(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】トランスフェリン受容体結合分子、そのコンジュゲート、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20241206BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241206BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241206BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241206BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241206BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241206BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241206BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241206BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241206BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241206BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20241206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241206BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20241206BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241206BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
C07K16/46
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K16/28
C07K19/00
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K47/64
A61P35/00
A61K51/08 200
G01N33/53 D
C12N15/13 ZNA
(21)【出願番号】P 2021540103
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(86)【国際出願番号】 EP2020050318
(87)【国際公開番号】W WO2020144233
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-09
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512269708
【氏名又は名称】ヴェクト-オール
【氏名又は名称原語表記】VECT-HORUS
(73)【特許権者】
【識別番号】513210666
【氏名又は名称】ユニベルシテ デクス マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D‘AIX-MARSEILLE
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】コーエン, ロミー
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド, マリオン
(72)【発明者】
【氏名】クレストシャティスキ, ミシェル
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/031424(WO,A1)
【文献】特表2010-533130(JP,A)
【文献】国際公開第2002/057445(WO,A1)
【文献】特表2014-500866(JP,A)
【文献】特表2016-501881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00
C07K 19/00
C12P 21/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の式で表され、1nM~1μMの間に含まれる親和性(Kd)でヒト及び非ヒト動物の両方のTfRに結合し、
前記CDR1、CDR2及びCDR3の組み合わせは、配列番号1、2及び3、又は配列番号5、6及び7、又は配列番号9、10及び11、又は配列番号13、14及び15、又は配列番号17、2及び3、又は配列番号19、2及び3、又は配列番号1、21及び3、又は配列番号1、23及び3、又は配列番号1、2及び25、又は配列番号1、2及び27、又は配列番号1、2及び29、又は配列番号1、2及び31、又は配列番号1、2及び33、配列番号67、2及び3、又は配列番号69、2及び3、又は配列番号1、71及び3、又は配列番号1、73及び3、又は配列番号1、75及び3、又は配列番号1、2及び77、又は配列番号1、2及び79、又は配列番号1、2及び81、又は配列番号1、2及び83、又は配列番号1、2及び85のアミノ酸配列の組み合わせを含む、VHH分子。
【請求項2】
前記VHH分子は血液脳関門を横断する、請求項1に記載のVHH分子。
【請求項3】
前記分子のヒトTfRへの結合はトランスフェリンの結合と競合しない、請求項1又は2に記載のVHH分子。
【請求項4】
ヒト化された、請求項1~
3のいずれか1項に記載のVHH分子。
【請求項5】
配列LQRのQタグ及び/又はGlyリンカー配列及び/又は配列番号51の配列をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のVHH分子。
【請求項6】
配列番号51の配列を含み、
配列番号4、8、12、16、18、20、22、24、26、28、30、32
、34、
68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、87、88、89、90、91、及び92のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む、又は該アミノ酸配列からなる、請求項
5に記載のVHH分子。
【請求項7】
少なくとも1つの分子をコンジュゲートした、請求項1~
6のいずれか1項に記載のVHH分子。
【請求項8】
少なくとも1つの分子又は足場をコンジュゲートし、
前記少なくとも1つの分子は、活性化合物、ウイルス若しくはウイルス様粒子、又は安定化基である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の1つ以上のVHH分子を含む、キメラ薬剤。
【請求項9】
前記活性化合物は、治療用薬剤、診断用薬剤、又はイメージング剤である、請求項
8に記載のキメラ薬剤。
【請求項10】
請求項
8又は
9に記載のキメラ薬剤を含む医薬組成物又は診断用組成物。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のVHH分子、又は請求項
8又は
9に記載のキメラ薬剤をコードする核酸であって、前記分子はアミノ酸配列を含む、核酸。
【請求項12】
プロモーターに作動可能に連結された、請求項
11に記載の核酸を含むベクター。
【請求項13】
請求項
11に記載の核酸、又は請求項
12に記載のベクターを含む、組換え宿主細胞。
【請求項14】
請求項
13に記載の宿主細胞を、前記核酸の発現を可能にする条件下で培養することを含む、VHH分子又はそのコンジュゲートを作製する方法。
【請求項15】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の1つ以上のVHH分子を、少なくとも1つの分子に、共有結合又は非共有結合でコンジュゲートすることを含む、請求項
8又は
9に記載のキメラ薬剤を作製する方法。
【請求項16】
治療用薬剤、診断用薬剤、又はイメージング剤を製造するための、請求項1~
7のいずれか1項に記載のVHH分子、請求項
8又は
9に記載のキメラ薬剤、又は請求項
10に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスフェリン受容体(TfR)結合分子及びその使用に関する。本発明は、特に、血液脳関門(BBB)などの細胞膜表面においてTfRに結合するラクダ重鎖のみ(VHH)の分子の可変ドメイン、及び、例えば中枢神経の細胞又はがんなどのTfR発現組織若しくは器官に医薬上又は診断上の対象の分子を輸送するための、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グローバルインダストリーアナリストによれば、中枢神経系(CNS、脳及び脊髄)病態を処置する薬剤の世界的市場は、2015年におおよそ1000億ドルであったとされ、この額のうちのおおよそ90億ドルが薬剤送達技術から生まれた製品に相当した(非特許文献1)。このように、今日、神経病学は、心血管医薬及び腫瘍学とともに、三大治療領域のうちの1つとされる。全世界においてCNS障害及び病態罹患者数は心血管疾患又はがん罹患者数より多いものの、神経病学は未開拓市場である。これは、CNS病態を処置するための可能性のある薬剤の98%がBBBを横断しないということによって説明される(非特許文献2)。
【0003】
実際に、脳は、BBB及び血液脳脊髄液関門(BCSFB)の2つの主要な生理的バリアシステムがあることで、毒性の可能性がある物質から保護されている。BBBは、血漿リガンド取り込みの主要経路と考えられている。その表面積は、BCSFBのものよりおおよそ5000倍大きい。BBBの構成血管の全長は、おおよそ600kmである。大脳皮質各1cm3が、血管1km相当を含有する。BBBの総表面積は、20m2と概算される(非特許文献3)。このように、BBBを構成する大脳内皮は、血液と神経組織との間の大きな潜在的交換面に相当する。しかしながら、この大脳内皮は、その特異的性質のため、CNS障害を処置する薬剤の使用にとって大きな障害ともなる。
【0004】
実際に、BBBは、他の器官の血管系を構成する有窓内皮細胞には見られない特有の性質を示す脳毛細血管内皮細胞(BCEC)から構成される。BCECは密着結合を形成し、基底膜、星状膠細胞終足、周皮細胞、小膠細胞及びニューロン細胞に取り囲まれており、これらは、ともに極めて選択性の高いバリアを構成し、血液と脳との間の分子交換を制御し、脳の恒常性を維持し、また極めて有効に毒素及び病原体から脳を保護するものである。難点は、BBBがまた薬剤及びイメージング剤を含む大部分の分子に対して不透過性であることである。原則として、おおよそ450から600ダルトンの少数の小さな親油性分子しか(薬物候補の2%しか)BBBを横断できず、CNS障害処置のインビトロ研究及び動物研究で有望な結果を示す治療用ペプチド、タンパク質、抗体など、すべてではないが大部分の高分子量の分子が、BBBを横断しない。
【0005】
このように、BBBは、CNS障害を処置する新規療法の開発の際に克服すべき大きな障害と考えられている(非特許文献4)。CNS病態を処置、診断、又はイメージングするための分子検出に関連する優先される研究の1つは、BBBを横断する活性物質の通過を可能にする/増加させる方法の開発である。
【0006】
BBBを避ける一手法として、CNS(例えば、脳室内、脳内、若しくは髄腔内)に直接注射することで薬剤を投与すること、又はBBBを崩壊させることがある。しかしながら、そうした高侵襲の手法は難点があり(費用、短時間の作用など)、リスクの可能性がある。
【0007】
活性物質に脂肪基若しくは親油基を付加すること(経細胞親油性拡散、TLD)、又はリポソームの使用に基づく、薬理的方法が考えられている(非特許文献5)。しかしながら、脂肪基若しくは親油基の付加又はリポソームの使用は、BBBを横断するためにあまり有効ではない、450ダルトンの至適限度を超える大きい分子量で非特異的な複合体をもたらすことがある(非特許文献6;非特許文献7)。
【0008】
タンパク質治療剤を脳に送達するのに評価される方法のなかでも、BBBを横断する天然栄養素及び内因性リガンドの輸送に関与する細胞機構をハイジャックすることが、最も安全で有効であると認められる(Fang et al.,2017;Jones and Shusta,2007;Pardridge et al.,1992)。BBBを横断する高分子の輸送は、受容体媒介経細胞輸送(RMT)によって容易になり得、これは、BCECが発現する受容体とのリガンドの結合、エンドサイトーシスによる内部移行、細胞内輸送及びソーティングエンドソームにおける受容体からの解離、その後のBBBの反管腔側における放出に関与する、生理学的プロセスである(Tuma and Hubbard,2003;Xiao and Gan,2013)。これに関して、特許文献1及び特許文献2は、BBBを通って薬剤又は他の分子を輸送することを可能にする、LDL受容体に高親和性を有する種々のペプチドを公開している。
【0009】
BBBを横断して薬剤を輸送するために研究されている他の受容体は、トランスフェリン受容体(TfR)であり、これは、そのリガンドのトランスフェリン(Tf)による脳への鉄輸送に関与する(Fishman et al.,1987)。この受容体は、血液細胞や肺においても豊富である(Chan and Gerhardt,1992)が、脳内皮に高発現することが示されている(Jefferies et al.,1984;Pardridge et al.,1987)。輸送体としてのTfの使用が研究されている(Chang et al.,2009;Jain et al.,2011;Yan et al.,2013)ものの、この分子の輸送機序は、飽和性で内因性Tfと競合する。脳送達のベクターとして、ラットのTfRを標的とするOX26抗体(Moos and Morgan,2001;Pardridge et al.,1991;Ulbrich et al.,2009)、又は8D3(Pardridge,2015;Zhang and Pardridge,2005;Zhou et al.,2010)、及びマウスのTfRを標的とするR17-217(Lee et al.,2000;Pardridge,2015;Ulbrich et al.,2009)抗体を含む抗TfRモノクローナル抗体が研究されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7も参照)。しかしながら、これら抗体の難点には、前臨床研究又は臨床研究を妨げる、異種間反応性がないこと、及び特にヒトTfRに結合しないことを含む。また、BBBを横断して薬剤を有効に輸送するそうした抗体の機能は、未だ議論されるところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2010/046588号
【文献】国際公開第2011/131896号
【文献】国際公開第2012/075037号
【文献】国際公開第2013/177062号
【文献】国際公開第2012/75037号
【文献】国際公開第2016/077840号
【文献】国際公開第2016/208695号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Jain,Jain PharmaBiotech Report,Drug Delivery in CNS disorders,2008
【文献】Pardridge,Mol.Interv.,2003,3,90-105
【文献】De Boer et al.,Clin.Pharmacokinet.,2007,46(7),553-576
【文献】Neuwelt et al.,Lancet Neurol.,2008,7,84-96
【文献】Zhou et al.,J.Control.Release,1992,19,459-486
【文献】Levin,J.Med.Chem.,1980,23,682-684
【文献】Schackert et al.,Selective Cancer Ther.,1989,5,73-79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、この分野の進歩にもかかわらず、CNSへの薬剤の到達を高めることができる、さらに有効な方法及び薬剤が本技術分野において求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、BBBを横断して分子を有効に輸送するために使用可能な新しい結合分子を提供する。より具体的には、本発明は、ヒト及び非ヒトの両方のTfRに結合するとともに、経細胞輸送を介して薬剤をCNSに送達可能なVHH分子を開示する。本発明は、この発明のVHH分子が事実上CNSを通って遊走し、コンジュゲート薬剤又はイメージング剤をインビボで送達することができることを示す。このように、そうしたVHHは、治療又は診断の手法に使用する有用な分子に相当する。
【0014】
したがって、本発明の目的は、ヒト及び非ヒトのTfRに結合するVHH分子に関する。
【0015】
本発明のさらなる目的は、実質的に同様の親和性でヒト及び非ヒト(例えば、マウス又はラットなどのげっ歯動物)の両方のTfRに結合するVHH分子に関する。
【0016】
本発明のさらなる目的は、ヒト及び非ヒトのTfRに結合するとともに、ヒト血液脳関門(「BBB」)を横断可能なVHH分子である。
【0017】
本発明の好ましいVHHは、ヒト及びマウスの両方のTfRに結合し、ヒトBBBを横断可能であり、10μMより小さい、好ましくは0.1nM~10μMの間に含まれるTfRに対する親和性(Kd)を有する。
【0018】
また、本発明は、少なくとも1つの分子又は足場とコンジュゲートした、上述のような1つ以上のVHHを含むキメラ薬剤(本明細書において区別なく「コンジュゲート」とも呼ばれる)にも関する。VHHとコンジュゲートする分子は、例えば、薬剤、ウイルス、診断用薬剤、トレーサーなどの医薬に有用な任意の活性化合物であってもよい。また、キメラ薬剤は、該活性化合物に加えて又はその代わりに、安定化基(例えば、Fc又はIgG)を含ませて、VHH又はコンジュゲートの血漿中の半減期を長くしてもよい。このように、本発明の特定のキメラ薬剤は、任意の順序の少なくとも1つのVHH、安定化基、及び活性化合物を含む(例えば、コンジュゲートVHH-Fc-治療用薬剤)。
【0019】
