(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】生物処理装置及び生物処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/08 20230101AFI20241206BHJP
【FI】
C02F3/08 B
(21)【出願番号】P 2023182562
(22)【出願日】2023-10-24
(62)【分割の表示】P 2022517994の分割
【原出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】1-2019-06505
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】VN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ バン コン、 ニエップ
(72)【発明者】
【氏名】グェン バン、 ホップ
(72)【発明者】
【氏名】目黒 裕章
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-269489(JP,A)
【文献】特開平07-116692(JP,A)
【文献】特開2002-113480(JP,A)
【文献】特開平07-047390(JP,A)
【文献】特開2001-286880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/02- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を生物処理するための微生物が固定された担体が流動する第1の生物処理槽と、
前記第1の生物処理槽に設けられ、前記第1の生物処理槽を、前記被処理水の供給部を含む第1の領域と、前記第1の生物処理槽の下部で前記第1の領域と連通し、上部に前記第1の生物処理槽で処理された処理水の流出部が形成された第2の領域と、に分離する仕切り壁と、
前記流出部に設けられたスクリーンを備え、前記スクリーンは前記担体の前記第1の生物処理槽からの流出を防止する担体捕捉装置と、を有し、
前記担体は、前記第1の領域内に充填され、
前記第1の生物処理槽は、前記仕切り壁と対向する第1の側壁を有し、前記第2の領域は前記仕切り壁と前記第1の側壁との間に形成され、前記処理水は前記第1の側壁を超えて前記第1の生物処理槽を流出し、前記担体捕捉装置は前記第1の側壁の頂部に設けられ
、
前記仕切り壁と前記第1の生物処理槽の底部との離隔距離をD、前記第1の側壁の頂部と前記第1の生物処理槽の前記底部との鉛直距離をHとしたときに、DがHの1/2未満である、生物処理装置。
【請求項2】
前記第2の領域は、前記第1の領域と連通する部分を介して前記第1の領域から流入した前記担体を沈降させるように構成されている、請求項1に記載の生物処理装置。
【請求項3】
前記第2の領域における前記処理水の流速は前記担体の沈降速度よりも小さい、請求項1または2に記載の生物処理装置。
【請求項4】
前記担体の比重は前記処理水の比重より大きい、請求項1から3のいずれか1項に記載の生物処理装置。
【請求項5】
前記第2の領域の容積は前記第1の領域の容積よりも小さい、請求項1から4のいずれか1項に記載の生物処理装置。
【請求項6】
前記第1の領域は天板で覆われており、前記天板に前記供給部のための開口が設けられている、請求項1から5のいずれか1項に記載の生物処理装置。
【請求項7】
前記第1の側壁を超えて前記第1の生物処理槽を流出した前記処理水を生物処理する第2の生物処理槽を有し、前記第2の生物処理槽内には曝気装置が備えられている、請求項1から6のいずれか1項に記載の生物処理装置。
【請求項8】
前記第1の生物処理槽では脱窒処理が行われ、前記第2の生物処理槽では好気処理が行われる、請求項7に記載の生物処理装置。
【請求項9】
被処理水を生物処理するための微生物が固定された担体が流動する第1の生物処理槽と、
前記第1の生物処理槽に設けられ、前記第1の生物処理槽を、前記被処理水の供給部を含む第1の領域と、前記第1の生物処理槽の下部で前記第1の領域と連通し、上部に前記第1の生物処理槽で処理された処理水の流出部が形成された第2の領域と、に分離する仕切り壁と、
