
【0055】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0056】
(a)前記実施形態では、弾性連結部7を4つのコイルスプリング24によって構成したが、コイルスプリング24の個数はこの例に限定されない。
【0057】
(b)前記実施形態では、4つのコイルスプリング24を予圧縮して装着したが、例えば4つのコイルスプリングのうちの2つを予圧縮して装着し、残りの2つのコイルスプリングを予圧縮せずに装着するようにしてもよい。
【0058】
(c)前記実施形態では、本発明をクラッチディスク組立体に適用したが、別の動力伝達装置のダンパ装置としても本発明を同様に適用することができる。
【0059】
図5に本発明のダンパ装置をトルクコンバータのロックアップクラッチに適用した例を示している。図5において、トルクコンバータ50は、トルクコンバータ本体51と、ロックアップクラッチ52と、を備えている。
【0060】
トルクコンバータ本体51は、周知の構造であり、インペラ55、タービン56、及びステータ57を有している。インペラ55はフロントカバー58に連結され、タービン56は図示しないトランスミッションの軸に連結可能である。
【0061】
ロックアップクラッチ52は、ピストン61と、ダンパ部62と、を有している。ダンパ部62は、具体的な形状は異なるが、図1に示したダンパ部3と基本的に同様の構造である。すなわち、ダンパ部62は、1対の入力プレート65(図1の入力回転体5に相当)と、出力プレート66(図1の出力回転体6に相当)と、複数のスプリング67(図1の弾性連結部7に相当)と、ヒス発生機構69(図1のヒス発生機構9に相当)と、を備えている。
【0062】
このようなダンパ部62を有するロックアップクラッチ52においても、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0063】
3 ダンパ部
5 入力回転体
6 出力回転体
7 弾性連結部
8 ストッパ機構
15a,16a 窓部
21a 窓孔
24 コイルスプリング
図1
図2
図3
図4
図5