(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】筐体および電気機器
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241206BHJP
H05K 5/02 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02M7/48 F
H05K5/02 L
(21)【出願番号】P 2021064147
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箱田 智史
(72)【発明者】
【氏名】阪田 一樹
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186502(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150828(WO,A1)
【文献】特開平10-307588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H05K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス幅変調制御を行う電気回路部を内部に保持するための筐体であって、
本体部と、
前記本体部の表面に形成された複数の凸部とを備え、
前記複数の凸部において隣接する1組の凸部の間隔は、前記パルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波の波長の0.5倍未満であ
り、
前記間隔は、前記本体部の剛性に応じて局所的に変わる、筐体。
【請求項2】
パルス幅変調制御を行う電気回路部を内部に保持するための筐体であって、
本体部と、
前記本体部の表面に形成された複数の凸部とを備え、
前記複数の凸部において隣接する1組の凸部の間隔は、前記パルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波の波長の0.5倍未満であり、
前記複数の凸部は、マトリックス状に整列して配置され、
一の方向に隣接する凸部の間隔と、前記一の方向に直交する方向に隣接する凸部の間隔とが異なる、筐体。
【請求項3】
パルス幅変調制御を行う電気回路部を内部に保持するための筐体であって、
本体部と、
前記本体部の表面に形成された複数の凸部とを備え、
前記複数の凸部において隣接する1組の凸部の間隔は、前記パルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波の波長の0.5倍未満であり、
前記複数の凸部は、マトリックス状に整列して配置され、
前記本体部の表面には、複数の前記凸部が分布する第一部分と、前記第一部分での前記凸部の分布より疎に複数の前記凸部が分布する第二部分とが形成される、筐体。
【請求項4】
パルス幅変調制御を行う電気回路部を内部に保持するための筐体であって、
本体部と、
前記本体部の表面に形成された複数の凸部とを備え、
前記複数の凸部において隣接する1組の凸部の間隔は、前記パルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波の波長の0.5倍未満であり、
前記複数の凸部は、マトリックス状に整列して配置され、
前記複数の凸部は、前記表面からの高さが第1高さである第1凸部と、
前記表面からの高さが、前記第1高さと異なる第2高さである第2凸部とを含む
、筐体。
【請求項5】
パルス幅変調制御を行う電気回路部を内部に保持するための筐体であって、
本体部と、
前記本体部の表面に形成された複数の凸部とを備え、
前記複数の凸部において隣接する1組の凸部の間隔は、前記パルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波の波長の0.5倍未満であり、
前記複数の凸部において、隣接する1組の内の第1組における前記凸部の前記間隔は、隣接する1組の内の第2組における前記凸部の前記間隔と異なる
、筐体。
【請求項6】
前記複数の凸部の前記間隔は、前記周波数が10kHzの音波の波長の0.5倍以上である、請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の筐体。
【請求項7】
前記凸部の前記表面からの高さは、前記本体部の厚さ以上である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の筐体。
【請求項8】
前記複数の凸部のうちの少なくとも1つの凸部の、前記表面からの高さは、前記筐体の厚さ以上である、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の筐体。
【請求項9】
前記複数の凸部は前記本体部と一体である、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の筐体。
