IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハンツマン・テキスタイル・エフェクツ(スイッツァランド)・ゲーエムベーハーの特許一覧

特許7599497分散アゾ染料、その製造方法及びその使用
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】分散アゾ染料、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C09B 29/09 20060101AFI20241206BHJP
   D06P 1/18 20060101ALI20241206BHJP
   D06P 3/52 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
C09B29/09 B CSP
D06P1/18
D06P3/52
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022543193
(86)(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2021050578
(87)【国際公開番号】W WO2021144304
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】20152015.2
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523053004
【氏名又は名称】アークロマ(スイッツァランド)・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペータマン,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ラウク,ウルス
(72)【発明者】
【氏名】ムーラー,ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】フィスター,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ペェシェック,イヴォンヌ
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-000017(JP,A)
【文献】特開昭48-083120(JP,A)
【文献】特表2015-524013(JP,A)
【文献】特開2004-203979(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014994(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 29/09
D06P 1/18
D06P 3/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
(式中、
Dは式(2)又は式(3)で表される基を表し、
【化2】
及びRは独立して水素原子;未置換の若しくはシアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、C-Cアルキル基、又はC-Cアルコキシ基で置換されたC-C10アリール基;-O-、-S-、-NR-、-CO-、-COO-又は-
OOC-で1回以上中断されていてもよい、未置換の若しくはシアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、C-C10アリール基又はC-C10アリールオキシ基で置換されたC-C12アルキル基を表し、該C-C10アリール基又は該C-C10アリールオキシ基は未置換であるか若しくはシアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、C-Cアルキル基、又はC-Cアルコキシ基で置換されており、
及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、カルボキシ基、C-Cアルキル基、C-Cアルコキシ基、C-Cアルキルカルボニル基、C-C10アリールカルボニル基、C-Cアルコキシカルボニル基、C-Cアルキルスルホニル基、C-Cアルキルスルホニルアミノ基又はC-Cアルカノイルアミノ基を表し、及び
はハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、カルボキシ基、C-Cアルキル基、C-Cアルコキシ基、C-Cアルキルカルボニル基、C-C10アリールカルボニル基、C-Cアルコキシカルボニル基、C-Cアルキルスルホニル基、C-Cアルキルスルホニルアミノ基又はC-Cアルカノイルアミノ基を表し、及び
、R、R及びRは互いに独立して水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基又はC-Cアルカノイルアミノ基を表し、及び
基Xは独立してN又はC-Hを表すが、少なくとも1つの基XはC-Hを表す。)
で表されるアゾ染料。
【請求項2】
及びRは独立して水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基若しくはn-ブチル基、2-メトキシエチル基、3-メトキシプロピル基、4-メトキシブチル基、2-エトキシエチル基、3-エトキシプロピル基、4-エトキシブチル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基、又は2-フェニルエチル基を表す、請求項1に記載の式(1)で表されるアゾ染料。
