(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びセンサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20241206BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/416 331
(21)【出願番号】P 2021192898
(22)【出願日】2021-11-29
【審査請求日】2024-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-168824(JP,A)
【文献】特開2015-010861(JP,A)
【文献】特開2021-043224(JP,A)
【文献】特開2003-156468(JP,A)
【文献】特開昭61-108953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサであって、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有する素子本体と、
前記素子本体の外側に配設されたコネクタ電極と、
前記素子本体の外側に配設され前記コネクタ電極と電気的に導通しているリードと、
前記リードを被覆し、該リードを被覆する部分の厚さT1が2μm以上であり、気孔率P1が20%以下であり、前記コネクタ電極との高低差D1が22μm以下である保護層と、
を有するセンサ素子と、
前記コネクタ電極に向けて突出し該コネクタ電極と接触して電気的に導通している導通部と、前記リードに向けて突出し前記保護層と接触している支持部と、を有する接触金具と、
を備えたガスセンサ。
【請求項2】
前記保護層の前記気孔率P1が10%以下である、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記素子本体は長手方向を有する長尺な形状をしており、
前記接触金具の前記導通部と前記支持部とは、前記長手方向に沿って配置されており、
前記保護層は、前記長手方向の長さLが2mm以上である、
請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記リードの高さから前記コネクタ電極の高さを引いた高低差D2が0μm超過である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記高低差D1は4μm以上である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記保護層は、アルミナ及びジルコニアの少なくともいずれかの粒子を含むセラミックスである、
請求項1~5のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項7】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有する素子本体と、
前記素子本体の外側に配設されたコネクタ電極と、
前記素子本体の外側に配設され前記コネクタ電極と電気的に導通しているリードと、
前記リードを被覆し、該リードを被覆する部分の厚さT1が2μm以上であり、気孔率P1が20%以下であり、前記コネクタ電極との高低差D1が22μm以下である保護層と、
を備えたセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ及びセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサが知られている。例えば、特許文献1のガスセンサは、センサ素子と、センサ素子の表面に設けられた電極に電気的に接続される接触金具と、を備えている。接触金具は、金属を曲げ加工して作製された細長い部材であり、センサ素子側に突出した支持部及び導通部を備えている。接触金具は、センサ素子に向かって押圧されると、支持部がセンサ素子の表面に接触すると共に導通部がセンサ素子の電極に接触する。これにより、導通部によってセンサ素子と接触部材との電気的な導通が保たれると共に、支持部もセンサ素子に接触することで導通部からの押圧力によるセンサ素子の割れを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、センサ素子の電極にはリードが接続されており、リードがセンサ素子の外側に配設されていると、リードが接触金具の支持部と接触することで擦れにより摩耗する場合があった。これを抑制するために、リードを保護層で被覆してリードと支持部との直接の接触を防ぐことが考えられる。しかし、リードを保護層で被覆すると、保護層の厚さによって導通部と電極との導通が不十分になる場合があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、リードの摩耗を抑制しつつコネクタ電極と接触金具との導通不良を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のガスセンサは、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサであって、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有する素子本体と、
前記素子本体の外側に配設されたコネクタ電極と、
前記素子本体の外側に配設され前記コネクタ電極と電気的に導通しているリードと、
前記リードを被覆し、該リードを被覆する部分の厚さT1が2μm以上であり、気孔率P1が20%以下であり、前記コネクタ電極との高低差D1が22μm以下である保護層と、
を有するセンサ素子と、
前記コネクタ電極に向けて突出し該コネクタ電極と接触して電気的に導通している導通部と、前記リードに向けて突出し前記保護層と接触している支持部と、を有する接触金具と、
を備えたものである。
【0008】
このガスセンサでは、リードと支持部との間に存在する保護層の気孔率P1が20%以下且つ保護層のうちリードを被覆する部分の厚さT1が2μm以上であるため、保護層が支持部からリードを保護してリードの摩耗を抑制できる。また、厚さT1が大きいほど保護層とコネクタ電極との高低差D1は大きくなる傾向にあるが、高低差D1を22μm以下とすることで、コネクタ電極の高さに対して保護層の高さが大きすぎて導通部とコネクタ電極との接触が不十分になり導通部とコネクタ電極との導通不良が生じることを抑制できる。以上のことから、本発明のガスセンサではリードの摩耗を抑制しつつコネクタ電極と接触金具との導通不良を抑制できる。ここで、高低差D1は、保護層の高さがコネクタ電極の高さよりも大きい場合に正の値となるものとする。言い換えると、高低差D1は、保護層の高さからコネクタ電極の高さを引いた値である。
【0009】
本発明のガスセンサにおいて、前記保護層の前記気孔率P1が10%以下であってもよい。こうすれば、保護層がリードの摩耗を抑制する効果が高まる。
【0010】
本発明のガスセンサにおいて、前記素子本体は長手方向を有する長尺な形状をしており、前記接触金具の前記導通部と前記支持部とは、前記長手方向に沿って配置されており、前記保護層は、前記長手方向の長さLが2mm以上であってもよい。こうすれば、保護層と支持部との相対位置が長手方向にずれた場合でも、保護層が支持部とリードとの間に存在してリードを保護している状態を保ちやすい。そのため、支持部がリードと直接接触してリードを摩耗させてしまうことを抑制できる。
【0011】
本発明のガスセンサにおいて、前記リードの高さから前記コネクタ電極の高さを引いた高低差D2が0μm超過であってもよい。高低差D2が0μm超過である場合、すなわちリードの方がコネクタ電極よりも高さが大きい場合は、そのリードの上にさらに保護層が存在するため高低差D1が大きくなりやすいが、その場合でも高低差D1が22μm以下であることでコネクタ電極と接触金具との導通不良を抑制できる。
【0012】
本発明のガスセンサにおいて、前記高低差D1は4μm以上であってもよい。本発明のガスセンサにおいて、前記保護層は、アルミナ及びジルコニアの少なくともいずれかの粒子を含むセラミックスであってもよい。
【0013】
