IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社半導体エネルギー研究所の特許一覧

特許7599422疲労度評価システム、および疲労度評価装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】疲労度評価システム、および疲労度評価装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20241206BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241206BHJP
【FI】
A61B5/16 200
G06T7/00 350B
G06T7/00 660A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021536438
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 IB2020056786
(87)【国際公開番号】W WO2021019360
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019141444
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】秋元 健吾
(72)【発明者】
【氏名】岡野 達也
(72)【発明者】
【氏名】中島 基
【審査官】阿部 知
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-062982(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108446609(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101642374(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104090384(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108294759(CN,A)
【文献】S Sharan S et al.,”Driver Fatigue Detection Based On Eye State Recognition Using Convolutional Neural Network”,2019 International Conference on Communication and Electronic Systems (ICCES),2019年07月19日,pp. 2057-2063
【文献】LUDTKE Holger et al.,”Mathematical procedures in data recording and processing of pupillary fatigue waves”,Vision Research,1998年10月31日,Vol. 38、No. 19,pp. 2889-2896
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/16
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄積部と、生成部と、記憶部と、取得部と、測定部と、を有し、
使用者の疲労度を評価するための指標が情報として含まれる、側面または斜め方向から撮影した目およびその周辺の第1の画像情報と、前記指標が情報として含まれる、正面から撮影した目およびその周辺の第2の画像情報と、を複数組取得することで学習データを用意し、前記蓄積部に蓄積する第1ステップと、
前記生成部において前記学習データをもとに教師あり学習を行うことで、側面または斜め方向から撮影した目およびその周辺の画像情報が入力されると、数値化された前記指標を出力する学習済みモデルを生成し、前記記憶部に格納する第2ステップと、
前記取得部において、使用者の側面または斜め方向から、前記使用者の目およびその周辺を撮影することで第3の画像情報を取得し、前記第3の画像情報を前記記憶部に格納する第3ステップと、
前記測定部において、前記第3の画像情報に情報として含まれる前記指標を、前記学習済みモデルを用いて数値化する第4ステップと、
前記第3ステップと前記第4ステップとを繰り返し行うことで、前記第3の画像情報に情報として含まれる前記指標に異常が発生しているかを判定するための時系列データを取得した後、前記第3ステップと前記第4ステップとを行うことで取得される数値化された前記指標に、異常が発生しているか否かの判定を行う第5ステップと、を経ることで、前記使用者の疲労度を評価する機能を有する
疲労度評価システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記指標は、瞳孔径または瞳孔面積である、
疲労度評価システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第1の画像情報と、前記第2の画像情報とは、同時刻に同一人物を撮影することで取得されたものである、
疲労度評価システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかにおいて、
前記側面または斜め方向とは、視線に対して水平方向に、60゜以上85゜以下である、
疲労度評価システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかにおいて、
出力部を有し、
前記出力部は、前記使用者の疲労度の情報を提供する機能を有する、
疲労度評価システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の前記疲労度評価システムのうち、
前記記憶部、前記取得部および前記測定部を備える眼鏡と、前記蓄積部および前記生成部を備えるサーバと、を有する、
疲労度評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、疲労度を評価する方法に関する。また、本発明の一態様は、疲労度評価システムに関する。また、本発明の一態様は、疲労度評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会では、労働者の健康状態の適切な管理は、労働者の健康のみならず、労働生産性の向上、事故の防止などにつながるため、重要な課題である。もちろん、健康状態の適切な管理は、労働者に限られず、学生、家庭の主婦などにとっても重要な課題である。
【0003】
健康状態の悪化は、疲労の蓄積により引き起こされる。疲労は、身体的疲労と、精神的疲労と、神経的疲労と、に分けることができる。身体的疲労の蓄積により現れる症状は、比較的自覚しやすい。一方、精神的疲労や神経的疲労の蓄積により現れる症状は、自覚しにくいことが多い。最近では、視覚負担が大きいVDT(Visual Display Terminal)作業が増加しており、神経的疲労が蓄積しやすい環境にある。
