IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】樹脂発泡体シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20241206BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20241206BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241206BHJP
   C09J 7/26 20180101ALI20241206BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20241206BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CEQ
C08J9/04 CET
C08J9/04 CES
C08K7/18
C08L101/00
C09J7/26
C09J7/38
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020533866
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019160
(87)【国際公開番号】W WO2021229731
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】浜田 晶啓
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/235529(WO,A1)
【文献】特開2013-227486(JP,A)
【文献】特開2020-037602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C09J 7/00-7/50
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有し、23℃での200%引張り後の復元率が90%以上であり、表面のタック性が1,200gf/cm以下であり、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有し、熱可塑性エラストマーと無機フィラーの含有比率が質量比で、100:30~100:150であり、前記無機フィラーが球形フィラーである、樹脂発泡体シート。
【請求項2】
伸縮性を有し、23℃での200%引張り後の復元率が90%以上であり、表面のタック性が1,200gf/cm以下であり、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂の含有比率が質量比で、85:1570:30であり、樹脂発泡体シートにおいて、樹脂の含有量が、前記樹脂発泡体シート全量基準で、70質量%以上である、樹脂発泡体シート。
【請求項3】
25%圧縮強度が500kPa以下である、請求項1又は2に記載の樹脂発泡体シート。
【請求項4】
熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン系樹脂を含有する、請求項1に記載の樹脂発泡体シート。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂から選ばれる1種以上である、請求項に記載の樹脂発泡体シート。
【請求項6】
独立気泡率が80%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂発泡体シート。
【請求項7】
厚さが0.03~2mmである、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂発泡体シート。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂発泡体シートと、該樹脂発泡体シートの少なくともいずれか一方の面に設けた粘着材とを備える、粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂発泡体シートに関し、例えば、フレキシブル機能を有する電子機器に好適に使用される樹脂発泡体シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パーソナルコンピューター、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末及びテレビ等の電子機器においては、ディスプレイ等に加えられる衝撃を緩衝するために緩衝材が使用される。これら電子機器においては、薄厚でありながらも、高い緩衝性能を発現できることから、樹脂発泡体シートが緩衝材として広く使用されている。樹脂発泡体シートにおいては、一般的にポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が使用される。
【0003】
近年、フォルダブル(Foldable)及びローラブル(Rollable)等のフレキシブル(Flexible)機能を有する電子機器、特に、スマートフォン、タブレット端末、薄型テレビの開発が進んでいる。フレキシブル機能を有する電子機器において、折り曲げ等の動作を行った場合、緩衝材として使用されている樹脂発泡体シートに強い応力が発生し、従来の樹脂発泡体シートでは損傷が生じたり、性能低下が生じたりするおそれがある。
そこで、樹脂発泡体シートに発生する応力に対応するために、伸縮性の高い樹脂発泡体シートが望まれている。伸縮性の高い樹脂発泡体シートとしては、アクリル樹脂を発泡させたアクリルフォームを有するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2012-519750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アクリルフォームは、伸縮性が高いという特徴だけではなく、タック性が高いという特徴をあわせ持っている。アクリルフォームは、タック性が高いことでテープ化工程等表層保護フィルムを外した工程におけるハンドリング性が劣り、量産に耐えることは困難である。アクリルフォームのタック性を抑制する手段を施すことは可能であるが、抑制する手段を施した場合には構造骨格上、復元性が損なわれてしまう。
つまり、伸縮性及び復元性が良好で、かつタック性が低く、フレキシブル機能を有する電子機器の緩衝材として使用可能な樹脂発泡体シートは今のところ開発されていない。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、伸縮性を有しつつ、タック性が低く、復元性に優れる樹脂発泡体シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、23℃での200%引張り後のシートの復元率が所定の範囲であり、タック性が所定値以下となることで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1]伸縮性を有し、23℃での200%引張り後の復元率が90%以上であり、表面のタック性が1,200gf/cm以下である、樹脂発泡体シート。
