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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】劣化判別装置および劣化判別方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/024 20160101AFI20241206BHJP
【FI】
H02P29/024
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2024513635
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2022017236
(87)【国際公開番号】W WO2023195118
(87)【国際公開日】2023-10-12
【審査請求日】2024-05-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】皆川 和人
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-090868(JP,A)
【文献】特開2000-116167(JP,A)
【文献】特開2019-110735(JP,A)
【文献】特開2017-017889(JP,A)
【文献】特開2012-130162(JP,A)
【文献】特開2009-234767(JP,A)
【文献】特開2016-111734(JP,A)
【文献】国際公開第2021/044541(WO,A1)
【文献】特開2012-178957(JP,A)
【文献】特開2015-218919(JP,A)
【文献】特開2018-172994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P4/00
25/08-25/098
29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を覆う絶縁部材の温度を取得する温度取得部と、
対象期間ごとに、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度を増大させる補正を行って、補正を行った前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、補正された前記絶縁部材の温度に対応する前記耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定する損傷度決定部と、
前記対象期間ごとに決定された前記損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する判別部と、
を備える劣化判別装置。
【請求項2】
前記温度取得部は、鉄道車両に搭載される機器に用いられる前記導体を覆う前記絶縁部材の温度を取得する、
請求項1に記載の劣化判別装置。
【請求項3】
前記損傷度決定部は、前記鉄道車両の運転指令に応じて長さが変化する前記対象期間ごとに前記損傷度を決定する、
請求項に記載の劣化判別装置。
【請求項4】
鉄道車両に搭載される機器に用いられる導体を覆う絶縁部材の温度を取得する温度取得部と、
前記鉄道車両の運転指令に応じて長さが変化する対象期間ごとに、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度に対応する前記耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定する損傷度決定部と、
前記対象期間ごとに決定された前記損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する判別部と、
を備える劣化判別装置。
【請求項5】
前記判別部は、前記導体の使用開始時点から前記対象期間ごとに決定された前記損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の劣化判別装置。
【請求項6】
前記損傷度決定部は、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度に応じた前記耐用期間に対する前記対象期間の比率である前記損傷度を決定する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の劣化判別装置。
【請求項7】
前記対象期間は、前記導体の熱時定数に比べて短い時間である、
請求項に記載の劣化判別装置。
【請求項8】
前記絶縁部材の温度と前記耐用期間との関係は、前記温度が高くなると前記耐用期間が短くなる関係を示す、
請求項1から4のいずれか1項に記載の劣化判別装置。
【請求項9】
前記温度取得部は、前記導体の温度を取得し、取得した前記導体の温度を前記絶縁部材の温度として用いる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の劣化判別装置。
【請求項10】
前記温度取得部は、前記導体に流れる電流および前記導体の電位から前記導体の抵抗値を推定し、推定した前記抵抗値から前記導体の温度を推定し、推定した前記導体の温度を前記絶縁部材の温度として用いる、
請求項に記載の劣化判別装置。
【請求項11】
前記温度取得部は、異なるタイミングで得た前記絶縁部材の温度の移動平均値を算出し、前記移動平均値を前記絶縁部材の温度として用いる、
請求項に記載の劣化判別装置。
【請求項12】
前記損傷度決定部は、前記対象期間ごとに、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度を増大させる補正を行って、補正を行った前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記耐用期間との関係から、前記損傷度を決定する、
請求項に記載の劣化判別装置。
【請求項13】
前記損傷度決定部は、前記機器の稼働状況に応じて長さが変化する前記対象期間ごとに前記損傷度を決定する、
請求項2から4および12のいずれか1項に記載の劣化判別装置。
【請求項14】
前記温度取得部は、前記鉄道車両に搭載され、前記鉄道車両の推進力を生じさせる複数の電動機がそれぞれ有する前記導体を覆う前記絶縁部材の温度を取得し、
前記損傷度決定部は、前記電動機の異常の有無に応じて長さが変化する前記対象期間ごとに前記損傷度を決定する、
請求項2から4および12のいずれか1項に記載の劣化判別装置。
【請求項15】
導体を覆う絶縁部材の温度を取得し、
対象期間ごとに、取得した前記絶縁部材の温度を増大させる補正を行って、補正を行った前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、補正された前記絶縁部材の温度に対応する前記耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定し、
前記対象期間ごとに決定された前記損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する、
劣化判別方法。
【請求項16】
鉄道車両に搭載される機器に用いられる導体を覆う絶縁部材の温度を取得し、
前記鉄道車両の運転指令に応じて長さが変化する対象期間ごとに、取得した前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、取得された前記絶縁部材の温度に対応する前記耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定し、
前記対象期間ごとに決定された前記損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する、