本発明のセンサ素子は、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有する素子本体と、
前記素子本体の外側に配設されたコネクタ電極と、
前記素子本体の外側に配設され前記コネクタ電極と電気的に導通しているリードと、
前記リードを被覆し、該リードを被覆する部分の厚さT1が2μm以上であり、気孔率P1が20%以下であり、前記コネクタ電極との高低差D1が22μm以下である保護層と、
を備えたものである。
【0014】
このセンサ素子は、上述したガスセンサのセンサ素子と同様に、気孔率P1が20%以下でありリードを被覆する部分の厚さT1が2μm以上でありコネクタ電極との高低差D1が22μm以下である保護層を備えている。そのため、このセンサ素子は上述した本発明のガスセンサで用いられるセンサ素子に適している。例えば、このセンサ素子に接触金具を取り付ける際に、接触金具の導通部がコネクタ電極と導通し且つ接触金具の支持部が保護層のうちリードを被覆する部分と接触するようにすれば、リードの摩耗を抑制しつつコネクタ電極と接触金具との導通不良を抑制できる。なお、このセンサ素子において、上述した本発明のガスセンサの種々の態様を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図。
【
図8】センサ素子20と接触金具52との接触部分C1,C2を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図である。
図2は、センサ素子20を右上前方から見た斜視図である。
図3は、
図2のA-A断面図である。
図4は、センサ素子20の上面図である。本実施形態において、
図2,3に示すように、センサ素子20の素子本体60の長手方向を前後方向(長さ方向)とし、素子本体60の積層方向(厚さ方向)を上下方向とし、前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向(幅方向)とする。
【0017】
図1に示すように、ガスセンサ10は、組立体15と、ボルト47と、外筒48と、コネクタ50と、リード線55と、ゴム栓57とを備えている。組立体15は、センサ素子20と、保護カバー30と、素子封止体40とを備えている。ガスセンサ10は、例えば車両の排ガス管などの配管58に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO
2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ10は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。センサ素子20の長手方向に沿った両端(前端,後端)のうち、前端側が被測定ガスに晒される側である。
【0018】
保護カバー30は、
図1に示すように、センサ素子20の前端側を覆う有底筒状の内側保護カバー31と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー32とを備えている。内側,外側保護カバー31,32の各々には、被測定ガスを流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー31で囲まれた空間として素子室33が形成されており、センサ素子20の第5面60e(前端面)はこの素子室33内に配置されている。
【0019】
素子封止体40は、センサ素子20を封止固定する部材である。素子封止体40は、主体金具42及び内筒43を備えた筒状体41と、碍子44a~44cと、圧粉体45a,45bと、メタルリング46と、を備えている。センサ素子20は素子封止体40の中心軸上に位置しており、素子封止体40を上下方向に貫通している。
【0020】
主体金具42は、筒状の金属製部材である。主体金具42は、前側が後側よりも内径の小さい肉厚部42aとなっている。主体金具42のうちセンサ素子20の前端と同じ側(前側)には、保護カバー30が取り付けられている。主体金具42の後端は内筒43のフランジ部43aと溶接されている。肉厚部42aの内周面の一部は段差面である底面42bとなっている。この底面42bは碍子44aが前方に飛び出さないようにこれを押さえている。
【0021】
内筒43は、筒状の金属製部材であり、前端にフランジ部43aを有している。内筒43と主体金具42とは同軸に溶接固定されている。また、内筒43には、圧粉体45bを内筒43の中心軸方向に押圧するための縮径部43cと、メタルリング46を介して碍子44a~44c,圧粉体45a,45bを
図1の下方向に押圧するための縮径部43dとが形成されている。
【0022】
碍子44a~44c及び圧粉体45a,45bは、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に配置されている。碍子44a~44cは、圧粉体45a,45bのサポーターとしての役割を果たす。圧粉体45a,45bは、例えばタルク等のセラミックス粉末を成型したものである。圧粉体45a,45bが筒状体41とセンサ素子20との間に充填されて圧縮されることで、圧粉体45a,45bは保護カバー30内の素子室33と外筒48内の空間49との間を封止すると共に、センサ素子20を固定している。
【0023】
ボルト47は、主体金具42と同軸に主体金具42の外側に固定されている。ボルト47の外周面には雄ネジ部が形成されている。この雄ネジ部は、配管58に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材59内に挿入されている。これにより、ガスセンサ10のうちセンサ素子20の前端側や保護カバー30の部分が配管58内に突出した状態で、ガスセンサ10が配管58に固定できるようになっている。
【0024】
外筒48は、筒状の金属製部材であり、内筒43と、センサ素子20の後端側と、コネクタ50とを覆っている。外筒48の内側には主体金具42の後部が挿入されている。外筒48の前端は主体金具42と溶接されている。外筒48の後端からは、コネクタ50に接続された複数のリード線55が外部に引き出されている。コネクタ50は、センサ素子20の後端側の表面に配設された上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72に接触して電気的に接続されている。このコネクタ50を介して、リード線55はセンサ素子20の内部の各電極64~68及びヒータ69と電気的に導通している。コネクタ50の詳細については後述する。外筒48とリード線55との隙間はゴム栓57によって封止されている。外筒48内の空間49は基準ガスで満たされている。空間49にはセンサ素子20の第6面60f(後端面)が配置されている。
【0025】
センサ素子20は、
図2~4に示すように、素子本体60と、検出部63と、ヒータ69と、上側コネクタ電極71と、下側コネクタ電極72と、多孔質層80と、第1緻密層86と、第2緻密層87と、第1保護層と、第2保護層と、を備えている。素子本体60は、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数(
図3では6個)積層した積層体を有している。素子本体60は、長手方向が前後方向に沿っている長尺な直方体形状をしており、上下左右前後の各々の外表面として第1~第6面60a~60fを有している。第1面~第4面60a~60dは、素子本体60の長手方向に沿った表面であり、素子本体60の側面に相当する。第5面60eは、素子本体60の前端面であり、第6面60fは、素子本体60の後端面である。素子本体60の寸法は、例えば長さが25mm以上100mm以下、幅が2mm以上10mm以下、厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。素子本体60には、第5面60eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口61と、第6面60fに開口して特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(ここでは大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口62と、が形成されている。
