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特許7599572非接触温度計測装置および非接触温度計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】非接触温度計測装置および非接触温度計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/48 20220101AFI20241206BHJP
   G01J 5/60 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
G01J5/48 E
G01J5/60 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023538670
(86)(22)【出願日】2023-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2023001990
【審査請求日】2023-06-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岐 航
(72)【発明者】
【氏名】小林 暁
(72)【発明者】
【氏名】今城 勝治
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-079798(JP,A)
【文献】特開2020-128980(JP,A)
【文献】特開2002-214039(JP,A)
【文献】特開平08-261840(JP,A)
【文献】特開2004-021921(JP,A)
【文献】特開2014-115262(JP,A)
【文献】特開2018-179956(JP,A)
【文献】特開2018-179814(JP,A)
【文献】特開2016-075615(JP,A)
【文献】特開2015-129710(JP,A)
【文献】国際公開第2009/083973(WO,A1)
【文献】特開平08-043209(JP,A)
【文献】特開平03-021931(JP,A)
【文献】特開平01-278224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00 - G01J 5/90
G01J 1/02
G01J 1/42 - G01J 1/46
G01B 11/00 - G01B 11/30
G01C 3/00 - G01C 3/32
G01N 25/00 - G01N 25/72
G01S 3/78 - G01S 3/789
G01S 13/86
H04N 5/222- H04N 5/257
H04N 7/18
H04N 23/00
H04N 23/10 - H04N 23/76
H04N 23/90 - H04N 23/959
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の赤外カメラが共通の領域を含む視野を撮像した複数の画像間での画素の対応関係を推定するマッチング処理部と、
複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも1つの前記赤外カメラの感度波長帯の変更を制御する制御部と、
推定された画素の対応関係に基づいて、前記赤外カメラと、前記共通の領域に存在する温度計測対象の物体との位置関係を推定する位置関係推定部と、
推定された前記赤外カメラと前記物体との位置関係に基づいて、温度に対応する画素値を補正する画素値補正部と、
推定された画素の対応関係と、前記画素値補正部により前記画素値が補正された画像とを用いて、前記物体が有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率に基づいて、前記画素値補正部により補正された後の前記画素値を補正した画像を生成する放射率補正部と、
複数の前記赤外カメラの受光感度波長の組み合わせのうちの少なくとも2つの前記赤外カメラの受光感度波長が異なる少なくとも2種類の組み合わせであり、複数の前記赤外カメラが前記共通の領域を含む視野を撮像した赤外画像における前記画素値を前記画素値補正部および前記放射率補正部が補正して得られた画像を用いて、前記物体の温度計測に用いる受光感度波長帯の組み合わせを選定する赤外フィルタ選定部と、を備え、
前記制御部は、複数の前記赤外カメラの受光感度波長帯が同一な状態もしくは異なる状態となるように、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも1つの前記赤外カメラの受光感度波長帯の変更を制御し、
前記マッチング処理部は、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも2つの前記赤外カメラの受光感度波長帯が同一の際に、複数の前記赤外カメラが前記共通の領域を含む視野を撮像した画像間での画素の対応関係を推定し、
前記放射率補正部は、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも2つの受光感度波長帯が異なる際に複数の前記赤外カメラが前記共通の領域を含む視野を撮像した画像を用いて、前記物体が有する赤外光の放射率を推定する
ことを特徴とする非接触温度計測装置。
【請求項2】
異なる波長帯の赤外光が通過する複数の赤外フィルタ部を有し、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも一つの前記赤外カメラに入射される赤外光を通過させる前記赤外フィルタ部を切り替える赤外フィルタ変更部と、
前記制御部からの制御情報に基づいて、前記赤外フィルタ部の切り替えを制御する感度波長制御部と、を備え、
前記感度波長制御部は、前記赤外フィルタ変更部による前記赤外フィルタ部の切り替えを制御することにより、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも2つの前記赤外カメラの受光感度波長帯を一致させる
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触温度計測装置。
【請求項3】
複数の前記赤外カメラの視野を遮蔽するシャッター部と、
複数の前記赤外カメラが撮像した複数の赤外画像を、温度に対応する画素ごとの輝度値の分布を示す輝度画像に変換する輝度キャリブレーション部と、を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の非接触温度計測装置。
【請求項4】
複数の前記赤外カメラの各受光感度波長帯は、8から14マイクロメートルの波長帯、3から5マイクロメートルの波長帯、および、これらの波長帯から一定の波長だけ異なる波長帯である
ことを特徴とする請求項3に記載の非接触温度計測装置。
【請求項5】
前記感度波長制御部は、前記赤外フィルタ変更部による前記赤外フィルタ部の切り替えを制御することにより、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも2つの前記赤外カメラの受光感度波長帯を一致させる
ことを特徴とする請求項4に記載の非接触温度計測装置。
【請求項6】
前記シャッター部は、前記赤外フィルタ変更部と一体に構成され、当該赤外フィルタ変更部によって切り替えられた前記赤外フィルタ部を通過した赤外光が入射される前記赤外カメラの視野を遮蔽する
ことを特徴とする請求項5に記載の非接触温度計測装置。
【請求項7】
前記感度波長制御部は、複数の前記赤外カメラの受光感度波長帯の組み合わせの数を、少なくとも3つ以上変更可能である
ことを特徴とする請求項5に記載の非接触温度計測装置。
【請求項8】
前記赤外フィルタ選定部が選定した受光感度波長帯の組み合わせで複数の前記赤外カメラが前記共通の領域を含む視野を撮像した複数の赤外画像における前記画素値を前記画素値補正部および前記放射率補正部が補正して得られた複数の画像を合成する画像合成部を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触温度計測装置。
【請求項9】
温度計測対象の前記物体とは別に設けられた参照ターゲットの温度を計測する参照温度計測部を備え、
前記輝度キャリブレーション部は、
複数の前記赤外カメラとは別に設けられたシャッター輝度計測用赤外カメラが撮像した前記参照ターゲットと前記シャッター部とを含む赤外画像を用いて、前記参照ターゲットと前記シャッター部の温度に対応する画素ごとの輝度値の分布を示す輝度画像を生成し、
前記画素値補正部は、
前記参照ターゲットの輝度画像と前記参照ターゲットの温度計測値との対応関係を用いて、前記シャッター部の輝度画像を補正し、
補正した前記シャッター部の輝度画像を用いて前記物体の輝度画像を補正する
ことを特徴とする請求項7に記載の非接触温度計測装置。
【請求項10】
非接触温度計測装置による非接触温度計測方法であって、
マッチング処理部が、複数の赤外カメラが共通の領域を含む視野を撮像した複数の画像間での画素の対応関係を推定するステップと、
制御部が、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも1つの前記赤外カメラの感度波長帯の変更を制御するステップと、
位置関係推定部が、推定された画素の対応関係に基づいて、前記赤外カメラと、前記共通の領域に存在する温度計測対象の物体との位置関係を推定するステップと、
画素値補正部が、推定された前記赤外カメラと前記物体との位置関係に基づいて、温度に対応する画素値を補正するステップと、
放射率補正部が、推定された画素の対応関係と、前記画素値補正部により前記画素値が補正された画像とを用いて、前記物体が有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率に基づいて、前記画素値補正部により補正された後の前記画素値を補正した画像を生成するステップと、
赤外フィルタ選定部が、複数の前記赤外カメラの受光感度波長の組み合わせのうちの少なくとも2つの前記赤外カメラの受光感度波長が異なる少なくとも2種類の組み合わせであり、複数の前記赤外カメラが前記共通の領域を含む視野を撮像した赤外画像における前記画素値を前記画素値補正部および前記放射率補正部が補正して得られた画像を用いて、前記物体の温度計測に用いる受光感度波長帯の組み合わせを選定するステップと、を備え、
前記制御部は、複数の前記赤外カメラの受光感度波長帯が同一な状態もしくは異なる状態となるように複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも1つの前記赤外カメラの受光感度波長帯の変更を制御し、
前記マッチング処理部は、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも2つの前記赤外カメラの受光感度波長帯が同一の際に複数の前記赤外カメラが前記共通の領域を含む視野を撮像した画像間での画素の対応関係を推定し、
前記放射率補正部は、複数の前記赤外カメラのうちの少なくとも2つの受光感度波長帯が異なる際に複数の前記赤外カメラが前記共通の領域を含む視野を撮像した画像を用いて、前記物体が有する赤外光の放射率を推定する
ことを特徴とする非接触温度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非接触温度計測装置および非接触温度計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外カメラは、物体が放射する赤外光を検出することにより、赤外画像を撮像するものである。赤外画像は、物体が放射する赤外光の放射強度に応じた輝度の分布を示す画像であり、赤外画像を用いることで物体の表面温度を計測することが可能である。赤外画像が示す物体の見かけの放射強度と、物体の実際の表面温度との関係は、物体が有する赤外光の放射率および赤外カメラと物体との位置関係に応じて変化する場合がある。
【0003】
ここで、物体が有する赤外光の放射率とは、物体が放射する赤外光のエネルギーを1として、物体と同じ温度の黒体がプランクの法則に従って放射する赤外光のエネルギーとの比を表したものである。また、赤外カメラと物体との位置関係とは、例えば、赤外カメラと物体との間の距離、および赤外カメラに対する物体の角度が含まれる。
【0004】
赤外画像を用いた物体の非接触温度計測では、赤外画像が示す物体の見かけの放射強度と物体の実際の表面温度との関係の変化に伴って、物体の温度が誤って計測される場合がある。これに対して、物体が有する赤外光の放射率を推定して、当該放射率を用いた物体の温度計測誤差の補正を行い、赤外カメラと物体との位置関係を推定して、当該位置関係を用いた物体の温度計測誤差の補正を行うことができる。
【0005】
物体が放射する赤外光の放射スペクトルは、物体の温度に応じて異なるスペクトル形状となる。この特性を利用することによって、物体が有する赤外光の放射率を推定し、赤外カメラと物体との位置関係を推定することができる。例えば、赤外光の受光感度波長帯の異なる複数の赤外カメラが撮像した複数の赤外画像を用いて赤外光の感度曲線を特定し、特定した感度曲線を用いて温度計測対象の物体の放射率を推定することにより、放射率が計測温度に与える影響を補正することができる。
【0006】
例えば、特許文献1には、赤外カメラと目標の物体との位置関係を推定する目標検出装置が記載されている。特許文献1に記載される目標検出装置は、赤外光の受光感度波長帯の異なる複数の赤外カメラが撮像した同一視野の赤外画像に二値化処理を行い、二値化画像間での画素マッチングを行うことによって目標の物体を抽出している。そして、目標の物体が撮像された二値化画像間での画素の対応関係を特定し、特定した画素の対応関係に基づいて、赤外カメラと物体との位置関係を推定している。
【0007】
なお、特許文献1に記載される発明は、艦船または航空機等に搭載されて、海面または空等を背景とした物体を撮像して検出する目標検出装置であるため、目標の物体は、赤外画像において点状に撮像される。このため、物体の温度に対応する画素値の分布、例えば輝度分布に二値化処理を行った二値化画像では、目標の物体が、背景よりも高温の点光源的に強調されて、二値化画像から物体を抽出しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-075615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
赤外カメラを用いた物体の非接触温度計測において、赤外光の受光感度波長帯の異なる複数の赤外カメラが温度計測対象の物体を撮像した赤外画像を用いて、物体が有する赤外光の放射率と、赤外カメラと物体との位置関係を推定することができれば、これらが計測温度に与える影響を補正することができる。
