(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】可変減衰器
(51)【国際特許分類】
H01P 1/22 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
H01P1/22
(21)【出願番号】P 2022161605
(22)【出願日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】待鳥 誠範
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-122605(JP,U)
【文献】実開昭63-178903(JP,U)
【文献】実開昭49-065129(JP,U)
【文献】米国特許第03909755(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に向けて開口された伝送路用溝(21)が形成された導波管ブロック(2)と、
導電体からなる複数の単位プレート(31、32)を積層して構成され、前記開口が一部開口を残して塞がれて前記伝送路用溝による導波管(21a)が形成され、かつ、前記複数の単位プレートを積層方向に貫いて前記導波管内に対する前記一部開口を経由する外部からの挿抜孔が形成されるように前記表面全体を覆う積層プレート部(3)と、
前記挿抜孔を経由して前記導波管内に突出し、突出量が連続的に変化するように前記挿抜孔内を前記
単位プレートの積層方向に往復駆動される導電体製の可変ポスト(5)と、
を有し、前記突出量を連続的に変化させることで前記導波管を伝送される高周波信号を連続して可変減衰させる可変減衰器(1)であって、
前記積層プレート部は、前記挿抜孔が、前記可変ポストを前記往復駆動が可能な可動状態に保持するポスト可動保持部(8)として機能し、当該挿抜孔の中心軸方向の断面形状が前記積層方向に段階的に変化する構造を有
し、
前記導波管ブロックは、一側面(2c)に前記開口を有する前記伝送路用溝が形成された直方体形状のブロック体で構成され、
前記積層プレート部は、前記単位プレートごとに所定の孔径の貫通孔(35)、または前記所定の孔径より大きな孔径の貫通孔(36)が設けられ、
全ての前記単位プレートが積層された状態で前記単位プレートごとに設けられた前記貫通孔が積層されて前記挿抜孔が形成され、
前記挿抜孔は、前記所定の孔径の前記貫通孔と前記所定の孔径より大きな孔径の前記貫通孔が前記積層方向に交互に配列されて段階的に孔径が変化するコルゲート様チョーク構造を形成することを特徴とする可変減衰器。
【請求項2】
前記可変ポストは、円筒形状部材で構成され、
前記貫通孔は、孔形が円形であることを特徴とする請求項
1に記載の可変減衰器。
【請求項3】
前記積層プレート部は、前記可変ポストを前記可動状態に保持することができる直径を有する前記貫通孔が形成された単位プレートA(31)と、前記単位プレートAの前記貫通孔の直径より大きな直径を有する前記貫通孔が形成された単位プレートB(32)と、を、複数段積層した構成を有することを特徴とする請求項
2に記載の可変減衰器。
【請求項4】
前記積層プレート部は、前記可変ポストを前記可動状態に保持することができる直径を有する前記貫通孔が形成された単位プレートA1(31A)と、前記単位プレートA1の前記貫通孔の直径と同等の直径を有する貫通孔下段部(36Ab)、及び前記単位プレートA1の前記貫通孔の直径より大きな直径を有する貫通孔上段部(36Aa)が前記積層方向に連なる2段構成の貫通孔(36A)が形成された単位プレートB1(32A)と、を複数段積層した構成を有することを特徴とする請求項
2に記載の可変減衰器。
【請求項5】
前記積層プレート部は、前記可変ポストを前記可動状態に保持することができるそれぞれ異なる直径を有する前記貫通孔(38A、38B、38C、38D、38E、38F)が形成された複数種類の単位プレートA2、B2、C2、D2、E2、F2(37A、37B、37C、37D、37E、37F)を複数組有し、前記複数種類の単位プレートが前記組ごとに同一の並び順で前記積層方向に周期的に積層された構成を有することを特徴とする請求項
2に記載の可変減衰器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ポストを備えた可変減衰器に係り、詳しくは、可変ポストを挿抜可能に保持する機構部が電磁波の漏出を少なくするチョーク構造を有する可変減衰器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、5G NR規格により通信を行う、所謂、5G通信技術の普及、進展に合わせて、より高周波の帯域、例えば、ミリ波帯(30~300GHz)あるいはそれ以上の帯域における信号を扱う通信端末、あるいは該通信端末が出力するミリ波帯あるいはそれ以上の帯域の信号解析処理を行う信号解析装置の実現に対する期待も高まっている。
【0003】
ミリ波帯の信号を扱う通信端末や信号解析装置(ミリ波帯通信装置)においても、過入力による悪影響を回避するために、減衰量を可変設定し、入力信号(変調信号)のレベルを設定されたレベルで減衰させる可変減衰器を搭載するようになっている。
【0004】
マイクロ波帯(ミリ波帯、及びそれより低い周波数帯域を含む)において、導波管内で特性可変な素子を構成する場合、開口形状を変更することで分布定数の調整を行う方法がある。この方法によれば、定数を連続可変とした開口を設けることで、可変減衰器として利用することができる。この開口形状の変更は機械的形状変更に基づくものが多く、いくつかの方式が知られている。一例としては、ポストという部材を例えば矩形断面導波路に挿抜する形状(以下、可変ポストと呼称)が挙げられる。
【0005】
矩形断面導波路を用いる可変減衰器としては、電磁波抵抗体、あるいは電磁波吸収体より成る外径の小さい調整棒を、矩形断面導波路(導波管)の対向内壁間に渡り設けた保護管内に挿入し、電磁波電力を調整棒の挿入位置に応じて変化させるものが従来から知られている(特許文献1等。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の導波管型可変減衰器は、調整棒を保護管内に挿入してはいるが、調整棒の挿入位置を変えられる機構を有しており、調整棒、すなわち、可変ポストを導波管内に挿抜する形式を採用したものといえるものである。
【0008】
この形式の可変減衰器において、ポストを挿抜可能(可動できる状態)に保持するためには、ポストと該ポストを可動できるように保持する保持孔との間に若干の隙間を設ける必要がある。この隙間から意図せず電磁波が漏出することによって、漏出した信号の回り込みによるクロストークやアイソレーション劣化、あるいは多重反射過程による信号歪みを引き起こすことになる。こうした信号の劣化あるは歪みを改善するためには保持孔の隙間を微小とすれば良いが、ミリ波帯を始めとした高い周波数帯になると機械加工公差の下限を下回る精度を要求することになり、現実的でない。例えば、100GHz超のミリ波帯になると波長は数ミリメートル(mm)と短くなるため、相対的に製造公差による可動部の隙間が無視できなくなるためである。このような電磁波の漏出によって、マイクロ波帯で開発された既存減衰開口形状の応用が阻害されている。
【0009】
上述した保持孔など、ポストを可動保持する機構部からの電磁波の漏出を防ぐには、適切なチョーク(choke)構造を設け、電磁結合的に伝搬阻止帯域を設ける方法が有効である。しかしながら、既存のチョーク構造は、上記伝搬阻止帯域を設けるにあたって、構造面(形状の作成のし易さ)、性能面(電磁波漏出防止機能)のいずれについても満足のいくものではなかった。さらに近年はミリ波帯への対応も期待されるなか、その実現に際して微細な機械加工精度の維持が困難であり、寸法管理も容易に行えない事態ともなっている。
【0010】
