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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】線量評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
A61N5/10 Q
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021522267
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2020019958
(87)【国際公開番号】W WO2020241415
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019101555
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 健蔵
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-501737(JP,A)
【文献】特開2016-159107(JP,A)
【文献】次世代医療機器評価指標の公表について,薬生機審発0523第2号,厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長,2019年05月23日,https://www.pmda.go.jp/files/000229738.pdf,別紙5 ホウ素中性子捕捉療法用加速器型中性子照射装置システムに関する評価指標,pp.1-9
【文献】MATSUMOTO,Tetsuo et al.,DOSE MEASURING SYSTEM FOR BORON NEUTRON CAPTURE THERAPY,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detector,1988年,Vol.271,No.3,pp.662-670
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素中性子捕捉療法システムによる治療で患者の腫瘍に投与された線量である投与線量を治療後に評価する線量評価システムであって、
治療中における放射線に関する第1パラメータについて、実行された治療における現実の値を表す第1パラメータ現実値と、
治療中における前記患者体内のホウ素濃度に関する第2パラメータについて、実行された治療における現実の値を表す第2パラメータ現実値と、を取得し、
前記第1パラメータ現実値と、前記第2パラメータ現実値と、に基づいて、実行された前記治療における前記投与線量を推定した投与線量推定値を取得する線量推定部を備え、
前記線量推定部は、
前記第1パラメータについて、事前に作成された治療計画で計画された第1パラメータ計画値と、
前記第2パラメータについて、前記治療計画で計画された第2パラメータ計画値と、を更に取得し、
前記第1パラメータ計画値と、前記第1パラメータ現実値と、前記第2パラメータ計画値と、前記第2パラメータ現実値と、に基づいて、前記投与線量推定値を取得し、
前記線量推定部は、
前記治療計画で計画された投与線量の計画値である投与線量計画値を更に取得し、
前記第1パラメータ計画値と、前記第1パラメータ現実値と、前記第2パラメータ計画値と、前記第2パラメータ現実値と、に基づいて前記投与線量計画値を補正することで、前記投与線量推定値を取得し、
前記投与線量計画値は、
前記患者に照射される中性子線の中性子と前記患者の体内のホウ素との反応に由来する線量である反応由来線量の計画値J1と、
前記患者に照射される中性子線の中性子自体に由来する線量である中性子由来線量の計画値J2と、を含んでおり、
前記投与線量推定値は、下式(1)で表される、線量評価システム。
投与線量推定値=
J1・(∫(R1・R2)/∫(P1・P2))
+J2・(∫R1/∫P1) …式(1)
但し、
∫(R1・R2)は、前記第1パラメータ現実値と前記第2パラメータ現実値との積を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値、
∫(P1・P2)は、前記第1パラメータ計画値と前記第2パラメータ計画値との積を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値、
∫R1は、前記第1パラメータ現実値を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値、
∫P1は、前記第1パラメータ計画値を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値、である。
