(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ウエハ載置台
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20241206BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
(21)【出願番号】P 2022072510
(22)【出願日】2022-04-26
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 達也
(72)【発明者】
【氏名】井上 靖也
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-538278(JP,A)
【文献】特開2014-150104(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038044(WO,A1)
【文献】特開2014-060421(JP,A)
【文献】特開2020-145238(JP,A)
【文献】特開2019-041024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面にウエハ載置面を有し、電極を内蔵するアルミナ基材と、
前記アルミナ基材の下面に接合され、冷媒流路が形成された脆性の冷却基材と、
前記冷却基材の下面に開口する収納穴内に軸回転を規制された状態で且つ前記収納穴の係合部に係合した状態で収納され、雄ネジ部又は雌ネジ部を有する延性の結合部材と、
を備え、
前記収納穴は、前記冷媒流路内に設けられている、
ウエハ載置台。
【請求項2】
前記結合部材は、前記雌ネジ部を有し、前記冷却基材の下面側から差し込まれるボルトの雄ネジと螺合可能な部材である、
請求項1に記載のウエハ載置台。
【請求項3】
前記冷却基材は、金属マトリックス複合材料又はアルミナ材料で形成されている、
請求項1又は2に記載のウエハ載置台。
【請求項4】
前記係合部は、前記収納穴の内周面に設けられた段差部又は傾斜部であり、
前記結合部材は、前記係合部に係合して前記結合部材が前記収納穴から落下しないようにする被係合部を有する、
請求項1又は2に記載のウエハ載置台。
【請求項5】
前記結合部材は、軸回転しようとすると前記収納穴の壁に当たって軸回転を規制される、
請求項1又は2に記載のウエハ載置台。
【請求項6】
前記冷却基材は、単層構造である、
請求項1又は2に記載のウエハ載置台。
【請求項7】
前記冷媒流路は、前記冷却基材の上面又は下面に設けられた冷媒流路溝を有している、
請求項6に記載のウエハ載置台。
【請求項8】
前記冷媒流路は、それぞれ平面視で一端から他端まで一筆書きの要領で設けられた複数のラインを備え、
前記収納穴は、前記複数のラインのうちの1つ以上に設けられている、
請求項1又は2に記載のウエハ載置台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ載置台に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極を内蔵するセラミック基材と、内部に冷媒流路が形成された冷却基材とを、接着材を介して接合したウエハ載置台が知られている。特許文献1には、こうしたウエハ載置台を設置板の上に載せてネジで固定する例が記載されている。具体的には、冷却基材の下面には雌ネジ穴が設けられ、設置板を上下方向に貫通するネジ挿通孔に下方から差し込まれたボルトの雄ネジが雌ネジ穴に螺合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、冷却基材の下面に雌ネジ穴を設けて設置板に挿通されたボルトの雄ネジを螺合する場合、冷却基材の材料が延性材料(例えばアルミニウム)だと支障は生じないが、脆性材料(例えば金属マトリックス複合材料)だと支障が生じる。具体的には、冷却基材の雌ネジ穴はボルトによって下方へ大きな力で局所的に引っ張られるため、延性のない材料だと割れるおそれがある。また、ウエハに温度特異点が生じるのをできるだけ防止したいという要望もある。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、脆性な冷却基材を備えたウエハ載置台を設置板に支障なく締結でき、且つウエハに温度特異点が生じるのを防止することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明のウエハ載置台は、
上面にウエハ載置面を有し、電極を内蔵するアルミナ基材と、
