(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】工作機械における運動誤差の補正パラメータの算出方法、工作機械
(51)【国際特許分類】
G01B 5/00 20060101AFI20241206BHJP
G01B 21/22 20060101ALI20241206BHJP
B23Q 1/64 20060101ALI20241206BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
G01B5/00 P
G01B21/22
B23Q1/64 Z
B23Q17/00 A
(21)【出願番号】P 2021141567
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康功
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小島 拓也
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-038569(JP,A)
【文献】特開平06-034356(JP,A)
【文献】特開2007-101279(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0050139(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00- 5/30
G01B 21/00-21/32
B23Q 1/64
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を保持するテーブルと、工具を保持する主軸と、3軸以上の並進軸とを有し、前記主軸が前記テーブルに対して並進3自由度以上の相対運動が可能で、前記並進軸の運動誤差を所定の補正パラメータに従って補正可能な工作機械において、所定の測定面Aと、前記測定面Aに直交し互いに平行な測定面Bと測定面Cとを有し、前記測定面Aと前記測定面Bとのなす角度と、前記測定面Aと前記測定面Cとのなす角度とが既知の直角基準器を用いて前記補正パラメータを算出する方法であって、
前記テーブルに前記直角基準器を設置し、前記主軸に装着した位置計測センサで、前記直角基準器の前記測定面Aと、前記測定面Bと、前記測定面Cとをそれぞれ測定する第1測定ステップと、
前記第1測定ステップの前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から、前記測定面Aと前記測定面Bとの間の第1直角度を算出する第1直角度算出ステップと、
前記第1測定ステップの前記測定面Aと前記測定面Cとの測定結果から、前記測定面Aと前記測定面Cとの間の第2直角度を算出する第2直角度算出ステップと、
前記第1直角度と前記第2直角度との差分を算出する差分算出ステップと、
前記差分と、予め設定した差分閾値とを比較する判定ステップと、
前記差分が前記差分閾値以下である場合、前記第1直角度と前記第2直角度との平均値を算出する一方、前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記並進軸の角度偏差を算出して前記角度偏差と前記第1直角度又は前記第2直角度とに基づいて修正直角度を算出する直角度同定ステップと、
前記平均値又は前記修正直角度をもとに前記補正パラメータを設定する補正パラメータ設定ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械における運動誤差の補正パラメータの算出方法。
【請求項2】
前記判定ステップで前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記直角度同定ステップでは、前記直角基準器を複数の位置に設置して、各前記位置で前記第1測定ステップと前記第1直角度算出ステップと前記第2直角度算出ステップと前記差分算出ステップとを再度実施し、得られた複数の前記差分に基づいて前記角度偏差を算出することを特徴とする請求項1に記載の工作機械における運動誤差の補正パラメータの算出方法。
【請求項3】
工作物を保持するテーブルと、工具を保持する主軸と、3軸以上の並進軸とを有し、前記主軸が前記テーブルに対して並進3自由度以上の相対運動が可能で、前記並進軸の運動誤差を所定の補正パラメータに従って補正可能な工作機械において、所定の測定面Aと、前記測定面Aに直交する測定面Bとを有し、前記測定面Aと前記測定面Bとのなす角度が既知の直角基準器を用いて前記補正パラメータを算出する方法であって、
前記テーブルに前記直角基準器を設置し、前記主軸に装着した位置計測センサで、前記直角基準器の前記測定面Aと前記測定面Bとをそれぞれ測定する第1測定ステップと、
