(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】センサ制御装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20241206BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
G01N27/416 376
G01N27/419 327Q
G01N27/416 331
(21)【出願番号】P 2021147633
(22)【出願日】2021-09-10
【審査請求日】2024-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】小▲浜▼ 公洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 銀次郎
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-039041(JP,A)
【文献】特開2008-014235(JP,A)
【文献】特開2016-109693(JP,A)
【文献】特開平10-212999(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0052973(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを含む計測対象ガス中の特定ガスを検知する検知部と、前記検知部を加熱するヒータと、を備えるセンサ素子と、クロムを含む金属により構成され、前記センサ素子を囲んで配置されるプロテクタと、を備えるガスセンサに接続されて前記ガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、
前記ガスセンサの周囲の前記計測対象ガスの流速が所定の値以上である第1状態と判断したときに、前記検知部が活性化する第1温度となるように前記ヒータを制御する通常制御と、前記ガスセンサの周囲の前記計測対象ガスの流速が所定の値未満である第2状態と判断したときに、前記検知部が前記第1温度よりも低い第2温度となるように前記ヒータを制御する抑制制御とを選択的に実行するヒータ制御部を備え
、
前記ヒータ制御部が、前記ガスセンサの周囲環境が前記第1状態から前記第2状態に変化したと判断してから所定時間経過後に、前記通常制御から前記抑制制御への切り替えを実行する、センサ制御装置。
【請求項2】
前記第2温度が300℃以上740℃未満である、
請求項1に記載のセンサ制御装置。
【請求項3】
アンモニアを含む計測対象ガス中の特定ガスを検知する検知部と、前記検知部を加熱するヒータと、を備えるセンサ素子と、クロムを含む金属により構成され、前記センサ素子を囲んで配置されるプロテクタと、を備えるガスセンサに接続されて前記ガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、
前記ガスセンサの周囲の前記計測対象ガスの流速が所定の値以上である第1状態と判断したときに、前記検知部が活性化する第1温度となるように前記ヒータを制御する通常制御と、前記ガスセンサの周囲の前記計測対象ガスの流速が所定の値未満である第2状態と判断したときに、前記検知部が前記第1温度よりも低い第2温度となるように前記ヒータを制御する抑制制御とを選択的に実行するヒータ制御部を備え、
前記第2温度が300℃以上740℃未満である、センサ制御装置。
【請求項4】
前記第2温度が300℃以上670℃以下である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のセンサ制御装置。
【請求項5】
前記特定ガスがアンモニアである、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のセンサ制御装置。
【請求項6】
前記ヒータ制御部が、前記ガスセンサの周囲環境が前記第2状態から前記第1状態に変化したと判断してから100ms以内に、前記抑制制御から前記通常制御への切り替えを実行する、請求項1から
請求項5のいずれか1項に記載のセンサ制御装置。
【請求項7】
前記計測対象ガスが、車両に搭載される内燃機関から排出される排気ガスであり、
前記第1状態が、前記内燃機関が駆動されている状態であり、前記第2状態が、前記内燃機関が停止した状態である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のセンサ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、センサ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気ガス中の特定成分(酸素、窒素酸化物、アンモニア等)の濃度を検知するガスセンサが知られている(特許文献1参照)。ガスセンサに備えられるセンサ素子は、固体電解質体と、固体電解質体の表面に設けられた電極と、電極を覆う多孔質保護層とを備えている。多孔質保護層は、排気ガス中の水分や被毒物質(例えばP、Si、S、Mg等)が電極に付着して電極が劣化することを防いでいる。センサ素子は、有底筒状の保護カバー(プロテクタ)の内部に収容されて、保護されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロテクタは、ステンレスなどのクロムを含む材料により形成されていることがある。このような場合には、センサ素子の周囲環境が高温になることによってプロテクタから遊離したクロムが、多孔質保護層の表面に付着することがある。多孔質保護層の表面にクロムが付着すると、クロムの作用によって排気ガス中のアンモニアが多孔質保護層の表面で酸化(燃焼)してしまい、計測制度の低下が引き起こされてしまうことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示されるセンサ制御装置は、アンモニアを含む計測対象ガス中の特定ガスを検知する検知部と、前記検知部を加熱するヒータと、を備えるセンサ素子と、クロムを含む金属により構成され、前記センサ素子を囲んで配置されるプロテクタと、を備えるガスセンサに接続されて前記ガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、前記ガスセンサの周囲の前記計測対象ガスの流速が所定の値以上である第1状態と判断したときに、前記検知部が活性化する第1温度となるように前記ヒータを制御する通常制御と、前記ガスセンサの周囲の前記計測対象ガスの流速が所定の値未満である第2状態と判断したときに、前記検知部が前記第1温度よりも低い第2温度となるように前記ヒータを制御する抑制制御とを選択的に実行するヒータ制御部を備える。
