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特許7599345シリカ膜形成条件探索装置およびシリカ膜形成条件探索方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】シリカ膜形成条件探索装置およびシリカ膜形成条件探索方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20241206BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20241206BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20241206BHJP
   B01D 67/00 20060101ALI20241206BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
B01J19/00 L
C01B33/12 Z
B01D71/02 500
B01D67/00
B01J19/00 J
B01J19/00 A
C23C16/52
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021013544
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022117062
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-11-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術調査/膜反応器を用いたメタン直接分解によるCO2フリー水素製造技術」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 雅博
(72)【発明者】
【氏名】浦井 宏美
(72)【発明者】
【氏名】新堂 千代子
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-250183(JP,A)
【文献】特開昭62-013574(JP,A)
【文献】特開2002-146544(JP,A)
【文献】特開2009-202096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
C01B 33/12
B01D 71/02
B01D 67/00
C23C 16/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ源を含む第1ガスを生成させる第1ガス供給部と、
前記第1ガスを流通させながら昇温される反応器と、
前記反応器に導入される前記第1ガスの量を制御する第1制御部と、
前記反応器で前記シリカ源の分解により生成する生成物の組成と、温度と、の関係を示す第1プロファイルを生成する分析装置と、を具備し、
前記分析装置が、少なくとも前記生成物のマススペクトルを前記第1プロファイルとして生成する、シリカ膜形成条件探索装置。
【請求項2】
更に、前記シリカ源とともに前記反応器に導入され、かつ前記シリカ源と反応する第2ガスを供給する第2ガス供給部と、
前記反応器に導入される前記第2ガスの量を制御する第2制御部と、を具備する、請求項1に記載のシリカ膜形成条件探索装置。
【請求項3】
更に、前記反応器に導入される前の前記第1ガスと前記第2ガスとを混合し、混合ガスを生成する混合部を具備し、
前記混合ガスが、前記反応器に導入される、請求項2に記載のシリカ膜形成条件探索装置。
【請求項4】
前記反応器が、前記第1ガスを流通させながら、200℃以下の第1温度から600℃以上の第2温度まで昇温される、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリカ膜形成条件探索装置。
【請求項5】
前記生成物のマススペクトルは、少なくとも、水素、水、一酸化炭素および二酸化炭素のスペクトルを含む、請求項1に記載のシリカ膜形成条件探索装置。
【請求項6】
請求項1に記載のシリカ膜形成条件探索装置を用いるシリカ膜形成条件探索方法であって、
前記第1制御部により、前記反応器に導入される前記第1ガスの量を変化させて得られる複数の前記第1プロファイルを有する第1プロファイル群を生成する工程、を具備する、シリカ膜形成条件探索方法。
【請求項7】
