IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立住友重機械建機クレーン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図1
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図2
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図3
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図4
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図5
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図6
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図7
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図8
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図9
  • 特許-ウインチのブレーキ装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ウインチのブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B66D 5/26 20060101AFI20241206BHJP
   B66D 5/14 20060101ALI20241206BHJP
   B66D 1/44 20060101ALI20241206BHJP
   F16D 55/40 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
B66D5/26 A
B66D5/14
B66D1/44 H
F16D55/40 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021003628
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108561
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本庄 浩平
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-043824(JP,A)
【文献】特開2013-116813(JP,A)
【文献】特開平10-182078(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105584950(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 5/26
B66D 5/14
B66D 1/44
F16D 55/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に用いられ、ブレーキ操作に基づいて制動力を発生させるウインチのブレーキ装置において、
制動部材同士を圧接させて前記制動力を発生させる押圧部材と、
前記押圧部材と別体で構成されて前記押圧部材を押圧可能な第1ピストンを備え、前記押圧部材に前記第1ピストンを介して前記制動部材同士を圧接させるための第1押圧力を付与する第1ブレーキシリンダと、
前記押圧部材と別体で構成されて前記第1ピストンとは独立して前記押圧部材を押圧可能な第2ピストンを備え、前記押圧部材に前記第2ピストンを介して前記第1押圧力と異なる第2押圧力を付与する第2ブレーキシリンダと、を備え、
前記第1ブレーキシリンダと前記第2ブレーキシリンダとは、互いに独立して前記第1押圧力または前記第2押圧力を付与可能であることを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウインチのブレーキ装置において、
前記第1ブレーキシリンダおよび前記第2ブレーキシリンダは、協働して前記第1押圧力および前記第2押圧力を付与可能であることを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のウインチのブレーキ装置において、
前記第1ブレーキシリンダは、圧油が供給される第1圧力室を有し、
前記第2ブレーキシリンダは、圧油が供給される第2圧力室を有し、
前記第1圧力室および前記第2圧力室のうち一方には、最大圧力の圧油と前記ブレーキ操作に応じて圧力が調整された圧油のうち一方が選択的に供給され、
前記第1圧力室および前記第2圧力室のうち他方には、前記最大圧力の圧油と前記ブレーキ操作に応じて圧力が調整された圧油のうち他方が選択的に供給されることを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のウインチのブレーキ装置において、
前記ブレーキ操作に応じて作動するブレーキ制御弁と、
入力信号に基づいて作動する電磁比例弁と、を備え、
前記第1ブレーキシリンダは、圧油が供給される第1圧力室を有し、
前記第2ブレーキシリンダは、圧油が供給される第2圧力室を有し、
前記第1圧力室および前記第2圧力室のうち一方には、前記ブレーキ制御弁にて圧力が調整された圧油が供給され、
前記第1圧力室および前記第2圧力室のうち他方には、前記電磁比例弁にて圧力が調整された圧油が供給されることを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のウインチのブレーキ装置において、
前記電磁比例弁の制御特性が予め複数設定されており、
前記電磁比例弁は、オペレータによって選択された前記制御特性に対応する前記入力信号に基づいて作動することを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のウインチのブレーキ装置において、
前記作業機械は、吊り荷を自重で落下させるフリーフォール作業を行うことができるクレーンであり、
前記クレーンには、前記フリーフォール作業における作業モードとして、
前記第1ブレーキシリンダによる制動力を発生させて作業を行う第1作業モードと、
前記第2ブレーキシリンダによる制動力を発生させて作業を行う第2作業モードと、が予め設定されており、
前記フリーフォール作業中は前記作業モードの切り換えが無効とされることを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載のウインチのブレーキ装置において、
前記作業機械は、吊り荷を自重で落下させるフリーフォール作業を行うことができるクレーンであり、
前記クレーンには、前記フリーフォール作業における作業モードとして、
前記第1ブレーキシリンダによる制動力を発生させて作業を行う第1作業モードと、
前記第2ブレーキシリンダによる制動力を発生させて作業を行う第2作業モードと、が予め設定されており、
前記第1作業モードと前記第2作業モードとの切り換えは、前記吊り荷の荷重に基づいて自動的に行われることを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【請求項8】
請求項4または5に記載のウインチのブレーキ装置において、
前記第1圧力室に供給される圧油と前記第2圧力室に供給される圧油とは、共通の前記ブレーキ制御弁を介して供給されることを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【請求項9】
請求項1~5の何れか1項に記載のウインチのブレーキ装置において、
前記第1ブレーキシリンダは、第1バネの付勢力によって前記押圧部材に前記第1押圧力を付与し、