【請求項10】
前記複数の凸部は、前記本体部と別体である、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の筐体。
【請求項11】
前記複数の凸部において隣接する1組の凸部の前記間隔は全て同じである、請求項
2に記載の筐体。
【請求項12】
前記複数の凸部において前記一の方向と直交する前記方向に隣接する1組の凸部の前記間隔は全て同じである、請求項11に記載の筐体。
【請求項13】
請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の筐体と、
前記筐体の内部に配置され、前記パルス幅変調制御を行う前記電気回路部とを備える、電気機器。
【請求項14】
前記電気回路部は、インバータ、コンバータ、コンデンサからなる群から選択されるいずれか1つを含む、請求項
13に記載の電気機器。
【請求項15】
前記パルス幅変調制御を行う
前記電気回路部を内部に保持する
、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、筐体および電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品が実装された基板が筐体内部に配置された電気機器が知られている(たとえば、特開2005-304162号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電気機器では、筐体の内面に発泡樹脂からなる吸音材などを配置し、内部の電子部品の動作音が外部に漏れることを抑制している。しかし、上記電気機器では、電子部品からの振動が筐体に伝播し、その結果筐体自体から発生する騒音については十分に抑制できないという課題があった。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、筐体自体から発生する騒音を抑制する事が可能な筐体および電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る筐体は、パルス幅変調制御を行う電気回路部を内部に保持するための筐体であって、本体部と、複数の凸部とを備える。複数の凸部は、本体部の表面に形成されている。複数の凸部において隣接する1組の凸部の間隔は、パルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波の波長の0.5倍未満である。
【0007】
本開示に係る電気機器は、上記筐体と、電気回路部とを備える。電気回路部は、筐体の内部に配置され、パルス幅変調制御を行う。
【0008】
本開示に係る筐体は、パルス幅変調制御を行う電気回路部を内部に保持する筐体であって、本体部と、複数の凸部とを備える。複数の凸部は、本体部の表面に形成されている。複数の凸部において隣接する1組の凸部の間隔は、周波数が10kHzである音波の波長の0.5倍未満である。
【発明の効果】
【0009】
上記によれば、筐体自体から発生する騒音を抑制する事が可能な筐体および電気機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る電気機器の斜視模式図である。
【
図2】
図1の線分II-IIにおける断面模式図である。
【
図3】
図1に示した電気機器を構成する筐体の斜視模式図である。
【
図4】
図3に示した筐体の裏面側を示す斜視模式図である。
【
図5】
図1に示した電気機器を構成する筐体の構成を説明するための模式図である。
【
図6】
図1に示した電気機器を構成する筐体の振動状体を説明するための模式図である。
【
図7】
図1に示した電気機器を構成する筐体の振動状体を説明するための模式図である。
【
図8】
図1に示した電気機器を構成する筐体における凸部の構成を説明するための断面模式図である。
【
図9】
図1に示した電気機器を構成する筐体における凸部の構成を説明するための断面模式図である。
【
図10】
図1に示した電気機器を構成する筐体の振動状体を説明するための模式図である。
【
図11】
図1に示した電気機器を構成する筐体の凸部の構成を説明するための斜視模式図である。
【
図12】
図1に示した電気機器を構成する筐体の凸部の変形例を説明するための斜視模式図である。
【
図13】
図1に示した電気機器を構成する筐体の凸部の変形例を説明するための斜視模式図である。
【
図14】
図1に示した電気機器を構成する筐体の凸部の変形例を説明するための斜視模式図である。
【
図15】実施の形態2に係る電気機器の斜視模式図である。
【
図16】
図15に示した電気機器の筐体の構成を説明するための模式図である。
【
図17】
図15に示した電気機器の筐体の構成を説明するための模式図である。
【