【請求項3】
は水素原子を表し、及び
は水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基若しくはn-ブチル基、2-メトキシエチル基、3-メトキシプロピル基、4-メトキシブチル基、2-エトキシエチル基、3-エトキシプロピル基、4-エトキシブチル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基、又は2-フェニルエチル基を表す、請求項1又は請求項2に記載の式(1)で表されるアゾ染料。
【請求項4】
及びRは水素原子を表す、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の式(1)で表されるアゾ染料。
【請求項5】
両方の基XはC-Hを表す、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の式(1)で表されるアゾ染料。
【請求項6】
及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、アセチルアミノ基、又はプロピオニルアミノ基を表し、及び
はハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、アセチルアミノ基、又はプロピオニルアミノ基を表す、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の式(1)で表されるアゾ染料。
【請求項7】
及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はトリフルオロメチル基を表し、及び
はハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はトリフルオロメチル基を表す、請求項6に記載の式(1)で表されるアゾ染料。
【請求項8】
、R、R及びRは互いに独立して水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アセチルアミノ基、又はプロピオニルアミノ基を表す、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の式(1)で表されるアゾ染料。
【請求項9】
Dは式(2)で表される基を表す、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の式(1)で表されるアゾ染料。
【請求項10】
慣例的な手順に従って、式(2a)又は式(3a)で表されるアミン化合物をジアゾ化し、その後ジアゾ化したアミンを式(1a)で表されるカップリング成分とカップリングさせることを含む、請求項1に記載の式(1)で表されるアゾ染料の製造方法。
【化3】
【化4】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びXは請求項1に定義したとおりである。)
【請求項11】
半合成の又は合成の疎水性繊維材料を染色又は捺染する方法であって、
該方法において請求項1に記載の式(1)で表される染料を該材料に塗布するか又は該材料に混入する、方法。
【請求項12】
半合成の又は合成の疎水性繊維材料の染色又は捺染における請求項1に記載の式(1)で表されるアゾ染料の使用。
【請求項13】
半合成の又は合成の疎水性繊維材料は織物材料である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
請求項11に記載の方法で染色又は捺染された、半合成の又は合成の疎水性繊維材料。
【請求項15】
半合成の又は合成の疎水性繊維材料は織物材料である、請求項14に記載の材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なジアミノピリミジン分散アゾ染料、そのような染料の製造方法並びに半合成の又は特に合成の疎水性繊維材料、より特に織物材料の染色又は捺染におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアミノピリミジン分散アゾ染料は、例えば、英国特許第1 418 742号より知られている。しかしながら、現在知られている染料を得られた染め物又は捺染物はあらゆる場合において、特に耐光性の点で、今日求められる要求を満たさないことが分かっていた。したがって、特に良好な耐光性特性を有する新規な染料が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】英国特許第1 418 742号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
驚くべきことに、我々は含窒素複素芳香族環で置換されたジアミノピリミジン分散アゾ染料が上記の要求を満たし、非常に良好な耐光性、特に耐熱光性を示すことを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は式(1)
【化1】
(式中、
Dは式(2)又は式(3)で表される基を表し、
【化2】
