(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】フロン冷媒の製造方法、フロン冷媒の貯蔵方法、ヒートポンプ装置の製造方法、および二酸化炭素貯蔵システム
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20241206BHJP
F25B 1/00 20060101ALN20241206BHJP
【FI】
C09K5/04 E ZAB
C09K5/04 C
F25B1/00 396A
(21)【出願番号】P 2024542906
(86)(22)【出願日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2024000534
【審査請求日】2024-07-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】尾中 洋次
(72)【発明者】
【氏名】篠木 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川本 誠
(72)【発明者】
【氏名】足立 理人
(72)【発明者】
【氏名】岸田 七海
(72)【発明者】
【氏名】野村 泰光
(72)【発明者】
【氏名】谷島 誠
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/230045(WO,A1)
【文献】特開2023-122581(JP,A)
【文献】特許第7328470(JP,B1)
【文献】特開2015-120668(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185321(WO,A1)
【文献】特表2007-531732(JP,A)
【文献】国際公開第2005/026090(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤を用いて二酸化炭素を
処理対象気体から回収する工程と、
回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成する工程と、を有
し、
前記フロン冷媒を合成する工程では、前記回収された二酸化炭素と水素から炭化水素を合成し、前記炭化水素と塩素とをラジカル反応させることでジクロロメタンを合成し、前記ジクロロメタンとフッ化水素とを反応させてジフルオロメタンを合成する、
フロン冷媒の製造方法。
【請求項2】
前記二酸化炭素を回収する工程では、再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を回収する、
請求項1に記載のフロン冷媒の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素はメタンである、
請求項
1に記載のフロン冷媒の製造方法。
【請求項4】
前記ジフルオロメタンを成分の1つとして含む混合冷媒を製造する、
請求項
1に記載のフロン冷媒の製造方法。
【請求項5】
前記混合冷媒は、前記ジフルオロメタンとオレフィン系冷媒との混合冷媒である、
請求項
4に記載のフロン冷媒の製造方法。
【請求項6】
前記混合冷媒は、前記ジフルオロメタンとクロロジフルオロメタンとの混合冷媒である、
請求項
4に記載のフロン冷媒の製造方法。
【請求項7】
フロン冷媒を製造する工程と、
前記フロン冷媒
を製造
する工程によって合成されたフロン冷媒をヒートポンプ装置に充填して貯蔵する
工程と、
を有し、
前記フロン冷媒を製造する工程は、
吸着剤を用いて二酸化炭素を処理対象気体から回収する工程と、
回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成する工程と、を有し、
前記フロン冷媒を合成する工程では、前記回収された二酸化炭素と水素から炭化水素を合成し、前記炭化水素と塩素とをラジカル反応させることでジクロロメタンを合成し、前記ジクロロメタンとフッ化水素とを反応させてジフルオロメタンを合成する、
フロン冷媒の貯蔵方法。
【請求項8】
フロン冷媒を製造する工程と、
前記フロン冷媒
を製造
する工程によって合成されたフロン冷媒をヒートポンプ装置に充填して当該ヒートポンプ装置を製造する
工程と、
を有し、
前記フロン冷媒を製造する工程は、
吸着剤を用いて二酸化炭素を処理対象気体から回収する工程と、
回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成する工程と、を有し、
前記フロン冷媒を合成する工程では、前記回収された二酸化炭素と水素から炭化水素を合成し、前記炭化水素と塩素とをラジカル反応させることでジクロロメタンを合成し、前記ジクロロメタンとフッ化水素とを反応させてジフルオロメタンを合成する、
ヒートポンプ装置の製造方法。
【請求項9】
吸着剤を用いて二酸化炭素を
処理対象気体から回収する二酸化炭素回収装置と、
回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成するカーボンリサイクルフロン冷媒合成装置と、
前記フロン冷媒が充填されて貯蔵されるヒートポンプ装置と、を備
え、
前記カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置は、前記回収された二酸化炭素と水素から炭化水素を合成し、前記炭化水素と塩素とをラジカル反応させることでジクロロメタンを合成し、前記ジクロロメタンとフッ化水素とを反応させてジフルオロメタンを合成する、
二酸化炭素貯蔵システム。
【請求項10】
前記二酸化炭素回収装置は、再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を回収する、
請求項
9に記載の二酸化炭素貯蔵システム。
【請求項11】
前記炭化水素はメタンである、
請求項
9に記載の二酸化炭素貯蔵システム。
【請求項12】
前記ヒートポンプ装置に充填されている冷媒は、前記ジフルオロメタンを成分の1つとして含む混合冷媒である、
請求項
9に記載の二酸化炭素貯蔵システム。
【請求項13】
前記混合冷媒は、前記ジフルオロメタンとオレフィン系冷媒との混合冷媒である、
請求項1
2に記載の二酸化炭素貯蔵システム。
【請求項14】
前記混合冷媒は、前記ジフルオロメタンとクロロジフルオロメタンとの混合冷媒である、
請求項1
2に記載の二酸化炭素貯蔵システム。
【請求項15】
前記ヒートポンプ装置は、当該ヒートポンプ装置に充填されている前記フロン冷媒を回収する回収ポートを備える、
請求項
9~1
