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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】回転機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20241206BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024521438
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2022020584
(87)【国際公開番号】W WO2023223436
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2024-08-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】寺本 晃大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊毅
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特許第5069306(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/239657(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121237(WO,A1)
【文献】特開2019-028765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機に流れる回転機電流を検出する電流検出部と、
前記回転機電流に基づいて、前記回転機の回転子の位置情報である回転子位置の推定値を演算する位置推定部と、
前記回転機電流の検出値と前記回転子位置の推定値とに基づいて、前記回転機を駆動するための回転機電圧の指令値である第1の電圧指令を生成する電流制御部と、
記回転子位置を推定するための位置推定用電圧であって、前記第1の電圧指令よりも周波数の高い高周波電圧を生成すると共に、前記回転子の磁気飽和と相関性のある物理量に基づいて前記高周波電圧の電圧振幅を決定する位置推定用電圧生成部と、
前記第1の電圧指令に前記位置推定用電圧を重畳させた第2の電圧指令に基づいて前記回転機に駆動用の電圧を印加する電圧印加器と、
を備えたことを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記物理量は、前記電流制御部に付与するトルク軸電流指令である
ことを特徴とする請求項1に記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記物理量は、前記電流制御部に付与するトルク軸電流指令及び励磁軸電流指令である
ことを特徴とする請求項1に記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記位置推定用電圧生成部は、
記高周波電圧の電圧振幅を決定するための係数値を演算する高周波振幅演算器を備え、
前記係数値を使用して前記位置推定用電圧を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
回転機に流れる回転機電流を検出する電流検出部と、
前記回転機電流に基づいて、前記回転機の回転子の位置情報である回転子位置の推定値を演算する位置推定部と、
前記回転機電流の検出値と前記回転子位置の推定値とに基づいて、前記回転機を駆動するための回転機電圧の指令値である第1の電圧指令を生成する電流制御部と、
前記回転子の磁気飽和と相関性のある物理量に基づいて、前記回転子位置を推定するための位置推定用電圧であって、前記第1の電圧指令よりも周波数の高い高周波電圧を生成する位置推定用電圧生成部と、
前記第1の電圧指令に前記位置推定用電圧を重畳させた第2の電圧指令に基づいて前記回転機に駆動用の電圧を印加する電圧印加器と、
を備え、
前記位置推定用電圧生成部は、
前記物理量に基づいて前記高周波電圧の電圧振幅を決定するための係数値を演算し、前記係数値を使用して前記位置推定用電圧を生成し、
前記係数値は、前記物理量に対して負の相関関係がある
ことを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項6】
回転機に流れる回転機電流を検出する電流検出部と、
前記回転機電流に基づいて、前記回転機の回転子の位置情報である回転子位置の推定値を演算する位置推定部と、
前記回転機電流の検出値と前記回転子位置の推定値とに基づいて、前記回転機を駆動するための回転機電圧の指令値である第1の電圧指令を生成する電流制御部と、
前記回転子の磁気飽和と相関性のある物理量に基づいて、前記回転子位置を推定するための位置推定用電圧であって、前記第1の電圧指令よりも周波数の高い高周波電圧を生成する位置推定用電圧生成部と、
前記第1の電圧指令に前記位置推定用電圧を重畳させた第2の電圧指令に基づいて前記回転機に駆動用の電圧を印加する電圧印加器と、
を備え、
前記位置推定用電圧生成部は、
前記物理量に基づいて前記高周波電圧の電圧振幅を決定するための係数値を演算し、前記係数値を使用して前記位置推定用電圧を生成し、
前記回転子位置の推定値に関し、所望の検出精度が得られない場合には、前記係数値を増加方向に制御する
ことを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項7】
前記電流制御部は、前記回転機電流の検出値に含まれる高調波重畳成分を除去して基本波成分を抽出する基本波成分抽出器を備え、
前記基本波成分抽出器の出力と前記回転子位置の推定値とに基づいて前記第1の電圧指令を生成する