及びRは独立して水素原子;未置換の若しくはシアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、C-Cアルキル基、又はC-Cアルコキシ基で置換されたC-C10アリール基;-O-、-S-、-NR-、-CO-、-COO-又は-OOC-で1回以上中断されていてもよい、未置換の若しくはシアノ基、カルボキシ基、
ヒドロキシ基、C-C10アリール基又はC-C10アリールオキシ基で置換されたC-C12アルキル基を表し、該C-C10アリール基又は該C-C10アリールオキシ基は未置換であるか若しくはシアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、C-Cアルキル基、又はC-Cアルコキシ基で置換されており、
及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、カルボキシ基、C-Cアルキル基、C-Cアルコキシ基、C-Cアルキルカルボニル基、C-C10アリールカルボニル基、C-Cアルコキシカルボニル基、C-Cアルキルスルホニル基、C-Cアルキルスルホニルアミノ基又はC-Cアルカノイルアミノ基を表し、及び
はハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、カルボキシ基、C-Cアルキル基、C-Cアルコキシ基、C-Cアルキルカルボニル基、C-C10アリールカルボニル基、C-Cアルコキシカルボニル基、C-Cアルキルスルホニル基、C-Cアルキルスルホニルアミノ基又はC-Cアルカノイルアミノ基を表し、及び
、R、R及びRは互いに独立して水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基又はC-Cアルカノイルアミノ基を表し、及び
基Xは独立してN又はC-Hを表すが、少なくとも1つの基XはC-Hを表す。)
で表されるアゾ染料に関する。
【0006】
アルキル基を意味するいかなる基も直鎖の又は分岐したアルキル基であり得る。
【0007】
アルキル基のC-Cアルキル基又はC-C12アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、i-オクチル基、n-デシル基及びn-ドデシル基が挙げられる。C-C12アルキル基は-O-、-S-、-NR-、-CO-、-COO-又は-OOC-で1回以上中断されていてもよく、またシアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、C-C10アリール基又はC-C10アリールオキシ基で置換されていてもよい。興味深い実施形態においてC-Cアルキル基はメチル基又はエチル基である。興味深い実施形態においてC-C12アルキル基はメチル基、エチル基、n-プロピル基又はn-ブチル基である。
【0008】
アルコキシ基を意味するいかなる基も直鎖の又は分岐したアルコキシ基であり得る。
【0009】
-Cアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソ-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、ネオペントキシ基又はn-ヘキソキシ基、特にメトキシ基又はエトキシ基を意味する。
【0010】
-C10アリール基は、例えば、フェニル基又はナフチル基、好ましくは、シアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、C-Cアルキル基又はC-Cアルコキシ基で置換されていてもよい、フェニル基を意味する。
【0011】
-C10アリールオキシ基は、例えば、フェノキシ基又はナフトキシ基、好ましくは、シアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、C-Cアルキル基又はC-Cアルコキシ基で置換されていてもよい、フェノキシ基を意味する。
【0012】
ハロゲン原子を意味するいかなる基もフッ素原子、塩素原子又は臭素原子、特に塩素原子又は臭素原子であり得る。
【0013】
-Cアルキルカルボニル基は、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、n-ペンタノイル基、イソペンタノイル基、ヘキサノイル基又はヘプタノイル基を意味する。
【0014】
-C10アリールカルボニル基は、例えば、ベンゾイル基又はナフトイル基、好ましくはベンゾイル基を意味する。
【0015】
-Cアルコキシカルボニル基は、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、iso-ブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペントキシカルボニル基、ネオペントキシカルボニル基、又はn-ヘキソキシカルボニル基を意味する。
【0016】
-Cアルキルスルホニル基は、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n-プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、sec-ブチルスルホニル基、tert-ブチルスルホニル基、n-ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基又はn-ヘキシルスルホニル基、特にメチルスルホニル基又はエチルスルホニル基を意味する。
【0017】