図18】実施の形態3に係る電気機器の斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態の詳細について説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0012】
実施の形態1.
<電気機器および筐体の構成>
図1は、実施の形態1に係る電気機器の斜視模式図である。
図2は、
図1の線分II-IIにおける断面模式図である。
図3は、
図1に示した電気機器を構成する筐体の斜視模式図である。
図4は、
図3に示した筐体の裏面側を示す斜視模式図である。
図5は、
図1に示した電気機器を構成する筐体の構成を説明するための模式図である。
図6、
図7および
図10は、
図1に示した電気機器を構成する筐体の振動状体を説明するための模式図である。
図8および
図9は、
図1に示した電気機器を構成する筐体における凸部の構成を説明するための断面模式図である。
図11は、
図1に示した電気機器を構成する筐体の凸部の構成を説明するための斜視模式図である。
【0013】
図1から
図5に示されるように、電気機器1は、筐体50と、電気回路部60とを備える。筐体50は、上部ケースカバー2と、下部ケースカバー3とを含む。上部ケースカバー2は箱型形状である。下部ケースカバー3は平板形状である。上部ケースカバー2は、開口部を囲むように形成されたフランジ部4を有する。フランジ部4には複数のボルト穴5が形成されている。下部ケースカバー3の外周部にもボルト穴(図示せず)が形成されている。上部ケースカバー2のフランジ部4のボルト穴5と下部ケースカバー3の外周部のボルト穴とが重なるように、上部ケースカバー2と下部ケースカバー3とは重ねて配置される。上部ケースカバー2と下部ケースカバー3とは、ボルト穴にボルトを通して締結することで、互いに固定される。上部ケースカバー2に対する下部ケースカバー3の位置は、たとえばフランジ部4に形成されている位置決め穴6にノックピンを通すことで精密に位置決めされる。下部ケースカバー3の外周部において位置決め穴6と重なる位置には、ノックピンを挿入するための凹部が形成されている。
【0014】
上部ケースカバー2は、本体部201と、複数の凸部202とを有する。複数の凸部202は、本体部201の表面13に形成されている。複数の凸部202は、筐体50からの放射音を低減するために設けられている。複数の凸部202において隣接する1組の凸部202の間隔P1、P2は、パルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波の波長の0.5倍未満である。なお筐体50を構成する上部ケースカバー2の詳細については後述する。
【0015】
図2に示されるように、筐体50の内部には電気回路部60が収容されている。電気回路部60はパルス幅変調制御を行う。電気回路部60は、インバータ8、コンバータ9、ウォータジャケット10、平滑コンデンサであるコンデンサ11を主に含む。筐体50の内部において、電気回路部60では、下部ケースカバー3側からコンバータ9,ウォータジャケット10、インバータ8、コンデンサ11の順にこれらの部品が積層されている。インバータ8は、たとえば電動走行用モータあるいは発電用モータを制御する。コンバータ9は、電源電圧を昇圧または降圧する。ウォータジャケット10は、インバータ8およびコンバータ9といったパワーモジュールを構成する部品を冷却する。ウォータジャケット10は水などの冷却媒体を流通させる冷媒流路を含む。ウォータジャケット10はたとえば平板状の形状を有する。コンデンサ11は、電圧の脈動成分を平滑化する。
【0016】
インバータ8およびコンバータ9は発熱することから放熱が必要である。インバータ8およびコンバータ9は、
図2に示されるようにウォータジャケット10を上下方向から挟むよう配置されている。インバータ8およびコンバータ9はウォータジャケット10に接触した状態となっている。ウォータジャケット10は下部ケースカバー3に設置したボス12の上に固定されている。ウォータジャケット10の冷媒流路には筐体50の外部から導入管が接続されている。当該冷媒流路には、導入管を介して冷却媒体が循環供給される。
【0017】
図3および
図4に示されるように、上部ケースカバー2における天面の表面13に複数の凸部202が形成されている。上部ケースカバー2はダイキャスト工法により製作される。上部ケースカバー2の表面13に整列して配置された複数個の凸部202は、上部ケースカバー2の本体部201と一体成型される。凸部202はたとえば四角柱状の形状を有する。なお、本実施の形態では上部ケースカバー2の外周側の表面13に凸部202を設置しているが、背面である内周面14に凸部202を設置しても同様の効果を得ることができる。
【0018】