【発明の効果】
【0006】
本明細書によって開示されるセンサ制御装置によれば、計測対象ガス中の特定成分を精度よく計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態において、車両の排気管に接続されたガス計測装置の全体構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態のガスセンサの断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態のセンサ素子の断面、および、センサ制御装置の電気的構成を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態のアンモニアセンサ部の部分拡大断面図である
【
図5】
図5は、実施形態のガス計測装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施形態におけるヒータ制御の動作を示すタイミングチャートである。
【
図7】
図7は、変形例におけるヒータ制御の動作を示すタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、試験例において、センサ素子の温度を変化させた場合の、連続計測時間とセンサ素子の出力比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示されるセンサ制御装置は、アンモニアを含む計測対象ガス中の特定ガスを検知する検知部と、前記検知部を加熱するヒータと、を備えるセンサ素子と、クロムを含む金属により構成され、前記センサ素子を囲んで配置されるプロテクタと、を備えるガスセンサに接続されて前記ガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、前記ガスセンサの周囲の前記計測対象ガスの流速が所定の値以上である第1状態と判断したときに、前記検知部が活性化する第1温度となるように前記ヒータを制御する通常制御と、前記ガスセンサの周囲の前記計測対象ガスの流速が所定の値未満である第2状態と判断したときに、前記検知部が前記第1温度よりも低い第2温度となるように前記ヒータを制御する抑制制御とを選択的に実行するヒータ制御部を備える。
【0009】
アンモニアの燃焼による計測精度の低下は、ガスセンサの周囲の計測対象ガスの流速が小さくなるときに、プロテクタから遊離したクロムがセンサ素子に付着してしまうことで起こると考えられる。一方、アンモニアの燃焼による計測精度の低下は、センサ素子が低温で制御されていれば大幅に抑制できることが分かった。ガスセンサの周囲の計測対象ガスの流速が所定の値以上であるときには、検知部が活性化する第1温度となるようにヒータを制御して計測を行い、ガスセンサの周囲の計測対象ガスの流速が所定の値未満であるときには、検知部が第1温度よりも低い第2温度となるようにヒータを制御し、アンモニアの燃焼を抑制することによって、計測対象ガス中の特定成分を精度よく計測できる。
【0010】
(2)上記(1)に記載のセンサ制御装置において、特定ガスがアンモニアであてあっても構わない。
【0011】
上記(1)に記載のセンサ制御装置は、特定ガスがアンモニアである場合に、好適に適用できる。
【0012】
(3)上記(1)または(2)に記載のセンサ制御装置において、ヒータ制御部が、前記ガスセンサの周囲環境が前記第1状態から前記第2状態に変化したと判断してから所定時間経過後に、前記通常制御から前記抑制制御への切り替えを実行しても構わない。
【0013】
第2状態となる時間が極めて短い場合には、計測精度への影響はほとんどないと考えられ、このような場合にまで抑制制御を行うことはかえって煩わしい。このため、ガスセンサの周囲環境が第2状態となってから所定時間経過後に、通常制御から抑制制御への切り替えを実行することで、第2状態となる時間が極めて短い場合には、抑制制御を実行しないことが好ましい。
【0014】
(4)上記(1)、(2)または(3)に記載のセンサ制御装置において、前記ヒータ制御部が、前記ガスセンサの周囲環境が前記第2状態から前記第1状態に変化したと判断してから100ms以内に、前記抑制制御から前記通常制御への切り替えを実行しても構わない。
【0015】
抑制制御の必要がなくなった場合に、速やかに排気ガス中の特定ガスの計測を開始するためである。
【0016】
(5)上記(1)、(2)、(3)または(4)に記載のセンサ制御装置において、前記第2温度が300℃以上740℃未満であっても構わない。あるいは、前記第2温度が300℃以上670℃以下であっても構わない。
【0017】
アンモニアの燃焼を確実に抑制するために、第2温度が740℃未満であることが好ましく、670℃以下であることがさらに好ましい。また、第2温度が300℃以上であれば、ガスセンサの周囲環境が第2状態から第1状態に変化したときに、速やかに検知部を活性化し、計測を再開することができる。
【0018】
(6)上記(1)、(2)、(3)、(4)または(5)に記載のセンサ制御装置において、前記計測対象ガスが、車両に搭載される内燃機関から排出される排気ガスであり、前記第1状態が、前記内燃機関が駆動されている状態であり、前記第2状態が、前記内燃機関が停止した状態であっても構わない。
【0019】
車両に搭載される内燃機関から排出される排気ガス中の特定成分を計測する場合に、上記のセンサ制御装置を好適に適用できる。
【0020】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
<実施形態>
実施形態を、
図1から