[2]25%圧縮強度が500kPa以下である、上記[1]に記載の樹脂発泡体シート。
[3]熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン系樹脂を含有する、上記[1]又は[2]に記載の樹脂発泡体シート。
[4]熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂の含有比率が質量比で、90:10~70:30である、上記[3]に記載の樹脂発泡体シート。
[5]前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂から選ばれる1種以上である、上記[3]又は[4]に記載の樹脂発泡体シート。
[6]熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有する、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の樹脂発泡体シート。
[7]熱可塑性エラストマーと無機フィラーの含有比率が質量比で、100:30~100:150である、上記[6]に記載の樹脂発泡体シート。
[8]独立気泡率が80%以上である、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の樹脂発泡体シート。
[9]厚さが0.03~2mmである、上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の樹脂発泡体シート。
[10]上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の樹脂発泡体シートと、該樹脂発泡体シートの少なくともいずれか一方の面に設けた粘着材とを備える、粘着テープ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、伸縮性を有しつつ、タック性が低く、復元性に優れる樹脂発泡体シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[樹脂発泡体シート]
本発明の樹脂発泡体シートは、伸縮性を有し、23℃での200%引張り後の復元率が90%以上であり、表面のタック性が1,200gf/cm以下となるものである。
【0010】
(23℃での200%引張り後の復元率)
本発明の樹脂発泡体シートは、伸縮性を有し、23℃での200%引張り後の復元率が高い(すなわち、樹脂発泡体シートの復元性が高い)ため、23℃程度の常温(以下、単に「常温」という場合がある)で折り曲げ等を繰り返しても、損傷及び性能低下が生じにくいことから、フレキシブル機能を有する電子機器等に好適に使用できる。このように23℃程度の常温下において局所的に伸張されたときの復元性をより高くする観点から、23℃での200%引張り後のシート復元率は、92%以上が好ましく、94%以上がより好ましく、96%以上がさらに好ましく、100%に近ければ近いほどよい。樹脂発泡体シートの23℃での200%引張り後のシート復元率の上限は100%である。
なお、本発明において「200%の引張り」とは、引張り後のシートの長さが元の長さに対して200%となるまで樹脂発泡体シートを伸張させることを意味し、23℃での200%引張り後のシート復元率は、以下の式より算出することができる。
23℃での200%引張り後のシート復元率(%) = {1-(x-y)/y}×100
式中において、xは、樹脂発泡体シートを200%で引張り、引張り解放から1分間養生を行った後に測定した樹脂発泡体シートの長さであり、yは引張り前の樹脂発泡体シートの元の長さである。より具体的な測定方法は実施例に記載する。
【0011】
(伸縮性)
本発明の樹脂発泡体シートは伸縮性を有するものであるが、伸縮性を有するとは、上記したように、シート長さが元の長さの200%程度となるように引張り歪みを与えても、その歪み解放後のシート復元率が90%以上程度になる弾性を有することを意味する。
【0012】
(タック性)
本発明の樹脂発泡体シートは、表面のタック性が低いため、製造工程において樹脂発泡体シートのハンドリング性が高くなり、生産性を向上させることができる。生産性を向上させる観点から、表面のタック性は、1,000gf/cm以下であることが好ましく、800gf/cm以下であることがより好ましく、600gf/cm以下であることがさらに好ましい。樹脂発泡体シートの表面のタック性は、所定値以上であると追従性に優れ、例えば、樹脂発泡体シートを粘着テープに使用した際、接着力が向上する観点から、25gf/cm以上であることが好ましく、50gf/cm以上であることがより好ましく、75gf/cm以上であることがさらに好ましい。
なお、樹脂発泡体シート表面のタック性の測定方法は、後述する実施例に記載されるとおりである。
【0013】
(25%圧縮強度)
本発明の樹脂発泡体シートは、25%圧縮強度が500kPa以下であることが好ましい。樹脂発泡体シートは25%圧縮強度が500kPa以下であると、緩衝材として必要とされる柔軟性が確保され、樹脂発泡体シートの衝撃吸収性が優れたものとなる。また、追従性に優れ、例えば、樹脂発泡体シートを粘着テープに使用した際、接着力が向上する。
25%圧縮強度は、柔軟性をより高めて、衝撃吸収性及び追従性をさらに向上させるために、450kPa以下がより好ましく、400kPa以下がさらに好ましく、380kPa以下がよりさらに好ましい。
また、25%圧縮強度は、樹脂発泡体シートに適度な機械強度を付与するために、10kPa以上が好ましく、15kPa以上がより好ましく、25kPa以上がさらに好ましい。
【0014】
(独立気泡率)
樹脂発泡体シートの独立気泡率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることがよりさらに好ましい。独立気泡率が80%以上であると、強い衝撃にさらされても復元性が高くなり、折り曲げ等により伸縮を繰り返した後でも、損傷や性能低下が生じにくくなる。独立気泡率は高ければ高いほどよく、100%以下であればよい。
独立気泡率の測定方法は、以下のとおりである。
樹脂発泡体シートから一辺が5cmの平面正方形状の試験片を切り出す。そして、試験片の厚さを測定して試験片の見掛け体積V1を算出すると共に、試験片の重量W1を測定する。次に、気泡の占める体積V2を下記式に基づいて算出する。なお、試験片の密度をρ(g/cm)とする。