さらに、本発明は、上述のようなキメラ薬剤と、任意で適切な賦形剤とを含む医薬用又は診断用組成物を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、上述のようなVHH又はキメラ薬剤をコードする核酸、ベクター、及び宿主細胞を提供する。
【0021】
また、本発明は、核酸の発現を可能にする条件下で上述のような宿主細胞を培養することを含む、VHH又はキメラ薬剤を作製する方法も提供する。
【0022】
さらに、本発明は、1つ以上の上述のようなVHHを分子又は薬剤又は足場に共有結合又は非共有結合でコンジュゲートすることを含む、キメラ薬剤を作製する方法を提供する。
【0023】
本発明の他の目的は、医薬又は診断用薬剤として使用する、上述のようなVHH分子又はキメラ薬剤に関する。
【0024】
本発明の他の目的は、対象物質の生物学的活性及び/又はCNS送達を増大するための、上述のようなVHH分子の使用に関する。
【0025】
本発明の他の目的は、BBBを横断する分子の通過を向上させる又は可能にするための、該分子を上述のようなVHHにカップリングすることを含む、方法に関する。
【0026】
本発明の他の目的は、対象における病態を処置するための、上述のようなコンジュゲートを該対象に投与することを含む、方法である。
【0027】
本発明の他の目的は、対象において特定の細胞型、標的組織又は器官をイメージングするための、上述のようなコンジュゲートを該対象に投与することを含む、方法である。
【0028】
本発明の他の目的は、対象における病態を薬剤で処置するための改善した方法であって、その改善は該薬剤を上述のようなVHH分子にカップリングすることにある。
【0029】
本発明は、任意の哺乳動物、特に任意のヒトに使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、BBBにおけるTfR発現を示す。マウス、ラット、ブタ、及び非ヒト霊長類(NHP、アカゲザル)の脳微小血管(BMV)及び脳微小血管内皮細胞(BMEC)の膜画分に対して、ウエスタンブロットを行った。ロードしたタンパク質量を図の下に示す。n-dは未消化、digは消化を示す。
【
図2】
図2は、ヒト又はマウスのTfRを発現するCHO細胞株の検証を示す。(A)CHO-hTfR-EGFP細胞株の作製に使用するプラスミドコンストラクトのマップを示す。(B)Tf-Alexa647(250μg/ml、赤色)と共に37℃で1時間インキュベートしたCHO-hTfR-EGFP細胞(緑色)の代表的な共焦点顕微鏡写真を示す。細胞核を0.5μg/mLのヘキスト#33342(青色)で標識した。統合画像において共標識は黄色で現れている。(C)ウサギ抗TfR抗体(1/1000)又はマウス抗GFP抗体(1/1000)を使用し、その後にHRPコンジュゲート抗ウサギ又は抗マウス2次抗体(1/10000)を使用して、CHO野生型と比較した、hTfR-EGFP及びmTfR-EGFPを発現するCHO細胞の細胞膜調製物におけるウエスタンブロットを示す。
【
図3】
図3は、hTfR及びmTfRを発現するCHO細胞におけるVHH A及びVHH Zの細胞表面結合及びエンドサイトーシスを示す。20μg/mlのVHH A(A、B)及びコントロールVHH Z(C、D)と共に37℃で1時間インキュベートし、PFA固定後、及びその後の細胞膜のトリトンX-100透過処理あり又はなしで、マウス抗cMyc(1/1000)及びAlexa594コンジュゲート抗マウス2次抗体(1/800、赤色)によって検出した、CHO-hTfR-EGFP細胞及びCHO-mTfR-EGFP細胞(緑色)の代表的な共焦点顕微鏡写真を示す。細胞核を0.5μg/mlのヘキスト#33342(青色)で標識した。統合画像において共標識は黄色/橙色で現れている。
【
図4】
図4は、hTfR及びmTfR発現CHO細胞株におけるVHHの見かけのK
d測定を示す。(A)CHO-hTfR-EGFP細胞及びCHO-mTfR-EGFP細胞を、種々の濃度のVHHと共に4℃で1時間インキュベートし、マウス抗6His(1/1000)及びAlexa647コンジュゲート抗マウス2次抗体(1/200又は1/400)によって検出した。フローサイトメトリーを使用して、測定を行った。各点の蛍光強度比を対応するEGFP信号(受容体発現)でノーマライズし、任意単位を得た。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。(B)選択VHHの、分子量(Da)、理論pI、ヒトTfRにおける見かけのK
d(nM)、マウスTfRにおける見かけのK
d(nM)の特徴を示す。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。NBは結合なしである。
【
図5】
図5は、VHHとTfとの競合アッセイを示す。(A)競合テストの原理を示す。第1ステップにおいて、CHO-hTfR-EGFP細胞を、希釈系列の競合物と共に、4℃で1時間インキュベートした。次に、EC90のトレーサーを添加し、4℃で1時間インキュベートした。その後、トレーサーを適切な顕色系で検出した。フローサイトメトリーを使用して、測定を行った。各点の蛍光強度比を対応するEGFP信号(受容体発現)でノーマライズし、任意単位を得た。(B)CHO-hTfR-EGFP細胞を、競合物(Tf)と共にインキュベートした。その後、EC90のトレーサー(VHH)を添加して、マウス抗cMyc抗体(1/50)及びAlexa647コンジュゲート抗マウス2次抗体(1/200)によって検出した。(C)CHO-hTfR-EGFP細胞を、競合物(VHH)と共にインキュベートした。その後、EC90のトレーサー(Tf-Alexa647)を添加して、直接検出した。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。
【
図6】
図6は、VHHコンジュゲーション方法を示す。化学コンジュゲーション又は組換え融合のいずれかを使用して、非網羅的にペプチド、siRNA、色素、ナノ粒子(NP)、リポソーム、イメージング剤、及び抗体を含む、あらゆる種類の分子をベクター化するように、VHHを使用可能である。さらに、分子を一価(VHH)又は多価(VHH
n)のコンジュゲートとしてベクター化するように、VHHを使用可能である。
【
図7】
図7は、hTfR及びmTfR発現CHO細胞におけるVHH A-Fc及びVHH Z-Fc融合タンパク質の細胞表面結合及びエンドサイトーシスを示す。50nMのVHH A-Fc(A、B)及びコントロールVHH Z-Fc(C、D)と共に37℃で1時間インキュベートし、PFA固定後、及びその後の細胞膜のトリトンX-100透過処理あり又はなしで、Alexa594コンジュゲート抗hFc抗体(1/1000、赤色)によって検出した、CHO-hTfR-EGFP細胞及びCHO-mTfR-EGFP細胞(緑色)の代表的な共焦点顕微鏡写真を示す。細胞核を0.5μg/mlのヘキスト#33342(青色)で標識した。統合画像において共標識は黄色/橙色で現れている。
【
図8】
図8は、hTfR及びmTfR発現CHO細胞株におけるVHH-Fc及びFc-VHHの見かけのK
d測定を示す。(A)CHO-hTfR-EGFP細胞及びCHO-mTfR-EGFP細胞を、種々の濃度のVHH-Fc及びFc-VHHと共に4℃で1時間インキュベートし、Alexa647コンジュゲート抗hFc抗体(1/400)によって検出した。フローサイトメトリーを使用して、測定を行った。各点の蛍光強度比を対応するEGFP信号(受容体発現)でノーマライズし、任意単位を得た。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。(B)選択VHH-Fc及びFc-VHHの、分子量(Da)、ヒトTfRにおける見かけのK
d(nM)、マウスTfRにおける見かけのK
d(nM)の特徴を示す。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。NBは、コントロールVHH(VHH Z)に対する結合なしである。
【
図9】
図9は、インビトロのBBBモデルにおけるVHH A-Fc及びVHH B-Fc融合タンパク質の取り込み及び輸送を示す。(A)生細胞において2時間、200nMのTf-Alexa647(赤色)と共にインキュベートし、PFA固定、及び細胞膜のトリトンX-100透過処理後に、Alexa488コンジュゲート抗fFc抗体(1/50、緑色)によって検出した、500nMのVHH A-Fc及びVHH B-Fcの取り込みのためプロービングしたラット脳微小血管内皮細胞(rBMEC)単層の代表的な顕微鏡写真を示す。細胞核を0.5μg/mlのヘキスト#33342(青色)で標識した。統合画像において共標識は黄色で現れている。(B)上部コンパートメント(1)のIV型コラーゲン/フィブロネクチン被覆フィルターに播種した初代rBMEC、及び下部コンパートメント(2)の初代星状膠細胞を含む共培養システムである、インビトロのBBBモデルの模式図を示す。(C、D)管腔側(上部)コンパートメントから反管腔側(下部)コンパートメントへとrBMEC単層を横断するVHH A-Fc、VHH B-Fc、及びVHH Z-Fc融合タンパク質の輸送を示す。(C)VHH A-Fc、VHH B-Fc、及びVHH Z-Fcを、管腔側コンパートメントにおいて10nMで24時間インキュベートし、反管腔側コンパートメントへの輸送を評価した(24hrsと表示)。その後、VHH-Fc溶液を含むインサートを、反管腔側コンパートメントへのさらなる48時間の輸送間隔(+48hrsと表示)を得るため、新しい輸送バッファーを含有する別の96ウェルプレートに移した。(D)(C)に記載する実験の動態的表示を示す(72時間の輸送は24時間と48時間との輸送間隔の合計である)。自社製抗Fc ELISAアッセイを使用して、反管腔側コンパートメントにおけるFcフラグメントの含有量を定量化した。吸光度単位をインサート毎フェムトモルに変換した(96ウェルプレートのインサートおいて0.143cm
2の表面積)。各コンジュゲートに対して、少なくとも12個のインサートにおける3つの独立実験を評価した。データを平均値±SEMとして表す(***p≦0.001)。
【
図10】
図10は、注射後(p.i.)2時間及び24時間での野生型C57Bl/6マウスにおけるVHH-Fc融合タンパク質の分布を示す。VHH A-Fc、VHH A-Fc-Agly、及びVHH Z-Fc融合物を5mg/kgで尾静脈に注射し、血漿採取後、マウスを注射後2時間又は24時間において生理食塩水で灌流した。また、注射後15分及び6時間において後眼窩サンプリングを用いて中間血漿サンプルを採取した。脳を処理して、脳実質を毛細血管から単離した。各組織のVHH-Fc量を、自社製の抗Fc ELISAアッセイを用いて評価した。データを、血漿(A)、実質(B)、及び微小血管(C)におけるVHH-Fc濃度の平均値±SEMとして、又は実質対血漿比(D)、及び微小血管対血漿比(E)の平均値±SEMによって表す(時点毎グループ毎4<n<12、*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001)。
【
図11】
図11は、hTfR及びmTfRを安定的に発現するCHO細胞株におけるVHH A1~A9の見かけのK
d測定を示す。(A)CHO-hTfR-EGFP細胞及びCHO-mTfR-EGFP細胞を、種々の濃度のVHHと共に4℃で1時間インキュベートし、マウス抗6His(1/1000)及びAlexa647コンジュゲート抗マウス2次抗体(1/400)によって検出した。フローサイトメトリーを使用して、測定を行った。各点の蛍光強度比を対応するEGFP信号(受容体発現)でノーマライズし、任意単位を得た。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。(B)VHHの、分子量(Da)、理論pI、ヒトTfRにおける見かけのK
d(nM)、マウスTfRにおける見かけのK
d(nM)の特徴を示す。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。NBは結合なし、LBは低結合である。
【
図12】
図12は、hTfR及びmTfRを安定的に発現するCHO細胞株におけるVHH A10~A19の見かけのK
d測定を示す。(A)CHO-hTfR-EGFP細胞及びCHO-mTfR-EGFP細胞を、種々の濃度のVHHと共に4℃で1時間インキュベートし、マウス抗6His(1/1000)及びAlexa647コンジュゲート抗マウス2次抗体(1/400)によって検出した。フローサイトメトリーを使用して、測定を行った。各点の蛍光強度比を対応するEGFP信号(受容体発現)でノーマライズし、任意単位を得た。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。(B)VHHの、分子量(Da)、理論pI、ヒトTfRにおける見かけのK
d(nM)、マウスTfRにおける見かけのK
d(nM)の特徴を示す。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。NBは結合なしである。
【
図13】
図13は、hTfR及びmTfR発現CHO細胞株における13C3-HC-VHH融合物の見かけのK
d測定を示す。(A)CHO-hTfR-EGFP細胞及びCHO-mTfR-EGFP細胞を、種々の濃度の13C3融合物と共に4℃で1時間インキュベートし、Alexa647コンジュゲート抗マウス抗体(1/400)によって検出した。フローサイトメトリーを使用して、測定を行った。各点の蛍光強度比を対応するEGFP信号(受容体発現)でノーマライズし、任意単位を得た。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。(B)13C3融合物の、分子量(Da)、ヒトTfRにおける見かけのK
d(nM)、マウスTfRにおける見かけのK
d(nM)の特徴を示す。データを、3つの独立実験における平均値±SEMとして表す。NBは結合なし、LBは低結合である。
【
図14】
図14は、注射後(p.i.)2時間及び6時間での野生型C57Bl/6マウスにおける13C3モノクローナル抗体及び13C3-HC-VHH融合物の分布を示す。13C3、13C3-HC-VHH A、及び13C3-HC-VHH A1を、35nmoles/kgで尾静脈に注射し、マウスを生理食塩水で注射後2時間又は6時間において灌流した。脳を処理して、脳実質を毛細血管から単離した。各組織/コンパートメントにおける13C3及び13C3-HC-VHH A/A1の量を、認定のMeso Scale Discovery(MSD)直接被覆(Aβ)免疫測定法を使用して評価した(%CV<20%及び回収±30%)。データを、全脳(A)及び実質(B)における13C3及び13C3-HC-VHH A/A1濃度の平均値±SEMとして表す(時点毎グループ毎1<n<4、*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001)。
【
図15】
図15は、VHH-siGFPst1バイオコンジュゲートのインビトロにおける遺伝子サイレンシング活性を示す。(A)VHH A-siGFPst1及びVHH B-siGFPst1バイオコンジュゲートはhTfRに結合する。CHO-hTfR-EGFP細胞を、示した種々の濃度の化合物と共に4℃で1時間インキュベートした。1次マウス抗6His(1/1000)及びAlexa647コンジュゲート抗マウス2次抗体(1/400)を使用してVHHの検出を行った。フローサイトメトリーを使用して、VHHに関連する細胞表面信号の測定を行った。結果を、バックグラウンド蛍光強度に対する試験化合物のAlexa647関連蛍光強度の比として表す。(B)VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートは遺伝子サイレンシング作用を示す。CHO-hTfR-EGFP細胞に、Dharmafect1(Dharmacon)を使用して、25nMの示した化合物を37℃で72時間遺伝子導入した。その後、EGFPタンパク質に関連する全蛍光度が、フローサイトメトリーを使用して定量化され、未処理(コントロール)の細胞のものに対して適正化した(100%に設定)。***p<0.001。(C)VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートは、サイトゾルに直接送達すると、ピコモル濃度範囲の内因性遺伝子サイレンシング活性を示す。CHO-hTfR-EGFP細胞に、Dharmafect1(Dharmacon)を使用して、種々の濃度のVHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートを37℃で120時間遺伝子導入した。その後、EGFPタンパク質に関連する全蛍光度が、フローサイトメトリーを使用して定量化され、未処理(コントロール)の細胞のものに対して適正化した(100%に設定)。データを、GraphPad Prismソフトウェア(実線)を使用して非線形回帰を用いて当てはめて、IC50(GFPタンパク質レベルを50%低下させる濃度)及び最大作用(底部プラトー)を推定した。(D)VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートは、特異的且つ有効なTfR媒介遺伝子サイレンシングを誘発する。CHO-hTfR-EGFP細胞を、1μMの示した化合物と共に37℃で120時間インキュベートした。(B)に記載するようにデータを処理して分析した。未処理細胞に対して***p<0.001。(E)VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートのhTfR媒介結合及び取り込みにより、ナノモル濃度でサイトゾルへの送達及びその後の遺伝子サイレンシングが可能となる。CHO-hTfR-EGFP細胞を、種々の濃度のVHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートと共に37℃で120時間インキュベートした。その後、EGFPタンパク質に関連する全蛍光度が、フローサイトメトリーを使用して定量化され、未処理(コントロール)の細胞のものに対して適正化した(100%に設定)。(C)に記載するようにデータを処理して分析した。(F)VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートの遺伝子サイレンシング作用は、遊離型TfR結合VHH A及びBの過剰量と共にインキュベートすることで阻害されるが、関連のないVHH Zではそうでない。CHO-hTfR-EGFP細胞を、単独の、又は100×過剰量の遊離型VHH A、B、若しくはZの存在下の30nMのVHH A-siGFPst1と共に37℃で120時間インキュベートした。(C)に記載するようにデータを処理して分析した。(G)短時間の6時間パルスのVHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートへの細胞の暴露は、有効な遺伝子サイレンシングを誘発するために十分なものである。CHO-hTfR-EGFP細胞を、種々の濃度のVHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートと共に短時間の6時間パルスの間インキュベートし、その後リガンド非含有培地において最大120時間追跡した。(B)に記載するようにデータを処理して分析した。(H)VHH B-siGFPst1バイオコンジュゲートの遺伝子サイレンシング作用はVHH A-siGFPst1で観察したものと同様であった。CHO-hTfR-EGFP細胞を、30nM(VHH A-siGFPst1で得たIC50に基づく飽和濃度)のVHH A-siGFPst1又はVHH B-siGFPst1と共に37℃で120時間インキュベートした。(C)に記載するようにデータを処理して分析した。
