(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ポリイソシアネート組成物およびブロックイソシアネート組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 18/72 20060101AFI20241206BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20241206BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20241206BHJP
C08G 18/71 20060101ALI20241206BHJP
C08G 18/80 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
C08G18/72 040
C08G18/10
C08G18/42 069
C08G18/71 080
C08G18/80
(21)【出願番号】P 2021015559
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 拡之
(72)【発明者】
【氏名】高松 孝二
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-050277(JP,A)
【文献】特開2010-059362(JP,A)
【文献】特開2000-226424(JP,A)
【文献】特開平04-335074(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163959(WO,A1)
【文献】特開平01-026621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体を含むポリイソシアネート成分と、
ポリカプロラクトンポリオールを含むポリオール成分とを含む原料成分の反応生成物であり、
分子末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネート組成物であって、
前記脂肪族ジイソシアネートのモル数の、前記キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数に対する比率(脂肪族ジイソシアネートのモル数/キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数)が、2.0以上12.0以下である、ポリイソシアネート組成物。
【請求項2】
前記ポリカプロラクトンポリオールの数平均分子量が、250以上2000未満である、請求項1に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項3】
前記原料成分が、さらに、イソシアネートシランを含み、
前記イソシアネートシランの配合割合は、ポリイソシアネート成分100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下である、請求項1または2に記載のポリイソシアネート組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つに記載のポリイソシアネート組成物において、
イソシアネート基がブロック剤によってブロックされた、ブロッ
クイソシアネート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソシアネート組成物およびブロックイソシアネート組成物に関する。詳しくは、ポリイソシアネート組成物、および、そのポリイソシアネート組成物において、イソシアネート基がブロック剤によってブロックされたブロックイソシアネート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、通常、ポリイソシアネートと活性水素基含有化合物との反応により製造される。ポリウレタン樹脂は、例えば、コーティング材料、接着材料、粘着材料、および、エラストマーとして、各種産業分野において広範に使用されている。詳しくは、ポリウレタン樹脂は、例えば、被塗物に塗布し、塗膜を形成することにより、被塗物に各種物性を付与できる。
【0003】
ポリウレタン樹脂の製造に用いられるポリイソシアネートとしては、1,6-ヘキサンジイソシアネート(HDI)と、ポリカプロラクトンポリオールとの反応により得られるポリイソシアネート組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車用途および電材用途において、被塗物の形状は、複雑になる傾向にある。形状が複雑になると、ポリウレタン樹脂から形成される塗膜には、被塗物の複雑な形状に追従するための、密着性が要求される。
【0006】
また、ポリウレタン樹脂から形成される塗膜には、耐衝撃性および耐薬品性が要求される。
【0007】
本発明は、密着性、耐衝撃性および耐薬品性に優れるポリイソシアネート組成物およびブロックイソシアネート組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明[1]は、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体を含むポリイソシアネート成分と、ポリカプロラクトンポリオールを含むポリオール成分とを含む原料成分の反応生成物であり、分子末端にイソシアネート基を有するポリイソシアネート組成物であって、前記脂肪族ジイソシアネートのモル数の、前記キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数に対する比率(脂肪族ジイソシアネートのモル数/キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数)が、2.0以上12.0以下である、ポリイソシアネート組成物である。
【0009】
本発明[2]は、前記ポリカプロラクトンポリオールの数平均分子量が、250以上2000未満である、上記[1]に記載のポリイソシアネート組成物を含んでいる。
【0010】
