(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】受動相互変調の軽減のための磁気吸収体
(51)【国際特許分類】
H01P 1/04 20060101AFI20241206BHJP
H01P 1/23 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H01P1/04
H01P1/23
(21)【出願番号】P 2022519646
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(86)【国際出願番号】 IB2020053939
(87)【国際公開番号】W WO2021064479
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-04-24
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】202010198693.5
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ブルゾン,チャールズ エル.
(72)【発明者】
【氏名】トステンルード,ジェフェリー エー.
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンバーグ,イーサン アール.
(72)【発明者】
【氏名】ロメダ,ジェイ アール.
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0139656(US,A1)
【文献】S. Stitzer,"Frequency selective microwave power limiting in thin YIG films",IEEE Transactions on Magnetics,1983年,Vol.MAG-19, NO.5,pp.1874 - 1876,DOI: 10.1109/TMAG.1983.1062773
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/04
H01P 1/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性受動媒体であって、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1
の電流及び第2
の電流を前記導電性受動媒体に沿って同時に伝播することができ、導電性の第1の受動非線形媒体部分に隣接する導電性の第1の受動線形媒体部分を備え、前記第1の受動非線形媒体部分は、前記第1の電流と前記第2の電流との間の非線形相互作用に基づいて相互変調電流を発生させることができ、前記相互変調電流は、nF1+mF2と等しい周波数Fiを有し、前記第1の受動非線形媒体部分に沿って伝播し、m及びnは、正又は負の整数である、導電性受動媒体と、
第1の磁性フィルムであって、前記第1の電流及び前記第2の電流が、前記第1の受動線形媒体部分に沿って前記第1の受動非線形媒体部分に向かって伝播するときに、前記磁性フィルムが、前記第1の電流及び前記第2の電流の少なくとも一部分を減衰させることによって、前記第1の受動非線形媒体部分における前記相互変調電流の前記発生を低減又は防止するように、前記第1の
受動線形媒体部分の導電性の外面に近接して配置された、第1の磁性フィルムと、
を備える、無線通信システム。
【請求項2】
前記第1の受動非線形媒体部分は、異なる第1の金属と第2の金属との間の接合部を備える、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第1の受動非線形媒体部分は、金属と金属酸化物との間の接合部を備える、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第1の受動非線形媒体部分は、前記導電性受動媒体の錆びた領域を備える、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記第1の受動線形媒体部分に沿って前記第1の受動非線形媒体部分に向かって伝播する前記第1の電流及び前記第2の電流は、前記第1の受動線形媒体部分に結合されているアンテナから放射された電磁放射によって誘導される、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記第1の受動線形媒体部分に沿って前記第1の受動非線形媒体部分に向かって伝播する前記第1の電流及び前記第2の電流は、前記第1の受動線形媒体部分に結合されている第2の受動非線形媒体から放射された電磁放射によって誘導される、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記第1の磁性フィルムは、前記第1の受動非線形媒体部分のいずれの部分も覆っていない、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記第1の受動線形媒体部分の反対側で前記導電性の第1の受動非線形媒体部分に隣接する、導電性の第2の受動線形媒体部分と、
第2の磁性フィルムであって、前記第1の電流及び前記第2の電流が、前記第1の受動線形媒体部分に沿って前記第1の受動非線形媒体部分に向かって伝播するとき、前記第1の磁性フィルムが、前記第1の電流及び前記第2の電流の一部分を吸収することによって、前記第1の受動非線形媒体部分における前記相互変調電流の前記発生を低減するように、前記第2の
受動線形媒体部分の導電性の外面に近接して配置され、前記第1の電流及び前記第2の電流の残りの部分の少なくとも一部が前記第1の受動非線形媒体部分において混合して前記相互変調電流を発生させ、前記相互変調電流は、前記第1の受動非線形媒体部分及び前記第2の受動線形媒体部分を通って伝播し、前記第2の磁性フィルムは、前記第2の受動線形媒体部分を通って伝播する前記相互変調電流の少なくとも一部を吸収する、第2の磁性フィルムと、
を更に備える、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項9】
アンテナと、