-Cアルキルスルホニルアミノ基は、例えば、メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、n-プロピルスルホニルアミノ基、イソプロピルスルホニルアミノ基、n-ブチルスルホニルアミノ基、イソブチルスルホニルアミノ基、sec-ブチルスルホニルアミノ基、tert-ブチルスルホニルアミノ基、n-ペンチルスルホニルアミノ基、イソペンチルスルホニルアミノ基、ネオペンチルスルホニルアミノ基又はn-ヘキシルスルホニルアミノ基、特にメチルスルホニルアミノ基又はエチルスルホニルアミノ基を意味する。
【0018】
-Cアルカノイルアミノ基は、例えば、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ブタノイルアミノ基、n-ペンタノイルアミノ基、イソペンタノイルアミノ基、又はヘキサノイルアミノ基、特にアセチルアミノ基又はプロピオニルアミノ基を意味する。
【0019】
式(1)で表されるアゾ染料の好ましい実施形態において、R及びRは独立して水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基若しくはn-ブチル基、2-メトキシエチル基、3-メトキシプロピル基、4-メトキシブチル基、2-エトキシエチル基、3-エトキシプロピル基、4-エトキシブチル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基、又は2-フェニルエチル基を表す。
【0020】
トリル基はo-、m-又はp-トリル基を意味する。
【0021】
式(1)で表されるアゾ染料のより好ましい実施形態において、Rは水素原子を表し、及びRは水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基若しくはn-ブチル基、2-メトキシエチル基、3-メトキシプロピル基、4-メトキシブチル基、2-エトキシエチル基、3-エトキシプロピル基、4-エトキシブチル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基、又は2-フェニルエチル基を表す。
【0022】
式(1)で表されるアゾ染料の興味深い実施形態において、R及びRは水素原子を表す。
【0023】
式(1)で表されるアゾ染料の興味深い実施形態において、両方の基XはC-Hを表す
。この場合、式(1)で表されるアゾ染料中の式(1b)
【化3】
で表される基は、例えば、ピリジン-2-イル基、ピリジン-3-イル基又はピリジン-4-イル基を表す。
【0024】
式(1)で表されるアゾ染料の別の興味深い実施形態において、基Xの一方はC-Hを表し、基Xの他方はNを表す。この場合、式(1b)で表される基は、例えば、ピリミジン-2-イル基、ピリミジン-4-イル基、ピリミジン-5-イル基又はピラジン-2-イル基を表す。
【0025】
式(1)で表されるアゾ染料の好ましい実施形態において、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、アセチルアミノ基、又はプロピオニルアミノ基を表し、及びRはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、アセチルアミノ基、又はプロピオニルアミノ基を表す。
【0026】
式(1)で表されるアゾ染料のより好ましい実施形態において、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はトリフルオロメチル基を表し、及びRはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はトリフルオロメチル基を表す。
【0027】
式(1)で表されるアゾ染料の別のより好ましい実施形態において、R、R、R及びRは互いに独立して水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アセチルアミノ基、又はプロピオニルアミノ基を表す。
【0028】
式(1)で表されるアゾ染料の興味深い実施形態において、Dは式(2)で表される基を表す。
【0029】
本発明はまた、慣例的な手順に従って、式(2a)又は式(3a)で表されるアミン化合物をジアゾ化し、その後ジアゾ化したアミンを式(1a)で表されるカップリング成分とカップリングさせることを含む、式(1)で表されるアゾ染料の製造方法に関する。
【化4】
【化5】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びXは上記に定義したとおりである。)
【0030】
式(2a)又は式(3a)で表されるアミン化合物のジアゾ化は、それ自体が既知の方法、例えば、含塩酸又は含硫酸などの酸性水媒体中、亜硝酸ナトリウムを用いて、実施される。しかしながら、ジアゾ化はまた、他のジアゾ化剤、例えばニトロシル硫酸を用いて実施され得る。ジアゾ化において、さらなる酸、例えばリン酸、硫酸、酢酸、プロピオン酸若しくは塩酸又はそのような酸の混合物、例えば、プロピオン酸と酢酸との混合物が、反応媒体中に存在し得る。ジアゾ化は、-10℃乃至30℃の温度、例えば-10℃乃至室温の温度で有利に実施される。
【0031】
式(2a)又は式(3a)で表されるジアゾ化された化合物の、式(1a)で表されるカップリング成分へのカップリングは、同様に既知の方法、例えば酸性の水性又は水性有機媒体中、有利には-10乃至30℃の温度、特に10℃以下の温度で行われる。用いられる酸の例は、塩酸、酢酸、プロピオン酸、硫酸及びリン酸である。