前記第1プロファイル群から、前記反応器に導入される前記第1ガスの量と、前記生成物に含まれる各成分の量と、温度と、の関係を示す第2プロファイルを生成する工程、を具備する、請求項に記載のシリカ膜形成条件探索方法。
【請求項8】
請求項2に記載のシリカ膜形成条件探索装置を用いるシリカ膜形成条件探索方法であって、
前記第1制御部および前記第2制御部により、前記反応器に導入される前記第1ガスおよび前記第2ガスの量を変化させて複数の前記第1プロファイルを有する第2プロファイル群を生成する工程、を具備する、シリカ膜形成条件探索方法。
【請求項9】
前記第2プロファイル群から、前記反応器に導入される前記第1ガスの量および前記第2ガスの量と、前記生成物に含まれる各成分の量と、温度と、の関係を示す第3プロファイルを生成する工程、を具備する、請求項に記載のシリカ膜形成条件探索方法。
【請求項10】
前記第1プロファイル群に基づいて前記シリカ膜形成条件を選択する、請求項に記載のシリカ膜形成条件探索方法。
【請求項11】
前記第2プロファイル群に基づいて前記シリカ膜形成条件を選択する、請求項に記載のシリカ膜形成条件探索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ膜形成条件を探索する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素キャリアである有機ハイドライドの脱水素により生成した水素を分離する方法として、水素選択透過性を有するアモルファスのシリカ膜を利用する方法が知られている。
【0003】
特許文献1は、多孔質基材にシリカ膜を形成した後、酸素と反応させて、シリカ膜を安定化させることを提案している。
【0004】
特許文献2は、シリカ膜の欠陥を抑制するために、シリカ膜の原料ガスを加圧しながら基材に供給することを提案している。
【0005】
特許文献3は、ケイ素化合物を基材に蒸着させる第1蒸着ステップと、その後、別のケイ素化合物を更に蒸着させる第2ステップとで、シリカ膜を形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-202096号公報
【文献】特開2007-216106号公報
【文献】特開2008-246299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シリカ膜の製造方法として、原料のシリカ源を熱分解させて気相法(CVD法)を利用して、多孔質基材にシリカ膜を成長させる方法が知られている。シリカ膜のパフォーマンスは、気相法によるシリカ膜の形成条件に大きく依存することが判明しつつある。水素選択透過性に優れたシリカ膜を形成するには、その形成条件を適切に決定することが必要である。
【0008】
しかし、現状では、シリカ源に応じて、試行錯誤的に熱分解の条件を模索する必要がある。また、シリカ膜を試作した後、その都度、透過分離性能を評価しなければならない。そのため、シリカ膜形成条件を決定するのに多くの手間と時間を要している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、シリカ源を含む第1ガスを生成させる第1ガス供給部と、前記第1ガスを流通させながら昇温される反応器と、前記反応器に導入される前記第1ガスの量を制御する第1制御部と、前記反応器で前記シリカ源の分解により生成する生成物の組成と、温度と、の関係を示す第1プロファイルを生成する分析装置と、を具備する、シリカ膜形成条件探索装置に関する。
【0010】
本発明の別の側面は、上記シリカ膜形成条件探索装置を用いるシリカ膜形成条件探索方法であって、前記第1制御部により、前記反応器に導入される前記第1ガスの量を変化させて得られる複数の前記第1プロファイルを有する第1プロファイル群を生成する工程、を具備する、シリカ膜形成条件探索方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、効率的にシリカ膜形成条件を探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の一実施形態に係るシリカ膜形成条件探索装置の構成を示すブロック図である。
図1B】シリカ膜形成条件探索装置が具備する混合部の一例を示す概念図である。
図2】シリカ膜形成条件探索装置で得られる低分子量の生成物に関する第1プロファイルの一例を示す図である。
図3】シリカ膜形成条件探索装置で得られる低分子量の生成物に関する第1プロファイルの別の例を示す図である。
図4】シリカ膜形成条件探索装置で得られる低分子量の生成物に関する第1プロファイルの更に別の例を示す図である。