【
図16】
図16は、膠芽腫腫瘍の皮下マウスモデルにおけるVHH A-68GaバイオコンジュゲートのPETイメージングを示す。(A)VHH A-NODAGA及びVHH A-68Gaバイオコンジュゲートは、コンジュゲートしていないVHH A化合物ほど有効にhTfRに結合する。CHO-hTfR-EGFP細胞を、示した種々の濃度の化合物と共に4℃で1時間インキュベートした。1次マウス抗6His(1/1000)及びAlexa647コンジュゲート抗マウス2次抗体(1/400)を使用してVHHの検出を行った。フローサイトメトリーを使用して、VHHに関連する細胞表面信号の測定を行った。結果を、バックグラウンド蛍光強度に対する試験化合物のAlexa647関連蛍光強度の比として表す。(B)U87-MG細胞の移植後の28日目にVHH A-68Gaを投与したマウスのPETイメージングを示す(注射後2時間)。膠芽腫腫瘍を矢状図において丸で示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、BBBを横断して、治療用薬剤、イメージング剤、又は診断用薬剤などの分子を輸送するために使用可能な新しいTfR結合剤を提供する。より具体的には、本発明は、TfRに結合する改善したVHH分子、及びその使用を開示する。
【0032】
TfRは、トランスフェリンリガンドによって輸送される鉄の取り込み、及び細胞増殖の調節に関与する(Neckers and Trepel 1986,Ponka and Lok 1999)。TfR1受容体と主に肝臓で発現する相同性TfR2受容体との、2種類のトランスフェリン受容体がある。本発明の文脈では、TfRという用語はTfR1相同体を指すように用いる。
【0033】
TfRは、2つのジスルフィド架橋によって結合する2つの同一の90kDaのサブユニットからなるII型ホモ二量体膜貫通糖タンパク質である(Jing and Trowbridge 1987, McClelland et al.,1984)。各単量体が、YTRF(チロシン-スレオニン-アルギニン-フェニルアラニン)内部移行モチーフを含む61個のアミノ酸の細胞質N末端の短ドメイン、27個のアミノ酸の単一疎水性膜貫通部分、トリプシン切断部位及びトランスフェリン結合部位を含む670個のアミノ酸の大きなC末端細胞外ドメインを有する(Aisen,2004)。各サブユニットは、トランスフェリン分子に結合可能である。細胞外ドメインは、1つのO-型糖鎖付加部位、及び3つのN-型糖鎖付加部位を有し、後者は、適切なフォールディング及び細胞表面への受容体の輸送に特に重要である(Hayes et al.,1997)。また、膜内ドメインにおいてパルミトイル化部位も存在し、これは、おそらく受容体を固定してそのエンドサイトーシスを可能にするものである(Alvarez et al.,1990,Omary and Trowbridge,1981)。さらに、細胞内リン酸化部位が存在し、その機能は不明であり、エンドサイトーシスにおける役割はない(Rothenberger et al.,1987)。
【0034】
TfR受容体は、健常でも腫瘍性でも高増殖細胞によって高レベルで発現される(Gatter et al.,1983)。数多くの研究により、健常な細胞と比較して、がん細胞における高レベルのTfR発現が示されている。このように、乳がん(Yang et al.,2001)、神経膠腫(Prior et al.,1990)、肺腺がん(Kondo et al.,1990)、慢性リンパ性白血病(Das Gupta and Shah,1990)、又は非ホジキンリンパ腫(Habeshaw et al.,1983)などの病態は、腫瘍悪性度、及び疾患のステージ又は予後に関連するTfR発現の増大を示している。
【0035】
このように、TfRヘの薬剤標的化は、がん処置、及びBBB横断に適切とすることができる。
【0036】
高レベルのhTfR及びmTfRを発現する細胞からの精製膜調製物を使用して、ヒト及び非ヒトの両方のTfRに結合するVHH分子を生成して選択した。これらのVHH分子は、ヒトIgG1のFc領域又は薬剤(抗体、siRNAなど)又はイメージング剤に融合させると、TfR結合能力を保持して、インビトロのBBBモデルを横断して遊走し、インビボにおける脳標的特性を示した。また、これらのVHH分子は、siRNA又はNODAGA足場に融合させると、TfR結合能力を保持し、インビボにおける有効な細胞及び器官への送達を行うことを示した。VHH分子は、TfR結合に続いて適切なエンドサイトーシスを行うように、適切なレベルの親和性及び特異性を示す。したがって、本発明は、薬剤標的化において有用な薬剤に相当する新しいTfR結合分子を提供する。
【0037】
このように、本発明の目的は、ヒト及び非ヒト(例えばラット又はマウスなどのげっ歯動物)の両方のTfRに結合するVHH分子に関する。好ましくは、VHHは、ヒトBBBを横断する、又はがんなどのTfR発現組織に結合することができる。また、本発明は、そうしたVHHを含むキメラ薬剤、その製造、それを含む組成物、及びその使用に関する。
【0038】
<VHH分子>
VHH分子は、自然に軽鎖を欠いている重鎖のみのラクダ抗体の可変ドメインに相当する。VHHは、約15kDaの極めて小さいサイズを有する。これは、単一ドメインを用いてその同族の抗原に結合可能な単鎖分子を含む。VHHの抗原結合表面は、通常平坦又は凹状である普通の抗体のものよりも通常凸状である(又は突出する)。より具体的には、VHHは、それらの配列及び構造は保存されるものとして規定される4つのフレームワーク領域(又はFR)、及び抗原結合に関与して抗原特異性を与える配列内容及び構造配座の両方において高可変性を示す3つの相補性決定領域(又はCDR)、から構成される。通常のヒト抗体のVHと比較して、VHHのFR2領域及び相補性決定領域(又はCDR)においてはわずかなアミノ酸が置換されている。例えば、FR2領域における高保存性疎水性アミノ酸(Val47、Gly49、Leu50、及び/又はTrp52など)は、親水性アミノ酸(Phe42、Glu49、Arg50、Gly52)に置換されることがあり、全体構造をより親水性にして、高安定性、溶解性、及び凝集耐性に寄与する。
【0039】
本発明におけるVHH分子は、重鎖のみの抗体(HcAb)の抗原結合ドメインを含む(又はそれからなる、又は実質的にそれからなる)ポリペプチドである。
【0040】
発明者等は、適切な特性を有するVHH分子を生成するため、TfR免疫原によるラマの免疫化によって作製したVHHのライブラリから700を超えるTfR結合VHHを試験した。発明者等は、結合性及び特異性ためのクローンの分析後、さらに、必要な親和性、特異性、及び異種間結合性を有する約100個のクローンを選択した。該クローンをすべてシーケンシングし、その構造を分析及び比較した。さらに、制御/向上した結合特性を有するVHHを突然変異誘発によって作製した。該当するドメイン及び好ましいVHHの配列を、実験の項及び配列表に記載する。また、VHH及びそのコンジュゲートの特性を実験の項に示す。
【0041】
本発明のVHH分子は、典型的に、
FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の式を含む又はその式からなり、
式中、FRnはフレームワーク領域を指し、CDRnは相補性決定領域を指す。
【0042】
特定の実施形態では、本発明のVHH分子は、配列番号1、5、9、13、17、19、67、若しくは69から選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなるCDR1ドメイン、又は、その長さ全体において前述の配列のいずれか1つに対して少なくとも75%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも85%のアミノ酸同一性を有するとともに、TfR結合能力を保持するその変異体を含む。本発明の好ましいVHH分子は、配列番号1、5、9、13、17、19、67、若しくは69から選択されるアミノ酸配列を有するCDR1ドメイン、又は、多くて1個のアミノ酸修飾を有するその変異体を含む。
【0043】
アミノ酸(又は核酸)配列同士の間の「%同一性」は、本技術分野においてそれ自体既知である技術によって決定することができる。典型的に、2つの核酸又はアミノ酸配列間の%同一性は、GCGプログラムパッケージで提供されるGAPなどのコンピュータープログラム(Program Manual for the Wisconsin Package,Version 8,August 1996,Genetics Computer Group,575 Science Drive, Madison, Wisconsin, USA 53711)によって決定する(Needleman,S.B.and Wunsch,C.D.,(1970),Journal of Molecular Biology,48,443-453)。2つの配列間の%同一性は、該配列の長さ全体における同一性を指す。
【0044】
本発明のVHH分子の特定の例は、配列番号1、5、9、13、17、19、67、又は69を含む又は実質的にそれからなるCDR1配列を含む。
【0045】
さらなる特定の実施形態では、本発明のVHH分子は、配列番号2、6、10、14、21、23、71、73、若しくは75から選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなるCDR2ドメイン、又は、その長さ全体において前述の配列のいずれか1つに対して少なくとも70%のアミノ酸同一性、好ましくは85%のアミノ酸同一性を有するとともに、TfR結合能力を保持するその変異体を含む。本発明の好ましいVHH分子は、配列番号2、6、10、14、21、23、71、73、若しくは75から選択されるアミノ酸配列を有するCDR2ドメイン、又は、多くて1個のアミノ酸修飾を有するその変異体を含む。
【0046】
本発明のVHH分子の特定の例は、配列番号2、6、10、14、21、23、71、73、若しくは75を含む又は実質的にそれからなるCDR2配列を含む。
【0047】
さらなる特定の実施形態では、本発明のVHH分子は、配列番号3、7、11、15、25、27、29、31、33、77、79、81、83、若しくは85から選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなるCDR3ドメイン、又は、その長さ全体において前述の配列のいずれか1つに対して少なくとも60%のアミノ酸同一性、好ましくは80%のアミノ酸同一性、より好ましくは85%のアミノ酸同一性を有するとともに、TfR結合能力を保持するその変異体を含む。本発明の好ましいVHH分子は、配列番号3、7、11、15、25、27、29、31、33、77、79、81、83、若しくは85から選択されるアミノ酸配列を有するCDR3ドメイン、又は、多くて1個のアミノ酸修飾を有するその変異体を含む。
【0048】
本発明のVHH分子の特定の例は、配列番号3、7、11、15、25、27、29、31、33、77、79、81、83、又は85を含む又は実質的にそれからなるCDR3配列を含む。
【0049】
さらなる特定の実施形態では、本発明のVHH分子は、
配列番号1、5、9、13、17、19、67、若しくは69から選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなるCDR1ドメイン、又は、その長さ全体において前述の配列のいずれか1つに対して少なくとも75%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも85%のアミノ酸同一性、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するその変異体と、
配列番号2、6、10、14、21、23、71、73、若しくは75から選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなるCDR2ドメイン、又は、その長さ全体において前述の配列のいずれか1つに対して少なくとも70%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも85%のアミノ酸同一性、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するその変異体と、
配列番号3、7、11、15、25、27、29、31、33、77、79、81、83、若しくは85から選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなるCDR3ドメイン、又は、その長さ全体において前述の配列のいずれか1つに対して少なくとも60%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも80%のアミノ酸同一性、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するその変異体とを含み、
前述のVHHはTfR結合能力を有する。
【0050】
好ましい実施形態では、本発明のVHH分子は、
配列番号1、5、9、13、17、19、67、若しくは69から選択されるアミノ酸配列を有するCDR1ドメイン、又は、多くて1個のアミノ酸修飾を有するその変異体と、
配列番号2、6、10、14、21、23、71、73、若しくは75から選択されるアミノ酸配列を有するCDR2ドメイン、又は、多くて1個のアミノ酸修飾を有するその変異体と、
配列番号3、7、11、15、25、27、29、31、33、77、79、81、83、若しくは85から選択されるアミノ酸配列を有するCDR3ドメイン、又は、多くて1個のアミノ酸修飾を有するその変異体とを含む。
【0051】
より好ましい実施形態では、本発明のVHH分子は、CDR1、CDR2、及びCDR3を含み、該CDR1、CDR2、及びCDR3のドメインは、それぞれ、
配列番号1、2、及び3、又は
配列番号17、2、及び3、又は
配列番号19、2、及び3、又は
配列番号67、2、及び3、又は
配列番号69、2、及び3、又は
配列番号1、21、及び3、又は
配列番号1、23、及び3、又は
配列番号1、71、及び3、又は
配列番号1、73、及び3、又は
配列番号1、75、及び3、又は
配列番号1、2、及び25、又は
配列番号1、2、及び27、又は
配列番号1、2、及び29、又は
配列番号1、2、及び31、又は
配列番号1、2、及び33、又は
配列番号1、2、及び77、又は
配列番号1、2、及び79、又は
配列番号1、2、及び81、又は
配列番号1、2、及び83、又は
配列番号1、2、及び85、又は
配列番号5、6、及び7、又は
配列番号9、10、及び11、又は
配列番号13、14、及び15、又は
上述のようなその変異体を含む又はそれらからなる。
【0052】
本発明の好ましいVHH分子は、以下に規定するようなFRドメインを含む。
【0053】
特定の実施形態では、FR1ドメインは、以下に示すような配列番号35、又は、その長さ全体においてこの配列に対して少なくとも85%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも90%のアミノ酸同一性、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するその変異体を含む又はそれからなる。
E〔VQL〕VE〔SGG〕GL〔V〕QP〔G〕G〔SLKL〕S〔CA〕A〔S〕(配列番号35)
【0054】
より好ましくは、亀甲括弧のアミノ酸残基が存在して、他の位置においてのみ可変する。
特定の実施形態では、1番目のEはQで置換してもよい。
特定の実施形態では、5番目のVはQで置換してもよい。
特定の実施形態では、6番目のEはQで置換してもよい。
特定の実施形態では、10番目のGはK又はAで置換してもよい。
特定の実施形態では、11番目のLはV又はEで置換してもよい。
特定の実施形態では、23番目のAはV又はTで置換してもよい。
【0055】
より好ましくは、FR1は、この配列に関して太字ではないアミノ酸残基において多くて4個のアミノ酸修飾、さらにより好ましくは多くて3個のアミノ酸修飾、さらにより好ましくは多くて2個のアミノ酸修飾を含む。
【0056】
さらなる特定の実施形態では、FR1は、以下に記載するアミノ酸配列のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を有する。
EVQLVESGGGVVQPGGSLKLSCVAS(配列番号36)
EVQLVESGGGVVQPGGSLRLSCAAS(配列番号37)
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCTAS(配列番号38)
EVQLVESGGGEVQPGGSLKLSCVAS(配列番号39)
【0057】
特定の実施形態では、本発明のVHH分子は、以下に示すような配列番号40、又は、その長さ全体においてこの配列に対して少なくとも85%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも90%のアミノ酸同一性、若しくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するその変異体を含む又はそれからなるFR2ドメインを含む。
MR〔W〕Y〔R〕QA〔PGK〕Q〔RE〕L〔VA〕T(配列番号40)
【0058】
より好ましくは、亀甲括弧のアミノ酸残基が存在して、他の位置においてのみ可変する。
特定の実施形態では、1番目のMはI又はVで置換してもよい。
特定の実施形態では、2番目のRはGで置換してもよい。
特定の実施形態では、4番目のYはFで置換してもよい。
特定の実施形態では、6番目のQはRで置換してもよい。
