IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-回転子および磁気波動歯車装置 図1
  • 特許-回転子および磁気波動歯車装置 図2
  • 特許-回転子および磁気波動歯車装置 図3
  • 特許-回転子および磁気波動歯車装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】回転子および磁気波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 49/00 20060101AFI20241206BHJP
   H02K 1/278 20220101ALI20241206BHJP
【FI】
F16H49/00 A
H02K1/278
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023564326
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2021044018
(87)【国際公開番号】W WO2023100274
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 諒祐
(72)【発明者】
【氏名】宮武 亮治
(72)【発明者】
【氏名】山本 篤史
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-505037(JP,A)
【文献】特開2013-106499(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111335(WO,A1)
【文献】特開2016-135014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H19/00-37/16
49/00
H02K1/17
1/27-1/2798
15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に磁石モジュールが円環状に配置された回転子であって、
前記磁石モジュールは、磁性体で構成された基台と、前記基台の外周面に前記回転軸の回転方向に隙間を介して配置された互いに極が異なる2つの回転子磁石とを有しており、回転方向に隣接する2つの前記磁石モジュール同士の対向する前記回転子磁石は、互いに同じ極でありかつ密接していることを特徴とする回転子。
【請求項2】
前記基台は、前記回転軸の軸方向に積層された電磁鋼板で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転子。
【請求項3】
前記基台は、粉末状の磁性体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転子。
【請求項4】
周方向に複数のスロットを備えた固定子鉄心、前記スロット内に配置された固定子巻線および固定子磁石を有する固定子と、
前記固定子の内周側に間隙を介して配置された第1回転子と、
前記第1回転子の回転軸と同心で、前記第1回転子の内周側に間隙を介して配置された第2回転子とを有する磁気波動歯車装置であって、
前記第2回転子が請求項1から3のいずれか1項に記載の回転子で構成されていることを特徴とする磁気波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、回転子および磁気波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の発電機として磁気減速機と回転機とを一体化させた磁気波動歯車装置が知られている。磁気波動歯車装置は、低速回転子と、低速回転子と同軸状に設けられた高速回転子と、固定子巻線および永久磁石を有する固定子とで構成されている。磁気波動歯車装置は、機械的な摩耗が発生する機械式変速機を用いることなく、非接触で回転子の回転速度を変えることができる。そのため、磁気波動歯車装置においては、機械的な摩耗に対するメンテナンスの負荷が軽減される。また、磁気波動歯車装置を風力発電装置の発電機として用いる場合、1つの装置で変速と発電とが可能となるので、発電システムの小型化、省スペース化が実現できる。
【0003】
従来の磁気波動歯車装置として、複数の永久磁石を有する固定子と、複数の回転子磁石を有する高速回転子と、複数の磁極片を有する低速回転子とが同心状に配置された磁気波動歯車装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような磁気波動歯車装置の高速回転子として、回転子磁石を基台に固定した磁石モジュールを周方向に複数並べた回転子を用いることができる。このような回転子として、磁石モジュールの基台を磁性体で構成した回転子が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-135014号公報
