(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】FCRN抗体組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20241206BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241206BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241206BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20241206BHJP
【FI】
A61K39/395 N
C12P21/08
A61K39/395 D
A61P37/06
C07K16/28 ZNA
(21)【出願番号】P 2021526405
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 US2019042615
(87)【国際公開番号】W WO2020018910
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-07
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508134441
【氏名又は名称】モメンタ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】521027803
【氏名又は名称】チャン,ジョンリ
(73)【特許権者】
【識別番号】521027814
【氏名又は名称】シフリン,マイケル
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジョンリ
(72)【発明者】
【氏名】シフリン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ウォッシュバーン,ナサニエル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】リウォシュ,アネタ
(72)【発明者】
【氏名】カーン,ナシル
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/023136(WO,A1)
【文献】特表2018-504907(JP,A)
【文献】mAbs,2016年,Vol.8, No.2,p.331-339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的組成物であって、前記組成物は、
140,500~143,000Daの分子量を有する、軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖(LHHL)を含む主要タンパク質抗体構成要素、および
分子量119,150~119,350Daを有する、重鎖-重鎖-軽鎖(HHL)を含む副次的タンパク質抗体構成要素
を含み、
前記主要タンパク質抗体構成要素は、前記組成物における総タンパク質の95~99重量%であり、前記副次的タンパク質抗体構成要素は、前記組成物における総タンパク質の1~3重量%であり、
前記重鎖はそれぞれ配列番号2のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖はそれぞれ配列番号1のアミノ酸配列を含む、
前記薬学的組成物。
【請求項2】
前記主要タンパク質抗体構成要素は、前記組成物における総タンパク質の95~98重量%であり、前記副次的タンパク質抗体構成要素は、前記組成物における総タンパク質の2~2.5重量%である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記LHHLを含む前記主要タンパク質抗体構成要素を含む組成物を提供するステップであって、前記重鎖はそれぞれ配列番号2のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖はそれぞれ配列番号1のアミノ酸配列を含む、ステップ;
前記組成物が、前記LHHLを含み140,500~143,000Daの分子量を有する主要タンパク質抗体構成要素、および前記HHLを含み119,150~119,350Daの分子量を有する副次的タンパク質抗体構成要素を含むかどうかを判定するステップ;ならびに
前記組成物が、140,500~143,000Daの分子量を有する主要タンパク質抗体構成要素、および119,150~119,350Daの分子量を有する副次的タンパク質抗体構成要素を含む場合にのみ、前記組成物と1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを組み合わせて薬学的組成物を調製するステップ
を含む、請求項1または2に記載の薬学的組成物を調製するための方法。
【請求項4】
前記調製された薬学的組成物は、28~32mg/mlの前記主要タンパク質抗体構成要素を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記調製された薬学的組成物は、9~11mg/mlの前記主要タンパク質抗体構成要素を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記主要タンパク質抗体構成要素が前記組成物における総タンパク質の95~99重量%であり、前記副次的タンパク質抗体構成要素が前記組成物における総タンパク質の1~3重量%である場合にのみ、前記組成物と1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを組み合わせて薬学的組成物を調製するステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記判定するステップは、電気泳動またはクロマトグラフィーを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記提供するステップは、配列番号2のアミノ酸配列を含む前記重鎖および配列番号1のアミノ酸配列を含む前記軽鎖を発現する細胞を培養するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
(1)前記主要タンパク質抗体構成要素の各重鎖が、配列番号2のアミノ酸配列を含み、前記主要タンパク質抗体構成要素の各軽鎖が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、および、
(2)前記副次的タンパク質抗体構成要素が、(i)配列番号1のアミノ酸配列を有する軽鎖と対合する、配列番号2のアミノ酸配列を有する第1の重鎖と、(ii)位置219におけるCがデヒドロアラニンによって置き換えられている配列番号2のアミノ酸配列を含むまたは該配列番号2のアミノ酸配列からなる、第2の重鎖とを含む、
請求項1に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Fc受容体(FcRn)抗体の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