ここで、インバータ8の電磁騒音として主要な周波数成分であるキャリア周波数をf1とする。キャリア周波数f1の電磁騒音で加振された筐体50から放射される音(放射音)の波長λ1は、空気を媒質とする音速v1を用いてλ1=v1/f1と表される。このとき、隣接する凸部202同士の長手方向の間隔をP1、短手方向の間隔をP2とする。本実施の形態に係る筐体50では、間隔P1と間隔P2とが、放射音の波長λ1の0.5倍より短くなるように(P1、P2<0.5×λ1)ように複数の凸部202が配置されている。なお、上述した間隔P1、P2は、隣接する凸部202の平面視(表面13に対して垂直な方向から見た場合)での中央部間の距離を意味する。
【0019】
複数の凸部202の間隔が短いほど、高い空間分解能で筐体50(上部ケースカバー2)の質量分布を変更することができる。この結果、筐体50の振動形状の設計自由度が向上する。筐体50において、少なくとも放射音の波長λ1の1/2より短い間隔で凸部202を配置すれば、各凸部202の高さ(表面13からの突出高さ)を制御因子として、上部ケースカバー2の天面(表面13)の曲げ波の波長が放射音の波長より短くなるように筐体50を設計できる。なお、本実施の形態では、上部ケースカバー2の表面13の長手方向(
図5のX軸方向)に隣接する凸部202の間隔P1と、短手方向(
図5のY軸方向)に隣接する凸部202の間隔P2とが等しい。つまり、
図5に示されるように、すべての凸部202が等間隔で配置される。複数の凸部202は上部ケースカバー2の表面13においてマトリックス状に配置されている。複数の凸部202における隣接する1組の凸部202の間の間隔P1,P2は、すべて同じであってもよいし、局所的に異なっていてもよい。
【0020】
ここで、キャリア周波数としては数kHzから10数kHzまでの周波数範囲が良く用いられている。なお、インバータを搭載する製品仕様によってそのキャリア周波数は様々である。したがって、あらゆるキャリア周波数成分の波長に対応できるようにするためには、考慮すべきキャリア周波数の範囲の最高値f1maxに対して凸部202の間隔P1、P2を設定すればよい。キャリア周波数が最大のとき、対応する放射音の波長は最小となる。つまり、このときの波長をλ1min(=v1/f1max)とすると、λ1minの1/2より短い間隔(P<0.5×λ1min)となるように凸部202を配置すればよい。
【0021】
キャリア周波数の最高値f1maxは、人の可聴域の上限周波数10kHzに設定することが好ましい。しかし、この場合凸部202の間隔の減少にともなって筐体50の表面13全体を覆う凸部202の数が多くなる。このように凸部202の数が多くなると、結果的に筐体50の質量が増加する。そのため、複数の凸部202の間隔P1、P2を、10kHz成分に対応する放射音の波長よりも短い間隔にすることは望ましくない。よって、キャリア周波数が限定されているインバータ8を含む電気回路部60においては、そのキャリア周波数を基に間隔Pを設定する。また、例えば鉄道用モータに用いられているような可変電圧可変周波数インバータ(VVVF)で、キャリア周波数を変調するような場合はキャリア周波数の可変領域の最大値を基に間隔Pを設定する。
【0022】
図6は筐体50における複数の凸部202の高さを一律同じ高さに設定したときの表面13を含む本体部201としての平板の振動形状を示している。
図6では、表面13の一部を示す平面模式図の下側に、当該平面模式図の線分A-A断面における振動形状を説明するための断面模式図を示している。また、
図6では、表面13の一部を示す当該平面模式図の左側に、平面模式図の線分B-B断面における振動形状を説明するための断面模式図を示している。
図6の平面模式図では、表面13を含む平板の振動モードの節を実細線で示している。また、実細線で囲まれた小部分15について、平板の中立位置Cに対する振動変位の位相を+および-の記号で示している。
【0023】
ここで、振動モードとは、構造物における振動の形態すなわち振動振幅の分布を意味する。線分A-A断面は表面13を含む平板の長手方向の断面図を示している。線分B-B断面は上記平板の短手方向の断面図を示している。線分A-A断面には、平板の長手方向での曲げ波の波長λ2Xが示されている。線分B-B断面には、平板の短手方向での曲げ波の波長λ2Yが示されている。上記波長λ2Xおよび波長λ2Yの両方が、平板から放射される音波の波長λ1より長い場合、平板における表面13のほぼ全面から音波が放射され、騒音として認識される。
【0024】
図7は、複数の凸部202の高さを変えることで、表面13を含む本体部201としての平板の振動形状を変更した場合を示している。
図7は、基本的に上述した
図6と同様に、表面13の一部を示す平面模式図、線分A-A断面における断面模式図、および線分B-B断面における断面模式図を示している。平板の長手方向での曲げ波の波長λ2Xおよび短手方向での曲げ波の波長λ2Yが、平板から放射される音波の波長λ1より短い場合、とき、実細線で囲まれた小部分15から振動で押し出される媒質が隣接する小部分16に流れ込む。このとき、互いに隣接する正負の呼吸球が互いに打ち消し合うため、平板の表面13から放射される音は小さくなる。すなわち、電気回路部60を収納する筐体50からの騒音放射、特に筐体50自身の振動により発生する騒音を低減することができる。
