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  • 特許-樹脂部材の塗装方法 図1
  • 特許-樹脂部材の塗装方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】樹脂部材の塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/32 20060101AFI20241206BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20241206BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
B05D1/32 A
B05D3/10 H
B05D7/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021021283
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123763
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】宮島 聡
(72)【発明者】
【氏名】鹿内 康平
(72)【発明者】
【氏名】小原 一馬
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-042770(JP,A)
【文献】特開2004-307684(JP,A)
【文献】特開平06-099129(JP,A)
【文献】特開昭60-248265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05C 1/00-21/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部材の素地色を残したい部位にマスキングを設け、前記樹脂部材の着色したい部位をプライマ処理して水性塗料からなる着色塗料で着色し、前記マスキングを除去して素地色領域と着色領域とを形成する樹脂部材の塗装方法において、
前記素地色を残したい部位に前記着色領域を形成するための前記着色塗料と同じ水性塗料を塗布し硬化することで、前記素地色領域に剥離可能に密着した前記マスキングを設けて、前記着色塗料を塗布する、樹脂部材の塗装方法。
【請求項2】
前記着色したい部位をマスキング治具により被覆し、前記素地色を残したい部位に前記水性塗料を塗布して前記マスキングを設ける、請求項1に記載の樹脂部材の塗装方法。
【請求項3】
前記着色塗料からなる層上にクリア塗料を塗布して硬化した後、前記マスキングを剥離する、請求項1又は2に記載の樹脂部材の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材に素地色領域と着色領域とを形成する樹脂部材の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂部材の塗装方法として、素地色を一部に残して塗装することで、素地色領域と着色領域とを形成する方法が知られている。
一般的に素地色を一部に残して塗装するには、マスキングシートやマスキングテープ等を用いて素地色領域を形成する部位を予め被覆した状態で、着色塗料をその他の部位に塗布して硬化させることが行われている。
【0003】
特許文献1には、タイルに目地材が付着しないようにするために、カラーマスキング塗料により被覆することが提案されている。この文献では、カラーマスキング塗料は各種の被塗装物に適用できるとされている。特許文献2には、被検査体の物理量の変化を検知するための検査用塗料として、被検査対象の表面から容易に剥がれるようにした剥離容易検査用塗料などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-232099号公報
【文献】特開2018-62594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のマスキングでは、樹脂部材の素地色を残して塗装する際、マスキングシートやマスキングテープ等を所定位置に設置する作業が必要となり、手間を要していた。
また特許文献1、2のような剥離性塗料を用いてマスキングを形成するとすれば、高価な剥離性の塗料を準備する必要があることに加え、剥離性塗料を塗布するための設備を別に準備しなければならず、準備に手間を要し、設備の追加や変更が必要で設備が複雑化するなどの課題があった。
【0006】