数多くの自己免疫および同種免疫疾患は、病原性抗体によって媒介される。病原性抗体の安定性、活性、およびトランスポートは、IgG結合性および血清アルブミン結合性細胞内小胞輸送タンパク質として機能するI型膜貫通タンパク質である新生児Fc受容体(FcRn)に依存する。例えば、多くの胎児および新生児免疫疾患は、妊娠した対象、とりわけ免疫学的疾患を有する妊娠した対象から胎児への、胎盤におけるヒト新生児Fc受容体(FcRn)を介した母体抗体の移行により生じる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、抗FcRn抗体を含む組成物(「M281組成物」)に関する。組成物は、完全な無傷の抗体(すなわち、2本の抗体軽鎖および2本の抗体重鎖を有する抗体)、ならびに2本の抗体重鎖および2本の抗体軽鎖を含まず、その代わりに2本の抗体重鎖および1本のみの抗体軽鎖を含むそのサイズバリアントを含む。ゆえに、M281薬学的組成物は、配列番号2のアミノ酸配列を含むまたはそれからなる2本の重鎖および配列番号1のアミノ酸配列を含むまたはそれからなる2本の軽鎖を含む抗体(LHHL)を含み得、組成物は、140,000~145,000Da(例えば、140,500~143,000Da)の分子量を有する主要タンパク質構成要素、および分子量118,000~120,000Da(例えば、119,000~120,000Daまたは119,150~119,350Da)の副次的(minor)タンパク質構成要素を含み、主要構成要素は、組成物におけるタンパク質の少なくとも80重量%(81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99重量%)であり、副次的構成要素は、組成物におけるタンパク質の少なくとも0.8重量%、1重量%、2重量%、3重量%、しかし多くて20重量%(19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、または4重量%)である。ゆえに、例えば、分子量118,000~120,000Daの副次的タンパク質構成要素は、組成物におけるタンパク質の0.8~2重量%、1~2重量%、0.8~3重量%、または1~4重量%であり得る。
【0004】
様々な実施形態において、主要タンパク質構成要素は、組成物におけるタンパク質の少なくとも99重量%であり;副次的タンパク質構成要素は、2本の重鎖および1本の軽鎖を含む抗体バリアントを含み;抗体バリアントは、不対重鎖(配列番号2のアミノ酸配列を含むまたはそれからなる)および対合重鎖(配列番号2のアミノ酸配列を含むまたはそれからなる)および軽鎖(配列番号1のアミノ酸配列を含むまたはそれからなる)を含み;抗体バリアントは、位置219におけるCがデヒドロアラニンによって置き換えられている、配列番号2のアミノ酸配列を含むまたはそれからなるポリペプチドを含む不対重鎖を含み;ならびに副次的タンパク質構成要素は、a)不対重鎖(配列番号2のアミノ酸配列を含むまたはそれからなる)および対合重鎖(配列番号2のアミノ酸配列を含むまたはそれからなる)および軽鎖(配列番号のアミノ酸配列を含むまたはそれからなる)を含む第1の抗体バリアント;ならびにb)位置219におけるCがデヒドロアラニンによって置き換えられている、配列番号2のアミノ酸配列を含むまたはそれからなるポリペプチドを含む不対重鎖を含む第2の抗体バリアントを含む。
【0005】
薬学的組成物を調製するための方法が本明細書において記載される。方法は、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体の組成物を提供するステップ;組成物が、140,000~145,000Da(例えば、140,500~143,000Da)の分子量を有する主要タンパク質構成要素、および分子量118,000~120,000Da(例えば、119,000~120,000Daまたは119,150~119,350Da)の副次的タンパク質構成要素を含むかどうかを判定するステップ;組成物が、140,000~145,000Da(例えば、140,500~143,000Da)の分子量を有する主要タンパク質構成要素、および分子量118,000~120,000Da(例えば、119,000~120,000Daまたは119,150~119,350Da)の副次的タンパク質構成要素を含む場合にのみ、組成物と1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを組み合わせて薬学的組成物を調製するステップを含む。
【0006】
方法の様々な態様において、調製された薬学的組成物は、28~32mg/mlの、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体を含み;調製された薬学的組成物は、9~11mg/mlの、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体を含み;方法は、主要構成要素が組成物におけるタンパク質の少なくとも90重量%であり、副次的構成要素が組成物におけるタンパク質の少なくとも3重量%である場合にのみ、組成物と1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを組み合わせて薬学的組成物を調製するステップをさらに含み;判定するステップは、電気泳動またはクロマトグラフィーを含み;ならびに提供するステップは、重鎖および軽鎖を発現する細胞を培養するステップを含む。
【0007】
別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。本発明における使用のための方法および材料が本明細書において記載され、当技術分野において公知の他の適切な方法および材料も使用され得る。材料、方法、および実施例は単なる例示であり、限定的であることを意図されるわけではない。本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース登録、および他の参考文献は、参照によりそれらの全体として組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が制御するであろう。
【0008】
本発明の他の特色および利点は、以下の詳細な説明および図から、ならびに特許請求の範囲から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】非還元条件で測定されたM281組成物の代表的なキャピラリー電気泳動(CE-SDS)電気泳動図である;優勢な無傷IgGは(2)として、サイズバリアントは(1)としてラベルされている。
【
図2A-2B】質量分析と連動した疎水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC LC-MS)によって分析されたM281組成物の代表的なデータを示したグラフである;(A)優勢な軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖を有する、疎水性相互作用液体クロマトグラフィーによって分析されたM281組成物のUVクロマトグラムは(2)として、サイズバリアントは(1)としてラベルされている;(B)優勢な軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖を有する、質量分析からの基準ピーククロマトグラムは(2)として、サイズバリアントは(1a、保持時間12.42分間;1b、保持時間12.68分間)としてラベルされている。
【
図3A-3B】疎水性相互作用液体クロマトグラフィーによって単離された選択画分の代表的な質量分析結果を示したグラフである;(A)は、