劣化判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、劣化判別装置および劣化判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、回転子鉄心および回転子鉄心に形成されるスロットに挿入される回転子導体または永久磁石を有する回転子と、固定子鉄心および固定子鉄心に形成されるスロットに挿入される固定子コイルを有する固定子と、を備える。電動機はさらに、固定子鉄心と固定子コイルとを絶縁する絶縁部材を備える。絶縁部材が劣化すると電動機の内部での短絡、電動機の外部への地絡等が生じる可能性があるため、絶縁部材の劣化の程度を定期的に確認することが好ましい。
【0003】
鉄道車両に搭載される電動機は大型であり、車体を支持する台車に取り付けられるため、台車からの電動機の取り外し、電動機の分解等を含む保守作業が繁雑である。このため、頻繁に電動機を台車から取り外し、電動機から絶縁部材を取り外して絶縁部材の劣化の程度を確認することは困難である。そこで、台車からの電動機の取り外しおよび電動機の分解をすることなく、絶縁部材の劣化の程度を判別することが好ましい。絶縁部材の劣化の程度を判別する装置の一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-25753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される劣化診断装置は、電動機のコイル温度を測定し、測定した実温度での電動機の使用時間を基準温度における電動機の使用時間に換算する。詳細には、実温度でのアレニウスプロット上の傾きと基準温度でのアレニウスプロット上の傾きが同じであるとみなして、実温度での電動機の使用時間が基準温度での電動機の使用時間に換算される。劣化診断装置は、換算した使用時間の積算値と基準温度におけるコイルの寿命との比較に応じてコイルの絶縁劣化の有無を診断する。
【0006】
絶縁部材の温度と耐用期間との関係を示すアレニウス式における活性化エネルギーが温度に依存して変化すると、温度によってアレニウスプロット上の傾きが異なる。アレニウスプロット上の傾きが温度に応じて変化すると、使用時間の換算時の誤差も大きくなるため、特許文献1に開示される劣化診断装置の劣化診断の精度が低下する。この課題は、電動機が備える絶縁部材に限られず、種々の導体を覆う絶縁部材の劣化の程度を判別する際に生じる。
【0007】
本開示は上述の事情に鑑みてなされたものであり、導体を覆う絶縁部材の劣化の程度を精度よく判別する劣化判別装置および劣化判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の劣化判別装置は、温度取得部と、損傷度決定部と、判別部と、を備える。温度取得部は、導体を覆う絶縁部材の温度を取得する。損傷度決定部は、対象期間ごとに、温度取得部で取得された絶縁部材の温度を増大させる補正を行って、補正を行った絶縁部材の温度および絶縁部材の温度と絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、補正された絶縁部材の温度に対応する耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定する。判別部は、対象期間ごとに決定された損傷度に基づいて絶縁部材の劣化の程度を判別する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る劣化判別装置は、絶縁部材の温度に対応する耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度に基づいて絶縁部材の劣化の程度を判別するため、精度よく絶縁部材の劣化の程度を判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る劣化判別装置のブロック図
図2】実施の形態1に係る劣化判別装置のハードウェア構成を示す図
図3】実施の形態1に係る劣化判別装置が行う劣化程度判別処理の動作の一例を示すフローチャート
図4】実施の形態1における絶縁部材の温度と耐用期間との関係の一例を示す図
図5】実施の形態2に係る劣化判別装置のブロック図
図6】実施の形態2に係る劣化判別装置が行う劣化程度判別処理の動作の一例を示すフローチャート
図7】実施の形態に係る劣化判別装置の第1変形例のブロック図
図8】実施の形態に係る劣化判別装置が行う劣化程度判別処理の動作の他の一例を示すフローチャート
図9】実施の形態に係る劣化判別装置の第2変形例のブロック図
図10】実施の形態に係る劣化判別装置のハードウェア構成の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態に係る劣化判別装置および劣化判別方法について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0012】
(実施の形態1)
導体を覆う絶縁部材を備える機器の一例として、鉄道車両に搭載され、電力の供給を受けて駆動されることで鉄道車両の推進力を生じさせる電動機がある。電動機が有する絶縁部材の劣化の程度を判別する劣化判別装置について、実施の形態1で説明する。絶縁部材の劣化の程度の判別とは、絶縁部材が寿命に達しているか否かの判別および絶縁部材が寿命に近づいているか否かの判別を含むものとする。
【0013】
図1に示すように、劣化判別の対象である電動機91は、例えば、電力変換装置11から三相交流電力の供給を受けて駆動されて鉄道車両の推進力を生じさせる三相誘導電動機である。
【0014】
電動機91の構成の詳細については図示しないが、電動機91は、回転可能に支持されるシャフトと、回転子鉄心および回転子鉄心の外周面に形成されるスロットに挿入される回転子導体または永久磁石を有する回転子と、固定子鉄心および固定子鉄心の内周面に形成されるスロットに挿入される固定子コイルを有する固定子と、を備える。電動機91はさらに、導体である固定子コイルを覆う絶縁部材を備える。絶縁部材が設けられることで、固定子鉄心と固定子コイルとが絶縁され、互いに隣接する固定子コイル同士が絶縁される。絶縁部材の一例である絶縁ワニスを固定子に含浸させることで、固定子コイルが絶縁部材で覆われる。
【0015】
電動機91は、鉄道車両の車体を支持する台車に取り付けられる。電動機91が電力変換装置11から電力の供給を受けて動作すると、電動機91のシャフトが回転し、シャフトの回転力が継手および歯車装置を介して、車軸に伝達される。そして、車軸の回転にともなって、車軸の両端に取り付けられる車輪が回転し、鉄道車両の推進力が得られる。
【0016】
電動機91に電力を供給する電力変換装置11は、例えば、直流き電方式の鉄道車両に搭載され、電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換して負荷機器に供給する直流-三相変換装置である。電力変換装置11は、電源に接続される入力端子11aと、接地される入力端子11bと、を備える。電力変換装置11はさらに、電源から供給された直流電力を三相交流電力に変換し、三相交流電力を電動機91に供給する電力変換回路12と、電力変換回路12を制御する電力変換回路制御部13と、電力変換回路12が出力する相電圧を測定する電圧検出回路14と、電力変換回路12が出力する相電流を測定する電流検出回路15と、を備える。電力変換装置11はさらに、入力端子11a,11bの間に直列に接続されて設けられているリアクトルL1およびコンデンサC1を備える。上記構成を有する電力変換装置11は、鉄道車両の車体の床下に取り付けられる。
【0017】
入力端子11aは、図示しない接触器、遮断器等を介して、電源、具体的には、変電所から電力供給線を介して供給される電力を取得する集電装置に電気的に接続される。例えば、集電装置は、電力供給線の一例である架線を介して電力を取得するパンタグラフ、または、電力供給線の一例である第三軌条を介して電力を取得する集電靴等である。入力端子11bは、図示しない接地リング、接地ブラシ、車輪等を介して接地される。
【0018】