前記アルミナ基材の下面に接合され、冷媒流路が形成された脆性の冷却基材と、
前記冷却基材の下面に開口する収納穴内に軸回転を規制された状態で且つ前記収納穴の係合部に係合した状態で収納され、雄ネジ部又は雌ネジ部を有する延性の結合部材と、
を備え、
前記収納穴は、前記冷媒流路内に設けられている、
ものである。
【0007】
このウエハ載置台では、雄ネジ部又は雌ネジ部を有する結合部材は、冷却基材の下面に開口する収納穴内に軸回転を規制された状態で且つ収納穴の係合部に係合した状態で収納されている。結合部材は軸回転が規制されているため、冷却基材の下面側に配置される雌ネジ部又は雄ネジ部を有する被結合部材に螺合することができる。また、結合部材は、収納穴の係合部に係合した状態で設置板に設けられた被結合部材によって設置板に向かって引っ張られたとしても、延性を有しているため割れにくい。したがって、脆性な冷却基材を備えたウエハ載置台を設置板に支障なく締結できる。更に、収納穴は冷媒流路内に設けられている。収納穴を避けて冷媒流路をレイアウトする場合には、ウエハのうち収納穴の直上付近は十分冷却されないため温度特異点になりやすいが、ここでは収納穴を冷媒流路内に設けるため、そうした温度特異点が生じるのを防止できる。
【0008】
なお、本明細書では、上下、左右、前後などを用いて本発明を説明することがあるが、上下、左右、前後は、相対的な位置関係に過ぎない。そのため、ウエハ載置台の向きを変えた場合には上下が左右になったり左右が上下になったりすることがあるが、そうした場合も本発明の技術的範囲に含まれる。また、「冷媒流路」は、冷却基材の内部に設けられた冷媒流路であってもよいし、冷却基材の上面又は下面に設けられた冷媒流路溝であってもよい。
【0009】
[2]本発明のウエハ載置台(前記[1]に記載のウエハ載置台)において、前記結合部材は、前記雌ネジ部を有し、前記冷却基材の下面側から差し込まれるボルトの雄ネジと螺合可能な部材であってもよい。
【0010】
[3]本発明のウエハ載置台(前記[1]又は[2]に記載のウエハ載置台)において、前記冷却基材は、金属とセラミックとの複合材料又はアルミナ材料で形成されていてもよい。金属とセラミックとの複合材料やアルミナ材料は脆性材料であるため、本発明を適用する意義が高い。例えば、金属とセラミックとの複合材料を用いる場合には、アルミナと同等の熱膨張係数を有する複合材料を用いることが好ましい。
【0011】
[4]本発明のウエハ載置台(前記[1]~[3]のいずれかに記載のウエハ載置台)において、前記係合部は、前記収納穴の内周面に設けられた段差部又は傾斜部であってもよく、前記結合部材は、前記係合部に係合して前記結合部材が前記収納穴から落下しないようにする被係合部を有していてもよい。こうすれば、係合部や被係合部を比較的簡単に作製することができる。例えば、係合部が段差部の場合、結合部材にはその段差部に引っかかる被係合部を設けてもよい。また、係合部が傾斜部の場合、結合部材にはその傾斜部に一致する傾斜面を被係合部として設けてもよい。
【0012】
[5]本発明のウエハ載置台(前記[1]~[4]のいずれかに記載のウエハ載置台)において、前記結合部材は、軸回転しようとすると前記収納穴の壁に当たって軸回転を規制されるものとしてもよい。こうすれば、比較的簡単な構成で結合部材の軸回転を規制することができる。
【0013】
[6]本発明のウエハ載置台(前記[1]~[5]のいずれかに記載のウエハ載置台)において、前記冷却基材は、単層構造であってもよい。こうすれば、冷却基材を貼り合わせて製造する必要がないため、冷却基材の製造コストを低減できる。
【0014】
[7]冷却基材が単層構造の本発明のウエハ載置台(前記[6]に記載のウエハ載置台)において、前記冷媒流路は、前記冷却基材の上面又は下面に設けられた冷媒流路溝を有していてもよい。例えば、冷却基材の上面に冷媒流路溝を有している場合、冷媒流路は冷媒流路溝の上面をアルミナ基材(又はアルミナ基材と冷却基材とを接合する接合層)で覆うことにより形成される。また、冷却基材の下面に冷媒流路溝を有している場合、冷媒流路は冷媒流路溝の下面を板部材(例えば設置板)で覆うことにより形成される。
【0015】
[8]本発明のウエハ載置台(前記[1]~[7]のいずれかに記載のウエハ載置台)において、前記冷媒流路は、それぞれ平面視で一端から他端まで一筆書きの要領で設けられた複数のラインを備えていてもよく、前記収納穴は、前記複数のラインのうちの1つ以上に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】チャンバ94に設置されたウエハ載置台10の縦断面図。
【
