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特許7599464発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法及び発泡粒子成形体の製造方法
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  • 特許-発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法及び発泡粒子成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法及び発泡粒子成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 44/60 20060101AFI20241206BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
B29C44/60
B29C44/00 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022171167
(22)【出願日】2022-10-26
(65)【公開番号】P2024063324
(43)【公開日】2024-05-13
【審査請求日】2024-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木戸 茂富
(72)【発明者】
【氏名】岡村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】松岡 政行
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-237468(JP,A)
【文献】特開昭63-276530(JP,A)
【文献】特開2013-176886(JP,A)
【文献】特開平11-268071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の型と、前記第1の型との間に成形空間を形成可能に構成された第2の型とを備えた成形型を用い、前記第1の型側から前記成形空間にスチームを供給して前記成形空間内の発泡粒子を加熱する第1の一方加熱工程と、前記第1の一方加熱工程の後に前記第2の型側から前記成形空間にスチームを供給して前記成形空間内の発泡粒子を加熱する第2の一方加熱工程と、前記第2の一方加熱工程の後に、前記第1の型側及び前記第2の型側の両方から前記成形空間にスチームを供給して前記成形空間内の発泡粒子を加熱する本加熱工程と、前記本加熱工程において供給されたスチームを前記成形型内に保持する保圧工程とを含む方法によりポリスチレン系樹脂発泡粒子を型内成形してX[%]以上の融着率を有する発泡粒子成形体を得るために、発泡粒子成形体の型内成形条件を設定する設定方法であって、
前記設定方法は、基準条件導出ステップ、スチーム低減条件範囲導出ステップ及び型内成形条件導出ステップを含み、
前記基準条件導出ステップにおいて、第1の一方加熱工程のスチーム圧力及びスチーム量と、第2の一方加熱工程のスチーム圧力及びスチーム量と、本加熱工程のスチーム圧力及びスチーム量とをスチーム加熱条件として含み、保圧工程を実質的に行わずに融着率X[%]がX[%]以上である発泡粒子成形体を作製可能な成形条件を基準条件として導き、
前記スチーム低減条件範囲導出ステップにおいて、前記基準条件のスチーム加熱条件のうち少なくとも一部のスチーム加熱条件を、第1の一方加熱工程のスチーム量と、第2の一方加熱工程のスチーム量と、本加熱工程のスチーム量との合計である合計スチーム量が前記基準条件における合計スチーム量よりも少なくなるように変更し、保圧工程を実質的に行わずに10%以上の融着率X[%]を有する発泡粒子成形体を作製可能な成形条件であるスチーム低減条件の範囲をスチーム低減条件範囲として導き、
前記型内成形条件導出ステップにおいて、前記スチーム低減条件範囲導出ステップで導かれた各スチーム低減条件による第1の一方加熱工程、第2の一方加熱工程及び本加熱工程に、保圧工程の保圧時間tが前記スチーム低減条件における保圧時間よりも長くなるように保圧工程を付加し、融着率がX[%]以上である発泡粒子成形体を作製可能な成形条件の範囲を型内成形条件として導く、発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【請求項2】
前記スチーム低減条件は、
要件1:前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程のスチーム圧力Pa[MPa(G)]が前記基準条件における第1の一方加熱工程のスチーム圧力Pa[MPa(G)]の0.7倍以上1.3倍以下である、
要件2:前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程のスチーム量Wa[kg]が前記基準条件における第1の一方加熱工程のスチーム量Wa[kg]よりも少ない、要件3:前記スチーム低減条件における第2の一方加熱工程のスチーム圧力Pb[MPa(G)]が前記基準条件における第2の一方加熱工程のスチーム圧力Pb[MPa(G)]の0.7倍以上1.3倍以下である、及び
要件4:前記スチーム低減条件における第2の一方加熱工程のスチーム量Wb[kg]が前記基準条件における第2の一方加熱工程のスチーム量Wb[kg]よりも少ない、の4つの要件を満たしている、請求項1に記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【請求項3】
前記スチーム低減条件は、前記基準条件での型内成形により得られる発泡粒子成形体の融着率X[%]と、前記スチーム低減条件での型内成形により得られる発泡粒子成形体の融着率X[%]との差X-Xが5%以上70%以下となるように構成されている、請求項1または2に記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【請求項4】
前記スチーム低減条件は、
要件5:前記スチーム低減条件における本加熱工程のスチーム圧力Pm[MPa(G)]が前記基準条件における本加熱工程のスチーム圧力Pm[MPa(G)]の0.7倍以上1.3倍以下である、及び
要件6:前記スチーム低減条件における本加熱工程のスチーム量Wm[kg]が前記基準条件における本加熱工程のスチーム量Wm[kg]の0.7倍以上1.3倍以下である、の2つの要件を満たしている、請求項1または2に記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【請求項5】
前記スチーム低減条件は、
要件7:前記スチーム低減条件における合計スチーム量[kg]が前記基準条件における合計スチーム量[kg]の0.8倍以下である、の要件を満たしている、請求項1または2に記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【請求項6】
前記スチーム低減条件は、
要件8:前記スチーム低減条件における本加熱工程のスチーム量Wm[kg]が前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程のスチーム量Wa[kg]の0.8倍以上4倍以下である、の要件を満たしている、請求項1または2に記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法を用いて設定された前記型内成形条件によりポリスチレン系樹脂発泡粒子を型内成形して発泡粒子成形体を製造する、発泡粒子成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法及び発泡粒子成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体は、軽量であると共に、圧縮物性等に優れることから、自動車資材、建築資材、物流資材等、種々の分野で用いられている。発泡粒子の型内成形には、第1の型と第2の型とを備え、第1の型と第2の型との間に所望の成形体の形状に対応した成形キャビティが形成されるように構成された成形型が用いられる。このような成形型の成形キャビティに発泡粒子を充填した後、成形型における第1の型及び第2の型に所定の順序でスチームを供給して成形型内の発泡粒子を加熱することにより、所望の形状を備えた成形体を得ることができる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-237468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、発泡粒子成形体の製造に要するエネルギーを削減することが望まれており、かかる観点から、成形体の物性を損なうことなく型内成形時に用いられるスチーム量を削減することが求められている。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、発泡粒子成形体の物性を損なうことなく型内成形時に用いられるスチーム量の削減が可能な型内成形条件を容易に見出すことができる発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法、及び発泡粒子成形体の物性を損なうことなく型内成形時に用いられるスチーム量を削減することができる発泡粒子成形体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、以下の〔1〕~〔6〕に係る発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法にある。