マイクロ波帯、中でもより周波数の高いミリ波帯、例えば、300GHz帯を対象とした場合、動作波長が1mm程度であり、ポスト保持部や分割面の隙間を10マイクロメートル(um)に収めたとしても電磁波の漏出が無視できなくなる。そのような観点からも、作成し易く、寸法管理が容易なミリ波帯に見合うチョーク構造が求められている。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、ポストを可動保持する機構での電磁波の漏出低減を図りながらも該機構の作成及び寸法管理を容易に行え、より高い周波数帯にも対応可能な可変減衰器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る可変減衰器は、表面に向けて開口された伝送路用溝(21)が形成された導波管ブロック(2)と、導電体からなる複数の単位プレート(31、32)を積層して構成され、前記開口が一部開口を残して塞がれて前記伝送路用溝による導波管(21a)が形成され、かつ、前記複数の単位プレートを積層方向に貫いて前記導波管内に対する前記一部開口を経由する外部からの挿抜孔が形成されるように前記表面全体を覆う積層プレート部(3)と、前記挿抜孔を経由して前記導波管内に突出し、突出量が連続的に変化するように前記挿抜孔内を前記単位プレートの積層方向に往復駆動される導電体製の可変ポスト(5)と、を有し、前記突出量を連続的に変化させることで前記導波管を伝送される高周波信号を連続して可変減衰させる可変減衰器(1)であって、前記積層プレート部は、前記挿抜孔が、前記可変ポストを前記往復駆動が可能な可動状態に保持するポスト可動保持部(8)として機能し、当該挿抜孔の中心軸方向の断面形状が前記積層方向に段階的に変化する構造を有し、前記導波管ブロックは、一側面(2c)に前記開口を有する前記伝送路用溝が形成された直方体形状のブロック体で構成され、前記積層プレート部は、前記単位プレートごとに所定の孔径の貫通孔(35)、または前記所定の孔径より大きな孔径の貫通孔(36)が設けられ、全ての前記単位プレートが積層された状態で前記単位プレートごとに設けられた前記貫通孔が積層されて前記挿抜孔が形成され、前記挿抜孔は、前記所定の孔径の前記貫通孔と前記所定の孔径より大きな孔径の前記貫通孔が前記積層方向に交互に配列されて段階的に孔径が変化するコルゲート様チョーク構造を形成することを特徴とする。
【0013】
この構成により、本発明の請求項1に係る可変減衰器は、導波管内に対する外部からの可変ポストの挿抜孔の中心軸方向の断面形状が各単位プレートの積層方向に段階的に変化するポスト可動保持部の構造によって、ポスト可動保持部と可変ポストとの隙間からの電磁波の漏出防止効果を高めながらも、各単位プレートを積層するだけでポスト可動保持部を容易に作成することができる。作成容易であることにより、寸法管理も容易となり、機械加工の高精細化によるより高周波数帯、例えば、ミリ波帯の信号の減衰処理への対応も可能となる。
【0015】
また、本発明の請求項1に係る可変減衰器は、ポスト可動保持部が、所定の孔径の貫通孔と該所定の孔径より大きな孔径の貫通孔とが積層方向に交互に配列されたコルゲート様の構造を有しているため、異なる孔径の貫通孔を有する単位プレートを積層し、各単位プレートに形成された貫通孔の積層によってコルゲート様チョーク構造を形成するシンプルな構造でありながら、電磁波の漏出防止機能を高めることができる。
【0016】
各単位プレートに所定の孔径の貫通孔、またはそれより大きな孔径の貫通孔を形成し、積層する手順で容易に作成することができる。貫通孔を形成する作業は細かい寸法での加工であっても機械加工精度が保ち易く、寸法管理が容易である。寸法管理が容易であることにより、機械加工の高精細化によるより高周波数帯、例えば、ミリ波帯の信号の減衰処理にも精度低下を来すことなく対応可能となる。この構成によれば、ポストを可動保持する機構(ポスト可動保持部)での電磁波の漏出低減を図りながらも該機構の作成及び寸法管理を容易に行え、より高い周波数帯にも対応可能となる。
【0017】
また、本発明の請求項2に係る可変減衰器において、前記可変ポストは、円筒形状部材で構成され、前記貫通孔は、孔形が円形である構成であってもよい。
【0018】
この構成により、本発明の請求項2に係る可変減衰器は、各単位プレートに貫通孔を形成するに際して円形の孔をあける作業が主となり、高精細の加工が容易である。これにより、機械加工精度を維持可能であり、例えば、ミリ波帯の信号の減衰処理にもより容易に対応できるようになる。
【0019】
また、本発明の請求項3に係る可変減衰器において、前記積層プレート部は、前記可変ポストを前記可動状態に保持することができる直径を有する前記貫通孔が形成された単位プレートA(31)と、前記単位プレートAの前記貫通孔の直径より大きな直径を有する前記貫通孔が形成された単位プレートB(32)と、を、複数段積層した構成とすることもできる。
【0020】
この構成により、本発明の請求項3に係る可変減衰器では、積層プレート部を作る際には、それぞれ直径が異なる貫通孔が形成された単位プレートA、Bを必要枚数用意し、各単位プレートA、Bを挿抜孔が形成されるように積層し、可変ポストの位置と挿抜孔の位置とが対応する配置とすればよく、シンプルな構造かつ作成容易でありながら電磁波の漏出防止能力に優れる高精細なポスト可動保持部を実現でき、ミリ波帯の信号の減衰処理にも対応できるようになる。
【0021】
また、本発明の請求項4に係る可変減衰器において、前記積層プレート部は、前記可変ポストを前記可動状態に保持することができる直径を有する前記貫通孔が形成された単位プレートA1(31A)と、前記単位プレートA1の前記貫通孔の直径と同等の直径を有する貫通孔下段部(36Ab)、及び前記単位プレートA1の前記貫通孔の直径より大きな直径を有する貫通孔上段部(36Aa)が前記積層方向に連なる2段構成の貫通孔(36A)が形成された単位プレートB1(32A)と、を複数段積層した構成を有するものであってもよい。
【0022】
この構成により、本発明の請求項4に係る可変減衰器では、積層プレート部が、単位プレートA1と、直径が異なる貫通孔下段部と貫通孔上段部から成る2段構成の貫通孔が形成される単位プレートB1が積層された構造を有するため、単位プレートB1の厚さが増し、積層プレート部としての強度を増大させることができる。
【0023】
また、本発明の請求項5に係る可変減衰器において、前記積層プレート部は、前記可変ポストを前記可動状態に保持することができるそれぞれ異なる直径を有する前記貫通孔(38A、38B、38C、38D、38E、38F)が形成された複数種類の単位プレートA2、B2、C2、D2、E2、F2(37A、37B、37C、37D、37E、37F)を複数組有し、前記複数種類の単位プレートが前記組ごとに同一の並び順で前記積層方向に周期的に積層された構成を有するものとしてもよい。
【0024】
この構成により、本発明の請求項5に係る可変減衰器では、積層プレート部が、それぞれ異なる直径を有する貫通孔が形成された複数種類の単位プレートA2、B2、C2、D2、E2、F2を一組とし、複数組の単位プレートA2、B2、C2、D2、E2、F2を組ごとに同一の並び順で周期的に積層した構造を有するため、設計の自由度が向上し、可変ポストとの隙間からの電磁波の漏出をより確実に低減することができる。この場合でも、単位プレートA2、B2、C2、D2、E2、F2に対する貫通孔の加工、単位プレートA2、B2、C2、D2、E2、F2の積層などの作成、組み立て工程が大幅に煩雑化することはなく、機械加工精度を維持しつつも作成し易いというメリットが損なわれることはない。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、ポストを可動保持する機構での電磁波の漏出低減を図りながらも該機構の作成及び寸法管理を容易に行え、より高い周波数帯にも対応可能な可変減衰器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る可変減衰器の全体構成を示す概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る可変減衰器の断面図であり、(a)は
図1のA-A面による断面図を示し、(b)は
図1のB-B面による断面図を示している。
【
図3】本発明の一実施形態に係る可変減衰器の
図1のA-A面による断面の構成を示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る可変減衰器のポスト可動保持部の要部構成を拡大して示す図であり、(a)はポスト可動保持部の要部断面、(b)はポスト可動保持部の単位プレートAに設けられる貫通孔の平面、(c)は同じく単位プレートBに設けられる貫通孔の平面の構成をそれぞれ示している。
