(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】工作機械、並びに、工作機械におけるアラームを発生する方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/244 20060101AFI20241206BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20241206BHJP
G05B 19/19 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
G01D5/244 K
G01D5/244 A
B23Q17/00 A
G05B19/19 K
(21)【出願番号】P 2024000047
(22)【出願日】2024-01-04
(62)【分割の表示】P 2020069835の分割
【原出願日】2020-04-08
【審査請求日】2024-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 伸二
(72)【発明者】
【氏名】林 康一
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-110727(JP,A)
【文献】特開平10-274548(JP,A)
【文献】特開2001-272251(JP,A)
【文献】特開2015-224955(JP,A)
【文献】特開2019-124631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00
G01D 5/00 - 5/62
G05B 19/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転位置検出器と、数値制御装置とを含む工作機械であって、
前記回転位置検出器は、
回転軸に取付けられた被検出体と、
前記被検出体の回転位置に応じて正弦波状に変化するA相信号と、
前記被検出体の回転位置に応じて正弦波状に変化し、前記A相信号に対して位相が90度異なるB相信号と、
前記被検出体が1回転するごとに1回出力されるパルス状のZ相信号と、を出力するセンサ部と、
前記A相信号と前記B相信号と前記Z相信号とに基づいて前記回転軸の回転位置を算出するデータ処理部と、を備え、
前記データ処理部は、
前記Z相信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングにおける前記A相信号の値と前記B相信号の値とを引数とする逆正接である内挿値を算出
し、
前記数値制御装置は、前記データ処理部から入力された前記内挿値に基づいてアラーム判定を行うZ相信号位相判定部を有し、
前記Z相信号位相判定部は、前記内挿値が許容範囲内にない場合に、アラームを発生
し、前記内挿値が許容範囲内にある場合に、前記内挿値と許容範囲の上限値との差、又は前記内挿値と許容範囲の下限値との差に基づいてアラーム発生に対する余裕位相角を算出すること、
を特徴とする工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載の工作機械であって、
前記Z相信号位相判定部は、Z相パルスの立ち上がりタイミングにおける前記内挿値が0と3*π/2の間にない場合に、アラームを発生すること、
を特徴とする工作機械。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の工作機械であって、
前記データ処理部は、
前記センサ部から入力された前記A相信号と前記B相信号とをそれぞれA相デジタル信号とB相デジタル信号に変換すると共に、前記センサ部から入力された前記Z相信号をZ相パルス信号に変換し、変換した前記A相デジタル信号と前記B相デジタル信号と前記Z相パルス信号
を出力する信号変換部を含み、
前記内挿値は、
前記Z相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングにおける前記A相デジタル信号の値と前記B相デジタル信号の値とを引数とする逆正接であ
ること、
を特徴とする工作機械。
【請求項4】
回転軸に取付けられた被検出体と、
前記被検出体の回転位置に応じて正弦波状に変化するA相信号と、前記被検出体の回転位置に応じて正弦波状に変化し、前記A相信号に対して位相が90度異なるB相信号と、前記被検出体が1回転するごとに1回出力されるパルス状のZ相信号と、を出力するセンサ部と、
前記A相信号と前記B相信号と前記Z相信号とに基づいて前記回転軸の回転位置を算出するデータ処理部と、を備える回転位置検出器と、
数値制御装置と、を備える工作機械におい
て、アラームを発生する方法であって、
前記Z相信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングにおける前記A相信号の値と前記B相信号の値とを引数とする逆正接である内挿値を算出
し、
前記内挿値が許容範囲内にない場合に、アラームを発生
し、
前記内挿値が許容範囲内にある場合に、前記内挿値と許容範囲の上限値との差、又は前記内挿値と許容範囲の下限値との差に基づいてアラーム発生に対する余裕位相角を算出すること、
を特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
Z相パルスの立ち上がりタイミングにおける前記内挿値が0と3*π/2の間にない場合に、アラームを発生すること、
を特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法であって、
前記データ処理部が、前記センサ部から入力された前記A相信号と前記B相信号とをそれぞれA相デジタル信号とB相デジタル信号に変換すると共に、前記センサ部から入力された前記Z相信号をZ相パルス信号に変換し、変換した前記A相デジタル信号と前記B相デジタル信号と前記Z相パルス信号とを出力する信号変換部を含み、