特定の実施形態では、7番目のAはRで置換してもよい。
特定の実施形態では、11番目のQはEで置換してもよい。
特定の実施形態では、14番目のLはF又はWで置換してもよい。
特定の実施形態では、17番目のTはG又はSで置換してもよい。
【0059】
より好ましくは、FR2は、この配列に関して太字ではないアミノ酸残基において多くて6個のアミノ酸修飾、さらにより好ましくは多くて5個、多くて3個のアミノ酸修飾、さらにより好ましくは多くて2個のアミノ酸修飾を含む。
【0060】
特定の実施形態では、本発明のVHH分子は、FR2ドメインにおいて、Phe42、Glu49、Arg50、又はGly52のアミノ酸の少なくとも1つを含む。
【0061】
さらなる特定の実施形態では、FR2は、以下に記載するアミノ酸配列のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を有する。
IRWYRQAPGKQREFVAG(配列番号41)
MRWYRQAPGKQREWVAG(配列番号42)
MGWFRRAPGKERELVAS(配列番号43)
VRWYRQRPGKQREWVAG(配列番号44)
【0062】
特定の実施形態では、本発明のVHH分子は、以下に示すような配列番号45、又は、その長さ全体においてこの配列に対して少なくとも85%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも90%のアミノ酸同一性、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するその変異体を含む又はそれからなるFR3ドメインを含む。
YYAD〔S〕V〔K〕G〔RF〕T〔I〕S〔RDNA〕K〔N〕T〔V〕Y〔LQ〕MNS〔LK〕PE〔DTA〕V〔Y〕Y〔C〕(配列番号45)
【0063】
より好ましくは、亀甲括弧のアミノ酸残基が存在して、他の位置においてのみ可変する。
特定の実施形態では、1番目のYはNで置換してもよい。
特定の実施形態では、2番目のYはAで置換してもよい。
特定の実施形態では、3番目のAはP又はIで置換してもよい。
特定の実施形態では、4番目のDはSで置換してもよい。
【0064】
より好ましくは、FR3は、この配列に関して太字ではないアミノ酸残基において多くて7個のアミノ酸修飾、さらにより好ましくは多くて6個、多くて3個のアミノ酸修飾、さらにより好ましくは多くて2個のアミノ酸修飾を含む。
【0065】
さらなる特定の実施形態では、FR3は、以下に記載するアミノ酸配列のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を有する。
NYADSMKGRFTISRDNTKNAVYLQIDSLKPEDTAVYYC(配列番号46)
NYPDSAKGRFTISRDNAKNTVYLQIDSLKPEDTAVYYC(配列番号47)
YAISSVKGRFTISRDNAENTVFLQMNSLKPDDTAVYYC(配列番号48)
NYPDSMKGRFTISRDNAKNTVYLQINSLKSEDTAVYYC(配列番号49)
【0066】
特定の実施形態では、本発明のVHH分子は、以下に示すような配列番号50、又は、その長さ全体においてこの配列に対して少なくとも85%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも90%のアミノ酸同一性、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸同一性を有するその変異体を含む又はそれからなるFR4ドメインを含む。
W〔G〕Q〔GTQVT〕V〔S〕S(配列番号50)
【0067】
より好ましくは、亀甲括弧のアミノ酸残基が存在して、他の位置においてのみ可変する。
【0068】
より好ましくは、FR4は、この配列に関して太字ではないアミノ酸残基において多くて4個のアミノ酸修飾、さらにより好ましくは多くて3個のアミノ酸修飾、さらにより好ましくは多くて2個のアミノ酸修飾を含む。
【0069】
FR4配列の特定の例は配列番号50である。
【0070】
本発明のTfR結合VHH分子の特定の例は、配列番号4(VHHA)、8(VHHB)、12(VHHC)、16(VHHD)、18(VHHA1)、20(VHHA2)、22(VHHA3)、24(VHHA4)、26(VHHA5)、28(VHHA6)、30(VHHA7)、32(VHHA8)、34(VHHA9)、68(VHHA10)、70(VHHA11)、72(VHHA12)、74(VHHA13)、76(VHHA14)、78(VHHA15)、80(VHHA16)、82(VHHA17)、84(VHHA18)、86(VHHA19)、87(VHHA20)、88(VHHA21)、89(VHHA22)、90(VHHA23)、91(VHHA24)、及び92(VHHA25)のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなる分子であり、xは0である。
【0071】
特定の実施形態では、本発明のVHHはヒト化される。
【0072】
ヒト化において、1つ以上のFR及び/又はCDRドメインを1つ以上のアミノ酸置換によって(さらに)修飾してもよい。
【0073】
これについて、特定の実施形態では、VHHは、FR1ドメインの修飾(例えばアミノ酸置換)によってヒト化される。FR1における典型的なヒト化位置は、19R及び23A、又はその両方から選択される(例えば配列番号35~39又はその変異体のいずれか1つに関する)。ゆえに、そうしたヒト化FR1の特定の例は、K19及び/又はV23をそれぞれ19R及び23Aに修飾した、配列番号36を含む。
【0074】
他の特定の実施形態では、VHHは、CDR1ドメインの修飾によってヒト化される。CDR1における典型的なヒト化位置は、(例えば配列番号1、5、9、13、17、19、67、若しくは69又はその変異体のいずれか1つに関して)8Aである。
【0075】
他の特定の実施形態では、VHHは、FR2ドメインの修飾によってヒト化される。FR2における典型的なヒト化位置は、1M、2S若しくは2H、4V、11G、12L、14W、又はそれらの組合せから選択される(例えば配列番号40~44又はその変異体のいずれか1つに関する)。ゆえに、そうしたヒト化FR2の特定の例は、I1、R2、Y4、Q11、R12、及びF14の1つ以上又はすべてをそれぞれ1M、2S又は2H、4V、11G、12L、及び14Wに修飾した、配列番号41を含む。
【0076】
他の特定の実施形態では、VHHは、CDR2ドメインの修飾によってヒト化される。CDR2における典型的なヒト化位置は、(例えば配列番号2、6、10、14、21、23、71、73、75又はその変異体のいずれか1つに関して)1Iである。
【0077】
他の特定の実施形態では、VHHは、FR3ドメインの修飾によってヒト化される。FR3における典型的なヒト化位置は、6V、17A、20T、21L、25M、26N、29R、又はそれらの組合せから選択される(例えば配列番号45~49又はその変異体のいずれか1つに関する)。ゆえに、そうしたヒト化FR3の特定の例は、M6、T17、A20、V21、I25、D26、及びK29の1つ以上又はすべてをそれぞれ6V、17A、20T、21L、25M、26N、及び29Rに修飾した、配列番号46を含む。
【0078】
他の特定の実施形態では、VHHは、CDR3ドメインの修飾によってヒト化される。CDR3における典型的なヒト化位置は、(例えば配列番号3、7、11、15、25、27、29、31、33、77、79、81、83、85又はその変異体のいずれか1つに関して)1A又は2R、又はその両方である。
【0079】
さらなる特定の実施形態では、FR1及び/又はFR2及び/又はFR3及び/又はCDR1及び/又はCDR2及び/又はCDR3ドメインはヒト化される。
【0080】
本発明のヒト化TfR結合VHH分子の特定の例は、配列番号87(VHHA20)、88(VHHA21)、89(VHHA22)、90(VHHA23)、91(VHHA24)、及び92(VHHA25)のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなる分子であり、xは0である。
【0081】
さらなる特定の実施形態では、VHH分子は、例えば精製、カップリングなどに適した1つ又は複数のタグをさらに含んでもよい。そうしたタグの例は、Hisタグ(例えばHis6)、Qタグ(LQR)、又はmycタグ(EQKLISEEDL)を含む。典型的に、1つ又は複数のタグはVHHのC末端に位置する。
【0082】
例として、VHHは、AAA(EQKLIS〔E〕EDL)NGA〔A〕[HHHHHH]GS(配列番号51)であるさらなる配列をC末端に含むことができ、丸括弧はmycタグであり、角括弧はHisタグである(残りの残基はリンカーである、又はクローニングに起因する)。
【0083】
本発明のそうしたタグ付きTfR結合VHH分子の特定の例は、配列番号4(VHHA)、8(VHHB)、12(VHHC)、16(VHHD)、18(VHHA1)、20(VHHA2)、22(VHHA3)、24(VHHA4)、26(VHHA5)、28(VHHA6)、30(VHHA7)、32(VHHA8)、34(VHHA9)、68(VHHA10)、70(VHHA11)、72(VHHA12)、74(VHHA13)、76(VHHA14)、78(VHHA15)、80(VHHA16)、82(VHHA17)、84(VHHA18)、86(VHHA19)、87(VHHA20)、88(VHHA21)、89(VHHA22)、90(VHHA23)、91(VHHA24)、及び92(VHHA25)のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列を含む又はそれからなる分子であり、xは1である。
【0084】
他の例として、本発明のVHHは、好ましくはVHHのC末端に位置する配列LQRのQタグを含んでもよい。
【0085】
さらなる例として、本発明のVHHは、好ましくはVHHのC末端に位置するGlyリンカーを含んでもよい。Glyリンカーは、例えば2~7個のGly残基、3~6個などのGly残基のGlyリピートを含んでもよい。Glyリンカーの特定の例は、Gly3、Gly4、Gly5、又はSerGlySerGly5を含む。
【0086】
特定の実施形態では、本発明のVHHは、好ましくはC末端に位置するGlyリンカー及びQタグを含んでもよい。そうしたVHHのより具体的な例は、VHH-Glyリンカー-Qタグの構造を含み、Glyリンカーは2~6個のGly残基を含み、QタグはLQRを含む又はそれからなる。
【0087】
例として、VHHは、〔GGG〕(LQR)であるさらなる配列をC末端に含むことができ、丸括弧はQタグであり、亀甲括弧はGlyリンカーである。
【0088】
さらなる特定の実施形態では、本発明のVHHは、Alaリンカー、Hisタグ、Glyリンカー、及びQタグを含んでもよい。好ましくは、リンカー及びタグは、VHHのC末端に位置する。他の実施形態では、Qタグは少なくとも、VHHのN末端に位置することができる。そうしたVHHのより具体的な例は、VHH-Alaリンカー-Hisタグ-Glyリンカー-Qタグの構造を含み、Alaリンカーは3個の残基を含み、Hisタグは2~7個のHis残基を含み、Glyリンカーは2~6個のGly残基を含み、QタグはLQRを含む又はそれからなる。
【0089】
例として、VHHは、〔AAA〕[HHHHHH]〔GGG〕(LQR)であるさらなる配列をC末端に含むことができ、丸括弧はQタグであり、亀甲括弧はAlaリンカー及びGlyリンカーであり、角括弧はHisタグである。
【0090】
本発明のTfR結合VHH分子のさらなる特定の例は、上述のようなVHHのヒト及び非ヒトのTfRへの結合を競合的に阻害するVHH分子である。「競合的に阻害する」という用語は、VHHが、インビトロ又はインビボで、そうした基準VHHのTfRへの結合を減少又は阻害又は置換することができることを示す。競合アッセイは、例えば競合ELISA又は他の結合アッセイなどの標準的技術を使用して行うことができる。典型的に、競合性結合アッセイは、任意で固体基質に結合した、TfRを発現する組換え細胞又は膜調製物、非標識試験用VHH(又はこれを発現するファージ)、及び標識基準VHH(又はこれを発現するファージ)に関与する。競合性阻害は、試験用VHHの存在下で結合する標識VHHの量を判定することで測定する。通常、試験用VHHは、基準VHHの量の約5~500倍など、過剰に存在する。典型的に、ELISAでは、試験用VHHは100倍過剰である。過剰に存在する試験用VHHが、基準VHHのTfRに対する結合の少なくとも70%を阻害又は置換すると、該基準VHHを競合的に阻害すると考えられる。好ましい競合VHHは、共通のアミノ酸残基を有するエピトープに結合する。
【0091】
実験の項で示すように、VHH分子は、インビトロ及びインビボでTfRに結合することができる。これは、0.1nM~10μM、特に1μM~1nMの間に含まれる明らかなKdにより、十分な親和性を示す。さらに、この分子のすべてがヒト及びマウスの両方のTfRに結合する。その上、本発明の前述のVHHのヒトTfR受容体への結合は、内因性のTfRリガンドのトランスフェリンの結合と競合せず、ゆえに該リガンドの通常の機能に影響しない。そうしたVHH分子で作製したコンジュゲートは、インビトロでTfRに結合し、インビボでBBBを横断してCNSに輸送されることがさらに示され、経細胞輸送を示している。このように、そうしたVHHは、薬剤送達又は標的化において強力な薬剤に相当する。
【0092】
本発明のVHHは、当業者に既知の任意の技術(化学的、生物学的又は遺伝子的合成等)によって合成可能である。これは、そのまま保管、又は対象物質若しくは任意の許容される賦形剤の存在下で製剤化可能である。
【0093】
化学合成では、天然及び非天然のアミノ酸、例えばそれらの天然相同体(いわゆる外来(exotic)の、すなわち非コードアミノ酸)のものとは疎水性及び立体障害が異なる側鎖を有するDエナンチオマー及び残基、又はメチレン(-CH2-)基又はホスフェート(-PO2-)基、第2級アミン(-NH-)又は酸素(-O-)又はN-アルキルペプチドの挿入をとりわけ含み得る1つ以上のペプチド様結合を含むVHH配列を導入可能な市販の構築物が使用される。
【0094】
合成時、1つ以上の脂質層又は脂質二重層から構成されるリポソーム、又はナノ粒子のものなどの脂質膜内に、本発明のVHHを導入することができるように、例えば、N末端若しくはC末端の位置、又は側鎖に、脂質(又はリン脂質)誘導体又はリポソーム若しくはナノ粒子構成物を入れるなど、種々の化学修飾を導入することができる。
【0095】
また、本発明のVHHは、以下にさらに記載するように、それをコードする核酸配列から得ることもできる。
【0096】
<コンジュゲート>
本発明のさらなる目的は、対象の少なくとも1つの分子又は足場とコンジュゲートした、上述のような1つ以上のVHH分子を含むコンジュゲート(本明細書において区別なく「キメラ薬剤」とも呼ばれる)に関する。
【0097】
対象の分子は、医薬又は薬剤、診断用薬剤、イメージング分子、トレーサーなどの任意の分子であってもよい。対象のコンジュゲート分子の例は、化学低分子などの任意の化学成分(抗生物質、抗ウイルス剤、免疫調節剤、抗悪性腫瘍剤、抗炎症剤、アジュバントなど);ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質(酵素、ホルモン、神経栄養因子、神経ペプチド、サイトカイン、アポリポタンパク質、成長因子、抗原、抗体若しくは抗体の一部、アジュバントなど);核酸(例えばコード遺伝子を含む、ヒト、ウイルス、動物、真核生物若しくは原核生物、植物、若しくは合成起源などのRNA若しくはDNA、リボザイムなどの阻害性核酸、アンチセンス、干渉性核酸、全ゲノム若しくはその一部、プラスミドなど);脂質、ウイルス、マーカー、又はトレーサーなどを含むが、これらに限定されない。一般的に、「対象の分子」は、化学化合物、生化学化合物、天然化合物、又は合成化合物の任意の薬剤有効成分とし得る。一般的に、「化学低分子」という用語は、1000ダルトン、典型的には300ダルトン~700ダルトンの最大分子量を有する、医薬上の対象の分子を指す。
【0098】
コンジュゲート化合物は、典型的に、好ましくは脳などのCNSの神経学的、感染性、又はがん性の病態の処置又は検出に適する、医薬(低分子薬剤、核酸、若しくはポリペプチド、例えば抗体若しくはそのフラグメントなど)、又はイメージング剤である。
【0099】
また、キメラ薬剤は、前述の対象の化合物に加えて又はその代わりに、安定化基を含ませて、VHH又はコンジュゲートの血漿中の半減期を長くしてもよい。このように、本発明の特定のキメラ薬剤は、任意の順序の少なくとも1つのVHH、安定化基、及び活性化合物を含む。
【0100】
安定化基は、ある程度の血漿中の半減期(例えば、少なくとも1時間)を有すること、及び実質的に有害な生物学的活性を有しないことが知られる任意の基であってもよい。そうした安定化基の例は、例えば、免疫グロブリン若しくはその変異体のFcフラグメント、アルブミン、HSAなどの大型のヒト血清タンパク質、又はIgG若しくはPEG分子を含む。特定の実施形態では、安定化基はヒトIgG1のFcフラグメントである。より好ましくは、安定化基はIgG1の脱グリコシル化Fcフラグメントである。
【0101】
VHHは、安定化基のN末端又はC末端、又はその両方をコンジュゲートしてもよい。安定化基がFcフラグメントであるとき、コンジュゲーションは典型的に遺伝子融合によるものである。生じるタンパク質は、安定化基の性質に応じて、単量体物質にとどまる、又は多量体物質となり得る。Fcフラグメントの場合、融合タンパク質Fc-VHH又はVHH-Fcは通常ホモ二量体を形成する。
【0102】
本発明のコンジュゲート化合物において、カップリングは、コンジュゲートする成分の化学的性質、障害、及び数を考慮して、任意の許容される結合手段によって行うことができる。つまり、カップリングは、生理学的媒体において又は細胞内において、切断可能又は切断可能でない、1つ以上の共有結合、イオン結合、水素結合、疎水結合、又はファンデルワールス結合によって行うことができる。さらに、カップリングは、種々の反応性基で、とりわけ1つ以上の末端及び/又は1つ以上の内部若しくは側方の反応性基で行うことができる。また、カップリングは遺伝子工学を用いて行うこともできる。
【0103】
