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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】塗装方法及びマスキング部材
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/06 20060101AFI20241206BHJP
   B05D 1/32 20060101ALI20241206BHJP
   B05D 1/38 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
B05D5/06 101B
B05D1/32 C
B05D1/38
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021021282
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123762
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】宮島 聡
(72)【発明者】
【氏名】鹿内 康平
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-120665(JP,A)
【文献】特公平02-009864(JP,B2)
【文献】特開昭62-160169(JP,A)
【文献】特開2020-121243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05C 1/00-21/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1塗料を硬化させた第1色領域と第2塗料を硬化させた第2色領域とを見切りで隣接して形成する塗装方法において、
被塗装物に前記第1塗料を塗布して半乾燥状態の第1色塗着層を形成し、
前記第1色塗着層に剥離可能に当接するマスキングシートにより、前記第1色塗着層の一部を前記見切りに沿って被覆するとともに、該マスキングシートを、前記被塗装物の表面に沿って配置される本体部と、前記本体部の前記見切りとは反対側に前記見切りから離間する位置ほど前記被塗装物から離間する傾斜面を有する後部と、を備えたマグネット部の磁力で前記被塗装物に付着させ、
前記第1色塗着層の他部に前記第2塗料を塗布して第2色塗着層を形成し、
前記第1色塗着層及び前記第2色塗着層を硬化させる塗装方法。
【請求項2】
被塗装物に第1塗料が塗布されて形成された第1色塗着層を見切りに沿って被覆して第2塗料を塗布するためのマスキング部材であって、
半乾燥状態の前記第1色塗着層を剥離可能に当接して被覆するマスキングシートと、
前記マスキングシートを前記被塗装物に磁力で付着させるマグネット部と、を備え
前記マグネット部が、前記被塗装物の表面に沿って配置される本体部と、前記本体部の前記見切りとは反対側に前記見切りから離間する位置ほど前記被塗装物から離間する傾斜面を有する後部と、を備えている、マスキング部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は第1色領域と第2色領域とを見切りで隣接して形成する塗装方法とこの塗装に用いるマスキング部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ツートーン塗装のように部分的に色を変えて塗装する場合、見切りに沿ってマスキング部材を配置して塗装することで塗料のはみ出しなどを抑えている。このようなマスキング部材を用いた塗装方法として、例えば特許文献1には、前面にマグネット材を有するとともに背面に起立壁を有するマスキング治具を用いた方法が提案されている。この文献では、マスキング治具を見切り線に添って貼着し、非塗装面側への塗料の飛散やはみ出しを防止しつつ塗装面に塗料を吹きつけることで、見切り線を明瞭にして一方側の領域のみを塗装する。
【0003】
特許文献2には、自動車の修理等の際、非塗装領域を新聞紙などのマスキングシートで覆うために、磁気を帯びた特定形状の可撓性長尺体からなるマスキングシート固定具を用いた方法が提案されている。この文献では、特定形状のマスキングシート固定具を用いることで、塗装領域と非塗装領域との境界部分に生じる段差を抑えている。
【0004】