【0004】
疲労の原因の一つとして、心理的ストレス(単に、ストレスともいう。)が挙げられる。また、慢性的な疲労は、自律神経の乱れにつながるといわれている。そこで、近年、機械学習などを用いて、疲労度やストレス状態を測定する方法が注目されている。特許文献1では、点滅光を用いて精神的疲労を検出する方法が開示されている。また特許文献2では、機械学習器を備えた、自律神経機能及びストレス度評価装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-301841号公報
【文献】特開2008-259609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に開示されている検出装置および評価装置を用いて疲労度やストレス度を評価する際、使用者が労働者である場合、労働に関する作業を中断する必要があるため、労働生産性が低下する恐れがある。また、使用者は上記検出装置を視覚的に認識することで、上記検出装置を使用する前に蓄積されている精神的疲労に加えて、さらなる精神的疲労が蓄積される恐れがある。よって、精神的疲労を正常に検出することが難しい。
【0007】
そこで、本発明の一態様は、疲労度を評価することを課題の一とする。また、本発明の一態様は、労働生産性の低下を抑制しつつ、疲労度を評価することを課題の一とする。
【0008】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、これら以外の課題は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を鑑み、本発明の一態様は、目およびその周辺の情報を学習データとして機械学習を行うことで、あらかじめ学習済みモデルを生成し、使用者が視覚的に認識しづらい位置から取得した目およびその周辺の情報をもとに、疲労度を評価するシステム(疲労度評価システム)を提供する。また、本発明の一態様は、当該疲労度評価システムを備えた器具および電子機器を提供する。
【0010】
本発明の一態様は、蓄積部と、生成部と、記憶部と、取得部と、測定部と、を有する疲労度評価システムである。蓄積部は、複数の第1の画像と、複数の第2の画像と、を蓄積する機能を有する。複数の第1の画像は、側面、または斜め方向から取得した目およびその周辺の画像である。複数の第2の画像は、正面から取得した目およびその周辺の画像である。生成部は、教師あり学習を行い、学習済みモデルを生成する機能を有する。記憶部は、学習済みモデルを記憶する機能を有する。取得部は、第3の画像を取得する機能を有する。第3の画像は、側面、または斜め方向から取得した目およびその周辺の画像である。測定部は、学習済みモデルをもとに、第3の画像から、疲労度を測定する機能を有する。
【0011】
上記疲労度評価システムにおいて、教師あり学習には、教師データとして、瞳孔、およびまばたきの少なくとも一が与えられる、ことが好ましい。
【0012】
また、上記疲労度評価システムにおいて、複数の第1の画像の一と、複数の第2の画像の一と、は、同時刻に取得される、ことが好ましい。
【0013】
また、上記疲労度評価システムにおいて、側面、または斜め方向とは、視線に対して水平方向に、60°以上85°以下である、ことが好ましい。
【0014】
また、上記疲労度評価システムにおいて、出力部を有する、ことが好ましい。また、出力部は、情報を提供する機能を有する、ことが好ましい。
【0015】
また、本発明の一態様は、上記疲労度評価システムのうち、記憶部と、取得部と、測定部と、を備える眼鏡、および、蓄積部と、生成部と、を備えるサーバ、を有する疲労度評価装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様により、疲労度を評価することができる。また、本発明の一態様により、労働生産性の低下を抑制しつつ、疲労度を評価することができる。
【0017】
なお、本発明の一態様の効果は、上記列挙した効果に限定されない。上記列挙した効果は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、他の効果は、以下の記載で述べる、本項目で言及していない効果である。本項目で言及していない効果は、当業者であれば、明細書、図面などの記載から導き出せるものであり、これらの記載から適宜抽出することができる。なお、本発明の一態様は、上記列挙した効果、及び/又は他の効果のうち、少なくとも一つの効果を有するものである。したがって本発明の一態様は、場合によっては、上記列挙した効果を有さない場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1は、疲労度評価システムの構成例を示す図である。
図2は、疲労度を評価する方法の一例を示すフロー図である。
図3A乃至図3Cは、目およびその周辺を撮影する方法を説明する図である。
図4は、CNNの構成例を示す図である。
図5A図5Bは、目およびその周辺を撮影する方法を説明する図である。
図6A図6Bは、人の視野の模式図である。
図7A図7Bは、瞳孔径の経時変化の模式図である。
図8A図8Bは、疲労度評価システムが組み込まれた、器具および電子機器を説明する図である。
図9Aは、疲労度評価システムの一部が組み込まれた器具を説明する図である。図9Bは、疲労度評価システムの一部が組み込まれた電子機器を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0020】
なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、同様の機能を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0021】
また、図面において示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、理解の簡単のため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0022】
また、本明細書にて用いる「第1」、「第2」、「第3」という序数詞は、構成要素の混同を避けるために付したものであり、数的に限定するものではないことを付記する。
【0023】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様である、疲労度評価システムおよび疲労度を評価する方法について、図1乃至図7Bを用いて説明する。
【0024】
<疲労度評価システムの構成例>
はじめに、疲労度評価システムの構成例を、図1を用いて説明する。
【0025】
図1は、疲労度評価システム100の構成例を示す図である。疲労度評価システム100は、蓄積部101と、生成部102と、取得部103と、記憶部104と、測定部105と、出力部106と、を有する。
【0026】