前記アンテナが、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁波及び第2の電磁波を放射するとき、前記第1の電磁波及び前記第2の電磁波が
、第1の受動非線形媒体部分を通って伝播する、それぞれの第1の電流及び第2の電流を誘導するように、導電性の受動非線形媒体部分と電気的に相互接続された導電性の受動線形媒体部分であって、前記第1の受動非線形媒体部分は、前記第1の電流と前記第2の電流とを混合して、周波数nF1+mF2を有し、かつ、前記受動非線形媒体部分及び前記受動線形媒体部分に沿って伝播する、第3の電流を発生させ、m及びnは、正又は負の整数である、導電性の受動線形媒体部分と、
前記受動線形媒体部分上には配置されるが、前記
受動非線形媒体部分上には配置されず、かつ、前記第3の電流の少なくとも一部分を吸収する、磁性フィルムと、
を備える、無線通信システム。
【請求項10】
1つ以上のアンテナと、
複数の間隔を空けた導電性の第1のセクションと、
複数の導電性の第2のセクションであって、前記1つ以上のアンテナが、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁波及び第2の電磁波を放射するとき、前記第1の電磁波及び前記第2の電磁波が、前記第1のセクション及び前記第2のセクションを通って伝播する、前記それぞれの周波数F1及びF2のそれぞれの第1の電流及び第2の電流を誘導するように、前記第1のセクションと相互接続し、前記第1のセクションは、前記第1の電流と前記第2の電流とを混合して、F1及びF2とは異なる周波数Fiの第3の電流を発生させ、前記第3の電流は、前記第1のセクション及び前記第2のセクションに沿って伝播し、前記Fiの周波数の電磁波を、前記第1のセクションには放射させるが、前記第2のセクションには放射させない、複数の導電性の第2のセクションと、
前記第2のセクションに沿って伝播する前記第3の電流の少なくとも一部分を吸収するために、各第2のセクションの導電性の表面上に配置された磁性フィルムと、
を備える、無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本明細書のいくつかの態様では、導電性受動媒体であって、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁電流及び第2の電磁電流を導電性受動媒体に沿って同時に伝播することができ、導電性の第1の受動非線形媒体部分に隣接する導電性の第1の受動線形媒体部分を含み、第1の受動非線形媒体部分は、第1の電流と第2の電流との間の非線形相互作用に基づいて相互変調電流を発生させることができ、相互変調電流は、nF1+mF2と等しい周波数Fiを有し、第1の受動非線形媒体部分に沿って伝播し、m及びnは、正又は負の整数である、導電性受動媒体と、第1の磁性フィルムであって、第1の電流及び第2の電流が、第1の受動線形媒体部分に沿って第1の受動非線形媒体部分に向かって伝播するときに、磁性フィルムが、第1の電流及び第2の電流の少なくとも一部分を減衰させることによって、第1の受動非線形媒体部分における相互変調電流の発生を低減するように、第1の線形媒体部分の導電性の外面に近接して配置された、第1の磁性フィルムと、を含む、無線通信システムが提供される。
【0002】
本明細書のいくつかの態様では、アンテナと、アンテナが、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁波及び第2の電磁波を放射するとき、第1の電磁波及び第2の電磁波が、第1の受動非線形媒体部分を通って伝播する、それぞれの第1の電流及び第2の電流を誘導するように、導電性の受動非線形媒体部分と電気的に相互接続された導電性の受動線形媒体部分であって、第1の受動非線形媒体部分は、第1の電流と第2の電流とを混合して、周波数nF1+mF2を有し、かつ、受動非線形媒体部分及び受動線形媒体部分に沿って伝播する、第3の電流を発生させ、m及びnは、正又は負の整数である、導電性の受動線形媒体部分と、受動線形媒体部分上には配置されるが、非線形媒体部分上には配置されず、かつ、第3の電流の少なくとも一部分を吸収する、磁性フィルムと、を含む、無線通信システムが提供される。
【0003】
本明細書のいくつかの態様では、1つ以上のアンテナと、複数の間隔を空けた導電性の第1のセクションと、複数の導電性の第2のセクションであって、1つ以上のアンテナが、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁波及び第2の電磁波を放射するとき、第1の電磁波及び第2の電磁波が、第1のセクション及び第2のセクションを通って伝播する、それぞれの周波数F1及びF2のそれぞれの第1の電流及び第2の電流を誘導するように、第1のセクションと相互接続し、第1のセクションは、第1の電流と第2の電流とを混合して、F1及びF2とは異なる周波数Fiの第3の電流を発生させ、第3の電流は、第1のセクション及び第2のセクションに沿って伝播し、Fiの周波数の電磁波を、第1のセクションには放射させるが、第2のセクションには放射させない、複数の導電性の第2のセクションと、第2のセクションに沿って伝播する第3の電流の少なくとも一部分を吸収するために、各第2のセクションの導電性の表面上に配置された磁性フィルムと、を含む、無線通信システムが提供される。
【0004】
本明細書のいくつかの態様では、1つ以上のアンテナと、1つ以上のアンテナに結合された1つ以上のトランシーバと、複数の導電性の受動非線形媒体部分と相互接続された複数の導電性の受動線形媒体部分であって、線形媒体部分及び非線形媒体部分は各々、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁電流及び第2の電磁電流を線形媒体部分及び非線形媒体部分に沿って同時に伝播することが可能であり、各受動非線形部分は、第1の電流と第2の電流とを混合して、周波数nF1+mF2を有し、かつ、受動非線形媒体部分に沿って伝播する、第3の電流を発生させることができるが、各受動線形部分は、第3の電流を発生させず、m及びnは、正又は負の整数である、複数の導電性の受動線形媒体部分と、少なくともいくつかの線形媒体部分上には配置されるが、非線形媒体部分上には配置されない、磁性フィルムと、を含む、無線通信システムが提供される。
