(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】故障判定装置、故障判定プログラム及び故障判定方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20241206BHJP
【FI】
H02P29/024
(21)【出願番号】P 2021052597
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅樹
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033300(JP,A)
【文献】特開2020-137217(JP,A)
【文献】特開2005-147672(JP,A)
【文献】特開2013-192399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P4/00
6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機が備える回転子の回転角を示す回転角データ、前記回転電機に印加される電圧の位相を示す電圧位相データ、前記回転子の角速度を示す角速度データ、前記回転電機に電力を供給するインバータに供給される直流電圧を示す直流電圧データ及び前記回転電機に供給される電流を示す電流データを取得するデータ取得部と、
前記回転角データ、前記電圧位相データ、前記角速度データ及び前記直流電圧データを使用して前記回転電機に供給される電流の期待値を算出し、前記期待値を示す電流期待値データを生成する算出部と、
前記インバータがワンパルス制御で制御されている場合、前記インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び前記回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流期待値データ及び前記電流データに基づいて判定する故障判定部と、
を備え
、
前記故障判定部は、前記電流期待値データにより示されている電流の期待値と、前記電流データにより示されている電流との差が所定の閾値を超えている場合、前記信号線及び前記導線の少なくとも一方が故障していると判定する、
故障判定装置。
【請求項2】
前記データ取得部は、前記回転電機に供給される電流の目標値を示す電流目標データを更に取得し、
前記故障判定部は、前記インバータがパルス幅変調制御で制御されている場合、前記信号線及び前記導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流目標データ及び前記電流データに基づいて判定する、
請求項
1に記載の故障判定装置。
【請求項3】
回転電機が備える回転子の回転角を示す回転角データ、前記回転電機に印加される電圧の位相を示す電圧位相データ、前記回転子の角速度を示す角速度データ、前記回転電機に電力を供給するインバータに供給される直流電圧を示す直流電圧データ及び前記回転電機に供給される電流を示す電流データを取得するデータ取得部と、
前記回転角データ、前記電圧位相データ、前記角速度データ及び前記直流電圧データを使用して前記回転電機に供給される電流の期待値を算出し、前記期待値を示す電流期待値データを生成する算出部と、
前記インバータがワンパルス制御で制御されている場合、前記インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び前記回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流期待値データ及び前記電流データに基づいて判定する故障判定部と、
を備え、
前記データ取得部は、前記回転電機に供給される電流の目標値を示す電流目標データを更に取得し、
前記故障判定部は、前記インバータがパルス幅変調制御で制御されている場合、前記信号線及び前記導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流目標データ及び前記電流データに基づいて判定する、
故障判定装置。
【請求項4】
回転電機が備える回転子の回転角を示す回転角データ、前記回転電機に印加される電圧の位相を示す電圧位相データ、前記回転子の角速度を示す角速度データ、前記回転電機に電力を供給するインバータに供給される直流電圧を示す直流電圧データ及び前記回転電機に供給される電流を示す電流データを取得するデータ取得機能と、
前記回転角データ、前記電圧位相データ、前記角速度データ及び前記直流電圧データを使用して前記回転電機に供給される電流の期待値を算出し、前記期待値を示す電流期待値データを生成する電流期待値算出機能と、
前記インバータがワンパルス制御で制御されている場合、前記インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び前記回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流期待値データ及び前記電流データに基づいて判定する故障判定機能と、をコンピュータに実現させる故障判定プログラムであって、
前記故障判定機能は、前記電流期待値データにより示されている電流の期待値と、前記電流データにより示されている電流との差が所定の閾値を超えている場合、前記信号線及び前記導線の少なくとも一方が故障していると判定するものである、
故障判定プログラム。
【請求項5】
コンピュータが、