前記内挿値は、前記Z相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングにおける前記A相デジタル信号の値と前記B相デジタル信号の値とを引数とする逆正接であ
ること、
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械、及び工作機械における位相とアラームを発生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の歯を有するAB相歯車と、一周に一か所の切欠きのあるZ相円板とを組み合わせた磁性体で構成された回転体11を回転軸61に取付け、磁気抵抗素子及びバイアスマグネットからなるセンサ部12によってAB相歯車、Z相円板からの磁束変化を電気信号として検出し、データ処理部120で回転軸61の回転位置や回転速度を検出する回転位置検出器110が用いられている(
図6参照)。また、このような検出器は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
このような従来技術の回転位置検出器110では、Z相信号は、回転体が一回転する間に1つのパルス信号のみが出力されるので、Z相パルス信号の立ち上がりエッジから次の立ち上がりエッジまでの間、A相パルス信号とB相パルス信号の変化によって、アップ又はダウンカウントするアップダウンカウンタの値をラッチし、これにより回転軸の一回転内のアブソリュート回転位置を特定できる。
【0004】
この方法の場合、Z相パルス信号の立ち上がりエッジとA相、B相パルス信号の立ち上がりがクロスしてしまう場合があり、一回転内のアブソリュート位置を特定するためのラッチしたカウント値が不安定になってしまうことがある。
【0005】
また、Z相パルス信号がハイレベル、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルの3つの条件が揃った時にアップダウンカウンタをクリアして次のアップダウンカウントを行うようにした回転位置検出器も用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、
図6に示す従来技術の回転位置検出器では、センサ部12が不適切な状態で設置され、更に温度変化や回転軸の荷重変化等でZ相パルス信号、A相パルス信号、B相パルス信号等の出力レベルが変動するような場合に、A相、B相のパルス信号と、Z相のパルス信号との位相が所定の位相関係からずれ、パルス数のカウントが不安定になることがある。このような場合、大きな速度変動の発生やZ相信号とアップダウンカウント値との位相関係が所定の関係からある程度以上ずれることを検知してアラームを出すことが行われる。
【0008】
しかし、設置直後にアラームを出力する場合は問題は少ないが、製品出荷後や故障センサを交換してから、数日経過してからアラームが発生することも想定されるため、課題となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、簡便な構成で、A相信号のゼロクロス位置又はB相信号のゼロクロス位置とZ相信号との位相関係を算出可能とすることでセンサ部設置直後に不適切設置を検知可能な回転位置検出器を提供することを目的とする。また、本発明は、適切にアラームを発生させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の工作機械は、回転位置検出器と、数値制御装置とを含む工作機械であって、
前記回転位置検出器は、回転軸に取付けられた被検出体と、前記被検出体の回転位置に応じて正弦波状に変化するA相信号と、前記被検出体の回転位置に応じて正弦波状に変化し、前記A相信号に対して位相が90度異なるB相信号と、前記被検出体が1回転するごとに1回出力されるパルス状のZ相信号と、を出力するセンサ部と、前記A相信号と前記B相信号と前記Z相信号とに基づいて前記回転軸の回転位置を算出するデータ処理部と、を備える回転位置検出器であって、前記データ処理部は、前記Z相信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングにおける前記A相信号の値と前記B相信号の値とを引数とする逆正接である内挿値を算出し、前記数値制御装置は、前記データ処理部から入力された前記内挿値に基づいてアラーム判定を行うZ相信号位相判定部を有し、前記Z相信号位相判定部は、前記内挿値が許容範囲内にない場合に、アラームを発生し、前記内挿値が許容範囲内にある場合に、前記内挿値と許容範囲の上限値との差、又は前記内挿値と許容範囲の下限値との差に基づいてアラーム発生に対する余裕位相角を算出すること、を特徴とする。
【0011】
これにより、簡便な構成でA相信号のゼロクロス位置又はB相信号のゼロクロス位置とZ相信号との位相関係を算出することができる。また、適切にアラームを発生させることができる。
【0012】
本発明の工作機械において、前記Z相信号位相判定部は、Z相パルスの立ち上がりタイミングにおける前記内挿値が0と3*π/2の間にない場合に、アラームを発生してもよい。
【0013】
本発明の工作機械において、前記データ処理部は、前記センサ部から入力された前記A相信号と前記B相信号とをそれぞれA相デジタル信号とB相デジタル信号に変換すると共に、前記センサ部から入力された前記Z相信号をZ相パルス信号に変換し、変換した前記A相デジタル信号と前記B相デジタル信号と前記Z相パルス信号を出力する信号変換部を含み、前記内挿値は、前記Z相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングにおける前記A相デジタル信号の値と前記B相デジタル信号の値とを引数とする逆正接でもよい。
【0014】
これにより、簡便な構成でB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングとの位相差を算出することができる。
【0015】