【技術分野】
【0005】
本発明は、無線通信システムに関する。本発明は、特に、無線通信システムにおける受動相互変調歪みの影響を軽減するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0006】
無線通信ネットワークが進化するにつれて、信号品質(より具体的には、信号対雑音比、又はSNR)がますます重要になってくる。非常に高いデータ速度を達成するために、より高次の変調が使用され、それに応じて、より高いレベルのSNRが必要とされる。SNR劣化の一般的な原因は、ネットワークの性能及び能力を著しく低減し得る受動相互変調(PIM)歪みである。PIM歪みは、複数の周波数が非線形の材料又は特徴部に遭遇したときに生成され、次いで、基本周波数及びそれらの高調波の和及び差の組み合わせ(積)を発生させる。得られた積は、しばしば、対象の信号が非常に弱いアップリンク/受信周波数帯域で生じ、コヒーレント受信が非常に困難に、あるいは不可能になる。
【0007】
PIMを生成又は伝播し得るメカニズムが多く存在する。典型的には、システム内における導電性の機械的構成要素の相互作用及び相互接続は、システム内に非線形要素を生成し得る。場合によっては、アンテナ取り付けブラケットの位置における金属間の接触不良によって、又はブラケットが異種材料間の接合部を含む場合に、非線形性部が生じ得る。非線形性部の他の原因は、汚染、緩んだ接続、近傍の金属物体、又は様々な他の原因であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本明細書の一実施形態による、無線通信システムの側面図である。
【
図2】本明細書の一実施形態による、無線通信システムにおいて電流を伝播することができる導電性受動媒体の側面図である。
【
図3】本明細書の一実施形態による、磁気吸収フィルムを有する導電性受動媒体の側面図である。
【
図4】本明細書の一実施形態による、第1の導電性部分と第2の導電性部分との間の接合部を示す、導電性受動媒体の側面図である。
【
図5】本明細書の代替実施形態による、金属と金属酸化物との間の接合部を示す、導電性受動媒体の側面図である。
【
図6】本明細書の代替実施形態による、金属腐食を示す、導電性受動媒体の側面図である。
【
図7】本明細書の一実施形態による、無線通信システムの送信周波数及び相互変調周波数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明では、本明細書の一部を形成し、様々な実施形態が例示として示されている添付図面が参照される。図面は、必ずしも比率の縮尺ではない。他の実施形態が想到され、本明細書の範囲又は趣旨から逸脱することなく実施されてもよい点を理解されたい。したがって、以下の発明を実施するための形態は、限定的な意味では解釈されない。
【0010】
無線通信ネットワークが進化するにつれて、信号品質(より具体的には、信号対雑音比、又はSNR)がますます重要になってくる。非常に高いデータ速度を達成するために、より高次の変調(64QAM、256QAMなど)が使用され、それに応じて、より高いレベルのSNRが必要とされる。SNR劣化の一般的な原因は、ネットワークの性能及び能力を著しく低減し得る受動相互変調(PIM)歪みである。PIM歪み(略して「PIM」)は、複数の周波数が非線形の材料又は特徴部に遭遇したときに生成され、次いで、基本周波数及びそれらの高調波の和及び差の組み合わせ(積)を発生させる。得られた積、特に3次積は、しばしば、対象の信号が非常に弱いアップリンク/受信周波数帯域で生じ、コヒーレント受信が非常に困難に、あるいは不可能になる。
【0011】
PIMは、システムが、ケーブル、コネクタ、アンテナ、取り付けブラケット、及びシステムの伝送経路内又は伝送経路の近傍にある他の物体などの、受動デバイスを介して複数の周波数の信号を同時に送信するときに、無線通信システム内で発生する電磁干渉の一形態である。PIM干渉は、セルラー基地局のアンテナなど、高電力で送信するノードにおいて特に顕著になる。PIMは、システムの機械的構成要素における非線形性部に起因して、異なる周波数の2つ以上の信号が互いに混合したときに発生する。2つの信号を(振幅変調によって)合成して、無線システムの動作帯域内で、信号の高調波内に含めて和信号及び差信号を生成し、干渉を引き起こすことがある。
【0012】
PIMを生成又は伝播し得る多くのメカニズムが多く存在する。典型的には、システム内における導電性の機械的構成要素の相互作用及び相互接続は、システム内に非線形要素を生成し得る。場合によっては、アンテナ取り付けブラケットの位置における金属間の接触不良によって、又はブラケットが異種材料間の接合部を含む場合に、非線形性部が生じ得る。例えば、セルラー基地局の基本周波数(例えば、F1及びF2)は、亜鉛めっき鋼マスト上に取り付けられたアンテナにより放射され得る。これらの周波数で鋼マストに電流が誘導されると、それらの電流は、取り付けブラケット(すなわち、非線形性部)に遭遇し、非線形性部内で混合されて、新しい周波数Fiの第3の電流(すなわち、相互変調電流)を形成することができる。相互変調電流は、ブラケットからPIMとして放射され得、かつ/又は、ブラケットから、PIMのためのアンテナとして機能し、かつ、非線形のブラケットよりも更に良好な効率でPIMを放射し得る、導電性の線形部分へとaにより離れるように伝導され得る。磁気吸収体を適用してブラケットをカプセル化し、ブラケットによるPIMの放射を防止することができるが、相互変調電流は依然として、ブラケットから構造全体を通って、並びに他のアンテナまで移動し、最終的には、再放射され、ネットワークを劣化させ得る。
【0013】
非線形性部の(したがって、PIMの)他の原因は、汚染、(例えば、錆、腐食、汚れ、酸化など)、緩んだ接続、近傍の金属物体(例えば、支線、アンカー、屋根用雨押さえ、パイプなど)、又は様々な他の原因であり得る。
【0014】
