(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】試料調製法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20241206BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20241206BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20241206BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241206BHJP
C12M 1/33 20060101ALN20241206BHJP
【FI】
C12N15/10 110Z
C12N15/10 114Z
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6844 Z
C12M1/00 A
C12M1/33
(21)【出願番号】P 2020572965
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 US2019037245
(87)【国際公開番号】W WO2020005584
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-27
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500169900
【氏名又は名称】ジェン-プローブ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジョスト, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】イートン, バーバラ エル.
(72)【発明者】
【氏名】シャー, アンクル
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0229268(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0205996(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0218653(US,A1)
【文献】特開2014-045689(JP,A)
【文献】特表2006-517225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を処理する方法であって、
(a)前記生体試料中の細胞を溶解してDNAを変性させるアルカリ性組成物と前記生体試料とを混合して、第1の液体組成物を作製するステップであって、前記アルカリ性組成物が、1.0N~2.2Nの濃度の強塩基を含み、
前記第1の液体組成物は、pH12.0~pH13.5の範囲のpHを有し、0.001%(w/v)未満の界面活性剤を有する、ステップと、
(b)前記第1の液体組成物をpH緩衝化界面活性剤試薬と混合して、pH9.5よりも低いpHを有する第2の液体組成物を作製するステップであって、
前記pH緩衝化界面活性剤試薬は、pH緩衝液、界面活性剤、およびDNAを捕捉する固体支持粒子を含む、ステップと、
(c)前記固体支持粒子およびその上に捕捉された任意のDNAを、前記第2の液体組成物から単離するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記生体試料は生存可能な細菌細胞を含み、前記方法は、細菌細胞の数を増加させるために前記生存可能な細菌細胞を培養するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の液体組成物は、pH8.0~pH9.2の範囲のpHを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)~(c)のそれぞれが、ロボット流体移送デバイスを備える自動機器上で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(d)ステップ(c)で単離されたDNAを鋳型として用いてインビトロ核酸増幅反応を実施し、前記インビトロ核酸増幅反応の生成物を検出するステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記インビトロ核酸増幅反応の生成物を検出するステップは、生体試料中のグラム陽性菌の種の存在を示す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(d)は、自動機器上で実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)は、反応容器内で前記生体試料と前記アルカリ性組成物とを組み合わせて前記第1の液体組成物を作製することを含み、ステップ(b)は、前記pH緩衝化界面活性剤試薬を、前記第1の液体組成物を含む前記反応容器に加えて前記第2の液体組成物を作製することを含み、ステップ(a)および(b)のそれぞれは、前記自動機器の前記ロボット流体移送デバイスを使用して行われる、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記自動機器は、前記反応容器を前記自動機器内のある位置から前記自動機器内の異なる位置に移動させる輸送機構をさらに備える、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)の後およびステップ(c)の前に、前記第1の液体組成物を1分~10分の期間インキュベートするステップが存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記インキュベートするステップは、前記第1の液体組成物を加熱することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(b)の後およびステップ(c)の前に、前記第1の液体組成物を1分~10分の期間インキュベートするステップが存在し、前記インキュベートするステップは、前記反応容器を前記自動機器の第1の位置から前記自動機器の第2の位置に輸送することを含み、前記自動機器の前記第2の位置は、前記自動機器の前記第1の位置の温度よりも高い温度である、請求項
8または請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記固体支持粒子は、磁気的に引き付ける粒子を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(b)の前記固体支
持粒子は、塩基配列とは無関係にDNAを捕捉する固体支
持粒子であり、ステップ(c)は、前記固体支
持粒子を洗浄して、
前記固体支持粒子の上に固定化されていないあらゆる材料を除去し、次いで洗浄後の前記固体支
持粒子を保持し、それによって捕捉されたDNAが単離される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記アルカリ性組成物は、0.1N~2.2Nの濃度で水溶液中に強塩基を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の液体組成物のpHは、pH12.5~pH13.2の範囲である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の液体組成物のpHは、pH7.6~pH8.8の範囲である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記アルカリ性組成物は、1.0N~1.7Nの濃度の強塩基を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記強塩基は、NaOH、KOH、およびLiOHからなる群から選択される、請求項15または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
全てのステップは、自動プロセス制御の下で実施される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年6月28日に出願された米国仮特許出願第62/691,487号の利益を主張する先行出願の開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、核酸単離の分野に関する。より具体的には、本開示は、生体試料からDNAを調製する方法に関する。さらにより具体的には、本開示は、生体試料からDNAを単離し、次いで単離されたDNAを増幅するための、自動化された方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、インビトロ核酸増幅技術は、消滅しそうなほど極めて小さい核酸標的を合成および検出するために一般的に使用されている。これらの技術は、従来、1以上のオリゴヌクレオチドプライマと、核酸重合酵素を使用して、核酸鋳型の一方または両方の鎖のコピーを合成する。増幅手順に先立って生体試料を調製するために、多くの異なる方法が用いられてきた。
【0004】
試料調製技術の効率の違いは、増幅された核酸を検出する診断アッセイに課題を提示する。単一の技術が異なる生物を溶解して異なる効率で核酸の放出を引き起こすという事実は、異なる生物を処理するために特殊な技術が必要となる可能性があることを意味する。米国特許第8,420,317号は、溶解するのが困難な多くの生物を含む幅広い生物からRNAとDNAの両方を単離するために使用できる「アルカリショック」試料調製技術について詳述している。界面活性剤、または界面活性剤とアルカリの組み合わせを使用する方法は、例えば、インビトロ増幅の前に細菌生物から増幅可能な核酸を単離するための代替手法を表す。