【
図5】電磁波漏出防止機能の有効性の検証用モデルの構成例を示す模式図であり、(a)は比較対象モデル1、(b)は比較対象モデル2、(c)は本実施形態に係るポスト可動保持部に相当する本発明モデルの構成をそれぞれ示している。
【
図6】
図5(a)に示す比較対象モデル1の電磁波特性を示すグラフであり、(a)は反射特性、(b)は透過特性、(c)はポスト高さ変化による透過減衰の連続調整時の特性をそれぞれ示している。
【
図7】
図5(b)に示す比較対象モデル2の電磁波特性を示すグラフであり、(a)は反射特性、(b)は透過特性、(c)はポスト高さ変化による透過減衰の連続調整時の特性をそれぞれ示している。
【
図8】
図5(c)に示す本発明モデルの電磁波特性を示すグラフであり、(a)は反射特性、(b)は透過特性、(c)はポスト高さ変化による透過減衰の連続調整時の特性をそれぞれ示している。
【
図9】モデル別のポスト支持部の電界強度分布の比較図であり、(a)は比較対象モデル1、(b)は比較対象モデル2、(c)は本発明モデルの電界強度分布をそれぞれ示している。
【
図10】本発明の変形例1に係るポスト可動保持部の要部構成を拡大して示す図であり、(a)はポスト可動保持部の要部断面、(b)はポスト可動保持部の単位プレートA1に設けられる貫通孔の平面、(c)は同じく単位プレートB1に設けられる異なる孔径を有する2段構成の貫通孔の平面の構成をそれぞれ示している。
【
図11】本発明の変形例2に係るポスト可動保持部の要部構成を拡大して示す図であり、(a)はポスト可動保持部の要部断面を示し、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)は、それぞれ、ポスト可動保持部の単位プレートA2、B2、C2、D2、E2、F2に設けられる貫通孔の平面の構成を示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る可変減衰器について図面を用いて説明する。
【0028】
本発明においては、開口形状を変形させることで電磁波透過特性あるいは反射特性を変化させる導波管型可変減衰器のうち、導波管の外部から挿入して内部に突出させることのできる可動ポストを有し、該ポストの導波管内部への挿入量を変化させることで開口形状を変化させる可変ポストの機能を有するものを前提としている。そのなかでも特に、可変ポストを導波管の外部から内部へと挿抜可能に保持する機構部(後述する「ポスト可動保持部8」参照)が、可変ポストとの間の隙間からの電磁波の漏出を低減するためのチョーク構造を有し、このチョーク構造によって電磁波の漏出を抑えつつ信号減衰処理を行う低漏出導波管型可変減衰器を想定している。
【0029】
この低漏出導波管型可変減衰器(以下、可変減衰器)は、例えば、5G NR規格での通信を行う5G端末や、5G端末が出力する無線信号の解析処理を行う信号解析装置(シグナルアナライザやスペクトラムアナライザ)の他、5G用の帯域(例えば、26.5GHz)より高い周波数帯(ミリ波帯)の信号を扱う各種ミリ波帯通信装置(ミリ波帯通信端末、ミリ波帯信号解析装置等)にも採用され得る。以下、ミリ波帯通信装置への搭載を前提とする本発明に係る可変減衰器の一実施形態について説明する。
【0030】
まず、本発明の一実施形態に係る可変減衰器1の構成について
図1ないし
図4を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る可変減衰器1は、
図1に示すように、導波管ブロック2、積層プレート部3、結合用ブロック4、可変ポスト5、ポスト駆動部6、結合支持部7を備えて構成されている。導波管ブロック2、積層プレート部3、結合用ブロック4は、それぞれ、例えば、直方体形状を有し、鉛直向に積み重ねられて、全体としても直方体形状の1つのブロック体を構成している。
図1ないし
図3においては、直交3次元座標指標を付記し、上記ブロック体の1つの角で接する3辺の方向を、それぞれ、x(左右)方向、y(前後)方向、z(上下:鉛直)方向と規定している。
【0031】
導波管ブロック2は、直方体形状を有する導電体製のブロック体で構成され、
図1ないし
図3に示すように、6つの側面2a、2b、2c、2d、2e、2fのうち、例えば、下側の側面2c(以下、底面)の前後方向の中央部には、左右の側面2e、2f間に亘り、下向きに開口する断面矩形の伝送路用溝21が形成されている。
【0032】
積層プレート部3は、導波管ブロック2の底面と同形状の矩形平面を有し、かつ、適宜な厚さを有する導電体製の複数の単位プレートA(以下、チョークプレート31という)、及び単位プレートB(以下、チョークプレート32という)を厚さ方向に積層することにより1つの直方体形状のブロック体として構成されている。本実施形態では、例えば、3枚のチョークプレート31と、2枚のチョークプレート32を、上からチョークプレート31、32、31、32、31の順に交互に積層した例を挙げている(
図2、
図3参照)。チョークプレート31、32は、後述するチョークプレート31、32は、後述するチョークプレート31A、32A、及びチョークプレート31B、32B、33B、34Bとともに、本発明の単位プレートを構成する。
【0033】
積層プレート部3は、上記ブロック体として導波管ブロック2の底面に積層された状態で取り付けられ(
図1参照)、この積層状態において、最上段のチョークプレート31が導波管ブロック2の底面に形成された伝送路用溝21の開口を一部だけを残し、該一部残された開口(一部開口)以外の開口を塞ぐように、導波管ブロック2の底面全体を覆うようになっている(
図2、
図3参照)。
【0034】
より詳しく述べると、積層プレート部3は、チョークプレート31、32、31、32、31が、それぞれ、貫通孔35、36、35、36、35を有しており、当該貫通孔35、36、35、36、35がチョークプレート31、32、31、32、31の積層方向に連なる一連(1つ)の貫通孔を形成している(
図2、
図3参照)。上述したように、導波管ブロック2の底面全体を覆うように積層プレート部3が取り付けられたとき、積層プレート部3の最上段の単位プレートAにおいては、
図2、
図3に示すように、貫通孔35以外の部分が伝送路用溝21の開口を覆うことにより、該伝送路用溝21による側面2e-2f間の方向を長手方向とする導波管21aが形成される一方で、伝送路用溝21の開口に臨む貫通孔35が伝送路用溝21の一部開口を形成するようになっている。これにより、積層プレート部3に上述した貫通孔35、36、35、36、35の積層によって形成される一連の貫通孔は、導波管21a内に対する上記一部開口を経由する外部からの挿抜孔としての機能を果たすものとなる。
【0035】
ここで一部開口を経由して外部から導波管21a内に挿抜される対象は、後で詳しく述べるように、可変ポスト5である。すなわち、積層プレート部3においては、チョークプレート31、32、31、32、31における各貫通孔35、36、35、36、35の積層によって形成される一連の貫通孔は、具体的には、導波管21a内に対する一部開口を経由する外部からの可変ポスト5の挿抜孔として機能する。
【0036】
可変ポスト5の挿抜を可能とすべく、上記挿抜孔は、例えば、
図2、
図3に矢印Cで示す方向への駆動(上下動)が行えるように可変ポスト5を可動保持する機能も併せ持っている。2種類のチョークプレート31、32を、チョークプレート31、32、31、32、31の順に積層することにより各貫通孔35、36、35、36、35をそれらの積層方向(挿抜孔の深さ方向)に配列して形成される1つの貫通孔(挿抜孔)を、以下においては、ポスト可動保持部8(
図2~
図4参照)と呼称するものとする。また、ポスト可動保持部8を構成する貫通孔35、36のうち、孔径の小さい貫通孔35は可変ポスト5の保持孔、より孔径が大きい貫通孔36Aはチョーク孔と呼称することもある。
【0037】