図6を参照しつつ説明する。本実施形態のガス計測装置1は、自動車のディーゼルエンジン401(内燃機関の一例)から排出される排気ガス(計測対象ガスの一例)に含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化する尿素SCR(Selective Catalytic Reduction:選択触媒還元)システムに用いられるものである。尿素SCRシステムは、アンモニアと窒素酸化物とを化学反応させて、窒素酸化物を窒素に還元することにより、排気ガスに含まれる窒素酸化物を浄化するシステムである。尿素SCRシステムでは、窒素酸化物に対して供給されるアンモニアの量が過剰になると、未反応のアンモニアが排気ガスに含まれたまま外部に放出されるおそれがある。ガス計測装置1は、排気ガスに含まれる窒素酸化物およびアンモニア(特定ガスの一例)の濃度を測定する。
【0022】
ガス計測装置1は、ガスセンサ10と、ガスセンサ10に接続されるセンサ制御装置300とを備える。
図1に示すように、ディーゼルエンジン401に接続される排気管402の途中に、酸化触媒403、DPF(Diesel Particulate Filter)404、SCR触媒405が上流側から順に設けられている。ガスセンサ10は、SCR触媒405に隣接する下流側の排気管402に設置されている。
【0023】
[ガスセンサ10の全体構成]
ガスセンサ10は、
図2に示すように、センサ素子100、主体金具11、外部プロテクタ12、内部プロテクタ13、外筒14、保持部材18などを備えている。センサ素子100は、軸線AX方向(
図2の上下方向)に延びる細長板状をなし、主体金具11の内側に保持されている。なお、以下の説明において、
図2の下側を先端側とし、
図2の上側を後端側とする。
【0024】
主体金具11は、軸線AX方向に貫通する貫通孔11Aを有する筒状部材である。主体金具11は、センサ素子100の先端部を自身の先端側外部に突出させると共に、センサ素子100の後端部を自身の後端側外部に突出させた状態で、センサ素子100を貫通孔11A内に保持している。
【0025】
主体金具11の貫通孔11Aの内部には、環状のセラミックホルダ15、滑石粉末を環状に充填してなる2つの滑石リング16A、16B、およびセラミックスリーブ17が配置されている。詳細には、センサ素子100の周囲を取り囲む状態で、セラミックホルダ15、滑石リング16A、16B、およびセラミックスリーブ17が、この順に、主体金具11の先端側から後端側にわたって重なって配置されている。
【0026】
主体金具11の先端部には、センサ素子100の先端部を覆うように、複数の孔を有する外部プロテクタ12(プロテクタの一例)および内部プロテクタ13(プロテクタの一例)が、溶接によって取り付けられている。外部プロテクタ12および内部プロテクタ13は、クロムを含む金属により構成されており、例えばステンレス製である。一方、主体金具11の後端部には、外筒14が溶接によって取り付けられている。外筒14は、軸線AX方向に延びる筒状をなし、センサ素子100の後端部を包囲している。
【0027】
外筒14の内部には、保持部材18が配置されている。保持部材18は、絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、軸線AX方向に貫通する挿入孔18Aを有する筒状部材である。挿入孔18A内には、センサ素子100の後端部と複数の端子部材19とが配置されている。複数の端子部材19は、センサ素子100の表面に設けられている複数の電極端子部のそれぞれが弾性的に当接して電気的に接続されている。複数の端子部材19は、複数のリード線20にそれぞれ接続されている。
【0028】
外筒14の後端側の開口部には、フッ素ゴムからなる弾性シール部材21が配置されている。複数のリード線20が、弾性シール部材21を貫通して外部に導出されている。
【0029】
[センサ素子100]
センサ素子100は、
図3に示すように、NOxセンサ部101(検知部の一例)と、ヒータ170と、アンモニアセンサ部201(検知部の一例)と、を備えている。
【0030】
NOxセンサ部101は、第1ポンプセル110、Vsセル120、第2ポンプセル130、第1測定室R1、第2測定室R2、基準酸素室R3を含む。
【0031】
NOxセンサ部101は、第1絶縁層141、第1固体電解質体111、第2絶縁層142、第2固体電解質体121、第3絶縁層143、および第3固体電解質体131がこの順に積層された構造を有する。
【0032】
第1測定室R1は、第1固体電解質体111と第2固体電解質体121との間に設けられ、第2絶縁層142を貫通する小空間である。第1測定室R1は、ガスの通過が可能な第1拡散抵抗体151によって外部空間と隔てられている。第1拡散抵抗体151は、外部から第1測定室R1への排気ガスの単位時間あたりの流通量を制限する。
【0033】
第2測定室R2は、第1固体電解質体111と第3固体電解質体131との間に設けられた小空間であって、第2絶縁層142と、第2固体電解質体121と、第3絶縁層143とを貫通している。第1測定室R1と第2測定室R2とは、ガスの通過が可能な第2拡散抵抗体152によって隔てられている。第2拡散抵抗体152は、第1測定室R1から第2測定室R2への排気ガスの単位時間あたりの流通量を制限する。
【0034】
基準酸素室R3は、第2固体電解質体121と第3固体電解質体131との間に設けられた小空間であって、第3絶縁層143を貫通している。基準酸素室R3の内部には、ガスの通過が可能な多孔質体161が充填されている。
【0035】
第1ポンプセル110は、第1固体電解質体111と、第1固体電解質体111の表面(
図3の下面)に配置された第1電極112と、第1固体電解質体111の他の表面(
図3の上面)に配置されて第1電極112と対極となる第2電極113とを備える。第1電極112は、第1測定室R1の内部に配置されており、第2電極113は、第1測定室R1の外部に配置されている。第1電極112の表面は、ガスの通過が可能な多孔質体162で覆われている。第2電極113は、第1絶縁層141に設けられた開口内に配置されている。この開口は、センサ素子100の外部と連通しており、開口内には、ガスの通過が可能な多孔質体163が充填されている。
【0036】
Vsセル120は、第2固体電解質体121と、第2固体電解質体121の表面(