回転電機が備える回転子の回転角を示す回転角データ、前記回転電機に印加される電圧の位相を示す電圧位相データ、前記回転子の角速度を示す角速度データ、前記回転電機に電力を供給するインバータに供給される直流電圧を示す直流電圧データ及び前記回転電機に供給される電流を示す電流データをデータ取得部又はデータ取得機能により取得し、
前記回転角データ、前記電圧位相データ、前記角速度データ及び前記直流電圧データを使用して前記回転電機に供給される電流の期待値を算出し、前記期待値を示す電流期待値データを算出部又は電流期待値算出機能により算出し、
前記インバータがワンパルス制御で制御されている場合、前記インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び前記回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流期待値データ及び前記電流データに基づいて故障判定部又は故障判定機能により判定
し、
前記電流期待値データにより示されている電流の期待値と、前記電流データにより示されている電流との差が所定の閾値を超えている場合、前記信号線及び前記導線の少なくとも一方が故障していると判定する、
故障判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障判定装置、故障判定プログラム及び故障判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電動機として使用される回転電機を動力源とする車両、例えば、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)、燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)の開発が進められている。これらの車両に搭載されている回転電機は、例えば、パルス幅変調制御(PWM:Pulse Width Modulation)又はワンパルス制御により制御されているインバータから供給される交流電力により駆動される。
【0003】
また、これらの回転電機が搭載されている車両は、インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定する必要がある。このような判定を実行する技術として、例えば、特許文献1に開示されている断線検出装置が挙げられる。
【0004】
当該断線検出装置は、絶対値演算部と、断線判定部とを備える。絶対値演算部は、ベクトル制御におけるQ軸電流指令とQ軸電流出力との偏差の絶対値を検出する。断線判定部は、偏差の絶対値が所定値以上になり、この状態が一定時間内に設定回数以上継続したときにインバータ出力の少なくとも1相の断線または接触不良と判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した断線検出装置は、インバータがワンパルス制御で制御されている場合、Q軸電流指令が生成されることが無いため、断線及び接触不良を検出する処理を実行することができない。つまり、上述した断線検出装置は、インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定する機会を減少させてしまう。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定する機会を減少させることが無い故障判定装置、故障判定プログラム及び故障判定方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る故障判定装置、故障判定プログラム及び故障判定方法は、以下の構成を採用した。
【0009】
(1):この発明の一態様に係る故障判定装置は、回転電機が備える回転子の回転角を示す回転角データ、前記回転電機に印加される電圧の位相を示す電圧位相データ、前記回転子の角速度を示す角速度データ、前記回転電機に電力を供給するインバータに供給される直流電圧を示す直流電圧データ及び前記回転電機に供給される電流を示す電流データを取得するデータ取得部と、前記回転角データ、前記電圧位相データ、前記角速度データ及び前記直流電圧データを使用して前記回転電機に供給される電流の期待値を算出し、前記期待値を示す電流期待値データを生成する算出部と、前記インバータがワンパルス制御で制御されている場合、前記インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び前記回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流期待値データ及び前記電流データに基づいて判定する故障判定部と、を備える故障判定装置である。
【0010】
(2):上記(1)の態様において、前記故障判定部は、前記電流期待値データにより示されている電流の期待値と、前記電流データにより示されている電流との差が所定の閾値を超えている場合、前記信号線及び前記導線の少なくとも一方が故障していると判定するものである。
【0011】
(3):上記(1)又は(2)の態様において、前記データ取得部は、前記回転電機に供給される電流の目標値を示す電流目標データを更に取得し、前記故障判定部は、前記インバータがパルス幅変調制御で制御されている場合、前記信号線及び前記導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流目標データ及び前記電流データに基づいて判定するものである。