気泡の占める体積V2=V1-W1/ρ
続いて、試験片を23℃の蒸留水中に水面から100mmの深さに沈めて、試験片に15kPaの圧力を3分間に亘って加えた。しかる後、試験片を水中から取り出して試験片の表面に付着した水分を除去して試験片の重量W2を測定し、下記式に基づいて独立気泡率F1を算出する。
独立気泡率F1(%)=100-100×(W2-W1)/V2
【0015】
(発泡倍率)
樹脂発泡体シートの発泡倍率は、1.1倍以上15倍以下が好ましく、1.4倍以上10倍以下がより好ましく、1.6倍以上5倍以下がさらに好ましい。発泡倍率が、上記範囲内であると、樹脂発泡体シートが適度に発泡されることで柔軟性が良好となり、衝撃吸収性や追従性等が良好になりやすくなる。また、樹脂発泡体シートに一定の機械強度が付与され、耐衝撃性等も良好となる。
【0016】
(架橋度)
本発明の樹脂発泡体シートは、架橋されることが好ましい。また、本発明の樹脂発泡体シートの架橋度は、20質量%以上が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。本発明においては樹脂発泡体シートの架橋度を上記範囲内とすることにより、常温環境下におけるシート復元率を高くしやすくなり、上記シート復元率を所望の範囲内に調整しやすくなる。そして、常温下でも良好な柔軟性を有しつつ、損傷や性能低下が生じにくい樹脂発泡体シートを得ることができる。架橋度は、これら観点から、20質量%以上50質量%以下がさらに好ましく、20質量%以上45質量%以下がさらに好ましい。
ただし、樹脂として、例えば後述する動的架橋型のオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いた場合などは架橋しなくても、常温環境下におけるシート復元率を高くして、所望の範囲内に調整できることがある。
【0017】
(平均気泡径)
本発明に用いる樹脂発泡体シートの平均気泡径は、好ましくは5μm以上500μm以下であり、より好ましくは10μm以上250μm以下であり、さらに好ましくは25μm以上200μm以下である。平均気泡径をこれら下限値以上とすることで柔軟性を確保しやすくなり、上限値以下とすることで復元性を確保でき、折り曲げ等が繰り返されても損傷や性能低下が生じ難くなる。
本明細書において平均気泡径とは、樹脂発泡体シートのMDにおける平均気泡径とTDにおける平均気泡径の平均値(以下、単に「(MD+TD)/2」ともいう)を意味する。
なお、MDは、Machine directionを意味し、押出方向等と一致する方向であるとともに、TDは、Transverse directionを意味し、MDに直交する方向であり、樹脂発泡体シートにおいてシート面に平行な方向である。なお、押出方向が不明であるときには、厚さ方向に垂直でシート面に平行な任意の一方向をMDとする。
【0018】
(厚さ)
樹脂発泡体シートの厚さは、0.03~2.0mmであることが好ましい。厚さを0.03mm以上とすると、樹脂発泡体シートの耐衝撃性及び衝撃吸収性等の確保が容易になる。また、厚さを2.0mm以下とすると、薄型化が可能になり、テレビ、スマートフォン、タブレット等の薄型電子機器に好適に使用できる。さらに、樹脂発泡体シートの柔軟性も確保しやすくなる。
これらの観点から、樹脂発泡体シートの厚さは、0.08~1.5mmであることがより好ましく、0.10~1.0mmであることがさらに好ましい。
【0019】
樹脂発泡体シートは、単層からなるものが好ましく、その場合、樹脂発泡体シートは一層の発泡層からなる。ただし、樹脂発泡体シートは、樹脂発泡体シート全体として、上記した各種物性を有する限り、多層であってもよい。多層である場合には、通常、2以上の発泡層からなるが、本発明の効果を損なわない限り、1以上の発泡層と、1以上の非発泡層を含む積層体であってもよい。
【0020】
(樹脂)
本発明の樹脂発泡体シートに含有される樹脂は、少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。樹脂発泡体シートは、熱可塑性エラストマーを含むことで、折り曲げ等したときに伸張して内部の圧力の上昇を抑え、樹脂発泡体シートに作用される応力を低減できる。したがって、シート復元率を、上記した所定の範囲内に調整しやすくなる。また、本発明の樹脂発泡体は、後述するように、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂とを含有することがより好ましい。これらの樹脂を併用することにより、復元率を高くしつつ、表面のタック性を低減させた樹脂発泡シートを得やすくなる。
【0021】
(熱可塑性エラストマー)
熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱可塑性エラストマーとして挙げた中でも、樹脂発泡体シートの復元率を上記範囲内に調整しやすい観点から、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びスチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種が好ましい。熱可塑性エラストマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
《オレフィン系熱可塑性エラストマー》
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ブレンド型、動的架橋型、重合型のものが挙げられ、より具体的には、ハードセグメントにポリプロピレンやポリエチレン等の熱可塑性結晶性ポリオレフィンを使用し、ソフトセグメントに完全加硫又は部分加硫したゴムを使用した熱可塑性エラストマーが挙げられる。
熱可塑性結晶性ポリオレフィンとしては、例えば、1~4個の炭素原子を有するα-オレフィンのホモポリマー又は二種以上のα-オレフィンの共重合体が挙げられ、ポリエチレン又はポリプロピレンが好ましい。ソフトセグメント成分は、プチルゴム、ハロブチルゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム等が挙げられ、これらの中ではEPDMが好ましい。