図5】シリカ膜形成条件探索装置で得られる低分子量の生成物に関する第1プロファイルの更に別の例を示す図である。
図6】シリカ膜形成条件探索装置で得られる低分子量および高分子量の生成物に関する第1プロファイルの一例を示す図である。
図7】シリカ膜形成条件探索装置で得られる低分子量および高分子量の生成物に関する第1プロファイルの別の例を示す図である。
図8】シリカ膜形成条件探索装置で得られる低分子量および高分子量の生成物に関する第1プロファイルの更に別の例を示す図である。
図9】シリカ源としてDMDMSを用いた場合の第1プロファイルを元にシリカ膜形成条件の一つである温度の候補を3つ設定した例を示す図である。
図10】異なる温度条件を採用して形成されたシリカ膜の水素および窒素のパーミアンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るシリカ膜形成条件探索装置(以下、「探索装置A」とも称する。)について説明するが、本発明に係る装置は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
[第1ガス供給部]
探索装置Aは、シリカ源を含む第1ガスを生成させる第1ガス供給部を具備する。第1ガス供給部は、シリカ源が気体であれば、シリカ源を貯留するとともに任意の流量で取り出すことができるボンベであってもよい。また、シリカ源が液体または固体であれば、シリカ源を気化させる機能を有すればよいが、更に、生成するシリカ源の蒸気量を制御する機能を有してもよい。第1ガス供給部は、不活性ガスをシリカ源と混合する機能を有してもよい。すなわち、第1ガスは、不可避的に混入する成分を除き、実質的に気体のシリカ源(シリカ源の蒸気)だけで構成されてもよく、シリカ源と不活性ガスとを含む混合ガスであってもよい。第1ガス供給部は、例えば液状のシリカ源とともに不活性ガスを噴射もしくはスプレーするキャブレタを具備してもよい。あるいは、第1ガス供給部は、液体または固体のシリカ源を加熱して気化させるヒータを具備してもよい。第1ガス供給部は、そのようなヒータの出力を制御する温度制御部を有してもよい。
【0015】
シリカ源は、特に限定されないが、例えば、酸素と反応してシリカを生成するケイ素化合物が用いられる。このようなケイ素化合物として、例えば、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)など)、トリアルコキシシラン(エチルトリメトキシシラン(Ethyl-TMOS)、メチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシランなど)、ジアルコキシシラン(ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、ジフェニルジメトキシシランなど)、モノアルコキシシラン(トリメチルメトシキシラン(TMMOS))、四塩化ケイ素、シラン(SiH4)、ジシロキサン(ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)など)、環状シロキサン(オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなど)を挙げることができる。
【0016】
[反応器]
探索装置Aは、第1ガスを流通させながら昇温される反応器を具備する。反応器は、例えば、第1ガスが流通する通路もしくは第1ガスが滞留するチャンバと、シリカ源が分解する温度まで通路もしくはチャンバ内の第1ガスを加熱するヒータとを具備する。反応器でシリカ源の分解により生成する生成物の一部が、分析装置に送られ、残部は、通路もしくはチャンバを通過して反応器の外部に放出される。ヒータは、反応器内のガスを、例えば200℃以下の第1温度から600℃以上の第2温度まで、温度を制御しながら昇温する機能を有してもよい。第1温度は、例えば、室温付近(15℃~40℃)の温度であってもよく、40℃~100℃の範囲の温度であってもよい。第2温度は700℃以上もしくは800℃以上であってもよい。
【0017】
[第1制御部]
探索装置Aは、反応器に導入される第1ガスの量を制御する第1制御部を具備する。第1制御部には、例えば、マスフローコントローラを用いてもよい。第1ガスは、第1ガス供給部と反応器との間に介在する第1制御部を介して、反応器に導入される。第1制御部は、1つのマスフローコントローラを具備してもよく、複数のマスフローコントローラを具備してもよい。例えば、第1ガスは、少なくとも1つのマスフローコントローラを通過して所定の空間(例えば、後述の「混合部」)に導入され、その後、当該空間から、更に少なくとも1つのマスフローコントローラを通過して反応器に導入されてもよい。