なお、蓄積部101と、生成部102と、取得部103と、記憶部104と、測定部105と、出力部106と、のそれぞれは、伝送路を介して接続されている。なお、当該伝送路には、ローカルエリアネットワーク(LAN)や、インターネットなどのネットワークが含まれる。また、当該ネットワークは、有線、および無線のいずれか一方、または両方による通信を用いることができる。
【0027】
また、上記ネットワークにおいて無線通信を用いる場合、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)などの近距離通信手段の他に、第3世代移動通信システム(3G)に準拠した通信手段、LTE(3.9Gと呼ぶ場合もある)に準拠した通信手段、第4世代移動通信システム(4G)に準拠した通信手段、または第5世代移動通信システム(5G)に準拠した通信手段などの様々な通信手段を用いることができる。
【0028】
蓄積部101には、学習データが格納される。
【0029】
生成部102は、機械学習を行う機能を有する。
【0030】
取得部103は、情報を取得する機能を有する。ここで、取得部103により取得される情報は、目およびその周辺の情報である。取得部103は、例えば、カメラ、圧力センサ、歪センサ、温度センサ、ジャイロセンサなどから選ばれた一または複数である。
【0031】
記憶部104には、取得部103により取得された情報が格納される。また、学習済みモデルが格納される。
【0032】
なお、記憶部104は設けられなくてもよい場合がある。例えば、上記学習済みモデル、および取得部103により取得された情報が、蓄積部101に格納される場合である。
【0033】
測定部105は、疲労度を測定する機能を有する。なお、疲労度を測定する機能には、疲労度を算出する機能、および疲労度が異常であるかを判定する機能が含まれる。
【0034】
出力部106は、情報を提供する機能を有する。当該情報とは、測定部105にて算出された疲労度や、疲労度が異常であるかの判定結果などである。出力部106が有するコンポーネントとして、ディスプレイ、スピーカーなどがある。
【0035】
以上が、疲労度評価システム100の構成例の説明である。
【0036】
<疲労度を評価する方法>
次に、疲労度を評価する方法の一例について、図2乃至図7Bを用いて説明する。
【0037】
上述したように、慢性的な疲労は、自律神経の乱れにつながるといわれている。自律神経には、体の活動時、昼間、緊張時に活発になる交感神経と、安静時、夜間、リラックス時に活発になる副交感神経と、がある。交感神経が優位に立つと、瞳孔の拡大、心臓拍動の促進、血圧の上昇などが起こる。他方、副交感神経が優位に立つと、瞳孔の縮小、心臓拍動の抑制、血圧の低下、眠気などが起こる。
【0038】
自律神経のバランスが悪くなると、低体温、まばたきや涙の量の減少などを引き起こす。また、猫背や背中が反った姿勢が長時間続くと、自律神経の乱れにつながる場合がある。
【0039】
以上より、自律神経の乱れまたはバランスを評価することができれば、疲労度を客観的に評価することができる。つまり、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)、心臓拍動または脈拍、血圧、体温、まばたき、姿勢などの経時変化を評価することで、疲労度を客観的に評価することができる。
【0040】
図2は、疲労度を評価する方法の一例を示すフロー図である。疲労度を評価する方法は、図2に示す、ステップS001乃至ステップS006を有する。ステップS001、およびステップ002は、学習済みモデルを生成するための工程であり、ステップS003乃至ステップS006は、疲労度を測定するための工程である。つまり、疲労度を評価する方法は、学習済みモデルを生成する方法と、疲労度を測定する方法と、を含む。
【0041】
[学習済みモデルを生成する方法]
はじめに、学習済みモデルを生成する方法の一例について説明する。学習済みモデルを生成する方法は、図2に示す、ステップS001、およびステップS002を有する。
【0042】
ステップS001では、学習済みモデルを生成するために使用する、学習データを用意する。当該学習データとして、例えば、目およびその周辺の情報を取得する。つまり、ステップS001は、目およびその周辺の情報を取得する工程と言い換えることができる。後述するが、目およびその周辺の情報は、例えば、側面および正面から取得されることが好ましい。
【0043】
なお、目およびその周辺の情報は、カメラ、圧力センサ、歪センサ、温度センサ、ジャイロセンサなどから選ばれた一または複数を用いて取得する。なお、目およびその周辺の情報は、公開されているデータセットを利用してもよい。
【0044】
上記学習データには、教師データ(教師信号、正解ラベルなどともいう)として、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)、脈拍、血圧、体温、まばたき、姿勢、目の充血などを与えるとよい。特に、瞳孔(瞳孔径もしくは瞳孔面積)、または、まばたきは、精神的疲労によって経時変化する傾向があるため、教師データとして好ましい。
【0045】
学習データとして用意した目およびその周辺の情報は、蓄積部101に蓄積される。学習データが蓄積部101に蓄積された後、ステップS002へ進む。
【0046】
ステップS002では、蓄積部101に蓄積された学習データをもとに、機械学習を行う。当該機械学習は、生成部102にて行われる。
【0047】
上記機械学習には、例えば、教師あり学習を用いることが好ましく、ニューラルネットワーク(特に、ディープラーニング)を利用した教師あり学習を用いることがより好ましい。
【0048】
ディープラーニングとして、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)、オートエンコーダ(AE:Autoencoder)、変分オートエンコーダ(VAE:Variational Autoencoder)などを用いることが好ましい。
【0049】
上記機械学習により、学習済みモデルが生成される。当該学習済みモデルは、記憶部104に格納される。
【0050】
なお、教師データとして与えられる、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)、脈拍、血圧、体温、まばたき、姿勢、目の充血などには、年齢、体型、性別などの個人差がある。よって、利用者に合わせて、上記学習済みモデルを更新してもよい。
【0051】
以上が、学習済みモデルを生成する方法の一例である。
【0052】
[疲労度を測定する方法]
次に、疲労度を測定する方法の一例について説明する。疲労度を測定する方法は、図2に示す、ステップS003乃至ステップS006を有する。なお、疲労度を測定する方法には、疲労度を算出する方法、および疲労度が異常であるかを判定する方法が含まれる。
【0053】
ステップS003では、疲労度の算出に用いるための、目およびその周辺の情報を取得する。
【0054】
疲労度の算出に用いるための、目およびその周辺の情報は、例えば、側面、または斜め方向から取得されることが好ましい。目およびその周辺の情報を側面、または斜め方向から取得することで、利用者が視覚的に認識しづらい位置から、当該情報を取得することができる。よって、利用者が意識することなく、当該情報を取得することができる。