従来のマスキング部材を用いて自動車のボディなどにツートーン塗装を施すには、一般に被塗装物に第1塗料を塗布して第1色塗着層を形成し、この第1色塗着層を硬化させた後で、マスキング部材を第1色塗着層上に見切りに沿って設置して被覆し、この状態で第2塗料を塗布して第2色塗着層を形成し、硬化させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2596967号公報
【文献】特開2020-121243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来のマスキング部材を用いた塗装方法では、互いに異なる色の領域を見切りで隣接して形成する場合、第1色塗着層が硬化しない状態でマスキング部材を設置すると、第2色塗着層の形成後にマスキング部材を除去する際、マスキング部材に第1色塗着層が付着して剥がれたり、傷が発生したりするおそれがある。そのため第1色塗着層を硬化させた後でなければ、見切りに添ってマスキング部材を設置することができなかった。これにより、第1色の塗装後と第2色の塗装後とで、それぞれ硬化処理を行わなければならず、一連の塗装工程において乾燥炉を複数回通過させるなどの手間を要し、生産性に与える影響が大きかった。
【0007】
本発明は、複数色の塗料を互いに隣接する領域に塗布して複数色の塗装を施す際、外観品質を確保しつつ一連の塗装工程を簡略化できる塗装方法を提供することを第1の目的とし、この塗装方法を実現するために好適に使用できるマスキング部材を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の目的を達成するため、本発明は、第1塗料を硬化させた第1色領域と第2塗料を硬化させた第2色領域とを見切りで隣接して形成する塗装方法において、被塗装物に第1塗料を塗布して半乾燥状態の第1色塗着層を形成し、第1色塗着層に剥離可能に当接するマスキングシートにより、第1色塗着層の一部を見切りに沿って被覆するとともに、マスキングシートを、被塗装物の表面に沿って配置される本体部と、本体部の見切りとは反対側に見切りから離間する位置ほど被塗装物から離間する傾斜面を有する後部と、を備えたマグネット部の磁力で被塗装物に付着させ、第1色塗着層の他部に第2塗料を塗布して第2色塗着層を形成し、第1色塗着層及び第2色塗着層を硬化させる方法である。
【0009】
第2の目的を達成するため、本発明は、被塗装物に第1塗料が塗布されて形成された第1色塗着層を見切りに沿って被覆して第2塗料を塗布するためのマスキング部材であって、半乾燥状態の第1色塗着層を剥離可能に当接して被覆するマスキングシートと、マスキングシートを被塗装物に磁力で付着させるマグネット部と、を備え、マグネット部が、被塗装物の表面に沿って配置される本体部と、本体部の見切りとは反対側に見切りから離間する位置ほど被塗装物から離間する傾斜面を有する後部と、を備えている
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗装方法によれば、被塗装物に第1塗料を塗布して半乾燥状態の第1色塗着層を形成した後、マスキングシートにより第1色塗着層の一部を見切りに沿って被覆して、第1色塗着層の他部に第2塗料を塗布して第2色塗着層を形成する。その際、第1色塗着層に剥離可能に当接するマスキングシートにより第1色塗着層を被覆してマグネット部の磁力で被塗装物に付着させるので、半乾燥状態の第1色塗着層にマスキングシートを当接させても、第1色塗着層がマスキングシートに付着したり、マスキングシートにより第1色塗着層が傷付いたりすることを防止できる。よって、第1色塗着層の硬化処理なしで第2色塗着層を形成することができ、その後に第1色塗着層及び第2色塗着層を硬化すれば第1色領域及び第2色領域の良好な外観品質を確保ができる。そのため、隣接する領域に互いに異なる色の塗装を施す際、外観品質を確保しつつ硬化処理を省略することで一連の塗装工程を簡略化できる塗装方法を提供することができる。
【0012】