本発明[3]は、前記原料成分が、さらに、イソシアネートシランを含み、前記イソシアネートシランの配合割合は、ポリイソシアネート成分100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下である、上記[1]または[2]に記載のポリイソシアネート組成物を含んでいる。
【0011】
本発明[4]は、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のポリイソシアネート組成物において、イソシアネート基がブロック剤によってブロックされた、ブロックイソシアネート組成物を含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイソシアネート組成物は、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体を含むポリイソシアネート成分と、ポリカプロラクトンポリオールを含むポリオール成分とを含む原料成分の反応生成物である。また、脂肪族ジイソシアネートのモル数の、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数に対する比率(脂肪族ジイソシアネートのモル数/キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数)が、所定の範囲である。そのため、このポリイソシアネート組成物によれば、密着性、耐衝撃性および耐薬品性に優れるポリウレタン樹脂を製造できる。
【0013】
本発明のブロックイソシアネート組成物は、本発明のポリイソシアネート組成物において、イソシアネート基がブロック剤によってブロックされている。そのため、ポットライフが長く、加工性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリイソシアネート組成物は、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体を含むポリイソシアネート成分と、ポリカプロラクトンポリオールを含むポリオール成分とを含む原料成分の反応生成物である。
【0015】
<ポリイソシアネート成分>
ポリイソシアネート成分は、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体を含む。
【0016】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(ヘキサンジイソシアネート)(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート(ペンタンジイソシアネート)(PDI)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、1,2-、2,3-または1,3-ブチレンジイソシアネート、および、2,4,4-または2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0017】
脂肪族ジイソシアネートは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0018】
また、ポリイソシアネート成分は、脂肪族ジイソシアネートとともに、脂肪族ジイソシアネートの変性体を含むこともできる。ポリイソシアネート成分は、好ましくは、脂肪族ジイソシアネートの変性体を含まない。
【0019】
なお、脂肪族ジイソシアネートの変性体における変性体としては、後述するキシリレンジイソシアネートの変性体で挙げた変性体と同様である。
【0020】
キシリレンジイソシアネートは、構造異性体として、1,2-キシリレンジイソシアネート(o-XDI)、1,3-キシリレンジイソシアネート(m-XDI)、1,4-キシリレンジイソシアネート(p-XDI)を含む。キシリレンジイソシアネートの構造異性体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0021】
キシリレンジイソシアネートとしては、好ましくは、1,3-キシリレンジイソシアネートが挙げられる。つまり、キシリレンジイソシアネートは、好ましくは、1,3-キシリレンジイソシアネートを含み、さらに好ましくは、1,3-キシリレンジイソシアネートからなる。
【0022】
キシリレンジイソシアネートの変性体としては、例えば、上記したキシリレンジイソシアネートの多量体(例えば、2量体、3量体(例えば、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体)、5量体、7量体など)、アロファネート変性体(例えば、上記したキシリレンジイソシアネートと、1価アルコールまたは2価アルコールとの反応より生成するアロファネート変性体)、ポリオール変性体(例えば、上記したキシリレンジイソシアネートと3価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン)との反応より生成するポリオール変性体(アルコール付加体)など)、ビウレット変性体(例えば、上記したキシリレンジイソシアネートと、水またはアミン類との反応により生成するビウレット変性体など)、ウレア変性体(例えば、上記したキシリレンジイソシアネートとジアミンとの反応により生成するウレア変性体など)、オキサジアジントリオン変性体(例えば、上記したキシリレンジイソシアネートと炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオンなど)、カルボジイミド変性体(上記したキシリレンジイソシアネートの脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド変性体など)、ウレトジオン変性体、および、ウレトンイミン変性体が挙げられる。キシリレンジイソシアネートの変性体として、好ましくは、キシリレンジイソシアネートのアロファネート変性体が挙げられる。
【0023】
キシリレンジイソシアネートのアロファネート変性体は、公知の方法により得ることができる。キシリレンジイソシアネートのアロファネート変性体は、例えば、キシリレンジイソシアネートと、モノオール(例えば、イソブタノール)とを、公知のウレタン化触媒の存在下でウレタン化反応させた後、さらに、公知のアロファネート化触媒の存在下で、アロファネート化反応させることにより得ることができる。