本発明の方法は、回転軸に取付けられた被検出体と、前記被検出体の回転位置に応じて正弦波状に変化するA相信号と、前記被検出体の回転位置に応じて正弦波状に変化し、前記A相信号に対して位相が90度異なるB相信号と、前記被検出体が1回転するごとに1回出力されるパルス状のZ相信号と、を出力するセンサ部と、前記A相信号と前記B相信号と前記Z相信号とに基づいて前記回転軸の回転位置を算出するデータ処理部と、を備える回転位置検出器と、数値制御装置と、を備える工作機械において、アラームを発生する方法であって、前記Z相信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングにおける前記A相信号の値と前記B相信号の値とを引数とする逆正接である内挿値を算出し、前記内挿値が許容範囲内にない場合に、アラームを発生し、前記内挿値が許容範囲内にある場合に、前記内挿値と許容範囲の上限値との差、又は前記内挿値と許容範囲の下限値との差に基づいてアラーム発生に対する余裕位相角を算出すること、を特徴とする。
【0016】
これにより、簡便にB相信号のゼロクロス位置とZ相信号との位相関係を算出し、算出値を数値制御装置側で、アラームとなる前に判定することが可能となる。また、適切にアラームを発生させることができる。
【0017】
本発明の方法において、Z相パルスの立ち上がりタイミングにおける前記内挿値が0と3*π/2の間にない場合に、アラームを発生してもよい。
【0018】
本発明の方法において、前記データ処理部が、前記センサ部から入力された前記A相信号と前記B相信号とをそれぞれA相デジタル信号とB相デジタル信号に変換すると共に、前記センサ部から入力された前記Z相信号をZ相パルス信号に変換し、変換した前記A相デジタル信号と前記B相デジタル信号と前記Z相パルス信号とを出力する信号変換部を含み、前記内挿値は、前記Z相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングにおける前記A相デジタル信号の値と前記B相デジタル信号の値とを引数とする逆正接でもよい。
【0019】
これにより、Z相信号をAD変換するZ相AD変換器を備えない回転位置検出器でも、簡便にB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングとの位相差を算出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、簡便な構成で、A相信号のゼロクロス位置又はB相信号のゼロクロス位置とZ相信号との位相関係を算出することにより、センサ部の不適切な設置状態等を検知可能な回転位置検出器を提供できる。また、本発明は、適切にアラームを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態の回転位置検出器の構成を示す系統図である。
【
図2】実施形態の回転位置検出器のセンサ部と回転体の構成を示す斜視図である。
【
図3】回転体が正方向に回転した際のセンサ部から出力されるA相アナログ信号と、B相アナログ信号と、Z相アナログ信号と示すグラフであって、パルス状のZ相アナログ信号が出力される時刻の近傍におけるA相アナログ信号とB相アナログ信号との時間変化を示すグラフ(上側のグラフ)と、コンパレータから出力されるA相パルス信号と、B相パルス信号と、Z相パルス信号との時間変化を示すグラフ(下側のグラフ)である。
【
図4】
図3に示すA相アナログ信号とB相アナログ信号とをAD変換器で変換したA相デジタル信号と、B相デジタル信号との電気角に対する波形の変化を示すグラフ(上側のグラフ)と、コンパレータから出力されるA相パルス信号と、B相パルス信号と、Z相パルス信号の電気角に対する波形の変化を示すグラフ(下側のグラフ)である。
【
図5】回転体が逆方向に回転した際のコンパレータから出力されるA相パルス信号と、B相パルス信号と、Z相パルス信号の電気角に対する波形の変化を示すグラフである。
【
図6】比較例の従来技術の回転位置検出器の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、実施形態の回転位置検出器10について説明する。
図1に示すように、回転位置検出器10は、工作機械60の回転軸61に取付けられる被検出体である回転体11と、回転体11に隣接して配置されたセンサ部12と、データ処理部20とを含んでいる。
【0023】
図2に示すように回転体11は多数の歯で構成されるAB相歯車11aと、一周に一か所切欠きのあるZ相円板11bからなり、回転軸61に取付けられて回転軸61と共に回転する。回転体11は一般的に鉄などの磁性体で構成されている。センサ部12は、磁気抵抗素子およびバイアスマグネットから成り、回転体11が回転することによって、そのAB相歯車11aの歯とZ相円板11bの切欠きに基づいて発生する磁束変化をA相アナログ信号、B相アナログ信号、Z相アナログ信号の3つの電気信号として出力するものである。
【0024】
図3の上側のグラフに実線A1で示すように、A相アナログ信号は、回転体11の回転位置に応じて正弦波状に変化する信号である。また、一点鎖線B1で示すように、B相アナログ信号は、A相アナログ信号と同様、回転体11の回転位置に応じて正弦波状に変化し、A相アナログ信号に対して位相が90度異なる信号である。また、破線D1で示すように、Z相アナログ信号は、回転体11が1回転するごとに1回出力されるパルス状の信号である。
【0025】
図1に示すように、データ処理部20は、信号変換部30と、演算部40の2つの制御ブロックを含んでいる。信号変換部30は、AD変換器31と、コンパレータ32と、アップダウンカウンタ33の3つの制御ブロックを備えている。また、演算部40は内部に位相算出部41を備えている。
【0026】
AD変換器31は、センサ部12から入力されたA相アナログ信号と、B相アナログ信号とをAD変換して
図4の上側のグラフに実線A2で示すA相デジタル信号と、一点鎖線B2で示すB相デジタル信号とを演算部40並びに位相算出部41に出力する。
【0027】
