(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】バッテリー駆動モータ及びモータ駆動システム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20241206BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241206BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H02P29/00
H01F1/147 183
H02K1/02 Z
(21)【出願番号】P 2022534316
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2022007743
(87)【国際公開番号】W WO2022202085
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-06-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】千田 邦浩
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】三浦 みちる
【審判官】緑川 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/117095(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
H01F 1/147
H02K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータを介してバッテリーから電力を供給されて負荷を駆動するバッテリー駆動モータであって、
最大出力での駆動時に、前記バッテリーからの供給電流が3.0C以上であり、
鉄心材料として、磁界の強さが5000A/mにおける磁束密度が1.65T以上かつ1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損が40.0W/kg以下である電磁鋼板を用いたステータコアを備え、
前記ステータコアは、前記電磁鋼板を打抜き後に積層することによって形成されて、板厚方向にSi傾斜を有
し、
前記バッテリーは、最大出力での駆動時において、前記バッテリー駆動モータのモータ損失Wmに対して、バッテリー損失WbがWm≦Wbとなる、バッテリー駆動モータ。
【請求項2】
前記バッテリーはリチウムイオン電池である、請求項
1に記載のバッテリー駆動モータ。
【請求項3】
最大回転数が10000rpm以上であって、鉄心重量(kg)に対する出力(kW)が5kW/kgを超える、請求項
1又は2に記載のバッテリー駆動モータ。
【請求項4】
前記電磁鋼板は、磁界の強さが60000A/mにおける磁束密度が1.95T以上かつ1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損が30.0W/kg以下である、請求項1から
3のいずれか一項に記載のバッテリー駆動モータ。
【請求項5】
前記鉄心材料は板厚方向にSi濃度の分布を有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載のバッテリー駆動モータ。
【請求項6】
バッテリーと、
インバータと、
前記インバータを介して前記バッテリーから電力を供給されて負荷を駆動するバッテリー駆動モータと、を備え、
前記バッテリー駆動モータは、
最大出力での駆動時に、前記バッテリーからの供給電流が3.0C以上であり、
鉄心材料として、磁界の強さが5000A/mにおける磁束密度が1.65T以上かつ1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損が40.0W/kg以下である電磁鋼板を用いたステータコアを備え、
前記ステータコアは、前記電磁鋼板を打抜き後に積層することによって形成されて、板厚方向にSi傾斜を有
し、