前記流出部に設けられたスクリーンを備え、前記スクリーンは前記担体の前記第1の生物処理槽からの流出を防止する担体捕捉装置と、を有し、
前記担体は、前記第1の領域内に充填され、
前記第1の生物処理槽は、前記仕切り壁と対向する第1の側壁を有し、前記第2の領域は前記仕切り壁と前記第1の側壁との間に形成され、前記担体捕捉装置は前記第1の側壁の頂部に設けら
れ、
前記仕切り壁と前記第1の生物処理槽の底部との離隔距離をD、前記第1の側壁の頂部と前記第1の生物処理槽の前記底部との鉛直距離をHとしたときに、DがHの1/2未満である生物処理装置を用いた生物処理方法であって、
前記被処理水を前記第1の生物処理槽で生物処理することと、
前記第1の生物処理槽の処理水を前記第1の側壁を超えて前記第1の生物処理槽から流出させることと、
前記第1の領域と連通する部分を介して前記第1の領域から前記第2の領域に流入した前記担体を前記第2の領域において沈降させることと、
を有する生物処理方法。
【請求項10】
前記スクリーンの前記第2の領域の反対側から洗浄用流体を噴射することを有する、請求項9に記載の生物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物処理装置及び生物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル状や繊維状の担体に保持された嫌気性細菌や好気性細菌などの微生物を用いて生物処理を行う水処理システムが知られている。生物反応槽に供給された被処理水に含まれる有機物が微生物によって分解される。微生物を保持する担体は生物反応槽の内部を流動する。担体の流出を防止するため、生物反応槽の流出口にはスクリーンが設置される。特許第3668358号明細書には、生物反応槽の本体部から出口側に張り出す流出口が形成され、流出口にスクリーンが設置された生物反応槽が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許第3668358号明細書に開示された生物反応槽においては、スクリーンの接液部はほぼ本体部と対向しており、本体部の液体とこれに含まれる担体は概ね水平方向に流出口に流入する。流出口に流入した担体のほぼ全量がスクリーンに達し、スクリーンに捕捉される。このため、大量の担体がスクリーンに付着し、スクリーンの定期的な清掃が必要となる。
【0004】
本発明は担体のスクリーンへの付着を抑制することが可能な生物処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の生物処理装置は、被処理水を生物処理するための微生物が固定された担体が流動する第1の生物処理槽と、第1の生物処理槽に設けられ、第1の生物処理槽を、被処理水の供給部を含む第1の領域と、第1の生物処理槽の下部で第1の領域と連通し、上部に第1の生物処理槽で処理された処理水の流出部が形成された第2の領域と、に分離する仕切り壁と、流出部に設けられたスクリーンを備え、スクリーンは担体の第1の生物処理槽からの流出を防止する担体捕捉装置と、を有している。担体は、第1の領域内に充填され、第1の生物処理槽は、仕切り壁と対向する第1の側壁を有し、第2の領域は仕切り壁と第1の側壁との間に形成され、処理水は第1の側壁を超えて第1の生物処理槽を流出し、担体捕捉装置は第1の側壁の頂部に設けられている。仕切り壁と第1の生物処理槽の底部との離隔距離をD、第1の側壁の頂部と第1の生物処理槽の底部との鉛直距離をHとしたときに、DがHの1/2未満である。
【0006】
本発明によれば、生物反応槽は仕切り壁によって第1の領域と第2の領域とに分離されている。第2の領域は生物反応槽の下部で第1の領域と連通し、処理水の流出部は第2の領域の上部に形成されている。第2の領域は鉛直方向に延びている。第2の領域に流入した担体は重力によって沈降するため、スクリーンに達する担体の量が抑制される。従って、本発明によれば、担体のスクリーンへの付着を抑制することができる。
【0007】
上述した、およびその他の、本出願の目的、特徴、および利点は、本出願を例示した添付の図面を参照する以下に述べる詳細な説明によって明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の生物処理装置の実施形態について説明する。生物処理装置は水処理システムの一部として使用される。まず、生物処理装置2を含む水処理システムの構成例について説明する。