コンパレータ32は、センサ部12から入力されたA相アナログ信号、B相アナログ信号、Z相アナログ信号の各電圧値と、
図3の上側のグラフで2.5Vとして示す基準電圧とを比較し、各信号の電圧値が基準電圧を越えた場合にはハイレベル信号を出力し、各信号の電圧値が基準電圧以下の場合には、ローレベル信号を出力することにより、A相アナログ信号、B相アナログ信号、Z相アナログ信号を
図3の下側のグラフに実線PA0で示すA相パルス信号、一点鎖線PB0で示すB相パルス信号、破線PD0で示すZ相パルス信号に変換してアップダウンカウンタ33に出力するものである。
【0028】
アップダウンカウンタ33は、コンパレータ32から入力されたA相パルス信号、B相パルス信号、Z相パルス信号の変化に基づいて、アップダウンカウンタ33をアップ又はダウンカウントし、演算部40に出力する。
【0029】
演算部40は、AD変換器31から入力されたA相デジタル信号と、B相デジタル信号と、アップダウンカウンタ33から入力されたアップ又はダウンカウント値と、工作機械60の数値制御装置50のサーボデータファイル51から入力された回転体11のAB相歯車11aの歯数と、に基づいて回転軸61の回転位置、回転速度を算出し、工作機械60の数値制御装置50に出力する。また、演算部40は、Z相位相値、電源投入後にZ相パルス信号の入力有無に基づいたインクレメント信号、及び、アブソリュート信号を数値制御装置50に出力する。
【0030】
数値制御装置50は、位置/速度制御部52と、Z相信号位相判定部55と、シーケンス制御部54とを備えている。位置/速度制御部52は、演算部40から入力された回転位置、回転速度に基づいて工作機械60の回転軸61の駆動モータ62の位置/速度の制御を行う。シーケンス制御部54は、演算部40から入力されたインクレメント信号、アブソリュート信号に基づいて、駆動モータ62の2つの制御モード(インクレ座標系とアブソ座標系)の選択をするシーケンス制御を行う。また、Z相信号位相判定部55は、演算部40から入力されたZ相信号の位相値に基づいてアラーム判定等を行う。
【0031】
以上説明した回転位置検出器10のデータ処理部20、信号変換部30、演算部40、AD変換器31、コンパレータ32、アップダウンカウンタ33、位相算出部41の各制御ブロックは、内部に情報処理を行うプロセッサであるCPUと、動作プログラムや動作データを記憶するメモリと、A相デジタル信号、B相デジタル信号、Z相デジタル信号のパルス変化タイミングの時刻を検出するタイマーと、を含むコンピュータのCPUが所定のプログラムを実行することによって実現される。
【0032】
次に回転位置検出器10の動作について説明する。
図1に示す回転軸61を正方向に回転させた場合、先に説明したように、センサ部12からは、
図3の上のグラフに実線A1で示すA相アナログ信号と、一点鎖線B1で示すB相アナログ信号と、破線D1で示すZ相アナログ信号とが出力される。A相アナログ信号、B相アナログ信号、Z相アナログ信号はコンパレータ32に入力され、コンパレータ32は、
図3の下のグラフに実線PA0で示すA相パルス信号と、一点鎖線PB0で示すB相パルス信号と、破線PD0で示すZ相パルス信号とを出力する。
【0033】
図3の上側のグラフに実線A1で示すA相アナログ信号の電圧は、時刻tA0で基準電圧の2.5V以下の状態から基準電圧の2.5Vを超える状態となる。この時、
図3の下側のグラフに実線PA0で示すA相パルス信号は、ローレベルからハイレベルに立ち上がる。また、A相アナログ信号の電圧は、時刻tA1で基準電圧の2.5Vを越える状態から基準電圧の2.5V以下の状態となる。この時、A相パルス信号は、ハイレベルからローレベルに立ち下がる。このように、A相アナログ信号が基準電圧の2.5V以下の状態から基準電圧の2.5Vを超える状態になること、或いは、基準電圧の2.5Vを越える状態から基準電圧の2.5V以下の状態となることをアナログ信号のゼロクロスという。また、A相パルス信号がローレベルからハイレベルに立ち上がる時刻をA相パルス信号の立ち上がりタイミングといい、A相パルス信号がハイレベルからローレベルに立ち下がる時刻をA相パルス信号の立下りタイミングという。
【0034】
従って、
図3に示す時刻tA0、tA1、tA2、tA3、tA4はA相アナログ信号のゼロクロスタイミングとなる。また、時刻tA0、tA2、tA4はA相パルス信号の立ち上がりタイミングとなり、時刻tA1,tA3はA相パルス信号の立下りタイミングとなる。
【0035】
同様に、時刻tB0、tB1、tB2、tB3はB相アナログ信号のゼロクロスタイミングとなる。また、時刻tB0、tB2はB相パルス信号の立ち上がりタイミングとなり、時刻tB1,tB3はB相パルス信号の立下りタイミングとなる。同様に、時刻tD0、tD1はZ相アナログ信号のゼロクロスタイミングである。また、時刻tD0はZ相パルス信号の立ち上がりタイミングであり、時刻tD1はZ相パルス信号の立下りタイミングである。
【0036】
実施形態の回転位置検出器10は、Z相パルス信号がハイレベル、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルの3つの条件が揃った時にアップダウンカウンタ33は、アップダウンカウントをクリアして次のアップダウンカウントに進むように構成されている。
図3の下側のグラフに示すように、Z相パルス信号は、時刻tD0~時刻tD1の間にハイレベルとなる。この間で、B相パルス信号は時刻tB1~時刻tB2の間ローレベルとなる。そうすると、時刻tB1と時刻tB2の間でA相パルス信号がローレベルからハイレベルに立ち上がる時刻tA2にZ相パルス信号がハイレベル、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルの3つの条件が揃うので、アップダウンカウンタ33は、
図3の下側のグラフに斜線のハッチングで示す時刻tA2の直ぐ後でアップダウンカウントをクリアして、次のアップダウンカウントに進む。
【0037】