前記バッテリーは、最大出力での駆動時において、前記バッテリー駆動モータのモータ損失Wmに対して、バッテリー損失WbがWm≦Wbとなる、モータ駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バッテリー駆動モータ及びモータ駆動システムに関する。本開示は、特にバッテリーから電力を供給されるコードレスの家電機器、電動車(EV:electric vehicle)、切削機器及びドローンなどでの使用に好適な、高速で駆動されるバッテリー駆動モータ及びモータ駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリーからの電力供給により駆動されるモータは、高効率であり長時間の運転が可能であることが要求される。一方で、機器全体での寸法及び重量の削減が強く求められている。これらがトレードオフの関係にあることが多く、両者の高度な両立は技術的に困難である。つまり、モータにおいて例えば寸法を大きくし鉄心の励磁磁束密度を低下させることによって比較的高効率が得やすいが、重量及び寸法が増大してしまう。また、モータを小型化するために最大回転数を高速化することがあるが、上記のようなバッテリーからの電力供給により駆動されるモータでは電源電圧の制約が存在するため、電源側の対応が必要となる。例えば、高速回転化の為に高電圧を確保する手法としては、昇圧回路を備えることなどが考えられるが、機器全体として寸法重量の増大は避けられず、結果としてモータ高速化による小型化と相殺してしまうことがある。
【0003】
ところで、上記のようなモータに限らず鉄心材料として、高磁束密度かつ低鉄損な材料を適用することが、モータ効率及び出力を改善するために有効であることが知られている。しかしながら鉄心材料の鉄損と磁束密度の改善には限界があり、また、同一モータであってもその動作状況によって要求される材料特性は変化する。特にバッテリー駆動という電源制約条件下での理想的な鉄心材料特性はこれまでに明確になっておらず、バッテリーで駆動されるモータに対して最適な材料を選択し、機器全体としての効率と寸法及び重量の最適化が出来ていなかった。このような状況に対して、自動車レースなどの一部の特殊な用途においては、飽和磁束密度の特性に優れるパーメンジュール(Fe-Co合金)等の鉄心材料が使用されることがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、パーメンジュールは、コストが比較的高く、Coの供給が不安定になることもあり得る。よって、入手性に優れる無方向性電磁鋼板を用いて、機器全体としての効率と寸法及び重量の最適化が可能な技術が求められている。
【0006】
以上の問題を解決すべくなされた本開示の目的は、システム全体の効率を損なうことなく高い出力密度を達成するバッテリー駆動モータ及びモータ駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者らは、上記の課題を踏まえ高速モータに適した電磁特性をもつ鉄心材料について鋭意検討を重ねた。その結果、最大モータ出力の要求に対してバッテリーの供給電流を3.0C以上とするモータ駆動システムを前提に、モータ鉄心材料として磁界の強さが5000A/m時の磁束密度(B50)が1.65T以上かつ、1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損(W10/1000)が40.0W/kg以下である電磁鋼板を使用することで、効果的に系全体での損失を低減し出力密度と効率の両立を図ることができることを知見した。
【0008】
本開示の一実施形態に係るバッテリー駆動モータは、
インバータを介してバッテリーから電力を供給されて負荷を駆動するバッテリー駆動モータであって、
最大出力での駆動時に、前記バッテリーからの供給電流が3.0C以上であり、
鉄心材料として、磁界の強さが5000A/mにおける磁束密度が1.65T以上かつ1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損が40.0W/kg以下である電磁鋼板を用いたステータコアを備える。
【0009】
また、本開示の一実施形態に係るモータ駆動システムは、
バッテリーと、
インバータと、
前記インバータを介して前記バッテリーから電力を供給されて負荷を駆動するバッテリー駆動モータと、を備え、
前記バッテリー駆動モータは、
最大出力での駆動時に、前記バッテリーからの供給電流が3.0C以上であり、
鉄心材料として、磁界の強さが5000A/mにおける磁束密度が1.65T以上かつ1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損が40.0W/kg以下である電磁鋼板を用いたステータコアを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、システム全体の効率を損なうことなく高い出力密度を達成するバッテリー駆動モータ及びモータ駆動システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るバッテリー駆動モータの構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、バッテリー損失の評価フローとバッテリー損失Wbの定義を説明するための図である。