また、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ブロックコポリマータイプも挙げられる。本発明の樹脂発泡体シートは、結晶構造を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましく、中でも、結晶性オレフィンブロック-エチレン・ブチレン共重合体-結晶性オレフィンブロックコポリマー(CEBC)がより好ましい。このような結晶構造を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることで、樹脂発泡体シートの復元性が良好になる。加えて、結晶構造を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーは、後述するポリオレフィン系樹脂との相溶性にも優れるため、結晶構造を有するオレフィン系熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン系樹脂を含む樹脂発泡体シートは、復元率を高く維持しつつ、タック性を低減できる。また、結晶構造を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーと併用するポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂が好ましい。
上記CEBCにおいて、結晶性オレフィンブロックは、結晶性エチレンブロックであることが好ましく、そのようなCEBCの市販品としては、JSR株式会社製の「DYNARON 6200P」等が挙げられる。
【0023】
《スチレン系熱可塑性エラストマー》
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレンの重合体又は共重合体ブロックと、共役ジエン化合物の重合体又は共重合体ブロックとを有するブロックコポリマーなどが挙げられる。共役ジエン化合物としては、イソプレン及びブタジエン等が挙げられる。
本発明に用いるスチレン系熱可塑性エラストマーは、水素添加していてもよいし、していなくてもよい。水素添加する場合、水素添加は公知の方法で行うことができる。
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、通常ブロック共重合体であり、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン/ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン/ブチレン-結晶性オレフィンブロック共重合体(SEBC)などが挙げられる。また、水添スチレン-ブタジエン共重合体(HSBR)など、水素添加したもの等も使用することができる。
上記したスチレン系熱可塑性エラストマーの中でもSEBS、SEBC、HSBRがより好ましい。
また、スチレン系熱可塑性エラストマーと後述するポリオレフィン系樹脂とを併用する場合において、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
なお、スチレン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、株式会社JSR製の商品名「DYNARON 8600P」(スチレン含有量15質量%)、商品名「DYNARON 4600P」(スチレン含有量20質量%)、商品名「DYNARON 1321P」(スチレン含有量10質量%)などが挙げられる。
【0024】
上記した熱可塑性エラストマーの中でも、結晶構造を有する熱可塑性エラストマーが好ましい。結晶構造を有する熱可塑性エラストマーは、結晶性を有する部分と、非晶性を有する部分の両方を有することになる。結晶構造を有する熱可塑性エラストマーは、結晶部分の存在により、復元率が高まり、さらに、後述するポリオレフィン系樹脂との相溶性に優れるため、タック性が効果的に低下する。そのため、結晶構造を有する熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン系樹脂を含む樹脂発泡体シートは、復元率が高く、かつタック性が低くなる。結晶構造を有する熱可塑性エラストマーは、例えば、CEBC、SEBCなどが挙げられる。
【0025】
(ポリオレフィン系樹脂)
樹脂発泡体シートは、上記した熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂とを含むことが好ましい。ポリオレフィン系樹脂を含むことで、発泡性等を良好にしつつ、樹脂発泡体シートの柔軟性及び機械強度等を確保することができ、かつ、樹脂発泡体シート表面のタック性を低減させることができる。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらの中でも、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。
【0026】
《ポリエチレン樹脂》
ポリエチレン樹脂としては、チーグラー・ナッタ化合物、メタロセン化合物、酸化クロム化合物等の重合触媒で重合されたポリエチレン樹脂が挙げられ、好ましくは、メタロセン化合物の重合触媒で重合されたポリエチレン樹脂が用いられる。
ポリエチレン樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレン(例えば、全モノマー量に対して75質量%以上、好ましくは90質量%以上)と必要に応じて少量のα-オレフィンとを共重合することにより得られる直鎖状低密度ポリエチレンがより好ましい。α-オレフィンとして、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、及び1-オクテン等が挙げられる。なかでも、炭素数4~10のα-オレフィンが好ましい。
ポリエチレン樹脂、例えば上記した直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、0.870~0.925g/cmが好ましく、0.890~0.925g/cmがより好ましく、0.910~0.925g/cmがさらに好ましい。ポリエチレン樹脂としては、複数のポリエチレン樹脂を用いることもでき、また、上記した密度範囲以外のポリエチレン樹脂を加えてもよい。
なお、ポリエチレン樹脂の市販品としては、日本ポリエチレン株式会社製の商品名「カーネルKF283」、商品名「ノバテックLD」、住友化学株式会社製の「スミカセンEP」、「スミカセンGMH」、旭化成ケミカルズ株式会社製の「サンテックLD」等が挙げられる。
【0027】
《ポリプロピレン樹脂》
ポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレンでもよいし、プロピレンを主成分(全モノマーの好ましくは75質量%以上、より好ましくは90質量%以上)とした、プロピレンと少量のエチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
プロピレンと、エチレン及びプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、ランダムブロック共重合体等が挙げられるが、これらの中でも、ランダム共重合体(すなわち、ランダムポリプロピレン)が好ましい。