【0055】
なお、疲労度の算出に用いるための、目およびその周辺の情報は、カメラ、圧力センサ、歪センサ、温度センサ、ジャイロセンサなどから選ばれた一または複数を用いて取得する。
【0056】
また、疲労度の算出に用いるための、目およびその周辺の情報は、時系列で取得する。
【0057】
疲労度の算出に用いるための、目およびその周辺の情報は、記憶部104に格納される。当該情報が記憶部104に格納された後、ステップS004へ進む。
【0058】
ステップS004では、疲労度の算出を行う。疲労度の算出には、ステップS002で生成した学習済みモデルと、ステップS003で取得した目およびその周辺の情報と、を使用する。なお、疲労度の算出は、測定部105にて行われる。
【0059】
疲労度の算出とは、疲労度を評価するための指標の数値化をさす。当該疲労度を評価するための指標として、例えば、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)、脈拍、血圧、体温、まばたき、姿勢、目の充血などの少なくとも一を用いる。
【0060】
なお、疲労度の算出は、疲労度を評価するための指標の数値化に限られない。例えば、学習済みモデルを用いて、ステップS003で取得した目およびその周辺の情報から、疲労度を数値化してもよい。
【0061】
なお、ステップS005へ進む前に、ステップS003およびステップS004を、ある一定期間繰り返し行う。これにより、疲労度を評価するための指標に異常が発生しているかを判定するための時系列データを取得することができる。
【0062】
ステップS005では、疲労度を評価するための指標に異常が発生しているかの判定を行う。
【0063】
疲労度を評価するための指標に異常が発生していると判定された場合、疲労度が高いと判断される。疲労度が高いと判断された場合、ステップS006へ進む。一方、疲労度を評価するための指標に異常が発生していないと判定された場合、疲労度が高くないと判断される。疲労度が高くないと判断された場合、ステップS003へ進む。
【0064】
なお、ステップS004において疲労度を数値化する場合、疲労度の数値に異常が発生しているかの判定を行う。疲労度の数値に異常が発生していると判定された場合、疲労度が高いと判断される。疲労度が高いと判断された場合、ステップS006へ進む。一方、疲労度の数値に異常が発生していないと判定された場合、疲労度が高くないと判断される。疲労度が高くないと判断された場合、ステップS003へ進む。
【0065】
ステップS006では、情報の出力を行う。当該情報とは、測定部105にて算出された疲労度を評価するための指標や数値化された疲労度、疲労度が異常であるかの判定結果などである。当該情報は、例えば、文字列、数値、グラフ、色などの視覚情報、音声、音楽などの聴覚情報などとして出力される。
【0066】
上記情報を出力した後、終了する。
【0067】
以上が、疲労度を算出する方法の一例の説明である。
【0068】
ここまでが、疲労度を評価する方法の一例の説明である。
【0069】
<<疲労度を評価する方法の具体例>>
本項では、疲労度を評価する方法の具体例について、図3A乃至図7Bを用いて説明する。ここでは、疲労度を評価するための指標として、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)の経時変化を選択する。
【0070】
ステップS001で用意する学習データとして、例えば、目およびその周辺の画像データを用いる。このとき、目およびその周辺の画像データは、正面から取得された目およびその周辺の画像データと、側面または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データと、であることが好ましい。側面または斜め方向から取得された画像データと比べて、正面から取得された画像データでは、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)を高い精度で検出できる。したがって、正面から取得された画像データと、側面または斜め方向から取得された画像データとを学習データとすることで、側面または斜め方向から取得された画像データのみを学習データとするときよりも、精度の高い学習済みモデルを生成することができる。
【0071】
なお、学習データ用の、目およびその周辺の画像は、例えば、カメラなどを用いて、正面、および側面または斜め方向から撮影することで取得するとよい。
【0072】
カメラ111a乃至カメラ111dを用いて、正面、および側面または斜め方向から撮影する例を、図3A乃至図3Cに示す。図3Aは、撮影の対象者を上方から見た図である。図3Bは、撮影の対象者を右側面から見た図である。図3Cは、撮影の対象者を正面から見た図である。なお、図の明瞭化のために、図3Bではカメラ111a、カメラ111b、およびカメラ111dを省き、図3Cではカメラ111c、およびカメラ111dを省いている。なお、当該撮影の対象者は、疲労度が評価される人(利用者)に限定されなくてもよい。
【0073】
図3A乃至図3Cに示すように、正面からの目およびその周辺は、カメラ111c、およびカメラ111dを用いて撮影される。また、側面または斜め方向からの目およびその周辺は、カメラ111a、およびカメラ111bを用いて撮影される。
【0074】
機械学習を行う前に、学習データ用の画像データの加工または補正を行ってもよい。画像データの加工または補正として、例えば、機械学習に不必要な箇所の切り取り、グレースケールへの変換、メディアンフィルタ、ガウシアンフィルタなどがある。画像データの加工または補正により、機械学習で生じるノイズを低減することができる。
【0075】
学習データとして、同時刻に取得された、正面から取得された目およびその周辺の画像データ、および、側面または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データの組み合わせを、複数用意することが好ましい。同時刻において目およびその周辺を複数の角度から撮影することで、上記加工または補正を容易にすることができる。よって、精度の高い学習済みモデルを生成することができる。例えば、正面から取得された目およびその周辺の画像データを考慮して、側面または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データの加工または補正を行う。これにより、側面または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データにおける瞳孔の輪郭が強調され、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)を高い精度で検出することができる。
【0076】