【0026】
検出部63は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのものである。検出部63は、素子本体60の前端側に配設された複数の電極を有している。本実施形態では、検出部63は、第1面60aに配設された外側電極64と、素子本体60の内部に配設された内側主ポンプ電極65,内側補助ポンプ電極66,測定電極67,及び基準電極68とを備えている。内側主ポンプ電極65及び内側補助ポンプ電極66は、素子本体60の内部の空間の内周面に配設されておりトンネル状の構造を有している。
【0027】
検出部63が被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する原理は周知であるため詳細な説明は省略するが、検出部63は例えば以下のように特定ガス濃度を検出する。検出部63は、外側電極64と内側主ポンプ電極65との間に印加された電圧に基づいて、内側主ポンプ電極65周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出し又は汲み入れを行う。また、検出部63は、外側電極64と内側補助ポンプ電極66との間に印加された電圧に基づいて、内側補助ポンプ電極66周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出し又は汲み入れを行う。これらにより、酸素濃度が所定値に調整された後の被測定ガスが、測定電極67周辺に到達する。測定電極67は、NOx還元触媒として機能し、到達した被測定ガス中の特定ガス(NOx)を還元する。そして、検出部63は、還元後の酸素濃度に応じて測定電極67と基準電極68との間に発生する起電力又はその起電力に基づいて測定電極67と外側電極64との間に流れる電流を、電気信号として発生させる。このように検出部63が発生させた電気信号は、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた値(特定ガス濃度を導出可能な値)を示す信号であり、検出部63が検出した検出値に相当する。
【0028】
ヒータ69は、素子本体60内部に配設された電気抵抗体である。ヒータ69は、外部から給電されることにより発熱して素子本体60を加熱する。ヒータ69は、素子本体60を形成する固体電解質層の加熱及び保温を行って、固体電解質層が活性化する温度(例えば800℃)に調整することが可能となっている。
【0029】
上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72は、それぞれ素子本体60の側面のいずれかの後端側に配設されており、外部と電気的に導通するための電極である。上側,下側コネクタ電極71,72は、いずれもセンサ素子20の外側に露出している。本実施形態では、上側コネクタ電極71として上側コネクタ電極71a~71dの4個が左右方向に沿って並べられて、第1面60aの後端側に配設されている。同様に、下側コネクタ電極72として4個の電極が左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)とは反対側の第2面60b(下面)の後端側に配設されている。下側コネクタ電極72については4個のうち一部のみ
図1~3に図示した。上側,下側コネクタ電極71,72は、各々が検出部63の複数の電極64~68及びヒータ69のいずれかと電気的に導通している。本実施形態では、上側コネクタ電極71aが測定電極67と導通し、上側コネクタ電極71bが外側電極64と導通し、上側コネクタ電極71cが内側補助ポンプ電極66と導通し、上側コネクタ電極71dが内側主ポンプ電極65と導通し、4個の下側コネクタ電極72がそれぞれヒータ69及び基準電極68と導通している。上側コネクタ電極71bと外側電極64とは、第1面60aに配設されたリード75bを介して導通している(
図3,4参照)。上側コネクタ電極71cと内側補助ポンプ電極66とは、第1面60a及び第4面60dに配設されたリード75c(
図2,4参照)及び素子本体60内部に配設されたリードを介して導通している。それ以外のコネクタ電極は、素子本体60内部に配設されたリードやスルーホールなどを介して、対応する電極又はヒータ69と導通している。
【0030】
リード75b,75cは、例えば白金(Pt)等の貴金属又はタングステン(W),モリブデン(Mo)等の高融点金属を含む導電体である。リード75b,75cは、貴金属又は高融点金属と、素子本体60に含まれる酸素イオン伝導性固体電解質(本実施形態ではジルコニア)と、を含むサーメットの導電体であることが好ましい。本実施形態では、リード75b,75cは白金とジルコニアとを含むサーメットの導電体とした。リード75b,75cの気孔率は、例えば5%以上40%以下としてもよい。リード75b,75cの線幅(太さ)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下である。リード75b,75cと素子本体60の第1面60aとの間には、リード75b,75cと素子本体60の固体電解質層とを絶縁するための図示しない絶縁層が配設されていてもよい。
【0031】
多孔質層80は、上側,下側コネクタ電極71,72が配設された素子本体60の側面すなわち第1,第2面60a,60bのうち、少なくとも前端側を被覆する多孔質体である。本実施形態では、多孔質層80は、第1,第2面60a,60bをそれぞれ被覆する内側多孔質層81と、内側多孔質層81の外側に配設された外側多孔質層85と、を備えている。
【0032】
内側多孔質層81は、第1面60aを被覆する第1内側多孔質層83と、第2面60bを被覆する第2内側多孔質層84とを備えている。第1内側多孔質層83は、上側コネクタ電極71a~71dが配設された第1面60aの前端から第1緻密層86までの領域を全て覆っている(
図2~4参照)。第1内側多孔質層83の左右の幅は第1面60aの左右の幅と同じであり、第1内側多孔質層83は第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1内側多孔質層83は、外側電極64及びリード75bのそれぞれ少なくとも一部を被覆している。第1内側多孔質層83は、例えば素子室33内の被測定ガス中の硫酸などの成分から外側電極64及びリード75bを保護して、これらの腐食などを抑制する役割を果たす。第2内側多孔質層84は、下側コネクタ電極72が配設された第2面60bの前端から第2緻密層87までの領域を全て覆っている(
図2,3参照)。第2内側多孔質層84は、第1内側多孔質層83と上下対称となるように配置されている。
【0033】
外側多孔質層85は、第1~第5面60a~60eを被覆している。外側多孔質層85は、第1面60a及び第2面60bについては、内側多孔質層81を被覆することでこれらの面を被覆している。外側多孔質層85は、内側多孔質層81と比べて前後方向の長さが短くなっており、内側多孔質層81とは異なり素子本体60の前端及び前端付近の領域だけを被覆している。これにより、外側多孔質層85は、素子本体60のうち検出部63の各電極64~68の周辺部分、言い換えると素子本体60のうち素子室33内に配置されて被測定ガスに晒される部分、を被覆している。これにより、外側多孔質層85は、例えば被測定ガス中の水分等が付着して素子本体60にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。
【0034】
多孔質層80は、気孔率が10%以上である。多孔質層80は外側電極64や被測定ガス導入口61を覆っているが、気孔率が10%以上であれば、被測定ガスは多孔質層80を通過できる。内側多孔質層81の気孔率は、10%以上50%以下としてもよい。外側多孔質層85の気孔率は、10%以上85%以下としてもよい。外側多孔質層85は、内側多孔質層81よりも気孔率が高くてもよい。
【0035】