4のいずれか一項に記載の二酸化炭素貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フロン冷媒の製造方法、フロン冷媒の貯蔵方法、ヒートポンプ装置の製造方法、および二酸化炭素貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、工場排気や工場周りの空気から二酸化炭素を回収するDAC(Direct Air Capture)技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば地球温暖化防止の観点から、前記技術によって回収した二酸化炭素を、大気に放出しないようにする二酸化炭素固定技術も併せて研究されている。しかし、回収した二酸化炭素を地下設備やタンク等に貯蔵することで大気への放出を防ぐ場合には、これらを管理するために膨大な労力とエネルギーが必要となる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記の事情に鑑みて、回収した二酸化炭素を貯蔵し管理するための労力とエネルギーを削減できる、フロン冷媒の製造方法、フロン冷媒の貯蔵方法、ヒートポンプ装置の製造方法、および二酸化炭素貯蔵システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示におけるフロン冷媒の製造方法の一態様は、吸着剤を用いて二酸化炭素を回収する工程と、回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示における前記一態様によれば、吸着剤を用いて、大気や室内空気、工場排気といった処理対象気体から二酸化炭素を回収でき、回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成することができる。フロン冷媒は化学的に安定しており、例えばヒートポンプ装置内において熱媒体として使用されることで、当該ヒートポンプ装置の製造から廃棄までの期間において、合成したフロン冷媒をヒートポンプ装置内に安定に貯蔵することができる。すなわち、回収した二酸化炭素を貯蔵するための地下設備やタンク等を別途用意する必要がないため、回収した二酸化炭素を貯蔵し管理するための労力とエネルギーを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態における二酸化炭素貯蔵システムの概略図である。
【
図2】実施の形態における二酸化炭素貯蔵システムに含まれる二酸化炭素回収装置の概略図である。
【
図3】実施の形態における二酸化炭素貯蔵システムに含まれるカーボンリサイクルフロン冷媒合成装置の概略図である。
【
図4】実施の形態における二酸化炭素貯蔵システムに含まれるヒートポンプ装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施の形態について説明する。なお、本開示の範囲は、以下の実施の形態に限定されず、添付の請求項に示された範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
図1は、本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1の概略図である。
図1に示すように、二酸化炭素貯蔵システム1は、大気や室内空気、工場排気といった処理対象気体から二酸化炭素(CO
2)を回収して貯蔵するシステムである。二酸化炭素貯蔵システム1は、処理対象気体から二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置50と、回収された二酸化炭素からフロン冷媒を合成するカーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60と、合成されたフロン冷媒を熱媒体として使用するヒートポンプ装置70と、を備える。
【0011】
図2は、本実施の形態における二酸化炭素回収装置50の概略図である。
図2に示すように、二酸化炭素回収装置50は、第1供給経路2と、二酸化炭素吸着部3と、第1導出経路4と、再生用流体供給部5と、第2供給経路6と、加熱器7と、減圧器8と、第2導出経路9と、二酸化炭素分離器10と、圧縮機11と、冷却器12と、を備える。
【0012】
第1供給経路2は、二酸化炭素吸着部3の後述する吸着領域31に接続されている。第1供給経路2は、大気や室内空気、工場排気といった処理対象気体を二酸化炭素吸着部3の吸着領域31に導く。第1供給経路2には、処理対象気体を二酸化炭素吸着部3に送るためのブロワ21が設けられている。なお、第1供給経路2に導入される処理対象気体が、ブロワ21を用いずとも二酸化炭素吸着部3まで流動可能である場合は、ブロワ21を設けずともよい。処理対象気体が工場排気などである場合は、処理対象気体から窒素酸化物や煤などを予め除去するための排気ガス処理装置を第1供給経路2に設けてもよい。
【0013】
二酸化炭素吸着部3は、第1領域3Aと第2領域3Bとを備える。第1領域3Aと第2領域3Bはそれぞれ、二酸化炭素を吸着可能な吸着剤と、当該吸着剤を収容する容器とを備える。第1領域3Aの容器と第2領域3Bの容器は、互いに交換可能に構成されている。また、二酸化炭素吸着部3は、処理対象気体に含まれる二酸化炭素を吸着する吸着領域31と、二酸化炭素が吸着された吸着剤を再生する再生領域32と、を備える。なお、本実施の形態において「再生」とは、二酸化炭素が吸着された吸着剤から二酸化炭素を脱離して、当該吸着剤を再び二酸化炭素を吸着可能な状態に戻すことをいう。
図2に示す例では、第1領域3Aが吸着領域31であり、第2領域3Bが再生領域32である。
【0014】
吸着剤としては、アミン、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、珪藻土、アルミナなどが挙げられる。処理対象気体に含まれる二酸化炭素を吸着剤に吸着させることによって、二酸化炭素を処理対象気体の他の成分から分離することができる。吸着剤は、粒状や粉状などであってもよい。粒状は、例えば、ビーズ状(球形)やペレット状(円柱形)などである。粉状の吸着剤を用いる場合、当該吸着剤を基材の表面に担持させてもよい。基材は、ハニカム形状であってもよい。
【0015】
吸着領域31では、処理対象気体に含まれる二酸化炭素の少なくとも一部が吸着剤に吸着されて除去されるため、処理対象気体に比べて二酸化炭素の濃度が低い気体が得られる。
【0016】
再生領域32は、吸着領域31で二酸化炭素を吸着した吸着剤を、再生用流体供給部5が供給する再生用流体F1を用いて再生する。再生領域32は、吸着剤から二酸化炭素を脱離させる機能を有する。再生領域32は、例えば、吸着剤を加熱するヒータなどの加熱装置を備える。加熱装置は、再生用流体F1の存在下で吸着剤を加熱することによって、吸着剤から二酸化炭素を脱離させる。二酸化炭素が脱離することによって吸着剤は再生する。吸着剤から脱離した二酸化炭素を含む再生用流体F1は、再生排出流体F2として再生領域32から排出される。