相互作用は十分に強力なものであって、VHHがその作用部位に到達してしまう前に活性物質から解離しないことが好ましい。この理由のため、本発明の好ましいカップリングは共有結合性カップリングであるが、非共有結合性カップリングも使用してよい。対象の化合物は、その末端の一方(N末端若しくはC末端)、又はその配列の構成アミノ酸の1つにおける側鎖のいずれかにおいてVHHにカップリング可能である(Majumdar and Siahaan,Med Res Rev.,Epub ahead of print)。対象の化合物は、VHHと直接的に、又はリンカー若しくはスペーサーによって非直接的にカップリングすることができる。スペーサーを使用する又は使用しない共有結合性化学カップリングの手段は、例えば、エステル、アルデヒド又はアルキル若しくはアリール酸によるアルキル、アリール、又はペプチド基、無水物、スルフヒドリル、又はカルボキシル基、臭化シアン若しくは塩化シアン、カルボニルジイミダゾール、スクシンイミドエステル、又はハロゲン化スルホニルから誘導される基を含む、二官能性又は多官能性物質から選択されるものを含む。
【0104】
本発明のVHHを分子又は足場にコンジュゲートするための例の方法を
図6に開示する。
【0105】
特定の実施形態では、カップリング(又はコンジュゲーション)は遺伝子融合によるものである。そうした方法は、カップリング分子がペプチド又はポリペプチドであるときに使用可能である。そうした場合、該分子に融合するVHHをコードする核酸分子は、コンジュゲートを作製するため、任意の適切な発現系において調製及び発現される。
【0106】
他の特定の実施形態では、カップリング(又はコンジュゲーション)は酵素反応によるものである。特に、トランスグルタミナーゼ酵素(TGase)を用いて、VHHに部位特異的コンジュゲーションを行うことができる。TGaseは、(i)TGaseによって特異的に認識されるタグ配列(すなわちQタグ)に挿入したグルタミン残基の側鎖と(ii)アミノ官能基を持つドナー基質との間の安定的なイソペプチド結合の形成を触媒する。これについて、発明者らは、TGaseによって認識されるとともに、本発明のVHHを任意の対象の分子、特に化学薬剤又は物質とカップリングするために使用し得る特定のタグ配列(「Qタグ」と呼称する)を開発した。この目的で、以下のタグを(典型的にそのC末端に)タンデムに付加するように、VHHを遺伝子融合によって調製する。該タグは、まず任意のトリアラニン、そして任意のHisタグ、任意の低分子トリグリシンリンカー、そして最後にQ-タグである。トリグリシンリンカーは、Qタグを離間させて、TGaseがより良好にグルタミンにアクセスできるようにする一方、Hisタグは、VHH及びそのさらなる機能化タイプを精製しやすくすることを狙いとする。
【0107】
開発されている一般的なコンジュゲーション方法は、以下を含むプロセスに基づく収束型合成である。
1) 対象の分子にさらにコンジュゲーションするため、反応性部分をVHHのQタグのグルタミンに導入する。この目的において、一方がTGaseに対する適切な一級アミン基であり、もう一方が直交型反応性部分である、2つの異なる反応性末端を有するヘテロ二官能性リンカーをTGaseによってプロセスすることができる。そうした直交型の反応性基の代表的な例は、アジド、DBCO(ジベンゾシクロオクチン)又はBCN(ビシクロ[6.1.0]ノニン)などの拘束アルキン、テトラジン、TCO(トランス-シクロオクテン)、遊離又は保護チオールなどを含む。
2) VHHのQタグに取り入れたものと相補的な反応性部分を対象の分子に導入する。そうした直交型の反応性基の代表的な例は、アジド、DBCO又はBCNなどの拘束アルキン、テトラジン、TCO、遊離又は保護チオールなどを含む。
3) その相補反応性基により、機能化VHH及び分子の両方のコンジュゲーションを行う。
【0108】
そうしたコンジュゲーション方法は、本発明のさらなる目的に相当する。特に、本発明の目的は、TGaseカップリング反応を介して上述のようなQタグを使用して2つの分子をカップリングする方法にある。本発明のさらなる目的は、Qタグを含むVHHである。本発明のさらなる目的は、Glyリンカーなどのリンカー、及びQタグを含むVHH分子である。本発明の好ましいVHHは、
VHH-リンカー-Hism-リンカー-LQRの構造を有し、
式中、VHHは任意のVHH分子であり、
リンカーは、Ala又はGlyリンカーなどの任意の分子リンカーであり(好ましくは2つのリンカーは異なる)、
mは0~6の整数である。
【0109】
特定の実施形態では、本発明は、化学成分と共有結合したVHHを含むコンジュゲートに関する。そうしたコンジュゲートの好ましい変異体は1つのVHHと1つの化学成分とを含む。
【0110】
他の特定の実施形態では、本発明は、核酸と共有結合したVHHを含むコンジュゲートに関する。核酸は、アンチセンスオリゴ、リボザイム、アプタマー、siRNAなどとしてもよい。そうしたコンジュゲートの好ましい変異体は1つのVHHと1つの核酸分子とを含む。
【0111】
他の特定の実施形態では、本発明は、ペプチドと共有結合したVHHを含むコンジュゲートに関する。ペプチドは、活性分子、ベイト、タグ、リガンドなどとしてもよい。そうしたコンジュゲートの好ましい変異体は1つのVHHと1つのペプチドとを含む。
【0112】
他の実施形態では、本発明は、色素と共有結合したVHHを含むコンジュゲートに関する。
【0113】
他の実施形態では、本発明は、ナノ粒子又はリポソームと共有結合したVHHを含むコンジュゲートに関する。ナノ粒子又はリポソームは、活性剤をロードする又は活性剤で機能化してもよい。そうしたコンジュゲートの好ましい変異体は、各ナノ粒子又はリポソームにカップリングした複数のVHH分子を含む。
【0114】
さらなる実施形態では、コンジュゲートは、1つ又は複数のVHH分子をカップリングした抗体又はそのフラグメントを含む。典型的に、VHH分子は、重鎖若しくは軽鎖、若しくはその両方のC末端若しくはN末端、又はFcフラグメントのC末端若しくはN末端にカップリングされる。
【0115】
また、本発明は、好ましくは化学、生化学、若しくは酵素経路によって、又は遺伝子工学によって、VHHと分子又は足場とをカップリングするステップを含むことを特徴とする、上述のようなコンジュゲート化合物を調製する方法にも関する。
【0116】
本発明のキメラ薬剤において、複数のVHHが存在するとき、それらは同じ又は異なる結合特異性を有してもよい。
【0117】
<核酸、ベクター、及び宿主細胞>
本発明のさらなる態様は、上述のようなVHH、又は(コンジュゲート部分がアミノ酸配列であるとき)そのコンジュゲートをコードする核酸に関する。核酸は1本鎖又は2本鎖とし得る。核酸は、DNA(cDNA若しくはgDNA)、RNA、又はそれらの混合物とすることができる。これは、一本鎖形態又は2本鎖形態又はその2つの混合とすることができる。これは、例えば修飾結合、修飾プリン塩基若しくはピリミジン塩基、又は修飾糖を含む、修飾ヌクレオチドを含むことができる。これは、化学合成、組換え、及び/又は突然変異誘発を含む、当業者に既知の任意の方法によって調製することができる。本発明における核酸は、本発明におけるVHH分子のアミノ酸配列から推定することができ、コドン使用は、核酸を転写する宿主細胞に応じて適応させることができる。これらのステップは、当業者に既知である方法にしたがって行うことができ、その一部はSambrook等の参照マニュアルに記載されている。(Sambrook J, Russell D (2001) Molecular cloning: a laboratory manual, Third Edition Cold Spring Harbor)
【0118】
そうした核酸配列の具体的な例は、配列番号52~64及び配列番号95~110のいずれか1つを含む配列、及びそれらの相補的配列、並びに任意のタグコード部分を有しないそれらのフラグメントを含む。CDR1、CDR2、及びCDR3をコードするドメインを下線で示す。タグコード部分は太字で示す。
【0119】
また、本発明は、任意で調節配列(例えば、プロモーター、ターミネーターなど)の制御下における、そうした核酸を含むベクターに関する。ベクターは、プラスミド、ウイルス、コスミド、ファージミド、人工染色体などとすることができる。特に、ベクターは、調節領域、すなわち1つ以上の制御配列を含む領域と作動可能に連結された本発明の核酸を含むことができる。任意で、ベクターは、複数の調節領域と作動可能に連結された本発明の複数の核酸を含むことができる。
【0120】
「制御配列」という用語は、コード領域による発現に必要な核酸配列を意味する。制御配列は内因性又は異種とすることができる。既知であり当業者が現在使用している制御配列が好ましい。そのような制御配列は、プロモーター、シグナルペプチド配列、及び転写ターミネーターを含むがこれらに限定されない。
【0121】
「作動可能に連結された」という用語は、制御配列がコード領域による発現を制御するように、制御配列がコード配列に対して適切な位置に配置された構成を意味する。
【0122】
本発明は、宿主細胞を形質転換、遺伝子導入、又は形質導入するための本発明における核酸又はベクターの使用にさらに関する。
【0123】
また、本発明は、本発明の1つ若しくは複数の核酸及び/又は本発明の1つ若しくは複数のベクターを含む、宿主細胞を提供する。
【0124】
また、「宿主細胞」という用語は、複製時に生じた突然変異により、親宿主細胞とは同じではない、該親宿主細胞の任意の子孫も含む。適切な宿主細胞は、原核生物(例えば細菌)又は真核生物(例えば酵母、植物、昆虫、若しくは哺乳動物細胞)とすることができる。そうした細胞の具体的な例は、大腸菌株、CHO細胞、サッカロマイセス株、植物細胞、sf9昆虫細胞などを含む。
【0125】
<使用>
本発明のVHH分子はTfRに結合可能であり、ゆえに分子をTfR発現細胞又は器官に標的化/送達することができる。
【0126】
本発明の文脈内において、結合は好ましくは特異的であり、TfRへの結合は、同じ種の任意の他の抗原への結合よりも高親和性で生じる。本発明の好ましいVHH分子は、ヒトのTfR1及びマウス又はラットのTfRに結合する。より好ましくは、VHH分子は、実質的に同様の親和性でヒト及びマウスの受容体に結合する。
【0127】
このように、本発明は、少なくとも1つの本発明のVHHに化合物をカップリングすることを含む、該化合物をTfR発現細胞又は器官に/TfR発現細胞又は器官を介して標的化/送達する方法に関する。
【0128】
本発明は、化合物をTfR発現細胞又は器官に/TfR発現細胞又は器官を介して輸送するためのベクターとしての、上述のようなVHHの使用にさらに関する。
【0129】
また、本発明は、BBBを横断することができる薬剤を調製するための、上述のようなVHHの使用に関する。
【0130】
また、本発明は、本発明のVHHに分子をカップリングすることを含む、BBBを横断する該分子の通過を可能にする又は向上させる方法に関する。
【0131】
本発明のVHHは、低分子薬剤、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸、脂質、核酸、ウイルス、リポソームなどの任意の化合物を輸送又は送達するために使用することができる。
【0132】
また、本発明は、上述のような少なくとも1つのVHH又はVHH-薬剤コンジュゲートと、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物にも関する。
【0133】
また、本発明は、上述のようなVHH又はVHH-診断用若しくは医療用イメージング剤コンジュゲート化合物を含むことを特徴とする診断用組成物にも関する。
【0134】
コンジュゲートを任意の薬学的に許容される塩の形態で使用することができる。「薬学的に許容される塩」という表現は、例えば、非限定的に、薬学的に許容される塩基又は酸付加塩、水和物、エステル、溶媒和物、前駆体、代謝産物又は立体異性体、対象の少なくとも1つの物質をロードした前述のベクター又はコンジュゲートを指す。
【0135】
「薬学的に許容される塩」という表現は、遊離塩基を適切な有機酸又は無機酸と反応させることによって一般に調製することができる非毒性塩を指す。これらの塩は、遊離塩基の生物学的有効性及び特性を保持する。そうした塩の代表的な例は、水溶性及び水不溶性塩、例えば、酢酸塩、N-メチルグルカミンアンモニウム、アムソナート(4,4-ジアミノスチルベン-2,2’-ジスルホン酸塩)、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化水素酸塩、ブロミド、酪酸塩、カムシラート、炭酸塩、塩酸塩、クロリド、クエン酸塩、クラブラン酸塩、ジクロルヒドラート、二リン酸塩、エデト酸塩、エデト酸カルシウム、エジシラート、エストラート、エシラート、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨージド、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシラート、メチルブロミド、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムカート、ナプシル酸塩、硝酸塩、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(1,1-メチレン-ビス-2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸塩、又はエンボン酸塩)、パントテン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、スルホサリチル酸塩、スラマート、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシラート、トリエチオジド、トリフルオロ酢酸塩及び吉草酸塩を含む。
【0136】
本発明の組成物は、有利には、薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む。薬学的に許容される担体は、各投与モードに対応して従来より使用される担体から選択することができる。想定される投与モードに対応して、化合物は固体形態、半固体形態、又は液体形態とすることができる。固体組成物、例えば錠剤、ピル、纏まっていない又はゼラチンカプセル内に含められた粉末又は顆粒については、活性物質を、a)希釈剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及び/若しくはグリシン、b)滑沢剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウム若しくはカルシウム塩、及び/若しくはポリエチレングリコール、c)結合剤、例えば、ケイ酸マグネシウム及びケイ酸アルミニウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/若しくはポリビニルピロリドン、d)崩壊剤、例えば、デンプン、カンテン、アルギン酸若しくはそのナトリウム塩、若しくは発泡性混合物、並びに/又は、e)吸着剤、色素、着香剤及び甘味料と組み合わせることができる。賦形剤は、例えば、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム及び医薬品質の類似体とすることができる。半固体組成物、例えば坐剤については、賦形剤は、例えば、エマルジョン若しくは油性懸濁液、又はポリアルキレングリコール、例えばポリプロピレングリコール系のものとすることができる。液体組成物、特に、注射剤又はソフトカプセル内に含めるものは、例えば、水、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール、エタノール、油及びそれらの類似体などの薬学的に純粋な溶媒への活性物質の溶解、分散などによって調製することができる。
【0137】
本発明の組成物又はコンジュゲートを、任意の適する経路によって投与することができ、非限定的に、例えば、皮下、静脈内、若しくは筋肉内の経路を介して注射することができる製剤の形態などで非経口経路によって、例えばコーティング錠若しくは素錠、ゼラチンカプセル、粉末、ペレット、懸濁液若しくは経口溶液の形態(1つのそのような経口投与形態は、即時放出を伴う場合もあり、若しくは長期若しくは遅延放出を伴う場合もある)などで経口経路(若しくはper osで)によって、例えば坐剤の形態などで直腸経路によって、例えばパッチ、ポマード若しくはゲルの形態などで局所経路によって、特に経皮経路によって、例えばエアロゾル及びスプレー形態などで鼻腔内経路によって、経舌経路によって、又は、眼内経路によって投与することができる。
【0138】
医薬組成物は、典型的に、本発明のVHH又はコンジュゲートの有効用量を含む。本明細書に記載するとき「治療有効用量」は、所与の条件及び投与スケジュールにおいて治療効果をもたらす用量を指す。これは、典型的に、疾患又は病的状態に随伴する症状の一部を明らかに改善するように投与する、活性物質の平均用量である。例えば、脳の又は他の組織のがん、CNSの病態、病変、又は障害を処置する際、前述の疾患又は障害の原因又は症状の1つを少なくする、予防する、遅延させる、取り除く、又は停止させる活性物質の用量が、治療に有効とし得る。活性物質の「治療有効用量」は、必ずしも疾患又は障害を治癒するとは限らないが、その出現を遅延する、妨げる、若しくは予防する、又はその症状を抑える、又はその期間を変える若しくは例えばあまり重症でなくする、又は患者の回復を速めるように、この疾患又は障害を処置し得る。
【0139】
特に人に対する「治療有効用量」は、活性物質の活性/効力、その投与回数、その投与経路、その毒性、その排泄速度及び代謝、薬の組合せ/相互作用、並びに予防又は治癒ベースで処置する疾患(又は障害)の重症度、並びに患者の年齢、体重、総合的健康状態、性別及び/又は食事を含む、種々の要因によって決まることとなることが、理解される。
【0140】
カップリングさせる物質に応じて、本発明のコンジュゲート及び組成物を、非常に多数の病態、とりわけ、CNSを罹患させる病態、感染性病態、又はがん、の処置、予防、診断、又はイメージングに使用することができる。本発明のVHHは、TfR発現細胞、特に、とりわけがん細胞、神経若しくは非神経組織などの該受容体を著しく発現する細胞を標的化する、並びに/又は、細胞膜、とりわけCNSの生理学的バリアの細胞膜、及びより具体的にはがん神経組織の血液-腫瘍バリア(BTB)の細胞膜を横断する機能を有する。TfRは、骨髄、胎盤などの器官、及び消化管において豊富である。また、TfRは脳内皮細胞において高発現するが、他の組織の血管を覆う内皮細胞ではそうではない。TfR発現は、ラット、マウス、ブタ、及び非ヒト霊長類の精製した脳微小血管及び培養した内皮細胞における形質膜で確認されている。
【0141】
これに関して、本発明は、CNS病態又は障害、脳腫瘍又は他のがん細胞、及び脳又は他の組織の細菌、ウイルス、寄生虫又は真菌感染性病態を処置又は予防するための、上述のような医薬コンジュゲート又は組成物の使用に関する。
【0142】
