(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】水中呼吸器具
(51)【国際特許分類】
B63C 11/20 20060101AFI20241206BHJP
【FI】
B63C11/20
(21)【出願番号】P 2024174111
(22)【出願日】2024-10-03
【審査請求日】2024-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511180662
【氏名又は名称】大西 勝人
(74)【代理人】
【識別番号】100174780
【氏名又は名称】小野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝人
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-129896(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0069960(KR,A)
【文献】特公昭24-1550(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/12
B63C 11/18 ー 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
前記第1給気機構および前記第2給気機構はそれぞれ、ピストンおよびシリンダを備え、
前記シリンダは、筒体と、当該筒体内の空気を前記吸気ホースに流すための吐出口が形成されたヘッドと、を備え、
前記第1給気機構および前記第2給気機構は、その長手方向が前記筐体の前記長手軸に沿い、前記吐出口が上方となる姿勢で配置され、
前記シリンダの前記ヘッドは前記筐体に対して移動不能に固定され、
前記シリンダの筒体は、前記ヘッドの下方に、前記ピストンの前進/後退移動に伴って前記ヘッドに対して近接/離間するように前記筐体に支持され、
前記シリンダは、前記筒体が前記ヘッドに最も近接したときに前記筒体の内部と外部空間とが連通せず、前記筒体が前記ヘッドから最も離間したときに前記筒体の内部と外部空間とが連通するよう構成され、
前記第1力作用手段は、前記第1給気機構の前記ピストンを後退移動させる力を作用させる引き紐である請求項1記載の水中呼吸器具。
【請求項3】
前記第2力作用手段は、前記第2給気機構の前記ピストンに下方への引張力を作用させる弾性部材であり、
前記変位力伝達手段は、
前記第1給気機構の前記ピストンの下端部と前記第2給気機構の前記ピストンの下端部とを結ぶ線状部材と、
最も上昇した前記ピストンの下端よりも上方に前記筐体に対して移動不能に設けられ、その上方に前記線状部材を架け渡す架け渡し部材と、を備える請求項2記載の水中呼吸器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中での呼吸を行うための水中呼吸器具、特に、酸素ボンベを用いない水中呼吸器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中で呼吸を行うための器具として、シュノーケルやアクアラング(登録商標)のような酸素ボンベを用いたものが知られている。しかしながら、シュノーケルを用いた場合には、シュノーケルの先端が水面よりも上にある状態でしか呼吸ができないため、深く潜ることができない。一方、酸素ボンベを用いた器具ではシュノーケルのような制約はないが、器具が高価であったり、トレーニング等が必要であったりするため、容易に使用することができない。
【0003】
このような課題を解決するために、本発明の発明者は特許文献1のダイビング用の呼吸器具を考案した。この呼吸器具は、空気吸入管を水上に浮遊する本体部に貫通支持させ、空気吸入管の先端にシュノーケルのマウスピース部分を取り付けている。このような構造によって、使用者は吸気吸入管の長さの分だけ水中に潜ることができる。
【0004】
しかしながら、このような呼吸器具を用いて深く潜水した場合には、水圧のために呼吸ができないという問題がある。そのような課題を解決するために、呼吸器具にポンプを設けることが提案されている。例えば、特許文献2には、浮きに取り付けた小型のエアコンプレッサーによって空気を供給する道具が開示されている。また、特許文献3~5には、使用者の力によって作動するポンプを備えた器具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案登録第3170906号公報
【文献】特開2006-256590号公報