本明細書のいくつかの態様によれば、無線通信システム(例えば、構成要素としてセルラー基地局を含むシステム)は、導電性の受動媒体(例えば、アンテナマストの金属製の構造)であって、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁電流及び第2の電磁電流を導電性の受動媒体に沿って同時に伝播することができる導電性の受動媒体を含む。いくつかの実施形態では、第1の電流及び第2の電流は、類似しているが異なる周波数(すなわち、F1及びF2)で送信される2つの無線周波数(RF)信号により発生し得る。
【0015】
例えば、一実施形態では、F1は、869MHzであり得、F2は、894MHzであり得、外部デバイス(例えば、モバイルデバイス)から返される信号のための隣接する受信帯域を有する。例えば、隣接する受信帯域は、824~849MHzであり得る。別の受信帯域は、送信帯域よりも上の周波数範囲(すなわち、送信帯域周波数の範囲よりも上の周波数)に隣接し得る。これらの基本周波数を混合して、式nF1+mF2に基づいて、新しい周波数の積を生成することができ、m及びnは、正又は負の整数である。この例における(例えば、mとnの両方が+1であるときの)変調された信号の単純な加算は、869+894=1763MHzの信号を生成し、(例えば、nが+1であり、mが-1であるときの)信号間の差は、894-869=25MHzとなる。25MHzと1763MHzは、両方ともセルラーシステムの対象の受信帯域から外れており、したがって、これらの信号は、その特定のセルラーシステムついての心配はない(しかし、これらの周波数は、近くの別のシステムの対象の受信帯域又は受信スペクトル内であることがあり、したがって、それらのシステムにおいて、PIM干渉を引き起こし得る)。しかしながら、これらの信号を合成して3次積(m及びnの絶対値の和が3であるとき)を、時にはより高次の積を形成する場合、これらは、対象の受信帯域内のPIM信号を発生させることができる。例えば、2F1-F2(844MHz)及び2F2-F1(919MHz)は、PIM歪みにつながり得る、セルラー帯域の受信部分内の3次積を生成する。
【0016】
いくつかの実施形態では、導電性受動媒体は、導電性の第1の受動非線形媒体部分に隣接する導電性の第1の受動線形媒体部分を含み、第1の受動非線形媒体部分は、第1の電流と第2の電流との間の非線形相互作用に基づいて、相互変調電流を発生させることができる。例えば、いくつかの実施形態では、導電性の第1の受動線形媒体部分は、セルラーアンテナが取り付けられた金属製マスト(例えば、亜鉛めっき鋼マスト)であり得、導電性の第1の受動非線形媒体部分は、異種金属製の取り付けブラケットであり得る。異種材料のこの接合部又は合流点は、(周波数F1及びF2の)第1の電流及び第2の電流を混合して新しい周波数の相互変調電流(PIM)を生成する、ダイオードと同様に作用する非線形性部を生成し得る。いくつかの実施形態では、非線形性部は、2つの異種金属間の接合部により生成され得る。いくつかの実施形態では、非線形性部は、金属と金属酸化物(例えば、酸化効果により生じる金属酸化物)との間の接合部により生成され得る。いくつかの実施形態では、非線形性部は、腐食領域又は汚染領域(例えば、錆の領域、汚れなどの汚染物質、金属間の接触不良、など)に反応し得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、無線通信システムは、第1の受動線形媒体部分の反対側で導電性の第1の受動非線形媒体部分に隣接する、導電性の第2の受動線形媒体部分を更に含んでもよい(例えば、非線形部分は、第1の線形部分と第2の線形部分との間に「挟まれ」得る)。いくつかの実施形態では、第1の電流及び第2の電流が、第1の線形部分に沿って非線形部分に向かって伝播するとき、第1の磁性フィルムが、第1の電流及び第2の電流の少なくとも一部分を吸収することによって、第1の非線形部分における相互変調電流の発生を低減するように、第2の磁性フィルムが、第2の線形媒体部分の導電性の外面に近接して配置されてもよい。いくつかの実施形態では、第1の電流及び第2の電流の残りの部分のうちの少なくとも一部が第1の非線形部分において混合して、第1の非線形部分及び第2の線形部分を通って伝播する相互変調電流を発生させ、相互変調電流は、第2の磁性フィルムによって少なくとも部分的に吸収される。
【0018】
いくつかの実施形態では、第1の電流及び第2の電流は、導電性受動線形媒体に結合されたアンテナから送信される電磁放射によって誘導され得る。いくつかの実施形態では、第1の電流及び第2の電流は、第1の受動線形媒体部分に結合されている第2の受動非線形媒体から放射される電磁放射によって誘導され得る。つまり、PIM歪みは、線形部分に結合された第2の非線形部分において生成され、かつ、第2の非線形部分から放射され、線形部分内に電流を誘導させ得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、相互変調電流は、第1の受動非線形媒体部分に沿って伝播するnF1+mF2と等しい周波数Fiを有してもよく、m及びnは、正又は負の整数である。例えば、本明細書の他の箇所で論じられるように、nは2であってもよく、mは-1であってもよく、又は、nは-1であってもよく、mは2であってもよい。これらの値は例にすぎず、他の値のn及びmが可能である。いくつかの実施形態では、m及びnのうちの一方は負の整数であり、m及びnのうちの他方は正の整数である。いくつかの実施形態では、nは、-1に等しくてもよく、mは+2に等しくてもよく、したがって、Fiは、2F2-F1に等しい。いくつかの実施形態では、nは、+2に等しくてもよく、mは-1に等しくてもよく、したがって、Fiは、2F1-F2に等しい。いくつかの実施形態では、nは、+1に等しくてもよく、mは+1に等しくてもよく、したがって、Fiは、F1+F2に等しい。いくつかの実施形態では、nは、+2に等しくてもよく、mは+2に等しくてもよく、したがって、Fiは、2F1+2F2に等しい。いくつかの実施形態では、F1とF2は両方とも、約6GHz未満である。いくつかの実施形態では、F1とF2は両方とも、約600MHz~4GHzである。いくつかの実施形態では、F1とF2は両方とも、約600MHz~800MHzである。いくつかの実施形態では、F1及びF2は、約100MHz未満離れている周波数、又は約50MHz未満離れている周波数である。
【0020】
