(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】シリコン基板用研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241206BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20241206BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241206BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2022555235
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2020038324
(87)【国際公開番号】W WO2022074831
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】三浦 穣史
(72)【発明者】
【氏名】若林 慧亮
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/84686(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143323(WO,A1)
【文献】特開2017-139350(JP,A)
【文献】特開2008-252022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分A及び下記成分Bを含有し、
pHが8.5超14以下である、シリコン基板用研磨液組成物。
成分A:シリカ粒子
成分B:pKaが5以上8.5以下であるアミノ基含有水溶性高分子
【請求項2】
成分Bは、アリルアミン及びジアリルアミンから選ばれる1種以上のモノマー由来の構成単位を含む、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、立体遮蔽基を有する、請求項2に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、水酸基を有する炭素数3以上11以下の炭化水素基を含む第2級アミノ基又は第3級アミノ基である、請求項2又は3に記載の研磨液組成物。
【請求項5】
成分Bは、ポリアリルアミンとグリシドール誘導体との反応物である、請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項6】
ジアリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、β位又はγ位に電子吸引基を有する、請求項2に記載の研磨液組成物。
【請求項7】
成分Bは、下記式(III)で表される構成単位を含む化合物である、請求項1,2及び6のいずれかに記載の研磨液組成物。
【化1】
式(III)中、R
3は、水酸基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基であり、n+m=1である。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程を含む、シリコン基板の研磨方法。
【請求項9】
被研磨シリコン基板が、単結晶シリコン基板又はポリシリコン基板である、請求項8に記載の研磨方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程と、
研磨されたシリコン基板を洗浄する工程と、を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコン基板用研磨液組成物、並びにこれを用いた研磨方法、半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の製造に用いられるシリコン基板の研磨に用いられる研磨液組成物として、シリカ粒子を含有する研磨液組成物が知られている。この種の研磨液組成物においては、シリカ粒子の凝集に起因するシリコン基板の表面欠陥(LPD:Light point defects)の発生や、凝集物を除去するために研磨液組成物をろ過する場合のフィルタ目詰まりが問題となっている(例えば、特開2008-53415号公報参照)。また、研磨速度を向上させる目的で、水溶性高分子化合物を含む研磨液組成物が知られている(特開2007-19093号公報、特開平11-116942号公報参照)。
【0003】
特開2008-53415号公報では、LPDを低減するために、ポリビニルピロリドン及びポリN-ビニルホルムアミドから選ばれる少なくとも一種類の水溶性高分子とアルカリとを含有する研磨液組成物が提案されている。
特開2007-19093号公報では、ポリエチレンイミンなどの窒素含有基を含む水溶性高分子化合物を含む研磨液組成物が提案されている。
特開平11-116942号公報では、研磨速度の向上及び研磨対象物の表面の濡れ性向上のために、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)を含む研磨液組成物が提案されている。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、一態様において、下記成分A及び下記成分Bを含有し、pHが8.5超14以下である、シリコン基板用研磨液組成物に関する。
成分A:シリカ粒子
成分B:pKaが5以上8.5以下であるアミノ基含有水溶性高分子
【0005】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程を含む、シリコン基板の研磨方法に関する。
【0006】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程と、研磨されたシリコン基板を洗浄する工程と、を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
しかし、特開2008-53415号公報の研磨液組成物を用いた研磨では、研磨速度が十分とはいえない。
特開2007-19093号公報の研磨液組成物を用いると、窒素含有基を含む水溶性高分子化合物によりシリカ粒子が凝集し、スクラッチの発生などシリコン基板の表面状態が悪化するという問題がある。
特開平11-116942号公報のHECを含む研磨液組成物を用いると、シリカ粒子の凝集物を生じやすく、研磨液組成物をろ過しても直ちにフィルタ目詰まりを起こすため、研磨直前に研磨液組成物をろ過できないという問題がある。
さらに、通常、研磨液組成物は、濃縮物の状態で保管、輸送されるものであり、濃縮物での保存安定性も要求される。
【0008】
本開示は、研磨速度の向上と濃縮物の保存安定性とを両立できるシリコン基板用研磨液組成物、及びこれを用いたシリコン基板の研磨方法並びに半導体基板の製造方法を提供する。
【0009】
本開示は、シリカ粒子及びpKaが5以上8.5以下のアミノ基含有水溶性高分子を含有し、pHが8.5超14以下のシリコン基板用研磨液組成物を用いることにより、シリコン基板を高速研磨でき、濃縮物の保存安定性に優れるという知見に基づく。
【0010】
すなわち、本開示は、一態様において、下記成分A及び下記成分Bを含有し、pHが8.5超14以下である、シリコン基板用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