前記第2ブレーキシリンダは、第2バネの付勢力によって前記押圧部材に前記第2押圧力を付与し、
前記第1バネと前記第2バネとは、同じバネ特性であって、互いに数が異なることを特徴とするウインチのブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に用いられるウインチのブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1には、2つのブレーキ機構(ブレーキシリンダ)を直列で配置することで、クレーンの非フリーフォール時におけるブレーキの制御特性とフリーフォール時におけるブレーキの制動特性を変更できる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6645937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クレーンは様々な用途でフリーフォール作業が発生するため、多様化する作業(作業時の様々な荷重)に応じたブレーキの制動特性が求められている。
【0005】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業機械(クレーン等)のフリーフォール作業の操作性を向上できるウインチのブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、作業機械に用いられ、ブレーキ操作に基づいて制動力を発生させるウインチのブレーキ装置において、制動部材同士を圧接させて前記制動力を発生させる押圧部材と、前記押圧部材と別体で構成されて前記押圧部材を押圧可能な第1ピストンを備え、前記押圧部材に前記第1ピストンを介して前記制動部材同士を圧接させるための第1押圧力を付与する第1ブレーキシリンダと、前記押圧部材と別体で構成されて前記第1ピストンとは独立して前記押圧部材を押圧可能な第2ピストンを備え、前記押圧部材に前記第2ピストンを介して前記第1押圧力と異なる第2押圧力を付与する第2ブレーキシリンダと、を備え、前記第1ブレーキシリンダと前記第2ブレーキシリンダとは、互いに独立して前記第1押圧力または前記第2押圧力を付与可能であることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、作業機械(クレーン等)のフリーフォール作業の操作性を向上できる。なお、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るブレーキ装置を備えたクレーンの外観側面図。
図2】第1実施形態に係るブレーキ装置の油圧回路図。
図3】(a)は第1ピストンの制動力特性を示す図、(b)は第2ピストンの制動力特性を示す図、(c)はブレーキ制御弁の圧力特性を示す図、(d)はブレーキ制御特性を示す図。
図4】コントローラによるブレーキ装置の制御処理の手順を示すフローチャート。
図5】変形例1-1に係るブレーキ装置の油圧回路図。
図6】変形例1-2に係るブレーキ装置の制御処理の手順を示すフローチャート。
図7】変形例1-3に係るブレーキ装置の制御処理の手順を示すフローチャート。
図8】第2実施形態に係るブレーキ装置の油圧回路図。
図9】(a)は電磁比例弁の制御特性を示す図、(b)は重掘削モードにおけるブレーキ制御特性を示す図、(c)は軽掘削モードにおけるブレーキ制御特性を示す図。
図10】(a)は電磁比例弁の制御特性を示す図、(b)は重掘削モードにおけるブレーキ制御特性を示す図、(c)は軽掘削モードにおけるブレーキ制御特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るブレーキ装置を、作業機械の一例であるクレーンに適用した実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態に係るブレーキ装置を備えたクレーンの外観側面図である。クレーン100は、走行体101と、旋回装置102を介して走行体101上に旋回可能に設けられた旋回体103と、旋回体103に上下方向に回動可能に設けられたブーム104と、オペレータが搭乗する運転室108と、を有する。旋回体103には巻き上げ用のウインチである巻上ウインチ105と、ブーム起伏用のウインチである起伏ウインチ106とが搭載されている。
【0011】
巻上ウインチ105には巻上ロープ105aが巻回されている。巻上ウインチ105の回転により巻上ロープ105aが巻き取られ、または繰り出され、ブーム104の先端に設けられたシーブを介してフック110が昇降する。起伏ウインチ106には起伏ロープ106aが巻回されている。起伏ウインチ106の回転により起伏ロープ106aが巻き取られ、または繰り出され、ブーム104の先端に設けられたシーブを介してブーム104が起伏する。
【0012】
運転室108には、巻上ウインチ105の巻上げおよび巻下げの操作を行う巻上操作レバー13、旋回体103の旋回操作やブーム104の起伏ウインチ106の起伏操作を行うための各種操作レバー(不図示)、クレーン100の制御を行うコントローラ18、ブレーキ装置4の動作モードを切り換えるブレーキモード切換スイッチ17と、ブレーキ装置4の制御特性を切り換えるブレーキ制御特性切換スイッチ24、報知手段としてのモニタ(不図示)等が設けられている(図2参照)。
【0013】
図2は本発明の第1実施形態に係るブレーキ装置の油圧回路図である。図2では、巻上ウインチ105を駆動する油圧回路について図示したものであり、起伏ウインチ106を駆動する油圧回路については、図示を省略している。
【0014】
クレーン100は、クレーン100の各部の動作を制御するコントローラ18と、エンジン(不図示)と、エンジン(不図示)により駆動されるメインポンプ12、冷却油ポンプ19およびパイロットポンプ9とを備えている。メインポンプ12、冷却油ポンプ19およびパイロットポンプ9は、タンク10内の作動油を圧油として吐出する。
【0015】
コントローラ18は、図示しないが、各種演算等を行うCPU、CPUによる演算を実行するためのプログラムを格納するROMやHDD等の記憶装置、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM、および他の機器とデータを送受信する際のインタフェースである通信インタフェースを含むハードウェアと、記憶装置に記憶され、CPUにより実行されるソフトウェアとから構成される。コントローラ18の各機能は、CPUが、記憶装置に格納された各種プログラムをRAMにロードして実行することにより、実現される。
【0016】
巻上ウインチ105は、巻取ドラム3と、油圧モータ1と、メインポンプ12と、コントロールバルブ11と、遊星減速機構2と、ブレーキ装置4と、を備える。メインポンプ12は、油圧モータ1に圧油を供給し、油圧モータ1を駆動して、巻取ドラム3を巻上げおよび巻下げ駆動する。コントロールバルブ11は、メインポンプ12から油圧モータ1への圧油の流れを制御する。遊星減速機構2は、油圧モータ1の駆動力を巻取ドラム3に伝達する。ブレーキ装置4は、遊星減速機構2のキャリア軸4gを制動することにより巻取ドラム3の自由回転を阻止する。
【0017】
遊星減速機構2は、サンギヤ2aと、プラネタリギヤ2bと、リングギヤ2cとを含んで構成される。油圧モータ1の出力軸は遊星減速機構2のサンギヤ2aに連結されている。サンギヤ2aにはプラネタリギヤ2bが噛合され、プラネタリギヤ2bには巻取ドラム3の内周側に設けられたリングギヤ2cが噛合されている。プラネタリギヤ2bは、プラネタリキャリア2dにより支持されている。プラネタリキャリア2dが固着されるキャリア軸4gは、ブレーキ装置4の内部で軸受により支持されている。キャリア軸4gの外周面とキャリア軸4gが挿通される貫通孔との間は、オイルシール4hにより封止されている。
【0018】