【文献】特表平1-503696号公報
【文献】実開昭55-047471号公報
【文献】特開昭57-501371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2~5の技術を用いれば、ポンプによって空気が供給されるため、使用者は水圧に対抗して呼吸をすることが可能となる。しかしながら、特許文献2の技術では電気駆動のエアコンプレッサーを用いるため、器具が高価になることに課題が残ってしまう。また、特許文献3から5の技術では、使用者の力で作用するポンプを用いているため、比較的安価であり、使用方法も容易である。しかしながら、1回の操作で十分な空気を供給するためには、ポンプのストロークを大きくしたり、シリンダポンプの場合にはシリンダの径を大きくしたりする必要があるため、器具が大型化するおそれがある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンパクトで容易に使用できる水中呼吸器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る、水中呼吸器具は、水中の使用者に空気を送る吸気ホースと、長手軸を有する筐体と、前記筐体に内包され、前記吸気ホースに前記空気を供給する第1給気機構および第2給気機構と、を備え、前記筐体の底部に、前記吸気ホースを挿通する挿通孔が形成され、前記筐体の底部には、前記筐体をその前記長手軸が略鉛直方法に沿う姿勢となるように水面に浮遊させる錘が備えられ、前記第1給気機構および前記第2給気機構は、吐出する前記空気をその内部に取り込む吸気姿勢と、内部に取り込んだ前記空気を吐出する吐出姿勢と、への変位を繰り返すことによって前記空気を前記吸気ホースに供給し、前記使用者からの力を、前記第1給気機構に対して前記吐出姿勢から前記吸気姿勢に変位させる力として作用させる第1力作用手段と、前記第2給気機構に対して前記吸気姿勢に維持する力として作用させる第2力作用手段と、前記第1給気機構および前記第2給気機構の一方が前記吐出姿勢から前記吸気姿勢に変位する力を、前記第1給気機構および前記第2給気機構の他方に対して前記吸気姿勢から前記吐出姿勢に変位させる力として伝達する変位力伝達手段と、を備えている。
【0009】
この構成によれば、使用者が第1力作用手段に対して力を加えることによって、第1給気機構は吐出姿勢から吸気姿勢に変位してゆく。一方、第2給気機構は、変位力伝達手段によって第1給気機構の姿勢が変位する力が伝達され、吸気姿勢から吐出姿勢に変位する。これにより、第2給気機構から吸気ホースに空気が吐出される。その後、使用者が第1力作用手段に対する力を開放すると、第2給気機構は第2力作用手段からの力によって、吐出姿勢から吸気姿勢へと変位する。この変位の力は変位力伝達手段によって第1給気機構に伝達され、第1給気機構は吸気姿勢から吐出姿勢へと変位する。これにより、第1給気機構から吸気ホースに空気が吐出される。このように、本発明に係る水中呼吸器具では、1回の操作(第1力作用手段に対する力を加える動作)によって、第1給気機構および第2給気機構からの空気の供給を行うことができる。そのため、単一の吸気機構を備える場合に比べて、コンパクトな構成とすることができる。また、第1力作用手段に対して力を加えるという容易な動作で操作することができる。
【0010】
本発明に係る水中呼吸器具の好適な実施形態の一つでは、前記第1給気機構および前記第2給気機構はそれぞれ、ピストンおよびシリンダを備え、前記シリンダは、筒体と、当該筒体内の空気を前記吸気ホースに流すための吐出口が形成されたヘッドと、を備え、前記第1給気機構および前記第2給気機構は、その長手方向が前記筐体の前記長手軸に沿い、前記吐出口が上方となる姿勢で配置され、前記シリンダの前記ヘッドは前記筐体に対して移動不能に固定され、前記シリンダの筒体は、前記ヘッドの下方に、前記ピストンの前進/後退移動に伴って前記ヘッドに対して近接/離間するように前記筐体に支持され、前記シリンダは、前記筒体が前記ヘッドに最も近接したときに前記筒体の内部と外部空間とが連通せず、前記筒体が前記ヘッドから最も離間したときに前記筒体の内部と外部空間とが連通するよう構成され、前記第1力作用手段は、前記第1給気機構の前記ピストンを後退移動させる力を作用させる引き紐である。
【0011】
この構成では、使用者が引き紐を引くことにより、第1給気機構を吐出姿勢から吸気姿勢に変位させ、引き紐を引く力を緩めることにより、第2給気機構を吸気姿勢から吐出姿勢へと変位させることができる。したがって、使用者は水中呼吸器具を容易に操作することができる。