ここで、何らかの要因により、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングが時刻tD0からずれた場合を考える。例えば、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングが時刻tD0よりも早くなり、時刻tB0よりも前になった場合を考える。この場合、
図3にクロスハッチングで示す時刻tA0と時刻tB0との間では、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルとなっているので、Z相パルス信号が立ち上がった際にZ相パルス信号がハイレベル、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルの3つの条件が揃い、アップダウンカウンタ33がアップダウンカウントをクリアしてしまう。この場合、先に説明した正常状態ではカウントする時刻tB0~時刻tB1の間のB相パルス信号をカウントせずにアップダウンカウントをクリアしてしまうので正常状態よりもB相パルス信号を1パルス少なくカウントしてしまう。
【0038】
また、反対にZ相パルス信号の立下りタイミングが時刻tD0よりも遅くなり、時刻tA2よりも遅くなった場合を考える。この場合、時刻tA2の後では、B相パルス信号がローレベル、A相パルス信号がハイレベルとなっているので、Z相パルス信号が立ち上がった際にZ相パルス信号がハイレベル、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルの3つの条件が揃い、アップダウンカウンタ33がアップダウンカウントをクリアする。そうすると、正常な場合には、カウントされない時刻tA2から時刻tA3の間のA相バルス信号のパルスがカウントされてしまうので、正常状態よりもA相パルス信号のカウント数が1つ多くなってしまう。
【0039】
また、Z相パルス信号の立下りタイミングが時刻tD1よりも遅くなり、時刻tA4よりも遅くなった場合を考える。この場合、時刻tA4の後では、B相パルス信号がローレベル、Z相パルス信号がハイレベルとなっているので、時刻tA4にA相パルス信号が立ち上がった際にZ相パルス信号がハイレベル、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルの3つの条件が揃い、アップダウンカウンタ33がアップダウンカウントを再度クリアしてしまう。そうすると、一度カウントした時刻tB2~時刻tB3の間のB相パルス信号のカウントがクリアされて次のカウントが開始されるので正常状態よりもB相パルス信号のカウント数が1つ少なくなってしまう。
【0040】
また、Z相のパルス信号の立下りのタイミングが時刻tA2よりも早くなると、Z相パルス信号がハイレベル、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルの3つの条件が揃うタイミングがなくなってしまい、アップダウンカウントをクリアできなくなってしまう。
【0041】
以上のことから、Z相パルス信号は、
図3の下のグラフに示す時刻tB0~時刻tA2の間の時間Δt1で立ち上がり、時刻tA2~時刻tA4の間の時間Δt2で立ち下がるような位相となっていることが必要となる。
【0042】
そこで、実施形態の回転位置検出器10では、位相算出部41において、以下に説明するようにA相信号のゼロクロス位置又はB相信号のゼロクロス位置とZ相信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングとの位相差を算出し出力する。
【0043】
位相算出部41には、先に
図3を参照して説明したA相アナログ信号、B相アナログ信号をAD変換器31でデジタル信号に変換した
図4の上側のグラフに実線A2、一点鎖線B2でそれぞれ示すA相デジタル信号とB相デジタル信号とが入力される。ここで、A相デジタル信号とB相デジタル信号とは、値が1と-1との間で変化する正弦波状の信号である。また、位相算出部41には、コンパレータ32から
図3を参照して説明したA相パルス信号、B相パルス信号、Z相パルス信号が入力される。なお、AD変換器31は、Z相アナログ信号をAD変換しないので、位相算出部41には、Z相デジタル信号は入力されない。
【0044】
位相算出部41は、
図4の上側のグラフに示すように、A相デジタル信号とB相デジタル信号とをAB相歯車11aの1歯分の一周期Tを電気角2π(360度)とする単位がラジアンの電気角φに対する変化量として取り扱う。同様に、
図4の下側のグラフに示すように、A相パルス信号、B相パルス信号、Z相パルス信号もAB相歯車11aの1歯分を電気角2π(360度)とする電気角φに対する変化量として取り扱う。
【0045】
図3に示す時刻tA0~tA4、時刻tB0~tB3、時刻tD0、時刻tD1はそれぞれ
図4に示す電気角φA0~φA4、電気角φB0~φB3、電気角φD0、電気角φD1に対応する。
【0046】
従って、
図4に示す電気角φA0、φA1、φA2、φA3、φA4はA相デジタル信号のゼロクロス位置となる。また、電気角φA0、φA2、φA4はA相パルス信号の立ち上がりタイミングとなり、電気角φA1,φA3はA相パルス信号の立下りタイミングとなる。
【0047】
同様に、電気角φB0、φB1、φB2、φB3はB相デジタル信号のゼロクロス位置となる。また、電気角φB0、φB2はB相パルス信号の立ち上がりタイミングとなり、電気角φB1,φB3はB相パルス信号の立下りタイミングとなる。同様に、電気角φD0はZ相パルス信号の立ち上がりタイミングであり、電気角φD1はZ相パルス信号の立下りタイミングである。また、Z相パルス信号は、
図4の下のグラフに示す電気角φB0~電気角φA2の間の電気角Δφ1で立ち上がり、電気角φA2~電気角φA4の間の電気角Δφ2で立ち下がるような位相となっていることが必要となる。
【0048】
