(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の電析検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20 20180101AFI20241206BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
G01N23/20
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2021202348
(22)【出願日】2021-12-14
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健児
(72)【発明者】
【氏名】玉井 敦
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-012776(JP,A)
【文献】特表2012-524385(JP,A)
【文献】特開2015-138730(JP,A)
【文献】特開2021-162495(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0148880(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0123906(US,A1)
【文献】山本 他,リチウムイオン二次電池・電極反応性の可視化技術,SCAS NEWS,(株)住化分析センター,2015年02月27日,2015-I号(Vol.41),pp7-10,https://www.scas.co.jp/scas-news/sn-back-issues/pdf/41/SCASNEWS2015-1_web_p7-10.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/20
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体および前記正極集電体の少なくとも一面に位置する正極活物質層を有する正極と、負極集電体および前記負極集電体の少なくとも一面に位置する負極活物質層を有し、前記正極と対向する負極と、前記正極と前記負極との間に位置する電解質層と、が積層されてなるリチウムイオン電池の前記負極活物質層で生じるリチウム電析を検出するリチウムイオン電池の電析検出方法であって、
前記リチウムイオン電池にX線を照射して、前記正極活物質層のX線回折測定を行い、前記正極活物質層の厚み方向に沿った充電深度の分布を示す正極SOCマップを作成する正極SOCマップ作成工程と、
前記正極SOCマップの最高値と最低値との差分であるSOC差分値を検出するSOC差分値検出工程と、
前記SOC差分値と、予め設定した閾値とを比較して、前記負極活物質層のリチウム電析の有無を判定する電析判定工程と、を有することを特徴とするリチウムイオン電池の電析検出方法。
【請求項2】
前記電析判定工程では、前記閾値は15%に設定され、前記SOC差分値が15%以上である場合に、前記負極活物質層でリチウム電析が生じていると判定することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の電析検出方法。
【請求項3】
正極SOCマップ作成工程において、前記X線回折測定に用いるX線は、エネルギーが40keV以上の高エネルギーX線であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン電池の電析検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の負極活物質層に生じるリチウム電析を検出するリチウムイオン電池の電析検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle:電気自動車)やHEV(HybridElectrical Vehicle:ハイブリッド電気自動車)等の車両には、モータ等に電力を供給する蓄電器が搭載される。蓄電器には、複数の二次電池が設けられている。
【0003】
EVやHEVに搭載される二次電池は、所定の出力が求められているが、一般的に、二次電池は、中長期間放置されると電極の表面が酸化皮膜で覆われて出力特性が低下する。このように二次電池による出力が低下すると、出力性能が劣化していると判断され、二次電池による出力を下げるように制御されることが一般的である。これは、二次電池が劣化しているにもかかわらず、劣化前の出力を要求した場合には、二次電池は過負荷状態となり、二次電池の寿命劣化が加速されてしまうためである。
【0004】
二次電池の劣化を解消するためには、二次電池に対して所定の放電処理、いわゆるリフレッシュ処理を行うことで、二次電池の活性化処理を行うことが必要となるが、EVやHEVは、二次電池を車両に搭載させた状態で活性化処理を行うことを想定していない。このため、例えば、特許文献1には、二次電池として鉛蓄電池を用いた場合において、劣化時にSOC(State Of Charge)の使用域を上昇させることが開示されている。
【0005】
一方、EVやHEV向けの二次電池としては、リチウムイオン電池(LIB)が広く用いられている。リチウムイオン電池は、軽量で高エネルギー密度が得られるため、車両搭載用の高出力電源として好ましく用いられる。
【0006】