【0005】
自動化システムは、生体試料から核酸を調製するために頻繁に使用され、核酸の増幅および検出ステップをさらに実行することにより、実験室のワークフローを合理化することができる。ここで、搭載試薬の数と種類は、個別のテストとしてパッケージ化または構成されていないアッセイを用いて作業する場合に重大な制限となり得る。言い換えれば、試料調製ステップを実行するために利用可能な試薬の数と種類は、実行できる試料調製法の範囲を制約する可能性がある。したがって、一連の搭載試薬を増加させることなく、自動試料処理機器の有用性が制限される。
【0006】
そのため、核酸単離の効率を高めることができ、したがって、核酸増幅反応における特定の標的の検出可能性を高めることができる技術が必要とされている。同じ反応における他の標的の検出可能性を実質的に犠牲にすることなく、多重増幅反応における1つ以上の標的の検出可能性を高めるためのさらなる必要性が存在する。開示される技術は、これらのニーズに対応する。
【0007】
実際、本明細書に開示される技術は、インビトロ核酸増幅を使用して、核酸標的の存在について試験される生体試料を調製するための便利な方法を提供する。この方法は、特定の核酸標的の検出可能性を劇的に改善しながら、たとえ溶解するのが困難な生物であっても、信頼できるDNA単離結果を有利に提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、本開示は、生体試料を処理する方法に関する。一般的に言えば、この方法は、(a)生体試料を、細胞を溶解してDNAを変性させるアルカリ性組成物と混合して、第1の液体組成物を作製するステップであって、第1の液体組成物は、約pH12.0~約pH13.5の範囲のpHを有する、ステップと、(b)第1の液体組成物をpH緩衝化界面活性剤試薬と混合して、約pH9.5よりも低いpHを有する第2の液体組成物を作製するステップであって、pH緩衝化界面活性剤試薬は、pH緩衝液、界面活性剤、およびDNAを捕捉する固体支持粒子を含む、ステップと、(c)固体支持粒子およびその上に捕捉された任意のDNAを、第2の液体組成物から単離するステップと、を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1の液体組成物は、実質的に界面活性剤を含まなくてもよい。
【0011】
いくつかの実施形態では、生体試料は、生存可能な細菌細胞を含み、この方法は、細菌細胞の数を増加させるために生存可能な細菌細胞を培養するステップをさらに含むことができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、第2の液体組成物は、約pH8.0~約pH9.2の範囲のpHを有することができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、ステップ(a)~(c)のそれぞれが、ロボット流体移送デバイスを含む自動機器上で実施される。
【0014】
いくつかの実施形態において、この方法は、(d)ステップ(c)で単離されたDNAを鋳型として用いてインビトロ核酸増幅反応を実施し、インビトロ核酸増幅反応の生成物を検出するステップをさらに含む。例えば、インビトロ核酸増幅反応の生成物を検出することは、生体試料中のグラム陽性菌の種の存在を示すために使用することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、ステップ(d)はまた、自動機器上で実施される。
【0016】
いくつかの実施形態、特にロボット流体移送デバイスを含む自動機器を使用する実施形態では、ステップ(a)は、反応容器内で生体試料とアルカリ性組成物とを組み合わせて第1の液体組成物を作製することを含み、ステップ(b)は、pH緩衝化界面活性剤試薬を、第1の液体組成物を含む反応容器に加えて第2の液体組成物を作製することを含み、ステップ(a)および(b)のそれぞれは、自動機器のロボット流体移送デバイスを使用して行われる。
【0017】
いくつかの実施形態、この場合も同様に、特にロボット流体移送デバイスを含む自動機器を使用する実施形態では、自動機器は、反応容器を自動機器内のある位置から自動機器内の別の位置に移動させる輸送機構をさらに含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、ステップ(b)の後およびステップ(c)の前に、第1の液体組成物を1分から10分の期間インキュベートするステップが存在する。
【0019】
いくつかの実施形態では、インキュベートするステップは、第1の液体組成物を加熱することを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、インキュベートするステップは、反応容器を自動機器の第1の位置から自動機器の第2の位置に輸送することを含み、自動機器の第2の位置は、自動機器の第1の位置の温度よりも高い温度である。
【0021】
いくつかの実施形態では、固体支持粒子は、磁気的に引き付ける粒子を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、ステップ(b)の固体支持粒子は、塩基配列とは無関係にDNAを捕捉する固体支持粒子であり、ステップ(c)は、固体支持粒子を洗浄して、その上に固定化されていないあらゆる材料を除去し、次いで洗浄後の固体支持体粒子を保持し、それによって捕捉されたDNAが単離される。
【0023】
いくつかの実施形態において、アルカリ性組成物は、約0.1N~約2.2Nの濃度で水溶液中に強塩基を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、第1の液体組成物のpHは、約pH12.5~約pH13.2の範囲である。
【0025】
いくつかの実施形態では、第2の液体組成物のpHは、約pH7.6~約pH8.8の範囲である。
【0026】
いくつかの実施形態では、アルカリ性組成物は、約1.0N~約1.7Nの濃度の強塩基を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、強塩基は、NaOH、KOH、およびLiOHのいずれかである。
【0028】
いくつかの実施形態では、方法の全てのステップは、自動プロセス制御の下で実施される。
【0029】
定義
以下の用語は、本明細書でそうではないことが明示的に述べられていない限り、本開示の目的のために以下の意味を有する。
【0030】
本明細書で使用される場合、「生体試料」は、ヒト、動物、または環境試料から得られた任意の組織またはポリヌクレオチド含有材料である。開示される技術による生体試料には、末梢血、血漿、血清もしくは他の体液、骨髄もしくは他の器官、生検組織、臨床もしくはスクリーニングスワブ(例えば、鼻スワブ)、または生物学的起源の他の材料が含まれる。生体試料は、輸送および処理を容易にするために液体輸送培地に含めることができる。生体試料の例は、グラム陽性菌等の細菌を含むまたは含有する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「アルカリ性組成物」は、強塩基を含む水溶液である。強塩基は、溶液中で完全にイオン化または解離して、水酸化イオンをもたらし得る。一般的に、強塩基は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物から形成される。強塩基の例には、KOH、NaOH、およびLiOHが含まれる。
【0032】
本明細書で使用される場合、生体試料をアルカリ性組成物と混合することから生じる「第1の液体組成物」は、界面活性剤濃度が0.001%(w/v)未満である場合、「実質的に界面活性剤を含まない」と言われる。これは、前の試料輸送または処理ステップから持ち込まれ得るような、第1の液体組成物中の微量の界面活性剤の存在を許容する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「アルカリ性ショック」は、最初に生体試料をpH緩衝液および界面活性剤と組み合わせて第1の組成物をもたらし、次いで、その第1の組成物とある量のアルカリ性組成物とを混合することによってもたらされる一時的な高pHを指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」は、配列中に存在し得、相補的配列を有する第2の分子とのポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを妨げない、RNAまたはDNA、および任意の合成ヌクレオチド類似体または他の分子のいずれかを意味する。
【0035】
本明細書で使用される場合、「検出可能な標識」は、検出され得るか、または検出可能な応答をもたらすことができる化学種である。開示される技術による検出可能な標識は、直接的または間接的にポリヌクレオチドプローブに結合することができ、放射性同位体、酵素、ハプテン、検出可能な色を付与する色素または粒子(例えば、ラテックスビーズまたは金属粒子)等の発色団、発光化合物(例えば、生物発光部分、リン光部分または化学発光部分)および蛍光化合物を含む。
【0036】
「均一アッセイ」とは、特定のプローブハイブリダイゼーションの程度を決定する前に、ハイブリダイズしていないプローブからハイブリダイズしたプローブを物理的に分離する必要のない検出手順を指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、「核酸増幅」、または単に「増幅」は、標的核酸配列、その相補体、またはその断片の複数コピーを得るためのインビトロ手順を指す。
【0038】
「標的核酸」または「標的」とは、標的核酸配列を含む核酸を意味する。任意選択的に、増幅される標的核酸配列は、2つの反対に配置された増幅オリゴヌクレオチドの間に位置し、増幅オリゴヌクレオチドのそれぞれと十分に相補的である標的核酸の一部を含む。