図1は水処理システム1の概略構成を示している。水処理システム1は生物処理装置2と沈殿槽3とを有している。生物処理装置2は、脱窒処理槽2A(第1の生物処理槽)と好気処理槽2B(第2の生物処理槽)とで構成されている。脱窒処理槽2Aには、被処理水の供給ラインL1と、再循環ポンプ5を備えた再循環ラインL2とが接続されている。被処理水は、供給ラインL1を通って脱窒処理槽2Aに供給される。脱窒処理槽2Aでは脱窒処理または嫌気性処理が行われる。脱窒処理では、水中に酸素が存在していない環境下で、被処理水中の硝酸が微生物の有機物を消費する呼吸のために使われることで、有機物が窒素と炭酸ガスと水とに分解される。嫌気性処理では、水中に溶存酸素及び亜硝酸(NO
2-)、硝酸(NO
3-)の中の酸素が存在していない環境下で、有機物が微生物によって、メタンガスと炭酸ガスと水とに分解される。脱窒処理槽2Aで処理された水(処理水)は好気処理槽2Bに送られる。好気処理槽2Bでは好気処理が行わる。好気処理槽2Bは曝気装置55を備えている。曝気装置55によって好気処理槽2Bに空気が送り込まれ、微生物によって残留有機物が炭酸ガスと水とに分解される。好気処理槽2Bで処理された水は沈殿槽3に送られ、処理水から微生物汚泥が分離される。微生物汚泥の一部または全量は、再循環ポンプ5によって、再循環ラインL2を通って脱窒処理槽2Aに戻される。以下、再循環ラインL2を通って脱窒処理槽2Aに戻された、微生物汚泥を含む水も、供給ラインL1から供給される被処理水と合わせて「被処理水」という。
【0009】
次に、
図2~6を参照して生物処理装置2の構成について説明する。
図2は
図1に示す水処理システム1における生物処理装置2の部分斜視図であり、第3の側壁15の図示を省略している。
図3は
図2に示す生物処理装置2の、脱窒処理槽2Aを示す断面図である。
図4は
図3のA-A線に沿った生物処理装置2の、脱窒処理槽2Aを示す平面図である。
図5は
図3のB部拡大図である。
図6はスクリーン27の部分斜視図である。以下の説明において、幅方向Wは脱窒処理槽2Aの第1及び第2の側壁13,14と平行な方向を意味する。
【0010】
脱窒処理槽2Aには被処理水と、微生物(嫌気性細菌)が固定された担体とが収容されている。生物処理装置2は鉄筋コンクリート製の躯体であり、脱窒処理槽2A及び好気処理槽2Bの底部12Aを構成する底板12と、底板12に接続された4つの側面13~16と、天板17と、を有している。脱窒処理槽2Aの出口側の側壁を第1の側壁13、第1の側壁13の反対側に位置する脱窒処理槽2Aの入口側の側壁を第2の側壁14、第1及び第2の側壁13,14と直交する脱窒処理槽2A及び好気処理槽2Bの側壁を第3及び第4の側壁15,16という。
【0011】
脱窒処理槽2Aには仕切り壁18が設けられている。脱窒処理槽2Aは仕切り壁18によって第1の領域19と第2の領域20とに分離されている。第1の領域19は、主に被処理水を脱窒処理するための領域である。第1の領域19は、被処理水の供給部22と撹拌機23とを有している。被処理水の供給部22は供給ラインL1と再循環ラインL2とからなる。攪拌機23の位置、個数及び仕様は、脱窒処理槽2A内の担体が十分に撹拌できるような一般的な選定基準で決定される。脱窒処理槽2Aは無酸素または嫌気性処理を行うものであるため、空気を供給する曝気装置は設けられていない。酸素の侵入をできるだけ防止するため、第1の領域19は天板17で覆われている。天板17には供給ラインL1と再循環ラインL2が通るための開口17Aが設けられている。仕切り壁18は天板17から下方に伸びており、下端部は脱窒処理槽2Aの底部12Aと離隔している。従って、第1の領域19と第2の領域20は脱窒処理槽2Aの下部の連通部21で互いに連通している。仕切り壁18は鉄筋コンクリートで作られているが、金属プレートで作成してもよい。金属プレートは例えば、ステンレス鋼のプレート、ステンレスでライニングされた鋼板を含む。
【0012】