いくつかの実施形態では、第1の電流及び第2の電流が、第1の受動線形媒体部分に沿って第1の受動非線形媒体部分に向かって伝播するときに、磁性フィルムが、第1の電流及び第2の電流の少なくとも一部分を減衰させることによって、第1の受動非線形媒体部分における相互変調電流の発生を低減する(例えば、対応する構造を通る電流の伝播を妨げる)ように、第1の磁性フィルムが、第1の線形媒体部分の導電性の外面に近接して配置される。いくつかの実施形態では、磁性フィルムは、第1の受動非線形媒体部分により発生し、かつ第1の受動非線形媒体部分から放射される相互変調放射の強度を、少なくとも3dBだけ低減し得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1の磁性フィルムは、磁気吸収体であり得る。磁気吸収体の一例は、3M Corporationにより製造された、3M(商標)EMI Shielding Absorber AB6000HFシリーズのシールドフィルムである。いくつかの実施形態では、磁性フィルムは、第1の電流及び第2の電流により発生した磁場の少なくとも一部分を吸収することによって、第1の電流及び第2の電流を減衰させ得る。いくつかの実施形態では、第1の磁性フィルムは、非線形部分のいかなる部分も覆っていない。
【0022】
本明細書のいくつかの態様によれば、無線通信システムは、アンテナ(例えば、セルラーアンテナ)と、アンテナが、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁波及び第2の電磁波を放射するとき、第1の電磁波及び第2の電磁波が、第1の受動非線形媒体部分を通って伝播する、それぞれの第1の電流及び第2の電流を誘導するように、導電性の受動非線形媒体部分と電気的に相互接続された導電性の受動線形媒体部分(例えば、取り付けブラケット及びアンテナマストなどの2つの異種材料の接合部)であって、第1の受動非線形媒体部分は、第1の電流と第2の電流とを混合して、周波数nF1+mF2を有し、かつ、受動非線形媒体部分及び受動線形媒体部分に沿って伝播する、第3の電流(すなわち、相互変調電流、又はPIM)を発生させ、m及びnは、正又は負のいずれかであり得る整数である、導電性の受動線形媒体部分と、を含む。いくつかの実施形態では、磁性フィルムは、受動線形媒体部分上には配置されるが、非線形媒体部分上には配置されず、第3の電流の少なくとも一部分を吸収する。例えば、いくつかの実施形態では、磁性フィルムは、取り付けられたアンテナ取り付けブラケット(非線形媒体部分)の前に、伝播経路に隣接して、かつ、伝播経路内のアンテナマスト(線形媒体部分)の周りに巻き付けられる、磁気吸収フィルムであり得る。いくつかの実施形態では、線形媒体部分上に磁性フィルムを配置すると、PIM干渉の一因となり得る電流の伝播を妨げ得る。いくつかの実施形態では、磁性フィルムは、受動線形媒体部分と受動非線形媒体部分の両方に配置され得る。
【0023】
本明細書のいくつかの態様によれば、無線通信システム(例えば、セルラー基地局)は、1つ以上のアンテナと、複数の間隔を空けた導電性の第1のセクション(例えば、1つ以上の取り付けブラケット、又は不規則な溶接)と、複数の導電性の第2のセクション(例えば、アンテナマストのセクション)であって、1つ以上のアンテナが、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁波及び第2の電磁波を放射するとき、第1の電磁波及び第2の電磁波が、第1のセクション及び第2のセクションを通って伝播し得る、それぞれの周波数F1及びF2のそれぞれの第1の電流及び第2の電流を誘導するように、第1のセクションと相互接続する、複数の導電性の第2のセクションと、を含み得る。いくつかの実施形態では、第1のセクションは、第1の電流と第2の電流との混合により(例えば、振幅変調により合成して)、F1及びF2とは異なる周波数Fiの第3の電流(例えば、相互変調電流)を発生させ得る。いくつかの実施形態では、発生した第3の電流は、第1のセクション及び第2のセクションに沿って伝播してもよく、第1のセクションには、第2のセクションに沿って伝播し得る新しいFi周波数の電流を発生させるが、第2のセクションには発生させず、第2のセクションは、次いで、周波数Fiの電磁エネルギーを放射し得る。いくつかの実施形態では、第2のセクションはまた、放射された電磁エネルギーの一因となり得る、Fi周波数の電流を発生させ得る。いくつかの実施形態では、電流のこの「混合」は、第1のセクションにおける非線形性部によって引き起こされ得る。例えば、取り付けブラケットの腐食、緩んだ接続、又はいくつもの他の原因により、第1のセクションにおける非線形性部を引き起こすことがあり、第1のセクションを電流ミキサとして機能させ、第1の電流及び第2の電流並びにそれぞれの周波数に基づいて、第3の(相互変調)電流を生成する。いくつかの実施形態では、第2のセクションに沿って伝播する第3の電流の少なくとも一部分を吸収するために、磁性フィルム(例えば、磁気吸収体)が、各第2のセクションの導電性表面上に配置され得る(例えば、第2のセクションの外面の周りに巻き付けられる、又は外面上に配置される)。
【0024】
本明細書のいくつかの態様によれば、1つ以上のアンテナ(例えば、セルラー基地局上の複数のセルラーアンテナ)と、1つ以上のアンテナに結合された1つ以上のトランシーバ(例えば、モバイルデバイスとセルラーネットワークとの間の無線通信を容易にするために使用される、ベーストランシーバ基地局又はBTSに収容されたトランシーバ)と、複数の導電性の受動非線形媒体部分と相互接続された複数の導電性の受動線形媒体部分と、少なくともいくつかの線形媒体部分上には配置されるが、非線形媒体部分上には配置されない、磁性フィルム(例えば、磁気吸収体)と、を含む、無線通信システムが提供される。いくつかの実施形態では、線形媒体部分及び非線形媒体部分は各々、異なるそれぞれの周波数F1及びF2の第1の電磁電流及び第2の電磁電流を同時に伝播することが可能であり得る。いくつかの実施形態では、各受動非線形部分は、第1の電流と第2の電流とを混合して、さもなければ合成して、周波数nF1+mF2を有し、かつ、受動非線形媒体部分に沿って伝播する、第3の電流を発生させることができるが、受動線形部分は第3の電流を発生させず、m及びnは、正又は負の整数である。いくつかの実施形態では、線形部分上に配置された磁気吸収体は、他の場合には非線形部分に遭遇したときの第3の電流(例えば、PIM電流)の発生の一因となり得る、線形部分における電流の形成を妨げ得る。いくつかの実施形態では、PIM電流は、トランシーバが使用する対象の周波数帯域(例えば、セルラー帯域)内の全体的な雑音レベルを増大させ、通信信号の低下又は歪みにつながる、PIM放射を引き起こすことがある。