プロピレン以外のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げることができ、これらの中では、炭素数6~12のα-オレフィンが好ましい。なお、共重合体において、これらのα-オレフィンは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、ポリプロピレン樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、ポリプロピレン樹脂の市販品としては、日本ポリプロ株式会社製の商品名「EG7F」、商品名「MA1B」、商品名「MA3」、商品名「MA04A」、商品名「SA06GA」、商品名「MG03B」、商品名「BC2E」、商品名「BC02NC」、商品名「BC03B」、商品名「BC06C」等が挙げられる。これら以外にも、ポリプロピレン樹脂の市販品としては、株式会社プライムポリマー製の商品名「J-2003GP」、商品名「J-3000GP」、商品名「J106MG」、商品名「J708UG」等が挙げられる。
【0028】
《エチレン-酢酸ビニル共重合体》
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、例えば、エチレン由来の構成単位を50質量%以上含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体が挙げられる。エチレン-酢酸ビニル共重合体の密度は、0.92g/cm以上であることが好ましく、0.93g/cm以上であることがより好ましく、0.94g/cm以上であることがさらに好ましい。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体の密度は、0.97g/cm以下であることが好ましく、0.96g/cm以下であることが好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合体の密度をこれら範囲内とすることで、樹脂発泡体シートの柔軟性を損なうことなく、圧縮強度等を低くしやすくなる。
なお、エチレン-酢酸ビニル共重合体の市販品としては、日本ユニカー社製の商品名「NUC3726」等が挙げられる。
【0029】
(その他の樹脂)
樹脂発泡体シートの樹脂には、本発明の効果を害しない範囲で、上記した熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン樹脂以外のその他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
【0030】
(樹脂の配合比率)
本発明の樹脂発泡体シートが熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン系樹脂を含有する場合は、これらの含有比率は、以下のように調整することが好ましい。すなわち、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂の含有比率(熱可塑性エラストマー:ポリオレフィン系樹脂)は質量比で、90:10~70:30であることが好ましく、88:12~72:28であることがより好ましく、85:15~75:25であることがさらに好ましい。熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂の含有比率を上記比率にすることで、常温環境下におけるシート復元率及び表面タック性を所望の範囲内に調整しやすくなる。
本発明の樹脂発泡体に含まれる樹脂全量基準に対する熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン系樹脂の合計量は、好ましく60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
樹脂発泡体シートにおいて、樹脂は、主成分となるものであり、樹脂の含有量は、樹脂発泡体シート全量基準で、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0031】
(無機フィラー)
本発明の樹脂発泡体シートは、熱可塑性エラストマー及び無機フィラーを含有することが好ましい。これらを併用することにより、復元率を高めつつ、表面のタック性を低減させた樹脂発泡体シートを得やすくなる。
無機フィラーとしては、特に限定されず、酸化物系フィラー、窒化物系フィラー、炭素系フィラー、金属フィラーなどを用いることができる。
酸化物系フィラーとしては、酸化マグネシウム、シリカ、酸化アルミニウム、及びこれらの複合酸化物などが挙げられる。
窒化物系フィラーとしては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及びこれらの複合窒化物が挙げられる。
炭素系フィラーとしては、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。
金属フィラーとしては、チタン、銅、ニッケル、スズ、銀、及び金、並びにこれらの金属を含む合金などが挙げられる。
無機フィラーの種類は、樹脂発泡体シートの使用部位に応じて適宜選択すればよく、樹脂発泡体シートを絶縁性が求められる部位に使用する場合は、酸化物系フィラー、炭素系フィラーが好ましい。
【0032】
無機フィラーは、いかなる形状を有してもよいが、例えば、球形フィラー、板状フィラーが挙げられる。球形フィラーは、フィラー形状が球形及び球形に近いもので、各フィラーの長径の短径に対する比が1又は1に近いものであり、その比が例えば0.6以上1.7以下、好ましくは0.8以上1.5以下となるものである。また、板状フィラーとは、フィラー形状が薄片状、鱗片状のフィラーで、各フィラーの長径が、厚さよりも十分に大きいものであり、例えば長径に対する厚さの比が2以上、好ましくは3以上となるものである。無機フィラーの中でも、球形フィラーを用いることが好ましい。
無機フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.01~150μm、より好ましくは0.1~100μm、更に好ましくは1~80μmである。無機フィラーの平均粒子径は、電子顕微鏡により、複数の粒子径(例えば20個)を測定し、それらを平均して求めることができる。
【0033】
本発明の樹脂発泡体シートは、熱可塑性エラストマーと無機フィラーの含有比率(熱可塑性エラストマー:無機フィラー)が質量比で、100:30~100:150であることが好ましく、100:40~100:125であることがより好ましく、100:50~100:100であることがさらに好ましい。熱可塑性エラストマーと無機フィラーの含有比率を上記比率にすることで、樹脂発泡体シート表面のタック性を所望の範囲内に調整しやすくなる。
【0034】
(添加剤)
本発明の樹脂発泡体シートは、好ましくは、上記樹脂と、発泡剤とを含む発泡性組成物を発泡することで得られる。発泡剤としては、熱分解型発泡剤が好ましい。