【0039】
「標的核酸配列」または「標的配列」または「標的領域」、とは、一本鎖核酸分子のヌクレオチド配列の全てまたは一部を含む特定のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド配列、およびそれらに相補的なデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド配列を意味する。本明細書で使用される場合、「オリゴヌクレオチド」または「オリゴマー」は、少なくとも2つ、一般的には約5個~約100個の化学サブユニットのポリマー鎖であり、各サブユニットは、ヌクレオチド塩基部分、糖部分、およびサブユニットを線形空間配置に結合する連結部分を含む。一般的なヌクレオチド塩基部分は、グアニン(G)、アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)、およびウラシル(U)であるが、水素結合できる他の希少なまたは修飾されたヌクレオチド塩基は当業者に周知である。オリゴヌクレオチドは、任意選択的に、糖部分、塩基部分、および骨格成分のいずれかの類似体を含み得る。本技術の好ましいオリゴヌクレオチドは、約10~約100残基のサイズ範囲に属する。オリゴヌクレオチドは、天然に存在する供給源から精製されてもよいが、好ましくは種々の周知の酵素的または化学的方法のいずれかを用いて合成される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「プローブ」は、標的核酸と相互作用して検出可能な複合体を形成するオリゴヌクレオチドを指す。プローブは、任意選択的に、プローブの末端(複数可)に付着し得るか、または内部にあり得る検出可能な部分を含んでもよい。プローブの「標的」は、一般的に、標準的な水素結合(すなわち、塩基対形成)を用いてプローブオリゴヌクレオチドの少なくとも一部に特異的にハイブリダイズする、増幅された核酸配列内に含まれる配列を指す。プローブは、標的特異的配列、および任意選択的に、検出されるべき標的配列に非相補的である他の配列を含み得る。プローブの特定の例には、US2018/0163259 A1として識別される公開特許出願に開示されているように、侵襲性プローブおよび一次プローブが含まれ、この出願の開示全体が参照により組み込まれる。
【0041】
「増幅オリゴヌクレオチド」とは、核酸増幅反応に関与して、鋳型核酸配列またはその相補体の複数のコピーの合成をもたらすことができるオリゴヌクレオチドを意味する。増幅反応では、少なくとも2つの増幅オリゴヌクレオチドを使用することが一般的であり、増幅オリゴヌクレオチドの少なくとも一方が増幅プライマーとして機能する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「増幅プライマー」、またはより単純に「プライマー」は、標的核酸またはその補体にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであり、鋳型依存性プライマー伸長反応において伸長され得る。例えば、増幅プライマーは、任意選択的に、鋳型核酸にハイブリダイズすることができ、かつDNAポリメラーゼ活性によって伸長され得る3’末端を有する、修飾されたオリゴヌクレオチドであり得る。一般に、プライマーは、下流の標的相補的配列、および任意選択的に、標的核酸に相補的ではない上流の配列を有する。任意選択的な上流の配列は、例えば、RNAポリメラーゼプロモーターとして機能し得るか、または制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含み得る。
【0043】
「標的捕捉」または単に「捕捉」とは、ポリヌクレオチドを溶液相から固体支持体に捕捉するための一般的なプロセスを意味する。任意選択的に、標的捕捉は、溶液からの標的核酸と、ビーズ(例えば、マイクロビーズ)または粒子(例えば、マイクロ粒子)等の固体支持体に直接的または間接的に結合したオリゴヌクレオチドとの間のハイブリッド二重鎖の形成によって媒介され得る。簡潔にするために、「粒子」は、一般にビーズ、マイクロビーズ、および微粒子を指すときに本明細書で使用される。
【0044】
「捕捉オリゴヌクレオチド」とは、標的配列および固定化オリゴヌクレオチドを塩基対ハイブリダイゼーションによって特異的に結合するための手段を提供する少なくとも1つの核酸オリゴヌクレオチドを意味する。捕捉オリゴヌクレオチドは、好ましくは、通常、同一オリゴヌクレオチド上で連続する標的配列結合領域および固定化プローブ結合領域の2つの結合領域を含むが、捕捉オリゴヌクレオチドは、1つ以上のリンカーによって一緒に結合された2つの異なるオリゴヌクレオチド上に存在する標的配列結合領域および固定化プローブ結合領域を含んでもよい。例えば、固定化プローブ結合領域は第1のオリゴヌクレオチド上に存在してもよく、標的配列結合領域は第2のオリゴヌクレオチド上に存在してもよく、2つの異なるオリゴヌクレオチドは、第1および第2のオリゴヌクレオチドの配列と特異的にハイブリダイズする配列を含む第3のオリゴヌクレオチドであるリンカーで水素結合によって結合されている。
【0045】
「固定化オリゴヌクレオチド」または「固定化核酸」、およびその変異体とは、捕捉オリゴヌクレオチドを固定化支持体に直接的または間接的に結合する核酸を意味する。固定化プローブは、試料中の結合していない物質からの結合した標的配列の分離を促進する、固体支持体に結合されたオリゴヌクレオチドである。「固定化可能な」オリゴヌクレオチドは、固体支持体に直接固定化されたオリゴヌクレオチドとの相補的塩基相互作用によって、固体支持体に固定化されるようになり得るオリゴヌクレオチドである。
【0046】
「分離する」または「精製する」または「単離する」とは、生体試料の1つ以上の成分が、当該試料の1つ以上の他の成分から除去されることを意味する。試料成分は、一般的に水溶液相に核酸を含み、これはまた、タンパク質、炭水化物、脂質、および標識プローブ等の物質も含み得る。好ましくは、分離または精製ステップは、試料中に存在する他の成分の少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%を除去する。開示される方法は、特定の処理ステップを行った後、生体試料からDNAを単離することを可能にする。
【0047】
本明細書で使用される場合、「マルチプレックス」アッセイは、アッセイの単一の実行で複数の分析物(2つ以上)を測定する一種のアッセイである。
【0048】
「~から本質的になる」とは、本発明の手法の基本的および新規特徴を実質的に変化させない追加の成分(複数可)、組成物(複数可)、または方法ステップ(複数可)が、本明細書に記載の組成物またはキットまたは方法に含まれ得ることを意味する。そのような特徴には、鼻腔スワブまたは細菌を内部に含む他のスワブ等の生体試料中の標的核酸を選択的に検出する能力が含まれる。本開示の基本的かつ新規の特徴に対する実質的な影響を有する任意の成分、組成物または方法ステップは、この用語から逸脱するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本明細書に開示されるのは、生体試料からDNAを単離する方法である。この方法は、ウイルス、細菌、または真核生物の供給源からDNAを単離するために使用することができ、単離された核酸を鋳型として用いて実施される増幅ベースのアッセイの感度を高めることができる。有利なことに、この方法を使用して、他の方法では溶解するのが困難な生物からDNAを単離することができる。さらに、この方法は、実質的にRNAを含まないDNAを単離するために使用することができる。
【0050】
一般的に言えば、開示される手法の利点は、生体試料を強塩基の水溶液と組み合わせ(強塩基の溶液は実質的にpH緩衝液および界面活性剤を含まない)、次いで、界面活性剤の存在下で、アルカリ性の組み合わせをpH緩衝液で中和することによって実現することができる。プロセスの利点は、例えば、中和ステップが起こっているときに、反応混合物中に標的捕捉試薬(例えば、任意選択的に固定化ポリヌクレオチドを含む磁気的に引き付けるビーズ)を含めることによって、標的捕捉ステップを統合することによっても実現できる。これは、共同所有される米国特許第7,510,837号に記載されている、生物試料の強アルカリ性条件への長期直接曝露を回避する「アルカリショック」試料調製技術とは大きく異なる。同様に、開示される技術は、標的捕捉も行われているときにpH中和ステップ中に処理を受けている塩基処理された試料と界面活性剤とを組み合わせるまたは混合することを可能にする。以下に提示される証拠によって示されるように、試薬添加の順序が逆の場合、開示される技術の特定の利点は達成されない。
【0051】
開示される技術の開発を促した観察は、溶解するのが困難であることが知られている特定の種類の細菌を検出するための増幅アッセイの感度の低下に関するものであった。例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)細菌は特定の条件下で非効率的に溶解し、MRSAを検出するためのプロトタイプPCRアッセイでは、溶解からの核酸を鋳型として用いた場合に誤った結果が得られることがあった。これは、生体試料を、標的捕捉試薬を含むpH緩衝化界面活性剤溶液と接触させて第1の液体組成物を作製し、次いで、第1の液体組成物をアルカリ性組成物(例えば、強塩基を含む水溶液)と混合して、放出された核酸の固体支持体への捕捉または固定化に適した第2の液体組成物を得ることに依存する試料調製技術を使用する場合であった。この「アルカリショック」技術は、米国特許第7,510,837号に記載されており、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。アルカリ性界面活性剤溶液による生体試料の初期処理と、それに続くpH緩衝化試薬を使用したpH中和とを含む修正された溶解プロトコルは、黄色ブドウ球菌およびMRSAの検出で改善された結果をもたらしたが、それでもなお別の標的(C.difficile)の適切な溶解を提供しなかった。アルカリ性界面活性剤試薬中の強塩基の濃度を上昇させることにより物理的特性の変化がもたらされ、試薬が実験室での使用に望ましくなくなった。汎用プロトコルを使用して細菌の標的核酸を高感度で検出することが望ましいため、広範囲の標的生物からDNAを遊離させるために使用することができる新しい技術を開発することに関心が寄せられている。