結合用ブロック4は、積層プレート部3の最下面のチョークプレート31の下面に当接するように取り付けられ、積層プレート部3を安定的に保持するものである。結合用ブロック4は、積層プレート部3と同様、導波管ブロック2の底面と同形状の矩形平面を有する板材で構成され、その板材の上記矩形平面上の所要位置にはポスト可動保持部8の各貫通孔35、36、35、36、35をその積層方向に沿って縦に並べて構成される孔径よりも大きな径の貫通孔41が形成されている。結合用ブロック4は、上述したポスト可動保持部8の縦並びの各貫通孔35、36、35、36、35に対する可変ポスト5の進退(直線駆動)を妨げない位置に貫通孔41が配置されるように積層プレート部3に積層されている。
【0038】
可変ポスト5は、積層プレート部3に形成されるポスト可動保持部8を構成する各貫通孔35、36、35、36、35、すなわち、挿抜孔によって上下方向に往復駆動可能に保持され、上述したように導波管ブロック2を一部開口だけ残して塞ぐことにより形成された導波管21a内に対して突出し、その突出量に応じて開口形状を変更させるための導電体性の部材である。可変ポスト5は、例えば、円筒形状を有する棒状体(円筒形状部材)、一例として円筒ポストで構成され、軸方向に直交する方向の断面形状が円形のものである。貫通孔35、36も、孔の形状(穴の中心軸に直交する方向の断面形状)が円形(
図4(b)、(c)参照)である。
【0039】
ポスト駆動部6は、可変ポスト5を一部開口経由で導波管21a内に進出、あるいは後退させる方向(矢印C方向)に直線駆動する(
図2、
図3参照)ための駆動機構部である。ポスト駆動部6は、例えば、電気モータ・電磁ソレノイド・油圧シリンダなどのアクチュエータが用いられる。ポスト駆動部6は、可変ポスト5の進出、後退のための駆動を自動で行うのに限らず、手動で行う機能が付加されていてもよい。
【0040】
結合支持部7は、可変ポスト5が、結合用ブロック4に設けられる貫通孔41、及びポスト可動保持部8を構成する各貫通孔35、36、35、36、35(挿抜孔)に対して、上述の如くの矢印C方向への直線駆動が行える位置関係となるように結合用ブロック4とポスト駆動部6を結合し、その位置関係を保持するための機能部である。
【0041】
次に、積層プレート部3におけるポスト可動保持部8(
図2、
図3参照)の構成についてさらに詳しく説明する。
図4は、本実施形態に係る可変減衰器1の積層プレート部3の要部構成を拡大して示した図であり、特に、
図4(a)はポスト可動保持部8の要部断面構成を示している。
図4(a)に示すように、本実施形態に係る可変減衰器1の積層プレート部3は、単位プレートA(チョークプレート31)と単位プレートB(チョークプレート33)の2種類の単位プレートを5段に重ねた積層構造を有している。
【0042】
図4(a)に示すポスト可動保持部8において、1段目、3段目、5段目のチョークプレート31と、2段目、4段目のチョークプレート32とは、平面形状とプレート厚さは同じで貫通孔の孔径のみが異なっている。より詳しくは、チョークプレート31は、例えば、
図4(b)に示すように所定の孔径(この例においては直径)X1の貫通孔35を有し、他方、チョークプレート32は、例えば、
図4(c)に示すように孔径X2(X2>X1)の貫通孔36を有している。貫通孔35、36は、平面上で同一位置を中心とする同心円となるように配置されている(
図4(b)、(c)参照)。
【0043】
この構造により、本実施形態に係る可変減衰器1の積層プレート部3は、3枚のチョークプレート31、2枚のチョークプレート32が
図4(a)に示す順番で積層された状態において、ポスト可動保持部8全体としての孔径が、チョークプレート積層方向(挿抜孔の深さ方向)に向けて順に所定の孔径X1、それより大きい孔径X2、以下、孔径X1、孔径X2、孔径X1と段階的に変化するようになっている。このように、ポスト可動保持部8は、孔径がチョークプレート積層方向(深さ方向)へ波型、すなわち、コルゲート(corrugate)状に変化する形状を有している。
【0044】
この深さ方向にコルゲート状に変化する1つの貫通孔を有するポスト可動保持部8において、1段目、3段目、5段目に位置する各貫通孔35は、可変ポスト5の直径よりもわずかに大きな孔径X1を有し、当該可変ポスト5を保持しながら上下動させることができるようになっている。つまり、1段目、3段目、5段目の各貫通孔35は、可変ポスト5を上下動可能に保持する保持孔としての機能を果たす。各貫通孔35はこれらの孔径X1よりもわずかに小さい直径を有する可変ポスト5との間の隙間から電磁波が漏出するのを完全に遮断できるとは言い切れない。
【0045】
そこで本実施形態では、
図4(a)に示すように、ポスト可動保持部8の2段目、4段目に上記孔径X1よりも大きな孔径X2を有する各貫通孔36をさらに介在させる構成としている。
図4(a)に示すように、小さい孔径X1の各貫通孔35の間(積層方向)に該貫通孔35よりも大きな孔径X2の各貫通孔36を介在させたコルゲート状の貫通孔によれば、孔径X1の各貫通孔35が可変ポスト5を鉛直方向への駆動(上下動)可能に保持する保持孔として機能する一方で、孔径X2の各貫通孔36が、例えば、その上の貫通孔35で可変ポスト5との隙間から漏出した若干量の電磁波を外部に漏出しないように閉塞する(詰まらせる)チョーク孔として機能するものとなる(
図9(c)参照)。このように、ポスト可動保持部8は、孔径X1の貫通孔35を有するチョークプレート31と、孔径X2の貫通孔36を有するチョークプレート32を複数積層することによって、電磁波の外部への漏出を防止するコルゲート様チョーク構造を実現している。
【0046】
電磁波漏出防止に係るコルゲート様チョーク構造の動作原理は、該チョーク構造を有したチョークプレート積層体(積層プレート部3参照)の深さ方向に形成された一連の孔に可変ポスト5を挿入すると、可変ポスト5に沿って長手方向に、λ/2周期で断面積が異なるコルゲート同軸線路様の構造が形成されるということになる。この線路の特性インピーダンスは波長λを中心として非常に低い値を示す。これにより矩形導波管(伝送路用溝21)から見たチョーク部(例えば、積層プレート部3においては、チョークプレート32に形成される貫通孔36、すなわちチョーク孔の部分)は、ほぼ導通している電気壁のように見え、チョーク部からの電磁波の漏出を微小に留めることが可能となる。
【0047】
本実施形態に係る積層プレート部3のポスト可動保持部8において、チョークプレート31、32はそれぞれ1枚以上の積層で構成され、積層面は接触(あるいは、非常に近接しており、電磁的に接触と見なしても問題ない状態)させることで、コルゲート様の積層構造を形成する。これにより、個々のチョークプレート31、32は単純な貫通孔(35、36)あけ加工のみで製造でき、製造の簡素化とともに精度管理の簡易化が図れる。
【0048】
チョークプレート32に形成する貫通孔36の直径は、λ/4位相整合条件から与えられ、例えば、広帯域動作を目的とする場合はチョークプレート31の孔直径よりもλ/2だけ直径が大きな孔を開ければ良い。
【0049】
本実施形態においては、ポスト可動保持部8におけるチョーク構造は複数の単位プレート(チョークプレート)を積層状態とすることで実現することを前提としているが、その場合の積層方法には幾つかの形態(
図4、
図10、
図11参照)が想定される。単純な構成の一例として、貫通孔を開けたチョークプレートを積層する方法である(
図4参照)。簡単にλ/4位相整合条件からプレート厚さをλ/4として、孔の大きさが異なるチョークプレートを交互に積層することでチョークとして機能する構造を構成できる。
【0050】
一方で、強度を考慮してチョークプレートを厚くしたい場合は1枚のチョークプレートに2段の貫通孔を開けて積層する構造(
図10参照)としても良い。また、連続的に孔径が大きくなる部分から連続的に孔径が小さくなる部分に転じる変化を複数回繰り返すようなチョークプレートを積層する構造(
図11参照)としてもよい。この場合には、電磁波の漏出をより確実に低減することができる。1枚に貫通孔上段部及び下段部の2段構造を有する貫通孔を開けて積層する構造、連続的に孔サイズが大から小、小から大へと複数回変化するプレートを積層する構造については、変形例1、2として後で詳しく説明する。
【0051】