以下、説明の便宜上、巻上ウインチ105の回転軸方向、すなわちキャリア軸4gの中心軸方向を単に軸方向と記す。また、巻上ウインチ105の軸方向の両端のうち油圧モータ1の出力軸が配置される側を巻上ウインチ105の前側、軸方向反対側を巻上ウインチ105の後側として説明する。
【0019】
(ブレーキ装置の構成)
ブレーキ装置4は、油圧モータ1と巻取ドラム3との間で回転を伝達したり、遮断したりするクラッチ装置としての機能も有している。つまり、ブレーキ装置4は、動力巻上げおよび停止時はクラッチおよびパーキングブレーキとして機能し、フリーフォール時はサービスブレーキ(常用ブレーキ)としての機能を有している。なお、本明細書では、ブレーキ装置4をクラッチとして用いる場合に必要な制動力を「必要クラッチ力」と定義する。
【0020】
本実施形態に適用されるブレーキ装置4は、ネガティブ型であって、複数の摩擦板4aを有する湿式多板ブレーキである。ブレーキ装置4は、複数の摩擦板(制動部材)4aと、複数の摩擦板4aと係合する複数の相手板(制動部材)4bと、第1ブレーキシリンダ31と、第2ブレーキシリンダ32と、キャリア軸4gと、オイルシール4hと、押圧部材4jと、を主に備える。
【0021】
複数の摩擦板4aは、キャリア軸4gの外周に、軸方向に移動可能で回転方向に拘束するようにスプライン結合により取り付けられている。一方、複数の相手板4bは、複数の摩擦板4aと軸方向において交互に配置され、ケーシングの内周に、軸方向に自由で回転方向に拘束するようにスプライン結合により取り付けられている。相手板4bに押圧力を付与することにより摩擦板4aとの間で発生する摩擦トルクがキャリア軸4gに伝達され、制動力が発生する。
【0022】
相手板4b同士は、バネにより連結されている。このため、ブレーキ解放状態において、相手板4b同士が離隔するように移動し、摩擦板4aと相手板4bとの間に隙間が形成される。摩擦板4aと相手板4bとの間に隙間が形成されることで、フリーフォール時の引きずりトルク(摩擦板4aと相手板4bとの間の油の粘性による回転抵抗(いわゆるドラグトルク))が低減される。
【0023】
第1ブレーキシリンダ31は、第1ピストン4cと、第1ピストン4cを付勢する複数のバネ(第1バネ)4eと、第1ピストン4cを収容する第1ケーシング4fと、第1ケーシング4fと第1ピストン4cとの間に環状に形成された空間である第1圧力室4mと、を有する。
【0024】
第2ブレーキシリンダ32は、第2ピストン4dと、第2ピストン4dを付勢する複数のバネ(第2バネ)4kと、第2ピストン4dを収容する第2ケーシング4iと、第2ケーシング4iと第2ピストン4dとの間に環状に形成された空間である第2圧力室4nと、を有している。
【0025】
第1ピストン4cは複数のバネ4eによって軸方向の前側に第1押圧力で付勢されている。第2ピストン4dは第1ピストン4cの内側で第1ピストン4cと同軸上に配置されている。第2ピストン4dは、第1ピストン4cと同様に複数のバネ4kによって軸方向の前側(図2の右側)に第2押圧力で付勢されている。そして、第1ピストン4cと第2ピストン4dとは、それぞれ独立して押圧部材4jを押圧可能である。
【0026】
ここで、第1ピストン4cを付勢するバネ4eと第2ピストン4dを付勢するバネ4kとは、同一の線形特性かつ同一のバネ性能(バネ定数)を有しており、バネ4eとバネ4kの数が異なっている。即ち、本実施形態において、バネ4eとバネ4kとは、互いに同一のバネ特性(力を加えると変形し、力を取り除くと復元する特性)を有している。勿論、バネ4e,4kは非線形特性を有していても良いし、互いに異なるバネ定数を有していても良い。また、バネ4eとバネ4kの数が同じでも良い。
【0027】
本実施形態では、第1ピストン4cを付勢するバネ4eの方が、第2ピストン4dを付勢するバネ4kより数が多く、より詳細には、バネ4eの数とバネ4eの数との比が6:4となっている。よって、第1ピストン4cの方が第2ピストン4dより相手板4bを押圧する押圧力が1.5倍大きい。別言すれば、第1ピストン4cの方が第2ピストン4dより1.5倍大きい制動力を発生することができる。なお、2つのブレーキシリンダ31,32による制動力の合計値は、必要クラッチ力と等しくなるように設定されている。よって、必要クラッチ力が第1ブレーキシリンダ31と第2ブレーキシリンダ32とに6:4で按分されることとなる。別言すれば、バネ4e,4kの付勢力の合計が必要クラッチ力を発生するために必要な押圧力と等しくなる。
【0028】
第1圧力室4mには、ブレーキシリンダポートB1から圧油が供給される。第2圧力室4nには、ブレーキシリンダポートB2から圧油が供給される。第1圧力室4mに圧油が供給されると、第1ピストン4cが軸方向の後側に押圧される。第2圧力室4nに圧油が供給されると、第2ピストン4dが軸方向の後側に押圧される。よって、第1ピストン4cおよび第2ピストン4dが軸方向の後側に押圧されている状態では、ブレーキ装置4の制動力は最も小さく、第1ピストン4cまたは第2ピストン4dが軸方向の前側に押圧されている状態になると、ブレーキ装置4による制動力が最も大きくなる。
【0029】
なお、第1圧力室4mに作用する圧油の受圧面積A1と第2圧力室4nに作用する圧油の受圧面積A2の比(A1/A2)は、第1ピストン4cの押圧力と第2ピストン4dの押圧力の比と等しくなるように構成されている。上記したように、本実施形態では、第1ピストン4cを付勢するバネ4eの数と第2ピストン4dを付勢するバネ4kの数との比が6:4なので、受圧面積A1と受圧面積A2の比も6:4になるように構成されている。これにより、ブレーキペダル6aの踏込量に比例した制動力を発生させることができる。別言すれば、ブレーキペダル6aの踏込量に比例した制動力の比も6:4になるように構成されている。
【0030】
なお、第1ピストン4cの押圧力と第2ピストン4dの押圧力の比と、第1圧力室4mの受圧面積A1と第2圧力室4nの受圧面積A2の比との関係は、必ずしも一致していなくても良い。例えば、押圧力の比と受圧面積の比との差が±10%の範囲(好ましくは±5%の範囲)であれば良い。これは、両圧力室4m,4nにおいて、ブレーキシリンダ31,32に取り付けられたピストンシールによる圧力損失を考慮し、実効的な受圧面積が要求の比となるように積極的に調整される場合を含む。
【0031】
押圧部材4jは、第1ピストン4cおよび第2ピストン4dと当接可能に設けられ、第1ピストン4cに作用するバネ4eの付勢力および第2ピストン4dに作用するバネ4kの付勢力によって、常時、相手板4bを押圧している。即ち、押圧部材4jに作用する軸方向の前側への押圧力により、ブレーキ装置4は常時、制動力を発生させている(ネガティブブレーキ)。なお、押圧部材4jは、第1ピストン4cと第2ピストン4dとに同時に当接可能であれば、その形状は問わない。
【0032】
ブレーキシリンダポートB1は、ブレーキ制御弁6、ブレーキモード切換弁5、およびブレーキ制御特性切換弁22を介してパイロットポンプ9に接続されていると共に、ブレーキモード切換弁21およびブレーキ制御特性切換弁23を介してパイロットポンプ9に接続されている。これにより、ブレーキシリンダポートB1は、ブレーキ制御弁6によって圧力が調整された圧油と、パイロットポンプ9から吐出された圧油とが選択的に供給可能となっている。
【0033】
また、ブレーキシリンダポートB2も同様に、ブレーキ制御弁6、ブレーキモード切換弁5、およびブレーキ制御特性切換弁22を介してパイロットポンプ9に接続されていると共に、ブレーキモード切換弁21およびブレーキ制御特性切換弁23を介してパイロットポンプ9に接続されている。これにより、ブレーキシリンダポートB2も、ブレーキ制御弁6によって圧力が調整された圧油と、パイロットポンプ9から吐出された圧油とが選択的に供給可能となっている。
【0034】