【0052】
生体試料
上に示したように、「生体試料」という用語は、多種多様な試料の種類を包含する。しかしながら、特に興味深いのは、通常は溶解するのが難しい細菌である。この特徴を示す例示的な細菌には、グラム陽性菌が含まれる。
【0053】
当業者は、グラム陽性菌が細菌の細胞壁に厚いペプチドグリカン層を特徴的に有することに気付くであろう。ペプチドグリカンは、ほとんどの細菌の原形質膜の外側にメッシュ状の層を形成する糖とアミノ酸のポリマーである。グラム陽性菌の細胞壁のペプチドグリカン層は、一般にグラム陰性菌の2倍以上の厚さである。これにより、グラム陽性菌は、核酸の溶解および放出に対して実質的により耐性が高くなる。
【0054】
開示される試料調製または処理技術は、多種多様な生物からDNAを単離するために使用することができるが、この技術は、グラム陽性菌からDNAを単離するために使用される場合、特別な利点を有する。好ましい実施形態では、単離手順は、自動試料調製機器上で実施される。任意選択的に、自動試料調製機器は、核酸増幅を行い、増幅産物の形成を監視する。改善された試料調製技術の有用性を説明するために使用されたグラム陽性菌は、黄色ブドウ球菌、Clostridium difficile、およびStreptococcus agalactiae(B群連鎖球菌)であった。
【0055】
好ましいpH緩衝液およびpH範囲
試料調製法を実施するのに有用な緩衝液は、好ましくは、約6.0~約9.0の範囲のpKa値を有する。開示される技術の有用性を実証するために使用される例示的なpH緩衝液は、20°Cで7.55のpKaを有し、pH6.8~pH8.2の範囲で最も強い緩衝能を有する、HEPES(N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N=-2-エタンスルホン酸)である。当然、この技術の成功は、いずれか特定のpH緩衝液の使用によって制限されない。
【0056】
好ましい方法によれば、試料調製は多段階手順で実施される。任意選択的に液体輸送培地に含まれる生体試料を、最初に濃縮されたアルカリ試薬のアリコートと組み合わせて、細胞溶解を行い、DNAを変性させる。このアルカリ処理は、1秒~1時間の期間実施することができ、任意選択的に、高温で実施することができる。処理期間の後、アルカリ混合物をpH緩衝液、界面活性剤、および試薬と組み合わせて、固体支持体への核酸の捕捉を促進する。任意選択的に、これらの異なる成分は、指定された順序でアルカリ混合物と組み合わせることができる(例えば、pH緩衝液/界面活性剤/標的捕捉試薬;またはpH緩衝液/標的捕捉試薬/界面活性剤)。任意選択的に、pH緩衝液と界面活性剤とが互いに組み合わされて単一の試薬として送達され、続いて標的捕捉試薬が送達される。任意選択的に、3つの異なる成分全てが最初に互いに組み合わされ、次いで単一の試薬としてアルカリ混合物(すなわち、生体試料とアルカリ性試薬の組み合わせ)に送達される。第1の液体組成物をpH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬と組み合わせた結果は、pH9.5未満のpHを有する第2の液体組成物である。
【0057】
好ましくは、核酸を捕捉する固体支持ビーズまたは粒子を含むpH緩衝化界面活性剤試薬は、1つ以上の固定化可能または固定化オリゴヌクレオチドを追加的に含む。任意選択的に、固体支持体は、周囲の溶液相からの核酸の捕捉に関与する結合(例えば、共有結合)オリゴヌクレオチドを表示するまたは内部に有する。pH緩衝液、界面活性剤、および固体支持体のそれぞれを含む単一の試薬を使用すると、試薬の添加ステップを簡素化することができ、それによってロボットピペッターまたは流体処理デバイスを使用することによる自動化に方法を適合させる。固体支持ビーズを含むpH緩衝化界面活性剤試薬を使用すると優れた結果が得られ、pH緩衝液の濃度が約200mM~約1.0Mの範囲となり、約200mM~約600mM、より好ましくは300mM~500mM、さらにより好ましくは約400mMの範囲の最終的なpH緩衝液濃度がもたらされた(すなわち、pH緩衝化界面活性剤および捕捉試薬を生体試料と組み合わせた後)。当然、添加されるpH緩衝液の量は、混合物の最終pHを本明細書で指定される範囲の1つにするように調整することができる。
【0058】
開示される技術に従って核酸を単離するためには、特定のpH範囲が好ましい。好ましくは、生体試料とアルカリ性組成物とを組み合わせて得られる液体組成物(本明細書では「第1の」液体組成物と称されることもある)は、pH12.0~pH13.5の範囲、さらにより好ましくは、pH12.5~pH13.2、またはさらにより好ましくはpH12.8~pH13.1の範囲のpHを有する。添加されるアルカリ性組成物は、好ましくは、水溶液中に強塩基を含む。当業者は、強塩基が完全にイオン性であり、水溶液中で完全に解離して水酸化イオンをもたらし得ることを理解するであろう。第1の液体組成物を、pH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬(例えば、任意選択的にその上に固定化されたポリヌクレオチドを有する磁気的に引き付けるビーズを含む)と混合することにより、pH9.5より低いpHを有する液体組成物(本明細書では「第2の」液体組成物と称されることもある)が得られる。より好ましくは、第2の液体組成物は、pH7.0~pH9.5の範囲、さらにより好ましくはpH7.4~pH9.0の範囲、さらにより好ましくはpH7.6~pH8.8の範囲のpHを有する。
【0059】
処理方法--アルカリ性条件および界面活性剤条件
好ましい実施形態において、生体試料とアルカリ性組成物との組み合わせを含む第1の液体組成物が、pH緩衝液および界面活性剤のそれぞれ、ならびに任意選択的に標的捕捉試薬と混合され、第2の液体組成物をもたらす。第2の液体組成物は、固定化捕捉プローブと、また任意選択的に、固定化プローブと目的の標的核酸との間に架橋を形成することができる可溶性捕捉プローブとも混合され、好ましくはインキュベートされる。この方法が典型的に実施されるため、アルカリ性組成物と生体試料は、最初に試験管または他の反応容器内で組み合わされる。例えば、生体試料を既に含んでいる試験管または他の反応容器にアルカリ性組成物を加えることができる。次いで、pH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬のそれぞれを、第1の液体組成物と混合して、第2の液体組成物を作製することができる。好ましい実施形態では、pH緩衝液、界面活性剤、および固定化ポリヌクレオチドを表示する磁気的に引き付けるビーズは、単一の試薬添加によって第1の液体組成物に送達される。非常に好ましい実施形態において、標的捕捉試薬は、磁気的に引き付けるビーズの固定化ポリヌクレオチドに部分的に相補的である可溶性捕捉プローブを含む。
【0060】
細胞溶解および核酸の変性をもたらすためのアルカリ性組成物として使用され得る物質は、水溶液に溶解されたときに強アルカリ性溶液を形成する任意の固体、液体または気体の薬剤であり得る。強塩基は、アルカリ性組成物(本明細書では「アルカリ性水酸化物」と称されることもある)としての使用に非常に好ましい。試料調製法を実施するために使用することができる好ましいアルカリ性水酸化物の例には、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)等が含まれる。固体アルカリ組成物は生体試料と組み合わせることができると考えられるが、好ましいアルカリ組成物は水溶液中の強塩基を含む。
【0061】
生体試料とアルカリ性組成物とを組み合わせることから生じる第1の液体組成物のアルカリ性条件は、pH緩衝液の添加によって中和して、pH9.5より低いpHを有する第2の液体組成物をもたらすことができる。第2の液体組成物は、任意選択的に、界面活性剤および標的捕捉試薬(例えば、その上に固定化されたポリヌクレオチドを有する磁気的に引き付けるビーズ)をさらに含む。pH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬は、任意選択的に、第1の液体組成物と混合する前に組み合わせることができる。
【0062】
好ましい界面活性剤
開示される試料調製技術に関連して使用することができる界面活性剤には、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤、またはカチオン性界面活性剤が含まれる。これらのうち、アニオン性および非イオン性界面活性剤が最も好ましい。第2の液体組成物中の最終界面活性剤濃度(すなわち、生体試料、アルカリ組成物、およびpH緩衝界面活性剤および捕捉試薬の凝集した組み合わせから生じる)は、好ましくは0.01%(w/v)~5.0%(w/v)、より好ましくは1.0%(w/v)~2.0%(w/v)の濃度範囲、さらにより好ましくは1.2%(w/v)~1.8%(w/v)の濃度範囲である。アルキルアルコールの硫酸塩およびN-アシルアミノ酸を含む強アニオン性界面活性剤が非常に好ましい。試料調製手順を実施するために使用される界面活性剤の正確な性質は重要であるとは考えられていないが、特に好ましい界面活性剤の例には、ラウリル硫酸リチウム(LLS)およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が含まれる。