【
図3】
図3は、バッテリー駆動モータにおけるバッテリー損失の実測評価結果の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、IPM(interior permanent magnet)モータとして製作されたバッテリー駆動モータの構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、SPM(surface permanent magnet)モータとして製作されたバッテリー駆動モータの構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、製作された鉄心の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本開示の一実施形態に係るバッテリー駆動モータ10の構成を模式的に示す図である。バッテリー駆動モータ10は、DC電力をAC電力に変換するインバータを介して、バッテリーから電力を供給されて負荷を駆動する。バッテリー駆動モータ10、バッテリー及びインバータは、
図1に示すように、モータ駆動システム1を構成する。
【0013】
モータ駆動システム1は、例えば電気自動車、掃除機及びドローンなどのバッテリー駆動機器で使用され得る。バッテリー駆動モータ10は、バッテリー駆動機器が備える回転軸などを負荷とする。
【0014】
以下、バッテリー駆動モータ10のコア材料である電磁鋼板の要件とその限定理由が説明される。ここで、バッテリー駆動モータ10の形式に制限はない。また、電磁鋼板は指定の磁気特性が得られていれば成分及び製法について制限されない。また、以下の説明において、成分添加量について単に「%」と示したものは「質量%」を意味する。
【0015】
バッテリー駆動モータ10のコア材料に用いる電磁鋼板としては、以下に説明される要件を満たしている鋼板を選択すればよい。
【0016】
(最大出力時のバッテリーからの供給電流が3.0C以上)
モータの高出力密度化には大容量、つまり高電圧かつ大電流での電力供給に対応した電源の適用が有利である。しかしながら、バッテリーからの電力供給で駆動する系では電圧制約が存在し、昇圧回路を具備することは寸法及び重量の増大を招く。そこで、本実施形態では、モータ駆動に必要な電圧に応じて、リチウムイオン電池のセルを直列若しくは並列又は直列と並列を組み合わせて連ねて、3.0C以上という比較的大きな放電レートでの電流供給によってモータの高出力密度化に適した系において、系全体での損失を低減させる構成を提案する。後述するバッテリー損失Wbはこの放電レート(Cレート)の二乗に比例して大きくなる(
図3参照)。しかし、本実施形態の構成を適用することで従来技術に比べて電流を低減しバッテリーにおける損失を効果的に低減することが可能となる。ここで、Cレートは、放電のスピードを示し、バッテリーの公称容量を1時間で完全放電させる電流の大きさが1Cと定義される。例えば2.0Cは、バッテリーの公称容量を0.5時間で完全放電させる電流の大きさである。バッテリーの最大放電条件のCレート値が高いほどバッテリーにおける損失としては大きくなるが、この値が高いほどモータは高出力密度なものが得られ、本発明の技術を適用することによる系全体での損失改善の効果が得られやすい。よって、好ましくは5.0C以上であり、さらに好ましくは8.0C以上である。一方で、最大Cレートが3.0Cよりも低い場合には効果が得られにくい。
【0017】
また、バッテリーでの損失低減は、バッテリーの温度上昇の抑制に直接的に寄与するので、バッテリーの充放電サイクルによる劣化の抑制にも有効である。このことは、本実施形態に係るバッテリー駆動モータ10及びモータ駆動システム1が有する大きな優位性の1つである。
【0018】
また、上記のように、要求される電圧に応じてリチウムイオン電池の直列数が調整されてよい。また、要求されるモータ駆動システム1の寸法及び連続駆動時間に応じて、並列にリチウムイオン電池が繋ぎ増しされてよい。バッテリーの種類は高エネルギー密度と高出力密度を達成する上でリチウムイオン電池が好適である。ただし、バッテリーの種類は限定されない。