【0012】
本発明に係る水中呼吸器具の好適な実施形態の一つでは、前記第2力作用手段は、前記第2給気機構の前記ピストンに下方への引張力を作用させる弾性部材であり、前記変位力伝達手段は、前記第1給気機構の前記ピストンの下端部と前記第2給気機構の前記ピストンの下端部とを結ぶ線状部材と、最も上昇した前記ピストンの下端よりも上方に前記筐体に対して移動不能に設けられ、その上方に前記線状部材を架け渡す架け渡し部材と、を備えている。
【0013】
第2力作用手段や変位力伝達手段をこのような構成とすることにより、コンパクトな水中呼吸器具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】シリンダのヘッド近傍の縦断面図であり、(a)は筒体内部と外部空間とが連通していない状態を示す図であり、(b)は筒体内部と外部空間とが連通した状態を示す図である。
【
図4】水中呼吸器具の内部筐体の透視斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を用いて本発明に係る水中呼吸器具の実施形態を説明する。
図1は本実施形態における水中呼吸器具の概略図である。水中呼吸器具は、水面に浮遊する本体部Aと、本体部Aに接続された吸気ホースBと、吸気ホースBの端部に接続されたマウスピースCと、引き紐Dと、を備えている。吸気ホースBは、水中の使用者に対して本体部Aからの空気を送るためのものである。吸気ホースBは周知のものを使用することができ、柔軟性があり、耐水圧性があるものが好ましい。マウスピースCも周知のものを使用することができ、例えば、特許文献1に開示されているような排気弁を有するものが好ましい。引き紐Dは本体部Aに対して使用者からの外力(引張力)を作用させるためのものであり、詳細は後述する。
【0016】
次に、本実施形態における水中呼吸器具の本体部Aを説明する。
図2は本体部Aの縦断面図であるが、見やすくするために縦横比を変更している。
図2に示すように、本体部Aは、空気を吸気ホースBに供給するための第1給気機構1と第2給気機構2と、それらを外囲する筐体3と、を備えている。本実施形態では、筐体3は外部筐体31と、外部筐体31に外囲された内部筐体32と、を備えている。外部筐体31は筒状の筒状部31aと、筒状部31aの下方に設けられた略漏斗状の漏斗状部31bと、を備えている。漏斗状部31bの内部には錘31cが設けられている。この錘31cは、
図1に示すように、本体部Aを長手方向が略鉛直方向に沿う姿勢で水面Sに浮遊させるためのものである。そのため、錘31cの重さは、この目的を達成できるよう、本体部Aの重さや浮力等に基づいて定められる。また、漏斗状部31bおよび錘31cには吸気ホースBおよび引き紐Dを挿通するための挿通孔が形成されている。なお、外部筐体31の上方に、水を入りにくくするとともに空気の取り入れが可能なカバー(図示せず)を設けることが好ましい。
【0017】
内部筐体32は、筒状であり、外部筐体31に対して固定されている。具体的には、内部筐体32は錘31cの上面に載置固定されている。この内部筐体32の内部には、詳細は後述するが、第1給気機構1や第2給気機構2を保持するための固定部材5と規制部材6と複数の支持部材4とが設けられている(
図4参照)。
【0018】
第1給気機構1および第2給気機構2は同じ構成であるため、ここでは第1給気機構1についてのみ説明する。第1給気機構1はシリンダ11とピストン12とを備えており、ピストン12が前進(上昇)することにより、先端に設けられた吐出口13aから吸気ホースBに向けてシリンダ11の内部の空気を吐出するものであり、長手方向が本体部Aの長手方向に沿う姿勢で内部筐体32に外囲されている。また、第1給気機構1は、吐出口13aが上方に向けて開口するように設けられている。なお、本実施形態では、ピストン12のシリンダ11に対しての上昇および下降がそれぞれ本発明における前進および後退に相当する。また、ピストン12が上昇した状態および下降した状態が、本発明における吐出姿勢および吸気姿勢に相当する。
【0019】
本実施形態では、シリンダ11は筒体11aと筒体11aの上方に設けられたヘッド11bとを備えている。このヘッド11bの先端には略円筒状の凸部13が設けられており、凸部13の先端が吐出口13aとなっている。また、筒体11aとヘッド11bとは固定されているのではなく、筒体11aはヘッド11bに対して長手方向に近接/離間可能となっている。詳細は後述するが、筒体11aがヘッド11bに対して離間した際に、筒体11aの内部に空気が流入するようになっている。