図3】収納穴36及び雌ネジ部材38の周辺を示す拡大断面図。
【
図4】収納穴36を水平に切断したときの断面を上からみた断面図。
【
図8】結合部材として雄ネジ部材80を採用した場合の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。
図1はチャンバ94に設置されたウエハ載置台10の縦断面図(ウエハ載置台10の中心軸を含む面で切断したときの断面図)、
図2はウエハ載置台10の平面図、
図3は収納穴36及び雌ネジ部材38の周辺を示す拡大面図、
図4は収納穴36を水平に切断したときの断面を上からみた断面図である。
【0018】
ウエハ載置台10は、ウエハWにプラズマを利用してCVDやエッチングなどを行うために用いられるものであり、半導体プロセス用のチャンバ94の内部に設けられた設置板96に固定されている。ウエハ載置台10は、アルミナ基材20と、冷却基材30と、金属接合層40とを備えている。
【0019】
アルミナ基材20は、円形のウエハ載置面22aを有する中央部22の外周に、環状のフォーカスリング載置面24aを有する外周部24を備えている。以下、フォーカスリングは「FR」と略すことがある。ウエハ載置面22aには、ウエハWが載置され、FR載置面24aには、フォーカスリング12が載置される。FR載置面24aは、ウエハ載置面22aに対して一段低くなっている。
【0020】
アルミナ基材20の中央部22は、ウエハ載置面22aに近い側に、ウエハ吸着用電極26を内蔵している。ウエハ吸着用電極26は、例えばW、Mo、WC、MoCなどを含有する材料によって形成されている。ウエハ吸着用電極26は、円板状又はメッシュ状の単極型の静電吸着用電極である。アルミナ基材20のうちウエハ吸着用電極26よりも上側の層は誘電体層として機能する。ウエハ吸着用電極26には、ウエハ吸着用直流電源52が給電端子54を介して接続されている。給電端子54は、冷却基材30及び金属接合層40を上下方向に貫通する貫通穴に配置された絶縁管55を通過して、アルミナ基材20の下面からウエハ吸着用電極26に至るように設けられている。ウエハ吸着用直流電源52とウエハ吸着用電極26との間には、ローパスフィルタ(LPF)53が設けられている。
【0021】
冷却基材30は、脆性な導電材料製の円板部材である。冷却基材30は、内部に冷媒が循環可能な冷媒流路32を備えている。冷媒流路32は、
図2に示すように、平面視で一端(入口)から他端(出口)まで一筆書きの要領でアルミナ基材20の全面にわたるように設けられている。冷媒流路32の一端及び他端は、それぞれ設置板96に設けられた図示しない冷媒供給路及び冷媒排出路に接続されており、冷媒排出路から排出された冷媒は温度調整されたあと再び冷媒供給路に戻される。冷媒流路32を流れる冷媒は、液体が好ましく、電気絶縁性であることが好ましい。電気絶縁性の液体としては、例えばフッ素系不活性液体などが挙げられる。脆性な導電材料としては、金属とセラミックとの複合材料などが挙げられる。金属とセラミックとの複合材料としては、金属マトリックス複合材料(MMC)やセラミックマトリックス複合材料(CMC)などが挙げられる。こうした複合材料の具体例としては、Si,SiC及びTiを含む材料、SiC多孔質体にAl及び/又はSiを含浸させた材料、Al
2O
3とTiCとの複合材料などが挙げられる。Si,SiC及びTiを含む材料をSiSiCTiといい、SiC多孔質体にAlを含浸させた材料をAlSiCといい、SiC多孔質体にSiを含浸させた材料をSiSiCという。冷却基材30に用いる導電材料としては熱膨張係数がアルミナに近いAlSiCやSiSiCTiなどが好ましい。冷却基材30は、RF電源62に給電端子64を介して接続されている。冷却基材30とRF電源62との間には、ハイパスフィルタ(HPF)63が配置されている。冷却基材30は、下面側にウエハ載置台10を設置板96にクランプするのに用いられるフランジ部34を有する。
【0022】
冷却基材30には、複数の収納穴36が設けられ、収納穴36には、雌ネジ部材38(結合部材)が収納されている。複数の収納穴36は、冷却基材30の同心円(例えばウエハWの直径の1/2とか1/3の円)にほぼ沿うように概ね等間隔に複数(例えば6個とか8個)設けられている。つまり、複数の収納穴36は、
図2に示すように、ウエハ載置台10の中心に近い領域に設けられている。収納穴36は、