【0010】
赤外光の受光感度波長帯の異なる複数の赤外カメラが撮像した赤外画像間では、温度に対応する画素値の分布、例えば、輝度分布が画像間で大きく異なったものとなる。
特許文献1では、目標の物体が赤外画像に点状に撮像されることを想定しているので、輝度分布に二値化を行った二値化画像では物体が点光源的に強調される。このため、赤外光の受光感度波長帯の異なる複数の赤外カメラが撮像した画像の二値化画像間においても共通の物体を特定しやすく、赤外カメラと物体との位置関係を推定することができる。
【0011】
しかしながら、赤外光の受光感度波長帯の異なる複数の赤外カメラが撮像した赤外画像に様々な温度を有する複数の物体が撮像されて、温度計測対象の物体の温度と背景または他の物体の温度との差が明確ではない場合、温度に対応する輝度分布の違いが二値化画像間でさらに強調される。この場合、二値化画像間の画素マッチングによる画素の対応関係の判定が困難になって画像から物体を抽出できなくなり、赤外カメラと物体との位置関係を推定できなくなる。このため、赤外カメラと物体との位置関係が計測温度に与える影響を補正できないという課題があった。
【0012】
本開示は上記課題を解決するものであり、物体が有する赤外光の放射率と、赤外カメラと物体との位置関係とが計測温度に与える影響を補正することができる、非接触温度計測装置および非接触温度計測方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係る非接触温度計測装置は、複数の赤外カメラが共通の領域を含む視野を撮像した複数の画像間での画素の対応関係を推定するマッチング処理部と、複数の赤外カメラのうちの少なくとも1つの赤外カメラの感度波長帯の変更を制御する制御部と、推定された画素の対応関係に基づいて、赤外カメラと、共通の領域に存在する温度計測対象の物体との位置関係を推定する位置関係推定部と、推定された赤外カメラと物体との位置関係に基づいて、温度に対応する画素値を補正する画素値補正部と、推定された画素の対応関係と、画素値補正部により画素値が補正された画像とを用いて、物体が有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率に基づいて、画素値補正部により補正された後の画素値を補正した画像を生成する放射率補正部と、複数の赤外カメラの受光感度波長の組み合わせのうちの少なくとも2つの赤外カメラの受光感度波長が異なる少なくとも2種類の組み合わせであり、複数の赤外カメラが共通の領域を含む視野を撮像した赤外画像における画素値を画素値補正部および放射率補正部が補正して得られた画像を用いて、物体の温度計測に用いる受光感度波長帯の組み合わせを選定する赤外フィルタ選定部と、を備え、制御部は、複数の赤外カメラの受光感度波長帯が同一な状態もしくは異なる状態となるように、複数の赤外カメラのうちの少なくとも1つの赤外カメラの受光感度波長帯の変更を制御し、マッチング処理部は、複数の赤外カメラのうちの少なくとも2つの赤外カメラの受光感度波長帯が同一の際に複数の赤外カメラが共通の領域を含む視野を撮像した画像間での画素の対応関係を推定し、放射率補正部は、複数の赤外カメラのうちの少なくとも2つの受光感度波長帯が異なる際に複数の赤外カメラが共通の領域を含む視野を撮像した画像を用いて、物体が有する赤外光の放射率を推定する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、同一の受光感度波長帯で複数の赤外カメラが共通の領域を含む視野を撮像した画像間での画素の対応関係を推定し、推定された画素の対応関係に基づいて赤外カメラと共通の領域に存在する温度計測対象の物体との位置関係を推定し、異なる受光感度波長帯で複数の赤外カメラが共通の領域を含む視野を撮像した画像を用いて、共通の領域に存在する温度計測対象の物体が有する赤外光の放射率を推定する。
共通の領域を含む視野を撮像した赤外画像を用いて、赤外カメラと物体との位置関係を推定することができ、物体が有する赤外光の放射率を推定することができるので、本開示に係る非接触温度計測装置は、物体が有する赤外光の放射率と、赤外カメラと物体との位置関係とが計測温度に与える影響を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1に係る非接触温度計測装置の構成例を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る非接触温度計測装置の動作を示すフローチャートである。
図3】シャッター補正の一連の処理を示すフローチャートである。
図4】ステレオ補正の一連の処理を示すフローチャートである。
図5】温度補正の一連の処理を示すフローチャートである。
図6図6Aおよび図6Bは、実施の形態1に係る非接触温度計測装置の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。
図7】実施の形態2に係る非接触温度計測装置の構成例を示すブロック図である。
図8】実施の形態2に係る非接触温度計測装置の動作を示すフローチャートである。
図9】フィルタ最適化および温度補正の一連の処理を示すフローチャートである。
図10】黒体放射スペクトルのピーク波長の特性を示すグラフである。
図11】実施の形態3に係る非接触温度計測装置の構成例を示すブロック図である。
図12】実施の形態3に係る非接触温度計測装置の動作を示すフローチャートである。
図13】温度補正および温度画像合成の一連の処理を示すフローチャートである。
図14】実施の形態4に係る非接触温度計測装置の構成例を示すブロック図である。
図15】実施の形態4に係る非接触温度計測装置の動作を示すフローチャートである。
図16】シャッター高精度補正の一連の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る非接触温度計測装置1の構成例を示すブロック図である。図1において、非接触温度計測装置1は、温度計測対象の物体Aが撮像された赤外画像を用いて、物体Aの温度を非接触で計測する装置であり、信号処理部2、メモリ部3、赤外カメラ4A、赤外カメラ4B、赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ変更部5およびシャッター部6を備える。
【0017】
信号処理部2は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を用いて物体Aの温度計測処理を行う。信号処理部2は、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27を備える。赤外フィルタ変更部5は、赤外フィルタ部5Bおよび赤外フィルタ部5Cを備える、赤外フィルタ部を切り替える機能を有した装置である。
【0018】
メモリ部3は、信号処理部2が備える輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27による信号処理で生成された情報を保存し、必要に応じて情報を出力する記憶装置である。
また、メモリ部3には、例えば、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bとの物理的な特性を示す物理パラメータが、出荷時の情報として保存されているものとする。
【0019】
赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bは、物体Aから放射される赤外光の放射エネルギー吸収による温度変化を電気信号に変換し、物体Aの温度に対応した画素値を有する赤外画像を撮像する。赤外カメラ4Aは、視野B1を撮像した赤外画像を生成し、赤外カメラ4Bは、視野B2を撮像した赤外画像を生成する。
【0020】
図1に示すように、視野B1および視野B2には共通の領域が含まれ、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bは、この共通の領域に温度計測対象の物体Aが含まれるように配置される。赤外カメラ4Aは、赤外フィルタ部5Aを通して物体Aの放射光を検出し、赤外画像を生成する。赤外カメラ4Bは、赤外フィルタ部5Bまたは赤外フィルタ部5Cを通して物体Aの放射光を検出し、赤外画像を生成する。赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが生成した赤外画像は、信号処理部2に出力される。
【0021】
赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの受光感度波長帯は、例えば、長波長帯である8から14マイクロメートル(μm)の波長帯、中波長帯である3から5μmの波長帯、または、これらの波長帯から一定の波長だけ異なる、すなわち近傍の波長帯を有する。
なお、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bとの受光感度波長帯は、赤外カメラの検出素子が有する受光感度波長帯であってもよいし、赤外フィルタ部を通した受光感度波長帯であってもよい。
【0022】
物体Aからの赤外光の放射スペクトルのピーク波長は、温度に依存して変動する。一般的に、室温付近の物体の放射スペクトルは、長波長帯にピークを有するが、高温、例えば1000K程度では、中波長帯にピークを有する。そこで、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bには、温度計測対象の想定温度にピークを有する受光感度波長帯で、赤外画像の撮像が可能な赤外カメラが用いられる。
【0023】
赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bは、放射光を電気信号に変換する検出素子、放射光を検出素子上に集光する光学素子、検出素子からの電気信号を読み出す読み出し回路、読み出し回路からの信号をデジタル信号に変換するAD変換部、カメラ自身の温度を計測するサーミスタなどを含んで構成されている。検出素子としては、ボロメータ方式、サーモパイル方式またはサーマルダイオード方式の素子を用いてもよい。集光素子には、ミラーなどの反射型光学素子、およびレンズなどの屈折型光学素子が使用される。レンズの材質としては、Si、Geまたはカルコゲナイドガラスなどが使用される。
【0024】
赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bは共通の筐体に取り付けられてもよいし、別々に設置されていてもよい。また、図1には、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bといった2台の赤外カメラ4を備えた非接触温度計測装置1を示したが、非接触温度計測装置1は、3台以上の赤外カメラを備えたものであってもよい。
【0025】
赤外フィルタ変更部5は、視野B2に存在する物体から放射されて、赤外カメラ4Bに入射する赤外光の波長帯域を、赤外フィルタ部5Bと赤外フィルタ部5Cとを切り替えて変更する。例えば、赤外フィルタ変更部5は、フィルタホイールと、フィルタホイール内に赤外フィルタ部5Bおよび赤外フィルタ部5Cとを備え、このフィルタホイールの回転によって赤外フィルタ部5Bと赤外フィルタ部5Cとが切り替えられる。
【0026】
赤外フィルタ部5Aは、視野B1に存在する物体から放射され、赤外カメラ4Aに入射される赤外光の波長帯域を制限する。赤外フィルタ部5Bおよび赤外フィルタ部5Cは、視野B2に存在する物体から放射され、赤外カメラ4Bに入射される赤外光の波長帯域を制限する。赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ部5Bおよび赤外フィルタ部5Cとして、例えば、誘電体膜が多層に積層して構成されたバンドパスフィルタが用いられる。また、赤外フィルタ部は、ミラーなどの他の光学素子であってもよい。
【0027】
なお、赤外フィルタ部5Aは、赤外カメラ4Aの受光感度波長帯に阻止帯を有しない、ウィンドウまたは開口を有した構造であってもよい。
また、赤外フィルタ変更部5は、3つ以上のフィルタを備えてもよい。
赤外フィルタ変更部5における赤外フィルタ部の切り替え構造は、フィルタホイールに限定されるものではなく、ファブリペロー構造等を用いた他の波長帯域変更構造であってもよい。
【0028】
シャッター部6は、制御部21からの制御信号に従ってシャッターを開閉し、赤外カメラ4Aの視野B1を遮蔽し、赤外カメラ4Bの視野B2を遮蔽する。シャッターを開閉することにより、赤外カメラ4Aが撮像した赤外画像を輝度画像に変更し、赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を輝度画像に変更することができる。例えば、シャッター部6は、赤外光の放射率が高く、既知の材質で構成される。
【0029】
シャッター部6は、温度センサを備えた構成であってもよい。温度センサは、シャッター部6が備えるシャッターの温度を計測するものである。例えば、温度センサが計測したシャッターの温度を示す情報は、温度計測に必要な計測関連情報に含められて信号処理部2に出力される。
【0030】
シャッター部6は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bのそれぞれに設けられてもよい。また、シャッター部6が備えるシャッターは、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bの直前に配置されてもよい。このように構成することにより、後述のシャッター補正を行う際に、赤外フィルタ部を変更しなくてもよいという利点がある。
【0031】
また、シャッター部6は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bのカメラ筐体の内部に設けられてもよい。例えば、シャッター部6は、光学素子と検出素子との間に配置されていてもよい。これにより、シャッター部6をカメラ筐体と一体化して製造でき、シャッター部6自体の大きさを小さくできる利点がある。
【0032】
シャッター部6は、赤外フィルタ変更部5と一体化で構成されていてもよく、例えば、フィルタホイール内に遮蔽板を配置した構成であってもよい。この場合、可動部品点数を削減できるため、可動部品のコスト削減に寄与する。
【0033】
