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特許7599459ガソリン代替燃料の製造方法およびガソリン代替燃料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ガソリン代替燃料の製造方法およびガソリン代替燃料
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/182 20060101AFI20241206BHJP
   C10L 1/06 20060101ALI20241206BHJP
   C10L 10/10 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
C10L1/182
C10L1/06
C10L10/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022158404
(22)【出願日】2022-09-30
(65)【公開番号】P2024051986
(43)【公開日】2024-04-11
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】葛岡 浩平
(72)【発明者】
【氏名】中津 雅之
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-509324(JP,A)
【文献】特開2007-270091(JP,A)
【文献】国際公開第2022/034184(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106833730(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104910957(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102199446(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0013591(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/182
C10L 1/06
C10L 10/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能電力を用いたフィッシャー・トロプシュ合成により得られたFT軽質ナフサと、バイオマスから得られたバイオアルコールと、を混合してガソリン代替燃料を製造するガソリン代替燃料の製造方法であって、
前記FT軽質ナフサのオクタン価と、前記バイオアルコールのブレンディングオクタン価と、予め定められた目標オクタン価と、に基づいて、前記FT軽質ナフサに対する前記バイオアルコールの混合割合を決定し、
決定された前記バイオアルコールの混合割合と、前記FT軽質ナフサのオレフィン含有割合と、に基づいて、前記ガソリン代替燃料のオレフィン含有割合が10vol%以下となるように、前記FT軽質ナフサに含まれるオレフィンをパラフィンに水素化するときの水素化割合を決定し、
決定された前記水素化割合に応じて前記FT軽質ナフサを水素化し、
決定された前記バイオアルコールの混合割合に応じて、水素化された前記FT軽質ナフサに前記バイオアルコールを混合することを含むことを特徴とするガソリン代替燃料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガソリン代替燃料の製造方法において、
水素化された前記FT軽質ナフサに含まれるノルマルパラフィンをイソパラフィンに異性化することをさらに含むことを特徴とするガソリン代替燃料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガソリン代替燃料の製造方法において、