電力変換回路12は、例えば、出力される交流電力の実効電圧と周波数とが可変であるインバータで形成される。電力変換回路12は、複数のスイッチング素子を有し、各スイッチング素子のスイッチング動作は、電力変換回路制御部13によって制御される。各スイッチング素子は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)またはSiC(Silicon Carbide:炭化ケイ素)、GaN(Gallium Nitride:窒化ガリウム)、ダイヤモンド等で形成されるワイドバンドギャップ半導体を用いたスイッチング素子で形成される。
【0019】
電力変換回路制御部13は、図示しない運転台から運転指令S1を取得する。運転指令S1は、運転台に設けられたマスターコントローラに対する運転員の操作に応じた指令を示す。具体的には、運転指令S1は、鉄道車両の加速を指示する力行指令、鉄道車両の減速を指示するブレーキ指令、および鉄道車両の惰性での走行を指示する惰行指令のいずれかを示す。惰行指令は、力行指令およびブレーキ指令のいずれも入力されていない状態を意味する。電力変換回路制御部13は、運転指令S1に応じて電力変換回路12の各スイッチング素子を制御する電力変換制御信号S2を生成し、出力する。電力変換制御信号S2は、例えば、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号である。
【0020】
電圧検出回路14は、電力変換回路12と電動機91とを電気的に接続するバスバーに電気的に接続されるVT(Voltage Transformer:計器用変圧器)を有し、電力変換回路12が出力する相電圧、具体的には、U相電圧、V相電圧、およびW相電圧の値を測定する。電圧検出回路14は、各相電圧の測定値を劣化判別装置21に送る。
【0021】
電流検出回路15は、電力変換回路12と電動機91との間の電気回路、例えば、電力変換回路12と電動機91とを電気的に接続するバスバーに取り付けられるCT(Current Transformer:変流器)を有し、電力変換回路12が出力する相電流、具体的には、U相電流、V相電流、およびW相電流の値を測定する。電流検出回路15は、各相電流の測定値を電力変換回路制御部13および劣化判別装置21に送る。
【0022】
リアクトルL1の一端は、入力端子11aに接続される。リアクトルL1の他端は、電力変換回路12の一次端子に接続される。コンデンサC1の一端は、リアクトルL1の他端と電力変換回路12の一次端子との接続点に接続される。コンデンサC1の他端は、入力端子11bと電力変換回路12の一次端子との接続点に接続される。リアクトルL1およびコンデンサC1は、電力変換回路12のスイッチング動作によって生じる高調波成分を減衰させるLCフィルタを形成する。
【0023】
上述の電動機91が有する絶縁部材の劣化の程度を判別する劣化判別装置21は、電動機91が有する固定子コイルを覆う絶縁部材の温度を取得する温度取得部22と、温度に応じた絶縁部材の耐用期間の内、経過した時間を示す指標である損傷度を決定する損傷度決定部23と、損傷度に基づいて絶縁部材の劣化の程度を判別する判別部24と、を備える。劣化判別装置21は、鉄道車両において任意の位置、例えば、車体の床下に設けられる。
【0024】
上記構成を有する劣化判別装置21は、任意に定められた対象期間ごとに絶縁部材の劣化の程度を判別する処理を行って、絶縁部材の劣化の程度についての判別結果を出力先装置31に送る。対象期間は、劣化判別装置21の判別対象である絶縁部材が覆っている導体の熱時定数に比べて十分短い時間であって、例えば、1秒以上、かつ、5秒以下の長さの時間である。詳細には、劣化判別装置21は、導体の使用開始時点から対象期間ごとに絶縁部材の劣化の程度を判別する。出力先装置31は、例えば、運転台に設けられている表示装置である。
【0025】
温度取得部22は、導体に流れる電流および導体の電位から導体の抵抗値を推定し、推定した抵抗値から導体の温度を推定し、推定した導体の温度を絶縁部材の温度として用いる。実施の形態1では、温度取得部22は、電圧検出回路14から取得した各相電圧の測定値および電流検出回路15から取得した各相電流の測定値から導体である固定子コイルのコイル抵抗値を算出する。コイル抵抗値と固定子コイルの温度とは正の相関関係にあるので、温度取得部22は、算出したコイル抵抗値から固定子コイルの温度を推定する。
【0026】
通電時に発熱する固定子コイルから、固定子コイルを覆っている絶縁部材に熱が伝達され、絶縁部材が固定子コイルと同程度の温度になるまで絶縁部材が暖められる。このため、固定子コイルの温度と絶縁部材の温度は一致するとみなすことができる。温度取得部22は、推定した固定子コイルの温度を、絶縁部材の温度として損傷度決定部23に出力する。
【0027】
損傷度決定部23は、対象期間ごとに、温度取得部22から取得した絶縁部材の温度および絶縁部材の温度と耐用期間との関係から、絶縁部材の温度に対応する耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定する。耐用期間は、絶縁部材を使用することができる期間であって、絶縁部材の温度に応じて変化する。詳細には、絶縁部材の温度と耐用期間との関係は、温度が高くなると耐用期間が短くなる関係を示す。耐用期間LTと絶縁部材の温度T(単位:K)との関係は、下記(1)式に示すアレニウスの式で表される。下記(1)式において、Aは頻度因子であり、Eaは活性化エネルギー、Rは気体定数を示す。
【0028】
【数1】
・・・(1)
【0029】
実施の形態1では、損傷度決定部23は、絶縁部材の温度に応じた耐用期間LTに対する対象期間の比率である損傷度を決定する。詳細には、損傷度決定部23は、対象期間τを耐用期間LTで除算して得られる値τ/LTを損傷度として用いる。損傷度決定部23は、対象期間τを耐用期間LTで除算して得られる値τ/LTを損傷度として判別部24に出力する。
【0030】
判別部24は、導体の使用開始時点から対象期間τごとに決定された損傷度に基づいて絶縁部材の劣化の程度を判別する。詳細には、判別部24は、導体の使用開始時点から始まり、複数の対象期間τを含む判別期間において、対象期間τごとに決定された損傷度に基づいて絶縁部材の劣化の程度を判別する。実施の形態1では、判別部24は、判別期間における損傷度の累積値である累積損傷度に基づいて絶縁部材の劣化の程度を判別する。例えば、判別部24は、判別期間における累積損傷度を算出し、累積損傷度が閾値に到達したか否かを判別する。判別期間における累積損傷度が閾値に到達すると、絶縁部材が寿命に達しているとみなすことができる。マイナー則によれば、部材の累積損傷度が1に到達すると、部材が寿命に達したとみなすことができる。そこで、判別部24は、閾値を1と設定し、判別期間における累積損傷度が閾値に到達しているか否かを判別する。判別部24は、累積損傷度を図示しない記憶装置に記憶し、判別結果を出力先装置31に送る。
【0031】
判別期間は、導体の使用開始時点、例えば、電動機91が搭載された鉄道車両が最初に運行を開始する際に開始され、電動機91の絶縁部材の保守作業、具体的には、絶縁ワニスを固定子に再び含浸させる保守作業が行われるまで続く。記憶装置に記憶された累積損傷度は、上述の電動機91の絶縁部材の保守作業が行われる際にリセットされる。
【0032】
上記構成を有する劣化判別装置21から判別結果を取得する出力先装置31は、例えば運転台に設けられている表示装置を含む。表示装置は、劣化判別装置21から絶縁部材が寿命に達していることを示す判別結果を取得すると、取得した判別結果を画面に表示する。
【0033】
上記構成を有する劣化判別装置21のハードウェア構成を図2に示す。劣化判別装置21は、プロセッサ61と、メモリ62と、インターフェース63と、を備える。プロセッサ61、メモリ62、およびインターフェース63は互いにバス60で接続されている。劣化判別装置21の各部の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ62に格納される。プロセッサ61が、メモリ62に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、上述の各部の機能が実現される。すなわち、メモリ62には、劣化判別装置21の各部の処理を実行するためのプログラムが格納される。