【0012】
(4):この発明の一態様に係る故障判定プログラムは、回転電機が備える回転子の回転角を示す回転角データ、前記回転電機に印加される電圧の位相を示す電圧位相データ、前記回転子の角速度を示す角速度データ、前記回転電機に電力を供給するインバータに供給される直流電圧を示す直流電圧データ及び前記回転電機に供給される電流を示す電流データを取得するデータ取得機能と、前記回転角データ、前記電圧位相データ、前記角速度データ及び前記直流電圧データを使用して前記回転電機に供給される電流の期待値を算出し、前記期待値を示す電流期待値データを生成する電流期待値算出機能と、前記インバータがワンパルス制御で制御されている場合、前記インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び前記回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流期待値データ及び前記電流データに基づいて判定する故障判定機能と、をコンピュータに実現させる故障判定プログラムである。
【0013】
(5):この発明の一態様に係る故障判定方法は、コンピュータが、回転電機が備える回転子の回転角を示す回転角データ、前記回転電機に印加される電圧の位相を示す電圧位相データ、前記回転子の角速度を示す角速度データ、前記回転電機に電力を供給するインバータに供給される直流電圧を示す直流電圧データ及び前記回転電機に供給される電流を示す電流データをデータ取得部又はデータ取得機能により取得し、前記回転角データ、前記電圧位相データ、前記角速度データ及び前記直流電圧データを使用して前記回転電機に供給される電流の期待値を算出し、前記期待値を示す電流期待値データを算出部又は電流期待値算出機能により算出し、前記インバータがワンパルス制御で制御されている場合、前記インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び前記回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを前記電流期待値データ及び前記電流データに基づいて故障判定部又は故障判定機能により判定する、故障判定方法である。
【発明の効果】
【0014】
(1)から(3)によれば、故障判定装置は、インバータがワンパルス制御で制御されており、回転電機に供給される電流の目標値を示す電流目標データが生成されない場合でも、インバータが備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定することができる。したがって、故障判定装置は、このような判定を実行する機会を減少させることが無い。
【0015】
(3)によれば、故障判定装置は、インバータがパルス幅変調制御で制御されており、回転電機に供給される電流の目標値を示す電流目標データが生成されない場合、電流目標データ及び電流データに基づいて上述した信号線及び導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】実施形態に係る第一PDUと、第一PDUの周辺の構成との一例を示す図である。
【
図3】正弦波パルス幅変調制御が実行された場合に実施形態に係るインバータが出力する電圧の波形の一例を示す図である。
【
図4】過変調パルス幅変調制御が実行された場合に実施形態に係るインバータが出力する電圧の波形の一例を示す図である。
【
図5】ワンパルス制御が実行された場合に実施形態に係るインバータが出力する電圧の波形の一例を示す図である。
【
図6】実施形態に係る故障判定装置のソフトウェア構成の一例を示す図である。
【
図7】ワンパルス制御が実行されている場合に実施形態に係る故障判定装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】ワンパルス制御が実行されている場合に実施形態に係る故障判定装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】パルス幅変調制御が実行されている場合に実施形態に係る故障判定装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明に係る故障判定装置、故障判定プログラム及び故障判定方法の実施形態について説明する。
【0018】
<実施形態>
まず、
図1から
図6を参照しながら実施形態に係る車両について説明する。
図1は、実施形態に係る車両の一例を示す図である。
図1に示すように、車両1は、例えば、回転電機ジェネレータ10と、エンジン20と、第一PDU(Power Drive Unit)30と、第二PDU40と、バッテリ50と、駆動輪60Aと、駆動輪60Bと、トランスミッション62と、車軸64と、故障判定装置80とを備える。
【0019】
回転電機ジェネレータ10は、回転電機12、回転角センサ14及びジェネレータ16を備える。
【0020】
回転電機12は、回転子と、固定子とを備え、車両1に動力を供給する電動機として機能する。例えば、回転電機12は、第一PDU30及びジェネレータ16の少なくとも一方から供給される交流電流により駆動する三相同期電動機である。回転電機12が発生させた動力は、トランスミッション62を介して駆動輪60A及び駆動輪60Bが取り付けられている車軸64に伝達される。
【0021】