【0018】
[分析装置]
探索装置Aは、シリカ源の分解により生成する生成物(以下、「分解生成物」とも称する。)の組成を分析する分析装置を具備する。分析装置は、第1温度から第2温度まで徐々に昇温される反応器内で順次生成する生成物の組成を分析する。そして、生成物の組成と温度との関係を示す第1プロファイルを生成する。第1プロファイルには、例えば、様々な分解生成物の生成温度に関する情報が含まれている。これらの分解生成物の中には、良質なシリカ膜の形成に寄与する成分もあれば、シリカ膜の品質を低下させる成分もある。第1プロファイルから各成分の生成温度と生成量を把握することができる。
【0019】
分析装置は、少なくとも生成物のマススペクトルを第1プロファイルとして生成する装置であることが望ましい。そのような装置として、例えば、四重極形質量分析計(QMS)が挙げられる。より具体的には、QMSとガスクロマトグラフ(GC)と結合したガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)などを用いてもよい。
【0020】
生成物のマススペクトルは、少なくとも、水素、水、一酸化炭素および二酸化炭素のスペクトルを含む。これらの低分子量の生成物(例えば、分子量44(CO2)以下)は、シリカ源が分解する際に生成する。低分子量の生成物は、シリカ膜の生成には、ほとんど関与しないと考えられる。一方、低分子量の生成物と同時に生成する、より分子量の大きい高分子量の生成物は、シリカ膜の形成に関与する中間体(ケイ素(Si)と酸素を含む化合物であり、例えばSi-O結合を有する有機化合物)もしくは当該中間体の生成に伴って生成する生成物(例えば、CH3OO-)であり得る。すなわち、低分子量の生成物の生成量の増加は、シリカ膜の形成に重要な中間体の生成を示唆する。例えば、低分子量の生成物の生成量が極大となる温度の近辺温度は、シリカ膜の形成温度として好適である可能性が高い。
【0021】
[第2ガス供給部]
探索装置Aは、更に、シリカ源とともに反応器に導入され、かつシリカ源と反応する第2ガスを供給する第2ガス供給部を具備してもよい。第2ガスは、例えば、シリカ源を酸化させる酸化剤ガスであり得る。この場合、第1ガスとともに第2ガスが反応器の通路またはチャンバを流れ、第1温度から第2温度までの所定温度で、通路またはチャンバ内でシリカ源と反応する。
【0022】
酸化剤ガスとしては、例えば、酸素、オゾン、乾燥空気などを用い得る。酸化剤ガスは、例えば、不可避的に混入する成分を除き、実質的に100%がオゾンもしくは酸素からなる純ガスでもよく、酸素および/またはオゾン以外の成分を含んでもよい。酸化剤ガスにおける酸素および/またはオゾンの濃度は、例えば20vol%~60vol%であればよい。酸化剤ガスに含まれる酸素およびオゾン以外のガスとして、不活性ガス、乾燥空気などを用いてもよい。
【0023】
[第2制御部]
第2ガス供給部を具備する探索装置Aは、更に、反応器に導入される第2ガスの量を制御する第2制御部を具備してもよい。第2制御部には、例えば、マスフローコントローラを用いてもよい。第2ガスは、第2ガス供給部と反応器との間に介在する第2制御部を介して、反応器に導入される。第2制御部は、1つのマスフローコントローラを具備してもよく、複数のマスフローコントローラを具備してもよい。また、第2制御部の少なくとも一部が、第1制御部と共通であってもよい。例えば、第2ガスは、少なくとも1つのマスフローコントローラを通過して所定の空間(例えば、後述の「混合部」)に導入され、その後、当該空間から、更に少なくとも1つのマスフローコントローラを通過して反応器に導入されてもよい。
【0024】
[混合部]
第2ガス供給部を具備する探索装置Aは、更に、反応器に導入される前の第1ガスと第2ガスとを混合し、混合ガスを生成する混合部を具備してもよい。この場合、第1ガスと第2ガスとの混合ガスが反応器に導入される。
【0025】
次に、探索装置Aを用いるシリカ膜形成条件探索方法(以下、「探索方法B」とも称する。)について説明するが、本発明に係る方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
<第1プロファイル群の生成(1)>