図3の上面)に配置された第3電極122と、第2固体電解質体121の他の表面(
図3の下面)に配置された第4電極123とを備えている。第3電極122は、第1測定室R1の内部に配置されている。第4電極123は、基準酸素室R3の内部に配置されている。
【0037】
第2ポンプセル130は、第3固体電解質体131と、第3固体電解質体131の表面(
図3の上面)に配置された第5電極132と、第3固体電解質体131の表面(
図3の上面)に配置されて第5電極132と対極となる第6電極133とを備えている。第5電極132は、第2測定室R2の内部に配置されている。第6電極133は、基準酸素室R3の内部に、第4電極123に対向して配置されている。
【0038】
第1電極112、第3電極122、第5電極132はそれぞれ基準電位に接続されている。
【0039】
ヒータ170は、第3固体電解質体131に積層された第4絶縁層171と、第4絶縁層171に積層された第5絶縁層172と、第4絶縁層171と第5絶縁層172の間に埋設され、通電することで発熱する抵抗発熱体173とを備えている。
【0040】
固体電解質体111、121、131は、酸素イオン伝導性を有するジルコニアを主成分とする。絶縁層141、142、143、171、172、多孔質体161、162、163、および、拡散抵抗体151、152は、アルミナを主成分とする。電極112、113、122、123、132、133および抵抗発熱体173は、白金を主成分とする。主成分とは、含有量が50質量%以上であることを意味する。
【0041】
アンモニアセンサ部201は、
図3に示すように、第5絶縁層172の表面に形成されている。アンモニアセンサ部201は、
図4に示すように、第1アンモニアセンサ部201Aと、第2アンモニアセンサ部201Bとを備えている。第1アンモニアセンサ部201Aおよび第2アンモニアセンサ部201Bは、混成電位式のセンシング部として機能する。
【0042】
第1アンモニアセンサ部201Aは、
図4に示すように、第5絶縁層172の表面に形成された第1基準電極202Aと、第1基準電極202Aを覆うように形成された第4固体電解質体203Aと、第4固体電解質体203Aの表面に形成された第1検知電極204Aとを備えている。また同様に、第2アンモニアセンサ部201Bは、第5絶縁層172上に形成された第2基準電極202Bと、第2基準電極202Bを覆うように形成された第5固体電解質体203Bと、第5固体電解質体203Bの表面に形成された第2検知電極204Bとを備えている。
【0043】
第1アンモニアセンサ部201Aおよび第2アンモニアセンサ部201Bは、多孔質体からなる保護層205によって一体的に覆われている。保護層205は、第1検知電極204Aおよび第2検知電極204Bへの被毒物質の付着を防止すると共に、外部から第1アンモニアセンサ部201Aおよび第2アンモニアセンサ部201Bに流入する排気ガスの拡散速度を調整する。
【0044】
第1検知電極204Aおよび第2検知電極204Bは、Auを主成分としており、第1基準電極202Aおよび第2基準電極202Bは、Pt単体、またはPtを主成分としている。第1検知電極204Aおよび第2検知電極204Bを構成する電極材は、アンモニアに対する感度と窒素酸化物に対する感度との比が第1アンモニアセンサ部201Aおよび第2アンモニアセンサ部201Bにおいて異なるように選択されている。保護層205を形成する材料としては、アルミナ(酸化アルミニウム)、スピネル(MgAl2O4)、シリカアルミナおよびムライトの群から選ばれる少なくとも1種の材料を例示できる。保護層205による排気ガスの拡散速度は、保護層205の厚さ、粒径、粒度分布、気孔率、配合比率等の諸条件を適宜、設定することで調整される。
【0045】
ヒータ170は、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201を、固体電解質体111、121、131、203A、203Bが活性化する温度となるように加熱し、固体電解質体111、121、131、203A、203Bの酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させるために用いられる。
【0046】
センサ素子100において、主体金具11から突出されているNOxセンサ部101およびヒータ170の一部分と、アンモニアセンサ部201とは、
図2に示すように、ガスの通過が可能な多孔質体からなる保護コートCによって覆われている。保護コートCは、例えば、アルミナを主成分とする。
【0047】
[センサ制御装置300]
次いで、センサ制御装置300の構成の一例について説明する。センサ制御装置300は、
図3に示すように、電気回路部310とマイクロコンピュータ320とを備えている。
【0048】
電気回路部310は、回路基板上に配置されたアナログ回路である。電気回路部310は、基準電圧比較回路311、Ip1ドライブ回路312、Vs検出回路313、Icp供給回路314、Ip2検出回路315、Vp2印加回路316、ヒータ駆動回路317、抵抗検出回路318、第1起電力検出回路319Aおよび第2起電力検出回路319Bを備える。
【0049】
Ip1ドライブ回路312は、第1電極112-第2電極113間に電流Ip1を供給し、供給した電流Ip1の値をマイクロコンピュータ320に出力する。
【0050】
Vs検出回路313は、第3電極122-第4電極123間の電圧Vsを検知し、基準電圧比較回路311に出力する。
【0051】
基準電圧比較回路311は、基準電圧(例えば、425mV)とVs検出回路313の出力(電圧Vs)とを比較し、比較結果をIp1ドライブ回路312に出力する。そして、Ip1ドライブ回路312は、電圧Vsが上記基準電圧に等しくなるようにIp1電流の流れる向きおよび大きさを制御し、第1測定室R1内の酸素濃度を、第2測定室R2内の窒素酸化物測定に影響が出ず、なおかつ窒素酸化物が分解しない程度の所定値に調整する。
【0052】
Icp供給回路314は、第3電極122-第4電極123間に微弱な電流Icpを流し、酸素の第1測定室R1から基準酸素室R3への汲み出しを行い、第4電極123を基準となる所定の酸素濃度に晒させる。
【0053】