ここで、ブレーキ装置4を冷却するために、冷却油ポンプ19により冷却油(圧油)が強制循環されている。具体的には、冷却油ポンプ19から吐出された冷却油は、INポートからブレーキ装置4の内部に供給され、ブレーキディスク(摩擦板4a、相手板4b)の熱を吸収した後、OUTポートから排出され、タンク10に戻る。冷却油ポンプ19の吐出圧の上限は、リリーフ弁であるケーシング内圧保護弁20により制限されている。そのため、ブレーキ装置4の内圧もケーシング内圧保護弁20の上限以下に保持されている。尚、INポートとOUTポートの位置関係は本実施形態とは逆関係に構成しても良い。
【0035】
(油圧回路構成)
巻上ウインチ105を駆動する油圧回路には、巻上操作レバー13の操作により切換制御されるモータブレーキ切換弁7と、モータブレーキシリンダ8と、ブレーキペダル6aにより操作されるブレーキ制御弁6と、コントローラ18により切換制御されるブレーキモード切換弁5,21およびブレーキ制御特性切換弁22,23と、ケーシング内圧保護弁20と、が設けられている。なお、ブレーキ制御弁6は、ブレーキ操作に応じて作動する構成であれば良く、ブレーキペダル6aの踏込量に応じて作動する構成のほか、ブレーキペダル6aの踏力に応じて作動する構成や、この操作を手操作に置き替えて作動する構成、または巻上ウインチ105の回転速度に応じて作動する構成であっても良い。
【0036】
また、この油圧回路には、ブレーキモード切換弁5,21を切り換えてブレーキ装置4の動作モード(中立ブレーキモード/中立フリーモード)を切り換えるために、複数の操作圧センサ15と、1つのブレーキ回路圧センサ16とが設けられ、それぞれコントローラ18に接続されている。さらに、コントローラ18には、ブレーキモード切換スイッチ17およびブレーキ制御特性切換スイッチ24が接続されている。
【0037】
なお、ブレーキモード切換スイッチ17は動作モードを後述する中立ブレーキモードと中立フリーモードの何れにするかを選択するスイッチであり、ブレーキ制御特性切換スイッチ24は作業モードを後述する重掘削モードと軽掘削モードの何れにするかを選択するスイッチである。
【0038】
(油圧回路の動作)
次に、動力巻上げ・巻下げを行う動作モードである中立ブレーキモードでの油圧回路の動作、ならびに、フリーフォールを行う動作モードである中立フリーモードでの油圧回路の動作について説明する。図2は中立ブレーキモードの状態を示している。ブレーキモード切換スイッチ17が中立ブレーキモードの操作位置に切り換わると、図2に示すように、ブレーキモード切換弁5,21およびブレーキ制御特性切換弁22,23が非励磁状態となる。この状態において、ブレーキモード切換スイッチ17が中立フリーモードの操作位置に切り換わると共に、その他の条件が成立すると、ブレーキモード切換弁5,21が励磁されて動作モードが中立フリーモードに切り換わる。
【0039】
-動力巻上げ・巻下げ時の動作(中立ブレーキモード)-
図2に示す巻上操作レバー13が巻上げ位置あるいは巻下げ位置に操作されると、パイロットポンプ9からのパイロット圧がコントロールバルブ11に作用してコントロールバルブ11のスプールが駆動され、コントロールバルブ11を介してメインポンプ12から吐出される圧油が油圧モータ1に供給される。同時にパイロットポンプ9からのパイロット圧は高圧選択弁14を介してモータブレーキ切換弁7にも作用する。これにより、モータブレーキ切換弁7が位置(A)に切り換えられて、パイロットポンプ9からのパイロット圧がモータブレーキシリンダ8をブレーキ開放側へ駆動させるので、油圧モータ1が回転駆動する。尚、モータブレーキ切換弁7は、操作圧センサ15の検出信号によって電気的に切り換えを行う電磁切換弁でも良い。
【0040】
中立ブレーキモードでは、ブレーキモード切換弁5,21およびブレーキ制御特性切換弁22,23が非励磁状態である。よって、ブレーキモード切換弁5,21は、それぞれ位置(D1),(D2)に切り換わり、ブレーキ制御特性切換弁22,23は、それぞれ位置(E1),(E2)に切り換わっている。なお、ブレーキ制御特性切換弁22,23は、必ずしも位置(E1),(E2)に切り換わっていなくても良い。即ち、ブレーキ制御特性切換弁22,23がそれぞれ位置(F1),(F2)の状態で、中立ブレーキモードが開始されても良い。
【0041】
ブレーキ解除圧であるパイロットポンプ9からのパイロット圧はブレーキモード切換弁5,21で遮断され、第1圧力室4mおよび第2圧力室4nはタンク10と連通する。第1圧力室4mおよび第2圧力室4nはタンク圧となり、バネ4eが第1ピストン4cを付勢し、バネ4kが第2ピストン4dを付勢する。第1ピストン4cおよび第2ピストン4dに作用するバネ4e,4kの付勢力が押圧部材4jに伝達され、押圧部材4jが相手板4bを押圧する。その結果、摩擦板4aと相手板4bとが互いに押し付けられてプラネタリキャリア2dに制動力が付与され、プラネタリキャリア2dが固定される。
【0042】
中立ブレーキモードにおいて、油圧モータ1の回転駆動力によって遊星減速機構2のサンギヤ2aが回動すると、プラネタリギヤ2bが自転してリングギヤ2cおよびリングギヤ2cに接続されている巻取ドラム3が回動して、動力による巻上げあるいは巻下げが行われる。
【0043】
-フリーフォール時の動作(中立フリーモード)-
巻上操作レバー13が中立位置に操作されると、コントロールバルブ11によってメインポンプ12から油圧モータ1への圧油の流れが遮断される。高圧選択弁14を介したモータブレーキ切換弁7へのパイロット圧油も供給されなくなるので、モータブレーキ切換弁7が位置(B)に切り換えられる。モータブレーキ切換弁7により、モータブレーキシリンダ8へのパイロット圧が遮断されるので、モータブレーキがバネの付勢力により作動する。この状態で、ブレーキモード切換弁5,21が励磁され、かつ、ブレーキ装置4の制動力が開放されると、巻取ドラム3はフック110に吊り下げられた吊り荷の自重により自由回転する。
【0044】
中立フリーモードへの切り換えは、操作圧センサ15と、ブレーキ回路圧センサ16と、ブレーキモード切換スイッチ17の各判定値に基づいて、コントローラ18の指令によりブレーキモード切換弁5,21を作動させることにより行われる。例えば、操作圧センサ15で検出された操作圧が予め定められた閾値よりも小さく(即ち、巻上操作レバー13が中立)、かつ、ブレーキ回路圧センサ16で検出された回路圧が予め定められた閾値よりも小さい状態(即ち、ブレーキペダル6aが踏み込まれている状態)で、ブレーキモード切換スイッチ17が中立フリーモードの操作位置に切り換えられたことが検出されたとき、コントローラ18は中立ブレーキモードから中立フリーモードへと動作モードを切り換える。
【0045】
ここで、本実施形態では、中立フリーモードでの作業モードとして、重掘削モード(第1作業モード)と軽掘削モード(第2作業モード)とが予め用意されている。重掘削モードは、重い吊り荷を自重により落下させる場合(重負荷作業)に好適なモードであり、軽掘削モードは、比較的軽量の吊り荷を自重により落下させる場合(軽負荷作業)に好適なモードである。具体的には、重掘削モードと軽掘削モードとでは、ブレーキ制御特性が異なっており、重掘削モードの方が軽掘削モードより制動力が大きくなるように設定されている。以下、それぞれの掘削モードにおける油圧回路の動作を説明する。
【0046】
-重掘削モード-
ブレーキ制御特性切換スイッチ24が重掘削モードの位置に切り換わると、作業モードが重掘削モードに切り換わる。重掘削モードでは、ブレーキモード切換弁5,21が励磁状態、かつ、ブレーキ制御特性切換弁22,23が非励磁状態である。即ち、重掘削モードでは、ブレーキモード切換弁5,21がそれぞれ位置(C1),(C2)に切り換えられ、ブレーキ制御特性切換弁22,23がそれぞれ位置(E1),(E2)に切り換えられる。
【0047】