【0017】
再生領域32は、減圧ポンプなどの減圧装置を備えていてもよい。減圧装置は、吸着剤を減圧下に置くことで、吸着剤からの二酸化炭素の脱離を促す。
【0018】
第1導出経路4は、吸着領域31に接続されている。第1導出経路4には、処理対象気体が吸着領域31を通過することで得られる、二酸化炭素の濃度が低くなった気体が導入される。第1導出経路4は、吸着領域31によって二酸化炭素の濃度が低くなった気体を大気や居住空間などに放出する。処理対象気体が工場排気などである場合は、第1導出経路4に排気ガス処理装置を設けてもよい。
【0019】
再生用流体供給部5は、再生用流体F1の供給源であって、再生用流体F1を二酸化炭素吸着部3の再生領域32に向けて供給する。再生用流体供給部5は、再生用流体F1を貯留するタンクや、再生用流体F1を再生領域32に向けて送り出す吐出ポンプなどを備えていてもよい。再生用流体F1としては、例えば、窒素(N2)、水素(H2)、メタン(CH4)などが挙げられる。本実施の形態の再生用流体F1は気体であるが、液体であってもよい。
【0020】
第2供給経路6は、再生用流体供給部5と、二酸化炭素吸着部3の再生領域32とに接続されている。第2供給経路6は、再生用流体供給部5から供給される再生用流体F1を再生領域32に導く。
【0021】
加熱器7と減圧器8は、第2供給経路6に設けられている。減圧器8は、加熱器7の下流側、すなわち加熱器7と再生領域32との間に設けられている。加熱器7は、例えば熱交換器やヒータなどであって、再生領域32における吸着剤からの二酸化炭素の脱離に適した温度に再生用流体F1を加熱することができる。加熱器7は、例えば、再生領域32における再生用流体F1の温度が90℃~120℃となるように再生用流体F1を加熱することができる。減圧器8は、例えば減圧弁などであって、再生領域32における吸着剤からの二酸化炭素の脱離に適した圧力に再生用流体F1を減圧する。なお、加熱器7と減圧器8は本実施の形態に必須の要素ではなく、これらの一方または両方が第2供給経路6に設けられずともよい。
【0022】
第2導出経路9は、二酸化炭素吸着部3の再生領域32と、二酸化炭素分離器10とに接続されている。第2導出経路9は、再生領域32から排出された再生排出流体F2を二酸化炭素分離器10に導く。
【0023】
二酸化炭素分離器10は、液化分離、膜分離、吸着分離などの分離手法を用いて、再生排出流体F2に含まれる二酸化炭素の少なくとも一部を分離する。二酸化炭素分離器10では、これらの分離手法のうち1つを採用してもよいし、2以上を組み合わせてもよい。
【0024】
液化分離を用いた二酸化炭素分離器10は、例えば、特定の成分を液化させて再生排出流体F2における他の成分(気体)から分離する。具体的には、例えば、高圧かつ低温の条件で二酸化炭素を液化させて他の成分(気体)から分離する。
【0025】
膜分離を用いた二酸化炭素分離器10は、例えば、分子サイズが小さい成分が透過できる分離膜を用いて、特定の成分を他の成分から分離する。具体的には、例えば、二酸化炭素を選択的に透過させる分離膜を用いる。この分離膜は、二酸化炭素と他の成分(窒素、水素、メタンなど)とを含む混合流体(すなわち再生排出流体F2)から二酸化炭素を分離する。分離膜としては、有機系膜(デンドリマー膜など)、および無機系膜(ゼオライト膜、シリカ膜、炭素膜など)が挙げられる。
【0026】
吸着分離を用いた二酸化炭素分離器10は、例えば、特定の成分を吸着剤に吸着させて分離する。吸着剤としては、アミン、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、珪藻土、アルミナなどが挙げられる。具体的には、例えば、二酸化炭素を吸着剤に吸着させることによって、再生排出流体F2における他の成分から分離することができる。
【0027】
二酸化炭素分離器10で再生排出流体F2から分離された二酸化炭素は、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60に供給される。二酸化炭素が分離されることによって二酸化炭素の濃度が低くなった再生排出流体F2は、排出流体F3として、二酸化炭素分離器10から排出される。排出流体F3を再生用流体供給部5に供給して、再び再生用流体F1として利用してもよい。
【0028】
圧縮機11と冷却器12は、第2導出経路9に設けられている。冷却器12は、圧縮機11の下流側、すなわち圧縮機11と二酸化炭素分離器10との間に設けられている。圧縮機11は、二酸化炭素分離器10における再生排出流体F2からの二酸化炭素の分離に適した圧力まで再生排出流体F2の圧力を高めることができる。冷却器12は、例えば熱交換器などであって、圧縮機11による加圧によって高温となった再生排出流体F2の温度を、二酸化炭素分離器10における再生排出流体F2からの二酸化炭素の分離に適した温度まで低下させることができる。なお、圧縮機11と冷却器12は本実施の形態に必須の要素ではなく、これらの一方または両方が第2導出経路9に設けられずともよい。
【0029】
二酸化炭素回収装置50に含まれる機器のうち、少なくともいずれか1つの機器が、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他自然界に存在する熱といった再生可能エネルギーによって駆動されてもよい。すなわち、二酸化炭素回収装置50が、再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を回収するように構成されてもよい。
【0030】
図3は、本実施の形態におけるカーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の概略図である。
図3に示すように、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60は、二酸化炭素回収装置50で回収された二酸化炭素(CO
2)と水素(H
2)から炭化水素を合成する炭化水素合成部15と、当該炭化水素と塩素(Cl
2)とをラジカル反応させることでジクロロメタン(CH
2Cl
2)を合成するジクロロメタン合成部16と、当該ジクロロメタンとフッ化水素(HF)とを反応させてフロン冷媒であるジフルオロメタン(CH
2F
2、冷媒番号:R32)を合成するフロン冷媒合成部17と、を備える。
【0031】