そこで本発明では、樹脂部材に素地色領域と着色領域とを設ける際、マスキングを簡易な設備で容易に設けることができ、素地色領域を優れた外観品質で形成することが可能な樹脂部材の塗装方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、樹脂部材の素地色を残したい部位にマスキングを設け、樹脂部材の着色したい部位をプライマ処理して水性塗料からなる着色塗料で着色し、マスキングを除去して素地色領域と着色領域とを形成する樹脂部材の塗装方法において、素地色を残したい部位に着色領域を形成するための着色塗料と同じ水性塗料を塗布し硬化することで、素地色領域に剥離可能に密着したマスキングを設けて、着色塗料を塗布するものである。
【0008】
本発明の樹脂部材の塗装方法は、着色したい部位をマスキング治具により被覆し、素地色を残したい部位に水性塗料を塗布してマスキングを設けるのがよい。好ましくは、着色塗料からなる層上にクリア塗料を塗布して硬化した後、マスキングを剥離する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂部材の塗装方法によれば、樹脂部材の素地色を残したい部位にマスキングを設け、着色したい部位をプライマ処理し、水性塗料からなる着色塗料で着色することで、素地色領域と着色領域とを形成する。その際、素地色を残したい部位に水性塗料を塗布及び硬化することで、素地に剥離可能に密着したマスキングを設ける。素地色を残したい部位にマスキングを設けるために、着色したい部位に塗布される着色塗料と同様の水性塗料を用いることができ、同様の塗装設備を利用することができる。これによりマスキングのために、別の塗料や設備を準備する必要がなく、マスキングを簡易な準備で容易に設けることが可能である。
【0010】
しかも着色したい部位に水性塗料を塗布してマスキングを設けるので、素地に対する密着度が高く着色塗料の塗布時の圧等により隙間や剥離が生じることがなく、素地色を残したい部位に着色塗料が付着することを確実に防止できる。また溶剤系塗料のように樹脂部材の素地を劣化させるおそれも少ない。そのため素地色領域の外観品質を高度に確保することができる。従って、本発明によれば、樹脂部材に素地色領域と着色領域とを設ける際、マスキングを簡易な設備で容易に設けることができ、素地色領域を優れた外観品質で形成することが可能な樹脂部材の塗装方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)~(d)は本発明の実施形態に係る塗装工程を説明する図である。
図2】(a)~(e)は本発明の実施形態に係る塗装工程の図1(d)以降を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る樹脂部材の塗装方法について図を用いて詳細に説明する。
本実施形態の樹脂部材の塗装方法における被塗装物としては、樹脂により平坦又は立体形状に形成された各種の樹脂部材であり、例えば自動車、二輪車等の車体や外装パネル、電気製品の外装体等に適用できる。
【0013】
この樹脂部材を構成する樹脂としては、例えばポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂や、フィラーなどで強化した前記樹脂が挙げられる。
【0014】
本実施形態では、フィラーで強化したポリプロピレンにより成形された自動車用バンパー等の外装品を例にとって説明する。樹脂部材10は適宜な立体形状に成形されていて、図2(e)に示すように、外部に露出される外表面に、樹脂部材10の素地が露出される素地色領域11が一部に設けられるとともに、残部に着色塗料により着色された着色領域12が設けられ、ツートーン塗装の外観を呈している。素地色領域11と着色領域12とは見切り13で互いに隣接して形成されている。
【0015】
本実施形態において、この樹脂部材10を塗装するために使用される塗料は、一般に多数使用されている汎用の安価な水性塗料である。水性塗料とは、例えば水等の水性液からなる媒体に、塗膜形成性の樹脂成分、硬化剤、顔料、必要に応じて添加される各種の添加成分などが分散又は溶解された塗料である。
【0016】
樹脂成分としては、水性塗料の樹脂成分として用いられる各種の樹脂が用いられ、例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、及びウレタン樹脂などから選ばれる少なくとも一種であり、かつ、官能基として、水酸基、カルボキシル基、ケイ素含有基、エポキシ基、及び、ブロックされていてもよいイソシアネート基を有する樹脂が挙げられる。
【0017】