前記直角基準器の向きを変えて前記測定面Aと前記測定面Bとを前記位置計測センサで測定する第2測定ステップと、
前記第1測定ステップの前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から、前記測定面Aと前記測定面Bとの間の第1直角度を算出する第1直角度算出ステップと、
前記第2測定ステップの前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から、前記測定面Aと前記測定面Bとの間の第2直角度を算出する第2直角度算出ステップと、
前記第1直角度と前記第2直角度との差分を算出する差分算出ステップと、
前記差分と、予め設定した差分閾値とを比較する判定ステップと、
前記差分が前記差分閾値以下である場合、前記第1直角度と前記第2直角度との平均値を算出する一方、前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記並進軸の角度偏差を算出して前記角度偏差と前記第1直角度又は前記第2直角度とに基づいて修正直角度を算出する直角度同定ステップと、
前記平均値又は前記修正直角度をもとに前記補正パラメータを設定する補正パラメータ設定ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械における運動誤差の補正パラメータの算出方法。
【請求項4】
前記判定ステップで前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記直角度同定ステップでは、前記直角基準器を複数の位置に設置して、各前記位置で前記第1測定ステップと前記第2測定ステップと前記第1直角度算出ステップと前記第2直角度算出ステップと前記差分算出ステップとを再度実施し、得られた複数の前記差分に基づいて前記角度偏差を算出することを特徴とする請求項3に記載の工作機械における運動誤差の補正パラメータの算出方法。
【請求項5】
工作物を保持するテーブルと、工具を保持する主軸と、3軸以上の並進軸とを有し、前記主軸が前記テーブルに対して並進3自由度以上の相対運動が可能で、前記並進軸の運動誤差を所定の補正パラメータに従って補正可能な工作機械であって、
所定の測定面Aと、前記測定面Aに直交し互いに平行な測定面Bと測定面Cとを有し、前記測定面Aと前記測定面Bとのなす角度と、前記測定面Aと前記測定面Cとのなす角度とが既知の直角基準器を前記テーブルに設置した状態で、前記主軸に装着した位置計測センサで、前記直角基準器の前記測定面Aと、前記測定面Bと、前記測定面Cとをそれぞれ測定する第1測定手段と、
前記第1測定手段による前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から第1直角度を算出する第1直角度算出手段と、
前記第1測定手段による前記測定面Aと前記測定面Cとの測定結果から第2直角度を算出する第2直角度算出手段と、
前記第1直角度と前記第2直角度との差分を算出する差分算出手段と、
前記差分と、予め設定した差分閾値とを比較する判定手段と、
前記差分が前記差分閾値以下である場合、前記第1直角度と前記第2直角度との平均値を算出する一方、前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記並進軸の角度偏差を算出して前記角度偏差と前記第1直角度又は前記第2直角度とに基づいて修正直角度を算出する直角度同定手段と、
前記平均値又は前記修正直角度をもとに前記補正パラメータを設定する補正パラメータ設定手段と、
を備えたことを特徴とする工作機械。
【請求項6】
工作物を保持するテーブルと、工具を保持する主軸と、3軸以上の並進軸とを有し、前記主軸が前記テーブルに対して並進3自由度以上の相対運動が可能で、前記並進軸の運動誤差を所定の補正パラメータに従って補正可能な工作機械であって、
所定の測定面Aと、前記測定面Aに直交する測定面Bとを有し、前記測定面Aと前記測定面Bとのなす角度が既知の直角基準器を前記テーブルに角基準器を設置した状態で、前記主軸に装着した位置計測センサで、前記直角基準器の前記測定面Aと前記測定面Bとをそれぞれ測定する第1測定手段と、
前記直角基準器の向きを変えて前記測定面Aと前記測定面Bとを前記位置計測センサで測定する第2測定手段と、
前記第1測定手段による前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から第1直角度を算出する第1直角度算出手段と、
前記第2測定手段による前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から第2直角度を算出する第2直角度算出手段と、