炭化水素合成部15は、二酸化炭素と水素から炭化水素への合成反応を促す触媒と、当該触媒を収容するとともに二酸化炭素回収装置50で回収された二酸化炭素と水素が導入される反応室(反応器)とを備える。炭化水素合成部15で合成される炭化水素は、例えばメタン(CH4)である。炭化水素合成部15における触媒は、例えば、無機材料を用いた固体触媒や菌を用いた生体触媒などが挙げられる。このような触媒を、炭化水素の合成に適した温度とするために、炭化水素合成部15にヒータなどの加熱装置や熱交換器などを用いた冷却装置を設けてもよい。炭化水素合成部15で合成された炭化水素は、ジクロロメタン合成部16に供給される。
【0032】
炭化水素合成部15に供給される水素は、どのような方法で生成してもよいが、水の電気分解によって生成してもよく、この電気分解に再生可能エネルギーを用いてもよい。
【0033】
ジクロロメタン合成部16は、炭化水素合成部15で合成された炭化水素(メタン)と塩素(Cl2)が導入される反応室(反応器)と、当該反応室内を加熱するヒータなどの加熱装置とを備える。ジクロロメタン合成部16に供給される塩素は、どのような方法で生成してもよい。ジクロロメタン合成部16の加熱装置は、炭化水素(メタン)と塩素とをラジカル反応させるために適した温度、例えば、400℃~500℃まで反応室内の温度を上昇させる。反応室内における炭化水素と塩素とのラジカル反応によって、ジクロロメタン(CH2Cl2)が合成される。合成されたジクロロメタンは、フロン冷媒合成部17に供給される。前記加熱装置を運転するために、再生可能エネルギーを用いてもよい。
【0034】
ジクロロメタン合成部16の前記加熱装置とともに、またはこの加熱装置に代えて、光の照射によって炭化水素と塩素とのラジカル反応を促す光触媒を反応室内に設けてもよい。
【0035】
フロン冷媒合成部17は、ジクロロメタンとフッ化水素(HF)からジフルオロメタン(CH2F2)への合成反応を促すフッ素化触媒と、当該フッ素化触媒を収容するとともにジクロロメタン合成部16で合成されたジクロロメタンとフッ化水素が供給される反応室(反応器)とを備える。フロン冷媒合成部17に供給されるフッ化水素は、どのような方法で生成してもよい。フッ素化触媒として、例えば、酸化クロムを主成分とし、任意にIn、Zn、Ni、Co、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含む触媒成分と、当該触媒成分を担持する担体と、を有し、前記触媒成分の少なくとも一部がフッ化水素によってフッ素化処理された触媒が挙げられる。前記担体は、例えば、細孔を有する活性アルミナであってもよい。
【0036】
フロン冷媒合成部17のフッ素化触媒を、ジフルオロメタンの合成に適した温度とするために、フロン冷媒合成部17にヒータなどの加熱装置や熱交換器などを用いた冷却装置を設けてもよい。フロン冷媒合成部17で合成されたジフルオロメタンは、直接またはボンベなどを介してヒートポンプ装置70に供給される。
【0037】
カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60で合成されるフロン冷媒は、二酸化炭素回収装置50で回収された二酸化炭素を原料とするハイドロフルオロカーボン(HFC)であり、その成分に塩素を含まない。
【0038】
カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60が、フロン冷媒合成部17で合成されたジフルオロメタンを成分の1つとして含む混合冷媒を製造する、図示しない混合冷媒製造部をさらに備えていてもよい。このような混合冷媒製造部は、混合器を備え、フロン冷媒合成部17で合成されたジフルオロメタンと、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の外部から供給される他の冷媒とが、前記混合器に供給されて混合され、混合冷媒が製造される。
【0039】
カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の外部から前記混合冷媒製造部に供給される他の冷媒としては、新たに製造された冷媒だけでなく、例えば既存のヒートポンプ装置から回収された冷媒であってもよい。前記他の冷媒としては、例えば、フロン冷媒やオレフィン系冷媒(ハイドロフルオロオレフィン、HFO)などが挙げられる。カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の外部から供給される他のフロン冷媒としては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)やハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などが挙げられ、このハイドロクロロフルオロカーボンは、例えば、クロロジフルオロメタン(CHClF2、冷媒番号:R22)などである。クロロジフルオロメタンを前記混合冷媒製造部に供給することで、当該クロロジフルオロメタンと、フロン冷媒合成部17で合成されたジフルオロメタンとの混合冷媒を製造することができる。
【0040】
前記混合冷媒製造部に供給されるオレフィン系冷媒としては、HFO-1123、HFO-1224yd、HFO-1234yf、HFO-1234ze、R1233zd(HFO-1233zd)、HFO-1226mzz(Z)、HFO-1336mzz-Z、HFO-1336mzz-Eなどが挙げられる。オレフィン系冷媒を前記混合冷媒製造部に供給することで、当該オレフィン系冷媒と、フロン冷媒合成部17で合成されたジフルオロメタンとの混合冷媒を製造することができる。
【0041】
図4は、本実施の形態におけるヒートポンプ装置70の概略図である。
図4に示すように、ヒートポンプ装置70は、気体液化型のヒートポンプ80と、回収ポート86と、を備える。ヒートポンプ80は、加熱器81と、膨張器82と、冷却器83と、圧縮機84と、循環経路85と、を備える。循環経路85には、冷媒F4が循環可能に充填されている。
【0042】
加熱器81は、冷媒F4と、ヒートポンプ装置70の外部を流動する流体F5との熱交換を行う熱交換器である。すなわち、加熱器81は、圧縮によって温度が上昇した冷媒F4と、流体F5との熱交換によって、流体F5を加熱する。流体F5は、気体および液体のいずれでもよい。
膨張器82は、例えば膨張弁であって、冷媒F4の圧力を低下させ、それによって冷媒F4の温度を下げる。
【0043】
冷却器83は、冷媒F4と、ヒートポンプ装置70の外部を流動する流体F6との熱交換を行う熱交換器である。すなわち、冷却器83は、膨張器82での圧力低下によって温度が下がった冷媒F4と、流体F6との熱交換によって、流体F6を冷却する。流体F6は、気体および液体のいずれでもよい。
圧縮機84は、冷媒F4を圧縮して圧力を上昇させ、それによって冷媒F4の温度を上げる。