【0063】
処理期間
好ましい実施形態では、生体試料は、試験管または反応容器内でアルカリ性組成物(例えば、水溶液中の強塩基)と組み合わされて、第1の液体組成物をもたらす。任意選択的に、第1の液体組成物を撹拌して均一性を確保することができる。有利には、変性されたDNAは、第1の液体組成物中に存在し得るヌクレアーゼを変性させる第1の液体組成物の強アルカリ性条件下で安定である。約1秒~約1時間の期間の後、第1の液体組成物は、pH緩衝液、界面活性剤、およびDNAの標的捕捉のための試薬(例えば、任意選択的にその上に固定化されたポリヌクレオチドを含む、磁気ビーズ)のそれぞれと混合されて、第2の液体組成をもたらす。任意選択的に、pH緩衝液および界面活性剤は、第1の液体組成物に添加される前に、最初に互いに組み合わされる。任意選択的に、pH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬は、第1の液体組成物に添加される前に組み合わされる。1秒から1時間の期間の後、第2の液体組成物からDNAを単離することができる。これは、その上に捕捉されたDNAを有する固体支持体を分離または単離することを含み得る。任意選択的に、この単離ステップは、第2の液体組成物の固定化されていない成分をさらに除去しながら、捕捉されたDNAを固体支持体に固定化されたままにすることを可能にする洗浄緩衝液で固体支持体を洗浄することを含み得る。実験室の生産性を促進するために、標的捕捉ステップが行われる時間の長さは、望ましくは必要以上に長くない。しかしながら、生体試料から遊離したDNAは、第2の液体組成物中で安定しているため(例えば、界面活性剤の存在により)、混合物を少なくとも数時間放置しても、標的DNAに有害であるとは考えられない。
【0064】
自動分析機器で廃棄されるプラスチック容器
試料調製法は、好ましくは、プラスチックチューブ等の使い捨て反応容器、または間隔を置いて配置された複数のチューブを備える使い捨てユニットで実施される。例えば、生体試料を含む使い捨て反応容器は、好ましくは、第1の液体組成物を形成するようにアルカリ性組成物(例えば、アルカリ性水酸化物溶液)が添加されるときに自動機器または分析デバイス内に配置される。添加ステップは、好ましくは、自動またはロボットピペッティングデバイスによって実施される。生体試料に添加されるアルカリ性組成物は、界面活性剤が添加されていない場合でも、細菌(例えば、グラム陽性菌)の細胞壁、細胞膜、ウイルスエンベロープ等の生体膜を溶解または破壊するのに十分である。非常に好ましい実施形態では、使い捨て反応容器が分析デバイスに装填され、自動またはロボットピペッティングデバイスが、生体試料のアリコートおよびアルカリ性組成物のアリコートを容器に加える。次に、自動またはロボットピペッティングデバイスは、使い捨て反応容器に含まれる第1の液体組成物に、pH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬(例えば、磁気的に引き付けるビーズ)のそれぞれを加えることができる。任意選択的に、pH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬を全て、単一の試薬添加で第1の液体組成物に添加して、第2の液体組成物を作製することができる。次に、チューブの内容物を撹拌して完全な混合を確実にし、混合した試料を、遊離するポリヌクレオチドの捕捉を可能にするのに十分な温度および期間でインキュベートする。この手法により、溶解することが困難な細菌細胞からでもDNAを単離することができる。しかしながら、RNAは大幅に分解される。したがって、実質的にRNAを含まないDNAは、この試料調製技術によって単離することができる。DNAの化学的安定性、ならびにヌクレアーゼ酵素が第1および第2の液体組成物の過酷なアルカリ性および界面活性剤条件によって実質的に不活性化されるという事実を考慮すると、1日1サイクルの臨床検査において自動分析機器上で異なる分析プロトコルが実行された場合に起こり得るような、長期間または可変の放置期間によって発生することが知られている実質的な化学分解は見られない。最後に、使い捨て反応容器のプラスチック材料は、そこに含まれる各混合物に対して化学的に耐性がなければならない。
【0065】
標的捕捉--方法とオリゴヌクレオチド
開示される試料調製法は、試料を核酸について濃縮する標的捕捉手順を含む場合に特定の価値を有する。別個の好ましい実施形態は、非特異的標的捕捉(すなわち、核酸が核酸の塩基配列とは実質的に独立した様式で捕捉される場合)、および配列特異的標的捕捉に依存する。これらの方法のいずれかまたは両方は、固定化可能または固定化された捕捉オリゴヌクレオチドを使用することができ、各方法は、一本鎖(例えば、「変性」)DNAを捕捉することができる。
【0066】
好ましい捕捉オリゴヌクレオチドは、増幅されるべき標的配列を含むポリヌクレオチドに相補的であり、固体支持体への固定化の標的として機能する第2の配列(例えば、「テール」配列)に共有結合している第1の配列を含む。捕捉オリゴヌクレオチドの塩基配列を連結するための任意の骨格を使用することができる。特定の好ましい実施形態において、捕捉オリゴヌクレオチドは、DNA骨格を含む。他の好ましい実施形態では、捕捉オリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの糖リン酸骨格類似体を含む。例えば、骨格には少なくとも1つのメトキシ結合があり得る。好ましくは捕捉オリゴヌクレオチドの3’末端にあるテール配列を使用して、相補的塩基配列にハイブリダイズして、生体試料中の他の成分に優先的にハイブリダイズした標的核酸を捕捉するための手段を提供する。
【0067】
相補的な塩基配列にハイブリダイズする任意の塩基配列をテール配列に使用することができるが、ハイブリダイズする配列が約5~50ヌクレオチド残基の長さに及ぶことが好ましい。特に好ましいテール配列は、実質的にホモポリマーであり、約10~約40ヌクレオチド残基、またはより好ましくは約14~約30残基を含む。捕捉オリゴヌクレオチドは、任意選択的に、標的ポリヌクレオチドに特異的に結合する第1の配列、および固体支持体に固定化されたオリゴ(dT)ストレッチに特異的に結合する第2の配列を含むことができる。
【0068】
いくつかの実施形態において、生体試料中の核酸配列を検出するためのアッセイは、捕捉オリゴヌクレオチドを使用して標的核酸を捕捉するステップ、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの増幅オリゴヌクレオチドを使用して捕捉された標的領域を増幅するステップ、または少なくとも2つのプライマー、および最初に、増幅された核酸に含まれる配列にオリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせることによって増幅された核酸を検出するステップを含む。結合したプローブから生じる信号が好ましくは検出される。任意選択的に、プローブは、検出可能な標識(例えば、蛍光標識)を内部に有するか、またはその5’末端にヌクレオチドのストレッチを含む(例えば、侵襲的切断アッセイに関与するプローブ)。
【0069】
捕捉ステップは、好ましくは、捕捉オリゴヌクレオチドを使用し、ハイブリダイズ条件下で、捕捉オリゴヌクレオチドの一部が、標的核酸中の配列に特異的にハイブリダイズし、テール部分が、標的領域を試料の他の成分から分離されることを可能にするリガンド(例えば、ビオチン-アビジン結合ペア)等の結合対の1つの成分として機能する。好ましくは、捕捉オリゴヌクレオチドのテール部分は、固体支持体粒子に固定化された相補的配列にハイブリダイズする配列である。好ましくは、最初に、捕捉オリゴヌクレオチドおよび標的核酸は、溶液相ハイブリダイゼーション動力学を利用するために溶液中にある。ハイブリダイゼーションは、捕捉オリゴヌクレオチドのテール部分と相補的な固定化配列とのハイブリダイゼーションを介して固定化プローブに結合することができる、捕捉オリゴヌクレオチド:標的核酸複合体を生成する。したがって、標的核酸、捕捉オリゴヌクレオチドおよび固定化プローブを含む複合体が、ハイブリダイゼーション条件下で形成される。好ましくは、固定化プローブは反復配列であり、より好ましくは、テール配列に相補的であり、固体支持体に付着したホモポリマー配列(例えば、ポリA、ポリT、ポリCまたはポリG)である。例えば、捕捉オリゴヌクレオチドのテール部分がポリA配列を含む場合、固定化プローブはポリT配列を含むであろうが、相補的配列の任意の組み合わせが使用されてもよい。捕捉オリゴヌクレオチドはまた、標的にハイブリダイズする塩基配列と、固定化プローブにハイブリダイズするテールの塩基配列との間に位置する1つ以上の塩基である「スペーサー」残基を含み得る。標的核酸:捕捉オリゴヌクレオチド複合体を結合するために、任意の固体支持体を使用することができる。有用な支持体は、溶液中に遊離しているマトリックス、ビーズ、または粒子(例えば、ニトロセルロース、ナイロン、ガラス、ポリアクリレート、混合ポリマー、ポリスチレン、シランポリプロピレン、および好ましくは、磁気的に引き付けるビーズまたは粒子)のいずれかであり得る。固定化プローブを固体支持体に付着させる方法は周知である。支持体は、好ましくは、標準的な方法(例えば、遠心分離、磁性粒子の磁力等)を使用して溶液から回収することができる粒子である。好ましい支持体は、常磁性単分散粒子(すなわち、±約5%でサイズが均一)である。
【0070】