Vp2印加回路316は、第5電極132-第6電極133間に、排気ガス中の窒素酸化物が窒素と酸素とに分解される程度の一定電圧Vp2(例えば、450mV)を印加し、窒素酸化物を窒素と酸素に分解する。
【0054】
Ip2検出回路315は、第5電極132上での窒素酸化物の分解により生じた酸素が第3固体電解質体131を介して第6電極133側に汲み出される際に第5電極132-第6電極133間に流れる電流Ip2を検知し、検知結果をマイクロコンピュータ320に出力する。
【0055】
ヒータ駆動回路317は、ヒータ170が有する抵抗発熱体173に、ヒータ電圧Vhを印加することで、抵抗発熱体173を発熱させ、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201の加熱を行う。抵抗発熱体173は一本の電極パターンであり、一方の端部が接地され、他方の端部がヒータ駆動回路317に接続されている。
【0056】
抵抗検出回路318は、定期的に、予め規定された値を有する電流をVsセル120にパルス状に通電し、その通電に応答して得られる電圧変化量(電圧Vsの変化量)を検知してマイクロコンピュータ320に出力する。
【0057】
第1起電力検出回路319Aは、第1基準電極202Aと第1検知電極204Aとの間の起電力(以下、第1アンモニア起電力EMF1)を検知してマイクロコンピュータ320に出力する。第2起電力検出回路319Bは、第2基準電極202Bと第2検知電極204Bとの間の起電力(以下、第2アンモニア起電力EMF2)を検知してマイクロコンピュータ320に出力する。
【0058】
マイクロコンピュータ320は、センサ制御装置300全体を制御するものであり、CPU(中央演算処理装置)321、RAM322、ROM323、信号入出力部324、A/Dコンバータ325等を備えている。CPU321は、ROM323に格納されたプログラムに基づいて、センサ素子100を制御するための処理を実行する。CPU321は、
図3に示すように、信号入出力部324を介してECU(エンジンコントロールユニット)400に接続されている。ECU400は、車両のディーゼルエンジン401の駆動等を電子的に制御するための装置であって、ディーゼルエンジン401の駆動状態等の情報をCPU321に出力する。
【0059】
A/Dコンバータ325は、Ip1ドライブ回路312、Vs検出回路313、Ip2検出回路315、抵抗検出回路318、第1起電力検出回路319A、および第2起電力検出回路319Bからの出力値をデジタル変換し、信号入出力部324を介してCPU321に出力する。CPU321は、ROM323から各種データを読み込み、電流Ip1の値、電流Ip2の値、第1アンモニア起電力EMF1の値及び第2アンモニア起電力EMF2の値から種々の演算処理を行う。
【0060】
また、CPU321は、信号入出力部324およびA/Dコンバータ325を介してヒータ駆動回路317へ駆動信号を出力することにより、ヒータ170に供給する電力をパルス幅変調により通電制御して、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201(より具体的には固体電解質体111、121、131、203A、203B)が目標の温度になるようにしている。ヒータ170の通電制御は、抵抗検出回路318によって検知された電圧Vsの変化量を示す値と、ROM323に記憶されている電圧Vsの変化量とVsセル120の内部抵抗値とが予め関連付けられたテーブルに基づいて、Vsセル120の内部抵抗(インピーダンス)を求め、インピーダンスが目標値となるように供給電力量を制御する公知の手法によって実現することができる。CPU321とヒータ駆動回路317とは、ヒータ制御部の一例である。
【0061】
CPU321は、ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が所定の値以上である第1状態と判断したときに、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201(より具体的には、固体電解質体111、121、131、203A、203B)が活性化する第1温度となるようにヒータ170を制御する通常制御と、ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が所定の値未満である第2状態と判断したときに、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201が第1温度よりも低い第2温度となるようにヒータ170を制御する抑制制御とを選択的に実行する 。
【0062】
[ガス計測装置1の動作態様]
上記のガス計測装置1によって、車両の排気ガス中の窒素酸化物およびアンモニア濃度を計測する処理について説明する。
【0063】
ディーゼルエンジン401が始動されて外部電源から電力の供給を受けると、ヒータ駆動回路317が抵抗発熱体173に駆動電流を流す(ステップS11)。抵抗発熱体173が昇温し、固体電解質体111、121、131、203A、203Bが加熱され、活性化される。
【0064】
排気ガスは、第1拡散抵抗体151による流通量の制限を受けつつ第1測定室R1内に導入される。
【0065】
次に、Icp供給回路314が、Vsセル120において、第4電極123から第3電極122へ微弱な電流Icpを流す(ステップS12)。これにより、排気ガス中の酸素は、負極側となる第1測定室R1内の第3電極122から電子を受け取ることができ、酸素イオンとなって第2固体電解質体121内を流れ、基準酸素室R3内に移動する。つまり、第3電極122と第4電極123との間で電流Icpが流されることによって、第1測定室R1内の酸素が基準酸素室R3内に送り込まれる。
【0066】
次に、CPU321は、Vs検知回路313により検知される電圧Vsが所定値(1.5V)以下であるか否かを判断する(ステップS13)。CPU321は、電圧Vsが所定値以下ではないと判断した場合には、電圧Vsが所定値以下となるまで待機する。
【0067】