【0034】
メモリ62は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)等を含む。
【0035】
劣化判別装置21は、インターフェース63を介して、電圧検出回路14、電流検出回路15、出力先装置31等、に接続される。インターフェース63は、接続先に応じて、1つまたは複数の規格に準拠したインターフェースモジュールを有する。
【0036】
上述の電力変換装置11の動作について以下に説明する。
運転指令S1が力行指令を含む場合、図1に示す電力変換装置11は、電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換し、三相交流電力を電動機91に供給する。電動機91は、三相交流電力の供給を受けて駆動され、鉄道車両の推進力を生じさせる。
【0037】
詳細には、運転指令S1が力行指令を含む場合、電力変換回路制御部13は、力行指令が示す鉄道車両の加速度の目標値および図示しない速度センサから取得した電動機91の回転数の測定値に応じて、電動機91のトルクの目標値であるトルク指令値τを決定する。そして、電力変換回路制御部13は、トルク指令値τに応じて励磁電流指令値idおよびトルク電流指令値iqを決定する。電力変換回路制御部13は、電流検出回路15から取得した相電流の測定値を、電動機91の回転数の測定値から推定される推定位置θに基づいて三相座標からdq回転座標に変換することで、励磁電流値idおよびトルク電流値iqを決定する。
【0038】
電力変換回路制御部13は、励磁電流値idと励磁電流指令値idとの差分から励磁電圧指令値Vdを決定し、トルク電流値iqとトルク電流指令値iqとの差分からトルク電圧指令値Vqを決定する。電力変換回路制御部13は、励磁電圧指令値Vdおよびトルク電圧指令値Vqを推定位置θに基づいてdq回転座標から三相座標に変換してU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、およびW相電圧指令値Vwを決定する。そして、電力変換回路制御部13は、U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、およびW相電圧指令値Vwのそれぞれと搬送波とに応じて電力変換回路12が有する各スイッチング素子のスイッチング動作を制御する電力変換制御信号S2を生成し、出力する。
【0039】
電力変換制御信号S2が電力変換回路12の各スイッチング素子のゲート信号に供給されると、各スイッチング素子がスイッチング動作を行う。この結果、電力変換回路12は、直流電力を三相交流電力に変換し、三相交流電力を電動機91に供給する。
【0040】
運転指令S1がブレーキ指令を含む場合、発電機として動作する電動機91は、三相交流電力を電力変換装置11に供給する。電力変換装置11は、電動機91から供給される三相交流電力を直流電力に変換し、集電装置および電力供給線を介して、電力変換装置11が搭載されている鉄道車両の近隣を走行している他の鉄道車両に直流電力を供給する。電動機91で生じた三相交流電力を他の鉄道車両に供給して消費することで、鉄道車両を減速させる回生ブレーキ力が生じる。
【0041】
詳細には、運転指令S1がブレーキ指令を含む場合、電力変換回路制御部13は、図示しない電圧センサからコンデンサC1の端子間電圧の測定値を取得し、電動機91から電力変換回路12に流れる相電流の測定値を電流検出回路15から取得する。そして、電力変換回路制御部13は、コンデンサC1の端子間電圧の測定値および電動機91から電力変換回路12に流れる相電流の測定値に応じて、電力変換回路12の出力電圧の目標値を示す電圧指令値を決定する。
【0042】
電力変換回路12の出力電圧の目標値は、例えば、架線電圧より高い電圧範囲であって、回生ブレーキが利用可能となる電圧の範囲を示す目標電圧範囲に含まれる値である。そして、電力変換回路制御部13は、電圧指令値に応じて電力変換回路12が有する各スイッチング素子のスイッチング動作を制御する電力変換制御信号S2を生成し、出力する。
【0043】
電力変換制御信号S2が電力変換回路12の各スイッチング素子のゲート信号に供給されると、各スイッチング素子がスイッチング動作を行う。この結果、電力変換回路12は、電動機91から供給される三相交流電力を直流電力に変換し、直流電力でコンデンサC1を充電する。
【0044】
電力変換装置11が搭載されている鉄道車両の近隣に加速中の他の鉄道車両が位置していれば、上述のように、電動機91で生じた電力が他の鉄道車両に供給されて消費され、鉄道車両を減速させる回生ブレーキ力が生じる。
【0045】
上述の電力変換装置11の処理とは独立して、劣化判別装置21は、電動機91が有する絶縁部材の劣化の程度を判別する処理を行う。劣化判別装置21は、電動機91が搭載された鉄道車両が最初に運行を開始すると、図3に示す劣化の程度を判別する処理を開始する。例えば、電動機91が搭載された鉄道車両の運転台に設けられているパンタグラフの上昇スイッチが操作されて、鉄道車両が最初に運行を開始すると、劣化判別装置21は、図3に示す劣化の程度を判別する処理を開始する。その後、劣化判別装置21は、鉄道車両の運行中は継続して、対象期間τ=TP1ごとに図3に示す劣化の程度を判別する処理を繰り返す。
【0046】
温度取得部22は、電圧検出回路14から取得した各相電圧の測定値および電流検出回路15から取得した各相電流の測定値から電動機91のコイル抵抗値を算出する(ステップS11)。例えば、固定子コイルのみに微弱電流が流れている状態において、温度取得部22は、電圧検出回路14から取得したU相電圧の測定値およびV相電圧の測定値からU相とV相の線間電圧を算出する。温度取得部22は、U相とV相の線間電圧Vuvと電流検出回路15から取得したU相電流の測定値Iに基づいて、下記(2)式を用いて、U相固定子コイルのコイル抵抗値Reを算出する。温度取得部22は、算出したコイル抵抗値を図1に示さない記憶装置に記憶する。
【0047】
【数2】
・・・(2)
【0048】
上記(2)式を用いてコイル抵抗値を算出するためには、固定子コイルのみに微弱電流を供給する電流供給装置が設けられることが好ましい。電流供給装置によって固定子コイルのみに微弱電流を流してコイル抵抗値を算出するため、電力変換装置11から電動機91に電力が供給されない惰行運転時にもコイル抵抗値を算出することが可能となる。
【0049】
図3に示すように、温度取得部22は、ステップS11で算出されたコイル抵抗値から、電動機91の絶縁部材の温度を推定する(ステップS12)。ステップS12の詳細について以下に説明する。
【0050】
温度取得部22は、ステップS11で算出されたコイル抵抗値と直前の対象期間τにおいて算出されたコイル抵抗値から導体である固定子コイルの温度を推定する。温度取得部22は、推定した固定子コイルの温度を図1に示さない記憶装置に記憶する。実施の形態1では、同じ電動機91に含まれるU相固定子コイル、V相固定子コイル、およびW相固定子コイルは同じように温度が変化するとみなし、ステップS11で算出されたU相固定子コイルのコイル抵抗値に基づいて推定されたU相固定子コイルの温度が、電動機91の固定子コイルの温度として用いられる。
【0051】
例えば、i番目の対象期間τにおける固定子コイルの温度T’は、下記(3)式を用いて算出される。下記(3)式において、Reは、i番目の対象期間τにおけるコイル抵抗値、Rei-1は、i-1番目の対象期間τi-1におけるコイル抵抗値、βは温度抵抗係数の逆数、T’i-1は、i-1番目の対象期間τi-1における固定子コイルの温度である。iは任意の自然数である。i=1となる最初の対象期間τでは、固定子コイルの温度Tを常温、例えば20℃とし、Reを常温でのコイル抵抗値とすればよい。温度取得部22は、固定子コイルの温度T’およびコイル抵抗値Rについての情報を予め保持している。温度抵抗係数の逆数βは、導体を形成する部材によって決まる。例えば、固定子コイルが銅で形成されている場合、βの値として、235が用いられる。