可変ポスト5については、ポスト可動保持部8でのチョーク構造を形成する貫通孔35、36のうち、孔径の小さい貫通孔(支持孔)35の径に対してわずかに小さい直径を有する円筒形状のものを採用する。すなわち、可変ポスト5は、上記支持孔に対して滑ることが可能な状態で支持(可動保持)されるものである。これにより、本実施形態に係るポスト可動保持部8のチョーク構造においては、保持孔と可変ポスト5は一部が接触していることもあれば、全く接触していない場合もある。ここで、可変ポスト5の直径に対して支持孔の直径が大きくなり過ぎないように適切に管理さえしていれば、接触の有無に関わらず位相整合による反射抑制が達成できる。前述したように、本実施形態において、可変ポスト5の断面形状、及び可変ポスト5を保持する保持孔(貫通孔35参照)、チョーク孔(貫通孔36参照)の孔形状は、基本として、それぞれ、円形を想定している。
【0052】
理由として、本発明に係る可変減衰器1の開発段階においては、上述した保持孔(貫通孔35参照)、チョーク孔(貫通孔36参照)の孔形状の加工方法が強く制限されているからである。現状では円形孔をマイクロドリル加工で開ける方法によって良い加工能率が得られ、したがって円筒ポストと円形孔の組み合わせが有力であり、そのために円形を例示している。
【0053】
但し、本発明において、可変ポスト5、保持孔(貫通孔35参照)及びチョーク孔の孔形状は、必ずしも円形に限定されるものではない。すなわち、可変ポスト5、保持孔(貫通孔35参照)及びチョーク孔(貫通孔36参照)の断面形状については、孔形状を加工できるならば、例えば、四角形、星形などであってもよく、いずれの場合も同様の効果が期待できる。
【0054】
さらに将来的にはレーザー加工や放電加工、超音波加工等の新規加工方法の登場に伴って、より効率的に加工可能な孔形状が登場したならば、本発明はその採用を阻害するものではない。
【0055】
上述した構成を有する本実施形態に係る可変減衰器1では、導波管ブロック2の下面に設けられた伝送路用溝21とそれを覆う積層プレート部3の最上面のチョークプレート31とで構成される断面矩形の導波管21a内に可変ポスト5を突出させ、その突出量を連続的に変化させることで反射率及び透過率を連続的に変化させる連続可変減衰動作が行えるようになっている。
【0056】
図3には、可変減衰器1の構成に加え、可変減衰器1の制御系の構成を開示している。ここで開示する制御系の構成は、可変減衰器1を搭載したミリ波通信装置でのミリ波帯の信号による通信に際しての可変減衰器1の連続可変減衰制御動作をイメージしたものである。ミリ波通信装置は、上述した機能構成を有する可変減衰器1を備え、減衰量を設定する設定部11と、減衰量の連続可変減衰制御を行う減衰量可変制御部12と、を有して構成されている。
【0057】
このミリ波帯通信装置において、減衰量可変制御部12は、可変減衰器1の導波管21aに対するミリ波帯の信号の入力中、導波管21a内に対する可変ポスト5の突出量を連続的に変化させるように可変ポスト5を往復(直線)駆動し、導波管21aから出力される信号が設定部11により設定された減衰量となるように制御するようになっている。
【0058】
ここで、可変減衰器1の可変ポスト5を往復駆動可能に保持するポスト可動保持部8(上述した挿抜孔に相当)は、孔径が異なる保持孔(貫通孔35)、チョーク孔(貫通孔36)を有する複数のチョークプレート31、32を交互に積層して構成されるコルゲート様チョーク構造を形成している。コルゲート様チョーク構造によれば、ポスト可動保持部8における保持孔(貫通孔35)、チョーク孔(貫通孔36)と可変ポスト5との隙間からの電磁波の漏出を的確かつ効率的に防ぐことが可能となる。ミリ波帯通信装置においても、可変減衰器1のコルゲート様チョーク構造による電磁波漏出低減能力が反映されて、ミリ波帯の信号の連続可変減衰動作を効率的に実施することが可能となる。
【0059】
本件出願の発明者等は、上述した構成を有するポスト可動保持部8について、「ポスト支持部の電磁波漏出防止機能としての有効性」に関する検討を行った。その実施方法及び検討結果について
図5ないし
図9を参照して説明する。
【0060】
「ポスト支持部の電磁波漏出防止機能としての有効性」の検討にあたり、検証用モデルとして、例えば、
図5(c)に示すように、本実施形態に係るポスト可動保持部8に相当する構造を有する本発明モデルに加えて、
図5(a)に示す構造を有する比較対象モデル1、及び
図5(b)に示す構造を有する比較対象モデル2を用意した。
【0061】
上記3つのモデルについては、いずれも、
図5(a)の左端に示す部分(Part)、すなわち、矩形導波管部P1、ポスト支持部P2、開放空間部P3ごとに分けてその構造を捉え、これら各部分の構造的特徴を以下のように規定した。
【0062】
最上部の矩形導波管部P1については、導波管ブロック2内に導波管21aを設け、各モデルとも同一の構造とした。
【0063】
中間部のポスト支持部P2については、それぞれ、プレートを貫通し、可変ポスト5を可動保持する保持孔を設けた構造とした。ここで比較対象モデル1のポスト支持部P2(
図5(a)参照)については、プレート300を貫通する保持孔310と可変ポスト5との間に全く隙間がない構造とした。比較対象モデル2のポスト支持部P2(
図5(b)参照)については、プレート300を貫通する保持孔311と可変ポスト5との間に一定の隙間が設けられ、両者の間にチョーク構造がない構造とした。
【0064】
また、本発明モデルのポスト支持部P2(
図5(c)参照)については、積層プレート部3に設けられる保持孔(挿抜孔)と可変ポスト5との間に一定の隙間があり、かつ、両者の間に2段のチョーク構造がある構造とした。具体的には、積層プレート部3を構成するチョークプレート31、32、31、32、31の貫通孔35、36、35、36、35の積層によって形成される挿抜孔と可変ポスト5との間に上述したコルゲート様チョーク構造(
図4参照)が形成され、挿抜孔が、可変ポスト5を可動保持するポスト可動保持部8として機能する構造とした。
【0065】
最下部には開放空間部P3を設け、当該開放空間部P3の電界強度分布から電磁波の漏出があるか否かを確認できるようにした。
【0066】
上記検証にあたっては、用意した比較対象モデル1、比較対象モデル2、本発明モデルのそれぞれ異なる3つの構造を数値計算により比較して本発明の有効性を検討した。具体的には、比較対象モデル1、比較対象モデル2、本発明モデルのそれぞれの構造について、有限要素法に基づく電磁界数値解析を行い、導波管21a内での可変ポスト5の高さhの変化に対する反射特性、透過特性を計算した。
【0067】
計算にあたって適用する諸条件の具体例として、例えば、解析周波数範囲は150~400GHzとした。導波管(矩形導波管)21aは、幅×高さ=750×375umとした。可変ポスト5の直径は0.25mmとした。支持孔の寸法は、比較対象モデル1(
図5(a)参照)の支持孔310については可変ポスト5の直径と等しい0.25mmとし、比較対象モデル2(
図5(b)参照)の支持孔311についてはそれより大きな孔径0.28mmとした。また、本発明モデルにおいては、1段目、3段目、5段目のチョークプレート(単位プレートA)31の貫通孔35の孔径を0.28mm、3段目、4段目のチョークプレート(単位プレートB)32の貫通孔36の孔径を0.9mmとした。また、チョークプレート31、32ともにプレート厚さは0.25mmとした。
【0068】
比較対象モデル1、比較対象モデル2、本発明モデルのそれぞれについての反射特性、透過特性の計算結果を
図6~
図8を参照して説明する。
【0069】
図6は、比較対象モデル1(
図5(a)参照)の電磁波特性を示すグラフであり、(a)は反射特性、(b)は透過特性、(c)はポスト高さ変化による透過減衰の連続調整時の特性をそれぞれ示している。
図7は、比較対象モデル2(
図5(b)参照)の電磁波特性を示すグラフであり、(a)は反射特性、(b)は透過特性、(c)はポスト高さ変化による透過減衰の連続調整時の特性をそれぞれ示している。
図8は、本発明モデル(
図5(c)参照)の電磁波特性を示すグラフであり、(a)は反射特性、(b)は透過特性、(c)はポスト高さ変化による透過減衰の連続調整時の特性をそれぞれ示している。
【0070】
比較対象モデル1については、