前記バイオアルコールは、バイオエタノール、バイオプロパノール、およびバイオブタノールのいずれかであることを特徴とするガソリン代替燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能エネルギーを用いたガソリン代替燃料の製造方法およびガソリン代替燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガソリン代替燃料としての燃料組成物が知られている(例えば特許文献1参照)。上記特許文献1記載の燃料組成物は、リサーチ法オクタン価が89.0以上であり、天然ガスや石油液化ガス等から得られたFT合成基材A(50≧A>0)容量%と、炭素数4~8のエーテル類B(25≧B≧0)容量%と、炭素数2~4のアルコール類C(15≧C≧0)容量%とを含有する(B+C>0,A≧B+C)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-270091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の燃料組成物では、原料として化石燃料が用いられるため、最終的に製造される燃料の単位エネルギーあたりの炭素排出量(炭素強度)を抑制することが難しい。気候変動の緩和または影響軽減に寄与する観点では、炭素強度の高い化石燃料の消費量を抑制することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、再生可能電力を用いたフィッシャー・トロプシュ合成により得られたFT軽質ナフサと、バイオマスから得られたバイオアルコールと、を混合してガソリン代替燃料を製造するガソリン代替燃料の製造方法であ
【0006】
ガソリン代替燃料の製造方法は、FT軽質ナフサのオクタン価と、バイオアルコールのブレンディングオクタン価と、予め定められた目標オクタン価と、に基づいて、FT軽質ナフサに対するバイオアルコールの混合割合を決定し、決定されたバイオアルコールの混合割合と、FT軽質ナフサのオレフィン含有割合と、に基づいて、ガソリン代替燃料のオレフィン含有割合が10vol%以下となるように、FT軽質ナフサに含まれるオレフィンをパラフィンに水素化するときの水素化割合を決定し、決定された水素化割合に応じてFT軽質ナフサを水素化し、決定されたバイオアルコールの混合割合に応じて、水素化されたFT軽質ナフサにバイオアルコールを混合することを含む
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炭素強度の低いガソリン代替燃料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】再生可能エネルギーを利用して製造される再生可能燃料について説明するための図。
図2】オクタン価向上剤について説明するための図。
図3】燃料の炭素強度について説明するための図。
図4】基材の組成によるオクタン価向上効果の違いについて説明するための図。
図5】燃料組成による炭素強度の違いについて説明するための図。
図6】基材のオレフィン含有割合とオクタン価向上率との関係について説明するための図。
図7】アルコールのブレンディングオクタン価について説明するための図。
図8】ガソリン代替燃料を得るために必要となるアルコールの混合割合について説明するための図。
図9】本発明の実施形態に係るガソリン代替燃料の組成について説明するための図。
図10】本発明の実施形態に係るガソリン代替燃料の製造方法を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1図10を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係るガソリン代替燃料の製造方法では、再生可能電力を用いたフィッシャー・トロプシュ合成により得られたオクタン価の低いFT軽質ナフサを改質することで、炭素強度が低く、オクタン価がガソリン相当となるガソリン代替燃料を製造する。特に、FT軽質ナフサを基材とし、オクタン価向上剤としてバイオアルコールを混合することで、炭素強度が極めて低いガソリン代替燃料を製造する。
【0010】
地球の平均気温は、大気中の温室効果ガスにより、生物に適した温暖な状態に保たれている。具体的には、太陽光で暖められた地表面から宇宙空間へと放射される熱の一部を温室効果ガスが吸収し、地表面へと再放射することで、大気が温暖な状態に保たれている。このような大気中の温室効果ガスの濃度が増加すると、地球の平均気温が上昇する(地球温暖化)。
【0011】
温室効果ガスの中でも地球温暖化への寄与が大きい二酸化炭素の大気中における濃度は、植物や化石燃料として地上や地中に固定された炭素と、二酸化炭素として大気中に存在する炭素とのバランスによって決定される。例えば、植物の生育過程での光合成により大気中の二酸化炭素が吸収されると大気中の二酸化炭素濃度が減少し、化石燃料の燃焼により二酸化炭素が大気中に放出されると大気中の二酸化炭素濃度が増加する。地球温暖化を抑制するには、化石燃料を太陽光、風力、水力、地熱、あるいはバイオマス等の再生可能エネルギーで代替し、炭素排出量を低減することが必要となる。