成分A:シリカ粒子
成分B:pKaが5以上8.5以下であるアミノ基含有水溶性高分子
【0011】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度の向上と濃縮物の保存安定性とを両立できるシリコン基板用研磨液組成物を提供できる。
【0012】
本開示の効果発現機構の詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
pHが8.5超14以下であるアルカリ性の研磨条件においては、シリカ砥粒、被研磨シリコン基板はともに負電荷を有し、常に静電反発力が発生している。研磨速度を向上するためにはこの静電斥力を緩和することが有効であり、カチオン性の物質によって両表面の負電荷を緩和することができるが、そうしてしまうと、シリカ粒子間の凝集が起こり研磨液組成物の保存安定性、特に研磨液組成物の濃縮物の保存安定性が低下するという新たな課題が発生してしまう。
そこで、アミノ基を有する水溶性高分子に着目した所、研磨剤組成物のpHよりも小さなpKaを有するアミノ基含有水溶性高分子(成分B)はカチオン性が低く、シリカ粒子(成分A)や被研磨シリコン基板に対し、アミノ基との静電相互作用よりも、主要因として分子全体のファンデルワールス力で吸着すると考えられる。そのため、シリカ粒子(成分A)と被研磨シリコン基板間の静電反発力を適度に緩和し、シリカ粒子の凝集を抑制し、研磨速度の向上と保存安定性とを両立できると考えられる。
ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0013】
[被研磨シリコン基板]
本開示の研磨液組成物は、シリコン基板用研磨組成物であり、例えば、半導体基板の製造方法における被研磨シリコン基板を研磨する研磨工程や、シリコン基板の研磨方法における被研磨シリコン基板を研磨する研磨工程に用いられうる。本開示の研磨液組成物を用いて研磨される被研磨シリコン基板としては、一又は複数の実施形態において、シリコン基板等が挙げられ、一又は複数の実施形態において、単結晶シリコン基板、ポリシリコン基板、ポリシリコン膜を有する基板、SiN基板等が挙げられ、本開示の研磨液組成物の効果が発揮される観点から、単結晶シリコン基板又はポリシリコン基板が好ましく、単結晶シリコン基板がより好ましい。
【0014】
[シリカ粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物は、研磨材としてシリカ粒子(以下、「成分A」ともいう)を含有する。成分Aとしては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、粉砕シリカ、又はそれらを表面修飾したシリカ等が挙げられ、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、表面粗さ(ヘイズ)、表面欠陥及びスクラッチの低減等の表面品質の向上する観点から、コロイダルシリカが好ましい。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0015】
成分Aの使用形態としては、操作性の観点から、スラリー状が好ましい。本開示の研磨液組成物に含まれる成分Aがコロイダルシリカである場合、アルカリ金属やアルカリ土類金属等によるシリコン基板の汚染を防止する観点から、コロイダルシリカは、アルコキシシランの加水分解物から得たものであることが好ましい。アルコキシシランの加水分解物から得られるシリカ粒子は、従来から公知の方法によって作製できる。
【0016】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度を維持する観点から、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上が更に好ましく、そして、保存安定性を向上する観点、及び、表面粗さ(ヘイズ)、表面欠陥及びスクラッチの低減等の表面品質を向上する観点から、50nm以下が好ましく、45nm以下がより好ましく、40nm以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Aの平均一次粒子径は、10nm以上50nm以下が好ましく、20nm以上45nm以下がより好ましく、30nm以上40nm以下が更に好ましい。
本開示において、成分Aの平均一次粒子径は、窒素吸着法(BET法)によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて算出される。平均一次粒子径の値は、実施例に記載する方法で測定される値である。
【0017】
成分Aの平均二次粒子径は、研磨速度を維持する観点から、20nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、40nm以上が更に好ましく、60nm以上が更に好ましく、保存安定性を向上する観点、及び、表面粗さ(ヘイズ)、表面欠陥及びスクラッチの低減等の表面品質を向上する観点から、100nm以下が好ましく、90nm以下がより好ましく、80nm以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Aの平均二次粒子径は、20nm以上100nm以下が好ましく、40nm以上90nm以下がより好ましく、60nm以上80nm以下が更に好ましい。
本開示において、平均二次粒子径は、動的光散乱(DLS)法によって測定される値であり、実施例に記載する方法で測定される値である。
【0018】
成分Aの会合度は、保存安定性を向上する観点、及び、表面品質を向上する観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、そして、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、表面品質を向上する観点から、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。
【0019】
本開示において、成分Aの会合度とは、シリカ粒子の形状を表す係数であり、下記式により算出される。
会合度=平均二次粒子径/平均一次粒子径
【0020】
成分Aの会合度の調整方法としては、例えば、特開平6-254383号公報、特開平11-214338号公報、特開平11-60232号公報、特開2005-060217号公報、特開2005-060219号公報等に記載の方法を採用することができる。
【0021】
成分Aの形状は、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び表面品質を向上する観点から、いわゆる球型及び/又はいわゆるマユ型であることが好ましい。
【0022】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度を向上する観点から、SiO2換算で、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.07質量%以上が更に好ましく、そして、保存安定性を向上する観点、及び表面品質を向上させる観点から、2.5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下が更により好ましい。よって、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.01質量%以上2.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.07質量%以上0.8質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せの場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