【0024】
キシリレンジイソシアネートの変性体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0025】
また、ポリイソシアネート成分において、脂肪族ジイソシアネートのモル数の、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数に対する比率(脂肪族ジイソシアネートのモル数/キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数)は、2.0以上、好ましくは、5.0以上、より好ましくは、8.0以上、また、12.0以下、好ましくは、11.0以下である。
【0026】
上記比率が、上記下限以上であれば、密着性および耐衝撃性(詳しくは、破断伸度および衝撃吸収性)に優れるポリウレタン樹脂を製造できる。
【0027】
一方、上記下限未満であれば、このポリイソシアネート組成物を用いて得られるポリウレタン樹脂の密着性および耐衝撃性(詳しくは、破断伸度および衝撃吸収性)が低下する。
【0028】
また、上記比率が、上記上限以下であれば、耐衝撃性(詳しくは、破断強度および衝撃吸収性)および耐薬品性に優れるポリウレタン樹脂を製造できる。
【0029】
また、上記比率が、上記上限を超過すると、このポリイソシアネート組成物を用いて得られるポリウレタン樹脂の耐衝撃性(詳しくは、破断強度および衝撃吸収性)および耐薬品性が低下する。
【0030】
上記したように、ポリイソシアネート成分は、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体を含む。好ましくは、ポリイソシアネート成分は、耐衝撃性(詳しくは、破断伸度)および密着性の観点から、キシリレンジイソシアネートの変性体を含まず、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートを含む。
【0031】
また、ポリイソシアネート成分は、他のポリイソシアネートおよび/またはそのポリイソシアネートの変性体を含むことができる。
【0032】
他のポリイソシアネートとしては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート(キシリレンジイソシアネートを除く。以下同様。)、および、脂環族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0033】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネートが挙げられる。芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、4,4′-、2,4′-または2,2′-ジフェニルメタンジイソシアネートもしくはその混合物(MDI)、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネートもしくはその混合物(TDI)、o-トリジンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、m-またはp-フェニレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4′-ジフェニルジイソシアネート、および、4,4′-ジフェニルエーテルジイソシアネートが挙げられる。
【0034】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、芳香脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、1,3-または1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネートもしくはその混合物(TMXDI)、および、ω,ω′-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼンが挙げられる。
【0035】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、脂環族ジイソシアネートが挙げられる。脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、4,4′-、2,4′-または2,2′-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)もしくはその混合物(H12MDI)、1,3-または1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンもしくはその混合物(H6XDI)、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、および、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネートが挙げられる。
【0036】
他のポリイソシアネートの変性体における変性体としては、上記したキシリレンジイソシアネートの変性体で挙げた変性体が挙げられる。
【0037】
ポリイソシアネート成分は、好ましくは、他のポリイソシアネートおよび/またはそのポリイソシアネートの変性体を含まず、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体からなる。
【0038】
<ポリオール成分>
ポリオール成分は、ポリカプロラクトンポリオールを含む。
【0039】
ポリカプロラクトンポリオールは、ε-カプロラクトンから誘導される。
【0040】
詳しくは、ポリカプロラクトンポリオールは、後述する低分子量ポリオール(好ましくは、2価アルコール)を開始剤として、ε-カプロラクトンを開環重合することにより得られる。開環重合は、公知の方法で実施される。
【0041】