標的核酸:捕捉オリゴヌクレオチド:固定化プローブ複合体を回収することにより、生体試料中のその濃度と比較して、標的核酸が効果的に濃縮され、生体試料中に存在し得る増幅阻害剤から標的核酸が精製される。捕捉された標的核酸は、1回以上洗浄され得、例えば、付着した標的核酸:捕捉オリゴヌクレオチド:固定化プローブ複合体を有する粒子を洗浄溶液に再懸濁し、次いで、洗浄溶液から付着した複合体を有する粒子を回収することによって、該標的はさらに精製される。好ましい実施形態において、捕捉ステップは、捕捉オリゴヌクレオチドを標的核酸とハイブリダイズさせ、次いで、ハイブリダイゼーション条件を調整して、捕捉オリゴヌクレオチドのテール部分と固定化された相補的配列とのハイブリダイゼーションを可能にすることによって連続的に行われる(例えば、PCT第WO98/50583号に記載されるように)。捕捉ステップおよび任意の洗浄ステップが完了した後、標的核酸を増幅させることができる。処理ステップの数を制限するために、標的核酸は、任意選択的に、捕捉オリゴヌクレオチドから放出させることなく増幅させることができる。
【0071】
有用な捕捉オリゴヌクレオチドは、ミスマッチ配列が増幅されるべき配列を含む核酸にハイブリダイズする限り、上記の配列に対するミスマッチを含み得る。
【0072】
以前の試験で、第2の液体組成物のpHがpH9.5を超えると、標的捕捉の結果が不良になり得ることが示されている。したがって、標的捕捉は、pH9.5よりも低いpHを有する液体組成物中で起こり得る。
【0073】
有用な増幅方法
試料調製技術に関連して有用な増幅方法として、転写媒介増幅(TMA)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、鎖置換増幅(SDA)、ならびに自己複製ポリヌクレオチド分子および複製酵素(MDV-1 RNAおよびQ-β酵素等)を使用した増幅方法が挙げられる。これらの各種の増幅技術を実施する方法は、それぞれ、米国特許第5,399,491号、公開欧州特許出願第EP0525882号、米国特許第4,965,188号、同第5,455,166号、および同第5,472,840号、ならびにLizardi,et al.,BioTechnology 6:1197(1988)に見出すことができる。核酸増幅反応を行う方法を記載するこれらの文書の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
いくつかの実施形態において、標的核酸配列は、TMAプロトコルを使用して増幅される。このプロトコルによれば、DNAポリメラーゼ活性を提供する逆転写酵素は、内因性リボヌクレアーゼ活性も有する。この手順で使用されるプライマーの1つは、増幅される標的核酸の一方の鎖に相補的な配列の上流に位置するプロモーター配列を含む。増幅の最初のステップでは、プロモーター-プライマーが定義された部位で標的RNAにハイブリダイズする。逆転写酵素は、プロモーター-プライマーの3’末端からの伸長により、標的RNAの相補的DNAコピーを形成する。反対鎖のプライマーと新たに合成されたDNA鎖との相互作用に続いて、逆転写酵素によってプライマーの末端からDNAの第2の鎖が合成され、それによって二本鎖DNA分子が形成される。RNAポリメラーゼは、この二本鎖DNA鋳型のプロモーター配列を認識し、転写を開始する。新たに合成された各RNA増幅産物のそれぞれが再びTMAプロセスに入り、新しいラウンドの複製の鋳型として機能し、それによってRNA増幅産物の指数関数的拡大をもたらす。DNA鋳型のそれぞれがRNA増幅産物の100~1000コピーを作製できるため、この拡張により、1時間以内に100億個の増幅産物を生成することができる。プロセス全体は自己触媒性であり、一定の温度で行われる。
【0075】
いくつかの実施形態において、標的核酸配列は、PCRによって増幅される。任意選択的に、増幅産物の検出は、反応が起こっているときに行うことができる(すなわち、いわゆる「リアルタイムPCR)。一般的に、時間またはサイクル数とともに増加する蛍光シグナルは、反応中の増幅産物の存在を示す。以下に記載される実施例で使用される手順は、PCR技術を採用した。
【0076】
キット
本開示はまた、開示される試料準備手順を実施するために使用することができるキットを包含する。キットは、典型的には、別々のバイアルまたは容器に、アルカリ性組成物(例えば、強塩基)、pH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬を含む。特定の実施形態では、これらの試薬の1つ以上は、使用前に水等の液体成分で再構成することができる乾燥、凍結乾燥、または半固体の組成物である。特定の実施形態では、アルカリ性組成物は、使用前に液体剤で再構成する必要がある。他の実施形態では、アルカリ性組成物は、液体組成物としてキットにパッケージされている。
【0077】
次の実施例では、様々な細菌から核酸を単離するのに有用な試料調製着技術の開発について説明し、特定の方法が他の方法よりも優れていると見なされた理由を提供する。試験中の生体試料と、界面活性剤および高pHの強塩基または実質的に中性のpHのpH緩衝化界面活性剤溶液のいずれかを含む溶解試薬との最初の接触を採用するワークフローは、意外にも、溶解するのが困難であると考えられていた生物から核酸を単離するときに最良の結果をもたらさなかった。以下に説明するほとんどのテストは、試料処理とリアルタイムの核酸増幅および検出のステップを実行する自動機器を使用して実施された。場合によっては、自動機器は試料処理(例えば、生体試料からのDNAの単離)にのみ使用され、核酸増幅は別の機器で行われた。全ての場合において、核酸増幅アッセイを使用した標的生物の検出は、生体試料中の標的生物の効率的な溶解の証拠であった。
【0078】
実施例1は、強塩基と界面活性剤の組み合わせを使用する溶解プロトコルが、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検出するプロトタイプのリアルタイムマルチプレックスアッセイで良好な結果をもたらしたことを示している。結果は、1,000 CFU/mlの入力レベルで標的生物が100%検出されることを示した。
【0079】
実施例1
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の溶解の実証
細菌細胞の溶解および核酸の単離の効率は、黄色ブドウ球菌またはMRSAを検出するためのプロトタイプのリアルタイムアッセイを使用して判断された。このアッセイは、マルチプレックスPCR形式で4つの標的核酸配列を増幅したが、標的の1つは、標的生物の存在に依存しない内部対照(IC)であった。MRSAの検出に使用された3つの核酸標的は、黄色ブドウ球菌特異的標的;mecAまたはmecC(すなわち、薬剤耐性を示す);および黄色ブドウ球菌染色体への可動性薬剤耐性要素の挿入を示す「接合」配列であった。黄色ブドウ球菌マーカー、接合マーカー、およびmecAまたはmecC配列が全て検出されたときに、陽性のMRSA呼び出しが行われた。
【0080】
標的生物から核酸を単離するための手順は、試料溶解;標的捕捉;捕捉された核酸を洗浄するためのステップの3つの部分に分けられた。改変Liquid Amies輸送培地(Copan Diagnostics Inc.;Corona、CA)に100CFU/ml~10,000CFU/mlのMRSA細菌(ATCC BAA-41株)の試料を含む管。その後の培養または増殖のために細菌細胞の生存率を維持するこの界面活性剤不含輸送培地には、水溶液中にNaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、およびチオグリコール酸ナトリウムが含まれる。試料溶解は、126μlの溶解試薬(「LR-A」)を、試験される生体試料を含む300μlの液体と組み合わせることによって行われ、それにより、第1の液体組成物が得られた。手順で使用したLR-Aは、0.4N LiOH、8%LLS、2%TRITON(登録商標) X-100、および0.05%の消泡剤を含む界面活性剤不含水溶液であった。TRITON(登録商標) X-100は、追加されたムチンを含む試料の処理を支援するためにLR-A試薬に含まれていた(例えば、鼻腔スワブ試料をモデル化するため)。得られたアルカリ混合物を43℃で10分間インキュベートして、自動試料処理機器でワークフローをモデル化した。インキュベーションステップは任意選択的であるため、省略できる。固体支持体への核酸標的の捕捉は、450μlの標的捕捉試薬を第1の液体組成物と混合して第2の液体組成物を与えることを含んだ。標的捕捉試薬は、LiOH、HEPES緩衝液、ラウリル硫酸リチウム、コハク酸、消泡剤、ポリ(dT)14磁気ビーズ、およびその3’末端にポリ(dA)30テールを有する標的捕捉オリゴヌクレオチドを含む水溶液であった。手順で使用された非特異的捕捉オリゴヌクレオチドは、米国特許第9,051,601号に含まれる記載に従っており、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。捕捉された核酸を含むビーズを磁場の影響下で管の側面に引っ張り、液体を吸引し、HEPES(pH7.5)、EDTA、NaCl、およびラウリル硫酸ナトリウムを含む洗浄緩衝液を使用してビーズを洗浄した。磁性ビーズを単離および洗浄して固定化されていない物質を除去した後、ビーズに捕捉された核酸は、リアルタイムPCRマルチプレックスアッセイの鋳型として機能した。
【0081】
表1は、試料が少なくとも1,000CFU/mlの標的生物を含む場合に、MRSA菌が容易に検出されたことを裏付ける結果を示している。実際、証拠は、アッセイの検出限界(LoD)が300CFU/mlから1,000CFU/mlの間であることを示していた。
【表1】
【0082】