【0052】
【数3】
・・・(3)
【0053】
固定子コイルから絶縁部材に熱が伝達され、絶縁部材が固定子コイルと同程度の温度になるまで絶縁部材が暖められる。このため、固定子コイルの温度と固定子コイルを覆う絶縁部材の温度は一致するとみなすことができる。温度取得部22は、上述のように推定された固定子コイルの温度T’を絶縁部材の温度Tとして、損傷度決定部23に出力する。
【0054】
図3に示すように、損傷度決定部23は、ステップS12において温度取得部22で推定された絶縁部材の温度に応じて、絶縁部材の温度に応じた耐用期間LTに対する対象期間τの比率である損傷度を決定する(ステップS13)。ステップS13の詳細について、以下に説明する。
【0055】
損傷度決定部23は、温度取得部22で推定された絶縁部材の温度に応じて、絶縁部材の耐用期間LTを決定する。上述のように、絶縁部材の温度Tと耐用期間LTとの関係は、上記(1)式のアレニウスの式に従って、温度が高くなると耐用期間LTが短くなる関係を示す。例えば、図4に示すように、絶縁部材の温度の逆数1/Tと絶縁部材の耐用期間LTの対数表示logLTは、正の相関関係を示す。図4の横軸は、絶縁部材の温度の逆数1/T(単位:1/K)であり、図4の縦軸は、耐用期間LTの対数表示logLTを示す。図4の例では、絶縁部材の温度の逆数1/Tと耐用期間LTの対数表示logLTは線形関係を有する。例えば、損傷度決定部23は、図4に示すグラフに基づいて、i番目の対象期間τにおける絶縁部材の温度Tに応じた絶縁部材の耐用期間LTを決定する。
【0056】
上述のように絶縁部材の温度に応じた耐用期間LTを決定した後、損傷度決定部23は、絶縁部材の温度に応じた耐用期間LTに対する対象期間τの比率である損傷度を決定する。詳細には、損傷度決定部23は、下記(4)式を用いて、i番目の対象期間τにおける損傷度Dを算出する。下記(4)式において、τは、i番目の対象期間τの長さを示す。実施の形態1において、τは、固定値TP1である。i番目の対象期間τにおける損傷度Dは、i番目の対象期間τが経過したことで、i番目の対象期間τにおける絶縁部材の温度に対応する絶縁部材の耐用期間LTの内、経過した時間の耐用期間LTに対する比率を示す。損傷度決定部23は、上述のように算出した損傷度Dを、判別部24に出力する。
【0057】
【数4】
・・・(4)
【0058】
判別部24は、対象期間τごとにステップS13で算出された損傷度Dに基づいて、絶縁部材の劣化の有無を判別する。詳細には、判別部24は、図3に示すように、累積損傷度を算出する(ステップS14)。1番目の対象期間τからi番目の対象期間τまでの累積損傷度ACCは、下記(5)式で表される。実施の形態1では、下記(5)式において、τ=τ=τ=・・・=τ=TP1である。
【0059】
【数5】
・・・(5)
【0060】
判別部24は、累積損傷度ACCが閾値に到達しているか否かを判別する(ステップS15)。累積損傷度ACCが閾値に到達した場合は(ステップS15;Yes)、絶縁部材が寿命に達したとみなすことができるため、判別部24は、絶縁部材が寿命に達したことを示す判別結果を出力先装置31に出力する(ステップS16)。ステップS16の処理が完了すると、劣化判別装置21は、ステップS11から上述の処理を繰り返す。
【0061】
累積損傷度ACCが閾値に到達していない場合は(ステップS15;No)、絶縁部材は寿命に達していないとみなすことができるため、劣化判別装置21は、ステップS16の処理を行わずに、ステップS11から上述の処理を繰り返す。
【0062】
累積損傷度ACCが1に到達したこと、換言すれば、絶縁部材の耐用期間LTに対する対象期間τの比率の合計が1に到達したことは、絶縁部材の耐用期間LTが経過したことを意味する。このため、閾値を1とすると、累積損傷度ACCが閾値に到達した場合、絶縁部材が寿命に達したとみなすことができる。
【0063】
例えば、1番目の対象期間τからi番目の対象期間τまで温度が一定の温度Te1である場合、図4に示すように温度Te1に対応する耐用期間LTはLTe1であるため、LT=LT=LT=・・・=LT=LTe1となる。このため、累積損傷度ACCは、i・TP1/LTe1で表される。換言すれば、耐用期間LTe1に対する1番目の対象期間τからi番目の対象期間τまでの長さの比率が累積損傷度ACCとなる。i・TP1/LTe1で表される累積損傷度ACCが閾値に到達した場合、絶縁部材が寿命に達したとみなすことができる。
【0064】
1番目の対象期間τからi番目の対象期間τまでに温度が変化した場合の累積損傷度ACCについて以下に説明する。例えば、i=100であって、1番目の対象期間τから50番目の対象期間τ50までにおける絶縁部材の温度がTe1であって、51番目の対象期間τ51以降の対象期間τでは、絶縁部材の温度がTe2であるとする。この場合、図4に示すように温度Te1,Te2にそれぞれ対応する耐用期間LTはLTe1,LTe2であるため、LT=LT=LT=・・・=LT50=LTe1となり、LT51=LT52=・・・=LT100=LTe2となる。このため、累積損傷度ACC100は、50・TP1/LTe1+50・TP1/LTe2で表される。上述のように絶縁部材の温度が変化した場合であっても、温度に応じた絶縁部材の耐用期間LTの内、経過した時間を示す損傷度Dを用いることで、絶縁部材の劣化の程度を精度よく判別することが可能となる。
【0065】
閾値を1より小さい値、例えば、0.8とすることで、累積損傷度ACCが閾値に到達した場合、絶縁部材が寿命に近づいているとみなすことができる。この場合、判別部24は、絶縁部材が寿命に近づいていることを示す判別結果を出力先装置31に出力する。
【0066】
出力先装置31が、絶縁部材が寿命に達したことを示す判別結果または絶縁部材が寿命に近づいていることを示す判別結果を劣化判別装置21から取得し、判別結果を画面に表示した場合、保守作業、具体的には、絶縁ワニスを電動機91の固定子に再含浸させる保守作業が行われることが好ましい。
【0067】
以上説明した通り、実施の形態1に係る劣化判別装置21は、絶縁部材の温度に対応する耐用期間LTの内、経過した時間を示す損傷度、具体的には、対象期間τごとに決定される、絶縁部材の温度に応じた耐用期間LTに対する対象期間τの比率である損傷度に基づいて絶縁部材の劣化の程度を判別する。このため、実温度での使用時間を基準温度における使用時間に換算し、換算した使用時間の積算値と基準温度における寿命との比較に応じて絶縁部材の劣化の有無を判別する劣化判別装置と比べて、導体を覆う絶縁部材の劣化の程度を精度よく判別することが可能となる。
【0068】
(実施の形態2)
劣化判別装置21における劣化判別処理は、上述の例に限られない。実施の形態1と異なる処理で絶縁部材の劣化の程度を判別する劣化判別装置21について、実施の形態1との差異を中心に実施の形態2で説明する。
【0069】
図5に示す劣化判別装置21の構成は、実施の形態1に係る劣化判別装置21の構成と同様である。ただし、実施の形態1に係る劣化判別装置21と異なり、実施の形態2に係る劣化判別装置21は、運転台から運転指令S1を取得し、電力変換回路制御部13からU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、およびW相電圧指令値Vwを取得し、電流検出回路15から各相電流の測定値を取得する。
【0070】
温度取得部22は、電力変換回路制御部13から取得したU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、およびW相電圧指令値Vwおよび電流検出回路15から取得した各相電流の測定値から導体である固定子コイルの抵抗値を算出する。温度取得部22は、算出したコイル抵抗値から固定子コイルの温度を推定する。実施の形態1と同様に、固定子コイルの温度と固定子コイルを覆う絶縁部材の温度は一致するとみなせるため、温度取得部22は、推定した固定子コイルの温度を絶縁部材の温度として出力する。