CPU321は、電圧Vsが所定値以下であると判断すると、続いて、ガスセンサ10の周囲環境が、排気ガスの流速が所定の値以上である第1状態であるか、排気ガスの流速が所定の値未満である第2状態であるかを判断する(ステップS14)。この判断は、例えば、ディーゼルエンジン401が駆動されている状態であるか、一時停止(アイドリングストップ)された状態であるかを指標として行われる。ディーゼルエンジン401が駆動されていれば、ガスセンサ10の周囲に排気ガスがある程度の流速で流れていると考えられ、ディーゼルエンジン401が停止されていれば、ガスセンサ10の周囲の排気ガスの流速が小さいか、ほとんど0になっていると考えられるため、ディーゼルエンジン401が駆動されているかアイドリングストップ状態であるかを指標とすることで、ガスセンサ10の周囲環境が第1状態であるか第2状態であるかを容易に判断できる。
【0068】
ディーゼルエンジン401がアイドリングストップ中であるか否かは、例えば、ディーゼルエンジン401の運転を自動的に停止させる指示と、自動運転停止後にディーゼルエンジン401の運転を自動的に再開させる指示とによって更新されるアイドリングストップフラグ(ISF)に基づいて判断される。具体的には、例えばオートマチック車においては、ブレーキペダルを踏んだまま減速し、停車状態(例えば車速がゼロ)になったときなどに、アイドリングストップに適した状態であると判定され、アイドリングストップフラグがセット(オン)され、何かしらのアイドリングストップに適さない条件(例えばアクセルペダルを踏んだ時)が成立した場合には、アイドリングストップフラグがオフされる。CPU321は、ECU400からの出力信号に基づいて、アイドリングストップフラグがオン、オフいずれであるかを検知する。
【0069】
CPU321は、ステップS14において、アイドリングストップフラグがオフとなっていること、すなわち、ディーゼルエンジン401が駆動されていることを検知すると、ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が所定の値以上である第1状態と判断し、NOxセンサ部101とアンモニアセンサ部201とが第1温度となるように、ヒータ駆動回路317に駆動信号を出力し、ヒータ170を制御する(通常制御:ステップS15)。第1温度は、例えば、750℃以上である。
【0070】
CPU321は、NOxセンサ部101とアンモニアセンサ部201とが第1温度となるようにヒータ170が制御された状態で、排気ガス中の窒素酸化物濃度およびアンモニア濃度の計測を行う(ステップS17)。計測は、公知の手順によって行うことができる。具体的な手順は、例えば以下のようである。
【0071】
Vs検出回路313は、第3電極122と第4電極123との間の電圧Vsを検知する。電圧Vsは、第1測定室R1内と基準酸素室R3内との酸素濃度差に対応した電圧である。Vs検出回路313は、検知した電圧Vsの値を、基準電圧比較回路311を用いて基準電圧(425mV)と比較し、比較結果をIp1ドライブ回路312に対し出力する。ここで、電圧Vsが425mV付近で一定となるように、第1測定室R1内の酸素濃度を調整すれば、第1測定室R1内の排気ガス中の酸素濃度は所定値(例えば10-8~10-9atm)に近づくこととなる。
【0072】
Ip1ドライブ回路312は、第1測定室R1内に導入された排気ガスの酸素濃度が所定値より薄い場合、第2電極113側が負極となるように第1ポンプセル110に電流Ip1を流し、センサ素子100の外部から第1測定室R1内へ酸素の汲み入れを行う。一方、第1測定室R1内に導入された排気ガスの酸素濃度が所定値より濃い場合、Ip1ドライブ回路312は、第1電極112側が負極となるように第1ポンプセル110に電流Ip1を流し、第1測定室R1内からセンサ素子100の外部へ酸素の汲み出しを行う。すなわち、第1ポンプセル110は、第1測定室R1内の酸素濃度が一定となるように第1測定室R1の内部と外部との間で酸素の汲み出し又は汲み入れを行う。なお、Ip1ドライブ回路312により検出された電流Ip1に基づいて、第1測定室R1に流入した排気ガス中の酸素濃度を把握することができる。その酸素濃度は、アンモニアの濃度の検出に利用される。
【0073】
第1測定室R1において酸素濃度が調整された排気ガスは、第2拡散抵抗体152による流通量の制限を受けつつ第2測定室R2内に導入される。第2測定室R2内で第5電極132と接触した排気ガス中の窒素酸化物は、Vp2印加回路316により第5電極132と第6電極133との間に電圧Vp2が印加されることで、第5電極132上で窒素と酸素とに分解される。分解により生成した酸素は、酸素イオンとなって第3固体電解質体131内を流れ、基準酸素室R3内に移動する。このとき第2ポンプセル130を流れる電流Ip2は、窒素酸化物濃度に応じた値を示す。
【0074】
また、第1アンモニアセンサ部201Aの第1基準電極202Aと第1検知電極204Aとの間には、排気ガスに含まれるアンモニアの濃度に応じて起電力が発生する。第1起電力検出回路319Aは、第1基準電極202Aと第1検知電極204Aとの間の起電力を第1アンモニア起電力EMF1として検知する。同様に、第2アンモニアセンサ部201Bの第2基準電極202Bと第2検知電極204Bとの間にも、排気ガス中のアンモニアの濃度に応じて起電力が発生する。第2起電力検出回路319Bは、第2基準電極202Bと第2検知電極204Bとの間の起電力を第2アンモニア起電力EMF2として検知する。
【0075】
CPU321は、電流Ip1、電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2の値、および、電流Ip1に基づいて求められた排気ガス中の酸素濃度に基づいて、ROM323に記憶されている各種の関係式を用いて排気ガス中の窒素酸化物濃度およびアンモニア濃度を算出する。
【0076】
なお、アンモニアセンサ部201は、アンモニアだけでなく、窒素酸化物をも検知してしまうため、排気ガス中に窒素酸化物が含まれているとアンモニアの検出精度が低下するおそれがある。そのため、アンモニアセンサ部201として、アンモニアに対する感度と窒素酸化物に対する感度との比がそれぞれ異なるアンモニアセンサ部201A、201Bを2つ利用することで、アンモニアと窒素酸化物の各濃度が算出されている。
【0077】