熱分解型発泡剤としては、有機発泡剤、無機発泡剤が使用可能である。有機発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸金属塩(アゾジカルボン酸バリウム等)、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、ヒドラゾジカルボンアミド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、トルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジン誘導体、トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド化合物等が挙げられる。
無機発泡剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、無水クエン酸モノソーダ等が挙げられる。
これらの中では、微細な気泡を得る観点、及び経済性、安全面の観点から、アゾ化合物が好ましく、アゾジカルボンアミドがより好ましい。
熱分解型発泡剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
発泡性樹脂組成物における発泡剤の配合量は、樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下が好ましく、1.5質量部以上15質量部以下がより好ましく、2質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。発泡剤の配合量を1質量部以上にすることで、発泡性シートは適度に発泡され、適度な柔軟性と衝撃吸収性を樹脂発泡体シートに付与することが可能になる。また、発泡剤の配合量を20質量部以下にすることで、樹脂発泡体シートが必要以上に発泡することが防止され、樹脂発泡体シートの機械強度等を良好にすることができる。
【0036】
発泡性樹脂組成物には、分解温度調整剤が配合されていてもよい。分解温度調整剤は、熱分解型発泡剤の分解温度を低くしたり、分解速度を速めたり調節するものとして配合されるものであり、具体的な化合物としては、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、尿素等が挙げられる。分解温度調整剤は、樹脂発泡体シートの表面状態等を調整するために、例えば樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下配合される。
【0037】
発泡性樹脂組成物には、酸化防止剤が配合されていてもよい。酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等のフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、例えば樹脂100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下配合される。
発泡性樹脂組成物には、これら以外にも、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、充填材等の発泡体に一般的に使用する添加剤が配合されてもよい。
【0038】
[樹脂発泡体シートの製造方法]
本発明の樹脂発泡体シートは、特に制限はないが、少なくとも樹脂及び熱分解型発泡剤を含む発泡性組成物からなる発泡性シート加熱して熱分解型発泡剤を発泡させることで製造できる。その製造方法は、より具体的には、以下の工程(1)~(3)を含むことが好ましい。
工程(1):少なくとも樹脂及び熱分解型発泡剤を含む発泡性組成物から発泡性シートを成形する工程
工程(2):発泡性シートに電離性放射線を照射して発泡性シートを架橋させる工程
工程(3):架橋させた発泡性シートを加熱し、熱分解型発泡剤を発泡させて、樹脂発泡体シートを得る工程
【0039】
工程(1)において、発泡性シートを成形する方法は、特に限定されないが、押出機から発泡性組成物をシート状に押出すことによって成形すればよい。
発泡性シートの成形温度(すなわち、押出し時の温度等)は、50℃以上250℃以下が好ましく、80℃以上180℃以下がより好ましい。
【0040】
工程(2)において発泡性シートを架橋する方法としては、発泡性シートに電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する方法を用いる。上記電離放射線の照射量は、得られる樹脂発泡体シートの架橋度が上記した所望の範囲となるように調整すればよいが、1~12Mradであることが好ましく、1.5~8Mradであることがより好ましい。
【0041】
工程(3)において、発泡性シートを加熱し熱分解型発泡剤を発泡させるときの加熱温度は、熱分解型発泡剤の発泡温度以上であればよいが、好ましくは200~300℃、より好ましくは220~280℃である。
【0042】
また、本製造方法においては、樹脂発泡体シートは、MD又はTDのいずれか一方又は両方に延伸させてもよい。樹脂発泡体シートの延伸は、発泡性シートを発泡させて樹脂発泡体シートを得た後に行ってもよいし、発泡性シートを発泡させつつ行ってもよい。なお、発泡性シートを発泡させて樹脂発泡体シートを得た後、樹脂発泡体シートを延伸する場合には、樹脂発泡体シートを冷却することなく発泡時の溶融状態を維持したまま続けて樹脂発泡体シートを延伸してもよく、樹脂発泡体シートを冷却した後、再度、樹脂発泡体シートを加熱して溶融又は軟化状態とした上で樹脂発泡体シートを延伸してもよい。樹脂発泡体シートは延伸することで薄厚にしやすくなる。また、延伸時に樹脂発泡体シートは、例えば100~280℃、好ましくは150~260℃に加熱すればよい。
【0043】
ただし、本製造方法は、上記に限定されずに、上記以外の方法により、樹脂発泡体シートを得てもよい。例えば、電離性放射線を照射する代わりに、発泡性樹脂層を構成する発泡性組成物、及び非発泡性樹脂層を構成する樹脂組成物に予め有機過酸化物を配合しておき、発泡性シートを加熱して有機過酸化物を分解させる方法等により架橋を行ってもよい。
【0044】
また、樹脂発泡体シートが未架橋である場合には、工程(2)が省略される。したがって、工程(3)では、未架橋の発泡性シートが加熱されることで発泡されることになる。
【0045】
[樹脂発泡体シートの用途]
樹脂発泡体シートの用途は、特に限定されないが、電子機器用途で使用することが好ましい。本発明の樹脂発泡体シートは、薄くすることで、樹脂発泡体シートを配置するスペースが小さい薄型電子機器内部で好適に使用できる。薄型電子機器としては、携帯電話、ゲーム機器、電子手帳、タブレット端末、ノート型パーソナルコンピューター、液晶テレビ、有機ELテレビ等の薄型テレビ等が挙げられる。樹脂発泡体シートは、電子機器内部において、緩衝材として使用可能であり、好ましくはディスプレイ用クッション材として使用される。