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の回転機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転子位置を検出する位置センサを用いることなく回転子位置情報を得て制御する、回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機の性能を十分に引き出して駆動するには、回転子の位置情報が必要である。そのため、回転機に取付けられた位置センサで検出された位置情報を用いて、回転機を駆動することが行われてきた。一方、近年においては、回転機の製造コストのより一層の低減、回転機の小型化、及び回転機の信頼性の向上といった観点から、位置センサレスで回転機を駆動する技術が開発されてきた。
【0003】
回転機の位置センサレス制御では、速度領域に応じて回転機の誘起電圧より回転機の回転子位置を推定する方法と、突極性を利用して回転機の回転子位置を推定する方法とが併用、或いは使い分けられる。前者は位置推定に必要な誘起電圧が十分に得られる高速域において用いられ、後者は、十分な誘起電圧が得られない低速域において用いられる。
【0004】
後者のように突極性を利用して回転機の回転子位置を推定する従来技術として、例えば下記特許文献1には、基本周波数より高い周波数の高周波電圧を駆動電圧に重畳して回転機に印加する技術が開示されている。具体的に、この特許文献1では、軌跡が楕円となる高周波電流ベクトルを正相電流ベクトルと鏡相電流ベクトルとに分離し、2つのベクトルの間の中間角度を算出することで回転子位置を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-171799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の技術を用いても、回転機の突極比が構造的に小さい場合、回転機電流によっては、高周波電流ベクトルの軌跡が明確な楕円とはならないので、回転子位置の検出精度が低下するという問題が残る。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、回転機の突極比が構造的に小さい場合であっても、回転子位置の検出精度の低下を抑制可能な回転機の制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係る回転機の制御装置は、電流検出部と、位置推定部と、電流制御部と、位置推定用電圧生成部と、電圧印加器とを備える。電流検出部は、回転機に流れる回転機電流を検出する。位置推定部は、回転機電流に基づいて、回転機の回転子の位置情報である回転子位置の推定値を演算する。電流制御部は、回転機電流の検出値と回転子位置の推定値とに基づいて、回転機を駆動するための回転機電圧の指令値である第1の電圧指令を生成する。位置推定用電圧生成部は、回転子の磁気飽和と相関性のある物理量に基づいて、回転子位置を推定するための位置推定用電圧であって、第1の電圧指令よりも周波数の高い高周波電圧を生成する。電圧印加器は、第1の電圧指令に位置推定用電圧を重畳させた第2の電圧指令に基づいて回転機に駆動用の電圧を印加する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る回転機の制御装置によれば、回転機の突極比が構造的に小さい場合であっても、回転子位置の検出精度の低下を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る回転機の制御装置の構成例を示す図
図2図1の位置推定用電圧生成部から出力される高周波電圧の波形の一例を示す図
図3】実施の形態1で想定するリラクタンス型の回転機における回転子コアの構造の説明に使用する断面図
図4】一般的なリラクタンス型の回転機におけるインダクタンスの変化を示す図
図5図3に示す回転子コアを有する回転機に高周波電流を流したときの電流ベクトル軌跡の一例を示す図
図6】基本波電流の成分が小さいときの高周波電流の成分によって生じる磁束の流れを図3に示す回転子コアに示した図
図7】実施の形態1に係る高周波ブースト制御において用いられる係数値テーブルの一例を示す図
図8】実施の形態1に係る高周波ブースト制御による効果の説明に供する第1の図
図9】実施の形態1に係る高周波ブースト制御による効果の説明に供する第2の図
図10】実施の形態2に係る回転機の制御装置の構成例を示す図
図11】実施の形態1及び実施の形態2に係る制御装置の各機能を実現する第1のハードウェア構成例を示す図
図12】実施の形態1及び実施の形態2に係る制御装置の各機能を実現する第2のハードウェア構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る回転機の制御装置について詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る回転機の制御装置(以下、適宜「制御装置」と略す)100の構成例を示す図である。実施の形態1に係る制御装置100は、電流検出部2と、電圧印加器3と、位置推定部4と、電流制御部5と、直流電源12と、位置推定用電圧生成部30とを備えて構成される。図1において、電流制御部5は電流制御系の制御器であり、位置推定部4及び位置推定用電圧生成部30は回転子位置推定系の制御器である。
【0013】
回転機1は、制御装置100によって駆動される機器である。回転機1は、固定子1aと、固定子1aの内側に配置される回転子1bとを有する。本稿では、回転機1の一例として、リラクタンス型の回転機を想定するが、これに限定されない。回転機1は、例えば埋込磁石型の回転機でもよい。
【0014】
直流電源12は、電圧印加器3に直流電力を供給する。回転機1がモータである場合、電圧印加器3は、印加される直流電圧Vdcを使用してモータ駆動用の交流電圧を生成し、生成した交流電圧をモータに印加する。
【0015】