図3に示すように、上下方向に延びる挿通路37を介して冷却基材30の下面に開口している。収納穴36は、冷媒流路32の内部に設けられた直方体状の空間である。収納穴36と挿通路37との繋ぎ目の部分は、段差部36aとなっている。段差部36aは、収納穴36の水平な底面である。収納穴36には、雌ネジ部材38が収納されている。雌ネジ部材38は、平面視が長方形状のナットであり、中央に雌ネジであるネジ穴38aを有する。雌ネジ部材38は、雌ネジ部材38の下面が収納穴36の段差部36aに係合(当接)しているため、収納穴36から落下することはない。雌ネジ部材38が軸回転しようとすると、
図4に示すように、雌ネジ部材38が収納穴36の側壁に当たって軸回転が規制されるようになっている。雌ネジ部材38は、延性材料(例えばTi,Mo,Wなど)で形成されている。
【0023】
金属接合層40は、アルミナ基材20の下面と冷却基材30の上面とを接合する。金属接合層40は、例えば、はんだや金属ロウ材で形成された層であってもよい。金属接合層40は、例えばTCB(Thermal compression bonding)により形成される。TCBとは、接合対象の2つの部材の間に金属接合材を挟み込み、金属接合材の固相線温度以下の温度に加熱した状態で2つの部材を加圧接合する公知の方法をいう。
【0024】
アルミナ基材20の外周部24の側面、金属接合層40の外周及び冷却基材30の側面は、絶縁膜42で被覆されている。絶縁膜42としては、例えばアルミナやイットリアなどの溶射膜が挙げられる。
【0025】
こうしたウエハ載置台10は、チャンバ94の内部に設けられた設置板96の上にシールリング76,77を介して取り付けられる。シールリング76,77は、金属製又は樹脂製である。シールリング76は、冷却基材30の外縁のやや内側に配置されている。シールリング77は、ボルト98の足部の周囲を取り囲むように配置され、冷媒がシールリング77の外側に漏れ出るのを防止する。
【0026】
ウエハ載置台10の外周領域は、クランプ部材70を用いて設置板96に取り付けられる。クランプ部材70は、断面が略逆L字状の環状部材であり、内周段差面70aを有する。ウエハ載置台10の冷却基材30のフランジ部34に、クランプ部材70の内周段差面70aを載置した状態で、クランプ部材70の上面からボルト72が差し込まれて設置板96の上面に設けられたネジ穴に螺合されている。ボルト72は、クランプ部材70の円周方向に沿って等間隔に設けられた複数箇所(例えば8箇所とか12箇所)に取り付けられる。クランプ部材70やボルト72は、絶縁材料で作製されていてもよいし、導電材料(金属など)で作製されていてもよい。また、ウエハ載置台10の中央領域は、ボルト98(被結合部材)を用いて設置板96に取り付けられる。
図3に示すように、ボルト98の足部には、雄ネジ98aが設けられている。ボルト98は、設置板96のうち収納穴36に対向する位置に設けられた貫通穴97に設置板96の下面から挿通され、雄ネジ98aが収納穴36内の雌ネジ部材38のネジ穴38aに螺合される。貫通穴97は、上部が小径、下部が大径となっており、上部と下部との間に段差部97aを有する。ボルト98の頭部は、シールリング78を介して貫通穴97の段差部97aに引っ掛かる。シールリング78は、金属製または樹脂製であり、収納穴36の冷媒が挿通路37を通って外側に漏れ出るのを防止する。雌ネジ部材38は収納穴36内に軸回転を規制された状態で収納されているため、ボルト98を雌ネジ部材38に螺合することができる。ボルト98を雌ネジ部材38に螺合すると、雌ネジ部材38は収納穴36の段差部36aに係合した状態で設置板96に向かって引っ張られた状態になる。
【0027】
ウエハ載置台10の使用時にはアルミナ基材20のウエハ載置面22a側が真空、冷却基材30の下面側が大気になるため、ウエハ載置台10が上に向かって凸になりやすい。また、ハイパワープラズマでウエハWを処理する場合、アルミナ基材20のウエハ載置面22a側が高温、下面側が冷却されて低温になるため、ウエハ載置面22a側の方が延びやすく、ウエハ載置台10が上に向かって凸になりやすい。しかしながら、本実施形態では、ウエハ載置台10の中央領域がボルト98によって固定されているため、ウエハ載置台10が上に向かって凸になるのを防止することができる。また、冷却基材30の下面の中央領域と設置板96の上面との間にはシールリング76,77が配置されているが、ウエハ載置台10の中央領域がボルト98によって固定されているため、シールリング76,78はしっかりと押し潰された状態で維持される。冷媒流路32の一端と他端は、図示しないが、それぞれ設置板96に設けられた冷媒供給路と冷媒排出路に、冷却基材30と設置板96との間に配置されたシールリングを介して接続されている。これらのシールリングは、冷媒が外側に漏れ出すのを防止する。これらのシールリングもしっかりと押し潰された状態で維持される。