【0020】
ピストン12は、シリンダ11の筒体11aの内部を長手方向に沿って摺動するピストンヘッド12aとピストンヘッド12aの下方に設けられた棒状のピストンロッド12bとを備えている。後述するように、ピストンロッド12bに加えられる力によってピストン12が進退移動する。ピストン12が前進/後退移動する際に、ピストンヘッド12aと筒体11aとの間の摩擦力のために筒体11aがともに移動することによって、筒体11aがヘッド11bに対して近接/離間する。
【0021】
図3は本実施形態におけるシリンダ11のヘッド11b近傍の縦断面である。
図3(a)は、筒体11aが下限まで下降し、ヘッド11bの内底面から離間した状態を表している。一方、
図3(b)は、筒体11aが上限まで上昇し、ヘッド11bの内底面に密接した状態を表している。図に示すように、筒体11aの上端部およびヘッド11bの下端部にはそれぞれ切り欠き14aおよび14bが形成されている。筒体11aが上限まで上昇した状態では、切り欠き14aと切り欠き14bとは連通しておらず、また、筒体11aの上端部はヘッド11bの内底面に密着している。そのため、一点鎖線矢印で表すように、ピストン12の前進(上昇)に伴って筒体11aの内部の空気は吐出口13aから吐出される。
【0022】
一方、筒体11aが下限まで下降し、筒体11aがヘッド11bの内底面から離間した状態では、切り欠き14aと切り欠き14bとは連通するため、この連通部分を介して筒体11aの内部と外部空間とが連通する。そのため、ピストン12が後退するにしたがって筒体11a内の気圧が低下し、一点鎖線矢印で表すように、切り欠き14aと切り欠き14bとを通って筒体11aの内部に空気が取り込まれる。
【0023】
本実施形態では、吸気ホースBの本体部A側の端部は2つに分岐しており、それぞれが第1給気機構1のヘッド11bおよび第2給気機構2のヘッド21bに接続されている。なお、後述するように、第1給気機構1と第2給気機構2とは、一方が空気を吐出する際には他方が給気するように動作するため、吸気ホースBの分岐部分にそれぞれ逆止弁b1,b2が設けられている。逆止弁b1,b2は第1給気機構1および第2給気機構2から吸気ホースBへの空気の流れを許容し、反対方向への空気の流れを遮断するものである。具体的には、第1給気機構1が空気を吐出する際には、逆止弁b1が「開」、逆止弁b2が「閉」となり、第1給気機構1からの空気は吸気ホースBにのみ流れる。一方、第2給気機構2が空気を吐出する際には、逆止弁b2が「開」、逆止弁b1が「閉」となり、第2給気機構2からの空気は吸気ホースBにのみ流れる。
【0024】
図4は本実施形態における内部筐体32の透過斜視図である。図に示すように、内部筐体32の内部には、シリンダ11の筒体11aおよびシリンダ21の筒体21aを長手方向に沿って保持する複数の支持部材4が固定されている。本実施形態における支持部材4は略円板状であり、筒体11aおよび筒体21aを挿通支持する2つの挿通孔41と、吸気ホースBを挿通する挿通孔42と、が形成されている。この挿通孔41の径は筒体11aおよび筒体21aの外径と略同一である。なお、筒体11aおよび筒体21aは挿通孔41に挿通されているだけで、固定されていない。そのため、筒体11aおよび筒体21aは姿勢を保ったまま、進退移動可能となっている。
【0025】
また、内部筐体32の上端近傍には固定部材5が固定されている。本実施形態における固定部材5は略円板状であり、凸部13および凸部23を挿通する2つの挿通孔51と、吸気ホースBを挿通する挿通孔52と、が形成されている。この挿通孔51の径は凸部13および凸部23の外径よりも大きく、吸気ホースBの分岐部分の先端が挿入できるようになっている。また、ヘッド11bおよびヘッド21bはこの固定部材5に対して固定されている。そのため、筒体11aおよび筒体21aが上昇し、それぞれがヘッド11bおよびヘッド21bに当接すると、それ以上の上昇(前進)が規制される。
【0026】
一方、内部筐体32の下端近傍には規制部材6が固定されている。具体的には、規制部材6はヘッド11bおよびヘッド21bに当接した状態の筒体11aおよび筒体21aの下端よりも若干下方に位置している。すなわち、筒体11aおよび筒体21aが最も上昇した状態では、その下端と規制部材6の上面との間には間隙が形成されている。本実施形態における規制部材6は略円板状であり、ピストンロッド12bおよびピストンロッド22bを挿通する2つの挿通孔61と、吸気ホースBを挿通する挿通孔62と、が形成されている。なお、本実施形態では、挿通孔62は規制部材6の中央ではなく、図面奥側の位置に形成されている。挿通孔61の径は、ピストンロッド12bおよびピストンロッド22bの径よりも大きいが、筒体11aおよび筒体21aの外径よりも小さくなっている。そのため、筒体11aおよび筒体21aが下降し、その下端が規制部材6の上面に当接すると、それ以上の下降(後退)が規制される。