【0012】
図1は、このような再生可能エネルギーを利用して製造される再生可能燃料(e-fuel)について説明するための図である。図1に示すように、太陽光発電や風力発電、水力発電、地熱発電等により再生可能電力が生成され、再生可能電力により水の電気分解が行われて再生可能水素が生成される。さらに、再生可能水素と、工場排ガス等から回収された二酸化炭素とを利用し、FT(フィッシャー・トロプシュ)合成によりe-fuelとしてのFT粗油が生成される。
【0013】
FT粗油には、重合反応であるFT合成プロセスの原理上、多様な成分が含まれる。このようなFT粗油は、沸点範囲に応じて分留し、e-fuelとしてのFTディーゼル、ジェット燃料、およびFT軽質ナフサに分離することができる。このうち、FTディーゼルはディーゼルエンジン用の燃料として、ジェット燃料はジェットエンジン用の燃料として、そのまま利用することができる。
【0014】
FT軽質ナフサには、主成分として炭素数が6~10程度の鎖状飽和炭化水素(ノルマルパラフィン)が含まれる。また、FT合成プロセスに用いられる触媒や反応温度、反応時間等に応じた含有割合で、副成分として不飽和炭化水素(オレフィン)や芳香族炭化水素(アロマ)等が含まれる。このようなFT軽質ナフサは、蒸気圧特性(気化特性)がガソリン規格に適合するため、ガソリン代替燃料の基材として好適である。しかしながら、FT軽質ナフサは、オクタン価(リサーチ法オクタン価)が60~70程度とガソリン規格(90程度)より低く、そのままガソリンエンジン用の燃料として利用すると、ノッキングが発生し、エンジンの燃焼性能を損なうおそれがある。
【0015】
図2は、オクタン価向上剤について説明するための図であり、オクタン価65のFT軽質ナフサ(基材)に各種のオクタン価向上剤を混合して得られた燃料のオクタン価の測定結果の一例を示す。図2に示すように、オクタン価向上剤としてエタノールを利用する場合、他のオクタン価向上剤(図2ではジイソブチレン、シクロペンタン、トルエン)よりも少ない混合割合で所望のオクタン価(例えば90程度)を達成することができる。また、エタノールは、混合割合が少ない領域でのオクタン価向上率(いわゆるブレンディングオクタン価)が高い。エタノールのほか、プロパノールやブタノール等のアルコールでも同様の傾向が見られる。
【0016】
図3は、燃料の炭素強度について説明するための図であり、各種の燃料を車載燃料として利用した場合の炭素強度の一例を示す。図3に示すように、e-fuelであるFT軽質ナフサの炭素強度は1g/mileであり、化石燃料由来のガソリンの炭素強度である220g/mileよりも極めて低い。また、バイオアルコール、例えばバイオエタノールの炭素強度は、73~161g/mileであり、化石燃料由来のガソリンの炭素強度よりは低いものの、e-fuelであるFT軽質ナフサの炭素強度よりは高い。
【0017】
バイオエタノール等のバイオアルコールをガソリンに混合したバイオアルコール混合燃料は、車載燃料として世界的に普及している。特に、バイオエタノール混合燃料は普及率が高く、したがって可用性が高い。そこで、本実施形態では、e-fuelであるFT軽質ナフサを基材としてバイオアルコールを混合し、改質することで、オクタン価がガソリン相当であり、かつ、炭素強度が極めて低いガソリン代替燃料を製造する、ガソリン代替燃料の製造方法について説明する。
【0018】
図4は、基材の組成によるオクタン価向上効果の違いについて説明するための図であり、一例として、オクタン価90を達成するために必要なエタノールの混合割合(化学反応解析による計算結果)を示す。図4に示すように、オクタン価90を達成するために必要なエタノールの混合割合は、基材の組成にかかわらず、基材のオクタン価が低いほど高くなる。また、副成分としてアロマを含む基材は、主成分であるパラフィンのみの基材よりも、オクタン価90を達成するために必要なエタノールの混合割合が高くなる。さらに、副成分としてオレフィンを含む基材は、副成分としてアロマを含む基材よりも、オクタン価90を達成するために必要なエタノールの混合割合が高くなる。プロパノールやブタノールでも同様の傾向が見られる。これは、オレフィンやアロマがエタノール等のアルコールによるオクタン価向上効果を阻害するためである。
【0019】