なお、側面または斜め方向から取得された画像を多く取得することができる場合、側面または斜め方向から取得された画像データのみを学習データとしてもよい。また、正面から取得された目およびその周辺の画像データを考慮して、側面または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データの加工または補正を行う場合、側面または斜め方向から取得された画像データのみを学習データとしてもよい。
【0077】
上述したように、学習データは画像データであるため、ステップS002で行う機械学習には、畳み込みニューラルネットワークを用いることが好ましい。
【0078】
[畳み込みニューラルネットワーク]
ここで、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)について説明する。
【0079】
図4に、CNNの構成例を示す。CNNは、畳み込み層CL、プーリング層PL、全結合層FCLによって構成されている。CNNには画像データIPDがCNNに入力され、特徴抽出が行われる。本実施の形態では、画像データIPDは、目およびその周辺の画像データである。
【0080】
畳み込み層CLは、画像データに対して畳み込みを行う機能を有する。畳み込みは、画像データの一部と重みフィルタ(カーネルともいう。)のフィルタ値との積和演算を繰り返すことにより行われる。畳み込み層CLにおける畳み込みにより、画像の特徴が抽出される。
【0081】
上記積和演算は、プログラムを用いてソフトウェア上で行ってもよいし、ハードウェアによって行われてもよい。積和演算をハードウェアによって行う場合は、積和演算回路を用いることができる。この積和演算回路としては、デジタル回路を用いてもよいし、アナログ回路を用いてもよい。
【0082】
積和演算回路は、Siをチャネル形成領域に有するトランジスタ(Siトランジスタともいう。)によって構成してもよいし、金属酸化物をチャネル形成領域に用いたトランジスタ(OSトランジスタともいう。)によって構成してもよい。特に、OSトランジスタはオフ電流が極めて小さいため、積和演算回路のアナログメモリを構成するトランジスタとして好適である。なお、SiトランジスタとOSトランジスタの両方を用いて積和演算回路を構成してもよい。
【0083】
畳み込みには、一または複数の重みフィルタを用いることができる。複数の重みフィルタを用いる場合、画像データに含まれる複数の特徴を抽出することが可能となる。図4には、重みフィルタとして3つのフィルタ(フィルタF、F、F)が用いられる例を示している。畳み込み層CLに入力された画像データに対して、フィルタF、F、Fを用いたフィルタ処理が施され、画像データD、D、Dが生成される。なお、画像データD、D、Dは、特徴マップとも呼ばれる。
【0084】
畳み込みにより生成された画像データD、D、Dは、活性化関数によって変換された後、プーリング層PLに出力される。活性化関数としては、ReLU(Rectified Linear Units)などを用いることができる。ReLUは、入力値が負である場合は“0”を出力し、入力値が“0”以上である場合は入力値をそのまま出力する関数である。また、活性化関数として、シグモイド関数、tanh関数などを用いることもできる。
【0085】
プーリング層PLは、畳み込み層CLから入力された画像データに対してプーリングを行う機能を有する。プーリングは、画像データを複数の領域に分割し、当該領域ごとに所定のデータを抽出してマトリクス状に配置する処理である。プーリングにより、畳み込み層CLによって抽出された特徴を残しつつ、画像データの空間サイズが縮小される。また、畳み込み層CLによって抽出された特徴の、位置不変性または移動不変性を高めることができる。なお、プーリングとしては、最大プーリング、平均プーリング、Lpプーリングなどを用いることができる。
【0086】
CNNは、上記の畳み込み処理およびプーリング処理により特徴抽出を行う。なお、CNNは、複数の畳み込み層CLおよび複数のプーリング層PLによって構成することができる。図4には、畳み込み層CLおよびプーリング層PLによって構成される層Lがz層(zは1以上の整数である。)設けられ(層L乃至層L)、畳み込み処理およびプーリング処理がz回行われる構成を示している。この場合、各層Lにおいて特徴抽出が行うことができ、より高度な特徴抽出が可能となる。
【0087】
全結合層FCLは、畳み込みおよびプーリングが行われた画像データを用いて、画像の判定を行う機能を有する。全結合層FCLの全てのノードは、全結合層FCLの前層(ここではプーリング層PL、図4では、層Lに含まれるプーリング層PL)の全てのノードと接続されている。畳み込み層CLまたはプーリング層PLから出力された画像データは2次元の特徴マップであり、全結合層FCLに入力されると1次元に展開される。そして、1次元に展開されたデータOPDが出力される。
【0088】
なお、CNNの構成は図4の構成に限定されない。例えば、プーリング層PLが複数の畳み込み層CLごとに設けられていてもよい。また、抽出された特徴の位置情報を極力残したい場合は、プーリング層PLが省略されていてもよい。
【0089】
また、全結合層FCLの出力データから画像の分類を行う場合は、全結合層FCLと電気的に接続された出力層が設けられていてもよい。出力層は、尤度関数としてソフトマックス関数などを用い、各クラスに分類される確率を出力することができる。分類されるクラスとして、例えば、疲労度の度合いとするとよい。具体的には、分類されるクラスを、「疲労度が非常に高い」、「疲労度が高い」、「疲労度が中程度」、「疲労度が低い」、「疲労度が非常に低い」などとする。これにより、画像データから、疲労度を数値化することができる。
【0090】
また、全結合層FCLの出力データから、数値予測などの回帰分析を行う場合は、全結合層FCLと電気的に接続された出力層が設けられていてもよい。出力層に恒等関数などを用いることで、予測値を出力することができる。これにより、例えば、画像データから、瞳孔径または瞳孔面積を算出することができる。
【0091】
また、CNNは、画像データを、教師データが付与された学習データとして用いた教師あり学習を行うことができる。教師あり学習には、例えば誤差逆伝播法を用いることができる。CNNの学習により、重みフィルタのフィルタ値、全結合層の重み係数などを最適化することができる。
【0092】
以上が、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)についての説明である。
【0093】
上記教師あり学習では、学習データとして、正面から取得された目およびその周辺の画像データと、側面または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データとを用意し、瞳孔径、または瞳孔面積を出力するよう学習する。例えば、教師データとして、瞳孔径、または瞳孔面積を与える場合、CNNを用いた回帰により、瞳孔径、または瞳孔面積が出力される。以上により、側面または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データから、瞳孔径、または瞳孔面積が出力される学習済みモデルを生成する。