制御部21は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bから赤外画像と温度計測に必要な計測関連情報を取得し、シャッター部6からシャッターの計測温度などのシャッター関連情報を取得し、温度計測に関する制御を行う。赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bから赤外画像には、シャッター部6が備えるシャッターが閉じたときのシャッターの赤外画像が含まれ、さらに、シャッターの温度計測に必要な計測関連情報が含まれる。
【0034】
例えば、制御部21は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bから取得した赤外画像と計測関連情報とを、輝度キャリブレーション部23に出力し、シャッターの開閉を制御する制御情報を、シャッター部6に送信し、受光感度波長帯を示す設定情報を、感度波長制御部22に送信する。
【0035】
感度波長制御部22は、制御部21から受信した設定情報に基づいて、設定情報が示す受光感度波長帯を指定する制御信号を赤外フィルタ変更部5に送信することにより、赤外フィルタ変更部5による赤外フィルタ部の切り替えを制御する。
【0036】
輝度キャリブレーション部23は、制御部21から入力した、シャッターが撮像された赤外画像とその温度計測に必要な計測関連情報とを用いて、キャリブレーションテーブルを生成する。そして、輝度キャリブレーション部23は、温度計測対象の物体が撮像された赤外画像と、メモリ部3から読み出したキャリブレーションテーブルとを用いて、温度計測対象の物体Aが撮像された赤外画像の輝度キャリブレーションを行う。
【0037】
赤外画像の輝度キャリブレーションとは、赤外画像の各画素値を物体の放射輝度に変換する処理であり、処理結果として、赤外画像の画素値が放射輝度に変換された輝度画像が生成される。キャリブレーションテーブルには、赤外画像の各画素値を物体の放射輝度に変換する際に必要な輝度キャリブレーション用パラメータが設定されている。輝度キャリブレーション用パラメータは、赤外画像の各画素と、画素に対応する位置での物体の放射輝度との対応関係を示すデータである。
【0038】
例えば、輝度キャリブレーション部23は、シャッター補正を行って上記キャリブレーションテーブルを生成する。シャッター補正は、環境温度の変化および赤外カメラ自身の温度の変化に伴う、物体からの赤外光の放射輝度と赤外画像の画素値との対応関係の変化をキャリブレーションする処理である。具体的には、シャッター部6が備えるシャッターの温度を既知とし、このシャッターを特性が既知の参照ターゲットとして、シャッターの赤外画像の各画素と、画素に対応する位置でのシャッターの温度を示す放射輝度とを特定し、輝度キャリブレーション用パラメータを求めるものである。輝度キャリブレーションにより生成された輝度画像は、輝度キャリブレーション部23からマッチング処理部24および輝度補正部26に出力される。
【0039】
マッチング処理部24は、輝度キャリブレーション部23から取得した、共通の領域(同一シーン)が撮像された複数の輝度画像に対して画素マッチング処理を行い、輝度画像間での画素の対応関係を推定する。例えば、輝度キャリブレーション部23が、同一のシーンが撮像された複数の赤外画像を複数の輝度画像に変換してマッチング処理部24に出力する。マッチング処理部24は、輝度キャリブレーション部23から取得した輝度画像間での画素の対応関係を推定する。
【0040】
なお、画素マッチング処理を行う輝度画像は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが同一の受光感度波長帯の状態で撮像した同一シーンの赤外画像に基づく画像であるものとする。マッチング処理部24は、輝度画像における画素の対応関係を示す画素マッチング情報を推定し、推定した画素マッチング情報を、メモリ部3に保存するとともに位置関係推定部25に出力する。
【0041】
位置関係推定部25は、マッチング処理部24が推定した画素の対応関係に基づいて、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと、共通の領域に存在する温度計測対象の物体Aとの位置関係を推定する。例えば、位置関係推定部25は、画素マッチング情報から画素の対応関係を読み出し、計測関連情報から赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの設置位置および指向方向に関する情報をメモリ部3から読み出す。次に、位置関係推定部25は、これらの読み出し情報を用いて、各画素と赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離を算出して、画素値として赤外カメラとの距離を含む距離マップを生成し、生成した距離マップをメモリ部3に保存する。
【0042】
輝度補正部26は、位置関係推定部25が推定した赤外カメラ4Aおよび4Bと物体Aとの位置関係に基づいて、温度に対応する画素値を補正する画素値補正部である。
例えば、輝度補正部26は、輝度キャリブレーション部23から輝度画像を入力し、位置関係推定部25が推定した距離マップをメモリ部3から読み出す。そして、輝度補正部26は、距離マップを用いて輝度画像の各画素の放射輝度を補正し、補正後の輝度画像を放射率補正部27に出力する。
【0043】
同じ温度で互いに同じ形状を有した物体であっても、赤外カメラからみた見かけの大きさに応じて、輝度画像における見かけの放射輝度は変化する。そのため、赤外カメラ4Aとの間の距離と赤外カメラ4Bとの間の距離とが同じである位置に存在する物体の温度に対応する見かけの放射輝度は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bからみた見かけの大きさに応じて異なるものとなる。
【0044】
また、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bからみた見かけ上の大きさが同じ物体であれば、当該物体と赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離に応じて、輝度画像における見かけの放射輝度は変化する。例えば、赤外カメラと物体との間の距離と、物体の見かけ上の大きさとに応じた、輝度画像における見かけ上の放射輝度の変化を予測したルックアップテーブルを事前に作成してメモリ部3に保存しておく。輝度補正部26は、メモリ部3から読み出したルックアップテーブルを用いて見かけ上の放射輝度を補正することにより、輝度画像における画素ごとの真の放射輝度を算出する。
【0045】
温度測定対象の物体Aの大きさが既知である場合、輝度補正部26は、赤外カメラと物体との間の距離を示す距離情報のみを用いて上記ルックアップテーブルを参照することにより、輝度画像における画素ごとの真の放射輝度を算出することが可能である。
画素ごとの輝度が補正された輝度画像は、輝度補正部26から放射率補正部27に出力される。
【0046】
放射率補正部27は、マッチング処理部24が推定した画素の対応関係と、輝度補正部26が輝度を補正した輝度画像を用いて、物体Aが有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率に基づいて、輝度などの画素値を補正した温度画像を生成する。
例えば、放射率補正部27は、輝度補正部26から輝度補正後の輝度画像を取得して、赤外カメラ4A、赤外カメラ4B、赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ部5Bおよび赤外フィルタ部5Cを用いたときの赤外光の受光感度波長帯情報をメモリ部3から読み出す。そして、放射率補正部27は、これらの情報を用いて物体Aの放射率を推定し、推定した放射率を輝度補正後の輝度画像に乗算することにより温度画像を生成する。
【0047】
信号処理部2が、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27を備える構成を示したが、非接触温度計測装置1は、少なくとも、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27を備えればよい。
この場合、制御部21、感度波長制御部22および輝度キャリブレーション部23は、例えば、赤外カメラ4Aまたは赤外カメラ4Bが備える。
【0048】
次に具体的な動作について説明する。
図2は、非接触温度計測装置1の動作を示すフローチャートであって、非接触温度計測装置1による温度計測の一連の処理を示している。
まず、制御部21が、前回のシャッター補正から一定時間が経過したか否かを判定する(ステップST1)。シャッター補正は、環境温度の変化と赤外カメラ自身の温度の変化とに伴う、物体からの赤外光の放射輝度と赤外画像の画素値との対応関係の変化をキャリブレーションする処理である。ここで、環境温度および赤外カメラ自身の温度は、短時間では変化しないと想定されるので、これらの少なくとも一方が変化すると予想される時間を、上記一定時間とする。例えば、数時間から数日の期間である。
【0049】
制御部21は、前回のシャッター補正から一定時間が経過したと判定すると(ステップST1;YES)、輝度キャリブレーション部23に対して、シャッター補正を指示する指示情報を出力する。また、前回のシャッター補正から一定時間が経過していなければ(ステップST1;NO)、制御部21は、シャッター補正を行わず、輝度キャリブレーション部23を通じて、マッチング処理部24に対してステレオ補正を指示する指示情報を出力する。
【0050】
輝度キャリブレーション部23は、前回のシャッター補正から一定時間が経過していた場合に、シャッター補正を行う(ステップST2)。例えば、輝度キャリブレーション部23は、制御部21から取得した上記指示情報に従い、シャッターの温度を既知として、シャッターの赤外画像(以下シャッター画像と記載する。)の各画素と、画素に対応する位置でのシャッターの温度を示す放射輝度とを特定し、特定した情報を用いて輝度キャリブレーション用パラメータを算出する。
なお、制御部21が、赤外カメラ自身の温度変化と、環境温度の変化とが、赤外カメラの出力画素に変化を与える事象の発生を判定し、当該事象が発生したと判定した場合に、シャッター補正に移行する、といった条件分岐を設定してもよい。
【0051】
マッチング処理部24および位置関係推定部25は、シャッター補正が完了するか、前回のシャッター補正から一定時間が経過していない場合、ステレオ補正を行う(ステップST3)。ステレオ補正とは、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像に基づく輝度画像に画素マッチング処理を行い、温度計測対象の物体Aと赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離を画素ごとに算出する処理である。
【0052】
例えば、マッチング処理部24が、輝度キャリブレーション部23から複数の輝度画像を取得し、取得した輝度画像間の画素マッチング処理を行うことにより、画素同士の対応関係を推定する。位置関係推定部25は、マッチング処理部24が推定した画素の対応関係を示す情報に基づいて、温度計測対象の物体Aと赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離を画素ごとに算出する。
なお、赤外カメラと物体との位置関係として、赤外カメラと物体との間の距離を求める場合を示したが、赤外カメラに対する物体の角度を求めてもよい。
【0053】
続いて、輝度補正部26および放射率補正部27は、ステレオ補正が完了した輝度画像に対して温度補正を行う(ステップST4)。温度補正は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像に基づく輝度画像に対して、物体Aと赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離と、物体Aが有する赤外光の放射率とが与える影響を補正する処理である。
【0054】
例えば、輝度補正部26が、位置関係推定部25が推定した距離マップを、メモリ部3から読み出し、距離マップを用いて輝度キャリブレーション部23から入力した輝度画像の各画素の放射輝度を補正する。放射率補正部27は、輝度補正部26から取得した輝度補正後の輝度画像を取得し、赤外カメラ4A、赤外カメラ4B、赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ部5Bおよび赤外フィルタ部5Cを用いたときの感度波長帯情報をメモリ部3から読み出す。次に、放射率補正部27は、これらの情報を用いて物体Aの放射率を推定し、推定した放射率を輝度補正後の輝度画像に乗算することにより温度画像を生成する。
【0055】
放射率補正部27は、輝度補正部26が最終的に求めた温度画像を、図1において図示していない外部装置に出力する(ステップST5)。ここで、外部装置は、非接触温度計測装置1と通信が可能な装置であり、例えば、温度画像を表示可能な表示装置であってもよい。なお、放射率補正部27は、ステレオ補正または温度補正において副次的に生成された距離情報および放射率情報を、温度画像と合わせて出力してもよい。
【0056】
次に、図2の各ステップの処理の詳細を説明する。
図3は、シャッター補正の一連の処理を示すフローチャートであって、図2のステップST2における一連の処理を示している。
まず、制御部21が、シャッターを閉じさせる制御信号をシャッター部6に送信する。シャッター部6は、当該制御信号に従ってシャッターを閉じ、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの視野を遮蔽する(ステップST1-1)。
【0057】
続いて、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが、視野B1および視野B2を遮断しているシャッターを撮像して、シャッター画像を生成する。制御部21は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bからシャッター画像を取得する(ステップST1-2)。
【0058】
輝度キャリブレーション部23は、制御部21から取得したシャッター補正を指示する指示情報に従って、シャッター画像、シャッター部6の温度、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが物体Aを撮像した赤外画像を制御部21から取得し、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの受光感度波長帯を示す感度波長帯情報、これらに現在設定されている赤外フィルタ部の透過波長帯を示す透過波長帯情報などをメモリ部3から読み出す。