図2(1a)を含む画分の質量分析結果を示している;(B)は、
図2(1b)を含む画分の質量分析結果を示している。
【
図4】トリプシン消化に曝露され、次いで加熱または還元の存在下でβ脱離を受けた、ジスルフィド架橋を含有するペプチドの漫画表示である。
【
図5】M281組成物の代表的な電荷電気泳動図(CE)である;主要アイソフォームは3.03~3.13分間で溶出し、副次的アイソフォームは3.23~3.31分間で溶出した。
【
図6】直接エレクトロスプレーイオン化質量分析を有するマイクロチップゾーン電気泳動分離による分析後の、副次的アイソフォーム(
図5に示される、3.23~3.31分間で溶出する画分)を含む単離されたサンプルの代表的な質量を示したグラフである。
【
図7】SDS-PAGEゲル電気泳動によって組成物を分離するステップ、SDS-PAGEゲルのページを切り出すことによって各組成物における選択サイズバリアントを単離するステップ、単離されたサイズバリアントをトリプシンで消化するステップ、ならびに単離されかつトリプシン消化されたサイズバリアントの質量分布をナノLC-MS法によって分析するステップを含む方法に関するフローチャート概略図である。
【
図8】(A)軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖(LC-HC-HC-LC);(B)重鎖-重鎖-軽鎖(HC-HC-LC);(C)不対重鎖のCys219を置換したデヒドロアラニンを有する重鎖-重鎖-軽鎖、のトリプシン消化から生じる予想ペプチドの化学的表示および分子量を示した図である。
【
図9】LC-HC-LC-HC、Cys-A、DeHA-A、およびCys-HC-HCを含有する単離された組成物について査定された、LC-HC-HC-LC(青で示されたデータ)およびHC-HC-LC(オレンジで示されたデータ)の鎖間ジスルフィド結合定量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本発明は、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)に標的化された抗体を含む新規の組成物を特色とする。これらの組成物は、例えば、対象における自己抗体のクリアランスを促進するのに、対象における抗原提示を抑制するのに、免疫応答を遮断する(例えば、対象における免疫応答の免疫複合体に基づく活性化を遮断する)のに、または対象における免疫学的疾患(例えば、自己免疫疾患)を治療するのに有用である。本明細書において、前述の単離された抗体および1つまたは複数のサイズバリアントを含有する組成物であって、最終組成物は、約140,000~143,000(例えば、141,750~141,800)Daの分子量を有する完全に組み立てられた軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖(LC-HC-HC-LC)を含む、総タンパク質含有量の少なくとも80%、およびより低分子量(例えば、118,000~120,000Da)の選択サイズバリアントを含む、総タンパク質含有量の最高5%まで(4%、3%、2%、1%、0.8%)を含有する、組成物が開示される。
【0011】
抗FcRn抗体
本明細書において記載されるように製剤化され得る抗体には、軽鎖配列
【0012】
【0013】
【0014】
この抗体のバリアントも、本明細書において記載されるように製剤化され得る。そのようなバリアントには、1~5個の単一アミノ酸置換または欠失を有する(および好ましくは、配列番号3~5のCDR配列を含む)配列番号1のバリアントの軽鎖配列、および1~5個の単一アミノ酸置換または欠失を有する(および好ましくは、配列番号6~8のCDR配列を含む)配列番号24のバリアントの重鎖配列を有する抗体が含まれる。配列番号1のバリアントおよび配列番号4のバリアントから構成される抗体は、好ましくは、M281のCDR配列:TGTGSDVGSYNLVS(軽鎖CDR1;配列番号3);GDSERPS(軽鎖CDR2;配列番号4);SSYAGSGIYV(軽鎖CDR3;配列番号5);TYAMG(重鎖CDR1;配列番号6);SIGASGSQTRYADS(重鎖CDR2;配列番号7);およびLAIGDSY(重鎖CDR3;配列番号8)を保持する。
【0015】
一部の場合には、軽鎖は、
【0016】
【化3】
と少なくとも90%、95%、または98%の同一性を有する配列を有する。
【0017】
一部の場合には、重鎖は、
【0018】
【化4】
と少なくとも90%、95%、または98%の同一性を有する配列を有する。
【0019】
一部の場合には、抗体は、例えば、エフェクター機能の減少、例えば補体依存性細胞溶解(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞溶解(ADCC)、および/または抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)の減少、ならびに/あるいはB細胞殺傷の減少につながる、抗体の定常領域(例えば、Fc領域)におけるアミノ酸置換、付加、および/または欠失を含む。定常領域は、抗体のその標的への結合には直接関与しないが、抗体依存性細胞毒性への抗体の参加等、様々なエフェクター機能を呈する。一部の場合には、抗体は、ヒト補体因子C1qおよび/またはナチュラルキラー(NK)細胞上のヒトFc受容体への結合の減少(すなわち、結合の欠如)によって特徴付けされる。他の場合には、抗体は、ヒトFcγRI、FcγRIIA、および/またはFcγRIIIAへの結合の減少(すなわち、結合の欠如)によって特徴付けされる。CDC、ADCC、ADCP、および/またはB細胞殺傷等の抗体依存性エフェクター機能を変更するまたは低下させるために、抗体は、IgGクラスのものであり得、1つまたは複数のアミノ酸置換E233、L234、G236、D265、D270、E318、K320、K322、A327、A330、P331、および/またはP329(別段の指定がない限り、全体を通して、EU番号付け(Edelman et al., Proc. Natl. Acad. USA, 63:78-85 (1969))を含有し得る。一部の場合には、抗体は、変異L234A/L235AまたはD265A/N297Aを有する。一部の場合には、抗体は、配列番号2の配列に対してアミノ酸置換A297Nを含有し、それにより抗体はグリコシル化形態に変化する。アミノ酸N297でグリコシル化を有する抗体は、補体またはFc受容体に結合する(すなわち、補体C1q結合)と予想され、一方でN297A(例えば、配列番号2)を有する抗体は、補体またはFc受容体への結合(すなわち、補体C1q結合)をほとんど有しないと予想され、低いCDC潜在性を示す。他の場合には、M281は、配列番号2に対して残基446でC末端リジンを含有する。一部の場合には、軽鎖のアミノ末端GlnはピロGlnである。
【0020】
ベクター、宿主細胞、および抗体産生
抗FcRn抗体は、宿主細胞から産生され得る。宿主細胞とは、本明細書において記載されるポリペプチドおよび構築物をそれらの対応する核酸から発現させるために必要とされる必須の細胞構成要素、例えば細胞小器官を含むビヒクルを指す。核酸は、当技術分野において公知の従来技法(例えば、形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、感染等)によって宿主細胞に導入され得る核酸ベクターに含まれ得る。核酸ベクターの選定は、一部には、使用される対象となる宿主細胞に依存する。一般的に、好ましい宿主細胞は、原核生物(例えば、細菌)または真核生物(例えば、哺乳類)起源のものである。