リチウムイオン電池は、一般的にグラファイト等のカーボン材料がその負極活物質として用いられることが多く、充電時にはカーボン材料中の層間にリチウムイオンが入り込むことで電位が変化する。しかしながら、リチウムイオン電池の充電状況によっては、負極活物質に金属リチウムが析出することがある(リチウム電析)。
【0007】
こうしたリチウム電析が発生すると、リチウムイオン電池の容量劣化が生じることが知られているため、予め設定された上限電圧の範囲内で充電を行なうよう制御している。ここで、リチウム電析とは、リチウムイオンが電気的に還元されることにより、負極表面にリチウム金属となって析出することを言う。従ってリチウムイオン電池が劣化してくると、新品時に比べて充電量や回生出力が減少してしまい、走行距離が短くなるという問題が生じる。このため、従来から、リチウム電析の発生を検出する技術が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献2には、充電電流が下降から上昇に転じる極小値を示す点である極小点の有無を検出することによって、リチウム電析の有無を検出する方法が開示されている。
また、特許文献3には、定電流充電によって徐々に上昇する電池電圧の時間当たり変化量を検出し、この電池電圧の時間当たり変化量の極小値近傍からリチウム電析の有無を検出する方法が開示されている。
更に、特許文献4には、電池ケースの厚み寸法の変化を検出することによって、リチウム電析の有無を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-339864号公報
【文献】特開2012-003863号公報
【文献】特開2013-089363号公報
【文献】特開2019-145342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2~4に開示されたそれぞれの方法では、リチウム電析の発生の有無しか知ることができず、負極活物質層におけるリチウム電析の面的な分布を把握することができなかった。このため、リチウム電析が発生する予兆を知ることができず、リチウム電析の発生を抑制するための効果的な制御ができないという課題があった。
【0011】
この発明は上記課題に鑑みて提案されたものであり、リチウムイオン電池の負極活物質層におけるリチウム電析の面的な分布を検出して、リチウム電析が発生する予兆を知ることにより、リチウムイオン電池のエネルギー効率の改善を図ることが可能なリチウムイオン電池の電析検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述したような背景から、本発明者は、正極活物質層の充電深度(SOC)の分布をマップ化して得られた正極SOCマップを用いることにより、負極活物質層のリチウム電析の発生の予兆を高精度に検出できるという新たな知見を見出した。
【0013】
即ち、本発明のリチウムイオン電池の電析検出方法は、正極集電体および前記正極集電体の少なくとも一面に位置する正極活物質層を有する正極と、負極集電体および前記負極集電体の少なくとも一面に位置する負極活物質層を有し、前記正極と対向する負極と、前記正極と前記負極との間に位置する電解質層と、が積層されてなるリチウムイオン電池の前記負極活物質層で生じるリチウム電析を検出するリチウムイオン電池の電析検出方法であって、前記リチウムイオン電池にX線を照射して、前記正極活物質層のX線回折測定を行い、前記正極活物質層の厚み方向に沿った充電深度の分布を示す正極SOCマップを作成する正極SOCマップ作成工程と、前記正極SOCマップの最高値と最低値との差分であるSOC差分値を検出するSOC差分値検出工程と、前記SOC差分値と、予め設定した閾値とを比較して、前記負極活物質層のリチウム電析の有無を判定する電析判定工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、X線の原子散乱因子が大きいために、負極活物質層のリチウム金属などと比較して、X線回折による測定が容易である正極活物質層の正極SOCマップを作成し、こうした正極SOCマップにおける充電深度(SOC)の最高値と最低値との差分であるSOC差分値を算出することにより、負極活物質層でリチウム電析が生じる予兆や、実際にリチウム電析が生じていることを、容易に検出することが可能になる。これにより、リチウムイオン電池のエネルギー効率の改善を図ることができる。
【0015】
また、本発明は、前記電析判定工程では、前記閾値は15%に設定され、前記SOC差分値が15%以上である場合に、前記負極活物質層でリチウム電析が生じていると判定してもよい。
【0016】
また、本発明は、正極SOCマップ作成工程において、前記X線回折測定に用いるX線は、エネルギーが40keV以上の高エネルギーX線であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リチウムイオン電池の負極活物質層におけるリチウム電析の面的な分布を検出して、リチウム電析が発生する予兆を知ることが可能なリチウムイオン電池の電析検出方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】リチウムイオン電池の層構成の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の電析検出方法を段階的に示したフローチャートである。