そして、輝度キャリブレーション部23は、制御部21から取得した上記情報と、メモリ部3から読み出した上記情報とを用いて、上記赤外画像の画素値を物体Aの放射輝度に変換する際に必要な輝度キャリブレーション用パラメータを、上記赤外画像の画素ごとに算出する(ステップST1-3)。
輝度キャリブレーション部23は、画素ごとの輝度キャリブレーション用パラメータを設定したキャリブレーションテーブルを生成し、生成したキャリブレーションテーブルをメモリ部3に保存する。
【0059】
次に、制御部21は、感度波長制御部22に感度波長帯情報を出力して受光感度波長帯を指定する。感度波長制御部22は、制御部21から取得した感度波長帯情報が示す波長帯を透過する赤外フィルタ部に切り替えるための制御信号を赤外フィルタ変更部5に出力する。赤外フィルタ変更部5は、上記制御信号に従い、赤外カメラ4Bの視野B2に設定する赤外フィルタ部を、赤外フィルタ部5Bまたは赤外フィルタ部5Cに変更する(ステップST1-4)。
【0060】
赤外フィルタ部を変更した後、制御部21は、ステップST1-2の処理に戻し、再度ステップST1-2およびステップST1-3の処理を行う。この一連の処理は、赤外フィルタ変更部5が備える全ての赤外フィルタ部について行われる。
なお、シャッター部6が赤外フィルタ変更部5と赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間に設けられている場合には、これらの処理を省略してもよい。
【0061】
上述の処理が完了すると、制御部21は、シャッターを開放させる制御信号をシャッター部6に送信する。シャッター部6は、当該制御信号に従ってシャッターを開放し、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの視野の遮蔽を終了する(ステップST1-5)。
【0062】
図4は、ステレオ補正の一連の処理を示すフローチャートであり、図2のステップST3における一連の処理を示している。
まず、制御部21は、感度波長制御部22に感度波長帯情報を出力して受光感度波長帯を指定する。赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bは、同一の受光感度波長帯であって、赤外フィルタ部5Aと赤外フィルタ部5Bが同じ透過波長帯であるものとする。
制御部21は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bとが同一の受光感度波長帯となるように、赤外フィルタ部5Bの透過波長帯を感度波長として指定する感度波長帯情報を、赤外フィルタ変更部5に出力する。
感度波長制御部22は、制御部21から取得した感度波長帯情報に基づき、赤外フィルタ部を切り替えるための制御信号を赤外フィルタ変更部5に出力する。赤外フィルタ変更部5は、上記制御信号に従い、赤外カメラ4Bの視野B2に設定する赤外フィルタ部を、赤外フィルタ部5Bに変更する(ステップST2-1)。
【0063】
赤外カメラ4Aに赤外フィルタ部5Aが設定され、赤外カメラ4Bに赤外フィルタ部5Bが設定された状態で、赤外カメラ4Aが視野B1を撮像し、赤外カメラ4Bが視野B2を撮像する。制御部21は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を取得する(ステップST2-2)。制御部21が取得した赤外画像は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが同一の受光感度波長帯で撮像した画像(以下シングルバンド画像と記載する。)である。
【0064】
制御部21は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bから取得した赤外画像と、これらの赤外画像を輝度画像に変換する輝度キャリブレーションを行わせる指示情報とを、輝度キャリブレーション部23に出力する。輝度キャリブレーション部23は、上記指示情報に従ってメモリ部3からキャリブレーションテーブル読み出し、キャリブレーションテーブルに含まれる同一の受光感度波長帯に対応する輝度キャリブレーション用パラメータを用いて、上記赤外画像の画素値を放射輝度に変換し、輝度画像を生成する(ステップST2-3)。輝度キャリブレーション部23は、生成した輝度画像をマッチング処理部24に出力する。
【0065】
マッチング処理部24は、赤外カメラ4Aが撮像した赤外画像に基づく輝度画像と赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像に基づく輝度画像との間で画素マッチング処理を行うことにより、輝度画像間の画素同士の対応関係を算出する(ステップST2-4)。
赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bによって同一の受光感度波長帯で撮像された赤外画像に基づく輝度画像間では、赤外光の放射輝度の分布も同じであるため、同一の物体Aの温度に起因した輝度分布も同一になる。このため、マッチング対象である物体の特定が容易であり、輝度画像間の画素マッチングを容易に行うことができる。
マッチング処理部24は、画素マッチングにより得られた画素の対応関係を示す情報をメモリ部3に保存する。
【0066】
位置関係推定部25が、マッチング処理部24が推定した輝度画像間の画素の対応関係を示す情報と、メモリ部3に事前に保存しておいた赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの設置位置および指向方向を示す情報とを取得する。次に、位置関係推定部25が、取得した情報を用いて幾何光学に基づく計算による一般的なステレオ処理を行って、輝度画像における物体Aと赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離を、画素ごとに推定する(ステップST2-5)。推定した画素ごとの距離を示す距離マップは、メモリ部3に保存される。
【0067】
図5は、温度補正の一連の処理を示すフローチャートであり、図2のステップST4における一連の処理を示している。
まず、制御部21は、感度波長制御部22に感度波長帯情報を出力して受光感度波長帯を指定する。赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bは、同一の受光感度波長帯であって、赤外フィルタ部5Aと赤外フィルタ部5Cが異なる透過波長帯であるものとする。
制御部21は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bとが異なる受光感度波長帯となるように、赤外フィルタ部5Cの透過波長帯を感度波長として指定する感度波長帯情報を、赤外フィルタ変更部5に出力する。
感度波長制御部22は、制御部21から取得した感度波長帯情報に基づき、赤外フィルタ部を切り替えるための制御信号を赤外フィルタ変更部5に出力する。赤外フィルタ変更部5は、上記制御信号に従い、赤外カメラ4Bの視野B2に設定する赤外フィルタ部を、赤外フィルタ部5Cに変更する(ステップST3-1)。
【0068】
赤外カメラ4Aに赤外フィルタ部5Aが設定され、赤外カメラ4Bに赤外フィルタ部5Cが設定された状態で、赤外カメラ4Aが視野B1を撮像し、赤外カメラ4Bが視野B2を撮像する。制御部21は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を取得する(ステップST3-2)。制御部21が取得した赤外画像は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが異なる受光感度波長帯で撮像した画像(以下マルチバンド画像と記載する。)である。
【0069】
制御部21は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bから取得した赤外画像と、これらの赤外画像を輝度画像に変換する輝度キャリブレーションを行わせる指示情報とを、輝度キャリブレーション部23に出力する。輝度キャリブレーション部23は、上記指示情報に従ってメモリ部3からキャリブレーションテーブル読み出し、キャリブレーションテーブルに含まれる異なる受光感度波長帯に対応する輝度キャリブレーション用パラメータを用いて、上記赤外画像の画素値を放射輝度に変換し、輝度画像を生成する(ステップST3-3)。輝度キャリブレーション部23は、生成した輝度画像を輝度補正部26に出力する。
【0070】
次に、輝度補正部26は、メモリ部3から読み出した距離マップを用いて、輝度キャリブレーション部23から取得した輝度画像の各画素の放射輝度を補正する(ステップST3-4)。上述したように、赤外カメラ4Aとの間の距離と赤外カメラ4Bとの間の距離とが同じである位置に存在する物体Aの温度に対応する見かけの放射輝度は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bからみた物体Aの見かけの大きさに応じて異なるものとなる。
例えば、赤外カメラと物体Aとの間の距離と、物体Aの見かけ上の大きさとに応じた、輝度画像における見かけ上の放射輝度の変化を予測したルックアップテーブルを事前に作成してメモリ部3に保存しておく。輝度補正部26は、メモリ部3から読み出したルックアップテーブルを用いて物体Aの見かけ上の放射輝度を補正することにより、輝度画像における画素ごとの真の放射輝度を算出する。
【0071】
温度測定対象の物体Aの大きさが既知である場合、輝度補正部26は、赤外カメラと物体との間の距離を示す距離情報のみを用いて上記ルックアップテーブルを参照することにより、輝度画像における画素ごとの真の放射輝度を算出することが可能である。
画素ごとの輝度が補正された輝度画像は、輝度補正部26から放射率補正部27に出力される。
【0072】
また、輝度補正には、デコンボリューションを利用することができる。
赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bのそれぞれに搭載された光学素子の点像の拡がり分布が既知であれば、輝度画像における見かけの放射輝度分布にデコンボリューションを施すことにより、真の放射輝度分布を推定することができる。
なお、上記距離情報を用いることにより、物体Aと赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離の変化に応じた点像の拡がり分布の変化を特定することが可能である。
【0073】
次に、放射率補正部27は、物体Aが有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率を輝度画像に乗算することにより、放射率を用いた輝度補正を行った輝度画像である温度画像を生成する(ステップST3-5)。
例えば、同じ放射輝度を示す物体同士であっても、個々の物体が有する放射率が異なれば、異なる表面温度を有した物体となる。従って、正しい表面温度を計測するためには、放射率を用いた放射輝度の補正が必要である。
【0074】
そこで、放射率補正部27は、輝度補正部26から取得した輝度補正後の輝度画像と、メモリ部3から読み出した、輝度画像間の画素の対応関係と、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの受光感度波長帯を示す感度波長帯情報とを用いて、物体Aが有する赤外光の放射率を推定する。そして、放射率補正部27は、推定した放射率を、輝度補正部26による輝度補正後の輝度画像に乗算する。
【0075】
放射率を用いた輝度補正は、下記式(1)に基づいた処理である。下記式(1)において、Lは物体Aの分光放射輝度であり、Lは黒体分光放射輝度であり、Tは物体Aの表面温度であり、ρは物体Aが有する赤外光の放射率である。
=ρ(T,λ) (1)
【0076】
赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bがそれそれ撮像した赤外画像に基づいた輝度画像を、ステップST3-4において算出した真の放射輝度LおよびLは、下記式(2)および下記式(3)で表される。下記式(2)および下記式(3)において、η(λ)は、赤外カメラ4Aに設定された赤外フィルタ部5Aの透過波長帯を加味した感度曲線である。η(λ)は、赤外カメラ4Bに設定された赤外フィルタ部5Cの透過波長帯を加味した感度波長帯域である。
=∫η(λ)Ldλ=ρ∫η(λ)L(T,λ)dλ (2)
=∫η(λ)Ldλ=ρ∫η(λ)L(T,λ)dλ (3)
【0077】
上記式(2)および上記式(3)においてはToおよびρが未知変数である。これらの未知変数に対して2つの方程式を立てられるため、これらを連立方程式として解くことによりToおよびρを推定することが可能である。この処理を、輝度画像内の全画素において行うことにより、温度画像を生成できる。
また、図2に示した一連の処理を行うことにより、赤外カメラと物体Aとの距離および物体Aが有する放射率を用いて輝度が補正され、物体Aの表面温度を正確に計測することが可能である。
【0078】
非接触温度計測装置1による温度計測の特徴は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4B受光感度波長帯を変更する点にある。
物体Aが有する赤外光の放射率を推定するためには、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bとが異なる受光感度波長帯を有する必要がある。
一方、異なる受光感度波長帯で撮像された赤外画像に基づく輝度画像は、輝度値およびその分布が大きく異なることから、画素マッチングが困難であり、画素同士の対応関係に基づく距離の推定が難しくなる。
【0079】
そこで、非接触温度計測装置1は、ステップST2の距離補正とステップST3の温度補正とにおいて、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの受光感度波長帯を変更する。
例えば、ステップST2では同一の受光感度波長帯で撮像された赤外画像を用いることにより、輝度画像間で容易に画素マッチングを行うことができる。
一方、ステップST3では異なる受光感度波長帯で撮像された赤外画像を用いて、放射率を推定し、放射率を用いた輝度補正を行うことができる。