【0028】
次に、ウエハ載置台10の製造例を
図5を用いて説明する。
図5はウエハ載置台10の製造工程図である。まず、アルミナ基材20の元となる円板状のアルミナ焼結体120を、アルミナ粉末の成形体をホットプレス焼成することにより作製する(
図5A)。アルミナ焼結体120は、ウエハ吸着用電極26を内蔵している。次に、アルミナ焼結体120の下面からウエハ吸着用電極26まで穴27をあけ(
図5B)、その穴27に給電端子54を挿入して給電端子54とウエハ吸着用電極26とを接合する(
図5C)。
【0029】
これと並行して、2つの円板部材131,133を作製する(
図5D)。そして、上側の円板部材131の下面に最終的に冷媒流路32となる溝132を形成する。溝132の一部には最終的に収納穴36となる溝136を形成する。また、下側の円板部材133に最終的に挿通路37となる貫通穴137を形成する。更に、2つの円板部材131,133に上下方向に貫通する貫通穴154a,154bを形成する(
図5E)。これらの貫通穴154a,154bは最終的に給電端子54を挿通する穴になる。円板部材131,133はSiSiCTi製かAlSiC製であることが好ましい。アルミナの熱膨張係数とSiSiCTiやAlSiCの熱膨張係数とは、概ね同じだからである。
【0030】
SiSiCTi製の円板部材は、例えば以下のように作製することができる。まず、炭化珪素と金属Siと金属Tiとを混合して粉体混合物を作製する。次に、得られた粉体混合物を一軸加圧成形により円板状の成形体を作製し、その成形体を不活性雰囲気下でホットプレス焼結させることにより、SiSiCTi製の円板部材を得る。
【0031】
次に、下側の円板部材133の上面に第1金属接合材を配置する。第1金属接合材のうち貫通穴137や貫通穴154bに対向する位置には、上下方向に貫通する穴を設けておく。次に、第1金属接合材のうち貫通穴137に対向する穴の上に雌ネジ部材38を配置し、第1金属接合材の上に上側の円板部材131を配置する。このとき、円板部材131の溝136内に雌ネジ部材38が収納されるようにする。次に、円板部材131の上面に第2金属接合材を配置する。第2金属接合材のうち貫通穴154aに対向する位置に上下方向に貫通する穴を設けておく。次に、アルミナ焼結体120の給電端子54を円板部材131,133の貫通穴154a,154bに挿入しつつ、アルミナ焼結体120を第2金属接合材の上に載せる。これにより、下から順に、円板部材133、第1金属接合材、円板部材131、第2金属接合材及びアルミナ焼結体120が積層した積層体を得る。この積層体を加熱しながら加圧することにより(TCB)、接合体110を得る(
図5F)。
【0032】
接合体110は、冷却基材30の元となる円形ブロック130の上面に、金属接合層40を介してアルミナ焼結体120が接合されたものである。円形ブロック130は、上側の円板部材131と下側の円板部材133とが金属接合層を介して接合された積層構造体である。円形ブロック130は、内部に冷媒流路32と収納穴36を有している。また、収納穴36には雌ネジ部材38が収納されている。
【0033】
TCBは、例えば以下のように行われる。すなわち、金属接合材の固相線温度以下(例えば、固相線温度から20℃引いた温度以上固相線温度以下)の温度で積層体を加圧して接合し、その後室温に戻す。これにより、金属接合材は金属接合層になる。このときの金属接合材としては、Al-Mg系接合材やAl-Si-Mg系接合材を使用することができる。例えば、Al-Si-Mg系接合材を用いてTCBを行う場合、真空雰囲気下で加熱した状態で積層体を加圧する。金属接合材は、厚みが100μm前後のものを用いるのが好ましい。
【0034】
続いて、アルミナ焼結体120の外周を研削して段差を形成することにより、中央部22と外周部24とを備えたアルミナ基材20とする。また、円形ブロック130の外周を研削して段差を形成することにより、フランジ部34を備えた冷却基材30とする。また、円形ブロック130及び金属接合層40に設けられた給電端子54の挿入穴に、絶縁管55を配置する。更に、アルミナ基材20の外周部24の側面、金属接合層40の周囲及び冷却基材30の側面を、アルミナ粉末を用いて溶射することにより絶縁膜42を形成する(
図5G)。これにより、ウエハ載置台10を得る。
【0035】
次に、ウエハ載置台10の使用例について