電流検出部2は、電圧印加器3と回転機1との間に流れる回転機電流i,i,iを検出する。回転機電流i,i,iは、固定子1aの各相、即ちu相、v相及びw相に流れる固定子電流である。電流検出部2の各相には、電流検出器が配置される。電流検出器の一例は、変流器である。なお、図1において、電流検出部2は、三相の電流の全てを検出しているが、これに限定されない。三相のうちの任意の二相分の電流を検出し、残りの一相は回転機電流i,i,iが三相平衡であることを利用して演算により求めてもよい。或いは、図1の電流検出部2に代えて、電圧印加器3と直流電源12とを接続する直流母線に流れる母線電流を検出し、その母線電流から回転機電流i,i,iを演算で求めてもよい。
【0016】
位置推定部4は、回転機電流i,i,iに基づいて回転子1bの位置情報である回転子位置の推定値θを演算する。電流制御部5は、回転機電流i,i,iの検出値と回転子位置の推定値θとに基づいて、回転機1を駆動するための回転機電圧の指令値である第1の電圧指令V ,V ,V を生成する。位置推定用電圧生成部30は、q軸電流指令i に基づいて、第1の電圧指令V ,V ,V よりも周波数の高い高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhを生成する。高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhは、回転子位置を推定するための位置推定用電圧である。電流制御部5は、第1の電圧指令V ,V ,V に高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhを重畳し、重畳した電圧を第2の電圧指令Vup ,Vvp ,Vwp として電圧印加器3に出力する。電圧印加器3は、第2の電圧指令Vup ,Vvp ,Vwp に基づいて駆動用の電圧を生成して、回転機1に印加する。なお、本稿において、電圧印加器3は、2レベルの三相インバータを想定するが、これに限定されない。本稿において、電圧印加器3は、3レベルの三相インバータであってもよいし、多相の2レベル又は3レベルのインバータであってもよい。
【0017】
電流制御部5は、減算器13d,13q、d軸電流制御器14d、q軸電流制御器14q、第1座標変換器15、二相三相変換器16、第2座標変換器17、三相二相変換器18及び加算器23u,23v,23wを備えている。
【0018】
減算器13dは、d軸電流指令i と第2座標変換器17から出力されるd軸電流iとの偏差Δiを演算する。次段のd軸電流制御器14dは、偏差Δiが零となるように比例積分制御することによりd軸電圧指令V を演算する。減算器13qは、q軸電流指令i と第2座標変換器17から出力されるq軸電流iとの偏差Δiを演算する。次段のq軸電流制御器14qは、偏差Δiが零となるように比例積分制御することによりq軸電圧指令V を演算する。d軸電流指令i は回転機1を駆動するためのd軸電流の指令値であり、q軸電流指令i は回転機1を駆動するためのq軸電流の指令値である。d軸電流指令i 及びq軸電流指令i は、共に電流制御部5の外部から与えられる。
【0019】
第1座標変換器15は、d軸電流制御器14d及びq軸電流制御器14qからそれぞれ出力されるd軸電圧指令V 及びq軸電圧指令V を、静止二軸座標上の電圧指令Vα ,Vβ にそれぞれ変換する。二相三相変換器16は、第1座標変換器15から出力される電圧指令Vα ,Vβ を三相交流座標の駆動電圧指令である第1の電圧指令V ,V ,V に変換する。なお、第1座標変換器15の処理には、位置推定部4から出力される回転子位置の推定値θが用いられる。
【0020】
三相二相変換器18は、電流検出部2より検出された回転機電流i,i,iを静止二軸座標上のα軸電流iα及びβ軸電流iβに変換する。第2座標変換器17は、三相二相変換器18から出力されるα軸電流iα及びβ軸電流iβを、位置推定部4から出力される回転子位置の推定値θと同期して回転する回転座標上のd軸電流i及びq軸電流iに変換して、減算器13d,13qにそれぞれ出力する。
【0021】
二相三相変換器16から出力される第1の電圧指令V ,V ,V と、位置推定用電圧生成部30から出力される高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhとは、それぞれ加算器23u,23v,23wで加算される。加算器23u,23v,23wの各出力は、第2の電圧指令Vup ,Vvp ,Vwp として電圧印加器3に印加される。従って、電圧印加器3に印加される第2の電圧指令Vup ,Vvp ,Vwp には、第1の電圧指令V ,V ,V に対して位置推定用電圧指令である高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhが重畳されている。なお、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhの詳細については、後述する。
【0022】
位置推定部4は、電流抽出器6u,6v,6w、高周波電流振幅演算部7及び位置演算器8を備えている。前述したように、電圧印加器3に印加される第2の電圧指令Vup ,Vvp ,Vwp には、二相三相変換器16が出力する第1の電圧指令V ,V ,V に対して、位置推定用電圧生成部30が出力する高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhが重畳されている。このため、電流検出部2で検出される回転機電流i,i,iには、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhと同一の周波数成分の高周波電流iuh,ivh,iwhが含まれている。
【0023】