また、本発明は、CNS病態又は障害、脳腫瘍又は他のがん細胞、及び脳又は他の組織の細菌、ウイルス、寄生虫又は真菌感染性病態を診断、イメージング又は処置するために使用する、上述のようなVHH、コンジュゲート、又は組成物に関する。
【0143】
また、本発明は、脳腫瘍又は他の種類のがんを、処置、イメージング、及び/又は診断するために使用する、上述のようなVHH、コンジュゲート、又は組成物にも関する。
【0144】
本発明は、非限定的にアルツハイマー病、パーキンソン病、卒中、クロイツフェルト-ヤコブ病、ウシ海綿状脳症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症などの、神経変性病態を処置、イメージング、及び/又は診断するために使用する、上述のようなVHH、コンジュゲート、又は組成物にも関する。
【0145】
また、本発明は、非限定的に、てんかん、片頭痛、脳炎、CNS疼痛などの神経性病態を処置、イメージング、及び/又は診断するために使用する、上述のようなVHH、コンジュゲート、又は組成物にも関する。
【0146】
また、本発明は、非限定的に、リソソーム蓄積症、ファーバー病、ファブリー病、ガングリオシドーシスGM1及びGM2、ゴーシェ病、様々なムコ多糖症などの希少疾患を処置、イメージング、及び/又は診断するために使用する、上述のようなVHH、コンジュゲート、又は組成物にも関する。
【0147】
また、本発明は、非限定的に、うつ、自閉症、不安、統合失調症などの精神神経性病態を処置、イメージング、及び/又は診断するために使用する、上述のようなVHH、コンジュゲート、又は組成物にも関する。
【0148】
また、本発明は、非限定的に、膠芽腫、膵がん、卵巣がん、肝細胞がんなどのがんを処置、イメージング、及び/又は診断するために使用する、上述のようなVHH、コンジュゲート、又は組成物にも関する。
【0149】
また、本発明は、上述のようなVHH、コンジュゲート、又は組成物にも関し、コンジュゲート薬剤は組換えウイルスなどのウイルス又はウイルス様粒子である。本発明は、実際に、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスなど、又はウイルス様粒子などの遺伝子治療に使用する組換え(例えば、複製欠損性又は減縮性)ウイルスの脳又はがん又は任意のTfR豊富組織への送達を増加させるために使用することができる。ウイルス又はVLPとのカップリングは、例えばウイルスのカプシドタンパク質へのカップリングによって、行うことができる。
【0150】
また、本発明は、処置を必要とする対象に本発明のVHH、コンジュゲート、又は組成物を投与することによって、上述の病状又は疾患のいずれかを処置する方法に関する。
【0151】
また、本発明は、上述の病状又は疾患のいずれかを処置する医薬の製造のための本発明のVHH、コンジュゲート、又は組成物の使用に関する。
【0152】
本発明の他の態様及び有利性は、本質的に例示のみであるとともに本願の範囲を限定することのない以下の実施例を以て明白になる。
【実施例】
【0153】
<実施例I>
BBBにおけるTfR発現の検証
様々な種の脳内皮における細胞膜のTfR発現プロファイルを分析した。ラット、マウス、ブタ、及び非ヒト霊長類(NHP、アカゲザル)からの消化又は未消化の脳微小血管(BMV)及び脳微小血管内皮細胞(BMEC)の初代培養(primoculture)の膜抽出物を調製するため、ProteoExtract(登録商標)細胞分画プロテオーム抽出キット(Calbiochem,La Jolla,CA,USA)を使用した(
図1)。
【0154】
製造者の指示に従ってBioRadのDCプロテインアッセイ(Bio-Rad,Hercules,CA,USA)を使用して、膜抽出物を定量化した。膜タンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって4~12%ポリアクリルアミドゲル上に分離して、ニトロセルロース膜(ThermoFisher Scientific)上に移動させた。タンパク質を、TfRに対する1次抗体でプローブしてから(Genetex GTX102596;1/1000)、1/10000に希釈したHRP-コンジュゲートロバ抗ウサギIgG2次抗体でプローブした(Jackson ImmunoResearch)。最後に、化学発光を使用してタンパク質を検出した。
【0155】
図1に示すように、TfRは、ラット、マウス、ブタ、及び非ヒト霊長類の消化及び未消化の脳微小血管にて発現する。また、TfRは、マウス、ラット及びブタの脳内皮細胞にて発現する(脳微小血管の10μg又は5μgに対して、脳微小血管内皮細胞ではたった1μgの膜タンパク質をSDS-PAGEにロードしたことに留意)。TfR発現は、NHPの消化脳微小血管において高まる。
【0156】
これらのデータは、TfRがインビボで適用する分子の設計において有効な標的に相当することを示す。
【0157】
<実施例II>
ヒト及びマウスのTfRを安定発現するCHO細胞株の作製
TfR結合VHHの同定及び特性評価の必要条件は、恒常的且つ高速にhTfR及びmTfRを発現する安定的な細胞株の真核生物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞、CHO)における株化であった。これらの細胞株を、i)その自然の構成において、細胞表面に発現する受容体に結合する薬剤の同定及び特性評価、及びii)受容体がそうした薬剤をエンドサイトーシスによって内在化できるかの試験に使用した。
【0158】
これらの細胞株の作製のため、データベースで利用可能な配列情報(受託番号NM_003234.3)を使用して、hTfRをコードするcDNAをクローニングした。RT-PCRによるcDNA増幅に必要なプライマーを選択し(以下の表を参照)、これは、pEGFP-C1発現ベクター(Clontech)におけるクローニングに必要な制限部位(EcoRI及びSalI)をその末端に含む(太字)(
図2-A)。
【表1】
【0159】
ヒトの脳から調製した全RNAを、hTfRをコードするcDNAフラグメントのRT-PCR増幅に使用した。増幅後、PCR産生物をEcoRI-SalI制限酵素によって消化し、pEGFP-C1発現ベクター(Clontech)にライゲーションし、同じ制限酵素によって消化した。真核生物細胞に遺伝子導入した後、このベクターにより、そのN末端において、すなわちその細胞内ドメインの末端においてEGFPに融合したhTfRがCMVプロモーターの制御下において発現可能となる。コンピテントな大腸菌DH5α細菌を形質転換し、単離コロニーを得て、プラスミドDNAを調製した後、検証のため、コンストラクトの両鎖を完全にシーケンシングした。
【0160】
EGFPに融合したmTfRをコードするプラスミドを、GeneCopoeia(プラスミド参照番号:EX-Mm05845-M29)から購入した。
【0161】
CHO-K1細胞に一時的に遺伝子導入し、限界希釈及び抗生剤(G418)に対する抵抗によって安定的な遺伝子導入体を選択することに使用した。これらの細胞株を、選択圧力を維持しながら増幅した。
【0162】
Alexa647コンジュゲートトランスフェリン(Tf-Alexa647)を使用して固定(PFA)細胞株における免疫細胞化学法を行った後に撮影した共焦点顕微鏡写真により、
図2-Bにおいて、EGFP(緑色)とTf-Alexa647(赤色)とが共に局在化し、ゆえに良好に発現すること及び受容体が機能的結合することを確認する。
【0163】
予想されたサイズの受容体が膜に発現することを、ProteoExtract細胞分画プロテオーム抽出キットで抽出した細胞膜においてウエスタンブロットによって確認した。抗体をGFP又はTfRに対して作製した。EGFPとh/mTfRとを合わせたサイズ(170kDa)に対応するタンパク質を、抗GFP抗体及び抗TfR抗体によって認識した(
図2-C)。CHO K1野生型(WT)細胞株を負のコントロールとして使用し、抗体はタンパク質を検出しなかった。
【0164】
これらのデータにより、CHO細胞株の細胞表面における機能的受容体の発現を確認した。
【0165】
<実施例III>
TfRを結合するVHHの生成
ラマ(Lama glama)を、対象のヒト及びマウス受容体を発現する安定CHO細胞株の膜調製物で4回皮下において免疫した。上述のようにVHHライブラリ作製を行った(Alvarez-Rueda et al.,2007,Behar et al.,2009)。短時間で、VHHをコードするmRNAを、フィコール密度勾配によって単離した末梢血単核細胞の全RNAから、RT-PCRによって増幅して、pHEN1ファージミドにクローニングした。反復選択により、細胞表面に発現するTfRに強力な親和性を示すVHHを提示するファージを単離できた。
【0166】
全部で、700を超えるクローンを、TfRに結合する能力についてスクリーニングし、約100のクローンをシーケンシングした。
【0167】
結合特性(マウス及びヒトの両方の細胞株に対する)、細胞浸透特性、及び輸送特性が向上したVHHを得た。例のVHHは、VHH A、VHH B、VHH C、VHH Dである(配列リストも参照)。これらのVHHは、コントロールCHO細胞株の細胞に結合しない。
【0168】
さらに、適切な、向上した結合特性を有するTfR結合VHHを、部位特異的突然変異誘発によって生成した。より具体的には、VHH Aの相補性決定領域(CDR)1、2、及び3に1つのアラニン置換を導入するように、部位特異的突然変異誘発を行い、VHH A1~A9を生じた。VHH A1及びA2はCDR1において、VHH A3及びA4はCDR2において、VHH A5~A9はCDR3において突然変異させた。さらにまた、一部のCDRアミノ酸を構造的に近いアミノ酸で置換することで、1つの部位特異的突然変異誘発を行った。VHH A10~A19が得られ、VHH A10及びA11はCDR1において、VHH A12~A14はCDR2において、VHH A15~A19はCDR3において突然変異させた。
【0169】
さらに、ヒト化TfR結合VHHを、例えば、免疫原性を回避することによってインビボでの有効性を向上させるため生成し、VHH A20~A25とした。
【0170】
さらに、精製及び/又はカップリングをしやすくするため、タグ付きVHH分子を作製した。
【0171】
これらの各VHHのアミノ酸配列を配列表に記載する。
【0172】
<実施例IV>
本発明の精製VHHの結合及びエンドサイトーシス
選択したVHH分子のTfRに結合する能力、及びエンドサイトーシスされる能力を確認するため、マウス抗-cMyc1次抗体(ThermoFisher)、その後のAlexa594-コンジュゲートロバ抗マウス2次抗体(Jackson ImmunoResearch)を使用して検出される、EGFPに融合するTfRを発現するCHO生細胞株におけるVHHのインキュベーションに関わる免疫細胞化学的実験を行って、共焦点顕微鏡で観察した。VHH Aによって得られた結果を例として示す。
【0173】
図3に示すように、VHHは、CHO-hTfR-EGFP(
図3-B)及びCHO-mTfR-EGFP(
図3-A)細胞株に結合し、トリトン透過処理を使用して示すように、エンドサイトーシスによって取り込まれて細胞内に蓄積し、これはコントロールVHH(VHH Z)ではそうではない(
図3-C、
図3-D)。
【0174】
<実施例V>
結合親和性の測定
フローサイトメトリーを使用して、TfRに対する親和性を有するVHHの結合特性を試験し、見かけの親和性(Kd app)を測定した。96ウェルプレートにおいて、2-3×105cell/wellを用いて、4℃で振とうさせながら、すべての実験を行った。EGFPに融合するTfRを発現するCHO細胞株、又はCHO野生型細胞は、非特異的結合を退けるため、PBS/BSA2%溶液で30分間飽和させ、その後、2μM~1pMの範囲の濃度の精製VHHとともに1時間インキュベートした。PBS/BSA2%内での1回の洗浄後、細胞を、抗6Hisタグ抗体(マウス)とともに1時間インキュベートし、PBS/BSA2%で2回洗浄し、Alexa647コンジュゲート抗マウス2次抗体とともに45分間インキュベートした。PBS/BSA2%内での最後の2回の洗浄後、細胞を、PBS/PFA2%で15分間のインキュベーションによって、固定するか又は固定せず、PBSで1回洗浄して、最後にPBSに再懸濁した。MACSQuantフローサイトメーター(Miltenyi)又はAttune NxTフローサイトメーター(Thermo Fisher Scientific)を使用して、蛍光レベルを評価した。
【0175】
細胞をコントロールVHH(VHH Z)とともにインキュベートしたコントロール条件では、非特異的標識は存在しなかった。試験したすべてのVHHは、信号の濃度依存的変化をもたらし、対象の受容体に対する結合を確認した(
図4-A)。CHO野生型コントロール細胞の標識は、試験したすべてのVHHで検出しなかった(図示せず)。VHHのK
d appは、GraphPad Prismソフトウェアを使用して計算した(
図4-B)。K
d appは、すべてのVHHで同じ範囲にあり、これは、mTfRにおいて7.5nM(VHH B)から56nM(VHH D)、及びhTfRにおいて1.6nM(VHH B)から2.7nM(VHH A)の範囲であった。
【0176】
<実施例VI>
TfRに親和性を有する精製VHHと天然リガンドとの競合アッセイ
選択したVHHが、受容体に結合するために、TfR天然リガンドのトランスフェリン(Tf)と競合する能力を評価するため、フローサイトメトリー実験を使用して競合アッセイを行った。第1ステップにおいて、希釈系列の競合物を、EGFPに融合した対象の受容体を発現するCHO細胞において4℃で1時間インキュベートした。次に、EC90のトレーサーを添加し、さらに1時間インキュベートし、適切な顕色系で検出した(
図5)。
【0177】
TfR結合VHHをトレーサー(
図5-B)及び競合物(
図5-C)として使用した。すべての条件において、VHHとリガンドTfとの間に競合は存在せず、VHHがTfのものとは異なるエピトープでTfRに結合することを示唆した。
【0178】
<実施例VII>
VHH A1~A19の結合親和性の測定
フローサイトメトリーを使用して、TfRに対するVHH A1~A19の結合特性を試験し、見かけの親和性(Kd app)を測定した。96ウェルプレートにおいて、2×105cell/wellを用いて、4℃で振とうさせながら、すべての実験を行った。EGFPに融合したhTfR若しくはmTfRを安定的に発現するCHO細胞株、又はCHO野生型細胞は、非特異的結合を退けるため、PBS/BSA2%溶液で30分間飽和させ、その後、50μM~5pMの範囲の濃度の精製VHHとともに1時間インキュベートした。PBS/BSA2%内での1回の洗浄後、細胞を、抗6Hisタグ抗体(マウス)とともに1時間インキュベートし、PBS/BSA2%で2回洗浄し、Alexa647コンジュゲート抗マウス2次抗体とともに45分間インキュベートした。PBS/BSA2%内での最後の2回の洗浄後、細胞を、PBS/PFA2%で15分間のインキュベーションによって固定し、PBSで1回洗浄して、最後にPBSに再懸濁し、4℃で保管した。Attune NxTフローサイトメーター(Thermo Fisher Scientific)を使用して、蛍光レベルを評価した。
【0179】
VHH A1~A19はすべて、両細胞株において信号の濃度依存的変化をもたらし(VHH A12を除く)、対象の受容体に対するその有効な結合を確認した(
図11、
図12)。VHH A、VHH A1~A4、及びVHH A10~A15が、hTfR及びmTfR発現細胞株の両方において同様のB
max(曲線のプラトー)を示す一方、VHH A6~A9、及びVHH A16~A19は、両方の細胞株においてわずかに低いものから大きく低いB
maxまで示し、またわずかな曲線変化から大きな曲線変化まで示した。VHH A12のみが、他のVHH Axと比較して、hTfR発現細胞株において、より低いB
max及び大きい曲線変化を示した。CHO野生型コントロール細胞の標識は、試験したすべてのVHHで検出しなかった(図示せず)。
【0180】
VHHのK
d appは、GraphPad Prismソフトウェアを使用して計算した(
図11-B、
図12-B)。ヒトTfRへの結合に関して、VHH A、A1~A4、A6、A9~A11、及びA13~A17はすべて、約3~4nMという同様のK
d appを示した。その反面、VHH A5、A8、A18、及びA19は、9.2~25nMという、わずかに低い親和性を示す一方、VHH A7及びA12はそれぞれ、255nM及び363nMという、大きく低い親和性を示した。
【0181】
マウスTfRへの結合に関して、VHH A及びA9は、約50nMという同様のKd appを示した。他のすべてのVHH Aは、131~259nMという、わずかに低い親和性を示し、それぞれ604nM、427nM及び416nMという、顕著に低い親和性を示すVHH A5、A8、及びA18は例外である。
【0182】
<実施例VIII>
TfRに親和性を有する精製VHH-Fc融合分子の結合及びエンドサイトーシス、並びに親和性測定
本発明の抗TfRVHH分子をIgGFcフラグメントに融合した。融合タンパク質を作製するため、VHHをコードするDNAフラグメント(タグなし)をPCRによって増幅して、そのN末端又はC末端にVHHを含むヒトIgG1-Fcフラグメントをコードするように、pINFUSE-IgG1-Fc2ベクター(InvivoGen)にクローニングした。製造者の指示に従ってExpi293(登録商標)発現系を使用して(Life Technologies)、融合タンパク質を調製した。遺伝子導入後72時間で、上清を回収して、タンパク質A GraviTrapカラム(GE Healthcare)を使用して精製した。自社製の抗Fc ELISAを使用して精製融合タンパク質を定量化した。
【0183】
共焦点顕微鏡で撮影される、Alexa594-コンジュゲート抗hFc抗体(Jackson ImmunoResearch)を使用して検出される、生細胞におけるVHH-Fc融合タンパク質のインキュベーションに関わる、EGFPに融合するTfRを発現するCHO細胞株における免疫細胞化学的実験を行って、融合タンパク質が標的の対象受容体に結合する能力を確認した。
【0184】
本発明のコンジュゲートが細胞に結合してエンドサイトーシスされることができるということを、この結果は示している(
図7)。細胞におけるコントロールVHH-Fcコンジュゲート(VHH Z-Fc)の結合は観察されず、この相互作用の特異性を示した。
【0185】