【0032】
式(2a)又は式(3a)で表される化合物は既知であるか又はそれ自体が既知の方法で製造できる。式(1a)で表されるカップリング成分の前駆体は既知であるか又はそれ自体が既知の方法、例えばSynthesis 2010,No.7 pp.1091-1096(2010)に記載されている方法で製造できる。
【0033】
式(1a)で表されるカップリング成分は新規である。したがって、本発明はまた、式(1a)で表される成分に関する。
【化6】
式中、R、R及びXは上記に定義したとおりであり、例えば、分散アゾ染料の製造のカップリング成分として用いることができる。この製造は実験の項に記載されている。
【0034】
本発明による染料は、半合成の又は特に合成の疎水性繊維材料、より特に織物材料の染色又は捺染に用いられ得る。そのような半合成の又は合成の疎水性繊維材料を含む混紡織物で構成される織物材料もまた、本発明による染料を用いて染色又は捺染され得る。
【0035】
考慮される半合成繊維材料は、特に、セルロース2 1/2アセテート及びセルローストリアセテートである。
【0036】
合成疎水性繊維材料は特に線状の、芳香族ポリエステル、例えばテレフタル酸とグリコール類、特にエチレングリコールとの芳香族ポリエステル、又はテレフタル酸と1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンとの縮合生成物;ポリカーボネート、例えばα,α-ジメチル-4,4-ジヒドロキシ-ジフェニルメタンとホスゲンとのポリカーボネート、並びにポリ塩化ビニルに基づく又はポリアミドに基づく繊維からなる。
【0037】
繊維材料への、本発明による染料の適用は、既知の染色手順に従って達成される。例えば、ポリエステル繊維材料は、80乃至140℃の温度で、慣用のアニオン性又は非イオン性の分散剤及び、任意に、慣用の膨張剤(キャリア)の存在下、水分散液から吸尽方法で染色される。セルロース2 1/2アセテートは、好ましくは65乃至85℃の温度で染色され、そしてセルローストリアセテートは65乃至115℃の温度で染色される。
【0038】
本発明による染料は、それらがポリエステル/羊毛及びポリエステル/セルロース繊維混紡織物の染色においても十分に使用できるように、染浴中に同時に存在する羊毛及び綿を着色しないか、又はそのような材料を(非常に適した条件にて)僅かに着色するだけである。
【0039】
本発明による染料は、サーモゾル方法、吸尽方法による染色及び捺染方法に適している。
【0040】
そのような方法において、前記繊維材料は様々な加工形態、例えば繊維、糸又は不織布、織物又は編地の形態であり得る。
【0041】
本発明による染料を、使用前に染料製剤に変形させることは有利である。この目的のために、染料は、その粒径が平均0.1乃至10ミクロンになるように粉砕される。粉砕は分散剤の存在下で実施することができる。例えば、乾燥した染料は、分散剤と共に粉砕されるか、又は分散剤と共にペースト状に混練され、その後真空で又は噴霧によって乾燥される。水を添加した後、得られた製剤は、捺染ペースト及び染浴を調製するために用いることができる。
【0042】
捺染には、慣用の増粘剤が用いられ、例えば、アルギン酸塩、ブリティッシュガム、アラビアガム、結晶ガム、ローカストビーン粉、トラガカント、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン等の変性若しくは未変性の天然物、又は例えば、ポリアクリルアミド、ポリアルクリル酸若しくはそれらのコポリマー、若しくはポリビニルアルコール等の合成製品が用いられる。
【0043】
本発明による式(1)で表される染料は、記録システムで用いるための着色剤としても好適である。そのような記録システムは、例えば、紙又は織物捺染用の市販のインクジェットプリンター、又は万年筆若しくはボールペン等の筆記用具、特にインクジェットプリンターである。この目的のために、本発明による染料は、最初に記録システムでの使用に適した形態にされる。好適な形態は、例えば、本発明による染料を着色剤として含む水性インクである。インクは、必要に応じて適切な分散剤と組み合わせて、所望の量の水で個々の成分を一緒に混合することにより、慣用の方法で調製することができる。
【0044】
本発明による染料は、前記材料、特にポリエステル材料に、特に、良好な、耐光堅牢度、熱堅牢度、プリーツ堅牢度、塩素堅牢度、及び湿潤堅牢度、例えば、耐水堅牢度、汗堅牢度及び洗濯堅牢度等のとても良好な実用的な堅牢度特性を有する安定した色合いを付与
し;完成した染色はとても良好な摩擦堅牢度によってさらに特徴付けられる。光に関して、得られた染め物の良好な堅牢度特性に特に重点を置くべきである。
【0045】
さらに、本発明による染料及び染料混合物はまた、超臨界COから疎水性繊維材料を染色することにもよく適している。
【0046】
本発明は、本発明による染料の上述の使用及び半合成の又は合成の疎水性繊維材料、特に織物材料を染色又は捺染する方法に関し、該方法において、本発明による染料は前記材料に塗布されるか又は混入される。前記疎水性繊維材料は、好ましくは織物ポリエステル材料である。本発明による方法によって処理することができる更なる基材及び好ましい方法の条件は、本発明による染料の使用のより詳細な説明である上文に見出すことができる。
【0047】