本発明のマスキング部材によれば、マスキングシートが半乾燥状態の第1色塗着層を剥離可能に当接して被覆し、このマスキングシートを被塗装物にマグネット部により磁力で付着させることができるので、第1塗料を被塗装物に塗布して形成された第1色塗着層を半乾燥状態で被覆しても、マスキングシートに第1色塗着層が付着したり第1色塗着層を傷付けたりすることを防止できる。これにより、第1色塗着層の硬化処理なしで、マスキングシートにより第1色塗着層を見切りに沿って被覆して第2色塗着層を形成することができ、互いに隣接する領域に異なる色の塗装を施す際、外観品質を確保しつつ硬化処理を省略して一連の塗装工程を行う塗装方法に好適に使用可能なマスキング部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)~(f)は本発明の一実施形態に係る塗装方法の工程を説明するための部分断面図である。
図2】一実施形態に係るマスキング部材を第1色塗着層上に配置した状態を示す部分断面図である。
図3】一実施形態に係る塗装方法における第1色塗着層の粘度とマスキング部材の磁力による剥離強度との成立条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るマスキング部材を用いた塗装方法について図を用いて詳細に説明する。
被塗装物は、鋼材等の金属材料などにより平坦又は立体形状に形成された各種の部材であって、例えば自動車、二輪車等の車体や外装パネル、電気製品の外装体等であってもよいが、本実施形態では、鋼板を立体形状に成形及び接合した自動車車体を例にとる。この被塗装物は下塗り及び中塗りが施されたものであり、本実施形態の塗装方法により上塗りを施すことで、第1塗料を硬化させた第1色領域と第2塗料を硬化させた第2色領域とが見切りで隣接して形成されている。
【0015】
本実施形態において被塗装物10に上塗り塗装を施すには、図1(a)に示すように、被塗装物10に第1塗料を塗布して第1色塗着層11を形成しこれを半乾燥状態にする第1色塗着層11の形成工程と、図1(b)に示すように、半乾燥状態の第1色塗着層11上の所定位置にマスキング部材13を設置して一部を被覆するマスキング工程と、図1(c)に示すように、第1色塗着層11上のマスキング部材13により被覆されていない他部に第2塗料を塗布して第2色塗着層12を形成する第2色塗着層12の形成工程と、図1(d)に示すように、マスキング部材13を除去した後、図1(e)に示すように、第1色塗着層11及び第2色塗着層12上にクリア塗料を塗布するクリア層14の形成工程と、図1(f)に示すように、第1色塗着層11、第2色塗着層12及びクリア層14の全体を硬化する硬化工程と、を順次行う。
【0016】
この塗装方法で使用する第1塗料及び第2塗料は、通常、上塗りのカラーベースとして使用可能な各種の塗料が使用可能であり、塗膜形成性の樹脂成分、硬化剤、顔料、溶剤、必要に応じて添加される各種の添加成分などが配合されている。
【0017】
樹脂成分としては塗料の樹脂成分として一般に用いられる各種の樹脂が用いられる。例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、及びウレタン樹脂等から選ばれる少なくとも一種であり、かつ、官能基として、水酸基、カルボキシル基、ケイ素含有基、エポキシ基、及び、ブロックされていてもよいイソシアネート基を有する樹脂が挙げられる。
【0018】
硬化剤としては、前記樹脂成分中の官能基と反応するメラミン樹脂、尿素樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有化合物、及びエポキシ基含有化合物等が挙げられる。
【0019】
顔料としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒酸化鉄(四三酸化鉄)、黒酸化チタン、銅マンガンブラック、銅クロムブラック、コバルトブラック、シアニンブラック及びアニリンブラック等の黒色顔料;フタロシアニン系、インダンスロン系及びインジゴ系等の青色顔料;アゾ系ジケトピロロピロール系ペリレン系ペリノン系及び酸化鉄等の赤色顔料等が挙げられる。
本実施形態では、第1塗料と第2塗料とは異なる色を有している。
【0020】
溶剤としては、例えば、水等の水性液、キシレン等の芳香族系溶剤;ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、2-エトキシエチルプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びメチルアミルケトン等のケトン系溶剤;イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、及び2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。