【
図4】負極活物質層のリチウムピーク強度のマップである。
【
図5】負極活物質層の可視光下での拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の電析検出方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
(リチウムイオン電池)
最初に、一般的なリチウムイオン電池の層構成を説明する。
図1は、リチウムイオン電池の層構成の一例を示す模式断面図である。
リチウムイオン電池(LIB)10は、正極集電体11およびこの正極集電体11の一面に位置する正極活物質層12を有する正極13と、負極集電体14およびこの負極集電体14の一面に位置する負極活物質層15を有して正極13と対向する負極16と、正極13と負極16との間に位置する電解質層17と、が積層されてなる。
【0021】
正極活物質層12は、正極活物質とバインダーとを有し、必要に応じて導電助剤を有する。正極活物質は、イオンの吸蔵及び放出、イオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、イオンとイオンのカウンターアニオン(例えば、PF6
-)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を用いることができる。
【0022】
正極活物質の具体例としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2(x+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンなどが挙げられる。
【0023】
導電助剤は、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。正極活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、正極活物質層12には導電助剤を含んでいなくてもよい。
【0024】
また正極活物質層12は、バインダーを含んでいてもよい。バインダーは、公知のものを用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、が挙げられる。
【0025】
負極活物質層15は、負極活物質とバインダーとを有し、必要に応じて導電助剤を有する。負極活物質は、公知の負極活物質を使用できる。負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、アルミニウム、シリコン、スズ等のリチウムと化合することのできる金属、SiOx(0<x<2)、二酸化スズ等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)等を含む粒子が挙げられる。
【0026】
負極活物質層15の導電助剤及びバインダーは、正極活物質層12と同様のものを用いることができる。負極活物質層15に用いるバインダーは正極活物質層12に挙げた他に、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアクリル酸(PAA)等を用いることもできる。
【0027】
こうした負極活物質層15を含む負極16は、リチウムイオン電池10を充電する際に、負極活物質の一例であるカーボン材料中の層間にリチウムイオンが入り込むことで電位が変化するが、充電条件によっては、こうした負極活物質層15に金属リチウムが析出するリチウム電析が生じ、リチウムイオン電池10の容量劣化(容量低下)が生じる。こうしたリチウム電析は、リチウムイオン電池10の充電条件を制御することにより、その増大を抑制し、リチウムイオン電池10の容量劣化を遅くすることができる。このため、負極16のリチウム電析の発生の予兆を検出することが重要である。
【0028】
(電析検出方法)
図2は本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の電析検出方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態のリチウムイオン電池の電析検出方法は、正極SOCマップ作成工程S1と、SOC差分値検出工程S2と、電析判定工程S3と、を有する。
【0029】
本実施形態のリチウムイオン電池の電析検出方法によって、リチウムイオン電池のリチウム電析を検出する際には、まず、電析の発生を確認するリチウムイオン電池10に対して、X線を照射して、正極活物質層のX線回折測定を行う(正極SOCマップ作成工程S1)。
【0030】
X線回折測定に用いるX線としては、例えば、エネルギーが40keV以上の高エネルギーX線(放射光X線)であることが好ましい。こうした高エネルギー放射光X線をリチウムイオン電池の積層方向に向けて照射する。正極活物質層12はX線の原子散乱因子が大きいために、負極活物質層15などと比較して、X線回折による測定が容易である。
【0031】
そして、リチウムイオン電池へのX線照射によって得られたX線回折データに基づいて、正極活物質層12の厚み方向に沿った充電深度の分布を示す正極SOCマップを作成する。正極SOCマップは、例えば、正極活物質層12の一面から他面に向かう厚み方向の断面において、例えば、充電深度(SOC(%))を数段階の数値範囲ごとに等値線で区画して、それぞれの範囲ごとに色分けして表現したものであればよい。こうした正極SOCマップは、例えば、コンピュータに正極活物質層12のX線回折データを入力して、画像処理ソフトウエアなどを用いて作成することができる。こうした正極SOCマップの一例を