【0019】
(バッテリー損失Wbについて)
図2はバッテリー損失Wbの評価フローを示す。まず、充放電装置にてCC(定電流)放電特性が評価される。詳細に述べると、「JIS C 8711」に示されている方法にて、0.2C(5時間で放電終止電圧に至る電流値)及びモータ最大出力で駆動する時の放電レートでの定電流放電試験が行われる。得られた放電容量W(Ah)と端子間電圧V(V)のカーブを積分することで、バッテリーが外部の系に与えた電気的仕事量(Wh)が算出できる。そして、0.2C及び最大出力時のCレートにおける電圧降下曲線の差分からバッテリー損失Wb(W)が計算される。具体的に述べると、差分(
図2に示されるエネルギー(Wh))を放電時間(h)で除することで、単位時間当たりの最大出力時のバッテリー損失Wb(W)が得られる。ここで、最大出力時のCレート(最大Cレート)が例えば3.0Cの場合には、
図2に記載の式におけるV(C
max)はV(3.0C)である。また、放電時間の1/C
maxは、1/(3.0)である。
【0020】
図3は定格電圧21.6V、定格容量2.8Ahのリチウムイオン電池を対象としたバッテリー損失Wbの測定結果の一例を示す。測定には、菊水電子工業製充放電装置PFX2512を使用した。なお、評価対象の電圧/電流の容量に応じて同様の定電流放電試験が実施できれば、いずれの評価装置で実施してよい。また、電気自動車のようにセルを多数接続した大型のバッテリーパックの評価は困難であるので、一部あるいは単一のセルを抜き出しての充放電試験を実施してよい。
図3に示すように、放電レートが上昇すると、バッテリー損失Wbが上昇する。ここで、バッテリー電流に比例するモータ電流を低下させる効果が有効に生じる形態としては、上記のバッテリー損失Wbがモータ損失Wm(鉄損及び銅損)に対してWm≦Wbである。さらに好ましくは、Wm×2.0≦Wbである。そのため、このような関係が満たされるように、鉄心材料が選択されることが好ましい。
【0021】
(電磁鋼板特性について)
磁束密度(B50)が高い材料ほどモータの高トルク化が得られるので、同一のトルクで比較するとモータ電流を低減できる。そのため、選択される鉄心材料の磁束密度(B50)は1.65T以上とする。ここで、磁束密度(B50)は、磁界の強さが5000A/mにおける磁束密度である。範囲の上限は特になくてよい。また、磁束密度(B600)は、特にモータ最大出力時の駆動で鉄心材料が磁気飽和に近い状態での高トルク化(すなわち低電流化)に有効に寄与するので、1.95T以上が好ましい。さらに好ましくは2.00T以上である。ここで、磁束密度(B600)は、磁界の強さが60000A/mにおける磁束密度である。また、鉄損(W10/1000)は、モータ駆動時の鉄損低減を示す有効な指標である。そのため、選択される鉄心材料の鉄損(W10/1000)は40.0W/kg以下とする。さらに好ましくは30.0W/kg以下である。ここで、鉄損(W10/1000)は、1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損である。
【0022】
電磁鋼板は、上記の磁気特性が達成されていれば他に制約が無い。例えば電磁鋼板の成分及び製法の違いは効果に影響を与えない。また、絶縁被膜については既知の絶縁被膜が少なくとも1面に備わっていればよく特別な制約は無い。ここで、高磁束密度な軟磁性材料として知られるパーメンジュールなどのCo-Fe合金(磁束密度B50が2.3T以上)の適用は、材料コストが高く入手性も悪いため適用を想定していない。
【0023】
電磁鋼板の板厚についても同様に制約は無いが、上記の鉄損を満たすために適宜選択すればよい。鉄心材料としてSiを含むものを選択することができる。電磁鋼板の材料グレードの中では多くの場合に、磁束密度と鉄損はトレードオフの関係にあるが、板厚方向にSi濃度の分布を有することで、材料磁束密度の低下を最小限に抑制しつつ高周波での鉄損低減が可能となるので、高磁束密度と低鉄損の両立が比較的に容易となる。また、電磁鋼板の加工及び積層方式についても制約は無いが、材料の高磁束密度特性によるモータトルク増大(電流低減)を有効に得るため占積率が高い方が好ましい。例えば、レーザ加工により電磁鋼板を所望のモータコア形状に切り出し、積層方向に加圧しながらエポキシ系の接着剤へ真空含侵し、加工硬化させると90%以上の占積率が得られ、好ましい。
【0024】
(モータ最大回転数)