図1を用いて説明する。チャンバ94の設置板96には、上述したようにウエハ載置台10の外周領域がクランプ部材70によって固定されると共に、ウエハ載置台10の中央領域がボルト98によって固定されている。チャンバ94の天井面には、プロセスガスを多数のガス噴射孔からチャンバ94の内部へ放出するシャワーヘッド95が配置されている。設置板96は、例えばアルミナなどの絶縁材料で形成されている。
【0036】
ウエハ載置台10のFR載置面24aには、フォーカスリング12が載置され、ウエハ載置面22aには、円盤状のウエハWが載置される。フォーカスリング12は、ウエハWと干渉しないように上端部の内周に沿って段差を備えている。この状態で、ウエハ吸着用電極26にウエハ吸着用直流電源52の直流電圧を印加してウエハWをウエハ載置面22aに吸着させる。そして、チャンバ94の内部を所定の真空雰囲気(又は減圧雰囲気)になるように設定し、シャワーヘッド95からプロセスガスを供給しながら、冷却基材30にRF電源62からのRF電圧を印加する。すると、ウエハWとシャワーヘッド95との間でプラズマが発生する。そして、そのプラズマを利用してウエハWにCVD成膜を施したりエッチングを施したりする。なお、ウエハWがプラズマ処理されるのに伴ってフォーカスリング12も消耗するが、フォーカスリング12はウエハWに比べて厚いため、フォーカスリング12の交換は複数枚のウエハWを処理したあとに行われる。
【0037】
ハイパワープラズマでウエハWを処理する場合には、ウエハWを効率的に冷却する必要がある。ウエハ載置台10では、アルミナ基材20と冷却基材30との接合層として、熱伝導率の低い樹脂層ではなく、熱伝導率の高い金属接合層40を用いている。そのため、ウエハWから熱を引く能力(抜熱能力)が高い。また、アルミナ基材20と冷却基材30との熱膨張差は小さいため、金属接合層40の応力緩和性が低くても、支障が生じにくい。
【0038】
以上説明したウエハ載置台10では、雌ネジ部材38は、冷却基材30の下面に開口する収納穴36内に軸回転を規制された状態で且つ収納穴36から落下しないように収納穴36の段差部36a(係合部)に係合した状態で収納されている。雌ネジ部材38は軸回転が規制されているため、冷却基材30の下面側から差し込まれるボルト98の雄ネジ98aを雌ネジ部材38に螺合することができる。また、雌ネジ部材38は、収納穴36の段差部36aに係合した状態で設置板96に挿通されたボルト98によって設置板96に向かって引っ張られたとしても、延性を有しているため割れにくい。したがって、脆性な冷却基材30を備えたウエハ載置台10を設置板96に支障なく締結することができる。
【0039】
また、収納穴36は冷媒流路32内に設けられている。収納穴36を避けて冷媒流路32をレイアウトする場合には、ウエハWのうち収納穴36の直上付近は十分冷却されないため温度特異点になりやすいが、ここでは収納穴36を冷媒流路32内に設けているため、そうした温度特異点が生じるのを防止できる。
【0040】
また、冷却基材30は、脆性な導電材料で形成されているため、本発明を適用する意義が高い。
【0041】
更に、収納穴36は係合部として段差部36aを備え、雌ネジ部材38は被係合部として底面を備えている。そのため、係合部や被係合部を比較的簡単に作製することができる。
【0042】
更にまた、雌ネジ部材38は、軸回転しようとすると収納穴36の側壁に当たって軸回転を規制される。そのため、比較的簡単な構成で雌ネジ部材38の軸回転を規制することができる。
【0043】
そして、雌ネジ部材38は、収納穴36で冷却基材30と接合されておらずフリーな状態で収納されている。ウエハ載置台10を製造する際、雌ネジ部材38を収納穴36に入れるだけでよいため、手間がかからない。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0045】
上述した実施形態では、冷却基材30は、
図5に示すように2枚の円板部材131,133を接合した積層構造としたが、特にこれに限定されない。例えば、
図6に示すウエハ載置台210のように、単層構造の冷却基材230を採用してもよい。
図6では上述した実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付した。冷却基材230は、上面に開口する冷媒流路溝282を有する。冷媒流路232は、冷媒流路溝282の上部開口が金属接合層40で覆われることにより形成される。冷媒流路232(冷媒流路溝282)の内部には、収納穴236が設けられている。収納穴236は天井面が金属接合層40によって形成されている以外は収納穴36と同様である。ウエハ載置台210を製造するにあたっては、1枚の円板部材に、冷媒流路溝282や挿通路37、給電端子54を通す穴などを形成し、その後、金属接合材を用いてアルミナ基材20とTCBにより接合すればよい。冷却基材230は単層構造であるため、積層構造に比べて冷却基材230の製造コスト(材料費や製造コスト)を低減できる。