【0021】
核酸ベクター構築および宿主細胞
抗FcRn抗体のアミノ酸配列をコードする核酸配列は、当技術分野において公知の多様な方法によって調製され得る。これらの方法には、オリゴヌクレオチド媒介性(または部位指向性)変異導入およびPCR変異導入が含まれるが、それらに限定されるわけではない。抗FcRn抗体をコードする核酸分子は、標準的技法、例えば遺伝子合成を使用して獲得され得る。あるいは、野生型抗FcRn抗体をコードする核酸分子は、当技術分野における標準的技法、例えばQuikChange(商標)変異導入を使用して、特異的アミノ酸置換を含有するように変異し得る。核酸分子は、ヌクレオチド合成機またはPCR技法を使用して合成され得る。
【0022】
抗FcRn抗体をコードする核酸配列を、原核または真核宿主細胞において核酸分子を複製し得および発現させ得るベクターに挿入し得る。多くのベクターが当技術分野において入手可能であり、使用され得る。各ベクターは、特定の宿主細胞との適合性のために調整され得および最適化され得る様々な構成要素を含有し得る。例えば、ベクター構成要素には、複製の起点、選択マーカー遺伝子、プロモーター、リボソーム結合部位、シグナル配列、関心対象のタンパク質をコードする核酸配列、および転写終結配列が含まれ得るが、それらに限定されるわけではない。
【0023】
哺乳類細胞が宿主細胞として使用され得る。哺乳類細胞タイプの例には、ヒト胎児腎臓(HEK)(例えば、HEK293、HEK293F)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HeLa、COS、PC3、Vero、MC3T3、NS0、Sp2/0、VERY、BHK、MDCK、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT20、T47D、NS0(いかなる免疫グロブリン鎖も内因的に産生しないマウス骨髄腫細胞株)、CRL7O3O、およびHsS78Bst細胞が含まれるが、それらに限定されるわけではない。他では、大腸菌(E. coli)細胞が宿主細胞として使用され得る。大腸菌(E. coli)系統の例には、大腸菌(E. coli)294(ATCC(登録商標)31,446)、大腸菌(E. coli)λ1776(ATCC(登録商標)31,537、大腸菌(E. coli)BL21(DE3)(ATCC(登録商標)BAA-1025)、および大腸菌(E. coli)RV308(ATCC(登録商標)31,608)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。種々の宿主細胞は、翻訳後プロセシングおよびタンパク質産物の修飾のための特徴的でかつ特異的なメカニズムを有する。適当な細胞株または宿主システムを選定して、発現する抗FcRn抗体の正しい修飾およびプロセシングを確実にし得る。上記の発現ベクターを、当技術分野における従来技法、例えば形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、および直接マイクロインジェクションを使用して、適当な宿主細胞に導入し得る。ベクターが、タンパク質産生のための宿主細胞に導入され次第、プロモーターを誘導する、形質転換体を選択する、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために、必要に応じて改変された従来の栄養培地中で宿主細胞を培養する。治療用タンパク質の発現のための方法は、当技術分野において公知であり、例えばPaulina Balbas, Argelia Lorence (eds.) Recombinant Gene Expression: Reviews and Protocols (Methods in Molecular Biology), Humana Press; 2nd ed. 2004 (July 20, 2004)およびVladimir Voynov and Justin A. Caravella (eds.) Therapeutic Proteins: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology) Humana Press; 2nd ed. 2012 (June 28, 2012)を参照されたい。
【0024】
タンパク質の産生、回収、および精製
抗FcRn抗体を産生するために使用される宿主細胞を、当技術分野において公知でかつ選択された宿主細胞の培養に適した培地中で成長させ得る。哺乳類宿主細胞のための適切な培地の例には、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Expi293(商標)発現培地、ウシ胎仔血清(FBS)を補給されたDMEM、およびRPMI-1640が含まれる。細菌宿主細胞のための適切な培地の例には、選択剤、例えばアンピシリン等の必要な補給剤を加えたルリアブロス(LB)が含まれる。宿主細胞を、約20℃~約39℃、例えば25℃~約37℃、好ましくは37℃等の適切な温度、および5~10%(好ましくは8%)等のCO2レベルで培養する。培地のpHは、主に宿主生物に応じて、一般的に約6.8~7.4、例えば7.0である。発現ベクターにおいて誘導性プロモーターが使用される場合、タンパク質発現は、プロモーターの活性化に適した条件下で誘導される。
【0025】
タンパク質回収は、一般的に浸透圧ショック、超音波処理、または溶解等の手段によって、宿主細胞を破壊するステップを典型的に伴う。細胞が破壊され次第、細胞残屑は、遠心分離または濾過によって除去され得る。タンパク質はさらに精製され得る。抗FcRn抗体は、タンパク質精製についての当技術分野において公知の任意の方法によって、例えばプロテインA親和性、他のクロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、およびサイズ排除カラムクロマトグラフィー)、遠心分離、示差溶解度によって、またはタンパク質の精製のための他の任意の標準的技法によって精製され得る。(Process Scale Purification of Antibodies, Uwe Gottschalk (ed.) John Wiley & Sons, Inc., 2009を参照されたい。)一部の場合には、抗FcRn抗体は、精製を容易にするペプチド等のマーカー配列にコンジュゲートされ得る。マーカーアミノ酸配列の例は6-ヒスチジンペプチド(Hisタグ)であり、それはマイクロモル親和性でニッケル官能化アガロース親和性カラムに結合する。精製に有用な他のペプチドタグには、インフルエンザヘマグルチニンタンパク質に由来するエピトープに対応するヘマグルチニン「HA」タグが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0026】
治療の方法および適応症