インクジェット捺染法の場合、インクの個々の液滴は、制御された方法でノズルから基材上に噴霧される。その目的で使用されるのは、主に連続インクジェット方式及びドロップオンデマンド方式である。連続インクジェット方式の場合、液滴は連続的に生成され、捺染作業に必要でない液滴は容器内に排出され、再利用される。一方、ドロップオンデマンド方式の場合、液滴は必要に応じて生成され、捺染に使用される;つまり、捺染作業に必要な場合にのみ液滴は生成される。液滴の生成は、例えば、ピエゾインクジェットヘッドによって、又は熱エネルギー(バブルジェット)によって行うことができる。ピエゾインクジェットヘッドによる捺染及び連続インクジェット方式による捺染が好ましい。
【0048】
従って、本発明はまた、本発明による式(1)で表される染料を含む水性インク及び種々の基材、特に織物繊維材料を捺染するためのインクジェット捺染法におけるそのようなインクの使用に関し、上記の定義及び選好は染料、インク及び生地に適用される。
【0049】
本発明はまた、上記方法により染色又は捺染された、疎水性繊維材料、好ましくはポリエステル織物材料に関する。
【0050】
本発明による染料は、さらに、例えば、熱転写捺染等の現代の複製方法に適している。
【0051】
以下の実施例は、本発明を説明するのに役立つ。特に明記しない限り、その中の部は質量部であり、パーセンテージは質量パーセンテージである。温度は摂氏度で記される。質量部と体積部との関係は、グラムと立方センチメートルとの関係と同じである。
【実施例
【0052】
I.製造例

製造例1:式(101)で表される染料
【化7】
【0053】
工程A:
Synthesis 2010, No. 7 pp. 1091-1096 (2010)に記載されているように、下記のスキームに従って、出発化合物であるピラジン-2-カルボニトリルをピラジン-2-カルボキシイミドアミド塩酸塩に変換した。白色の固体を85%の収率で得た。
【化8】
【0054】
工程B:
Synthesis 2010, No. 7 pp. 1091-1096 (2010) に記載されているように、下記のスキームに従って、工程Aにより得られたピラジン-2-カルボキシイミドアミド塩酸塩を2-(ピラジン-2-イル)ピリミジン-4,6-ジオールに変換した。薄茶色の固体を94%の収率で得た。
1H-NMR (DMSO-d6, 250 MHz): δ = 9.37 (d, 1H, aromat. H), 8.87 (d, 1H, aromat. H), 8.81 (dd, 1H, aromat H), 5.48 (s, 1H, aromat H)
【化9】
【0055】
工程C:
Synthesis 2010, No. 7 pp. 1091-1096 (2010)に記載されているように、下記のスキームに従って、工程Bにより得られた2-(ピラジン-2-イル)ピリミジン-4,6-ジオールをオキシ塩化リンで4.6-ジクロロ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジンに変換した。白色の固体を68%の収率で得た。
1H-NMR (DMSO-d6, 250 MHz): δ = 9.49 (d, 1H, aromat. H), 8.89 (m, 2H, aromat. H)
, 8.20 (s, 1H, aromat H)
【化10】
【0056】
工程D:
濃アンモニア750mL中の4,6-ジクロロ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジン77.2gの懸濁液を、87℃、6.5バールで22時間撹拌した。室温まで冷却した後、混合物を濾別し、濾過ケーキを水で洗浄して中性にした。乾燥後、褐色の固体化合物として4-アミノ-6-クロロ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジン52.8gを得た。
1H-NMR (DMSO-d6, 250 MHz): δ = 9.34 (d, 1H, aromat. H), 8.75 (m, 2H, aromat. H), 7.54 (s broad, 2H, NH2), 6.52 (s, 1H, aromat H).
【0057】
工程E:
4-アミノ-6-クロロ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジン50gをアニリン200gに加えた。混合物を105℃で7時間攪拌した。反応終了後、75乃至100℃の温度で5時間以内に1.4Lの水を加えながら、過剰のアニリンを蒸留した。塩酸を添加した後、反応混合物を濾別して中性になるまで濾過ケーキを水で洗浄した。乾燥後、暗色の固体化合物として4-アミノ-6-フェニルアミノ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジン63.6gを得た。
1H-NMR (DMSO-d6, 250 MHz): δ = 10.68 (s broad, 1H, NH), 9.42 (d, 1H, aromat. H), 8.97 (d, 1H, aromat. H), 8.89 (dd, 1H, aromat. H), 8.13 (s broad, 2H, NH2), 7.54 (d, 2H, aromat. H), 7.44 (t, 2H, aromat. H), 7.18 (t, 1H, aromat. H), 5.60 (s, 1H, aromat H).