【0044】
循環経路85は、環状の経路であって、加熱器81、膨張器82、冷却器83、および圧縮機84をこの順に接続している。循環経路85には、冷媒F4として、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60で製造されたフロン冷媒(例えば、フロン冷媒合成部17で合成されたジフルオロメタン)が充填されて貯蔵されている。冷媒F4が混合冷媒であってもよい。冷媒F4は、加熱器81、膨張器82、冷却器83、および圧縮機84をこの順に経由するように循環する。
【0045】
回収ポート86は、循環経路85に接続されている。循環経路85に充填された冷媒F4は、回収ポート86を介して回収することができる。例えば、ヒートポンプ装置70の使用期間が終了してこれを廃棄する場合に、冷媒F4は回収ポート86を介して回収される。回収された冷媒F4は、例えば、新たな冷媒(例えば混合冷媒)を製造するために、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の前記混合冷媒製造部に供給してもよい。回収ポート86を、冷媒F4を循環経路85内に充填するための充填ポートとして共用してもよい。
【0046】
ヒートポンプ装置70は、例えば、空気調和装置を構成してもよい。空気調和装置は、冷媒F4の吸熱または放熱を利用して、冷房と暖房のうち少なくとも一方を行う。室内の暖房を行う場合は、室内機が加熱器81として機能し、室外機が冷却器83として機能する。室内の冷房を行う場合は、室内機が冷却器83として機能し、室外機が加熱器81として機能する。
【0047】
ヒートポンプ装置70は、例えば、冷凍冷蔵庫装置を構成してもよい。冷凍冷蔵庫装置は、冷媒F4の吸熱を利用し、冷却器83によって庫内を冷却する。
ヒートポンプ装置70は、例えば、給湯器や乾燥機能付き洗濯機を構成してもよい。給湯器は、冷媒F4の放熱を利用し、加熱器81によって水を加熱する。乾燥機能付き洗濯機は、冷媒F4の放熱を利用し、加熱器81によって衣類乾燥用空気を加熱する。
【0048】
次に、本実施の形態における、フロン冷媒の製造方法、フロン冷媒の貯蔵方法、およびヒートポンプ装置の製造方法を以下に説明する。また、二酸化炭素貯蔵システム1の作用についても併せて説明する。
なお、本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法として、上述した二酸化炭素回収装置50およびカーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60を用いた方法を説明するが、これは一例であり、他の装置を用いてフロン冷媒を製造してもよい。
【0049】
図2に示すように、ブロワ21の動作により、第1供給経路2を介して、処理対象気体が二酸化炭素吸着部3の吸着領域31に導かれる。吸着領域31では、処理対象気体に含まれる二酸化炭素が吸着剤に吸着され、二酸化炭素の少なくとも一部が処理対象気体から除去される。二酸化炭素の濃度が低くなった処理対象気体は、吸着領域31から第1導出経路4を介して大気または居住空間に放出される。
【0050】
二酸化炭素を吸着することで、吸着領域31の吸着剤による二酸化炭素の吸着が不可または難しくなった際に、吸着領域31と再生領域32との間で吸着剤の交換が行われる。吸着領域31の、二酸化炭素が吸着された吸着剤を収容する容器を、二酸化炭素吸着部3の第2領域3Bに移動し、再生領域32の、再生された吸着剤を収容する容器を、二酸化炭素吸着部3の第1領域3Aに移動する。これにより、再生された吸着剤が吸着領域31に配置され、二酸化炭素が吸着された吸着剤が再生領域32に配置される。再生された吸着剤が吸着領域31に配置されることで、吸着領域31は再び二酸化炭素を吸着可能な状態になる。一定期間ごとに吸着領域31と再生領域32との間で吸着剤を入れ替えることで、二酸化炭素を吸着可能な吸着剤が吸着領域31に維持される。
【0051】
吸着剤の入れ替えは、吸着領域31の吸着剤を容器から取り出して第2領域3Bに移動させるとともに、再生領域32で再生した吸着剤を容器から取り出して第1領域3Aに移動させることで実施してもよい。
【0052】
吸着領域と再生領域とは、経路の変更により切り替えることもできる。
図2では、二酸化炭素吸着部3の第1領域3A(
図2における左部分)は吸着領域31である。第1供給経路2および第1導出経路4は第1領域3Aに接続されている。第2領域3B(
図2における右部分)は再生領域32である。第2供給経路6および第2導出経路9は第2領域3Bに接続されている。
【0053】
図示しない分岐経路に設けられたバルブの操作などにより、第1供給経路2および第1導出経路4を第2領域3Bに接続し、第2供給経路6および第2導出経路9を第1領域3Aに接続する。この操作により、第1領域3Aは再生領域となり、第2領域3Bは吸着領域となる。このようにして、吸着領域と再生領域とを切り替えてもよい。第2領域3Bが吸着領域となったのち、二酸化炭素の吸着を一定期間実施すると、バルブの操作などにより、第1領域3Aを吸着領域に戻し、第2領域3Bを再生領域に戻す。以降、これを繰り返す。
【0054】
再生用流体供給部5が再生用流体F1を供給し、再生用流体F1は、第2供給経路6を介して、加熱器7と減圧器8を経て、二酸化炭素吸着部3の再生領域32に導入される。加熱器7は、再生領域32における吸着剤からの二酸化炭素の脱離に適した温度に再生用流体F1を加熱する。加熱器7は、例えば、再生領域32における再生用流体F1の温度が90℃~120℃となるように再生用流体F1を加熱する。減圧器8は、再生領域32における吸着剤からの二酸化炭素の脱離に適した圧力に再生用流体F1を減圧する。
【0055】
再生領域32では、再生用流体F1の存在下で吸着剤から二酸化炭素が脱離される。二酸化炭素が脱離することによって吸着剤は再生する。すなわち、吸着領域31で二酸化炭素を吸着した吸着剤は、再生領域32で再生される。吸着剤から脱離した二酸化炭素は再生用流体F1に含まれ、二酸化炭素を含む再生用流体F1は、再生排出流体F2として再生領域32から第2導出経路9を介して排出される。
【0056】
再生領域32から排出された再生排出流体F2は、第2導出経路9を介して、圧縮機11と冷却器12を経て、二酸化炭素分離器10に導入される。圧縮機11は、二酸化炭素分離器10における再生排出流体F2からの二酸化炭素の分離に適した圧力まで再生排出流体F2の圧力を高める。冷却器12は、圧縮機11による加圧によって高温となった再生排出流体F2の温度を、二酸化炭素分離器10における再生排出流体F2からの二酸化炭素の分離に適した温度まで低下させる。
【0057】