さらに、被研磨シリコン基板が単結晶シリコン基板の場合、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、保存安定性を向上する観点、及び表面品質を向上させる観点から、0.5質量%以下が更により好ましく、0.3質量%以下が更により好ましく、0.2質量%以下が更により好ましい。よって、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.07質量%以上0.5質量%以下が更により好ましく、0.07質量%以上0.3質量%以下が更により好ましく、0.07質量%以上0.2質量%以下が更により好ましい。
さらに、被研磨シリコン基板がポリシリコン基板の場合、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度を向上する観点から、0.1質量%以上が更により好ましく、0.2質量%以上が更により好ましく、0.3質量%以上が更により好ましい。よって、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.1質量%以上0.8質量%以下が更により好ましく、0.2質量%以上0.8質量%以下が更により好ましく、0.3質量%以上0.8質量%以下が更により好ましい。
【0023】
[pKaが5以上8.5以下であるアミノ基含有水溶性高分子(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、pKaが5以上8.5以下であるアミノ基含有水溶性高分子(以下、「成分B」ともいう)を含有する。成分Bは、シリカ粒子(成分A)と被研磨シリコン基板のゼータ電位を調整し、シリカ粒子(成分A)と被研磨シリコン基板間の静電反発力を低減しつつ、シリカ粒子の凝集を抑制できると考えられる。本開示において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。
【0024】
成分BのpKaは、研磨速度を向上する観点から、5以上であって、5.5以上が好ましく、5.9以上がより好ましく、6.3以上が更に好ましく、そして、表面品質を向上する観点から、8.5以下であって、8.3以下が好ましく、8.1以下がより好ましく、8以下が更に好ましい。
さらに、成分Bが後述する成分B1の場合、成分BのpKaは、研磨速度を向上する観点から、6.5以上が更に好ましく、そして、表面品質を向上する観点から、7.7以下が更に好ましく、7.4以下が更に好ましく、7.1以下が更に好ましい。
さらに、成分Bが後述する成分B2の場合、成分BのpKaは、研磨速度を向上する観点から、6.6以上が更に好ましく、6.9以上が更に好ましく、7.1以上が更に好ましく、そして、表面品質を向上する観点から、7.8以下が更に好ましく、7.6以下が更に好ましく、7.4以下が更に好ましい。
【0025】
成分Bとしては、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、アリルアミン及びジアリルアミンから選ばれる1種以上のモノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。成分Bは、入手性の観点から、一又は複数の実施形態において、アリルアミン由来の構成単位を含むアミノ基含有水溶性高分子(以下、「成分B1」ともいう)であることが好ましく、一又は複数の実施形態において、ジアリルアミン由来の構成単位を含むアミノ基が含有水溶性高分子(以下、「成分B2」ともいう)であることが好ましい。
【0026】
(成分B1:アリルアミン由来の構成単位を含むアミノ基含有水溶性高分子)
アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、一又は複数の実施形態において、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、入手性の観点から、立体遮蔽基を有することが好ましい。本開示において、立体遮蔽基とは、成分Bのアミノ基の窒素原子を遮蔽してカチオン化を抑制できる、すなわちpKaを低くする立体的な(嵩高い)置換基のことをいう。立体遮蔽基を有するアミノ基は、同様の観点から、水酸基を有する炭素数3以上11以下の炭化水素基を含む第2級アミノ基又は第3級アミノ基であることが好ましい。炭化水素基の炭素数は、アミノ基の遮蔽性を向上する(アミノ基の窒素原子のカチオン化を抑制する)観点、及び、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、3以上が好ましく、そして、水溶性を向上する観点、及び入手性の観点から、11以下が好ましく、7以下がより好ましく、5以下が更に好ましく、4以下が更により好ましい。
【0027】
立体遮蔽基を有するアミノ基は、一又は複数の実施形態において、アミノ基に対するグリシドール誘導体による修飾基であり、一又は複数の実施形態において、アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基とグリシドール誘導体とが反応して形成される基である。成分B1の全アミノ基のうちの少なくとも一部のアミノ基がグリシドール誘導体によって変性され、立体遮蔽基を有するアミノ基となる。アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基数(1当量)に対するグリシドール誘導体の当量(以下、「グリシドール変性率」ともいう)は、保存安定性を向上する観点、及び、表面品質を向上する観点から、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.8以上が更に好ましく、1以上が更に好ましく、1.1超が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.3以上が更に好ましく、1.4以上が更に好ましく、1.5以上が更に好ましく、そして、研磨速度を向上する観点から、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、2以下が更に好ましく、1.9以下が更に好ましく、1.6以下が更に好ましい。
【0028】
本開示において、グリシドール変性率は、13C-NMRを用いて実施例に記載の方法により測定される値である。ただし、グリシドール変性率は、以下の方法(1)又は(2)によっても測定できる。
(1)反応原料に用いたアリルアミン重合体のアミノ基当量とグリシドール誘導体のモル数から求めることができる。
(2)グリシドール誘導体とアリルアミン重合体との反応物の窒素含有量N(質量%)を測定し、下記式から求めることができる。
グリシドール変性率=A/B
ここで、A=(100-N×アリルアミン単量体の分子量/14)/グリシドール誘導体分子量であり、B=N/14である。
【0029】