硬化剤としては、前記樹脂成分中の官能基と反応するメラミン樹脂、尿素樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物、カルボキシル基含有化合物、及びエポキシ基含有化合物などが挙げられる。
【0018】
顔料としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒酸化鉄(四三酸化鉄)、黒酸化チタン、銅マンガンブラック、銅クロムブラック、コバルトブラック、シアニンブラック及びアニリンブラック等の黒色顔料;フタロシアニン系、インダンスロン系及びインジゴ系等の青色顔料;アゾ系ジケトピロロピロール系ペリレン系ペリノン系及び酸化鉄等の赤色顔料;酸化チタン等の白顔料などが挙げられる。
【0019】
必要に応じて添加される添加成分としては、例えば粘性付与剤、流動調整剤、光安定剤、紫外線吸収剤、体質顔料、及び顔料分散剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0020】
この水性塗料によって形成される塗膜に塗布されるクリア塗料としては、公知のものが適宜使用でき、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂およびエポキシ樹脂等と、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂および尿素樹脂などの架橋剤と、その他の添加剤とを、水性液等の媒体に溶解または分散させた塗料を用いることができる。
【0021】
このような水性塗料は、上述のような樹脂部材を構成する樹脂の表面に直接塗布して硬化させて塗膜を形成すると、樹脂表面を溶解させてアンカー効果を発現させることなく、また樹脂表面と分子間力で引き合うことがないため、剥離可能に密着した状態で塗膜を形成することができる。
しかも、樹脂部材を構成する樹脂の表面に、プライマ処理として、塩素化ポリオレフィン樹脂を含有したプライマ塗料を塗布してから水性塗料を塗布して塗膜を形成すれば、樹脂部材10の表面に固着することができる。
【0022】
上記した水性塗料を用いて、本実施形態の塗装方法により樹脂部材10に塗装を施すには、図1(a)~(d)に示すように、樹脂部材10の素地色を残したい部位17に、水性塗料を塗布及び硬化することで、樹脂部材10の素地に剥離可能に密着したマスキング14を設ける。次に、図2(a)~(c)に示すように、樹脂部材10の着色したい部位16に着色塗着層18を形成するとともにクリア塗着層19を形成してそれぞれ硬化させる。その後、図2(d)~(e)に示すように、マスキング14を除去することで、樹脂部材10の外表面に素地色領域11と着色領域12とを形成する。
【0023】
樹脂部材10の素地色を残したい部位17にマスキング14を設けるには、まず図1(a)に示すように、予め形成されたマスキング治具21により樹脂部材10の着色したい部位16を被覆する。マスキング治具21は着色したい部位16に対応した形状を有していて、所定部位に配置することで着色したい部位16を被覆することができる。
【0024】
マスキング治具21を所定位置に配置後、図1(b)に示すように、素地色を残したい部位17に水性塗料を塗布してマスキング塗着層22を形成する。
マスキング14を形成するために用いる水性塗料は前述のような水性塗料を適宜使用可能であるが、本実施形態では後述する着色領域12を形成するための塗料と成分、濃度及び各種の物性値が同じもの、すなわち、着色領域12と同一の塗料を使用可能である。更に、顔料に酸化チタン等の白顔料を用いた白色の水性塗料は、塗料が安価のため望ましい。
【0025】
このようなマスキング14を形成するための水性塗料を、素地色を残したい部位17に塗布するには、後述する着色領域12を形成するための塗装設備を使用することができる。例えば温度や湿度が管理された塗装ブース内で、水性塗料をノズルにより噴霧して塗布することができる。その際、素地色を残したい部位17をマスキング14により被覆できればよいため、噴霧する塗料粒子の平均粒径を大きくすることで、素地色を残したい部位17以外のオーバーダストを低減することなども可能である。
【0026】
マスキング塗着層22を形成後、図1(c)に示すように、マスキング治具21を除去する。マスキング治具21には、はみ出した水性塗料が付着しているが、未硬化状態のため水洗することで容易に除去できる。そのため、マスキング治具21は繰り返し使用することが可能である。
その後、図1(d)に示すように、所定温度で加熱してマスキング塗着層22を乾燥及び硬化させることで、素地色を残したい部位17の素地に密着状態で剥離可能なマスキング14を設けることができる。