図6(a)、(b)に示すように、透過特性、反射特性ともに200~350GHzにおいて平坦な特性が得られている。可変ポスト5の高さの変化に対する減衰量については、
図6(c)に示すように、0.2~22dBの範囲で連続的に変化しており、また周波数依存性は少ない。
【0071】
一方、比較対象モデル2については、
図7(a)、(b)に示すように、支持孔311からの電磁波の漏出に伴う多重反射による急峻なピークがみられ、平坦性が損なわれている。可変ポスト5の高さの変化に対する減衰量については、
図7(c)に示すように、平坦性が損なわれたことによる周波数依存性が見られる。また、240GHzに着目すると減衰範囲が0.2~17dBと狭くなっていることからも、漏出に伴う損失が生じていることが分かる。
【0072】
また、本発明モデルのように、積層型チョーク構造を設けた場合においては、
図8(aに示すように、歪みが低減されており、平坦性が改善されている。同様に、本発明モデルでの可変ポスト5の高さの変化に対する減衰量については、
図8(c)に示すように、減衰範囲が0.2~20dBと、若干の最大減衰量低減に留まる。漏出が低減されたことにより、
図6(c)と同様に広い可変レンジが得られ、また周波数依存性も低減できている。
【0073】
図6~
図8に示す特性の計算結果から得られた、H面に平行な中心断面の電界強度分布を
図9に示している。
図9に示す電界強度分布はすべて解析周波数300GHzのときの計算結果であり、可変ポスト5の高さhは0.3mmとしている。
【0074】
図9に示す電界強度分布からは以下の点を読み取ることができる。比較対象モデル1のポスト支持部P2の構造では、下部の開放空間部P3に電磁波が漏れ出ることは無いが(
図9(a)参照)、比較対象モデル2のポスト支持部P2の構造では、チョーク構造の部分を通って下部(開放空間部P3)に電磁波(雲形の形状で表されている。)が漏れ出していることが分かる(
図9(b)参照)。
【0075】
また、本発明モデルのポスト支持部P3(ポスト可動保持部8)の構造では、積層プレート部3の積層上段部での電磁波の多少の漏出が存在しつつも、積層下段部に行くにつれて電磁波の漏出が抑えられ、開放空間部P3に対する電磁波の漏出が大幅に減少しており、コルゲート様チョーク構造がチョークとして有効に働いていることが確認できる(
図9(c)参照)。以上のことから、本発明に係る単位プレートの積層構造によるチョーク構造(積層型チョーク構造)により電磁波の漏出阻止が実現できていることが理解できる。
【0076】
なお、上記実施形態(
図1ないし
図9参照)においては、導波管ブロック2は直方体形状とした例を挙げているが、本発明において、導波管ブロック2の形状は直方体形状以外の構成であってもよい。要は、表面に向けて開口された伝送路用溝21が形成された導波管ブロック2と、導電体からなる複数の単位プレートを積層して構成され、伝送路用溝23による導波管21aが形成され、かつ、外部からの挿抜孔が形成されるように表面全体を覆う積層プレート部3と、挿抜孔を経由して導波管21a内に突出し、突出量が連続的に変化するように挿抜孔内を
単位プレート31、32の積層方向に往復駆動される導電体製の可変ポスト5と、を有する構成であれば、導波管ブロック2の形状は問われない。
【0077】
直方体形状以外の形状の導波管ブロック2を用いた場合には、積層プレート部3の形状も違ってくるが、この場合でも、ポスト可動保持部8における挿抜孔の断面形状が段階的に(包絡線を描くように)変化する構造を維持する必要がある。
【0078】
また、上記実施形態では、可変ポスト5を1本だけ設けた構成を例示しているが、可変ポスト5の数も複数あってもよい。この場合、各可変ポスト5が交差するように設けられるようにしてもよい。
【0079】
このように、本発明の一実施形態に係る可変減衰器1は、表面に向けて開口された伝送路用溝21が形成された導波管ブロック2と、導電体からなる複数の単位プレート31、32を積層して構成され、開口が一部開口を残して塞がれて伝送路用溝23による導波管21aが形成され、かつ、複数の単位プレート31、32を積層方向に貫いて導波管21a内に対する一部開口を経由する外部からの挿抜孔が形成されるように表面全体を覆う積層プレート部3と、挿抜孔を経由して導波管21a内に突出し、突出量が連続的に変化するように挿抜孔内を単位プレート31、32の積層方向に往復駆動される導電体製の可変ポスト5と、を有し、突出量を連続的に変化させることで導波管21aを伝送される高周波信号を連続して可変減衰させるものであって、積層プレート部3は、挿抜孔が、可変ポスト5を往復駆動が可能な可動状態に保持するポスト可動保持部8として機能し、当該挿抜孔の中心軸方向の断面形状が上記積層方向に段階的に変化する構造を有している。
【0080】
この構成により、本実施形態に係る可変減衰器1は、導波管21a内に対する外部からの可変ポスト5の挿抜孔の中心軸方向の断面形状が各単位プレート31、32の積層方向に段階的に変化するポスト可動保持部8の構造によって、ポスト可動保持部8と可変ポスト5との隙間からの電磁波の漏出防止効果を高めながらも、各単位プレート31、32を積層するだけでポスト可動保持部8を容易に作成することができる。作成容易であることにより、寸法管理も容易となり、機械加工の高精細化によるより高周波数帯、例えば、ミリ波帯あるいはそれ以上の帯域の信号の減衰処理への対応も可能となる。
【0081】
また、本実施形態に係る可変減衰器1は、導波管ブロック2は、一側面2cに開口を有する伝送路用溝21が形成された直方体形状のブロック体で構成され、積層プレート部3は、単位プレート31、32ごとに所定の孔径の貫通孔35、または所定の孔径より大きな孔径の貫通孔36が設けられ、全ての単位プレート31、32が積層された状態で単位プレート31、32ごとに設けられた貫通孔35、36が積層されて挿抜孔が形成され、挿抜孔は、所定の孔径の貫通孔35と所定の孔径より大きな孔径の貫通孔36が上記積層方向に交互に配列されて段階的に孔径が変化するコルゲート様チョーク構造を形成する構成を有している。
【0082】
この構成により、本実施形態に係る可変減衰器1は、ポスト可動保持部8が、所定の孔径の貫通孔35とこれより大きな孔径の貫通孔36とが積層方向に交互に配列されたコルゲート様の構造を有しているため、異なる孔径の貫通孔35、36を有するチョークプレート31、32を必要数積層し、各チョークプレート31、32に形成された貫通孔35、36の積層によってコルゲート様チョーク構造を形成するシンプルな構造でありながら、電磁波の漏出防止機能を高めることができる。
【0083】
上記構造を有するポスト可動保持部8は、各チョークプレート31、32に所定の孔径の貫通孔35、またはそれより大きな孔径の貫通孔36を形成し、積層する手順で容易に作成することができる。貫通孔35、36を形成する作業は細かい寸法での加工であっても機械加工精度が保ち易く、寸法管理が容易である。寸法管理が容易であることにより、機械加工の高精細化によるより高周波数帯、例えば、ミリ波帯の信号の減衰処理にも精度低下を来すことなく対応可能となる。この構成によれば、可変ポスト5を可動保持するポスト可動保持部8での電磁波の漏出低減を図りながらも該機構の作成及び寸法管理を容易に行え、より高い周波数帯にも対応可能となる。
【0084】
また、本実施形態に係る可変減衰器1において、可変ポスト5は、断面が円形である部材、すなわち、円筒形状部材で構成され、貫通孔35、36は、孔の形が円形である構成を有している。この構成により、本実施形態に係る可変減衰器1は、各単位プレートに貫通孔を形成するに際して円形の孔をあける作業が主となり、高精細の加工が容易である。これにより、機械加工精度を維持可能であり、例えば、ミリ波帯の信号の減衰処理にもより容易に対応できるようになる。
【0085】
また、本実施形態に係る可変減衰器1において、積層プレート部3は、可変ポスト5を可動状態に保持することができる直径X1の貫通孔35が形成された単位プレートA(チョークプレート31)と、直径X1より大きな直径X2の貫通孔36が形成された単位プレートB(チョークプレート32)と、を、複数段積層した構成を有している。
【0086】