前記第1直角度と前記第2直角度との差分を算出する差分算出手段と、
前記差分と、予め設定した差分閾値とを比較する判定手段と、
前記差分が前記差分閾値以下である場合、前記第1直角度と前記第2直角度との平均値を算出する一方、前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記並進軸の角度偏差を算出して前記角度偏差と前記第1直角度又は前記第2直角度とに基づいて修正直角度を算出する直角度同定手段と、
前記平均値又は前記修正直角度をもとに前記補正パラメータを設定する補正パラメータ設定手段と、
を備えたことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械において、運動誤差を補正するための補正パラメータを算出する方法及び工作機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、並進3軸を有する工作機械の一例であるマシニングセンタMの模式図である。マシニングセンタMは、工具を保持し回転させることが可能な主軸頭2と、工作物を保持するテーブル3とを有している。
主軸頭2は、互いに直交する並進軸Z軸とX軸とにより、ベッド1に対して2自由度の並進運動が可能である。テーブル3は、Z軸とX軸とに直交する並進軸Y軸により1自由度の並進運動がベッド1に対して可能である。各並進軸は、数値制御装置により制御されるサーボモータにより駆動され、主軸頭2に装着した工具を回転させ、テーブル3に固定した工作物を任意の形状に加工する。
工作機械の運動誤差として、非特許文献1に記載されている位置決め誤差、真直度、角度偏差(ピッチ、ヨー、ロール)、直角度といったものがある。これらの運動誤差は、工作物の形状に転写され、工作物の形状や寸法誤差の要因となる。これらの運動誤差を機械の製造・組立て段階で小さくして高精度化を図るのはコスト・技術的に困難な面があり、運動誤差を考慮して各軸を駆動させる補正技術が開発されている。
運動誤差を補正制御するためには、運動誤差を測定して算出する必要がある。また、運動誤差は変化するため、定期的に測定ができ、かつ、特殊な測定器を使用することなく測定できることが重要となる。
【0003】
非特許文献1には、運動誤差を測定して評価する方法が提案されている。例えば、角度偏差を測定する場合には、精密水準器や光学式角度偏差測定器を使用する方法が記載されている。また、直角度を測定する場合には、直定規と直角定規とダイヤルゲージとを使用する方法が記載されている。
非特許文献2には、位置決め誤差、真直度、角度偏差を同時にレーザーで測定可能な測定器について記載がされている。
また、特許文献1には、複数のブロックを有しかつブロック間の距離が既知であるステップゲージを使用して、ステップゲージの向きを複数の方向に変えて、各方向でブロック間距離を計測し、並進軸の位置決め誤差と、並進軸間の直角度を測定・算出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「日本工業規格 JIS B 6336-2 : 2002」、[令和3年7月14日検索]、インターネット<https://kikakurui.com/b6/B6336-2-2002-01.html>
【文献】「XM-60/XM-600 マルチアクシスキャリブレータ」、レニショー、[令和3年7月14日検索]、インターネット<https://www.renishaw.jp/jp/xm-60-and-xm-600-multi-axis-calibrator--39258>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1や特許文献1に記載の方法で直角度の測定を行う場合、並進軸の角度偏差が大きいとその影響を受けて、直角度が測定した位置によって変わり、一意に決まらないといった問題がある。さらに、この測定した直角度をもとに補正パラメータを算出して指令値の補正を行っても、工作物の形状や寸法誤差が改善しない問題がある。
一方で、並進軸の角度偏差の影響を取り除くには、角度偏差を測定して補正する必要があるが、測定には非特許文献1や2に記載されているような特殊な測定が必要になるといった問題がある。
【0007】
そこで、本開示は、特殊な測定器を使用することなく、工作機械の運動誤差を適切に測定して補正することが可能な工作機械における運動誤差の補正パラメータの算出方法及び工作機械を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の第1の構成は、工作物を保持するテーブルと、工具を保持する主軸と、3軸以上の並進軸とを有し、前記主軸が前記テーブルに対して並進3自由度以上の相対運動が可能で、前記並進軸の運動誤差を所定の補正パラメータに従って補正可能な工作機械において、所定の測定面Aと、前記測定面Aに直交し互いに平行な測定面Bと測定面Cとを有し、前記測定面Aと前記測定面Bとのなす角度と、前記測定面Aと前記測定面Cとのなす角度とが既知の直角基準器を用いて前記補正パラメータを算出する方法であって、