【0027】
次に、着色したい部位16に着色塗料からなる着色塗着層18を形成して着色する。図2(a)に示すように、樹脂部材10の着色したい部位16に、上述のようなプライマ処理を施し、素地の表面にプライマ処理層23を形成する。このとき樹脂部材10の素地色を残したい部位17にはマスキング14が設けられているので、例えばプライマを噴霧して塗布することができ、マスキング14上にプライマがはみ出して付着してもよい。
【0028】
プライマ処理層23を形成後、図2(b)に示すように、着色したい部位16のプライマ処理層23上に、上述のような水性塗料からなる着色塗料を塗布して着色塗着層18を形成する。例えば温度や湿度が管理された塗装ブース内で、着色塗料をノズルにより噴霧して塗布してもよい。このときマスキング14上に着色塗料がはみ出して付着してもよい。
【0029】
着色したい部位16に着色塗着層18を形成した後、図2(c)に示すように、着色塗着層18上にクリア塗料を塗布してクリア塗着層19を形成する。クリア塗料の塗布は着色塗料の塗布と同様に行ってもよい。その後、着色塗着層18及びクリア塗着層19を所定温度で加熱して乾燥及び硬化させることで、着色したい部位16を着色して着色領域12を形成する。
【0030】
次に、着色領域12と隣接する素地色領域11を形成するには、図2(d)のように、着色塗着層18及びクリア塗着層19を硬化した後、樹脂部材10からマスキング14を剥離して除去する。
これにより樹脂部材10の外側表面に素地色領域11と着色領域12とを見切り13で隣接して形成することができ、図2(e)に示すような樹脂部材10のツートーン塗装を完了することができる。
【0031】
本実施形態の樹脂部材10の塗装方法によれば、樹脂部材10の素地色を残したい部位17にマスキング14を設け、着色したい部位16をプライマ処理し、水性塗料からなる着色塗料を塗布して着色することで、素地色領域11と着色領域12とを形成している。その際、素地色を残したい部位17に水性塗料を塗布及び硬化することで素地に剥離可能に密着したマスキング14を設けている。
【0032】
そのため、素地色を残したい部位17のマスキング14を設けるために、着色したい部位16に塗布する着色塗料と同様の塗料を用いることができ、同様の塗装設備を利用することができる。これによりマスキング14のために、本来の塗装に使用される塗料や塗装設備を準備する必要がなく、マスキング14を簡易な準備で容易に設けることができる。
【0033】
しかも、素地色を残したい部位17に水性塗料を塗布してマスキング14を設けているので、素地に対する密着度が高く、着色塗料の塗布時の圧等により隙間や剥離などが生じることがなく、素地色を残したい部位17に着色塗料が付着することを確実に防止できる。また溶剤系塗料のように樹脂部材10の素地を劣化させるおそれも少ない。そのため素地色領域11の外観品質を高度に確保することができる。
従って樹脂部材10に素地色領域11と着色領域12とを設ける際、マスキング14を簡易な設備で容易に設けることができ、素地色領域11を優れた外観品質で形成することができる。
【0034】
本実施形態の製造方法では、着色したい部位16をマスキング治具21により被覆して素地色を残したい部位17に水性塗料を塗布してマスキング14を設けるので、素地色を残したい部位17にマスキング14を容易に設けることができる。しかも水性塗料を塗布するため、マスキング治具21に塗料が付着したとしても容易に洗浄することができ、使い勝手がよい。
【0035】
本実施形態の製造方法では、着色塗料からなる着色塗着層18上にクリア塗料を塗布して両者を硬化した後、マスキング14を剥離するので、マスキング14を水性塗料の塗布とクリア塗料の塗布とに共用でき、効率よく塗装工程を行うことができることに加え、素地色領域11と着色領域12とを明確な見切り13で隣接させることができる。
【0036】
上記実施形態は本発明の範囲において適宜変更可能である。
例えば上記実施形態では水性塗料によりマスキング14を形成する際、マスキング治具21を用いて着色したい部位16を被覆した例を説明したが、マスキング治具21を用いることなく、例えば水性塗料をはけ等で塗布する方法でマスキング14を形成してもよい。
【符号の説明】
【0037】
10 樹脂部材
11 素地色領域
12 着色領域
13 見切り
14 マスキング
16 着色したい部位
17 素地色を残したい部位
18 着色塗着層
19 クリア塗着層
21 マスキング治具
22 マスキング塗着層
23 プライマ処理層
図1
図2