グリシドール誘導体としては、例えば、グリシドール、アルキルグリシジルエーテル等が挙げられ、入手性の観点、及び、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、グリシドールが好ましい。アルキルグリシジルエーテルのアルキル基は、入手性の観点から、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。アルキルグリシジルエーテルの具体例としては、メチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0030】
成分B1としては、一又は複数の実施形態において、少なくとも一部のアミノ基が立体遮蔽基を有するポリアリルアミンが挙げられ、一又は複数の実施形態において、ポリアリルアミンとグリシドール誘導体との反応物が挙げられる。
【0031】
成分B1としては、一又は複数の実施形態において、例えば、下記式(I)の構成単位を含む化合物(グリシドール変性ポリアリルアミン)が挙げられる。
【化1】
【0032】
式(I)中、R1及びR2はそれぞれ、水素原子又は立体遮蔽基である。立体遮蔽基としては、グリシドール誘導体由来の修飾基が挙げられ、一又は複数の実施形態において、グリシドールの1モル付加体又は2モル付加体が挙げられ、一又は複数の実施形態において、-CH2CH(OH)CH2(OH)、-CH2CH(OH)CH2O-CH2CH(OH)CH2(OH)等が挙げられる。
【0033】
(成分B2:ジアリルアミン由来の構成単位を含むアミノ基含有水溶性高分子)
ジアリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、一又は複数の実施形態において、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、アミノ基のβ位又はγ位に電子吸引基を有することが好ましい。電子吸引基としては、下記式(II)で表される基等が挙げられる。
【0034】
【0035】
成分B2としては、一又は複数の実施形態において、ジアリルアミン由来の構成単位及び二酸化硫黄由来の構成単位を含む化合物が挙げられ、例えば、下記式(III)で表される構成単位を含む化合物が挙げられる。
【化3】
【0036】
式(III)中、R3は、水酸基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基である。入手性及び経済性の観点の観点から、R3はメチル基が好ましい。また、n+m=1であり、n、mは0又は1である。同様の観点から、m=1且つn=0の化合物が好ましい。なお、m=1且つn=0の化合物とm=0且つn=1の化合物の混合物でもよい。
【0037】
成分B2としては、一又は複数の実施形態において、下記式(IV)で表される構成単位を含む化合物が挙げられ、例えば、メチルジアリルアミン/二酸化硫黄共重合体が挙げられる。
【化4】
【0038】
成分Bの重量平均分子量は、研磨速度を向上する観点から、800以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、1,500以上が更に好ましく、2,000以上が更に好ましく、そして、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、表面粗さ及び表面欠陥を低減する観点から、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、30,000以下が更に好ましく、20,000以下が更に好ましく、15,000以下が更に好ましく、12,000以下が更に好ましい。本開示における成分Bの重量平均分子量は、例えば、実施例に記載する方法により測定できる。
【0039】
成分Bが成分B1である場合、成分Bの重量平均分子量は、研磨速度を向上する観点から、800以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、1,500以上が更に好ましく、2,000以上が更に好ましく、3,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、6,000以上が更に好ましく、7,000以上が更に好ましく、そして、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、表面粗さ及び表面欠陥を低減する観点から、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、30,000以下が更に好ましく、20,000以下が更に好ましく、15,000以下が更に好ましく、12,000以下が更に好ましく、10,000以下が更に好ましい。
【0040】
成分Bが成分B2である場合、成分Bの重量平均分子量は、研磨速度を向上する観点から、800以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、1,500以上が更に好ましく、2,000以上が更に好ましく、そして、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、並びに、表面粗さ及び表面欠陥を低減する観点から、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、30,000以下が更に好ましく、20,000以下が更に好ましく、15,000以下が更に好ましく、12,000以下が更に好ましく、10,000以下が更に好ましく、7,000以下が更に好ましく、5,000以下が更に好ましく、4,000以下が更に好ましい。
【0041】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、10質量ppm以上が好ましく、20質量ppm以上がより好ましく、30質量ppm以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、200質量ppm以下が好ましく、150質量ppm以下がより好ましく、120質量ppm以下が更に好ましい。なお、本開示において、1質量%は10,000質量ppmである(以下同じ)。
【0042】
本開示の研磨液組成物中における成分Aの含有量に対する成分Bの含有量の比(質量比B/A)は、保存安定性を向上する観点から、0.008以上が好ましく、0.016以上がより好ましく、0.025以上が更に好ましく、そして、研磨速度を向上する観点から、0.16以下が好ましく、0.12以下がより好ましく、0.09以下が更に好ましい。
【0043】
[水]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、水を含んでいてもよい。水としては、例えば、イオン交換水や超純水等の水が挙げられる。本開示の研磨液組成物中の水の含有量は、例えば、成分A、成分B、及び後述する任意成分の残余とすることができる。
【0044】
[含窒素塩基性化合物(成分C)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、pHを調整する観点から、含窒素塩基性化合物(以下、「成分C」ともいう)をさらに含有することが好ましい。成分Cとしては、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、表面品質を向上する観点から、水溶性の含窒素塩基性化合物であることが好ましい。本開示において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。本開示において、「水溶性の含窒素塩基性」とは、水に溶解したときに塩基性を示す含窒素化合物をいう。成分Cは、一又は複数の実施形態において、アミノ基含有水溶性高分子(成分B)を含めないものとする。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0045】