必要に応じて添加される添加成分として、例えば粘性付与剤、流動調整剤、光安定剤、紫外線吸収剤、体質顔料、及び顔料分散剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0021】
この塗装方法に使用する第2塗料は、通常、上塗りのカラーベースとして使用可能な各種の塗料からなる第1塗料と同じであってもよいが、更に、クリア塗料に顔料を加えて着色した着色クリア塗料であってもよい。
【0022】
着色クリア塗料としては、公知のものが適宜使用でき、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂およびエポキシ樹脂等と、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂および尿素樹脂などの架橋剤と、顔料、その他の添加剤とを、有機溶剤に溶解または分散させた塗料を用いてもよい。
【0023】
またクリア塗料としては、公知のものが適宜使用でき、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂およびエポキシ樹脂等と、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂および尿素樹脂などの架橋剤と、その他の添加剤とを、有機溶剤に溶解または分散させた塗料を用いてもよい。
【0024】
まず第1色塗着層11の形成工程では、図1(a)に示すように、被塗装物10の中塗り後の硬化された表面に、第1塗料を塗布し、その後、半乾燥状態まで乾燥させることで第1色塗着層11を形成する。第1色塗着層11を形成する範囲は、少なくとも塗装後に第1色領域21が形成される部位を含む範囲であるが、本実施形態では被塗装物10の全面に第1色塗着層11を形成する。
【0025】
第1塗料は、例えば温度や湿度が管理された塗装ブース内で第1塗料を噴霧して塗布して第1色塗着層11を形成することができる。塗布したら第1色塗着層11を乾燥させて半乾燥状態にする。第1色塗着層11を半乾燥状態にするには、例えば第1塗料は硬化しないが、含有される水や溶剤等の揮発性成分が揮発する、80℃程度の低温で極短時間の簡易炉に入れてもよく、熱風を当てて半乾燥してもよい。
【0026】
第1色塗着層11の半乾燥状態とは、第1塗料に含有される水や溶剤等の揮発性成分が揮発し第1塗料の硬化成分が未硬化であるか硬化があまり進行していない状態で、第1塗料の粘性で後述するマスキングシート13aの表面に第1塗料が付着しない状態である。例えば第1色塗着層11の粘度を2kPa・S以上の範囲としてもよい。
第1色塗着層11を半硬化状態とすることで、第1色塗着層11の表面にマスキング部材13のマスキングシート13aを圧接させても、第1色塗着層11がマスキングシート13aに付着して第1色塗着層11に痕が残ったり傷が付いたりすることを防止する。
【0027】
次に、マスキング工程では、図1(b)に示すように、半乾燥状態にした第1色塗着層11上にマスキング部材13を設置することで、次の第2色塗着層の形成工程における第2塗料を塗布する範囲を区画する。
【0028】
本実施形態におけるマスキング部材13は、半乾燥状態の第1色塗着層11上の一部を見切り20に沿って被覆し、第1色塗着層11上の他部を第2塗料が塗布される範囲として露出させるものである。このマスキング部材13は、図2に示すように、第1色塗着層11の一部を剥離可能に当接して被覆するマスキングシート13aと、マスキングシート13aを被塗装物10に磁力で付着させるマグネット部13bと、を備えている。
【0029】
マスキングシート13aは、半乾燥状態の第1色塗着層11に剥離可能に当接できる平滑なシート材であり、例えばシリコーン系離型剤又はノンシリコーン系離型剤等のコーティングが剥離層として基材表面に設けられた剥離紙などである。このマスキングシート13aはマグネット部13bの被塗装物10と対向する側に、例えば両面テープ等で接合されている。マスキングシート13aは見切り20に沿って配置される前端縁13cを有していて、第1色塗着層11を被覆した状態で前端縁13cがマグネット部13bより突出するように配置されて接合される。
【0030】