【0007】
〔1〕第1の型と、前記第1の型との間に成形空間を形成可能に構成された第2の型とを備えた成形型を用い、前記第1の型側から前記成形空間にスチームを供給して前記成形空間内の発泡粒子を加熱する第1の一方加熱工程と、前記第1の一方加熱工程の後に前記第2の型側から前記成形空間にスチームを供給して前記成形空間内の発泡粒子を加熱する第2の一方加熱工程と、前記第2の一方加熱工程の後に、前記第1の型側及び前記第2の型側の両方から前記成形空間にスチームを供給して前記成形空間内の発泡粒子を加熱する本加熱工程と、前記本加熱工程において供給されたスチームを前記成形型内に保持する保圧工程とを含む方法によりポリスチレン系樹脂発泡粒子を型内成形してX[%]以上の融着率を有する発泡粒子成形体を得るために、発泡粒子成形体の型内成形条件を設定する設定方法であって、
前記設定方法は、基準条件導出ステップ、スチーム低減条件範囲導出ステップ及び型内成形条件導出ステップを含み、
前記基準条件導出ステップにおいて、第1の一方加熱工程のスチーム圧力及びスチーム量と、第2の一方加熱工程のスチーム圧力及びスチーム量と、本加熱工程のスチーム圧力及びスチーム量とをスチーム加熱条件として含み、保圧工程を実質的に行わずに融着率X[%]がX[%]以上である発泡粒子成形体を作製可能な成形条件を基準条件として導き、
前記スチーム低減条件範囲導出ステップにおいて、前記基準条件のスチーム加熱条件のうち少なくとも一部のスチーム加熱条件を、第1の一方加熱工程のスチーム量と、第2の一方加熱工程のスチーム量と、本加熱工程のスチーム量との合計である合計スチーム量が前記基準条件における合計スチーム量よりも少なくなるように変更し、保圧工程を実質的に行わずに10%以上の融着率X[%]を有する発泡粒子成形体を作製可能な成形条件であるスチーム低減条件の範囲をスチーム低減条件範囲として導き、
前記型内成形条件導出ステップにおいて、前記スチーム低減条件範囲導出ステップで導かれた各スチーム低減条件による第1の一方加熱工程、第2の一方加熱工程及び本加熱工程に、保圧工程の保圧時間tが前記スチーム低減条件における保圧時間よりも長くなるように保圧工程を付加し、融着率がX[%]以上である発泡粒子成形体を作製可能な成形条件の範囲を型内成形条件として導く、発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【0008】
〔2〕前記スチーム低減条件は、
要件1:前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程のスチーム圧力Pa[MPa(G)]が前記基準条件における第1の一方加熱工程のスチーム圧力Pa[MPa(G)]の0.7倍以上1.3倍以下である、
要件2:前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程のスチーム量Wa[kg]が前記基準条件における第1の一方加熱工程のスチーム量Wa[kg]よりも少ない、要件3:前記スチーム低減条件における第2の一方加熱工程のスチーム圧力Pb[MPa(G)]が前記基準条件における第2の一方加熱工程のスチーム圧力Pb[MPa(G)]の0.7倍以上1.3倍以下である、及び
要件4:前記スチーム低減条件における第2の一方加熱工程のスチーム量Wb[kg]が前記基準条件における第2の一方加熱工程のスチーム量Wb[kg]よりも少ない、の4つの要件を満たしている、〔1〕に記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【0009】
〔3〕前記スチーム低減条件は、前記基準条件での型内成形により得られる発泡粒子成形体の融着率X[%]と、前記スチーム低減条件での型内成形により得られる発泡粒子成形体の融着率X[%]との差X-Xが5%以上70%以下となるように構成されている、〔1〕または〔2〕に記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
〔4〕前記スチーム低減条件は、
要件5:前記スチーム低減条件における本加熱工程のスチーム圧力Pm[MPa(G)]が前記基準条件における本加熱工程のスチーム圧力Pm[MPa(G)]の0.7倍以上1.3倍以下である、及び
要件6:前記スチーム低減条件における本加熱工程のスチーム量Wm[kg]が前記基準条件における本加熱工程のスチーム量Wm[kg]の0.7倍以上1.3倍以下である、の2つの要件を満たしている、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【0010】
〔5〕前記スチーム低減条件は、
要件7:前記スチーム低減条件における合計スチーム量[kg]が前記基準条件における合計スチーム量[kg]の0.8倍以下である、の要件を満たしている、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
〔6〕前記スチーム低減条件は、
要件8:前記スチーム低減条件における本加熱工程のスチーム量Wm[kg]が前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程のスチーム量Wa[kg]の0.8倍以上4倍以下である、の要件を満たしている、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法。
【0011】
本発明の他の態様は、以下の〔7〕に係る発泡粒子成形体の製造方法にある。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法を用いて設定された前記型内成形条件によりポリスチレン系樹脂発泡粒子を型内成形して発泡粒子成形体を製造する、発泡粒子成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
前記の態様によれば、発泡粒子成形体(以下、「成形体」という。)の物性を損なうことなく型内成形時に用いられるスチーム量の削減が可能な型内成形条件を容易に見出すことができる発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法、及び成形体の物性を損なうことなく型内成形時に用いられるスチーム量を削減することができる発泡粒子成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法のフローチャートを示す説明図である。
図2図2は、発泡粒子の型内成形に用いる成形型の要部を示す一部断面図である。
図3図3は、発泡粒子の型内成形方法のフローチャートを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法)
前記型内成形条件の設定方法は、図1に示すように、基準条件導出ステップS1、スチーム低減条件範囲導出ステップS2及び型内成形条件導出ステップS3を有している。前記設定方法は、これらのステップを行うことにより、ポリスチレン系樹脂発泡粒子(以下、「発泡粒子」という。)の型内成形において、使用するスチームの量を低減しつつ所望の融着率X(単位:%)以上の融着率を有する成形体を得るための型内成形条件を設定することができるように構成されている。前記設定方法により設定される型内成形条件は、例えば、以下の型内成形方法に適用することができる。
【0015】
型内成形に用いる成形型は、例えば図2に示すように、第1の型2と第2の型3とを備えている。第1の型2及び第2の型3のうち少なくとも一方の型は成形型1の開閉方向に移動可能に構成されている。また、第1の型2と第2の型3とは、成形型1が完全に閉じられた状態において互いに当接し、両者の間に成形空間11が形成されるように構成されている。成形空間11は、所望する成形体の形状に対応した形状を有していればよい。