【請求項2】
前記第1パラメータ現実値は、
前記ホウ素中性子捕捉療法システムで発生する荷電粒子線のビーム電流の実測値に基づいて取得され、
前記第2パラメータ現実値は、
前記患者の血中ホウ素濃度の実測値に基づいて取得される、請求項に記載の線量評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線量評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載のホウ素中性子捕捉療法システムが知られている。このホウ素中性子捕捉療法システムでは、中性子線の出口であるコリメータの開口部に、中性子線を検出する中性子線検出システムが設けられている。この中性子線検出システムにより、ホウ素中性子捕捉療法システムから患者に向けて出力される中性子線の量を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-146298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ホウ素中性子捕捉療法システムでは、上記のとおり患者に向けて照射される中性子線の量を測定することができるが、患者が実際に受ける線量を知ることはできず、患者に対する治療が適切に実行されたか否かを評価することはできない。本発明は、ホウ素中性子捕捉療法による治療で患者の腫瘍に実際に投与された線量を評価することができる線量評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の線量評価システムは、ホウ素中性子捕捉療法システムによる治療で患者の腫瘍に投与された線量である投与線量を治療後に評価する線量評価システムであって、治療中における放射線に関する第1パラメータについて、実行された治療における現実の値を表す第1パラメータ現実値と、治療中における患者体内のホウ素濃度に関する第2パラメータについて、実行された治療における現実の値を表す第2パラメータ現実値と、を取得し、第1パラメータ現実値と、第2パラメータ現実値と、に基づいて、実行された治療における投与線量を推定した投与線量推定値を取得する線量推定部を備える。
【0006】
線量推定部は、第1パラメータについて、事前に作成された治療計画で計画された第1パラメータ計画値と、第2パラメータについて、治療計画で計画された第2パラメータ計画値と、を更に取得し、第1パラメータ計画値と、第1パラメータ現実値と、第2パラメータ計画値と、第2パラメータ現実値と、に基づいて、投与線量推定値を取得することとしてもよい。
【0007】
線量推定部は、治療計画で計画された投与線量の計画値である投与線量計画値を更に取得し、第1パラメータ計画値と、第1パラメータ現実値と、第2パラメータ計画値と、第2パラメータ現実値と、に基づいて投与線量計画値を補正することで、投与線量推定値を取得することとしてもよい。
【0008】
投与線量計画値は、患者に照射される中性子線の中性子と患者の体内のホウ素との反応に由来する線量である反応由来線量の計画値J1と、患者に照射される中性子線の中性子自体に由来する線量である中性子由来線量の計画値J2と、を含んでおり、投与線量推定値は、下式(1)で表されることとしてもよい。
投与線量推定値=
J1・(∫(R1・R2)/∫(P1・P2))
+J2・(∫R1/∫P1) …式(1)
但し、
∫(R1・R2)は、第1パラメータ現実値と第2パラメータ現実値との積を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値、
∫(P1・P2)は、第1パラメータ計画値と第2パラメータ計画値との積を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値、
∫R1は、第1パラメータ現実値を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値、
∫P1は、第1パラメータ計画値を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値、である。
【0009】
また、第1パラメータ現実値は、ホウ素中性子捕捉療法システムで発生する荷電粒子線のビーム電流の実測値、又はホウ素中性子捕捉療法システムで患者に照射される中性子の量の実測値に基づいて取得され、第2パラメータ現実値は、患者の血中ホウ素濃度の実測値に基づいて取得されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホウ素中性子捕捉療法による治療で患者の腫瘍に実際に投与された線量を評価することができる線量評価システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ホウ素中性子捕捉療法システムを示す図である。