この構成により、本実施形態に係る可変減衰器1では、積層プレート部3は、それぞれ孔径が異なる貫通孔35、36が形成されたチョークプレート31、32を必要枚数用意し、各チョークプレート31、32を挿抜孔が形成されるように積層し、可変ポスト5の位置と挿抜孔の位置とが対応する配置とすればよく、シンプルな構造かつ作成容易でありながら電磁波の漏出防止能力に優れる高精細なポスト可動保持部8を実現でき、ミリ波帯の信号の減衰処理にも対応できるようになる。
【0087】
なお、上記実施形態(
図1ないし
図9参照)においては、積層プレート部3が3枚のチョークプレート31と2枚のチョークプレート32を5段積みに積層する構成を例示している。本発明では、積層プレート部3におけるチョークプレート31、32の積層形態については上述した5段積みに限らず、1枚以上の積層から始まってより多くの段数積層する構造とすることも可能である。また、積層プレート部3において、各チョークプレート31、32は、1種類の貫通孔を有するものに限らず、異なる孔径の2つ以上の貫通孔が積層方向(深さ方向)に複数段形成されたものであってもよい。また、位相整合を満たせば、各チョークプレート31、32の厚さは同一でなくてもよい。
【0088】
以上を踏まえ、本発明の変形例に係る積層プレート部3A、3Bの構成について以下に詳しく説明する。
【0089】
(変形例1)
本発明の変形例1に係る積層プレート部3Aの構成を
図10に示している。
図10において、(a)は積層プレート部3Aの要部断面の構成を示している。
図10(a)に示すように、変形例1に係る積層プレート部3Aは、単位プレートA1(以下、チョークプレート31Aという)、単位プレートB1(以下、チョークプレート32Aという)の2種類の単位プレートを用いて3段に重ねた積層構造を有している。
【0090】
図10(a)に示す積層プレート部3Aにおいて、一番上のチョークプレート31Aと2段目、3段目のチョークプレート32Aとは、平面形状は同じであるが、プレート厚さと貫通孔の径及び形状が異なっている。チョークプレート31Aは、例えば、上記実施形態で挙げたポスト可動保持部8を構成するチョークプレート31(
図4(a)参照)と同じものであり、貫通孔35Aもチョークプレート31の貫通孔35と同等である。
【0091】
一方、チョークプレート32Aは、チョークプレート31Aの例えば2倍のプレート厚さを有し、厚さ方向に貫通する貫通孔36Aが設けられている。ここでチョークプレート32Aの貫通孔36Aは、チョークプレート31Aの貫通孔35Aと同一の形状を有する貫通孔下段部36Abと、該貫通孔下段部36Abよりも大きい径を有する貫通孔上段部36Aaとから成り、貫通孔上段部36Aaと貫通孔下段部36Abが深さ方向に段状に連なる構成を有している。より詳しくは、変形例1に係る積層プレート部3Aにおいて、チョークプレート31Aの貫通孔35Aの孔径(この例においては直径)は、例えば、上記実施形態(
図4(b)参照)でも例示したようにX1(
図10(b)参照)であり、チョークプレート32Aの貫通孔36Aは、直径がX1の貫通孔下段部36Abと、直径がX2(X2>X1)の貫通孔上段部36Aaの2段構造を有している。これら貫通孔35A、36A(貫通孔上段部36Aa、貫通孔下段部36Ab)は、平面上で同一位置を中心とする同心円となるように配置されている(
図10(b)、(c)参照)。
【0092】
これにより、変形例1に係る積層プレート部3Aは、1枚のチョークプレート31A、2枚のチョークプレート32Aが
図10(a)に示すように積層された状態において、当該チョークプレート31A、32A、32Aのそれぞれの貫通孔35A、36A(貫通孔上段部36Aa、貫通孔下段部36Ab)、36A(貫通孔上段部36Aa、貫通孔下段部36Ab)が深さ方向に段階的に並んだポスト可動保持部8Aを構成している。ここでチョークプレート31Aの貫通孔35A、2段目と3段目のチョークプレート32Aのそれぞれの貫通孔36Aのうちの各貫通孔下段部36Abは可変ポスト5の保持孔として機能し、2段目と3段目のチョークプレート32Aのそれぞれの貫通孔36Aのうちの各貫通孔上段部36Aaはチョーク孔として機能する。ポスト可動保持部8A全体としての1つの貫通孔については、下方に向けて順に孔径X1、X2、X1、X2、X1が段階的、すなわち、コルゲート(波)状に変化するようになっている。
【0093】
ここで2段目、3段目のチョークプレート32Aのプレート厚さが、例えば、一番上のチョークプレート31Aの2倍で、しかも、貫通孔36Aにおいて、貫通孔上段部36Aa、貫通孔下段部36Abが、例えば、チョークプレート32Aのプレート厚さの半分の厚さに対応する位置で段状となっているものとすると、当該積層プレート部3Aは、上述した実施形態に係る積層プレート部3(
図4(a)参照)における各チョークプレート31、32の5段重ねからなるポスト可動保持部8と同等の積層型チョーク構造を持つポスト可動保持部8Aを実現することとなる。よって、その電磁波漏出防止効果についても、上述した実施形態に係る積層プレート部3におけるポスト可動保持部8と同等の作用効果が期待できるものである。
【0094】
この変形例1に係る積層プレート部3Aのポスト可動保持部8Aの構造によれば、チョークプレート31Aと、積層方向に直径が異なる貫通孔下段部36Abと貫通孔上段部36Aaから成る2段構成の貫通孔36Aが形成されるチョークプレート32Aを積層しているため、単位プレートB1の厚さが増し、積層プレート部3Aとしての強度を増大させることができる。また、プレート総枚数は3枚で済み、プレート枚数の削減が可能であるという作用効果も有する。
【0095】
変形例1においては、大小2段階(貫通孔上段部36Aa、貫通孔下段部36Ab)から成る貫通孔36Aを有するチョークプレート32Aを2枚積層した構成例を挙げているが、本発明は、1つのチョークプレート(単位プレート)に設ける異なる孔径の貫通孔は2段階に限るものではなくそれ以上の段数であってもよい。また、異なる孔径の貫通孔を多段構成としたチョークプレートの積層枚数も2枚以上であってもよい。また、位相整合を満たせば、各チョークプレート31A、および32Aの厚さは適宜自由に設定でき、さらに2段構成の貫通孔36の貫通孔上段部36Aa及び貫通孔下段部36Abの位置関係も適宜自由に設定してもよい。
【0096】
このように、変形例1に係る積層プレート部3Aは、可変ポスト5を可動状態に保持することができる直径X1の貫通孔35Aが形成された単位プレートA1(チョークプレート31A)と、直径X1の貫通孔下段部36Ab、及び直径X1より大きな直径X2の貫通孔上段部36Aaが積層方向に連なる2段構成の貫通孔36Aが形成された単位プレートB1(チョークプレート32A)と、を複数段積層した構成を有している。
【0097】
チョークプレート31A(単位プレートA1)と、積層方向に直径が異なる貫通孔下段部36Abと貫通孔上段部36Aaから成る2段構成の貫通孔36Aが形成されるチョークプレート32A(単位プレートB1)が積層された変形例1に係る積層プレート部3Aの構成によれば、チョークプレート32Aの厚さが増し、積層プレート部3としての強度を増大させることができる。
【0098】
(変形例2)
本発明の変形例2に係る積層プレート部3Bの構成を
図11に示している。
図11において、(a)は積層プレート部3Bの要部断面の構成を示している。
図11(a)に示すように、変形例2に係る積層プレート部3Bは、単位プレートA2(以下、チョークプレート37Aという)、単位プレートB2(以下、チョークプレート37Bという)、単位プレートC2(以下、チョークプレート37Cという)、単位プレートD2(以下、チョークプレート37Dという)、単位プレートE2(以下、チョークプレート37Eという)、単位プレートF2(以下、チョークプレート37Eという)の6種類の単位プレートを2組(単位プレートA2のみ3枚)用いて13段に重ねた積層構造を有している。
【0099】
ここで、6種類のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fは、平面形状とプレート厚さが同じで、それぞれの貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fの孔径(この例においては直径)のみが異なっている。チョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fの各貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fの直径は、