上記のように高速回転化はモータの出力密度を高めるのに有効な手段であるため最大回転数を10000rpm以上とすることが好ましい。小型高速化の要求度合いに応じて、あるいは供給可能な電圧値に応じて、さらに高速回転化してよく、最大回転数は、より好ましくは20000rpm以上である。最大回転数は、さらに好ましくは50000rpm以上である。
【0025】
系全体での小型軽量化には重量物であるモータ、特に鉄心の小型化が有効である。そのため、モータの鉄心重量(kg)に対する出力(kW)が5kW/kgを超えるように、鉄心材料が選択されることが好ましい。より好ましくは7kW/kgである。さらに好ましくは10kW/kgである。
【0026】
上記のようにバッテリー駆動モータ10のモータ形式に制限は無く、いずれの形式でも効果が得られる。ただし、モータの出力密度を高める、高効率とする上では磁石を用いるSPM(surface permanent magnet)モータ又はIPMモータが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を示すが、本開示は以下の実施例に用いられた条件に制限されるものでない。
【0028】
(実施例1)
表1に示す電磁鋼板を鉄心材料として、
図4に示す形状のIPMモータが製作された。作製されたIPMモータは、ロータコア11と、ステータコア12と、シャフト13と、磁石14と、を備える。鉄心の加工は金型による打抜き及びカシメによる積層とした。得られたロータコア11には磁石14が挿入されて、ステータコア12には巻線が施された。これらが組み立てられてIPMモータが製作された。また、IPMモータへの電力供給のために、200個のリチウムイオン電池のセル(3.6V)が用意された。このセルを直列に100個接続したものを、2並列で接続して、総電圧が360Vのバッテリーが得られた。
【0029】
【0030】
バッテリーとモータを、インバータを含むモータ駆動システム1で制御し、モータ最大出力時のバッテリーからの供給電流が4.0Cとなる構成とした。ここで、使用したリチウムイオン電池のセルを
図2に従って評価した結果、4.0Cでのバッテリー損失Wbは10Wであった。つまり、バッテリー全体(200セル)でのバッテリー損失Wbは2kWであった。
【0031】
表2は、製作されたIPMモータについて、最大出力(18000rpm)で動作させた場合の出力及び、モータ損失Wmを評価した結果を示す。所定の範囲に含まれる磁気特性を有する鉄心材料Aを用いた実施例のモータでは最大出力が大きく、モータ鉄心重量に対するモータ最大出力密度(kW/kg)が高いモータとなった。ここで、所定の範囲とは、磁界の強さが5000A/mにおける磁束密度(B50)が1.65T以上かつ1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損(W10/1000)が40.0W/kg以下である。
【0032】
【0033】
一方、表3は、同じモータを用いて12kW(10000rpm)のモータ出力で駆動時に、バッテリー満充電状態からモータ停止までの時間及び停止直後のバッテリー温度を測定した結果を示す。
【0034】
【0035】
鉄心材料Aを用いた実施例は、鉄心材料B及び鉄心材料Cを用いた比較例に比べて10%以上も連続運転時間が長く、バッテリー駆動機器用のモータとして非常に優れていることが分かる。また、実施例のモータ停止後のバッテリー温度に関しては、10℃以上の低減が達成されている。これは、バッテリーの損失低減によるものであるが、バッテリーの熱暴走による故障リスク低減だけではなく、繰り返し使用によるサイクル特性へも好影響を与えることが期待される。
【0036】
(実施例2~5)
続いて、表4に示す電磁鋼板を鉄心材料として、
図5に示す形状のSPMモータが製作された。鉄心材料A~Cは上記と同じである。鉄心材料Dとして、鉄心材料A~Cと異なる新たな電磁鋼板が用いられた。鉄心の加工は金型による打抜き及びカシメによる積層とした。
【0037】
【0038】
得られたロータコアはシャフトと磁石で構成され、ステータコアには巻線が施された。これらが組み立てられてSPMモータが製作された。また、SPMモータへの電力供給のために、リチウムイオン電池のセル(3.6V)が用意された。このセルを直列に7個接続(7直列)あるいは7直列を2並列とし(7直列×2並列)、総電圧が25.2Vのバッテリーが得られた。
【0039】
バッテリーとモータを、インバータを含むモータ駆動システム1で制御し、モータ最大出力時のバッテリーからの供給電流が7直列時に6.0C、7直列を2並列時に3.0Cとなる構成とした。ここで、使用したリチウムイオン電池のセルを