マグネット部13bは、被塗装物10の表面形状に追従して変形可能な柔軟性を有し、被塗装物10に磁力で付着可能なラバーマグネットなどの材料により帯状に連続して形成されている。このマグネット部13bは、図2に示すように、被塗装物10の表面形状に沿って配置される本体部13dと、本体部13dの見切り20とは反対側に設けられて見切り20から離間する位置ほど被塗装物10から離間するように傾斜した傾斜面を有する後部13eと、を備えている。傾斜面は本体部13dから連続した湾曲形状に形成されている。
【0031】
マスキング工程では、このようなマスキング部材13を第1色領域21と第2色領域22との見切り20に沿って、第1色塗着層11上に設置する。詳細には、マグネット部13bより前方へ突出させたマスキングシート13aの前端縁13cを見切り20に沿って第1色塗着層11に密着した状態で配置し、見切り20付近の第1色塗着層11上でマグネット部13bの磁力で被塗装物10に付着させる。
【0032】
このときマスキングシート13aは、マグネット部13bの磁力に応じた圧力で半乾燥状態の第1色塗着層11の表面に当接させる。本実施形態では、マグネット部13bの磁力、例えばマグネット部13bの磁力で付着させたマスキング部材13を被塗装物10から磁力に抗して剥離させるのに要する力により測定される剥離強度と、半乾燥状態における第1色塗着層11の粘度とを組み合わせることで、マスキング部材13による半乾燥状態の第1色塗着層11の被覆に好適な成立条件を設定してもよい。
そのような成立条件の範囲でマスキング部材13を用いて第1色塗着層11を被覆することで、半乾燥状態における第1色塗着層11に剥離や傷等のマスキング部材13との接触痕を生じさせることなく、安定して所定範囲を被覆することが可能となる。
【0033】
例えば、図3に示すように、第1色塗着層11の粘度が2kPa・S以上の範囲であって、被塗装物10に磁力で付着したマグネット部13bの剥離強度が15g/cm以上100g/cm以下の範囲としてもよい。
第1色塗着層11の粘度が2kPa・S未満では第1色塗着層11の乾燥状態が低く、外力が作用することで容易に流動や変形が生じる。この第1色塗着層11の粘度は高いほど好ましいが、第1色塗着層11の硬化処理は不要である。
またマグネット部13bの剥離強度が過剰に低いと、第1塗料の塗装時に負荷される風圧等の圧力によりマスキング部材13の一部又は全部が被塗装物10の表面から離脱することがある。一方、マグネット部13bの剥離強度が過剰に高いと、第2塗料の塗布後にマスキング部材13を取り外しても、第1色塗着層11にマグネット部13bとの当接痕が残留することがある。
【0034】
マスキング工程では、このようなマスキング部材13により、第1色塗着層11上の一部からなる第1色領域21の形成範囲を被覆し、第1色塗着層11上の他部からなる第2色領域22の形成範囲を露出させて、マスキング部材13を第1色塗着層11上に設置する。
【0035】
本実施形態の第2色塗着層12の形成工程では、図1(c)に示すように、マスキング部材13から露出した第2色領域22の形成範囲の第1色塗着層11上に、第1色塗着層11と同様にして第2塗料を塗布し、第2色塗着層12を形成する。第2色塗着層12は通常の上塗りベースと同様に形成でき、第1色塗着層11のように半乾燥状態にする処理は不要である。
【0036】
本実施形態のクリア層14の形成工程では、まず図1(d)に示すように、マスキング部材13に付着した第2塗料とともにマスキング部材13除去し、その後、図1(e)に示すように、第1色領域21を形成するための第1色塗着層11の一部と、この第1色塗着層11と見切り20にて隣接する第2色塗着層12との両表面に連続して、クリア塗料を塗布してクリア塗着層を形成する。
【0037】
本実施形態の硬化工程では、図1(f)に示すように、第1色塗着層11、第2色塗着層12及びクリア層が未硬化状態乃至半硬化の状態の被塗装物10を、例えば温度及び湿度等が所定条件に管理されたブース内に配置して加熱することで、第1色塗着層11、第2色塗着層12及びクリア層14を硬化する。
これにより第1塗料を硬化させた第1色領域21と第2塗料を硬化させた第2色領域22とが見切り20で隣接して形成されたツートーンカラーの塗装を被塗装物10に施すことができる。
【0038】
以上述べたマスキング部材13を用いた塗装方法によれば、マスキング部材13のマスキングシート13aが半乾燥状態の第1色塗着層11を剥離可能に当接して被覆でき、このマスキングシート13aを被塗装物10にマグネット部13bにより磁力で付着させることができる。そのため第1塗料を塗布して形成された第1色塗着層11を硬化していない状態でマスキング部材13で被覆しても、マスキングシート13aに第1色塗着層11が付着したり第1色塗着層11を傷付けたりすることがない。