また、回転電機12は、d軸及びq軸が定義される。d軸は、回転子に設置される永久磁石の界磁方向、すわなち回転子の回転軸に直交し、回転子のS極からN極に向かう方向の軸である。q軸は、d軸を回転子が回転する方向に電気的、磁気的に90度回転させた軸である。つまり、d軸及びq軸は、回転子の同期回転座標の座標軸であり、回転子と共に回転する。回転電機12は、例えば、ベクトル制御で制御される。
【0022】
回転角センサ14は、回転電機12に所定の取付角で取り付けられており、回転電機12が備える回転子の回転角を計測する。ジェネレータ16は、エンジン20が発生させた動力を受けて回転することにより発電する。ジェネレータ16が発電した電力は、第二PDU40を介してバッテリ50に供給される。なお、ジェネレータ16は、省略されてもよい。この場合、ジェネレータ16の代わりに回転電機12が発電してバッテリ50に電力を供給する。
【0023】
エンジン20は、車両1に動力を供給する。エンジン20が発生させた動力は、トランスミッション62を介して車軸64に伝達される。或いは、エンジン20が発生させた動力は、ジェネレータ16に伝達される。
【0024】
次に、
図2を参照しながら実施形態に係る第一PDU及びその周辺の構成について説明する。
図2は、実施形態に係る第一PDUと、第一PDUの周辺の構成との一例を示す図である。
図2に示すように、第一PDU30は、第一電圧センサ32と、昇圧器34と、第二電圧センサ36と、インバータ38と、電流センサ39とを備える。
【0025】
第一電圧センサ32は、バッテリ50と昇圧器34との間に接続され、昇圧器34に入力される直流電力の電圧を計測する。昇圧器34は、当該電圧を増幅させてインバータ38に供給する。第二電圧センサ36は、昇圧器34により電圧が増幅された直流電圧を計測する。インバータ38は、昇圧器34から供給された直流電力を交流電力に変換して回転電機12に供給する。電流センサ39は、回転電機12に供給されるU相、V相及びW相各々の電流を検出する。
【0026】
次に、
図3から
図5を参照しながら実施形態に係るインバータの制御方式について説明する。インバータ38の制御方式としては、例えば、パルス幅変調制御及びワンパルス制御が挙げられる。パルス幅変調制御は、例えば、正弦波パルス幅変調制御、過変調パルス幅変調制御である。正弦波パルス幅変調制御、過変調パルス幅変調制御及びワンパルス制御は、いずれもインバータ38が備えるスイッチング素子の導通状態と非導通状態とを切り替える制御である。
【0027】
図3は、正弦波パルス幅変調制御が実行された場合に実施形態に係るインバータが出力する電圧の波形の一例を示す図である。
図3は、縦軸が電圧を示しており、横軸が時間を示している。
【0028】
正弦波パルス幅変調制御は、電圧パルスのデューティ比を調整することにより、
図3に示した正弦波W1で表される交流電圧と同等の交流電圧を回転電機12に供給する制御方式である。また、正弦波パルス幅変調制御は、回転電機12に供給される交流電流に対するフィードバック制御により交流電圧の振幅及び位相を制御する。さらに、正弦波パルス幅変調制御は、正弦波W1で表される交流電圧の振幅を回転電機12の線間に印加する電圧の振幅以下の状態にしてパルス幅変調を実行することにより、電圧とパルス幅変調制御信号との線形性を維持している。また、正弦波パルス幅変調制御は、当該線形性を維持する制御であるため、インバータ38が備えるスイッチング素子の導通状態と非導通状態とを切り替えるスイッチングを実行する回数が過変調パルス幅変調制御及びワンパルス制御よりも多い。
【0029】
図4は、過変調パルス幅変調制御が実行された場合に実施形態に係るインバータが出力する電圧の波形の一例を示す図である。
図4は、縦軸が電圧を示しており、横軸が時間を示している。
【0030】
過変調パルス幅変調制御は、回転電機12に供給される交流電流に対するフィードバック制御により交流電圧の振幅及び位相を制御する。また、過変調パルス幅変調制御は、
図4に示した正弦波W2で表される交流電圧の振幅が回転電機12の線間に印加する電圧の振幅よりも大きい状態でパルス幅変調を実行することにより、電圧とパルス幅変調信号との非線形性を許容している。これにより、過変調パルス幅変調制御は、擬似的な正弦波である回転電機12の線間電圧を矩形波に近づくように歪ませ、当該線間電圧が擬似的な正弦波である場合よりも電圧利用率を増大させることを可能にしている。
【0031】
図4に示すように、時刻t
1から時刻t
2の非線形期間及び時刻t
3から時刻t
4の非線形期間において、正弦波W2で表される電圧の絶対値は、実際に印加される電圧の絶対値よりも大きい。つまり、これら二つの非線形期間では、回転電機12の線間電圧が正弦波状から矩形波状に近づいており、電圧利用率が増大している。また、過変調パルス幅変調制御は、電圧とパルス幅変調制御信号との線形性を維持しない制御であるため、スイッチングを実行する回数が正弦波パルス幅変調制御よりも少ない。
【0032】
図5は、ワンパルス制御が実行された場合に実施形態に係るインバータが出力する電圧の波形の一例を示す図である。
図5は、縦軸が電圧を示しており、横軸が時間を示している。
【0033】
ワンパルス制御は、一周期ごとにスイッチングを二回実行する。例えば、
図5に示すように、正弦波W3の周期に等しい時刻t
1から時刻t
3の期間において、時刻t
1及び時刻t
2の2つの時点でスイッチングが実行される。これにより、ワンパルス制御は、回転電機12に供給される交流電圧に対するフィードバック制御により交流電圧の振幅及び位相を制御する。また、