図11(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)に示すように、それぞれ、X11、X12、X13、X14、X15、X16(X11<12<X13<X14<X15<X16)である。
【0100】
上記各貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fの直径は、6種類一組のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fの積層によって実現する段階的な貫通孔断面形状(コルゲートパターン)を見据えてそれぞれ適宜な値に設定すればよい。これら貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fは、平面上で同一位置を中心とする同心円となるような配置である(
図11(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)参照)。
【0101】
変形例2に係る積層プレート部3Bでは、コルゲートパターンとして、例えば、
図11(a)に示すように、一番上のチョークプレート37Aから上から6番目のチョークプレート37Fまでの一組6種類のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fは、直径が順番に大きくなっていくことが前提の積層構造となっている。同様に、上から7番目のチョークプレート37Aから下から2番目のチョークプレート37Fまでのもう一組6種類のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fについても、その上の組の6種類のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fと同じパターンで直径が順番に大きくなっていくことが前提の積層構造となっている。積層プレート部3Bの一番下には、一番上と上から7番目と同様のチョークプレート37Aが積層されている。
【0102】
これにより、
図11(a)に示す変形例2に係る積層プレート部3Bでは、ポスト可動保持部8B全体としての1つの貫通孔の断面形状について、下方に向けて直径が順にX11、X12、X13、X14、X15、X16と6段階順に大きくなり、直径がX16になった後は次いで、直径がX11へと急激に小さくなり、そこからまた下方に向けて直径が順にX11、X12、X13、X14、X15、X16と6段階順に大きくなっていった後、最終的に、直径がX16からX11へと急激に小さくなる貫通孔断面形状を実現している。
【0103】
このように、変形例2に係る積層プレート部3Bは、可変ポスト5を可動状態に保持することができるそれぞれ異なる直径を有する貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fが形成された6種類のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fを2組有し、6種類2組のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fが組ごとに同一の並び順(貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fが順に直径が大きくなるような並び順)で積層方向に周期的に積層された構成を有している。
【0104】
変形例2に係る積層プレート部3Bの構成によれば、上記実施形態に係る積層プレート部3(
図4参照)、変形例1に係る積層プレート部3A(
図10参照)の構成に比べて、コルゲートパターンについてより細かく段階的な断面形状の変化が実現できるようになり、設計の自由度が増す。これにより、電磁波の漏出を低減するためのより有効な断面形状を実現し易くなり、結果として、電磁波の漏出をさらに低減できるようになる。
【0105】
図11においては、変形例2に係る積層プレート部3Bの構成について、6種類2組のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fを用いて、組ごとに貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fの直径が順に大きくなるような積層状態が2回(2周期)繰り返される例を挙げている。
【0106】
変形例2に係る積層プレート部3Bの構成については、
図11に例示したものに限らず、例えば、チョークプレートの種類(平面形状、厚さ、貫通孔の直径等)数及び組数は、所望の断面形状(コルゲートパターン)等に応じて適宜に設定することができる。
図11の例では、組ごとに貫通孔の直径が順番に大きくなるような積層状態が2回(2周期)繰り返される例を挙げているが、逆に、組ごとに貫通孔の直径が順番に小さくなるような積層状態が複数回(複数周期)繰り返される構成であってもよい。さらには、直径が次第に拡がっていきその後に狭まっていくパターン(正弦波形状の変化パターン)を複数回繰り返すコルゲートパターンを採用してもよい。いずれのコルゲートパターンにおいても、チョークプレートの厚さは均等とする構成に限られず、直径の変化も順番に変化するパターンに限られるものではない。また、本発明は、積層プレート部3Bの積層型チョーク構造について上述した変形例2、3を組み合わせた構造としてもよく、その他、種々の変形、あるいは応用が可能である。
【0107】
このように、変形例2に係る積層プレート部3Bは、可変ポスト5を可動状態に保持することができるそれぞれ異なる直径を有する貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fが形成された6種類のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fを2組有し(チョークプレート37Aのみ3枚)、2組6種類のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fが組ごとに同一の並び順で積層方向に周期的に積層された構成を有している。
【0108】
変形例2に係る積層プレート部3Bの構成によれば、それぞれ異なる直径を有する貫通孔38A、38B、38C、38D、38E、38Fが形成された6種類のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fを一組とし、二組のチョークプレート37A、37B、37C、37D、37E、37Fを組ごとに同一の並び順で周期的に積層した構造を有するため、より細かく段階的な断面形状の変化が実現でき、設計の自由度が増し、電磁波の漏出をさらに低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上のように、本発明に係る可変減衰器は、ポストを可動保持する機構での電磁波の漏出低減を図りながらも該機構の作成及び寸法管理を容易に行え、より高い周波数帯にも対応可能であるという効果を奏し、ミリ波帯の信号を扱う通信端末や信号解析装置等に用いる可変減衰器全般に有用である。
【符号の説明】
【0110】
1 可変減衰器
2 導波管ブロック
2c 導波管ブロックの一側面(底面)
3 積層プレート部
5 可変ポスト
8 ポスト可動保持部(挿抜孔)
21 伝送路用溝
21a 導波管
31 チョークプレート(単位プレート、単位プレートA)
31A チョークプレート(単位プレート、単位プレートA1)
32 チョークプレート(単位プレート、単位プレートB)
32A チョークプレート(単位プレート、単位プレートB1)
35、35A 貫通孔
36 貫通孔
36A 貫通孔
36Aa 貫通孔上段部
36Ab 貫通孔下段部
37A、37B、37C、37D、37E、37F チョークプレート(単位プレートA2、B2、C2、D2、E2、F2)
38A、38B、38C、38D、38E、38F 貫通孔