そこで、各々の電流抽出器6u,6v,6wは、電流検出部2で検出された回転機電流i,i,iから、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhと同一の周波数成分の高周波電流iuh,ivh,iwhを抽出する。高周波電流iuh,ivh,iwhの抽出には、バンドパスフィルタ又はノッチフィルタを用いることができる。なお、ノッチフィルタを用いる場合には、回転機電流i,i,iをノッチフィルタに入力して高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhと同一の周波数成分を減衰させる。そして、回転機電流i,i,iからノッチフィルタ通過後の各電流をそれぞれ差し引くことにより、高周波電流iuh,ivh,iwhを抽出することができる。
【0024】
高周波電流振幅演算部7は、乗算器9u,9v,9w、積分器10u,10v,10w及び平方根算出器22u,22v,22wを備えている。これらの構成部は、各相に対応して設けられている。
【0025】
乗算器9u,9v,9wでは、高周波電流iuh,ivh,iwhを二乗することで自己相関値が求められる。積分器10u,10v,10wでは、積分1周期の時間Tnで積分処理が行われ、その積分値に(2/Tn)が乗じられて出力される。平方根算出器22u,22v,22wでは、積分器10u,10v,10wの各出力の平方根を演算することで、位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhが求められる。
【0026】
なお、図1の高周波電流振幅演算部7では、高周波電流iuh,ivh,iwhの自己相関値を積分し、その平方根を演算することで位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhを求めているが、これに限定されない。高周波電流iuh,ivh,iwhの自己相関値をローパスフィルタに通すことで位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhを求めてもよい。
【0027】
位置演算器8は、高周波電流振幅演算部7により演算された位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhに基づいて、回転子位置の推定値θを演算する。回転子位置の推定値θの演算には公知の手法を用いることとし、ここでの詳細な説明は省略する。なお、具体的な算出手順は、例えば特許第5324646号公報に開示されており、当該公報の内容を参照されたい。
【0028】
次に、位置推定用電圧生成部30から出力される高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhについて説明する。図2は、図1の位置推定用電圧生成部30から出力される高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhの波形の一例を示す図である。なお、図2の波形は、電圧印加器3が三角波比較のPWM(Pulse Width Modulation)インバータを備えている場合の例である。
【0029】
図2の横軸は時間を表している。また、図2には、上から順に、三角波キャリア、u相の高周波電圧Vuh、v相の高周波電圧Vvh、w相の高周波電圧Vwhの波形が示されている。高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhの1周期Thは、三角波キャリアの半周期Tcを1区間としたとき、6区間(=6・Tc)で1周期となるような信号である。図2の例では、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhは、三相平衡とするために、各相相互間で2区間(=2・Tc)ずつずらされて設定されている。なお、図2は一例であり、この例に限定されない。高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhが三相平衡となる波形であれば、どのような波形でもよい。
【0030】
図1に戻り、位置推定用電圧生成部30について説明する。位置推定用電圧生成部30は、高周波振幅演算器31と、高周波電圧発生器32とを備えて構成される。高周波振幅演算器31には、q軸電流指令i の情報が入力される。高周波振幅演算器31は、q軸電流指令i に基づいて、係数値Wを選択又は演算する。係数値Wは、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhの電圧振幅を決定するために設定される正の実数値である。係数値Wの選択には、係数値Wが格納されたテーブルを用いることができる。或いは、テーブルを用いずに、関数計算によって係数値Wを演算してもよい。
【0031】
また、q軸電流指令i は、回転子1bの磁気飽和と相関性のある物理量の一例である。回転子1bの磁気飽和と相関性のある物理量であれば、q軸電流指令i 以外でもよい。回転子1bの磁気飽和と相関性のある物理量の他の例は、q軸電流i、q軸電圧指令V などである。なお、d軸電流指令i 、d軸電流i、d軸電圧指令V なども、回転子1bの磁気飽和と相関性のある物理量になり得る。
【0032】
高周波電圧発生器32は、係数値Wを使用して、前述した高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhを生成する。高周波電圧発生器32の動作については、以下に示す幾つかの数式を用いて説明する。
【0033】
高周波電圧発生器32の動作を説明するにあたり、高周波電流を表す数式を導出する。まず、静止座標であるαβ軸上における回転機1の電圧方程式は、以下の(1)式で表される。
【0034】
【数1】
【0035】
上記(1)式において、iα,iβは、前述したα軸電流及びβ軸電流である。また、Vα,Vβは、それぞれα軸電圧及びβ軸電圧を表している。また、R,Kは、それぞれ固定子抵抗及び誘起電圧係数を表している。また、Lα,Lβ,Lαβ,L,Lは、それぞれα軸インダクタンス、β軸インダクタンス、αβ軸間の相互インダクタンス、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを表している。また、Lは上記(1)式の第5式で定義され、Lは上記(1)式の第6式で定義される。また、pは微分演算子を意味する。