図2図1のシステムの中性子線出力部近傍を示す図である。
図3】線量評価システムを示すブロック図である。
図4図1のシステムに設置された中性子線検出器の近傍を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「上流」「下流」の語は、出射する荷電粒子線及び中性子線の上流(加速器側)、下流(患者側)をそれぞれ意味している。
【0013】
図1に示すホウ素中性子捕捉療法システム1は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:BoronNCT)を用いたがん治療を行う装置であり、ホウ素10(10B)が投与された患者(被照射体)40に対し中性子線Nを照射する。ホウ素中性子捕捉療法システム1は、加速器10(例えば、サイクロトロン)を備え、加速器10は、荷電粒子(例えば、陽子)を加速して、荷電粒子線P(例えば、陽子線)を作り出し、出射する。ここでの加速器10は、例えば、ビーム半径40mm、60kW(=30MeV×2mA)の荷電粒子線Pを生成する能力を有している。
【0014】
加速器10から出射された荷電粒子線Pは、水平型ステアリング12、4方向スリット14、水平垂直型ステアリング16、四重極電磁石18,19,20、90度偏向電磁石22、四重極電磁石24、水平垂直型ステアリング26、四重極電磁石28、4方向スリット30、電流モニタ32、荷電粒子線走査部34を順次に通過し、中性子線出力部36に導かれる。中性子線出力部36では荷電粒子線PがターゲットTに照射されることで生成された中性子線Nを出射(出力)し、当該中性子線Nが治療台38上の患者40に照射される。
【0015】
水平型ステアリング12、水平垂直型ステアリング16,26は、例えば電磁石を用いて荷電粒子線Pのビーム軸調整を行うものである。同様に、四重極電磁石18,19,20,24,28は、例えば電磁石を用いて荷電粒子線Pのビームの発散を抑制するものである。4方向スリット14,30は、端のビームを切ることにより、荷電粒子線Pのビーム整形を行うものである。
【0016】
90度偏向電磁石22は、荷電粒子線Pの進行方向を90度偏向するものである。なお、90度偏向電磁石22には、切替部42が設けられており、切替部42によって荷電粒子線Pを正規の軌道から外してビームダンプ44に導くことが可能になっている。ビームダンプ44は、治療前などにおいて荷電粒子線Pの出力確認を行うことができる。
【0017】
電流モニタ32は、中性子線出力部36のターゲットTに照射される荷電粒子線Pのビーム電流値(つまり、電荷,照射線量率)をリアルタイムで測定するものである。電流モニタ32は、荷電粒子線Pに影響を与えずに電流測定可能な非破壊型のDCCT(DC Current Transformer)が用いられている。この電流モニタ32には、所定のコントローラが接続されている。なお、「線量率」とは、単位時間当たりの線量を意味する(以下、同じ)。
【0018】
荷電粒子線走査部34は、荷電粒子線Pを走査し、ターゲットTに対する荷電粒子線Pの照射制御を行うものである。ここでの荷電粒子線走査部34は、例えば、荷電粒子線PのターゲットTに対する照射位置や、荷電粒子線Pのビーム径等を制御する。
【0019】
図2に示すように、中性子線出力部36は、荷電粒子線Pを通すビームダクト48の下流端部に配設されたターゲットTと、ターゲットTで発生した中性子線Nを減速させるモデレータ50と、これらを覆うように設けられた遮蔽体52と、遮蔽体52の下流端に取り付けられたコリメータ46と、を含んで構成されている。
【0020】
ターゲットTは、荷電粒子線Pの照射を受けて中性子線Nを発生させるものである。ここでのターゲットTは、例えば、ベリリウム(Be)により形成され、直径160mmの円板状を成している。ターゲットTの種類は、加速器10の荷電粒子線Pのエネルギーに応じて設定される。
【0021】
モデレータ50は、ターゲットTから出射される中性子線Nを減速させ、治療に適するようにエネルギーを低減させるものである。モデレータ50は、例えば異なる複数の材料から成る積層構造とされている。モデレータ50の材料は、荷電粒子線のエネルギー等の諸条件に応じて適宜選択される。
【0022】
遮蔽体52は、中性子線N、及び当該中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等が外部へ放出されないよう遮蔽するものであり、治療室の床に取り付けられている。コリメータ46は、中性子線Nの出力口となる円形の開口46aを備え、中性子線Nの照射野を規定する。