ここで、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミングである電気角φB1を基準にB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がりタイミングの判定、位相差の計算を行う場合について説明する。
【0049】
最初に、基準となる電気角φB1における内挿値をB相基準値として算出する。ここで、内挿値は、電気角φB1におけるA相デジタル信号の値とB相デジタル信号の値とを2つの引数とする逆正接として下記の(式1)として算出される。
【数1】
【0050】
ここで、
図4に示すように、電気角φB1におけるA相デジタル信号の値は-1、B相デジタル信号の値は0であるから、上記の(式1)は、下記の(式2)のようになる。
【数2】
【0051】
Atan2(x,y)は、正方向に向かうx軸と、原点(0,0)と2つの引数(x,y)をそれぞれx座標、y座標とする座標点(x,y)とを通る線との間のラジアン角度を算出する関数である。本実施形態では、Atan2(x,y)は0ラジアンから2πラジアンの範囲の数値を返す関数として説明する。従って、Atan(-1,0)は、正方向に向かうx軸と、座標点(-1,0)との間の角度であるπラジアン(180度)となる。
【0052】
同様に、電気角φD0で立ち上がるZ相パルス信号の立ち上がりタイミングにおける内挿値(φD0)は下記のように算出される。
【数3】
【0053】
また、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングの許容範囲の下限の電気角φB0と上限の電気角φA2における各内挿値(φB0)、内挿値(φA2)はそれぞれ次のように算出される。
【数4】
【数5】
【0054】
上記の(式3)~(式5)からZ相パルス信号の立ち上がりタイミングにおける内挿値(φD0)は、下記の(式6)の範囲となる。
【数6】
【0055】
ここで、一例として、Z相パルスの立ち上がりタイミングの電気角φD0が、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングの許容範囲の下限の電気角φB0と上限の電気角φA2との間の電気角φA1である場合を計算すると、
【数7】
となり、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングは(式6)に示す許容範囲内でとなっていると判定される。
【0056】
次に、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立ち上がりタイミングである電気角φB2を基準にB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立下りタイミングを判定する場合について説明する。
【0057】
最初に、基準となる電気角φB2における内挿値をB相基準値として以下の(式8)に示すように算出する。
【数8】
【0058】
同様に、電気角φD1で立ち下がるZ相パルス信号の立下りタイミングにおける内挿値(φD1)は下記のように算出される。
【数9】
【0059】
また、Z相パルス信号の立下りタイミングの許容範囲の下限の電気角φA2と上限の電気角φA4における各内挿値(φA2)、内挿値(φA4)はそれぞれ次のように算出される。
【数10】
【数11】
【0060】
上記の(式9)~(式11)からZ相パルス信号の立下りタイミングにおける内挿値(φD1)は、下記の(式12)の範囲となる。
【数12】
【0061】
ここで、一例として、Z相パルスの立ち上がりタイミングφD0が、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングの許容範囲の下限の電気角φA2と上限の電気角φA4との間の電気角φA3である場合を計算すると、
【数13】
となり、Z相パルス信号の立下りタイミングは(式12)に示す許容範囲内でとなっていると判定される。
【0062】
以上説明したように、(式6)又は(式12)を用いA相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングとの位相関係が所定の範囲になっているかどうかを判定することができる。また、(式6)、(式12)の上限値と下限値と内挿値(φD0)、内挿値(φD1)との差を計算することにより、アラーム発生に対する余裕位相角を算出することができる。
【0063】
また、内挿値(φD0)と電気角φB1における内挿値であるB相基準値との差を算出することにより、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミングと、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングの間の位相差を算出することができる。同様に、内挿値(φD1)と電気角φB2における内挿値であるB相基準値との差を算出することにより、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミングと、Z相パルス信号の立下りタイミングの間の位相差を算出することができる。
【0064】
なお、以上の説明では、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミング、立ち上がりタイミングと、Z相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングの位相差を算出することとして説明したが、同様に、A相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、A相パルス信号の立下りタイミング、立ち上がりタイミングとZ相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングの位相差を算出するようにしてもよい。
【0065】
次に、
図5を参照しながら