二酸化炭素分離器10は、液化分離、膜分離、吸着分離などの分離手法を用いて、再生排出流体F2に含まれる二酸化炭素の少なくとも一部を分離し回収する。回収された二酸化炭素は、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の炭化水素合成部15に供給される。すなわち、処理対象気体からの二酸化炭素の回収が、二酸化炭素回収装置50の二酸化炭素分離器10で実施される。二酸化炭素が分離されることによって二酸化炭素の濃度が低くなった再生排出流体F2は、排出流体F3として、二酸化炭素分離器10から排出される。
【0058】
図3に示すように、二酸化炭素回収装置50で回収された二酸化炭素が、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の炭化水素合成部15に供給される。炭化水素合成部15では、二酸化炭素回収装置50で回収された二酸化炭素と水素から炭化水素(メタン)が合成される。合成された炭化水素は、ジクロロメタン合成部16に供給される。
【0059】
ジクロロメタン合成部16では、炭化水素合成部15で合成された炭化水素と塩素とをラジカル反応させることでジクロロメタンが合成される。合成されたジクロロメタンは、フロン冷媒合成部17に供給される。
【0060】
フロン冷媒合成部17では、ジクロロメタン合成部16で合成されたジクロロメタンとフッ化水素とを反応させてフロン冷媒であるジフルオロメタンが合成される。すなわち、処理対象気体から回収した二酸化炭素によってフロン冷媒が合成され、本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法が完了する。
カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60で合成されたフロン冷媒は、直接またはボンベなどを介してヒートポンプ装置70に供給される。
【0061】
図4に示すように、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60で合成されたフロン冷媒が、ヒートポンプ装置70の循環経路85内に冷媒F4として充填される。これにより、処理対象気体から回収した二酸化炭素を原料として合成されたフロン冷媒が、ヒートポンプ装置70に充填されて貯蔵される。すなわち、本実施の形態における、フロン冷媒の貯蔵方法が完了する。
また、ヒートポンプ装置70の製造においては、処理対象気体から回収した二酸化炭素を原料として合成されたフロン冷媒を、冷媒未充填のヒートポンプ装置70に充填することで、ヒートポンプ装置70が製造される。すなわち、本実施の形態における、ヒートポンプ装置の製造方法が完了する。また、フロン冷媒を充填することで、ヒートポンプ装置70の使用が開始可能となる。
【0062】
ヒートポンプ装置70の使用期間が終了し、当該装置を廃棄する際には、循環経路85に充填されていた冷媒F4が回収される。冷媒F4は、回収ポート86を介して循環経路85から回収される。
図1に示すように、新たな冷媒(または混合冷媒)を製造するために、ヒートポンプ装置70の循環経路85から回収された冷媒F4を、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の前記混合冷媒製造部に供給してもよい。
【0063】
本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法は、吸着剤を用いて二酸化炭素を回収する工程と、回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成する工程と、を有する。
このため、吸着剤を用いて、大気や室内空気、工場排気といった処理対象気体から二酸化炭素を回収でき、回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成することができる。フロン冷媒は化学的に安定しており、例えばヒートポンプ装置内において熱媒体として使用されることで、当該ヒートポンプ装置の製造から廃棄までの期間(例えば、10~20年)において、合成したフロン冷媒をヒートポンプ装置内に安定に貯蔵することができる。すなわち、回収した二酸化炭素を貯蔵するための地下設備やタンクなどを別途用意する必要がないため、回収した二酸化炭素を貯蔵し管理するための労力とエネルギーを削減することができる。
【0064】
本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法において、前記二酸化炭素を回収する工程では、再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を回収する。
処理対象気体から二酸化炭素を回収するために化石燃料などを用いると、その回収作業によって二酸化炭素などの温室効果ガスが発生するため、例えば地球温暖化防止の観点から好ましくない。再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を回収することで、回収作業における温室効果ガスの発生を抑制することができる。
【0065】
本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法において、前記フロン冷媒を合成する工程では、前記回収された二酸化炭素と水素から炭化水素を合成し、前記炭化水素と塩素とをラジカル反応させることでジクロロメタンを合成し、前記ジクロロメタンとフッ化水素とを反応させてジフルオロメタンを合成する。
この場合、ジフルオロメタン(CH2F2、冷媒番号:R32)は、成分として塩素を含まず、オゾン破壊係数(ODP)は0であるため、オゾン層保護の観点から好ましい冷媒を提供することができる。
【0066】
本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法において、前記炭化水素はメタンである。
例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタンといった炭化水素からフロン冷媒を合成することも可能であるが、これらの炭化水素において、メタンは最も簡単な構造を有している。このため、回収した二酸化炭素から炭化水素を合成する過程において、比較的少ないエネルギーでメタンを合成でき、合成に必要なエネルギーを低減することができる。
【0067】
本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法において、前記ジフルオロメタンを成分の1つとして含む混合冷媒を製造する。