前記テーブルに前記直角基準器を設置し、前記主軸に装着した位置計測センサで、前記直角基準器の前記測定面Aと、前記測定面Bと、前記測定面Cとをそれぞれ測定する第1測定ステップと、
前記第1測定ステップの前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から、前記測定面Aと前記測定面Bとの間の第1直角度を算出する第1直角度算出ステップと、
前記第1測定ステップの前記測定面Aと前記測定面Cとの測定結果から、前記測定面Aと前記測定面Cとの間の第2直角度を算出する第2直角度算出ステップと、
前記第1直角度と前記第2直角度との差分を算出する差分算出ステップと、
前記差分と、予め設定した差分閾値とを比較する判定ステップと、
前記差分が前記差分閾値以下である場合、前記第1直角度と前記第2直角度との平均値を算出する一方、前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記並進軸の角度偏差を算出して前記角度偏差と前記第1直角度又は前記第2直角度とに基づいて修正直角度を算出する直角度同定ステップと、
前記平均値又は前記修正直角度をもとに前記補正パラメータを設定する補正パラメータ設定ステップと、を実行することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記判定ステップで前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記直角度同定ステップでは、前記直角基準器を複数の位置に設置して、各前記位置で前記第1測定ステップと前記第1直角度算出ステップと前記第2直角度算出ステップと前記差分算出ステップとを再度実施し、得られた複数の前記差分に基づいて前記角度偏差を算出することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第2の構成は、工作物を保持するテーブルと、工具を保持する主軸と、3軸以上の並進軸とを有し、前記主軸が前記テーブルに対して並進3自由度以上の相対運動が可能で、前記並進軸の運動誤差を所定の補正パラメータに従って補正可能な工作機械において、所定の測定面Aと、前記測定面Aに直交する測定面Bとを有し、前記測定面Aと前記測定面Bとのなす角度が既知の直角基準器を用いて前記補正パラメータを算出する方法であって、
前記テーブルに前記直角基準器を設置し、前記主軸に装着した位置計測センサで、前記直角基準器の前記測定面Aと前記測定面Bとをそれぞれ測定する第1測定ステップと、
前記直角基準器の向きを変えて前記測定面Aと前記測定面Bとを前記位置計測センサで測定する第2測定ステップと、
前記第1測定ステップの前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から、前記測定面Aと前記測定面Bとの間の第1直角度を算出する第1直角度算出ステップと、
前記第2測定ステップの前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から、前記測定面Aと前記測定面Bとの間の第2直角度を算出する第2直角度算出ステップと、
前記第1直角度と前記第2直角度との差分を算出する差分算出ステップと、
前記差分と、予め設定した差分閾値とを比較する判定ステップと、
前記差分が前記差分閾値以下である場合、前記第1直角度と前記第2直角度との平均値を算出する一方、前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記並進軸の角度偏差を算出して前記角度偏差と前記第1直角度又は前記第2直角度とに基づいて修正直角度を算出する直角度同定ステップと、
前記平均値又は前記修正直角度をもとに前記補正パラメータを設定する補正パラメータ設定ステップと、を実行することを特徴とする。
本開示の第2の構成の別の態様は、上記構成において、前記判定ステップで前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記直角度同定ステップでは、前記直角基準器を複数の位置に設置して、各前記位置で前記第1測定ステップと前記第2測定ステップと前記第1直角度算出ステップと前記第2直角度算出ステップと前記差分算出ステップとを再度実施し、得られた複数の前記差分に基づいて前記角度偏差を算出することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第3の構成は、工作物を保持するテーブルと、工具を保持する主軸と、3軸以上の並進軸とを有し、前記主軸が前記テーブルに対して並進3自由度以上の相対運動が可能で、前記並進軸の運動誤差を所定の補正パラメータに従って補正可能な工作機械であって、