【0016】
第1の型2及び第2の型3は、それぞれ中空構造を有しており、各型の内部空間と成形空間とが連通するように構成されている。例えば、第1の型2及び第2の型3は、成形空間11に対面する内壁部23、33に、各型の内部空間と成形空間11との間を連通させる複数のコアベント(図示略)を有していてもよい。これにより、第1の型2及び第2の型3の内部空間に供給されたスチームが内壁部23、33のコアベントに形成された貫通溝等を通り、成形空間11に到達することができる。
【0017】
発泡粒子の型内成形方法は、図3に示すように、充填工程P1、第1の一方加熱工程P3、第2の一方加熱工程P4及び本加熱工程P5を有している。
【0018】
充填工程P1においては、成形型1の成形空間11内に発泡粒子を充填する。成形空間内に充填する発泡粒子は、ポリスチレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子であれば特に限定されることはなく、公知のポリスチレン系樹脂発泡粒子を使用することができる。ここで、前述したポリスチレン系樹脂とは、スチレン系単量体に由来する成分の含有量が50モル%を超える樹脂をいう。ポリスチレン系樹脂の成形加工性と機械的物性とをバランスよく向上させる観点からは、ポリスチレン系樹脂におけるスチレン系単量体に由来する成分の含有量は80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0019】
なお、ポリスチレン系樹脂発泡粒子は、例えば、ポリスチレン系樹脂を基材樹脂とし、有機物理発泡剤を含む発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させることにより得ることができる。前記有機物理発泡剤としては、例えば、炭素数3以上6以下の炭化水素などが挙げられる。
【0020】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、例えば懸濁重合等の従来公知の方法によって製造することができる。また、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡方法については、従来公知の方法を採用することができる。例えば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子にスチーム等の加熱媒体を供給し、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱することにより発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させることができる。より具体的には、例えば撹拌装置の付いた円筒形の発泡機を用いて、スチーム等により発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱することにより発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡させることができる。
【0021】
ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体及びスチレン系単量体を含む共重合体を使用することができる。より具体的には、ポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン(GPPS)やスチレンを主成分とするスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-メチルスチレン共重合体、スチレン-ジメチルスチレン共重合体、スチレン-エチルスチレン共重合体、スチレン-ジエチルスチレン共重合体等であってもよい。
【0022】
前記型内成形方法においては、充填工程P1が完了した後、第1の一方加熱工程P3を行う前に、必要に応じて、成形型1内の空気を成形型1の外部へ排気する排気工程P2(図3参照)を行ってもよい。排気工程P2においては、例えば、第1の型2側及び第2の型3側の両方から成形空間11にスチームを供給し、成形型1内の空気をスチームと置き換える方法等を採用することができる。
【0023】
排気工程P2を行う場合、例えば、第1の型2及び第2の型3に供給するスチームの圧力は0.02MPa(G)以上1MPa(G)以下であることが好ましく、0.03MPa(G)以上0.06MPa(G)以下であることがより好ましい。また、排気工程P2においては、前述した圧力のスチームを例えば1~5秒供給することが好ましい。
【0024】
充填工程P1または必要に応じて行われる排気工程P2が完了した後、第1の型2側から成形空間11にスチームを供給して成形空間11内の発泡粒子を加熱する第1の一方加熱工程P3を行う。第1の一方加熱工程P3においては、第1の型2に供給するスチームのスチーム圧力Paとスチーム量Waとを制御することにより、成形空間11内の発泡粒子の加熱の程度を制御することができる。なお、第1の一方加熱工程P3においては、例えば後述するように、第1の型2のスチーム供給弁と、第2の型3のドレン弁を開放すると共に、これら以外のスチーム供給弁及びドレン弁を閉鎖することで、第1の型2側から第2の型3側に向かってスチームを流すことができる。これにより、成形空間11内の発泡粒子を加熱することができる。
【0025】
第1の一方加熱工程P3が完了した後、第2の型3側から成形空間11にスチームを供給して成形空間11内の発泡粒子を加熱する第2の一方加熱工程P4を行う。第2の一方加熱工程P4においては、第2の型3に供給するスチームのスチーム圧力Pbとスチーム量Wbとを制御することにより、成形空間11内の発泡粒子の加熱の程度を制御することができる。なお、第2の一方加熱工程P4においては、例えば後述するように、第2の型3のスチーム供給弁と、第1の型2のドレン弁を開放すると共に、これら以外のスチーム供給弁及びドレン弁を閉鎖することで、第2の型3側から第1の型2側にスチームを流すことができる。これにより、成形空間11内の発泡粒子を加熱することができる。
【0026】
第2の一方加熱工程P4が完了した後、第1の型2側及び第2の型3側の両方から成形空間11にスチームを供給して成形空間11内の発泡粒子を加熱する本加熱工程P5を行う。本加熱工程P5においては、第1の型2及び第2の型3に供給するスチームのスチーム圧力Pmとスチーム量Wmとを制御することにより、成形空間11内の発泡粒子の加熱の程度や成形型1の内壁部に加わる圧力(面圧)の程度を制御することができる。なお、本加熱工程P5においては、例えば後述するように、第1の型2のスチーム供給弁と、第2の型3のスチーム供給弁を開放すると共に、各型のドレン弁を閉鎖することで、成形空間11内の圧力を高めることができる。これにより、成形空間11内の発泡粒子を加熱しつつ、成形型1に加わる面圧を高めることができる。
【0027】
本加熱工程P5が完了した後、本加熱工程P5において成形型1に供給されたスチームを成形型1内に保持する保圧工程P6を行う。保圧工程P6においては、保圧時間t(単位:秒)、つまり、成形型1内に供給されたスチームを保持する時間を制御することにより、成形空間11内の発泡粒子の加熱の程度を制御することができる。なお、保圧工程P6においては、例えば後述するように、各型のスチーム供給弁及びドレン弁を閉鎖することで、成形空間11内に供給されたスチームを成形空間11内に保持することができる。これにより、成形型1に加わる面圧の低下を緩やかにし、成形型1にスチームを供給することなく、成形空間11内の発泡粒子が所望の圧力下で加熱される状態を長く維持することができる。
【0028】
前記型内成形方法においては、保圧工程P6までに行った加熱により、成形空間11内の発泡粒子を二次発泡させつつ互いに融着させて成形体を形成することができる。保圧工程P6が完了した後、必要に応じて成形型1内の成形体を冷却する冷却工程P7を行ってもよい。成形型1内で成形体の形状をある程度安定させた後に成形型1を開くことにより、成形体を得ることができる。
【0029】
次に、前記型内成形条件の設定方法における各ステップをより詳細に説明する。
【0030】
〔基準条件導出ステップS1〕
基準条件導出ステップS1では、前述した型内成形方法において、保圧工程P6を実質的に行うことなく融着率X(単位:%)が目標融着率X以上である成形体を作製可能な成形条件を基準条件として導く。ここで、前述した「保圧工程P6を実質的に行わない」成形条件には、保圧工程P6を行わない(つまり、保圧時間tが0秒である)成形条件と、保圧時間tが0秒よりも大きく、かつ、成形型内に保持されたスチームが成形体の融着率の向上に大きく影響しない値以下である成形条件とが含まれる。より具体的には、「保圧工程P6を実質的に行わない」成形条件には、保圧時間tが例えば0秒以上5秒未満である成形条件が含まれる。また、目標融着率Xは、成形体の用途や形状等に応じて要求される値とすることができる。例えば、目標融着率Xは80%としてもよく、85%としてもよく、90%としてもよい。