第1緻密層86及び第2緻密層87は、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制するものである。第1緻密層86は、上側コネクタ電極71及び第1内側多孔質層83が配設された第1面60aに配設されている。第1緻密層86は、外側電極64よりも後方且つ第1保護層91よりも前方に配設されている。第1緻密層86は、外側電極64も含めた検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に配設されている(
図3参照)。第1緻密層86は、前後方向で碍子44bと重複する位置に配置されている(
図1参照)。言い換えると、第1緻密層86の前端から後端までの領域が、碍子44bの前端から後端までの領域内に位置している。第1緻密層86は、水分が第1内側多孔質層83内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水分が第1緻密層86を通過するのを抑制して、水分が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制する役割を果たす。第1緻密層86は、気孔率が10%未満の緻密な層である。第1緻密層86の左右の幅は第1面60aの左右の幅と同じであり、第1緻密層86は第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1緻密層86は、第1内側多孔質層83の後端に隣接している。第1緻密層86は、第1保護層91とは離間して配置されている。第1緻密層86は、
図4に示すように、リード75bの一部を被覆している。第1緻密層86と第1保護層91との間は、多孔質層80及び第1保護層91が存在しない隙間領域となっており、隙間領域ではリード75bが露出している。
【0036】
第2緻密層87は、下側コネクタ電極72及び第2内側多孔質層84が配設された第2面60bに配設されている。第2緻密層87は、第1緻密層86と上下対称となるように配置されているため、第2緻密層87の配置に関する詳細な説明は省略する。第2緻密層87は、水分が第2内側多孔質層84内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水分が第2緻密層87を通過するのを抑制して、水分が下側コネクタ電極72に到達するのを抑制する役割を果たす。第2緻密層87は、気孔率が10%未満の緻密な層である。
【0037】
第1緻密層86及び第2緻密層87は、それぞれ、長手方向の長さが0.5mm以上であることが好ましい。長さが0.5mm以上であることで、水分が第1緻密層86及び第2緻密層87を通過することを十分抑制できる。第1緻密層86及び第2緻密層87の長さは25mm以下としてもよく、20mm以下としてもよい。なお、第1緻密層86の長さと第2緻密層87の長さとは本実施形態では同じ値としたが、両者が異なる値でもよい。
【0038】
第1保護層91は、リード75b,75cをコネクタ50の接触金具52から保護するための部材である。第1保護層91は、上側コネクタ電極71及びリード75b,75cが配設された第1面60aに配設されている。第1保護層91は、第1面60aに形成されたリード75b,75cの少なくとも一部を被覆している。第1保護層91は、第1緻密層86よりも後方且つ上側コネクタ電極71よりも前方に配設されている。第1保護層91は、碍子44cよりも後方に配置されている(
図1参照)。第1保護層91の左右の幅は第1面60aの左右の幅と同じであり、第1保護層91は第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1保護層91は、上側コネクタ電極71の後端に隣接するか又は上側コネクタ電極71からわずかに前方に離れた位置に配設されている。第1保護層91は、気孔率P1が20%以下である。気孔率P1は、10%以下が好ましい。気孔率P1は、多孔質層80の気孔率より低くてもよい。
【0039】
第2保護層92は、下側コネクタ電極72が配設された第2面60bに配設されている。第2保護層92は、第1保護層91と上下対称となるように配置されている。本実施形態では、第2面60bの表面にはリードが配設されていないため、第2保護層92はリードを被覆していない。第2保護層92は、第2面60bを保護する役割を果たす。
【0040】
コネクタ50について詳細に説明する。
図5は、コネクタ50の斜視図である。
図6は、
図5のB-B断面図である。
図7は、接触金具52の斜視図である。
図8は、センサ素子20と接触金具52との接触部分C1,C2を示す説明図である。
図6は、センサ素子20の上側コネクタ電極71bを通る断面を示している。また、
図6ではリード75bの図示を省略している。
図8は、
図4のうち第1保護層91の周辺を拡大して示している。コネクタ50は、第1ハウジング51a及び第2ハウジング51bと、接触金具52と、クランプ54と、を備えている。
【0041】
第1ハウジング51a及び第2ハウジング51bは、アルミナ焼結体などセラミックス製の部材である。第1ハウジング51a及び第2ハウジング51bは、それぞれ複数(ここでは4個)の接触金具52をセンサ素子20の長手方向と直交する方向(左右方向)に並べて保持する。
【0042】
接触金具52は、例えば板状の金属を曲げ加工して作製された部材である。接触金具52は、先端部53aと、支持部53bと、導通部53cと、フック部53dと、保持部53eとを備えている。先端部53a及びフック部53dは、湾曲した形状をしており、これらが第1,第2ハウジング51a,51bに係止されることで接触金具52が第1,第2ハウジング51a,51bに保持されるようになっている(
図6参照)。支持部53b及び導通部53cは、接触金具52の長手方向に沿って配置されており、導通部53cは支持部53bよりも保持部53eに近い位置に配置されている。支持部53b及び導通部53cは、いずれもセンサ素子20に向かって湾曲して突出している。保持部53eは、コネクタ50の外部でリード線55の複数の芯線を圧着して保持する。なお、
図7の保持部53eは圧着前の状態を示している。
【0043】
接触金具52の支持部53b及び導通部53cは、いずれも弾性変形可能に形成されており、ばね定数が例えば500~4000N/mmの範囲である。
図7に示すように、支持部53bは突出高さH1だけセンサ素子20に向けて突出している。導通部53cは突出高さH2だけセンサ素子20に向けて突出している。導通部53cは、突出高さH2が突出高さH1の90%~110%であることが好ましい。突出高さH1と突出高さH2とは近いほど好ましく、突出高さH1と突出高さH2とが等しいことがより好ましい。なお、「突出高さH1と突出高さH2とが等しい」とは、突出高さが略等しい場合を含む。突出高さH1,H2は、特に限定するものではないが、例えば0.1mm~1mmである。支持部53bは、突出形状の先端部分の内周面(
図7における支持部53bの上側の面)の曲率半径R1が例えば0.8~1.6mmであり、突出形状の両肩部分の湾曲の外周面(
図7における上側の面)の曲率半径R2,R3が例えば1.2mm~2.2mmである。導通部53cは、突出形状の先端部分の内周面(
図7における導通部53cの上側の面)の曲率半径R4が例えば0.8~1.6mmであり、突出形状の両肩部分の湾曲の外周面(
図7における上側の面)の曲率半径R5,R6が例えば1.2mm~1.5mmである。なお、曲率半径R2=R3としてもよいし、曲率半径R5=R6としてもよい。また、曲率半径R5,R6は、曲率半径R2,R3と同じとしてもよいし、曲率半径R2,R3より大きいものとしてもよい。なお、ここで説明した突出高さH1,突出高さH2,及び曲率半径R1~R6の値は、いずれもコネクタ50がセンサ素子20に取り付けられている状態(接触金具52がセンサ素子20に接触している状態)での値とする。
【0044】
複数の接触金具52は、各々の導通部53cがセンサ素子20の上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72と1対1に対向するように、第1,第2ハウジング51a,51bによって保持される。これにより、複数の接触金具52の各々の導通部53cは、対向する上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72と接触してこれらと電気的に導通する。また、複数の接触金具52の各々の支持部53bは、センサ素子20のうち上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72よりも前方の位置でセンサ素子20と接触し、より具体的にはセンサ素子20の第1保護層91及び第2保護層92と接触する。