既存のヒートポンプ装置を廃棄する際に、当該ヒートポンプ装置に充填されているフロン冷媒も廃棄する必要がある。この場合、例えば、本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法によって製造したジフルオロメタンと、既存のヒートポンプ装置から回収されたフロン冷媒から混合冷媒を製造することで、既存のヒートポンプ装置におけるフロン冷媒の廃棄に掛かる労力やコストを削減することができる。
【0068】
本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法において、前記混合冷媒は、前記ジフルオロメタンとオレフィン系冷媒との混合冷媒である。
オレフィン系冷媒(HFO)の地球温暖化係数(GWP)は、ジフルオロメタンなどのハイドロフルオロカーボン(HFC)に比べて、一般的に低い。このため、本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法によって製造したジフルオロメタンと、オレフィン系冷媒から混合冷媒を製造することで、地球温暖化係数の低い混合冷媒を提供することができる。
【0069】
本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法において、前記混合冷媒は、前記ジフルオロメタンとクロロジフルオロメタンとの混合冷媒である。
既存のヒートポンプ装置を廃棄する際に、当該ヒートポンプ装置に充填されているフロン冷媒も廃棄する必要がある。また、既存のヒートポンプ装置では、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、例えばクロロジフルオロメタン(CHClF2、冷媒番号:R22)が使用されている場合もある。この場合、例えば、本実施の形態におけるフロン冷媒の製造方法によって製造したジフルオロメタンと、既存のヒートポンプ装置から回収されたクロロジフルオロメタンから混合冷媒を製造することで、既存のヒートポンプ装置におけるクロロジフルオロメタンの廃棄に掛かる労力やコストを削減することができる
【0070】
本実施の形態におけるフロン冷媒の貯蔵方法では、前記フロン冷媒の製造方法によって合成されたフロン冷媒を、ヒートポンプ装置に充填して貯蔵する。
このため、回収された二酸化炭素を原料として合成されたフロン冷媒を、ヒートポンプ装置内において熱媒体として使用することで、当該ヒートポンプ装置の製造から廃棄までの期間(例えば、10~20年)において、ヒートポンプ装置内に安定に貯蔵することができる。すなわち、回収した二酸化炭素を貯蔵するための地下設備やタンクなどを別途用意する必要がないため、回収した二酸化炭素を貯蔵し管理するための労力とエネルギーを削減することができる。
【0071】
本実施の形態におけるフロン冷媒の貯蔵方法では、前記フロン冷媒の製造方法によって合成されたフロン冷媒をヒートポンプ装置に充填して当該ヒートポンプ装置を製造する。
このため、回収された二酸化炭素を原料として合成されたフロン冷媒を、ヒートポンプ装置内において熱媒体として使用することで、当該ヒートポンプ装置の製造から廃棄までの期間(例えば、10~20年)において、ヒートポンプ装置内に安定に貯蔵することができる。すなわち、回収した二酸化炭素を貯蔵するための地下設備やタンクなどを別途用意する必要がないため、回収した二酸化炭素を貯蔵し管理するための労力とエネルギーを削減できるヒートポンプ装置を提供することができる。
【0072】
本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1は、吸着剤を用いて二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置50と、回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成するカーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60と、前記フロン冷媒が充填されて貯蔵されるヒートポンプ装置70と、を備える。
このため、吸着剤を用いて、大気や室内空気、工場排気といった処理対象気体から二酸化炭素を回収し、回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成し、合成されたフロン冷媒をヒートポンプ装置70に貯蔵することができる。フロン冷媒は化学的に安定しており、ヒートポンプ装置70内において熱媒体として使用されることで、ヒートポンプ装置70の製造から廃棄までの期間(例えば、10~20年)において、合成したフロン冷媒をヒートポンプ装置70内に安定に貯蔵することができる。すなわち、回収した二酸化炭素を貯蔵するための地下設備やタンクなどを別途用意する必要がないため、回収した二酸化炭素を貯蔵し管理するための労力とエネルギーを削減できる二酸化炭素貯蔵システム1を提供することができる。
【0073】
本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1において、二酸化炭素回収装置50は、再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を回収する。
処理対象気体から二酸化炭素を回収するために化石燃料などを用いると、その回収作業によって二酸化炭素などの温室効果ガスが発生するため、例えば地球温暖化防止の観点から好ましくない。二酸化炭素回収装置50が再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を回収することで、回収作業における温室効果ガスの発生を抑制することができる。
【0074】
本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1において、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60は、前記回収された二酸化炭素と水素から炭化水素を合成し、前記炭化水素と塩素とをラジカル反応させることでジクロロメタンを合成し、前記ジクロロメタンとフッ化水素とを反応させてジフルオロメタンを合成する。
この場合、ジフルオロメタン(CH2F2、冷媒番号:R32)は、成分として塩素を含まず、オゾン破壊係数(ODP)は0であるため、オゾン層保護の観点から好ましい冷媒を使用する二酸化炭素貯蔵システム1を提供できる。
【0075】
本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1において、前記炭化水素はメタンである。