所定の測定面Aと、前記測定面Aに直交し互いに平行な測定面Bと測定面Cとを有し、前記測定面Aと前記測定面Bとのなす角度と、前記測定面Aと前記測定面Cとのなす角度とが既知の直角基準器を前記テーブルに設置した状態で、前記主軸に装着した位置計測センサで、前記直角基準器の前記測定面Aと、前記測定面Bと、前記測定面Cとをそれぞれ測定する第1測定手段と、
前記第1測定手段による前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から第1直角度を算出する第1直角度算出手段と、
前記第1測定手段による前記測定面Aと前記測定面Cとの測定結果から第2直角度を算出する第2直角度算出手段と、
前記第1直角度と前記第2直角度との差分を算出する差分算出手段と、
前記差分と、予め設定した差分閾値とを比較する判定手段と、
前記差分が前記差分閾値以下である場合、前記第1直角度と前記第2直角度との平均値を算出する一方、前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記並進軸の角度偏差を算出して前記角度偏差と前記第1直角度又は前記第2直角度とに基づいて修正直角度を算出する直角度同定手段と、
前記平均値又は前記修正直角度をもとに前記補正パラメータを設定する補正パラメータ設定手段と、を備えたことを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第4の構成は、工作物を保持するテーブルと、工具を保持する主軸と、3軸以上の並進軸とを有し、前記主軸が前記テーブルに対して並進3自由度以上の相対運動が可能で、前記並進軸の運動誤差を所定の補正パラメータに従って補正可能な工作機械であって、
所定の測定面Aと、前記測定面Aに直交する測定面Bとを有し、前記測定面Aと前記測定面Bとのなす角度が既知の直角基準器を前記テーブルに角基準器を設置した状態で、前記主軸に装着した位置計測センサで、前記直角基準器の前記測定面Aと前記測定面Bとをそれぞれ測定する第1測定手段と、
前記直角基準器の向きを変えて前記測定面Aと前記測定面Bとを前記位置計測センサで測定する第2測定手段と、
前記第1測定手段による前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から第1直角度を算出する第1直角度算出手段と、
前記第2測定手段による前記測定面Aと前記測定面Bとの測定結果から第2直角度を算出する第2直角度算出手段と、
前記第1直角度と前記第2直角度との差分を算出する差分算出手段と、
前記差分と、予め設定した差分閾値とを比較する判定手段と、
前記差分が前記差分閾値以下である場合、前記第1直角度と前記第2直角度との平均値を算出する一方、前記差分が前記差分閾値を越えていた場合、前記並進軸の角度偏差を算出して前記角度偏差と前記第1直角度又は前記第2直角度とに基づいて修正直角度を算出する直角度同定手段と、
前記平均値又は前記修正直角度をもとに前記補正パラメータを設定する補正パラメータ設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、精度マスタとなる直角基準器の3つ又は2つの測定面を位置計測センサで測定することで、特殊な測定器を使用することなく運動誤差の補正パラメータを取得することができる。よって、取得した補正パラメータに基づいて工作機械の運動誤差を適切に補正可能となる。また、並進軸の角度偏差が測定した直角度に悪影響していないか容易に判断できる。さらに、並進軸の角度偏差が大きく、直角度が一意に決まらない場合でも、並進軸の角度偏差を測定して補正パラメータを取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】X軸、Y軸、Z軸の並進軸を有するマシニングセンタの模式図である。
【
図3】マシニングセンタの制御構成を示すブロック図である。
【
図4】補正パラメータの算出方法のフローチャートである。
【
図5】角度偏差を計測するためのフローチャートである。
【
図8】タッチプローブとテーブルに設置された直角基準器の模式図である。
【
図9】直角基準器の設置位置を変えて計測を行う場合の基準器設置例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