【0027】
このように、固定部材5に固定されたヘッド11bおよびヘッド21bと、規制部材6とによって、筒体11aおよび筒体21aの上昇および下降が規制されるため、筒体11aおよび筒体21aは間隙の長さ分の進退移動が許容される。
【0028】
また、この規制部材6の中央には平面視矩形状の孔63が形成されており、この孔63にはプーリー64(本発明における架け渡し部材の例)が設けられている。このプーリー64は後述する線状部材7を架け渡し、線状部材7を滑らかに案内するためのものである。
【0029】
図2に示すように、本実施形態では、ピストンロッド12bの下端部とピストンロッド22bの下端部とは線状部材7で結ばれている。ピストンロッド12bの下端に一方の端部が固定された線状部材7は、下方から規制部材6の孔63に通され、プーリー64に上方から架け渡された後に孔63の下方へと延ばされて、ピストンロッド22bの下端にもう一方の端部が固定されている。なお、線状部材7はこの状態で弛みなく張られた状態となっている。これにより、一方のピストンの動きを他方のピストンへと伝達することができる。したがって、本実施形態ではプーリー64と線状部材7とが本発明の変位力伝達手段に相当する。なお、線状部材7は、弾性がなく、力を伝達しやすい丈夫なものが好ましい。
【0030】
また、
図2に示すように、ピストンロッド12bの下端には引き紐Dが接続されている。使用者がこの引き紐Dを引っ張ることにより、ピストン12を下方に引き下げることができる。すなわち、吐出姿勢にある第1給気機構1を吸気姿勢に変位させることができる。したがって、本実施形態ではこの引き紐Dが本発明の第1力作用手段に相当する。
【0031】
一方、ピストンロッド22bの下端は、弾性部材8によって錘31cと結ばれている。この弾性部材8はピストン22に対して下方への引張力を作用させるものである。すなわち、弾性部材8は第2給気機構2を吸気姿勢に維持する力を作用させるものである。したがって、本実施形態では弾性部材8が本発明の第2力作用手段に相当する。
【0032】
次に
図5を用いて水中呼吸器具の使用時の動作を説明する。
図5(a)は使用者からの外力が作用していない初期状態を表している。この状態では、ピストン22は弾性部材8によって下方に引き下げられた吸気姿勢となっている。このとき、ピストン22が下方に引き下げられた力が線状部材7とプーリー64とを伝って、ピストン12を上方に引き上げる力に変換される。これにより、第1給気機構1は吐出姿勢となっている。
【0033】
この状態の水中呼吸器具に対して、使用者が引き紐Dを下方に引っ張ると、ピストン12が下方に移動を開始する。このとき、ピストンヘッド12aと筒体11aの内壁との摩擦力によって筒体11aは規制部材6に当接するまで下方に移動し、筒体11aの上端がヘッド11bの内底面から離間する。これにより、
図3(a)に示すように、切り欠き14aと切り欠き14bとが連通する。一方、ピストン22は、線状部材7とプーリー64とを伝って、ピストン12が下方へ移動する力が伝達されて上方に移動する。ピストン22が上方に移動すると、ピストンヘッド22aと筒体21aの内壁との摩擦力によって筒体21aもヘッド21bの内底面に当接するまで上昇する。これにより、
図3(b)に示すように、切り欠き24aと切り欠き24bとが連通しなくなる。(
図5(b)参照)。
【0034】
この状態から、使用者がさらに引き紐Dを下方に引っ張ると、ピストン12がさらに下方に移動する。このとき、筒体11aは規制部材6によって下方への移動が規制される。ピストン12が下方に移動することにより筒体11aの内部の気圧が低下するため、切り欠き14aと切り欠き14bとの連通部を通って、筒体11aの内部に周辺の外部空間から空気が流入する。一方、ピストン22は、線状部材7とプーリー64とを伝って、ピストン12が下方へ移動する力が伝達されて、さらに上方に移動する。このとき、筒体21aはヘッド23aによって上方への移動が規制される。ピストン22が上昇することにより、吐出口23aから吸気ホースBに向けて空気が吐出される(