これにより第1色塗着層11の硬化処理なしで、マスキングシート13aにより第1色塗着層11を見切り20に沿って被覆して第2色塗着層12を形成することができ、見切り20で隣接する領域に、外観品質を確保しつつ硬化処理を省略して、異なる色の塗着層を形成することが可能であり、そのような塗装を施す際に好適に使用することができる。
【0039】
また本実施形態のマスキング部材13では、マグネット部13bが被塗装物10の表面に沿って配置される本体部13dと、本体部13dの見切り20とは反対側に見切り20から離間するほど被塗装物から離間した傾斜面を有する後部13eと、を備えている。そのためマスキング部材13を半乾燥状態の第1色塗着層11に当接配置して被覆しても、マグネット部13bの角張った端部等が第1色塗着層11に強く接触して第1色塗着層11が凹んだり、傷付いたりすることをより防止できる。
【0040】
また本実施形態のマスキング部材13では、マスキングシート13aが見切り20に沿って配置される前端縁13cを有し、この前端縁13cがマグネット部13bより見切り20側に突出して配置される。そのためマスキング部材13の見切り20に配置される部位の厚みを薄くでき、第2塗料を塗布する際、第2塗料が見切り20付近に滞留することがなく、見切り20付近に段差が生じることを防止できる。
【0041】
そして、このマスキング部材13を用いた本実施形態の塗装方法によれば、被塗装物10に第1塗料を塗布して半乾燥状態の第1色塗着層11を形成した後、マスキングシート13aにより第1色塗着層11の一部を見切り20に沿って被覆して、第1色塗着層11の他部に第2塗料を塗布して第2色塗着層12を形成している。その際、第1色塗着層11に剥離可能に当接するマスキングシート13aを用いて第1色塗着層11を被覆し、マグネット部13bの磁力により被塗装物10に付着させるので、半乾燥状態の第1色塗着層11にマスキングシート13aを当接させても、第1色塗着層11がマスキングシート13aに付着したり、マスキングシート13aにより第1色塗着層11が傷付いたりすることを防止できる。
【0042】
そのため第1色塗着層11の硬化処理なしで第2色塗着層12を形成することができ、その後に第1色塗着層11及び第2色塗着層12を硬化すれば、第1色領域21及び第2色領域22の良好な外観品質を確保ができる。その結果、隣接する領域に互いに異なる色の塗装を施す際、外観品質を確保しつつ硬化処理を省略することで一連の塗装工程を簡略化することができる。
【0043】
また本実施形態の塗装方法では、マスキングシート13aの前端縁13cをマグネット部13bより突出させ、第1色領域21と第2色領域22との見切り20に沿って密着配置しているので、見切り20にマスキングシート13aの前端縁13cだけを配置でき、塗布時に塗料が見切り20付近に滞留することを防止できる。即ち、マグネット部13bがマスキングシート13aの前端縁13cに配置されると、マスキングシート13aに比べて格段に厚肉のマグネット部13bがマスキングシート13aの前端縁13cに配置されることになり、第2塗料の塗布時に見切り20の隣接位置に塗料が滞留し易く、硬化後に見切り20に段差等が生じる。ところが、マスキングシート13aの前端縁13cをマグネット部13bより突出させて配置すれば、見切り20にマスキングシート13aの薄い前端縁13cだけを配置でき、塗布時にマスキングシート13aの前端縁13cの隣接位置に塗料が滞留し難く、見切り20付近に段差が生じることを防止できる。
【0044】
なお上記実施形態は本発明の範囲内において適宜変更可能である。
例えば上記実施形態では被塗装物として、鋼材からなる自動車車体の例について説明したが、特に限定されるものではなく、マスキング部材13が磁着可能な各種の部材に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 被塗装物
11 第1色塗着層
12 第2色塗着層
13 マスキング部材
13a マスキングシート
13b マグネット部
13c 前端縁
13d 本体部
13e 後部
14 クリア層
20 見切り
21 第1色領域
22 第2色領域
図1
図2
図3