【0031】
より具体的には、基準条件導出ステップS1においては、図3に示した型内成形方法におけるスチーム圧力Pa、Pb、Pm及びスチーム量Wa、Wb、Wmを種々変更して工程P1~P5を行い、保圧工程P6を実質的に行わずに型内成形を行う。この際、保圧時間tは、前述した範囲内であれば変動してもよいが、好適な基準条件を導きやすくする観点からは、一定の値であることが好ましい。
【0032】
このようにして得られた成形体の融着率を測定し、目標融着率X以上の融着率を有する成形体を作製可能な成形条件を基準条件の候補とする。
【0033】
融着率の測定方法は、例えば以下の通りである。まず、成形体を概ね等分となるように折り曲げて破断させる。この際、成形体を破断させやすくするために、予め成形体に切り込みを入れてもよい。その後、成形体の破断面に露出した発泡粒子から無作為に100個以上の発泡粒子を選択して目視観察し、発泡粒子がその内部から破断している(つまり、材料破壊している)か、発泡粒子同士の界面で破断している(つまり、界面破壊している)かを判別する。そして、目視観察した発泡粒子の総数に対する、材料破壊している発泡粒子の総数の比率を百分率で表した値を成形体の融着率(単位:%)とする。
【0034】
基準条件の候補には、実際に成形体を作製し、融着率を測定した成形条件の他に、目標融着率X以上の融着率を達成できることを実験的に確認した成形条件に基づいて、目標融着率X以上の融着率Xを達成できると推定される成形条件が含まれていてもよい。すなわち、基準条件の候補には、融着率を実際に測定していない成形条件が含まれ得る。例えば、成形体の融着率は、通常、発泡粒子に加わる熱量が多くなるほど高くなる傾向がある。従って、スチーム圧力が同一であり、スチーム量が互いに異なる2つの成形条件のいずれにおいても目標融着率X以上の融着率Xを達成できる場合には、これら2つの成形条件におけるスチーム量の中間のスチーム量を有する成形条件についても、目標融着率X以上の融着率Xを達成できると推定できる。
【0035】
以上により得られた基準条件の候補の中から選択したいずれか1つの成形条件を基準条件として導く。このようにして導かれる基準条件には、少なくとも、第1の一方加熱工程P3でのスチーム圧力Pa(単位:MPa(G))及びスチーム量Wa(単位:kg)と、第2の一方加熱工程P4でのスチーム圧力Pb(単位:MPa(G))及びスチーム量Wb(単位:kg)と、本加熱工程P5でのスチーム圧力Pm(単位:MPa(G))及びスチーム量Wm(単位:kg)と、の6つのスチーム加熱条件が含まれている。基準条件の候補から基準条件を選択する方法は特に限定されることはないが、後に行うスチーム低減条件範囲導出ステップS2を効率よく行う観点からは、所定の融着率を満足していることを前提として、合計スチーム量W(単位:kg)、つまり、第1の一方加熱工程P3のスチーム量Waと、第2の一方加熱工程P4のスチーム量Wbと、本加熱工程P5のスチーム量Wmとの合計の最も少ない成形条件を基準条件として導くことが好ましい。
【0036】
〔スチーム低減条件範囲導出ステップS2〕
スチーム低減条件範囲導出ステップS2では、基準条件のスチーム加熱条件のうち少なくとも一部のスチーム加熱条件を変更し、基準条件における合計スチーム量Wよりも少ない合計スチーム量W(単位:kg)で、保圧工程P6を実質的に行わずに10%以上の融着率X(単位:%)を有する成形体を作製可能な成形条件であるスチーム低減条件の範囲を導く。
【0037】
より具体的には、スチーム低減条件範囲導出ステップS2においては、基準条件における第1の一方加熱工程P3のスチーム量Wa、第2の一方加熱工程P4のスチーム量Wb及び本加熱工程P5のスチーム量Wmのうち1つ以上のスチーム加熱条件を、合計スチーム量W2が基準条件における合計スチーム量Wよりも少なくなるように変更して型内成形を行う。また、スチーム低減条件範囲導出ステップS2においては、スチーム量Wa、Wb及びWmに加え、基準条件におけるスチーム圧力Pa、Pb及び圧力Pmのうち1つ以上のスチーム加熱条件を変更して型内成形を行ってもよい。
【0038】
なお、前述した「保圧工程P6を実質的に行わない」成形条件には、保圧工程P6を行わない(つまり、保圧時間tが0秒である)成形条件が含まれる。より具体的には、「保圧工程P6を実質的に行わない」成形条件には、保圧時間tが例えば0秒以上5秒未満である成形条件が含まれる。また、スチーム低減条件範囲導出ステップS2における保圧時間tは、基準条件導出ステップS1と同様に、前述した範囲内であれば変動してもよいが、好適なスチーム低減条件を導きやすくする観点からは、一定の値であることが好ましい。
【0039】
このようにして得られた成形体の融着率を測定し、10%以上の融着率Xを有する成形体を作製可能なスチーム低減条件の範囲をスチーム低減条件範囲として導く。目標融着率Xを達成可能な型内成形条件をより導き易くする観点からは、融着率Xは20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。スチーム低減条件範囲には、実際に成形体を作製し、融着率を測定したスチーム低減条件の他に、前記特定の範囲の融着率を達成できることを実験的に確認したスチーム低減条件に基づいて、前記特定の範囲の融着率を達成できると推定されるスチーム低減条件が含まれていてもよい。すなわち、スチーム低減条件範囲には、融着率を実際に測定していないスチーム低減条件が含まれ得る。
【0040】
このようにして導かれるスチーム低減条件範囲は、少なくとも、第1の一方加熱工程P3でのスチーム圧力Pa(単位:MPa(G))及びスチーム量Wa(単位:kg)と、第2の一方加熱工程P4でのスチーム圧力Pb(単位:MPa(G))及びスチーム量Wb(単位:kg)と、本加熱工程P5でのスチーム圧力Pm(単位:MPa(G))及びスチーム量Wm(単位:kg)と、の6つのスチーム加熱条件を備えた1つ以上のスチーム低減条件から構成される。
【0041】
前記スチーム低減条件は、
要件1:前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程P3のスチーム圧力Paが前記基準条件における第1の一方加熱工程P3のスチーム圧力Paの0.7倍以上1.3倍以下である、
要件2:前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程P3のスチーム量Waが前記基準条件における第1の一方加熱工程P3のスチーム量Waよりも少ない、
要件3:前記スチーム低減条件における第2の一方加熱工程P4のスチーム圧力Pbが前記基準条件における第2の一方加熱工程P4のスチーム圧力Pbの0.7倍以上1.3倍以下である、及び
要件4:前記スチーム低減条件における第2の一方加熱工程P4のスチーム量Wbが前記基準条件における第2の一方加熱工程P4のスチーム量Wbよりも少ない、の4つの要件を満たしていることが好ましい。
【0042】
第1の一方加熱工程P3において第1の型2に供給されたスチームは、通常、成形空間11を通り、第2の型3から成形型1の外部へ導かれる。同様に、第2の一方加熱工程P4において第2の型3に供給されたスチームは、通常、成形空間11を通り、第1の型2から成形型1の外部へ導かれる。そのため、前記型内成形方法においては、第1の一方加熱工程P3において使用されるスチーム量Wa及び第2の一方加熱工程P4において使用されるスチーム量Wbが多くなりやすいという問題があった。
【0043】
これに対し、前述したように、第1の一方加熱工程P3のスチーム圧力Pa及び第2の一方加熱工程P4のスチーム圧力Pbの範囲を前記要件1及び要件3において特定した範囲とすることにより、所定の融着率Xを満たす成形体を製造可能にしつつ、第1の一方加熱工程P3のスチーム量Wa及び第2の一方加熱工程P4のスチーム量Wbを削減可能な範囲を容易に導くことができ、かつ、保圧工程P6の付加によって目標融着率Xを達成可能な条件範囲をより容易に導くことができる。さらに、スチームの使用量が比較的多くなりやすい第1の一方加熱工程P3及び第2の一方加熱工程P4においてスチーム量を削減することにより、合計スチーム量Wをより効果的に削減することができる。
【0044】