ここでは、X-Y軸間直角度、Y軸の角度偏差(ヨー)を計測して補正する場合を一例として説明する。適用する工作機械としては、
図1のマシニングセンタMを例に説明する。
図2は、数値制御装置21の機能ブロック図である。
数値制御装置21では、加工プログラム11が入力されると、指令値生成手段12において各並進軸の指令値が生成される。
生成された指令値をもとに補正値演算手段16により各軸の補正値が演算され、指令値と補正値との合計値がサーボ指令値変換手段13に送られてサーボ指令値が演算される。演算された各軸のサーボ指令値は、各軸のサーボアンプ14a~14cに送られる。各軸のサーボアンプ14a~14cはそれぞれ各軸用サーボモータ15a~15cを駆動させ、テーブル3に対して主軸頭2の相対位置を制御する。
【0012】
数値制御装置21は、
図3に示すように記録手段22を持ち、補正パラメータや基準器条件、補正パラメータの算出プログラム、運動誤差の補正プログラムなどを記憶することができる。また、オペレータに情報を伝達する表示手段23と、計測対象の入力などを行う入力手段24と、後述するタッチプローブ101の検出信号の受信器25とを備えている。
補正値の基となる補正パラメータは、記録手段22に記録されており、X-Y軸間直角度や、Y軸角度偏差(ヨー)であればY軸位置とその位置における角度偏差を点群データとして持つ。各点間の角度偏差は、線形補完などで補完して計算する。X-Y軸間直角度をγxy、Y軸角度偏差(ヨー)をEAY(i)とすると、補正値は、以下の数1で計算できる。
[数1]
ΔCx=γxy(Y-Yk)
ΔCy=EAY(i)(X-Xk)
ここで、ΔCx、 ΔCyはそれぞれX軸、Y軸補正値、X、YはそれぞれX軸、Y軸指令値、Xk、YkはそれぞれX軸、Y軸の補正基準位置である。
【0013】
続いて、数値制御装置21が実行する補正パラメータの算出方法について、
図4のフローチャートに基づいて説明する。数値制御装置21は、本開示の第1測定手段、第2測定手段、第1直角度算出手段、第2直角度算出手段、差分算出手段、判定手段、直角度同定手段、補正パラメータ設定手段として機能する。
まず、オペレータから計測誤差が入力手段24によって入力される。この入力は、数値制御装置21にどのような誤差を計測するのか認識させるためのものである。
図6は、誤差計測に使用する直角基準器Gの一例であり、入力された計測誤差には、
図7に示すような直角基準器Gの計測ポイント(P
100~P
114)の校正値データが紐づいている。
まず、ステップ(以下「S」と表記する)1にて、オペレータが、
図8に示すように、測定面AがY軸に平行となるように直角基準器Gをテーブル3上に設置し、主軸頭2にタッチプローブ101を装着して直角基準器原点の直上に来るように位置決めする。タッチプローブ101の先端にはスタイラスが付いており、スタイラスが測定対象に接触するとその瞬間に信号を発信する。数値制御装置21は、接続された受信器25にてその信号を受信すると、その時点での各軸の位置を接触位置とすることで、位置の測定を行う。
【0014】
次に、S2にて、直角基準器Gの計測ポイント(P100~P114)の計測を行う(第1測定ステップ)。測定面Bの計測ポイント(P100~P104)では、スタイラスをY方向から接触させ各計測ポイントでのY方向位置を計測する。測定面Aの計測ポイント(P105~P109)では、スタイラスをX方向から接触させ各計測ポイントでのX方向位置を計測する。、測定面Cの計測ポイント(P110~P114)では、スタイラスをY方向から接触させ各計測ポイントでのY方向位置を計測する。
次に、S3て、直角度の算出を行う(第1直角度及び第2直角度算出ステップ)。計測ポイント(P100~P104)と計測ポイント(P110~P114)とについて、計測したY方向位置(My100~My104)、(My110~My114)と、各ポイントのX軸指令値とから最小自乗法などにより傾きa2とa3とを算出する。次に、計測ポイント(P105~P109)について、計測したX方向位置(Mx105~Mx109)と、各ポイントのY軸指令値とから最小自乗法などにより傾きa1を算出する。そして、以下の数2により、直角度γxy1とγxy2とを計算する。
[数2]
γxy1=a2-a1
γxy2=a3-a1
【0015】
次に、S4にて、以下の数3により直角度差分Δγxyを算出する(差分算出ステップ)。
[数3]
Δγxy=γxy2-γxy1
次に、S5にて、算出した直角度差分と、予め記録手段22に記録しておいた差分閾値とを比較する(判定ステップ)。S5で直角度差分が差分閾値以下であると判定された場合、S6にて、直角度γxy1とγxy2との平均値γxy’を計算する(直角度同定ステップ)。