図8には、支持部53b及び第1保護層91の接触部分C1の位置と、導通部53c及び上側コネクタ電極71の接触部分C2の位置とを破線枠で示した。接触金具52と下側コネクタ電極72及び第2保護層92との接触部分の位置は、
図8と同様であるため図示を省略する。
【0045】
複数の接触金具52のうち第1ハウジング51aに保持されて上側コネクタ電極71a~71dの各々と接触するものを、接触金具52a~52dと称して区別する(
図5参照)。例えば接触金具52bの導通部53cは
図8に示す接触部分C2で上側コネクタ電極71bと接触し、接触金具52bの支持部53bは上側コネクタ電極71bよりも前方の接触部分C1で第1保護層91に接触する。接触金具52cの導通部53cは
図8に示す接触部分C2で上側コネクタ電極71cと接触し、接触金具52cの支持部53bは上側コネクタ電極71cよりも前方の接触部分C1で第1保護層91に接触する。
図8に示すように、接触金具52bの支持部53bと第1保護層91との接触部分C1の真下には、リード75bが存在する。接触金具52cの支持部53bと第1保護層91との接触部分C1の真下には、リード75cが存在する。
【0046】
クランプ54は、板状の金属をC字状に曲げ加工したものであり、第1ハウジング51a及び第2ハウジング51bを挟持して互いに近接する方向に押圧可能な弾性力を有している。クランプ54はこの弾性力により第1ハウジング51aと第2ハウジング51bとを保持する。また、クランプ54からの押圧力によって接触金具52の支持部53b及び導通部53cがそれぞれ弾性変形してセンサ素子20を挟持して固定する。支持部53b及び導通部53cの弾性変形による押圧力によって、コネクタ50はセンサ素子20を教示して固定することができる。また、導通部53cが弾性変形しているため、導通部53cと上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72との電気的な導通を保つことができる。
【0047】
ここで、上側コネクタ電極71b,リード75b,第1保護層91,及び接触金具52bの位置関係について詳細に説明する。
図9は、
図8のC-C断面の部分拡大図である。
図10は、
図8のD-D断面の部分拡大図である。なお、説明の便宜上、
図10では後述する高低差D1,D2を誇張して図示している。
図9,10に示すように、第1保護層91はリード75bを被覆することでリード75bとその真上に位置する接触金具52bの支持部53bとの間に存在しており、これにより第1保護層91は支持部53bからリード75bを保護している。第1保護層91のうちリード75bを被覆する部分の厚さT1は2μm以上である。厚さT1は、第1保護層91のうちリード75bの真上の部分の厚さである。また、上述したように第1保護層91の気孔率P1は20%以下である。このように、リード75bと支持部53bとの間に存在する第1保護層91の気孔率P1が20%以下且つ厚さT1が2μm以上であることで、第1保護層91が支持部53bからリード75bを保護してリード75bの摩耗を抑制できる。また、リード75bに接続された上側コネクタ電極71bと第1保護層91との高低差D1(
図10参照)は、22μm以下である。ここで、高低差D1が大きすぎる場合、すなわち上側コネクタ電極71bの高さ(ここでは上側コネクタ電極71bの上面の高さ)に対して第1保護層91の高さ(ここでは第1保護層91の上面の高さ)が大きすぎる場合は、接触金具52bの導通部53cと上側コネクタ電極71bとの接触部分C2での接触が不十分になる場合がある。これにより、導通部53cと上側コネクタ電極71bとの導通不良が生じやすくなる場合がある。高低差D1が22μm以下であることで、そのような導通不良の発生を抑制できる。以上のことから、本実施形態のガスセンサ10では、第1保護層91の厚さT1が2μm以上であり、気孔率P1が20%以下であり、且つ高低差D1が22μm以下であることで、リード75bの摩耗を抑制しつつ上側コネクタ電極71bと接触金具52bとの導通不良を抑制できる。厚さT1が大きいほどリード75bの摩耗を抑制する効果は高まるが、厚さT1が大きいほど高低差D1も大きくなる傾向にある。本実施形態のガスセンサ10では、厚さT1を2μm以上としつつ高低差D1は22μm以下とすることで、上述した摩耗の抑制と導通不良の抑制とを両立している。なお、高低差D1は、第1保護層91の高さが上側コネクタ電極71bの高さよりも大きい場合に正の値となるものとする。言い換えると、高低差D1は、第1保護層91の高さから上側コネクタ電極71bの高さを引いた値である。高低差D1は、0μm超過としてもよいし、4μm以上としてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、リード75bの高さから上側コネクタ電極71bの高さを引いた高低差D2(
図10参照)が0μm超過となっている。すなわち、リード75bの高さが上側コネクタ電極71bの高さよりも大きくなっている。本実施形態では、
図10に示すようにリード75bの厚さT2が上側コネクタ電極71bの厚さT3よりも大きいことで、高低差D2が0μm超過になっている。ここで、高低差D1は、高低差D2と第1保護層91の厚さT1との和となる。そのため、高低差D2が0μm超過すなわち正の値となっている場合は、高低差D1は0μmにすることはできず必ず0μm超過(正の値)となる。この場合でも、高低差D1が22μm以下であれば、上述した理由により接触金具52bの導通部53cと上側コネクタ電極71bとの導通不良を抑制できる。高低差D2は、2μm以上としてもよい。厚さT2>厚さT3である場合、リード75bの一部が上側コネクタ電極71bの前端部を被覆していてもよい。すなわちリード75bと上側コネクタ電極71bとが一部重複していてもよい。こうすれば、リード75bと上側コネクタ電極71bとをより確実に導通させることができる。
【0049】
第1保護層91の気孔率P1は、10%以下であることが好ましい。気孔率P1が10%以下であれば、第1保護層91が緻密になり第1保護層91と支持部53bとの接触部分C1における第1保護層91自身の摩耗が抑制される。これにより、第1保護層91が摩耗して支持部53bがリード75bと接触してしまうことを抑制でき、リード75bの摩耗がより抑制される。
【0050】
第1保護層91の厚さT1は、10μm以上としてもよい。厚さT1が大きいほど、第1保護層91がリード75bの摩耗を抑制する効果が高まる。厚さT1は、20μm以下としてもよい。
【0051】
第1保護層91は、センサ素子20の長手方向(ここでは前後方向)に沿った長さL(
図4,
図10参照)が2mm以上であることが好ましい。長さLが2mm以上であれば、第1保護層91と接触金具52bの支持部53bとの相対位置が長手方向にずれた場合でも、第1保護層91が支持部53bとリード75bとの間に存在してリード75bを保護している状態を保ちやすい。言い換えるとセンサ素子20と接触金具52bとの接触部分C1の位置が第1保護層91から外れにくい。そのため、支持部53bがリード75bと直接接触してリード75bを摩耗させてしまうことを抑制できる。長さLは、6mm以下としてもよい。第1保護層91と上側コネクタ電極71の前端との距離Lg(
図4,
図10参照)は、例えば0μm以上としてもよい。本実施形態では、第1保護層91は上側コネクタ電極71から前方に離間して配設されており、距離Lgは0μmより大きい値である。
【0052】