これにより、非接触温度計測装置1は、物体Aが有する赤外光の放射率と、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係とが計測温度に与える影響を補正することができる。
【0080】
非接触温度計測装置1では、同一の受光感度波長帯で撮像された赤外画像に基づく輝度画像を用いるので、輝度画像間で対応する輝度分布を特定しやすく、画素マッチング処理において、輝度画像の二値化処理または輝度画像からの輪郭(共通形状)の抽出といった手法を省略することが可能である。
【0081】
次に、非接触温度計測装置1の機能を実現するハードウェア構成について説明する。
非接触温度計測装置1が備える、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27の機能は、処理回路によって実現される。すなわち、非接触温度計測装置1は、図4に示したステップST2-1からステップST2-5までの処理および図5に示したステップST3-1からステップST3-5までの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。
【0082】
図6Aは、非接触温度計測装置1の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。図6Bは、非接触温度計測装置1の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。図6Aおよび図6Bにおいて、入力インタフェース100は、メモリ部3に保存した各種データを中継し、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bから取得する赤外画像を中継するインタフェースである。出力インタフェース101は、感度波長制御部22から赤外フィルタ変更部5へ出力される制御信号、および放射率補正部27から出力される温度画像データを中継するインタフェースである。
【0083】
処理回路が図6Aに示す専用のハードウェアの処理回路102である場合、処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。
非接触温度計測装置1が備える、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27の機能を別々の処理回路で実現してもよく、これらの機能をまとめて一つの処理回路で実現してもよい。
【0084】
処理回路が図6Bに示すプロセッサ103である場合、非接触温度計測装置1が備える、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27の機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0085】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、非接触温度計測装置1が備える、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27の機能を実現する。
例えば、非接触温度計測装置1は、プロセッサ103によって実行されるときに、図4に示したステップST2-1からステップST2-5までの処理および図5に示したステップST3-1からステップST3-5までの処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するためのメモリ104を備えている。
これらのプログラムは、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27が行う処理の手順または方法を、コンピュータに実行させるものである。メモリ104は、コンピュータを、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0086】
プロセッサ103は、赤外画像を入力すると、赤外画像を用いた温度計測で得られたデータをメモリ104に格納し、メモリ104に格納したデータに各種補正を施して得られた温度画像を、メモリ104に格納する。さらに、プロセッサ103は、メモリ104に格納した温度画像を読み出し、外部装置に出力する。
【0087】
メモリ104は、図1に示したメモリ部3であり、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically-EPROM)(登録商標)などが該当する。
【0088】
非接触温度計測装置1が備える、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27の機能の一部を専用のハードウェアで実現し、他の一部はソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。
例えば、制御部21、感度波長制御部22および輝度キャリブレーション部23の機能は、専用のハードウェアである処理回路102により実現し、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26および放射率補正部27の各機能は、プロセッサ103がメモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせにより上記機能を実現することが可能である。
【0089】
以上のように、実施の形態1に係る非接触温度計測装置1は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが同一シーンを含む視野を撮像した複数の画像間での画素の対応関係を推定するマッチング処理部24と、画素の対応関係に基づいて、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係を推定する位置関係推定部25と、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係に基づいて、温度に対応する輝度を補正する輝度補正部26と、推定された画素の対応関係と、輝度が補正された画像とを用いて、物体Aが有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率に基づいて、輝度を補正した画像を生成する放射率補正部27を備える。マッチング処理部24は、同一の受光感度波長帯で赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した画像間での画素の対応関係を推定し、放射率補正部27は、異なる受光感度波長帯で赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した画像を用いて、物体Aが有する赤外光の放射率を推定する。
非接触温度計測装置1では、同一シーンを含む視野を撮像した赤外画像を用いて、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係を推定することができ、物体Aが有する赤外光の放射率を推定することができる。これにより、非接触温度計測装置1は、物体Aが有する赤外光の放射率と、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係とが計測温度に与える影響を補正することができる。
【0090】
実施の形態1に係る非接触温度計測装置1は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの視野を遮蔽するシャッター部6と、異なる波長帯の赤外光が通過する赤外フィルタ部5A~5Cを有し、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bのうちの少なくとも一つに入射される赤外光を通過させる赤外フィルタ部5A~5Cを切り替える赤外フィルタ変更部5と、赤外フィルタ部5A~5Cの切り替えを制御する感度波長制御部22と、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した複数の赤外画像を、温度に対応する画素ごとの輝度値の分布を示す輝度画像に変換する輝度キャリブレーション部23を備える。マッチング処理部24は、輝度画像間での画素の対応関係を推定する。
この構成を有することにより、非接触温度計測装置1は、同一シーンを含む視野を撮像した赤外画像を用いて、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係を推定することができ、物体Aが有する赤外光の放射率を推定することができる。
【0091】
実施の形態1に係る非接触温度計測装置1において、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの各受光感度波長帯は、8から14μmの波長帯、3から5μmの波長帯、および、これらの波長帯から一定の波長だけ異なる波長帯である。これにより、非接触温度計測装置1は、様々な温度範囲の計測が可能である。
【0092】
実施の形態1に係る非接触温度計測装置1において、感度波長制御部22は、赤外フィルタ部5A~5Cの切り替えを制御することにより、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bのうちの少なくとも2つの赤外カメラの受光感度波長帯を一致させる。これにより、非接触温度計測装置1は、同一の受光感度波長帯で撮像された画像間での画素の対応関係を推定することができる。
【0093】
実施の形態1に係る非接触温度計測装置1において、シャッター部6は、赤外フィルタ変更部5と一体に構成され、赤外フィルタ変更部5によって切り替えられた赤外フィルタ部5A~5Cを通過した赤外光が入射される赤外カメラの視野を遮蔽する。これにより、輝度キャリブレーション部23が、シャッター補正を行ってキャリブレーションテーブルを生成することができる。
【0094】
実施の形態1に係る非接触温度計測装置1において、感度波長制御部22は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの受光感度波長帯の組み合わせの数を、少なくとも3つ以上変更可能である。これにより、非接触温度計測装置1は、様々な温度範囲の計測が可能である。
【0095】
実施の形態1に係る非接触温度計測方法は、マッチング処理部24が、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが同一シーンを含む視野を撮像した複数の画像間での画素の対応関係を推定し、位置関係推定部25が、画素の対応関係に基づいて、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係を推定し、輝度補正部26が、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係に基づいて、温度に対応する輝度を補正し、放射率補正部27が、推定された画素の対応関係と、輝度が補正された画像とを用いて、物体Aが有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率に基づいて、輝度を補正した画像を生成する。マッチング処理部24は、同一の受光感度波長帯で赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した画像間での画素の対応関係を推定し、放射率補正部27は、異なる受光感度波長帯で赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した画像を用いて、物体Aが有する赤外光の放射率を推定する。この方法を非接触温度計測装置1が実行することにより、物体Aが有する赤外光の放射率と、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bと物体Aとの位置関係とが計測温度に与える影響を補正することができる。
【0096】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2に係る非接触温度計測装置1Aの構成例を示すブロック図である。図7において、非接触温度計測装置1Aは、温度計測対象の物体Aが撮像された赤外画像を用いて、物体Aの温度を非接触で計測する装置であり、信号処理部2A、メモリ部3、赤外カメラ4A、赤外カメラ4B、赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ変更部5-1およびシャッター部6を備える。
【0097】
信号処理部2Aは、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を用いて物体Aの温度計測処理を行うものである。信号処理部2Aは、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28を備える。赤外フィルタ変更部5-1は、赤外フィルタ部5B、赤外フィルタ部5C、および赤外フィルタ部5Dを備える、赤外フィルタ部を切り替える機能を有した装置である。
【0098】
赤外フィルタ部5Aは、視野B1に存在する物体から放射され、赤外カメラ4Aに入射される赤外光の波長帯域を制限する。赤外フィルタ部5B、赤外フィルタ部5C、および赤外フィルタ部5Dは、視野B2に存在する物体から放射され、赤外カメラ4Bに入射される赤外光の波長帯域を制限する。赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ部5B、赤外フィルタ部5Cおよび赤外フィルタ部5Dとしては、例えば、誘電体膜が多層に積層して構成されたバンドパスフィルタが用いられる。また、赤外フィルタ部は、ミラーなどの他の光学素子であってもよい。
【0099】
例えば、赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ部5B、赤外フィルタ部5Cおよび赤外フィルタ部5Dの透過波長帯域幅は、1μmである。また、一例として、透過波長帯の中心波長は、赤外フィルタ部5Aと赤外フィルタ部5Bとが9μmであり、赤外フィルタ部5Cが8μmであり、赤外フィルタ部5Dが10μmである。
【0100】
赤外フィルタ変更部5-1は、視野B2に存在する物体から放射されて、赤外カメラ4Bに入射する赤外光の波長帯域を、赤外フィルタ部5Bと赤外フィルタ部5Cと赤外フィルタ部5Dとを切り替えて変更する。例えば、赤外フィルタ変更部5-1は、フィルタホイールと、フィルタホイール内に赤外フィルタ部5B、赤外フィルタ部5Cおよび赤外フィルタ部5Dとを備え、このフィルタホイールの回転によって赤外フィルタ部5B、赤外フィルタ部5Cおよび赤外フィルタ部5Dとが切り替えられる。