成分Cとしては、一又は複数の実施形態において、アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。成分Cとしては、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N一メチルエタノールアミン、N-メチル-N,N一ジエタノ-ルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノ-ルアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、及びヒドロキシアミンから選ばれる1種又は2種以上の組合せが挙げられる。なかでも、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、成分Cとしては、アンモニア、又は、アンモニアとヒドロキシアミンの混合物が好ましく、アンモニアがより好ましい。
【0046】
本開示の研磨液組成物が成分Cを含む場合、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、研磨速度を向上する観点から、5質量ppm以上が好ましく、10質量ppm以上がより好ましく、20質量ppm以上が更に好ましく、保存安定性を向上する観点、表面品質を向上する観点、及びシリコン基板の腐食を抑制する観点から、500質量ppm以下が好ましく、300質量ppm以下がより好ましく、150質量ppm以下が更に好ましく、100質量ppm以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、5質量ppm以上500質量ppm以下が好ましく10質量ppm以上300質量ppm以下がより好ましく、20質量ppm以上150質量ppm以下が更に好ましく、20質量ppm以上100質量ppm以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せの場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0047】
本開示の研磨液組成物が成分Cを含む場合、本開示の研磨液組成物中における成分Aの含有量に対する成分Cの含有量の比C/A(質量比C/A)は、研磨速度を向上する観点から、0.002以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.015以上が更に好ましく、0.025以上が更に好ましく、そして、保存安定性を向上する観点、表面品質を向上する観点、及びシリコン基板の腐食を抑制する観点から、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.1以下が更に好ましく、0.08以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中における質量比C/Aは、0.002以上1以下が好ましく、0.01以上0.5以下がより好ましく、0.015以上0.1以下が更に好ましく、0.025以上0.08以下が更に好ましい。
【0048】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分としては、一又は複数の実施形態において、成分B以外の水溶性高分子、成分C以外のpH調整剤、防腐剤、アルコール類、キレート剤、及び酸化剤等が挙げられる。
【0049】
[pH]
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、8.5超であり、9以上が好ましく、9.5以上が更に好ましく、10以上が更に好ましく、そして、表面品質を向上する観点から、14以下であり、13以下が好ましく、12.5以下がより好ましく、12以下が更に好ましく、11.5以下が更に好ましく、11以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物のpHは、8.5超以上14以下であり、9以上13以下がより好ましく、9以上12.5以下が更に好ましく、9以上12以下が更に好ましく、9.5以上11.5以下が更に好ましく、10以上11以下が更に好ましい。本開示の研磨液組成物のpHは、成分Cや公知のpH調整剤を用いて調整できる。本開示において、上記pHは、実施例に記載する方法で測定した値である。
【0050】
[pH-pKa]
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点、及び、表面品質を向上する観点から、成分BのpKaより大きいことが好ましい。具体的には、pHとpKaとの差(pH-pKa)は、研磨速度の向上と保存安定性とを両立する観点から、0超が好ましく、0.5以上がより好ましく、1以上が更に好ましく、1.5以上が更に好ましく、2以上が更に好ましく、2.5以上が更に好ましく、そして、表面品質を向上する観点から、7以下が好ましく、6以下がより好ましく、5.5以下が更に好ましく、5以下が更に好ましく、4.5以下が更に好ましく、4以下が更に好ましく、3.5以下が更に好ましい。
【0051】
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A及び成分Bと、さらに所望により、水、成分C及びその他の成分とを公知の方法で配合することにより製造できる。すなわち、本開示の研磨液組成物は、例えば、少なくとも成分Aと成分Bとを配合することにより製造できる。したがって、本開示は、その他の態様において、少なくとも成分A及び成分Bを配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、並びに、必要に応じて水、成分C及びその他の成分を同時に又は任意の順に混合することを含む。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミル、又はビーズミル等の撹拌機等を用いて行うことができる。上記本開示の研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0052】
本開示において、「研磨液組成物中の各成分の含有量」は、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における各成分の含有量をいう。
【0053】
本開示の研磨液組成物は、貯蔵及び輸送の観点から、濃縮物として製造され、使用時に希釈されてもよい。希釈倍率としては、製造及び輸送コストの観点、保存安定性の観点から、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは10倍以上、更に好ましくは30倍以上、更に好ましくは50倍以上であり、保存安定性の観点から、好ましくは180倍以下であり、より好ましくは140倍以下、更に好ましくは100倍以下、更に好ましくは70倍以下である。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に各成分の含有量が、上述した含有量(すなわち、使用時の含有量)となるように水で希釈して使用することができる。本開示において研磨液組成物の濃縮物の「使用時」とは、研磨液組成物の濃縮物が希釈された状態をいう。