ポリカプロラクトンポリオールの数平均分子量(標準ポリスチレンを検量線とするGPC測定による数平均分子量)は、例えば、200以上、好ましくは、耐衝撃性(詳しくは、破断伸度)および密着性の観点から、250以上、より好ましくは、400以上、また、例えば、2500以下、好ましくは、耐衝撃性(詳しくは、破断強度および衝撃吸収性)および耐薬品性の観点から、2000未満、より好ましくは、1000以下、さらに好ましくは、750以下、とりわけ好ましくは、600以下である。
【0042】
ポリカプロラクトンポリオールの官能基数は、例えば、2以上、また、例えば、4以下、好ましくは、3以下である。また、ポリカプロラクトンポリオールの官能基数は、より好ましくは、3である。
【0043】
また、ポリオール成分は、他のポリオールを含むことができる。
【0044】
他のポリオールとしては、例えば、高分子量ポリオール(ポリカプロラクトンポリオールを除く。以下同様。)、および、低分子量ポリオールが挙げられる。
【0045】
高分子量ポリオールは、水酸基を2つ以上有する数平均分子量400以上10000以下、好ましくは、500以上5000以下の化合物である。高分子量ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール(ポリカプロラクトンポリオールを除く。以下同様。)、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、エポキシポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、シリコーンポリオール、フッ素ポリオール、および、ビニルモノマー変性ポリオールが挙げられる。
【0046】
高分子量ポリオールは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0047】
低分子量ポリオールは、水酸基を2つ以上有する数平均分子量40以上400未満の化合物である。低分子量ポリオールとしては、例えば、2価アルコール、3価アルコール、4価アルコール、5価アルコール、6価アルコール、7価アルコール、および、8価アルコールが挙げられる。2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA、ジエチレングリコール、および、トリエチレングリコールが挙げられる。3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、および、トリイソプロパノールアミンが挙げられる。4価アルコールとしては、例えば、テトラメチロールメタン(ペンタエリスリトール)、およびジグリセリンが挙げられる。5価アルコールとしては、例えば、キシリトールが挙げられる。6価アルコールとしては、例えば、ソルビトール、マンニトール、アリトール、イジトール、ダルシトール、アルトリトール、イノシトール、および、ジペンタエリスリトールが挙げられる。7価アルコールとしては、例えば、ペルセイトールが挙げられる。8価アルコールとしては、例えば、ショ糖が挙げられる。
【0048】
低分子量ポリオールは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0049】
ポリオール成分は、好ましくは、他のポリオール成分を含まず、ポリカプロラクトンポリオールからなる。
【0050】
<イソシアネートシラン>
原料成分は、好ましくは、密着性、耐衝撃性および耐薬品性を両立する観点から、イソシアネートシランを含む。つまり、好ましくは、原料成分は、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分と、イソシアネートシランとを含み、より好ましくは、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分と、イソシアネートシランとからなる。
【0051】
イソシアネートシランとしては、例えば、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、および、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、好ましくは、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0052】
イソシアネートシランの配合割合は、ポリイソシアネート成分100質量部に対して、例えば、0.2質量部以上、好ましくは、密着性の観点から、0.5質量部以上、より好ましくは、1.0質量部以上、さらに好ましくは、3.0質量部以上、また、例えば、15質量部以下、好ましくは、耐衝撃性(詳しくは、破断強度、破断伸度および衝撃吸収性)および耐薬品性の観点から、10質量部以下、より好ましくは、7質量部以下である。
【0053】
イソシアネートシランは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0054】
<ポリイソシアネート組成物>
ポリイソシアネート組成物は、原料成分を反応させることにより得られる。詳しくは、ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分と、必要により配合されるイソシアネートシランとを反応させることにより得られる。
【0055】
上記反応は、公知の重合方法により、実施される。公知の重合方法としては、例えば、バルク重合、および、溶液重合が挙げられ、好ましくは、反応性および粘度調整の観点から、溶液重合が挙げられる。
【0056】
溶液重合では、例えば、窒素雰囲気下、有機溶媒に、上記原料成分を配合して、反応させる。
【0057】
上記反応において、ポリオール成分中の水酸基に対するポリイソシアネート成分中のイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/水酸基)は、例えば、1を超過し、例えば、1.2以上、好ましくは、1.3以上、また、例えば、3.0以下、好ましくは、2.5以下である。
【0058】
反応条件として、反応温度は、例えば、40℃以上、好ましくは、70℃以上、また、例えば、130℃以下、好ましくは、110℃以下である。反応時間は、例えば、1時間以上、また、例えば、20時間以下、好ましくは、10時間以下である。
【0059】