すると、ブレーキモード切換弁5には、ブレーキ制御弁6によって調整されたパイロット圧(ブレーキペダル6aの踏込量に応じたパイロット圧)がかかり、ブレーキモード切換弁21にはブレーキ解除圧(最大圧力)であるパイロットポンプ9からのパイロット圧が直接かかる。ブレーキ制御弁6によって調整されたパイロット圧は、ブレーキシリンダポートB1を介して第1圧力室4mに作用する。そのため、第1ピストン4cは、バネ4eの付勢力と第1圧力室4mに作用するパイロット圧との差に応じた押圧力で押圧部材4jを押圧する。
【0048】
一方、第2圧力室4nには、ブレーキシリンダポートB2を介してパイロットポンプ9からのパイロット圧(ブレーキ解除圧)が直接作用する。より詳細には、パイロットポンプ9の最大吐出圧が第2圧力室4nには作用している。そのため、第2ピストン4dはバネ4kの付勢力に抗して軸方向の後側(図2の左側)に保持され、第2ピストン4dによるブレーキは解除される。
【0049】
このように、重掘削モードでは、第1ブレーキシリンダ31が第2ブレーキシリンダ32と独立して動作し、第1ブレーキシリンダ31による制動力のみが発生する。そして、重掘削モードにおける制動力は、第1ピストン4cを付勢するバネ4eのバネ特性に従うこととなる。
【0050】
-軽掘削モード-
ブレーキ制御特性切換スイッチ24が軽掘削モードの位置に切り換わると、作業モードが軽掘削モードに切り換わる。軽掘削モードでは、ブレーキモード切換弁5,21が励磁状態、かつ、ブレーキ制御特性切換弁22,23が励磁状態である。即ち、軽掘削モードでは、ブレーキモード切換弁5,21がそれぞれ位置(C1),(C2)に切り換えられ、ブレーキ制御特性切換弁22,23がそれぞれ位置(F1),(F2)に切り換えられる。
【0051】
すると、ブレーキモード切換弁5には、ブレーキ制御弁6によって調整されたパイロット圧(ブレーキペダル6aの踏込量に応じたパイロット圧)がかかり、ブレーキモード切換弁21にはブレーキ解除圧であるパイロットポンプ9からのパイロット圧が直接かかる。軽掘削モードでは、ブレーキ制御特性切換弁22,23の位置がそれぞれ位置(F1),(F2)に切り換えられるため、ブレーキ制御弁6によって調整されたパイロット圧は、ブレーキシリンダポートB2を介して第2圧力室4nに作用する。そのため、第2ピストン4dは、バネ4kの付勢力と第2圧力室4nに作用するパイロット圧との差に応じた押圧力で押圧部材4jを押圧する。
【0052】
一方、第1圧力室4mには、ブレーキシリンダポートB1を介してパイロットポンプ9からのパイロット圧(ブレーキ解除圧)が直接作用する。より詳細には、パイロットポンプ9の最大吐出圧が第1圧力室4mには作用している。そのため、第1ピストン4cはバネ4eの付勢力に抗して軸方向の後側(図2の左側)に保持され、第1ピストン4cによるブレーキは解除される。
【0053】
このように、軽掘削モードでは、第2ブレーキシリンダ32が第1ブレーキシリンダ31と独立して動作し、第2ブレーキシリンダ32による制動力のみが発生する。そして、軽掘削モードにおける制動力は、第2ピストン4dを付勢するバネ4kのバネ特性に従うこととなる。このように、ブレーキ制御特性切換弁22,23を励磁することで、制動力を発生させるブレーキシリンダ31,32が選択的に切り換わる。
【0054】
次に、図3を参照し、本実施形態に係るブレーキ装置4の各種特性について説明する。図3(a)は、第1ピストン4cの制動力特性を示す図であり、横軸は第1圧力室4mに作用する圧力を示し、縦軸は第1ピストン4cによる制動力を示している。図3(b)は、第2ピストン4dの制動力特性を示す図であり、横軸は第2圧力室4nに作用する圧力を示し、縦軸は第2ピストン4dによる制動力を示している。
【0055】
上記したように、本実施形態では、第1ピストン4cを付勢するバネ4eの数と、第2ピストン4dを付勢するバネ4kの数との比が6:4となっているため、必要クラッチ力を100%(制動力の最大値)とすると、第1ピストン4cの制動力は最大で必要クラッチ力の60%(図3(a)参照)、第2ピストン4dの制動力は最大で必要クラッチ力の40%(図3(b)参照)に按分される。そして、バネ4eは線形特性を有しているため、第1圧力室4mに作用する圧力が増加するのに伴って、第1ピストン4cの制動力は直線的に減少する。同様に、第2圧力室4nに作用する圧力が増加するのに伴って、第2ピストン4dの制動力も直線的に減少する。
【0056】
なお、第1ピストン4cの制動力特性および第2ピストン4dの制動力特性は、バネ4e、4kのバネ特性、第1ピストン4cや第2ピストン4dの受圧面積を変更することにより、調整することができる。
【0057】
図3(c)は、ブレーキ制御弁6の圧力特性を示す図である。横軸は、ペダルストロークを示している。ペダルストロークは、ブレーキペダル6aを最大に踏み込んだ状態を100%、ブレーキペダル6aを踏み込んでいない非操作状態を0%として、ペダルストローク(踏込量)の割合を示している。
【0058】
図3(c)に示すように、ブレーキ制御弁6の圧力特性は、ペダルストロークが0%以上100%以下の範囲において、ペダルストロークの増加に応じて圧力が直線的に減少する特性である。なお、ブレーキ制御弁6の圧力特性は、ペダルストロークの増加に応じて必ずしも直線的に圧力が減少しない特性であっても良い。
【0059】
図3(d)は、ブレーキ制御特性を示す図であり、横軸にペダルストロークを示し、縦軸に制動力を示している。図3(d)では、必要クラッチ力を100%として、制動力の割合を示している。図3(d)に示すように、重掘削モードでは、ペダルストロークの増加に応じて制動力が0%から60%の範囲で線形的に増加する。一方、軽掘削モードでは、ペダルストロークの増加に応じて制動力が0%から40%の範囲で線形的に増加する。そして、ペダルストロークが100%であることが検出されると、直ちにブレーキモード切換弁5,21が非励磁状態となって一時的に中立ブレーキモードに切り換わる。そのため、第1ブレーキシリンダ31と第2ブレーキシリンダ32とが協働して制動力を発生させ、その制動力は必要クラッチ力(100%)となる。
【0060】
このように、本実施形態では、ペダルストロークが0%~100%の範囲において、重掘削モードと軽掘削モードとで異なるブレーキ制御特性にて制動力を発生させることができる。
【0061】
次に、コントローラ18によるブレーキ装置4の制御について説明する。図4はコントローラ18によるブレーキ装置4の制御処理の手順を示すフローチャートである。図4に示すように、まず、コントローラ18は、RAMに記憶されている現在のブレーキ制御特性の設定値を読み込む(S101)。即ち、コントローラ18は、現在の動作モードが重掘削モードと軽掘削モードの何れであるかを判断する。
【0062】
次いで、コントローラ18は、現在の動作モードが中立ブレーキモードと中立ブレーキモードの何れであるかのブレーキモード判定を行う(S102)。ブレーキモード判定の結果が中立ブレーキモードである場合には、コントローラ18は、ブレーキ制御特性切換スイッチ24が操作されたか否かの操作判定を行う(S103)。コントローラ18は、ブレーキ制御特性切換スイッチ24からの入力信号により、軽掘削モードに切り換える操作が行われたと判定した場合には、ブレーキ制御特性切換弁22,23を励磁する指令を出力する(S104)。
【0063】
ここで、本実施形態では、S102において、巻上げ操作中に中立ブレーキモードに一時的に切り換わった場合においても、ブレーキ制御特性切換スイッチ24の操作により軽掘削モードまたは重掘削モードに切り換えられる構成としているが、一時的に中立ブレーキモードに切り換えられた場合には、作業モードの切り換えを禁止あるいは無効としても良い。別言すれば、恒久的な中立ブレーキモード時にのみ、ブレーキ制御特性切換スイッチ24を有効としても良い。
【0064】