前述した効果をより確実に得る観点からは、要件1において、前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程P3のスチーム圧力Paが前記基準条件における第1の一方加熱工程P3のスチーム圧力Paの0.8倍以上1.2倍以下であることがより好ましく、0.9倍以上1.1倍以下であることがさらに好ましい。また、要件3において、前記スチーム低減条件における第2の一方加熱工程P4のスチーム圧力Pbが前記基準条件における第2の一方加熱工程P4のスチーム圧力Pbの0.8倍以上1.2倍以下であることがより好ましく、0.9倍以上1.1倍以下であることがさらに好ましい。
【0045】
前記スチーム低減条件は、前記基準条件での型内成形により得られる成形体の融着率Xと、前記スチーム低減条件での型内成形により得られる成形体の融着率Xとの差X-Xが5%以上70%以下となるように構成されていることが好ましい。融着率の差X-Xを前記特定の範囲とすることにより、合計スチーム量を低減しつつ、保圧工程P6の付加により目標融着率Xを達成可能なスチーム低減条件範囲をより容易に導くことができる。
【0046】
合計スチーム量をより低減する観点からは、融着率の差X-Xは7%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、15%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。一方、目標融着率Xを達成可能な型内成形条件をより容易に導く観点からは、融着率の差X-Xは70%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましく、50%以下であることが特に好ましく、40%以下であることが最も好ましい。
【0047】
なお、融着率の差X-Xの好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した融着率の差X-Xの上限の値と下限の値とを任意に組み合わせることができる。例えば、融着率の差X-Xの好ましい範囲は、7%以上70%以下であってもよく、10%以上60%以下であってもよく、15%以上50%以下であってもよく、20%以上40%以下であってもよい。
【0048】
また、前記スチーム低減条件は、
要件5:前記スチーム低減条件における本加熱工程P5のスチーム圧力Pmが前記基準条件における本加熱工程P5のスチーム圧力Pmの0.7倍以上1.3倍以下である、及び
要件6:前記スチーム低減条件における本加熱工程P5のスチーム量Wmが前記基準条件における本加熱工程P5のスチーム量Wmの0.7倍以上1.3倍以下である、の2つの要件を満たしていることが好ましい。このように、スチーム低減条件における本加熱工程P5のスチーム圧力及びスチーム量を、基準条件における本加熱工程P5のスチーム圧力及びスチーム量に近づけることで、好適なスチーム低減条件を導きやすくなり、保圧工程P6の付加により目標融着率Xを達成可能な条件範囲をより容易に導くことができる。
【0049】
前述した効果をより確実に得る観点からは、要件5において、前記スチーム低減条件における本加熱工程P5のスチーム圧力Pmが前記基準条件における本加熱工程P5のスチーム圧力Pmの0.8倍以上1.2倍以下であることがより好ましく、0.9倍以上1.1倍以下であることがさらに好ましい。また、要件6において、前記スチーム低減条件における本加熱工程P5のスチーム量Wmが前記基準条件における本加熱工程P5のスチーム量Wmの0.8倍以上1.2倍以下であることがより好ましく、0.9倍以上1.1倍以下であることがさらに好ましい。
【0050】
前記スチーム低減条件は、
要件7:前記スチーム低減条件における合計スチーム量Wが、前記基準条件における合計スチーム量Wの0.8倍以下である、の要件を満たしていることが好ましい。この場合には、合計スチーム量をより確実に低減することができる。
【0051】
前記スチーム低減条件は、
要件8:前記スチーム低減条件における本加熱工程P5のスチーム量Wmが前記スチーム低減条件における第1の一方加熱工程P3のスチーム量Waの0.8倍以上4倍以下である、の要件を満たしていることが好ましい。この場合には、合計スチーム量を低減しつつ、保圧工程P6の付加により目標融着率Xを達成可能なスチーム低減条件範囲をより容易に導くことができる。
【0052】
〔型内成形条件導出ステップS3〕
型内成形条件導出ステップS3では、スチーム低減条件範囲導出ステップで導かれた各スチーム低減条件による第1の一方加熱工程P3、第2の一方加熱工程P4及び本加熱工程P5に、保圧工程P6の保圧時間t(単位:秒)が当該スチーム低減条件における保圧時間t(単位:秒)よりも長くなるように保圧工程P6を付加し、融着率がX以上である成形体を作製可能な成形条件の範囲を型内成形条件として導く。
【0053】
より具体的には、型内成形条件導出ステップS3においては、スチーム低減条件におけるスチーム圧力Pa、Pb、Pm及びスチーム量Wa、Wb、Wmを、各工程P3~P5でのスチーム圧力及びスチーム量として採用するとともに、保圧時間tを当該スチーム低減条件における保圧時間tよりも長い値に種々変更して型内成形を行う。このようにして得られた成形体の融着率を測定し、目標融着率X以上の融着率を有する成形体を作製可能な成形条件の範囲を型内成形条件として導く。成形体の成形サイクルを過度に長くすることなく、融着率の高い成形体を安定して得やすくなる観点からは、型内成形条件導出ステップS3における型内成形条件の保圧時間tは、5秒以上30秒以下であることが好ましく、8秒以上25秒以下であることがより好ましい。
【0054】
型内成形条件の導出に当たって使用するスチーム低減条件の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。より少ないスチーム量で良好な成形体を得られる型内成形条件をより容易に導く観点からは、型内成形条件導出ステップS3において、スチーム低減条件の合計スチーム量Wが、前記基準条件における合計スチーム量Wの0.8倍以下であるスチーム低減条件を用いて型内成形条件を導くことが好ましい。同様の観点から、型内成形条件導出ステップS3において用いるスチーム低減条件の合計スチーム量Wは、基準条件における合計スチーム量Wの0.75倍以下であることがより好ましく、0.7倍以下であることがさらに好ましい。
【0055】
また、得られる成形体の融着率をより高める観点からは、型内成形条件導出ステップS3においては、目標融着率Xに対して0.5倍以上の融着率Xを達成できるスチーム低減条件を用いて型内成形条件を導くことが好ましい。同様の観点から、型内成形条件導出ステップS3において用いるスチーム低減条件は、目標融着率Xに対して0.6倍以上の融着率Xを達成できるように構成されていることがより好ましく、0.7倍以上の融着率Xを達成できるように構成されていることがさらに好ましい。
【0056】
型内成形条件導出ステップS3において導かれる型内成形条件には、1つの成形条件が含まれていてもよく、2つ以上の成形条件が含まれていてもよい。また、型内成形条件には、実際に成形体を作製し、融着率を測定した成形条件の他に、目標融着率X以上の融着率を達成できることを実験的に確認した成形条件に基づいて、目標融着率X以上の融着率を達成できると推定される成形条件が含まれていてもよい。すなわち、型内成形条件には、融着率を実際に測定していない成形条件が含まれ得る。例えば、保圧時間tが互いに異なる2つの成形条件のいずれにおいても目標融着率X以上の融着率Xを達成できる場合には、これら2つの成形条件における保圧時間の中間の保圧時間を有する成形条件についても、目標融着率X以上の融着率を達成できると推定できる。
【0057】
前記型内成形条件導出ステップにおいて導かれる型内成形条件は、前記型内成形条件導出ステップにおける本加熱工程P5において前記成形型1に加わる面圧の最大値Fmaxが0.09MPa(G)以上0.12MPa(G)以下となり、前記型内成形条件導出ステップにおける前記保圧工程P6において前記成形型1に加わる面圧がFmax-0.01MPa以上となる時間が4秒以上20秒以下となるように構成されていることが好ましい。この場合には、合計スチーム量を低減しつつ、目標融着率Xをより容易に達成することができる。また、成形体の成形サイクルを短縮しやすくなるため、成形体の生産性をより高めることができる。
【0058】
なお、成形型1に加わる面圧は、一方の型から他方の型を型締め方向に沿ってみたときの成形面(内壁部)の中央部付近に、型内成形中に生じる圧力を測定することにより得られる。面圧の測定には面圧計を用いればよい。面圧計は、第1の型2に設けてもよく、第2の型3に設けてもよい。
【0059】
(発泡粒子成形体の製造方法)