図1に示す回転軸61を逆方向に回転させた場合のZ相パルス信号の立ち上がり、立下りタイミングの判定について説明する。
【0066】
図1に示す回転軸61を逆方向に回転させた場合には、コンパレータ32からは
図5に実線PA2で示すようなA相パルス信号、一点鎖線PB2で示すようなB相パルス信号、破線PD2で示すようなZ相パルス信号が出力される。
図5に示す電気角φA5、φA6、φA7、φA8、φA9、φA10はA相デジタル信号のゼロクロス位置となる。回転方向が逆方向なので、電気角φA5、φA7、φA9はA相パルス信号の立下りタイミングとなり、電気角φA6,φA8、φA10はA相パルス信号の立ち上がりタイミングとなる。
【0067】
同様に、電気角φB5、φB6、φB7、φB8、φB9、φB10はB相デジタル信号のゼロクロス位置となり、電気角φB5、φB7、φB9はB相パルス信号の立下りタイミングとなり、電気角φB6,φB8、φB10はB相パルス信号の立ち上がりタイミングとなる。また、電気角φD2はZ相パルス信号の立ち上がりタイミングであり、電気角φD3はZ相パルス信号の立下りタイミングである。また、Z相パルス信号は、
図5に示す電気角φA5~電気角φB7の間の電気角Δφ3で立ち上がり、電気角φB7~電気角φB9の間の電気角Δφ4で立下がるような位相となっていることが必要となる。
【0068】
ここで、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミングである電気角φB7を基準にB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がりタイミングを判定する場合について説明する。
【0069】
この場合、先に説明した正方向の回転の場合と同様、
【数14】
【数15】
【0070】
また、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングの許容範囲の下限の電気角φA5と上限の電気角φB7における各内挿値(φA5)、内挿値(φB7)はそれぞれ次のように算出される。
【数16】
【数17】
【0071】
上記の(式15)~(式17)からZ相パルス信号の立ち上がりタイミングにおける内挿値(φD2)は、下記の(式18)の範囲となる。
【数18】
【0072】
次に、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立ち上がりタイミングである電気角φB8を基準にB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立下りタイミングを判定する場合について説明する。
【0073】
最初に、基準となる電気角φB2における内挿値をB相基準値として以下の(式19)に示すように算出する。
【数19】
【0074】
同様に、電気角φD3で立ち下がるZ相パルス信号の立下りタイミングにおける内挿値(φD3)は下記のように算出される。
【数20】
【0075】
また、Z相パルス信号の立下りタイミングの許容範囲の下限の電気角φB7と上限の電気角φB9における各内挿値(φB7)、内挿値(φB9)はそれぞれ次のように算出される。
【数21】
【数22】
【0076】
上記の(式19)~(式22)からZ相パルス信号の立下りタイミングにおける内挿値(φD3)は、下記の(式23)の範囲となる。
【数23】
【0077】
従って、(式18)、(式23)によってZ相パルス信号が所定の範囲にあるかどうかを判定できる。
【0078】
また、正方向の回転と同様、(式18)又は(式23)を用いA相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングとの位相関係が所定の範囲になっているかどうかを判定することができる。また、(式18)、(式23)の上限値と下限値と内挿値(φD2)、内挿値(φD3)との差を計算することにより、アラーム発生に対する余裕位相角を算出することができる。
【0079】
また、内挿値(φD2)と電気角φB7における内挿値であるB相基準値との差を算出することにより、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミングと、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングの間の位相差を算出することができる。同様に、内挿値(φD3)と電気角φB8における内挿値であるB相基準値との差を算出することにより、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミングと、Z相パルス信号の立下りタイミングの間の位相差を算出することができる。
【0080】
以上の説明では、回転位置検出器10は、Z相パルス信号がハイレベル、A相パルス信号がハイレベル、B相パルス信号がローレベルの3つの条件が揃った時にアップダウンカウンタ33は、アップダウンカウントをクリアして次のアップダウンカウントに進むように構成されているとして説明したが、これに限らない。例えば、
図3に示すB相パルス信号の立下りタイミングである時刻tB1から時刻tのマイナス方向に向かうZ相パルス信号の立ち上がりタイミングである時刻tD0までの時間t1を定義し、この時間t1を(式24)に示すように時間aと時間bとの間に限定することとしてもよい。
【数24】
この場合、先に説明した例のようにZ相パルス信号の立ち上がりタイミングを時刻tB0と時刻tA2との制限する場合、(式24)は、A相パルス信号、B相パルス信号の周期をTとして以下の(式25)のように表される。
【数25】
【0081】
先に説明した(式2)のように、B相基準値であるπと、Z相パルス信号の立ちあがりタイミングにおける内挿値(φD0)を用い、周期Tが電気角2πであること、及び、時間t1の増加方向と内挿値(φD0)の増加方向とが逆であることを考慮して、(式25)を電気角φに対応させると、下記の(式26)のようになる。
【数26】
これから、内挿値(φD0)の許容範囲は、先に説明した(式6)と同様、