【0094】
なお、CNNを用いたクラス分類により、数値化された疲労度が出力されてもよい。このとき、側面または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データから、数値化された疲労度を出力する学習済みモデルが生成される。
【0095】
ステップS003では、疲労度の算出に用いるための、目およびその周辺の情報を取得する。目およびその周辺の情報として、例えば、側面、または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像を取得する。なお、目およびその周辺の画像は、カメラなどを用いて、側面から撮影することで取得するとよい。
【0096】
カメラ112a、およびカメラ112bを用いて、側面、または斜め方向から撮影する例を、図5A、および図5Bに示す。図5Aは、撮影の対象者を上方から見た図である。図5Bは、撮影の対象者を正面から見た図である。なお、当該撮影の対象者は、疲労度が評価される人(利用者)である。
【0097】
図5A、および図5Bに示すように、側面または斜め方向からの目およびその周辺は、カメラ112a、およびカメラ112bを用いて撮影される。
【0098】
なお、図3Aに示すカメラ111(カメラ111a乃至カメラ111dのいずれか一または複数)と、図5Aに示すカメラ112(カメラ112aおよび/またはカメラ112b)とは、被写体までの距離が略等しいことが好ましい。これにより、疲労度を高い精度で評価することができる。なお、本発明の一態様に係る疲労度を評価する方法では、教師あり学習を行うため、カメラ111と、カメラ112とは、被写体までの距離が必ずしも等しくなくてもよい。
【0099】
また、カメラ111を用いて撮影した画像と、カメラ112を用いて撮影した画像とは、解像度、アスペクト比などが同じであることが好ましい。これにより、疲労度を高い精度で評価することができる。なお、本発明の一態様に係る疲労度を評価する方法では、教師あり学習を行うため、カメラ111を用いて撮影した画像と、カメラ112を用いて撮影した画像とは、解像度、アスペクト比などが必ずしも等しくなくてもよい。
【0100】
図6A、および図6Bに、人の視野(両眼視)の模式図を示す。図6Aは、人を上方から見た図である。図6Bは、人を右側面から見た図である。
【0101】
人の視野は、有効視野、誘導視野、補助視野などに分類される。図6A、および図6Bにおいて、破線で示す、人から注視点Cへの線は視線(視軸)であり、角度θ1hおよび角度θ1vは有効視野の視野角の範囲であり、角度θ2hおよび角度θ2vは誘導視野の視野角の範囲であり、角度θ3hおよび角度θ3vは補助視野の視野角の範囲である。なお、特段の説明がない限り、視線とは、注視点が、注視点Cおよび右目を結ぶ線分の長さと、注視点Cおよび左目を結ぶ線分の長さとが等しい位置に存在する場合の、人から注視点Cへの線を指す。また、水平方向とは、両眼および視線を含む面に対して水平の方向を指す。また、垂直方向とは、両眼および視線を含む面に対して垂直の方向を指す。
【0102】
有効視野は、瞬時に情報受容できる領域である。なお、有効視野の水平方向の視野角(図6Aに示す角度θ1h)は、視線を中心に約30°の範囲といわれており、有効視野の垂直方向の視野角(図6Bに示す角度θ1v)は、視線からやや下方を中心に約20°の範囲といわれている。
【0103】
誘導視野は、空間座標系に影響を及ぼす領域である。なお、誘導視野の水平方向の視野角(図6Aに示す角度θ2h)は、視線を中心に約100°の範囲といわれており、誘導視野の垂直方向の視野角(図6Bに示す角度θ2v)は、視線からやや下方を中心に約85°の範囲といわれている。
【0104】
補助視野は、刺激の存在が分かる程度の領域である。なお、補助視野の水平方向の視野角(図6Aに示す角度θ3h)は、視線を中心に約200°の範囲といわれており、補助視野の垂直方向の視野角(図6Bに示す角度θ3v)は、視線からやや下方を中心に約125°の範囲といわれている。
【0105】
作業時の情報は、有効視野から最も多く受容され、誘導視野もわずかに受容される。また、補助視野からの情報は、作業時にはほとんどない。つまり、作業者は、補助視野に位置する情報を認識しにくい。
【0106】
また、疲労度を評価するための指標として、瞳孔の経時変化を選択する場合、ステップS003で取得する画像には、瞳孔が含まれる必要がある。視覚情報は、瞳孔、水晶体などを通じて網膜に映し出された映像が、視神経を通じて脳に伝達されることで認識される。つまり、補助視野も視覚情報を含むため、補助視野内において、瞳孔を認識することができる。
【0107】
以上より、目およびその周辺の画像が取得される、側面、または斜め方向とは、水平方向において、補助視野内、または補助視野近傍の誘導視野内から瞳孔を観察する方向であり、図6Aに示す角度θの範囲である。側面、または斜め方向とは、具体的には、視線に対して水平方向に、45°以上100°以下、好ましくは50°以上90°以下、さらに好ましくは60°以上85°以下である。これにより、利用者が視覚的に認識しづらい位置から、当該画像を取得することができる。よって、利用者が意識することなく、当該画像を取得することができる。
【0108】
なお、側面、または斜め方向が、水平方向において、上記の範囲である場合、垂直方向においては、いずれの角度も、誘導視野の視野角から外れる。よって、垂直方向における、側面、または斜め方向とは、瞳孔が撮影できる範囲であればどの方向でもよい。
【0109】
また、目およびその周辺の画像が取得される、正面とは、水平方向において、誘導視野内から瞳孔を観察する方向である。正面とは、具体的には、視線に対して水平方向に、0°以上50°以下、好ましくは0°以上30°以下、さらに好ましくは0°以上15°以下の範囲である。これにより、円または円に近い形状の瞳孔を撮影でき、瞳孔径または瞳孔面積を高い精度で算出することができる。
【0110】
疲労度を評価するための指標として、瞳孔の経時変化を選択する場合、ステップS004では、学習済みモデルを用いて、側面、または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データから、瞳孔径または瞳孔面積を算出する。
【0111】
上述したように、交感神経が優位に立つと、瞳孔が拡大し、副交感神経が優位に立つと、瞳孔が縮小する。つまり、自律神経の乱れに伴い、瞳孔径が変化する。また、瞳孔の変化速度は、疲労が蓄積すると遅くなるといわれている。本明細書では、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)の経時変化とは、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)の時間変化、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)の変化速度、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)の伸縮周期の時間変化などを指す。