【0023】
このホウ素中性子捕捉療法システム1で行われるホウ素中性子捕捉療法の一例を説明する。ここでは、加速器10から出射される荷電粒子線Pは陽子線である。治療では、10Bを含む薬剤が患者40に投与され患者40の腫瘍に集積する。その一方、事前に治療計画システム55で作成された治療計画に基づいて、制御部57の制御下で、加速器10から出射された陽子線が荷電粒子線走査部34で走査され、ターゲットTに照射される。ターゲットTに陽子線が衝突することで中性子線Nが発生し、発生した中性子線Nは、モデレータ50で減速されコリメータ46の開口46aを通じて患者40に照射される。この中性子線Nと患者40の腫瘍に集積した10Bとが核反応してHe原子核(α線)とLi原子核とが発生し、これらのHe原子核(α線)とLi原子核とが腫瘍に対してダメージを与える。また、中性子線N自体も、腫瘍に対してダメージを与える。
【0024】
続いて、図3を参照しながら、線量評価システム61について説明する。線量評価システム61は、上記のようなホウ素中性子捕捉療法の治療で実際に患者40の腫瘍に投与された投与線量を治療後に評価するためのシステムである。線量評価システム61は、通信部61aと、演算部61b(線量推定部)と、表示部61cと、を備えている。
【0025】
通信部61aは、制御部57や治療計画システム55等との通信を確立しデータ授受を実行する。なお、制御部57は、ホウ素中性子捕捉療法システム1の運転を総合的に制御するものであり、例えば、電流モニタ32による計測値に基づいて加速器10の出力をフィードバック制御する等の処理を行う。演算部61bは、投与線量に関する各演算を実行する。表示部61cは、演算部61bによる演算結果を画面表示してユーザに提示する。表示部61cは、例えばディスプレイモニタである。
【0026】
線量評価システム61は、物理的には、CPU、主記憶装置であるRAM及びROM、ハードディスク等の補助記憶装置、入力デバイスであるキーボード及びマウス等の入力装置、ディスプレイ等の出力装置、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスである通信モジュールなどを含むコンピュータシステムとして構成されている。線量評価システム61が備える上記の通信部61a、演算部61b、表示部61c等の各機能は、CPU、RAM等のハードウエア上に所定のコンピュータソフトウエアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで通信モジュール、入力装置、出力装置を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0027】
線量評価システム61は、所定のプログラムに従って入力情報に基づく演算を行い、治療で実際に患者40の腫瘍に投与された投与線量を推定する(投与線量推定値を算出する)。線量評価システム61が上記投与線量推定値を算出するために必要な入力情報は、以下に説明する計画値J1、計画値J2、計画値P1、計画値P2、現実値R1、及び現実値R2である。
【0028】
〔計画値J1〕
治療計画システム55で作成された治療計画55aには、中性子線Nの中性子と患者40の腫瘍内の10B(以下では単に「ホウ素」という)とが反応して発生するHe原子核(α線)とLi原子核に由来する線量(以下「反応由来線量」という)の計画値J1が含まれている。計画値J1は、治療計画システム55から送信され通信部61aで受信されて線量評価システム61に入力される。
〔計画値J2〕
また、治療計画55aには、中性子線N自体に由来する線量(以下では単に「中性子由来線量」という)の計画値J2が含まれている。計画値J2は、治療計画システム55から送信され通信部61aで受信されて線量評価システム61に入力される。
【0029】
なお、治療計画55aにおいては、計画値J1と計画値J2との合計の線量が、患者40の腫瘍に投与される線量(以下「投与線量計画値」という)として計画されている。すなわち、
投与線量計画値=J1+J2 である。
【0030】
〔計画値P1〕
更に、治療計画55aには、治療中の各時刻ごと(例えば1秒ごと)に加速器10から出射される陽子ビーム電流(第1パラメータ)の計画値P1(第1パラメータ計画値)が含まれている。計画値P1は、治療計画システム55から送信され通信部61aで受信されて線量評価システム61に入力される。
〔計画値P2〕
更に、治療計画55aには、治療中の各時刻ごと(例えば1秒ごと)の患者40の血中ホウ素濃度(第2パラメータ)の計画値P2(第2パラメータ計画値)が含まれている。計画値P2は、治療計画システム55から送信され通信部61aで受信されて線量評価システム61に入力される。