なお、ここまでリード75bの摩耗の抑制と、上側コネクタ電極71bと接触金具52bとの導通不良の抑制と、について説明したが、リード75c及び上側コネクタ電極71cについても同様のことが言える。例えば、第1保護層91のうちリード75cを被覆する部分の厚さT1が2μm以上であり、第1保護層91の気孔率P1が20%以下であり、且つ第1保護層91と上側コネクタ電極71cとの高低差D1が22μm以下であれば、リード75cの摩耗を抑制しつつ上側コネクタ電極71cと接触金具52cとの導通不良を抑制できる。このように、第1保護層91に被覆されるリードが複数存在する場合には、各々のリード及びそのリードに接続されるコネクタ電極と第1保護層91とに関して、上述した厚さT1,気孔率P1,及び高低差D1の条件が満たされていれば、そのリードを摩耗を抑制でき且つそのコネクタ電極の導通不良を抑制できる。第1保護層91に被覆されるリードが複数存在する場合には、複数のリードのうち少なくとも1つのリードとそのリードに接続されるコネクタ電極とに関して、上述した厚さT1,気孔率P1,及び高低差D1の条件が満たされていればよい。また、第1保護層91に被覆される複数のリードのいずれについても、リードとそのリードに接続されるコネクタ電極とに関して、上述した厚さT1,気孔率P1,及び高低差D1の条件が満たされていることが好ましい。本実施形態では、リード75bとリード75cとが同じ厚さであり、上側コネクタ電極71bと上側コネクタ電極71cとが同じ厚さであり、第1保護層91の厚さT1がリード75bを被覆する部分とリード75cを被覆する部分とで同じ値であるものとした。そのため、本実施形態のガスセンサ10では、リード75bの摩耗を抑制しつつ上側コネクタ電極71bと接触金具52bとの導通不良を抑制できる効果と、リード75cの摩耗を抑制しつつ上側コネクタ電極71cと接触金具52cとの導通不良を抑制できる効果と、が共に得られる。
【0053】
第1保護層91は本実施形態では上側コネクタ電極71a,71dに接続されるリードを被覆していないが、第1保護層91と上側コネクタ電極71a,71dの各々との高低差も22μm以下であることが好ましい。こうすれば、接触金具52と上側コネクタ電極71a,71dとの導通不良を抑制できる。第2保護層92は、本実施形態ではリードを被覆していないためリードの摩耗を抑制する効果とは関係がないが、第2保護層92と下側コネクタ電極72との高低差が22μm以下であることが好ましい。こうすれば、接触金具52と下側コネクタ電極72との導通不良を抑制できる。
【0054】
第1保護層91は、構成粒子としてセラミック粒子を含むセラミックスであることが好ましく、アルミナ,ジルコニア,スピネル,コージェライト,チタニア,及びマグネシアの少なくともいずれかの粒子を含むことがより好ましい。第1保護層91は、構成粒子としてアルミナ及びジルコニアの少なくともいずれかの粒子を含むことがさらに好ましい。本実施形態では、第1保護層91はアルミナの粒子を含むセラミックスとした。多孔質層80,第1緻密層86,第2緻密層87,及び第2保護層92についても、第1保護層91と同様のセラミックスを用いることができる。本実施形態では、これらについても第1保護層91と同じくアルミナのセラミックスとした。
【0055】
第1保護層91の気孔率P1は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、第1保護層91の断面を観察面とするように第1保護層91の厚さ方向に沿ってセンサ素子20を切断し、切断面の樹脂埋め及び研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEMの倍率を1000倍から10000倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで第1保護層91のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率(単位:%)として導出する。多孔質層80,第1緻密層86及び第2緻密層87の気孔率も、同様にして導出した値とする。
【0056】
厚さT1~T3,高低差D1,及び高低差D2は、気孔率P1と同じくSEM画像を用いて以下のように測定した値とする。例えば第1保護層91,リード75b,及び上側コネクタ電極71bに関して厚さT1~T3,高低差D1,及び高低差D2を測定する際には、以下のように測定を行う。まず、第1保護層91のうちセンサ素子の短手方向(ここでは左右方向)における上側コネクタ電極71bの中心を通る断面(センサ素子の長手方向に沿った断面)を、SEM画像を撮影する観察面とする。次に、得られたSEM画像中の画素の輝度データに基づいてSEM画像中の第1保護層91,リード75b,及び上側コネクタ電極71bが存在する領域をそれぞれ特定する。そして、SEM画像中で第1保護層91におけるリード75bを被覆している部分(リード75bの真上の部分)のうちセンサ素子の長手方向に沿った中心及び両端の3点を測定箇所として第1保護層91の厚さを測定し、この3点の厚さの平均値を厚さT1とする。同様に、SEM画像中でリード75bにおける第1保護層91に被覆されている部分(第1保護層91の真下の部分)の中心及び両端の3点を測定箇所としてリード75bの厚さを測定し、この3点の厚さの平均値を厚さT2とする。上側コネクタ電極71bについてもSEM画像中の中心及び両端の3点の厚さの平均値を厚さT3とする。高低差D2は、SEM画像中の厚さT2の測定箇所と同じ3点の測定箇所におけるリード75bの高さ位置(ここではリード75bの上面の位置)の平均値と、厚さT3の測定箇所と同じ3点の測定箇所における上側コネクタ電極71bの高さ位置(ここでは上側コネクタ電極71bの上面の位置)の平均値と、の高さ方向(ここでは上下方向)の距離として測定する。高低差D1は、厚さT1と高低差D2との和として算出する。
【0057】
こうして構成されたガスセンサ10の製造方法を以下に説明する。まず、センサ素子20の製造方法について説明する。センサ素子20を製造する際には、まず、素子本体60に対応する複数(ここでは6枚)の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。各グリーンシートには、必要に応じて切欠や貫通孔や溝などを打ち抜き処理などによって設けたり、電極や配線パターンをスクリーン印刷したりする。配線パターンには、焼成後にリード75b,75cとなる未焼成リードのパターンも含まれる。また、焼成後に第1内側多孔質層83及び第2内側多孔質層84となる未焼成多孔質層,焼成後に第1緻密層86及び第2緻密層87となる未焼成緻密層,焼成後に第1保護層91及び第2保護層92となる未焼成保護層,焼成後に上側コネクタ電極71,下側コネクタ電極72となる未焼成コネクタ電極についても、スクリーン印刷によりグリーンシートのうち第1,第2面60a,60bの対応する面に形成する。その後、複数のグリーンシートを積層する。積層された複数のグリーンシートは、焼成後に素子本体となる未焼成素子本体である。そして、この未焼成素子本体を焼成して、リード75b,リード75c,上側コネクタ電極71,下側コネクタ電極72,第1保護層91,及び第2保護層92などを備えた素子本体60を得る。続いて、プラズマ溶射により外側多孔質層85を形成して、センサ素子20を得る。
【0058】
なお、第1保護層91の気孔率P1は、例えば未焼成保護層に含まれる造孔材の量を調整することによって調整できる。第1保護層91の厚さT1は、例えば未焼成保護層に含まれる溶媒の量を調整して未焼成保護層の粘度を調整することによって調整できる。また、未焼成保護層を形成する際のスクリーン印刷の回数によって厚さT1を調整することもできる。リード75bの厚さT2及び上側コネクタ電極71bの厚さT3の調整についても同様である。これらの厚さT1~T3の調整によって、高低差D1,D2も調整できる。第1保護層91の長さLは、未焼成保護層を形成する際のスクリーン印刷のマスクの形状によって調整できる。
【0059】
次に、センサ素子20を組み込んだガスセンサ10を製造する。まず、筒状体41の内部にセンサ素子20を軸方向に貫通させ、且つ筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に碍子44a,圧粉体45a,碍子44b,圧粉体45b,碍子44c,メタルリング46をこの順に配置する。次に、メタルリング46を押圧して圧粉体45a,45bを圧縮し、その状態で縮径部43c,43dを形成することで素子封止体40を製造して、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間を封止する。その後、素子封止体40に保護カバー30を溶接し、ボルト47を取り付けて組立体15を得る。