【0101】
赤外フィルタ変更部5-1が備える、赤外フィルタ部5B、赤外フィルタ部5Cおよび赤外フィルタ部5Dのうち、少なくとも一つは、赤外フィルタ部5Aと同一の透過波長帯を有する。また、赤外フィルタ部5B、赤外フィルタ部5Cおよび赤外フィルタ部5Dのうちの少なくとも一つは、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの受光感度波長帯に阻止帯を有しない、ウィンドウまたは開口を有した構造であってもよい。
また、赤外フィルタ変更部5-1は、3つ以上のフィルタを備えてもよい。
赤外フィルタ変更部5-1における赤外フィルタ部の切り替え構造は、フィルタホイールに限定されるものではなく、ファブリペロー構造等を用いた他の波長帯域変更構造であってもよい。
【0102】
赤外フィルタ変更部5-1による赤外フィルタ部の変更で設定される赤外光の透過波長帯の組み合わせは、少なくとも3種類以上である必要がある。
例えば、非接触温度計測装置1Aでは、赤外カメラ4Aの受光感度波長帯の中心波長と赤外カメラ4Bの受光感度波長帯の中心波長との組み合わせが、9μm-9μm、9μm-8μm、9μm-10μmの計3種類の設定が可能である。
【0103】
なお、赤外フィルタ変更部5-1が備える赤外フィルタ部の中心波長または透過帯域幅は上述の通りでなくてもよく、また、赤外フィルタ部の個数を変更してもよい。例えば、赤外フィルタ変更部5-1が備える赤外フィルタ部の数を2つにしてもよいし、赤外フィルタ変更部5-1に2個以上の赤外フィルタ部を備える他の赤外フィルタ変更部を新たに加えてもよい。
【0104】
赤外フィルタ選定部28は、2つ以上の受光感度波長帯の組み合わせで赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが共通の領域を含む視野をそれぞれ撮像した赤外画像に基づく輝度画像であって、輝度補正部26および放射率補正部27によって各画素の放射輝度が補正された輝度画像を用いて、物体Aの温度計測に用いる受光感度波長帯の組み合わせを選定するものである。
【0105】
例えば、赤外フィルタ選定部28は、放射率補正部27から取得した輝度画像に基づいて、現状の赤外フィルタ部の組み合わせが、物体Aの計測温度の精度を高められる最適な組み合わせであるか否かを判定する。赤外フィルタ部の組み合わせが最適でないと判定した場合、赤外フィルタ選定部28は、赤外フィルタ部を変更させる指示情報を制御部21に出力し、最適であると判定した場合は、放射率補正部27から取得した輝度画像を、温度画像としてそのまま出力する。
【0106】
信号処理部2Aが、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28を備える構成を示したが、非接触温度計測装置1Aは、少なくとも、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28を備えればよい。
この場合、制御部21、感度波長制御部22および輝度キャリブレーション部23は、例えば、赤外カメラ4Aまたは赤外カメラ4Bが備える。
【0107】
次に具体的な動作について説明する。
図8は、非接触温度計測装置1Aの動作を示すフローチャートであって、非接触温度計測装置1Aによる温度計測の一連の処理を示している。図8において、ステップST1、ステップST2、ステップST3およびステップST5の処理は、図2におけるステップST1、ステップST2、ステップST3およびステップST5の処理と同様であることから、説明を省略する。
【0108】
輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28は、ステレオ補正が完了した輝度画像に対してフィルタ最適化および温度補正を行う(ステップST4A)。
フィルタ最適化は、物体Aの計測温度の精度を高められる最適な赤外フィルタ部の組み合わせを選定する処理である。温度補正は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像に基づく輝度画像に対して、物体Aと赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離と、物体Aが有する赤外光の放射率とが与える影響を補正する処理である。
【0109】
図9は、フィルタ最適化および温度補正の一連の処理を示すフローチャートであって、図8のステップST4Aにおける一連の処理を示している。
まず、制御部21は、感度波長制御部22に感度波長帯情報を出力して受光感度波長帯を指定する。赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bは、同一の受光感度波長帯であって、赤外フィルタ部5Aと赤外フィルタ部5Bとが同一の透過波長帯(9μm-9μm)であり、赤外フィルタ部5Aと赤外フィルタ部5Cとが異なる透過波長帯(9μm-8μm)であり、赤外フィルタ部5Aと赤外フィルタ部5Dとが異なる透過波長帯(9μm-10μm)であるものとする。
【0110】
制御部21は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bとが異なる受光感度波長帯となるように、赤外フィルタ部5Cまたは赤外フィルタ部5Dの透過波長帯を、感度波長として指定する感度波長帯情報を、赤外フィルタ変更部5-1に出力する。
感度波長制御部22は、制御部21から取得した感度波長帯情報に基づき、赤外フィルタ部を切り替えるための制御信号を赤外フィルタ変更部5に出力する。赤外フィルタ変更部5は、上記制御信号に従い、赤外カメラ4Bの視野B2に設定する赤外フィルタ部を、赤外フィルタ部5Cまたは赤外フィルタ部5Dに変更する(ステップST4A-1)。
【0111】
赤外カメラ4Aに赤外フィルタ部5Aが設定され、赤外カメラ4Bに赤外フィルタ部5Cまたは赤外フィルタ部5Dが設定された状態で、赤外カメラ4Aが視野B1を撮像し、赤外カメラ4Bが視野B2を撮像する。制御部21は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を取得する(ステップST4A-2)。制御部21が取得した赤外画像は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが異なる受光感度波長帯で撮像したマルチバンド画像である。
【0112】
制御部21は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bから取得した赤外画像と、これらの赤外画像を輝度画像に変換する輝度キャリブレーションを行わせる指示情報とを、輝度キャリブレーション部23に出力する。輝度キャリブレーション部23は、上記指示情報に従ってメモリ部3からキャリブレーションテーブル読み出し、キャリブレーションテーブルに含まれる異なる受光感度波長帯に対応する輝度キャリブレーション用パラメータを用いて、上記赤外画像の画素値を放射輝度に変換し、輝度画像を生成する(ステップST4A-3)。輝度キャリブレーション部23は、生成した輝度画像を、輝度補正部26に出力する。
【0113】
輝度補正部26は、メモリ部3から読み出した距離マップを用いて、輝度キャリブレーション部23から取得した輝度画像の各画素の放射輝度を補正する(ステップST4A-4)。例えば、輝度補正部26は、メモリ部3から読み出したルックアップテーブルを用いて物体Aの見かけ上の放射輝度を補正することにより、画素ごとの真の放射輝度を算出する。
【0114】
次に、放射率補正部27は、物体Aが有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率を輝度画像に乗算することにより、放射率を用いた輝度補正を行った輝度画像である温度画像を生成する(ステップST4A-5)。
【0115】
赤外フィルタ選定部28は、放射率補正部27から出力された温度画像を用いて、赤外フィルタ部5Aと赤外フィルタ変更部5-1における赤外フィルタ部との現状の組み合わせが、計測対象の物体Aの現在の温度に対して最適化であるか否かを判定する(ステップST4A-6)。赤外フィルタ部の組み合わせが最適であると判定された場合(ステップST4A-6;YES)、図9の一連の処理は終了する。
【0116】
赤外フィルタ部の組み合わせが最適ではないと判定した場合(ステップST4A-6;NO)、赤外フィルタ選定部28は、赤外フィルタ変更部5-1に設定されている赤外フィルタ部を変更する(ステップST4A-7)。
【0117】
黒体放射スペクトルは、物体の温度に応じてスペクトル形状が変化することが知られている。ステップST4A-5の放射率補正は、受光感度波長帯が互いに異なる赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bで物体Aから放射光を撮像することにより、スペクトル形状を推定し、放射スペクトルを用いて放射率および温度を見積もるものである。
ステップST4A-6およびステップST4A-7の処理は、計測対象の物体Aの温度に応じて最適な赤外光の受光感度波長帯の組み合わせを選択することにより、温度計測の精度を高めるものである。
【0118】
放射率補正では、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bがそれぞれ撮像した赤外画像に基づく輝度画像の放射輝度を用いて物体Aの温度および放射率を求める。このため、輝度画像における放射輝度が正確に求められれば、これに応じて物体Aの温度および放射率の推定精度も上がる。
【0119】
なお、赤外カメラには、NETDで代表されるランダム雑音が存在し、計測された放射輝度には、ある一定の誤差が重畳される。この点を考慮すると、赤外カメラ4Aを用いて得られた輝度画像の放射輝度と赤外カメラ4Bを用いて得られた輝度画像の放射輝度とがそれぞれ最大になる感度波長帯を選択すべきである。
【0120】
例えば、ピーク波長を挟んで対称となるように、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの感度波長帯を設定する方法がある。これにより、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bを用いて得られた輝度画像の放射輝度がそれぞれ概ね最大化される。ウィーンの変位測によれば、温度Tの黒体放射スペクトルのピーク波長λは、下記式(4)で求められる。
λ≒(2.898×10-3)/T (4)
【0121】
図10は、黒体放射スペクトルのピーク波長の特性を示すグラフであり、上記式(4)によって計算されたピーク波長を示している。上記式(4)に従うと、図10に示すように、計測対象の物体Aの温度が305Kである場合は、黒体放射スペクトルのピーク波長が約9.5μmとなる。このため、赤外フィルタ部の中心波長の組み合わせとしては、9μm-10μmが最適となる。また、計測対象の物体Aの温度が340Kの場合には、ピーク波長が約8.5μmとなるため、赤外フィルタ部の中心波長の組み合わせとしては、8μm-9μmが最適となる。
【0122】
上述した赤外フィルタの中心波長の設定方法は一例であり、想定する赤外フィルタ部の透過帯域幅または温度計測条件に応じて、温度計測の精度が最大化になる赤外フィルタ部の特性およびその組み合わせは変化する。
例えば、計測対象の物体Aの温度に対する最適なフィルタ組み合わせを示すルックアップテーブルを用意しておき、当該ルックアップテーブルを用いて、ステップST4A-6における赤外フィルタ部の組み合わせが最適であるか否かを判定してもよい。
【0123】
非接触温度計測装置1Aが備える制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28の機能は、図6Aに示した専用のハードウェアの処理回路102が実現してもよい。処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらを組み合わせたものが該当する。非接触温度計測装置1Aが備える制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28の機能を別々の処理回路で実現してもよく、これらの機能をまとめて一つの処理回路で実現してもよい。
【0124】
処理回路が図6Bに示したプロセッサ103である場合、非接触温度計測装置1Aが備える制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28の機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0125】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、非接触温度計測装置1Aが備える制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28の機能を実現する。
例えば、非接触温度計測装置1Aは、プロセッサ103によって実行されるときに、図9に示したステップST4A-1からステップST4A-7の処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するためのメモリ104を備える。
これらのプログラムは、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28が行う処理の手順または方法をコンピュータに実行させるものである。メモリ104は、コンピュータを、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27および赤外フィルタ選定部28として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0126】
以上のように、実施の形態2に係る非接触温度計測装置1Aは、赤外フィルタ選定部28を備える。赤外フィルタ選定部28は、2つ以上の受光感度波長帯の組み合わせで赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが同一シーンを含む視野を撮像した赤外画像における、各画素の輝度値を輝度補正部26および放射率補正部27が補正して得られた輝度画像を用いて、物体Aの温度計測に用いる受光感度波長帯の組み合わせを選定する。非接触温度計測装置1Aは、計測対象の物体Aの温度に応じて最適な赤外光の受光感度波長帯の組み合わせを選択することにより、温度計測の精度を高めることができる。
【0127】
実施の形態3.