【0036】
上記(1)式は、回転機1がリラクタンス型の同期機である場合に適用可能である。なお、回転機1が磁石を有さないリラクタンス型の同期機である場合には、上記(1)式における誘起電圧係数Kがゼロになるので、誘起電圧係数Kを含む上記(1)式の第2項を省略することができる。また、上記(1)式において、高周波成分のみを考慮すると、以下の(2)式が得られる。
【0037】
【数2】
【0038】
上記(2)式において、Vαh,Vβh,iαh,iβhは、それぞれα軸電圧、β軸電圧、α軸電流及びβ軸電流の高周波成分を表している。なお、上記(1)式から上記(2)式への変形について、磁石を使用しない同期リラクタンスモータにおいても同様の式が得られる。このため、上記(2)式が、埋込磁石型の回転機に限定されないことは言うまでもない。
【0039】
上記(2)式を電流微分項について解くと、以下の(3)式が得られる。
【0040】
【数3】
【0041】
また、αβ軸上における高周波電圧Vα,Vβを以下の(4)式で定義する。
【0042】
【数4】
【0043】
上記(4)式において、Vhαβは、αβ軸上における高周波電圧振幅を表し、ωはαβ軸上における角周波数を表している。なお、角周波数は「角速度」とも呼ばれる。
【0044】
上記(4)式を三相座標上で表現すると、以下の(5)式で示されるデフォルトの高周波電圧Vuh1,Vvh1,Vwh1が得られる。
【0045】
【数5】
【0046】
高周波電圧発生器32は、高周波振幅演算器31で算出された係数値Wを使用し、デフォルトの高周波電圧Vuh1,Vvh1,Vwh1に係数値Wを乗算することで、以下の(6)式に示される高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhを生成する。
【0047】
【数6】
【0048】
次に、リラクタンス型同期機における回転子1bを構成する回転子コアの構造について説明する。図3は、実施の形態1で想定するリラクタンス型の回転機における回転子コア50の構造の説明に使用する断面図である。図3において、回転子コア50は、板材である電磁鋼板を、複数枚積層して構成される。回転子コア50の内径側には、シャフト51が嵌合している。回転子コア50は、環状の薄板であるコア断片53を積層した積層体で形成される。コア断片53は、薄鋼板である電磁鋼板をプレス加工機で打ち抜くことにより作成することができる。回転機1を組み立てた状態において、回転子コア50を構成する薄板の積層方向は、シャフト51の軸方向と同じ方向である。
【0049】
複数のコア断片53が積層された回転子コア50には、フラックスバリアをなす複数のスリット52が形成されている。スリット52は、シャフト51が嵌合する軸孔側に凸の円弧形状であり、q軸を中心にして一方のd軸側から他方のd軸側へ向けて形成されている。回転子コア50において、d軸は相対的に磁束を通過させやすい軸であり、q軸は相対的に磁束を通過させにくい軸である。d軸とq軸とは、磁気的及び電気的に直交している。
【0050】
複数のスリット52からなるスリット群54は、回転子コア50の円周方向に間隔を空けて極数分形成されている。図3は、回転子1bが4極である場合の例であり、図3には、4極分のスリット群54が形成されている。
【0051】
回転子コア50は、回転機1が回転する場合の遠心力に耐えるだけの強度を有していなければならない。このため、最外周に位置するスリット52には、強度部材として作用するセンターリブ55aが形成されている。また、最外周以外の各スリット52には、センターリブ55aに加え、同じく強度部材として作用する2つのサイドリブ55bが形成されている。センターリブ55a及びサイドリブ55bは、薄鋼板を打ち抜いてスリット52を形成する際に、センターリブ55a及びサイドリブ55bの部分を打ち残すことにより形成することができる。なお、図3に示すセンターリブ55a及びサイドリブ55bの配置は一例であり、これらの配置に限定されない。所望の強度が得られる構造であれば、どのような配置でもよい。
【0052】
また、回転子コア50において、各々スリット群54と回転子コア50の外周側の縁部56との間にはスリットが形成されない円環状の部位が存在する。本稿では、この部位を「円環部」と呼ぶ。回転子コア50において、円環部も強度部材として作用する。なお、本稿では、強度部材として作用する、センターリブ55a、サイドリブ55b、円環部などの強度部材を総称して、「ブリッジ部」と呼ぶことがある。
【0053】
上記した(1)式の第5式及び第6式には、d軸インダクタンスLと、q軸インダクタンスLとが含まれている。図4は、一般的なリラクタンス型の回転機におけるインダクタンスの変化を示す図である。横軸は回転子位置を表し、縦軸はインダクタンスの大きさを表している。
【0054】
一般的なリラクタンス型の回転機では、電気角に応じてインダクタンスが変化する。具体的には、図4に示すように、電気角1回転の間にインダクタンスの極大値と極小値とがそれぞれ2回表れる特性となる。インダクタンスの極大値がd軸インダクタンスLであり、インダクタンスの極小値がq軸インダクタンスLである。即ち、d軸インダクタンスLq軸インダクタンスLよりも大きい。ここで、d軸インダクタンスLに対するq軸インダクタンスLの比を突極比と定義すれば、突極比L/Lは1よりも大きな値となっている。これは、回転機1に流れる電流のうちのd軸電流iによる鎖交磁束よりも、q軸電流iによる鎖交磁束の方が大きくなるように、回転機1が構成されているからである。
【0055】