【0060】
続いて、複数(ここでは8本)のリード線55をゴム栓57内に通してから、複数(ここでは8個)の接触金具52の各々の保持部53eでリード線55の芯線を囲んで圧着することで、接触金具52とリード線55とを電気的に導通させる。次に、第1ハウジング51aと第2ハウジング51bとにそれぞれ接触金具52を4個ずつ保持させた状態で、センサ素子20を第1ハウジング51aと第2ハウジング51bとで挟み、クランプ54により第1ハウジング51a及び第2ハウジング51bを挟持して固定する。これにより、複数の接触金具52の各々は、支持部53bが第1保護層91又は第2保護層92に接触し導通部53cが上側コネクタ電極71又は下側コネクタ電極72に接触した状態になる。このようにしてコネクタ50をセンサ素子20の後端側に接続した後、外筒48を主体金具42に溶接固定して、ガスセンサ10を得る。
【0061】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の使用例を以下に説明する。ガスセンサ10が
図1のように配管58に取り付けられた状態で、配管58内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは保護カバー30内を流通して素子室33内に流入し、センサ素子20の前端側が被測定ガスに晒される。そして、被測定ガスが多孔質層80を通過して外側電極64に到達すると共に被測定ガス導入口61からセンサ素子20内に到達すると、上述したようにこの被測定ガス中のNOx濃度に応じた電気信号を検出部63が発生させる。この電気信号を上側,下側コネクタ電極71,72を介して取り出すことで、電気信号に基づきNOx濃度が検出される。
【0062】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の素子本体60が本発明の素子本体に相当し、上側コネクタ電極71bがコネクタ電極に相当し、リード75bがリードに相当し、第1保護層91が保護層に相当し、接触金具52bが接触金具に相当する。
【0063】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ10によれば、第1保護層91の厚さT1が2μm以上であり、気孔率P1が20%以下であり、且つ高低差D1が22μm以下であることで、リード75bの摩耗を抑制しつつ上側コネクタ電極71bと接触金具52bとの導通不良を抑制できる。なお、リード75bが摩耗するとリード75bの抵抗値が変化することでセンサ素子20から取り出す電気信号が変化して特定ガス濃度の検出精度が低下する場合がある。また、リード75bの摩耗が進むとリード75bが断線する場合もある。リード75bの摩耗を抑制することで、このような検出精度の低下や断線を抑制することができる。
【0064】
また、第1保護層91の気孔率P1が10%以下であることで、第1保護層91がリード75bの摩耗を抑制する効果が高まる。
【0065】
さらに、素子本体60は長手方向を有する長尺な形状をしており、接触金具52bの支持部53bと導通部53cとは、素子本体60の長手方向に沿って配置されており、第1保護層91は、この長手方向の長さLが2mm以上である。長さLが2mm以上であることで、第1保護層91と支持部53bとの相対位置が長手方向にずれた場合でも、第1保護層91が支持部53bとリード75bとの間に存在してリード75bを保護している状態を保ちやすい。そのため、支持部53bがリード75bと直接接触してリード75bを摩耗させてしまうことを抑制できる。なお、第1保護層91と支持部53bとの相対位置が長手方向にずれる場合の例としては、例えばガスセンサ10の製造時にセンサ素子20にコネクタ50を接続する際にコネクタ50の接続位置がずれるような製造誤差が生じる場合、及びガスセンサ10の使用中に車両の振動によってガスセンサ10が振動する場合、などが挙げられる。
【0066】
さらにまた、リード75bの高さから上側コネクタ電極71bの高さを引いた高低差D2が0μm超過となっている。高低差D2が0μm超過である場合、すなわちリード75bの方が上側コネクタ電極71bよりも高さが大きい場合は、そのリード75bの上にさらに第1保護層91が存在するため高低差D1が大きくなりやすい。そのような場合でも高低差D1が22μm以下であることで上側コネクタ電極71bと接触金具52bとの導通不良を抑制できる。
【0067】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0068】
例えば、上述した実施形態では、第1保護層91はリード75b及びリード75cを被覆していたが、これに限られない。第1保護層91は少なくとも1つのリードを被覆していればよい。第1保護層91が3本以上のリードを被覆していてもよい。
【0069】
上述した実施形態では、第1保護層91の左右の幅は第1面60aの左右の幅と同じとしたが、第1保護層91が少なくとも1つのリードを被覆していれば、第1保護層91の左右の幅は第1面60aの左右の幅よりも小さくてもよい。
【0070】
上述した実施形態では、高低差D2は0μm超過としたが、これに限られない。高低差D2は0μmであってもよいし、0μm未満(負の値)であってもよい。例えばリード75bの厚さT2が上側コネクタ電極71bの厚さT3よりも小さいことで高低差D2が負の値となっていてもよい。高低差D2は-5μm以上としてもよいし、0μm以上としてもよい。また、上述した実施形態では、厚さT2>厚さT3であることで高低差D2が正の値となっていたが、これに限られない。例えば、リード75bと素子本体60との間に他の層が存在することによって、厚さT2<厚さT3であり且つ高低差D2が正の値となっていてもよい。
【0071】
上述した実施形態では、高低差D1は0μm超過としたが、これに限られない。高低差D1は0μmであってもよいし、0μm未満(負の値)であってもよい。例えば第1保護層91の厚さT1とリード75bの厚さT2との和が上側コネクタ電極71bの厚さT3未満であれば、高低差D1を0μm未満とすることができる。高低差D1は-22μm以上としてもよいし、-10μm以上としてもよいし、0μm以上としてもよい。
【0072】
上述した実施形態では、ガスセンサ10は特定ガス濃度としてNOx濃度を検出したが、これに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものが測定電極67の周辺で還元されたときに酸素が発生するから、この酸素に応じた検出部63の検出値に基づいて特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスが例えば内側主ポンプ電極65の周辺で酸化物に変換(例えばアンモニアであれば酸化されてNOに変換)されることで、変換後の酸化物が測定電極67の周辺で還元されたときに酸素が発生するから、この酸素に応じた検出部63の検出値に基づいて特定ガス濃度を検出できる。このように、特定ガスが酸化物と非酸化物とのいずれであっても、ガスセンサ10は、特定ガスに由来して測定電極67の周辺で発生する酸素に基づいて特定ガス濃度を検出できる。
【実施例】
【0073】
以下には、ガスセンサを具体的に作製した例を実施例として説明する。実験例2~9,12,13が本発明の実施例に相当し、実験例1,10,11,14が比較例に相当する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実験例1]
第1保護層91を備えない点以外は、