【0071】
固定子コイルの位置によって、例えば空気に触れる表面積が異なるため、固定子コイルの温度にばらつきが生じることがある。詳細には、固定子コイルにおいて、コイル抵抗値から推定される固定子コイルの温度よりも温度が高くなる位置がある。この結果、固定子コイルを覆う絶縁部材において、温度取得部22が出力する絶縁部材の温度よりも温度が高くなる位置がある。そこで、実施の形態2に係る劣化判別装置21が備える損傷度決定部23は、温度取得部22から取得した絶縁部材の温度を増大させる補正を行う。
【0072】
例えば、損傷度決定部23は、温度取得部22から取得した絶縁部材の温度に1より大きい係数である係数h1を温度取得部22から取得した絶縁部材の温度に乗算する。係数h1は、例えば、固定子コイルの温度分布のデータに基づき、固定子コイルの温度の平均値を1とした場合の固定子コイルの温度の最大値に相当する値である。
【0073】
損傷度決定部23は、対象期間τごとに、上述のように補正された絶縁部材の温度および絶縁部材の温度と耐用期間LTとの関係から、絶縁部材の温度に対応する耐用期間LTの内、経過した時間を示す損傷度を決定する。この結果、固定子コイルの温度が高くなる位置であるホットスポットにあわせて、対象期間τの経過によって、耐用期間LTの内、経過した時間を示す損傷度を決定することが可能となる。
【0074】
損傷度決定部23は、運転指令S1に応じて長さが変化する対象期間τごとに、補正された絶縁部材の温度および絶縁部材の温度と耐用期間LTとの関係から、損傷度を決定する。例えば、損傷度決定部23は、力行時またはブレーキ時、換言すれば、運転指令S1が力行指令またはブレーキ指令を含むときの対象期間τ=TP2を、惰行運転時、換言すれば、運転指令S1が惰行指令を含むときの対象期間τ=TP3より短くする。これにより、損傷度決定部23は、電動機91の固定子コイルの温度が急激に変化し得る加速時または減速時に、高い頻度で、絶縁部材の温度に対応する耐用期間LTを決定し、耐用期間LTの内、経過した時間を示す損傷度を決定することができる。この結果、対象期間τの経過によって、耐用期間LTの内、経過した時間を示す損傷度を精度よく決定することが可能となる。
【0075】
劣化判別装置21のハードウェア構成は、実施の形態1に係る劣化判別装置21のハードウェア構成と同様である。ただし、実施の形態1と異なり、劣化判別装置21は、インターフェース63を介して、電流検出回路15、電力変換回路制御部13、出力先装置31、および運転台に設置されたマスターコントローラを含む車載機器等、に接続される。
【0076】
上記構成を有する劣化判別装置21が行う劣化の程度を判別する処理について以下に説明する。劣化判別装置21は、電動機91が搭載された鉄道車両が最初に運行を開始すると、図6に示す劣化の程度を判別する処理を開始する。ステップS11,S12の処理は、図3に示す劣化判別装置21が行う処理と同様である。
【0077】
損傷度決定部23は、ステップS12において推定された絶縁部材の温度を増大させる補正を行う(ステップS21)。そして、損傷度決定部23は、ステップS21で補正された絶縁部材の温度に応じて、絶縁部材の温度に応じた耐用期間LTに対する対象期間τの比率である損傷度を決定する(ステップS13)。後続のステップS14からS16までの処理は、図3に示す劣化判別装置21が行う処理と同様である。
【0078】
以上説明した通り、実施の形態2に係る劣化判別装置21は、絶縁部材の温度を増大させる補正を行った上で、補正された絶縁部材の温度に応じて耐用期間LTを決定する。このため、絶縁部材の温度にばらつきがある場合に、絶縁部材の内、他の部分より高温となるために耐用期間LTが短くなる部分を基準として絶縁部材の劣化の程度を判別することが可能となる。また、劣化判別装置21は、絶縁部材の温度が急激に変化し得る加速時または減速時に、惰行運転時よりも高い頻度で、絶縁部材の温度に対応する耐用期間LTを決定する。この結果、絶縁部材の劣化の程度を判別する精度が向上する。
【0079】
本開示は、上述の実施の形態に限られない。上記のハードウェア構成およびフローチャートは一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0080】
劣化判別装置21の判別対象は、電動機91の固定子コイルに限られず、導体を覆う任意の絶縁部材である。一例として、リアクトルL1が有する導体を覆う絶縁部材の劣化の程度を判別する劣化判別装置21を図7に示す。劣化判別装置21の構成は、実施の形態1,2と同様である。
【0081】
電力変換装置11は、リアクトルL1の端子間電圧を測定する電圧検出回路16と、リアクトルL1を流れる電流を測定する電流検出回路17と、を備える。
【0082】
電圧検出回路16は、リアクトルL1に並列に接続され、リアクトルL1の端子間電圧の値を測定する。電圧検出回路16は、端子間電圧の測定値を劣化判別装置21に送る。
【0083】
電流検出回路17は、リアクトルL1と電力変換回路12を電気的に接続するバスバーに取り付けられるホール素子型の電流センサを有し、リアクトルL1に流れる電流の値を測定する。電流検出回路15は、電流の測定値を劣化判別装置21に送る。
【0084】
リアクトルL1は、導線と、導線を被覆する絶縁部材と、を有する。絶縁部材で被覆された導線は巻き回されて、ディスク型コイルを形成する。
【0085】
温度取得部22は、電圧検出回路16から取得したリアクトルL1の端子間電圧の測定値および電流検出回路17から取得したリアクトルL1を流れる電流の測定値から、リアクトルL1が有するディスク型コイルのコイル抵抗値を算出する。詳細には、温度取得部22は、リアクトルL1の端子間電圧の測定値を、リアクトルL1を流れる電流の測定値で除算することで、コイル抵抗値を算出する。実施の形態1,2と同様に、温度取得部22は、算出したコイル抵抗値からディスク型コイルの導線の温度を推定する。
【0086】
通電時に発熱するディスク型コイルの導線から、導線を被覆する絶縁部材に熱が伝達され、絶縁部材が導線と同程度の温度になるまで絶縁部材が暖められる。このため、ディスク型コイルの導線と絶縁部材の温度は一致するとみなすことができる。そこで、温度取得部22は、推定したディスク型コイルの温度を、絶縁部材の温度として損傷度決定部23に出力する。
【0087】
損傷度決定部23および判別部24が実施の形態1,2と同様の処理を行うことで、リアクトルL1の絶縁部材における劣化の程度を判別することが可能となる。
【0088】
温度取得部22による絶縁部材の温度を取得する方法は、上述の例に限られない。一例として、温度取得部22は、異なるタイミングで得た絶縁部材の温度の移動平均値を絶縁部材の温度として出力してもよい。例えば、実施の形態1に係る劣化判別装置21が備える温度取得部22は、対象期間τごとに、電圧検出回路14から取得した各相電圧の測定値および電流検出回路15から取得した各相電流の測定値から導体である固定子コイルの温度を推定する。
【0089】
温度取得部22は、推定した固定子コイルの温度の移動平均値を算出し、算出した移動平均値を絶縁部材の温度Tとして損傷度決定部23に出力する。例えば、i番目の対象期間τにおいて、直近のj個の対象期間τにおいて推定された固定子コイルの温度の移動平均値T’i_avgは、下記(6)式で表される。
【0090】
【数6】
・・・(6)
【0091】
温度の移動平均値と実温度との乖離を防止するため、下記(7)式で表される固定子コイルの温度の移動平均値T’i_avgを用いることが好ましい。
【0092】
【数7】
・・・(7)
【0093】