【0112】
瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)の経時変化に異常が発生しているかどうかは、ステップS003の開始直後の瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)を基準に判定される。
【0113】
瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)の経時変化に異常が発生しているかどうかの判定方法の例について、図7A、および図7Bを用いて、説明する。
【0114】
図7A、および図7Bは、瞳孔径の経時変化の模式図である。図7A、および図7Bでは、横軸は時間であり、縦軸は瞳孔径である。図7A、および図7Bの実線は、瞳孔径の経時変化を示す。また、図7A、および図7Bの一点鎖線は、瞳孔径の時間平均を示す。
【0115】
図7Aは、時間が経つにつれて、瞳孔径が小さくなる様子を模式的に示した図である。瞳孔径の経時変化が異常であるかどうかを判定するために、あらかじめ瞳孔径のしきい値を設定する。例えば、図7Aの破線で示すように、瞳孔径の上限をrmaxとし、瞳孔径の下限をrminとする。図7Aの例では、時間tにおける瞳孔径は、瞳孔径の下限rminより小さい。このとき、瞳孔の経時変化に異常が発生していると判定される。
【0116】
例えば、ステップS003の開始直後の瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)を基準として、瞳孔(瞳孔径または瞳孔面積)がある一定以上の割合で拡大、または、縮小した場合に、異常が発生していると判定される。
【0117】
また、図7Bは、時間が経つにつれて、瞳孔径の伸縮周期が伸びていく様子を模式的に示した図である。瞳孔径の伸縮周期をf(uは、自然数である。)とする。瞳孔径の経時変化が異常であるかどうかを判定するために、あらかじめ瞳孔径の伸縮周期のしきい値を設定する。例えば、図7Bに示すように、瞳孔径の伸縮周期の上限を、fmaxとし、瞳孔径の伸縮周期の下限をfminとする。図7Bの例では、瞳孔径の伸縮周期ft+7は、瞳孔径の伸縮周期の上限fmaxより大きい。このとき、瞳孔の経時変化に異常が発生していると判定される。
【0118】
なお、瞳孔径の拡大・縮小、瞳孔径の伸縮周期は、混在して観察される。例えば、瞳孔径の経時変化に対して、高速フーリエ変換を行ってもよい。これにより、瞳孔径の伸縮周期を元にした、異常であるかどうかの判定が容易となる。
【0119】
なお、学習済みモデルを用いて、側面、または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データから、瞳孔径または瞳孔面積を算出する方法について例示したが、これに限られない。例えば、学習済みモデルを用いて、側面、または斜め方向から取得された目およびその周辺の画像データから、疲労度を数値してもよい。このとき、数値化された疲労度が異常であるかどうかを判定するために、あらかじめ疲労度のしきい値(疲労度の上限)を設定する。
【0120】
以上が、疲労度評価システムについての説明である。本発明の一態様の疲労度評価システムを使用することで、使用者の視線上に当該システム(特に取得部)が位置しないため、使用者の精神的疲労の増加が抑制される。よって、使用時の疲労度を高い精度で評価することができる。
【0121】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態などに示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【0122】
(実施の形態2)
本実施の形態では、図8A乃至図9Bを用いて、疲労度評価装置について説明する。疲労度評価装置とは、先の実施の形態で説明した疲労度評価システムを備えた、電子機器、または器具および電子機器である。
【0123】
疲労度評価システムの一部を備えた器具として、例えば、視力矯正眼鏡、保護眼鏡などの眼鏡、ヘルメット、ガスマスクなどの頭部に装着する安全保護具などが挙げられる。
【0124】
上記器具は、先の実施の形態で説明した疲労度評価システムのうち、少なくとも取得部103を有する。また、上記器具は、バッテリーを有する。
【0125】
疲労度評価システムの一部を備えた電子機器として、例えば、情報端末、コンピュータなどが挙げられる。なお、ここで、コンピュータとは、タブレット型のコンピュータ、ノート型のコンピュータ、デスクトップ型のコンピュータの他、ワークステーション、サーバシステムのような大型のコンピュータを含む。
【0126】
なお、上記器具に、GPS(Global Positioninig System)受信機を搭載することで、上記電子機器は、GPSを用いて、上記器具の位置、移動距離、加速度などのデータを取得してもよい。取得したデータを、疲労度を評価するための指標と組み合わせることで、疲労度をより高い精度で評価することができる。
【0127】
疲労度評価システムを備えた、器具および電子機器の一例を、図8Aに示す。図8Aは、疲労度評価システムを備えた、眼鏡200およびサーバ300である。眼鏡200は、処理部201を有する。また、サーバ300は、処理部301を有する。
【0128】
例えば、処理部201は、先の実施の形態で説明した、取得部103を有し、処理部301は、先の実施の形態で説明した、蓄積部101と、生成部102と、記憶部104と、測定部105と、を有する。また、処理部201、および処理部301のそれぞれは、送受信部を有する。処理部201が取得部103のみを有することで、処理部201を有する眼鏡200の軽量化を図ることができる。よって、眼鏡200を装着する際の、利用者の体への負担を低減することができる。
【0129】
また、取得部103としてカメラを用いる場合、取得部103を、眼鏡200のフレームのうち、目の近傍に配置することで、目およびその周辺を接写することができる。これにより、目を検出することが容易となる。また、目への外景の映り込みを低減することができる。よって、目およびその周辺の画像の、加工または補正の回数削減することができる。または、加工もしくは補正が不要になる。
【0130】
なお、図8Aでは、取得部103としてカメラを用いる例を示しているが、これに限られない。取得部103として、圧力センサ、歪センサ、温度センサ、ジャイロセンサなどを用いてもよい。このとき、取得部103は、目の側面、または斜め方向以外に設置してもよい。例えば、取得部103を、頭部と眼鏡200のフレームが接する箇所またはその近傍に設置してもよい。
【0131】
なお、処理部201は、先の実施の形態で説明した出力部106を有してもよい。処理部201が出力部106を有することで、利用者は作業中に、疲労度を知ることができる。出力部106が有するコンポーネントとして、ディスプレイ、スピーカーなどがある。
【0132】