図4と
図5とを比較すると、ワンパルス制御は、過変調パルス幅変調制御よりも更に電圧利用率を増大させることを可能にしていることが分かる。さらに、ワンパルス制御は、スイッチングを実行する回数が過変調パルス幅変調制御よりも少ない。
【0034】
なお、インバータ38の制御方式がパルス幅変調制御である場合、回転電機12のトルクを制御する方式として電流ベクトル制御が採用される。電流ベクトル制御が採用されている場合、後述する電流目標データが生成される。一方、インバータ38の制御方式がワンパルス制御である場合、回転電機12のトルクを制御する方式として電圧位相制御が採用される。電圧位相制御が採用される場合、後述する電流目標データが生成されない。
【0035】
次に、
図6を参照しながら実施形態に係る故障判定装置について説明する。
図6は、実施形態に係る故障判定装置のソフトウェア構成の一例を示す図である。
図6に示すように、故障判定装置80は、データ取得部81と、算出部82と、故障判定部83とを備える。
【0036】
故障判定装置80が備える機能の少なくとも一部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがソフトウェアとして実現されている制御プログラムを実行することにより実現される。これらの構成要素の少なくとも一部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0037】
データ取得部81は、インバータ38がワンパルス制御で制御されている場合、回転角データ、電圧位相データ、角速度データ及び直流電圧データを取得する。回転角データは、回転電機12が備える回転子の回転角を示すデータであり、回転角センサ14が回転子の回転角を計測することにより生成される。電圧位相データは、回転電機12に印加される電圧の位相を示すデータである。また、電圧位相データは、回転電機12に印加される電圧の位相が回転電機12に要求されるトルクと相関を有するため、当該トルクと相関を有する位相を示している。角速度データは、回転子の角速度を示すデータであり、回転角センサ14が回転子の角速度を計測することにより生成される。直流電圧データは、回転電機12に電力を供給するインバータ38に供給される直流電圧を示すデータであり、インバータ38に供給される直流電圧を第二電圧センサ36が計測することにより生成される。
【0038】
また、データ取得部81は、インバータ38がパルス幅変調制御で制御されている場合、電流目標データを取得する。電流目標データは、例えば、回転電機12に供給される三相交流の各相の所定の時刻における電流の目標値を示すデータである。
【0039】
また、データ取得部81は、回転電機12に供給される電流を示す電流データを取得する。電流データは、例えば、回転電機12に供給される三相交流の各相の所定の時刻における電流を示すデータである。
【0040】
算出部82は、インバータ38がワンパルス制御で制御されている場合、回転角データ、電圧位相データ、角速度データ及び直流電圧データを使用して回転電機12に供給される電流の期待値を算出し、当該期待値を示す電流期待値データを生成する。例えば、算出部82は、回転電機12に供給される三相交流の各相の所定の時刻における電流の期待値を次のような方法で算出する。
【0041】
まず、算出部82は、回転電機12に印加される電圧のd軸の方向の成分vd及び当該電圧のq軸の方向の成分vqを回転角データにより示される回転子の回転角θ、電圧位相データにより示される電圧の位相δ及び直流電圧データにより示される直流電圧に√6/πを乗算した直流電圧を使用して算出する。
【0042】
次に、算出部82は、回転電機12を流れる電流のd軸の方向の成分の期待値id及び当該電流のq軸の方向の成分の期待値iqをベクトル制御で制御されている電動機について成立する次の式(1)及び式(2)を連立させて解くことにより算出する。式(1)は、固定子の巻線の電気抵抗r、角速度データにより示される角速度ω及び回転電機12のインダクタンスのq軸の方向の成分Lqを含む。式(2)は、固定子の巻線の電気抵抗r、角速度データにより示される角速度ω、回転電機12のインダクタンスのd軸の方向の成分Ld及び固定子を形成している永久磁石又は回転子を形成している永久磁石の界磁磁束量Keを含む。
【0043】
【0044】
【0045】
そして、算出部82は、回転電機12に供給される三相交流の各相の電流の所定の時刻における期待値ixを回転電機12を流れる電流のd軸の方向の成分の期待値id及び当該電流のq軸の方向の成分の期待値iqを使用して算出する。なお、回転電機12に供給される三相交流の各相の電流の期待値ixの添字xは、当該三相交流のU相、V相又はW相を表している。ここでは、算出部82は、U相の電流の所定の時刻における期待値iU、V相の電流の所定の時刻における期待値iV及びW相の電流の所定の時刻における期待値iWを算出する。
【0046】
なお、算出部82は、インバータ38がパルス幅変調制御で制御されている場合、回転電機12に供給される電流の期待値を算出し、当該期待値を示す電流期待値データを生成する処理を実行しない。
【0047】
故障判定部83は、インバータ38がワンパルス制御で制御されている場合、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを電流期待値データ及び電流データに基づいて判定する。例えば、故障判定部83は、次のような方法で当該判定を実行する。