【0046】
あるいは、
図7に示すウエハ載置台310のように、単層構造の冷却基材330を採用してもよい。
図7では上述した実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付した。冷却基材330は、下面に開口する冷媒流路溝382を有する。冷媒流路332は、冷媒流路溝382の下部開口が設置板96で覆われることにより形成されている。冷却基材330と設置板96との間には、シールリング74~77が配置されている。シールリング74は、給電端子54の周囲を取り囲むように配置され、冷媒がシールリング74の内側に入り込むのを防止する。シールリング75は、給電端子64の周囲を取り囲むように配置され、冷媒がシールリング75の内側に入り込むのを防止する。シールリング76,77については既に説明済みである。冷媒流路332(冷媒流路溝382)の内部には、収納穴336が設けられている。冷媒流路溝382のうち収納穴336が設けられている部分は、下部が閉鎖され上部が開いている。収納穴336は、天井面が金属接合層40によって形成されている以外は収納穴36と同様である。ウエハ載置台310を製造するにあたっては、1枚の円板部材に、冷媒流路溝382や挿通路37、給電端子54を通す穴などを形成し、その後、金属接合材を用いてアルミナ基材20とTCBにより接合すればよい。冷却基材330は単層構造であるため、積層構造に比べて冷却基材330の製造コスト(材料費や製造コスト)を低減できる。なお、冷却基材330の下面と設置板96の上面との間には、隣合う冷媒流路溝382同士を仕切るシール部材を配置してもよい。
【0047】
上述した実施形態では、結合部材として雌ネジ部材38を採用し、被結合部材としてボルト98を採用したが、
図8に示すように、結合部材として雄ネジ部材80を採用し、被結合部材としてナット82を採用してもよい。
図8では、上述した実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付した。雄ネジ部材80は、延性材料で形成されている。雄ネジ部材80の頭部は、雌ネジ部材38と同じ形状である。雄ネジ部材80の足部は、挿通路37及び貫通穴97に挿通され、雄ネジ部材80の足部の先端に設けられたネジ溝がナット82のネジ穴に螺合されている。ナット82は、シールリング78を介して貫通穴97の段差部97aに引っ掛かるようになっている。雄ネジ部材80は、下面が収納穴36の段差部36aに係合しているため、収納穴36から落下することはない。雄ネジ部材80が軸回転しようとすると、頭部が収納穴36の側壁に当たって軸回転が規制される。そのため、雄ネジ部材80の足部に設けられたネジ溝にナット82を螺合することができる。ナット82を雄ネジ部材80のネジ溝に螺合すると、雄ネジ部材80は頭部が収納穴36の段差部36aに係合した状態で設置板96に向かって引っ張られた状態になる。
図8の構成を採用した場合も、上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0048】
上述した実施形態では、冷却基材30に設けた冷媒流路32は1ライン(1系統)としたが、特にこれに限定されない。例えば、冷媒流路32を2ライン以上とし、1つのラインの内部に収納穴36を設け、それ以外のラインには収納穴36を設けないようにしてもよい。
図9にその一例を示す。
図9はウエハ載置台10の別例の平面図であり、上述した実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付した。冷媒流路432は、第1ライン432aと第2ライン432bとを有している。第1ライン432aと第2ライン432bは、互いに交差することなく、それぞれ平面視で一筆書きの要領で一端(入口)から他端(出口)まで設けられている。なお、一端(入口)と他端(出口)は、平面視で異なる位置に設けられている。第1ライン432aと第2ライン432bには、個別に冷媒の給排が行われる。第2ライン432bの内部には収納穴36が設けられているが、第1ライン432aには収納穴36は設けられていない。
図9の構成を採用した場合も、上述した実施形態と同様の効果が得られる。なお、複数の収納穴36の一部を第1ライン432aに設け、残りを第2ライン432bに設けてもよい。あるいは、収納穴36ごとにラインを設け、ラインごとに個別に冷媒の給排を行ってもよい。
【0049】