シリカ膜を多孔質基材の表面に形成することを想定する場合、多孔質基材の細孔と連通する空間(以下、「第1空間」とも称する。)に、第1空間においてシリカ源が所定濃度で滞留するように第1ガスが供給される。シリカ源が第1空間内もしくは多孔質基材の表面で加熱され、分解などの反応を経て、多孔質基材の表面にシリカとして堆積することによりシリカ膜が形成される。
【0027】
多孔質基材が第1表面および第2表面を有し、第1表面と第2表面とが細孔により連通し、第1空間が第1表面で細孔と連通し、第2空間が第2表面で細孔と連通する筒状である場合には、第2空間に第2ガスが供給されることもある。
【0028】
上記のようなシリカ膜の形成プロセスにおいて、重要となる条件は、シリカ源を加熱する温度と、シリカ源(もしくは第1ガス)の流量(第1空間における濃度)と、酸化剤ガス(第2ガス)の流量(第1空間または第2空間における濃度)と、の3つのパラメータであり、中でも、温度とシリカ源の流量の2つのパラメータが重要である。探索方法Bは、良質なシリカ膜を形成するのに適切な温度と第1ガスの流量とを探索するのに役立つ。
【0029】
探索方法Bは、まず、第1制御部により、反応器に導入される第1ガスの量を変化させて、複数の第1プロファイルを、第1プロファイル群として取得する工程を有する。各第1プロファイルは、例えば第1空間を想定した、反応室におけるシリカ源の濃度を一定にしたときの、温度と当該温度で生成する分解生成物のマススペクトルとの関係を示すプロファイルである。第1プロファイルは、シリカ源の分解挙動に関する様々な情報を含む。
【0030】
複数の第1プロファイルを有する第1プロファイル群は、例えば、反応室におけるシリカ源の濃度がAmol/m3およびBmol/m3(A<B)となるように、第1ガスの流量を変えて測定された2つの第1プロファイルを含む。反応室におけるシリカ源の濃度を更にC(≠A、B)mol/m3、D(≠A~C)・・と変更して第1プロファイルの数を増やしてもよい。
【0031】
第1プロファイル群は、温度と、第1ガスの流量(例えば第1空間を想定した反応室におけるシリカ源の濃度)との2つのパラメータを変数とするマススペクトルの出力を可能にする。第1プロファイル群を利用することで、任意の分解生成物(例えば、良質なシリカ膜の形成に寄与する成分)が最も生成しやすい温度とシリカ源の流量とを容易に把握することができる。第1プロファイル群に基づいてシリカ膜形成条件を選択する場合、シリカ膜の形成条件の決定に要する手間と時間を大幅に削減することができる。
【0032】
<第2プロファイルの生成>
第1プロファイル群から、反応器に導入される第1ガスの量と、分解生成物に含まれる各成分の量と、温度との関係を示す第2プロファイルを生成してもよい。第2プロファイルは、第1プロファイル群から抽出された抽出データである。第2プロファイルは、例えば、任意に選択された第1ガスの流量における第1プロファイルの集合であり得る。
【0033】
<第1プロファイル群の生成(2)>
ここでは、探索方法Bは、第1制御部および第2制御部により、反応器に導入される第1ガスおよび第2ガスの量を変化させて、複数の第1プロファイルを第2プロファイル群として取得する工程を有する。各第1プロファイルは、第1空間を想定した反応室におけるシリカ源の濃度および酸化剤ガスの濃度を一定にしたときの、温度と当該温度で生成する分解生成物のマススペクトルとの関係を示すプロファイルである。
【0034】
第2プロファイル群は、例えば、反応室における酸化剤ガスの濃度がamol/m3で一定のときに、反応室におけるシリカ源の濃度がAmol/m3およびBmol/m3(A<B)となるように、第1ガスの流量を変えて測定された2つの第1プロファイルを含む。
【0035】
また、第2プロファイル群は、例えば、反応室における酸化剤ガスの濃度がbmol/m3(a<b)で一定のときに、反応室におけるシリカ源の濃度がAmol/m3およびBmol/m3(A<B)となるように、第1ガスの流量を変えて測定された2つの第1プロファイルを含む。
【0036】
つまり、第2プロファイル群は、例えば上記4つの第1プロファイルを含む。反応室における酸化剤ガスの濃度を更にc(≠a、b)mol/m3、d(≠a~c)・・と変更して第1プロファイルの数を増やしてもよい。また、酸化剤が上記各濃度である場合に、反応室におけるシリカ源の濃度を更にC(≠A、B)mol/m3、D(≠A~C)・・と変更して第1プロファイルの数を増やしてもよい。
【0037】