図5は、図3に示す回転子コア50を有する回転機に高周波電流を流したときの電流ベクトル軌跡の一例を示す図である。図5の横軸はd軸電流iを表し、縦軸はq軸電流iを表している。図5に示すように、回転機1に流れるq軸電流iが比較的大きい場合、電流ベクトル軌跡は楕円形状になる。一方、回転機1に流れるq軸電流iが小さい場合、左下に示されるように、電流ベクトル軌跡は楕円形状にはならず、ほぼ円形形状である。電流ベクトル軌跡の中心は、回転機1に流れる電流のうちの基本波電流の成分を表し、電流ベクトル軌跡の各プロットにおける中心からの距離は、回転機1に流れる電流のうちの高周波電流の成分を表している。従って、q軸電流iが小さい領域は、回転機1に付与するトルク指令が小さいことを意味している。
【0056】
電流ベクトル軌跡が楕円形状である場合、楕円の長軸の方向と短軸の方向とから、回転子位置の検出が可能である。これに対し、電流ベクトル軌跡が楕円形状ではない場合、長軸及び短軸の区別が困難であるので、回転子位置を精度よく検出することはできない。この理由については、図6を参照して説明する。図6は、基本波電流の成分が小さいときの高周波電流の成分によって生じる磁束の流れを図3に示す回転子コア50に示した図である。
【0057】
図6において、実線の矢印線は、q軸電流iに含まれる高周波電流の成分によって生じ得る磁束の流れを表している。本稿では、この磁束成分を便宜的に「トルク磁束」と呼ぶ。また、破線の矢印線は、d軸電流iに含まれる高周波電流の成分によって生じ得る磁束の流れを表している。本稿では、この磁束成分を便宜的に「励磁磁束」と呼ぶ。前述したように、図3に示す回転子コア50は突極性を有する構造である。このため、基本波電流の成分が大きい定常運転時においては、回転子コア50のブリッジ部は、十分に磁気飽和するので、実線の矢印で示すq軸磁束は小さくなる。これに対し、基本波電流の成分が小さい場合、ブリッジ部における磁気飽和の程度は低くなるので、ブリッジ部を通過するトルク磁束は、あまり減衰しない。このため、ブリッジ部を通過するトルク磁束が大きくなり、励磁磁束との差が小さくなって突極性が表れなくなる。
【0058】
前述した、図1に示す実施の形態1に係る制御装置100は、上記の突極性に関する問題が解消されるように構成されている。具体的に、制御装置100は、回転子位置の推定値θに関し、所望の検出精度が得られない場合には、高周波振幅演算器31によって演算される係数値Wを増加方向に制御して、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhの電圧振幅を大きくする制御を行う。本稿では、この制御を、便宜的に「高周波ブースト制御」と呼ぶ。
【0059】
ここで、高周波電流がない場合を考えると、基本波電流が小さい場合には、その磁束成分はブリッジ部を容易に通過する。ブリッジ部の幅を狭くすれば、磁束の通過量は減るが回転子コア50の強度が小さくなってしまう。また、基本波電流を大きくすれば、ブリッジ部の部位は磁気飽和する。しかしながら、この手法の場合、不必要な電流を流すことになり効率が悪化すると共に、不必要なトルクを回転機1に与えることになるので、動作的にも好ましくない。これに対し、高周波電流を大きくすれば、基本波電流の大きさを変えることなく、ブリッジ部を磁気飽和させることができる。これにより、基本波電流によって突極性が表れ難くなるという性質を、制御によって解決することが可能となる。
【0060】
具体的な処理は、前述の通りであり、高周波振幅演算器31で係数値Wを算出し、デフォルトの高周波電圧Vuh1,Vvh1,Vwh1に係数値Wを乗算することで、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhを生成する。また、係数値Wの算出には、テーブルを用いることができる。図7は、実施の形態1に係る高周波ブースト制御において用いられる係数値テーブルの一例を示す図である。
【0061】
図7において、係数値テーブルの表頭には、設定可能なd軸電流指令i の電流値id1 ,id2 ,id3 ,…,idM が示され、係数値テーブルの表側には、設定可能なq軸電流指令i の電流値iq1 ,iq2 ,iq3 ,…,iqN が示されている。電流値id1 ,id2 ,id3 ,…,idM 間の間隔である刻み幅は、等間隔である必要はなく、不等間隔でもよい。電流値iq1 ,iq2 ,iq3 ,…,iqN についても同様である。
【0062】
係数値テーブルには、d軸電流指令i とq軸電流指令i との関係で定まる係数値Wの値(Wh11,Wh12,Wh13,…,Wh1M,Wh21,Wh22,Wh23,…,Wh2M,Wh31,Wh32,Wh33,…,Wh3M,…,WhN1,WhN2,WhN3,…,WhNM)が格納されている。なお、電流値iq1 ,iq2 ,iq3 ,…,iqN がiq1 <iq2 <iq3 <,…,<iqN である場合、Wh11,Wh21,Wh31,…,WhN1との間には、Wh11>Wh21>Wh31>,…,>WhN1の関係がある。即ち、係数値Wは、q軸電流指令i に対して負の相関関係がある。他の列の係数値Wも同様である。また、電流値id1 ,id2 ,id3 ,…,idM がid1 <id2 <id3 <,…,<idM である場合、Wh11,Wh12,Wh13,…,Wh1Mとの間には、Wh11>Wh12>Wh13>,…,>Wh1Mの関係がある。即ち、係数値Wは、d軸電流指令i に対して負の相関関係がある。他の行の係数値Wも同様である。
【0063】
また、係数値テーブルに格納される格納値は、シミュレーションによって求めることができる。なお、全ての格納値をシミュレーションによって求める必要はなく、幾つかのシミュレーション結果の内挿処理、外挿処理又は補間処理による演算処理によって求めてもよい。
【0064】
次に、実施の形態1に係る高周波ブースト制御における係数値Wの選択について説明する。まず、図7の係数値テーブルにおいて、太枠で囲まれた部分をデフォルトとする。ここでは、id1 =0を想定する。高周波振幅演算器31は、q軸電流指令i に基づき、図7の係数値テーブルの太枠の部分を参照して、係数値Wを選択する。例えば、q軸電流指令i の値が「iq3 」であれば、「Wh31」を選択する。q軸電流指令i の値が「iq2 」と「iq3 」との間の値である場合、補間処理によって求めてもよいし、「iq2 」及び「iq3 」のうちの何れか1つを選択してもよい。