図5は、燃料組成による炭素強度の違いについて説明するための図であり、一例として、オクタン価90の燃料の炭素強度を示す。図2および図5に示すように、化石燃料由来のガソリンの炭素強度は、220g/mileである。一方、パラフィン85vol%、オレフィン15vol%含むオクタン価60のe-fuel基材69vol%と、バイオエタノール(コーン由来)31vol%とを混合した燃料の炭素強度は、50.6g/mileとなる。さらに、パラフィンのみを含むオクタン価60のe-fuel基材79vol%と、バイオエタノール(コーン由来)21vol%とを混合した燃料の炭素強度は、34.6g/mileとなる。
【0020】
このように、エタノール等のアルコールによるオクタン価向上効果を阻害するオレフィンの、基材における含有割合を低減することで、オクタン価90を達成するために必要なアルコールの混合割合を低減し、得られる燃料の炭素強度を低減することができる。図5の例では、基材のオレフィン含有割合を15vol%から0vol%に低減することで、得られる燃料の炭素強度が50.6g/mileから34.6g/mileまで、約32%低減されている。
【0021】
オレフィンは、水素化(分解反応)によりパラフィン(ノルマルパラフィン)に変換することができる。オレフィンからパラフィンへの水素化は、シリカ・アルミナ等の酸性担体にタングステン、鉄、ニッケル等の活性金属を担持した触媒の存在下、高温(200~430℃程度)、高圧(70~210kg/cm2程度)、水素気流中で進行する。この反応は、固定床式の反応器で行われてもよく、流動床式の反応器で行われてもよい。オレフィンからパラフィンへの水素化には、再生可能電力による水の電気分解で得られた再生可能水素(図1)を用いることができるが、追加的なエネルギー投入が必要となる。
【0022】
図6は、基材のオレフィン含有割合とオクタン価向上率との関係について説明するための図であり、一例として、オレフィン含有割合の異なる基材にエタノール1vol%を混合したときのオクタン価向上率(化学反応解析による計算結果)を示す。より具体的には、オレフィン含有割合0vol%の基材にエタノールを混合したときのオクタン価向上率((エタノール混合後のオクタン価)/(基材のオクタン価))を“1”として、基材のオレフィン含有割合を変えたときの相対的なオクタン価向上率を示す。
【0023】
図6に示すように、基材のオレフィン含有割合が高まるほど、エタノールの混合によるオクタン価向上率が低下するとともに、オクタン価向上率の低下割合が大きくなる。オクタン価向上率の低下割合は、10vol%付近を変曲点として、基材のオレフィン含有割合が高まるほど大きくなる。プロパノールやブタノールでも同様の傾向が見られる。このような傾向は、実際の実験結果でも確認することができる。エタノール等のアルコールの混合によるオクタン価向上効果と、水素化に必要となる追加的なエネルギー投入とを考慮すると、オレフィンからパラフィンへの水素化は、オレフィン含有割合が少なくとも10vol%以下になるまで行うことが好ましい。
【0024】
また、オレフィンは酸化安定性が低く、OICA(国際自動車工業連合会)のガソリン規格(カテゴリ3~6)では車載燃料中のオレフィン含有割合が10vol%以下に定められている。したがって、燃料の酸化安定性の観点でも、オレフィンからパラフィンへの水素化は、オレフィン含有割合が少なくとも10vol%以下になるまで行うことが好ましい。
【0025】
基材であるFT軽質ナフサの主成分でもあるノルマルパラフィンは、低温(5℃以下程度)で重質成分が析出する(パラフィンワックス)。したがって、燃料の低温性能の観点で、ノルマルパラフィンの一部を、異性化反応により、結晶化しにくいイソパラフィンに変換することが好ましい。なお、ノルマルパラフィンをイソパラフィンに異性化すると、異性化割合に応じて基材全体のオクタン価が向上する。ノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化の割合は、設備仕様や投入可能なエネルギー量、コスト等により決定される。
【0026】
図7は、アルコールのブレンディングオクタン価について説明するための図である。図7では、一例として、オクタン価の異なるオレフィン含有割合10vol%の基材にエタノールを混合したときの、化学反応計算による計算結果と実際の測定結果とに基づくブレンディングオクタン価を示す。図7に示すように、基材のオクタン価が50~100程度の低い領域では、基材のオクタン価が低いほど、エタノールを混合したときのオクタン価が高くなる。プロパノールやブタノールでも同様の傾向が見られる。
【0027】