第2プロファイル群は、温度と、第1ガスの流量(第1空間を想定した反応室におけるシリカ源の濃度)と第2ガスの流量(第1空間を想定した反応室における酸化剤ガスの濃度)の3つのパラメータを変数とするマススペクトルの出力を可能にする。第2プロファイル群を利用することで、任意の分解生成物(例えば、良質なシリカ膜の形成に寄与する成分)が最も生成しやすい温度とシリカ源の流量と酸化剤ガスの流量を容易に把握することができる。第2プロファイル群に基づいてシリカ膜形成条件を選択する場合、シリカ膜の形成条件の決定に要する手間と時間を更に大幅に削減することができる。
【0038】
<第3プロファイルの生成>
第2プロファイル群から、反応器に導入される第1ガスの量と、反応器に導入される第2ガスの量と、分解生成物に含まれる各成分の量と、温度との関係を示す第3プロファイルを生成してもよい。第3プロファイルは、第2プロファイル群から抽出された抽出データである。第3プロファイルは、例えば、任意に選択された第1ガスおよび第2ガスの流量における第1プロファイルの集合であり得る。
【0039】
次に、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るシリカ膜形成条件探索装置について説明する。図1Aは、シリカ膜形成条件探索装置の構成を示すブロック図である。シリカ膜形成条件探索装置100は、シリカ源を含む第1ガスを生成させる第1ガス供給部10と、第2ガスを供給する第2ガス供給部20と、第1ガスおよび第2ガスを流通させながら昇温される反応器30と、反応器30に導入される前の第1ガスと第2ガスとを混合し、混合ガスを生成する混合部40と、反応器30で生成する生成物の組成を分析して第1プロファイルを生成する分析装置50とを具備する。
【0040】
図1Bは、混合部の一例を示す概念図である。混合部は、第1ガスと第2ガスとが合流後に通過する細管部を有し、細管部を通過する際に第1ガスと第2ガスとが均一に混合される。
【0041】
第1ガス供給部10は、例えば、液状のシリカ源を収容する原料容器11と、原料容器11を加熱する第1ヒータ12と、第1ヒータ12の温度を制御する第1温度制御部13と、原料容器11内に不活性ガスを送る不活性ガス供給部14とを具備する。不活性ガスは、原料容器11内で生成するシリカ源の蒸気のキャリアとして機能する。不活性ガスとしては、Ar、N、Heなどを用い得る。原料容器11に送られる不活性ガスの量は、図示しないマスフローコントローラで制御される。
【0042】
第2ガス供給部20としては、例えば、酸素などの酸化剤ガスを供給するガスボンベを用い得る。ガスボンベからは任意の流量で酸化剤ガスを取り出すことができる。
【0043】
反応器30は、混合ガスが導入されるチャンバ31と、チャンバ31内のガスを加熱する第2ヒータ32と、第2ヒータ32の温度を制御する第2温度制御部33を具備する。反応器30は、混合部40と連通する導入路34と、反応器30の内部のガス(分解生成物、未反応物、酸化剤、キャリアなどが含まれる)を反応器30の外部に送る導出路35とを有する。導出路35は分岐路36を有しており、分解生成物を含むガスの一部が分岐路36を通って分析装置50に送られる。
【0044】
混合部40に導入される第1ガスの量は、第1ガス供給部10と混合部40との間に介在する第1マスフローコントローラ60により制御される。混合部40に導入される第2ガスの量は、第2ガス供給部20と混合部40との間に介在する第2マスフローコントローラ70により制御される。反応器30に導入される混合ガスの量は、混合部40と反応器30との間に介在する第3マスフローコントローラ80により制御される。以上のように、第1マスフローコントローラ60および第3マスフローコントローラ80は、いずれも反応器30に導入される第1ガスの量を制御するので第1制御部を構成する。第2マスフローコントローラ70および第3マスフローコントローラ80は、いずれも反応器30に導入される第2ガスの量を制御するので第2制御部を構成する。
【0045】
分析装置50としては、GC-MSなどを利用できる。分析装置50は、マススペクトルを出力する測定部51と、GC-MSの出力を編集する演算部52と、演算結果を第1プロファイルとして出力する出力部53と、GC-MSの出力、第1プロファイル等を記憶する記憶部54とを備える。
【0046】