【0054】
[研磨液キット]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を製造するための研磨液キット(以下、「本開示のキット」ともいう)に関する。本開示のキットによれば、研磨速度向上と濃縮物の保存安定性とを両立できる研磨液組成物が得られる。
本開示のキットとしては、一又は複数の実施形態において、成分A、成分B及び成分Cを含む溶液を含有する研磨液キットが挙げられる。前記溶液には、必要に応じて上述したその他の成分が含まれていてもよい。前記溶液は、使用時に、必要に応じて水を用いて希釈してもよい。
【0055】
[シリコン基板の研磨方法]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程(以下、「研磨工程」ともいう)を含む、シリコン基板の研磨方法(以下、「本開示の研磨方法」ともいう)に関する。本開示の研磨方法によれば、本開示の研磨液組成物を用いるため、研磨速度の向上と表面品質の向上とを両立できる。
【0056】
本開示の研磨方法における研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤に被研磨シリコン基板を押し付けて、3~20kPaの研磨圧力で被研磨シリコン基板を研磨することができる。本開示において、研磨圧力とは、研磨時に被研磨シリコン基板の被研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。
【0057】
本開示の研磨方法における研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤に被研磨シリコン基板を押し付けて、15℃以上40℃以下の研磨液組成物及び研磨パッド表面温度で被研磨シリコン基板を研磨することができる。研磨液組成物の温度及び研磨パッド表面温度としては、研磨速度向上と表面粗さ(ヘイズ)低減等の表面品質との両立の観点から、15℃以上又は20℃以上が好ましく、40℃以下又は30℃以下が好ましい。
【0058】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、その他の態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程(以下、「研磨工程」ともいう)と、研磨されたシリコン基板を洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう)と、を含む、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の半導体基板製造方法によれば、本開示の研磨液組成物を用いることで、研磨速度向上と濃縮物の保存安定性とを両立できるため、高品質の半導体基板を高収率で、生産性よく、安価に製造できる。
【0059】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程は、例えば、単結晶シリコンインゴットを薄円板状にスライスすることにより得られた単結晶シリコン基板を平面化するラッピング(粗研磨)工程と、ラッピング単結晶されたシリコン基板をエッチングした後、単結晶シリコン基板表面を鏡面化する仕上げ研磨工程とを含むことができる。本開示の研磨液組成物は、研磨速度の向上と表面品質の向上とを両立する観点から、上記仕上げ研磨工程で用いられるとより好ましい。
【0060】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程は、例えば、二酸化ケイ素膜及び窒化ケイ素膜を有するシリコン基板の上に化学蒸着(CVD)法によりポリシリコン膜を製膜した基板をポリシリコン膜の凹凸を除去して平坦化する工程と、直下の二酸化ケイ素膜及び窒化ケイ素膜とポリシリコン膜とを同時に研磨し平坦化する工程とを含むことができる。本開示の研磨液組成物は、研磨速度の向上と表面品質の向上とを両立する観点から、上記ポリシリコン膜の凹凸を除去して平坦化する工程で用いられるとより好ましい。
【0061】
本開示の半導体基板製造方法における研磨工程は、上述した本開示の研磨方法における研磨工程と同様の条件(研磨圧力、研磨液組成物及び研磨パッドの表面温度等)で研磨を行うことができる。
【0062】
本開示の半導体基板製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記研磨工程の前に、本開示の研磨液組成物の濃縮物を希釈する希釈工程を含んでいてもよい。希釈媒には、例えば、水を用いることができる。
【0063】
本開示の半導体基板製造方法における洗浄工程では、シリコン基板表面上の残留物低減の観点から、無機物洗浄を行うことが好ましい。無機物洗浄で用いる洗浄剤としては、例えば、過酸化水素、アンモニア、塩酸、硫酸、フッ酸及びオゾン水から選ばれる少なくとも1種を含む無機物洗浄剤が挙げられる。
【0064】
本開示の半導体基板製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記洗浄工程の後に、洗浄後のシリコン基板を水でリンスし、乾燥する工程を更に含むことができる。
【0065】
本開示は、さらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
<1> 下記成分A及び下記成分Bを含有し、pHが8.5超、好ましくは9以上、より好ましくは9.5以上、更に好ましくは10以上であり、そして14以下、好ましくは13以下、より好ましくは12.5以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは11.5以下、更に好ましくは11以下である、シリコン基板用研磨液組成物。
成分A:シリカ粒子
成分B:pKaが5以上、好ましくは5.5以上、より好ましくは5.9以上、より好ましくは6.3以上であり、そして、8.5以下、好ましくは8.3以下、より好ましくは8.1以下、より好ましくは8以下であるアミノ基含有水溶性高分子
<2> pHとpKaとの差(pH-pKa)は、0超、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上、更に好ましくは2.5以上であり、そして、7以下、好ましくは6以下、より好ましくは5.5以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは4.5以下、更に好ましくは4以下、更に好ましくは3.5以下である、<1>に記載の研磨液組成物。
<3> 成分Bは、アリルアミン及びジアリルアミンから選ばれる1種以上のモノマー、好ましくはジアリルアミン由来の構成単位を含む、<1>又は<2>に記載の研磨液組成物。
<4> アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、立体遮蔽基を有する、<3>に記載の研磨液組成物。
<5> アリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、水酸基を有する炭素数3以上11以下の炭化水素基を含む第2級アミノ基又は第3級アミノ基である、<3>又は<4>に記載の研磨液組成物。