次いで、コントローラ18は、ブレーキ制御特性の設定値(この場合、軽掘削モード)をRAMに書き込んで、設定値を更新する(S105)。次いで、コントローラ18は、ブレーキ制御特性の設定を運転室108内のモニタに表示する(S106)。即ち、コントローラ18は、モニタに重掘削モードまたは軽掘削モードである旨を表示する。
【0065】
一方、S103において、コントローラ18が重掘削モードに切り換える操作が行われたと判定した場合には、ブレーキ制御特性切換弁22,23を非励磁にする指令を出力し(S107)、S105に進む。
【0066】
また、S102において、ブレーキモード判定の結果が中立フリーモードである場合には、コントローラ18は、ブレーキ制御特性切換スイッチ24が操作されたか否かの操作判定を行い(S108)、操作されたと判定した場合には(S108/YES)、モニタにブレーキ制御特性の変更(重掘削モードと軽掘削モードとの間の切り換え)はできない旨の警告表示を行って(S109)、ブレーキ制御特性切換スイッチ24の操作を無効にする。即ち、中立フリーモード中は重掘削モードと軽掘削モードとの間の切り換えを禁止している。
【0067】
一方、S108において、コントローラ18は、ブレーキ制御特性切換スイッチ24が操作されていないと判定した場合(S108/NO)、処理が終了となる。
【0068】
以上のように構成された第1実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
【0069】
ブレーキ装置4が、第1ブレーキシリンダ31と第2ブレーキシリンダ32を備えており、第1ブレーキシリンダ31と第2ブレーキシリンダ32とが独立して押圧部材4jを押圧して制動力を発生させることができる。そして、第1ブレーキシリンダ31によるブレーキ特性と、第2ブレーキシリンダ32によるブレーキ特性とは異なっている(バネ4eとバネ4kとの数が異なっている)。そのため、オペレータは、作業内容に応じて、第1ブレーキシリンダ31によるブレーキ特性で制動力を発生させながらクレーン100を操作することができ、また、第2ブレーキシリンダ32によるブレーキ特性で制動力を発生させながらクレーン100を操作することができる。よって、クレーン100のフリーフォール作業中の操作性が向上する。
【0070】
特に、吊り荷が重い場合には、オペレータが重掘削モードを選択することで、軽掘削モードより大きい制動力を発生させることができるから、オペレータの感覚に合ったブレーキペダル6aの操作が可能となる。反対に、吊り荷が軽い場合には、オペレータは軽掘削モードを選択することで、ブレーキペダル6aを所定量踏み込んでも、重掘削モードより小さい制動力しか発生しないため、軽負荷作業においても操作性が向上する。このように、本実施形態では、1つのブレーキ装置4であっても、吊り荷の負荷に応じて異なる2つのブレーキ特性のうち1つを選択して、フリーフォール作業を好適に行うことができる。
【0071】
さらに、第1実施形態では、ブレーキ装置4のブレーキ特性を、第1ブレーキシリンダ31と第2ブレーキシリンダ32との切り換えにより物理的(機械的)に行う構成であるため、信頼性が高い。仮に、第1ブレーキシリンダ31と第2ブレーキシリンダ32とに作用させる圧油の圧力を電気的に制御した場合、電子部品が故障すると制動力が確保されない可能性があるため、高い安全性が求められるブレーキ装置に不向きである。しかし、第1実施形態のような構成にすれば、ブレーキ特性を物理的(機械的)に切り換えるため、そのような心配はない。
【0072】
また、重掘削モードおよび軽掘削モードの選択は、ブレーキモード判定(S102)において中立ブレーキモード中しか行えないように制御されている。そのため、作業の安全性が向上する。具体的には、中立フリーモードでは吊り荷が自重で落下しているため、この間に動作モードが重掘削モードまたは軽掘削モードに切り換えられると、ブレーキ特性が異なるため、オペレータはブレーキペダル6aの踏込量の調整が必要となる。しかも、動作モード切換時の応答性に起因して、油圧回路の挙動が一時的に安定しない可能性がある。この点、本実施形態のように、中立ブレーキモード中しか重掘削モードおよび軽掘削モードの選択ができない構成としているため、そのような心配がなく、安全に作業を行える利点がある。
【0073】
なお、中立フリーモード中において、重掘削モードから軽掘削モードへの切り換えは禁止するが、軽掘削モードから重掘削モードへの切り換えは有効にすると、安全性を確保しつつ、オペレータの操作性をより一層向上させることができる。
【0074】
また、モニタに重掘削モード、軽掘削モードの情報や、各種警告情報などが表示されるため、オペレータは視覚的に動作モードを認識し易くなり、クレーン100の操作性がより一層向上する。なお、モニタによる警告表示の代わりに、ブザーやランプ等の報知手段を用いて警告を行っても良い。
【0075】
また、第1実施形態では、ペダルストロークが100%であることが検出されると、直ちにブレーキモード切換弁5,21が非励磁状態となって一時的に中立ブレーキモードに切り換わり、必要クラッチ力(100%)と等しい制動力が発生する。そのため、クレーン100を安全に操作できる。勿論、ペダルストロークが100%のときに必要クラッチ力より低い制動力を発生させる構成であっても良い。
【0076】
ここで、第1実施形態に係るブレーキ装置4は、以下に説明するように様々の変形が可能である。
【0077】
(変形例1-1)
図5は変形例1-1に係るブレーキ装置4の油圧回路図である。図5に示す変形例1-1では、図2に示すブレーキ制御特性切換弁22,23を設ける代わりに、ブレーキ制御特性切換弁22,23の機能を一体化したブレーキ制御特性切換弁25を設けている点に特徴がある。
【0078】
図5に示すブレーキ制御特性切換弁25は非励磁状態であり、ブレーキ制御特性切換弁25が位置(G2)に切り換わっている。この状態でブレーキモード切換弁5,21が励磁されると、ブレーキ制御弁6にて調整されたパイロット圧が第1圧力室4mに作用し、パイロットポンプ9から吐出されたパイロット圧(ブレーキ解除圧)が第2圧力室4nに作用する。そして、ブレーキペダル6aの踏込量に応じて、第1ブレーキシリンダ31による制動力が発生する。よって、ブレーキ制御特性切換弁25が非励磁状態の場合が重掘削モードである。
【0079】
一方、動作モードを重掘削モードから軽掘削モードに切り換える場合には、コントローラ18はブレーキ制御特性切換弁25を励磁するよう指令を出力する。すると、ブレーキ制御特性切換弁25が位置(G2)から位置(G1)に切り換わる。すると、ブレーキ制御弁6にて調整されたパイロット圧が第2圧力室4nに作用し、パイロットポンプ9から吐出されたパイロット圧(ブレーキ解除圧)が第1圧力室4mに作用する。そして、ブレーキペダル6aの踏込量に応じて、第2ブレーキシリンダ32による制動力が発生する。
【0080】
このように、変形例1-1に係るブレーキ装置4においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。しかも、変形例1-1では、ブレーキ制御特性切換弁の数が少ないため、油圧回路構成を簡素化できる利点もある。
【0081】
(変形例1-2)
図6は変形例1-2に係るブレーキ装置4の制御処理の手順を示すフローチャートである。図6に示すように、まず、コントローラ18は、RAMに記憶されている現在のブレーキ制御特性の設定値(重掘削モードまたは軽掘削モード)を読み込む(S201)。次いで、コントローラ18は、現在の動作モードが中立フリーモードと中立ブレーキモードの何れであるかを判定するブレーキモード判定を行う(S202)。
【0082】