【0016】
一方、S5にて、直角度差分が差分閾値より大きいと判定された場合、S7にて、表示手段23に角度偏差の計測の必要性を表示する。
次に、S8にて、角度偏差(ヨー)の計測を行う。角度偏差計測の詳細については後述する。
次に、S9にて、S8で計算した角度偏差(ヨー)EAY(i)と、S3で算出した直角度γxy1とから、以下の数4より角度偏差を考慮した直角度γxy”(修正直角度)を計算する(S7~S9:直角度同定ステップ)。
[数4]
Δγxy=γxy1-EAY(Py
100)
ここで、EAY(Py
100)は、S2で直角基準器Gの計測ポイントP
100の計測を行った際のY軸位置における角度偏差である。
次に、S10にて、S6で得られた直角度の平均値γxy’又は、S9で得られた直角度γxy”の何れかを補正パラメータとして設定する(補正パラメータ設定ステップ)。
取得した補正パラメータは、記録手段22に記録され、
図2の補正値演算手段16において補正値の演算(例えば先の数1)に使用される。
【0017】
続いて、S8の角度偏差の計測について、
図5に示すフローチャートをもとに説明する。
はじめに、S8-2にて、直角基準器Gを設置する位置を表示手段23に表示する。表示する設置位置とは、例えば
図9に示すようなものであり、まず、直角基準器設置位置1の位置に設置するよう促す。
次に、S8-3にて、表示された設置位置に従ってオペレータが直角基準器Gをテーブル3上に設置し、タッチプローブ101が直角基準器原点の直上に来るように位置決めする。
次に、S8-4にて、S2にて説明した方法により直角基準器Gの3つの測定面A~Cの計測を行う。
次に、S8-5にて、S3にて説明した方法で2つの直角度γxy3、γxy4を算出して、S4にて説明した方法で直角度差分Δγxy(Y1)を算出する。直角基準器Gの設置位置2~5に変えてS8-2~8-5を繰り返す。
次に、S8-7にて、得られたΔγxy(Y1)~Δγxy(Y5)から以下の数5により角度偏差(ヨー)を算出する。
[数5]
EAY(i)=ΣΔγxy(i)
【0018】
このように、上記形態の運動誤差の補正パラメータの算出方法及びマシニングセンタMでは、精度マスタとなる直角基準器Gの3つの測定面A~Cを、主軸頭2(主軸)に装着したタッチプローブ101(位置計測センサ)で測定し、測定結果から2つの直角度を算出して両者の差分を算出し、当該差分と差分閾値との比較結果に基づいて直角度を同定して、同定した直角度に基づいて補正パラメータを設定する。
この構成により、特殊な測定器を使用することなく運動誤差の補正パラメータを取得することができる。よって、取得した補正パラメータに基づいてマシニングセンタMの運動誤差を適切に補正可能となる。また、2つの直角度の差分と差分閾値との比較結果から、並進軸の角度偏差が測定した直角度に悪影響していないか容易に判断できる。さらに、並進軸の角度偏差が大きく、直角度が一意に決まらない場合でも、並進軸の角度偏差を測定して補正パラメータを取得することが可能となる。
【0019】
なお、上記形態では、本開示を、測定面A、測定面B、測定面Cとの3つの測定面を有した直角基準器Gを例に説明したが、測定面A、測定面Bの2つの測定面を有した直角基準器Gを用いても本開示は適用可能である。
この場合、マシニングセンタMでは、例えば以下の手順で測定を行う。
まず、テーブル3に直角基準器Gを設置し、主軸頭2に装着したタッチプローブ101で、直角基準器Gの測定面Aと測定面Bとをそれぞれ測定する第1測定ステップを実行する。
次に、直角基準器Gの向きを変えて(例えばX軸周りに180度回転させて)設置し、測定面Aと測定面Bとをタッチプローブ101で測定する第2測定ステップを実行する。
次に、第1測定ステップの測定面Aと測定面Bとの測定結果から、先の形態と同様に、測定面Aと測定面Bとの間の第1直角度を算出する第1直角度算出ステップを実行する。
次に、第2測定ステップの測定面Aと測定面Bとの測定結果から、先の形態と同様に、測定面Aと測定面Bとの間の第2直角度を算出する第2直角度算出ステップを実行する。
その後の処理は先の形態と同様である。
この場合も、特殊な測定器を使用することなく運動誤差の補正パラメータを取得することができる。
その他、本開示の工作機械は、マシニングセンタに限らない。
【符号の説明】
【0020】
1・・ベッド、2・・主軸頭、3・・テーブル、11・・加工プログラム、12・・指令値生成手段、13・・サーボ指令値変換手段、14a~14c・・サーボアンプ、15a~15c・・サーボモータ、16・・補正値演算手段、21・・数値制御装置、22・・記録手段、23・・表示手段、24・・入力手段、25・・受信器、101・・タッチプローブ、G・・直角基準器、M・・マシニングセンタ。