有機溶媒は、イソシアネート基に対して不活性な溶剤が選択される。有機溶媒として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、および、N-メチルピロリドンが挙げられる。有機溶媒の配合割合は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。有機溶媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0060】
また、上記反応では、必要に応じて、反応触媒を添加することもできる。反応触媒としては、例えば、アミン系触媒、錫系触媒(オクチル酸第一錫)、および、鉛系触媒が挙げられ、好ましくは、錫系触媒(オクチル酸第一錫)が挙げられる。反応触媒の配合割合は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。反応触媒は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0061】
これにより、原料成分の反応生成物であるポリイソシアネート組成物が得られる。なお、溶液重合によって、原料成分を反応させた場合には、ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート組成物と、有機溶媒とを含む反応液(ポリイソシアネート組成物の溶液)として得られる。このような場合には、その固形分濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは、20質量%以上、より好ましくは、50質量%以上、また、例えば、95質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。
【0062】
また、得られる反応生成物から未反応のポリイソシアネート成分を、例えば、蒸留や抽出などの公知の方法により、除去することもできる。
【0063】
ポリイソシアネート組成物は、分子末端にイソシアネート基を有する。詳しくは、ポリイソシアネート組成物は、その分子末端に、少なくとも1つ(好ましくは、複数、さらに好ましくは、3つ)の遊離のイソシアネート基を有する。イソシアネート基の含有量(有機溶媒を除いた固形分換算のイソシアネート基含量)が、例えば、1.0質量%以上、好ましくは、2.0質量%以上であり、また、例えば、15質量%以下、好ましくは、10質量%以下である。
【0064】
ポリイソシアネート組成物は、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体を含むポリイソシアネート成分と、ポリカプロラクトンポリオールを含むポリオール成分とを含む原料成分の反応生成物である。また、脂肪族ジイソシアネートのモル数の、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数に対する比率(脂肪族ジイソシアネートのモル数/キシリレンジイソシアネートまたはその変性体のモル数)が、所定の範囲である。そのため、このポリイソシアネート組成物によれば、密着性、耐衝撃性および耐薬品性に優れるポリウレタン樹脂を製造できる。とりわけ、ポリイソシアネート組成物は、密着性に優れるため、被塗物(後述)の形状が、複雑な場合であっても、このポリイソシアネート組成物を用いて得られるポリウレタン樹脂の硬化膜は、被塗物(後述)の形状に追従し、良好な密着性を実現することができる。
【0065】
そして、このポリイソシアネート組成物は、ポリウレタン樹脂を製造において、好適に用いられる。ポリウレタン樹脂としては、例えば、2液硬化型ポリウレタンが挙げられる。
【0066】
2液硬化型ポリウレタンは、硬化剤と主剤とがそれぞれ独立したパッケージとして調製され、それらが使用時に配合されることにより、ポリウレタン樹脂(硬化膜)を形成する。
【0067】
2液硬化型ポリウレタンの製造において、ポリイソシアネート組成物は、硬化剤として用いられる。
【0068】
なお、硬化剤は、必要により上記した有機溶媒などに溶解される。
【0069】
主剤は、活性水素基含有化合物を含む。活性水素基含有化合物としては、例えば、水酸基含有化合物、メルカプト基含有化合物、および、アミノ基含有化合物が挙げられ、好ましくは、水酸基含有化合物が挙げられる。
【0070】
水酸基含有化合物としては、例えば、上記した低分子量ポリオール、および、上記した高分子量ポリオールが挙げられる。水酸基含有化合物としては、好ましくは、高分子量ポリオール、より好ましくは、ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0071】
なお、主剤は、必要により上記した有機溶媒に溶解される。
【0072】
そして、2液硬化型ポリウレタンは、硬化剤および主剤を使用時に配合し、混合撹拌することにより得られる。
【0073】
具体的には、まず、上記主剤と上記硬化剤とをそれぞれ用意し、使用直前に主剤と硬化剤とを混合して、2液硬化型ポリウレタン樹脂(塗料)を調製し、その2液硬化型ポリウレタン樹脂を、被塗物に塗布する。
【0074】
主剤および硬化剤の配合割合は、主剤(活性水素基含有化合物)の活性水素基に対する、硬化剤(ポリイソシアネート組成物)中のイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/水酸基)は、例えば、0.8以上、好ましくは、0.9以上、また、例えば、1.2以下、好ましくは、1.1以下である。
【0075】
主剤および硬化剤の混合物は、例えば、スプレー塗装、エアスプレー塗装、はけ塗り、浸漬法、ロールコート法、フローコート法、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、および、ダイレクトコート法により、被塗物に塗布される。
【0076】
被塗物としては、特に制限されず、例えば、各種建材(例えば、FRP、鋼材などの土木材料)が挙げられる。
【0077】
そして、主剤および硬化剤の混合物が乾燥および硬化することにより、ポリウレタン樹脂(硬化膜)が得られる。
【0078】
このポリウレタン樹脂は、上記ポリイソシアネート組成物を用いて得られるため、密着性、耐衝撃性および耐薬品性に優れる。
【0079】
<ブロックイソシアネート組成物>
ブロックイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート組成物と、ブロック剤との反応生成物である。つまり、反応生成物において、ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基がブロック剤によってブロックされている。
【0080】
ブロック剤は、イソシアネート基と反応可能な活性基を有する。ブロック剤は、上記したポリイソシアネート組成物の遊離のイソシアネート基と反応して潜在イソシアネート基を形成する。つまり、ブロックイソシアネート組成物は、ブロック剤によりブロックされている潜在イソシアネート基を含む。
【0081】
ブロック剤としては、ブロック剤として、例えば、特開2017-82208号公報に記載の第1ブロック剤および第2ブロック剤が挙げられる。具体的には、ブロック剤としては、グアニジン系化合物、イミダゾール系化合物、アルコール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、オキシム系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、酸アミド系(ラクタム系)化合物、酸イミド系化合物、トリアゾール系化合物、ピラゾール系化合物、メルカプタン系化合物、重亜硫酸塩、イミダゾリン系化合物、および、ピリミジン系化合物が挙げられ、好ましくは、ピラゾール系化合物が挙げられる。
【0082】
ピラゾール系化合物としては、例えば、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3,5-ジイソプロピルピラゾール、3,5-ジフェニルピラゾール、3,5-ジ-t-ブチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ブロモ-3,5-ジメチルピラゾール、および、3-メチル-5-フェニルピラゾールが挙げられ、好ましくは、3,5-ジメチルピラゾールが挙げられる。
【0083】
ブロック剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0084】
そして、ブロックイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート組成物と、ブロック剤とを反応させることにより得られる。
【0085】
上記反応は、例えば、窒素雰囲気下において実施される。
【0086】
また、上記反応は、無溶剤下であってもよく、例えば、溶剤の存在下であってもよい。溶剤としては、例えば、上記の有機溶媒が挙げられる。また、溶液重合によりポリイソシアネート組成物を製造する場合には、溶液重合で用いた有機溶媒を、そのまま用いることもできる。
【0087】
上記反応において、ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基に対する、ブロック剤におけるイソシアネート基と反応可能な活性基の当量比(活性基/イソシアネート基)は、例えば、0.2以上、好ましくは、0.5以上、より好ましくは、0.9以上、また、例えば、1.5以下、好ましくは、1.2以下、より好ましくは、1.1以下である。
【0088】
反応条件として、反応温度は、例えば、20℃以上、好ましくは、30℃以上、また、例えば、100℃以下、好ましくは、70℃以下である。反応時間は、例えば、0.5時間以上、また、例えば、6時間以下、好ましくは、3時間以下である。
【0089】
なお、反応の終了は、例えば、赤外分光分析法、アミン当量の測定を用い、イソシアネート基の消失または減少を確認することによって、判断することができる。
【0090】
これにより、ブロックイソシアネート組成物が得られる。
【0091】
ブロックイソシアネート組成物を、有機溶媒に溶解させる場合において、その固形分濃度は、例えば、1質量%以上、好ましくは、20質量%以上、より好ましくは、50質量%以上、また、例えば、95質量%以下、好ましくは、70質量%以下である。
【0092】
ブロックイソシアネート組成物は、上記ポリイソシアネート組成物において、イソシアネート基がブロック剤によってブロックされている。そのため、ポットライフが長く、加工性に優れる。
【0093】
そして、このブロックポリイソシアネート組成物は、ポリウレタン樹脂を製造において、好適に用いられる。ポリウレタン樹脂としては、例えば、1液硬化型ポリウレタンが挙げられる。
【0094】
1液硬化型ポリウレタンは、上記したブロックイソシアネート組成物(硬化剤)と、上記主剤とが予め配合されている。そして、使用時に、例えば、加熱することにより、ブロックイソシアネート組成物におけるブロック剤を解離させるとともに、ブロックイソシアネート組成物の再生したイソシアネート基と、主剤(活性水素基含有化合物)の活性水素基とを反応させ、ポリウレタン樹脂を製造することができる。
【0095】
そして、このようなポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート組成物、および、ブロックイソシアネート組成物は、各種産業分野において、好適に用いられる。具体的には、ポリウレタン樹脂およびポリイソシアネート組成物は、例えば、塗料において、好適に用いることができる。
【0096】
具体的には、塗料としては、例えば、プラスチック用塗料、自動車外装用塗料、自動車内装用塗料、電気・電子材料用塗料、光学材料(レンズなど)用塗料、建材用塗料、ガラスコート塗料、木工塗料、フィルムコーティング塗料、インキ塗料、人工皮革用塗料(コート剤)、および、缶用塗料(コート剤)が挙げられる。
【0097】
上記プラスチック塗料としては、例えば、筐体(携帯電話、スマートフォン、パソコン、タブレットなど)用塗料、自動車部品(自動車内装材やヘッドランプなど)用塗料、家庭用電化製品用塗料、ロボット材料用塗料、家具用塗料、文具用塗料、アイウエア材料(レンズなど)用塗料、スポーツ部材(ゴルフボールなど)用塗料、バンド(時計バンドなど)用塗料、および、電子機器の光学レンズ用塗料(表面コート剤)が挙げられる。
【0098】