TfRに親和性を有するVHH-Fc及びFc-VHH融合タンパク質の結合特性を、フローサイトメトリー実験において試験し、見かけの親和性(Kd app)を測定した。96ウェルプレートにおいて、2-3×105cell/wellを用いて、4℃で振とうさせながら、すべての実験を行った。EGFPに融合する対象の受容体を発現するCHO細胞株、又はCHO野生型細胞を、PBS/BSA2%で飽和させ、その後、350nM~0.03pMの範囲の濃度の精製VHH-Fc又はFc-CHHとともに1時間インキュベートした。洗浄後、Alexa647コンジュゲート抗hFc抗体(Jackson ImmunoResearch)とともに、細胞を1時間インキュベートした。最後に3回洗浄し、細胞をPBSに再懸濁した後、MACSQuantフローサイトメーター(Miltenyi)を使用して蛍光を直ちに測定し、結果をMACSQuantソフトウェアで分析した。
【0186】
すべてのVHH-Fc及びFc-VHH融合タンパク質は、信号の濃度依存的変化をもたらし、対象の受容体に対する結合を確認した。VHH-Fc及びFc-VHHのK
d appは、GraphPad Prismソフトウェアを使用して計算した(
図8-B)。ほぼすべてのVHHのK
d appは、Fcフラグメントとのコンジュゲートにより大幅に向上し、K
d appはTfR結合VHH-Fc及びFc-VHHにおいて0.44nM~51nMの範囲であった。
【0187】
<実施例IX>
インビトロのBBBモデルにおける本発明のVHHのエンドサイトーシス及び輸送
ラット又はマウスの脳微小血管内皮細胞(BMEC)及びラット又はマウスの星状膠細胞を使用し、共培養モデルを設定した。BMECを横断する数多くの分子、とりわけ薬理的物質の受動通過又は能動輸送を評価し、外挿法によってインビボでCNS組織に達するその能力を評価するため、この種類のインビトロBBBモデルを使用した。現在開発されている様々なモデル(ウシ、ブタ、ネズミ、ヒト)は、脳内皮特有の超微細構造特性、とりわけ密着結合、開窓がないこと、親水性分子に対する透過性が低いこと、及び高い電気抵抗を有する。さらに、これらのモデルは、BBBを横断するその特性についてインビトロとインビボとで評価を行った種々の分子に対して取得した測定結果間における確かな相関性を示している。現在のところ、取得したすべてのデータは、これらのインビトロBBBモデルが、細胞培養実験に関連する有利性を保持しながらも、インビボに存在する細胞環境における複雑性のいくつかを再現することで、インビボの状態を模倣することを示す。
【0188】
例えば、インビトロのラットBBBモデルは、BMEC及び星状膠細胞の共培養を利用する(Molino et al.,2014,J.Vis.Exp.88,e51278)。細胞培養の前に、BMECの接着性を最適にし、基底膜の状態を作るため、膜インサート(Corning、Transwell、96ウェルプレート又は12ウェルプレートにおいて1.0μmの有孔性)を、その上部においてIV型コラーゲン及びフィブロネクチンで処理した。混合星状膠細胞の初代培養物を、新生仔のラット大脳皮質から得た。短時間で、髄膜を取り除いて、皮質小片を機械的に解離し、その後トリプシン溶液内で酵素的に解離させた。解離させた細胞を、細胞培養フラスコ内において、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEMを含有するグリア細胞培地(GCM)内に播種し、後に使用するため液体窒素内で凍結した。BMECの初代培養物を、5~6週齢のウィスターラットから調製した。短時間で、皮質小片を機械的に解離し、その後コラゲナーゼ/ディスパーゼ溶液内で酵素的に解離させた。消化した組織を、25%ウシ血清アルブミン内で密度依存性遠心分離によって分離した。微小血管のペレットを、事前にIV型コラーゲン及びフィブロネクチン被覆した培養フラスコにおいて、20%ウシ乏血小板血漿由来血清及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)2ng/mlを補充したDMEM/F12を含有する内皮細胞培地(ECM)内に播種した。共培養確立の5日前に、星状膠細胞を解凍して、12ウェルプレート又は96ウェルプレートにプレーティングした(反管腔側コンパートメント)。そして、共培養におけるフィルターの上部面にBMECを分布させた(管腔側コンパートメント)。これらの条件下で、インビトロモデルが分化し、3日内に接合部関連タンパク質を発現して、さらに3日間最適に分化を維持した。
【0189】
BBBにおける、IgG1抗体のヒトFcフラグメントにコンジュゲートした本発明のVHH(VHH-Fc)の結合/取り込みを、上述のインビトロのラットモデルにおいて検証した(
図9)。VHH A-Fc又はVHH B-Fcを、Tf-Alexa647とともに、生細胞rBMEC単層において37℃で2時間、共にインキュベートした(
図9A)。このように共にインキュベートした後、細胞単層を十分洗浄し、PFA4%で固定した。細胞単層を、0.1%トリトンX-100溶液で透過処理した。ヒトFcフラグメントに対する抗体による免疫染色を使用して、VHH-Fcを検出した。そして、Tf-A647とVHH A-Fc又はVHH B-Fcの蛍光信号が共に局在化することを評価するため、共焦点顕微鏡観察を用いた(
図9A)。
【0190】
結果は、このように2時間共にインキュベートした後、VHH A-Fc又はVHH B-Fcは即座にエンドサイトーシスされ、ほぼ完全にTf-Alexa647と共に局在化した。
【0191】
異なるTfRリガンドと共に局在化するというこの分析(VHH A-Fc、VHH B-Fc、及びTf-A647)は、その標的受容体に対する本発明のVHHの特異性を裏付けた。
【0192】
rBMEC単層を横断して反管腔側コンパートメントに輸送するため、VHH-Fcを、培養系の管腔側コンパートメントにおいて10nMで24時間から72時間インキュベートした(
図9-C、
図9-D)。実験前に、rBMEC単層を含有するフィルターインサートを、新しい輸送バッファー(管腔側コンパートメントにおいて75μl、及び反管腔側コンパートメントにおいて250μl)を含有する96ウェルプレートに配置した。インビトロにおけるBBBの完全性、及び内皮細胞に対して毒性がないことを評価するため、VHH-Fcを、BBBを横断しない蛍光性低分子であるルシファーイエロー(LY)と共にインキュベートした。インキュベーションの24時間後、インサートを、さらなる48時間の間隔を得るため、新しい輸送バッファーを含有する別の96ウェルプレートに移した。輸送の終わりに、反管腔側コンパートメントに蓄積したLYを蛍光分光光度法によって定量化し、結果を10
-3cm/minにおける内皮表面透過性(又はPe)として表した。LYのPe値が0.6×10
-3cm/minより大きい場合、インビトロのバリアは「透過性」又は「解放」と考えられた。また、オーム計によって測定し、ohm.cm
2で表される経内皮電気抵抗(TEER)も、BBBを横断する通過試験時にインビトロにおけるBBB完全性を測定することができる。品質しきい値を>400ohm.cm
2に設定する。行った実験は、VHH-Fcに毒性のないこと、及びBBBの透過特性において有害な作用のないことを示す(図示せず)。インプット(T0)における本発明のVHH-FcのFcフラグメント、輸送実験の終わりにおける管腔側コンパートメント(T72、産生物回収)、及び反管腔側コンパートメント(24時間及び+48時間の輸送間隔)の含有量を、自社製の抗Fc ELISAアッセイを0.5~50フェムトモルの感度で使用して定量化した。吸光度単位をインサート毎フェムトモルに変換した(96ウェルプレートのインサートおいて0.143cm
2の表面積)。
【0193】
この結果は、VHH B-Fc及びVHH A-FcコンジュゲートがVHH Z-Fc(負のコントロール)より、24時間で約10倍、及び72時間で5倍多く輸送されることを示す。この輸送は、24時間~72時間で明らかな飽和に達し、特異性で飽和性の受容体媒介プロセスの関与をさらに示唆した(
図9-D)。
【0194】
<実施例X>
インビボにおけるVHH-Fcコンジュゲートの薬物動態的取り込み及び器官への取り込み
インビボにおいて対象の受容体が豊富な器官を標的とする本発明のVHH-Fcコンジュゲートの可能性を評価するため、コンジュゲートVHH A-Fc、VHH A-Fc-Agly、及びVHH Z-Fcを5mg/kgで尾静脈に注射し、マウスを生理食塩水で様々な時間灌流した。血漿と脳とを採取した。脳を毛細血管枯渇法(capillary depletion method)によって処理して、脳実質を毛細血管から単離した。血漿、脳実質、及び微小血管におけるVHH-Fc量を、自社製の抗Fc ELISAを用いて測定した。結果を濃度(nM)として、又は器官対血漿比によって示す(
図10)。
【0195】
TfR結合コンジュゲートVHH A-Fc及びVHH A-Fc-Aglyは、注射後2時間で有意な脳への標的化を示し、コントロールVHH Z-Fcでは0.07nMであるのに対して、それぞれVHH A-Fc及びVHH A-Fc-Aglyでは脳実質において0.25及び0.32nMの濃度である(
図10-B)。実質対血漿比を見ると、特に、VHH A-Fc-Aglyがなお脳実質において測定可能である一方、血漿では8nMが存在するのみである、注射後24時間において明らかな有利性が認められる。微小血管では、VHH A-Fc及びVHH A-Fc-Aglyは、注射後2時間においてVHH Z-Fcを有意に超えて蓄積し、それぞれ9倍及び5倍高い濃度である。さらに、微小血管におけるVHH A-Fc濃度は、注射後24時間においてなお、VHH Z-Fcより3倍高い(
図10-C)。これらの結果は、微小血管対血漿比を見て確認した(
図10-E)。これらの結果は、本発明のTfR標的VHHが、有効に送達する、又は薬剤、とりわけタンパク質カーゴの薬物動態特性を向上させるために、使用可能であることを示す。
【0196】
<実施例XI>
VHHに融合した治療用抗体の設計及び作製
本発明の抗TfR VHH A、A1、A5、A6、A7、及びA8(タグなし)を、βアミロイドペプチドのプロトフィブリル形態に高特異的親和性を有するマウスIfG1 13C3モノクローナル抗体と融合させた(WO2009/065054)。13C3-HC-VHH融合タンパク質を作製するため、選択したVHHをコードするDNAフラグメントを合成し、抗体重鎖C末端アミノ酸残基に融合させた、選択したVHH配列をそのC末端に含む13C3-HC-VHHコンジュゲートをコードするように、13C3重鎖(HC)ベクターにクローニングした。別の実験一式では、選択したVHHをコードするDNAフラグメントを、抗体軽鎖C末端アミノ酸残基に融合させた、選択したVHH配列をそのC末端に含む13C3 LC VHHコンジュゲートをコードするように、13C3軽鎖(LC)ベクターにクローニングした。
【0197】
製造者の指示に従ってExpi293発現系を使用して(Life Technologies)、融合タンパク質を作製した。遺伝子導入後72時間で、上清を回収して、HiTrap(登録商標)タンパク質G高性能カラム(GE Healthcare)を使用して精製した。280nm吸光度測定を使用して精製融合タンパク質を定量化した。
【0198】
13C3-HC-VHHAコンジュゲートのアミノ酸配列を配列番号93として示す。
〔QVQLQQSGPELVRPGVSVKISCKGSGYTFTDYAMHWVKQSHAKSLEWIGVISTKYGKTNYNQKFKGKATMTVDKSSSTAYMELARLTSEDSAIYYCARGDDGYSWGQGTSVTVSS〕(AKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLGCLVKGYFPEPVTVTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVPSSTWPSETVTCNVAHPASSTKVDKKIVPRDCGCKPCICTVPEVSSVFIFPPKPKDVLTITLTPKVTCVVVDISKDDPEVQFSWFVDDVEVHTAQTQPREEQFNSTFRSVSELPIMHQDWLNGKEFKCRVNSAAFPAPIEKTISKTKGRPKAPQVYTIPPPKEQMAKDKVSLTCMITDFFPEDITVEWQWNGQPAENYKNTQPIMDTDGSYFVYSKLNVQKSNWEAGNTFTCSVLHEGLHNHHTEKSLSHSPG〔GGGG〕)[MA]EVQLVESGGGVVQPGGSLKLSCVASGTDFSINFIRWYRQAPGKQREFVAGFTATGNTNYADSMKGRFTISRDNTKNAVYLQIDSLKPEDTAVYYCYMLDKWGQGTQVTVSS[AAA]
亀甲括弧は13C3可変重鎖配列であり、丸括弧は13C3定常重鎖配列であり、亀甲括弧及び丸括弧はGlyリンカーであり、角括弧のMA及びC末端AAA残基はクローニング由来であり、任意で取り除くことができる。残りの部分はVHHである。
【0199】
13C3-LC-VHHAコンジュゲートのアミノ酸配列を配列番号94として示す。
〔DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSGQSLVHSNGNTYLHWYLQKPGQSPKLLIYTVSNRFSGVPDRFSGSGSGSDFTLKISRVEAEDLGVYFCSQNTFVPWTFGGGTK〕LEIKR(ADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC〔SGSGGGGG〕)[MA]EVQLVESGGGVVQPGGSLKLSCVASGTDFSINFIRWYRQAPGKQREFVAGFTATGNTNYADSMKGRFTISRDNTKNAVYLQIDSLKPEDTAVYYCYMLDKWGQGTQVTVSS[AAA]
亀甲括弧は13C3可変カッパ軽鎖配列であり、FGGGTKはJ領域であり、LEIKRは複数のクローニング部位であり、丸括弧は13C3定常カッパ軽鎖配列であり、亀甲括弧及び丸括弧はGlyリンカーであり、角括弧のMA及びC末端AAA残基はクローニング由来であり、任意で取り除くことができる。残りの部分はVHHである。
【0200】
結合親和性の測定
フローサイトメトリーを使用して、TfRに対する本発明の13C3コンジュゲートの結合特性を試験し、見かけの親和性(Kd app)を測定した。すべての実験は、実施例VIIに記載するものと同じ条件で行い、13C3コンストラクトを15μM~7pMの範囲の濃度でインキュベートし、Alexa647コンジュゲート抗マウス抗体で検出した。
【0201】
すべての13C3-HC-VHH融合タンパク質は、hTfR及びmTfR発現細胞株の両方において信号の濃度依存的変化をもたらし、受容体に対する結合を確認した(
図13)。すべての13C3融合タンパク質は、同じhTfR結合プロファイルを示し、わずかに低いB
maxを示すVHH A7融合物は例外であった。すべての融合タンパク質は、mTfRにおいて異なる結合プロファイル示し、13C3-HC-VHH A1融合物は13C3-HC-VHH Aよりも1/2倍低いB
maxを示す一方、A5~A8の13C3融合物は非常に低いB
maxを示した。
【0202】
13C3融合物のK
d appは、GraphPad Prismソフトウェアを使用して計算した(
図13-B)。hTfRに対する親和性は、約10~20nMのK
d appとして、すべての融合物で同様であった。B
maxが異なる反面、VHH A、A1、及びA6 13C3 HC融合物は、10~20nMという、同様の親和性を示す一方、13C3-HC-VHH A8及び13C3-LC-VHH A融合物はそれぞれ、315nM及び106nMという、低い親和性を示した。
【0203】
<実施例XII>
インビボにおける13C3-HC-VHH及び13C3-LC-VHH融合物の脳への取り込み
抗体の脳への取り込みを促進する本発明のVHHの可能性を評価するため、13C3-HC-VHH A及び13C3-HC-VHH A1コンジュゲート、又はベクター化していない13C3を、35nmoles/kgの用量でC57Bl6マウスの尾静脈に注射した。マウスを生理食塩水で様々な時間灌流した。注射後(p.i.)2時間及び6時間の時点で脳を採取した。マウスの脳の半分を、毛細血管枯渇法によって脳実質から毛細血管網を単離するように処理し、これは、再懸濁した半分の脳のホモジネートの20%デキストラン溶液(Sigma Aldrich)に対して遠心分離し、実質画分を回収することに基づく。マウスの脳の第2の半分を、全脳定量化のため直接処理(ホモジナイズ及び溶解)した。全脳及び脳実質における13C3-HC-VHHコンジュゲートの量を、自社内認定のMeso Scale Discovery(MSD)直接被覆(Aβ)免疫測定法を使用して測定した。(CV<20%、及び回収±30%)結果を濃度(nM)として示す(
図14)。
【0204】
結果は、コントロールのベクター化していない13C3抗体と比較して、TfR結合コンジュゲート13C3-HC-VHH A及び13C3-HC-VHH A1が注射後2時間及び6時間で有意な脳への取り込みの有利性を示したことを表す(
図14-A)。13C3-HC-VHH A及び13C3-HC-VHH A1の全脳濃度は8であり、それぞれ注射後6時間においてベクター化していない13C3抗体のものより5倍重大である。
【0205】
13C3-HC-VHH A及び13C3-HC-VHH A1によるBBBの横断は、注射後6時間で、微小毛細血管網を除いた脳実質において測定した濃度が、それぞれベクター化していない13C3のものより10倍及び9倍重大であるということから確認した。
【0206】
さらなる脳への取り込みにおける研究により、13C3-HC-VHH A及び13C3-LC-VHH A(軽鎖ベクター化タイプ)が70nmoles/kgの用量でBBB横断を示し、実質への蓄積が注射後4時間においてベクター化していない13C3抗体よりもそれぞれ6倍及び5倍多いことをさらに確認した。
【0207】
<実施例XIII>
VHH-siRNAコンジュゲートの合成
ヌクレアーゼに対する高耐性を持つため化学修飾を含む抗GFP siRNA、すなわちsiGFPst1を、タグ付きVHH Aにコンジュゲートして、VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートを作製した。同じコンジュゲーション方法を使用して、VHH A-siGFPst1コンジュゲートと同じ構造及びサイズを有するがTfR標的化能力を有しないように、負のコントロールとして関連のないVHH ZにsiGFPst1をコンジュゲートした。
【0208】
コンジュゲーション方法は、i)アジドリンカーを部位特異的に導入するVHH、及びii)アジド官能基に相補的な拘束アジド部分を導入するsiGFPst1の並行修飾を伴う収束型合成に関与するものであった。最終ステップにおいて、銅フリーのクリック反応を用いて、機能化VHH-アジド及びアルキン-siGFPst1前駆物質の両方を互いに結合する。