CPU321は、ステップS14において、アイドリングストップフラグがオンとなったこと、すなわち、ディーゼルエンジン401がアイドリングストップ状態となったことを検知すると、ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が所定の値未満である第2状態と判断し、NOxセンサ部101とアンモニアセンサ部201とが第1温度よりも低い第2温度となるように、ヒータ駆動回路317に駆動信号を出力し、ヒータ170を制御する(抑制制御:ステップS17)。CPU321は、抑制制御中は、排気ガス中のアンモニア濃度の計測を行わず、アイドリングストップフラグがオフとなるまで待機する。
【0078】
CPU321は、アイドリングストップフラグが再びオフとなったこと、すなわち、ディーゼルエンジン401の駆動が再開されたことを検知すると、ガスセンサ10の周囲環境が再び第1状態となったと判断し、ステップS15およびステップS16の処理を繰り返す。本実施形態では、
図6に示すように、ガスセンサ10の周囲環境が第2状態から第1状態に変化したと判断したのち速やかに(例えば100ms以内に)、抑制制御から通常制御への切り替えが実行される。これにより、抑制制御の必要がなくなった場合に、速やかに排気ガス中のアンモニア濃度の計測を開始することができる。なお、
図6において、濃い網掛けの領域は第1状態、薄い網掛けの領域は第2状態を示す。
【0079】
CPU321は、ステップS16の終了後、計測処理の終了要求があるか否かを判別する(ステップS18)。終了要求がないと判断した場合には、ステップS14に戻って処理が繰り返される。終了要求があったと判断した場合には、計測処理を終了する。
【0080】
アンモニアの燃焼を確実に抑制するために、第2温度が740℃未満であることが好ましく、670℃以下であることがさらに好ましい。また、第2温度が300℃以上であることが好ましい。第2温度が300℃以上であれば、ガスセンサ10の周囲環境が第2状態から第1状態に変化したときに、速やかにセンサ素子100を活性化し、計測を再開することができる。
【0081】
ここで、保護層205や保護コートCは、排気ガス中の酸素、窒素酸化物、アンモニア等の通過を許容し、水分や、検知電極202A、202Bをはじめとする各種電極に悪影響を与える被毒物質(例えばP、Si、S、Mg等)をトラップする。排気ガスに含まれるアンモニアは、本来、保護層205や保護コートCを通り抜けて検知電極202A、202Bをはじめとする各種電極の表面に到達する。しかし、センサ素子100の周囲環境が高温になることによって外部プロテクタ12および内部プロテクタ13から遊離したクロムが、保護層205や保護コートCの表面に付着すると、排気ガス中のアンモニアが保護層205や保護コートCの表面で燃焼してしまう。これにより、検知電極202A、202Bをはじめとする各種電極に到達するアンモニアの量が変化することで、計測制度の低下が引き起こされてしまうと考えられる。
【0082】
ガスセンサ10の周囲に計測対象ガスがある程度の流速で流れている場合には、センサ素子100の周囲が換気された状態となっており、プロテクタ12、13から遊離したクロムは、排気ガスの流れに乗ってセンサ素子100の周囲環境から排出されるため、保護層205や保護コートCにあまり付着しないと考えられる。しかし、ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が低下すると、遊離したクロムがセンサ素子100の周囲環境から排出されずに保護層205や保護コートCに付着し、計測制度の低下が起こると考えられる。
【0083】
一方、アンモニアの燃焼による計測精度の低下は、センサ素子100が低温で制御されていれば大幅に抑制されることがわかった。
【0084】
アンモニアの燃焼による計測精度の低下のメカニズムは、以下のようであると推測される。
(A)プロテクタ12、13からクロムが揮発し、センサ素子100(例えば保護層205や保護コートC)に吸着される。
(B)吸着されたクロムと何らかの物質(例えば、保護層205や保護コートCに含まれるアルミナ、あるいは酸素)が反応し、化合物や錯体が生成される。
(C)生成された化合物や錯体が触媒となってアンモニアが燃焼する。
【0085】
ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が低下した時に、センサ素子100が低温で制御されることで、クロムがセンサ素子100に吸着されたとしても、上記(B)の反応を抑制できると考えられる。なお、上記(B)の反応に至らなかったクロムは、計測対象ガスの流速が大きくなると容易にセンサ素子100から遊離するため、計測対象ガスの流速が回復した時には、センサ素子100の温度を上げてもほとんど影響はないと考えられる。
【0086】
[作用効果]
以上のように本実施形態によれば、センサ制御装置300は、計測対象ガス中の窒素酸化物を検知するNOxセンサ部101と、計測対象ガス中のアンモニアを検知するアンモニアセンサ部201と、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201を加熱するヒータ170と、を備えるセンサ素子100と、クロムを含む金属により構成され、センサ素子100を囲んで配置されるプロテクタ12、13と、を備えるガスセンサ10に接続されてガスセンサ10を制御するセンサ制御装置300であって、ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が所定の値以上である第1状態と判断したときに、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201が活性化する第1温度となるようにヒータ170を制御する通常制御と、ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が所定の値未満である第2状態と判断したときに、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201が第1温度よりも低い第2温度となるようにヒータ170を制御する抑制制御とを選択的に実行するCPU321およびヒータ駆動回路317を備える。
【0087】