実施例2は、異なる生物から核酸を単離するための実施例1からの溶解試薬および条件の使用を説明している。以下に示すように、C.difficile細菌は、この手法では効率的に溶解して増幅可能な核酸を生成しなかった。
【0083】
実施例2
黄色ブドウ球菌を溶解する試薬は、C.difficileを効率的に溶解しない
次に、実施例1からの溶解および標的捕捉試薬および条件を使用して、C.difficile細菌から核酸を単離した。単離された核酸は、C.difficile菌を検出するためのプロトタイプのリアルタイム増幅アッセイの鋳型として機能し、アッセイの結果は、試料処理手順の成功を示した。「事前」試料処理は、プロトタイプのC.difficileアッセイの結果を比較することによって試験され、変数は、生体試料の輸送に使用される液体試薬の組成であった。一例では、試料輸送チューブは、3%(w/v)のラウリル硫酸リチウムを含む2.9mlのリン酸緩衝(pH6.6~pH6.8)溶液を含んでいた。細胞溶解の促進に加えて、この溶液(検体輸送培地、または「STM」)は、試料に存在し得るヌクレアーゼ酵素の活性を阻害することにより、放出された核酸を保護する。あるいは、STMは、0.4N LiOHおよび10%LLSである溶解試薬で置き換えられた。
【0084】
増幅反応の結果は、両方の試料処理手順が増幅および検出アッセイから良好な最終結果を与えることを裏付けていた。C.difficile菌の試料がSTMまたは溶解試薬を含む管に導入されたかどうかに関係なく、各条件は3/3の陽性結果を正しくもたらした。しかしながら、これらの結論につながる測定の性質には重要な違いがあった。溶解緩衝液を使用して処理された試料は約22.2のCt値を示したが、STMを使用して処理された試料は約26.7のCt値を示した。リアルタイム増幅中の出現時間のこの実質的な違いは、生体試料がSTMではなくアルカリ性界面活性剤溶解試薬に含まれている場合に少なくとも10倍多くのDNAが遊離したことを示していた。実用上の考慮事項により、試料収集に使用されるのと同じ管に強アルカリを含めることは望ましくなかった。これにより、黄色ブドウ球菌、C.difficile、および溶解が困難と考えられるその他の細菌から核酸を単離するために使用され得る汎用試料調製技術を開発する努力が促された。
【0085】
実施例3は、溶解試薬中の強塩基の濃度を増加させることの利点を調査するために使用される手順を説明している。以下で説明される実験では、特にアルカリ溶解試薬に界面活性剤を含めるまたは省略することの効果を比較した。驚くべきことに、界面活性剤の存在は、強塩基の濃度が増加したときに実際にアッセイ感度を低下させた。
【0086】
実施例3
溶解試薬中の界面活性剤はアッセイ感度を低下させる
溶解緩衝液中の強塩基の濃度を増加させる効果を、実施例1に記載された手順の修正版を使用して評価した。溶解試薬に界面活性剤を含めるまたは省略することの効果も、同じ手順で評価した。LiquidAmies輸送培地に300または1,000CFU/mlのMRSA細菌(ATCC BAA-41株)を含む全ての試料には、鼻腔スワブ検体を模擬するために0.25%ムチンがさらに含まれていた。この場合も、試料処理は、生体試料を含む300μlの液体と126μlの溶解試薬を組み合わせることを含んだ。この手順で使用した溶解試薬は、1.35N LiOH、または1.35N LiOHおよび2%TRITON(登録商標)X-100の組み合わせのいずれかであった。短時間のインキュベーション後、450μlの標的捕捉試薬(例えば、標的捕捉試薬を含むpH緩衝界面活性剤溶液)を添加してアルカリ混合物を中和し、固体支持ビーズへの核酸の固定化または捕捉を促進した。全ての試験は、20回の繰り返しで実行された。
【0087】
表2は、少なくとも1,000CFU/mlのレベルでMRSAを含む試料が、MRSAの同定を行うために必要な3つの標的全ての陽性検出をもたらしたという所見を裏付ける結果を示している。この表には、内部対照(IC)の陽性検出の結果がさらに含まれており、これは、陽性結果を生成するための細菌溶解の成功に依存していない。実際、MRSAアッセイで増幅および検出されたIC鋳型核酸は、標的捕捉試薬を含むpH緩衝界面活性剤溶液の成分として常に添加されていた。重要なことに、強塩基濃度を0.4Nから1.35Nに増やすと、300CFU/mlのMRSA入力レベルで増幅アッセイで各標的を検出できるようになるまで、細菌溶解の効率が増加した。したがって、強塩基の濃度の増加は、界面活性剤がない場合でも、細菌の溶解を促進した。驚くべきことに、表2の結果は、アルカリ溶解試薬に界面活性剤が存在すると、300CFU/mlのMRSA入力レベルで全ての標的の陽性が低下することから明らかな悪影響があることも示している。界面活性剤としての強塩基およびLLSの増加濃度を使用して行った追加の調査により、沈殿物を含む非常に濃い混合物の形成が明らかになり、強塩基の濃度が2.5Nに上昇すると組成物を溶解試薬として使用できなくなった。
【表2】
【0088】
実施例3において示された所見は、高濃度の強塩基が界面活性剤と組み合わせて使用するのに適切ではないことを示していた。より具体的には、1.35N LiOHおよび2%TRITON(登録商標) X-100の組み合わせを含む溶解試薬は、界面活性剤を省略した場合と同じ高レベルの感度をもたらさなかった。実際に、pH緩衝液および界面活性剤の非存在下で溶解試薬として強塩基を使用すると、300CFU/mlの100%検出が可能であったが、これは、実施例1のLR-Aを使用した場合よりも優れた感度レベルである。加えて、強塩基の濃度をさらに2.5Nに増加させると、望ましくないことに、LLSを含む溶解試薬中に少なくとも8%のレベルで沈殿物が形成された。
【0089】
実施例4は、C.difficile細菌から核酸を単離するための有用なpH条件を示す手順を説明している。本明細書の他の場所に記載されているように、この実施例で有用であると示されたpH条件は、細胞を溶解し、固体支持体上に核酸を捕捉するための所望のpH条件の範囲内であった。
【0090】
実施例4
細菌細胞の溶解および核酸の捕捉のためのpH条件の実証
pHの読取値は、試料の輸送、細菌の溶解、および標的の捕捉が行われた3つのステップのそれぞれで決定された。予想通り、STMの生体試料のpHは6.6であると判断された。300μlの生体試料を、1.325N~2.5Nの範囲内にある濃度を有する126μlのLiOH溶液と組み合わせると、約pH12.95~約pH12.99のpHが得られた。このアルカリ性試料を450μlの標的捕捉試薬と混合すると、pH7.91~pH8.75の範囲内にあるpHが得られた。捕捉および洗浄された核酸を、C.difficile細菌を検出するためのプロトタイプ増幅アッセイを使用して、核酸増幅および検出に供した。溶解および標的捕捉の効率を、増幅アッセイの結果を使用して評価した。
【0091】
手順の結果は、細菌細胞の溶解および標的の捕捉がほぼ全ての場合に効率的であることを示していた。塩基処理された生体試料を標的捕捉試薬(例えば、pH緩衝界面活性剤溶液)と混合することから生じる第2の液体組成物のpHがpH11.81(例えば、緩衝が不十分な標的捕捉試薬の使用から生じる)であった場合にのみ、標的捕捉は非効率的であった。これらの結果は全て、細胞の溶解およびDNAの変性に好ましいpH12.0~pH13.5の範囲と一致し、ハイブリダイゼーションベースの標的捕捉を可能にする場合はpH9.5未満(例えば、pH7.9~pH9.2)であった。
【0092】
実施例5は、特定の濃度の強塩基を使用する試料調製手順で最良の結果を得るには、界面活性剤が必要となり得ることを示す結果を説明している。
【0093】
実施例5
溶解ステップ中の界面活性剤濃度の低下は結果に悪影響を及ぼす
溶解試薬中の界面活性剤の濃度が8%(w/v)に固定される代わりに0%(w/v)から10%(w/v)まで変化したことを除いて、本質的に実施例1に記載された手順に従った。試験した全ての溶解試薬は、0.4N LiOHを含んでいた。全ての試験は、1,000CFU/mlの固定MRSAレベル、および改変Liquid Amies輸送培地中の0.25%ムチンを使用して行われ、鼻液を含む試料を模擬した。4つの増幅された標的のそれぞれの検出の陽性を評価し、各界面活性剤レベルで比較した。
【0094】
表3に示された結果は、予想外にも、増幅された様々な標的が、試料溶解手順中に使用された界面活性剤の量に対して異なる感度を有していたことを示している。また、界面活性剤を完全に排除すると、非常に悪い結果となった。これらの所見は、強塩基の試験レベルでMRSA菌を効率的に溶解するために、界面活性剤およびアルカリの組み合わせが必要であることを示唆していた。本明細書の他の場所に示されているように、あるタイプの細菌を効率的に溶解した条件は、他の全てのタイプの細菌を効率的に溶解しなかった。したがって、全てのタイプの細菌を溶解するための自動試料調製プラットフォームで使用され得る単一の溶解試薬を開発することに関心が持たれた。
【表3】
【0095】
実施例6は、生体試料を界面活性剤およびpH緩衝液を欠くアルカリ性組成物と接触させ、続いて界面活性剤および標的捕捉試薬の存在下で中和することを用いた試料調製技術が、B群連鎖球菌(GBS)を検出するためのプロトタイプ増幅アッセイの結果をどのように改善できるかを実証する。GBS細菌は、黄色ブドウ球菌およびC.difficileのように、溶解が難しいことが知られている別の細菌群である。Streptococcus agalactiaeは、この実施例ではGBS細菌の代表として役立った。以下に示される比較結果は、本明細書に開示される技術を使用して優れた結果が得られることを裏付けた。
【0096】
実施例6
試料調製技術によって劇的に改善されたGBS細菌の検出