供給ラインL1と再循環ラインL2は脱窒処理槽2Aの入口側、すなわち第2の側壁14の近傍に設けられている。供給ラインL1と再循環ラインL2は、第2の側壁14の幅方向Wにおける中心線の両側に、当該中心線に関しほぼ対称の位置に設けられている。このため、供給ラインL1と再循環ラインL2から供給された被処理水はほぼ第2の側壁14と垂直な方向に、第2の領域20に向かって流動する。供給ラインL1と再循環ラインL2の側面には、脱窒処理槽2Aに開口し、被処理水を脱窒処理槽2Aに供給する複数の供給口24が形成されている。複数の供給口24は第2の側壁14と対向しており、被処理水を第2の側壁14に向けて放出する。被処理水は第2の側壁14に衝突し、その後向きを反対方向に変えて第2の領域20に向かって流動する。従って、被処理水は第1の領域19内で大きな偏流を生じにくくなり、被処理水の流速や撹拌機23により、担体が第1の領域19内で効率よく流動することができる。
【0013】
さらに、第1の阻流板51を設けることで、第1の領域19内でより偏流を生じにくくすることができる。第1の阻流板51は、第1の領域19内でより偏流を抑えることができれば、その形状、配置等に制限はない。本実施形態では、
図3,
図4に示すように、第1の阻流板51は供給ラインL1及び再循環ラインL2の下流側に設けられた仕切り壁18と同様な壁である。第1の阻流板51を設けない場合、供給ラインL1や再循環ラインL2の上部から供給される被処理水は第2の領域20との連通部21に向かう流れが第1の領域19に対して均一にならず、第1の領域19の仕切り壁18の上部付近の水に偏流が生じ、偏流が担体をスクリーンへ到達させるおそれがある。第1の阻流板51を設けることで、第1の領域19に供給された被処理水は第1の阻流板51を超えた際に第1の領域19に対して均一になるため、仕切り壁18の上部付近の水に偏流が生じるのを抑制することができる。
【0014】
第2の領域20は脱窒処理槽2Aで処理された水(処理水)の流出部25を含む領域であり、その容積は第1の領域19よりも小さい。第2の領域20は第1の側壁13と第3の側壁15と第4の側壁16と仕切り壁18とによって画定されている。天板17は第2の領域20には設けられていない。処理水の流出部25は第2の領域20の上部のみに、より正確には第1の側壁13の頂部13Aに形成されている。第1の側壁13の頂部13Aは第3の側壁15、第4の側壁16、仕切り壁18の頂部より低い水平面であり、第2の領域20に流入した処理水は第1の側壁13の頂部13Aを超えて好気処理槽2Bに流出する。
【0015】
流出部25、より正確には第1の側壁13の頂部13Aに、担体の脱窒処理槽2Aからの流出を防止する担体捕捉装置26が設けられている。担体捕捉装置26は、スクリーン27と支持部28とを有しており、第1の側壁13の頂部13Aに支持部28が固定されている。スクリーン27はウェッジワイヤスクリーンからなる。
図5,6に示すように、スクリーン27は複数のワイヤロッド29と複数のサポートロッド30とから構成されている。ワイヤロッド29は互いに平行に、且つ互いに間隔をあけて配置されている。サポートロッド30はワイヤロッド29と直交する方向に延びており、互いに平行に、且つ互いに間隔をあけて配置されている。サポートロッド30の間隔はワイヤロッド29の間隔よりも大きい。各ワイヤロッド29は幅広面29Aと幅狭面29Bとを有する逆三角形断面形状を有し、幅狭面29Bがサポートロッド30に固定されている。互いに隣接する幅広面29Aの間の間隔は、処理水の流通を許容し且つ担体の平均直径より十分に小さい寸法とされている。サポートロッド30は支持部28に固定されている。支持部28は金属プレートからなり、ボルト(図示せず)によって第1の側壁13の頂部13Aに固定されている。スクリーン27は幅広面29Aが処理水の流動方向(
図6に矢印で示す)における上流側、幅狭面29Bが処理水の流動方向における下流側となる向きで配置されている。処理水はワイヤロッド29の幅広面29Aの間を通り、処理水に含まれる担体が幅広面29A、または幅広面29Aの間の隙間で捕捉される。スクリーン27の構成はウェッジワイヤスクリーンに限定されず、処理水を通し担体を捕捉できる限りあらゆるスクリーンを使用することができる。例えば、多数の小孔が形成されたパンチングメタルをスクリーン27として用いることができる。
【0016】