【0031】
〔現実値R1〕
治療後におけるホウ素中性子捕捉療法システム1の制御部57(図1参照)には、治療中の各時刻ごと(例えば1秒ごと)に加速器10から現実に出射された陽子ビーム電流の現実値R1がログデータとして記憶されている。すなわち、陽子ビーム電流は電流モニタ32によって例えば1秒間隔で計測され、治療開始時刻から治療終了時刻までの例えば1秒ごとの計測値が、制御部57に現実値R1(第1パラメータ現実値)として蓄積され記憶される。なお、治療開始時刻とは、患者40への中性子線Nの照射を開始した時刻であり、治療終了時刻とは、患者40への中性子線Nの照射を終了した時刻である。例えば、制御部57には、陽子ビームが治療途中で一旦停止した等の情報も反映される。現実値R1は、制御部57から送信され通信部61aで受信されて線量評価システム61に入力される。また、上記のように陽子ビーム電流を電流モニタ32で実測することに代えて、陽子ビーム電流値が治療開始時刻から治療終了時刻まで一定と仮定し、この一定値を現実値R1としてもよい。
【0032】
〔現実値R2〕
治療中の各時刻ごと(例えば1秒ごと)の患者40の血中ホウ素濃度の現実の値が、所定の手法により推定又は計測可能である。推定又は計測された現実の血中ホウ素濃度を現実値R2(第2パラメータ現実値)とする。例えば、患者40への薬剤投与が減速継続投与プロトコルで実行される場合には、中性子線Nの照射開始直前と照射終了直後において血中ホウ素濃度が測定され、この測定値に基づく線形補間によって照射中の血中ホウ素濃度が推定されてもよい。また、例えば、患者40への薬剤投与が投与停止後照射プロトコルで実行される場合には、投与後に血中ホウ素濃度が指数関数的に低下するものと仮定して照射中の血中ホウ素濃度が推定されてもよい。また、中性子線Nの照射中の全体に亘って血中ホウ素濃度が一定であったと仮定してもよい。
【0033】
或いは、中性子線Nの照射中において患者40の血中ホウ素濃度がリアルタイムで(例えば1秒ごとに)計測され、この計測値を現実値R2として用いてもよい。具体的な手法として、例えば、患者40近傍に設置された計測装置によって中性子とホウ素との反応で生じるガンマ線を計測することで、血中ホウ素濃度を導出してもよい。すなわち、上記ガンマ線を治療中にリアルタイムで計測することで、中性子との反応で消費された患者40体内のホウ素の量をリアルタイムで知ることができ、ひいては、リアルタイムで患者40に残存する血中ホウ素濃度を導出することができる。これらの手法で導出された現実値R2は、例えば、作業者によって手動で線量評価システム61に入力されてもよい。
【0034】
線量評価システム61の演算部61bは、治療計画システム55から受信した計画値J1、計画値J2、計画値P1及び計画値P2と、制御部57から受信した現実値R1と、別途入力された現実値R2と、に基づいて、投与線量推定値を算出する。具体的には、演算部61bは、下式(1)の演算により投与線量推定値を算出する。
投与線量推定値=
J1・(∫(R1・R2)/∫(P1・P2))
+J2・(∫R1/∫P1) …式(1)
【0035】
ここで、式(1)中の
∫(R1・R2)
は、現実値R1と現実値R2との積を、治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値であり、
∫(P1・P2)
は、計画値P1と計画値P2との積を、治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値である。
∫R1
は、現実値R1を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値であり、
∫P1
は、計画値P1を治療開始時刻から治療終了時刻まで時間積分した値である。
【0036】
なお、前述したように、
投与線量計画値=J1+J2
であるので、線量評価システム61は、現実値R1、現実値R2、計画値P1、及び計画値P2に基づいて、式(1)の演算により、治療計画55aによる投与線量計画値を補正して投与線量推定値を導出するものとも言える。
【0037】
線量評価システム61の表示部61cは、演算部61bによる上記の算出結果(投与線量推定値)を画面表示してユーザに提示する。また、演算部61bでは、投与線量推定値と投与線量計画値とが比較され、この比較結果が表示部61cによって更に画面表示されてもよい。ユーザは算出結果や比較結果を確認して、事前の治療計画どおりの治療が達成されたか否かを検証することができる。
【0038】
ここで、式(1)に含まれる
∫(R1・R2)