【0046】
ディスプレイ用クッション材として使用される樹脂発泡体シートは、例えば、各種電子機器に設けられるディスプレイの背面側に配置され、ディスプレイに作用される衝撃を緩衝するように使用されるとよい。この場合、樹脂発泡体シートは、ディスプレイ用クッション材の背面側に配置される支持部材上に配置されるとよい。
また、ディスプレイは、四角形の凹部に嵌め込まれ、かつその外周部が、幅が狭い四角枠状の支持部材により背面側から支持されることで、電子機器に取り付けられることがある。そのような場合、ディスプレイ用クッション材として使用される樹脂発泡体シートは、支持部材の上に四角枠状に配置され、かつその樹脂発泡体シートの上にディスプレイが設けられるとよい。このような態様でも、樹脂発泡体シートは、ディスプレイに作用される衝撃を緩衝するように使用されるとよい。この場合、樹脂発泡体シートは、支持部の幅に対応して、例えば、5mm以下の幅、好ましくは0.1mm以上3mm以下の幅、より好ましくは0.2mm以上1mm以下の幅に加工されるとよい。
【0047】
樹脂発泡体シートが使用される電子機器は、フォルダブル電子機器、ローラブル電子機器などのフレキシブル機能を有する電子機器であることが好ましい。フォルダブル電子機器は、折り曲げたり、広げたりすることが自在にできる。また、ローラブル電子機器は、巻回したり、広げたりすることが自在にできる。したがって、フォルダブル又はローラブル電子機器に使用される樹脂発泡体シートは、繰り返し折り曲げられたり巻回されたりする。
本発明の樹脂発泡体シートは、高い復元性を有するゆえ、繰り返し折り曲げられたり、繰り返し巻回されたりしても、損傷や性能低下が生じにくいので、フォルダブル電子機器又はローラブル電子機器に好適に使用できる。
【0048】
本発明の樹脂発泡体シートは、タック性が低いことで、製造工程におけるハンドリング性に優れる。具体的には、製造工程において、ローラへの巻きつき、ブロッキング等の問題の発生を抑制することができるので、生産性を向上させることができる。
【0049】
[粘着テープ]
本発明の樹脂発泡体シートは、樹脂発泡体シートを基材とする粘着テープに使用してもよい。粘着テープは、例えば、樹脂発泡体シートと、樹脂発泡体シートの少なくともいずれか一方の面に設けた粘着材とを備えるものである。粘着テープは、粘着材を介して支持部材等の他の部材に接着することが可能になる。粘着テープは、樹脂発泡体シートの両面に粘着材を設けたものでもよいし、片面に粘着材を設けたものでもよい。
また、粘着材は、少なくとも粘着剤層を備えるものであればよく、樹脂発泡体シートの表面に積層された粘着剤層単体であってもよいし、樹脂発泡体シートの表面に貼付された両面粘着シートであってもよいが、粘着剤層単体であることが好ましい。なお、両面粘着シートは、基材と、基材の両面に設けられた粘着剤層とを備えるものである。両面粘着シートは、一方の粘着剤層を樹脂発泡体シートに接着させるとともに、他方の粘着剤層を他の部材に接着させるために使用する。
【0050】
粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に制限はなく、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また、粘着材の上には、さらに離型紙等の剥離シートが貼り合わされてもよい。
粘着材の厚さは、5~200μmであることが好ましく、7~150μmであることがより好ましく、10~100μmであることがさらに好ましい。
粘着テープを使用する場合も、樹脂発泡体シートと同様に、上記のように電子機器用途に使用されるとよく、ディスプレイ用クッション材に使用されることが好ましい。ディスプレイ用クッション材に使用される場合には、樹脂発泡体シートのときと同様に、ディスプレイの背面側において、例えば支持部材上に配置され、ディスプレイに作用される衝撃を緩衝するように使用されるとよい。
また、粘着テープは、樹脂発泡体シートと同様に、上記のように、支持部材の上に四角枠状に配置され、かつ粘着テープの上にディスプレイが設けられるとよい。この場合の詳しい構成は、樹脂発泡体シートが粘着テープとされる以外は上記の通りであるので、その説明は省略する。なお、粘着テープの粘着材は、例えば支持部材に貼付されるとよい。また、電子機器は、上記のとおり、フォルダブル電子機器、ローラブル電子機器などのフレキシブル機能を有する電子機器であることで、樹脂発泡体シートの特性をより活かすことができる。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各物性の測定方法、及び樹脂発泡体シートの評価方法は以下のとおりである。
【0052】
[発泡倍率]
発泡倍率は、発泡前の発泡性シートの密度を、発泡後の樹脂発泡体シートの密度で除することで算出した。
【0053】
[独立気泡率]
上記明細書記載の方法で行った。
【0054】
[25%圧縮強度]
JIS K6767に準拠した測定方法で、23℃の試験環境下で25%圧縮強度を測定した。
【0055】
[架橋度]
樹脂発泡体シートから約100mgの試験片を採取し、試験片の重量A(mg)を精秤した。次に、この試験片を120℃のキシレン30cm3中に浸漬して24時間放置した後、200メッシュの金網で濾過して金網上の不溶解分を採取、真空乾燥し、不溶解分の重量B(mg)を精秤した。得られた値から、下記式により架橋度(質量%)を算出した。
架橋度(質量%)=(B/A)×100
【0056】
[平均気泡径]
樹脂発泡体シートを、MD及びTDそれぞれに沿って厚さ方向に切断して、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、製品名「VHX-900」)を用いて200倍の拡大写真を撮影した。撮影した拡大写真において、MD、TDそれぞれにおける長さ2mm分の切断面に存在する全ての気泡についてMDの気泡径、及びTDの気泡径を測定し、その操作を5回繰り返した。そして、全ての気泡のMD、TDそれぞれの気泡径の平均値をMD、TDの平均気泡径とし、これらの平均値である平均気泡径((MD+TD)/2)を求めた。
【0057】
[23℃での200%引張り後のシートの復元率]
樹脂発泡体シートをJIS K6251 4.1に規定されるダンベル状1号形にカットした。これを試料として用い、引張試験機(エー・アンド・デイ社製、製品名「テンシロンRTF235」)により、温度23℃、湿度50RH%環境下で、引張り後のシートの長さが元の長さの200%になるまで500mm/分で鉛直方向に沿って下側から上側に向かって引張り、その状態で30秒静止した。なお、引張り方向はMDとする。その後、引張試験機から取り外して、温度23℃、湿度50RH%環境下で5分間養生を行い、養生後のシートの長さ(x)を測定し、この値と引張り前の樹脂発泡体シートの元の長さ(y)の値を用いて、以下の計算式より200%引張り後のシート復元率を求めた。