【0048】
まず、故障判定部83は、U相、V相及びW相各々について電流期待値データにより示されている電流の所定の時刻における期待値と、電流データにより示されている所定の時刻における電流との差を算出する。次に、故障判定部83は、これら三つの差のうち絶対値が最大となる差を与える相をU相、V相及びW相の中から選択する。
【0049】
そして、故障判定部83は、U相、V相及びW相の中で最大である差が所定の閾値を超えている場合、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障していると判定する。一方、故障判定部83は、当該差が所定の閾値以下である場合、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線が故障していないと判定する。U相の電流、V相の電流及びW相の電流の和が常にゼロであるため、故障判定部83は、U相、V相及びW相の中で最大である差に基づいて上述した判定を実行することにより上述した信号線及び導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定し得る。
【0050】
また、故障判定部83は、インバータ38がパルス幅変調制御で制御されている場合、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを電流目標データ及び電流データに基づいて判定する。具体的には、故障判定部83は、次のような方法で当該判定を実行する。
【0051】
まず、故障判定部83は、電流目標データにより示されている電流の目標値と、電流データにより示されている電流との差を算出する。そして、故障判定部83は、当該差が所定の閾値を超えている場合、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障していると判定する。一方、故障判定部83は、当該差が所定の閾値以下である場合、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線が故障していないと判定する。
【0052】
次に、
図7及び
図8を参照しながら、ワンパルス制御が実行されている場合に実施形態に係る故障判定装置80が実行する処理について説明する。
図7及び
図8は、ワンパルス制御が実行されている場合に実施形態に係る故障判定装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図7に示したフローチャートと、
図8に示したフローチャートとは、結合子Aにより結合されている。また、
図7及び
図8に示した処理は、ワンパルス制御と同時に実行される電圧位相制御の位相に関係無く実行され得る。
【0053】
ステップS101において、データ取得部81は、回転電機12が備える回転子の回転角を示す回転角データを取得する。
【0054】
ステップS102において、データ取得部81は、回転電機12に印加される電圧の位相を示す電圧位相データを取得する。
【0055】
ステップS103において、データ取得部81は、回転子の角速度を示す角速度データを取得する。
【0056】
ステップS104において、データ取得部81は、回転電機12に電力を供給するインバータ38に供給される直流電圧を示す直流電圧データを取得する。
【0057】
ステップS105において、算出部82は、回転角データ、電圧位相データ、角速度データ及び直流電圧データを使用して回転電機12に供給される電流の期待値を算出し、当該期待値を示す電流期待値データを生成する。
【0058】
ステップS106において、データ取得部81は、回転電機12に供給される電流を示す電流データを取得する。
【0059】
ステップS107において、故障判定部83は、電流期待値データにより示されている電流の期待値と、電流データにより示されている電流との差を算出する。
【0060】
ステップS108において、故障判定部83は、ステップS107で算出された差が所定の閾値を超えているか否かを判定する。故障判定部83は、ステップS107で算出された差が所定の閾値を超えていると判定した場合(ステップS108:YES)、処理をステップS109に進める。一方、故障判定部83は、ステップS107で算出された差が所定の閾値以下であると判定した場合(ステップS108:NO)、処理をステップS110に進める。
【0061】
ステップS109において、故障判定部83は、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障していると判定する。
【0062】
ステップS110において、故障判定部83は、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線が故障していないと判定する。
【0063】
次に、
図9を参照しながら、パルス幅変調制御が実行されている場合に実施形態に係る故障判定装置80が実行する処理について説明する。
図9は、パルス幅変調制御が実行されている場合に実施形態に係る故障判定装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0064】
ステップS201において、データ取得部81は、回転電機12に供給される電流の目標値を示す電流目標データを取得する。
【0065】