【数27】
となる。
【0082】
ここで、時間t1の範囲を(式24)に示すようにa<t1<bとする場合、(式24)の範囲は電気角φの範囲として記載すると(式28)となる。
【数28】
そして、(式28)から内挿値(φD0)の範囲は下記の(式29)のようになる。
【数29】
(式29)の両辺に2πNを加えて一般化すると内挿値(φD0)の範囲は下記の(式30)のようになる。
【数30】
【0083】
また、
図3に示すB相パルス信号の立ち上がりタイミングである時刻tB2から時刻tのプラス方向に向かうZ相パルス信号の立下りタイミングである時刻tD1までの時間t2を定義し、この時間t2を(式31)に示すように時間cと時間dとの間に限定してもよい。
【数31】
【0084】
この場合、電気角φB2における内挿値は(式8)に示すように0となることから、内挿値(φD1)の範囲を電気角φで表現すると、以下の(式32)のようになる。
【数32】
そして、(式30)と同様に一般化すると、
【数33】
となる。
【0085】
以上のことから、(式30)又は(式33)を用いA相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相デジタル信号のゼロクロス位置と、Z相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングとの位相関係が所定の範囲になっているかどうかを判定することができる。また、(式30)、(式33)の上限値と下限値と各内挿値(φD0)、内挿値(φD1)との差を計算することにより、アラーム発生に対する余裕位相角を算出することができる。
【0086】
また、内挿値(φD0)と電気角φB1における内挿値であるB相基準値との差を算出することにより、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミングと、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングの間の位相差を算出することができる。同様に、内挿値(φD1)と電気角φB2における内挿値であるB相基準値との差を算出することにより、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミングと、Z相パルス信号の立下りタイミングの間の位相差を算出することができる。
【0087】
なお、以上の説明では、B相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、B相パルス信号の立下りタイミング、立ち上がりタイミングとZ相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングの位相差を算出することとして説明したが、同様に、A相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、A相パルス信号の立下りタイミング、立ち上がりタイミングとZ相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングの位相差を算出するようにしてもよい。
【0088】
なお、A相デジタル信号、B相デジタル信号に代えて、A相アナログ信号、B相アナログ信号を電気角φに対して変化する信号に変換し、この信号を用いて、A相、B相アナログ信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングの位相差を算出するようにしてもよい。
【0089】
以上の説明では、内挿値を用いてA相又はB相デジタル信号のゼロクロス位置、或いは、A相又はB相パルス信号の立下りタイミング、立ち上がりタイミングと、Z相パルス信号の立ち上がり又は立下りタイミングの位相差を算出することとして説明したがこれに限らず、以下に説明するように、回転軸61を等速回転させた状態で、A相デジタル信号のゼロクロス位置又はB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングと間の時間を計測し、計測した時間とA相デジタル信号又はB相デジタル信号の周期Tとの割合に基づいて、A相デジタル信号のゼロクロス位置又はB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングとの位相差を算出してもよい。
【0090】
例えば、
図1に示す位相算出部41は、B相デジタル信号のゼロクロスタイミング、或いは
図3に示すB相パルス信号の立下りタイミングの時刻tB1と、Z相パルス信号の立ち上がりタイミングの時刻tD0とを検出し、検出した時間差Δtu=tB1-tD0と、周期T=2πとの割合から位相差Δφu=(Δtu/T)*2πで位相差を検出してもよい。また、同様に、B相デジタル信号のゼロクロスタイミング、或いは
図3に示すB相パルス信号の立ち上がりタイミングの時刻tB2と、Z相パルス信号の立下りタイミングの時刻tD1とを検出し、検出した時間差Δtd=tD1-tB2と、周期T=2πとの割合から位相差Δφd=(Δtd/T)*2πで位相差を検出してもよい。
【0091】
以上、説明した回転位置検出器10は、Z相信号をAD変換するZ相AD変換器を備える必要がなく、簡便な構成でA相デジタル信号のゼロクロス位置又はB相デジタル信号のゼロクロス位置とZ相パルス信号の立ち上がりまたは立下りのタイミングとの位相差を算出することができる。
【符号の説明】
【0092】
10,110 回転位置検出器、11 回転体、11a AB相歯車、11b Z相円板、12 センサ部、20,120 データ処理部、30,130 信号変換部、31,131 AD変換器、32 コンパレータ、33 アップダウンカウンタ、40,140 演算部、41 位相算出部、50 数値制御装置、51 サーボデータファイル、52 位置/速度制御部、53 アラーム検出部、54 シーケンス制御部、55 Z相信号位相判定部、60 工作機械、61 回転軸、62 駆動モータ。