図1~10に示したガスセンサ10と同様のガスセンサを上述した製造方法により作製して、実験例1とした。実験例1のセンサ素子20は以下のように作製した。まず、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合してテープ成形により成形したセラミックスグリーンシートを6枚用意した。各々のグリーンシートには各電極等のパターンをスクリーン印刷により形成した。形成したパターンには、焼成後にリード75b,75cとなる未焼成リードのパターン、及び焼成後に上側コネクタ電極71となる未焼成コネクタ電極のパターンが含まれる。未焼成リードのパターンは、白金粒子とジルコニア粒子と溶媒とを混練したスラリーを用いて形成した。未焼成コネクタ電極のパターンは、白金粒子とジルコニア粒子と溶媒とを混練したスラリーを用いて形成した。その後、6枚のグリーンシートを積層及び焼成した。これにより、リード75b,75c及び上側コネクタ電極71を備えたセンサ素子20を作製した。続いて、このセンサ素子20を組み込んだ組立体15を作製し、センサ素子20にコネクタ50を接続して、8個の接触金具52の各々の導通部53cを上側コネクタ電極71又は下側コネクタ電極72と導通させた。その後、外筒48を主体金具42に溶接固定して、実験例1のガスセンサ10とした。実験例1のセンサ素子20は第1保護層91を備えないため、接触金具52bの支持部53bはリード75bと直接接触し、接触金具52cの支持部53bはリード75cと直接接触している。実験例1のセンサ素子20におけるリード75bの厚さT2は12μmであり、上側コネクタ電極71bの厚さT3は10μmであり、高低差D2は2μmであった。
【0075】
[実験例2]
図1~10に示したガスセンサ10を上述した製造方法により作製して、実験例2とした。実験例2のガスセンサ10は、センサ素子20が第1保護層91を備えるようにした点以外は、実験例1と同じ方法で作製した。実験例2のセンサ素子20を作製するにあたり、焼成後に第1保護層91となる未焼成保護層のパターンは、原料粉末(アルミナ粉末),バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール),溶媒(アセトン),及び造孔材を混合して調合したスラリーを用いて形成した。実験例2の第1保護層91におけるリード75bを被覆する部分の厚さT1は、2μmであった。厚さT2,T3は実験例1と同じであり、第1保護層91と上側コネクタ電極71bとの高低差D1(=T1+D2)は4μmであった。第1保護層91の気孔率P1を上述した方法で測定したところ、8.9%であった。
【0076】
[実験例3~14]
厚さT1,気孔率P1,高低差D1を表1に示すように種々変更した点以外は実験例2と同じガスセンサ10を作製して、実験例3~14とした。実験例3~14における厚さT2,T3は実験例1,2と同じとした。したがって、実験例3~14のいずれにおいても、高低差D1は厚さT1と高低差D2(=2μm)との和に等しい。
【0077】
[耐摩耗性及び導通の確認]
実験例1~14のガスセンサ10について加熱振動試験を行って、リード75bの耐摩耗性の確認及び上側コネクタ電極71bと接触金具52bとの導通確認を行った。加熱振動試験を2回実施し、1回実施する毎に実施後の外観写真によるリード75bの観察を行って、リード75bの摩耗が見られるか否かによって耐摩耗性を確認した。具体的には、2回目の加熱振動試験の実施後においてもリード75bの摩耗が見られなかった場合に、耐摩耗性が「非常に良い(A)」と判定した。1回目の加熱振動試験の実施後にはリード75bの摩耗が見られなかったが2回目の加熱振動試験の実施後には摩耗が見られた場合に、耐摩耗性が「良い(B)」と判定した。1回目の加熱振動試験の実施後にリード75bの摩耗が見られた場合に、耐摩耗性が「悪い(F)」と判定した。なお、耐摩耗性の評価が「B」,「F」の場合は、いずれも第1保護層91が摩耗してリード75bが露出していたため、支持部53bとリード75bとが直接接触することでリード75bが摩耗したと考えられる。また、1回目の加熱振動試験中に、上側コネクタ電極71bの電位を測定し続け、振動による瞬間的な電位の異常が生じるか否かを確認した。瞬間的な電位の異常が生じなかった場合には、接触金具52bと上側コネクタ電極71bとの間に導通不良が生じていないため導通確認の結果を「良い(A)」と判定した。瞬間的な電位の異常が生じた場合には、接触金具52bと上側コネクタ電極71bとの間に振動による瞬間的な導通不良が発生したとみなして導通確認の結果を「悪い(F)」と判定した。加熱振動試験は、振動試験機に設置したプロパンバーナーの排気管にガスセンサ10を取り付けた状態で、以下の条件にて行った。
【0078】
ガス温度:850℃;
ガス空気比λ:1.05;
振動条件:50Hz→100Hz→150Hz→250Hzを30分掃引;
加速度 :30G、40G、50G;
試験時間:150時間。
【0079】
実験例1~14の各々の厚さT1,気孔率P1,高低差D1,耐摩耗性の判定結果,及び導通確認結果を、表1にまとめて示す。なお、実験例1では第1保護層91が存在しないため、気孔率P1及び高低差D1の値は「-」(値無し)としている。
【0080】
【0081】
表1から分かるように、第1保護層91のうちリード75bを被覆する部分の厚さT1が2μm以上且つ第1保護層91の気孔率P1が20%以下である実験例2~9,12~14は、いずれも耐摩耗性の評価が「非常に良い(A)」又は「良い(B)」であった。これに対し、厚さT1が2μm未満である実験例1、及び気孔率P1が20%を超えている実験例10,11は、いずれも耐摩耗性の評価が「悪い(F)」であった。これらの結果から、厚さT1が2μm以上且つ気孔率P1が20%以下であれば、リード75bの摩耗を抑制できることが確認された。
【0082】
実験例2~9,12~14のうち気孔率P1が10%以下である実験例2~7,12~14は耐摩耗性の評価が「非常に良い(A)」であり、気孔率P1が10%超過20%以下である実験例8,9は耐摩耗性の評価が「良い(B)」であった。これらの結果から、気孔率P1が10%以下では第1保護層91がリード75bの摩耗を抑制する効果が高まることが確認された。
【0083】
高低差D1が22μm以下である実験例2~13は、いずれも導通確認結果が「良い(A)」であった。これに対し、高低差D1が22μmを超えている実験例14は、導通確認結果が「悪い(F)」であった。これらの結果から、高低差D1が22μm以下であれば、上側コネクタ電極71bと接触金具52bとの導通不良を抑制できることが確認された。なお、第1保護層91を備えない実験例1においても導通確認結果は「良い(A)」であった。これは、第1保護層91を備えず高低差D2が2μmという小さい値であるためと考えられる。ただし、上述したように実験例1は第1保護層91を備えないため耐摩耗性の評価が「悪い(F)」であった。
【0084】
以上の結果から、厚さT1が2μm以上であり、気孔率P1が20%以下であり、且つ高低差D1が22μm以下である実験例2~9,12,13では、リード75bの摩耗を抑制しつつ上側コネクタ電極71bと接触金具52bとの導通不良を抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するセンサ素子及びガスセンサに利用可能である。
【符号の説明】
【0086】
10 ガスセンサ、15 組立体、20 センサ素子、30 保護カバー、31 内側保護カバー、32 外側保護カバー、33 素子室、40 素子封止体、41 筒状体、42 主体金具、42a 肉厚部、42b 底面、43 内筒、43a フランジ部、43c,43d 縮径部、44a~44c 碍子、45a,45b 圧粉体、46 メタルリング、47 ボルト、48 外筒、49 空間、50 コネクタ、51a 第1ハウジング、51b 第2ハウジング、52,52a~52d 接触金具、53a 先端部、53b 支持部、53c 導通部、53d フック部、53e 保持部、54 クランプ、55 リード線、57 ゴム栓、58 配管、59 固定用部材、60 素子本体、60a~60f 第1面~第6面、61 被測定ガス導入口、62 基準ガス導入口、63 検出部、64 外側電極、65 内側主ポンプ電極、66 内側補助ポンプ電極、67 測定電極、68 基準電極、69 ヒータ、71,71a~71d 上側コネクタ電極、72 下側コネクタ電極、75b,75c リード、80 多孔質層、81 内側多孔質層、83 第1内側多孔質層、84 第2内側多孔質層、85 外側多孔質層、86 第1緻密層、87 第2緻密層、91 第1保護層、92 第2保護層、C1,C2 接触部分。