発泡粒子成形体を製造するに当たっては、前記型内成形条件の設定方法を用いて設定された前記型内成形条件により発泡粒子を型内成形して発泡粒子成形体を製造することが好ましい。前述したように、前記型内成形条件の設定方法によれば、基準条件よりもスチームの使用量を削減しつつ、基準条件での型内成形により得られる成形体と比べても遜色ない融着率を有する成形体を得られる型内成形条件を導くことができる。従って、前記型内成形条件を採用して型内成形を行うことにより、スチームの使用量を削減しつつ、良好な物性を有する成形体を容易に得ることができる。また、前記設定方法により設定される型内成形条件は、基準条件導出ステップで設定される基準条件の成形サイクルと同等の成形サイクル、または基準条件導出ステップで設定される成形条件の成形サイクルよりも短い成形サイクルで型内成形を行うことが可能となり、生産性にも優れる。
【0060】
前記型内成形条件の設定方法において複数の成形条件を含む型内成形条件が導かれた場合には、前記製造方法においては、これら複数の成形条件のうちいずれの成形条件を用いて型内成形を行ってもよい。スチームの使用量を低減する観点からは、型内成形条件に含まれる成形条件のうち、合計スチーム量が最も少ない成形条件を採用して型内成形を行うことが好ましい。
【実施例
【0061】
(実施例1)
前記型内成形条件の設定方法の実施例を以下に説明する。本例においては、ポリスチレンからなる発泡粒子を用い、縦1000mm、横600mm、厚み50mmの平板状の成形体を作製する場合の型内成形条件の導出を行った。
【0062】
本例において使用する成形型1の具体的な構成を、図2を参照しつつ説明する。図2に示すように、成形型1は、第1の型2と第2の型3とを有している。第1の型2は固定されており、第2の型3は第1の型2に対して成形型1の開閉方向に移動することができるように構成されている。第1の型2と第2の型3との間には、前述した形状の成形体を成形可能な成形空間11が設けられている。
【0063】
第1の型2は中空構造を有している。また、第1の型2は、成形型1の外部から第1の型2の内部空間にスチームを供給可能に構成された第1スチーム供給弁21と、第1の型2の内部空間から成形型1の外部へスチームを導出可能に構成された第1ドレン弁22と、を有している。第1の型2における成形空間11に対面する内壁部23には、図には示さないが、第1の型2の内部空間と成形空間11との間を連通させる複数のコアベントが穿設されている。
【0064】
第1の型2の内部空間には、内壁部23に水を散布可能に構成された第1散水ノズル24が設けられている。
【0065】
また、第1の型2の内壁部23には、内壁部23に加わる圧力(つまり、面圧)を計測可能に構成された面圧計(図示略)が取り付けられている。なお、面圧計は、第2の型3から第1の型2を型締め方向に沿ってみたときの、内壁部23の中央部付近に設けられている。より具体的には、面圧計は、内壁部23における、成形体の縦1000mm、横600mmの面の中央部付近に対応する位置に設けられている。型内成形の過程で加熱された発泡粒子は、二次発泡しつつ互いに融着して成形体となる。そのため、内壁部33に面圧計を設けることにより、発泡粒子の二次発泡に伴う面圧の変化を通じて型内成形の進行状況を容易に把握することができる。なお、面圧計は、第2の型3の内壁部33に取り付けられていてもよい。
【0066】
図には示さないが、第1スチーム供給弁21に接続されたスチーム配管には、スチームの圧力を測定可能に構成された圧力ゲージと、スチームの流量を測定可能に構成された流量計とが取り付けられている。これにより、第1スチーム供給弁21から第1の型2に供給されるスチームの圧力及び量を計測することができる。
【0067】
第2の型3も、第1の型2と同様に中空構造を有している。また、第2の型3は、成形型1の外部から第2の型3の内部空間にスチームを供給可能に構成された第2スチーム供給弁31と、第2の型3の内部空間から成形型1の外部へスチームを導出可能に構成された第2ドレン弁32と、を有している。第2の型3における成形空間11に対面する内壁部33には、図には示さないが、第2の型3の内部空間と成形空間11との間を連通させる複数のコアベントが穿設されている。
【0068】
第2の型3の内部空間には、内壁部33に水を散布可能に構成された第2散水ノズル34が設けられている。
【0069】
図には示さないが、第2スチーム供給弁31に接続されたスチーム配管には、スチームの圧力を測定可能に構成された圧力ゲージと、スチームの流量を測定可能に構成された流量計とが取り付けられている。これにより、第2スチーム供給弁31から第2の型3に供給されるスチームの圧力及び量を計測することができる。
【0070】
本例における発泡粒子の型内成形は、図3に示す手順で実施する。すなわち、まず、成形型1の成形空間11内に発泡粒子を充填する充填工程P1を実施する(ステップP1)。本例において使用した発泡粒子はポリスチレンを基材樹脂とするポリスチレン系樹脂発泡粒子である。また、発泡粒子の嵩倍率は60倍である。なお、発泡粒子の嵩密度は、以下の方法により測定することができる。
【0071】
まず、発泡粒子群をメスシリンダー内に充填し、メスシリンダーの底面で床面を数度、軽く叩くことにより、メスシリンダー内の発泡粒子群の充填高さを安定させる。その後、メスシリンダーの目盛から発泡粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取る。そして、メスシリンダー内の発泡粒子群の質量(単位:g)を前述した嵩体積で除した値を単位換算することにより、発泡粒子の嵩密度(単位:kg/m3)を得ることができる。
【0072】
充填工程P1が完了した後、成形型1内の空気をスチームによって成形型1の外部へ押し流す排気工程P2を行う。本例の排気工程P2においては、図2に示す第1スチーム供給弁21、第1ドレン弁22、第2スチーム供給弁31及び第2ドレン弁32を開放した状態で、第1スチーム供給弁21から第1の型2にスチームを供給するとともに、第2スチーム供給弁31から第2の型3にスチームを供給する。これにより、第1の型2の内部空間及び第2の型3の内部空間に滞留していた空気をスチームと置き換えることができる。
【0073】
排気工程P2が完了した後、図3に示すように、第1の型2側から成形空間11にスチームを供給する第1の一方加熱工程P3を実施する。本例の第1の一方加熱工程P3では、図2に示す第1スチーム供給弁21及び第2ドレン弁32を開放するとともに、その他の弁を閉鎖する。この状態で第1スチーム供給弁21から第1の型2にスチームを供給することにより、スチームを第1の型2の内部空間に導入する。第1の型2の内部空間に導入されたスチームは、第1の型2の内壁部23に設けられたコアベントを介して成形空間11に流入する。これにより、成形空間11内の発泡粒子が加熱される。その後、成形空間11内のスチームは、第2の型3の内壁部33に設けられたコアベントを介して第2の型3の内部空間に導かれ、第2ドレン弁32から成形型1の外部へ導出される。
【0074】
第1の一方加熱工程P3が完了した後、図3に示すように、第2の型3側から成形空間11にスチームを供給する第2の一方加熱工程P4を実施する。本例の第2の一方加熱工程P4では、図2に示す第2スチーム供給弁31及び第1ドレン弁22を開放するとともに、その他の弁を閉鎖する。この状態で第2スチーム供給弁31から第2の型3にスチームを供給することにより、スチームを第2の型3の内部空間に導入する。第2の型3の内部空間に導入されたスチームは、第2の型3の内壁部33に設けられたコアベントを介して成形空間11に流入する。これにより、成形空間11内の発泡粒子が加熱される。その後、成形空間11内のスチームは、第1の型2の内壁部23に設けられたコアベントを介して第1の型2の内部空間に導かれ、第1ドレン弁22から成形型1の外部へ導出される。
【0075】
第2の一方加熱工程P4が完了した後、図3に示すように、第1の型2側及び第2の型3側の両方から成形空間11にスチームを供給する本加熱工程P5を実施する。本例の本加熱工程P5では、図2に示す第1スチーム供給弁21及び第2スチーム供給弁31を開放するとともに、その他の弁を閉鎖する。この状態で第1スチーム供給弁21から第1の型2にスチームを供給するとともに、第2スチーム供給弁31から第2の型3にスチームを供給することにより、第1の型2の内部空間及び第2の型3の内部空間にスチームを導入する。これらの型の内部空間に導入されたスチームは、内壁部23、33に設けられたコアベントを介して成形空間11に流入する。これにより、成形空間11内の圧力が高められると共に、発泡粒子が加熱される。
【0076】