図2に従って評価した結果、6.0Cでのバッテリー損失Wbは20Wであった。つまり、バッテリー全体(7セル)でのバッテリー損失Wbは140Wであった。一方で、3.0Cでのバッテリー損失は5Wであった。つまり、バッテリー全体(14セル)でのバッテリー損失Wbは70Wであった。
【0040】
表5は、製作されたSPMモータについて、最大出力(10万rpm)で動作させた場合の出力及び、モータ損失Wmを評価した結果を示す。所定の範囲に含まれる磁気特性を有する鉄心材料A及びDを用いた実施例のモータでは最大出力が大きく、モータ鉄心重量に対するモータ最大出力密度が高いモータとなった。ここで、所定の範囲とは、磁界の強さが5000A/mにおける磁束密度(B50)が1.65T以上かつ1kHz-1.0Tの正弦波励磁における鉄損(W10/1000)が40.0W/kg以下である。
【0041】
【0042】
一方、表6は、同じモータを用いて0.4kW(9万rpm)のモータ出力で駆動時に、バッテリー満充電状態からモータ停止までの時間及び停止直後のバッテリー温度を測定した結果を示す。
【0043】
【0044】
鉄心材料A及びDを用いた実施例は、鉄心材料B及び鉄心材料Cを用いた比較例に比べて連続運転時間が長く、バッテリー駆動機器用のモータとして非常に優れていることが分かる。また、実施例のモータ停止後のバッテリー温度も低減が達成されている。これは、バッテリーの損失低減によるものであるが、バッテリーの熱暴走による故障リスク低減だけではなく、繰り返し使用によるサイクル特性へも好影響を与えることが期待される。また、上記の実施例の中でも、バッテリー構成が7直列でCレートがより高い条件で使用される場合(実施例2及び実施例3)に、比較例(比較例3及び比較例4)と比べて連続運転時間が10%近く長くなり、モータ停止後のバッテリー温度も10℃近く低くなっており、バッテリー駆動機器用のモータとして顕著に優れていることが分かる。
【0045】
続いて表7に示す鉄心材料E及びFを用いて、
図6に示す形状の鉄心が製作された。ここで、モータ形式は14極のアウターロータSPMである。また、鉄心重量は35gである。鉄心の加工は、打抜き後、接着積層によって10.5mmの高さに積層してモータコアとした。得られたモータコアへ絶縁塗装及び巻線が施されて、モータとして組み上げられた。また、このモータへの電力供給のためリチウムイオン電池のセル(3.7V)が4直列で接続されて、合計で14.8Vの電圧となるバッテリーが得られた。
【0046】
【0047】
表7には、このようなモータ駆動システムに対して、モータを10000rpm-0.31Nm(325W)で連続駆動させ、モータ駆動が維持できなくなるまでの時間を評価した結果が併せて示されている。鉄心材料E及びFはいずれも発明例であり、ほぼ同等の磁気特性を有する材料である。しかし、鉄心材料EとFとは板厚方向へのSi成分の傾斜の有無の点で異なる。そして磁気特性としてほぼ同等でありながら、鉄心材料Fの方はモータ駆動時間が約15%改善されており、板厚方向にSi傾斜を有する場合に優れたモータシステムを構築できることがわかる。この結果は、Si傾斜を有することで鉄心材料を鉄心へ加工した際の劣化を抑制した効果が得られたものと考えられる。あるいは、Si傾斜を有する材料では、絶縁塗装及び巻線によってモータコアへ加えられた応力による磁気特性への悪影響が抑制されたことも考えられる。以上から、本開示におけるバッテリー駆動モータにおいて、Si傾斜を有するということは、単に材料として要求される磁気特性を満たしやすいだけでなく、モータとして組み上げた際のシステム全体での性能向上に有効に作用する。
【0048】
以上のように、本実施形態に係るバッテリー駆動モータ10及びモータ駆動システム1は、上記の構成によって、効果的に系全体での損失を低減し出力密度と効率の両立が可能である。つまり、本実施形態に係るバッテリー駆動モータ10及びモータ駆動システム1は、システム全体の効率を損なうことなく高い出力密度を達成することができる。また、本実施形態に係るバッテリー駆動モータ10及びモータ駆動システム1を適用することによって、小型で高効率な電気自動車、掃除機及びドローンなどのバッテリー駆動機器を実現することができる。
【0049】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0050】
1 モータ駆動システム
10 バッテリー駆動モータ
11 ロータコア
12 ステータコア
13 シャフト
14 磁石