上記自動車外装用塗料としては、例えば、新車向け塗料、自動車補修用塗料、および、外装部品(アルミニウムホイール、バンパー)用塗料が挙げられる。
【0099】
上記フィルムコーティング塗料としては、例えば、光学用部材(光学フィルム、光学シートなど)用塗料、光学用コーティング材料、繊維用塗料、電子電機材料用塗料、食品パッケージ用塗料、医療フィルム用塗料、化粧品パッケージ用塗料、加飾フィルム用塗料、および、離形フィルム用塗料が挙げられる。
【実施例】
【0100】
以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。また、以下の記載において特に言及がない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0101】
1.1,3-キシリレンジイソシアネート(XDI)のアロファネート変性体の合成
合成例1
撹拌機、温度計、冷却器および窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの四つ口フラスコに、窒素雰囲気下、XDI 100質量部と、イソブタノール(IBA)15.8質量部(イソシアネート基/水酸基=5)と、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト(酸化防止剤)0.06質量部と、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](酸化防止剤)0.06質量部とを仕込んだ。次いで、75℃で3.5時間、ウレタン化反応させた。これにより、ウレタン化反応生成物を含む反応液を得た。
【0102】
次いで、ウレタン化反応生成物を含む反応液に、アロファネート化触媒として、XK-628(商品名、楠本化成社製、カルボン酸ビスマス、ビスマス含有割合31質量%)を0.06質量部添加した。次いで、90℃で11時間、アロファネート化反応させ、ウレタン結合のアロファネート結合への変換がほぼ完了したことを確認した後(具体的には、ウレタン基/アロファネート基のIR比率が0.1以下となった後)、オルトトルエンスルホンアミド(反応停止剤)0.10質量部を添加してアロファネート化反応を停止させた。
【0103】
得られた反応液から、薄膜蒸留装置(真空度:0.05kPa、温度150℃)により、未反応のイソブタノール、および、XDIを留去(除去)した。これにより、XDIのアロファネート変性体を得た。
【0104】
2.ポリイソシアネート組成物およびブロックイソシアネート組成物の製造
実施例1~実施例5、実施例7~実施例15、比較例1、および、比較例2
<ポリイソシアネート組成物の製造>
表1~表3の記載に従って、脂肪族ジイソシアネート、および、キシリレンジイソシアネートまたはその変性体を混合し、ポリイソシアネート成分を準備した。
【0105】
次いで、撹拌機、温度計、還流管、および、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、原料成分を配合した。具体的には、上記ポリイソシアネート成分100質量部と、表1~表3に記載のポリオール成分(ポリカプロラクトンポリオール)と、イソシアネートシラン(3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業株式会社製 製品名KBE9007N)と、酢酸ブチルを100質量部とを配合した。
【0106】
ポリカプロラクトンポリオールは、ポリオール成分(ポリカプロラクトンポリオール)中の水酸基に対するポリイソシアネート成分中のイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/水酸基)が、2となるように配合した。
【0107】
また、イソシアネートシランの配合割合は、表1~表3に従った。
【0108】
次いで、原料成分を攪拌しながら90℃で3時間反応させ、オクチル酸第一錫(三菱ケミカル社製 製品名スタノクト)を0.01質量部仕込み、90℃で1時間反応させ、転化率の上昇が止まった(イソシアネートとポリオールが仕込み量から理論量反応した)ところで、40℃まで冷却した。これにより、ポリイソシアネート組成物(反応液)を得た。
【0109】
<ブロックイソシアネート組成物の製造>
上記の4つ口フラスコに、さらに、ブロック剤としての、3,5-ジメチルピラゾール(株式会社日本ファインケム社製、製品名:DMP)を配合した。
【0110】
ブロック剤は、ポリイソシアネート組成物のイソシアネート基に対する、ブロック剤におけるイソシアネート基と反応可能な活性基の当量比(活性基/イソシアネート基)が、1.02に配合した。
【0111】
その後、ポリイソシアネート組成物およびブロック剤を、40~60℃、1~2時間で反応させた。アミン当量が20,000以上となったところで反応を停止し、その後、固形分濃度60%になるように酢酸ブチルを添加した。これにより、ブロックイソシアネート組成物(反応液)を得た。
【0112】
実施例6
表1の記載に従って、実施例1と同様の手順で、ポリイソシアネート組成物(反応液)を得た。但し、実施例6では、ブロックイソシアネート組成物を製造しなかった。
【0113】
比較例3
撹拌機、温度計、還流管、および、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI) 100質量部と、ポリカプロラクトンポリオール(株式会社ダイセル社製 製品名プラクセル305 分子量550)とを配合した。
【0114】
ポリカプロラクトンポリオールは、ポリカプロラクトンポリオール中の水酸基に対するHDI中のイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/水酸基)が、12となるように配合した。
【0115】
次いで、HDIおよびポリカプロラクトンポリオールを、攪拌しながら90℃で3時間反応させ、オクチル酸第一錫(三菱ケミカル社製 製品名スタノクト)を0.01質量部仕込み、90℃で1時間反応させ、転化率の上昇が止まった(イソシアネートとポリオールが仕込み量から理論量反応した)ところで、40℃まで冷却した。
【0116】
次いで、ガラス製薄膜蒸発器を用いて、150℃、50Pa absで反応液中の未反応のHDIを除去し、固形分濃度64%になるように酢酸ブチルで希釈した。これにより、ポリイソシアネート組成物(反応液)を得た。