図5に示すように、スクリーン27は鉛直方向Vに対して傾斜しているのが好ましい。すなわち、スクリーン27と支持部28は90度以外の角度で交差している。スクリーン27を傾斜させることで、スクリーン27の接液面積を増加させることができる。スクリーン27は第2の領域20側に傾斜していてもよいし、第2の領域20の反対側(好気処理槽2B側)に傾斜していてもよい。前者の構成は、スクリーン27に付着した担体が第2の領域20に落下するためより好ましい。
【0017】
担体捕捉装置26は、スクリーン27の第2の領域20の反対側(好気処理槽2B側)に洗浄装置31を備えることができる。洗浄装置31はスクリーン27に洗浄用流体を噴射する。洗浄装置31は洗浄用流体を供給する配管32を有している。配管32はスクリーン27の幅方向Wに、スクリーン27のほぼ全幅と対向して延びている。配管32のスクリーン27と対向する面に洗浄用流体を噴射する多数のノズル33が形成されている。後述するように、スクリーン27に付着する担体の量は限られているが、スクリーン27への担体の付着を完全に防止することは難しい。このため、スクリーン27に付着した担体を定期的に除去することが望ましい。洗浄用流体は好ましくは水または空気である。洗浄装置31は第2の領域20側に設けられていても、第2の領域20側と第2の領域20の反対側の両方に設けられていてもよい。
【0018】
次に、
図3を参照して、生物処理装置2を用いた水処理方法の手順、ないし生物処理装置2、特に脱窒処理槽2Aの動作について説明する。上述のように、脱窒処理槽2Aの第1の領域19に供給された被処理水は第1の領域19を第2の領域20に向かって流動しながら、担体Cに固定された微生物によって無酸素もしくは嫌気性処理を受ける。処理水は第1の領域19と第2の領域20との間の連通部21を通って第2の領域20に流入する。処理水は第2の領域20を上昇し、担体Cも処理水の上昇流に随伴して第2の領域20を上昇する。しかし、担体Cの比重は処理水の比重より大きいため、ほとんどの担体Cは流出部25に達することなく、重力によって下降ないし沈降する。連通部21から第2の領域20の下部にかけての領域では、第2の領域20に流入する処理水により生み出された流れと、攪拌機23により生み出された流れにより、流出部25に向かう処理水及び担体Cの流れと、第2の領域20を下降して第1の領域19に戻る担体Cの流れが共存していると考えられる。第2の領域20に侵入したほとんどの担体Cは、第2の領域20を上昇し、次に下降し、第1の領域19に戻ると考えられる。連通部21から第1の領域19に戻る処理水の流れによって、担体Cが第2の領域20の底部12Aや連通部21に滞積することが防止される。
【0019】
処理水は第2の領域20の流出部25に達し、第1の側壁13の頂部13Aを超える。処理水はスクリーン27を通過し、脱窒処理槽2Aから好気処理槽2Bに流出する。第1の領域19内の担体Cは、ほとんどが撹拌機23により生み出される流れにより第1の領域19に留まる。一部の担体Cは、側壁14から側壁13への流れにより第2の領域20に流出するが、担体Cの比重が液体の比重より大きいため、第2の領域20内で沈降する。しかし、第2の領域20に流出した担体Cの一部は、沈降することなく第2の領域20の流出部25に達する可能性がある。第2の領域20の流出部25に達した担体Cは、第1の側壁13の頂部13Aに設けられたスクリーン27に捕捉され、脱窒処理槽2Aから流出することが防止される。
【0020】
仕切り壁18と脱窒処理槽2Aの底部12Aとの離隔距離Dは所定の範囲に設定することが望ましい。離隔距離Dが小さすぎると、連通部21の圧力損失が大きくなり第2の領域20に十分な水量を供給することができない。所定の範囲は、例えば、離隔距離Dと脱窒処理槽2Aの幅方向Wの寸法とを乗じて算出される面積が、第2の領域20の流路断面積以上であるように設定されることが望ましい。また、生物処理装置2の停止時には液体の流動がないため、比重の大きい担体Cが下降し第1の領域19の底面に堆積する。離隔距離Dが小さい場合、底部12Aに堆積した担体Cが連通部21を塞ぐ可能性がある。この状態で生物処理装置2を再起動すると、連通部21を塞いでいる担体が第2の領域20に押し出される。この結果、大量の担体がスクリーン27に到達し、スクリーン27が閉塞する可能性がある。従って、離隔距離Dは生物処理装置2の停止時に底面に堆積した担体層の厚さよりも大きくすることが好ましい。これによって、連通部21において、底面に堆積した担体の上方に流路が確保され、第1の領域19の液体が担体の上方を通って第2の領域20に流れる。