ブレーキモード判定の結果が中立フリーモードである場合には、コントローラ18は、S201で読み込んだブレーキ制御特性の設定値が重掘削モードと軽掘削モードの何れであるかを判定する制御特性判定を行う(S203)。コントローラ18は、S203で軽掘削モードであると判定した場合には、巻上げ操作が行われたか否かの判定を行う(S204)。具体的には、コントローラ18は、操作圧センサ15から入力される検出信号に基づいて、巻上操作レバー13による巻上げ操作が行われたか否かを判定する。
【0083】
S204においてYESの場合には、コントローラ18は、巻上ロープ105aに作用する荷重(吊り荷の荷重)を荷重検出器(不図示)にて検出し、この検出値に基づいて、吊り荷のフリーフォールを許可するか否かの降下許容荷重判定を行う(S205)。荷重検出器の検出値が閾値未満の場合、コントローラ18は、ブレーキ制御特性切換弁22,23を励磁する指令を出力する(S206)。
【0084】
一方、荷重検出器の検出値が閾値以上の場合、コントローラ18は、モニタに重掘削モードに変更する旨の警告表示を行う(S207)。次いで、コントローラ18は、ブレーキ制御特性切換弁22,23を非励磁にする指令を出力し(S208)、ブレーキ制御特性の設定値をRAMに書き込む(S209)。この場合、重掘削モードがRAMに書き込まれる。そして、コントローラ18は、モニタに現在のブレーキ制御特性を表示する(S210)。具体的には、コントローラ18は、現在の動作モードが重掘削モードまたは軽掘削モードである旨をモニタに表示する。
【0085】
なお、S202で中立ブレーキモードであると判定された場合、S203で重掘削モードであると判定された場合、およびS204で巻上げ操作が行われていないと判定された場合(S204/NO)、コントローラ18は処理を終了する。
【0086】
この変形例1-2では、現在の動作モードが中立フリーモードかつ軽掘削モードである場合には、巻上操作レバー13の操作と巻上ロープ105aに作用する吊り荷の荷重を検出し(S204,S205)、吊り荷の荷重が閾値未満の場合にはそのまま軽掘削モードを継続してブレーキ制御特性切換弁22,23を励磁し(S206)、吊り荷の荷重が閾値以上の場合には自動的にブレーキ制御特性切換弁22,23を非励磁にして重掘削モードに移行させる(S208)ため、オペレータにとって使い勝手が良いうえ、安全面においても優れる。
【0087】
なお、変形例1-2において、コントローラ18は、S208にて自動的に重掘削モードに切り換えた状態をRAMに記憶し、次回の巻上げ操作時に反映しても良いし、今回の巻上げ操作時に限定した処理としても良い。また、吊り荷の荷重を荷重検出器以外で検出しても良い。
【0088】
(変形例1-3)
図7は変形例1-3に係るブレーキ装置4の制御処理の手順を示すフローチャートである。図7に示すように、まず、コントローラ18は、RAMに記憶されている現在のブレーキ制御特性の設定値(重掘削モードまたは軽掘削モード)を読み込み(S301)、読み込んだブレーキ制御特性の設定値が重掘削モードと軽掘削モードの何れであるかを判定する制御特性判定を行う(S302)。コントローラ18は、S302で軽掘削モードであると判定した場合には、ブレーキ制御特性切換弁22,23を励磁する指令を出力する(S303)。一方、コントローラ18は、S302で重掘削モードであると判定した場合、ブレーキ制御特性切換弁22,23を非励磁にする指令を出力する(S304)。そして、コントローラ18は、モニタに現在のブレーキ制御特性を表示する(S305)。具体的には、コントローラ18は、現在の動作モードが重掘削モードまたは軽掘削モードである旨をモニタに表示する。
【0089】
次いで、コントローラ18は、エンジンのキースイッチがOFF(即ち、クレーン100の稼働停止)になったか否かを判定するキーOFF判定を行う(S306)。キースイッチがOFFになっていない場合(S306/NO)、S301に戻る。一方、キースイッチがOFFになっている場合(S306/YES)、コントローラ18は、ブレーキ制御特性の設定値をRAMに書き込む(S307)。
【0090】
この変形例1-3では、キースイッチのOFFにより、現在の作業モード(重掘削モードまたは軽掘削モード)をRAMに書き込んで処理を終了するので、次回のキースイッチON(即ち、クレーン100の稼働開始)の際、S301にて前回記憶されている作業モードを初期値として読み込むことができる。即ち、前回の作業モードを自動復帰させることができる。よって、変形例3に係るブレーキ装置4の制御は、オペレータにとって使い勝手がより一層良好なものとなる。
【0091】
<第2実施形態>
図8は第2実施形態に係るブレーキ装置4の油圧回路図である。図8に示す第2実施形態の第1実施形態との相違点は、ブレーキモード切換弁21の上流側に電磁比例減圧弁(以下、電磁比例弁という)26を設け、ブレーキ制御特性調整ダイヤル27をコントローラ18に接続した点にある。この構成によれば、ブレーキ制御弁6により圧力が調整された圧油と、電磁比例弁26により圧力が調整された圧油とが、第1圧力室4mと第2圧力室4nとに選択的に供給されるため、ブレーキ制御特性をより細かく可変できる。以下、第2実施形態におけるブレーキ制御特性の特徴を具体的に説明する。
【0092】
図9(a)は電磁比例弁の制御特性を示す図、(b)は重掘削モードにおけるブレーキ制御特性を示す図、(c)は軽掘削モードにおけるブレーキ制御特性を示す図である。なお、図9(a),(b),(c)において、ブレーキ制御特性調整ダイヤル27がレベル3に設定されているときの制御特性を太線で示し、レベル1,2,4,5の制御特性は細線で示している。また、図9(a)に示す電磁比例弁26の各レベルに対する制御特性はコントローラ18の記憶装置にルックアップテーブル形式で記憶されている。
【0093】
なお、図9(a)では、ブレーキ制御弁6の圧力に対する電磁比例弁26の制御圧力の特性を規定しているが、ブレーキ制御弁6の圧力の代わりに、ブレーキペダル6aの踏込量(ストローク)や踏力、あるいは巻上ウインチ105の回転速度と電磁比例弁26の制御圧力の特性との関係を規定しても良い。即ち、電磁比例弁26は、ブレーキ操作に応じた制御信号に基づいてコントローラ18により作動される構成であれば良い。
【0094】
図9(a)に示すように、レベル1に設定されたときの電磁比例弁26の制御特性は、ブレーキ制御弁6の圧力が0%以上20%未満の範囲では、圧力の増加に応じて電磁比例弁26の制御圧力が0%から100%まで直線的に増加し、ブレーキ制御弁6の圧力が20%以上100%以下の範囲では、電磁比例弁26の制御圧力が100%に維持される特性である。
【0095】
レベル2に設定されたときの電磁比例弁26の制御特性は、ブレーキ制御弁6の圧力が0%以上40%未満の範囲では、圧力の増加に応じて電磁比例弁26の制御圧力が0%から100%まで直線的に増加し、ブレーキ制御弁6の圧力が40%以上100%以下の範囲では、電磁比例弁26の制御圧力が100%に維持される特性である。
【0096】
レベル3に設定されたときの電磁比例弁26の制御特性は、ブレーキ制御弁6の圧力が0%以上60%未満の範囲では、圧力の増加に応じて電磁比例弁26の制御圧力が0%から100%まで直線的に増加し、ブレーキ制御弁6の圧力が60%以上100%以下の範囲では、電磁比例弁26の制御圧力が100%に維持される特性である。
【0097】
レベル4に設定されたときの電磁比例弁26の制御特性は、ブレーキ制御弁6の圧力が0%以上80%未満の範囲では、圧力の増加に応じて電磁比例弁26の制御圧力が0%から100%まで直線的に増加し、ブレーキ制御弁6の圧力が80%以上100%以下の範囲では、電磁比例弁26の制御圧力が100%に維持される特性である。
【0098】
レベル5に設定されたときの電磁比例弁26の制御特性は、ブレーキ制御弁6の圧力が0%以上100%以下の範囲で、圧力の増加に応じて電磁比例弁26の制御圧力が0%から100%まで直線的に増加する特性である。
【0099】