【0025】
次に図を参照すると、
図1は、本明細書による、無線通信システムの側面図である。いくつかの実施形態では、無線通信システム200は、導電性受動媒体10(例えば、金属製のアンテナマスト又は取り付け構造)上に配置された(例えば、導電性受動媒体10上に取り付けられた、導電性受動媒体10によって支持される)1つ以上のアンテナ50を含む。いくつかの実施形態では、導電性受動媒体10は、異なる2つの部分を、導電性の受動線形部分11(例えば、メインシャフトなど、取り付け構造の主要な実質的に異質な要素)と、導電性受動非線形部分12(例えば、取り付けブラケット、溶接ビード、又は他の接続構造)と、を含み得る。非線形部分12は、線形部分11に対して異なる材料及び/又は異なる状態が存在することにより生成され得ることに留意されたい。つまり、非線形要素は、緩んだ若しくは破損したコネクタポイント又はケーブルにより、錆、腐食、汚れ、酸化などにより、屋根用雨押さえ又はパイプなどの近傍の金属製の物体により、あるいは、いくつかの他の原因のうちのいずれかにより、異なる2つの金属間の(例えば、アンテナマストの亜鉛めっき鋼とマストに取り付けられた取り付けブラケットで使用された金属との間の)境界面で生成され得る。例示を目的として、
図1には、アンテナの取り付けブラケットと一致する非線形要素12が示されているが、実際には、任意の適切な原因又は状態の任意の適切な非線形性部であり得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、無線通信システム200はまた、アンテナ50に結合された1つ以上のトランシーバ60(例えば、セルラー基地局のためのベーストランシーバ基地局に収容されたトランシーバ)を含み得る。いくつかの実施形態では、トランシーバ60を使用して、外部デバイスと無線ネットワークとの間の無線通信を容易にすることができる。いくつかの実施形態では、トランシーバ60は、高電力のトランシーバ(例えば、20W以上)であり得る。
【0027】
動作時、いくつかの実施形態では、無線通信システム200のトランシーバ60は、各々が固有の周波数にある2つ以上の無線周波数(RF)信号を発生させ得る。これらの信号は、伝送路(例えば、同軸ケーブル又は光ファイバ)を通って伝播して、アンテナ50(例えば、第1のアンテナ50a)から、電磁放射40としてブロードキャスト/放射される。いくつかの実施形態では、電磁放射40は、周波数F1で放射する第1の電磁波40aと、周波数F2で放射する第2の電磁波40bとを含み得る。いくつかの実施形態では、第1の電磁波40a及び第2の電磁波40bが、線形部分11及び非線形部分12をそれぞれ備える構造に衝突すると、第1の電磁波40a及び第2の電磁波40bは、非線形部分12内に、対応する周波数F1及びF2の第1の電流20及び第2の電流21をそれぞれ誘導し得る(第1の電流20及び第2の電流21が
図2に示される)。いくつかの実施形態では、非線形部分12は、第1の電流20と第2の電流21とを合成して、第3の周波数Fiの第3の電流(すなわち、相互変調電流)22を生成するミキサとして機能し得る。第3の電流22(並びに、第1の電流20及び第2の電流21)は、次いで、導電性受動媒体10全体を通って伝播する(例えば、金属製のアンテナマストの経路を流れる)ことができ、場合によっては、トランシーバ60へ若しくは1つ以上のアンテナ50へと流れて戻る、又は、第2の電磁放射41として新しい周波数Fiで空間へと再放射されることによって、1つ以上のアンテナ50に戻る。いくつかの実施形態では、第2のアンテナ50bが、1つ以上の非線形性部12/12a内で生成された周波数FiのPIM信号を含めて、第1のアンテナ50aにおいて元々発生した(基本周波数F1及びF2を有する)RF信号を再送信又は受信し得る。これらのRF信号(及び特にFi信号)は、トランシーバ60における雑音の増大として見られることがあり、対象とする信号のSNRを大幅に低下させる。
【0028】
PIMの影響を軽減するために、1つ以上の磁性フィルム30(いくつかの実施形態では、30a及び30bを含む)は、線形媒体部分11の導電性の外面13上に、又はその近くに配置され得る。いくつかの実施形態では、磁性フィルム30は、非線形部分12における相互変調電流22の発生を低減又は防止することができる。いくつかの実施形態では、相互変調電流22は、磁性フィルム30によって、いくつかの方法で低減され得る。いくつかの実施形態では、磁性フィルム30は、第1の電流と第2の電流の一方又は両方を非線形部分12に入る前に減衰させることができ、それにより、相互変調電流22は発生しない、又は著しく低減される。いくつかの実施形態では、磁性フィルム30は、非線形部分12からの電流又は放射エネルギーが非線形部分12を出て、線形部分11/11a/11bに入る前に、非線形部分12からの電流又は放射エネルギーを遮断し得る。いくつかの実施形態では、構造内に誘導される電流又は構造を通過する電流を減衰させるのを助けるために、追加の線形部分11(部分11a及び/又は11bなど)の上に、又は追加の線形部分11に近接して、追加の磁性フィルム30(フィルム30a及び/又は30bなど)を配置してもよい。いくつかの実施形態では、例えば、非線形部分12において発生した電流、又は非線形部分12を出る電流が減衰及び/又は除去されるように、非線形部分12の両側の線形部分11上に、磁性フィルム30(例えば、磁気吸収体)を配置してもよい。
【0029】
図2は、
図1の導電性受動媒体10の側面図であり、相互変調電流の生成に関する更なる詳細を示している。近くのアンテナによりブロードキャストされる、又は(