図11は、実施の形態3に係る非接触温度計測装置1Bの構成例を示すブロック図である。図11において、非接触温度計測装置1Bは、温度計測対象の物体Aが撮像された赤外画像を用いて、物体Aの温度を非接触で計測する装置であり、信号処理部2B、メモリ部3、赤外カメラ4A、赤外カメラ4B、赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ変更部5-1およびシャッター部6を備える。
【0128】
信号処理部2Bは、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を用いて物体Aの温度計測処理を行うものである。信号処理部2Bは、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28、および温度画像合成部29を備える。
【0129】
温度画像合成部29は、赤外フィルタ選定部28が選定した受光感度波長帯の組み合わせで赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが共通の領域を含む視野を撮像した赤外画像に基づく輝度画像であって、輝度補正部26および放射率補正部27によって各画素の放射輝度が補正された複数の輝度画像を合成する画像合成部である。
例えば、温度画像合成部29は、赤外フィルタ選定部28から、現在の赤外フィルタ部の組み合わせで得られた温度画像を取得し、現在とは異なる赤外フィルタ部の組み合わせで得られた温度画像をメモリ部3から読み出して、これらの温度画像を合成した画像を、計測温度の精度が改善された温度画像として生成する。
【0130】
信号処理部2Bが、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29を備える構成を示したが、非接触温度計測装置1Bは、少なくとも、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29を備えればよい。
この場合、制御部21、感度波長制御部22および輝度キャリブレーション部23は、例えば、赤外カメラ4Aまたは赤外カメラ4Bが備える。
【0131】
次に具体的な動作について説明する。
図12は、非接触温度計測装置1Bの動作を示すフローチャートであって、非接触温度計測装置1Bによる温度計測の一連の処理を示している。図12において、ステップST1、ステップST2、ステップST3およびステップST5の処理は、図2におけるステップST1、ステップST2、ステップST3およびステップST5の処理と同様であることから、説明を省略する。
【0132】
輝度補正部26、放射率補正部27および温度画像合成部29は、ステレオ補正が完了した輝度画像に対して温度補正および温度画像合成を行う(ステップST4B)。
温度画像合成は、複数の赤外フィルタ部の組み合わせで取得された温度画像を合成する処理である。温度補正は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像に基づく輝度画像に対して、物体Aと赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとの間の距離と、物体Aが有する赤外光の放射率とが与える影響を補正する処理である。
【0133】
図13は、温度補正および温度画像合成の一連の処理を示すフローチャートであって、図12のステップST4Bにおける一連の処理を示している。
制御部21は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bとが異なる受光感度波長帯となるように、赤外フィルタ部5Cまたは赤外フィルタ部5Dの透過波長帯を、感度波長として指定する感度波長帯情報を、赤外フィルタ変更部5-1に出力する。
感度波長制御部22は、制御部21から取得した感度波長帯情報に基づき、赤外フィルタ部を切り替えるための制御信号を赤外フィルタ変更部5に出力する。赤外フィルタ変更部5は、上記制御信号に従い、赤外カメラ4Bの視野B2に設定する赤外フィルタ部を、赤外フィルタ部5Cまたは赤外フィルタ部5Dに変更する(ステップST4B-1)。
【0134】
赤外カメラ4Aに赤外フィルタ部5Aが設定され、赤外カメラ4Bに赤外フィルタ部5Cまたは赤外フィルタ部5Dが設定された状態で、赤外カメラ4Aが視野B1を撮像し、赤外カメラ4Bが視野B2を撮像する。制御部21は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を取得する(ステップST4B-2)。制御部21が取得した赤外画像は、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが異なる受光感度波長帯で撮像したマルチバンド画像である。
【0135】
制御部21は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bから取得した赤外画像と、これらの赤外画像を輝度画像に変換する輝度キャリブレーションを行わせる指示情報とを、輝度キャリブレーション部23に出力する。輝度キャリブレーション部23は、上記指示情報に従ってメモリ部3からキャリブレーションテーブル読み出し、キャリブレーションテーブルに含まれる異なる受光感度波長帯に対応する輝度キャリブレーション用パラメータを用いて、上記赤外画像の画素値を放射輝度に変換し、輝度画像を生成する(ステップST4B-3)。輝度キャリブレーション部23は、生成した輝度画像を、輝度補正部26に出力する。
【0136】
輝度補正部26は、メモリ部3から読み出した距離マップを用いて、輝度キャリブレーション部23から取得した輝度画像の各画素の放射輝度を補正する(ステップST4B-4)。例えば、輝度補正部26は、メモリ部3から読み出したルックアップテーブルを用いて物体Aの見かけ上の放射輝度を補正することにより、画素ごとの真の放射輝度を算出する。
【0137】
次に、放射率補正部27は、物体Aが有する赤外光の放射率を推定し、推定した放射率を輝度画像に乗算することにより、放射率を用いた輝度補正を行った輝度画像である温度画像を生成する(ステップST4B-5)。
【0138】
温度画像合成部29は、複数通りの赤外フィルタ部の組み合わせで物体Aの温度が計測されたか否かを判定する(ステップST4B-6)。ここで、複数通りの赤外フィルタ部の組み合わせで物体Aの温度が計測されていないと判定された場合(ステップST4B-6;NO)、赤外フィルタ選定部28は、赤外フィルタ変更部5-1に設定されている赤外フィルタ部を変更する(ステップST4B-7)。変更後の赤外フィルタ部の組み合わせで、ステップST4B-2からの一連の処理を繰り返す。
【0139】
複数通りの赤外フィルタ部の組み合わせで物体Aの温度が計測されたと判定した場合(ステップST4B-6;YES)、温度画像合成部29は、複数通りの赤外フィルタ部の組み合わせで取得された複数の温度画像を合成して、画像全体において高い計測精度を有する温度画像を生成する(ステップST4B-8)。
【0140】
実施の形態2では、計測対象の物体Aの温度に応じて赤外フィルタ部の組み合わせを変えることで、その温度に最適な感度波長帯で計測を行い、温度計測精度を改善するものであった。しかしながら、この方法では、画像内に温度が著しく異なる物体があると、そのどちらか一方にしか赤外フィルタ部の組み合わせを最適化できない。
【0141】
これに対して、ステップST4B-8における温度画像合成では、複数の赤外フィルタ部の組み合わせで取得した複数の温度画像を合成している。例えば、ある一定の温度閾値を設定し、その閾値以下の画素においては赤外フィルタ部の組み合わせ(1)で取得した温度値を、その閾値以上の画素においては赤外フィルタ部の組み合わせ(2)で取得した温度値を採用し、1枚の画像として合成する。これにより、非接触温度計測装置1Bは、画素ごとに最適な赤外フィルタ部の組み合わせを設定することができ、画像全体で温度計測の精度が改善する。なお、上記の閾値は2つ以上設定されていてもよい。
【0142】
非接触温度計測装置1Bが備える制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29の機能は、図6Aに示した専用のハードウェアの処理回路102が実現してもよい。
処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらを組み合わせたものが該当する。非接触温度計測装置1Bが備える制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29の機能を、別々の処理回路で実現してもよく、これらの機能をまとめて一つの処理回路で実現してもよい。
【0143】
処理回路が図6Bに示したプロセッサ103である場合、非接触温度計測装置1Bが備える制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29の機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0144】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、非接触温度計測装置1Bが備える制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29の機能を実現する。
例えば、非接触温度計測装置1Bは、プロセッサ103によって実行されるときに、図13に示したステップST4B-1からステップST4B-8の処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するためのメモリ104を備える。
これらのプログラムは、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29が行う処理の手順または方法をコンピュータに実行させるものである。
メモリ104は、コンピュータを、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0145】
以上のように、実施の形態3に係る非接触温度計測装置1Bは、温度画像合成部29を備える。温度画像合成部29は、赤外フィルタ選定部28が選定した受光感度波長帯の組み合わせで赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが同一シーンを含む視野を撮像した複数の赤外画像における画素ごとの輝度を、輝度補正部26および放射率補正部27が補正して得られた複数の画像を合成する。
これにより、非接触温度計測装置1Bは、画素ごとに最適な赤外フィルタ部の組み合わせを設定でき、画像全体で温度計測精度を改善できる。
【0146】
実施の形態4.