本明細書において記載される抗FcRn抗体を含有する薬学的組成物によるヒトFcRnの遮断は、IgG自己抗体によって推進される疾患において治療上有益であり得る。全体的なIgG異化、および複数の種の自己抗体、小型循環代謝産物、またはリポタンパク質の除去を誘導するFcRn遮断の能力は、自己抗体により推進される自己免疫疾患病理を有する患者まで、自己抗体除去ストラテジーの実用性および利用可能性を拡大する方法を与える。いかなる理論によっても拘束されることなく、抗FcRn抗体の作用の支配的メカニズムは、循環における病原性自己抗体の異化を増加させ、ならびに影響を受けた組織における自己抗体および免疫複合体蓄積を減少させることであり得る。
【0027】
薬学的組成物は、対象における病原性抗体、例えばIgGおよびIgG自己抗体の異化およびクリアランスを促進するのに、免疫応答を低下させる、例えば対象における免疫応答の免疫複合体に基づく活性化を遮断するのに、および対象における免疫学的病状または疾患を治療するのに有用である。特に、薬学的組成物は、急性または慢性免疫応答の免疫複合体に基づく活性化を低下させるまたは治療するのに有用である。急性免疫応答は、尋常性天疱瘡、ループス腎炎、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、抗体媒介性拒絶反応抗リン脂質抗体症候群(例えば劇症型抗リン脂質抗体症候群)、免疫複合体媒介性血管炎、糸球体炎、チャネロパチー、視神経脊髄炎、自己免疫性難聴、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、免疫性好中球減少症、拡張型心筋症、および血清病からなる群より選択される医学的病状によって活性化され得る。慢性免疫応答は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、全身性ループス、急性治療に適応される障害の慢性形態、反応性関節障害、原発性胆汁性肝硬変、潰瘍性結腸炎、および抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎からなる群より選択される医学的病状によって活性化され得る。
【0028】
一部の場合には、薬学的組成物は、自己免疫疾患によって活性化された免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。自己免疫疾患は、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、アジソン病、溶血性貧血、自己免疫性肝炎、肝炎、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、限局性強皮症(CREST症候群)、寒冷凝集素症、クローン病、皮膚筋炎、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症、線維筋炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能低下症、炎症性腸疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、特発性肺線維症、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性関節炎、扁平苔癬、ループス、メニエール病、混合性結合組織疾患、多発性硬化症、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティッフマン症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎、潰瘍性結腸炎、ブドウ膜炎、白斑、およびウェゲナー肉芽腫症からなる群より選択され得る。
【0029】
特に、薬学的組成物は、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、尋常性天疱瘡/水疱性類天疱瘡、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、重症筋無力症、または視神経脊髄炎によって活性化された免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。
【0030】
一部の場合には、薬学的組成物は、胎児における貧血の危険性を減少させるまたは貧血を発症する危険性を減少させるのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物は、IUT(子宮内輸血)の必要性を減少させるまたは取り除くのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物および方法は、出生前PP+IVIg、出生後輸血、IVIg、および/または光線療法の必要性を減少させるまたは取り除くのに有用である。
【0031】
一部の場合には、薬学的組成物は、自己免疫疾患によって活性化された免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。自己免疫疾患は、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、アジソン病、溶血性貧血、自己免疫性肝炎、肝炎、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、限局性強皮症(CREST症候群)、寒冷凝集素症、クローン病、皮膚筋炎、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症、線維筋炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能低下症、炎症性腸疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、特発性肺線維症、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性関節炎、扁平苔癬、ループス、メニエール病、混合性結合組織疾患、多発性硬化症、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティッフマン症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎、潰瘍性結腸炎、ブドウ膜炎、白斑、およびウェゲナー肉芽腫症からなる群より選択され得る。
【0032】
一部の場合には、薬学的組成物は、胎児または新生児における免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物および方法は、妊娠した母親における自己免疫疾患によって活性化された、胎児または新生児における免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。
【0033】
特に、薬学的組成物は、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、尋常性天疱瘡/水疱性類天疱瘡、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、重症筋無力症、または視神経脊髄炎によって活性化された免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物は、胎児または新生児における免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。一部の場合には、薬学的組成物および方法は、妊娠した母親における全身性エリテマトーデス、抗リン脂質症候群、尋常性天疱瘡/水疱性類天疱瘡、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、重症筋無力症、または視神経脊髄炎によって活性化された免疫応答を低下させるまたは治療するのに有用である。