23℃での200%引張り後のシート復元率(%) = {1-(x-y)/y}×100
【0058】
[動的屈曲耐性試験]
樹脂発泡体シート(40mm×10mm)を、試験機(卓上小型耐久試験機:ユアサシステム機器社製)のサンプル設置個所に貼りつけた後、23℃オーブンの中に試験機を入れ、5分静置した。その後、試験機の可動部を動かすことによりシートを折り曲げ、折れ曲がったシートとシートの間の距離が2mmとなるように最大屈曲位置を調整し、これを100,000回繰り返した。屈曲試験実施後、厚みが10%以上変化したものを「C」、薄い折れスジが発生したものは「B」、それらが発生しないものを「A」として評価した。
【0059】
[タック性]
樹脂発泡体シートを10cm角にカットし、タックテスター(UBM社製、製品名「Tack Tester TA-500」)により、温度23℃で測定を行った。
樹脂発泡体シートの表面に対して、断面積0.25cmの冶具(金属製)を、荷重5000gf/cmで、5秒間押し付けた後、1mm/秒の速度で冶具を引き上げた際の荷重(gf/cm)を測定し、得られた値を樹脂発泡体シートの表面のタック性とした。
【0060】
実施例、比較例で使用した成分は以下の通りである。
・熱可塑性エラストマー(1):CEBC、JSR株式会社製、製品名「DYNARON 6200P」
・熱可塑性エラストマー(2):HSBR、JSR株式会社製、製品名「DYNARON 1321P」
・ポリオレフィン樹脂(1):メタロセン化合物の重合触媒によって得られた直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、日本ポリエチレン株式会社製、商品名「カーネルKF283」、密度:0.921g/cm
・ポリオレフィン樹脂(2):ポリプロピレン樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体)、日本ポリプロ株式会社製、商品名「ノバテックEG7F」、エチレン含有量:3質量%
・無機フィラー:酸化マグネシウム、宇部マテリアルズ社製、商品名「RF-50-SC」、平均粒子径:50μm、形状:球形
・熱分解型発泡剤:アゾジカルボンアミド
・分解温度調整剤:酸化亜鉛、堺化学工業株式会社製、商品名「OW-212F」
・フェノール系酸化防止剤:2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール
【0061】
[実施例1]
熱可塑性エラストマー(1)80質量部、ポリオレフィン樹脂(1)20質量部、熱分解型発泡剤2.7質量部、分解温度調整剤1.0質量部、及びフェノール系酸化防止剤0.5質量部を溶融混練後、120℃でプレスすることにより厚さ0.3mmの発泡性シートを得た。プレス後、発泡性シートを常温(23℃)まで冷却した。
得られた発泡性シートの両面に加速電圧500keVにて電子線を4.5Mrad照射して架橋させた。次にシートを250℃に加熱することによって発泡性シートを発泡させて、発泡倍率2.9倍、厚さ0.21mmの樹脂発泡体シートを得た。
【0062】
[実施例2]
熱可塑性エラストマー(1)、ポリオレフィン樹脂(1)、及び熱分解型発泡剤の配合比率を表1に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂発泡体シートを得た。
【0063】
[実施例3]
熱可塑性エラストマー(2)80質量部、ポリオレフィン樹脂(2)20質量部、熱分解型発泡剤2.3質量部、分解温度調整剤1.0質量部、及びフェノール系酸化防止剤0.5質量部を溶融混練後、120℃でプレスすることにより厚さ0.3mmの発泡性シートを得た。プレス後、発泡性シートを常温(23℃)まで冷却した。
得られた発泡性シートの両面に加速電圧500keVにて電子線を2.5Mrad照射して架橋させた。次にシートを250℃に加熱することによって発泡性シートを発泡させて、発泡倍率2.4倍、厚さ0.20mmの樹脂発泡体シートを得た。
【0064】
[実施例4]
熱可塑性エラストマー(2)、ポリオレフィン樹脂(2)、及び熱分解型発泡剤の配合比率を表1に記載のものに変更したこと以外は実施例3と同様にして樹脂発泡体シートを得た。
【0065】
[実施例5]
熱可塑性エラストマー(1)100質量部、無機フィラー30質量部、熱分解型発泡剤2.2質量部、分解温度調整剤1.0質量部、及びフェノール系酸化防止剤0.5質量部を溶融混練後、120℃でプレスすることにより厚さ0.3mmの発泡性シートを得た。プレス後、発泡性シートを常温(23℃)まで冷却した。
得られた発泡性シートの両面に加速電圧500keVにて電子線を2.5Mrad照射して架橋させた。次にシートを250℃に加熱することによって発泡性シートを発泡させて、発泡倍率2.5倍、厚さ0.30mmの樹脂発泡体シートを得た。
【0066】
[実施例6~8]
無機フィラー、及び熱分解型発泡剤の配合比率を表1に記載のものに変更したこと以外は実施例5と同様にして樹脂発泡体シートを得た。
【0067】
[比較例1]
ポリオレフィン樹脂(1)を含有しなかったこと以外は実施例1と同様にして樹脂発泡体シートを得た。
【0068】
[比較例2]
熱可塑性エラストマー(1)、ポリオレフィン樹脂(1)、及び熱分解型発泡剤の配合比率を表1に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂発泡体シートを得た。
【0069】
[比較例3]
熱可塑性エラストマー(2)、ポリオレフィン樹脂(2)、及び熱分解型発泡剤の配合比率を表1に記載のものに変更したこと以外は実施例3と同様にして樹脂発泡体シートを得た。
【0070】
[比較例4~5]
無機フィラー、及び熱分解型発泡剤の配合比率を表1に記載のものに変更したこと以外は実施例5と同様にして樹脂発泡体シートを得た。
【0071】
上記実施例及び比較例で得られた樹脂発泡体シートの物性及び評価結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0072】
以上の結果から明らかなように、各実施例の樹脂発泡体シートは、23℃での200%引張り後の復元率が90%以上であり、かつ、表面のタック性が1,200gf/cm以下であることより、折り曲げ等が繰り返されても損傷や性能低下が生じにくく、かつハンドリング性が良好で、生産性に優れることが分かる。これに対して、各比較例の樹脂発泡体シートは、復元率が90%未満であるか、あるいは表面のタック性が1,200gf/cmを超えるため、折り曲げ等が繰り返された場合に損傷や性能以下が生じやすく、ハンドリング性、生産性に劣ることが分かる。