図1に示すように)別の導電構造により放射される電磁放射(RF信号)は、導電性受動媒体10(例えば、アンテナマストの金属製の部分)内で、第1の電流20(基本周波数F1を有するRF信号に対応する)と、第2の電流21(基本周波数F2を有するRF信号に対応する)と、を誘導する。いくつかの実施形態では、第1の電流20及び第2の電流21は、導電性受動媒体10の導電性の受動線形部分11に誘導され、次いで、構造の他の部分を通って移動し得る。これらの実施形態では、第1の電流20及び第2の電流21は、導電性受動非線形部分12に遭遇するまで、導電性の受動線形部分11を通って伝播し得る。本明細書の他の箇所で説明するように、非線形部分12は、異種材料間の接合部、機械部品間の緩んだ接続、腐食又は損傷した領域、他の導電性構成要素(例えば、パイプ又は屋根用雨押さえ)の近接、などを含むがこれらに限定されない、いくつかの事柄により生成され得る。第1の電流20及び第2の電流21が非線形部分12に入ると、非線形性部により、第1の電流20と第2の電流21とが混合して、新しい周波数を有する新しい電流が発生し得る。いくつかの実施形態では、少なくとも第3の電流22が発生し、第3の電流22は、例えば、式Fi=nF1+mF2を使用して計算され得る、F1及びF2の3次高調波を表し得る周波数Fiを有し、n及びmは、正又は負の整数であり得る。別の言い方をすれば、第3の電流は、相互変調信号がアンテナ又は他の構造から放射されたとき、外部デバイス(例えば、セルラー電話などのモバイルデバイス)からの信号を受信するように意図された周波数領域において、アンテナ50に相互変調信号を受信させ、それにより、雑音レベルを上昇させ、受信信号の忠実度を低減し得る、周波数Fiを有する相互変調電流であり得る。次いで、これにより、モバイルデバイスからアンテナ50に情報を転送できる速度が低減されることになる、又は、モバイルデバイスからアンテナへの接続を失うこと(すなわち、「通話の途切れ(dropped call)」)がある。他の実施形態では、第1の電流20及び第2の電流21は、(線形部分11において生じ、非線形部分12へと伝播するのではなく)非線形部分12において直接誘導され得る。これらの実施形態では、電流20及び21の各々、並びに相互変調電流22は、非線形部分12から出て離れ、隣接する線形部分11へと伝播し得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、磁性フィルム30は、非線形部分12に隣接して導電性受動媒体10の線形部分11上に配置され得る(例えば、外面に配置される、又は線形部分11の周りに巻き付けられる)。いくつかの実施形態では、磁性フィルム30は、第1の電流20及び第2の電流21を、並びに、電流20及び21により生成される任意の電磁場の少なくとも一部分を(線形セクションに隣接して電流20及び21が生成する磁場の吸収を通じて)非線形部分12に入る前に少なくとも部分的に減衰させる、磁気吸収体であり得る。第1の電流20及び第2の電流21を非線形部分12に入る前に低減又は除去することによって、第3の(相互変調)電流22の生成を防止又は著しく低減させることができる。いくつかの実施形態では、第1の電流20及び第2の電流21が、非線形部分12内で最初に発生したとき、磁性フィルム30は、非線形部分12を出ようとする第1の電流20、第2の電流21、及び第3の電流22を含む任意の電流を制限又は排除することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、非線形部分12内で発生し得るPIM電流が、導電性受動媒体10の他の部分全体に伝播することを防止又は低減するために、複数の線形部分11上に(例えば、取り付けブラケットなどの非線形部分の上方と下方の両方に延びるアンテナマストのシャフト上に)、2つ以上の磁性フィルム30を配置してもよい。
図3は、本明細書の一実施形態による、磁気吸収フィルムを有する導電性受動媒体10の側面切り欠き図である。図示された実施形態では、導電性受動媒体10は、導電性の第1の受動線形媒体部分11(又は「第1の線形部分」)と、導電性の第2の受動線形部分11a(又は「第2の線形部分」)とを含み、それらの両方とも、導電性の第1の受動非線形媒体部分12(又は「非線形部分」)に隣接している。つまり、第1の線形部分11及び第2の線形部分11aは、非線形部分12の両側に配置されている。第1の磁性フィルム30は、第1の線形部分11の導電性の外面13に近接して配置され(例えば、第1の線形部分11の周りに巻き付けられている)、第2の磁性フィルム30aは、第2の線形部分11aの導電性の外面13aに近接して配置される。いくつかの実施形態では、第1の誘導電流20及び第2の誘導電流21は、第1の線形部分11に沿って伝播し、非線形部分12に入る。非線形部分12に入ると、第1の電流20と第2の電流21とが混合して、第3の又は相互変調電流22を生成し、相互変調電流22は、次いで、表面波として非線形部分12から外に伝播し得る。第1の磁性フィルム30及び第2の磁性フィルム30aを非線形部分の両側に配置する(すなわち、第1の線形部分11及び第2の線形部分11a上に配置する)ことによって、磁性フィルム30及び30aは、非線形部分12に入ろうとする(合成して新しい周波数の新しい電流を生成し得る)任意の電流、又は非線形部分12を出ようとする任意の電流のいずれかを吸収し得る。これらの電流(生成された任意のPIM電流を含む)を吸収することによって、加えて、電流に起因する電磁場を吸収すること、又は電磁場の形成を防止することによって、磁性フィルム30及び30aは、PIM干渉を除去又は著しく低減することができる。
【0032】
図3に示した例示的な非線形性部(すなわち、非線形部分12)は、導電性受動媒体10とは十分に異なる材料製の、又は導電性受動媒体10に緩く接続されている、取り付けブラケット又は取り付けハードウェアにより生成され得、それにより、相違が非線形構成要素をもたらす。別の例では、非線形性部は、導電性受動媒体10の2つの部分を接続する、又は受動媒体10とは十分に異なる材料の2つの部分を接続する、錆びたボルト又は他の締結具であり得る。
図4、
図5、及び
図6は、無線通信システムの同様の実施形態の側面切り欠き図を提供し、様々な構成要素及び/又は状態が非線形性部を生成し、本明細書の説明によるPIM干渉の生成に潜在的につながる。
図4、
図5、及び
図6は各々、
図3と共通であり、同様の機能を果たす、同様の番号が付された要素を含む。