例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタンといった炭化水素からフロン冷媒を合成することも可能であり、これらの炭化水素において、メタンは最も簡単な構造を有している。このため、回収した二酸化炭素から炭化水素を合成する過程において、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60の炭化水素合成部15は比較的少ないエネルギーでメタンを合成でき、合成に必要なエネルギーを低減することができる。
【0076】
本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1において、ヒートポンプ装置70に充填されている冷媒は、前記ジフルオロメタンを成分の1つとして含む混合冷媒である。
既存のヒートポンプ装置を廃棄する際に、当該ヒートポンプ装置に充填されているフロン冷媒も廃棄する必要がある。この場合、例えば、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60によって製造したジフルオロメタンと、既存のヒートポンプ装置から回収されたフロン冷媒から混合冷媒を製造し、この混合冷媒をヒートポンプ装置70に充填して使用することで、既存のヒートポンプ装置におけるフロン冷媒の廃棄に掛かる労力やコストを削減することができる。
【0077】
本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1において、前記混合冷媒は、前記ジフルオロメタンとオレフィン系冷媒との混合冷媒である。
オレフィン系冷媒(HFO)の地球温暖化係数(GWP)は、ジフルオロメタンなどのハイドロフルオロカーボン(HFC)に比べて、一般的に低い。このため、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60によって製造したジフルオロメタンと、オレフィン系冷媒から混合冷媒を製造し、この混合冷媒をヒートポンプ装置70に充填して使用することで、地球温暖化係数の低い混合冷媒を使用した二酸化炭素貯蔵システム1を提供することができる。
【0078】
本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1において、前記混合冷媒は、前記ジフルオロメタンとクロロジフルオロメタンとの混合冷媒である。
既存のヒートポンプ装置を廃棄する際に、当該ヒートポンプ装置に充填されているフロン冷媒も廃棄する必要がある。また、既存のヒートポンプ装置では、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、例えばクロロジフルオロメタン(CHClF2、冷媒番号:R22)が使用されている場合もある。この場合、例えば、カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60によって製造したジフルオロメタンと、既存のヒートポンプ装置から回収されたクロロジフルオロメタンから混合冷媒を製造し、この混合冷媒をヒートポンプ装置70に充填して使用することで、既存のヒートポンプ装置におけるクロロジフルオロメタンの廃棄に掛かる労力やコストを削減できる二酸化炭素貯蔵システム1を提供することができる。
【0079】
本実施の形態における二酸化炭素貯蔵システム1において、ヒートポンプ装置70は、ヒートポンプ装置70に充填されている前記フロン冷媒を回収する回収ポート86を備える。
この場合、ヒートポンプ装置70の使用期間が終了しこれを廃棄する場合に、回収ポート86を介して、充填されているフロン冷媒を回収することができる。よって、フロン冷媒を適切に回収できるとともに、フロン冷媒の回収に掛かる労力を削減することができる。
【0080】
なお、本開示の技術的範囲は前記実施の形態に限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、第2導出経路9に、1または複数の濃縮器(二酸化炭素濃縮器)を設けてもよい。濃縮器は、例えば、液化分離、膜分離、吸着分離などの手法によって、再生排出流体F2の二酸化炭素の濃度を高める。そのため、二酸化炭素分離器10におけるエネルギー効率を高めることができる。濃縮器が、第1供給経路2に設けられてもよい。また、濃縮器が、二酸化炭素回収装置50とカーボンリサイクルフロン冷媒合成装置60との間に設けられてもよい。
【0081】
前記実施の形態では、減圧器8は加熱器7の下流側に設けられているが、これに限定されず、システムの仕様に応じて、加熱器7の上流側に減圧器8を設けてもよい。
【0082】
加熱器や冷却器などの熱交換器としては、公知の熱交換器を使用できる。熱交換器としては、例えば、多管式熱交換器、プレート式熱交換器、コイル式熱交換器、二重管式熱交換器、スパイラル式熱交換器等を使用できる。
【0083】
前記実施の形態では、処理対象気体として大気、室内空気、および工場排気を例示したが、二酸化炭素が含まれている、窒素ガス、水素ガス、酸素ガス、メタンなどを処理対象気体として用いてもよい。
【0084】
前記実施の形態では、回収された二酸化炭素と水素から炭化水素を合成し、前記炭化水素と塩素とをラジカル反応させることでジクロロメタンを合成し、前記ジクロロメタンとフッ化水素とを反応させてジフルオロメタンを合成しているが、この合成方法に限定されない。他の方法を用いて、回収された二酸化炭素からジフルオロメタンなどのフロン冷媒を合成してもよい。
【0085】
炭化水素合成部15、ジクロロメタン合成部16、およびフロン冷媒合成部17の各触媒は、前記実施の形態で示された触媒に限定されず、システムの仕様に応じて、それぞれ適切な他の触媒に変更してもよい。
【0086】
前記実施の形態では、ジフルオロメタンを合成しているが、これに限定されず、ジフルオロメタン以外のハイドロフルオロカーボンを合成してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 二酸化炭素貯蔵システム
2 第1供給経路
3 二酸化炭素吸着部
3A 第1領域
3B 第2領域
4 第1導出経路
5 再生用流体供給部
6 第2供給経路
7 加熱器
8 減圧器
9 第2導出経路
10 二酸化炭素分離器
11 圧縮機
12 冷却器
15 炭化水素合成部
16 ジクロロメタン合成部
17 フロン冷媒合成部
21 ブロワ
31 吸着領域
32 再生領域
50 二酸化炭素回収装置
60 カーボンリサイクルフロン冷媒合成装置
70 ヒートポンプ装置
80 ヒートポンプ
81 加熱器
82 膨張器
83 冷却器
84 圧縮機
85 循環経路
86 回収ポート
F1 再生用流体
F2 再生排出流体
F3 排出流体
F4 冷媒
F5 流体
F6 流体
【要約】
フロン冷媒の製造方法は、吸着剤を用いて二酸化炭素を回収する工程と、回収された二酸化炭素を原料としてフロン冷媒を合成する工程と、を有する。