【文献】特開2019-30063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の回転子においては、磁石モジュール同士の境界が隣り合う磁極の境界となるため磁極間の磁気抵抗が大きい。そのため、従来の回転子を磁気波動歯車装置に適用しても、回転子の磁極間の磁気抵抗が大きいために、出力が低いという問題があった。
【0006】
本願は、上述のような課題を解決するためになされたもので、磁極間の磁気抵抗が小さい回転子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の回転子は、回転軸を中心に磁石モジュールが円環状に配置された回転子である。そして、磁石モジュールは、磁性体で構成された基台と、基台の外周面に回転軸の回転方向に隙間を介して配置された互いに極が異なる2つの回転子磁石とを有しており、回転方向に隣接する2つの磁石モジュール同士の対向する回転子磁石は互いに同じ極でありかつ密接している。
【発明の効果】
【0008】
本願の回転子においては、回転方向に隣接する2つの磁石モジュール同士の対向する回転子磁石は互いに同じ極でありかつ密接しているので、磁極間の磁気抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る磁気波動歯車装置の正面図である。
図2】実施の形態1に係る磁石モジュールの斜視図である。
図3】実施の形態1に係る高速回転子の断面図である。
図4】実施の形態1に係る磁気波動歯車装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願を実施するための実施の形態に係る回転子および磁気波動歯車装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一符号は同一もしくは相当部分を示している。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る磁気波動歯車装置の正面図である。本実施の形態の磁気波動歯車装置1は、円筒形状のフレーム2と、固定子3と、低速回転子4と、高速回転子5とを有している。固定子3は、周方向に複数のスロットを備えた固定子鉄心31、スロット内に配置された固定子巻線32および固定子磁石33を備えている。固定子3は、フレーム2の内周側でフレーム2に固定されている。低速回転子4は、固定子3の内周側に間隙を介して配置された円筒形状の低速回転子鉄心を有している。高速回転子5は、低速回転子4の回転軸41と同心で、低速回転子鉄心の内周側に間隙を介して配置されている。高速回転子5は、円筒形状の高速回転子鉄心51と周方向に並んで配置された磁石モジュール52とを備えている。低速回転子4は、高速回転子5より回転軸41方向の外側で低速回転子鉄心と回転軸41とを締結する低速回転子端板42を備えている。図1に示すように、本実施の形態の低速回転子端板42は、複数のスポーク42aで構成されている。複数のスポーク42aの間は開口部となっている。
【0012】
図2は、本実施の形態に係る磁石モジュールの斜視図である。図2において、両端矢印で示す方向は、図1に示す磁気波動歯車装置1の回転軸41の回転方向である。磁石モジュール52は、基台6と、この基台6の外周面に回転方向に隙間を介して配置された互いに極が異なる2つの回転子磁石7、8とを有している。基台6は、回転軸の軸方向に複数の電磁鋼板61が積層されている。複数の電磁鋼板61は、断面がL字型の底板62と端板63と固定ボルト64とで固定されている。
【0013】
2つの回転子磁石7、8は互いに極が異なっている。例えば、回転子磁石7の外周側がN極であれば、回転子磁石8の外周側はS極である。図2に示すように、2つの回転子磁石7、8は、回転方向および軸方向にそれぞれ2分割された4つの磁石片で構成されている。これらの磁石片は、例えば接着剤などで基台6に強固に固定されている。
【0014】
図3は、本実施の形態に係る高速回転子の断面図である。本実施の形態に係る高速回転子5は、円筒形状の高速回転子鉄心51の外周面に磁石モジュール52が円環状に密接して配置されている。図3は、回転軸41の回転方向に磁石モジュール52が配置された高速回転子5の断面の一部を示している。図3において、両端矢印で示す方向は、図1に示す磁気波動歯車装置1の回転軸41の回転方向である。図3に示すように、回転方向に隣接する磁石モジュール52同士の対向する回転子磁石は互いに同じ極でありかつ密接している。そのため、1つの磁極は、2つの磁石モジュール52を跨ぐ形で構成される。図3において、破線は磁極の境界を示している。例えば、中央に配置された磁石モジュール52aの左側のN極の回転子磁石7と、左側に配置された磁石モジュール52bの右側のN極の回転子磁石8とで1つのN極の磁極が構成されている。同様に、中央に配置された磁石モジュール52aの右側のS極の回転子磁石8と、右側に配置された磁石モジュール52cの左側のS極の回転子磁石7とで1つのS極の磁極が構成されている。