ステップS202において、データ取得部81は、回転電機12に供給される電流を示す電流データを取得する。
【0066】
ステップS203において、故障判定部83は、電流目標データにより示されている電流の目標値と、電流データにより示されている電流との差を算出する。
【0067】
ステップS204において、故障判定部83は、ステップS203で算出された差が所定の閾値を超えているか否かを判定する。故障判定部83は、ステップS203で算出された差が所定の閾値を超えていると判定した場合(ステップS203:YES)、処理をステップS205に進める。一方、故障判定部83は、ステップS203で算出された差が所定の閾値以下であると判定した場合(ステップS203:NO)、処理をステップS206に進める。
【0068】
ステップS205において、故障判定部83は、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障していると判定する。
【0069】
ステップS206において、故障判定部83は、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線が故障していないと判定する。
【0070】
以上、実施形態に係る故障判定装置80について説明した。故障判定装置80は、データ取得部81と、算出部82と、故障判定部83とを備える。データ取得部81は、回転角データ、電圧位相データ、角速度データ及び電流データを取得する。算出部82は、回転角データ、電圧位相データ、角速度データ及び直流電圧データを使用して回転電機12に供給される電流の期待値を算出し、期待値を示す電流期待値データを生成する。故障判定部83は、インバータ38がワンパルス制御で制御されている場合、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機12に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを電流期待値データ及び電流データに基づいて判定する。
【0071】
これにより、故障判定装置80は、インバータ38がワンパルス制御で制御されており、電流目標データが生成されない場合でも、インバータ38が備えるスイッチング素子に接続されている信号線及び回転電機に電力を供給する導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定することができる。したがって、故障判定装置80は、このような判定を実行する機会を減少させることが無い。
【0072】
また、故障判定装置80は、インバータ38がパルス幅変調制御で制御されている場合、信号線及び導線の少なくとも一方が故障しているか否かを電流目標データ及び電流データに基づいて判定する。
【0073】
これにより、故障判定装置80は、インバータ38がパルス幅変調制御で制御されており、回転電機12に供給される電流の目標値を示す電流目標データが生成されない場合、電流目標データ及び電流データに基づいて上述した信号線及び導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定することができる。
【0074】
なお、上述した実施形態では、回転電機12が車両1に搭載されている場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。回転電機12は、車両1に限らず、航空機等の移動体に搭載され得る。
【0075】
また、上述した実施形態では、故障判定部83が、所定の時刻における電流の期待値と、所定の時刻における電流との差が所定の閾値を超えているか否かを判定することにより上述した信号線及び導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
【0076】
故障判定部83は、例えば、所定の期間における電流の統計量の期待値と、所定の期間における電流の統計量との差が所定の閾値を超えているか否かを判定することにより上述した信号線及び導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定してもよい。
【0077】
また、上述した実施形態では、故障判定部83が、所定の時刻における電流の目標値と、所定の時刻における電流との差が所定の閾値を超えているか否かを判定することにより上述した信号線及び導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
【0078】
故障判定部83は、例えば、所定の期間における電流の目標値と、所定の期間における電流の統計量との差が所定の閾値を超えているか否かを判定することにより上述した信号線及び導線の少なくとも一方が故障しているか否かを判定してもよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明した。ただし、故障判定装置、故障判定プログラム及び故障判定方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、置換、組み合わせ及び設計変更の少なくとも一つを加えることができる。
【0080】
また、上述した本発明の実施形態の効果は、一例として説明した効果である。したがって、本発明の実施形態は、上述した効果以外にも上述した実施形態の記載から当業者が認識し得る他の効果も奏し得る。
【符号の説明】
【0081】
80…故障判定装置、81…データ取得部、82…算出部、83…故障判定部