上述した実施形態において、雌ネジ部材38は、雌ネジ部材38よりもヤング率の低い応力緩衝部材を介して収納穴36の段差部36aに係合していてもよい。例えば、雌ネジ部材38をTi合金とし、応力緩衝部材を純Alとしてもよい。こうすれば、雌ネジ部材38が設置板96に設けられたボルト98によって設置板96に向かって引っ張られたとしても、雌ネジ部材38と段差部36aとの間に応力緩衝部材が介在しているため、応力が分散しやすい。応力緩衝部材は、例えば中央にボルト98の足部を挿通する穴を有するリングとすることができる。
【0050】
上述した実施形態では、雌ネジ部材38の形状を平面視で長方形としたが、特にこれに限定されない。例えば、雌ネジ部材38の形状を平面視で三角形や五角形などの多角形としてもよいし、プラス(+)形状としてもよいし、楕円形としてもよい。収納穴36の形状は、雌ネジ部材38が軸回転しようしたときに雌ネジ部材38が側壁に当たる形状とすればよい。
【0051】
上述した実施形態において、冷却基材30の下面からウエハ載置面22aに至るようにウエハ載置台10を貫通する穴を設けてもよい。こうした穴としては、ウエハWの裏面に熱伝導ガス(例えばHeガス)を供給するためのガス供給穴や、ウエハ載置面22aに対してウエハWを上下させるリフトピンを挿通するためのリフトピン穴などが挙げられる。熱伝導ガスは、ウエハ載置面22aに設けれられた図示しない多数の小突起(ウエハWを支持する)とウエハWとによって形成される空間に供給される。リフトピン穴は、ウエハWを例えば3本のリフトピンで支持する場合には3箇所に設けられる。冷却基材30の下面と設置板96の上面との間には、こうした穴に対向する位置に樹脂製又は金属製のシールリング(例えばOリング)を配置してもよい。ウエハ載置台10の中央領域がボルト98によって固定されているため、これらのシールリングはしっかりと押し潰された状態で維持される。したがって、これらのシールリングはシール性を十分に確保することができる。
【0052】
上述した実施形態では、冷却基材30を脆性な導電材料で作製したが、冷却基材30を他の脆性材料(例えばアルミナ材料)で作製してもよい。
【0053】
上述した実施形態では、アルミナ基材20の中央部22にウエハ吸着用電極26を内蔵したが、これに代えて又は加えて、プラズマ発生用のRF電極を内蔵してもよいし、ヒータ電極(抵抗発熱体)を内蔵してもよい。また、アルミナ基材20の外周部24にフォーカスリング(FR)吸着用電極を内蔵してもよいし、RF電極やヒータ電極を内蔵してもよい。
【0054】
上述した実施形態では、
図5Aのアルミナ焼結体120はアルミナ粉末の成形体をホットプレス焼成することにより作製したが、そのときの成形体は、テープ成形体を複数枚積層して作製してもよいし、モールドキャスト法によって作製してもよいし、アルミナ粉末を押し固めることによって作製してもよい。
【0055】
上述した実施形態では、アルミナ基材20と冷却基材30とを金属接合層40で接合したが、金属接合層40の代わりに樹脂接合層を用いてもよい。
【0056】
上述した実施形態では、収納穴36の段差部36a(収納穴36の水平な底面)を係合部として用いたが、段差部36aの代わりに、傾斜部(挿通路37に向かって下り傾斜となる面)を係合部として用いてよい。その場合、雌ネジ部材38の底面はこの傾斜部と一致する傾斜面とすればよい。
【符号の説明】
【0057】
10 ウエハ載置台、12 フォーカスリング、20 アルミナ基材、22 中央部、22a ウエハ載置面、24 外周部、24a フォーカスリング載置面、26 ウエハ吸着用電極、27 穴、30 冷却基材、32 冷媒流路、34 フランジ部、36 収納穴、36a 段差部、37 挿通路、38 雌ネジ部材、38a ネジ穴、40 金属接合層、42 絶縁膜、52 ウエハ吸着用直流電源、53 ローパスフィルタ、54 給電端子、55 絶縁管、62 RF電源、63 ハイパスフィルタ、64 給電端子、70 クランプ部材、70a 内周段差面、72 ボルト、76~78 シールリング、80 雄ネジ部材、82 ナット、94 チャンバ、95 シャワーヘッド、96 設置板、97 貫通穴、97a 段差部、98 ボルト、98a 雄ネジ、110 接合体、120 アルミナ焼結体、130 円形ブロック、131,133 円板部材、132,136 溝、137,154a,154b 貫通穴、210 ウエハ載置台、230 冷却基材、232 冷媒流路、236 収納穴、282 冷媒流路溝、310 ウエハ載置台、330 冷却基材、332 冷媒流路、336 収納穴、382 冷媒流路溝、432 冷媒流路、432a,432b ライン。