<6> 成分Bは、ポリアリルアミンとグリシドール誘導体との反応物、好ましくはグリシドール変性ポリアリルアミンである、<1>から<5>のいずれかに記載の研磨液組成物。
<7> ジアリルアミン由来の構成単位中のアミノ基の少なくとも一部は、β位又はγ位に電子吸引基、好ましくは下記式(II)で表される基を有する、<3>に記載の研磨液組成物。
【化5】
<8> 成分Bは、下記式(III)で表される構成単位を含む化合物である、<1>から<7>のいずれかに記載の研磨液組成物。
【化6】
式(III)中、R
3は、水酸基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基、好ましくはメチル基であり、n+m=1、好ましくはm=1且つn=0である。
<9> 本開示の研磨液組成物中における成分Aの含有量に対する成分Bの含有量の比(質量比B/A)は、0.008以上、好ましくは0.016以上、より好ましくは0.025以上であり、そして、0.16以下、好ましくは0.12以下、より好ましくは0.09以下である、<1>から<8>のいずれかに記載の研磨液組成物。
<10> 本開示の研磨液組成物は、含窒素塩基性化合物(成分C)、好ましくは水溶性の含窒素塩基性化合物、より好ましくばアミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種、更に好ましくはアンモニアを含む、<1>から<9>のいずれかに記載の研磨液組成物。
<11> 本開示の研磨液組成物が成分Cを含む場合、本開示の研磨液組成物中における成分Aの含有量に対する成分Cの含有量の比C/A(質量比C/A)は、0.002以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.015以上、更に好ましくは0.025以上であり、そして、1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.1以下、更に好ましくは0.08以下である、<10>に記載の研磨液組成物。
<12> <1>から<11>のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程を含む、シリコン基板の研磨方法。
<13> 被研磨シリコン基板が、単結晶シリコン基板又はポリシリコン基板、好ましくは単結晶シリコン基板である、<12>に記載の研磨方法。
<14> <1>から<11>のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨シリコン基板を研磨する工程と、
研磨されたシリコン基板を洗浄する工程と、を含む、半導体基板の製造方法。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0067】
1.研磨液組成物の調製
(研磨液組成物の濃縮物)
表1~2に示すシリカ粒子(成分A)、表1~2に示す水溶性高分子(成分B又は非成分B)、アンモニア(成分C)、及び超純水を撹拌混合して、研磨液組成物の濃縮物(60倍)を得た。濃縮物の25℃におけるpHは10.6~11.0であった。
(研磨液組成物)
上記濃縮物をイオン交換水で60倍希釈して、実施例1~9及び比較例1~3の研磨液組成物を得た。表1及び表2中の各成分の含有量は、希釈後の研磨液組成物の使用時における各成分の含有量(質量%又は質量ppm、有効分)である。超純水の含有量は、成分Aと成分B又は非成分Bと成分Cとを除いた残余である。各研磨液組成物(使用時)の25℃におけるpHは10.3であった。
25℃におけるpHは、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM-30G)を用いて測定した値であり、pHメータの電極を研磨液組成物又はその濃縮物へ浸漬して1分後の数値である。
【0068】
各研磨液組成物の調製に用いた成分A、成分B、非成分B及び成分Cには下記のものを用いた。
(成分A)
コロイダルシリカ[平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、会合度2.0]
(成分B)
B1:メチルジアリルアミン・二酸化硫黄共重合体[ニットーボーメディカル社製、PAS-2201、重量平均分子量3,000]
B2:グリシドール変性ポリアリルアミン(グリシドール変性率:2.0)[ニットーボーメディカル社製、重量平均分子量11,000]
B3:グリシドール変性ポリアリルアミン(グリシドール変性率:1.8)[ニットーボーメディカル社製、重量平均分子量10,200]
B4:グリシドール変性ポリアリルアミン(グリシドール変性率:1.5)[ニットーボーメディカル社製、重量平均分子量8,900]
B5:グリシドール変性ポリアリルアミン(グリシドール変性率:1.0)[ニットーボーメディカル社製、重量平均分子量6,900]
(非成分B)
B6:アリルアミン(フリー)重合体[ニットーボーメディカル PAA-03、重量平均分子量3,000]
B7:ポリエチレンイミン[日本触媒社製、 SP-200、 重量平均分子量10,000]
(成分C)
アンモニア[28質量%アンモニア水、キシダ化学社製、試薬特級]
【0069】
2.各種パラメータの測定方法
(1)シリカ粒子(成分A)の平均一次粒子径の測定
成分Aの平均一次粒子径(nm)は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて下記式で算出した。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
【0070】
成分Aの比表面積Sは、下記の[前処理]をした後、測定サンプル約0.1gを測定セルに小数点以下4桁まで精量し、比表面積の測定直前に110℃の雰囲気下で30分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置「フローソーブIII2305」、島津製作所製)を用いて窒素吸着法(BET法)により測定した。
[前処理]
(a)スラリー状の成分Aを硝酸水溶液でpH2.5±0.1に調整する。
(b)pH2.5±0.1に調整されたスラリー状の成分Aをシャーレにとり150℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させる。
(c)乾燥後、得られた試料をメノウ乳鉢で細かく粉砕する。
(d)粉砕された試料を40℃のイオン交換水に懸濁させ、孔径1μmのメンブランフィルタで濾過する。
(e)フィルタ上の濾過物を20gのイオン交換水(40℃)で5回洗浄する。
(f)濾過物が付着したフィルタをシャーレにとり、110℃の雰囲気下で4時間乾燥させる。
(g)乾燥した濾過物(成分A)をフィルタ屑が混入しないようにとり、乳鉢で細かく粉砕して測定サンプルを得た。
【0071】
(2)シリカ粒子(成分A)の平均二次粒子径
成分Aの平均二次粒子径(nm)は、成分Aの濃度が0.25質量%となるように研磨材をイオン交換水に添加した後、得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:「ゼータサイザーNano ZS」、シスメックス社製)を用いて測定した。
【0072】
(3)水溶性高分子の重量平均分子量の測定