【0065】
また、回転子1bの磁気飽和と相関性のある物理量として、q軸電流指令i に加え、d軸電流指令i を用いてもよい。この場合には、図7の係数値テーブルの全体を使用する。例えば、q軸電流指令i の値が「iq3 」であり、d軸電流指令i の値が「id2 」であれば、「Wh32」を選択する。なお、係数値テーブルにない場合は、補間処理等によって求めてもよいことは言うまでもない。
【0066】
次に、実施の形態1に係る高周波ブースト制御による効果について、図8及び図9を参照して説明する。図8は、実施の形態1に係る高周波ブースト制御による効果の説明に供する第1の図である。図9は、実施の形態1に係る高周波ブースト制御による効果の説明に供する第2の図である。
【0067】
図8の横軸はd軸電流iを表し、縦軸はq軸電流iを表している。また、図8の左側には、q軸電流i=0及びd軸電流i=0のときの電流ベクトル軌跡として、係数値Wが、W=0.1、W=0.3及びW=0.5である場合が示されている。また、図8の右側には、同じ3つの係数値Wについて、q軸電流i=0及びd軸電流i>0のときの電流ベクトル軌跡が示されている。なお、係数値Wについては、直流電源12の直流電圧Vdcを基準に定めることができる。なお、係数値Wの基準は、この例には限定されず、どのような基準に基づいて定めてもよい。
【0068】
また、図9には、u相電流及びv相電流の波形と共に、回転子位置の理論値が破線で示され、回転子位置の推定値θが実線で示されている。上段側(a)はW=0.1のときの波形であり、下段側(b)はW=0.3のときの波形である。
【0069】
図8によれば、W=0.1のときには、電流ベクトル軌跡が楕円とはならず、一方、W=0.3及びW=0.5のときには、電流ベクトル軌跡が楕円となっている。また、この傾向は、d軸電流iには依存しないことも示されている。
【0070】
上記の結果は、上述した説明と一致している。例えば、W=0.1のときには、回転子コア50のセンターリブ55a及びサイドリブ55bの部位が磁気飽和しないので、センターリブ55a及びサイドリブ55bを通過するトルク磁束が大きくなり、突極性が表れなくなる。これにより、電流ベクトル軌跡は楕円とはならない。これにより、図9(a)に示されるように、回転子位置の推定値θの波形は不安定なものとなり、十分な推定精度を得ることができない。
【0071】
これに対し、W=0.3及びW=0.5のときには、回転子コア50のセンターリブ55a及びサイドリブ55bの部位が高周波電流によって磁気飽和するので、センターリブ55a及びサイドリブ55bを通過するトルク磁束が小さくなり突極性が表れるので、電流ベクトル軌跡が楕円となる。これにより、図9(b)に示されるように、回転子位置の推定値θの波形は安定なものとなり、十分な推定精度を得ることができる。
【0072】
なお、上記では、図6に示す構造の回転子コア50に対して、実施の形態1に係る高周波ブースト制御を適用した場合の制御及びその動作について説明したが、この例に限定されず、種々の構造の回転子コアへの適用が可能である。また、実施の形態1に係る高周波ブースト制御は、突極比が極めて小さい回転子コアへの適用も可能である。例えば回転子コアの突極比が小さい場合には、その程度に応じてより大きな係数値Wを選択して高周波電圧振幅を設定すれば、回転子位置の検出は可能となる。
【0073】
但し、係数値Wを大きくすることは、回転機電流を増加させることを意味する。このため、回転機1の運転効率と、推定値θの推定精度とはトレードオフの関係にある。このため、推定値θの推定精度を満たす範囲で、可能な限り小さな係数値Wを選択することが望ましい。例えば、図8の例であれば、W=0.3を選択することが望ましい。図7に示すようなテーブルを用いれば、このような係数値Wを選択することが可能となる。
【0074】
以上説明したように、実施の形態1に係る回転機の制御装置によれば、電流制御部は、回転機電流の検出値と回転子位置の推定値とに基づいて回転機を駆動するための回転機電圧の指令値である第1の電圧指令を生成する。そして、位置推定用電圧生成部は、回転子の磁気飽和と相関性のある物理量に基づいて、回転子位置を推定するための位置推定用電圧であって、第1の電圧指令よりも周波数の高い高周波電圧を生成する。これにより、回転機の突極比が構造的に小さい場合であっても、回転子位置の検出精度の低下を抑制することが可能となる。
【0075】
また、上記の構成において、位置推定用電圧生成部は、磁気飽和と相関性のある物理量に基づいて、高周波電圧の電圧振幅を決定するための係数値を演算する高周波振幅演算器を備える。高周波振幅演算器は、係数値を使用して位置推定用電圧を生成する。これにより、制御装置の構成を簡易に実現することが可能となる。
【0076】
なお、上記において、回転子の磁気飽和と相関性のある物理量は、電流制御部に付与するトルク軸電流指令としてもよいし、電流制御部に付与するトルク軸電流指令及び励磁軸電流指令としてもよい。トルク軸電流指令及び励磁軸電流指令は、制御装置の内部で使用されるパラメータであるので、制御装置の構成をより簡易に実現することが可能となる。
【0077】
また、実施の形態1に係る回転機の制御装置によれば、回転子位置の推定値に関し、所望の検出精度が得られない場合には、電圧振幅を決定する係数値を増加方向に制御する。このようにすれば、高周波電流の増加を抑制しつつ、所望の検出精度に対応した係数値の設定が可能となる。
【0078】
また、実施の形態1に係る回転機の制御装置によれば、トルク軸電流及び励磁軸電流がゼロの状態でも、回転子位置の検出を実施できる。これにより、回転機の運転効率を高めつつ、回転子位置の推定を安定的に実施することが可能となる。
【0079】
実施の形態2.