図8は、ガソリン代替燃料を得るために必要となるアルコールの混合割合について説明するための図であり、一例として、オクタン価90を達成するために必要なエタノールの混合割合を示す。図8では、図7のブレンディングオクタン価に基づいて下式(i)により算出したエタノールの混合割合bの計算結果を黒丸で示し、実験結果を白丸で示す。なお、式(i)において、(1-b)は、基材の混合割合を表す。図8に示すように、オクタン価90を達成するために必要なエタノールの混合割合は、図7のブレンディングオクタン価に基づく予測値(図8の実線)に概ね一致する。
(基材オクタン価)×(基材混合割合)+
(ブレンディングオクタン価)×(エタノール混合割合)=(所望のオクタン価)
(基材オクタン価)(1-b)+(ブレンディングオクタン価)b=90 ・・・(i)
【0028】
基材(FT軽質ナフサ)のオクタン価は60~70程度であるため、図8に示すように、エタノールの混合割合は30vol%以下となる。したがって、基材にエタノールを混合して得られる最終的なガソリン代替燃料における基材(FT軽質ナフサ)の含有割合は、70vol%以上となる。エタノールのほか、プロパノールやブタノール等のアルコールを混合するでも同様の混合割合(アルコール30vol%以下、基材(FT軽質ナフサ)70vol%以上)となる。
【0029】
図9は、本発明の実施形態に係るガソリン代替燃料の組成について説明するための図である。図9に示すように、FT軽質ナフサ(基材)には、主成分のノルマルパラフィンとともに、ovol%のオレフィンが含まれる。基材のオレフィン含有割合ovol%は、例えば実際の基材を分析して測定することができる。水素化を行い、オレフィンの一部(オレフィンの(100-α)vol%)をノルマルパラフィンに水素化した後の基材には、oαvol%のオレフィンが含まれる。さらに異性化を行い、ノルマルパラフィンの一部(基材全体のivol%)をイソパラフィンに異性化した後の基材には、ivol%のイソパラフィンが含まれる。
【0030】
所望のオクタン価(例えばオクタン価90)となる最終的なガソリン代替燃料には、前処理(水素化、異性化)を行った後の基材100vol%に対し、bvol%のバイオアルコール(例えばバイオエタノール)が含まれる。基材に対するバイオアルコールの混合割合bは、図8に示すような予め定められた特性に基づいて算出することができる。基材のオクタン価は、FT合成プロセスに応じて推定される、あるいは分析により測定される基材の組成(ノルマルパラフィンの炭素数分布やオレフィン含有割合)、設備仕様等に応じて決定される異性化割合等に基づいて、加成計算により推定することができる。
【0031】
最終的なガソリン代替燃料のオレフィン含有割合は、(oα/(100+b))となる。バイオアルコールの混合によるオクタン価向上効果および燃料の酸化安定性の観点から、下式(ii)を満たすように基材の水素化割合αを決定することが好ましい。基材の水素化に要する投入エネルギーとのバランスや過剰な水素化によるオクタン価の低下を考慮して、例えば下式(ii)の両辺が等しくなるように水素化割合αを決定することが好ましい。
100oα/(100+b)≦10 ・・・(ii)
【0032】
図10は、本発明の実施形態に係るガソリン代替燃料の製造方法を例示する図である。図10に示すように、先ず、基材のオレフィン含有割合oを測定する(工程S1)。次いで、工程S1で測定された基材のオレフィン含有割合oと、設備仕様等に応じて決定される基材の異性化割合iとに基づいて、基材のオクタン価を算出する(工程S2)。次いで、図8に示すような予め定められた特性に基づいて、工程S2で算出された基材のオクタン価に応じた適切なバイオアルコールの混合割合bを算出する(工程S3)。より具体的には、式(i)に、工程S2で算出された基材のオクタン価と、図7に示すような基材のオクタン価に対応するバイオアルコールのブレンディングオクタン価と、達成すべきオクタン価(例えば、90)とを代入する。そして、式(i)の方程式をバイオアルコールの混合割合bについて解くことで、バイオアルコールの混合割合bおよび基材の混合割合(1-b)を算出する。
(基材オクタン価)×(基材混合割合)+
(ブレンディングオクタン価)×(バイオアルコール混合割合)=(所望のオクタン価)
(基材オクタン価)(1-b)+(ブレンディングオクタン価)b=90 ・・・(i)
【0033】