【0209】
VHH-アジドの合成
細菌トランスグルタミナーゼ(BTG)に基づくライゲーション方法を用いて、VHHとの部位特異的コンジュゲーションを行った。BTG酵素は、該BTG酵素によって特異的に認識されるタグ配列(すなわちQタグ)に挿入したグルタミン残基とアミノ官能基を持つ基質との間のイソペプチド結合の形成を触媒する。導入されるアミノ官能基を持つ基質は、BTG酵素の基質であることが判明しているアミノ部分を一端に含み、銅フリーのクリックケミストリーによってsiGFPst1にコンジュゲートするためのアジド部分を他端に含むヘテロ二官能性リンカーであった。
【0210】
BTGコンジュゲーションプロトコル
3-アジド-1-プロパンアミン(20.eq/Gln)をPBS(1×)に溶解して、自社で作製したQタグ付きVHHに添加した。その後、BTG(Zedira,Darmstadt,Germany)を混合物(0.1U/nmolのGln)に導入し、これを37℃で一晩反応させた。製造者の指示に従ってProtino Ni-ida1000充填カラムにおけるクロマトグラフィーを行うことによって、粗混合物の精製を行って、出発物質の過剰量からのVHH-アジド、及び潜在的な副生成物を単離した。吸光度を280nmで読み取り、精製VHH-アジドコンストラクト量、つまりコンジュゲーション産生量を計算した(70~80%範囲)。
【0211】
最終VHH-アジドを、LCMS分析によって特性評価し、その同一性及び純度をチェックした。
【0212】
アルキン-siGFPst1の合成
クリックケミストリーによるVHH-アジドとのコンジュゲーションに必要なアルキン部分によるさらなる機能化を可能にするようにセンス鎖において3’アミン修飾(N6-siGFPst1)を有する、siGFPst1をDharmaconから購入した。
【0213】
siGFPst1機能化プロトコル
N6-siGFPst1(1eq)をNaB(0.09M、pH8.5)コンジュゲーションバッファーに溶解して、0.3~0.8mMの最終濃度を得た。その後、この溶液にDBCO-NHS(20eq、DMSO)を添加した。反応混合物を室温で2時間かく拌した。冷無水エタノール内で沈澱させることによって、アルキン-siGFPst1を精製した。吸光度を260nmで読み取り、精製アルキン-siGFPst1コンストラクト量、つまりコンジュゲーション産生量を計算した(40~50%範囲)。
【0214】
最終アルキン-siGFPst1を分析HPLCによって特性評価し、同一性及び純度をチェックした。
【0215】
VHHH-siGFPst1の合成
VHH-アジド及びアルキン-siGFPst1前駆物質の両方を、銅フリーのクリックケミストリー反応によって最後にコンジュゲートして、最終コンジュゲートVHH-siGFPst1を得た。
【0216】
VHH-GFPst1コンジュゲーションプロトコル
アルキン-siGFPst1(2eq.)をPBS(1×)に溶解して、VHH-アジド(1eq.、PBS(1×)内で100μM範囲の最終濃度)に添加した。反応混合物を室温で一晩かく拌させた。最終コンジュゲートを、まずSuperdex75カラムにおいてゲル濾過クロマトグラフィーによって精製し、次にAmicon Ultra遠心分離フィルター(10K)を使用して濃縮した。吸光度を260nmで読み取り、精製VHH-siGFPst1コンストラクト量、つまりコンジュゲーション産生量を計算した(30%範囲の全産生量)。
【0217】
最終VHH-siGFPst1(VHH A-siGFPst1及びVHH Z-siGFPst1)を、分析SEC-HPLC及びアガロースゲル電気泳動によって特性評価し、その同一性及び純度をチェックした。
【0218】
<実施例XIV>
VHH-siRNAバイオコンジュゲートのインビトロにおける遺伝子サイレンシング活性
治療用核酸、特にsiRNA、オリゴヌクレオチドの特異的細胞標的化及び有効な細胞内送達は未だ大きな課題である。多価親水性オリゴマーであるこの分子の構造的及び物理化学的特徴により、支援がないと、いずれの細胞内コンパートメントにも入ることができない。本発明のVHHは、細胞膜を横断して低分子干渉RNA(siRNA)を輸送して、サイトゾルにアクセスするために使用した。
【0219】
第1に、VHH A-siGFPst1及びVHH B-siGFPst1バイオコンジュゲートの見かけのhTfR結合親和性(K
d app)を、同じCHO-hTfR-GFP細胞において2μM~30pMの範囲の濃度を4℃で1時間添加することによって、実施例VIIに記載するように(VHH A1~A19の結合親和性の測定)評価した。抗6His免疫細胞化学法によって、細胞表面結合分子の定量化を行い、GraphPad Prismソフトウェアを使用して、実験データを非線形回帰に当てはめた。これまでに遊離型のVHH A及びVHH Bによって示したように、VHH A-siGFPst1及びVHH B-siGFPst1バイオコンジュゲートは、細胞表面の標的hTfRに対して、濃度依存的且つ飽和性の結合を示し、K
d app値はコンジュゲートしていないVHH A及びVHH Bと同じく低いナノモル濃度の範囲であった(
図15A)。コントロールのVHH Zでは、有意な結合は観察されなかった。これにより、つまり、VHH A及びVHH BのsiRNAとのカップリングが、hTfRに対して特異的且つ有効に結合する能力を変えないことを裏付けた。
【0220】
第2に、VHH-siGFPst1バイオコンジュゲートの内因性サイレンシング活性を、サイトゾルに直接送達するためにDharmafect1(Dharmacon)を使用して25nMでコンジュゲートを遺伝子導入することによって、EGFPに融合したTfRを安定的に発現するCHO生細胞株(CHO-hTfR-EGFP細胞)において評価した。GFPの全細胞量を、フローサイトメトリーを使用して遺伝子導入後72時間で定量化した。この結果により、VHH A-siGFPst1コンジュゲートが、コンジュゲートしていないsiGFPst1又はコントロールのVHH Z-siGFPst1コンジュゲートと同じ範囲において、GFPタンパク質レベルを約85%低下させたことを示す(
図15B)。これにより、VHH A又はZのいずれかのカップリングが、RISCロードを受けて、サイレンシング活性を示すsiRNAを妨害しないことを裏付ける。別の実験一式では、VHH A-siGFPst1コンジュゲートを10nM~1pMの範囲の濃度でCHO-hTfR-EGFP細胞に遺伝子導入し、GFPの全細胞量を、フローサイトメトリーを使用して遺伝子導入後120時間で定量化した。これにより、GFPタンパク質レベルの濃度依存的低下をもたらし、IC50は50.4pMであり、この条件での最大サイレンシング効率は-90.2%であった(
図15C)。
【0221】
第3に、siGFPst1とコンジュゲートしたとき、hTfR媒介エンドサイトーシスを誘発し、その後、薬理的量で標的細胞のサイトゾルに送達する、VHH Aの能力を評価した。VHH A-siGFPst1又はコントロールのVHH Z-siGFPst1バイオコンジュゲートを、1μMでCHO-hTfR-GFP細胞において37℃で120時間インキュベートして、mRNA転写及びタンパク質レベルにおいて、自由な取り込み、サイトゾルへの送達、及び遺伝子サイレンシングを可能にした。これにより、TfR結合VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートでは、有意なGFPタンパク質レベルの約-70%の低下をもたらす一方、コントロールのVHH Z-siGFPst1バイオコンジュゲートでは、サイレンシングは観察されなかった(
図15D)。次に、VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートを、3μM~10pMの範囲の濃度でCHO-hTfR-GFP細胞において120時間インキュベートした。これにより、GFPタンパク質レベルの濃度依存的低下をもたらし、IC50は2.73±0.23nMであり、この条件での最大サイレンシング効率は-61.6±2.9%であった(
図15E)。これにより、VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートの細胞表面hTfRとの結合及びその後のエンドサイトーシスが、薬理的量でサイトゾルへの送達を可能にし、IC50はバイオコンジュゲートのhTfR結合親和性と同じナノモル濃度の範囲であることを示す。
【0222】
第4に、CHO-hTfR-GFP細胞における自由な取り込みの際に観察したVHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートのサイレンシング作用におけるhTfRの関与を競合アッセイにて確認した。この実験では、VHH A-siGFPst1を、単独で、又は100×過剰量の遊離型VHH A、B、若しくはZの存在下で、先の実験から定めた、30nMの飽和濃度において37℃で120時間インキュベートした。結果は、GFPタンパク質レベルの約60%の低下が、遊離型VHH A又はVHH Bの存在下でほぼ完全に抑制されることを示した(GFPタンパク質レベルはそれぞれコントロールレベルの85%及び96%に保たれた)。重要な点は、関連のないVHH Zの過剰量を用いたとき競合が観察されなかったということである(
図15F)。これにより、VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートのサイレンシング作用が実際にhTfR媒介の細胞取り込み、及びその後の細胞質への送達によるものであることを明確に裏付けた。
【0223】
第5に、VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートのTfR媒介GFPサイレンシング作用を、パルスチェイス法を用いて評価した。CHO-hTfR-GFP細胞を、300nM~1pMの範囲の濃度のVHH A-siGFPst1に、短時間(6時間)暴露し、その後、リガンド非含有培地において最大で全120時間追跡した。この実験により、これまでに連続的な120時間のインキュベーションによって観察されたサイレンシング作用に対する、早期の細胞取り込みの寄与を評価することができた。連続的なインキュベーションを用いて観察したように、VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートはまた、GFPタンパク質レベルの濃度依存的低下をもたらし、IC50は同様の1.24nMであり、最大サイレンシング効率は-54.2%であった(
図15G)。この結果は、これまでに120時間の連続インキュベーションの際に観察した作用の大部分が、最初の6時間内における、有効なTfR媒介の取り込みによるものであったことを示唆する。この発見は特に興味深いものであり、これは、インビボにおけるそうしたバイオコンジュゲートの血漿薬物動態プロファイルは、通常、静脈内又は皮下へのボーラス注射によって投与したとき、数時間のみ、治療レベルで組織に暴露することができるためである。ゆえに、本明細書に記載するTfR標的VHHは、インビボにおける標的化された有効な遺伝子サイレンシングのための実施可能なツールに相当する。
【0224】
最後に、hTfR媒介エンドサイトーシス及びその後の遺伝子サイレンシングを誘発するVHH Bの能力を、CHO-hTfR-GFP細胞において30nMでVHH B-siGFPst1バイオコンジュゲートを120時間インキュベートすることによって評価した。結果は、VHH A-siGFPst1バイオコンジュゲートで得られたものと同様のGFPレベルの約-60%の低下を示し、これらのVHHが同様のTfR標的化及び細胞内送達の可能性を表すことを裏付けた(
図15H)。
【0225】
発明者等の知る限り、標的化リガンドとして3分枝型GalNAcを用いるアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)を介した受容体媒介の肝細胞取り込みは、ナノモル濃度で特異的且つ有効な遺伝子サイレンシングを誘発することができる唯一のリガンド/受容体システムである。しかしながら、ASGPRはインビボでは排他的に肝細胞に発現されることから、治療用核酸によるインビボの治療用途におけるこのシステムの使用は肝臓の標的に限定される。ゆえに、本発明は、ナノモル濃度のsiRNAなどの治療用核酸で、TfRを発現する肝臓器官及び組織外に標的化及び細胞質内送達を行うための新たなリガンド/受容体システムを提供することとなる。
【0226】
<実施例XV>
VHH-NODAGAコンジュゲートの合成
Qタグ付きVHH Aの設計
この実施例では、そのC末端に導入したAlaリンカー、Hisタグ、Glyリンカー及びQタグ(AAA-Hisタグ-GGG-LQR配列)を伴うVHH AをコードするDNAフラグメントを合成し、pHEN1ベクターにクローニングした。
【0227】
VHH A-アジドのBTGに基づく調製物
3-アジド-1-プロパンアミン(20.eq/Gln)をPBS(1×)に溶解して、自社で作製したLQRタグ付きVHH Aに添加した。BTG(Zedira,Darmstadt,Germany)を混合物(0.1U/nmolのGln)に導入した。その後、反応混合物を37℃で一晩反応させた。製造者の指示に従ってProtino Ni-ida1000充填カラムにおけるクロマトグラフィーを行うことによって、粗混合物の精製を行って、出発物質の過剰量からのVHH A-アジド、及び潜在的な副生成物を単離した。吸光度を280nmで読み取り、精製VHH A-アジドコンストラクト量、つまりコンジュゲーション産生量を計算した(70~80%範囲)。最終VHH A-アジドを、LCMS分析によって特性評価し、その同一性及び純度をチェックした。
【0228】
市販のアルキン-NODAGAに対するコンジュゲートVHH A-アジドのクリックケミストリー反応
VHH A-アジド(1eq.)を、PBS内で室温においてヘテロ二官能性NODAGA-BCN(5eq.)(Chematech,Dijon,France)と反応させた。反応をLCMSによってモニターした。反応完了後、製造者の指示に従ってProtino Ni-ida1000充填カラムにおけるクロマトグラフィーを行うことによって、最終コンジュゲートを精製して、出発物質の過剰量からのVHH A-アジド、及び潜在的な副生成物を単離した。吸光度を280nmで読み取り、精製VHH A-NODAGAコンストラクト量、つまりコンジュゲーション産生量を計算した(50~60%範囲)。最終VHH A-NODAGAを、LCMS分析によって特性評価し、その同一性及び純度をチェックした。
【0229】
<実施例XVI>
膠芽腫腫瘍の皮下マウスモデルにおけるVHH-68GaバイオコンジュゲートのPETイメージング
膠芽腫は最も多い原発性悪性脳腫瘍であり、ヒト原発性膠芽腫細胞株のU87細胞株は高TfRレベルを発現することが知られている。本発明のVHHが膠芽腫を標的とすることを評価するため、放射能標識したVHH A-NODAGAバイオコンジュゲートを、これまでに膠芽腫細胞を移植したマウス(異種移植モデル)の静脈内に投与し、PETスキャンイメージングを行った。
【0230】
VHH A-NODAGAの放射能標識及び結合親和性検証
まず、68Ga塩化物を使用してVHH A-NODAGAを放射能標識した。市販のTiO2系68Ge/68Gaジェネレーター(Obninsk)を使用して、ガリウムを68Ga3+形態で得た。400μLの酢酸アンモニウムバッファ内(1M、pH6)において25℃で10分間、60μgのVHH A-NODAGAを74~148MBq(2~4mCi)の68Gaと反応させることで、放射能標識反応を行った。得られたVHH A-68Ga放射化学純度(RPC)は>95%であった。
【0231】
放射能標識後、VHH A-NODAGA及びVHH A-68Gaバイオコンジュゲートの見かけのhTfR結合親和性(K
d app)を、同じCHO-hTfR-GFP細胞において2μM~30pMの範囲の濃度を4℃で1時間添加することによって、実施例VIIに記載するように(VHH A1~A19の結合親和性の測定)評価した。抗6His免疫細胞化学法によって、細胞表面結合VHH Aバイオコンジュゲートの定量化を行い、GraphPad Prismソフトウェアを使用して、実験データを非線形回帰に当てはめた。VHH A-NODAGA及びVHH A-68Gaバイオコンジュゲートは、細胞表面の標的受容体hTfRに対して、濃度依存的且つ飽和性の結合を示し、K
d app値はコンジュゲートしていないVHH Aと同じく低いナノモル濃度の範囲であった(
図16A)。コントロールのVHH Zでは、有意な結合は観察されなかった。これにより、VHH AのNODAGAリガンドとのカップリング及び放射能標識プロトコルが、hTfRに対して特異的に結合する能力を変えないことを裏付けた。
【0232】
<PETスキャンイメージング>
エクスマルセイユ倫理規定(規定14)により承認されているプロトコルに従って動物の研究を行った。4週齢のBALB/cヌードマウスの雌をCharles River社から入手した。50%マトリゲル(Corning)を含有する100μLの完全培地内のU87-MG細胞(2×106)を、マウス(n=6)に肩間から皮下移植した。移植後28日目において(腫瘍が300~700mm3の間に含まれる体積に達したとき)、5±1MBqのVHH A-68Gaの単回の静脈内ボーラス投与量を動物に投与した。投与後、膠芽腫がん異種移植の体内分布及び他の組織がPETイメージングを使用して評価された。
【0233】
3匹のマウスで2時間、別の3匹のマウスで注射後(p.i.)2時間において、PET/CTスキャンを得た。PET及びPET/CT研究をマイクロPET/マイクロCTげっ歯動物モデルスキャナー(nanoPET/CT,Mediso)で行った。麻酔を5%イソフルランで誘導し、1.5%で維持した。画質を向上させるために、静止PET放出スキャン毎に(エネルギーウィンドウ:400~600keV、時間:1FOVにつき20分)、マウスにつき2千万の同時計数イベントを得た。2モダリティ様式のPET/CTでは、CTイメージ(35kVp、350nsの露出時間、中ズーム)を得て、対応するPETスキャンに解剖学的な位置合わせと減弱補正とを適用した。
【0234】
VHH A-68Gaを注射した動物のイメージング画像は腫瘍部位における有意な蓄積を示し(
図16B、1.46%のID/g)、良好な腫瘍/筋肉比(4.0)を示した。このように、実験では、28日目においてVHH A-68Gaによる膠芽腫がんの明らかな選択的イメージング及び標識化を示し、これは、既知であるTfRの高発現レベルに一致する。
【0235】
【配列表】