【0034】
薬学的組成物は、ヒトFcRnに結合する単離された抗体を妊娠した対象に投与することによる、妊娠した対象の胎盤を越えた病原性抗体トランスポート(例えば、病原性母体IgG抗体トランスポート)を減少させる、妊娠した対象における病原性抗体異化を増加させる、および胎児または新生児におけるウイルス性疾患の抗体媒介性増強を治療する方法において有用である。本明細書において記載される薬学的組成物によるFcRn阻害から恩恵を受け得る疾患および障害には、妊娠した対象から胎児および/または新生児への胎盤を越えた母体病原性抗体(例えば、母体病原性IgG抗体)の移行によって引き起こされる、胎児および/または新生児における疾患および障害が含まれる。
【0035】
一部の場合には、本明細書において記載される薬学的組成物を用いた治療から恩恵を受け得る疾患および障害は、胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害である。胎児および新生児同種免疫障害は、妊娠した対象における病原性抗体によって引き起こされる、胎児および/または新生児における障害である。妊娠した対象における病原性抗体は、胎児の抗原(例えば、胎児が胎児の父親から受け継いだ抗原)を攻撃し得、胎児または新生児に胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害を持たせる。
【0036】
治療され得る胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害の例には、胎児および新生児同種免疫性血小板減少症(FNAIT)、胎児および生まれたばかりの子どもの溶血性疾患(HDFN)、同種免疫性汎血小板減少症、先天性心ブロック、胎児関節拘縮、新生児重症筋無力症、新生児自己免疫性溶血性貧血、新生児抗リン脂質症候群、新生児多発性筋炎、皮膚筋炎、新生児ループス、新生児強皮症、ベーチェット病、新生児グレーブス病、新生児川崎病、新生児自己免疫性甲状腺疾患、および新生児I型糖尿病が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0037】
一部の場合には、本明細書において記載される薬学的組成物を用いた治療から恩恵を受け得る疾患および障害は、抗体が宿主細胞へのウイルス侵入を促し、細胞における感染力の増加または増強、例えばウイルス性疾患の抗体媒介性増強につながる、ウイルス性疾患である。一部の場合には、抗体は、ウイルス表面タンパク質に結合し得、抗体/ウイルス複合体は、抗体と受容体との間の相互作用を介して細胞表面のFcRnに結合し得る。その後、抗体/ウイルス複合体は、細胞に内在化され得る。例えば、ウイルスは、母体IgG抗体と複合体を形成することにより、胎児の細胞および/または組織に侵入し得る。母体IgG抗体は、ウイルス表面タンパク質に結合し得、IgG/ウイルス複合体は、胎盤の栄養膜合胞体層においてFcRnに結合し得、次いでそれは複合体を胎児に移行させる。
【0038】
一部の場合には、本明細書において記載される薬学的組成物を使用して、ウイルス性疾患の抗体媒介性増強を治療し得る。一部の場合には、病原性抗体(例えば、病原性IgG抗体)によって増強されるウイルス性疾患には、アルファウイルス感染、フラビウイルス感染、ジカウイルス感染、チクングニアウイルス感染、ロスリバーウイルス感染、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス感染、中東呼吸器症候群、鳥インフルエンザ感染、インフルエンザウイルス感染、ヒト呼吸器合胞体ウイルス感染、エボラウイルス感染、黄熱病ウイルス感染、デングウイルス感染、ヒト免疫不全ウイルス感染、呼吸器合胞体ウイルス感染、ハンタウイルス感染、ゲタウイルス感染、シンドビスウイルス感染、ブニヤムウェラウイルス感染、西ナイルウイルス感染、日本脳炎ウイルスB感染、ウサギ痘ウイルス感染、乳酸デヒドロゲナーゼ上昇ウイルス感染、レオウイルス感染、狂犬病ウイルス感染、口蹄疫ウイルス感染、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス感染、サル出血熱ウイルス感染、ウマ伝染性貧血ウイルス感染、ヤギ関節炎ウイルス感染、アフリカ豚熱ウイルス感染、レンチウイルス感染、BKパポーバウイルス感染、マレーバレー脳炎ウイルス感染、エンテロウイルス感染、サイトメガロウイルス感染、ニューモウイルス感染、モルビリウイルス感染、および麻疹ウイルス感染によって引き起こされるウイルス性疾患が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0039】
抗FcRn抗体によるヒトFcRnの遮断は、病原性抗体(例えば、病原性IgG抗体)によって推進される疾患において治療上有益であり得る。全体的な病原性抗体異化、および血清アルブミンをかき乱すことのない複数の種の病原性抗体、小型循環代謝産物、またはリポタンパク質の除去を誘導するFcRn遮断の能力は、病原性抗体により推進される自己免疫疾患病理を有する患者まで、病原性抗体除去ストラテジーの実用性および利用可能性を拡大する方法を与える。理論によって拘束されないものの、抗FcRn抗体の作用の支配的メカニズムは、循環における病原性抗体の異化を増加させ、および影響を受けた組織における病原性抗体および免疫複合体蓄積を減少させることであり得る。
【0040】
本明細書において記載される薬学的組成物は、妊娠した対象において免疫応答を活性化する医学的病状を有するまたは有する危険性がある妊娠した対象に投与され得る。一部の場合には、妊娠した対象は、妊娠した対象において免疫応答を活性化する医学的病状を過去に有していた可能性がある。一部の場合には、妊娠した対象は、胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害を有する以前の胎児または新生児を有していた病歴を有する。一部の場合には、免疫疾患と関連した病原性抗体が、妊娠した対象から獲得された生物学的サンプル(例えば、血液または尿サンプル)において検出された場合、本明細書において記載される抗FcRn抗体は、妊娠した対象に投与され得る。一部の場合には、妊娠した対象の生物学的サンプルにおいて検出された病原性抗体は、妊娠した対象内の胎児由来の抗原(例えば、胎児が胎児の父親から受け継いだ抗原)に結合することが既知である。
【0041】
一部の場合には、薬学的組成物は、妊娠する計画を立てている、妊娠した対象において免疫応答を活性化する医学的病状を有するもしくは有する危険性がある、および/または妊娠した対象において免疫応答を活性化する医学的病状を過去に有していた対象に投与され得る。一部の場合には、対象は、妊娠する計画を立てており、胎児および新生児同種免疫および/または自己免疫障害を有する以前の胎児または新生児を有していた病歴を有する。一部の場合には、本明細書において記載される抗FcRn抗体は、妊娠する計画を立てている、および生物学的サンプルが、免疫疾患と関連した病原性抗体を含有する対象に投与され得る。
【0042】