について考える。ある時刻に患者40の腫瘍に投与される現実の線量は、その時刻における中性子線の量と、その時刻において患者40の腫瘍内に存在するホウ素の量と、に比例すると考えられる。また、ある時刻における中性子線の量は、その時刻において加速器10から出射された陽子ビーム電流に相関すると考えられる。また、ある時刻において患者40の腫瘍内に存在するホウ素の量は、その時刻における患者40の血中ホウ素濃度に相関すると考えられる。
【0039】
そうすると、ある時刻の
(R1・R2)
は、その時刻に患者40の腫瘍に投与される現実の線量に相関すると考えられ、これを時間積分した
∫(R1・R2)
は、治療開始時刻から治療終了時刻までに患者40の腫瘍に投与される現実の線量の大小を示すものと考えられる。また、現実の治療中においては、加速器10から出射される陽子ビーム電流の変動や患者40の血中ホウ素濃度の変動がそれぞれ独立して発生し得るが、∫(R1・R2)の演算には、上記のようなそれぞれ独立して発生する変動の影響も反映されている。
【0040】
同様にして、式(1)に含まれる
∫(P1・P2)
は、治療開始時刻から治療終了時刻までに患者40の腫瘍に投与される計画上の線量の大小を示すものと考えられる。
【0041】
従って、
∫(R1・R2)と、
∫(P1・P2)と、
の比を、計画値J1の補正係数とすることにより、式(1)の第1項である
J1・(∫(R1・R2)/∫(P1・P2))
は、治療計画上の反応由来線量が、現実の計測結果等に基づいて、真の値に近づくように補正されたものと考えられる。
【0042】
また、同様にして、
∫R1と、
∫P1と、
の比を、計画値J2の補正係数とすることにより、式(1)の第2項である
J2・(∫R1/∫P1)
は、治療計画上の中性子由来線量が、現実の計測結果等に基づいて、真の値に近づくように補正されたものと考えられる。
【0043】
従って、式(1)により導出される投与線量推定値は、投与線量計画値が、計画値J1と計画値J2とに分けて、現実に計測等して得られる各現実値等に基づいてそれぞれ補正されたものであり、真の投与線量に近いものであると考えられる。すなわち、本実施形態の線量評価システム61によれば、現実の治療による投与線量を事後的に正確に評価することができる。
【0044】
現実値R1及び計画値P1は、陽子ビーム電流値に代えて、患者40に照射される中性子の量を示す値であってもよい。この場合、例えば、図4に示される中性子線検出器65により各時刻で患者40に照射される中性子の量が実測され、この実測値が現実値R1として制御部57に蓄積されログデータとして記憶される。またこの場合、治療計画55aには、治療中の各時刻ごと(例えば1秒ごと)に患者40に照射される中性子の量の計画値が含まれており、この計画値を計画値P1として採用すればよい。
【0045】
上記中性子線検出器65は、図4に示されるように、シンチレータ65a、光ファイバー65b、光検出器65cを有している。シンチレータ65aは、コリメータ46(図2参照)の貫通孔46b内に設けられており、コリメータ46の開口46aに露出している。シンチレータ65aは、開口46a内の中性子線Nまたはガンマ線を受けてシンチレーション光を発生させる。このシンチレーション光は、光ファイバー65bを通じて光検出器65cに入射する。光検出器65cは、例えば、光電子増倍管や光電管などの光検出機器であり、光検出時に電気信号(検出信号)を制御部57に出力する。
【0046】
また、患者40に照射される中性子の量は、次のような手法で計測されてもよい。例えば、治療中の患者40の近傍に金線を設置しておき、治療後に回収した当該金線の放射化を測定することにより、患者40に照射された中性子の量を導出することができる。この場合、治療中の全体に亘って中性子の量が一定であったと仮定してもよい。
【0047】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0048】
例えば、計画値J1、計画値J2、計画値P1、計画値P2、現実値R1、及び現実値R2、に含まれる陽子ビーム電流、血中ホウ素濃度等の値の一部を、例えば、治療開始時刻から治療終了時刻まで一定と仮定するなどして、適宜演算を簡略化してもよい。
【0049】
また、上述の実施形態では、線量評価システム61が治療計画システム55とは別システムとしているが、線量評価システム61が治療計画システム55に包含されてもよい。すなわち、治療計画システム55を構成するハードウエア上で線量評価システム61の機能が実現され線量評価の処理が実行されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…ホウ素中性子捕捉療法システム、32…電流モニタ、40…患者、61…線量評価システム、61b…演算部(線量推定部)、65…中性子線検出器。
図1
図2
図3
図4