【0025】
表面13を含む平板の振動形状は、当該平板の質量マトリクス、剛性マトリクス、および外力から構成される運動方程式から求めることができる。つまり、平板の振動形状は質量マトリクス、すなわち平板における質量の分布に依存する。本実施の形態では、各々の凸部202の高さを変更したり、当該凸部202の配置を変更することで、平板の質量マトリクスを変更することができる。この結果、平板の振動モードを任意の形状に設計できる。
図7に示すように、平板の長手方向での曲げ波の波長λ2Xおよび平板の短手方向での曲げ波の波長λ2Yが、平板から放射される音波の波長λ1より短くなるように、凸部202の高さが設定される。
【0026】
凸部202の高さは、筐体50を構成する平板から放射される放射音の波長に応じて異なる値に設定され得る。凸部202の高さの変化パターンは、筐体50における凸部202の位置によっても異なる。つまり、平板から放射される放射音の波長の変動周期、および筐体50における凸部202の位置によって、凸部202の高さは異なる変化パタ―ンを有する。
【0027】
ここで、凸部202の高さhが筐体50の本体部201の厚さtよりはるかに小さい場合、凸部202による質量マトリクスへの寄与が小さくなる。この場合、本体部201の振動形状は凸部202の有無であまり変わらない。一方、
図8に示されるように、凸部202の高さhが本体部201の厚さtと同程度または当該厚さt以上である場合、凸部202による質量マトリクスへの寄与は大きくなる。この場合、本体部201の振動形状は凸部202の有無で大きく変化する。したがって、各々の凸部202の高さhは筐体50の本体部201の厚さt以上とすることが好ましい。たとえば、電気機器1の要求仕様により、筐体50の質量および外形寸法に上限がある場合が考えられる。このような制約条件を満たしつつ、筐体50の表面13のできる限り広い範囲で、波長λ2Xおよび波長λ2Yが、筐体50から放射される音波の波長λ1より短くなるように、凸部202の高さを設定することが好ましい。
【0028】
なお、筐体50における板厚分布を設計変数として、波長λ2Xおよび波長λ2Yが、筐体50から放射される音波の波長λ1より短くなるような筐体50の形状を導出することも考えられる。この場合、筐体50は内部に収納する電気回路部60の構成部品の配置にフィットする形状にしつつ、電気回路部60を保護するのに十分な強度(板厚)を確保する必要があるといった追加の制約条件がある。このために、上記のような計算は煩雑となり、計算コストが増大する。したがって、本実施の形態に示すように、本体部201についてはある程度一定の厚さとする一方、複数の凸部202を本体部201の表面に設置したほうが、筐体50の原形を保持しつつ、筐体50の振動形状を放射音が出にくい形状に変更でき、結果的に計算コストの点で有利となる。また、筐体50の本体部201の形状を従来の設計から変更せずに維持しておくことで、従来の筐体50の設計を他機種に流用しつつ、電気回路部60におけるキャリア周波数に応じて筐体50に設置する凸部202の形状または配置を変えることができる。この場合、様々な構成の電気機器について、筐体50の設計を容易化でき、騒音対策を講じることができる。
【0029】
また、
図9に示すように、筐体50の本体部201には、高さの異なる凸部202を配置してもよい。すなわち、筐体50の本体部201には、第1凸部202aおよび第2凸部202bが形成されている。第1凸部202aは、表面13からの高さが第1高さh1である。第2凸部202bは、表面13からの高さが、第1高さh1と異なる第2高さh2である。このように、局所的に高さの異なる凸部202を配置することで、筐体50における振動形状の調整を容易に行うことができる。
【0030】
図10は各々の凸部202の高さを最適化した後の表面13を含む本体部201としての平板の振動形状を示している。
図10は、基本的に上述した
図6と同様に、表面13の一部を示す平面模式図、線分A-A断面における断面模式図、および線分B-B断面における断面模式図を示している。
図10では、
図7に示す構成と異なり、平板の長手方向の曲げ波の波長λ2Xが平板から放射される音波の波長λ1より短く、平板の短手方向の曲げ波の波長λ2Yが当該音波の波長λ1より長くなっている。このような場合、小部分15の呼吸球と短手方向に隣接する小部分18の呼吸球とで、ほとんど打ち消しが行われない。一方、小部分15の呼吸球と長手方向に隣接する小部分17の呼吸球とは、互いに打ち消し合う。したがって、
図10のような構成であっても、筐体50から放射される音を小さくすることができる。
【0031】