なお、出力部106から提供される情報は、色などの視覚情報、音声、音楽などの聴覚情報などとして出力されることが好ましい。文字列、数値、グラフなどの視覚情報と比べて、色などの視覚情報は、視覚に与える影響が少なく、利用者へのストレスが小さいため好ましい。声、音楽などの聴覚情報についても同様である。なお、聴覚情報として、あらかじめ好みの音楽などを登録しておくことで、利用者の疲労度を軽減できる場合がある。
【0133】
なお、処理部201、および処理部301の構成はこれに限られない。例えば、処理部201は、取得部103と、記憶部104と、測定部105と、出力部106と、を有し、処理部301は、蓄積部101と、生成部102と、を有してもよい。このとき、処理部201は、疲労度を測定する機能を有し、処理部301は、学習済みモデルを生成する機能を有する。
【0134】
上記構成にすることで、処理部201のみで疲労度を測定することができるため、処理部201と処理部301との通信頻度を最小限に抑えることができる。また、上記構成にすることで、処理部301で更新された学習済みモデルを、処理部301が処理部201へ送信し、処理部201が当該学習済みモデルを受信することができる。そして、処理部201に記録されている学習済みモデルを、受信した当該学習済みモデルに更新することができる。これにより、精度が向上した学習データを利用でき、疲労度をより高い精度で評価することができる。
【0135】
記憶部104には、取得部103が取得した目およびその周辺の情報が蓄積されてもよい。取得した目およびその周辺の情報が記憶部104に一定量蓄積された後、蓄積された情報を、処理部301を有する電子機器に送信してもよい。これにより、処理部201と処理部301との通信回数を低減することができる。
【0136】
なお、疲労度評価システムの一部を備えた電子機器は、複数で構成されてもよい。疲労度評価システムを備えた、眼鏡、サーバ、および情報端末の一種である携帯電話(スマートフォン)を、図8Bに示す。図8Aに示す眼鏡200、およびサーバ300と同様に、眼鏡200は処理部201を有し、サーバ300は処理部301を有する。また、情報端末310は処理部311を有する。
【0137】
例えば、処理部201は、取得部103を有する。処理部301は、蓄積部101と、生成部102と、を有する。処理部311は、記憶部104と、測定部105と、出力部106と、を有する。また、処理部201、処理部301、および処理部311のそれぞれは、送受信部を有する。
【0138】
上記構成において、情報端末310を、眼鏡200の利用者が所持する場合、情報端末310を介して、自身の疲労度を確認することができる。
【0139】
また、情報端末310を、眼鏡200の利用者の上司などが所持する場合、情報端末310を介して、利用者の疲労度を確認することができる。よって、利用者と利用者の上司とが近くにいない場合でも、利用者の上司は、利用者の健康状態を管理することができる。また、出力部106から出力される情報が、疲労度に関する、文字列、数値、グラフなどの視覚情報である場合、利用者の健康状態を詳細に知ることができる。
【0140】
図8A、および図8Bに示す眼鏡200は、視力矯正眼鏡に限られず、サングラス、色覚補正眼鏡、3D眼鏡、拡張現実(AR:Augmented Reality)用眼鏡、複合現実(MR:Mixed Reality)用眼鏡、伊達眼鏡、ブルーライトカット機能を有するパーソナルコンピュータ用眼鏡などでもよい。
【0141】
特に、AR用眼鏡、MR用眼鏡などにおいては、疲労度に関する情報を、文字列、数値、グラフなどの視覚情報として出力することで、疲労度を詳細に知ることができる。
【0142】
図9Aは、疲労度評価システムの一部を備えた保護眼鏡を示す図である。図9Aに示す保護眼鏡210は、処理部211を有する。また、処理部211には、取得部103が含まれる。
【0143】
処理部211は、図8A、および図8Bに示す眼鏡200が有する処理部201と同様の機能を有するとよい。
【0144】
なお、図9Aには、保護眼鏡210として、ゴーグル型を例示しているが、これに限られず、スペクタクル型、フロント型であってもよい。また、図9Aには、一眼式を例示しているが、これに限られず、二眼式であってもよい。
【0145】
図8A図8B、および図9Aでは、疲労度評価システムの一部を備えた器具として、視力矯正眼鏡、保護眼鏡などの眼鏡を例示したが、これに限定されない。例えば、ヘルメット、ガスマスクなどの頭部に装着する安全保護具が挙げられる。
【0146】
ここまで、疲労度評価装置として、疲労度評価システムの一部を備えた器具と、疲労度評価システムの一部を備えた電子機器とを組み合わせた構成について説明したが、これに限られない。疲労度評価装置は、例えば、疲労度評価システムの一部を備えた、着脱可能な電子機器と、上述した電子機器とを組み合わせた構成であってもよい。図9Bに、疲労度評価システムの一部を備えた、着脱可能な電子機器320を取り付けた、頭部に装着する安全保護具220を示す。着脱可能な電子機器320は、取得部103を有する。疲労度評価システムの一部を、着脱可能な電子機器320に備えることで、従来使用していた安全保護具を利用することができる。
【0147】
また、疲労度評価システムの一部が、例えば、ヘッドマウントディスプレイ、スマートグラスなどの、頭部に装着するディスプレイ装置に備えられてもよい。これにより、例えば、仮想現実(VR:Virtual Reality)を利用した場面においても、疲労度を評価することができる。
【0148】
なお、疲労度評価装置は、疲労度評価システムを備えた、単一の器具、または単一の電子機器であってもよい。
【0149】
本発明の一態様の疲労度評価装置を用いることで、使用者の視界が確保され、使用者への精神的負担が低減される。よって、使用者の疲労度を高い精度で評価することができる。また、利用者が労働者である場合、疲労度を評価するために作業を中断する必要がなくなり、労働生産性の低下を抑制することができる。
【0150】
また、本発明の一態様の疲労度評価装置を用いることで、目およびその周辺の情報を、目に近い位置から取得することができる。よって、疲労度の評価の精度を高くすることができる。
【0151】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態などに示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0152】
:100:疲労度評価システム、101:蓄積部、102:生成部、103:取得部、104:記憶部、105:測定部、106:出力部、111:カメラ、111a:カメラ、111b:カメラ、111c:カメラ、111d:カメラ、112:カメラ、112a:カメラ、112b:カメラ、200:眼鏡、201:処理部、210:保護眼鏡、211:処理部、220:安全保護具、300:サーバ、301:処理部、310:情報端末、311:処理部、320:電子機器
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B