一部の場合には、本明細書において記載される薬学的組成物を対象(例えば、妊娠した対象)に投与して、対象における急性または慢性免疫応答の免疫複合体に基づく活性化を低下させ得るまたは治療し得る。急性免疫応答は、医学的病状(例えば、尋常性天疱瘡、ループス腎炎、重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、抗体媒介性拒絶反応、劇症型抗リン脂質抗体症候群、免疫複合体媒介性血管炎、糸球体炎、チャネロパチー、視神経脊髄炎、自己免疫性難聴、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、免疫性好中球減少症、拡張型心筋症、血清病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、全身性ループス、反応性関節障害、原発性胆汁性肝硬変、潰瘍性結腸炎、または抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎)によって活性化され得る。
【0043】
一部の場合には、本明細書において記載される製剤を対象(例えば、妊娠した対象)に投与して、自己免疫疾患によって活性化された免疫応答を低下させ得るまたは治療し得る。自己免疫疾患は、例えば円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群(例えば、抗リン脂質抗体症候群)、表皮水疱症、膜性腎症、アジソン病、溶血性貧血、温式自己免疫性溶血性貧血(wAIHA)、抗因子抗体、ヘパリン起因性血小板減少症(HICT)、感作移植、自己免疫性肝炎、肝炎、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能不全症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、限局性強皮症(CREST症候群)、寒冷凝集素症、クローン病、皮膚筋炎、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症、線維筋炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、甲状腺機能低下症、炎症性腸疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群、特発性肺線維症、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年性関節炎、扁平苔癬、ループス、メニエール病、混合性結合組織疾患、多発性硬化症、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティッフマン症候群、高安動脈炎、側頭動脈炎、潰瘍性結腸炎、ブドウ膜炎、白斑、またはウェゲナー肉芽腫症であり得る。
【実施例】
【0044】
本発明は、特許請求の範囲において記載される本発明の範囲を限定しない以下の実施例においてさらに記載される。
【0045】
以下の材料および方法を、本明細書において示される実施例において使用した。
【0046】
材料
M281産生:軽鎖および重鎖を産生する細胞培養物を遠心分離および濾過によって浄化し、その後に界面活性剤処理を用いたウイルス不活化が続いた。ウイルス不活化の後、材料をプロテインAカラムに適用して、工程に関連した不純物(例えば、宿主細胞タンパク質(HCP)、DNA、および培地添加物)を除去した。溶出液をアニオン交換カラムおよびウイルス除去フィルターに適用した。ウイルス除去の後、かつ濃縮ならびにpH6.5の25mMリン酸ナトリウムおよび25mM塩化ナトリウムのバッファーを使用した透析濾過の前に、30kDa公称分子量カットオフのポリエーテルスルホン膜を通したさらなる濾過を実施した。8.7% w/wの最終濃度までのトレハロース、および0.01%重量/体積(w/v)の最終濃度までのポリソルベート80の添加によって、材料を製剤化した。製剤バッファー(25mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、8.7%トレハロース、0.01% w/vポリソルベート80、pH6.5)を用いて、M281を30mg/mL(27~33mg/mL域)の目標まで希釈する。
【0047】
[実施例1]サイズバリアント種の検出
本明細書において記載される方法を使用して産生され、M281抗体を含有する組成物において、SDSを用いた非還元キャピラリー電気泳動(NR CE-SDS)によってサイズバリアント種が再現性よく検出され、分析された。
【0048】
結果
M281の組成物を調製し、NR CE-SDSによって分析した。NR CE-SDSによって分析されるM281組成物の電気泳動図読み取りにより、保持時間26~27分間を有する一方のピーク、および保持時間27.5~29分間を有する他方のピークという2つの分離したピークが示された(
図1)。後者のピークは、完全に組み立てられた軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖(LC-HC-HC-LC)に相当し、一方で前者のピークは、重鎖-重鎖-軽鎖(HC-HC-LCまたはHHLと称される)と比較して低い重量を有するサイズバリアント分子に相当した。NR CE-SDSによって検出されるサイズバリアント分子のレベルは、すべての下流のプロセシングステップ、GMP DSおよびDPロットの間、ならびに安定性調査の間、総タンパク質含有量の約4.0~4.5パーセントにとどまった(データ示さず)。加えて、250Lの試験的レベルからGMP 2000L規模への規模拡大の間、NR CE-SDSによって検出されるこのサイズバリアントのレベルの有意な変化はなかった。このサイズバリアントのレベル。組成物が、サンプル調製の間にまたはCE-SDS分析の前にインキュベーション温度の増加(例えば、37℃から70℃へ)等の変性条件に曝露された場合、M281組成物におけるサイズバリアントの形成は増加した。
【0049】
[実施例2]M281組成物において検出されるサイズバリアント種に関する分子量の特徴付け
M281組成物におけるサイズバリアント種の分子質量を判定するために、M281組成物を、質量分析と連動した疎水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC LC-MS)、直接エレクトロスプレーイオン化質量分析を有するマイクロチップゾーン電気泳動分離、およびゲル電気泳動によって分離されたタンパク質の非還元トリプシン消化、その後に続く質量分析と連動したナノ液体クロマトグラフィーを含めた3つの方法によって分析した。
【0050】
結果
HILIC LC-MSによるM281組成物の分析により、HILIC分離のUVクロマトグラムで12.5分間の保持時間を中心とするピークが明らかとなり(
図2A)、それは、質量分析によって、12.42分間の保持時間を中心とする一方のピークおよび12.68分間の保持時間を中心とする他方という2つの種に分けられた(
図2B)。12.42分間および12.68分間の保持時間のピークにおける分子質量の分布を、両ピークに関するマススペクトルのデコンボリューションによって判定した。保持時間12.42分間でのピークにおける種のマススペクトルのデコンボリューションにより、119,277Daの支配的な種を含む複数のサイズバリアントが明らかとなった(
図3A)。119,277Daの前述の支配的な種は、ジスルフィド結合のβ脱離による予想産物である、不対重鎖における位置219でシステインを置き換えたデヒドロアラニンを有する重鎖-重鎖-軽鎖(HC-HC-LCまたはHHLと称される)に対する119,177Daという理論的質量に近かった(