ここで、筐体50の内部に収納する電気回路部60を構成するインバータ8などの部品の配置に起因して、筐体50の形状が複雑になる場合がある。このような筐体50での振動形状は非対称かつ歪んだ形状となる。したがって、複数の凸部202の高さhを変更するだけで、
図7に示すように筐体50の振動形状を変更することが難しい場合がある。このような場合、
図10に示されるように、筐体50を構成する平板の1方向に対してのみ、曲げ波の波長λ2Xが音波の波長λ1より短くなるように凸部202の高さhを変更してもよい。あるいは、筐体50を構成する平板の一部に対して、曲げ波の波長が音波の波長λ1より短くなるように、凸部202の高さを変更してもよい。この場合でも、筐体50からの放射音の低減効果を見込むことができる。
【0032】
図11は、筐体50における上部ケースカバー2に設置した凸部202を拡大して示している。本実施の形態では、上述のように凸部202の形状は四角柱状の形状としている。凸部202の高さhを変えることで凸部202の質量が変わるため、凸部202を設置している筐体50の質量分布が変化する。本実施の形態では、ダイキャスト工法により筐体50の上部ケースカバー2と凸部202とは金型を用いて一体成型されている。このため、凸部202に抜き勾配θ1を持たせることが製造上好ましい。上部ケースカバー2と凸部202とを一体成型することにより、生産性を向上させて低コストで筐体50を製造できる。
【0033】
<作用効果>
上記筐体50は、パルス幅変調制御を行う電気回路部60を内部に保持するための筐体50であって、本体部201と、複数の凸部202とを備える。複数の凸部202は、本体部201の表面に形成されている。複数の凸部202において隣接する1組の凸部202の間隔P1、P2は、パルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波の波長λ1の0.5倍未満である。
【0034】
ここで、筐体50の振動形状は、筐体50の質量マトリックス、剛性マトリックスおよび外力から構成される運動方程式から求めることができる。つまり、筐体50の振動形状は筐体50における質量の分布に依存する。上記のような構成の筐体50では、複数の凸部202の形状および/または材質を調整することで、筐体50における質量マトリックスを適宜調整できる。上記のように筐体50では、複数の凸部202の間隔P1、P2を設定することで、筐体50の曲げ波の波長を、キャリア周波数と同じ周波数を有する音波(キャリア周波数成分の放射音)の波長より短い波長となるように制御可能である。つまり、筐体50における曲げ波の波長λ2が、電気回路部60から加えられる振動による音波(キャリア周波数成分の放射音)の波長λ1より短くなるように、筐体50の振動形状を設定できる。この結果、筐体50の振動時、筐体50において隣接する正負の振動面で音の打ち消しが生じる。そのため、筐体50からの音響放射効率が低下するので、筐体50自体の振動に起因して当該筐体50から放射される音を低減できる。
【0035】
上述した筐体50を備える電気機器1の用途としては、環境に配慮した自動車として注目を集めているハイブリッド車および電気自動車が挙げられる。ハイブリッド車および電気自動車は、モータの駆動制御を行うために上記電気機器1の一例であるパワーユニットを搭載している。一般的に自動車、ファクトリーオートメーション、鉄道車両などに用いられるモータの制御においては、パルス幅変調方式(PWM)が採用されている。パルス幅変調方式のインバータでモータを制御する場合、電気機器からの出力波形にパルス幅変調方式の制御周波数であるキャリア周波数成分が含まれる。キャリア周波数としては数kHzから10数kHzが良く用いられている。上記電気機器では、このようなキャリア周波数成分による電磁騒音が問題となりやすい。そこで、上記のような構成の筐体50を備える電気機器1を適用すれば、当該電磁騒音を効果的に抑制できる。
【0036】
上記筐体50において、複数の凸部202の間隔P1、P2は、周波数が10kHzの音波の波長の0.5倍以上としてもよい。
【0037】
ここで、人の可聴域の上限周波数は10kHz程度である。そのため、筐体50の複数の凸部202の間隔P1、P2の下限値を、周波数が10kHzの音波の波長の0.5倍とすることで、人の可聴域の音(周波数10kHzまでの音)について、筐体50からの放射を抑制できる。この結果、実質的に人が知覚できる音が筐体50から放射されることを抑制できるので、十分な効果を得る事ができる。
【0038】
なお、複数の凸部202の間隔P1、P2を、10kHzを超える周波数の音波の波長の0.5倍とする(間隔P1、P2をより狭くする)ことも技術的には可能であるが、当該間隔P1、P2が狭くなることで複数の凸部202の数が増加する。この場合、筐体50の質量が増加してしまう。そこで、上記のように複数の凸部202の間隔P1、P2の下限を設定することで、筐体50の質量が過剰に増加することを抑制できる。
【0039】