図10は、実施の形態2に係る回転機の制御装置100Aの構成例を示す図である。実施の形態2に係る制御装置100Aと、図1に示す制御装置100とを比較すると、図10では、電流制御部5が電流制御部5Aに置き替えられている。また、電流制御部5Aでは、図1に示す電流制御部5の構成において、基本波電流抽出器11が追加されている。その他の構成は、制御装置100と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付し、重複する説明は割愛する。
【0080】
前述したように、重畳周波数成分と側帯波成分とからなる高周波電流は、電流制御系にとって外乱となるため、電流制御系の応答周波数に対し十分に離れていることが望ましい。その一方で、演算時間の確保及び騒音の低減を目的として、重畳周波数がより低い周波数とされることがあり、電流制御系の応答周波数と重畳周波数とがより接近して設定される場合があり、電流制御系の処理に悪影響を与える。また、前述したように、回転機の回転数が高くなるアプリケーションでは、側帯波成分が広域に分布するようになり、電流制御系の処理に悪影響を与える。
【0081】
そこで、実施の形態2では、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhの印加により生じる高周波電流の影響を除去もしくは低減すべく、基本波電流抽出器11を設ける。基本波電流抽出器11は、図10に示すように、電流検出部2と三相二相変換器18との間、即ち三相二相変換器18の前段に配置される。
【0082】
基本波電流抽出器11は、電流検出部2で検出された回転機電流i,i,iから、高周波電圧Vuh,Vvh,Vwhと同一の周波数成分を除去又は減衰させた基本波電流iuf,ivf,iwfを抽出する。基本波電流iuf,ivf,iwfの抽出には、ローパスフィルタ又はノッチフィルタを用いることができる。三相二相変換器18は、基本波電流iuf,ivf,iwfを入力信号として用い、実施の形態1で説明した処理を行う。以降の処理は、実施の形態1で説明した通りである。
【0083】
実施の形態2に係る制御装置100Aによれば、電流制御系である電流制御部5Aの処理では、電流検出部2で検出された回転機電流i,i,iから、高周波電流iuh,ivh,iwhにおける重畳周波数成分及びその側帯波成分が充分に除去されている。これにより、応答悪化又は不安定化といった電流制御系に与える悪影響を抑止することができる。
【0084】
以上説明したように、実施の形態2に係る回転機の制御装置によれば、基本波成分抽出器は、回転機電流の検出値に含まれる高調波重畳成分を除去して基本波成分を抽出する。そして、電流制御部は、基本波成分抽出器の出力と回転子位置の推定値とに基づいて第1の電圧指令を生成する。これにより、応答悪化又は不安定化といった電流制御系に与える悪影響を確実に抑止できるという効果が得られる。
【0085】
次に、上記で説明した実施の形態1及び実施の形態2に係る制御装置100,100Aにおけるハードウェアの構成について、図11及び図12を参照して説明する。図11は、実施の形態1及び実施の形態2に係る制御装置100,100Aの各機能を実現する第1のハードウェア構成例を示す図である。図12は、実施の形態1及び実施の形態2に係る制御装置100,100Aの各機能を実現する第2のハードウェア構成例を示す図である。なお、制御装置100,100Aの各機能とは、制御装置100,100Aに含まれる、位置推定部4、電流制御部5,5A及び位置推定用電圧生成部30の機能を指している。
【0086】
位置推定部4、電流制御部5,5A及び位置推定用電圧生成部30の各機能は、処理回路を用いて実現することができる。図11では、実施の形態1及び実施の形態2における位置推定部4、電流制御部5,5A及び位置推定用電圧生成部30が専用処理回路40に置き替えられている。専用のハードウェアを利用する場合、専用処理回路40は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。位置推定部4、電流制御部5,5A及び位置推定用電圧生成部30の各機能のそれぞれを処理回路で実現してもよいし、まとめて処理回路で実現してもよい。
【0087】
また、図12では、実施の形態1及び実施の形態2の構成における位置推定部4、電流制御部5,5A及び位置推定用電圧生成部30が、プロセッサ41と、記憶装置42とに置き替えられている。プロセッサ41は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)といった演算手段であってもよい。また、記憶装置42としては、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリを例示することができる。
【0088】
プロセッサ41及び記憶装置42を利用する場合は、位置推定部4、電流制御部5,5A及び位置推定用電圧生成部30の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組合せにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述され、記憶装置42に記憶される。プロセッサ41は記憶装置42に記憶されたプログラムを読みだして実行する。また、これらのプログラムは、位置推定部4、電流制御部5,5A及び位置推定用電圧生成部30の各機能の手順及び方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。記憶装置42には、例えば、ROM、EPROM、EEPROMなどの不揮発性または揮発性の半導体メモリやフレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、DVDなどを利用できる。
【0089】
位置推定部4、電流制御部5,5A及び位置推定用電圧生成部30の各機能は、一部をハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、位置推定用電圧生成部30の機能を専用のハードウェアを用いて実現し、位置推定部4及び電流制御部5,5Aの機能をプロセッサ41及び記憶装置42を用いて実現してもよい。
【0090】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 回転機、1a 固定子、1b 回転子、2 電流検出部、3 電圧印加器、4 位置推定部、5,5A 電流制御部、6u,6v,6w 電流抽出器、7 高周波電流振幅演算部、8 位置演算器、9u,9v,9w 乗算器、10u,10v,10w 積分器、11 基本波電流抽出器、12 直流電源、13d,13q 減算器、14d d軸電流制御器、14q q軸電流制御器、15 第1座標変換器、16 二相三相変換器、17 第2座標変換器、18 三相二相変換器、22u,22v,22w 平方根算出器、23u,23v,23w 加算器、30 位置推定用電圧生成部、31 高周波振幅演算器、32 高周波電圧発生器、40 専用処理回路、41 プロセッサ、42 記憶装置、50 回転子コア、51 シャフト、52 スリット、53 コア断片、54 スリット群、55a センターリブ、55b サイドリブ、56 縁部、100,100A 制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12