本加熱工程P5が完了した後、図3に示すように、本加熱工程P5において第1の型2及び第2の型3に供給されたスチームを成形型1内に保持する保圧工程P6を実施する。本例の保圧工程P6では、図2に示す全ての弁を閉鎖し、成形型1内のスチームを保持する。これにより、成形型1の成形面に加わる圧力の低下を緩やかにし、成形型1にスチームを供給することなく、成形空間11内の発泡粒子が所望の圧力下で加熱される状態を長く維持することができる。
【0077】
保圧工程P6が完了した後、図3に示すように、成形型1内の成形体を冷却する冷却工程P7を行う。本例の冷却工程P7は、図2に示す第1散水ノズル24及び第2散水ノズル34から内壁部23、33に水をかける水冷工程と、水冷工程が完了した後、第1の型2の内部空間及び第2の型3の内部空間を減圧する真空冷却工程とを有している。
【0078】
水冷工程においては、第1散水ノズル24及び第2散水ノズル34から内壁部23、33に水をかける。これにより、内壁部23、33の温度を低下させるとともに、内壁部23、33に接した成形体を冷却することができる。
【0079】
真空冷却工程においては、成形型1に設けられた真空弁(図示略)を開放するとともに、その他の弁を閉鎖する。この状態において、真空弁から成形型1内の気体を真空ポンプによって強制的に排出することにより成形型1内を減圧する。成形型1内の圧力が低下すると、水冷工程において成形型1内に散水された水が気化しやすくなる。水が気化する際に成形型1内の熱が蒸発潜熱として奪われるため、成形型1内を減圧することにより、成形型1及び成形体をより迅速に冷却することができる。なお、真空冷却工程が終了した後、成形型1に設けられた排気弁(図示略)を開放することで、成形型1内の真空状態が解除される。
【0080】
冷却工程P7が完了した後、成形型1を開くことにより成形体を得ることができる。
【0081】
本例では、前述した基準条件導出ステップS1、スチーム低減条件範囲導出ステップS2及び型内成形条件導出ステップS3を備えた型内成形条件の設定方法(図1参照)により、以上の工程P1~P7を有する型内成形方法に適用可能な型内成形条件の導出を行った。
【0082】
まず、基準条件導出ステップS1においては、表1の条件番号A1~A3に示す3種類の成形条件で、充填工程P1、排気工程P2、第1の一方加熱工程P3、第2の一方加熱工程P4、本加熱工程P5及び冷却工程P7を行い、保圧工程P6を行うことなく成形体を作製した。なお、本例における目標融着率Xは80%とした。また、表1に示す「合計スチーム量W」は、第1の一方加熱工程P3のスチーム量Waと、第2の一方加熱工程P4のスチーム量Wbと、本加熱工程P5のスチーム量Wmとの合計であり、「最大面圧Fmax」は、本加熱工程P5において第2の型3の内壁部33に加わる面圧の最大値である。基準条件導出ステップS1においては、前述したように保圧工程P6を行っていないため、表1の「保圧工程」欄には記号「-」を記載した。
【0083】
各成形条件で型内成形を行うことにより得られた成形体の融着率は、表1に示す通りである。なお、融着率の測定方法は前述した通りである。すなわち、まず、成形体の縦方向中央部付近で成形体が破断するように成形体を折り曲げて、概ね等分となるように成形体を破断させた。そして、成形体の破断面に露出した発泡粒子から無作為に100個以上の発泡粒子を選択して目視観察し、目視観察した発泡粒子の総数に対する、材料破壊している発泡粒子の総数の比率を百分率で表すことにより成形体の融着率を算出した。表1に示すように、条件番号A1~A3のうち、融着率Xが目標融着率X以上である成形条件は、条件番号A1及びA2の2つである。従って、基準条件導出ステップS1では、これら2つの成形条件を基準条件の候補とした。そして、条件番号A1及びA2のうち合計スチーム量Wが最も少ない条件番号A2を基準条件とした。
【0084】
また、条件番号A2での型内成形において、成形サイクルの評価として、成形型の型締めを開始した時点から、成形体が成形型から離型された時点までの時間を測定した。なお、成形型の型開きは、冷却工程P7において成形型の内壁部に加わる圧力(面圧)がゲージ圧において0.02MPa(G)に到達した時点で行った。その結果、型締め開始から離型までの所要時間は205秒であった。なお、この時間が短いほど、発泡粒子成形体の型内成形を効率的に行えることができるため、成形サイクルに優れていることを意味している。
【0085】
スチーム低減条件範囲導出ステップS2においては、基準条件(条件番号A2)のスチーム加熱条件のうち少なくとも一部のスチーム加熱条件を変更し、表1の条件番号B1~B4に示す4種類の成形条件で、充填工程P1、排気工程P2、第1の一方加熱工程P3、第2の一方加熱工程P4、本加熱工程P5及び冷却工程P7を行い、保圧工程P6を行うことなく成形体を作製した。条件番号B1、B2においては、第1の一方加熱工程P3でのスチーム量Wa及び第2の一方加熱工程P4でのスチーム量Wbが基準条件から変更されている。また、条件番号B3においては、第1の一方加熱工程P3でのスチーム量Wa及び第2の一方加熱工程P4でのスチーム量Wbが基準条件から変更されている。また、条件番号B4においては、第1の一方加熱工程P3でのスチーム量Wa、第2の一方加熱工程P4でのスチーム量Wb及び本加熱工程P5でのスチーム量Wmが基準条件から変更されている。
【0086】
各成形条件で型内成形を行うことにより得られた成形体の融着率は、表1に示す通りである。なお、表1の「融着率差X-X」欄には、基準条件における成形体の融着率から各成形条件における融着率を差し引いた値を記載した。「要件1:Pa/Pa」欄には、基準条件における第1の一方加熱工程P3で供給したスチームのスチーム圧力Paに対する条件番号B1~B4のそれぞれにおける第1の一方加熱工程P3で供給したスチームのスチーム圧力Paの比の値を記載した。「要件2:Wa<Wa」欄には、条件番号B1~B4のそれぞれにおける第1の一方加熱工程P3で使用したスチーム量Waが基準条件における第1の一方加熱工程P3でのスチーム量Wa未満である場合に「OK」、Wa以上である場合に「NG」と記載した。
【0087】
「要件3:Pb/Pb」欄には、基準条件における第2の一方加熱工程P4で供給したスチームのスチーム圧力Pbに対する条件番号B1~B4のそれぞれにおける第2の一方加熱工程P4で供給したスチームのスチーム圧力Pbの比の値を記載した。「要件4:Wb<Wb」欄には、条件番号B1~B4のそれぞれにおける第2の一方加熱工程P4で使用したスチーム量Wbが基準条件における第2の一方加熱工程P4で使用したスチーム量Wb未満である場合に「OK」、Wb以上である場合に「NG」と記載した。「要件5:Pm/Pm」欄には、基準条件における本加熱工程P5で供給したスチームのスチーム圧力Pmに対する条件番号B1~B4のそれぞれにおける本加熱工程P5で供給したスチームのスチーム圧力Pmの比の値を記載した。
【0088】
「要件6:Wm/Wm」欄には、基準条件における本加熱工程P5で使用したスチーム量Wmに対する条件番号B1~B4のそれぞれにおける本加熱工程P5で使用したスチーム量Wmの比の値を記載した。「要件7:W/W」欄には、基準条件における合計スチーム量Wに対する条件番号B1~B4のそれぞれにおける合計スチーム量Wの比の値を記載した。「要件8:Wm/Wa」欄には、条件番号B1~B4のそれぞれにおける第1の一方加熱工程P3で使用したスチーム量Waに対する本加熱工程P5で使用したスチーム量Wmの比の値を記載した。
【0089】
表1に示すように、条件番号B1~B4のうち、融着率Xが10%以上である成形条件は、条件番号B1及び条件番号B2である。従って、スチーム低減条件範囲導出ステップS2では、これら2つの成形条件をスチーム低減条件とし、条件番号B1、B2を含む範囲をスチーム低減条件範囲とした。
【0090】
型内成形条件導出ステップS3においては、スチーム低減条件範囲ステップS2で導かれたスチーム低減条件のうち、合計スチーム量Wが最も少ない条件番号B2に保圧工程P6を付加して表1の条件番号C1~C3に示す3種類の成形条件を設定した。そして、これら3種の成形条件で、充填工程P1、排気工程P2、第1の一方加熱工程P3、第2の一方加熱工程P4、本加熱工程P5、保圧工程P6及び冷却工程P7を行い、成形体を作製した。なお、条件番号C1~C3については、保圧工程P6において、面圧が最大面圧Fmax-0.01MPa(G)以上となる時間を測定し、表1に記載した。
【0091】
各成形条件で型内成形を行うことにより得られた成形体の融着率は、表1に示す通りである。表1に示すように、条件番号C1~C3は、いずれも、目標融着率X以上の融着率を有する成形体を得ることができるように構成されている。また、これらの型内成形条件における合計スチーム量Wは、いずれも基準条件における合計スチーム量W(つまり、6.8kg)よりも少ない。従って、型内成形条件導出ステップS3では、条件番号C1~C3を型内成形条件として導出した。