この場合、劣化判別装置21は、電動機91が搭載された鉄道車両が最初に運行を開始すると、図8に示す劣化の程度を判別する処理を開始する。ステップS11の処理は、図3に示す劣化判別装置21が行う処理と同様である。温度取得部22は、ステップS11で算出されたコイル抵抗値から、電動機91が有する導体である固定子コイルの温度を推定し、固定子コイルの温度の移動平均値を算出し、算出した移動平均値を絶縁部材の温度として推定して損傷度決定部23に出力する(ステップS22)。後続のステップS13からS16までの処理は、図3に示す実施の形態1に係る劣化判別装置21が行う処理と同様である。
【0094】
導体の温度の移動平均値を絶縁部材の温度として用いることで、導体の温度が大きく変動する場合に、推定される絶縁部材の温度の変動を低減することが可能となる。この結果、絶縁部材の温度に対応する耐用期間LTの内、経過した時間を示す損傷度が大きく変動することが抑制され、絶縁部材の劣化の程度を判別する精度が向上する。
【0095】
他の一例として、温度取得部22は、電力変換回路制御部13から、U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、およびW相電圧指令値Vw、ならびに励磁電流指令値idおよびトルク電流指令値iqを推定位置θに基づいてdq回転座標から三相座標に変換して得られるU相電流指令値、V相電流指令値、およびW相電流指令値を取得し、取得した各指令値からコイル抵抗値を算出してもよい。各指令値からコイル抵抗値を算出することで、各検出回路が不要となるため、検出値から抵抗値を演算する演算負荷を低減することが可能となる。
【0096】
他の一例として、温度取得部22は、導体の温度を測定する少なくとも1つの温度センサの測定値を取得し、少なくとも1つの温度センサの測定値から絶縁部材の温度を決定してもよい。具体的には、温度取得部22は、固定子コイルの長手方向、換言すれば電動機91の回転軸の延伸方向に並べて設けられた複数の温度センサの測定値の平均値を絶縁部材の温度として用いてもよい。温度センサとして、例えば、固定子コイルの間に埋め込まれる熱電対を用いることができる。
【0097】
他の一例として、温度取得部22は、電動機91が有するU相固定子コイル、V相固定子コイル、およびW相固定子コイルのそれぞれのコイル抵抗値を算出し、各コイル抵抗値から、U相固定子コイルを覆う絶縁部材、V相固定子コイルを覆う絶縁部材、およびW相固定子コイルを覆う絶縁部材のそれぞれの温度を推定してもよい。この場合、損傷度決定部23は、U相固定子コイルを覆う絶縁部材、V相固定子コイルを覆う絶縁部材、およびW相固定子コイルを覆う絶縁部材のそれぞれについて損傷度を決定すればよい。判別部24は、U相固定子コイルを覆う絶縁部材、V相固定子コイルを覆う絶縁部材、およびW相固定子コイルを覆う絶縁部材のそれぞれの劣化の程度を判別すればよい。
【0098】
より精度よく絶縁部材の温度を決定するために、温度取得部22は、誘導電動機のL型等価回路を用いて、コイル抵抗値を算出し、算出したコイル抵抗値から固定子コイルの温度を推定してもよい。例えば、U相固定子コイルのコイル抵抗値Reは、下記(8)式で表される。下記(8)式におけるVpuは、U相の相電圧を示し、ωは電源角周波数を示し、L1uは一次インダクタンスを示し、Lは二次インダクタンスを示す。pは電動機91の極数を示し、TMは電動機91のトルクを示す。一次インダクタンスL1uおよび二次インダクタンスLとして、出荷試験時の値を用いればよい。
【0099】
【数8】
・・・(8)
【0100】
電源角周波数ωは、励磁電流指令値Id、トルク電流指令値Iqおよび電動機91の回転数に基づいて電源角周波数ωから求められる。温度取得部22は、図9に示すように、電力変換回路制御部13から、トルク指令値τ、ならびに、励磁電流指令値Id、トルク電流指令値Iq、および電動機91の回転数から求められる電源角周波数ωを取得する。温度取得部22は、トルク指令値τを電動機トルクTMとして用いる。
【0101】
上記(8)式におけるI’は、一次換算電流であって、下記(9)式で表される。下記(9)式におけるIは、U相の相電流を示す。下記(9)式におけるImuは、無負荷電流であって、下記(10)式で表される。下記(10)式におけるrmuは、合成励磁抵抗であって、下記(11)式で表される。下記(10)式におけるxmuは、合成励磁リアクタンスであって、下記(12)式で表される。このとき、誘導電動機のL型等価回路のインピーダンスZは、虚数単位jを用いて、Z=rmu+jxmuで表される。下記(11)および(12)式におけるRは鉄損抵抗を示し、Lは励磁インダクタンスを示す。鉄損抵抗Rおよび励磁インダクタンスLとして、出荷試験時の値を用いればよい。
【0102】
【数9】
・・・(9)
【0103】
【数10】
・・・(10)
【0104】
【数11】
・・・(11)
【0105】
【数12】
・・・(12)
【0106】
温度取得部22は、V相固定子コイルのコイル抵抗値ReおよびW相固定子コイルのコイル抵抗値Reについても、コイル抵抗値Reと同様に算出する。温度取得部22は、下記(13)式に示すように、コイル抵抗値Re,Re,Reから、コイル抵抗平均値Reavgを算出する。
【0107】
【数13】
・・・(13)
【0108】
温度取得部22は、コイル抵抗平均値Reavgを減算した値が最大となるコイル抵抗値Re,Re,Reをコイル抵抗値Reとして用いる。すなわち、温度取得部22は、Re-Reavg,Re-Reavg,Re-Reavgの値が最大となるコイル抵抗値Re,Re,Reをコイル抵抗値Reとして用いる。温度取得部22は、上述のように決定したコイル抵抗値Reから、固定子コイルの温度を推定する。
【0109】
温度取得部22は、誘導電動機のT型等価回路を用いて、コイル抵抗値を算出し、算出したコイル抵抗値から固定子コイルの温度を推定してもよい。
【0110】
固定子コイルの温度を推定する方法は、上述の例に限られない。一例として、温度取得部22は、上記(3)式において、Rei-1の代わりに出荷試験時に測定される一次抵抗値Re0を用い、T’i-1の代わりに出荷試験時に測定される温度Tを用いてもよい。詳細には、温度取得部22は、下記(14)式を用いて、固定子コイルの温度T’を算出してもよい。
【0111】
【数14】
・・・(14)
【0112】
対象期間τの長さは、上述の例に限られず、運転指令S1以外のパラメータに応じて変化してもよい。一例として、対象期間τの長さは、鉄道車両に搭載される機器の稼働状況に応じて変化してもよい。具体的には、鉄道車両に複数の電動機91が搭載されている場合に、電動機91の少なくともいずれかに異常が生じているか否かに応じて耐用期間LTの長さが変化してもよい。例えば、損傷度決定部23は、電動機91の異常を検知する異常検知器から各電動機91の異常の有無を示す情報を取得し、電動機91の少なくともいずれかに異常が生じている場合の対象期間τ=TP4を、電動機91のいずれにも異常が生じていない場合の対象期間τ=TP5より短くすればよい。電動機91のいずれかに異常が生じると、鉄道車両を目標速度で走行させるためには、他の異常が生じていない電動機91の出力を増大させる必要がある。このため、他の異常が生じていない電動機91の温度が上昇する。
【0113】
電動機91の少なくともいずれかに異常が生じているか否かに応じて耐用期間LTの長さが変化することで、損傷度決定部23は、電動機91の固定子コイルの温度が増大し得る場合に、高い頻度で、絶縁部材の温度に対応する耐用期間LTを決定し、耐用期間LTの内、経過した時間を示す損傷度を決定することができる。この結果、対象期間τの経過によって、耐用期間LTの内、経過した時間を精度よく決定することが可能となる。
【0114】
劣化判別装置21の判別対象である絶縁部材はワニスに限られない。一例として、絶縁部材は、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の絶縁性を有する樹脂でもよい。
【0115】
劣化判別装置21は、列車情報管理システムの一機能として実装されてもよい。また、劣化判別装置21は、鉄道車両に搭載されず、例えば運転指令所に設けられてもよい。