上記筐体50において、複数の凸部202は、第1凸部202aと、第2凸部202bとを含んでもよい。
図9に示されるように、第1凸部202aは、表面13からの高さが第1高さh1であってもよい。第2凸部202bは、表面13からの高さが、第1高さh1と異なる第2高さh2であってもよい。
【0040】
この場合、異なる高さを有する複数の凸部202を形成することで、筐体50における質量マトリックスの調整に関する自由度を大きくできる。
【0041】
図8に示されるように、上記筐体50において、複数の凸部202のうちの少なくとも1つの凸部202の、表面13からの高さhは、筐体50の厚さt以上であってもよい。
【0042】
この場合、筐体50の本体部201の質量に対する複数の凸部202の質量の割合を十分大きくできる。このため、複数の凸部202の配置やサイズを調整することで、筐体50における質量マトリックスを容易に調整できる。
【0043】
上記筐体50において、複数の凸部202は本体部201と一体であってもよい。この場合、本体部201と複数の凸部202とが別体である場合より、筐体50の製造を容易に行うことができる。
【0044】
上記筐体50では、複数の凸部202において隣接する1組の凸部202の間隔P1、P2は全て同じであってもよい。この場合、筐体50の全体においてほぼ均一に音の低減効果を得ることができる。
【0045】
本開示に係る電気機器1は、上記筐体50と、電気回路部60とを備える。電気回路部60は、筐体50の内部に配置され、パルス幅変調制御を行う。
【0046】
このようにすれば、電気回路部60のパルス幅変調制御におけるキャリア周波数と同じ周波数を有する音波が筐体50から騒音として放射されることを抑制できる。
【0047】
上記電気機器1において、電気回路部60は、インバータ8、コンバータ9、コンデンサ11からなる群から選択されるいずれか1つを含んでもよい。
【0048】
ここで、上述したインバータ8などを含む電気回路部60は、たとえば電気自動車またはハイブリッド車のモータの駆動制御に適用される場合がある。このような用途では、キャリア周波数に起因する騒音が問題となりやすい。そのため、本実施形態に係る筐体50を備える電気機器1は当該騒音を抑制できるので、特に上述した用途に有効である。
【0049】
本開示に係る筐体50は、パルス幅変調制御を行う電気回路部60を内部に保持する筐体50であって、本体部201と、複数の凸部202とを備える。複数の凸部202は、本体部201の表面に形成されている。複数の凸部202において隣接する1組の凸部202の間隔P1、P2は、周波数が10kHzである音波の波長の0.5倍未満である。
【0050】
このようにすれば、人が実質的に知覚できる周波数帯の全体について、筐体50からの放射を抑制できる。さらに、人の可聴域の上限周波数(10kHz)を超える範囲の音についても、筐体50からの放射を抑制できる。
【0051】
<変形例>
図12から
図14は、
図1に示した電気機器1を構成する筐体50の凸部202の変形例を説明するための斜視模式図である。
図12から
図14に示すように、凸部202の形状は任意の形状を採用できる。具体的には、
図12に示すように、凸部202の形状を円柱状とすることができる。また、
図13に示すように、凸部202の形状を円錐形状とすることができる。また、
図14に示すように、凸部202の形状を半球状とすることができる。なお、凸部202の形状としては、円筒状、角錐状、多角柱状など、他の任意の形状とすることができる。この場合でも、
図1から
図11に示した電気機器1と同様の効果を得ることができる。
【0052】
実施の形態2.
<電気機器および筐体の構成>
図15は、実施の形態2に係る電気機器1の斜視模式図である。
図16および
図17は、
図15に示した電気機器1の筐体50の構成を説明するための模式図である。
図15から
図17に示した電気機器1は、基本的には
図1から
図5に示した電気機器1と同様の構成を備えるが、筐体50の構成が
図1から
図5に示した電気機器1と異なっている。具体的には、本実施の形態に係る電気機器1の筐体50では、上部ケースカバー2の本体部201の表面13(天面)に、凸部202を固定するための穴20が複数形成されている。つまり、上部ケースカバー2において本体部201と複数の凸部202とは別体である。穴20はたとえばネジ穴である。なお、穴20はボルト通し穴であってもよい。当該穴20の構成は筐体50の仕様に応じて選択できる。
【0053】
図17に示されるように、凸部202は付加質量となる突出部21と、挿入部22とを含む。挿入部22は、穴20に挿入・固定される。挿入部22はたとえば雄ネジである。挿入部22が穴20に挿入・固定されることにより、凸部202が本体部201に取り付けられる。
【0054】
図15から
図17に示されるように、本実施の形態における筐体50の上部ケースカバー2は、本体部201に別部品である凸部202を固定している。凸部202については、突出部21のサイズ(たとえば