図3に関して既に説明した同様の番号が付された要素は、必要な場合を除き、
図4、
図5、及び
図6について再び論じられない場合がある。
【0033】
図4は、第1の金属11と第2の異なる金属15との間の接合部によって非線形性部12-1が生成されている、導電性受動媒体10の側面切り欠き図である。例えば、第1の金属11と第2の異なる金属15との間の表面接触領域は、非線形のI/V曲線(非線形接合部)を生成する、異なる電気化学ポテンシャルを有し得る。非線形性部12-1に隣接して外面13/13a上に配置された1つ以上の磁性フィルム30/30aの使用は、この非線形接合部へと伝播する誘導電流と、この非線形接合部から離れて伝播する、PIMの影響生成の一因となり得る相互変調電流を吸収/軽減することができる。
【0034】
図5は、金属11と金属酸化物17との間の接合部によって非線形性部12-2が生成されている、導電性受動媒体10の側面切り欠き図である。例えば、いくつかの実施形態では、酸素が存在するときに、露出した金属の表面上でイオン化学反応が起こることがあり、金属からの電子を酸素分子に移動させ、金属上に酸化物表面を生成することができる負の酸素イオンを生成する。元の金属と生成された金属酸化物との間の境界面は、PIM源であり得る。非線形性部12-2に隣接して1つ以上の磁性フィルム30を配置することは、本明細書で説明するように、PIM歪みの生成を軽減するのに役立ち得る。
【0035】
図6は、導電性受動媒体10上の錆領域18によって非線形性部12-3が生成されている、導電性受動媒体10の側面図である。非線形性部を生成することができる他の状態としては、汚染物質(例えば、汚れた接続)、緩んだ接続、不規則な金属間接触(例えば、溶接不良ビード)、及び不均一な接触面が含まれるが、これらに限定されない。非線形性部12-3に隣接して1つ以上の磁性フィルム30を配置することは、本明細書で説明するように、PIM歪みの生成を軽減するのに役立ち得る。
【0036】
最後に、
図7は、本明細書で説明するような、無線通信システムにおける送信信号及び相互変調信号の周波数を示すグラフである。y軸は、信号の相対振幅(強度)を示し、x軸は、信号の相対周波数帯域を示す。グラフの中央において、送信帯域又はTx帯域は(この例では)、本明細書の他の箇所で説明するように、それらの対応する周波数F1及びF2に基づいてラベル付けされた、対象とする送信のための2つの信号を含む。Tx帯域信号からいずれかの方向に移動すると、Tx帯域信号の混合により発生し得る奇数の受動相互変調信号がある。F1信号からページの左側へ移動すると、3次相互変調、5次相互変調、7次相互変調などがある。F2信号からページの右側へ移動すると、別の3次相互変調、5次相互変調、7次相互変調などがある。例えば、F1信号の直ぐに左側の信号は、n=+2かつm=-1(すなわち、2F1-F2)であるときに式nF1+mF2により生成された3次受動相互変調放射(PIM)である。
図7に見られるように、この3次相互変調は、無線通信システムにより使用されている対象とする受信帯域又はRx帯域のうちの1つに入り、信号の振幅は、依然として比較的高い。これらのタイプのPIM信号は、騒音レベルを上昇させ、信号の信号対雑音比(SNR)を低減することによって、対象とする正当な信号の受信と干渉し得る。本明細書に記載するような磁気吸収体の使用は、これらのPIM歪み信号の生成を軽減し、かつ、対象とする無線システム信号のSNRを改善するのに役立ち得る。
【0037】
「約(ほぼ)」などの用語は、これらが本明細書に使用及び記載されている文脈において、当業者によって理解されよう。特徴部のサイズ、量、及び物理的特性を表す量に適用される「約」の使用が、本明細書に使用及び記載されている文脈において、当業者にとって明らかではない場合、「約」とは、特定の値の10パーセント以内を意味すると理解されよう。約特定の値として与えられる量は、正確に特定の値であり得る。例えば、それが本明細書に使用及び記載されている文脈において、当業者にとって明らかではない場合、約1の値を有する量とは、当該量が0.9~1.1の値を有することを意味し、当該値が1であり得ることを意味する。
【0038】
「実質的に」などの用語は、これらが本明細書に使用及び記載されている文脈において、当業者によって理解されよう。「実質的に等しい」の使用が、本発明の記載に使用され記載されている文脈において、当業者にとって明らかではない場合、「実質的に等しい」は、ほぼ等しいことを意味し、ほぼは、上記のとおりである。「実質的に平行」の使用が、これが本明細書に使用及び記載されている文脈において、当業者にとって明らかではない場合、「実質的に平行」は、平行の30度以内を意味する。互いに実質的に平行として記載されている方向又は表面は、いくつかの実施形態において、平行の20度以内、若しくは10度以内であり得、又は平行若しくは名目上平行であり得る。「実質的に位置合わせされる」の使用が、本発明の記載に使用され記載されている文脈において、当業者にとって明らかではない場合、「実質的に位置合わせされる」は、位置合わせされる対象の幅の20%以内で位置合わせされることを意味する。実質的に位置合わせされると記載される対象は、いくつかの実施形態において、位置合わせされる対象の幅の10%以内又は5%以内で位置合わせされてもよい。
【0039】
上記において参照された参照文献、特許、又は特許出願の全ては、それらの全体が参照により本明細書に一貫して組み込まれている。組み込まれている参照文献の部分と本出願との間に不一致又は矛盾がある場合、前述の説明における情報が優先される。
【0040】
図中の要素についての説明は、別段の指示がない限り、他の図中の対応する要素に等しく適用されると理解されたい。特定の実施形態が本明細書において図示及び説明されているが、図示及び記載されている特定の実施形態は、本開示の範囲を逸脱することなく、様々な代替的実施態様及び/又は等価の実施態様によって置き換えられ得ることが、当業者には理解されよう。本出願は、本明細書で論じられた特定の実施形態のいずれの適応例又は変形例も包含することが意図されている。したがって、本開示は、特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定されることが意図されている。