【0116】
電動機91は、三相誘導電動機および三相同期電動機のいずれでもよい。さらに、電動機91は、三相電動機に限られず、例えば、単相電動機または直流電動機等でもよい。電動機91は、インナーローターでもアウターローターでもよい。
【0117】
劣化判別装置21は、図10に示すように、処理回路71で実現されてもよい。処理回路71は、インターフェース回路72を介して、電圧検出回路14、電流検出回路15、出力先装置31等、に接続される。処理回路71が専用のハードウェアである場合、処理回路71は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものである。劣化判別装置21の各部がそれぞれ個別の処理回路71で実現されてもよいし、劣化判別装置21の各部は共通の処理回路71で実現されてもよい。
【0118】
劣化判別装置21の各機能の一部が専用のハードウェアで実現され、他の一部がソフトウェアまたはファームウェアで実現されてもよい。例えば、温度取得部22は図10に示す処理回路71で実現され、損傷度決定部23および判別部24は図2に示すプロセッサ61がメモリ62に格納されたプログラムを読み出して実行することで実現されてもよい。
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
導体を覆う絶縁部材の温度を取得する温度取得部と、
対象期間ごとに、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度に対応する前記耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定する損傷度決定部と、
前記対象期間ごとに決定された前記損傷度の累積値である累積損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する判別部と、
を備える劣化判別装置。
(付記2)
前記判別部は、前記導体の使用開始時点から前記対象期間ごとに決定された前記損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する、
付記1に記載の劣化判別装置。
(付記3)
前記損傷度決定部は、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度に応じた前記耐用期間に対する前記対象期間の比率である前記損傷度を決定する、
付記1または2に記載の劣化判別装置。
(付記4)
前記対象期間は、前記導体の熱時定数に比べて短い時間である、
付記3に記載の劣化判別装置。
(付記5)
前記絶縁部材の温度と前記耐用期間との関係は、前記温度が高くなると前記耐用期間が短くなる関係を示す、
付記1から4のいずれかに記載の劣化判別装置。
(付記6)
前記温度取得部は、前記導体の温度を取得し、取得した前記導体の温度を前記絶縁部材の温度として用いる、
付記1から5のいずれかに記載の劣化判別装置。
(付記7)
前記温度取得部は、前記導体に流れる電流および前記導体の電位から前記導体の抵抗値を推定し、推定した前記抵抗値から前記導体の温度を推定し、推定した前記導体の温度を前記絶縁部材の温度として用いる、
付記6に記載の劣化判別装置。
(付記8)
前記温度取得部は、異なるタイミングで得た前記絶縁部材の温度の移動平均値を算出し、前記移動平均値を前記絶縁部材の温度として用いる、
付記6または7に記載の劣化判別装置。
(付記9)
前記損傷度決定部は、前記対象期間ごとに、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度を増大させる補正を行って、補正を行った前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記耐用期間との関係から、前記損傷度を決定する、
付記1から8のいずれかに記載の劣化判別装置。
(付記10)
導体を覆う絶縁部材の温度を取得する温度取得部と、
対象期間ごとに、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度を増大させる補正を行って、補正を行った前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、補正された前記絶縁部材の温度に対応する前記耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定する損傷度決定部と、
前記対象期間ごとに決定された前記損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する判別部と、
を備える劣化判別装置。
(付記11)
前記温度取得部は、鉄道車両に搭載される機器に用いられる前記導体を覆う前記絶縁部材の温度を取得する、
付記1から10のいずれかに記載の劣化判別装置。
(付記12)
前記損傷度決定部は、前記鉄道車両の運転指令に応じて長さが変化する前記対象期間ごとに前記損傷度を決定する、
付記11に記載の劣化判別装置。
(付記13)
鉄道車両に搭載される機器に用いられる導体を覆う絶縁部材の温度を取得する温度取得部と、
前記鉄道車両の運転指令に応じて長さが変化する対象期間ごとに、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、前記温度取得部で取得された前記絶縁部材の温度に対応する前記耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定する損傷度決定部と、
前記対象期間ごとに決定された前記損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する判別部と、
を備える劣化判別装置。
(付記14)
前記損傷度決定部は、前記機器の稼働状況に応じて長さが変化する前記対象期間ごとに前記損傷度を決定する、
付記11から13のいずれかに記載の劣化判別装置。
(付記15)
前記温度取得部は、前記鉄道車両に搭載され、前記鉄道車両の推進力を生じさせる複数の電動機がそれぞれ有する前記導体を覆う前記絶縁部材の温度を取得し、
前記損傷度決定部は、前記電動機の異常の有無に応じて長さが変化する前記対象期間ごとに前記損傷度を決定する、
付記11から14のいずれかに記載の劣化判別装置。
(付記16)
導体を覆う絶縁部材の温度を取得し、
対象期間ごとに、取得した前記絶縁部材の温度および前記絶縁部材の温度と前記絶縁部材を使用することができる期間を示す耐用期間との関係から、取得した前記絶縁部材の温度に対応する前記耐用期間の内、経過した時間を示す損傷度を決定し、
前記対象期間ごとに決定された前記損傷度の累積値である累積損傷度に基づいて前記絶縁部材の劣化の程度を判別する、
劣化判別方法。
【0119】
本開示は、本開示の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この開示を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。すなわち、本開示の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の開示の意義の範囲内で施される様々な変形が、この開示の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0120】
11 電力変換装置、11a,11b 入力端子、12 電力変換回路、13 電力変換回路制御部、14,16 電圧検出回路、15,17 電流検出回路、21 劣化判別装置、22 温度取得部、23 損傷度決定部、24 判別部、31 出力先装置、60 バス、61 プロセッサ、62 メモリ、63 インターフェース、71 処理回路、72 インターフェース回路、91 電動機、C1 コンデンサ、L1 リアクトル、S1 運転指令、S2 電力変換制御信号。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10