図5(c)参照)。このとき、弾性部材8は伸びた状態となっている。
【0035】
第2給気機構2が吐出姿勢に変位すると、使用者は引き紐Dを緩める。これにより、第1給気機構1に作用していた力がなくなるため、弾性部材8が縮み始め、ピストン22が下方に移動を開始する。このとき、ピストンヘッド22aと筒体21aの内壁との摩擦力によって筒体21aも規制部材6に当接するまで下方に移動し、筒体21aの上端がヘッド21bの内底面から離間する。これにより、
図3(a)に示すように、切り欠き24aと切り欠き24bとが連通する。一方、ピストン12は、線状部材7とプーリー64とを伝って、ピストン22が下方へ移動する力が伝達されて、上方に移動する。ピストン12が上方に移動すると、ピストンヘッド12aと筒体11aの内壁との摩擦力によって筒体11aもヘッド11bに当接するまで上昇する。これにより、
図3(b)に示すように、切り欠き14aと切り欠き14bとが連通しなくなる。(
図5(d)参照)。
【0036】
そして、この状態からさらに弾性部材8が縮むとピストン22がさらに下方に移動する。このとき、筒体21aは規制部材6によって下方への移動が規制される。ピストン22が下方に移動することにより、切り欠き24aと切り欠き24bとの連通部を通って、外部空間から空気が流入する。一方、ピストン12は、ピストン22が下方へ移動する力が伝達されて、さらに上方に移動する。このとき、筒体11aはヘッド11bによって上方への移動が規制される。ピストン12が上昇することにより筒体11aの内部の気圧が上昇し、吐出口13aから吸気ホースBに向けて空気が吐出される(
図5(a)参照)。
【0037】
この動作を繰り返すことにより、水中にいる使用者に空気が供給される。このように、本実施形態に係る水中呼吸器具では、引き紐Dを1回引くことにより第1給気機構1から空気が供給され、引き紐Dを引っ張る力を緩めることにより第2給気機構2から空気が供給される。
【0038】
なお、本発明に係る水中呼吸器具は、本実施形態における構成に限定されるものではなく、本発明の目的を達する限りにおいて適宜変更可能である。
【0039】
〔別実施形態〕
(1)ピストン12を吐出姿勢に維持する力を作用させる弾性部材を設けても構わない。
【0040】
(2)上述の実施形態では、第1給気機構1および第2給気機構2をシリンダとピストンで構成したが、これに代えて、外力で動作するポンプ等を用いても構わない。
【0041】
(3)上述の実施形態では、シリンダの筒体およびヘッドにそれぞれ切り欠きを形成することにより、筒体の内部と外部空間とを連通させ、シリンダの内部に空気を取り込む構成としたが、他の構成によってシリンダ内部に空気を取り込めるようにしても構わない。例えば、規制部材の位置をもう少し下方とすることにより、筒体の上端がヘッドの下端よりも下方まで後退できるようにしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る水中呼吸器具は、比較的浅い場所でのダイビングや水中作業等に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
A:本体部
B:吸気ホース
b1:逆止弁
b2:逆止弁
C:マウスピース
D:引き紐
S:水面
1:第1給気機構
11:シリンダ
11a:筒体
11b:ヘッド
12:ピストン
13a:吐出口
2:第2給気機構
21:シリンダ
21a:筒体
21b:ヘッド
22:ピストン
23a:吐出口
3:筐体
31:外部筐体
31c:錘
32:内部筐体
64:プーリー(変位力伝達手段)
7:線状部材(変位力伝達手段)
8:弾性部材(第2力作用手段)
【要約】
【課題】コンパクトで容易に使用できる水中呼吸器具を提供する。
【解決手段】水中呼吸器具は、吸気ホースに前記空気を供給する第1給気機構1および第2給気機構2と、を備えており、第1給気機構1および前記第2給気機構2は、吐出する空気をその内部に取り込む吸気姿勢と、内部に取り込んだ前記空気を吐出する吐出姿勢と、への変位を繰り返すことによって空気を吸気ホースに供給する。水中呼吸器具は、使用者からの力を、第1給気機構1に対して吐出姿勢から吸気姿勢に変位させる力として作用させる第1力作用手段Dと、第2給気機構2に対して吸気姿勢に維持する力として作用させる第2力作用手段8と、第1給気機構1および第2給気機構2の一方が吐出姿勢から吸気姿勢に変位する力を、第1給気機構1および第2給気機構2の他方に対して吸気姿勢から吐出姿勢に変位させる力として伝達する変位力伝達手段64,7と、を備えている。
【選択図】
図2