次いで、工程S3で算出されたバイオアルコールの混合割合bと、工程S1で測定された基材のオレフィン含有割合oとに基づいて、ガソリン代替燃料のオレフィン含有割合が10vol%以下となるように、基材中の水素化割合αを算出する(工程S4)。次いで、工程S4で算出された水素化割合αに応じてオレフィンを含む基材を水素化する(工程S5)。次いで、予め定められた異性化割合iに応じて、工程S5で水素化された基材をさらに異性化する(工程S6)。次いで、工程S6で異性化された基材に、工程S3で算出された混合割合bでバイオアルコールを混合する(工程S7)。これによりガソリン代替燃料が完成する。
【0034】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)再生可能電力を用いたFT合成により得られたFT軽質ナフサ(基材)と、バイオマスから得られたバイオアルコールと、を混合してガソリン代替燃料を製造するガソリン代替燃料の製造方法は、基材のオクタン価と、バイオアルコールのブレンディングオクタン価と、予め定められた目標オクタン価と、に基づいて、基材に対するバイオアルコールの混合割合bを決定し(工程S1~S3)、決定されたバイオアルコールの混合割合bと、基材のオレフィン含有割合oと、に基づいて、ガソリン代替燃料のオレフィン含有割合(oα/(100+b))が10vol%以下となるように、基材に含まれるオレフィンをパラフィンに水素化するときの水素化割合αを決定し(工程S4)、決定された水素化割合αに応じて基材を水素化し(工程S5)、決定されたバイオアルコールの混合割合bに応じて、水素化された基材にバイオアルコールを混合する(工程S7)ことを含む(図10)。
【0035】
このように、e-fuelであるFT軽質ナフサを基材とし、バイオアルコールを適宜な割合で混合することで、オクタン価がガソリン相当であり、かつ、炭素強度が極めて低いガソリン代替燃料を製造することができる。また、基材を水素化し、オクタン価向上効果を阻害するオレフィンの含有割合を低減する前処理を行うことで、ガソリン相当のオクタン価を達成するために必要なバイオアルコールの混合割合を低減し、燃料の炭素強度を一層低減することができる(図5図6)。
【0036】
(2)ガソリン代替燃料の製造方法は、水素化された基材に含まれるノルマルパラフィンをイソパラフィンに異性化する(工程S6)ことをさらに含む(図10)。これにより、燃料の低温性能を向上することができる。また、ノルマルパラフィンをイソパラフィンに異性化することでオクタン価が向上し、ガソリン相当のオクタン価を達成するために必要なバイオアルコールの混合割合が一層低減されるため、燃料の炭素強度を一層低減することができる。
【0037】
(3)バイオアルコールは、バイオエタノール、バイオプロパノール、およびバイオブタノールのいずれかである。例えば、普及率が高く、可用性が高いバイオエタノールをオクタン価向上剤として利用することができる。
【0038】
(4)ガソリン代替燃料は、再生可能エネルギー由来のFT軽質ナフサ(基材)と、バイオアルコールと、を含有する(図1図9)。ガソリン代替燃料のオレフィン含有割合は、10vol%以下である。基材に対するバイオアルコールの含有割合は、基材のオクタン価と、バイオアルコールのブレンディングオクタン価と、予め定められた目標オクタン価と、に基づいて定められる。オレフィン含有割合を10vol%以下とすることで、バイオアルコールの含有割合が最小限となり、炭素強度が極めて低いガソリン代替燃料を実現することができる。このような燃料は、酸化安定性についてのガソリン規格にも適合する。
【0039】
上記実施形態では、図1等で再生可能水素と工場排ガス等から回収された二酸化炭素とを利用してFT合成を行う例を説明したが、再生可能電力を用いたFT合成は、このようなものに限らない。例えば、バイオマス、天然ガス、石炭等を利用してもよい。
【0040】
上記実施形態では、図1等で分留によりFT粗油から炭素数6~10程度のFT軽質ナフサを得る例を説明したが、FT合成により得られたFT軽質ナフサは、このようなものに限らない。例えば、炭素数6~10程度のFT軽質ナフサが得られるようにFT合成プロセスの条件自体を適合してもよい。この場合、分留工程は不要となる。
【0041】
上記実施形態では、図10等で基材を異性化した上でバイオアルコールを混合する例を説明したが、ガソリン代替燃料の製造方法は、このようなものに限らない。
例えば、燃料の低温性能を考慮する必要がない場合には、異性化工程は不要となる。
【0042】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10