【0021】
脱窒処理槽2Aの底部12Aに堆積する担体層の厚さは担体の充填率に依存する。充填率は脱窒処理槽2Aに保持されている液体の容積に対する担体の体積比を意味する。脱窒処理槽2Aはほぼ直方体であるため、充填率は第1の側壁13の頂部13Aと脱窒処理槽2Aの底部12Aとの鉛直距離Hに対する、仕切り壁18と脱窒処理槽2Aの底部12Aとの離隔距離Dの比率に概ね一致する。以上より、仕切り壁18と脱窒処理槽2Aの底部12Aとの離隔距離Dは、第1の側壁13の頂部13Aと脱窒処理槽2Aの底部12Aとの鉛直距離Hに担体の充填率を乗じた値より大きいことが望ましい。充填率は被処理水の水質などによって変動する。しかし、充填率が40%を超えることはほとんどなく、50%を超えることはほぼあり得ない。従って、現実的には、離隔距離Dを第1の側壁13の頂部13Aと脱窒処理槽2Aの底部12Aとの鉛直距離Hの1/2以上確保する必要性はない。換言すれば、離隔距離Dは第1の側壁13の頂部13Aと脱窒処理槽2Aの底部12Aとの鉛直距離Hの1/2未満でよい。
【0022】
上述の通り、第2の領域20では担体を処理水の上昇流に打ち勝って沈降させるため、第2の領域20における処理水の流速Vは、少なくとも担体の沈降速度より小さいことが望ましい。沈降速度は処理水の性状と担体の種類によって予め求めることができる。第2の領域20における処理水の流速Vは、脱窒処理槽2Aに供給される被処理水の流量(すなわち、第2の領域20に供給される処理水の流量)と、第2の領域20の流路断面とで決定される。担体が確実に沈降するようにするため、第2の領域20における処理水の流速Vは安全率を考慮して決定することが望ましい。安全率は1.2~2.0程度の範囲から決定するのが望ましい。換言すれば、第2の領域20における処理水の流速Vは担体の沈降速度の0.5~0.8倍とすることが望ましい。生物処理装置2の単位時間当たり処理量が決まっている場合は、第2の領域20における処理水の流速Vが所定の値となるように、第2の領域20の流路断面を決定することが望ましい。
【0023】
第2の領域20から第1の側壁13へ越流する水の流れは、供給ラインL1と循環ラインL2とによって規定される流量に依存するが、上述の通り、攪拌機23によって生じた偏流が担体と共に第2の領域20の上部に達して、担体がスクリーンに付着することがある。第2の阻流板52を設けることで、攪拌機23によって生じる流れを抑制し、担体捕捉装置26に到達する担体Cの量を抑えることができる。第2の阻流板52は、担体捕捉装置26に到達する担体Cの量を抑えることができれば、その形状、配置等に制限はない。本実施形態では、
図3,
図4に示すように、第2の阻流板52は、第1の側壁13から側方に突き出す邪魔板である。第2の阻流板52は、第2の領域20における処理水の上昇流を抑制する。
図3に示すように、第2の阻流板52は下方向に傾斜している。これによって、第2の阻流板52の上面に担体が蓄積せず、一旦上昇した担体を第2の阻流板52の上面に沿って降下ないし沈降させることができる。第2の阻流板52を設けることで、担体捕捉装置26に到達する担体Cの量を抑えることができるため、担体捕捉装置26のスクリーン27をより小さくすることができる。
【0024】
本実施形態は以下の長所を有する。上述のように、第2の領域20の入口(連通部21)は脱窒処理槽2Aの下部に位置しており、第2の領域20の出口は第2の領域20の上部のみにある。換言すれば、流出部25ないしスクリーン27は、連通部21より上方且つ第1の領域19から水平方向に直視不能な位置に設けられている。この構成によって、処理水は脱窒処理槽2Aを流出する直前に必ず上昇流となって流動し、処理水から担体が分離される。スクリーン27に達する担体の数が連通部21を通過する担体の数より大幅に低減するため、スクリーン27の接液面積は小さくてよい。換言すれば、ほとんどの担体は第2の領域20の縦方向流路構成によって処理水から分離されるため、スクリーン27は主にバックアップとして機能する。このため、スクリーン27の小型化とコストダウンが可能である。スクリーン27を清掃する頻度及び/または清掃時間も抑えることができる。