【0058】
工程F:
4-クロロ-2-トリフルオロメチルアニリン2gを、酢酸30g、硫酸5.5g及び水13gとニトロシル硫酸3.4gとの混合物中で、-3乃至6℃の温度で5.5時間以内にジアゾ化した。その後、ジアゾ溶液を、段階Eにより得られた4-アミノ-6-フェニルアミノ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジン2.7g、酢酸(80%)100g、水250g及びアンモニア水(28%)13gの混合物に、約5℃の温度で5分以内に加えた。その後、混合物を15時間以内に室温まで温めた。エタノール100gを添加した後、混合物を濾過した。濾過ケーキを水で洗浄した。生成物をメタノール300g、NMP 100g及び水50g中で攪拌して、きれいにした。濾過し、水で洗浄した後、化合物を乾燥した。赤色の固体化合物として式(101)で表される染料1.5gを得た。1H-NMR (CDCl3, 250 MHz): δ = 9.68 (d, 1H, aromat. H), 8.78 (dd, 1H, aromat. H),
8.70 (d, 1H, aromat. H), 7.79 (m, 4H, aromat. H), 7.63(dd, 1H, aromat. H), 7.46
(t, 2H, aromat. H), 7.23 (t, 1H, aromat. H).
【0059】
4,6-ジアミノ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジンの製造:
濃アンモニア400mL中の4,6-ジクロロ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジンの懸濁液31.5gを、175℃、28バールで21時間撹拌した。室温まで冷却した後、アンモニア水をロータリーエバポレーターで除去し、残留物をDMF/トルエン中で
再結晶した。乾燥後、褐色の固体化合物として4,6-ジアミノ-2-(ピラジン-2-イル)ピリミジン20.8gを得た。
1H-NMR (DMSO-d6, 250 MHz): δ = 9.35 (d, 1H, aromat. H), 8.79 (d, 1H, aromat. H), 8.76 (dd, 1H, aromat. H), 7.06 (s broad, 4H, NH2), 5.60 (s, 1H, aromat H).
【0060】
次の表に記載されている製造例2~114の染料は上記製造例1と同様に製造することができる。
【0061】
【表1】
【0062】
II.適用例

適用例1:
製造例1による式(101)で表される染料1質量部を、市販の分散剤4質量部及び水15質量部と共に粉砕した。この調合物を用いて、135℃での高温吸尽方法により、ポリエステル織布上に1%の染色物(染料及び基材に基づく)を生成した。
試験結果:染色物の耐光性はVDA75202 5サイクル及びSAE J2412 488kJ試験の結果と同様に、良好であった。染料のビルドアップ性は非常に良好だった。
【0063】
適用例2乃至114:
製造例1による式(101)で表される染料の代わりに、製造例2乃至114の染料を用いて、適用例1を繰り返した。染料のビルドアップ性は非常に良好であり、染色物は良好な耐光性並びにVDA75202 5サイクル及びSAE J2412 488kJ試験で非常な良好な結果を示した。
【0064】
比較例

GB1418742に開示された染料を用いて、適用例1を繰り返した。GB1418742に開示された染料は置換されたジアミノピリミジン分散アゾ染料に相当するが、GB1418742は含窒素複素芳香族環で置換されたジアミノピリミジン分散アゾ染料を開示していない。GB1418742に開示された染料の例並びにこの比較例1及び比較例2で使用された染料の例は下記の構造による。
【化11】
【0065】
GB1418742による染料を使用して得られた熱光暴露後の耐光性及び色の変化を、適用例22及び適用例24による染料を使用して得られた耐光性と比較した。
【化12】
【0066】
SAE J2412 488kJ規格に従って得られた結果を以下に要約した:
【表2】
【0067】
本発明による染料(製造例22に相当する)を使用したSAE J2412 488kJ試験による熱光暴露後の色強度の低下は、GB1418742による染料を使用した色強度の低下と比較してわずかに良好である。
【0068】
色の変化(略してdEab*又はdE)は下記の式に従って計算した:
【数1】
式中、
・a,b=色座標
・da,db=色座標の差
・L=明度
・dL=明度の変化
【0069】
本発明による染料(製造例22に対応する)を使用したSAE J2412 488kJ試験による熱光暴露後の色の変化は、GB1418742による染料を使用した色の変化と比較して著しく良好である。この驚くべき結果は、本発明による染料中の置換された含窒素複素芳香族環の存在によるものである。