アンモニアの燃焼による計測精度の低下は、例えばアイドリングストップ時においてガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が小さくなるときに、プロテクタ12、13から遊離したクロムがセンサ素子100に付着してしまうことで起こると考えられる。一方、アンモニアの燃焼による計測精度の低下は、センサ素子100が低温で制御されていれば大幅に抑制できることが分かった。ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が所定の値以上であるときには、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201が活性化する第1温度となるようにヒータ170を制御して計測を行い、ガスセンサ10の周囲の計測対象ガスの流速が所定の値未満であるときには、NOxセンサ部101およびアンモニアセンサ部201が第1温度よりも低い第2温度となるようにヒータ170を制御してアンモニアの燃焼を抑制することによって、計測対象ガス中の特定成分を精度よく計測できる。
【0088】
<変形例>
変形例では、
図7に示すように、CPU321は、ガスセンサ10の周囲環境が第1状態から第2状態に変化したと判断してから所定時間経過後に、通常制御から抑制制御への切り替えを実行する。例えば、短時間のアイドルストップのように、第2状態となる時間が極めて短い場合には、計測精度への影響はほとんどないと考えられ、このような場合にまでセンサ素子100の温度を低下させることはかえって煩わしい。このため、ガスセンサ10の周囲環境が第2状態となってから所定時間経過後に、通常制御から抑制制御への切り替えを実行することで、第2状態となる時間が極めて短い場合には、抑制制御を実行しないことが好ましい。「所定時間」とは、例えば、10s以上であることが好ましい。なお、
図7において、濃い網掛けの領域は第1状態、薄い網掛けの領域は第2状態を示す。
【0089】
<試験例>
上記実施形態と同様の構成のガスセンサを準備し、排気ガス雰囲気中に設置した。ガスセンサの周囲環境を無風状態(排気ガスの流速がほとんど0の状態)として、排気ガス中のアンモニア濃度に対応するガスセンサからの出力値を連続的に取得した。計測開始時のガスセンサからの出力値に対する特定時間後のガスセンサからの出力値の比を算出し、出力比とした。
【0090】
図8に示すように、センサ素子の温度が740℃に制御されている場合、出力比は測定開始直後から急速に低下し、600時間後の出力比は10%以下であった。センサ素子の温度が700℃に制御されている場合、600時間後の出力比は、20%以下であった。出力比の低下は、740℃の場合よりも緩やかであった。センサ素子の温度が680℃に制御されている場合、600時間後の出力比は50%以下であり、1200時間後の出力比は20%以下であった。出力比の低下は、740℃および700℃の場合よりもさらに緩やかであった。センサ素子の温度が662℃に制御されている場合、出力比はほとんど低下せず、600時間後の出力比は90%以上であり、1200時間後であっても出力比は80%以上であった。以上のように、アンモニアの燃焼による計測精度の低下は、センサ素子の温度が低いほど抑制されることが確認された。
【0091】
<他の実施形態>
(1)上記実施形態では、ガスセンサ10がアンモニアセンサであったが、ガスセンサの種類は上記実施形態の限りではなく、例えば、酸素センサであっても構わない。アンモニア酸化反応により酸素も消費され、計測に影響が出るためである。
(2)上記実施形態では、ディーゼルエンジン401のアイドリングストップ条件を用いて、ガスセンサ10の周囲環境が第1状態であるか第2状態であるかを判断したが、第1状態であるか第2状態であるかの判断に用いられる条件は上記実施形態の限りではなく、例えば、エンジンの回転数が所定の値以上である場合を第1状態、所定の値未満である場合を第2状態と判断しても構わない。あるいは、車両の速度が所定の値以上である場合を第1状態、所定の値未満である場合を第2状態と判断しても構わない。あるいは、排気管内に流速計を取り付け、流速計により計測された流速が所定の値以上である場合を第1状態、所定の値未満である場合を第2状態と判断しても構わない。
【符号の説明】
【0092】
1:ガス計測装置
10:ガスセンサ
11:主体金具
11A:貫通孔
12:外部プロテクタ(プロテクタ)
13:内部プロテクタ(プロテクタ)
14:外筒
15:セラミックホルダ
16A、16B:滑石リング
17:セラミックスリーブ
18:保持部材
18A:挿入孔
19:端子部材
20:リード線
21:弾性シール部材
100:センサ素子
101:NOxセンサ部(検知部)
110:第1ポンプセル
111:第1固体電解質体
112:第1電極
113:第2電極
120:Vsセル
121:第2固体電解質体
122:第3電極
123:第4電極
130:第2ポンプセル
131:第3固体電解質体
132:第5電極
133:第6電極
141:第1絶縁層
142:第2絶縁層
143:第3絶縁層
151:第1拡散抵抗体
152:第2拡散抵抗体
161:多孔質体
162:多孔質体
163:多孔質体
170:ヒータ
171:第4絶縁層
172:第5絶縁層
173:抵抗発熱体
201:アンモニアセンサ部(検知部)
201A:第1アンモニアセンサ部
201B:第2アンモニアセンサ部
202A:第1基準電極
202B:第2基準電極
203A:第4固体電解質体
203B:第5固体電解質体
204A:第1検知電極
204B:第2検知電極
205:保護層
300:センサ制御装置
310:電気回路部
311:基準電圧比較回路
312:Ip1ドライブ回路
313:Vs検出回路
314:Icp供給回路
315:Ip2検出回路
316:Vp2印加回路
317:ヒータ駆動回路(ヒータ制御部)
318:抵抗検出回路
319A:第1起電力検出回路
319B:第2起電力検出回路
320:マイクロコンピュータ
321:CPU(ヒータ制御部)
323:RAM
323:ROM
324:信号入出力部
325:A/Dコンバータ
400:ECU
401:ディーゼルエンジン(内燃機関)
402:排気管
403:酸化触媒
404:DPF
405:SCR触媒
AX:軸線
C:保護コート
R1:第1測定室
R2:第2測定室
R3:基準酸素室