図3に示す。
【0032】
図3に示す正極SOCマップの一例によれば、正極活物質層12は、一面に沿ったx方向の-5mm~-10mmの範囲で、厚み方向であるz方向の0mmから20mmにかけて、充電深度(SOC)が35%~45%程度の領域が形成され、x方向の0mm~10mmの範囲で、z方向の5mmから25mmにかけて、充電深度(SOC)が0%~10%程度の領域が形成されていることが分かる。
【0033】
次に、正極SOCマップ作成工程S1で得られた正極SOCマップから、充電深度(SOC)最高値と最低値とを抽出する。そして、この充電深度(SOC)の最高値と最低値との差分であるSOC差分値を算出する(SOC差分値検出工程S2)。こうしたSOC差分値は、正極SOCマップを作成する際の充電深度(SOC)の数値データから容易に算出することができる。
【0034】
そして、SOC差分値検出工程S2で得られたSOC差分値と、予め設定した閾値とを比較して、負極活物質層15のリチウム電析の有無を判定する(電析判定工程S3)。この電析判定工程S3では、上述した閾値を、例えば15%に設定して、SOC差分値検出工程S2で算出されたSOC差分値が15%以上である場合に、負極活物質層15でリチウム電析が生じていると判定すればよい。
【0035】
以上のように、本実施形態のリチウムイオン電池の電析検出方法によれば、X線の原子散乱因子が大きいために、負極活物質層15のリチウム金属などと比較して、X線回折による測定が容易である正極活物質層12の正極SOCマップを作成し、こうした正極SOCマップにおける充電深度(SOC)の最高値と最低値との差分であるSOC差分値を算出することにより、負極活物質層15でリチウム電析が生じる予兆や、実際にリチウム電析が生じていることを、容易に検出することができる。
【0036】
これにより、リチウムイオン電池の負極におけるリチウム電析が進行しないように充電条件を制御するなど、リチウムイオン電池の充電容量の低下を抑制して長寿命化を図ることが可能になる。
【0037】
なお、本実施形態のリチウムイオン電池の電析検出方法において、X線回折測定に用いる高エネルギー放射光X線源が小型化されれば、例えば、車載用のリチウムイオン電池に、こうした小型のX線源を組み込むことで、リチウムイオン電池のリチウム電析の発生をリアルタイムに監視して、リチウム電析の発生状況に応じて充電条件を制御するといったことが可能になる。
【0038】
また、本実施形態のリチウムイオン電池の電析検出方法は、電解質が液体の各種リチウムイオン電池、および電解質を固体にした全固体リチウムイオン電池のいずれにも適用可能であり、特定の種類のリチウムイオン電池に適用が限定されるものではない。
【0039】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0040】
本発明の効果を検証した。検証にあたって、
図1に示すような構成のリチウムイオン電池(試料)を用意した。この試料としてのリチウムイオン電池は、複数回にわたって、満充電と放電とを繰り返したものである。
【0041】
このリチウムイオン電池(試料)に対して、高エネルギー放射光X線を照射して、XRD装置によって正極活物質層のX線回折測定を行った。そして、得られた正極活物質層のX線回折結果に基づいて、正極SOCマップを作成した。この正極SOCマップを
図3に示す。
【0042】
次に、リチウムイオン電池(試料)を解体して負極活物質層を取り出し、XRD装置によって負極活物質層のX線回折測定を行い、この結果に基づいて、リチウムピーク強度のマップを作製した。この負極活物質層のリチウムピーク強度のマップを
図4に示す。また、負極活物質層の可視光下での拡大写真を
図5に示す。なお、
図5では、色が薄い部分ほどリチウム電析が多く発生している領域である。
【0043】
こうした
図3に示す正極活物質層の正極SOCマップと、
図4に示す負極活物質層のリチウムピーク強度のマップおよび
図5に示す負極活物質層の拡大写真とを比較すると、正極活物質層の正極SOCマップにおけるSOCの高い部分は、対応する負極活物質層において、リチウム電析が発生していることが確認できる。
これにより、負極活物質層よりもX線回折測定が容易な正極活物質層の正極SOCマップに基づいて、負極活物質層のリチウム電析の検出が可能であることが実証できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のリチウムイオン電池の電析検出方法は、XRD装置を用いて、負極活物質層よりもX線回折測定が容易な正極活物質層の正極SOCマップを作成して、この正極SOCマップに基づいて、負極活物質層のリチウム電析の検出を可能にする。そして、こうしたリチウム電析の検出結果に応じて、充電条件を制御することによって、リチウムイオン電池の充電容量の低下を抑制して長寿命化を図り、リチウムイオン電池のエネルギー効率を改善することが可能になる。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0045】
10…リチウムイオン電池
11…正極集電体
12…正極活物質層
13…正極
14…負極集電体
15…負極活物質層
16…負極
17…電解質層