このように、電磁比例弁26の圧力が、図9(a)に示す制御特性に従って制御されるため、重掘削モードでは図9(b)に示すブレーキ制御特性が得られ、軽掘削モードでは図9(c)に示すブレーキ制御特性が得られる。
【0100】
例えば、ブレーキ制御特性調整ダイヤル27の設定値がレベル3の場合において、重掘削モードでは、図9(b)に示すように、ペダルストロークが0%以上40%未満の範囲では、ペダルストロークの増加に伴って制動力が第1ピストン4cのみによる特性と同じ傾きで直線的に増加し、ペダルストロークが40%以上100以下の範囲では、第2ピストン4dによるアシスト特性が加わることで、第1ピストン4cのみによる特性より急な傾きで直線的に制動力が増加するというブレーキ制御特性が得られる。
【0101】
また、図9(c)に示すように、軽掘削モードでは、設定値が同じレベル3の場合であっても、ペダルストロークが0%以上40%未満の範囲では、ペダルストロークの増加に伴って制動力が第2ピストン4dのみによる特性と同じ傾きで直線的に増加し、ペダルストロークが40%以上100以下の範囲では、第1ピストン4cによるアシスト特性が加わることで、第2ピストン4dのみによる特性より急な傾きで直線的に制動力が増加するというブレーキ制御特性が得られる。
【0102】
そして、同じレベル3であっても、重掘削モードの方が軽掘削モードよりペダルストロークが0%以上40%未満の範囲での直線の傾きが緩やかとなり、ペダルストロークが40%以上100以下の範囲での直線の傾きが急となる。
【0103】
このように、第2実施形態では、よりきめ細かいブレーキ制御特性を実現できるため、オペレータにとってより一層使い勝手が良いものとなる。特に、第2実施形態は、重掘削モードと軽掘削モードとが切り換わる作業において適している。
【0104】
具体的には、1台のクレーン100には、通常、2個から3個のウインチ装置が搭載されている。このため、作業内容によっては各ウインチ装置の負荷形態が異なる場合がある。たとえば、クラムシェル作業では、バケットを支持し、バケットの昇降を制御するウインチ装置と、バケットの開閉を制御するウインチ装置が用いられる。
【0105】
掘削時、バケットを開いた状態(解放状態)でフリーフォール操作により着土させる操作では、重負荷となるバケット支持用のウインチ装置で降下速度を調整し、軽負荷となるバケット開閉用のウインチ装置は支持用のウインチ装置の降下速度に追従させてバケットを閉じる操作となる。ここで、追従が遅れるとバケットが閉じてから着土してしまい、一方、追従が先行すると開閉用のウインチ装置のワイヤロープが緩んで乱巻となるおそれがある。このため、クラムシェル作業では、特にバケット開閉用のウインチ装置に対する高い操作性が求められる。
【0106】
このように、ウインチ装置ごとに負荷が異なり、それぞれの負荷形態により特化したい場合には第2実施形態が有効である。
【0107】
なお、ブレーキ制御特性調整ダイヤル27をレベル1~5の5段階に設定したが、この設定は任意である。また、1~5段階の中間値を持つ連続可変式のダイヤルを用いることもできる。
【0108】
(変形例2-1)
また、第2実施形態に係る電磁比例弁26の制御特性を曲線的に制御するよう変形することもできる。
【0109】
図10(a)は電磁比例弁の制御特性を示す図、(b)は重掘削モードにおけるブレーキ制御特性を示す図、(c)は軽掘削モードにおけるブレーキ制御特性を示す図である。図10(a)に示すように、レベル1に設定されたときの電磁比例弁26の制御特性は、ブレーキ制御弁6の圧力が0%以上20%未満の範囲では、圧力の増加に応じて電磁比例弁26の制御圧力が0%から100%まで曲線的に増加し、ブレーキ制御弁6の圧力が20%以上100%以下の範囲では、電磁比例弁26の制御圧力が100%に維持される特性である。レベル2~5についても、図示の通りブレーキ制御弁6の圧力の増加に伴って電磁比例弁26の制御圧力が曲線的に増加する制御特性である。
【0110】
このように、電磁比例弁26の圧力が、図10(a)に示す制御特性に従って制御されるため、重掘削モードでは図10(b)に示すブレーキ制御特性が得られ、軽掘削モードでは図10(c)に示すブレーキ制御特性が得られる。
【0111】
例えば、ブレーキ制御特性調整ダイヤル27の設定値がレベル3の場合において、重掘削モードでは、図10(b)に示すように、ペダルストロークが0%以上40%未満の範囲では、ペダルストロークの増加に伴って制動力が第1ピストン4cのみによる特性と同じ傾きで直線的に増加し、ペダルストロークが40%以上100以下の範囲では、第2ピストン4dによるアシスト特性が加わることで、ペダルストロークの増加に伴って制動力が曲線的に増加するブレーキ制御特性が得られる。また、軽掘削モードにおいても、図10(c)に示すようなブレーキ制御特性が得られる。
【0112】
変形例2-1は、フリー降下に伴う制動エネルギが重力加速度によって2次曲線的に変化する場合に、オペレータの感覚と一致した操作性を実現できるため、好適である。さらに、第2実施形態と変形例2-1とをオペレータが選択可能に構成すると、より高機能である。
【0113】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0114】
上記した各実施形態では、ネガティブ型のブレーキ装置4を例示しているが、ポジティブ型のブレーキ装置を用いても良い。即ち、本発明において、ブレーキ装置はネガティブ型に限定されない。
【0115】
また、クレーンの一例として、クローラクレーンを例示したが、本発明は、これに限らず、ホイールクレーン、トラッククレーン、ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン等の他の移動式クレーンに加えて、タワークレーン、天井クレーン、ジブクレーン、引込みクレーン、スタッカークレーン、門型クレーン、アンローダ、アースドリル等の基礎機械等のあらゆるクレーンに適用可能である。また、本発明はクレーン以外の作業機械、例えば、道路機械や油圧ショベル、ホイールローダ等にも適用できる。また、本発明のブレーキ装置は、ウインチ以外にも適用できる。
【符号の説明】
【0116】
1 油圧モータ
2 遊星減速機構
2a サンギヤ
2b プラネタリギヤ
2c リングギヤ
2d プラネタリキャリア
3 巻取ドラム
4 ブレーキ装置
4a 摩擦板(制動部材)
4b 相手板(制動部材)
4c 第1ピストン
4d 第2ピストン
4e バネ(第1バネ)
4f 第1ケーシング
4g キャリア軸
4h オイルシール
4i 第2ケーシング
4j 押圧部材
4k バネ(第2バネ)
4m 第1圧力室
4n 第2圧力室
5 ブレーキモード切換弁
6 ブレーキ制御弁
6a ブレーキペダル
7 モータブレーキ切換弁
8 モータブレーキシリンダ
9 パイロットポンプ
10 タンク
11 コントロールバルブ
12 メインポンプ
13 巻上操作レバー
15 操作圧センサ
16 ブレーキ回路圧センサ
17 ブレーキモード切換スイッチ
18 コントローラ
19 冷却油ポンプ
20 ケーシング内圧保護弁
21 ブレーキモード切換弁
22 ブレーキ制御特性切換弁
23 ブレーキ制御特性切換弁
24 ブレーキ制御特性切換スイッチ
25 ブレーキ制御特性切換弁
26 電磁比例減圧弁(電磁比例弁)
27 ブレーキ制御特性調整ダイヤル
31 第1ブレーキシリンダ
32 第2ブレーキシリンダ
100 クレーン
101 走行体
102 旋回装置
103 旋回体
104 ブーム
108 運転室
105 巻上ウインチ(ウインチ)
106 起伏ウインチ(ウインチ)
105a 巻上ロープ
110 フック
106a 起伏ロープ
B1 ブレーキシリンダポート
B2 ブレーキシリンダポート

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10