【0015】
このように構成された高速回転子5においては、磁極の境界が磁石モジュールの中央部になる。そのため、磁石モジュールの基台が磁極間の磁路となるので、磁極間の磁気抵抗が小さくなる。その結果、この高速回転子を用いた磁気波動歯車装置の出力低下を抑制することができる。
【0016】
また、磁石モジュールの基台が軸方向に積層された電磁鋼板で構成されているため軸方向の電流経路が分断されて渦電流が流れにくくなる。そのため、この磁石モジュールにおいては、高調波磁束に起因する渦電流損を低減することができる。
【0017】
図4は、本実施の形態に係る磁気波動歯車装置の斜視図である。図4に示すように、低速回転子端板42は、複数のスポーク42aで構成されている。複数のスポーク42aの間は開口部となっている。図4において矢印で示すように、磁石モジュール52をこの開口部を通過させて高速回転子鉄心51の外周面に配置することもできる。このようにして高速回転子を組み立てると、高速回転子鉄心51を固定子3の内周側に挿入するときに回転子磁石7、8は高速回転子鉄心51に組み込まれていない。そのため、高速回転子鉄心51を挿入するときに固定子磁石33と回転子磁石7、8との間の磁気吸引力は発生しない。その結果、高速回転子鉄心51を固定子3に挿入するときに挿入方向と直角な方向の力は作用しないので、精度よく高速回転子鉄心51を固定子3に挿入することができる。
【0018】
また、高速回転子5を固定子3に挿入するときに挿入方向と直角な方向の力は作用しないので、組み立て作業の効率を向上させるために高速回転子5と固定子3との間隙を広げる必要もない。仮に高速回転子5と固定子3との間隙を広げた場合、磁気波動歯車装置の出力が低下する。このことから、本実施の形態に係る磁気波動歯車装置においては、高速回転子と固定子との間隙が広くなることに起因する出力の低下も抑制することができる。
【0019】
なお、本実施の形態においては、磁石モジュールの基台が積層された電磁鋼板で構成されている。高調波磁束に起因する渦電流損が問題にならない場合には、磁石モジュールの基台は一体化された磁性体であってもよい。
【0020】
また、本実施の形態においては、2つの回転子磁石7、8は、回転方向および軸方向にそれぞれ2分割された4つの磁石片で構成されている。回転子磁石7、8が磁石片に分割されていると高調波磁束に起因する渦電流が流れにくくなり、回転子磁石7、8における渦電流損を低減することができる。ただし、回転子磁石における渦電流損が問題にならない場合には、回転子磁石7、8はそれぞれ1つの磁石で構成されていてもよい。
【0021】
実施の形態2.
実施の形態1においては、磁石モジュールの基台として複数の電磁鋼板が積層された基台を用いている。実施の形態2においては、磁石モジュールの基台として粉末状の磁性体を用いたものである。それ以外の磁石モジュールの構成は、実施の形態1の磁石モジュールの構成と同様である。また、高速回転子および磁気波動歯車装置の構成も実施の形態1と同様である。
【0022】
粉末状の磁性体としては、例えば鉄、鉄とニッケルとの合金などの粉末材料を用いることができる。
【0023】
このように構成された磁石モジュールを用いた高速回転子においては、磁極の境界が磁石モジュールの中央部になる。そのため、磁石モジュールの基台が磁極間の磁路となるので、磁極間の磁気抵抗が小さくなり、この高速回転子を用いた磁気波動歯車装置の出力低下を抑制することができる。
【0024】
また、磁石モジュールの基台が粉末状の磁性体で構成されているので、実施の形態1と同様に、電流経路が分断されて渦電流が流れにくくなる。そのため、この磁石モジュールにおいては、高調波磁束に起因する渦電流損を低減することができる。
【0025】
本願は、様々な例示的な実施の形態が記載されているが、1つまたは複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0026】
1 磁気波動歯車装置、2 フレーム、3 固定子、4 低速回転子、5 高速回転子、6 基台、7、8 回転子磁石、31 固定子鉄心、32 固定子巻線、33 固定子磁石、41 回転軸、42 低速回転子端板、42a スポーク、51 高速回転子鉄心、52、52a、52b、52c 磁石モジュール、61 電磁鋼板、62 底板、63 端板、64 固定ボルト。
図1
図2
図3
図4