図4)。保持時間12.68分間でのピークにおける種のマススペクトルのデコンボリューションにより、119,329Daの支配的な種を含む複数のサイズバリアントが明らかとなった(
図3B)。119,329Daの前述の支配的な種は、システイン化された(cysteinylated)不対重鎖を有する重鎖-重鎖-軽鎖(HC-HC-LCまたはHHLと称される)に対する119,329Daという理論的質量に近かった。
【0051】
M281組成物におけるサイズバリアント種の分子量をさらに特徴付けするために、M281組成物を、直接エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)を有するマイクロチップゾーン電気泳動(MZE)分離によって分析した。MZE分離の電気泳動図は、約3.23分間の移動時間を有する副次的な酸性種を示した(
図5)。3.23分間前後で溶出するピークにおける種のマススペクトルのデコンボリューションにより、119,178Daおよび119,332Daの分子質量を有する2つの支配的な種を含む複数のサイズバリアントが明らかとなった。前述の支配的な種は、それぞれ、不対重鎖における位置219でシステインを置き換えたデヒドロアラニンを有する重鎖-重鎖-軽鎖(HHL)に対する119,177Da、およびシステイン化された不対重鎖を有する重鎖-重鎖-軽鎖(HC-HC-LCまたはHHLと称される)に対する119,329Daという理論的質量に近かった。
【0052】
M281組成物におけるサイズバリアント種の分子量をさらに特徴付けするために、M281組成物をSDS-PAGEゲル電気泳動によって分離し、軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖および重鎖-重鎖-軽鎖に相当する2本のバンドをゲルから切り出した(
図7に詳述される)。単離したゲル断片を非還元ゲル内トリプシン消化に供し、結果として生じた消化断片を、質量分析と連動したナノ液体クロマトグラフィーによって分析した(
図7に詳述される)。軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖、システイン化された不対重鎖を有する重鎖-重鎖-軽鎖、および不対重鎖における(配列番号2の)位置219でシステインを置換したデヒドロアラニンを有する重鎖-重鎖-軽鎖に関して、予想されるトリプシン消化ペプチドおよび分子質量が
図8に示されている。後者の2つの種に相当するトリプシン消化ペプチドを、重鎖-重鎖-軽鎖に相当するSDS-PAGEゲル電気泳動からのバンドにおける支配的な種として、および軽鎖-重鎖-重鎖-軽鎖バンドに相当するSDS-PAGEゲル電気泳動からのバンドにおける副次的な種として検出した(表1および
図9)。
【0053】
【0054】
結論として、3つの分析法は、システイン化された重鎖-重鎖-軽鎖およびデヒドロアラニン重鎖-重鎖-軽鎖と同程度の分子質量を有するものとして、M281組成物におけるサイズバリアント種を同定した。
【0055】
別の例において、M281調製物を調製し、5±3℃で保管され次第、安定性調査に供した。119,150~119,350Da域にあったタンパク質の重量パーセント(HHLが表2に示されている)。
【0056】
【表2】
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載の発明を列挙する。
[発明1]
配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体(LHHL)を含む薬学的組成物であって、前記組成物は、140,500~143,000Daの分子量を有する主要タンパク質構成要素、および分子量119,150~119,350Daの副次的タンパク質構成要素を含み、前記主要構成要素は、前記組成物におけるタンパク質の少なくとも80重量%であり、前記副次的構成要素は、前記組成物におけるタンパク質の少なくとも1重量%である、薬学的組成物。
[発明2]
前記主要タンパク質構成要素は、前記組成物におけるタンパク質の少なくとも93重量%である、発明1に記載の薬学的組成物。
[発明3]
前記副次的タンパク質構成要素は、2本の重鎖および1本の軽鎖を含む抗体バリアントを含む、発明1に記載の薬学的組成物。
[発明4]
前記抗体バリアントは、不対重鎖および対合重鎖および軽鎖を含む、発明3に記載の薬学的組成物。
[発明5]
前記抗体バリアントは、位置219におけるCがデヒドロアラニンによって置き換えられている、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む不対重鎖を含む、発明3に記載の薬学的組成物。
[発明6]
前記副次的タンパク質構成要素は、a)不対重鎖および対合重鎖および軽鎖を含む第1の抗体バリアント;ならびにb)位置219におけるCがデヒドロアラニンによって置き換えられている、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む不対重鎖を含む第2の抗体バリアントを含む、発明1に記載の薬学的組成物。
[発明7]
配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号1のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体(LHHL)の組成物を提供するステップ;
前記組成物が、145,000~160,000Daの分子量を有する主要タンパク質構成要素、および119,150~119,350Daの分子量を有する副次的タンパク質構成要素を含むかどうかを判定するステップ;
前記組成物が、145,000~160,000Daの分子量を有する主要タンパク質構成要素、および119,150~119,350Daの分子量を有する副次的タンパク質構成要素を含む場合にのみ、前記組成物と1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを組み合わせて薬学的組成物を調製するステップ
を含む、発明1から6のいずれか一つに記載の薬学的組成物を調製するための方法。
[発明8]
前記調製された薬学的組成物は、28~32mg/mlの、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体(LHHL)を含む、発明7に記載の方法。
[発明9]
前記調製された薬学的組成物は、9~11mg/mlの、配列番号24のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体を含む、発明7に記載の方法。
[発明10]
前記主要構成要素が前記組成物におけるタンパク質の少なくとも90重量%であり、前記副次的構成要素が前記組成物におけるタンパク質の少なくとも3重量%である場合にのみ、前記組成物と1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤とを組み合わせて薬学的組成物を調製するステップをさらに含む、発明7に記載の方法。
[発明11]
前記判定するステップは、電気泳動またはクロマトグラフィーを含む、発明7に記載の方法。
[発明12]
前記提供するステップは、前記重鎖および前記軽鎖を発現する細胞を培養するステップを含む、発明7に記載の方法。
【配列表】