【0117】
比較例4
撹拌機、温度計、還流管、および、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート(HDIヌレート)100質量部とポリカプロラクトンポリオール(株式会社ダイセル社製 製品名プラクセル220 分子量2000)とを配合した。
【0118】
ポリカプロラクトンポリオールは、ポリカプロラクトンポリオール中の水酸基に対するHDIヌレート中のイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/水酸基)が、9となるように配合した。
【0119】
次いで、攪拌しながら90℃で3時間反応させ、オクチル酸第一錫(三菱ケミカル社製 製品名スタノクト)を0.01質量部仕込み、90℃で1時間反応させ、所定の転化率に達したところで、40℃まで冷却し、固形分濃度64%になるように酢酸ブチルで希釈した。これにより、ポリイソシアネート組成物(反応液)を得た。
【0120】
3.評価
<ポリウレタン樹脂の硬化膜の作成>
ブロックイソシアネート組成物(実施例1~実施例5、実施例7~実施例15、比較例1、および比較例2)またはポリイソシアネート組成物(実施例6、比較例3および比較例4)と、ポリエステルポリオール(タケラックU-25(商品名) 三井化学製 水酸基価:135mgKOH/g、固形分濃度75%)とを、ポリエステルポリオールの水酸基に対する、ブロックイソシアネート組成物またはポリイソシアネート組成物のイソシアネート基(イソシアネート基/水酸基)が、1となるように配合し、シンナー(酢酸エチル:酢酸ブチル:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート=1:1:1混合品)で固形分濃度50%になるように23℃、5分間混合した。さらに、10分間超音波処理することにより、脱泡して、混合液を得た。
【0121】
その後、得られた混合液を4milアプリケーターにて、各評価(後述)に応じた基材に塗工し、150℃で30分加熱した後、23℃湿度55%の恒温室で3日間養生した。これにより、ポリウレタン樹脂の硬化膜を得た。
【0122】
<耐衝撃性>
耐衝撃性の評価では、上記混合液を、ポリプロピレン板に塗工することにより得られるポリウレタン樹脂の硬化膜を用いた。
【0123】
各実施例および各比較例の硬化膜を、横1cm×縦10cmの打ち抜き刃で切り抜いた。
【0124】
切り抜いた硬化膜の中央付近において、3点膜厚計(株式会社ケツト科学研究所 デュアルタイプ膜厚計 LZ990)にて膜厚を測定し、平均値を膜厚とした。
【0125】
次いで、下記測定条件に基づき、引っ張り試験を実施した。なお、1サンプルにつき、5回測定し、5回の測定の平均値を、破断強度、破断伸度、および、応力-ひずみ曲線の積分値(衝撃吸収性)として評価した。
【0126】
[測定条件]
引っ張り試験機:株式会社インテスコ社製 Model 201B
チャック間隔:5cm
引っ張り速度:100mm/分
温度:23℃
湿度:55%
【0127】
破断強度について、以下の基準に基づき評価した。その結果を、表1~表3に示す。
[基準]
◎:破断強度が、20MPa以上であった。
〇:破断強度が、10MPa以上20MPa未満であった。
△:破断強度が、5MPa以上10MPa未満であった。
×:破断強度が、5MPa未満であった。
【0128】
また、破断伸度について、以下の基準に基づき評価した。その結果を、表1~表3に示す。
[基準]
◎:破断伸度が、180%以上であった。
〇:破断伸度が、150%以上180%未満であった。
△:破断伸度が、100%以上150%未満であった。
×:破断伸度が、100%未満であった。
【0129】
また、応力-ひずみ曲線の積分値は、X軸ひずみ(%)を4%間隔に区切り、4%ごとのY軸応力値(MPa)を用いて、台形近似により求めた。応力-ひずみ曲線の積分値(衝撃吸収性)について、以下の基準に基づき評価した。その結果を、表1~表3に示す。
[基準]
◎:応力-ひずみ曲線の積分値が、1000以上であった。
〇:応力-ひずみ曲線の積分値が、500以上1000未満であった。
△:応力-ひずみ曲線の積分値が、300以上500未満であった。
×:応力-ひずみ曲線の積分値が、300未満であった。
【0130】
<密着性>
密着性の評価では、上記混合液を、ガラス板(JIS,R,3202 厚さ2mm)に塗工することにより得られるポリウレタン樹脂の硬化膜を用いた。
【0131】
各実施例および各比較例の硬化膜を、前処理として、15分間煮沸した。その後、クロスカット試験試験(JIS K 5600-5-6)を実施し、密着性を評価した。密着性について、以下の基準に基づき評価した。その結果を、表1~表3に示す。
[基準]
◎:前処理前において、マスの残数が100%、かつ、前処理後において、マスの残数が50%以上100%以下であった。
〇:前処理前において、マスの残数が100%、かつ、前処理後において、マスの残数が50%未満であった。
△:前処理前において、マスの残数が50%以上100%以下、かつ、前処理後において、マスの残数が0%であった。
×:前処理前において、マスの残数が50%未満、かつ、前処理後において、マスの残数が0%であった。
【0132】
<耐薬品性>
耐薬品性の評価では、上記混合液を、鋼板(SPCC鋼板、PBN-144処理品)に塗工することにより得られるポリウレタン樹脂の硬化膜を用いた。
【0133】
各実施例および各比較例の硬化膜をラビングテスタ(IMC-0717型 井本製作所社製)にセットし、荷重0.5kgの重りの先にエタノールで湿らせた脱脂綿を設置しラビングを実施した。硬化膜が破れ、鋼板がむき出しになったときの、ラビング往復回数を測定した。
【0134】
耐薬品性について、以下の基準に基づき評価した。その結果を、表1~表3に示す。
[基準]
◎:ラビング往復回数が、50回以上であった。
〇:ラビング往復回数が、30回以上50回未満であった。
△:ラビング往復回数が、20回以上30回未満であった。
×:ラビング往復回数が、20回未満であった。
【0135】
【0136】
【0137】