図14は、実施の形態4に係る非接触温度計測装置1Cの構成例を示すブロック図である。図14において、非接触温度計測装置1Cは、温度計測対象の物体Aが撮像された赤外画像を用いて、物体Aの温度を非接触で計測する装置であり、信号処理部2C、メモリ部3、赤外カメラ4A、赤外カメラ4B、赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ変更部5-1、シャッター部6、参照温度計測部7、筐体8、シャッター輝度計測用赤外カメラ9、および参照ターゲット10を備える。
【0147】
信号処理部2Cは、赤外カメラ4Aと赤外カメラ4Bが撮像した赤外画像を用いて物体Aの温度計測処理を行うものである。信号処理部2Cは、制御部21、感度波長制御部22A、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28、および温度画像合成部29を備える。
【0148】
参照温度計測部7は、温度計測対象の物体Aとは別に設けられた参照ターゲット10の温度を計測するものである。例えば、参照温度計測部7は、参照ターゲット10の近傍に設置された接触式の温度センサであり、参照ターゲット10の温度を計測し、計測した温度を、輝度キャリブレーション部23に出力する。温度センサとしては、例えば、サーミスタまたは熱電対を用いてもよい。
【0149】
筐体8は、信号処理部2C、メモリ部3、赤外カメラ4A、赤外カメラ4B、赤外フィルタ部5A、赤外フィルタ変更部5-1、シャッター部6、参照温度計測部7、筐体8、シャッター輝度計測用赤外カメラ9、および参照ターゲット10を内部に収容するものである。筐体8の表面に参照ターゲット10が保持される。
なお、筐体8は分割されていてもよい。例えば、信号処理部2C、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが、それぞれ別個に筐体を備えていてもよい。
【0150】
シャッター輝度計測用赤外カメラ9は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの前面に配置されたシャッター部6のシャッターの赤外画像を撮像し、筐体8の表面に設けられた参照ターゲット10の赤外画像を撮像する。シャッター輝度計測用赤外カメラ9は、撮像した赤外画像を、輝度キャリブレーション部23に出力する。
【0151】
また、シャッター輝度計測用赤外カメラ9は、例えば赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bとは別個の単一の赤外カメラで構成される。シャッター輝度計測用赤外カメラ9は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bに撮影されないように、視野B1および視野B2の範囲外に設置される。シャッター輝度計測用赤外カメラ9は、当該設置位置からシャッター部6が備える2つのシャッターと参照ターゲット10とを視野内に収めるため、少なくとも赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの視野の2倍以上の視野を有している。
なお、シャッター輝度計測用赤外カメラ9は、筐体8とは独立して設けられてもよいし、板状の構造などをもちいて、筐体8に支持されてもよい。
【0152】
信号処理部2Cが、制御部21、感度波長制御部22、輝度キャリブレーション部23、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29を備える構成を示したが、非接触温度計測装置1Cは、少なくとも、マッチング処理部24、位置関係推定部25、輝度補正部26、放射率補正部27、赤外フィルタ選定部28および温度画像合成部29を備えればよい。
この場合、制御部21、感度波長制御部22および輝度キャリブレーション部23は、例えば、赤外カメラ4Aまたは赤外カメラ4Bが備える。
【0153】
次に具体的な動作について説明する。
図15は、非接触温度計測装置1Cの動作を示すフローチャートであって、非接触温度計測装置1Cによる温度計測の一連の処理を示している。図15において、ステップST1、ステップST3、ステップST4およびステップST5の処理は、図2におけるステップST1、ステップST3、ステップST4およびステップST5の処理と同様であることから、説明を省略する。
【0154】
信号処理部2Cは、前回のシャッター補正から一定時間が経過すると、シャッター高精度補正を行う(ステップST2A)。シャッター高精度補正は、シャッター部6のシャッターの輝度画像および参照ターゲット10の輝度画像を用いて、シャッターの温度および参照ターゲット10の温度を計測し、参照温度計測部7が計測した参照ターゲット10の温度を既知の値として、シャッターの温度に応じた輝度画像の放射輝度を高精度に推定するものである。
【0155】
図16は、シャッター高精度補正の一連の処理を示すフローチャートであって、図15のステップST2Aにおける一連の処理を示している。
まず、制御部21が、シャッターを閉じさせる制御信号をシャッター部6に送信する。シャッター部6は、当該制御信号に従ってシャッターを閉じ、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの視野を遮蔽する(ステップST2A-1)。
【0156】
続いて、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが、視野B1および視野B2を遮断しているシャッターを撮像して、シャッター画像を生成する。制御部21は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bからシャッター画像を取得する(ステップST2A-2)。
【0157】
ステップST2A-3におけるシャッター輝度計測とは、輝度キャリブレーション部23が、シャッター輝度計測用赤外カメラ9が撮像したシャッター部6が備える2つのシャッターの赤外画像を、輝度画像に変換する処理である。
次に、ステップST2A-4の参照板輝度および温度計測とは、輝度キャリブレーション部23が、シャッター輝度計測用赤外カメラ9が撮像した参照ターゲット10の赤外画像を、輝度画像に変換し、さらに、参照温度計測部7が、参照ターゲット10の温度を計測する処理である。
【0158】
輝度キャリブレーション部23は、シャッターの輝度画像、参照ターゲット10の輝度画像、および参照ターゲット10の計測温度を用いて、シャッター画像における放射輝度を温度に変換する(ステップST2A-5)。
【0159】
次に、輝度キャリブレーション部23は、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bが物体Aを撮像した赤外画像を制御部21から取得し、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの受光感度波長帯を示す感度波長帯情報、これらに現在設定されている赤外フィルタ部の透過波長帯を示す透過波長帯情報などをメモリ部3から読み出す。
そして、輝度キャリブレーション部23は、制御部21から取得した上記情報と、メモリ部3から読み出した上記情報とを用いて、上記赤外画像の画素値を物体Aの放射輝度に変換する際に必要な輝度キャリブレーション用パラメータを、上記赤外画像の画素ごとに算出する(ステップST2A-6)。
輝度キャリブレーション部23は、画素ごとの輝度キャリブレーション用パラメータを設定したキャリブレーションテーブルを生成し、生成したキャリブレーションテーブルをメモリ部3に保存する。
【0160】
次に、制御部21は、感度波長制御部22に感度波長帯情報を出力して受光感度波長帯を指定する。感度波長制御部22は、制御部21から取得した感度波長帯情報が示す波長帯を透過する赤外フィルタ部に切り替えるための制御信号を赤外フィルタ変更部5に出力する。赤外フィルタ変更部5-1は、上記制御信号に従い、赤外カメラ4Bの視野B2に設定する赤外フィルタ部を、赤外フィルタ部5Bまたは赤外フィルタ部5Cに変更する(ステップST2A-7)。
【0161】
赤外フィルタ部を変更した後、制御部21は、ステップST2A-2の処理に戻し、再度ステップST2A-2およびステップST2A-6の処理を行う。この一連の処理は、赤外フィルタ変更部5-1が備える全ての赤外フィルタ部について行われる。
【0162】
上述の処理が完了すると、制御部21は、シャッターを開放させる制御信号をシャッター部6に送信する。シャッター部6は、当該制御信号に従ってシャッターを開放し、赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bの視野の遮蔽を終了する(ステップST2A-8)。
【0163】
ステップST2A-1におけるシャッター補正では、赤外カメラにおいて一般的に利用されるものである。計測対象の物体Aの温度が一定である場合であっても、赤外カメラ自身の温度変化によって見かけの温度(輝度)が変動する。このため、温度を既知とみなせるシャッターの輝度を計測することにより、計測された画素値と計測対象の放射輝度値とを対応付ける。このとき、シャッター温度が既知である必要であるが、通常はシャッターに備えられた接触式の温度センサの計測値を用いるか、室温とほぼ同等と近似することにより、シャッター温度を推定する。
【0164】
一方、補正に使用されるシャッターは開閉移動する部品であるため、それ自身に温度センサを接触させることはできず、計測できるのはあくまでもシャッター周辺の温度に限定される。このため、接触式の温度センサによる計測値はシャッター自身の温度ではない。
シャッター温度は赤外カメラ自身の発熱を含む複合的な環境温度の影響を受けるため、室温とは必ずしも一致しない。また、シャッターの温度分布を考慮することもできない。
【0165】
これに対し、非接触温度計測装置1Cは、複数の赤外カメラによって測定された輝度値を組み合わせて、温度及び放射率を推定する。このとき、各赤外カメラを用いた温度計測値に種々の演算を加えるため、これらの計測値に誤差があると、出力される計測温度および放射率における誤差も増大してしまう。そこで、赤外カメラを一般的な用途に使用する場合以上に高精度にシャッター温度を計測する手段に用いている。
【0166】
なお、シャッター輝度計測用赤外カメラ9として、単一の赤外カメラを用いてもよい。この場合、赤外カメラの個体差に伴う誤差を排除でき、より高精度にシャッターの温度を計測することが可能となる。
【0167】
また、シャッター輝度計測用赤外カメラ9として、高解像な赤外カメラを採用してもよい。この場合、シャッターの2次元温度分布を取得可能であり、より高精度に赤外カメラ4Aおよび赤外カメラ4Bのキャリブレーションが可能となる。
【0168】
以上のように、実施の形態4に係る非接触温度計測装置1Cは、温度計測対象の物体Aとは別に設けられた参照ターゲット10の温度を計測する参照温度計測部7を備える。
輝度キャリブレーション部23は、シャッター輝度計測用赤外カメラ9が撮像した参照ターゲット10とシャッター部6を含む赤外画像を用いて、参照ターゲット10とシャッター部6の温度に対応する画素ごとの輝度値の分布を示す輝度画像を生成する。輝度補正部26は、参照ターゲット10の輝度画像と、参照ターゲット10の温度計測値との対応関係を用いてシャッター部6の輝度画像を補正し、補正したシャッター部6の輝度画像を用いて物体Aの輝度画像を補正する。これにより、非接触温度計測装置1Cは、各赤外カメラにおける輝度キャリブレーション精度が向上し、結果的に計測される温度計測精度が改善する。
【0169】
なお、各実施の形態の組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本開示に係る非接触温度計測装置は、例えば、発熱者の遠隔からのモニタリングに利用可能である。
【符号の説明】
【0171】
1,1A~1C 非接触温度計測装置、2,2A~2C 信号処理部、3 メモリ部、4A,4B 赤外カメラ、5,5-1,5A~5D 赤外フィルタ変更部、6 シャッター部、7 参照温度計測部、8 筐体、9 シャッター輝度計測用赤外カメラ、10 参照ターゲット、21 制御部、22,22A 感度波長制御部、23 輝度キャリブレーション部、24 マッチング処理部、25 位置関係推定部、26 輝度補正部、27 放射率補正部、28 赤外フィルタ選定部、29 温度画像合成部、100 入力インタフェース、101 出力インタフェース、102 処理回路、103 プロセッサ、104 メモリ。
【要約】
非接触温度計測装置(1)は、画像間の画素の対応関係を推定するマッチング処理部(24)と、画素の対応関係に基づいて、赤外カメラ(4A,4B)と物体(A)との位置関係を推定する位置関係推定部(25)と、上記位置関係に基づいて、輝度画像における温度に対応する輝度を補正する輝度補正部(26)と、画素の対応関係と輝度画像を用いて放射率を推定し、放射率に基づいて温度画像を生成する放射率補正部(27)を備え、マッチング処理部(24)は、同一の受光感度波長帯で赤外カメラ(4A,4B)が撮像した画像間での画素の対応関係を推定し、放射率補正部(27)は、異なる受光感度波長帯で赤外カメラ(4A,4B)が撮像した画像を用いて放射率を推定する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16