図8に示す凸部202の高さh)が異なる複数の種類を準備しておくことが好ましい。
【0055】
ここで、本体部201を共通部品とし、筐体50の内部に収納する電気回路部60の構成を変更して複数種類の製品を実現する場合を考える。この場合、電気回路部60のインバータ8におけるキャリア周波数に応じて、上部ケースカバー2の本体部201に配置する複数の凸部202の質量分布を変更する必要がある。このような場合に、実施の形態1に係る電気機器1の筐体50のように、本体部201と凸部202とが一体成型されていると、製品毎に本体部201と凸部202とが一体となった上部ケースカバー2用に金型を準備する必要がある。この結果、電気機器1を製造するためのコストが増大する。
【0056】
しかし、本実施の形態に係る電気機器1では、電気回路部60のキャリア周波数に応じて、本体部201に固定する凸部202のサイズおよび当該凸部202の本体部201における固定位置を変更することができる。つまり、異なる仕様の電気回路部60に対して、共通の部品として本体部201および凸部202を使用できる。
【0057】
<作用効果>
上記筐体50において、複数の凸部202は、本体部201と別体であってもよい。この場合、キャリア周波数が異なるパルス幅変調制御を行う電気回路部60に対して、本体部201および凸部202を共通的に適用し、本体部201における複数の凸部202の配置などを変更することで、異なる仕様の電気回路部60を収容する筐体50を実現できる。上述した凸部202は、本体部201に接続する部分である挿入部22の構成を共通化して、突出部21の質量や形状の異なる複数種類の凸部202を準備しておいてもよい。この結果、多品種の電気機器1を製造する場合に、品種毎に筐体50の製造のための金型などを個別に準備する場合と比べて、設備投資を抑制して電気機器1の製造コストを低減できる。
【0058】
実施の形態3.
<電気機器および筐体の構成>
図18は、実施の形態3に係る電気機器の斜視模式図である。
図18に示した電気機器1は、基本的には
図1から
図5に示した電気機器1と同様の構成を備えるが、筐体50の構成が
図1から
図5に示した電気機器1と異なっている。具体的には、本実施の形態に係る電気機器1の筐体50では、筐体50が
図1から
図5に示した電気機器1における筐体50より複雑な形状を有するとともに、上部ケースカバー2に形成されている複数の凸部202が不等ピッチで形成されている。すなわち、隣接する組の内の第1組における凸部202cと凸部202dとの間隔P1は、隣接する組の内の第2組における凸部202dと凸部202eとの間隔P1’と異なっている。
【0059】
図18に示されるように、上部ケースカバー2の形状が複雑な形状をしており、当該上部ケースカバー2の剛性が局所的に異なるような場合、上部ケースカバー2の振動形状は非対称かつ歪んだ形状となる。このような振動形状をもつ筐体50(上部ケースカバー2)に対して、筐体50を構成する平板の長手方向での曲げ波の波長λ2X(
図7参照)および平板の短手方向での曲げ波の波長λ2Y(
図7参照)が、平板から放射される音波の波長λ1より短くなるように凸部202を配置する。この場合、
図18に示されるように凸部202が密に分布する部分と、当該凸部202が疎に分布する部分とが形成される。つまり、隣接する凸部202の間隔P1,P1’は必ずしも同じになるとは限らない。なお、複数の凸部202における隣接する凸部202の間隔P1、P1’は、シミュレーションなど従来周知の方法を用いて決定できる。
【0060】
<作用効果>
上記筐体50では、複数の凸部202において、隣接する組の内の第1組における凸部202c、202dの間隔P1は、隣接する組の内の第2組における凸部202d、202eの間隔P1’と異なっていてもよい。
【0061】
この場合、筐体50の形状が複雑な形状のため、局所的に筐体50の剛性が異なるような場合であっても、局所的に隣接する凸部202の間隔P1、P1’を変更することで、筐体50自体が振動することに起因する騒音の放射を抑制できる。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。矛盾のない限り、今回開示された実施の形態の少なくとも2つを組み合わせてもよい。本開示の基本的な範囲は、上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 電気機器、2 上部ケースカバー、3 下部ケースカバー、4 フランジ部、5 ボルト穴、6 位置決め穴、8 インバータ、9 コンバータ、10 ウォータジャケット、11 コンデンサ、12 ボス、13 表面、14 内周面、15,16,17,18 小部分、20 穴、21 突出部、22 挿入部、50 筐体、60 電気回路部、201 本体部、202,202c,202d,202e 凸部、202a 第1凸部、202b 第2凸部。