水溶性高分子(成分B、非成分B)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を下記の条件で適用して得たクロマトグラム中のピークに基づき算出した。
<水溶性高分子の測定条件>
装置:HLC-8320 GPC(東ソー社製、検出器一体型)
カラム:α-M+α-M
溶離液:0.15mol/L Na2SO4,1%CH3COOH/水
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:ショーデックスRI SE-61示差屈折率検出器
標準物質:分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
【0073】
(4)pKaの測定
HM-41K型pHメーター(東亜DKK(株))用いて、1Mに調整した成分Bの水溶液を0.1M-塩酸により室温で電位差滴定を行った。得られた滴定曲線からpKaを算出した。
【0074】
(5)グリシドール変性率
グリシドール変性率は、13C-NMRを用いて求めた。
<測定条件>
試料:グリシドール変性ポリアリルアミン 200mgを重水0.6mLに溶解
使用装置: 400MHz 13C-NMR(アジレント・テクノロジー株式会社製「Agilent 400-MR DD2」)
測定条件:13C-NMR測定、パルス間隔時間5秒、テトラメチルシランを標準ピーク(σ:0.0ppm)として測定
積算回数:5000回
積分に用いる各ピーク範囲:
A:71.0~72.3ppm(アミノ基と反応したグリシドールの2級水酸基が結合したCのピークの積分値)
B:32.0~41.0ppm(アリルアミンの主鎖Cのピークの積分値)
<グリシドール変性率>
グリシドール変性率(アミノ基の当量に対するグリシドールの当量比)は以下の式で求める。
グリシドール変性率(当量比)= 2A/B
【0075】
3.実施例1~7及び比較例1~2の研磨液組成物の評価
(1)研磨方法等
各研磨液組成物について、それぞれ研磨直前にフィルタ(コンパクトカートリッジフィルタ「MCP-LX-C10S」、アドバンテック社製)にてろ過を行い、下記の研磨条件で下記のシリコン基板に対して仕上げ研磨及び洗浄を行った。
<被研磨シリコン基板>
単結晶シリコン基板[直径200mmのシリコン片面鏡面基板、伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満]
上記単結晶シリコン基板を市販の研磨液組成物(フジミインコーポレーテッド製、GLANZOX 1302)を用いて予め粗研磨を実施した。粗研磨を終了し仕上げ研磨に供した単結晶シリコン基板のヘイズは、2~3ppmであった。
【0076】
<仕上げ研磨条件>
研磨機:片面8インチ研磨機「GRIND-X SPP600s」(岡本工作製)
研磨パッド:スエードパッド(東レ コーテックス社製、アスカー硬度:64、厚さ:1.37mm、ナップ長:450μm、開口径:60μm)
シリコン基板研磨圧力:100g/cm2
定盤回転速度:60rpm
研磨時間:5分
研磨液組成物の供給速度:150g/min
研磨液組成物の温度:23℃
キャリア回転速度:62rpm
【0077】
<シリコン基板の表面粗さ(ヘイズ)の測定>
表面粗さ測定装置「Surfscan SP1-DLS」(KLA Tencor社製)を用いて測定される、暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)での値(DWOヘイズ)を用いた。
【0078】
<洗浄方法>
仕上げ研磨後、シリコン基板に対して、オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を下記のとおり行った。オゾン洗浄では、20ppmのオゾンを含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコン基板の中央に向かって3分間噴射した。このときオゾン水の温度は常温とした。次に希フッ酸洗浄を行った。希フッ酸洗浄では、0.5質量%のフッ化水素アンモニウム(特級、ナカライテクス株式会社)を含んだ水溶液をノズルから流速1L/min、600rpmで回転するシリコン基板の中央に向かって6秒間噴射した。上記オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を1セットとして計2セット行い、最後にスピン乾燥を行った。スピン乾燥では1,500rpmでシリコン基板を回転させた。
【0079】
(2)研磨速度の評価
研磨前後の各シリコン基板の重さを精密天秤(Sartorius社製「BP-210S」)を用いて測定し、得られた重量差をシリコン基板の密度、面積及び研磨時間で除して、単位時間当たりの片面研磨速度を求めた。結果を表1に示す。なお、研磨後のシリコン基板の重さとは、上記仕上げ研磨及び洗浄を行った後のシリコン基板の重さである。
【0080】
(3)濃縮物の保存安定性の評価
各研磨液組成物の濃縮物100gを100mlスクリュー管に入れて密閉し、1日経過後の保存安定性を下記評価基準により評価した。研磨液組成物の濃縮物は、23℃の部屋に保管した。結果を表1に示す。
<評価基準>
A:研磨液組成物の濃縮物を調製してから1日経過後に、凝集物及び分離が生じず、分散安定性を保っているもの。
B:研磨液組成物の濃縮物を調製してから1日経過後に、凝集物及び分離が僅かに生じているもの。
C:研磨液組成物の濃縮物を調製してから1日経過後に、凝集物及び分離が生じているもの。
【0081】
【0082】
表1に示されるように、実施例1~7の研磨液組成物は、比較例1~2の研磨液組成物に比べて、研磨速度の向上と濃縮物の保存安定性とを両立できていることが分かった。
【0083】
4.実施例8~9及び比較例3の研磨液組成物の評価
(1)研磨方法
各研磨液組成物について、それぞれ研磨直前にフィルタ(コンパクトカートリッジフィルタ「MCP-LX-C10S」、アドバンテック社製)にてろ過を行い、上記3(1)と同様の研磨条件で下記のシリコン基板に対して研磨を行った後、上記3(1)と同様の洗浄方法により洗浄を行った。
<被研磨シリコン基板>
ポリシリコン基板[直径200mmのシリコン片面鏡面基板(伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)の上に、プラズマCVD法によりSiO2膜4400Åを堆積させ、続いてプラズマCVD法によりポリシリコン膜8000Åを堆積させた基板]
【0084】
(2)研磨速度の評価
被研磨基板としてポリシリコン基板を用いた研磨速度の評価は、上記3(2)と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0085】
(3)濃縮物の保存安定性の評価
濃縮物の保存安定性の評価は、上記3(3)と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0086】
【0087】
表2に示されるように、実施例8~9の研磨液組成物は、比較例3の研磨液組成物に比べて、研磨速度の向上と濃縮物の保存安定性とを両立できていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示の研磨液組成物を用いれば、研磨速度向上と保存安定性とを両立できる。よって、本開示の研磨液組成物は、様々な半導体基板の製造過程で用いられる研磨液組成物として有用であり、なかでも、シリコン基板の仕上げ研磨用の研磨液組成物として有用である。