GBS細菌の核酸を検出するためのプロトタイプアッセイを使用して、2つの異なる試料調製技術の有効性を比較した。2つの方法は実質的に同一の試薬を使用したが、試料の処理に使用する手順ステップが異なり、結果が大きく異なった。第1の方法は、生体試料と、標的捕捉試薬(例えば、固定化オリゴヌクレオチドを表示する磁気ビーズ等)を含むpH緩衝界面活性剤溶液を組み合わせて、pH6.5~pH8.0の範囲内にあるpHを有する第1の液体組成物を作製することを含んだ。その後、強塩基溶液(1.68N LiOH)のアリコートを第1の液体組成物と混合して、pH9.5未満(例えばpH8.2~pH9.2)のpHを有し、固体支持体への固定化による核酸の捕捉に適切な条件を提供する第2の液体組成物を作製した。捕捉された核酸は、固体支持体を洗浄緩衝液で洗浄することによって精製した。第2の方法は、生体試料を、細胞を溶解して核酸を変性させるアルカリ性組成物(1.68N LiOH)のアリコートと組み合わせて、第1の液体組成物を作製することを含んだ。生体試料と混合されたアルカリ性組成物は、界面活性剤およびpH緩衝液を含まず、第1の液体組成物のpHは、pH12.5よりも高かった(例えばpH12.5~pH13.2)。その後、標的捕捉試薬(例えば、固定化オリゴヌクレオチドを表示する磁気ビーズ等)を含むpH緩衝化界面活性剤溶液のアリコートを第1の液体組成物と混合して、pH9.5未満のpH(例えばpH7.8~pH8.9)を有し、固体支持体への固定化による核酸の捕捉に適切な条件を提供する第2の液体組成物を作製した。捕捉された核酸は、固体支持体を洗浄緩衝液で洗浄することによって精製した。
【0097】
この実施例に記載の第1の方法は、RNAおよびDNAの両方を単離するのに有用であったが、第2の方法は、DNAを単離し、最終的に精製された核酸組成物からRNAを実質的に排除するのに有用であった。2つの異なる方法で調製されたRNAウイルス標的の既知の入力レベルを使用して行われた試験は、この事実を示している。より具体的には、定量的リアルタイムPCR増幅および検出により、2つの運転曲線の出現時間の差は約24Ct間隔であることが明らかとなった。これは、第2の試料方法を使用して、RNA標的のコピー数が約1600万分の1に減少したことを意味した。
【0098】
表4に示された結果は、細菌を溶解するためにアルカリ性組成物(pH緩衝液または界面活性剤を含まない強塩基)を使用する試料調製技術が優れた結果をもたらすことを裏付けていた。より具体的には、この技術では、検出限界は約39CFU/mlであると決定された。逆に、GBS細菌を溶解するためのアルカリショック技術の使用は、1,416CFU/mlの検出限界を与えた。この場合も、最初に強塩基で処理し、続いてpH緩衝液、界面活性剤、および標的捕捉試薬の存在下で中和すると、自動試料調製ワークフローで優れた結果が得られた。
【表4】
【0099】
重要なことに、実施例6で使用された2つの試料調製法の第2は、黄色ブドウ球菌またはC.difficile細菌のいずれかを含む生体試料からの核酸の効率的な溶解および捕捉を得るためにも使用された。
【0100】
本明細書で使用される場合、第1の液体組成物は、界面活性剤濃度が0.001%(w/v)未満である場合、「実質的に界面活性剤を含まない」と言うことができる。改変Liquid Amies輸送培地に保存され、界面活性剤を含まないアルカリ性組成物と組み合わされた、または混合された生体試料は、界面活性剤を完全に含まない第1の液体組成物をもたらし、DNA単離手順で優れた結果をもたらした。
【0101】
有利なことに、界面活性剤を含まない培地で輸送された細菌は生存し続け、従来の微生物学的技術を使用した種の検証またはタイピングのために培養することができた。したがって、単一の生体試料を分子分析および微生物学的分析の両方に使用することができる。しかし明らかに、第1の液体組成物に界面活性剤が存在しても、DNA単離法で良好な結果を達成する能力が損なわれることはなかった。実際に、生体試料(STMに保存)および前の実施例のアルカリ性組成物を組み合わせて得られた第1の液体組成物は、約2%(w/v)の界面活性剤濃度を有し、PCRプロトコルでのGBS配列の効率的な検出により示されるように優れた結果ももたらした。
【0102】
本発明は、そのいくつかの特定の例および実施形態を参照して説明されてきた。当然ながら、本発明のいくつかの異なる実施形態は、前述の詳細な説明を検討することにより、当業者に自明であろう。したがって、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照して決定されるべきである。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
生体試料を処理する方法であって、
(a)前記生体試料を、細胞を溶解してDNAを変性させるアルカリ性組成物と混合して、第1の液体組成物を作製するステップであって、
前記第1の液体組成物は、pH12.0~pH13.5の範囲のpHを有する、ステップと、
(b)前記第1の液体組成物をpH緩衝化界面活性剤試薬と混合して、pH9.5よりも低いpHを有する第2の液体組成物を作製するステップであって、
前記pH緩衝化界面活性剤試薬は、pH緩衝液、界面活性剤、およびDNAを捕捉する固体支持粒子を含む、ステップと、
(c)前記固体支持粒子およびその上に捕捉された任意のDNAを、前記第2の液体組成物から単離するステップと、を含む、方法。
(項目2)
前記第1の液体組成物は、実質的に界面活性剤を含まない、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記生体試料は生存可能な細菌細胞を含み、前記方法は、細菌細胞の数を増加させるために前記生存可能な細菌細胞を培養するステップをさらに含む、項目1または項目2に記載の方法。
(項目4)
前記第2の液体組成物は、pH8.0~pH9.2の範囲のpHを有する、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
ステップ(a)~(c)のそれぞれが、ロボット流体移送デバイスを備える自動機器上で行われる、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
(d)ステップ(c)で単離されたDNAを鋳型として用いてインビトロ核酸増幅反応を実施し、前記インビトロ核酸増幅反応の生成物を検出するステップをさらに含む、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記インビトロ核酸増幅反応の生成物を検出するステップは、生体試料中のグラム陽性菌の種の存在を示す、項目6に記載の方法。
(項目8)
ステップ(d)は、自動機器上で実施される、項目6に記載の方法。
(項目9)
ステップ(a)は、反応容器内で前記生体試料と前記アルカリ性組成物とを組み合わせて前記第1の液体組成物を作製することを含み、ステップ(b)は、前記pH緩衝化界面活性剤試薬を、前記第1の液体組成物を含む前記反応容器に加えて前記第2の液体組成物を作製することを含み、ステップ(a)および(b)のそれぞれは、前記自動機器の前記ロボット流体移送デバイスを使用して行われる、項目5~8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記自動機器は、前記反応容器を前記自動機器内のある位置から前記自動機器内の異なる位置に移動させる輸送機構をさらに備える、項目5~9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
ステップ(b)の後およびステップ(c)の前に、前記第1の液体組成物を1分~10分の期間インキュベートするステップが存在する、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記インキュベートするステップは、前記第1の液体組成物を加熱することを含む、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記インキュベートするステップは、前記反応容器を前記自動機器の第1の位置から前記自動機器の第2の位置に輸送することを含み、前記自動機器の前記第2の位置は、前記自動機器の前記第1の位置の温度よりも高い温度である、項目11に記載の方法。
(項目14)
前記固体支持粒子は、磁気的に引き付ける粒子を含む、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
ステップ(b)の前記固体支持体粒子は、塩基配列とは無関係にDNAを捕捉する固体支持体粒子であり、ステップ(c)は、前記固体支持体粒子を洗浄して、その上に固定化されていないあらゆる材料を除去し、次いで洗浄後の前記固体支持体粒子を保持し、それによって捕捉されたDNAが単離される、項目1~14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記アルカリ性組成物は、0.1N~2.2Nの濃度で水溶液中に強塩基を含む、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記第1の液体組成物のpHは、pH12.5~pH13.2の範囲である、項目1~16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記第2の液体組成物のpHは、pH7.6~pH8.8の範囲である、項目1~17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記アルカリ性組成物は、1.0N~1.7Nの濃度の強塩基を含む、項目1~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記強塩基は、NaOH、KOH、およびLiOHからなる群から選択される、項目16または項目19に記載の方法。
(項目21)
全てのステップは、自動プロセス制御の下で実施される、項目1~20のいずれか一項に記載の方法。