次に、第1プロファイルとして、シリカ源の分解生成物のマススペクトルを幾つか例示する。図2は、第1ガス供給部10において不活性ガスとして窒素(N)を用い、第2ガスとして酸素(O2)を用いた場合に、探索装置Aで得られる第1プロファイルの一例を示す図である。具体的には、シリカ源/Nのモル比が0.1/45の第1ガスを生成させ、混合部を介して400cm3/秒の流量で第1ガスを反応器に供給するとともに、混合部を介して200cm3/秒の流量で酸素を反応器に供給し、結果として混合ガスを反応器に流通させた。反応器内のチャンバの内圧は、大気圧に維持した。反応器の温度を10℃/分で昇温してマススペクトルを測定した。
【0047】
シリカ源として、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、トリメチルメトシキシラン(TMMOS)、エチルトリメトキシシラン(Ethyl-TMOS)およびヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を用いた場合に得られる低分子量の生成物のマススペクトル(すなわち、第1プロファイル)を図2図3図4および図5に示す。各スペクトルにより、分子量2(H)、15(-CH)、16(CH)、17(-OH)、18(HO)、28(COまたはC)、32(O)および44(CO)のスペクトル強度と温度との関係が与えられる。低分子量の生成物のマススペクトル強度が大きく変化する温度域(特に、強度が極大となるピークに対応する温度の前後)では、良質なシリカ膜の形成に有益な中間体が生成していることが示唆される。
【0048】
次に、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、トリメチルメトシキシラン(TMMOS)およびエチルトリメトキシシラン(Ethyl-TMOS)を用いた場合に得られる高分子量の生成物のマススペクトル(すなわち、第1プロファイル)を、低分子量の生成物と同じ温度軸に沿って、図6図7および図8に示す。図6~8では、いずれも低分子量の生成物のスペクトル強度が大きく変化する温度域(特に、強度が極大となるピークに対応する温度の前後)で、それぞれ良質なシリカ膜の形成に重要な中間体とともに生成する生成物(CH3OO-)が生成していることが理解できる。CH3OO-で表される分子量47の生成物は、重要な中間体の生成を示唆することが経験上も明らかとなっている。
【0049】
図9は、シリカ源としてDMDMSを用いた場合の第1プロファイルを元に、シリカ膜形成条件の一つである温度の候補を3つ設定した例を示す。ここでは、分子量18(H2O)が2度目の極大を示した温度A、3度目の極大を示した直後の温度B、および温度AとBの中間の温度Cを候補として設定した。このような候補の設定は、第1プロファイルが無ければ不可能であり、仮に経験的に500℃~700℃の温度範囲が有力であると判明していたとしても、500℃~700℃の温度範囲で試行錯誤を繰り返す必要がある。
【0050】
図10は、各温度条件を採用して形成されたシリカ膜の水素および窒素のパーミアンスを示す結果である。また、表1に550℃、600℃及び650℃における水素のパーミアンスと窒素のパーミアンスとの比(H2/N2)を、水素選択透過性の指標として示す。
【0051】
シリカ膜の形成において、多孔質支持体として、内径7mm、外径10mm、長さ70mmのα-アルミナ製の筒状体の表面にγ-アルミナを塗布した支持体を準備した。多孔質支持体の外周面側の平均細孔径は4nmである。多孔質基材の外周面側に、対向拡散CVD法により、製膜温度550℃、600℃及び650℃でシリカ膜を形成した。
【0052】
【表1】
【0053】
図10および表1より、シリカ膜を形成する温度として、650℃を採用することが望ましいと知ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
シリカ膜は、水素分離膜として有効であり、例えば、製鉄所などのプラントに併設されるBFGからの水素ガス分離設備として工業上有益である。本発明によれば、良質なシリカ膜形成条件を効率的に探索することができる。
【符号の説明】
【0055】
100:シリカ膜形成条件探索装置
10:第1ガス供給部
11:原料容器
12:第1ヒータ
13:第1温度制御部
14:不活性ガス供給部
20:第2ガス供給部
30:反応器
31:チャンバ
32:第2ヒータ
33:第2温度制御部
34:導入路
35:導出路
36:分岐路
40:混合部
50:分析装置
51:測定部
52:演算部
53:出力部
54:記憶部
60:第1マスフローコントローラ
70:第2マスフローコントローラ
80:第3マスフローコントローラ
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10