【0092】
【表1】
【0093】
以上のように、前記型内成形条件の設定方法では、基準条件導出ステップS1において基準条件を導出し、スチーム低減条件範囲導出ステップS2において、基準条件よりも少ないスチーム量で成形体を作製可能なスチーム低減条件範囲を導出し、型内成形条件導出ステップS3において、スチーム低減条件に保圧工程P6を付加するという3つのステップで型内成形条件を導出している。このような3つのステップで型内成形条件を導出することにより、良好な融着率を有する発泡粒子成形体を得つつ、型内成形時に用いられるスチーム量の削減が可能な型内成形条件を容易に見出すことができる。また、前記型内成形条件の設定方法により得られた型内成形条件によれば、スチーム量を削減しつつ良好な融着率を有する成形体を作製することができる。
【0094】
また、条件番号C1~C3での型内成形において成形サイクルの評価を行ったところ、これらの成形条件における型締め開始から離型までの所要時間は、それぞれ152秒、161秒、157秒であった。これらの結果から、型内成形条件として導かれた条件番号C1~C3は、基準条件とした条件番号A2よりも早い成形サイクルで型内成形を行うことが可能であり、生産性に優れることがわかった。
【0095】
(比較例1)
本例においては、スチーム低減条件範囲導出ステップS2において、第1の一方加熱工程P3及び第2の一方加熱工程P4を行わない成形条件をスチーム低減条件として導いた場合の型内成形条件の設定方法を説明する。より具体的には、本例においては、実施例1における条件番号B3、つまり、第1の一方加熱工程P3及び第2の一方加熱工程P4を行わずに本加熱工程P5を行う成形条件をスチーム低減条件とした。そして、型内成形条件導出ステップS3において、前記スチーム低減条件に保圧工程P6を付加した成形条件(表2、条件番号D1~D2)で型内成形を行い、得られた成形体の融着率を測定した。表2に、条件番号D1~D2での型内成形により得られた成形体の融着率を示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2に示したように、第1の一方加熱工程P3及び第2の一方加熱工程P4を行わない場合、本加熱工程P5の後に保圧工程P6を付加しても、所望の融着率を有する成形体を得ることはできなかった。
【0098】
(実施例2)
本例においては、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体を基材樹脂とするポリスチレン系樹脂発泡粒子を用いて箱状の成形体を作製する場合の型内成形条件の設定方法を説明する。本例において用いた発泡粒子の基材樹脂はアクリル酸ブチル成分を0.5質量%含有するスチレン-アクリル酸ブチル共重合体である。また、発泡粒子の嵩倍率は60倍である。本例の成形型1は、長さ550mm、幅350mm、高さ110mm、肉厚25mmの寸法を有する箱状の成形体を作製可能な成形空間11を有しており、型締め方向における第1の型2側の内壁部が、箱状の成形体の底面(つまり、長さ550mm、幅350mmの面)に対応するように構成されている。また、面圧計は、第2の型3から第1の型2を型締め方向に沿ってみたときの、第1の型2の内壁部の中央部付近に設けられている。
【0099】
このような発泡粒子及び成形型1を用い、実施例1と同様の方法により、基準条件導出ステップS1及びスチーム低減条件範囲導出ステップS2を行った。これらのステップにおいて型内成形を行った成形条件(条件番号E1及び条件番号F1~F3)を表3に示す。なお、本例における目標融着率Xは90%とした。
【0100】
表3に示したように、本例においては、条件番号E1を基準条件とし、基準条件のスチーム加熱条件のうち一部のスチーム加熱条件を変更することにより、条件番号F1~F2を含むスチーム低減条件範囲を導出した。また、型内成形条件導出ステップS3では、表3に示した条件番号F1~F2のうち合計スチーム量が少ない条件番号F2に対して保圧工程P6を付加した。その結果、型内成形条件として、表3に示す条件番号G1~G2の2つを導出した。
【0101】
【表3】
【0102】
表3に示したように、本例において導出された型内成形条件(条件番号G1~G2)によれば、基準条件(条件番号E1)よりも少ない合計スチーム量で目標融着率X以上の融着率を有する成形体を得ることができた。
【0103】
また、条件番号E1及び条件番号G1~G2での型内成形において成形サイクルの評価を行ったところ、これらの成形条件における型締め開始から離型までの所要時間は、それぞれ134秒、141秒、115秒であった。これらの結果から、型内成形条件として導かれた条件番号G1~G2は、基準条件とした条件番号E1と同等または条件番号E1よりも早い成形サイクルで型内成形を行うことが可能であり、生産性に優れることがわかった。
【0104】
(実施例3)
本例においては、スチレン-アクリロニトリル共重合体を基材樹脂とするポリスチレン系樹脂発泡粒子を用いて平板状の成形体を作製する場合の型内成形条件の設定方法を説明する。本例において用いた発泡粒子の基材樹脂はアクリロニトリル成分を26質量%含有するスチレン-アクリロニトリル共重合体である。また、発泡粒子の嵩倍率は60倍である。成形型1は、縦1000mm、横600mm、厚み25mmの寸法を有する平板状の成形体を作製可能な成形空間11を有している。
【0105】
このような発泡粒子及び成形型1を用い、実施例1と同様の方法により、基準条件導出ステップS1及びスチーム低減条件範囲導出ステップS2を行った。これらのステップにおいて型内成形を行った成形条件(条件番号H1~H3及び条件番号I1~I2)を表4に示す。なお、本例における目標融着率Xは80%とした。
【0106】
表4に示したように、本例においては、条件番号H2を基準条件とし、基準条件のスチーム加熱条件のうち一部のスチーム加熱条件を変更することにより、条件番号I1を含むスチーム低減条件範囲を導出した。本例の型内成形条件導出ステップS3では、表4に示した条件番号I1に対して保圧工程P6を付加した。その結果、型内成形条件として、表4に示す条件番号J1を導出した。
【0107】
【表4】
【0108】
表4に示したように、本例において導出された型内成形条件(条件番号J1)によれば、基準条件(条件番号H2)よりも少ない合計スチーム量で目標融着率X以上の融着率を有する成形体を得ることができた。
【0109】
また、条件番号H2及び条件番号J1での型内成形において成形サイクルの評価を行ったところ、型締め開始から離型までの所要時間は、それぞれ218秒、125秒であった。これらの結果から、条件番号J1の型内成形条件は、基準条件とした条件番号H2よりも早い成形サイクルで型内成形を行うことが可能であり、生産性に優れることがわかった。
【0110】
以上の結果によれば、実施例2及び実施例3においても、前述した3つのステップで型内成形条件を導出することにより、実施例1と同様に発泡粒子成形体の物性を損なうことなく型内成形時に用いられるスチーム量の削減が可能な型内成形条件を容易に見出せることが理解できる。
【0111】
(比較例2)
本例においては、発泡粒子同士の融着が不十分な成形条件をスチーム低減条件として採用した場合の型内成形条件の設定方法を説明する。より具体的には、本例においては、実施例3における条件番号I2、つまり、成形体の融着率が10%未満となる成形条件をスチーム低減条件とした。そして、型内成形条件導出ステップS3において、前記スチーム低減条件に保圧工程P6を付加した成形条件(表5、条件番号K1~K2)で型内成形を行い、得られた成形体の融着率を測定した。表5に、条件番号K1~K2での型内成形により得られた成形体の融着率を示す。
【0112】
【表5】
【0113】
表5に示したように、発泡粒子同士の融着が不十分な成形条件をスチーム低減条件として採用した場合、当該成形条件に保圧工程P6を付加しても、所望の融着率を有する成形体を得ることはできなかった。
【0114】
以上、実施例1~3に基づいて本発明に係る発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法及び発泡粒子成形体の製造方法の態様を説明したが、本発明に係る発泡粒子成形体の型内成形条件の設定方法及び発泡粒子成形体の製造方法の具体的な態様は、実施例に記載された態様に限定されることはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 成形型
11 成形空間
2 第1の型
3 第2の型
図1
図2
図3