【0025】
従来のスクリーンでは多くの部分が脱窒処理槽2Aに水没していたため、スクリーンの清掃方法が制約されている。脱窒処理槽2Aの水抜きを行えば、清掃は容易に行うことができるが、この方法では生物処理装置2を停止する必要がある。稼働中に水没部を清掃するためには特別な設備が必要となり、清掃コストが増加する。これに対して、本実施形態ではスクリーン27が処理水が越流する箇所に設けられているため、稼働中に容易に清掃ができ、清掃コストも抑えられる。また、槽内の水を抜かなくても被処理水の供給を停止するだけでスクリーン27はほぼ全域が露出するため、効率よく清掃ができる。このメリットは無酸素または嫌気性処理において特に顕著である。前述の通り、好気性処理では一般に曝気装置が設けられ、曝気装置から噴出する空気によってスクリーン27が定常的に洗浄される。しかしながら、無酸素または嫌気性処理では脱窒処理槽2Aへの空気の流入を避けることが望ましいため、曝気装置を用いた洗浄を行うと、処理効率が低下する。また、空気曝気したときの空気の溶解効率は水深が深いほど高くなるため、スクリーン27に水没部があると不利になる。このため、嫌気性処理では好気性処理と比べて曝気条件を緩和せざるを得ず、スクリーン27に担体が付着しやすい。本実施形態ではスクリーン27の清掃が容易であるため、嫌気性処理におけるこのような問題点の解決が容易である。また、本実施形態では、第1の領域19が仕切り壁18で第2の領域20と隔離されているため、第1の領域19に空気が流入しにくい。このため、洗浄装置31でスクリーン27を清掃する場合、洗浄用流体として空気を使用することができる。
【0026】
以上、本発明を一実施形態によって説明したが、本発明はこの実施形態に限定されず、除去する物質の種類や濃度等によってさまざまな態様で修正することができる。例えば、好気処理槽2Bを設けずに、脱窒処理槽2Aから排出される水を沈澱槽3に供給することができる。また、好気処理槽2Bにも同様の担体捕捉装置26を設けることができる。好気性細菌を固定する担体はスポンジなどの軽量な物質から形成されるため、嫌気性微生物の担体と比べて重力による沈降が生じにくい。しかし、水分を含んだ担体の比重は被処理水の比重より大きい場合もあり、本発明の効果が得られる場合がある。また、一般的には、本実施形態のように一つの仕切り壁18を設けるだけで、担体を液体から分離する十分な効果が得られるが、例えば担体の比重が処理水の比重に近く、重力による担体の分離効果が小さい場合、仕切り壁18の上流に底板12から立ち上がる他の仕切り壁を配置することもできる。
【0027】
本発明は生物処理装置の改造方法に適用することができる。例えば、生物反応槽の一つの側面に大型のスクリーンが取り付けられている生物処理装置を、本実施形態と同様の構成の生物処理装置に改造することができる。改造工事は以下の手順で行うことができる。まず、大型のスクリーンを取り外し、第1の側壁13を設ける。生物反応槽の内側に仕切り壁18を設け、第1の側壁13の頂部13Aに本実施形態の小型のスクリーン27を含む担体捕捉装置26を設ける。施工性の観点から、仕切り壁18は金属プレートで作成することが好ましい。
【0028】
本発明のいくつかの好ましい実施形態を詳細に示し、説明したが、添付された請求項の趣旨または範囲から逸脱せずに様々な変更および修正が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水処理システムの断面図である。
【
図2】
図1に示す水処理システムにおける生物処理装置の部分斜視図である。
【
図3】
図2に示す生物処理装置の部分断面図である。
【
図4】
図3のA-A線に沿った生物処理装置の部分平面図である。
【符号の説明】
【0030】
2 生物処理装置
2A 脱窒処理槽(第1の生物処理槽)
2B 好気処理槽(第2の生物処理槽)
12 底板
13~16第1~第4の側壁
17 天板
18 仕切り壁
19 第1の領域
20 第2の領域
21 連通部
22 供給部
25 流出部
26 担体捕捉装置
27 スクリーン
31 洗浄装置
C 担体